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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024018552
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】固体電解質シート及び全固体電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0562 20100101AFI20240201BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20240201BHJP
   H01B 1/06 20060101ALI20240201BHJP
   H01B 1/10 20060101ALI20240201BHJP
【FI】
H01M10/0562
H01M10/052
H01B1/06 A
H01B1/10
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022121957
(22)【出願日】2022-07-29
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】後藤 一平
【テーマコード(参考)】
5G301
5H029
【Fターム(参考)】
5G301CA05
5G301CD01
5H029AJ06
5H029AJ12
5H029AJ14
5H029AK01
5H029AK03
5H029AL02
5H029AL03
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL11
5H029AL12
5H029AM12
5H029HJ04
5H029HJ05
5H029HJ06
(57)【要約】
【課題】全固体電池の電池抵抗を抑制しつつ、金属異物が全固体電池の内部に混入しても短絡の発生を防止することができる固体電解質シートを提供する。
【解決手段】本開示の固体電解質シートは、不織布と、前記不織布の内部に配置された固体電解質とを備える。前記不織布の細孔径は、15μm以下である。前記固体電解質の粒径に対する前記細孔径の比率(細孔径/粒径)は、5.0以上である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
不織布と、
前記不織布の内部に配置された固体電解質と、
を備え、
前記不織布の細孔径が、15μm以下であり、
前記固体電解質の粒径に対する前記細孔径の比率(細孔径/粒径)が、5.0以上である、固体電解質シート。
【請求項2】
前記不織布の厚さが、10μm以上30μm以下である、請求項1に記載の固体電解質シート。
【請求項3】
前記粒径が、3.0μm以下である、請求項1又は請求項2に記載の固体電解質シート。
【請求項4】
前記固体電解質が、硫化物固体電解質を含む、請求項1又は請求項2に記載の固体電解質シート。
【請求項5】
正極層と、負極層と、前記正極層及び前記負極層の間に配置された固体電解質層と、を備え、
前記固体電解質層は、請求項1又は請求項2に記載の固体電解質シートを含む、全固体電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、固体電解質シート及び全固体電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、安全性に優れるリチウムイオン二次電池として、固体電解質層を備える全固体電池が知られている。
特許文献1は、固体電解質層に用いられる固体電解質シートを開示している。特許文献1に開示の固体電解質シートは、不織布と、固体電解質とを含む。固体電解質は、不織布の表面及び内部に配置されている。不織布の平方メートル当たりの質量は、8g以下である。不織布の厚さは、10μm以上25μm以下である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016-31789号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に、不織布は、その内部に複数の立体的な空間(以下、「細孔」ともいう。)を有し、細孔の大きさ(以下、「細孔径」ともいう。)の分布は広い。特許文献1は、不織布の細孔径について何ら開示していない。
特許文献1に開示の固体電解質シートは、不織布の細孔径が大きい箇所では、固体電解質を保持できないおそれがある。その結果、全固体電池の電池抵抗は、増大するおそれがある。
また、全固体電池の製造過程において、金属異物が全固体電池の材料に混入するおそれがある。金属異物は、通常、20μmのサイズを有する金属片である。特許文献1に開示の固体電解質シートに金属異物が混入すると、電池化プレスの際、金属異物は固体電解質層を貫通するおそれがある。「電池化プレス」とは、正極層、固体電解質層及び負極をこの順に積層一体化するプレスを示す。その結果、全固体電池には、短絡が発生するおそれがある。
【0005】
本開示は、上記事情に鑑みたものである。
本開示の一実施形態が解決しようとする課題は、全固体電池の電池抵抗を抑制しつつ、金属異物が全固体電池の内部に混入しても短絡の発生を防止することができる固体電解質シートを提供することである。
本開示の他の実施形態が解決しようとする課題は、全固体電池の電池抵抗が抑制されつつ、金属異物が全固体電池の内部に混入していても短絡が発生しにくい全固体電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための手段には、以下の実施態様が含まれる。
<1> 不織布と、
前記不織布の内部に配置された固体電解質と、
を備え、
前記不織布の細孔径が、15μm以下であり、
前記固体電解質の粒径に対する前記細孔径の比率(細孔径/粒径)が、5.0以上である、固体電解質シート。
<2> 前記不織布の厚さが、10μm以上30μm以下である、前記<1>に記載の固体電解質シート。
<3> 前記粒径が、3.0μm以下である、前記<1>又は<2>に記載の固体電解質シート。
<4> 前記固体電解質が、硫化物固体電解質を含む、前記<1>~<3>のいずれか1つに記載の固体電解質シート。
<5> 正極層と、負極層と、前記正極層及び前記負極層の間に配置された固体電解質層と、を備え、
前記固体電解質層は、前記<1>~<4>のいずれか1つに記載の固体電解質シートを含む、全固体電池。
【発明の効果】
【0007】
本開示の一実施形態によれば、全固体電池の電池抵抗を抑制しつつ、金属異物が全固体電池の内部に混入しても短絡の発生を防止することができる固体電解質シートが提供される。
本開示の他の実施形態によれば、全固体電池の電池抵抗が抑制されつつ、金属異物が全固体電池の内部に混入していても短絡が発生しにくい全固体電池が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本開示において、「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を意味する。
本開示に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。本開示に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本開示において、2以上の好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
本開示において、各成分の量は、各成分に該当する物質が複数種存在する場合には、特に断らない限り、複数種の物質の合計量を意味する。
本開示において、「工程」との用語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であっても、その工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
【0009】
(1)固体電解質シート
本開示の固体電解質シートは、不織布と、前記不織布の内部に配置された固体電解質と、を備える。前記不織布の細孔径は、15μm以下である。比率(細孔径/粒径)は、5.0以上である。前記比率(細孔径/粒径)は、前記固体電解質の粒径に対する前記細孔径を示す。
【0010】
「不織布」とは、繊維を織らずに接着又は絡み合わせられたシート状のものであり、製織,編成及び製紙を除く物理的方法及び/又は化学的方法によって所定のレベルの構造的強さが得られている平面状の繊維集合体を示す(JIS L0222:2022)。繊維集合体は、複数の細孔を有する。
「細孔径」とは、バブルポイント法(JIS K3832)による最大細孔径を示す。
【0011】
本開示の固体電解質シートは、上記の構成を有するので、全固体電池の電池抵抗を抑制しつつ、金属異物が全固体電池の内部に混入しても短絡の発生を防止することができる。
この効果は、以下の理由によると推測されるが、これに限定されない。
全固体電池の製造過程において、金属異物が全固体電池の内部に混入するおそれがある。金属異物は、通常、20μmのサイズを有する金属片である。本開示では、不織布の細孔径は、15μm以下であり、金属異物の粒径よりも小さい。そのため、金属異物が本開示の全固体電池の材料に混入しても、金属異物は、不織布の内部に侵入しにくい。そのため、電池化プレスの際、金属異物は、固体電解質層を貫通しにくい。その結果、金属異物が全固体電池の内部に混入しても、本開示の固体電解質シートは、短絡の発生を防止することができると推測される。
更に、本開示では、比率(細孔径/粒径)が5.0以上である。そのため、比率(細孔径/粒径)が5.0以上ではない場合よりも密に不織布の内部に固体電解質が配置され得る。そのため、本開示の全固体電池において、隣接する複数の固体電解質の粒子同士の隙間はより小さくなる。その結果、本開示の固体電解質シートは、全固体電池の電池抵抗を抑制することができると推測される。
【0012】
固体電解質シートの平面視形状は、特に限定されず、矩形等が挙げられる。矩形としては、正方形、長方形等が挙げられる。
【0013】
固体電解質シートの厚みは、不織布の厚みに依存し、不織布の厚み以上であればよい。固体電解質シートの厚みは、全固体電池の電池抵抗をより低減する等の観点から、好ましくは50μm以下、より好ましくは30μm以下、さらに好ましくは20μm以下、特に好ましくは15μm以下である。固体電解質シートの厚みは、好ましくは1μm以上、より好ましくは10μm以上である。固体電解質シートの厚みは、好ましくは1μm~50μmである。
【0014】
(1.1)不織布
固体電解質シートは、不織布を備える。
【0015】
不織布の細孔径は、15μm以下であり、全固体電池の電池抵抗をより低減する等の観点から、好ましくは13μm以下、より好ましくは8μm以下である。不織布の細孔径は、全固体電池の電池抵抗をより低減する等の観点から、好ましくは1μm以上、より好ましくは3μm以上である。不織布の細孔径は、好ましくは1μm~15μmである。
不織布の細孔径の測定方法は、実施例に記載の方法と同様である。
【0016】
不織布の目付は、特に限定されず、全固体電池の電池抵抗をより低減する等の観点から、好ましくは0.10mg/cm以上、より好ましくは0.20mg/cm以上、さらに好ましくは0.30mg/cm以上である。不織布の目付は、特に限定されず、全固体電池の電池抵抗をより低減する等の観点から、好ましくは0.80mg/cm以下、より好ましくは0.60mg/cm以下、さらに好ましくは0.40mg/cm以下である。不織布の目付は、好ましくは0.10mg/cm~0.80mg/cmである。
不織布の目付の測定方法は、実施例に記載の方法と同様である。
【0017】
不織布の空隙率は、特に限定されず、全固体電池の電池抵抗をより低減する等の観点から、好ましくは50%以上、より好ましくは60%以上、さらに好ましくは70%以上である。不織布の空隙率は、不織布を支持体として機能させる等の観点から、好ましくは95%以下、より好ましくは90%以下である。不織布の空隙率は、好ましくは50%~95%である。
空隙率は、不織布の全体積に対する不織布の内部の空隙の体積を示す。
不織布の空隙率の測定方法は、実施例に記載の方法と同様である。
【0018】
不織布の厚みは、特に限定されず、10μm~30μmであることが好ましい。不織布の厚みが10μm~30μmであることにより、全固体電池の固体電解質層の厚みをより薄くすることができる。その結果、全固体電池の電池抵抗はより低減され得る。
不織布の厚みは、より好ましくは11μm以上、さらに好ましくは12μm以上、特に好ましくは13μm以上である。不織布の厚さは、全固体電池の電池抵抗をより低減する等の観点から、より好ましくは25μm以下、さらに好ましくは20μm以下、特に好ましくは18μm以下である。
不織布の厚みの測定方法は、実施例に記載の方法と同様である。
【0019】
不織布の種類としては、特に限定されず、例えば、メルトブローン不織布、スパンボンド不織布、カード式不織布、パラレル式不織布、クロス式不織布、ランダム不織布、スパンレイド不織布、フラッシュ紡糸不織布、ケミカルボンド不織布、水流交絡不織布、ニードルパンチ不織布、ステッチボンド不織布、サーマルボンド不織布、バーストファイバー不織布、トウ開繊不織布、フィルムスプリット不織布等が挙げられる。
なかでも、不織布の種類は、メルトブローン不織布であることが好ましい。メルトブローン不織布は、極細繊維(例えば、繊維の直径は1μm~6μm)からなる。そのため、メルトブローン不織布では、目付が低くても、不織布に含まれる繊維の本数は多い。その結果、細孔径、目付及び空隙率の各々が上記範囲内である不織布が得られやすい。
【0020】
繊維の繊維径及び繊維長は、特に限定されない。繊維は、長繊維であってもよいし、単繊維であってもよい。繊維の断面形状は、特に限定されず、円形、楕円形、異形等が挙げられる。
【0021】
繊維の材料としては、例えば、樹脂、ガラス等が挙げられる。樹脂としては、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂等が挙げられる。ポリエステル系樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)等が挙げられる。ポリオレフィン系樹脂としては、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等が挙げられる。ポリアミド系樹脂としては、例えば、ナイロン、アラミド等が挙げられる。
【0022】
(1.2)固体電解質
固体電解質シートは、固体電解質を備える。
固体電解質は、不織布の内部に配置されていれば、不織布を覆っていてもよいし、不織布を覆っていなくてもよい。
【0023】
固体電解質の形状は、例えば、粒子状が挙げられる。固体電解質の粒径は、3.0μm以下であることが好ましい。固体電解質の粒径が3.0μm以下であれば、全固体電池の電池抵抗は、固体電解質の粒径が3.0μm超である場合より低減され得る。固体電解質の粒径は、好ましくは0.05μm以上、より好ましくは0.2μm以上、さら好ましくは1.0μm以上、特に好ましくは2.0μm以上である。固体電解質の粒径は、より好ましくは2.8μm以下、さらに好ましくは2.6μm以下、特に好ましくは2.4μm以下である。固体電解質の粒径は、好ましくは0.05μm~3.0μmである。
固体電解質の粒径は、不織布の厚さよりも小さいことが好ましい。不織布における空隙の合計体積に対する、固体電解質の合計体積の割合は、50体積%以上であってもよく、70体積%以上であってもよく、90体積%であってもよい。
固体電解質の粒径の測定方法は、実施例に記載の方法と同様である。
【0024】
比率(細孔径/粒径)は、5.0以上であり、固体電解質の充填効率の観点から、好ましくは5.5以上、より好ましくは6.0以上である。比率(細孔径/粒径)は、異物耐性の観点から、好ましくは55.0以下、より好ましくは40.0以下、さらに好ましくは20.0以下、特に好ましくは10.0以下、一層好ましくは6.0以下である。比率(細孔径/粒径)は、好ましくは5.0~55.0である。
【0025】
なかでも、不織布の厚みが20μm以下で、かつ比率(細孔径/粒径)が5.0~6.0であることが好ましい。不織布の厚みが20μm以下で、かつ比率(細孔径/粒径)が5.0~6.0であれば、全固体電池の電池抵抗は、より低減され得る。
【0026】
固体電解質としては、硫化物固体電解質、酸化物固体電解質、水素化物固体電解質、ハロゲン化物固体電解質、窒化物固体電解質等が挙げられる。固体電解質は、1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。硫化物固体電解質は、アニオン元素の主成分として、硫黄(S)を含有することが好ましい。酸化物固体電解質は、アニオン元素の主成分として、酸素(O)を含有することが好ましい。水素化物固体電解質は、アニオン元素の主成分として、水素(H)を含有することが好ましい。ハロゲン化物固体電解質は、アニオン元素の主成分として、ハロゲン元素(X)を含有することが好ましい。窒化物固体電解質は、アニオン元素の主成分として、窒素(N)を含有することが好ましい。
【0027】
(1.2.1)硫化物固体電解質
硫化物固体電解質は、例えば、Li元素、A元素、及びS元素を含有することが好ましい。A元素は、P、As、Sb、Si、Ge、Sn、B、Al、Ga、及びInの少なくとも一種である。硫化物固体電解質は、O元素及びハロゲン元素の少なくとも一方を更に含有してもよい。ハロゲン元素(X)としては、例えば、F元素、Cl元素、Br元素、I元素等が挙げられる。
【0028】
硫化物固体電解質は、化学的安定性に優れる観点から、オルト組成のアニオン構造をアニオン構造の主成分として有することが好ましい。オルト組成のアニオン構造としては、例えば、PS 3-構造、SiS 4-構造、GeS 4-構造、AlS 3-構造又はBS 3-構造が挙げられる。オルト組成のアニオン構造の割合は、硫化物固体電解質における全アニオン構造に対して、好ましくは70mol%以上、より好ましくは90mol%以上である。
【0029】
硫化物固体電解質は、非晶質であってもよく、結晶質であってもよい。硫化物固体電解質が結晶質である場合、硫化物固体電解質は、結晶相を有する。結晶相としては、例えば、Thio-LISICON型結晶相、LGPS型結晶相、アルジロダイト型結晶相が挙げられる。
【0030】
硫化物固体電解質の組成は、特に限定されず、例えば、xLiS・(100-x)P(70≦x≦80)、yLiI・zLiBr・(100-y-z)(xLiS・(1-x)P)(0.7≦x≦0.8、0≦y≦30、0≦z≦30)が挙げられる。
【0031】
硫化物固体電解質は、一般式(1):Li4-xGe1-x(0<x<1)で表される組成を有していてもよい。一般式(1)において、Geの少なくとも一部は、Sb、Si、Sn、B、Al、Ga、In、Ti、Zr、V及びNbの少なくとも一つで置換されていてもよい。一般式(1)において、Pの少なくとも一部は、Sb、Si、Sn、B、Al、Ga、In、Ti、Zr、V及びNbの少なくとも1つで置換されていてもよい。一般式(1)において、Liの一部は、Na、K、Mg、Ca及びZnの少なくとも1つで置換されていてもよい。一般式(1)において、Sの一部は、ハロゲンで置換されていてもよい。ハロゲンとしては、F、Cl,Br及びIの少なくとも1つである。
【0032】
硫化物固体電解質の他の組成としては、例えば、Li7-x-2Z PS6-x-y、Li8-x-2y SIS6-x-y、Li8-z-2yGeS6-x-y等が挙げられる。これらの組成において、Xは、F、Cl、Br及びIの少なくとも1種であり、x及びyは、0≦x、0≦yである。
【0033】
(1.2.2)酸化物固体電解質
酸化物固体電解質は、例えば、Li元素、Z元素(Zは、Nb、B、Al、Si、P、Ti、Zr、Mo,W、及びSの少なくとも1種である)、及びO元素を含有する。酸化物固体電解質としては、ガーネット型固体電解質、ペロブスカイト型固体電解質、ナシコン型固体電解質、Li-P-O系固体電解質、Li-B-O系固体電解質等が挙げられる。ガーネット型固体電解質としては、例えば、LiLaZr12、Li7-xLa(Zr2-xNb)O12(0≦x≦2)、LiLaNb12等が挙げられる。ペロブスカイト型固体電解質としては、例えば、(Li、La)TiO、(Li、La)NbO、(Li、Sr)(Ta、Zr)O等が挙げられる。ナシコン型固体電解質としては、例えば、Li(Al、Ti)(PO、Li(Al、Ga)(PO等が挙げられる。Li-P-O系固体電解質としては、LiPO、LIPON(LiPOのOの一部をNに置換した化合物)、Li-B-O系固体電解質としては、LiBO、LiBOのOの一部をCで置換した化合物等が挙げられる。
【0034】
(1.2.3)水素化物固体電解質
水素化物固体電解質は、例えば、Liと、水素を含有する錯アニオンと、を有する。錯アニオンとしては、例えば、(BH、(NH、(AlH、(AlH3-等が挙げられる。
【0035】
(1.2.4)ハロゲン化固体電解質
ハロゲン化固体電解質としては、Li3z Z(Xは、Cl及びBrの少なくとも1種であり、zは0<z<2である)が挙げられる。
【0036】
(1.2.5)窒素化固体電解質
窒素化固体電解質としては、例えば、LiN等が挙げられる。
【0037】
(1.2.6)25℃で固体の溶融塩
固体電解質の他の例としては、25℃で固体の溶融塩が挙げられる。溶融塩は、カチオン及びアニオンを有する。カチオンとしては、例えば、無機カチオン、有機カチオン等が挙げられる。
無機カチオンとしては、例えば、リチウムイオン等が挙げられる。
有機カチオンとしては、例えば、アンモニウム系イオン、ピペリジニウム系カチオン、ピロジジニウム系カチオン、イミダゾリウム系カチオン、ビリジウム系カチオン、脂環式アミン系カチオン、脂肪族アミン径カチオン、脂肪族ホスホニウム系カチオン等が挙げられる。
アニオンとしては、例えば、スルホニルアミド構造を有するアニオンが挙げられる。スルホニウムアミド構造を有するアニオンとしては、例えば、ビス(トリフルオロメタンスルフォニル)アミド、ビス(フルオロスルフォニル)アミド、ビス(ペンタフロオロエタンスルフォニル)アミド、(フルオロスルフォニル)(トリフロオロメタンスルフォニル)アミド等が挙げられる。溶融塩の融点は、通常、25℃以上であり、30℃以上であってもよく、40℃以上であってもよい。溶融塩の融点は、例えば、200℃以下であり、150℃以下であってもよく、120℃以下であってもよい。
【0038】
(1.2.7)柔粘性結晶固体電解質
固体電解質の他の例としては、柔粘性結晶固体電解質が挙げられる。柔粘性結晶とは、規則的に整列した三次元結晶格子から構成される、柔粘性結晶では、分子種若しくは分子イオンのレベルにおいて、配向的、回転的な無秩序さが存在する。柔粘性結晶は、カチオン及びアニオンを有する。カチオンとしては、例えば、ピロリジニウム、テトラアルキルアンモニウム、テトラアルキルホスホニウム等が挙げられる。アニオンとしては、例えば、ヘキサフルオロホスフェイト、テトラフルオロボレート、チオシアネート、ビス(トリフルオロメタンスルフォニル)アミド、(フルオロスルフォニル)(トリフルオロメタンスルフォニル)アミド等が挙げられる。
【0039】
中でも、固体電解質は、硫化物固体電解質を含むことが好ましく、硫化物固体電解質からなることがより好ましい。固体電解質が硫化物固体電解質を含むことで、全固体電池の電池抵抗は、より低減される。
【0040】
(1.3)バインダー
固体電解質シートは、バインダーを備えていてもよいし、備えていなくてもよい。
バインダーとしては、例えば、ゴム系バインダー、フッ化物系バインダー等が挙げられる。ゴム系バインダーとしては、例えば、ブタジエンゴム、水素化ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム(SBR)、水素化スチレンブタジエンゴム、ニトリルブタジエンゴム、水素化ニトリルブタジエンゴム、エチレンプロピレンゴム等が挙げられる。フッ化物系バインダーとしては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビリニデン-ポリヘキサフルオロプロピレン共重合体(PVDF-HFP)、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素ゴム等が挙げられる。
固体電解質がバインダーを含有する場合、バインダーの含有量は、固体電解質の総量に対して、0質量部~3質量部であってもよい。
【0041】
(2)全固体電池
本開示の全固体電池は、正極層と、負極層と、前記正極層及び前記負極層の間に配置された固体電解質層と、を備える。前記固体電解質層は、本開示の固体電解質シートを含む。
【0042】
本開示の全固体電池は、上記の構成を有するので、全固体電池の電池抵抗が抑制されつつ、金属異物が全固体電池の内部に混入していても短絡が発生しにくい。
この効果は、上述した固体電解質シートの効果の理由と同様と推測されるが、これに限定されない。
【0043】
正極層、固体電解質層及び負極層のセットを発電単位とした場合、全固体電池は、発電単位を1つのみ有していてもよく、2つ以上有していてもよい。全固体電池が2つ以上の発電単位を有する場合、それらの発電単位は、直列接続されていてもよく、並列接続されていてもよい。
【0044】
(2.1)固体電解質層
全固体電池は、固体電解質層を備える。固体電解質層は、本開示の固体電解質シートを含み、本開示の固体電解質シートのみからなってもよい。固体電解質層には、電池化プレスは施されている。
【0045】
固体電解質層の厚さは、全固体電池の電池抵抗をより低減する等の観点から、好ましくは50μm以下、好ましくは30μm以下、さらに好ましくは20μm以下、さらに好ましくは15μm以下である。固体電解質層の厚みは、好ましくは1μm以上、より好ましくは10μm以上である。固体電解質層の厚さは、好ましくは1μm~50μmである。
【0046】
固体電解質層は、電池化プレスが施された履歴を有する。電池プレスによって、固体電解質シートに含まれる不織布及び固体電解質の各々は、変形しにくい。そのため、電池化プレスが施された後の固体電解質シートに含まれる不織布及び固体電解質の各々と、電池化プレスが施される前の固体電解質シートに含まれる不織布及び固体電解質の各々とは、同一とみなせる。
固体電解質層に含まれる不織布の細孔径は、例えば、有機溶剤を用いた洗浄によって全固体電池から不織布のみを分離し、得られる不織布の細孔径を実施例に記載の方法と同様の方法で測定することで得られる。
固体電解質層に含まれる固体電解質の粒径は、例えば、固体電解質層の断面を走査電子顕微鏡(SEM)で観察し、ランダムに固体電解質の粒子を選択し、粒径の平均値を測定することで得られる。
【0047】
固体電解質に含まれる不織布と、正極層及び負極層の少なくとも一方とは、直接接触していてもよいし、直接接触していなくてもよい。固体電解質の不織布に含まれる不織布と、正極層及び負極層の少なくとも一方との間には、別の固体電解質層が配置されていてもよい。別の固体電解質層が配置されることで、全固体電池の内部抵抗は低減する。別の固体電解質層は、固体電解質を含有し、必要に応じてバインダーを含有してもよい。固体電解質及びバインダーとしては、固体電解質シートに含まれ得る固体電解質及びバインダーとして例示したものと同様のものが挙げられる。別の固体電解質層は、通常、電子伝導性を有しない。別の固体電解質層は、不織布を含有しない。別の固体電解質層の厚さは、特に限定されない。
【0048】
(2.2)正極層
全固体電池は、正極層を備える。正極層は、正極活物質を含む。正極層は、必要に応じて、固体電解質、導電材及びバインダーの少なくとも1つを更に含有してもよい。正極活物質としては、例えば、酸化物活物質等が挙げられる。酸化物活物質としては、例えば、岩塩層状型活物質、スピネル型活物質、オリビン型活物質等が挙げられる。岩塩層状型活物質としては、LiCoO、LiMnO、LiNiO、LiVO、LiNi1/3Co1/3Mn1/3等が挙げられる。スピネル型活物質としては、例えば、LiMn,LiTi12、Li(Ni0.5Mn1.5)O等が挙げられる。オリビン型活物質としては、例えば、LiFePO、LiMnPO、LiNiPO、LiCoPO等が挙げられる。
【0049】
酸化物活物質の表面には、保護層が形成されていてもよい。保護層は、Liイオン伝導性酸化物を含有する。保護層は、酸化物活物質と、固体電解質との反応を抑制することができる。Liイオン伝導性酸化物としては、例えば、LiNbO等が挙げられる。保護層の厚さは、例えば、1nm~30nmである。正極活物質としては、例えば、LiS等を用いることができる。
【0050】
正極活物質の形状としては、例えば、粒子状が挙げられる。正極活物質の粒径は、特に限定されず、好ましくは10nm以上、より好ましくは100nm以上である。正極活物質の粒径は、特に限定されず、好ましくは50μm以下、より好ましくは20μm以下である。正極活物質の粒径は、好ましくは10nm~50μmである。
正極活物質の粒径の測定方法は、実施例に記載の方法と同様である。
【0051】
正極層は、導電材を含有してもいてもよい。導電材としては、例えば、炭素材料、金属粒子、導電性ポリマー等が挙げられる。炭素材料としては、例えば、粒子状炭素材料、繊維状炭素材料等が挙げられる。粒子状炭素材料としては、例えば、アセチレンブラック(AB)、ケッチェンブラック(KB)等が挙げられる。繊維状炭素材料としては、カーボンナノチューブ(CNT)、カーボンナノファイバー(CNF)等が挙げられる。
【0052】
正極層に用いられる固体電解質及びバインダーは、固体電解質シートに含まれ得る固体電解質及びバインダーとして例示したものと同様のものが挙げられる。正極層の厚さは、特に限定されず、好ましくは0.1μm~1000μmである。
【0053】
[2.3]正極集電体
全固体電池は、正極集電体を更に備えていてもよい。正極集電体は、正極層の集電を行う。正極集電体は、正極層を基準にして、固体電解質層とは反対側の位置に配置される。正極集電体の材料としては、例えば、ステンレス鋼、アルミニウム、ニッケル、鉄、チタン、カーボン等が挙げられる。正極集電体の形状としては、例えば、箔状、メッシュ状が挙げられる。
【0054】
[2.4]負極層
全固体電池は、負極層を備える。負極層は、負極活物質を含有する。負極層は、必要に応じて、固体電解質、導電材及びバインダーの少なくとも1つを含有してもよい。負極活物質としては、Li系活物質、炭素系活物質、酸化物系活物質、Si系活物質が挙げられる。Li系活物質としては、例えば、金属リチウム、リチウム合金等が挙げられる。炭素系活物質としては、例えば、グラファイト、ハードカーボン、ソフトカーボン等が挙げられる。酸化物系活物質としては、例えば、チタン酸リチウム等が挙げられる。Si系活物質としては、例えば、Si単体、Si合金、酸化ケイ素等が挙げられる。
【0055】
負極活物質の形状は、例えば、粒子状が挙げられる。負極活物質の粒径は、好ましくは10μm以上、より好ましくは100μm以上である。負極活物質の粒径は、好ましくは50μm以上、より好ましくは20μm以上である。負極活物質の粒径は、好ましくは10μm~50μmである。
負極活物質の粒径の測定方法は、実施例に記載の方法と同様である。
【0056】
負極層に用いられる導電材、固体電解質及びバインダーは、正極層に含まれ得導電材、固体電解質及びバインダーとして例示したものと同様のものが挙げられる。負極層の厚さは、特に限定されず、好ましくは0.1μm~1000μmである。
【0057】
[2.5]負極集電体
全固体電池は、負極集電体を更に備えていてもよい。負極集電体は、負極層の集電を行う。負極集電体は、負極層を基準にして、固体電解質層とは反対側の位置に配置される。負極集電体の材料としては、例えば、ステンレス鋼、銅、ニッケル、カーボン等が挙げられる。負極集電体の形状としては、例えば、箔状、メッシュ状が挙げられる。
【0058】
[2.6]外装体
全固体電池は、外装体を更に備えてもよい。外装体は、上述した発電単位を少なくとも収容する。外装体としては、ラミネート型外装体、ケース型外装体等が挙げられる。
【0059】
[2.7]拘束部材
全固体電池は、拘束部材を更に備えていてもよい。拘束部材は、正極層、固体電解質層及び負極層に対して、厚さ方向に拘束圧力を付与する。拘束圧力は、好ましくは0.1MPa以上、より好ましくは1MPa以上、さらに好ましくは5MPa以上である。拘束圧力は、好ましくは100MPa以下、より好ましくは50MPa以下、さらに好ましくは20MPa以下である。拘束圧力は、好ましくは0.1MPa~100MPaである。
【0060】
[2.8]用途
本開示の全固体電池は、典型的に、全固体リチウムイオン二次電池である。全固体電池は、車両、電子機器、及び電気貯蔵等の電源が挙げられる。車両としては、電動四輪車、電動二輪車、ガソリン自動車、ディーゼル自動車等が挙げられる。電動四輪車としては、例えば、電気自動車(BEV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)、及びハイブリッド自動車(BEV)等が挙げられる。電動二輪車としては、例えば、電動バイク、及び電動アシスト自転車等が挙げられる。電子機器としては、手持形機器(例えば、スマートフォン、タブレットコンピュータ、オーディオプレーヤ等)、可搬形機器(例えば、ノートブックコンピュータ、CD(Compact Disc)プレーヤ、可動形機器(例えば、電動工具、業務用ビデオカメラ等)等が挙げられる。中でも、本開示の全固体電池の用途は、ハイブリッド自動車、プラグインハイブリッド自動車又は電気自動車の駆動用電源であることが好ましい。
【実施例0061】
以下、実施例により本開示をさらに詳細に説明するが、本開示の発明がこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0062】
[1]測定方法
実施例及び比較例の材料の物性の測定方法は、下記のとおりである。
【0063】
[1.1]不織布の細孔径
不織布の細孔径は、バブルポイント法(JIS K 3832)で測定した。詳しくは、試験液に完全に浸せきした紙に対して空気圧を加え、気泡の出現が認められたときの圧力(バブルポイント)から最大細孔径を算出する。表面張力がわかっている試験液を用いることで、最大細孔径dは次の式を使って計算できる。
d=γ/P(γ:試験液の表面張力、P:バブルポイント圧)
【0064】
[1.2]不織布の目付
不織布から一定の面積のシートを切り出した。前記シートの面積当たりの質量を計算することで、目付を求めた。
【0065】
[1.3]不織布の空隙率
前記シートの実際の体積と、素材の比重から計算される体積との差から空隙の体積を計算し、前記シートの実際の体積に対する空隙の割合を求めた。空隙の割合を空隙率とした。
【0066】
[1.4]厚み
不織布の厚みは、卓上マイクロメーターで測定した。
固体電解質層の厚みは、放射光X線ラミノグラフィや断面SEMで確認した。
【0067】
[1.5]粒径
硫化物固定電解質、正極活物質、負極活物質、及び金属異物の粒径は、粒径は、レーザー回折式粒度分布測定装置を用いて測定した。詳しくは、被測定物を分散媒に分散させ、粒子径分布測定装置を用いて体積基準の粒子径分布を測定し、得られた体積基準の積算粒子径分布の値が50%に相当する粒子径を粒径とした。
【0068】
[1.6]比表面積
正極活物質、負極活物質、正極用導電材及び負極用導電の比表面積は、BET法(JIS R1626-1996)で測定した
【0069】
[2]固体電解質シート
[2.1]実施例1
下記の材料を準備した。
【0070】
第1硫化物固体電解質:2.2μmの粒径を有する15LiBr・10LiI・75(0.75LiS・0.25P)ガラスセラミックス
バインダー :SBR(スチレン-ブタジエンゴム)系バインダー
分散媒 :酪酸ブチル
基材箔 :15μmの厚さを有するステンレス鋼(SUS)箔
【0071】
メルトブロー法で、第1不織布を作製した。第1不織布は、30μmの厚み、0.37mg/cmの目付、91%の空隙率、及び15μmの細孔径を有する。第1不織布を構成する繊維の材料は、ポリエチレンテレフタレートであった。
【0072】
100質量部の第1硫化物固体電解質と、3質量部のバインダーとを、固形分50質量%となるように分散媒に調合した。得られた混合液を超音波分散装置を用いて1分間超音波分散処理することにより、固体電解質ペーストを得た。
【0073】
第1不織布を基材箔上に配置した。固体電解質ペーストを、ブレードコーティングによって、2.9mg/cmの目付量となるように第1不織布上に均一に塗布し、100℃で60分間乾燥処理した。ブレードコーティングには、市販のアプリケーターを用いた。これにより、基材箔付きの固体電解質シートを得た。基材箔付きの固体電解質シートは、基材箔と、基材箔の一方の面上に配置された固体電解質シートとを有する。固体電解質シートは、第1不織布と、固体電解質とを有する。固体電解質は、第1不織布を覆うように、第1不織布の内部及び外部に配置されていた。
[2.2]実施例2
第1不織布の代わりに第2不織布を用いたことの他は、実施例1と同様にして、基材箔付きの固体電解質シートを得た。第2不織布は、15μmの厚み、0.37mg/cmの目付、82%の空隙率、及び11μmの細孔径を有する。第2不織布を構成する繊維の材料は、ポリエチレンテレフタレートであった。
【0074】
[2.3]実施例3
第1不織布の代わりに第3不織布を用いたこと、及び第1硫化物固体電解質の代わりに第2硫化物固体電解質を用いたことの他は、実施例1と同様にして、基材箔付きの固体電解質シートを得た。第3不織布は、15μmの厚み、0.67mg/cmの目付、68%の空隙率、及び5μmの細孔径を有する。第3不織布を構成する繊維の材料は、ポリエチレンテレフタレートであった。第2硫化物固体電解質は、0.1μmの粒径を有する15LiBr・10LiI・75(0.75LiS・0.25P)ガラスセラミックスである。
【0075】
[2.4]比較例1
第1不織布を用いなかったことの他は、実施例1と同様にして、基材箔付きの固体電解質シートを得た。比較例1の基材箔付きの固体電解質シートは、不織布を備えない。
【0076】
[2.5]比較例2
第1不織布の代わりに第4不織布を用いたことの他は、実施例1と同様にして、基材箔付きの固体電解質シートを得た。第4不織布は、スパンボンド法で作製された。第4不織布は、20μmの厚み、0.89mg/mの目付、68%の空隙率、及び73μmの細孔径を有する。第4不織布を構成する繊維の材料は、ポリエチレンテレフタレートであった。
【0077】
[2.6]比較例3
第1不織布の代わりに第3不織布を用いたことの他は、実施例1と同様にして、基材箔付きの固体電解質シートを得た。
【0078】
[3]評価
実施例1~実施例3、及び比較例1~比較例3の固体電解質シートの各々を用いて、金属異物を混入させた複数の評価用全固体電池を作製した。複数の評価用全固体電池の各々の異物評価及び抵抗測定を行った。詳細は、下記の通りである。
【0079】
[3.1]評価用全固体電池
[3.1.1]正極
下記の材料を準備した。
【0080】
正極活物質 :10μmの粒径、及び1m/gの比表面積を有するLiNi1/3Mn1/3Co1/3粉体
正極用固体電解質:固体電解質シートの硫化物固体電解質と同じ組成の第1硫化物固体電解質
正極用導電材 :14m/gの比表面積を有するセルロースナノファイバー(CNF)
正極用バインダー:SBR(スチレン-ブタジエンゴム)系バインダー
正極用分散媒 :酪酸ブチル
正極集電体 :15μmの厚さを有するアルミニウム箔
【0081】
ゾルゲル法を用いて正極活物質の表面にLiNbOを被覆し、保護層付きの正極活物質を得た。
100質量部の保護層付きの正極活物質と、50質量部の正極用硫化物固体電解質と、10質量部の正極用導電材と、1質量部の正極用バインダーとを、固形分60質量%となるように正極用分散媒に調合した。得られた混合液を超音波分散装置を用いて1分間超音波分散処理することにより、正極ペーストを得た。
【0082】
正極ペーストを、ブレードコーティングによって、25mg/cmの目付量がとなるように正極集電体上に均一に塗布し、100℃で60分間乾燥処理した。ブレードコーティングには、市販のアプリケーターを用いた。これにより、正極集電体付きの正極層を得た。正極集電体付きの正極層は、正極集電体と、正極集電体の一方の面上に配置された正極層とを有する。正極層は、保護層付きの正極活物質、正極用硫化物固体電解質、正極用導電材、及び正極用バインダーを含む。
【0083】
[3.1.2]負極
下記の材料を準備した。
【0084】
負極活物質 :3μmの粒径、4m/gの比表面積を有するSi粉末
負極用固体電解質:固体電解質シートの硫化物固体電解質と同じ組成の第1硫化物固体電解質
負極用導電材 :14m/gの比表面積を有するCNF
負極用バインダー:SBR系バインダー
負極用分散媒 :酪酸ブチル
負極集電体 :厚さ20μmの表面粗化銅箔
【0085】
100質量部の負極活物質と、100質量部の負極用硫化物固体電解質と、10質量部の負極用導電材と、2質量部の負極用分散剤とを、固形分40質量%となるように負極用分散媒に調合した。得られた混合液を超音波分散装置を用いて1分間超音波分散処理することにより、負極ペーストを得た。
【0086】
負極ペーストを、ブレードコーティングによって、5mg/cmの目付量となるように負極集電体上に均一に塗布し、100℃で60分間乾燥処理した。ブレードコーティングには、市販のアプリケーターを用いた。これにより、負極集電体付きの負極層を得た。負極集電体付きの負極層は、負極集電体と、負極集電体の一方の面上に配置された負極層とを有する。負極層は、負極活物質、負極用硫化物固体電解質、負極用導電材、及び負極用バインダーを含む。
【0087】
[3.1.3]積層
下記の材料を準備した。
【0088】
基材箔付きの固体電解質シート:実施例1~実施例3、及び比較例1~比較例3の固体電解質シート
金属異物:20μmの粒径を有するSUS微粉
外装体:正負極端子が付設されたアルミニウム製のラミネートフィルム
【0089】
負極集電体付きの負極層を1.2cm×1.2cmの正方形状に切り出して、負極構造体を得た。基材箔付きの固体電解質シートを1.2cm×1.2cmの正方形状に切り出して、固体電解質構造体を得た。正極集電体付きの正極層を1.0cm×1.0cmの正方形状に切り出し、正極構造体を得た。
負極構造体の負極層上に金属異物を置いた。次いで、負極層と固体電解質シートとが対向するように、負極構造体と固体電解質構造体とを重ね合わせ、1トン/cmのプレス圧でロールプレスした。
次いで、固体電解質層に付いていた基材箔を剥がし、正極層と固体電解質シートとが対向するように、正極構造体と固体電解質構造体とを重ね合わせ、プレス圧4トン/cmでロールプレスした。これにより、積層電極体を得た。
積層電極体を外装体で密閉し、評価用全固体電池(全固体リチウムイオン二次電池)を作製した。実施例1の評価用全固体電池の固体電解質層の厚みは、15μmであった。実施例2、実施例3の評価用全固体電池の固体電解質層の厚みは、15μmであった。
【0090】
[3.2]異物評価
評価用全固体電池を、正極層、固体電解質層及び負極層の積層方向に5MPaの負荷で拘束した状態で電圧を測定し、下記の基準で、評価用全固体電池に短絡が発生したか否かを評価した。評価結果を表1に示す。
評価基準の「A」は、短絡が発生していないと判断されたことを示す。評価基準の「B」は、短絡が発生していると判断されたことを示す。
【0091】
<評価基準>
A :電圧が0.200V超であること
B :電圧が0.200V以下であること
【0092】
[3.3]抵抗測定
異物評価が「A」である評価用全固体電池を、電流値2mA、上限電圧4.5V、下限電圧2.5Vで、定電流-定電圧(CC-CV)充電、及びCC-CV放電を実施した。次いで、電流値2mA、上限電圧3.6VでCC-CV充電を実施して、CC-CV充電を休止した。CC-CV充電を休止した時点から10分経過後に、電流値10mA、及び下限電圧0.0Vで定電流(CC)放電を10秒実施した。オームの法則に従って、評価用全固体電池の電池抵抗R(=ΔV/I)を計算した。ΔVは、CC放電の通電直前の電圧と放電時間10秒時の電圧の差を示す。Iは、CC放電放電の電流値の測定値を示す。評価用全固体電池の電池抵抗の算出結果を表1に示す。
評価用全固体電池の電池抵抗の許容範囲は、実施例1との比で110%以下である。
【0093】
【表1】
【0094】
表1中、「SE」とは、固体電解質を示す。「評価(20μm)」とは、20μmの粒径を有する金属異物が混入された評価用全固体電池の評価を示す。
【0095】
比較例1の固体電解質シートは、不織布を備えていない。そのため、比較例1の異物評価は、「B」であった。つまり、比較例1の評価用全固体電池には、短絡が発生していた。
比較例2の固体電解質シートでは、不織布の細孔径は、15μm以下ではなく、金属異物の粒径より大きかった。そのため、比較例2の異物評価は、「B」であった。つまり、比較例2の評価用全固体電池には、短絡が発生していた。
比較例3の固体電解質シートでは、比率(細孔径/粒径)は、5.0以上ではなかった。そのため、比較例3の電池抵抗は、1547%であり、著しく高かった。
【0096】
実施例1~実施例3の固体電解質シートは、不織布と、不織布の内部に配置された固体電解質とを備え、不織布の細孔径が15μm以下であり、比率(細孔径/粒径)が、5.0以上であった。そのため、実施例1~実施例3の異物評価は、「A」であった。つまり、実施例1~実施例3の評価用全固体電池には、短絡が発生していなかった。更に、実施例1~実施例3の電池抵抗は、103%以下であった。
これらの結果から、実施例1~実施例3の固体電解質シートは、全固体電池の電池抵抗を抑制しつつ、金属異物が全固体電池の内部に混入しても短絡の発生を防止することができることがわかった。
【0097】
実施例1~実施例3と、比較例3との対比から、不織布の細孔径が15μm以下であることで、電池化プレスの際、細孔径より粒径が大きい金属異物が不織布の内部に侵入しにくい。換言すると、金属異物は、固体電解質層を貫通しにくい。その結果、実施例1~実施例3の評価用全固体電池には、短絡が発生しにくいと推測される。
実施例1~実施例3と、比較例2との対比から、比率(細孔径/粒径)が5.0以上であることで、比率(細孔径/粒径)が5.0以上ではない場合よりも密に不織布の内部に固体電解質が配置される。換言すると、電池化プレス後において、隣接する複数の固体電解質の粒子同士の隙間はより小さくなる。その結果、実施例1~実施例3の評価用全固体電池の電池抵抗は、103%以下であったと推測される。