(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024001864
(43)【公開日】2024-01-10
(54)【発明の名称】うつ病バイオマーカー
(51)【国際特許分類】
G01N 33/68 20060101AFI20231227BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20231227BHJP
C12Q 1/04 20060101ALI20231227BHJP
C12Q 1/68 20180101ALI20231227BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20231227BHJP
C12M 1/34 20060101ALI20231227BHJP
C12Q 1/6869 20180101ALI20231227BHJP
C12N 15/11 20060101ALI20231227BHJP
【FI】
G01N33/68
G01N33/50 D
C12Q1/04
C12Q1/68
C12M1/00 A
C12M1/34 Z
C12Q1/6869 Z
C12N15/11 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023098086
(22)【出願日】2023-06-14
(31)【優先権主張番号】P 2022100474
(32)【優先日】2022-06-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業 研究成果最適展開支援プログラム(A-STEP)トライアウト、研究課題「ストレスに起因する過剰な攻撃性を低下させる機能性食品の開発」に関する研究題目「ストレスに起因する過剰な攻撃性を低下させる機能性食品の開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504203572
【氏名又は名称】国立大学法人茨城大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】豊田 淳
(72)【発明者】
【氏名】谷島 優平
【テーマコード(参考)】
2G045
4B029
4B063
【Fターム(参考)】
2G045AA25
2G045CA26
2G045DA02
2G045DA31
2G045DA36
4B029AA07
4B029BB02
4B029CC01
4B029FA03
4B029GA03
4B029GA08
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4B063QQ03
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4B063QR08
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4B063QS03
4B063QS25
4B063QS34
4B063QS36
4B063QX02
(57)【要約】
【課題】
本発明は生体試料中の新たなうつ病のバイオマーカーを提供することを課題とする。
【解決手段】
うつ病を有する対象の生体試料、特に糞便試料、血漿試料、肝臓試料において、特定の代謝産物がコントロール対象の当該試料と比較して増加又は減少していることを見出し、また、特に糞便試料において特定の細菌がコントロール対象の当該試料と比較して増加又は減少していることを見出し、本発明に想到した。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検対象から採取された生体試料中における、
表1に記載される代謝物からなる群から選択される1つ以上の代謝物、並びに/又は
Alistipes属に属する細菌、Coprococcus属に属する細菌、Rikenellaceae科に属する細菌、Erysipelotrichaceae科に属する細菌、Bacteroidales目S24-7科に属する細菌、Clostridiales目に属する細菌、Clostridiales目Peptococcaceae科に属する細菌、Bacteroides属に属する細菌、Gemella属に属する細菌、Adlercreutzia属に属する細菌、Lachnospiraceae科に属する細菌、Anaeroplasma属に属する細菌、Desulfovibrionaceae科に属する細菌、Dorea属に属する細菌、Christensenellaceae科に属する細菌、Pseudomonas属に属する細菌、Escherichia属に属する細菌、及びMollicutes綱RF39目に属する細菌からなる群から選択される1つ以上の細菌の、
うつ病の診断のためのバイオマーカーとしての使用。
【表1-1】
【表1-2】
【請求項2】
前記生体試料が、糞便であり、
前記代謝物が、表2に記載される代謝物からなる群から選択される1つ以上の代謝物である、請求項1に記載の使用。
【表2】
【請求項3】
前記生体試料が、血漿であり、
前記代謝物が、表3に記載される代謝物からなる群から選択される1つ以上の代謝物である、請求項1に記載の使用。
【表3】
【請求項4】
前記生体試料が、肝臓であり、
前記代謝物が、表4に記載される代謝物からなる群から選択される1つ以上の代謝物である、請求項1に記載の使用。
【表4】
【請求項5】
ストレス感受性の判定、評価及び/又は予測のための請求項1に記載の使用であって、
前記生体試料が糞便であり、並びに
前記代謝物が、表5に記載される代謝物からなる群から選択される1つ以上の代謝物であり、並びに/又は
前記細菌が、Alistipes属に属する細菌及びCoprococcus属に属する細菌からなる群から選択される1つ以上の細菌である、前記使用。
【表5】
【請求項6】
ストレス感受性の判定、評価及び/又は予測のための請求項1に記載の使用であって、
前記生体試料が血漿であり、及び
前記代謝物が、表6に記載される代謝物からなる群から選択される1つ以上の代謝物である、前記使用。
【表6】
【請求項7】
被検対象におけるうつ病の病状、重症度及び/又は発症リスクを判定、評価及び/又は予測するための方法であって、
前記被検対象から採取された生体試料における、請求項1~4のいずれか一項において定義されるバイオマーカーの量を測定する工程、
前記被検対象由来のバイオマーカーの量を、コントロール対象から採取された生体試料中におけるバイオマーカーの量と比較する工程、及び
前記被検対象由来のバイオマーカーの量が、前記コントロール対象由来のバイオマーカーの量よりと比較して有意差がある場合、若しくはVIPスコアを指標としてVIPスコアが1.2以上の場合に、被検対象がうつ病を有する、うつ病が重症である及び/又は発症リスクを有すると判定、評価及び/又は予測される工程
を含む、方法。
【請求項8】
被検対象がうつ病を有する対象であるとき、前記被検対象におけるストレス感受性を判定、評価及び/又は予測するための方法であって、
前記被検対象から採取された生体試料における、請求項5又は6において定義されるバイオマーカーの量を測定する工程、
前記被検対象由来のバイオマーカーの量を、うつ病を有し且つストレス耐性を有するコントロール対象から採取された生体試料中におけるバイオマーカーの量と比較する工程、及び
前記被検対象由来のバイオマーカーの量が、前記うつ病を有し且つストレス耐性を有するコントロール対象由来のバイオマーカーの量よりと比較して有意差がある場合、若しくはVIPスコアを指標としてVIPスコアが1.2以上の場合に、被検対象はストレス感受性が高いと判定、評価及び/又は予測される工程
を含む、方法。
【請求項9】
被検対象におけるうつ病の病状、重症度及び/又は発症リスクを判定、評価及び/又は予測するためのプログラムであって、
以下の手順(1)及び(2)を情報処理装置に実行させるためのプログラム:
(1)前記被検対象から採取された生体試料における請求項1~4のいずれか一項に
おいて定義されるバイオマーカーの量の入力された測定データ、及びコントロール対象から採取された生体試料におけるバイオマーカーの量の入力された測定データに基づき、被検対象由来の測定データとコントロール対象由来の測定データとの間で有意差があるかどうかを算出する手順、
(2)前記算出した結果、両者の測定データの間で有意差があった場合、若しくはVIPスコアを指標としてVIPスコアが1.2以上の場合に、被検対象がうつ病を有する、うつ病が重症である及び/又は発症リスクを有するとの判定、評価及び/又は予測を表示する手順。
【請求項10】
被検対象がうつ病を有する対象であるとき、前記被検対象におけるストレス感受性を判定、評価及び/又は予測するためのプログラムであって、
以下の手順(1)及び(2)を情報処理装置に実行させるためのプログラム:
(1)前記被検対象から採取された生体試料における請求項5又は6において定義されるバイオマーカーの量の入力された測定データ、及びコントロール対象から採取された生体試料におけるバイオマーカーの量の入力された測定データに基づき、被検対象由来の測定データとうつ病を有し且つストレス耐性を有するコントロール対象由来の測定データとの間で有意差があるかどうかを算出する手順、
(2)前記算出した結果、両者の測定データの間で有意差があった場合、若しくはVIPスコアを指標としてVIPスコアが1.2以上の場合に、被検対象はストレス感受性が高いとの判定、評価及び/又は予測を表示する手順。
【請求項11】
被検対象におけるうつ病の病状、重症度及び/又は発症リスクを判定、評価及び/又は予測するためのキットであって、
前記被検対象から採取された糞便試料における、Alistipes属に属する細菌、Coprococcus属に属する細菌、Rikenellaceae科に属する細菌、Erysipelotrichaceae科に属する細菌、Bacteroidales目S24-7科に属する細菌、Clostridiales目に属する細菌、Clostridiales目Peptococcaceae科に属する細菌、Bacteroides属に属する細菌、Gemella属に属する細菌、Adlercreutzia属に属する細菌、Lachnospiraceae科に属する細菌、Anaeroplasma属に属する細菌、Desulfovibrionaceae科に属する細菌、Dorea属に属する細菌、Christensenellaceae科に属する細菌、Pseudomonas属に属する細菌、Escherichia属に属する細菌、及びMollicutes綱RF39目に属する細菌からなる群から選択される1つ以上の細菌の量を測定するための試薬を含み、
前記試薬が、少なくとも1つの前記細菌のRNAを特異的に検出する核酸プローブ及び/又は核酸プライマー
を含む、キット。
【請求項12】
被検対象がうつ病を有する対象であるとき、前記被検対象におけるストレス感受性を判定、評価及び/又は予測するためのキットであって、
前記被検対象から採取された糞便試料における、Alistipes属に属する細菌及びCoprococcus属に属する細菌からなる群から選択される1つ以上の細菌の量を測定するための試薬を含み、
前記試薬が、少なくとも1つの前記細菌のRNAを特異的に検出する核酸プローブ及び/又は核酸プライマー
を含む、キット。
【請求項13】
うつ病の治療薬をスクリーニングする方法及び/又は評価方法であって、
治療薬の候補物質を投与されたうつ病を有する対象から採取された生体試料における請
求項1~4のいずれか一項において定義されるバイオマーカーの量を測定する工程、
うつ病を有する対象における前記治療薬の候補物質を投与された後における前記バイオマーカーの量を、前記治療薬の候補物質を投与されていないうつ病を有する対象における前記バイオマーカーの量と比較する、又はうつ病を有する対象における前記治療薬の候補物質を投与された後における前記バイオマーカーの量を、このうつ病を有する対象における前記治療薬の候補物質を投与される前における前記バイオマーカーの量と比較する工程、及び
うつ病を有する対象における前記候補物質を投与された後における前記バイオマーカーの量が、前記治療薬の候補物質を投与されていないうつ病を有する対象における前記バイオマーカーの量と比較して有意差があった場合又はうつ病を有する対象における前記候補物質を投与された後における前記バイオマーカーの量が、このうつ病を有する対象における前記治療薬の候補物質を投与される前における前記バイオマーカーの量と比較して有意差があった場合、若しくはVIPスコアを指標としてVIPスコアが1.2以上の場合、前記候補物質がうつ病の治療薬として有効であると評価される工程
を含む、スクリーニングする方法及び/又は評価方法。
【請求項14】
うつ病を有する対象におけるストレスに対する耐性の向上剤をスクリーニングする方法及び/又は評価方法であって、
向上剤の候補物質を投与されたうつ病を有し且つストレス感受性が高い対象から採取された生体試料における請求項5又は6において定義されるバイオマーカーの量を測定する工程、
うつ病を有し且つストレス感受性が高い対象における前記治療薬の候補物質を投与された後における前記バイオマーカーの量を、前記治療薬の候補物質を投与されていないうつ病を有し且つストレス感受性が高い対象における前記バイオマーカーの量と比較する、又はうつ病を有し且つストレス感受性が高い対象における前記治療薬の候補物質を投与された後における前記バイオマーカーの量を、このうつ病を有し且つストレス感受性が高い対象における前記治療薬の候補物質を投与される前における前記バイオマーカーの量と比較する工程、及び
うつ病を有し且つストレス感受性が高い対象における前記候補物質を投与された後における前記バイオマーカーの量が、前記治療薬の候補物質を投与されていないうつ病を有し且つストレス感受性が高い対象における前記バイオマーカーの量と比較して有意差があった場合、又はうつ病を有し且つストレス感受性が高い対象における前記候補物質を投与された後における前記バイオマーカーの量が、このうつ病を有し且つストレス感受性が高い対象における前記治療薬の候補物質を投与される前における前記バイオマーカーの量と比較して有意差があった場合、若しくはVIPスコアを指標としてVIPスコアが1.2未満となった場合、前記候補物質がうつ病の治療薬として有効であると評価される工程
を含む、スクリーニングする方法及び/又は評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体試料中における新たなうつ病のバイオマーカーや、このバイオマーカーを用いたうつ病の病状、重症度及び/又は発症リスクを判定、評価及び/又は予測するための方法、うつ病を判定するためのプログラム、うつ病を判定するための検査キット、並びにうつ病の治療薬のスクリーニング及び評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
健康的な日常生活を送るためには、健康な肉体と健康な精神の両方を維持する必要がある。しかし、昨今、ストレス増加などの要因によりメンタルヘルスの低下や、うつ病患者の増加などの社会問題となっている。
【0003】
これまでに、生体試料として血液や脳脊髄液、尿、唾液等を用いたうつ病の重症度を示すバイオマーカー候補のメタボローム解析による探索(特許文献1)や、うつ病のバイオマーカー候補となるマイクロRNAの探索(特許文献2)、うつ病の診断のための血液中バイオマーカーの候補の探索(特許文献3)が行われており、うつ病のバイオマーカーとして、トリプトファンまたはその分解物が候補となることなどが開示されている(特許文献4)。しかしながら、依然として網羅的解析によるうつ病の早期診断技術に資するバイオマーカーを同定することが求められていた。また、これまでのところ生体試料として糞便や肝臓などを用いたうつ病のバイオマーカーに関する報告は無かった。
【0004】
また、本発明者等は、社会的敗北ストレスモデルマウス(うつ病モデルマウス)の腸管上皮細胞において、fucosyltransferase 2(Fut2)遺伝子がダウンレギュレーションされることを報告している(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】再表2017/082103号公報
【特許文献2】再表2016/117582号公報
【特許文献3】再表2011/019072号公報
【特許文献4】特表2008-537111号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Scientific Reports, 2018;8:13199
【非特許文献2】Biomedical chromatography, 2012;26(5):548-558
【非特許文献3】Journal of proteome research, 2017;16(5):1857-1867
【非特許文献4】PLOS ONE, 2014;9(11):e113259
【非特許文献5】Behav Brain Res., 2014;270:339-48
【非特許文献6】J Vis Exp., 2015;105:52973
【非特許文献7】Cell, 2007;131(2):391-404
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、生体試料中における新たなうつ病のバイオマーカーを提供すること、このバイオマーカーを用いたうつ病の病状、重症度及び/又は発症リスクを判定、評価及び/又は予測するための方法、うつ病を判定するためのプログラム、うつ病を判定するための検査キット、並びにうつ病の治療薬のスクリーニング及び評価方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、うつ病を有する対象の生体試料、特に糞便試料においてや特定の細菌がコントロール対象の当該試料と比較して増加又は減少していることを見出し、また、特に糞便試料、血漿試料、肝臓試料において、特定の代謝産物がコントロール対象の当該試料と比較して増加又は減少していることを見出し、また、本発明に想到した。
【0009】
すなわち、本発明は以下の通りである。
[1]被検対象から採取された生体試料中における、
表1に記載される代謝物からなる群から選択される1つ以上の代謝物、並びに/又は
Alistipes属に属する細菌、Coprococcus属に属する細菌、Rikenellaceae科に属する細菌、Erysipelotrichaceae科に属する細菌、Bacteroidales目S24-7科に属する細菌、Clostridiales目に属する細菌、Clostridiales目Peptococcaceae科に属する細菌、Bacteroides属に属する細菌、Gemella属に属する細菌、Adlercreutzia属に属する細菌、Lachnospiraceae科に属する細菌、Anaeroplasma属に属する細菌、Desulfovibrionaceae科に属する細菌、Dorea属に属する細菌、Christensenellaceae科に属する細菌、Pseudomonas属に属する細菌、Escherichia属に属する細菌、及びMollicutes綱RF39目に属する細菌からなる群から選択される1つ以上の細菌の、
うつ病の診断のためのバイオマーカーとしての使用。
【表1-1】
【表1-2】
[2]前記生体試料が、糞便であり、
前記代謝物が、表2に記載される代謝物からなる群から選択される1つ以上の代謝物である、[1]に記載の使用。
【表2】
[3]前記生体試料が、血漿であり、
前記代謝物が、表3に記載される代謝物からなる群から選択される1つ以上の代謝物である、[1]に記載の使用。
【表3】
[4]前記生体試料が、肝臓であり、
前記代謝物が、表4に記載される代謝物からなる群から選択される1つ以上の代謝物である、[1]に記載の使用。
【表4】
[5]ストレス感受性の判定、評価及び/又は予測のための[1]に記載の使用であって、
前記生体試料が糞便であり、並びに
前記代謝物が、表5に記載される代謝物からなる群から選択される1つ以上の代謝物であり、並びに/又は
前記細菌が、Alistipes属に属する細菌及びCoprococcus属に属する細菌からなる群から選択される1つ以上の細菌である、前記使用。
【表5】
[6]ストレス感受性の判定、評価及び/又は予測のための[1]に記載の使用であって、
前記生体試料が血漿であり、及び
前記代謝物が、表6に記載される代謝物からなる群から選択される1つ以上の代謝物である、前記使用。
【表6】
[7]被検対象におけるうつ病の病状、重症度及び/又は発症リスクを判定、評価及び/又は予測するための方法であって、
前記被検対象から採取された生体試料における、[1]~[4]のいずれかにおいて定義されるバイオマーカーの量を測定する工程、
前記被検対象由来のバイオマーカーの量を、コントロール対象から採取された生体試料中におけるバイオマーカーの量と比較する工程、及び
前記被検対象由来のバイオマーカーの量が、前記コントロール対象由来のバイオマーカーの量よりと比較して有意差がある場合、若しくはVIPスコアを指標としてVIPスコアが1.2以上の場合に、被検対象がうつ病を有する、うつ病が重症である及び/又はうつ病の発症リスクを有すると判定、評価及び/又は予測される工程
を含む、方法。
[8]被検対象がうつ病を有する対象であるとき、前記被検対象におけるストレス感受性を判定、評価及び/又は予測するための方法であって、
前記被検対象から採取された生体試料における、[5]又は[6]において定義されるバイオマーカーの量を測定する工程、
前記被検対象由来のバイオマーカーの量を、うつ病を有し且つストレス耐性を有するコントロール対象から採取された生体試料中におけるバイオマーカーの量と比較する工程、及び
前記被検対象由来のバイオマーカーの量が、前記うつ病を有し且つストレス耐性を有するコントロール対象由来のバイオマーカーの量よりと比較して有意差がある場合、若しくはVIPスコアを指標としてVIPスコアが1.2以上の場合に、被検対象はストレス感受性が高いと判定、評価及び/又は予測される工程
を含む、方法。
[9]被検対象におけるうつ病の病状、重症度及び/又は発症リスクを判定、評価及び/又は予測するためのプログラムであって、
以下の手順(1)及び(2)を情報処理装置に実行させるためのプログラム:
(1)前記被検対象から採取された生体試料における[1]~[4]のいずれかにおいて定義されるバイオマーカーの量の入力された測定データ、及びコントロール対象から採取された生体試料におけるバイオマーカーの量の入力された測定データに基づき、被検対象由来の測定データとコントロール対象由来の測定データとの間で有意差があるかどう
かを算出する手順、
(2)前記算出した結果、両者の測定データの間で有意差があった場合、若しくはVIPスコアを指標としてVIPスコアが1.2以上の場合に、被検対象がうつ病を有する、うつ病が重症である及び/又はうつ病の発症リスクを有するとの判定、評価及び/又は予測を表示する手順。
[10]被検対象がうつ病を有する対象であるとき、前記被検対象におけるストレス感受性を判定、評価及び/又は予測するためのプログラムであって、
以下の手順(1)及び(2)を情報処理装置に実行させるためのプログラム:
(1)前記被検対象から採取された生体試料における[5]又は[6]において定義されるバイオマーカーの量の入力された測定データ、及びコントロール対象から採取された生体試料におけるバイオマーカーの量の入力された測定データに基づき、被検対象由来の測定データとうつ病を有し且つストレス耐性を有するコントロール対象由来の測定データとの間で有意差があるかどうかを算出する手順、
(2)前記算出した結果、両者の測定データの間で有意差があった場合、若しくはVIPスコアを指標としてVIPスコアが1.2以上の場合に、被検対象はストレス感受性が高いとの判定、評価及び/又は予測を表示する手順。
[11]被検対象におけるうつ病の病状、重症度及び/又は発症リスクを判定、評価及び/又は予測するためのキットであって、
前記被検対象から採取された糞便試料における、Alistipes属に属する細菌、Coprococcus属に属する細菌、Rikenellaceae科に属する細菌、Erysipelotrichaceae科に属する細菌、Bacteroidales目S24-7科に属する細菌、Clostridiales目に属する細菌、Clostridiales目Peptococcaceae科に属する細菌、Bacteroides属に属する細菌、Gemella属に属する細菌、Adlercreutzia属に属する細菌、Lachnospiraceae科に属する細菌、Anaeroplasma属に属する細菌、Desulfovibrionaceae科に属する細菌、Dorea属に属する細菌、Christensenellaceae科に属する細菌、Pseudomonas属に属する細菌、Escherichia属に属する細菌、及びMollicutes綱RF39目に属する細菌からなる群から選択される1つ以上の細菌の量を測定するための試薬を含み、
前記試薬が、少なくとも1つの前記細菌のRNAを特異的に検出する核酸プローブ及び/又は核酸プライマー
を含む、キット。
[12]被検対象がうつ病を有する対象であるとき、前記被検対象におけるストレス感受性を判定、評価及び/又は予測するためのキットであって、
前記被検対象から採取された糞便試料における、Alistipes属に属する細菌及びCoprococcus属に属する細菌からなる群から選択される1つ以上の細菌の量を測定するための試薬を含み、
前記試薬が、少なくとも1つの前記細菌のRNAを特異的に検出する核酸プローブ及び/又は核酸プライマー
を含む、キット。
[13]うつ病の治療薬をスクリーニングする方法及び/又は評価方法であって、
治療薬の候補物質を投与されたうつ病を有する対象から採取された生体試料における[1]~[4]のいずれかにおいて定義されるバイオマーカーの量を測定する工程、
うつ病を有する対象における前記治療薬の候補物質を投与された後における前記バイオマーカーの量を、前記治療薬の候補物質を投与されていないうつ病を有する対象における前記バイオマーカーの量と比較する、又はうつ病を有する対象における前記治療薬の候補物質を投与された後における前記バイオマーカーの量を、このうつ病を有する対象における前記治療薬の候補物質を投与される前における前記バイオマーカーの量と比較する工程、及び
うつ病を有する対象における前記候補物質を投与された後における前記バイオマーカーの量が、前記治療薬の候補物質を投与されていないうつ病を有する対象における前記バイオマーカーの量と比較して有意差があった場合又はうつ病を有する対象における前記候補物質を投与された後における前記バイオマーカーの量が、このうつ病を有する対象における前記治療薬の候補物質を投与される前における前記バイオマーカーの量と比較して有意差があった場合、若しくはVIPスコアを指標としてVIPスコアが1.2以上の場合、前記候補物質がうつ病の治療薬として有効であると評価される工程
を含む、スクリーニングする方法及び/又は評価方法。
[14]うつ病を有する対象におけるストレスに対する耐性の向上剤をスクリーニングする方法及び/又は評価方法であって、
向上剤の候補物質を投与されたうつ病を有し且つストレス感受性が高い対象から採取された生体試料における[5]又は[6]において定義されるバイオマーカーの量を測定する工程、
うつ病を有し且つストレス感受性が高い対象における前記治療薬の候補物質を投与された後における前記バイオマーカーの量を、前記治療薬の候補物質を投与されていないうつ病を有し且つストレス感受性が高い対象における前記バイオマーカーの量と比較する、又はうつ病を有し且つストレス感受性が高い対象における前記治療薬の候補物質を投与された後における前記バイオマーカーの量を、このうつ病を有し且つストレス感受性が高い対象における前記治療薬の候補物質を投与される前における前記バイオマーカーの量と比較する工程、及び
うつ病を有し且つストレス感受性が高い対象における前記候補物質を投与された後における前記バイオマーカーの量が、前記治療薬の候補物質を投与されていないうつ病を有し且つストレス感受性が高い対象における前記バイオマーカーの量と比較して有意差があった場合、又はうつ病を有し且つストレス感受性が高い対象における前記候補物質を投与された後における前記バイオマーカーの量が、このうつ病を有し且つストレス感受性が高い対象における前記治療薬の候補物質を投与される前における前記バイオマーカーの量と比較して有意差があった場合、若しくはVIPスコアを指標としてVIPスコアが1.2未満となった場合、前記候補物質がうつ病の治療薬として有効であると評価される工程
を含む、スクリーニングする方法及び/又は評価方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、生体試料中の細菌や代謝物がうつ病のバイオマーカーとして使用できることを見出し、さらにこのバイオマーカーを用いたうつ病の病状、重症度及び/又は発症リスクを判定、評価及び/又は予測するための方法、うつ病を判定するためのプログラム、うつ病を判定するための検査キット、並びにうつ病の治療薬のスクリーニング及び評価方法を提供することを可能とした。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】社会的敗北ストレスマウスにおける社会行動スコアを示す図である。
【
図2】糞便中代謝物及び血漿中代謝物に対してそれぞれOrthogonal partial least squares discriminant analysis(OPLS-DA)を行った結果を示す図である。
【
図3】社会的敗北ストレスマウスにおける肝臓における(A)Spermidine及び(B)Spermineの相対量を示す図である。データはmean±SD(標準偏差)で示す(n=6-7)。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<うつ病の診断のためのバイオマーカー>
本発明の一実施態様は、
被検対象から採取された生体試料中における、
表1に記載される代謝物からなる群から選択される1つ以上の代謝物、並びに/又は
Alistipes属に属する細菌、Coprococcus属に属する細菌、Rikenellaceae科に属する細菌、Erysipelotrichaceae科に属する細菌、Bacteroidales目S24-7科に属する細菌、Clostridiales目に属する細菌、Clostridiales目Peptococcaceae科に属する細菌、Bacteroides属に属する細菌、Gemella属に属する細菌、Adlercreutzia属に属する細菌、Lachnospiraceae科に属する細菌、Anaeroplasma属に属する細菌、Desulfovibrionaceae科に属する細菌、Dorea属に属する細菌、Christensenellaceae科に属する細菌、Pseudomonas属に属する細菌、Escherichia属に属する細菌、及びMollicutes綱RF39目に属する細菌からなる群から選択される1つ以上の細菌の、
うつ病の診断のためのバイオマーカーとしての使用である。
【0013】
本発明のバイオマーカーは生体試料中に含まれるものである。生体試料としては、例えば糞便、血漿、血清、血液、肝臓、唾液などを挙げることができる。非侵襲的又は低侵襲的であるという観点からは、生体試料は糞便又は血漿であることが好ましい。
【0014】
生体試料は、当業者に既知の方法により被検対象から採取することができる。
【0015】
細菌叢解析を行う場合、当業者に既知の方法により、糞便からDNAを単離することができる。例えば、市販の試薬やキット(例えば、QuickGene-810 system、QuickGene DNA tissue KIT、倉敷紡績株式会社、大阪、日本)をキットに添付されているプロトコルに従って行うことができる。
代謝物の解析を行う場合、当業者に既知の方法により、生体試料から低分子代謝物を抽出することができる。例えば、肝臓及び血漿試料からの低分子代謝物の抽出は非特許文献2~3に記載される方法に基づき行うことができ、糞便からの低分子代謝物の抽出は非特許文献4に記載される方法に基づき行うことができる。特に限定されないが、糞便から低分子代謝物を抽出するとき、例えば2~10倍等の任意の倍率で糞便を希釈し、その希釈した糞便を遠心分離し、その遠心上清を用いて抽出を行ってもよい。
生体試料から回収したDNAや低分子代謝物は、任意で凍結保存してもよく、随時調製してもよい。
【0016】
各バイオマーカーの測定方法は、そのバイオマーカーを測定できる限り特に限定されない。バイオマーカーが代謝物であるとき、バイオマーカーの測定は、例えば、生体試料が血漿や肝臓であれば、ガスクロマトグラフィー-タンデム質量分析(GC/MS/MS)によって行ってもよく、生体試料が糞便であれば、GCMS-QP2010 Ultra(島津製作所)によって行ってもよい。また、バイオマーカーが細菌であるとき、バイオマーカーの測定は、例えば、次世代シーケンス解析により行ってもよく、マイクロアレイ法により行ってもよく、定量PCR法により行ってもよい。いずれの測定方法も当業者に既知の方法により行うことができる。
【0017】
バイオマーカーが代謝物であるとき、バイオマーカーとして有用な代謝物は、表1に記載されるものである。これらの代謝物は、うつ病を有する対象から採取した生体試料と、うつ病を有しない対象から採取した生体試料との間で、有意に存在比が異なる代謝物であるため、うつ病のバイオマーカーとして好ましく利用できる。
【0018】
生体試料が糞便の場合は、表2に記載される代謝物からなる群から選択される1つ以上の代謝物をうつ病のバイオマーカーとしてより好ましく利用でき、生体試料が血漿の場合は、表3に記載される代謝物からなる群から選択される1つ以上の代謝物をうつ病のバイ
オマーカーとしてより好ましく利用でき、さらに、生体試料が肝臓の場合は、表4に記載される代謝物からなる群から選択される1つ以上の代謝物をうつ病のバイオマーカーとしてより好ましく利用できる。これらの代謝物はそれぞれ、うつ病を有する対象から採取した生体試料と、うつ病を有しない対象から採取した生体試料との間で、有意に存在比が異なる代謝物である。
さらに、後述のVIPスコアの測定結果に鑑み、糞便中及び血漿中のいずれにおいてもVIPスコアが高い3-Aminopropanoic acid及び2-Ketoisocaproic acidは、うつ病のバイオマーカーとして特に有用である。
【0019】
また、バイオマーカーが細菌であるとき、バイオマーカーとして有用な細菌は、Alistipes属に属する細菌、Coprococcus属に属する細菌、Rikenellaceae科に属する細菌、Erysipelotrichaceae科に属する細菌、Bacteroidales目S24-7科に属する細菌、Clostridiales目に属する細菌、Clostridiales目Peptococcaceae科に属する細菌、Bacteroides属に属する細菌、Gemella属に属する細菌、Adlercreutzia属に属する細菌、Lachnospiraceae科に属する細菌、Anaeroplasma属に属する細菌、Desulfovibrionaceae科に属する細菌、Dorea属に属する細菌、Christensenellaceae科に属する細菌、Pseudomonas属に属する細菌、Escherichia属に属する細菌、及びMollicutes綱RF39目に属する細菌からなる群から選択される1つ以上の細菌である。これらの細菌は、うつ病を有する対象から採取した生体試料と、うつ病を有しない対象から採取した生体試料との間で、有意に存在比が異なる細菌であるため、うつ病のバイオマーカーとして好ましく利用できる。
これらの細菌の中でも、Gemella属に属する細菌、Adlercreutzia属に属する細菌、Anaeroplasma属に属する細菌、Desulfovibrionaceae科に属する細菌及びAlistipes属に属する細菌は、うつ病を有しない対象から採取した生体試料において存在が確認できなかった細菌であるためうつ病に関与するバイオマーカーとして特に好ましく利用できる。
なお、本明細書において、属名が記載されている細菌に関しては、細菌の種や株に関しては特に限定されず、また科名が記載されている細菌に関しては、細菌の属、種や株に関しては特に限定されない。
【0020】
被検対象は、うつ病を発症し得る対象であり、本発明のバイオマーカーをうつ病の診断に使用できる限り特に限定されず、典型的にはヒトであるが、イヌやネコなどの愛玩動物、ウシ、ウマ、ブタなどの家畜動物、マウス、ラットなどの実験動物など、どのような哺乳動物であってもよい。
【0021】
本発明におけるいずれの代謝産物もPubChemやHMDB(The Human Metabolome Database)等のデータベースに開示されている。
【0022】
本発明において、「うつ病」は、例えば大うつ病性障害(major depressive disorder)等が挙げられる。大うつ病性障害は、気分障害(mood and anxiety disorder)の一種であり、抑うつ行動や不安行動、意欲行動の低下などにより特徴付けられる。双極性障害や統合失調症などとは区別される。
【0023】
うつ病の診断は、現状を診断するものであってもよく、またうつ病の発症リスクを事前に予測するための診断であってよく、すなわち予測診断又は事前診断であってもよい。
具体的には、うつ病の診断は、被検対象から採取された生体試料中におけるバイオマーカーの量と、コントロール対象から採取された生体試料中におけるバイオマーカーの量とを比較し、被検対象由来のバイオマーカーの量が、前記コントロール対象由来のバイオマ
ーカーの量と比較して有意差がある場合に、被検対象がうつ病を有する、うつ病が重症である及び/又はうつ病を発症するリスクがあると判定、評価及び/又は予測することができるものであってもよい。被検対象から採取された生体試料中におけるバイオマーカーの量が有意に増加するか、それとも有意に減少するかは、測定するバイオマーカーに依存する。
または、当業者に既知の方法である、R statistical package version 3.6.2(https://www.r-project.org/)とMetaboAnalyst 5.0を用いた解析によりVIP(variable importance of projection)スコアを算出し、特に限定されないが、VIPスコアが1.2以上、1.5以上、若しくは2.0以上である場合、VIPスコアが上位20以内、15位以内、若しくは10位以内である場合、又はVIPスコアが上位20%以内、上位15%以内、若しくは上位10%以内である場合に、被検対象がうつ病を有する及び/又はうつ病が重症である及び/又はうつ病を発症するリスクがあると判定、評価及び/又は予測することができるものであってもよい。
ただし、本発明において、うつ病の診断、判定、評価及び/又は予測について、最終的な判断行為は含まれず、医師が診断等するための材料を提供するまでを指す。
【0024】
また、例えば、特定のバイオマーカーに関して有意差があった場合にうつ病が重症であると判断してもよく、有意差が生じたバイオマーカーの個数に応じて重症であると判断してもよい。
コントロール対象とは、例えば、うつ病を有しない対象のことである。
【0025】
有意差検定は、当業者に既知の検定を使用することができ、例えば、Tukey-Kramer法によって行うことができる。有意差があるとは、特に限定されないが、例えば、p値が0.05未満としてもよく、p値が0.01未満としてもよく、p値が0.001未満としてもよい。なお、p値が0.1未満の場合は、傾向有りと判断することが可能である。
また、任意でq値によって閾値を設定してもよく、特に限定されないが、例えばq値が0.5未満としてもよく、0.4未満としてもよく、0.3未満としてもよく、0.2未満としてもよく、0.1未満としてもよい。
【0026】
うつ病の診断は、バイオマーカー1種の測定結果のみに基づくものであってもうつ病を有すると判断することができるが、複数のバイオマーカーの測定結果を組み合わせることによって、うつ病のより正確な判定、評価及び/又は予測を行うことができる。複数のバイオマーカーとは、2種以上、3種以上、4種以上、5種以上、6種以上、7種以上、8種以上、9種以上、10種以上、15種以上、20種以上、25種以上、30種以上、35種以上、40種以上であってもよく、また、例えば、100種以下、50種以下、40種以下、30種以下、20種以下であってもよい。下限と上限は任意に組み合わせることが出来るが、例えば、1種以上かつ100種以下、2種以上かつ50種以下、3種以上かつ40種以下、5種以上かつ30種以下、10種以上かつ20種以下としてもよい。複数のバイオマーカーを用いるときは、複数のバイオマーカーの測定結果に基づきリスクスコアを算出して、そのリスクスコアによって診断を行ってもよい。
例えば、特に限定されないが、複数のバイオマーカーが代謝物の組み合わせを含むとき、3-Aminopropanoic acid及び2-Ketoisocaproic acidから成る群から選択される代謝物を少なくとも1つ以上含むことが好ましい。
また、例えば、特に限定されないが、複数のバイオマーカーが細菌の組み合わせを含むとき、Gemella属に属する細菌、Adlercreutzia属に属する細菌、Anaeroplasma属に属する細菌、Desulfovibrionaceae科に属する細菌及びAlistipes属に属する細菌から成る群から選択される細菌を少なくとも1つ以上含むことが好ましい。
【0027】
また、うつ病の診断は、予め被検対象と同じ種である健常な哺乳動物(例えば健常人)の生体試料中のこれらのバイオマーカーの値を基準値として設定しておけば、被検対象から採取された生体試料中におけるバイオマーカーの量がその基準値を超えた又は下回った場合に、うつ病であると診断することもできる。
【0028】
さらに、本実施形態のバイオマーカーは、ストレス感受性の判定、評価及び/又は予測のためのバイオマーカーとして使用してもよい。
【0029】
生体試料が糞便の場合、例えば、ストレス感受性の判定、評価及び/又は予測のためのバイオマーカーとしては、表5に記載される代謝物からなる群から選択される1つ以上の代謝物、並びに/又はAlistipes属に属する細菌及びCoprococcus属に属する細菌からなる群から選択される1つ以上の細菌を挙げることができる。
また、生体試料が血漿の場合、例えば、ストレス感受性の判定、評価及び/又は予測のためのバイオマーカーとしては、表6に記載される代謝物からなる群から選択される1つ以上の代謝物を挙げることができる。
【0030】
表5又は表6に記載される代謝物は、後述のVIPスコアの測定結果より、VIPスコア高い代謝物であることが示された代謝物である。
さらに、後述のVIPスコアの測定結果に鑑み、糞便中及び血漿中のいずれにおいてもVIPスコアが高い3-Aminopropanoic acid及び2-Ketoisocaproic acidは、ストレス感受性に関するバイオマーカーとして特に有用である。
また、Alistipes属に属する細菌及びCoprococcus属に属する細菌はいずれも、後述の細菌叢解析の結果ストレス感受性に関与することが示された細菌である。
【0031】
ストレス感受性の判定、評価及び/又は予測は、被検対象から採取された生体試料中におけるバイオマーカーの量と、ストレス耐性を有するコントロール対象から採取された生体試料中におけるバイオマーカーの量とを比較し、被検対象由来のバイオマーカーの量が、前記ストレス耐性を有するコントロール対象由来のバイオマーカーの量と比較して有意差がある場合に、被検対象はストレス感受性が高いと判定、評価及び/又は予測することができるものであってもよい。被検対象から採取された生体試料中におけるバイオマーカーの量が有意に増加するか、それとも有意に減少するかは、測定するバイオマーカーに依存する。
または、当業者に既知の方法によりVIP(variable importance
of projection)スコアを算出し、特に限定されないが、VIPスコアが1.2以上、1.5以上、若しくは2.0以上である場合、VIPスコアが上位20以内、15位以内、若しくは10位以内である場合、又はVIPスコアが上位20%以内、上位15%以内、若しくは上位10%以内である場合に、被検対象はストレス感受性が高いと判定、評価及び/又は予測することができるものであってもよい。
ストレス感受性の判定、評価及び/又は予測におけるコントロール対象とは、例えば、うつ病を有し且つストレス耐性を有する対象のことである。
【0032】
有意差検定は、当業者に既知の検定を使用することができ、例えば、Tukey-Kramer法によって行うことができる。有意差があるとは、特に限定されないが、例えば、p値が0.05未満としてもよく、p値が0.01未満としてもよく、p値が0.001未満としてもよい。なお、p値が0.1未満の場合は、傾向有りと判断することが可能である。
また、任意でq値によって閾値を設定してもよく、特に限定されないが、例えばq値が
0.5未満としてもよく、0.4未満としてもよく、0.3未満としてもよく、0.2未満としてもよく、0.1未満としてもよい。
【0033】
ストレス感受性の判定、評価及び/又は予測は、バイオマーカー1種の測定結果のみに基づくものであってもうつ病を有すると判断することができるが、複数のバイオマーカーの測定結果を組み合わせることによって、ストレス感受性のより正確な判定、評価及び/又は予測を行うことができる。複数のバイオマーカーとは、2種以上、3種以上、4種以上、5種以上、6種以上、7種以上、8種以上、9種以上、10種以上、15種以上、20種以上、25種以上、30種以上、35種以上、40種以上であってもよく、また、例えば、100種以下、50種以下、40種以下、30種以下、20種以下であってもよい。下限と上限は任意に組み合わせることが出来るが、例えば、1種以上かつ100種以下、2種以上かつ50種以下、3種以上かつ40種以下、5種以上かつ30種以下、10種以上かつ20種以下としてもよい。複数のバイオマーカーを用いるときは、複数のバイオマーカーの測定結果に基づきリスクスコアを算出して、そのリスクスコアによって診断を行ってもよい。
例えば、特に限定されないが、複数のバイオマーカーが代謝物の組み合わせを含むとき、3-Aminopropanoic acid及び2-Ketoisocaproic acidから成る群から選択される代謝物を少なくとも1つ以上含むことが好ましい。
また、例えば、特に限定されないが、複数のバイオマーカーが細菌の組み合わせを含むとき、Alistipes属に属する細菌及びCoprococcus属に属する細菌から成る群から選択される細菌を少なくとも1つ以上含むことが好ましい。
【0034】
また、ストレス感受性の判定、評価及び/又は予測は、予め被検対象と同じ種であるうつ病を有し且つストレス耐性を有する哺乳動物の生体試料中のこれらのバイオマーカーの値を基準値として設定しておけば、被検対象から採取された生体試料中におけるバイオマーカーの量がその基準値を超えた又は下回った場合に、ストレス感受性が高いと判定、評価及び/又は予測することもできる。
【0035】
<うつ病の病状、重症度及び/又は発症リスクを判定、評価及び/又は予測するための方法、並びにストレス感受性を判定、評価及び/又は予測するための方法>
本発明の他の実施態様は、被検対象におけるうつ病の病状、重症度及び/又は発症リスクを判定、評価及び/又は予測するための方法であって、
前記被検対象から採取された生体試料における、上述の<うつ病の診断のためのバイオマーカー>の項に記載するいずれかのバイオマーカーの量を測定する工程、
前記被検対象由来のバイオマーカーの量を、コントロール対象から採取された生体試料中におけるバイオマーカーの量と比較する工程、及び
前記被検対象由来のバイオマーカーの量が、前記コントロール対象由来のバイオマーカーの量よりと比較して有意差がある場合、若しくはVIPスコアを指標としてVIPスコアが1.2以上の場合に、被検対象がうつ病を有する、うつ病が重症である及び/又は発症リスクを有すると判定、評価及び/又は予測される工程
を含む、方法である。
【0036】
また、本実施形態は、被検対象がうつ病を有する対象であるとき、前記被検対象におけるストレス感受性を判定、評価及び/又は予測するための方法であって、
前記被検対象から採取された生体試料における、上述の<うつ病の診断のためのバイオマーカー>の項においてストレス感受性の判定、評価及び/又は予測のためのバイオマーカーとして記載するいずれかのバイオマーカーの量を測定する工程、
前記被検対象由来のバイオマーカーの量を、うつ病を有し且つストレス耐性を有するコントロール対象から採取された生体試料中におけるバイオマーカーの量と比較する工程、及び
前記被検対象由来のバイオマーカーの量が、前記うつ病を有し且つストレス耐性を有するコントロール対象由来のバイオマーカーの量よりと比較して有意差がある場合、若しくはVIPスコアを指標としてVIPスコアが1.2以上の場合に、被検対象はストレス感受性が高いと判定、評価及び/又は予測される工程
を含む、方法であってもよい。
【0037】
うつ病の病状、重症度及び/又は発症リスクを判定、評価及び/又は予測するための方法、並びにストレス感受性を判定、評価及び/又は予測するための方法における各記載は、上述の<うつ病の診断のためのバイオマーカー>の項の記載を援用することができる。
【0038】
<うつ病の病状、重症度及び/又は発症リスクを判定、評価及び/又は予測するためのプログラム、並びにストレス感受性を判定、評価及び/又は予測するためのプログラム>
本発明の他の実施態様は、被検対象におけるうつ病の病状、重症度及び/又は発症リスクを判定、評価及び/又は予測するためのプログラムであって、
以下の手順(1)及び(2)を情報処理装置に実行させるためのプログラムである:
(1)前記被検対象から採取された生体試料における上述の<うつ病の診断のためのバイオマーカー>の項に記載するいずれかのバイオマーカーの量の入力された測定データ、及びコントロール対象から採取された生体試料におけるバイオマーカーの量の入力された測定データに基づき、被検対象由来の測定データとコントロール対象由来の測定データとの間で有意差があるかどうかを算出する手順、
(2)前記算出した結果、両者の測定データの間で有意差があった場合、若しくはVIPスコアを指標としてVIPスコアが1.2以上の場合に、被検対象がうつ病を有する、うつ病が重症である及び/又は発症リスクを有するとの判定、評価及び/又は予測を表示する手順。
【0039】
また、本実施形態は、被検対象がうつ病を有する対象であるとき、前記被検対象におけるストレス感受性を判定、評価及び/又は予測するためのプログラムであって、
以下の手順(1)及び(2)を情報処理装置に実行させるためのプログラムであってもよい:
(1)前記被検対象から採取された生体試料における上述の<うつ病の診断のためのバイオマーカー>の項においてストレス感受性の判定、評価及び/又は予測のためのバイオマーカーとして記載するいずれかのバイオマーカーの量の入力された測定データ、及びコントロール対象から採取された生体試料におけるバイオマーカーの量の入力された測定データに基づき、被検対象由来の測定データとうつ病を有し且つストレス耐性を有するコントロール対象由来の測定データとの間で有意差があるかどうかを算出する手順、
(2)前記算出した結果、両者の測定データの間で有意差があった場合、若しくはVIPスコアを指標としてVIPスコアが1.2以上の場合に、被検対象はストレス感受性が高いとの判定、評価及び/又は予測を表示する手順。
【0040】
本実施形態のプログラムは、さらに、測定データを入力する手順を含んでもよい。
【0041】
本実施形態のプログラムの情報処理装置への実装方法は、当業者に既知の方法により行うことができる。例えば、上述のプログラムを記録した情報処理装置読み取り可能な記録媒体を介して、情報処理装置に実装することができる。本実施形態において、情報処理装置とは、典型的にはコンピュータである。
【0042】
うつ病の病状、重症度及び/又は発症リスクを判定、評価及び/又は予測するためのプログラム、並びにストレス感受性を判定、評価及び/又は予測するためのプログラムにおける各記載は、上述の<うつ病の診断のためのバイオマーカー>の項の記載を援用することができる。
【0043】
<うつ病の病状、重症度及び/又は予測を判定、評価及び/又は予測するためのキット、並びにストレス感受性を判定、評価及び/又は予測するためのキット>
本発明の他の実施態様は、被検対象におけるうつ病の病状、重症度及び/又は発症リスクを判定、評価及び/又は予測するためのキットであって、
前記被検対象から採取された糞便試料における、Alistipes属に属する細菌、Coprococcus属に属する細菌、Rikenellaceae科に属する細菌、Erysipelotrichaceae科に属する細菌、Bacteroidales目S24-7科に属する細菌、Clostridiales目に属する細菌、Clostridiales目Peptococcaceae科に属する細菌、Bacteroides属に属する細菌、Gemella属に属する細菌、Adlercreutzia属に属する細菌、Lachnospiraceae科に属する細菌、Anaeroplasma属に属する細菌、Desulfovibrionaceae科に属する細菌、Dorea属に属する細菌、Christensenellaceae科に属する細菌、Pseudomonas属に属する細菌、Escherichia属に属する細菌、及びMollicutes綱RF39目に属する細菌からなる群から選択される1つ以上の細菌の量を測定するための試薬を含み、
前記試薬が、少なくとも1つの前記細菌のRNAを特異的に検出する核酸プローブ及び/又は核酸プライマー
を含む、キットである。
【0044】
また、本実施形態は、被検対象がうつ病を有する対象であるとき、前記被検対象におけるストレス感受性を判定、評価及び/又は予測するためのキットであって、
前記被検対象から採取された糞便試料における、Alistipes属に属する細菌及びCoprococcus属に属する細菌からなる群から選択される1つ以上の細菌の量を測定するための試薬を含み、
前記試薬が、少なくとも1つの前記細菌のRNAを特異的に検出する核酸プローブ及び/又は核酸プライマー
を含む、キットであってもよい。
【0045】
細菌のRNAを特異的に検出する核酸プローブとしては、例えば、当該RNAのヌクレオチド配列の一部又は全部に相補的な10塩基以上(例えば、10~24塩基、好ましくは15~24塩基)の連続したヌクレオチド配列を含み、当該RNAにハイブリダイズすることが可能なポリヌクレオチドを挙げることができる。そのような核酸プローブは、本明細書に記載されたRNAの情報等に基づいて、既知の方法により適宜設計することができ、または市販の核酸プローブを用いることもできる。
細菌のRNAを特異的に検出する核酸プライマーは、RNAのヌクレオチド配列の一部又は全部の領域を特異的に増幅し得るように設計されたものである限り、いかなる配列を有するものであってもよい。
【0046】
核酸プローブ及び/又は核酸プライマーは、任意の標識剤、例えば、放射性同位元素、酵素、蛍光物質、発光物質、ビオチン等で標識されていてもよい。
【0047】
本実施形態のキットは、さらに、RNAの測定法に依存して、RNAを抽出する試薬、内部標準試薬、定量PCR用試薬、マイクロアレイ用メンブレンなどを適宜含むものであってもよい。
【0048】
うつ病の病状、重症度及び/又は発症リスクを判定、評価及び/又は予測するためのキット、並びにストレス感受性を判定、評価及び/又は予測するためのキットにおける各記載は、上述の<うつ病の診断のためのバイオマーカー>の項の記載を援用することができる。
【0049】
<うつ病の治療薬をスクリーニングする方法及び/又は評価方法、並びにストレスに対する耐性の向上剤をスクリーニングする方法及び/又は評価方法>
本発明の他の実施態様は、うつ病の治療薬をスクリーニングする方法及び/又は評価方法であって、
治療薬の候補物質を投与されたうつ病を有する対象から採取された生体試料における上述の<うつ病の診断のためのバイオマーカー>の項に記載するいずれかのバイオマーカーの量を測定する工程、
うつ病を有する対象における前記治療薬の候補物質を投与された後における前記バイオマーカーの量を、前記治療薬の候補物質を投与されていないうつ病を有する対象における前記バイオマーカーの量と比較する、又はうつ病を有する対象における前記治療薬の候補物質を投与された後における前記バイオマーカーの量を、このうつ病を有する対象における前記治療薬の候補物質を投与される前における前記バイオマーカーの量と比較する工程、及び
うつ病を有する対象における前記候補物質を投与された後における前記バイオマーカーの量が、前記治療薬の候補物質を投与されていないうつ病を有する対象における前記バイオマーカーの量と比較して有意差があった場合又はうつ病を有する対象における前記候補物質を投与された後における前記バイオマーカーの量が、このうつ病を有する対象における前記治療薬の候補物質を投与される前における前記バイオマーカーの量と比較して有意差があった場合、若しくはVIPスコアを指標としてVIPスコアが1.2以上の場合、前記候補物質がうつ病の治療薬として有効であると評価される工程
を含む、スクリーニングする方法及び/又は評価方法である。
【0050】
具体的な手順は、例えば、以下に記載する通りである。
うつ病を有する対象を2群に分け、1つの群は治療薬の候補物質を投与する群とし、他方の群は治療薬の候補物質を投与しない群とする。治療薬の候補物質を投与した群の対象由来の生体試料と治療薬の候補物質を投与しない群由来の生体試料を採取し、それぞれの群間において上述のうつ病に関するバイオマーカーの量を比較する。比較した結果、治療薬の候補物質を投与した群の測定値が、治療薬の候補物質を投与されていないうつ病を有する対象における前記バイオマーカーの量と比較して有意差があり、またうつ病を有しない健常群の測定値と比較して有意差が無い場合、用いた治療薬の候補物質を、うつ病の治療薬の候補として選択することができる。
また、うつ病を有する対象において、治療薬の候補物質を投与した前と後のそれぞれにおいて生体試料を採取し、治療薬の候補物質を投与した後の生体試料における上述のうつ病に関するバイオマーカーの量が、治療薬の候補物質を投与する前の生体試料における当該バイオマーカーの量と比較する。比較した結果、治療薬の候補物質を投与した後の生体試料中の当該バイオマーカーの量が、治療薬の候補物質を投与する前の生体試料中の当該バイオマーカーの量と比較して有意差があり、またうつ病を有しない健常群の測定値と比較して有意差が無い場合、用いた治療薬の候補物質を、うつ病の治療薬の候補として選択することができる。
対象への投与は、経口、静注、塗布などの投与形態を用いることができるが、飼料中又は、給水中に被検物質を添加しておくことが好ましい。
【0051】
また、本実施形態は、うつ病を有する対象におけるストレスに対する耐性の向上剤をスクリーニングする方法及び/又は評価方法であって、
向上剤の候補物質を投与されたうつ病を有し且つストレス感受性が高い対象から採取された生体試料における上述の<うつ病の診断のためのバイオマーカー>の項においてストレス感受性の判定、評価及び/又は予測のためのバイオマーカーとして記載するいずれかのバイオマーカーの量を測定する工程、
うつ病を有し且つストレス感受性が高い対象における前記治療薬の候補物質を投与された後における前記バイオマーカーの量を、前記治療薬の候補物質を投与されていないうつ病を有し且つストレス感受性が高い対象における前記バイオマーカーの量と比較する、又はうつ病を有し且つストレス感受性が高い対象における前記治療薬の候補物質を投与された後における前記バイオマーカーの量を、このうつ病を有し且つストレス感受性が高い対象における前記治療薬の候補物質を投与される前における前記バイオマーカーの量と比較する工程、及び
うつ病を有し且つストレス感受性が高い対象における前記候補物質を投与された後における前記バイオマーカーの量が、前記治療薬の候補物質を投与されていないうつ病を有し且つストレス感受性が高い対象における前記バイオマーカーの量と比較して有意差があった場合、又はうつ病を有し且つストレス感受性が高い対象における前記候補物質を投与された後における前記バイオマーカーの量が、このうつ病を有し且つストレス感受性が高い対象における前記治療薬の候補物質を投与される前における前記バイオマーカーの量と比較して有意差があった場合、若しくはVIPスコアを指標としてVIPスコアが1.2未満となった場合、前記候補物質がうつ病の治療薬として有効であると評価される工程
を含む、スクリーニングする方法及び/又は評価方法であってもよい。
【0052】
具体的な手順は、例えば、以下に記載する通りである。
うつ病を有し且つストレス感受性が高い対象を2群に分け、1つの群はストレスに対する耐性の向上剤の候補物質を投与する群とし、他方の群は該向上剤の候補物質を投与しない群とする。該向上剤の候補物質を投与した群の対象由来の生体試料と該向上剤の候補物質を投与しない群由来の生体試料を採取し、それぞれの群間において上述のストレス感受性の判定、評価及び/又は予測のためのバイオマーカーの量を比較する。比較した結果、該向上剤の候補物質を投与した群の測定値が、該向上剤の候補物質を投与されていないうつ病を有し且つストレス感受性が高い対象における前記バイオマーカーの量と比較して有意差があり、またうつ病を有し且つストレス耐性が高い群の測定値と比較して有意差が無い場合、用いた該向上剤の候補物質を、ストレスに対する耐性の向上剤の候補として選択することができる。
また、うつ病を有し且つストレス感受性が高い対象において、ストレスに対する耐性の向上剤の候補物質を投与した前と後のそれぞれにおいて生体試料を採取し、該向上剤の候補物質を投与した後の生体試料における上述のうつ病に関するバイオマーカーの量が、該向上剤の候補物質を投与する前の生体試料における当該バイオマーカーの量と比較する。比較した結果、該向上剤の候補物質を投与した後の生体試料中の当該バイオマーカーの量が、該向上剤の候補物質を投与する前の生体試料中の当該バイオマーカーの量と比較して有意差があり、またうつ病を有し且つストレス感受性が高い群の測定値と比較して有意差が無い場合、用いた該向上剤の候補物質を、ストレスに対する耐性の向上剤の候補として選択することができる。
対象への投与は、経口、静注、塗布などの投与形態を用いることができるが、飼料中又は、給水中に被検物質を添加しておくことが好ましい。
【0053】
うつ病の治療薬をスクリーニングする方法及び/又は評価方法、並びにストレスに対する耐性の向上剤をスクリーニングする方法及び/又は評価方法における各記載は、上述の<うつ病の診断のためのバイオマーカー>の項の記載を援用することができる。
【実施例0054】
以下に実施例を用いて本発明を説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0055】
<実施例1:社会的敗北ストレスモデルマウス(うつ病モデルマウス)の作製>
C57BL/6J系統(B6)のマウス(7週齢、雄性、日本クレア株式会社)を、2
3±2℃、湿度50-60%、明期12時間、暗期12時間の明暗サイクル下(7:00点灯、19:00消灯)で1週間飼育した(馴化飼育)。B6マウスの飼料としては、AIN-93G(オリエンタル酵母工業)を用い、実験の全期間を通して自由摂餌とした。馴化終了後、既報(非特許文献5、6)に従い、ICR系統(ICR)のマウス(リタイア、雄性、日本クレア株式会社)による10日間(Day1~Day10)の社会的敗北ストレスをB6マウスに負荷し、社会的敗北ストレスモデルマウスを得た。このようにして得た社会的敗北ストレスモデルマウスは、世界中で使用されている代表的なうつ病の動物モデルである。また、上記のように社会的敗北ストレスモデルマウスを作製した場合において、社会的敗北ストレスに対して脆弱であるマウス(以下、脆弱性マウスとも言う)と、社会的敗北ストレスに対する耐性を有するマウス(以下、耐性マウスとも言う)が出現することが知られている。社会的敗北ストレスに脆弱であるか、または社会的敗北ストレスに耐性を有するかは、当業者に既知の方法により社会行動スコアを測定することに判断できる(非特許文献7)。すなわち、社会行動スコア(ターゲットマウス不在率)は、箱内に設けられたケージ内に他のマウス(以下、ターゲットマウスともいう)を入れ、そのターゲットマウスの存在時又は不在時のそれぞれにおいて、スコア測定対象マウスがそのケージ周辺に滞在する時間をそれぞれ測定し、次の式を用いて算出することができる。
社会行動スコア=(ターゲットマウス存在時の行動時間/ターゲットマウス不在時の行動時間)×100
社会行動スコアが100以上であるとき、耐性マウスと評価することができ、社会行動スコアが100未満であるとき、脆弱性マウスと評価することができる。
【0056】
本発明者は、上記方法により社会的敗北ストレスマウスを作製した。社会的敗北ストレスを10日間負荷した翌日に、そのマウスにおける社会行動スコアを測定した結果を
図1に示す。社会的敗北ストレスを与えられていないコントロールマウス群(n=7、図中においてcontrolと示す)と比較して、脆弱性マウス群(n=6、図中においてSusceptibleと示す)は社会行動スコアが大きく低下することが示された。一方で、耐性マウス群(n=7、図中においてResilientと示す)は、脆弱性マウス群と比較して社会行動スコアが大きく上昇することが示された。なお、コントロールマウス群と耐性マウス群の社会行動スコアは同程度であることが示された。データはmean±SEM(標準誤差)で示す。
【0057】
<実施例2:社会的敗北ストレスモデルマウスを用いた糞便の細菌叢解析>
社会的敗北ストレスを10日間負荷した翌日(Day11)に各種マウスの糞便を採取した。採取した糞便は解析まで-80℃で保存した。
その糞便を用いた細菌叢の網羅的解析は、次世代シーケンサーを用いて行った。糞便から市販のキット(QuickGene-810 system、QuickGene DNA tissue KIT、倉敷紡績株式会社、大阪、日本)を用いて、メーカーの説明書に従ってDNAを単離した。DNAを単離した後、当業者に既知の方法により、2段階のtailedポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を行い、16S rDNAライブラリを構築した。PCR領域は16S rDNAのV3領域とV4領域であった。MiSeqを用いた配列解析は、当業者に既知の方法により実施した。配列解析後、得られたデータは、QIMEを用いて解析し、門レベルから属レベルまでの操作的分類単位(operational taxonomic unit;OTU)を分類した。
【0058】
社会的敗北ストレスモデルマウスを用いた糞便の細菌叢解析の結果を、表7に示す。
【0059】
【0060】
データはmean±SEM(標準誤差)で示す(n=6-7)。統計解析はTukey-Kramer法にて行った。それぞれp値は次の通りである:Control vs Susceptible:*p<0.05、Control vs Resilient:†p<0.05、Resilient vs Susceptible:§p<0.05。
表中において、Genus levelの欄は、門(p:phylum)、綱(c:class)、目(o:order)、科(f:family)、属(g:genus)を示し、当該欄にこれらの分類が記載されていないものは属を示す。
【0061】
細菌叢解析の結果、173のOTUが同定された。それらのうちの18種類の細菌が、属レベルにおいて、コントロールマウス群と比較して、脆弱性マウス群及び/又は耐性マウス群では存在比が異なることが示された(表7)。すなわち、コントロールマウス群とは異なる存在比を示すこれらの18種類の細菌は、うつ病に関与するバイオマーカーとして有用であることが示唆された。また、特にGemella属に属する細菌、Adlercreutzia属に属する細菌、Anaeroplasma属に属する細菌、Desulfovibrionaceae科に属する細菌及びAlistipes属に属する細菌は、コントロールマウス群においては存在が確認されず、社会的敗北ストレスモデルマウスのみに存在が確認でき、うつ病に関与するバイオマーカーとして特に有用であることが示唆された。
さらに、Coprococcus属に属する細菌及びAlistipes属に属する細菌では、脆弱性マウス群と耐性マウス群とを比較した場合においても細菌の存在比が異なることが示された(表7)。すなわち、Coprococcus属に属する細菌では、脆弱性マウス群は、耐性マウス群と比較して有意に存在比が増加することが示された。また、Alistipes属に属する細菌では脆弱性マウス群は、耐性マウス群と比較して有意に存在比が低下することが示された。すなわち、Coprococcus及びAlistipesは、ストレス感受性に関与するバイオマーカーとして有用であることが示唆された。
【0062】
<実施例3:社会的敗北ストレスモデルマウスを用いた糞便、血漿、肝臓の代謝物(メタボローム)解析>
社会的敗北ストレスを10日間負荷した翌日(Day11)に各種マウスの糞便を採取した。さらにその翌日(Day12)、3時間絶食させた後にマウスの血漿及び肝臓を採取した。血漿は、イソフルラン麻酔下で腹部大静脈採血により血液を採取し、遠心分離(10分、1,200×g、4℃)の後、上清を回収することで得た。肝臓は、マウスの断頭による安楽死後、採取した。これらの試料は、解析まで-80℃で保存した。
【0063】
血漿及び肝臓試料からの低分子代謝物の抽出は既報を参考にして行った(非特許文献2~3)。具体的にはマルガリン酸とテトラコサンの混合物(0.5mg/mL)10μLと内部標準としてトロピン酸(1mg/mL)10μL、トリメチルシリル化のためにN,O-bis(trimethylsilyl)trifluoroacetamide+1%trimethylchlorosilaneを100μLずつ添加した。
糞便試料からの低分子代謝物の抽出は既報を参考にして行った。具体的には、糞便試料に5倍量のMilli-Q水を加えた後、遠心分離を行った。遠心分離後、上清から低分子量代謝物の抽出を既知の方法により行った(非特許文献4)。
【0064】
血漿および肝臓試料に対しては、GCMS-TQ8040 NX(島津製作所、京都、日本)を用いてガスクロマトグラフィー-タンデム質量分析(GC/MS/MS)を実施した。マルチプルリアクションモニタリングを行い、データ処理はGCMSソリューション(島津製作所)及びSmart Metabolites Database(島津製作所)にて行った。定性分析では、内部標準物質(マルガリン酸)に対する各代謝物の面
積で代謝物量を算出した。
糞便試料に対しては、GCMS-QP2010 Ultra(島津製作所)を用いてガスクロマトグラフィー質量分析(GC/MS)を実施した。選択イオンモニタリングを行い、MS-DIAL(理化学研究所、東京、日本)を用いて半自動的にデータ処理を行った。定性分析では、内部標準物質(2-イソプロピルマレイン酸)に対する各代謝物の面積で代謝物量を算出した。
【0065】
社会的敗北ストレスモデルマウスを用いた糞便の代謝物解析の結果を、表8に示す。
【0066】
【0067】
データはmean±SEM(標準誤差)で示す(n=6-7)。統計解析はTukey-Kramer法にて行った。それぞれp値は次の通りである:Control vs Susceptible:*p<0.05、Control vs Resilient:†p<0.05、Resilient vs Susceptible:§p<0.05。
【0068】
糞便におけるGC-MSによる代謝物解析の結果、99種類の代謝物が検出された。q値の閾値をq<0.1としたとき、それらのうちの19種類の代謝物が、コントロールマウス群と比較して、脆弱性マウス群及び/又は耐性マウス群では存在比が異なることが示された(表8)。すなわち、コントロールマウス群とは異なる存在比を示すこれらの19種類の代謝物は、うつ病に関与するバイオマーカーとして有用であることが示唆された。
さらに、2-Ketoisocaproic acid、3-Methyl-2-oxovaleric acid、Fucose及びN-Acetylmannosamineでは、脆弱性マウス群と耐性マウス群とを比較した場合においても代謝物の存在比が異なることが示された(表8)。すなわち、これらの4種類の代謝物では、脆弱性マウス群
は、耐性マウス群と比較して有意に存在比が増加することが示された。すなわち、これらの4種類の代謝物は、ストレス感受性に関与するバイオマーカーとして有用であることが示唆された。
【0069】
次に、社会的敗北ストレスモデルマウスを用いた血漿の代謝物解析の結果を、表9に示す。
【0070】
【0071】
データはmean±SEM(標準誤差)で示す(n=6-7)。統計解析はTukey-Kramer法にて行った。それぞれp値は次の通りである:Control vs Susceptible:*p<0.05、Control vs Resilient:†p<0.05。
【0072】
血漿におけるGC-MS/MSによる代謝物解析の結果、275種類の代謝物が検出された。q値の閾値をq<0.1としたとき、それらのうちの48種類の代謝物が、コントロールマウス群と比較して、脆弱性マウス群及び/又は耐性マウス群では存在比が異なることが示された(表9)。すなわち、コントロールマウス群とは異なる存在比を示すこれらの48種類の代謝物は、うつ病に関与するバイオマーカーとして有用であることが示唆された。
【0073】
次に、社会的敗北ストレスモデルマウスを用いた肝臓の代謝物解析の結果を、表10に示す。
【0074】
【0075】
データはmean±SEM(標準誤差)で示す(n=6-7)。統計解析はTukey-Kramer法にて行った。それぞれp値は次の通りである:Control vs Susceptible:*p<0.05、Control vs Resilient:†p<0.05。
【0076】
肝臓におけるGC-MS/MSによる代謝物解析の結果、294種類の代謝物が検出された。q値の閾値をq<0.1としたとき、それらのうちの30種類の代謝物が、コントロールマウス群と比較して、脆弱性マウス群及び/又は耐性マウス群では存在比が異なることが示された(表10)。すなわち、コントロールマウス群とは異なる存在比を示すこれらの30種類の代謝物は、うつ病に関与するバイオマーカーとして有用であることが示唆された。
【0077】
<実施例4:糞便中代謝物及び血漿中代謝物におけるVIPスコア>
社会的敗北ストレスを受けたマウスのストレス感受性の差に関連する糞便中及び血漿中における代謝物を同定するために、各代謝物データに対してそれぞれ、当業者に既知の方法により、多変量解析であるOrthogonal partial least squares discriminant analysis(OPLS-DA)を行い(
図2)、ストレス感受性に関連する代謝物を選択した。なお、
図2中、四角形で表されるマーカーは耐性マウス群を示し、三角形で表されるマーカーは脆弱性マウス群を示す。
p<0.05であるとき、統計的に有意であることを示す。q<0.1であるとき、差は統計的に有意であることを示す。データはmean±SEM(標準誤差)で示す。すべてのデータは、R statistical package version 3.6.2(https://www.r-project.org/)とMetaboAnalyst 5.0を用いて解析した。この解析によりVIP(variable importance of projection)スコアを算出した。本明細書において、VIPスコアとは、うつ病の判別への寄与の大きさを示すスコアである。そのVIPスコアに基づいて、各群を区別するために最も重要な上位20種類の代謝物を選択し、うつ病のバイオマーカーとして同定した(表11)。また、上記実施例3の記載等に鑑み、VIPスコアが上位に来る代謝物は、うつ病の判別に寄与するのみならず、ストレス感受性を評価にも寄与し得るものであることが示唆された。
【0078】
【0079】
<実施例5:社会的敗北ストレスモデルマウスを用いた肝臓の代謝物(メタボローム)解析>
実施例3に記載する方法と同様の方法により、社会的敗北ストレスモデルマウスを用いた肝臓の代謝物解析を行った。その結果、肝臓代謝物の1つであるSpermidineをマーカーとしたとき、Resilient vs Susceptible:p=0.0739であった。この結果から、脆弱性マウス群と耐性マウス群とを比較した場合において、肝臓におけるSpermidineの存在量が異なる傾向があることが示された(
図3A)。また、肝臓代謝物の1つであるSpermineをマーカーとしたとき、Resilient vs Susceptible:p=0.0620であり、Control vs Susceptible:0.0459であった。これらの結果から、脆弱性マウス群と耐性マウス群とを比較した場合において、肝臓におけるSpermineの存在量が異なる傾向があることが示され、またコントロールマウス群と脆弱性マウス群とを比較した場合において、肝臓におけるSpermineの存在量が有意に異なることが示された(
図3B)。
すなわち、SpermidineとSpermineは、うつ病に関与するバイオマーカーとして有用であることが示唆された。