(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024018604
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】光学製品
(51)【国際特許分類】
G02B 1/115 20150101AFI20240201BHJP
G02B 5/28 20060101ALI20240201BHJP
【FI】
G02B1/115
G02B5/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022122035
(22)【出願日】2022-07-29
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 第1 電子メールによる資料の送付 (1)公開日 2021年9月9日 (2)公開手法 電子メールによる発明を記載した資料の送付 第2 Web会議 (1)公開日 2021年9月14日 (2)公開手法 Microsoft Teamsでの上記資料を用いた説明
(71)【出願人】
【識別番号】000219738
【氏名又は名称】東海光学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078721
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 喜樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124420
【弁理士】
【氏名又は名称】園田 清隆
(72)【発明者】
【氏名】杉山 喜一郎
【テーマコード(参考)】
2H148
2K009
【Fターム(参考)】
2H148GA04
2H148GA09
2H148GA11
2H148GA33
2H148GA61
2K009AA09
2K009BB02
2K009CC03
2K009CC06
2K009DD03
(57)【要約】
【課題】中赤外線の反射を防止可能であり、剥がれ及びクラックの少なくとも一方が発生する可能性が低減される光学製品を提供する。
【解決手段】光学製品1は、基材2の片面において、直接配置された光学多層膜4を備えている。光学多層膜4は、中赤外線の一部の反射を抑制する反射防止膜である。光学多層膜4は、Al
2O
3製のAl
2O
3層10と、MgF
2製のMgF
2層12と、を有している。光学多層膜4は、基材2側からAl
2O
3層10、MgF
2層12の順で配置されたペアを、3組以上有することで、全6層以上となっている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材における1以上の成膜面に対し、直接又は中間膜を介して配置された光学多層膜を備えており、
前記光学多層膜は、
中赤外線の一部又は全部の反射を抑制する反射防止膜であって、
Al2O3製のAl2O3層と、MgF2製のMgF2層と、を有しており、
前記基材側から前記Al2O3層、前記MgF2層の順で配置されたペアを、3組以上有することで、6層以上となっている
ことを特徴とする光学製品。
【請求項2】
前記光学多層膜において、2500nm以上4500nm以下の波長域における、10°での片面反射率の平均値が、10%以下である
ことを特徴とする請求項1に記載の光学製品。
【請求項3】
各前記MgF2層の物理膜厚の合計は、400nm以上である
ことを特徴とする請求項1に記載の光学製品。
【請求項4】
各前記Al2O3層の物理膜厚の合計は、100nm以下である
ことを特徴とする請求項1に記載の光学製品。
【請求項5】
前記基材は、サファイアガラス製である
ことを特徴とする請求項1に記載の光学製品。
【請求項6】
前記基材の肉厚は、1mm以下である
ことを特徴とする請求項1に記載の光学製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディスプレイ用サファイアガラスを始めとする光学製品に関する。
【背景技術】
【0002】
反射防止膜を有する光学部品として、特開2021-4985号公報(特許文献1)に記載のものが知られている。
この光学部品は、可視域から赤外域までの波長400~900nm(ナノメートル)の帯域で分光反射特性を有している。そして、実施例1~5では、ガラス製のレンズ基材に、反射防止膜として全5層又は全6層の光学多層膜が成膜されている。それらの光学多層膜は、媒質側から数えて1,3層目(全5層の場合基材側から数えて3,5層目、全6層の場合基材側から数えて4,6層目)に、MgF2製のMgF2層が配置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の光学部品では、可視域及びこれに隣接する極近赤外域(800~900nm)の赤外線において反射を防止すれば良いため、全MgF2層の物理膜厚の合計は180nm程度で足りる。
しかし、特許文献1の光学部品と異なり、1500nm以上10000nm(10μm(マイクロメートル))以下程度の中赤外域内の波長を持つ赤外線、即ち中赤外線の反射を防止する場合、反射防止膜におけるMgF2層の物理膜厚は、180nm程度では足りない。
そして、中赤外線の反射防止膜の形成のためにMgF2層の物理膜厚が増やされると、MgF2薄膜が有する引張応力の大きさはその分大きくなり、経時変化等により剥がれ及びクラックの少なくとも一方が発生する可能性が大きくなる。
特に、サファイアガラス基板等の熱膨張係数が比較的に大きい基材上に中赤外線反射用のMgF2層が形成されると、温度変化に基づく当該基材の膨張収縮により、剥がれ及びクラックの少なくとも一方が発生する可能性がより一層大きくなる。
【0005】
そこで、本発明の主な目的は、中赤外線の反射を防止可能であり、剥がれ及びクラックの少なくとも一方が発生する可能性が低減される光学製品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書は、光学製品を開示する。この光学製品は、基材における1以上の成膜面に対し、直接又は中間膜を介して配置された光学多層膜を備えている。光学多層膜は、中赤外線の一部又は全部の反射を抑制する反射防止膜であっても良い。光学多層膜は、Al2O3製のAl2O3層と、MgF2製のMgF2層と、を有していても良い。光学多層膜は、基材側からAl2O3層、MgF2層の順で配置されたペアを、3組以上有することで、6層以上となっていても良い。
【発明の効果】
【0007】
本発明の主な効果は、中赤外線の反射を防止可能であり、剥がれ及びクラックの少なくとも一方が発生する可能性が低減される光学製品が提供されることである。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施形態に係る光学製品の模式的な断面図である。
【
図2】実施例1~2及び比較例1~4に係る、中赤外域内の所定域(2300nm以上5300nm以下)における片面反射率分布を示すグラフである。
【
図3】比較例1に係る、拡大観察試験で得られた画像を白黒化した画像である。
【
図4】比較例2に係る、拡大観察試験で得られた画像を白黒化した画像である。
【
図5】比較例3に係る、拡大観察試験で得られた画像を白黒化した画像である。
【
図6】比較例4に係る、拡大観察試験で得られた画像を白黒化した画像である。
【
図7】実施例1に係る、拡大観察試験で得られた画像を白黒化した画像である。
【
図8】実施例2に係る、拡大観察試験で得られた画像を白黒化した画像である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明に係る実施の形態の例が説明される。本発明は、以下の形態に限定されない。
【0010】
図1に示されるように、上記形態の光学製品1では、基材2の1以上の面(成膜面M)に対し、光学多層膜4が、直接又は間接的に形成されている。
本発明において、基材2はどのような材質であっても良い。又、基材2は、好ましくは透光性を有する。更に、基材2は、好ましくは板状(基板)である。
基材2の材料は、好ましくはガラスあるいはプラスチックである。
ガラスとして、例えばフロートガラス、青板ガラス、白板ガラス、サファイアガラス、若しくは風冷あるいはイオン交換等による強化ガラス、又は複層ガラス、若しくは合わせガラス等が用いられ、好ましくはサファイアガラスが用いられる。
プラスチックとして、好ましくは熱硬化性樹脂が用いられ、例えばポリウレタン樹脂、チオウレタン樹脂、エピスルフィド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリ4-メチルペンテン-1樹脂、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート樹脂、あるいはこれらの組合せが用いられる。
【0011】
光学多層膜4は、適宜下記の特徴を有する。光学多層膜4は、複数形成される場合、好ましくは何れの膜も下記の特徴を有し、更に好ましくは何れの膜も同一の積層構造となるようにする。尚、複数の光学多層膜4のうちの一部が下記の特徴を有し、残部が下記の特徴を有していなくても良い。又、光学多層膜4は、板状の基材2の両面に形成されても良い。
【0012】
即ち、光学多層膜4は、中赤外線の反射を防止する反射防止膜である。
光学多層膜4は、例えば、中赤外域中、2500nm以上4500nm以下の波長域における、10°での片面反射率の平均値が、第1所定値以下であるように形成されている。第1所定値は、例えば10%、8%、6%、5%、3%、2%、1%の何れかである。当該波長域の下限は、2300nm、2400nm、2600nm、2700nm、2800nmの何れかであっても良い。当該波長域の上限は、4000nm、4200nm、4400nm、4600nm、4800nm、5000nm、5200nm、5300nmの何れかであっても良い。
【0013】
光学多層膜4は、Al2O3製のAl2O3層10と、MgF2製のMgF2層12と、を交互に有する。1つのAl2O3層10が、最も基材2側に配置される。光学多層膜4における最も基材2側の層がAl2O3層10であるため、この層に隣接する基材2又は中間膜に対する密着性が、MgF2層12である場合に比べ向上する。
光学多層膜4は、全部で6層以上となっている。光学多層膜4は、Al2O3層10とMgF2層12のペアを、3組以上有している。これらのペアにおいて、Al2O3層10がMgF2層12より空気側に配置される。これらのペアは、基材2側から空気側へ順に積層される。
尚、一部又は全部のペアにおいて、Al2O3層10及びMgF2層12の少なくとも一方同士の物理膜厚が互いに相違していても良い。少なくとも何れか2つのペアの間に、別種の1層以上の膜が挿入されても良い。
【0014】
光学多層膜4におけるMgF2層12の物理膜厚の合計は、中赤外線の反射を防止する観点から、第2所定値以上であることが好ましい。第2所定値は、例えば400nm、450nm、500nm、550nm、600nmの何れかである。
【0015】
光学多層膜4におけるAl2O3層10の物理膜厚の合計は、各MgF2層12を区切りつつ、主に各MgF2層12により得られる中赤外線の反射防止作用をなるべく妨げないようにする観点から、好ましくは、第3所定値以下であることが好ましい。第3所定値は、例えば100nm、90nm、80nm、70nm、60nm、50nmの何れかである。
各MgF2層12は、Al2O3層10で区切られることにより、区切れられない場合に比べ、引張応力が減少する。よって、各MgF2層12の引張応力に起因する剥がれ及びクラックの少なくとも一方等の発生が抑制され、光学多層膜4の耐久性が向上する。
特に、ディスプレイ用サファイアガラス等において、基材2の肉厚を第4所定値以下と薄くするような要求が存在する場合、基材2の肉厚が薄くその分基材2自体の剛性が小さいことでより剥がれ及びクラックの少なくとも一方等の発生の可能性が上昇するところ、光学多層膜4は、Al2O3層10で区切られた各MgF2層12の構造を有するため、かような薄い基材2においても剥がれ及びクラックの少なくとも一方等の発生を抑制可能であり、耐久性を向上可能である。第4所定値は、例えば1mm(ミリメートル)、0.8mm、0.5mm、0.4mm、0.3mm、0.2mmの何れかである。
又、ディスプレイ用サファイアガラス等において、基材2の材質をサファイアガラス等の熱膨張係数が比較的に大きいものとする要求が存在する場合、温度変化に基づく基材2の膨張収縮により剥がれ及びクラックの少なくとも一方が発生する可能性が上昇するところ、光学多層膜4は、Al2O3層10で区切られた各MgF2層12の構造を有するため、かような熱膨張係数が比較的に大きい基材2においても、剥がれ及びクラックの少なくとも一方等の発生を抑制可能であり、耐久性を向上可能である。
【0016】
Al2O3層10及びMgF2層12は、例えば物理蒸着により形成され、より詳しくは真空蒸着法あるいはイオンアシスト蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタ法等により形成される。
Al2O3層10及びMgF2層12は、より容易に形成する観点から、好ましくは蒸着により形成される。即ち、基材2における成膜面Mに、Al2O3層10及びMgF2層12が順次蒸着される。尚、Al2O3層10の製法とMgF2層12の製法とは、互いに異なっていても良い。例えば、Al2O3層10が蒸着で形成され、MgF2層12がスパッタで形成されても良い。
【0017】
光学製品1において、光学多層膜4と基材2の間に中間膜が配置されても良い。即ち、光学多層膜4は、成膜面Mに、中間膜を介して形成されても良い。中間膜は、例えばハードコート膜である。
又、光学製品1において、中間膜に代えて、あるいは中間膜と共に、光学多層膜4の表面に表層膜が配置されても良い。表層膜は、例えば防汚膜(撥水膜・撥油膜)である。
尚、光学多層膜4が複数形成される場合、中間膜及び表層膜の少なくとも一方における、設置の有無及び設置される場合の膜構造は、一部の光学多層膜4と他の光学多層膜4とで互いに異なっていても良い。
【実施例0018】
次いで、本発明の実施例1~2、及び本発明に属さない比較例1~4が、適宜図面を用いて説明される。
尚、本発明は、以下の実施例に限定されない。又、本発明の捉え方により、下記の実施例が実質的には比較例となったり、実施例に属さない下記の比較例が実質的には実施例となったりすることがある。
【0019】
≪比較例1の構成等≫
比較例1の基材2は、板状のサファイアガラスである。比較例1の基材2の表裏両面は、半径25.4mm、中心角90°の扇形である。比較例1の基材2の肉厚は、0.39mmである。
比較例1の基材2の表面が、成膜面Mである。その成膜面Mには、光学膜が、真空蒸着により形成されている。比較例1の光学膜は、単一層の膜であり、MgF2製のMgF2膜である。比較例1のMgF2膜の物理膜厚は、中赤外線の反射を防止する観点から、680nmとされている。
尚、比較例1の基材2の裏面には、何れの膜も形成されていない。
【0020】
≪比較例2の構成等≫
比較例2の基材2は、比較例1と同じである。
比較例2の基材2の表面には、光学多層膜が、真空蒸着により形成されている。比較例2の光学多層膜は、全2層の膜であり、基材2側から数えて(以下別途言及のない限り同様)1層目の層は、Al2O3製のAl2O3層であり、2層目の層は、MgF2製のMgF2層である。
比較例2のAl2O3層の物理膜厚は、80nmとされている。
比較例2のMgF2層の物理膜厚は、Al2O3層を有しつつ中赤外線の反射を防止する観点から、646nmとされている。
【0021】
≪比較例3の構成等≫
比較例3の基材2は、比較例1と同じである。
比較例3の基材2の表面には、光学多層膜が、真空蒸着により形成されている。比較例3の光学多層膜は、全2層の膜であり、1層目の層は、SiO2製のSiO2層であり、2層目の層は、MgF2製のMgF2層である。
比較例3のSiO2層の物理膜厚は、160nmとされている。
比較例3のMgF2層の物理膜厚は、SiO2層を有しつつ中赤外線の反射を防止する観点から、566nmとされている。
【0022】
≪比較例4の構成等≫
比較例4の基材2は、比較例1と同じである。
比較例4の基材2の表面には、光学多層膜が、真空蒸着により形成されている。比較例4の光学多層膜は、全4層の膜であり、1,3層目の層は、Al2O3製のAl2O3層であり、2,4層目の層は、MgF2製のMgF2層である。
比較例4の各Al2O3層の物理膜厚は、15nmとされている。
比較例4の各MgF2層の物理膜厚は、330nmとされている。比較例4のMgF2層の物理膜厚の合計は、各Al2O3層を有しつつ中赤外線の反射を防止する観点から、660nmとされている。
【0023】
≪実施例1の構成等≫
実施例1の基材2は、比較例1と同じである。
実施例1の基材2の表面には、光学多層膜4が、真空蒸着により形成されている。実施例1の光学多層膜4は、全8層の膜であり、1,3,5,7層目の層は、Al2O3製のAl2O3層10であり、2,4,6,8層目の層は、MgF2製のMgF2層12である。
実施例1の各Al2O3層10の物理膜厚は、15nmとされている。
実施例1の各MgF2層12の物理膜厚は、157.5nmとされている。実施例1のMgF2層12の物理膜厚の合計は、各Al2O3層を有しつつ中赤外線の反射を防止する観点から、630nmとされている。
【0024】
≪実施例2の構成等≫
実施例2の基材2は、比較例1と同じである。
実施例2の基材2の表面には、光学多層膜4が、真空蒸着により形成されている。実施例2の光学多層膜4は、全6層の膜であり、1,3,5層目の層は、Al2O3製のAl2O3層10であり、2,4,6層目の層は、MgF2製のMgF2層12である。
実施例2の各Al2O3層10の物理膜厚は、15nmとされている。
実施例2の各MgF2層12の物理膜厚は、215nmとされている。実施例2のMgF2層12の物理膜厚の合計は、各Al2O3層を有しつつ中赤外線の反射を防止する観点から、645nmとされている。
比較例1~4の膜構造が、次の[表1]の上部に示される。実施例1~2の膜構造が、次の[表2]の上部に示される。[表1]及び[表2]における膜厚(nm)は、物理膜厚である。
【0025】
【0026】
【0027】
≪中赤外線の反射防止等≫
図2は、実施例1~2及び比較例1~4に係る、中赤外域内の所定域(2300nm以上5300nm以下)における、10°での片面(光学多層膜4の成膜面M)の反射率分布を示すグラフである。尚、
図2には、参考のため、実施例1~2及び比較例1~4に共通する、光学膜あるいは光学多層膜4を成膜する前のサファイアガラス製の板状の基材2(サファイア基板)の片面反射率分布が、併せて示される。
実施例1~2及び比較例1~4では何れも、当該所定域の全域で反射率が5%以下であり、特に3000nm以上4300nm以下の領域では反射率が1%以下である。又、2500nm以上4500nm以下の波長域における、10°での片面反射率の平均値が、4%以下である。よって、実施例1~2及び比較例1~4では何れも、中赤外線の反射防止膜となっている。
【0028】
≪耐久性等≫
実施例1~2及び比較例1~4について、それぞれ耐久性に関する3つの試験がなされた。
1つは密着試験であり、もう1つは超音波洗浄試験であり、更にもう1つは拡大観察試験である。
【0029】
密着試験は、次のように行われた。光学多層膜4に対する面接着テープ(スリーエムジャパン株式会社製ポリエステル電気絶縁テープ「No.56」)の付着及び勢いのある剥離が行われた。そして、剥がれが確認された場合、密着試験の評価が「×」とされた。又、剥がれが確認されなかった場合、密着試験の評価が「〇」とされた。
【0030】
超音波洗浄試験は、超音波洗浄機を用いて行われた。即ち、試験対象が、超音波洗浄機により、3回の洗浄動作、投入、搬送、乾燥を含めて30分間洗浄された。洗浄動作時の洗浄機の出力及び時間は、1回目において28kHz(キロヘルツ)及び240秒間、2回目において39kHz及び160秒間、3回目において100kHz及び80秒間であった。そして、洗浄後に膜の剥がれが確認された場合、超音波洗浄試験の評価が「×」とされた。又、膜の剥がれが確認されなかった場合、超音波洗浄試験の評価が「〇」とされた。
【0031】
拡大観察試験は、超音波洗浄前後の試験対象の膜表面を、暗視野顕微鏡により、500倍に拡大した状態で観察して行われた。観察時、試験対象の膜表面を拡大した画像が取得された。そして、クラックが確認された場合、拡大観察試験の評価が「×」とされた。又、クラックが確認されなかった場合、拡大観察試験の評価が「〇」とされた。
【0032】
上記[表1]の下部及び[表2]の下部に、密着試験(試験1)、超音波洗浄試験(試験2)、及び拡大観察試験(試験3)の結果が示される。
【0033】
密着試験において、比較例1で剥がれが生じ(×)、他では剥がれは生じなかった(〇)。
【0034】
超音波洗浄試験において、比較例1で剥がれが生じた(×)。他では剥がれ及びクラックは生じなかった(〇)。
【0035】
拡大観察試験において、
図3に示されるように、比較例1では、ハニカム状のクラックが観察された(×)。即ち、比較例1では、ハニカム状のマイクロクラックが発生していた。
又、
図4,
図5に示されるように、比較例2,3では、それぞれランダムな編み目状のクラックが観察された(×)。即ち、比較例2,3では、それぞれランダムな編み目状に広がったマイクロクラックが発生していた。
更に、
図6に示されるように、比較例4では、一部に小枝状のクラックが観察された(×)。即ち、比較例4では、小枝状のマイクロクラックが一部に発生していた。
これに対し、拡大観察試験において、
図7,
図8に示されるように、実施例1,2ではの双方で、クラックは確認されなかった(〇)。
【0036】
≪まとめ等≫
比較例1は、基材2の片面(成膜面M)に対し直接配置された光学膜を備えている。光学膜は、中赤外線の一部の反射を抑制する反射防止膜である。光学膜は、MgF2製のMgF2層12を1層有している。
比較例2は、基材2の片面(成膜面M)に対し直接配置された光学多層膜を備えている。光学多層膜は、中赤外線の一部の反射を抑制する反射防止膜である。光学多層膜は、Al2O3製のAl2O3層10と、MgF2製のMgF2層12と、を有している。光学多層膜は、基材2側からAl2O3層10、MgF2層12の順で配置されたペアを、1組有することで、全2層となっている。
比較例3は、基材2の片面(成膜面M)に対し直接配置された光学多層膜を備えている。光学多層膜は、中赤外線の一部の反射を抑制する反射防止膜である。光学多層膜は、SiO2製のSiO2層と、MgF2製のMgF2層12と、を有している。光学多層膜は、基材2側からSiO2層、MgF2層12の順で配置されたペアを、1組有することで、全2層となっている。
比較例4は、基材2の片面に(成膜面M)に対し直接配置された光学多層膜を備えている。光学多層膜は、中赤外線の一部の反射を抑制する反射防止膜である。光学多層膜は、Al2O3製のAl2O3層10と、MgF2製のMgF2層12と、を有している。光学多層膜は、基材2側からAl2O3層10、MgF2層12の順で配置されたペアを、2組有することで、全4層となっている。
比較例1~4では、何れも、少なくとも超音波洗浄後にマイクロクラックが発生しており、耐久性に向上の余地が存在する。
【0037】
これに対し、実施例1は、基材2の片面(成膜面M)に対し直接配置された光学多層膜4を備えている。光学多層膜4は、中赤外線の一部の反射を抑制する反射防止膜である。光学多層膜4は、Al2O3製のAl2O3層10と、MgF2製のMgF2層12と、を有している。光学多層膜4は、基材2側からAl2O3層10、MgF2層12の順で配置されたペアを、4組有することで、全8層となっている。
又、実施例2は、基材2の片面(成膜面M)に対し直接配置された光学多層膜4を備えている。光学多層膜4は、中赤外線の一部の反射を抑制する反射防止膜である。光学多層膜4は、Al2O3製のAl2O3層10と、MgF2製のMgF2層12と、を有している。光学多層膜4は、基材2側からAl2O3層10、MgF2層12の順で配置されたペアを、3組有することで、全6層となっている。
よって、実施例1,2では、中赤外線の反射が防止され、剥がれ及びクラックの少なくとも一方が発生する可能性が低減される。
【0038】
又、実施例1,2では、光学多層膜4において、2500nm以上4500nm以下の波長域における、10°での片面反射率の平均値が、10%以下である。更に、実施例1,2では、各MgF2層12の物理膜厚の合計は、400nm以上である。よって、実施例1,2では、中赤外線の反射が十分に防止される。
又更に、実施例1,2では、各Al2O3層10の物理膜厚の合計は、100nm以下である。よって、実施例1,2では、各MgF2層12を区切ることで十分な耐久性が得られ、又主に各MgF2層12により得られる中赤外線の反射防止作用への影響が、十分に抑制される。
加えて、実施例1,2では、基材2は、サファイアガラス製である。よって、熱膨張係数が比較的に大きい基材2において、耐久性が十分に得られる。
又、実施例1,2では、基材2の肉厚は、1mm以下である。よって、比較的に薄く剛性の小さい基材2において、耐久性が十分に得られる。