(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024018646
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】ハブユニット軸受
(51)【国際特許分類】
F16C 33/78 20060101AFI20240201BHJP
F16C 19/18 20060101ALI20240201BHJP
F16C 33/58 20060101ALI20240201BHJP
F16J 15/3268 20160101ALI20240201BHJP
B60B 35/02 20060101ALI20240201BHJP
【FI】
F16C33/78 Z
F16C19/18
F16C33/58
F16J15/3268
B60B35/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022122098
(22)【出願日】2022-07-29
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000811
【氏名又は名称】弁理士法人貴和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 彩水
(72)【発明者】
【氏名】若林 達男
【テーマコード(参考)】
3J043
3J216
3J701
【Fターム(参考)】
3J043AA16
3J043BA02
3J043BA06
3J043CA02
3J043CA11
3J043CB13
3J043CB20
3J043DA20
3J216AA02
3J216AA03
3J216AA14
3J216AB03
3J216AB38
3J216BA30
3J216CA02
3J216CA04
3J216CB03
3J216CB04
3J216CB12
3J216CB13
3J216CC03
3J216CC14
3J216CC15
3J216CC16
3J216CC33
3J216CC41
3J216CC48
3J216CC70
3J216DA01
3J216DA11
3J216FA03
3J216GA03
3J701AA02
3J701AA16
3J701AA32
3J701AA43
3J701AA54
3J701AA62
3J701AA72
3J701AA82
3J701BA53
3J701BA56
3J701DA09
3J701EA03
3J701EA49
3J701FA13
3J701FA35
3J701GA03
3J701XB03
3J701XB24
(57)【要約】
【課題】摺接環がハブに対して軸方向内側に移動および回転することを抑えられるハブユニット軸受を提供する。
【解決手段】シール装置5は、摺接環20およびシールリング21を有し、転動体設置空間22の軸方向外側の開口を塞ぐ。ハブ3は、溝肩部23に、周方向に伸長する周方向溝37を有する。周方向溝37は、円周方向一方側に向かうにしたがって軸方向一方側に向かう方向に傾斜した第1傾斜部38と、円周方向一方側に向かうにしたがって軸方向他方側に向かう方向に傾斜した第2傾斜部39とを有する。摺接環20は、嵌合筒部24の内周面から径方向内側に突出し、かつ、周方向溝37に係合する係合凸部40を有する。係合凸部40は、第1傾斜部38に係合する円周方向箇所と、第2傾斜部39に係合する円周方向箇所との、両方の円周方向箇所に存在する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面に複列の外輪軌道を有する外輪と、
外周面に複列の内輪軌道を有し、かつ、前記外輪よりも軸方向外側に位置する部分に径方向外側に突出した回転フランジを有するハブと、
前記複列の外輪軌道と前記複列の内輪軌道との間に転動自在に配置された複数個の転動体と、
摺接環およびシールリングを有し、前記外輪の内周面と前記ハブの外周面との間に存在する転動体設置空間の軸方向外側の開口を塞ぐシール装置と、
を備え、
前記摺接環は、前記ハブの外周面のうち、軸方向外側の前記内輪軌道の軸方向外側に隣接する円筒面状の溝肩部に外嵌される嵌合筒部、および、該嵌合筒部の軸方向外側の端部から径方向外側に向けて伸長する側板部を有し、
前記シールリングは、前記外輪の軸方向外側の端部に固定され、かつ、前記嵌合筒部の外周面または前記側板部の軸方向内側面にその先端部を摺接させた少なくとも1本のシールリップを有し、
前記ハブは、前記溝肩部に、周方向に伸長する周方向溝を有し、
前記周方向溝は、円周方向一方側に向かうにしたがって軸方向一方側に向かう方向に傾斜した第1傾斜部と、円周方向一方側に向かうにしたがって軸方向他方側に向かう方向に傾斜した第2傾斜部とを有し、
前記摺接環は、前記嵌合筒部の内周面から径方向内側に突出し、かつ、前記周方向溝に係合する係合凸部を有し、
前記係合凸部は、前記第1傾斜部に係合する円周方向箇所と、前記第2傾斜部に係合する円周方向箇所との、両方の円周方向箇所に存在する、
ハブユニット軸受。
【請求項2】
前記係合凸部が、円周方向に離隔した複数箇所に備えられている、請求項1に記載のハブユニット軸受。
【請求項3】
前記係合凸部が、全周にわたり連続的に備えられている、請求項1に記載のハブユニット軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、自動車の車輪を懸架装置に対して回転自在に支持するためのハブユニット軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の車輪は、ハブユニット軸受により、懸架装置に対して回転自在に支持される。ハブユニット軸受は、内周面に複列の外輪軌道を有する外輪と、外周面に複列の内輪軌道を有し、かつ、外輪よりも軸方向外側に位置する部分に径方向外側に突出した回転フランジを有するハブと、複列の外輪軌道と複列の内輪軌道との間に転動自在に配置された複数個の転動体とを備える。
【0003】
なお、ハブユニット軸受に関して、軸方向外側は、車両に組み付けた状態で車両の幅方向外側であり、軸方向内側は、車両に組み付けた状態で車両の幅方向中央側である。
【0004】
ハブユニット軸受は、外輪の内周面とハブの外周面との間に存在する転動体設置空間の軸方向外側の開口を塞ぐシール装置をさらに備える。従来、このようなシール装置として、外輪の軸方向外側の端部に支持固定され、かつ、それぞれの先端部をハブの軸方向中間部外周面または回転フランジの軸方向内側面に全周にわたり摺接させた複数本のシールリップを有するシールリングが広く知られている。
【0005】
それぞれがシールリップの先端部を摺接させる部分である、ハブの軸方向中間部外周面および回転フランジの軸方向内側面には、総型の研削砥石である回転砥石を用いた仕上げの研削加工が施される。総型の研削砥石を用いてハブの表面に研削加工を施す際には、回転フランジの軸方向内側面に、対数螺旋状すなわち渦巻状の研削筋目が形成される可能性がある。このような研削筋目が形成されると、シールリップの先端部が回転フランジの軸方向内側面に貼り付いて摩擦抵抗が増大したり、シールリップの先端部が研削筋目の凹部の内側に深く入り込み、ハブが回転した際に、径方向に往復移動させられて振動し、シール鳴きと呼ばれる異音が発生したりする可能性がある。
【0006】
その対策として、特開2014-240679号公報には、外輪の軸方向外側の端部に支持固定されたシールリングと、ハブの外周面のうち回転フランジと軸方向外側列の内輪軌道との間に存在する円筒面状の溝肩部に圧入外嵌された金属板製の摺接環とを備え、シールリングを構成する複数のシールリップの先端部を摺接環の表面に摺接させたシール装置が記載されている。このシール装置では、複数本のシールリップの先端部を、表面粗さが良好な摺接環の表面に摺接させているため、シールリップの先端部の貼り付きによる摩擦抵抗の増大や異音の発生を抑えることができる。
【0007】
ところで、ハブの外周面のうち摺接環を圧入外嵌する部分の軸方向寸法は、周囲の制約から、余り大きくすることができない。このため、ハブの外周面に対する摺接環の嵌合長さを十分に確保することが難しい。また、ハブユニット軸受には、主に自動車が旋回走行する際に、路面反力に基づくモーメント荷重が加わる。そして、このモーメント荷重により回転フランジが軸方向に倒れるように弾性変形すると、摺接環が回転フランジにより軸方向内側に押される。このため、ハブと摺接環との嵌合部でクリープが発生、すなわちハブに対して摺接環が回転したり、ハブに対して摺接環が軸方向内側に移動したりする可能性がある。ハブと摺接環との嵌合部でクリープが発生すると、ハブと摺接環との摺接部で異常摩耗、異常発熱が発生する可能性があるため、好ましくない。また、ハブに対して摺接環が軸方向内側に移動すると、摺接環の表面に対するシールリップの先端部の軸方向の締め代が増大して、シールトルクが増大する可能性があるため、好ましくない。
【0008】
これに対して、特開2014-240679号公報には、ハブの溝肩部に全周にわたり形成された環状の凹部に、摺接環の内周面に全周にわたり形成された環状の凸部を係合させた構造が記載されている。この従来構造によれば、凹部と凸部との係合に基づいて、摺接環がハブに対して軸方向内側に移動することを抑えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特開2014-240679号公報に記載された従来構造では、互いに係合するハブの凹部と摺接環の凸部とのそれぞれが、同一の軸方向位置において環状に構成されていることから、凸部は凹部の内側で円周方向に移動可能である。このため、従来構造では、凹部と凸部との係合部は、摺接環がハブに対して軸方向内側に移動することを抑える機能を有するが、摺接環がハブに対して回転することを抑える機能を有しない。
【0011】
本開示は、摺接環がハブに対して軸方向内側に移動および回転することを抑えられるハブユニット軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本開示のハブユニット軸受は、外輪と、ハブと、複数個の転動体と、シール装置とを備える。
【0013】
前記外輪は、内周面に複列の外輪軌道を有する。
【0014】
前記ハブは、外周面に複列の内輪軌道を有し、かつ、前記外輪よりも軸方向外側に位置する部分に径方向外側に突出した回転フランジを有する。
【0015】
前記複数個の転動体は、前記複列の外輪軌道と前記複列の内輪軌道との間に転動自在に配置されている。
【0016】
前記シール装置は、摺接環およびシールリングを有し、前記外輪の内周面と前記ハブの外周面との間に存在する転動体設置空間の軸方向外側の開口を塞ぐ。
【0017】
前記摺接環は、前記ハブの外周面のうち、軸方向外側の前記内輪軌道の軸方向外側に隣接する円筒面状の溝肩部に外嵌される嵌合筒部、および、該嵌合筒部の軸方向外側の端部から径方向外側に向けて伸長する側板部を有する。
【0018】
前記シールリングは、前記外輪の軸方向外側の端部に固定され、かつ、前記嵌合筒部の外周面または前記側板部の軸方向内側面にその先端部を摺接させた少なくとも1本のシールリップを有する。
【0019】
前記ハブは、前記溝肩部に、周方向に伸長する周方向溝を有する。好ましくは、該周方向溝は全周にわたって伸長する。
【0020】
前記周方向溝は、円周方向一方側に向かうにしたがって軸方向一方側に向かう方向に傾斜した第1傾斜部と、円周方向一方側に向かうにしたがって軸方向他方側に向かう方向に傾斜した第2傾斜部とを有する。第1傾斜部と第2傾斜部とを円周方向に連続して設けることができる。あるいは、第1傾斜部と第2傾斜部を円周方向に離間して設けることもできる。第1傾斜部と第2傾斜部とを円周方向にそれぞれ複数個ずつ設けることもできる。
【0021】
前記摺接環は、前記嵌合筒部の内周面から径方向内側に突出し、かつ、前記周方向溝に係合する係合凸部を有する。
【0022】
前記係合凸部は、前記第1傾斜部に係合する円周方向箇所と、前記第2傾斜部に係合する円周方向箇所との、両方の円周方向箇所に存在する。
【0023】
本開示のハブユニット軸受は、前記係合凸部を、円周方向に離隔した複数箇所に備えることができる。
【0024】
本開示のハブユニット軸受は、前記係合凸部を、全周にわたり連続的に備えることができる。
【発明の効果】
【0025】
本開示のハブユニット軸受によれば、摺接環がハブに対して軸方向内側に移動および回転することを抑えられる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】
図1は、本開示の実施の形態の第1例のハブユニット軸受を示す断面図である。
【
図3】
図3(a)は、第1例のハブユニット軸受を構成するハブの軸方向外側部の側面図であり、
図3(b)は、該ハブの軸方向外側部を
図3(a)の反対側から見た側面図である。
【
図4】
図4(a)は、第1例のハブユニット軸受を構成する摺接環の側面図であり、
図4(b)は、該摺接環を
図4(a)の反対側から見た側面図である。
【
図5】
図5は、本開示の実施の形態の第2例のハブユニット軸受についての
図2に相当する図である。
【
図6】
図6(a)および
図6(b)は、第2例のハブユニット軸受を構成する摺接環についての
図4(a)および
図4(b)に相当する図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
[第1例]
本開示の実施の形態の第1例のハブユニット軸受について、
図1~
図4を用いて説明する。
【0028】
本開示のハブユニット軸受は、各種構造のハブユニット軸受に適用可能であるが、本例では、従動輪用のハブユニット軸受に適用する場合について説明する。
【0029】
本例のハブユニット軸受1は、外輪2と、ハブ3と、複数個の転動体4a、4bと、シール装置5とを備える。
【0030】
なお、ハブユニット軸受1に関する以下の説明中、軸方向外側は、車両に組み付けた状態で車両の幅方向外側となる
図1の左側であり、軸方向内側は、車両に組み付けた状態で車両の幅方向中央側となる
図1の右側である。
【0031】
外輪2は、中炭素鋼などの硬質金属により構成されている。外輪2は、内周面に、複列の外輪軌道6a、6bを有する。さらに、外輪2は、軸方向中間部に、径方向外側に向けて突出した静止フランジ7を有する。静止フランジ7は、径方向中間部の円周方向複数箇所に、軸方向に貫通する支持孔8を有する。
【0032】
本例では、支持孔8は、ねじ孔により構成されている。外輪2は、懸架装置のナックルに備えられた通孔を挿通した支持ボルトを、静止フランジ7の支持孔8に軸方向内側から螺合することで、懸架装置に対し支持固定され、車輪が回転する際にも回転しない。
【0033】
ハブ3は、外周面に複列の内輪軌道9a、9bを有し、かつ、外輪2よりも軸方向外側に位置する部分に径方向外側に突出した回転フランジ10を有する。さらに、ハブ3は、軸方向外側の端部に、円筒状のパイロット部11を有する。ハブ3は、外輪2の径方向内側に、該外輪2と同軸に配置されている。
【0034】
回転フランジ10は、径方向中間部の円周方向複数箇所に、軸方向に貫通する取付孔12を有する。取付孔12のそれぞれには、ディスクやドラムなどの制動用回転体、および、車輪を構成するホイールを、回転フランジ10に対し結合固定するためのスタッド13が圧入状態でセレーション嵌合されている。すなわち、本例では、取付孔12は、円筒孔により構成されている。
【0035】
ブレーキディスクなどの制動用回転体および車輪のホイールは、それぞれの中心部に備えられた中心孔に、パイロット部11を挿通し、かつ、それぞれの径方向中間部の円周方向複数箇所に備えられた通孔に、スタッド13を挿通した状態で、スタッド13の先端部にハブナットを螺合することにより、回転フランジ10に結合固定される。
【0036】
なお、回転フランジの取付孔を、ねじ孔により構成することもできる。この場合には、制動用回転体に備えられた通孔と、ホイールに備えられた通孔とを挿通したハブボルトを、取付孔に軸方向外側から螺合することにより、制動用回転体および車輪を回転フランジに結合固定する。
【0037】
ハブ3は、外周面のうち、軸方向外側の内輪軌道9aの軸方向外側に隣接する部分に、円筒面状の溝肩部23を有する。溝肩部23は、シール装置5を構成する摺接環20が外嵌される部分である。ハブ3は、
図3(a)および
図3(b)に示すように、溝肩部23に、周方向に伸長する周方向溝37を有する。周方向溝37は、摺接環20に備えられた係合凸部40が係合する部分である。なお、
図3(a)は、本例のハブ3の軸方向外側部の側面図であり、
図3(b)は、該ハブ3の軸方向外側部を
図3(a)の反対側から見た側面図である。本例では、周方向溝37は、全周にわたり連続的に備えられている。
【0038】
周方向溝37は、円周方向一方側(
図3(a)における下側)に向かうにしたがって軸方向一方側(
図3(a)における左側)に向かう方向に傾斜した第1傾斜部38と、円周方向一方側(
図3(b)における上側)に向かうにしたがって軸方向他方側(
図3(b)における左側)に向かう方向に傾斜した第2傾斜部39とを有する。
【0039】
本開示のハブユニット軸受を実施する場合、周方向溝37を構成する第1傾斜部38および第2傾斜部39の数や、第1傾斜部38および第2傾斜部39のそれぞれの周方向長さは、任意に設定することができる。本例では、周方向溝37を構成する第1傾斜部38および第2傾斜部39の数は、1つずつであり、第1傾斜部38および第2傾斜部39のそれぞれの周方向長さは、溝肩部23の半周分の長さである。本例では、第1傾斜部38と第2傾斜部39とは、円周方向に連続している。
【0040】
本例では、周方向溝37を全周にわたり連続的に形成し、かつ、第1傾斜部38と第2傾斜部39とを円周方向に連続させている。ただし、本開示のハブユニット軸受を実施する場合には、周方向溝は全周にわたって連続的に形成する必要はなく、円周方向の一部分に不連続部を有する構成、円周方向の一部分にのみに備えられた構成、あるいは、円周方向に離間した複数箇所に備えられた構成を採用することもできる。また、本開示のハブユニット軸受を実施する場合には、第1傾斜部38と第2傾斜部39とを円周方向に連続させる必要はなく、第1傾斜部と第2傾斜部とを円周方向に離間して設けることもできる。すなわち、第1傾斜部と第2傾斜部とが円周方向に連続的にあるいは不連続で少なくとも1個ずつ、好ましくは、円周方向に交互に少なくとも1個ずつ存在する構成は、いずれも本開示のハブユニット軸受の範囲内である。
【0041】
本開示のハブユニット軸受を実施する場合、周方向溝37の断面形状は、矩形、台形、半円形、U字形など、任意の形状を採用することができる。本例では、周方向溝37の断面形状は、矩形である。
【0042】
本開示のハブユニット軸受を実施する場合、円周方向に対する第1傾斜部38および第2傾斜部39のそれぞれの傾斜角度は、任意に設定することができるが、好ましくは、1゜以上5゜以下に設定することができ、より好ましくは2゜以上3゜以下に設定することができる。
【0043】
本例では、ハブ3は、内輪14とハブ輪15とを組み合わせてなる。
【0044】
内輪14は、軸受鋼などの硬質金属により構成されている。内輪14は、外周面に、軸方向内側の内輪軌道9bを有する。
【0045】
ハブ輪15は、中炭素鋼などの硬質金属により構成されている。ハブ輪15は、軸方向外側の内輪軌道9aと、回転フランジ10と、パイロット部11と、溝肩部23とを備える。
【0046】
ハブ輪15は、軸方向外側の内輪軌道9aよりも軸方向内側に位置する部分に、軸方向外側に隣接する部分よりも外径が小さく、内輪14が外嵌される小径段部16を有する。さらに、ハブ輪15は、小径段部16の軸方向外側の端部に、軸方向内側を向いた段差面17を有し、かつ、小径段部16の軸方向内側の端部から径方向外側に向けて折れ曲がったかしめ部18を有する。
【0047】
ハブ3は、ハブ輪15の小径段部16に内輪14を外嵌し、かつ、ハブ輪15の段差面17とかしめ部18との間で内輪14を軸方向両側から挟持することにより、内輪14とハブ輪15とを結合固定することで構成されている。
【0048】
なお、ハブ輪のうちで内輪の軸方向内側の端部から突出した軸方向内側の端部にナットを螺合することで、ハブ輪と内輪とを結合することもできる。
【0049】
なお、本例のハブユニット軸受1は、従動輪用のハブユニット軸受であるため、ハブ3は、中実に構成されている。
【0050】
ただし、本開示のハブユニット軸受は、駆動輪用のハブユニット軸受に適用することもできる。この場合、ハブは、中心部に、軸方向に貫通するスプライン孔を有する。スプライン孔には、エンジンや電動モータを駆動源として回転駆動される駆動軸の先端部が、スプライン係合される。自動車の走行時には、駆動軸によりハブを回転駆動することで、ハブの回転フランジに結合固定された車輪および制動用回転体を回転駆動する。
【0051】
転動体4a、4bは、軸受鋼などの鉄合金製あるいはセラミックス製で、複列の外輪軌道6a、6bと複列の内輪軌道9a、9bとの間に、それぞれ複数個ずつ、保持器19a、19bにより保持された状態で転動自在に配置されている。これにより、ハブ3は、外輪2の径方向内側に回転自在に支持される。
【0052】
本例のハブユニット軸受1は、軸方向外側列の転動体4aのピッチ円直径と、軸方向内側列の転動体4bのピッチ円直径とが等しい、等径PCD型の構造を備える。ただし、本開示のハブユニット軸受は、軸方向外側列の転動体のピッチ円直径が、軸方向内側列の転動体のピッチ円直径よりも大きいか、または、小さい、異径PCD型のハブユニット軸受に適用することもできる。また、本例のハブユニット軸受1では、転動体4a、4bとして玉を使用しているが、玉に代えて円すいころを使用することもできる。
【0053】
シール装置5は、摺接環20およびシールリング21を有し、外輪2の内周面とハブ3の外周面との間に存在する転動体設置空間22の軸方向外側の開口を塞ぐ。
【0054】
摺接環20は、ハブ3の外周面のうち、軸方向外側の内輪軌道9aの軸方向外側に隣接する円筒面状の溝肩部23に外嵌される嵌合筒部24、および、該嵌合筒部24の軸方向外側の端部から径方向外側に向けて伸長する側板部25を有する。
【0055】
本例では、嵌合筒部24は、円筒形状を有し、溝肩部23に圧入により外嵌される。
【0056】
本例では、側板部25は、内径側傾斜板部26と、内径側円輪部27と、外径側傾斜板部28と、外径側円輪部29とを有する。
【0057】
内径側傾斜板部26は、円環状に構成されており、嵌合筒部24の軸方向外側の端部から軸方向外側に向かうにしたがって径方向外側に向かう方向に曲線的に伸長している。内径側円輪部27は、円輪状に構成されており、内径側傾斜板部26の径方向外端部から径方向外側に向けて伸長している。外径側傾斜板部28は、円すい筒状に構成されており、内径側円輪部27の径方向外側の端部から軸方向内側に向かうにしたがって径方向外側に向かう方向に直線的に傾斜している。外径側円輪部29は、円輪状に構成されており、外径側傾斜板部28の軸方向内側の端部から径方向外側に向けて伸長している。外径側傾斜板部28の軸方向内側部分の内周面は、外輪2の軸方向外側の端部外周面に備えられた、軸方向外側に向かうにしたがって直径が小さくなる方向に傾斜した傾斜面部30に対向している。
【0058】
シールリング21は、外輪2の軸方向外側の端部に固定され、かつ、嵌合筒部24の外周面または側板部25の軸方向内側面にその先端部を摺接させた少なくとも1本のシールリップ31a、31b、31cを有する。本例では、シールリング21は、3本のシールリップ31a、31b、31cを有する。ただし、本開示のハブユニット軸受を実施する場合、シールリップの本数を、3本よりも少なくあるいは多くすることもできる。
【0059】
本例では、シールリング21は、芯金32と、シール材33とを備える。
【0060】
芯金32は、軟鋼板などの金属板を曲げ成形することにより、全体を円環状に構成されている。芯金32は、外輪2の軸方向外側の端部に締り嵌めで内嵌固定されたシール嵌合筒部34と、シール嵌合筒部34の軸方向外側の端部から径方向内側に向けて折れ曲がった支持板部35とを有する。
【0061】
シール材33は、ゴムなどのエラストマーを含む弾性材により構成され、芯金32の支持板部35の表面に加硫接着により結合固定されている。3本のシールリップ31a、31b、31cは、シール材33に備えられている。シール材33は、3本のシールリップ31a、31b、31cに加え、基部36を備える。
【0062】
基部36は、支持板部35の表面、具体的には、支持板部35の軸方向外側面、内周面、および軸方向内側面の径方向内側の端部を覆っている。
【0063】
3本のシールリップ31a、31b、31cのうち、最も径方向外側のシールリップ31aは、基部36のうちで支持板部35の軸方向外側面の径方向中間部を覆う部分から軸方向外側かつ径方向外側に向かう方向に伸長し、かつ、先端部を、内径側円輪部27の軸方向内側面に摺接させている。径方向外側から2番目のシールリップ31bは、基部36のうちで支持板部35の径方向内側の端部を覆う部分から軸方向外側かつ径方向外側に向かう方向に伸長し、かつ、先端部を、内径側傾斜板部26の軸方向内側面に摺接させている。最も径方向内側のシールリップ31cは、基部36のうちで支持板部35の径方向内側の端部を覆う部分から軸方向内側かつ径方向内側に向かう方向に伸長し、かつ、先端部を、嵌合筒部24の外周面に摺接させている。
【0064】
これにより、摺接環20とシールリング21との間を通じて、外部空間から泥水などの異物が転動体設置空間22に侵入したり、転動体設置空間22に封入されたグリースが外部空間に漏洩したりすることを防止している。
【0065】
本例では、摺接環20は、
図2に示すように、嵌合筒部24の内周面から径方向内側に突出し、かつ、周方向溝37に係合する係合凸部40を有する。係合凸部40は、第1傾斜部38に係合する円周方向箇所と、第2傾斜部39に係合する円周方向箇所との、両方の円周方向箇所に存在する。
【0066】
本例では、係合凸部40は、
図4(a)および
図4(b)に示すように、円周方向に離隔した複数箇所に備えられている。なお、
図4(a)は、本例の摺接環20の側面図であり、
図4(b)は、該摺接環20を
図4(a)の反対側から見た側面図である。より具体的には、本例では、係合凸部40は、円周方向等間隔となる6箇所に備えられている。
【0067】
6箇所の係合凸部40のうち、
図4(a)に示される3箇所の係合凸部40は、第1傾斜部38と径方向に重畳する位置に配置、すなわち、第1傾斜部38に沿う方向に離間して配置されており、第1傾斜部38に係合している。
【0068】
6箇所の係合凸部40のうち、
図4(b)に示される残りの3箇所の係合凸部40は、第2傾斜部39と径方向に重畳する位置に配置、すなわち、第2傾斜部39に沿う方向に離間して配置されており、第2傾斜部39に係合している。
【0069】
本開示のハブユニット軸受を実施する場合、それぞれの係合凸部40は、嵌合筒部24が存在する軸方向範囲において、任意の軸方向位置に配置することができ、たとえば、同一の軸方向位置に配置することもできるし、相互に異なる軸方向位置に配置することもできる。本例では、それぞれの係合凸部40は、シール材33を構成するシールリップ31cの先端部に対して軸方向に外れた位置に配置されている。より具体的には、本例では、それぞれの係合凸部40は、シールリップ31cの先端部よりも軸方向内側に配置されている。
【0070】
本開示のハブユニット軸受を実施する場合、係合凸部40の形状は、半球突起状、台形突起状、矩形突起状、周方向溝37に沿って伸長する突起状など、任意の形状を採用することができる。本例では、係合凸部40の形状は、半球突起状である。
【0071】
本例では、それぞれの係合凸部40は、溝肩部23に嵌合筒部24を外嵌した後、嵌合筒部24を構成する金属板の一部で周方向溝37と径方向に重畳する部分を、径方向外側から径方向内側に向けて塑性変形させることにより形成されており、かつ、形成と同時に周方向溝37に係合する。このような係合凸部40の形成作業は、加工すべき位置が周方向溝37の所定の円周方向箇所と径方向に重畳するように制御した上で、嵌合筒部24の外周面にパンチを押し付けるかしめ加工により行うことができる。本例では、このようにして係合凸部40が形成されるため、嵌合筒部24の外周面のうち、係合凸部40と径方向に重畳する部分に、半球状の凹部41が形成されている。このため、それぞれの係合凸部40に対して径方向に重畳する凹部41も、シールリップ31cの先端部よりも軸方向内側に配置されている。したがって、本例では、シールリップ31cの先端部を、嵌合筒部24の外周面に対して全周にわたり摺接させることができる。このため、本例の構造では、シールリップ31cによるシール性能を確保しやすい。
【0072】
なお、本開示のハブユニット軸受を実施する場合には、複数の係合凸部40のうちの少なくともいずれか1つの係合凸部40がシールリップ31cの先端部と同じ軸方向位置に配置されている構造、すなわち、複数の凹部41のうちの少なくともいずれか1つの凹部41がシールリップ31cの先端部と同じ軸方向位置に配置されている構造を採用することもできる。
【0073】
本例の構造では、ハブ3の周方向溝37と摺接環20の複数の係合凸部40との係合に基づいて、ハブ3に対して摺接環20が軸方向内側に移動することを有効に抑えられる。
【0074】
本例では、それぞれの係合凸部40は、溝肩部23に嵌合筒部24を外嵌した後に形成されるため、係合凸部40の高さを十分に確保することができる。したがって、周方向溝37と係合凸部40との係合力を十分に確保して、摺接環20がハブ3に対して軸方向内側に移動することを、より有効に抑えられる。
【0075】
本例の構造では、周方向溝37のうち、3箇所の係合凸部40が係合している第1傾斜部38と、残りの3箇所の係合凸部40が係合している第2傾斜部39とが、円周方向に対して互いに逆向きに傾斜している。このため、ハブ3と摺接環20との嵌合部でクリープが発生する傾向、すなわちハブ3に対して摺接環20が回転する傾向になると、3箇所の係合凸部40に対して第1傾斜部38から加わる軸方向の力と、残りの3箇所の係合凸部40に対して第2傾斜部39から加わる軸方向の力とが、互いに逆向きになる。そして、このような互いに逆向きの軸方向の力が作用することにより、ハブ3に対して摺接環20が回転することを有効に抑えられる。
【0076】
本例では、シール装置5は、摺接環20の側板部25の軸方向外側面に固定されたシール材42をさらに備える。
【0077】
シール材42は、ゴムなどのエラストマーを含む弾性材により、全体を円環状に構成されている。シール材42は、側板部25のうち、内径側円輪部27の径方向外側部から外径側傾斜板部28の径方向内側部にかけての部分の軸方向外側面に加硫接着により固定されている。シール材42の軸方向外側面は、回転フランジ10の軸方向内側面の径方向内端部に存在する平面部43に弾性的に接触させている。
【0078】
これにより、摺接環20とハブ3との間を通じて、外部空間から泥水などの異物が転動体設置空間22に侵入したり、転動体設置空間22に封入されたグリースが外部空間に漏洩したりすることを防止している。なお、本開示のハブユニット軸受を実施する場合には、シール材42を省略して、内径側円輪部27の軸方向外側面を平面部43に接触させることもできる。
【0079】
本例のハブユニット軸受1は、転動体設置空間22の軸方向内側の開口部を塞ぐ有底円筒状の軸受キャップ44をさらに備える。これにより、該開口部を通じて、外部空間の異物が転動体設置空間22に侵入したり、転動体設置空間22に封入されたグリースが外部空間に漏洩したりすることを防止している。なお、軸受キャップ44に代えて、組み合わせシールリングにより、転動体設置空間22の軸方向内側の開口を塞ぐこともできる。
【0080】
[第2例]
本開示のハブユニット軸受の実施の形態の第2例について、
図5および
図6を用いて説明する。
【0081】
本例の構造では、摺接環20aの係合凸部40aが、全周にわたり連続的に備えられている。すなわち、本例では、係合凸部40aが、ハブ3の周方向溝37に全周にわたり係合している。具体的には、係合凸部40aのうち、
図6(a)に示される周方向半部が、
図3(a)に示される周方向溝37の第1傾斜部38と同方向に傾斜し、かつ、第1傾斜部38に係合している。また、係合凸部40aのうち、
図6(b)に示される残りの周方向半部が、
図3(b)に示される周方向溝37の第2傾斜部39と同方向に傾斜し、かつ、第2傾斜部39に係合している。
【0082】
係合凸部40aは、溝肩部23に嵌合筒部24を外嵌した後、嵌合筒部24を構成する金属板の一部で周方向溝37と径方向に重畳する部分を、全周にわたり、径方向外側から径方向内側に向けて塑性変形させることにより形成されており、かつ、形成と同時に周方向溝37に係合する。このような係合凸部40aの形成作業は、加工すべき位置が周方向溝37と径方向に重畳するように制御しつつ、嵌合筒部24の外周面に押し付けたローラを転がしながら周方向に移動させるローリングかしめ加工により行うことができる。本例では、このようにして係合凸部40aが形成されるため、嵌合筒部24の外周面のうち、係合凸部40aと径方向に重畳する部分に、凹部41aが全周にわたり形成されている。
【0083】
本例の構造では、周方向溝37と係合凸部40aとの係合部の周方向範囲を第1例よりも広くできるため、ハブ3に対して摺接環20aが軸方向内側に移動および回転することを、より有効に抑えられる。第2例のその他の構成および作用効果は、第1例と同様である。
【符号の説明】
【0084】
1 ハブユニット軸受
2 外輪
3 ハブ
4a、4b 転動体
5 シール装置
6a、6b 外輪軌道
7 静止フランジ
8 支持孔
9a、9b 内輪軌道
10 回転フランジ
11 パイロット部
12 取付孔
13 スタッド
14 内輪
15 ハブ輪
16 小径段部
17 段差面
18 かしめ部
19a、19b 保持器
20、20a 摺接環
21 シールリング
22 転動体設置空間
23 溝肩部
24 嵌合筒部
25 側板部
26 内径側傾斜板部
27 内径側円輪部
28 外径側傾斜板部
29 外径側円輪部
30 傾斜面部
31a、31b、31c シールリップ
32 芯金
33 シール材
34 シール嵌合筒部
35 支持板部
36 基部
37 周方向溝
38 第1傾斜部
39 第2傾斜部
40、40a 係合凸部
41、41a 凹部
42 シール材
43 平面部
44 軸受キャップ