(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024018559
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】電動機及び圧縮機
(51)【国際特許分類】
H02K 1/278 20220101AFI20240201BHJP
【FI】
H02K1/278
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022121970
(22)【出願日】2022-07-29
(71)【出願人】
【識別番号】000006611
【氏名又は名称】株式会社富士通ゼネラル
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉田 式寿
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 孝史
【テーマコード(参考)】
5H622
【Fターム(参考)】
5H622AA03
5H622CB03
5H622CB06
(57)【要約】
【課題】回転方向における前方側と後方側で磁力が異なる回転子を備える電動機の製造を容易にすると共に、磁石埋込穴内で永久磁石を安定的に固定する。
【解決手段】磁石埋込穴は、互いに平行な内径側内面及び外径側内面と、ロータコアの回転方向における前方と後方にそれぞれ配置されて互いに平行な前方側内面及び後方側内面と、を有する。永久磁石は、内径側端面及び外径側端面と、前方側端面及び後方側端面と、上端面及び下端面と、を有する。永久磁石は、前方側端面及び後方側端面に対して平行な方向の厚みが一定の焼結磁石によって形成される。永久磁石は、内径側端面と外径側端面と前方側端面と後方側端面と上端板と下端板とによって、磁石埋込穴での永久磁石の移動が規制される。永久磁石は、前方側内面及び後方側内面のいずれか一方の内面と、上端板及び下端板の少なくとも一方の端板と、永久磁石と、によって囲われる空隙を形成するように、永久磁石の外周部に切欠き部が形成される。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転子と、前記回転子の外周側に配置された固定子と、前記回転子に連結された回転軸と、を備え、
前記回転子は、ロータコアと、前記ロータコアに形成された複数の磁石埋込穴と、前記複数の磁石埋込穴にそれぞれ埋め込まれる複数の永久磁石と、前記回転軸の軸方向における前記回転子の端部に配置される上端板及び下端板と、を有する電動機であって、
前記磁石埋込穴は、前記ロータコアの径方向に交差して配置されて互いに平行な内径側内面及び外径側内面と、前記ロータコアの回転方向における前方と後方にそれぞれ配置されて互いに平行な前方側内面及び後方側内面と、を有し、
前記永久磁石は、前記磁石埋込穴の内径側内面に平行な内径側端面と、前記磁石埋込穴の外径側内面に平行な外径側端面と、前記磁石埋込穴の前記前方側内面に平行な前方側端面と、前記磁石埋込穴の前記後方側内面に平行な後方側端面と、前記回転軸の軸方向に交差する上端面及び下端面と、を有し、前記前方側端面及び前記後方側端面に対して平行な方向の厚さが一定であり、
前記磁石埋込穴の前記前方側内面及び前記後方側内面のいずれか一方の内面と、前記上端板及び前記下端板の少なくとも一方の端板と、前記永久磁石と、によって囲われる空隙を形成するように、前記永久磁石の外周部に切欠き部が形成され、
前記内径側端面と前記外径側端面と前記前方側端面と前記後方側端面と前記上端板と前記下端板とによって、前記磁石埋込穴での前記永久磁石の移動が規制される、電動機。
【請求項2】
前記切欠き部は、前記上端面及び前記下端面から、前記前方側端面及び後方側端面のいずれか一方における、前記回転軸の軸方向の中央側に向かうに従って、前記前方側内面及び前記後方側内面に直交する方向に対する前記空隙が小さくなるように形成される、
請求項1に記載の電動機。
【請求項3】
前記永久磁石は、前記切欠き部が、前記回転軸の軸方向における前記永久磁石の中心を通り、かつ前記軸方向に直交する中心線に対して、線対称に形成される、
請求項2に記載の電動機。
【請求項4】
前記固定子は、複数のティースが内周の周方向に沿って形成された環状のステータコアを有し、
前記永久磁石の前記上端面及び前記下端面は、前記前方側端面と前記後方側端面に直交する方向に沿う端面の幅の最小幅が、前記ティースの内周側端面の前記周方向における両端間の距離よりも大きい、
請求項3に記載の電動機。
【請求項5】
前記上端板及び前記下端板は、前記磁石埋込穴の前記空隙に進入する凸部を有する、
請求項1ないし4のいずれか1項に記載の電動機。
【請求項6】
前記切欠き部は、前記後方側端面と前記上端面との角部を切り欠いて形成されると共に、前記後方側端面と前記下端面との角部を切り欠いて形成される、
請求項1に記載の電動機。
【請求項7】
前記切欠き部は、前記前方側端面と前記上端面との角部を切り欠いて形成されると共に、前記前方側端面と前記下端面との角部を切り欠いて形成される、
請求項1に記載の電動機。
【請求項8】
請求項1に記載の電動機と、
前記電動機によって駆動される圧縮部と、
前記電動機及び前記圧縮部を内部に収容する容器と、
を備える圧縮機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動機及び圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
電動機としては、回転子のロータコアに設けられた磁石埋込穴に永久磁石が埋め込まれたIPM(Interior Permanent Magnet)型の電動機が知られている。この種の電動機には、回転子の回転方向における後方側(以下、回転方向後方側とも称する。)の端部の磁力を、前方側(以下、回転方向前方側とも称する。)の端部の磁力よりも小さくした回転子を備えるものがある。この電動機は、永久磁石が発生するマグネットトルクのピークを、リラクタンストルクのピーク側に寄せることで、マグネットトルクとリラクタンストルクの合成トルクのピークを大きくし、出力を高めている。
【0003】
また、関連技術の電動機には、回転方向前方側の端部の磁力を、回転方向後方側の端部の磁力よりも小さくした回転子を備えるものがある。この電動機は、回転子の回転方向における前方側に生じるトルクを小さくすることで回転数を増大させている。
【0004】
回転子の回転方向後方側の磁力を小さくする構造としては、回転方向後方側の端部において、ロータコアの径方向に対して2種類の永久磁石を組み合わせる構造がある(特許文献1)。同様に回転子の回転方向後方側の磁力を小さくする構造としては、ロータコアの径方向における永久磁石の厚さを、回転方向前方側から回転方向後方側に向かうに従って小さくする構造や、ロータコアの径方向における磁石埋込穴の幅を、回転方向前方側から回転方向後方側に向かって大きくすることで、磁石埋込穴の内径側内面と永久磁石の内径側端面との間に空隙を形成し、この空隙を回転方向後方側で大きくする構造がある(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015-133825号公報
【特許文献2】特開2000-166140号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1のように2種類の永久磁石を組み合わせる構造や、特許文献2のようにロータコアの径方向における永久磁石の厚みを徐々に変化させる構造は、永久磁石の部分的な研削加工が求められ、永久磁石の製造が難しい問題がある。また、特許文献2のようにロータコアの径方向における磁石埋込穴の幅を徐々に変化させる構造は、磁石埋込穴の内径側内面と永久磁石の内径側端面との間に形成される空隙によって、磁石埋込穴内の永久磁石の固定状態の安定性が低下するおそれがある。
【0007】
開示の技術は、上記に鑑みてなされたものであって、回転方向における前方側と後方側で磁力が異なる回転子を備える電動機の製造を容易にすると共に、磁石埋込穴内の永久磁石の固定状態の安定性を高められる電動機及び圧縮機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願の開示する電動機の一態様は、回転子と、回転子の外周側に配置された固定子と、回転子に連結された回転軸と、を備える。回転子は、ロータコアと、ロータコアに形成された複数の磁石埋込穴と、複数の磁石埋込穴にそれぞれ埋め込まれた複数の永久磁石と、回転軸の軸方向における回転子の端部に配置される上端板及び下端板と、を有する。磁石埋込穴は、ロータコアの径方向に交差して配置されて互いに平行な内径側内面及び外径側内面と、ロータコアの回転方向における前方と後方にそれぞれ配置されて互いに平行な前方側内面及び後方側内面と、を有する。永久磁石は、磁石埋込穴の内径側内面に平行な内径側端面と、磁石埋込穴の外径側内面に平行な外径側端面と、磁石埋込穴の前方側内面に平行な前方側端面と、磁石埋込穴の後方側内面に平行な後方側端面と、回転軸の軸方向に交差する上端面及び下端面と、を有する。永久磁石は、前方側端面及び後方側端面に対して平行な方向の厚みが一定の焼結磁石によって形成される。永久磁石は、内径側端面と外径側端面と前方側端面と後方側端面と上端板と下端板とによって、磁石埋込穴での永久磁石の移動が規制される。永久磁石は、磁石埋込穴の前方側内面及び後方側内面のいずれか一方の内面と、上端板及び下端板の少なくとも一方の端板と、永久磁石と、によって囲われる空隙を形成するように、永久磁石の外周部に切欠き部が形成される。
【発明の効果】
【0009】
本願の開示する電動機の一態様によれば、回転方向における前方側と後方側で磁力が異なる回転子を備える電動機の製造を容易にすると共に、磁石埋込穴内の永久磁石の固定状態の安定性を高められる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、実施例のロータリ圧縮機を示す縦断面図である。
【
図2】
図2は、実施例の電動機を示す平面図である。
【
図3】
図3は、実施例の電動機の回転子を示す縦断面図である。
【
図4】
図4は、実施例の電動機の固定子のステータコアを示す平面図である。
【
図5】
図5は、実施例の電動機の要部を示す平面図である。
【
図6】
図6は、実施例において磁石埋込穴に配置された永久磁石を示す斜視図である。
【
図7】
図7は、実施例における永久磁石を示す斜視図である。
【
図8】
図8は、実施例における永久磁石を示す側面図である。
【
図9】
図9は、実施例の電動機のトルクを説明するための図である。
【
図10】
図10は、実施例の電動機の永久磁石の製造工程を示す図である。
【
図11】
図11は、実施例の電動機の永久磁石の製造に用いられる成形型を示す断面図である。
【
図12】
図12は、実施例の電動機の永久磁石の製造工程における、プレス成形の工程を示す図である。
【
図13】
図13は、実施例の電動機の永久磁石の製造工程における、スライス加工の工程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本願の開示する電動機及び圧縮機の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の実施例によって、本願の開示する電動機及び圧縮機が限定されるものではない。
【実施例0012】
(圧縮機の構成)
図1は、実施例の圧縮機を示す縦断面図である。
図1に示すように、圧縮機1は、いわゆるロータリ圧縮機であり、容器2と、圧縮部5と、電動機6と、を備える。容器2は、金属材料によって形成されており、密閉された内部空間7を形成している。容器2の内部空間7は、概ね円柱状に形成されている。容器2は、水平面上に縦置きされたときに、内部空間7をなす円柱の中心軸が鉛直方向に平行になるように形成されている。容器2には、内部空間7の下部に油溜め8が形成されている。油溜め8には、圧縮部5を潤滑させる潤滑油である冷凍機油が貯留される。容器2には、冷媒を吸入するための吸入管11と、圧縮された冷媒を吐出する吐出管12と、が接続されている。容器2の内部空間7には、後述する電動機6によって回転される回転軸3が、この回転軸3の一端が油溜め8に位置するように配置されている。回転軸3は、内部空間7をなす円柱の中心軸を中心に回転可能に容器2に支持されている。回転軸3は、回転することにより、油溜め8に貯留された冷凍機油を圧縮部5に供給する。
【0013】
圧縮部5は、内部空間7の下部に配置され、油溜め8の上方に配置されている。圧縮機1は、さらに、上マフラーカバー14と、下マフラーカバー15と、を備えている。上マフラーカバー14は、内部空間7のうちの圧縮部5の上部に配置されている。上マフラーカバー14は、内部に上マフラー室16を形成している。下マフラーカバー15は、内部空間7における圧縮部5の下部に設けられており、油溜め8の上部に配置されている。下マフラーカバー15は、内部に下マフラー室17を形成している。下マフラー室17は、圧縮部5に形成されている連通路(図示せず)を介して上マフラー室16に連通している。上マフラーカバー14と回転軸3との間には、圧縮冷媒吐出孔18が形成され、上マフラー室16は、圧縮冷媒吐出孔18を介して内部空間7に連通している。
【0014】
圧縮部5は、回転軸3が回転することにより吸入管11から供給される冷媒を圧縮し、その圧縮された冷媒を上マフラー室16と下マフラー室17とに供給する。その冷媒は、冷凍機油と相溶性を有している。電動機6は、内部空間7のうちの圧縮部5の上方に配置されている。
【0015】
(電動機の構成)
図2は、実施例の電動機6を示す平面図である。
図3は、実施例の電動機6の回転子を示す縦断面図である。
図1及び
図2に示すように、電動機6は、回転子21と、回転子21の外周側に配置された固定子22と、回転子21に連結された回転軸3と、を備える。回転子21は、
図2及び
図3に示すように、ロータコア26と、ロータコア26に形成された複数の磁石埋込穴27と、複数の磁石埋込穴27にそれぞれ埋め込まれる複数の永久磁石28と、回転軸3の軸方向における回転子21の両端部に配置される上端板29及び下端板30と、を有する。
【0016】
ロータコア26は、珪素鋼の薄板(磁性体)を複数積層して円柱状に形成されており、複数のリベット9により一体化されている。回転軸3は、ロータコア26の中心穴26aに挿通され、固定されている。ロータコア26には、6個のスリット状の磁石埋込穴27が、回転軸3を中心とする周方向において6角形の各辺をなすように形成されている。各磁石埋込穴27は、ロータコア26の周方向に所定間隔をあけて形成されている。磁石埋込穴27には、板状の永久磁石28が挿入されて固定されている。磁石埋込穴27は、上端板29の下端面と下端板30の上端面とで塞がれている。上端板29は、ロータコア26の中心穴26aの内径よりも大きな中心穴29aを有する。同様に下端板30も、ロータコア26の中心穴26aの内径よりも大きな中心穴30aを有する。磁石埋込穴27及び永久磁石28の詳細な形状については後述する。
【0017】
固定子22は、概ね円筒形に形成されており、回転子21を囲むように配置されて、容器2に固定されている。固定子22は、環状のステータコア23と、上インシュレータ24及び下インシュレータ25(
図1参照)と、複数の巻き線46と、を備える。上インシュレータ24は、ステータコア23の上端部に固定されている。下インシュレータ25は、ステータコア23の下端部に固定されている。上インシュレータ24及び下インシュレータ25は、ステータコア23と巻き線46とを絶縁する絶縁部の一例である。
【0018】
図4は、実施例の電動機6の固定子22のステータコア23を示す平面図である。ステータコア23は、例えば、ケイ素鋼板に例示される軟磁性体で形成された複数の板が積層されて形成されており、
図4に示すように、ヨーク部31と、複数のステータコアティース部32と、を備える。ヨーク部31は、概ね円筒形に形成されている。複数のステータコアティース部32のうちの第1ステータコアティース部32-1は、概ね柱体状に形成されている。第1ステータコアティース部32-1は、一端がヨーク部31の内周面に連続して形成され、すなわち、ヨーク部31の内周面からステータコア23の中心軸に向かって突出するように形成されている。複数のステータコアティース部32(32-1~32-9)のうちの第1ステータコアティース部32-1と異なるステータコアティース部も、第1ステータコアティース部32-1と同様に、概ね柱体状に形成されており、ヨーク部31の内周面からステータコア23の中心軸に向かって突出している。複数のステータコアティース部32(32-1~32-9)は、さらに、ヨーク部31の内周面に40度ごとの等間隔に配置されて形成されている。
【0019】
ステータコア23の複数のステータコアティース部32(32-1~32-9)には、
図2に示すように、電線である巻き線46がそれぞれ巻回されている。各ステータコアティース部32-1~32-9には、各巻き線46によって巻回部45がそれぞれ形成されている。実施形態の電動機6は、6極9スロットの集中巻型のモータである。複数の巻き線46は、複数のU相巻き線46-U1~46-U3と、複数のV相巻き線46-V1~46-V3と、複数のW相巻き線46-W1~46-W3と、を備えている。また、固定子22において、各巻回部45から引き出されて一束にまとめられた中性線は、絶縁チューブで覆われて、固定子22の周方向(回転子21の回転方向)に隣り合う巻回部45の隙間に挿入されている。
【0020】
図5は、実施例の電動機6の要部を示す平面図であり、上端板29を取り外した状態の回転子21を示している。
図6は、実施例において磁石埋込穴27に配置された永久磁石28を示す斜視図である。
図5及び
図6に示すように、磁石埋込穴27は、内径側内面27Iと、外径側内面27Оと、前方側内面27Fと、後方側内面27Rと、を有する。内径側内面27Iと外径側内面27Oとは、互いに平行に配置されるとともに、ロータコア26の径方向(回転軸3の径方向)に交差して配置される。前方側内面27Fと後方側内面27Rとは、互いに平行に配置されるとともに、ロータコア26の回転方向Rにおける前方と後方にそれぞれ配置される。
【0021】
(永久磁石の形状)
図7は、実施例における永久磁石を示す斜視図である。
図8は、実施例における永久磁石を示す側面図である。
図5及び
図6に示すように、永久磁石28は、磁石埋込穴27の内径側内面27Iに平行な内径側端面28Iと、磁石埋込穴27の外径側内面27Oに平行な外径側端面28Oと、磁石埋込穴27の前方側内面27Fに平行な前方側端面28Fと、磁石埋込穴27の後方側内面27Rに平行な後方側端面28Rと、回転軸3の軸方向Aに交差する上端面28U及び下端面28Lと、を有する。
図7に示すように、永久磁石28は、前方側端面28F及び後方側端面28Rに対して平行な方向の厚さT、すなわち、内径側端面28Iと外径側端面28Oとの間の厚さTが一定である焼結磁石である。なお、実施例において、1つの磁石埋込穴27に配置される永久磁石28は、複数の永久磁石を連結させたものではなく、一体に形成された単一の永久磁石である。
【0022】
図6、
図7及び
図8に示すように、永久磁石28が配置された磁石埋込穴27の内部において、磁石埋込穴27の前方側内面27F及び後方側内面27Rのいずれか一方の内面と、上端板29及び下端板30の少なくとも一方の端板と、永久磁石28の外周面と、によって囲われる空隙Gを形成するように、永久磁石28の外周部に切欠き部35が形成されている。本実施例では、切欠き部35は、永久磁石28の後方側端面28Rと上端面28Uとの角部を切り欠いて形成されると共に、後方側端面28Rと下端面28Lとの角部を切り欠いて形成されている。
【0023】
したがって、永久磁石28には、切欠き部35によって、後方側端面28rと上端面28uとに跨る上傾斜面35aと、後方側端面28Rと下端面28Lとに跨る下傾斜面35bがされている。一例として上傾斜面35a及び下傾斜面35bは、平面によって形成されるが、弧状の曲面によって形成されてもよい。このような切欠き部35が形成されることで、後方側端面28Rは、回転軸3の軸方向Aにおける永久磁石28の中央、すなわち、軸方向Aにおける上端面28Uと下端面28Lの間の中央に形成されている。
【0024】
また、永久磁石28は、
図7及び
図8に示すように、回転軸3の軸方向Aに対して全長H1に形成されており、上端面29Uと下端面28Lとの間の距離が全長H1に相当する。回転軸3の軸方向Aに対して永久磁石28は、前方側端面20Fが全長H1に形成されており、切欠き部35の形成に伴って後方側端面28Rが長さH2に形成されている。また、磁石埋込穴27は、永久磁石28の全長H1と同様に、回転軸3の軸方向Aに対して全長H1に形成されている(
図4)。
【0025】
また、永久磁石28は、回転軸3の軸方向Aにおける永久磁石28の中心を通り、回転軸3の軸方向Aに直交する中心線Cに沿う方向に対して最大幅W1に形成されており、前面側端面28Fと後方側端面28Rとの間の距離が最大幅W1に相当する。切欠き部35の形成に伴って永久磁石28の上端面28Uは、中心線Cに沿う方向に対して最小幅W2に形成されている。同様に、永久磁石28の下端面28Lは、中心線Cに沿う方向に対して最小幅W2に形成されている。また、磁石埋込穴27は、永久磁石28の最大幅W1と同様に、前方側内面と後方側内面との間の距離が最大幅W1とほぼ等しく形成されている。
【0026】
したがって、磁石埋込穴27内に配置された永久磁石28は、内径側端面28Iが磁石埋込穴27の内径側内面27Iに接触することによって、ロータコア26の内径側への永久磁石28の移動が規制される。同様に、永久磁石28の外径側端面28Оが磁石埋込穴27の外径側内面27Оに接触することによって、ロータコア26の外径側への永久磁石28の移動が規制される。永久磁石28の後方側端面28Rが磁石埋込穴27の後方側内面27Rに接触することによって、回転方向Rの後方側への永久磁石28の移動が規制される。永久磁石28の前方側端面28Fが磁石埋込穴27に接触することによって、回転方向Rの前方側への永久磁石28の移動が規制される。永久磁石28の上端面28Uが上端板29の下端面に接触することによって、回転軸3の軸方向Aの上方への永久磁石28の移動が規制される。永久磁石28の下端面28Lが下端板30の上端面に接触することによって、回転軸3の軸方向Aの下方への永久磁石28の移動が規制される。すなわち、磁石埋込穴27内に配置された永久磁石28は、磁石埋込穴27の内径側内面27Iと外径側内面27Oと前方側内面27Fと後方側内面27Rと、上端板29の下端面と、下端板30の上端面とによって、磁石埋込穴27内での移動が規制される。このように永久磁石28の移動が6方向に対してそれぞれ規制されることにより、磁石埋込穴27内で永久磁石28が安定的に固定される。
【0027】
また、本実施例は、永久磁石28の後方側端面28Rに切欠き部35が形成されることで、ロータコア26の回転方向Rに対し、永久磁石28の後方側の磁束を減らし、後方側に比べて前方側の磁束を大きくする。これにより、回転子21は、マグネットトルクのピークを、回転方向Rの前方側へずらしてリラクタンストルクのピークに近づけるように、マグネットトルクの位相を移動(シフト)させることが可能になり、マグネットトルクとリラクタンストルクを合成した合成トルクのピークを増大できる。
【0028】
さらに、実施例における永久磁石28によれば、厚さTが一定の永久磁石28において後方側端面28R側に切欠き部35が形成されることにより、プレス成形を利用して、切欠き部35を有する外形形状を容易に形成することが可能になり、上述のように磁石埋込穴27内で永久磁石28を安定的に固定すると共に、合成トルクのピークを増大できる永久磁石28を容易に製造することができる。詳しくは後述するが、永久磁石28の製造において、プレス成形だけでは永久磁石28を薄く形成することができないため、永久磁石28を厚さTに形成するために、プレス成形された圧粉体をスライス加工して厚さTに加工している。このとき、永久磁石28は、プレス成形の段階で切欠き部35を形成するようにしたため、切欠き部35が形成された圧粉体をスライス加工するだけで、本実施例の厚さTの永久磁石28の外形を形成することができ、永久磁石28の製造を容易にすることができる。
【0029】
なお、切欠き部35は、永久磁石28の後方側端面28Rと上端面28Uとの角部を切り欠いて形成されると共に、後方側端面28Rと下端面28Lとの角部を切り欠いて形成される構造に限定されない。図示しないが、切欠き部35は、前方側端面28Fと上端面28Uとの角部を切り欠いて形成されると共に、前方側端面28Fと下端面28Lとの角部を切り欠いて形成されてもよい。また、切欠き部35は、上端面28U側の角部及び下端面28L側の角部のいずれか一方の角部のみに形成されてもよい。
【0030】
上述したように切欠き部35が回転子21の回転方向Rに対する永久磁石28の後方側に形成される場合には、マグネットトルクの変動のピークを、回転方向Rの前方側へずらしてリラクタンストルクの変動のピークに近づける方向へ、マグネットトルクの位相を移動させることができる。これにより、マグネットトルクとリラクタンストルクとの合成トルクのピークを増大させて、電動機6の出力を高められる。
【0031】
一方、切欠き部35が、回転子21の回転方向Rに対する永久磁石28の前方側に形成される場合には、回転方向Rに対して永久磁石28の前方側の磁束を減らし、前方側に比べて後方側の磁束を大きくする。これにより、回転子21は、回転子21に切欠き部35が形成されない場合に比べて、マグネットトルクの変動のピークを、回転方向Rの後方側へずらして、前方側のマグネットトルクを低下させることで、固定子22に同じ回転磁界を加えたときに回転子21の回転数を増やすことができる。
【0032】
また、実施例では、上端面28U側の切欠き部35と、下端面28L側の切欠き部35によって、磁石埋込穴27内に独立した2つの空隙Gが形成されるが、空隙Gは2つに独立して形成されなくてもよい。この場合、例えば、永久磁石28の後方側端面28Rと上端面28Uとの角部を切り欠いて形成されると共に、後方側端面28Rと下端面28Lとの角部を切り欠いて形成され、後方側端面28Rの一部が上端面28U側の空隙Gと下端面28L側の空隙Gがつながるように切り欠かれることにより、磁石埋込穴27内に1つの空隙Gが形成されてもよい。この場合であっても、例えば、永久磁石28の後方側端面28Rの切り欠かれた部分以外が、磁石埋込穴27の後方側内面27Rに接触することによって、永久磁石28の後方側への移動を規制することができる。また、マグネットトルクとリラクタンストルクとの合成トルクのピークを増大させて、電動機6の出力を高めることができる。
【0033】
図6、
図7及び
図8に示すように、切欠き部35は、上端面28U及び下端面28Lから、後方側端面おける、回転軸3の軸方向Aの中央側(中心線C側)に向かうに従って、磁石埋込穴27の後方側内面27Rに直交する方向(中心線Cに沿う方向)に対する空隙Gが小さくなるように形成される。
【0034】
言い換えると、永久磁石28は、上傾斜面35aと後方側内面27Rとの間の距離が、後方側端面28Rに近づくに従って小さくなり、下傾斜面35bと後方側内面27Rとの間の距離が、後方側端面28Rに近づくに従って小さくなるように形成されている。一例として、切欠き部35は、
図8に示すように、永久磁石28の厚さTの方向に沿って見たときに、三角形状に切り欠かれて形成されている。したがって、
図7及び
図8に示すように、永久磁石28において、前方側端面28Fと後方側端面28Rに直交する方向に対する幅は、回転軸3の軸方向Aにおける中央側に向かうに従って大きくなる。
【0035】
永久磁石28の上端面28U近傍及び下端面28L近傍を通過する磁束の中にはロータコア26を通過しない磁束もあるので、磁束の損失が生じる傾向がある。その一方で、回転軸3の軸方向Aにおける永久磁石28の中央側を通過する磁束は殆ど漏れることなくロータコア26を通過するので、磁束の損失が小さい。よって、永久磁石28において上端面28U側及び下端面28L側と比べて磁束の漏れが少ない、軸方向Aにおける中央部の磁力を有効に活用するために、軸方向Aにおける永久磁石28の中央部において、ロータコア26の周方向に接する接線方向に対する幅が小さくならないように切欠き部35が形成されている。このように永久磁石28に切欠き部35を形成する位置としては、永久磁石28の上端面28U側及び下端面28L側を大きく切り欠き(言い換えれば、磁石埋込穴27の前方側内面27Fまたは後方側内面27Rにおける上端側及び下端側に、永久磁石28と接触しない領域を設け)、かつ、軸方向Aにおける前方側端面28F及び後方側端面28Rの中央側を切り欠かない(言い換えれば、磁石埋込穴27の前方側内面27Fまたは後方側内面27Rにおける中央側に、永久磁石28と接触する領域を設ける)ことで、電動機6の効率の低下を抑制できる。
【0036】
なお、
図5~8で示した実施例では、永久磁石28の切欠き部35が回転方向Rの後方側に位置する場合を例示したが、永久磁石28の切欠き部35が回転方向Rの前方側に位置していてもよい。言い換えれば、切欠き部35は、図示しないが、上端面28U及び下端面28Lから、前方側端面28Fにおける、回転軸3の軸方向Aの中央側(中心線C側)に向かうに従って、磁石埋込穴27の前方側内面27Fに直交する方向(中心線Cに沿う方向)に対する空隙Gが小さくなるように形成されてもよい。
【0037】
永久磁石28は、切欠き部35が、回転軸3の軸方向Aにおける永久磁石28の中心を通り、かつ軸方向Aに直交する中心線Cに対して、線対称に形成されている。これにより、永久磁石28の重心の軸方向Aにおける位置が、ロータコア26の重心の軸方向Aにおける位置に概ね一致するので、一対の永久磁石28、28を電動機6の回転中心線(軸方向Aに沿って回転軸3の中心を通る線)に対して線対称に配置することで、ロータコア26と、対称的に配置された複数の永久磁石28と、を備える回転子21全体としての回転動作の安定性が高められる。また、永久磁石28を磁石埋込穴27へ組み込むときの回転軸3の軸方向A(ロータコア26の上下方向)に対する永久磁石28の上下の向きの区別が不要となり、永久磁石28の組付けの作業性を高められる。
【0038】
図5に示すように、永久磁石28の上端面28U及び下端面28Lは、前方側端面28Fと後方側端面28Rに直交する方向に沿うの端面の幅の最小幅W2が、ステータコアティース部32の内周側端面32Aの周方向における両端間の距離W3よりも大きい。これにより、切欠き部35の形成に伴って永久磁石28からステータコアティース部32を通過する磁束が減少することを抑えられる。
【0039】
また、上端板29及び下端板30は、磁石埋込穴27の空隙G内に進入する凸部37を有する。凸部37は、上端板29及び下端板30の一部を、磁石埋込穴27側へ突出するように切り起こしたり、膨出させたりして形成される。
【0040】
磁石埋込穴27内に配置された永久磁石28の前後方向の向き、すなわち、ロータコア26の回転方向Rに対する切欠き部35の前後方向の位置が誤っていた場合、上端板29及び下端板30の凸部37が永久磁石28の上端面28U及び下端面28Lに衝突して上端板29及び下端板30をロータコア26に組み付けることが不能となるので、磁石埋込穴27内に取り付けられた永久磁石28の向きの誤りを容易に認識できる。このため、磁石埋込穴27に永久磁石28の向きを誤って取り付けることを防ぎ、回転子21の製造不良の発生を防げる。
【0041】
また、上述した永久磁石28の外形形状について、最大幅W1に対する最小幅W2の比は、ステータコア23のステータコアティース部32の個数Nと、ロータコア26の極数Pとの比に設定するのが好ましい。例えば、ステータコア23のステータコアティース部32の個数が9個、極数が6極の場合、(極数P/個数N)=(6/9)=(2/3)となり、W2=W1×(2/3)となる。全長H1に対する長さH2は、磁石埋込穴27の前方側内面27Fと後方側内面27Rとの間で、永久磁石28を中心線Cに沿う方向に対して規制して適切に位置決め可能な寸法に設定される。例えば、長さH2は、H1×(1/4)~H1×(1/2)程度に設定される。W2=W1×(2/3)、H2=H1×(1/3)とした場合、実施例のように永久磁石28を切り欠いた2つの切欠き部35が占める体積は、切欠き部35を形成する前の永久磁石の体積の1/9となり、10[%]程度の体積を減らすことができる。このため、永久磁石28が切欠き部35を有することで、回転子21に用いられる永久磁石28の総使用量を削減し、電動機6の製造コストの低減を図れる。なお、永久磁石28の外形形状について、最大幅W1に対する最小幅W2の比は、上述した比率に限定されない。
【0042】
なお、回転子21が備える複数の永久磁石28は、回転子21の回転のバランスを考慮すると同一形状であることが好ましいが、外形形状や寸法が異なる複数種類の永久磁石28が用いられてもよい。
【0043】
(トルク変動のピークの移動)
回転子21の回転方向Rに対する永久磁石28の前方側に切欠き部35が形成された場合におけるトルク変動のピークの移動について説明する。
図9は、実施例の電動機6のトルクを説明するための図であり、回転子21の回転に伴うトルクの変動を示している。
図8において縦軸がトルクを示し、横軸が電気角[°]を示している。矢印aの方向は、回転子21の回転方向Rの前方側である。
【0044】
図9において、実線RTは電動機6のリラクタンストルクの変動を示している。一点鎖線MT1は、切欠き部35が形成されていない永久磁石を用いた場合のマグネットトルクの変動、すなわち、シフト前のマグネットトルクを示しており、比較例におけるマグネットトルクである。破線MT2は、回転子21の回転方向Rに対する永久磁石28の前方側に切欠き部35が形成された場合のマグネットトルクの変動、すなわち、シフト後のマグネットトルクを示しており、実施例におけるマグネットトルクである。破線CT1は、リラクタンストルク(実線RT)とシフト前のマグネットトルク(一点鎖線MT1)とを合成したシフト前の合成トルクを示している。太線CT2は、リラクタンストルク(実線RT)とシフト後のマグネットトルク(破線MT2)とを合成したシフト前の合成トルクを示しており、実施例における合成トルクである。
【0045】
図9に示すように、実施例は、破線MT2で示す実施例におけるマグネットトルクのピークが、回転子21の回転方向Rの前方側へ移動され、実線RTで示すリラクタンストルクの変動の正のピークに近づける方向へ移動される。このため、実施例は、破線CT2で示す合成トルクのピークが、破線CT1で示す合成トルクのピークよりも大きくなる。その結果、電動機6の出力を高められる。
【0046】
(永久磁石の製造工程)
上述した永久磁石28の外形形状、および
図10~
図13に基づいて、永久磁石28の製造工程を説明する。
図10に示すように、永久磁石28の製造工程では、磁性粉末を成形型の中でプレス成形することにより、厚さT方向に連続した複数の永久磁石28となる圧粉体のブロックを形成する。具体的には、
図11、
図12に示すように、複数の永久磁石28の前方側端面28Fを形成する第1成形型D1と、複数の永久磁石28の後方側端面28Rを形成する第2成形型D2を用いて、磁性粉末をプレス成形する(
図10のステップS1、S2)。第2成形型D2は、後方側端面28Rに切欠き部35を成形する成形面を有する。また、プレス成形時には、
図12に示すように、永久磁石28の厚さT方向(プレス方向に直交する方向)から圧粉体のブロックに磁界(磁場)Hを印加する(直角磁場プレス)。続いて、プレス成形後、前方側端面28F及び後方側端面28Rに直交する方向に沿って圧粉体のブロックを厚さTでスライス加工することにより、複数の永久磁石28の外形を形成する(
図10のステップS3)。そして、スライス加工された圧粉体が焼結される(
図10のステップS4)。最後に、焼結された個々の永久磁石28が着磁される(
図10のステップS5)。なお、永久磁石28への着磁は、回転子21の磁石埋込穴27へ永久磁石28を埋め込んだ後に、回転子21に対して着磁することで行ってもよい。このように永久磁石28の切欠き部35は、プレス成形によって容易に形成できる。
【0047】
なお、永久磁石28の製造工程において、プレス成形の段階で厚さTの薄い永久磁石28を個別に形成する場合、プレス成形の工数が膨大となり、複数の永久磁石28の製造コストが増大してしまう。また、スライス加工後の永久磁石28を更に加工して切欠き部35を形成する場合、多数の永久磁石28に個別に切欠き部35を形成する加工が必要になり、永久磁石28の製造コストが増大してしまう。
【0048】
そこで、本実施例では、
図11に示すように、永久磁石28の切欠き部35を、磁性粉末を圧粉体にプレス成形する段階で形成するようにした。そして、
図12に示すように、プレス成形後の圧粉体をスライス加工で厚さTの複数の永久磁石28に加工するようにした。言い換えれば、スライス加工される前の圧粉体は、切欠き部35が形成された複数の永久磁石28が厚さT方向に連続した状態である。そして、この圧粉体を厚さT方向に対して垂直にスライス加工することで、厚さTの永久磁石28が複数形成される。このとき、永久磁石28は、プレス成形の段階で切欠き部35が形成されるので、切欠き部35が形成された圧粉体を厚さTとなるようにスライスするだけで、磁石埋込穴27に埋め込まれる時点の永久磁石28の外形形状に形成することができ、複数の永久磁石28の製造を容易にすることができる。特に、実施例の永久磁石28は、厚さTが一定に形成されているので、複数の永久磁石28となる圧粉体のブロックを、互いに等間隔で平行に配置された複数のスライサー(ワイヤーソー、ブレードソー等)でスライス加工することにより、一度に厚さTが一定の複数の永久磁石28を同時に形成することが可能となり、永久磁石28の製造をさらに容易にすることができる。
【0049】
(実施例の効果)
上述したように実施例の電動機6の回転子21は、磁石埋込穴27の後方側内面27Rと、上端板29及び下端板30と、永久磁石28と、によって囲われる空隙Gを形成するように、永久磁石28の外周部に切欠き部35が形成され、内径側端面28Iと外径側端面28Oと前方側端面28Fと後方側端面28Rと上端板29と下端板30とによって、磁石埋込穴27内での永久磁石28の移動が規制される。このように永久磁石28が6方向に対してそれぞれ規制されることで、永久磁石28が磁石埋込穴27内に安定的に固定される。また、厚さTが一定の永久磁石28において後方側端面28R側に切欠き部35が形成されることにより、切欠き部35を有する永久磁石28のプレス成形が可能になり、このような永久磁石28を容易に製造できる。したがって、回転方向Rにおける前方側と後方側で磁力が異なる回転子21を備える電動機6の製造を容易にすると共に、磁石埋込穴27内で永久磁石28を安定的に固定することができる。すなわち、実施例によれば、電動機6の製造を容易にすることと、永久磁石28を安定的に固定することを両立できる。
【0050】
また、実施例の電動機6の永久磁石28の切欠き部35は、上端面28U及び下端面28Lから、後方側端面28Rにおける、回転軸3の軸方向Aの中央側に向かうに従って、前方側内面27F及び後方側内面27Rに直交する方向(中心線Cに沿う方向)に対する空隙Gが小さくなるように形成される。このように、軸方向Aにおける永久磁石28の中央部の最大幅W1が小さくならないように切欠き部35が形成されることで、永久磁石28において上端面28U側及び下端面28L側と比べて磁束の漏れが少ない、軸方向Aの中央部の磁力を有効に活用することができ、電動機6の効率の低下を抑制できる。
【0051】
また、実施例の電動機6の永久磁石28は、切欠き部35が、回転軸3の軸方向Aにおける永久磁石28の中心を通り、かつ軸方向Aに直交する中心線Cに対して、線対称に形成される。これにより、回転軸3の軸方向Aにおける永久磁石28の重心を、ロータコア26の重心に近づけて回転子21の回転動作の安定性を高められる。また、永久磁石28を磁石埋込穴27へ組み込むときの回転軸3の軸方向A(ロータコア26の上下方向)に対する永久磁石28の上下の向きの区別を不要とし、永久磁石28の組付けの作業性を高められる。
【0052】
また、実施例の電動機6において、永久磁石28の上端面28U及び下端面28Lは、前方側端面28Fと後方側端面28Rに直交する方向に沿う端面の幅の最小幅W2が、ステータコアティース部32の内周側端面32aの周方向における両端間の距離W3よりも大きい。これにより、切欠き部35の形成に伴って永久磁石28からステータコアティース部32を通過する磁束が減少することが抑えられ、電動機6の効率の低下を抑制できる。
【0053】
また、実施例の電動機6の回転子21において、上端板29及び下端板30は、磁石埋込穴27の空隙Gに進入する凸部37を有する。これにより、上端板29及び下端板30の組付け時に、磁石埋込穴27への凸部37の進入の可否により、磁石埋込穴27に向きを誤って取り付けられた永久磁石28を容易に認識できる。このため、永久磁石28の取付け不良を防ぎ、回転子21の製造不良の発生を防げる。
【0054】
また、実施例の電動機6の永久磁石28において、切欠き部35は、後方側端面28Rと上端面28Uとの角部を切り欠いて形成されると共に、後方側端面28Rと下端面28Lとの角部を切り欠いて形成される。これにより、マグネットトルクのピークを、回転方向Rの前方側へずらし、マグネットトルクの位相をリラクタンストルクの変動の正のピークに近づけることができる。その結果、マグネットトルクとリラクタンストルクとの合成トルクのピークを増大させて、電動機6の出力を高められる。
【0055】
また、実施例の電動機6の永久磁石28において、切欠き部35は、前方側端面28Fと上端面28Uとの角部を切り欠いて形成されると共に、前方側端面28Fと下端面28Lとの角部を切り欠いて形成されてもよい。これにより、回転方向Rに対して永久磁石28の前方側に比べて後方側の磁束を大きくし、マグネットトルクのピークを回転方向Rの後方側へずらして、前方側のマグネットトルクを低下させることで、回転子21の回転数を増やすことができる。