(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024018621
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】診断支援装置及び診断支援方法
(51)【国際特許分類】
G01M 99/00 20110101AFI20240201BHJP
F16K 51/00 20060101ALI20240201BHJP
【FI】
G01M99/00 Z
F16K51/00 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022122057
(22)【出願日】2022-07-29
(71)【出願人】
【識別番号】000006666
【氏名又は名称】アズビル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 史明
(72)【発明者】
【氏名】田中 雅人
【テーマコード(参考)】
2G024
3H066
【Fターム(参考)】
2G024AA16
2G024BA22
2G024BA27
2G024CA16
2G024CA30
3H066AA01
3H066BA38
(57)【要約】
【課題】バルブの診断における閾値を適切に設定すること。
【解決手段】診断支援装置は、動作実績バルブのタイプ及び仕様と、動作実績バルブが扱う流体の情報と、動作実績バルブの診断の閾値とを対応付けて記憶し、診断対象バルブのタイプ及び仕様と、診断対象バルブが扱う流体の情報とを対応付けて記憶し、診断対象バルブのタイプ及び仕様と、動作実績バルブのタイプ及び仕様を照合し、一致又は類似する場合の照合結果を抽出し、診断対象バルブが扱う流体の情報と、動作実績バルブが扱う流体の情報とを照合し、一致あるいは類似する場合の照合結果を抽出し、抽出された照合結果のうち、少なくとも最も一致あるいは類似と扱える照合結果に基づき診断対象バルブの診断の閾値を決定し、決定された閾値を提示する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
動作実績のある動作実績バルブのタイプ及び仕様と、前記動作実績バルブが扱う流体の情報と、前記動作実績バルブの診断の閾値とを対応付けて記憶する動作実績情報記憶部と、
診断対象となる診断対象バルブのタイプ及び仕様と、前記診断対象バルブが扱う流体の情報とを対応付けて記憶する診断対象情報記憶部と、
前記診断対象バルブのタイプ及び仕様と、前記動作実績バルブのタイプ及び仕様を照合し、一致又は類似する場合の照合結果を抽出するバルブ照合抽出部と、
前記診断対象バルブが扱う流体の情報と、前記動作実績バルブが扱う流体の情報とを照合し、一致あるいは類似する場合の照合結果を抽出する流体照合抽出部と、
前記バルブ照合抽出部で抽出され、かつ前記流体照合抽出部で抽出された照合結果のうち、少なくとも最も一致あるいは類似と扱える照合結果に基づき前記診断対象バルブの診断の閾値を決定する閾値決定部と、
決定された前記閾値を提示する閾値提示部と
を備える診断支援装置。
【請求項2】
前記閾値決定部は、前記バルブ照合抽出部で抽出された第1照合結果の第1閾値と、前記流体照合抽出部で抽出された第2照合結果の第2閾値とを所定の閾値算出式に入力し、前記閾値算出式で算出された値を前記診断対象バルブの閾値として出力する
請求項1に記載の診断支援装置。
【請求項3】
前記診断の閾値として、バルブの内弁損傷の診断に関する閾値を含む
請求項1又は請求項2に記載の診断支援装置。
【請求項4】
前記診断の閾値として、バルブのヒートサイクル劣化の診断に関する閾値を含む
請求項1又は請求項2に記載の診断支援装置。
【請求項5】
動作実績のある動作実績バルブのタイプ及び仕様と、前記動作実績バルブが扱う流体の情報と、前記動作実績バルブの診断の閾値とを対応付けて記憶する動作実績情報記憶ステップと、
診断対象となる診断対象バルブのタイプ及び仕様と、前記診断対象バルブが扱う流体の情報とを対応付けて記憶する診断対象情報記憶ステップと、
前記診断対象バルブのタイプ及び仕様と、前記動作実績バルブのタイプ及び仕様を照合し、一致又は類似する場合の照合結果を抽出するバルブ照合抽出ステップと、
前記診断対象バルブが扱う流体の情報と、前記動作実績バルブが扱う流体の情報とを照合し、一致あるいは類似する場合の照合結果を抽出する流体照合抽出ステップと、
前記バルブ照合抽出部で抽出され、かつ前記流体照合抽出部で抽出された照合結果のうち、少なくとも最も一致あるいは類似と扱える照合結果に基づき前記診断対象バルブの診断の閾値を決定する閾値決定ステップと、
決定された前記閾値を提示する閾値提示ステップと
を含む診断支援方法。
【請求項6】
前記閾値決定ステップは、前記バルブ照合抽出部で抽出された第1照合結果の第1閾値と、前記流体照合抽出部で抽出された第2照合結果の第2閾値とを所定の閾値算出式に入力し、前記閾値算出式で算出された値を前記診断対象バルブの閾値として出力する
請求項5に記載の診断支援方法。
【請求項7】
前記診断の閾値として、バルブの内弁損傷の診断に関する閾値を含む
請求項5又は請求項6に記載の診断支援方法。
【請求項8】
前記診断の閾値として、バルブのヒートサイクル劣化の診断に関する閾値を含む
請求項5又は請求項6に記載の診断支援方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、診断支援装置及び診断支援方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石油化学プラント等で使用されるバルブは、特に安全性に留意する必要があり、ゆえに定期的なメンテナンスが行なわれる。バルブのメンテナンス作業効率を改善するために、例えばバルブを診断する際の診断指標としてダイヤフラムの硬化指標(特許文献1参照)を用いる手法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のようなバルブの診断においては、指標に対する閾値を適宜設定する。この閾値は、バルブのメンテナンス判断の精度に影響する。そのため、より適切な閾値を設定することが求められている。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、バルブの診断における閾値を適切に設定することが可能な診断支援装置及び診断支援方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願に係る診断支援装置は、動作実績のある動作実績バルブのタイプ及び仕様と、動作実績バルブが扱う流体の情報と、動作実績バルブの診断の閾値とを対応付けて記憶する動作実績情報記憶部と、診断対象となる診断対象バルブのタイプ及び仕様と、診断対象バルブが扱う流体の情報とを対応付けて記憶する診断対象情報記憶部と、診断対象バルブのタイプ及び仕様と、動作実績バルブのタイプ及び仕様を照合し、一致又は類似する場合の照合結果を抽出するバルブ照合抽出部と、診断対象バルブが扱う流体の情報と、動作実績バルブが扱う流体の情報とを照合し、一致あるいは類似する場合の照合結果を抽出する流体照合抽出部と、バルブ照合抽出部で抽出され、かつ流体照合抽出部で抽出された照合結果のうち、少なくとも最も一致あるいは類似と扱える照合結果に基づき診断対象バルブの診断の閾値を決定する閾値決定部と、決定された閾値を提示する閾値提示部とを備える。
【0007】
上記診断支援装置において、閾値決定部は、バルブ照合抽出部で抽出された第1照合結果の第1閾値と、流体照合抽出部で抽出された第2照合結果の第2閾値とを所定の閾値算出式に入力し、閾値算出式で算出された値を診断対象バルブの閾値として出力する。
【0008】
上記診断支援装置は、診断の閾値として、バルブの内弁損傷の診断に関する閾値を含む。
【0009】
上記診断支援装置は、診断の閾値として、バルブのヒートサイクル劣化の診断に関する閾値を含む。
【0010】
本願に係る診断支援方法は、動作実績のある動作実績バルブのタイプ及び仕様と、動作実績バルブが扱う流体の情報と、動作実績バルブの診断の閾値とを対応付けて記憶する動作実績情報記憶ステップと、診断対象となる診断対象バルブのタイプ及び仕様と、診断対象バルブが扱う流体の情報とを対応付けて記憶する診断対象情報記憶ステップと、診断対象バルブのタイプ及び仕様と、動作実績バルブのタイプ及び仕様を照合し、一致又は類似する場合の照合結果を抽出するバルブ照合抽出ステップと、診断対象バルブが扱う流体の情報と、動作実績バルブが扱う流体の情報とを照合し、一致あるいは類似する場合の照合結果を抽出する流体照合抽出ステップと、バルブ照合抽出部で抽出され、かつ流体照合抽出部で抽出された照合結果のうち、少なくとも最も一致あるいは類似と扱える照合結果に基づき診断対象バルブの診断の閾値を決定する閾値決定ステップと、決定された閾値を提示する閾値提示ステップとを含む。
【0011】
上記診断支援方法において、閾値決定ステップは、バルブ照合抽出部で抽出された第1照合結果の第1閾値と、流体照合抽出部で抽出された第2照合結果の第2閾値とを所定の閾値算出式に入力し、閾値算出式で算出された値を診断対象バルブの閾値として出力する。
【0012】
上記診断支援方法は、診断の閾値として、バルブの内弁損傷の診断に関する閾値を含む。
【0013】
上記診断支援方法は、診断の閾値として、バルブのヒートサイクル劣化の診断に関する閾値を含む。
【発明の効果】
【0014】
上記した診断支援装置及び診断支援方法によれば、診断対象バルブのタイプ及び仕様と、動作実績バルブのタイプ及び仕様が照合されると共に、診断対象バルブが扱う流体の情報と、動作実績バルブが扱う流体の情報とが照合され、両者が一致あるいは類似と扱える場合に、照合結果に基づいて、診断対象バルブの診断の閾値が決定されるため、バルブの診断における閾値を適切に設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、本実施形態において閾値を設定する対象となるバルブの一例を示す図である。
【
図2】
図2は、バルブの内弁部分の一例を示す図である。
【
図3】
図3は、本実施形態に係る診断支援装置を備える設備の一例を模式的に示す図である。
【
図4】
図4は、本実施形態に係る診断支援装置の一例を示す機能ブロック図である。
【
図5】
図5は、動作実績情報及び診断対象情報の一例を示す図である。
【
図6】
図6は、本実施形態に係る診断支援装置の動作の流れの一例を示すフローチャートである。
【
図7】
図7は、閾値の提示態様の一例を示す図である。
【
図8】
図8は、診断支援装置のハードウェア構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、実施の形態について図面を参照して説明する。なお、以下の説明において、各実施の形態において共通する構成要素には同一の参照符号を付し、繰り返しの説明を省略する。
【0017】
[原理]
バルブの診断においては、各種指標に対する閾値を適宜設定する。閾値を設定する対象となるバルブは、動作実績が少ないことが想定され、ゆえに閾値の適切さを判断することが困難となる。したがって、閾値設定の対象となるバルブと同様タイプ、同仕様であって動作実績のあるバルブ(閾値設定済みのバルブ)のデータや情報を利用することで、少なくとも初期の頃の閾値設定の妥当性を向上させることができる。
【0018】
このとき、バルブの液体接触側の損傷として、内弁損傷(エロージョンやコロージョン)があることに発明者は着眼した。すなわち、バルブのタイプ及び仕様に加え、バルブが扱う流体の類似性を考慮するべきであり、バルブの選定判断に当該バルブが扱う流体の類似性を取り入れることにより、閾値の適切さを向上させられることに想到した。
【0019】
診断の内容に応じて、バルブの扱う流体の類似性を考慮するべきであることについて、代表例として内弁損傷(流体粘度、異物割合の影響)及びヒートサイクル(温度差、熱容量の影響)に関して説明する。
【0020】
[バルブの例について]
図1は、本実施形態において閾値を設定する対象となるバルブ2の一例を示す図である。
図2は、バルブ2の内弁部分の一例を示す図である。
図1及び
図2に示すバルブ2は、開度を連続的に変化させることが可能なコントロールバルブである。バルブ2は、バルブ本体201と、ポジショナ202と、操作器203とを備える。操作器203は、ポジショナ202から供給される空気出力圧Poに応じてステム204を上下動させることで、バルブの開度(弁体とシートリングとの間隔)を調整する。
【0021】
図1に示すように、グランド部208は、ステム204を摺動可能に保持する。グランド部208には、グランドパッキン209が設けられる。グランドパッキン209は、弁箱210の上部に設けられたボンネット211の内壁とステム204との隙間を塞ぐように設けられる。グランドパッキン209は、弁箱210の内部の流体が、当該ボンネット211とステム204との隙間から漏れることを防止する。
【0022】
ステム204の先端部には、弁体(プラグ)205が設けられる。弁箱210の流入口212と流出口213との間には、隔壁214が配置される。隔壁214には、シートリング206が設けられる。プラグ205がシートリング206のシート面に着座すると、バルブ2が全閉状態となる。プラグ205がシートリング206のシート面から離れると、プラグ205とシートリング206との隙間を通って流体が流出口213側に流れるようになっている。このプラグ205とシートリング206とにより内弁が構成される。
【0023】
[内弁損傷について]
内弁の損傷として、プラグ205のエロージョンが発生すると、接液面積が広がるので、特定の開度において正常時よりも流体反力(バルブ2を開く方向に作用する力)を大きく受けやすくなる。また、内弁の損傷として、シートリング206のエロージョンが発生すると、ポート径が広がるので、やはり特定の開度において正常時よりも流体反力(バルブ2を開く方向に作用する力)を大きく受けやすくなる。このように、流体反力に変化が生じると、バルブ開度調整のフィードバック制御特性に変化が生じるので、ハンチングなどの不具合に繋がる。フィードバック制御特性の変化として、例えば開度整定時の操作器空気圧計測値の再現性が診断指標として利用可能であり、基準圧力値からのずれ量に閾値(例:±1.0%)を設定して判定する方法が考えられる。
【0024】
[ヒートサイクル劣化について]
バルブが高温の流体の流量制御を扱う場合、バルブ2が全閉になると特に流体の出口側で高温流体の熱影響が低下することによる温度下降が発生する。そして、これによる高温と低温の状態が頻繁に発生するほど、実質的なヒートサイクルによる部品劣化が進行しやすくなり、例えばシートリング206の緩みによるゼロ点推移という不具合に繋がる。
【0025】
バルブ2の出口側の温度計測値について、規定された温度変化率(例:±5℃/秒)を超えて温度上昇または温度下降したことが観測されたときにおける直近の最低温度と最高温度の差(例:温度差312℃)の積算値が診断指標として利用可能であり、その積算値に閾値(例:3000000℃)を設定して判定する方法が考えられる。
【0026】
[実施の形態]
本願の実施の形態について説明する。
図3は、本実施形態に係る診断支援装置100を備える設備の一例を模式的に示す図である。
図3に示すように、診断支援装置100は、設備1に設けられるバルブ2の診断の閾値を設定する。診断支援装置100のハードウェア構成については、後述する。設備1は、例えば石油化学プラント等に設けられ、所定の流体のプロセスを扱う。設備1は、流体を収容するタンク3を含む。タンク3には、流体が流れる配管4が接続される。設備1は、不図示のスチームトレース等により加熱される構成であってもよい。配管4には、1つ以上のバルブ2が設けられる。バルブ2としては、例えば上記したコントロールバルブ等が用いられる。
【0027】
図4は、本実施形態に係る診断支援装置100の一例を示す機能ブロック図である。
図4に示すように、診断支援装置100は、動作実績情報記憶部10と、診断対象情報記憶部20と、バルブ照合抽出部30と、流体照合抽出部40と、閾値決定部50と、閾値提示部60とを備える。
【0028】
動作実績情報記憶部10は、動作実績のあるバルブ2である動作実績バルブのタイプ及び仕様と、動作実績バルブが扱う流体の情報と、動作実績バルブの診断の閾値とを対応付けて記憶する。以下、動作実績情報記憶部10に記憶される情報を動作実績情報と表記する場合がある。動作実績バルブは、既に適切な閾値が設定され、配管4に設けられて使用された実績のあるバルブ2である。
【0029】
診断対象情報記憶部20は、診断対象となるバルブ2である診断対象バルブのタイプ及び仕様と、診断対象バルブが扱う流体の情報とを対応付けて記憶する。以下、診断対象情報記憶部20に記憶される情報を診断対象情報と表記する場合がある。診断対象バルブは、例えば閾値が初期設定の値であり、これから適切な閾値を設定しようする対象となるバルブ2である。
【0030】
上記した動作実績バルブ及び診断対象バルブについて、バルブのタイプ及び仕様としては、例えば弁形式、接続口径、圧力定格、接続形式、使用温度範囲、シートリーク性能、CV値範囲、レンジアビリティ等の項目が挙げられる。また、バルブが扱う流体の情報としては、例えば流体の種類、最大温度変化率、最大温度差、最大流速等の項目が挙げられる。また、診断の閾値については、例えば内弁損傷の診断に関する閾値として、基準圧力値からのずれ量を示す圧力ずれ量閾値等が挙げられる。また、例えばヒートサイクル劣化の診断に関する閾値として、例えば温度差の積算を示す温度差積算閾値等が挙げられる。
【0031】
バルブ照合抽出部30は、診断対象バルブのタイプ及び仕様と、動作実績バルブのタイプ及び仕様を照合し、一致又は類似するか否かを判定する。バルブ照合抽出部30は、照合において一致又は類似すると判定した場合の照合結果を抽出する。バルブのタイプ及び仕様の類似性については、単純な名称や表現の類似に限られず、バルブの専門知識等に基づいて適宜類似性を判定することができる。なお、バルブのタイプ及び仕様の類似性については、予め数値等で設定しておくことができる。
【0032】
流体照合抽出部40は、診断対象バルブが扱う流体の情報と、動作実績バルブが扱う流体の情報とを照合し、一致又は類似するか否かを判定する。流体照合抽出部40は、照合において一致あるいは類似する場合の照合結果を抽出する。流体の情報の類似性については、例えば数値データであれば単純な数値の近さに限られず、正規化された数値により類似性を判定することができる。
【0033】
閾値決定部50は、バルブ照合抽出部30で抽出され、かつ流体照合抽出部40で抽出された照合結果のうち、少なくとも最も一致あるいは類似と判定した場合の照合結果に基づき診断対象バルブの診断の閾値を決定する。閾値の決定方法として、例えばタイプ及び仕様の照合で最も一致あるいは類似とされた場合の閾値と、流体の照合で最も一致あるいは類似とされた場合の閾値との単純平均、加重平均等とすることができる。
【0034】
閾値決定部50は、例えばバルブ照合抽出部30で抽出された第1照合結果の第1閾値と、流体照合抽出部40で抽出された第2照合結果の第2閾値とを所定の閾値算出式に入力し、閾値算出式で算出された値を診断対象バルブの閾値として出力することができる。
【0035】
この場合、閾値算出式としては、例えば単純平均を求める式、すなわち、
(閾値)=(第1閾値+第2閾値)/2 ・・・(式1)
が挙げられる。
【0036】
また、閾値算出式としては、例えば加重平均を求める式、すなわち、
(閾値)=(X・第1閾値+Y・第2閾値)/(X+Y) ・・・(式2)
が挙げられる。
【0037】
閾値算出式については、上記式1、式2に限定されず、他の種類の算出式が用いられてもよい。
【0038】
なお、閾値決定部50は、最も一致あるいは類似と判定した場合の照合結果に限られず、例えば類似と判定された照合結果が複数存在する場合、上位の複数の照合結果に基づいて閾値を決定してもよい。
【0039】
閾値提示部60は、決定された閾値を提示する。閾値提示部60は、例えば設備1のコントロールセンター等に設けられる表示部5等に閾値を表示することにより、オペレータが閲覧可能となる。閾値提示部60は、閾値を決定した根拠となるタイプ及び仕様の照合結果や、流体の情報の照合結果を併せて表示させてもよい。
【0040】
次に、上記のように構成される診断支援装置100の動作の例を説明する。
図5は、動作実績情報及び診断対象情報の一例を示す図である。
図5では、3つの動作実績バルブ2A、2B、2Cについて動作実績情報が示されている。また、
図5では、1つの診断対象バルブ2Dについて診断対象情報が示されている。動作実績情報及び診断対象情報に含まれるバルブのタイプ及び仕様としては、バルブID、弁形式、接続口径、圧力定格、接続形式、使用温度範囲、シートリーク性能、CV値範囲、レンジアビリティの項目が含まれる。また、バルブが扱う流体の情報としては、流体の種類、最大温度変化率、最大温度差、最大流速等の項目が含まれる。また、診断の閾値としては、内弁損傷の診断に関する閾値として、基準圧力値からのずれ量を示す圧力ずれ量閾値が含まれる。また、ヒートサイクル劣化の診断に関する閾値として、温度差の積算を示す温度差積算閾値が含まれる。
【0041】
以下では、
図5に示すような動作実績情報及び診断対象情報である場合を例に挙げて説明する。なお、
図5に示す動作実績情報及び診断対象情報は一例であり、動作実績バルブ及び診断対象バルブの数については、上記と異なってもよい。また、動作実績情報及び診断対象情報の項目については、上記の一部の項目が含まれなくてもよいし、上記とは異なる種類の項目が含まれてもよい。
【0042】
図6は、本実施形態に係る診断支援装置100の動作の流れの一例を示すフローチャートである。
図6に示すように、動作実績情報記憶部10は、例えば
図5に示す内容の動作実績情報を記憶する(ステップS10)。また、診断対象情報記憶部20は、例えば
図5に示す内容の診断対象情報を記憶する(ステップS20)。
【0043】
上記の動作実績情報及び診断対象情報が記憶された状態において、バルブ照合抽出部30は、診断対象バルブのタイプ及び仕様と、動作実績バルブのタイプ及び仕様を照合し、一致又は類似するか否かを判定する(ステップS30)。バルブ照合抽出部30は、照合において一致又は類似すると判定した場合(ステップS30のYes)、照合結果を抽出する(ステップS40)。バルブ照合抽出部30は、照合において一致又は類似すると判定しない場合(ステップS30のNo)、ステップS40の処理を飛ばす、すなわち照合結果を抽出しないようにする。
【0044】
ステップS30及びステップS40について、
図5に示す例では、診断対象バルブ2Dのタイプ及び仕様と、動作実績バルブ2Bのタイプ及び仕様とが一致する。このため、バルブ照合抽出部30は、診断対象バルブ2Dのタイプ及び仕様と動作実績バルブ2Bのタイプ及び仕様とが一致すると判定し、当該照合結果を抽出する。
【0045】
また、上記の動作実績情報及び診断対象情報が記憶された状態において、流体照合抽出部40は、診断対象が扱う流体の情報と、動作実績バルブが扱う流体の情報とを照合し、一致又は類似するか否かを判定する(ステップS50)。流体照合抽出部40は、照合において一致あるいは類似する場合(ステップS50のYes)、照合結果を抽出する(ステップS60)。流体照合抽出部40は、照合において一致又は類似すると判定しない場合(ステップS50のNo)、ステップS60の処理を飛ばす、すなわち照合結果を抽出しないようにする。
【0046】
ステップS50及びステップS60について、
図5に示す例において、診断対象バルブ2Dの流体の情報は、3つの動作実績バルブ2A、2B、2Cのどのバルブとも一致していない。一方、診断対象バルブ2Dの流体の情報は、例えば動作実績バルブ2Cの流体の情報が最も類似する。このため、流体照合抽出部40は、診断対象バルブ2Dの流体の情報と動作実績バルブ2Cの流体の情報とが最も類似すると判定し、当該照合結果を抽出する。
【0047】
閾値決定部50は、バルブ照合抽出部30で抽出され、かつ流体照合抽出部40で抽出された照合結果のうち、少なくとも最も一致あるいは類似と判定した場合の照合結果に基づき診断対象バルブの診断の閾値を決定する(ステップS70)。
【0048】
ステップS70について、
図5に示す例において、第1閾値は、動作実績バルブ2Bの圧力ずれ量閾値(±1.3%)及び温度差積算閾値(3400000℃)である。また、第2閾値は、動作実績バルブ2Cの圧力ずれ量閾値(±1.7%)及び温度差積算閾値(4000000℃)である。閾値決定部50は、第1閾値と第2閾値とを所定の閾値算出式に入力し、閾値算出式で算出された値を診断対象バルブ2Dの閾値として出力する。例えば、閾値算出式が単純平均を示す上記式1である場合、圧力ずれ量閾値として±1.5%の値が出力される。また、温度差積算閾値として3700000℃の値が出力される。閾値決定部50は、診断対象バルブ2Dの診断の閾値として、圧力ずれ量閾値を±1.5%と決定し、温度差積算閾値を3700000℃と決定する。なお、ステップS70において、閾値決定部50は、バルブ照合抽出部30及び流体照合抽出部40のいずれにおいても照合結果が抽出されなかった場合には、例えば診断対象バルブ2Dの閾値を初期設定のまま維持するようにしてもよい。
【0049】
閾値提示部60は、決定された閾値を提示する(ステップS80)。
図7は、閾値の提示態様の一例を示す図である。
図7に示すように、閾値提示部60は、診断対象バルブについて決定された閾値である圧力ずれ量閾値及び温度差積算閾値を表示部5に表示することができる。オペレータは、表示部5を見ることにより、決定された閾値を容易に把握することができる。
【0050】
以上のように、本実施形態に係る診断支援装置100は、動作実績のある動作実績バルブ2A、2B、2Cの仕様と、動作実績バルブ2A、2B、2Cが扱う流体の情報と、動作実績バルブ2A、2B、2Cの診断の閾値とを動作実績情報として対応付けて記憶する動作実績情報記憶部10と、診断対象となる診断対象バルブ2Dの仕様と、診断対象バルブ2Dが扱う流体の情報とを診断対象情報として記憶する診断対象情報記憶部20と、診断対象バルブ2Dの仕様と、動作実績バルブ2A、2B、2Cの仕様を照合し、一致又は類似する場合の照合結果を抽出するバルブ照合抽出部30と、診断対象バルブ2Dが扱う流体の情報と、動作実績バルブ2A、2B、2Cが扱う流体の情報とを照合し、一致あるいは類似する場合の照合結果を抽出する流体照合抽出部40と、バルブ照合抽出部30で抽出され、かつ流体照合抽出部40で抽出された照合結果のうち、少なくとも最も一致あるいは類似と扱える照合結果に基づき診断対象バルブ2Dの診断の閾値を決定する閾値決定部50と、決定された閾値を提示する閾値提示部60とを備える。
【0051】
また、本実施形態に係る診断支援方法は、動作実績のある動作実績バルブ2A、2B、2Cの仕様と、動作実績バルブ2A、2B、2Cが扱う流体の情報と、動作実績バルブ2A、2B、2Cの診断の閾値とを動作実績情報として対応付けて記憶する動作実績情報記憶ステップと、診断対象となる診断対象バルブ2Dの仕様と、診断対象バルブ2Dが扱う流体の情報とを診断対象情報として記憶する診断対象情報記憶ステップと、診断対象バルブ2Dの仕様と、動作実績バルブ2A、2B、2Cの仕様を照合し、一致又は類似する場合の照合結果を抽出する仕様照合抽出ステップと、診断対象バルブ2Dが扱う流体の情報と、動作実績バルブ2A、2B、2Cが扱う流体の情報とを照合し、一致あるいは類似する場合の照合結果を抽出する流体照合抽出ステップと、バルブ照合抽出部30で抽出され、かつ流体照合抽出部40で抽出された照合結果のうち、少なくとも最も一致あるいは類似と扱える照合結果に基づき診断対象バルブ2Dの診断の閾値を決定する閾値決定ステップと、決定された閾値を提示する閾値提示ステップとを含む。
【0052】
この構成によれば、診断対象バルブ2Dのタイプ及び仕様と、動作実績バルブ2A、2B、2Cのタイプ及び仕様が照合されると共に、診断対象バルブ2Dが扱う流体の情報と、動作実績バルブ2A、2B、2Cが扱う流体の情報とが照合され、両者が一致あるいは類似と扱える場合に、照合結果に基づいて、診断対象バルブ2Dの診断の閾値が決定されるため、バルブ2の診断における閾値を適切に設定することができる。
【0053】
また、上記の診断支援装置100において、閾値決定部50は、バルブ照合抽出部30で抽出された第1照合結果の第1閾値と、流体照合抽出部40で抽出された第2照合結果の第2閾値とを所定の閾値算出式に入力し、閾値算出式で算出された値を診断対象バルブ2Dの閾値として出力する。
【0054】
また、上記の診断支援方法において、閾値決定ステップは、バルブ照合抽出部30で抽出された第1照合結果の第1閾値と、流体照合抽出部40で抽出された第2照合結果の第2閾値とを所定の閾値算出式に入力し、閾値算出式で算出された値を診断対象バルブ2Dの閾値として出力する。
【0055】
この構成によれば、予め閾値算出式を設定しておき、照合の結果抽出された第1閾値及び第2閾値から閾値算出式に基づいて閾値を出力するため、診断対象バルブ2Dの閾値を適切に設定することができる。また、閾値算出式として単純平均、加重平均等を求める式とすることにより、例えば診断対象バルブ2Dの初期における閾値設定の妥当性を向上させることができる。
【0056】
上記の診断支援装置100及び診断支援方法において、診断の閾値として、バルブ2の内弁損傷の診断に関する閾値、バルブ2のヒートサイクル劣化の診断に関する閾値を含む。
【0057】
この構成によれば、適切な閾値に基づいて、バルブ2の内弁損傷の診断及びバルブ2のヒートサイクル劣化の診断を行うことができる。
【0058】
[ハードウェア構成]
図8は、診断支援装置のハードウェア構成の一例を示す図である。診断支援装置100は、同様のハードウェア構成を有するので、ここでは、情報処理装置300として説明する。
図9に示すように、情報処理装置300は、通信装置300a、HDD(Hard Disk Drive)300b、メモリ300c、プロセッサ300dを有する。また、
図8に示した各部は、バス等で相互に接続される。
【0059】
通信装置300aは、ネットワークインタフェースカードなどであり、他の装置との通信を行う。HDD300bは、上記した各部の機能を動作させるプログラムやDBを記憶する。
【0060】
プロセッサ300dは、上記した各処理部と同様の処理を実行するプログラムをHDD300b等から読み出してメモリ300cに展開することで、上記した各機能を実行するプロセスを動作させる。例えば、診断支援装置100を例にして説明すると、このプロセスは、診断支援装置100が有する各処理部と同様の機能を実行する。具体的には、プロセッサ300dは、バルブ照合抽出部30、流体照合抽出部40、閾値決定部50、閾値提示部60等と同様の機能を有するプログラムをHDD300b等から読み出す。そして、プロセッサ300dは、バルブ照合抽出部30、流体照合抽出部40、閾値決定部50、閾値提示部60と同様の処理を実行するプロセスを実行する。また、HDD300bには、動作実績情報記憶部10及び診断対象情報記憶部20に対応する記憶領域が設けられる。プロセッサ300dは、上記のプログラムを実行する際に、必要に応じてHDD300bの動作実績情報記憶部10及び診断対象情報記憶部20に対応する記憶領域にアクセスし、当該記憶領域に記憶されるデータ等を読み出す。
【0061】
このように、情報処理装置300は、プログラムを読み出して実行することで各種情報処理方法を実行する情報処理装置として動作する。また、情報処理装置300は、媒体読取装置によって記録媒体から上記プログラムを読み出し、読み出された上記プログラムを実行することで上記した実施形態と同様の機能を実現することもできる。なお、この他の実施形態でいうプログラムは、情報処理装置300によって実行されることに限定されるものではない。例えば、他のコンピュータまたはサーバがプログラムを実行する場合や、これらが協働してプログラムを実行するような場合にも、上記実施形態が同様に適用されてもよい。
【0062】
このプログラムは、インターネットなどのネットワークを介して配布されてもよい。また、このプログラムは、ハードディスク、フレキシブルディスク(FD)、CD-ROM、MO(Magneto-Optical disk)、DVD(Digital Versatile Disc)などのコンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録され、コンピュータによって記録媒体から読み出されることによって実行されてもよい。
【0063】
上記実施形態において説明した各処理のうち、自動的に行われるものとして説明した処理の全部または一部を手動的に行うこともでき、あるいは、手動的に行われるものとして説明した処理の全部または一部を公知の方法で自動的に行うこともできる。この他、上記文書中や図面中で示した処理手順、具体的名称、各種のデータやパラメータを含む情報については、特記する場合を除いて任意に変更することができる。例えば、各図に示した各種情報は、図示した情報に限られない。
【0064】
また、図示した各装置の各構成要素は機能概念的なものであり、必ずしも物理的に図示の如く構成されていることを要しない。すなわち、各装置の分散・統合の具体的形態は図示のものに限られず、その全部または一部を、各種の負荷や使用状況などに応じて、任意の単位で機能的または物理的に分散・統合して構成することができる。
【0065】
また、上述してきた実施形態及び変形例は、処理内容を矛盾させない範囲で適宜組み合わせることが可能である。
【0066】
また、上述してきた「部(section、module、unit)」は、「手段」や「回路」などに読み替えることができる。例えば、変更部は、変更手段や変更回路に読み替えることができる。
【0067】
以上、本願の実施形態のいくつかを図面に基づいて詳細に説明したが、これらは例示であり、発明の開示の欄に記載の態様を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変形、改良を施した他の形態で本発明を実施することが可能である。
【符号の説明】
【0068】
1 設備
2 バルブ
2A,2B,2C 動作実績バルブ
2D 診断対象バルブ
3 タンク
4 配管
5 表示部
10 動作実績情報記憶部
20 診断対象情報記憶部
30 バルブ照合抽出部
40 流体照合抽出部
50 閾値決定部
60 閾値提示部
100 診断支援装置
201 バルブ本体
202 ポジショナ
203 操作器
204 ステム
205 弁体,プラグ
206 シートリング
208 グランド部
209 グランドパッキン
210 弁箱
211 ボンネット
212 流入口
213 流出口
214 隔壁
300 情報処理装置
300a 通信装置
300b HDD
300c メモリ
300d プロセッサ