(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024018660
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】植物賦活剤
(51)【国際特許分類】
A01N 37/42 20060101AFI20240201BHJP
A01P 21/00 20060101ALI20240201BHJP
C12N 15/29 20060101ALN20240201BHJP
【FI】
A01N37/42
A01P21/00
C12N15/29
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022122118
(22)【出願日】2022-07-29
(71)【出願人】
【識別番号】000000158
【氏名又は名称】イビデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】苅谷 悟
(72)【発明者】
【氏名】石野 暢好
【テーマコード(参考)】
4H011
【Fターム(参考)】
4H011AB03
4H011BA06
4H011BB06
4H011DA13
4H011DD03
4H011DE15
(57)【要約】
【課題】植物ホルモン産生の増加を図ることのできる植物賦活剤を提供することを目的とする。
【解決手段】オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩から選ばれる少なくとも1種の化合物と、水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩から選ばれる少なくとも1種の化合物とを含む植物賦活剤であって、水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩から選ばれる少なくとも1種の化合物の含有量に対する、オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩から選ばれる少なくとも1種の化合物含有量の比が、重量比で0.05~20である植物賦活剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩から選ばれる少なくとも1種の化合物と、
水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩から選ばれる少なくとも1種の化合物と
を含む植物賦活剤であって、
前記水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩から選ばれる少なくとも1種の化合物の含有量に対する、前記オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩から選ばれる少なくとも1種の化合物含有量の比が、重量比で0.05~20である植物賦活剤。
【請求項2】
前記オキソ脂肪酸が、9-オキソ-10,12-オクタデカジエン酸、13-オキソ-9,11-オクタデカジエン酸、5-オキソ-6,8-オクタデカジエン酸、6-オキソ-9,12-オクタデカジエン酸、8-オキソ-9,12-オクタデカジエン酸、10-オキソ-8,12-オクタデカジエン酸、11-オキソ-9,12-オクタデカジエン酸、12-オキソ-9,13-オクタデカジエン酸および14-オキソ-9,12-オクタデカジエン酸からなる群より選択される少なくとも1種である請求項1に記載の植物賦活剤。
【請求項3】
前記オキソ脂肪酸として、少なくとも9-オキソ-10,12-オクタデカジエン酸または13-オキソ-9,11-オクタデカジエン酸を含む請求項1記載の植物賦活剤。
【請求項4】
前記水酸化脂肪酸が、9,10,13-トリヒドロキシ-11-オクタデカエン酸、9,12,13-トリヒドロキシ-10-オクタデカエン酸、13-ヒドロキシ-9,11-オクタデカジエン酸および9-ヒドロキシ-10,12-オクタデカジエン酸からなる群より選択される少なくとも1種である請求項1記載の植物賦活剤。
【請求項5】
少なくとも2種以上のオキソ脂肪酸を含む請求項1記載の植物賦活剤。
【請求項6】
13-オキソ-9,11-オクタデカジエン酸および9-オキソ-10,12-オクタデカジエン酸を含む請求項5記載の植物賦活剤。
【請求項7】
13-オキソ-9,11-オクタデカジエン酸の含有量に対する、9-オキソ-10,12-オクタデカジエン酸の含有量の比が、重量比で0.1~10.0である請求項6記載の植物賦活剤。
【請求項8】
脂肪酸ヒドロペルオキシドまたはその誘導体もしくはその塩をさらに含む請求項1記載の植物賦活剤。
【請求項9】
前記脂肪酸ヒドロペルオキシドが、13-ヒドロペルオキシ-9,11-オクタデカジエン酸および/または9-ヒドロペルオキシ-10,12-オクタデカジエン酸である請求項8記載の植物賦活剤。
【請求項10】
前記脂肪酸ヒドロペルオキシドまたはその誘導体もしくはその塩の含有量に対する、前記オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩から選ばれる少なくとも1種の化合物の含有量の比が、重量比で0.003~350である請求項8記載の植物賦活剤。
【請求項11】
植物ホルモンの生成量を増大させる請求項1記載の植物賦活剤。
【請求項12】
前記植物ホルモンが、ジベレリンおよび/またはオーキシンである請求項11記載の植物賦活剤。
【請求項13】
オーキシン生合成関連遺伝子の発現を増大させる請求項1記載の植物賦活剤。
【請求項14】
前記オーキシン生合成関連遺伝子が、植物のオーキシン合成経路におけるフラビンモノオキシゲナーゼおよび/またはトリプトファントランスアミナーゼをコードする遺伝子である請求項13記載の植物賦活剤。
【請求項15】
前記オーキシン生合成関連遺伝子が、TAA1、YUCCA7、YUCCA9およびYUCCA1からなる群より選択される少なくとも1種である請求項14記載の植物賦活剤。
【請求項16】
前記植物賦活剤が、花芽形成促進用および/または植物成長促進用である請求項1記載の植物賦活剤。
【請求項17】
植物の茎葉もしくは根に接触させる噴霧剤もしくは浸漬用薬剤、または、土壌灌注用薬剤である請求項1記載の植物賦活剤。
【請求項18】
イネ科用植物賦活剤またはマメ科用植物賦活剤である請求項1記載の植物賦活剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物賦活剤に関する。
【背景技術】
【0002】
穀物植物や園芸植物の供給効率を向上させること等を目的として、植物の生長を調整する技術が開発されてきた。温度条件や日照条件の最適化や施肥などの対策に加え、生長促進、休眠抑制、ストレス抑制等の植物生長調節作用を有する植物賦活剤を用いて植物を賦活させる方法が報告されている。
【0003】
特許文献1には、脂肪燃焼効果を示す機能性成分として知られているケトオクタデカジエン酸を、酵素を利用することによって効率良く製造するケトオクタデカジエン酸の製造方法が開示されている。そして、得られたケトオクタデカジエン酸を、強力な抵抗性誘導効果を示す植物賦活剤として利用できることが記載されている。
【0004】
特許文献2には、オキソ脂肪酸誘導体またはその塩もしくはエステルを有効成分として含むことを特徴とする、土壌汚染や毒性が低く、抵抗性誘導効果に優れた植物賦活剤が記載されている。
【0005】
植物ホルモンに関連する農薬類は数多く、農業、園芸など様々な分野で用いられてきている。中でもオーキシンは、植物の発生、成長、花芽・種子形成、果実形成などの形態形成および環境応答において重要な働きをするホルモンである。天然オーキシンとしては、インドール-3-酢酸(IAA)が最も普遍的に分布していることが知られている。非特許文献1には、IAA生合成の主経路が、L-トリプトファン(L-Trp)からインドール-3-ピルビン酸(IPA)を生合成中間体としてIAAが生合成される経路であること、L-TrpからIPAが形成される反応はトリプトファントランスアミナーゼ(TAA)によって、そしてIPAからIAAが形成される反応は、特定のフラビンモノオキシゲナーゼ(YUCCA)により、それぞれ制御されること、IAA生合成経路においては、YUCCAが主要な律速酵素であることが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2020-25534号公報
【特許文献2】国際公開第2018/168860号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Mashiguchi, K.ら、2011年、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、第108巻、18512-18517頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、植物体において植物の生長や花芽・種子形成などに関連する植物ホルモンの産生を増強するために好適に使用される植物賦活剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩から選ばれる少なくとも1種の化合物と、水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩から選ばれる少なくとも1種の化合物とを含む植物賦活剤であって、前記水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩から選ばれる少なくとも1種の化合物の含有量に対する、前記オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩から選ばれる少なくとも1種の化合物含有量の比が、重量比で0.05~20である植物賦活剤に関する。
【0010】
前記ケトオクタデカジエン酸が、9-オキソ-10,12-オクタデカジエン酸、13-オキソ-9,11-オクタデカジエン酸、5-オキソ-6,8-オクタデカジエン酸、6-オキソ-9,12-オクタデカジエン酸、8-オキソ-9,12-オクタデカジエン酸、10-オキソ-8,12-オクタデカジエン酸、11-オキソ-9,12-オクタデカジエン酸、12-オキソ-9,13-オクタデカジエン酸および14-オキソ-9,12-オクタデカジエン酸からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0011】
前記植物賦活剤は、前記オキソ脂肪酸として、少なくとも9-オキソ-10,12-オクタデカジエン酸または13-オキソ-9,11-オクタデカジエン酸を含むことが好ましい。
【0012】
前記水酸化脂肪酸が、9,10,13-トリヒドロキシ-11-オクタデカエン酸、9,12,13-トリヒドロキシ-10-オクタデカエン酸、13-ヒドロキシ-9,11-オクタデカジエン酸および9-ヒドロキシ-10,12-オクタデカジエン酸からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0013】
なお、「オクタデカエン酸」は慣用的な表記であり(例えば、特開平3-14539号公報等)、上述の「9,10,13-トリヒドロキシ-11-オクタデカエン酸」は、「9,10,13-トリヒドロキシオクタデカ-11-エン酸」または「9,10,13-トリヒドロキシ-11-オクタデセン酸」とも表記される。「9,10,13-トリヒドロキシ-11-オクタデカエン酸」の構造式は、下記構造式(1)で示されるものである。
【0014】
【0015】
同様に、上述の「9,12,13-トリヒドロキシ-10-オクタデカエン酸」は、「9,12,13-トリヒドロキシオクタデカ-10-エン酸」または「9,12,13-トリヒドロキシ-10-オクタデセン酸」とも表記される。「9,12,13-トリヒドロキシ-10-オクタデカエン酸」の構造式は、下記構造式(2)で示されるものである。
【0016】
【0017】
前記植物賦活剤は、少なくとも2種以上のオキソ脂肪酸を含むことが好ましい。
【0018】
前記植物賦活剤は、13-オキソ-9,11-オクタデカジエン酸および9-オキソ-10,12-オクタデカジエン酸を含むことが好ましい。
【0019】
前記植物賦活剤であって、13-オキソ-9,11-オクタデカジエン酸の含有量に対する、9-オキソ-10,12-オクタデカジエン酸の含有量の比が、重量比で0.1~10.0であることが好ましい。
【0020】
前記植物賦活剤が、脂肪酸ヒドロペルオキシドまたはその誘導体もしくはその塩をさらに含むことが好ましい。
【0021】
前記植物賦活剤であって、前記脂肪酸ヒドロペルオキシドが、13-ヒドロペルオキシ-9,11-オクタデカジエン酸および/または9-ヒドロペルオキシ-10,12-オクタデカジエン酸であることが好ましい。
【0022】
前記植物賦活剤であって、前記脂肪酸ヒドロペルオキシドまたはその誘導体もしくはその塩の含有量に対する、前記オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩から選ばれる少なくとも1種の化合物の含有量の比が、重量比で0.003~350であることが好ましい。
【0023】
前記植物賦活剤が、植物ホルモンの生成量を増大させる植物賦活剤であることが好ましい。
【0024】
前記植物賦活剤であって、前記植物ホルモンが、ジベレリンおよび/またはオーキシンであることが好ましい。
【0025】
前記植物賦活剤が、オーキシン生合成関連遺伝子の発現を増大させる植物賦活剤であることが好ましい。
【0026】
前記植物賦活剤であって、前記オーキシン生合成関連遺伝子が、植物のオーキシン合成経路におけるフラビンモノオキシゲナーゼおよび/またはトリプトファントランスアミナーゼをコードする遺伝子であることが好ましい。
【0027】
前記植物賦活剤であって、前記オーキシン生合成関連遺伝子が、TAA1、YUCCA7、YUCCA9およびYUCCA1からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0028】
前記植物賦活剤が、花芽形成促進用および/または植物成長促進用のものであることが好ましい。
【0029】
前記植物賦活剤が、植物の茎葉もしくは根に接触させる噴霧剤もしくは浸漬用薬剤、または、土壌灌注用薬剤である植物賦活剤であることが好ましい。
【0030】
前記植物賦活剤が、イネ科用植物賦活剤またはマメ科用植物賦活剤であることが好ましい。
【発明の効果】
【0031】
本発明の植物賦活剤は、優れた花芽形成促進効果および生長促進効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】イネ中のオーキシン生合成関連遺伝子発現の解析結果示す図である。
【
図2】大豆葉中のジベレリン量の分析結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明の植物賦活剤は、オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩から選ばれる少なくとも1種の化合物と、水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩から選ばれる少なくとも1種の化合物とを含む植物賦活剤であり、ここで、水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩から選ばれる少なくとも1種の化合物の含有量に対する、オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩から選ばれる少なくとも1種の化合物含有量の比が、重量比で0.05~20である。
【0034】
本発明における「植物賦活」とは、何らかの形で植物の生長活動を活性化または維持するように調整することを意味するものであり、生長促進(茎葉の拡大、塊茎塊根の生長促進等を包含する概念である)、休眠抑制、植物のストレス(例えば病害など)に対する抵抗性を誘導、付与し、抗老化等の植物生長調節作用を包含する概念である。例えば、本発明の植物賦活剤を植物の茎葉または根の一部に接触させることで、植物に生長促進効果を付与することができる。本発明の植物賦活剤を接種することにより、植物体において、未処理植物と比較して、植物の生長指標である葉の長さおよび葉の重さの増加、塊茎または塊根の生長促進が確認され得る。すなわち、本発明の植物賦活剤は植物に生長促進効果を付与し得る。したがって、本発明の植物賦活剤を用いることによって、植物体の生育を促進し、野菜や穀物、果物等の植物体の収量増加をもたらすことができると考えられる。本発明の植物賦活剤の植物生長促進効果は非常に高く、この結果、商品作物の優れた収量増加効果や向上された収穫効率をもたらすことができる。
【0035】
本発明の植物賦活剤は、植物を賦活させるための有効成分として、オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩から選ばれる少なくとも1種の化合物と、水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩から選ばれる少なくとも1種の化合物とを含んでいる。
【0036】
本発明の植物賦活剤においては、水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩から選ばれる少なくとも1種の化合物の含有量に対する、前記オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩から選ばれる少なくとも1種の化合物含有量の比が、重量比0.3~15.6が望ましく、1.0~13.6が好ましく、2.1~13.6がよい。
【0037】
なお、オキソ脂肪酸や水酸化脂肪酸を含む本明細書に記載の化合物においては、同一の構造式を有するそのすべての幾何異性体および立体異性体が含まれることが理解されるべきである。本明細書において使用される場合、用語「立体異性体」は、本開示の化合物に存在し得る様々な立体異性体配置のいずれかを指し得る。例えばケトオクタデカジエン酸などの二重結合を含む化合物において、置換基はEまたはZ配置であり得る。
【0038】
例えば、オキソ脂肪酸としては、具体例として、9-オキソ-10,12-オクタデカジエン酸(9-oxoODA)、13-オキソ-9,11-オクタデカジエン酸(13-oxoODA)、5-オキソ-6,8-オクタデカジエン酸、6-オキソ-9,12-オクタデカジエン酸、8-オキソ-9,12-オクタデカジエン酸、10-オキソ-8,12-オクタデカジエン酸、11-オキソ-9,12-オクタデカジエン酸、12-オキソ-9,13-オクタデカジエン酸および14-オキソ-9,12-オクタデカジエン酸等が挙げられる。本発明の植物賦活剤は、好ましくは、これらオキソ脂肪酸のうちの少なくとも1つを含む。さらに好ましくは、本発明の植物賦活剤は、オキソ脂肪酸として、少なくとも9-オキソ-10,12-オクタデカジエン酸または13-オキソ-9,11-オクタデカジエン酸を含む。
【0039】
オキソ脂肪酸の誘導体としてはエステルが望ましい。本発明のオキソ脂肪酸のエステルとしては、これらに限定されるものではないが、メチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、ブチルエステル、ペンチルエステル、イソペンチルエステル、オクチルエステル等を挙げることができる。
【0040】
オキソ脂肪酸の塩としては、例えばナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩、例えばアンモニウム塩、テトラメチルアンモニウム塩等のアルキルアンモニウム塩などのアンモニウム塩等、農業上容認可能な1種以上の塩であれば特に限定されない。
【0041】
本発明の植物賦活剤は、オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩から選ばれる少なくとも1種の化合物に加えて、水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩から選ばれる少なくとも1種の化合物を含む。例えば、水酸化脂肪酸としては、具体例として、9,10,13-トリヒドロキシ-11-オクタデカエン酸、9,12,13-トリヒドロキシ-10-オクタデカエン酸、13-ヒドロキシ-9,11-オクタデカジエン酸および9-ヒドロキシ-10,12-オクタデカジエン酸等が挙げられる。本発明の植物賦活剤は、好ましくは、これら水酸化脂肪酸のうちの少なくとも1つを含む。さらに好ましくは、本発明の植物賦活剤は、水酸化脂肪酸として、9,10,13-トリヒドロキシ-11-オクタデカエン酸および/または9,12,13-トリヒドロキシ-10-オクタデカエン酸を含む。
【0042】
水酸化脂肪酸の誘導体やその塩としては、オキソ脂肪酸の誘導体またはその塩として上記に例示されたものが好適に使用され得る。
【0043】
本発明の植物賦活剤は、オキソ脂肪酸として、少なくとも2種以上のオキソ脂肪酸を含んでいてもよい。2種以上のオキソ脂肪酸を組み合わせることにより、本発明の植物賦活剤がさらに高い植物賦活効果を示すことがある。例えば、2種のケトオクタデカジエン酸は、9-オキソ-10,12-オクタデカジエン酸(9-oxoODA)と13-オキソ-9,11-オクタデカジエン酸(13-oxoODA)との組み合わせであってもよい。
【0044】
本発明の一実施形態において、本発明の植物賦活剤は、オキソ脂肪酸として、13-オキソ-9,11-オクタデカジエン酸またはその塩もしくは誘導体と9-オキソ-10,12-オクタデカジエン酸またはその塩もしくは誘導体とを含む。例えば、13-オキソ-9,11-オクタデカジエン酸またはその塩もしくは誘導体の含有量に対する、9-オキソ-10,12-オクタデカジエン酸またはその塩もしくは誘導体の含有量の比は、重量比で、0.1~10.0、好ましくは0.3~5.0である。
【0045】
植物ホルモンの生成促進の観点からは、13-オキソ-9,11-オクタデカジエン酸またはその塩もしくは誘導体の含有量に対する、9-オキソ-10,12-オクタデカジエン酸またはその塩もしくは誘導体の含有量の比は、重量比で1.0を超え、2.0以下が望ましい。一方、遺伝子発現量の観点からは、13-オキソ-9,11-オクタデカジエン酸またはその塩もしくは誘導体の含有量に対する、9-オキソ-10,12-オクタデカジエン酸またはその塩もしくは誘導体の含有量の比は、重量比で0.4から1.0が望ましい。
【0046】
本発明の一実施形態において、本発明の植物賦活剤は、オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩から選ばれる少なくとも1種の化合物と水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩から選ばれる少なくとも1種の化合物とに加えて、脂肪酸ヒドロペルオキシドまたはその誘導体もしくはその塩をさらに含んでいてもよい。さらに賦活効果の高い植物賦活剤が得られることがある。
【0047】
例えば、脂肪酸ヒドロペルオキシドとしては、これらに限定されるわけではないが、13-ヒドロペルオキシ-9,11-オクタデカジエン酸または9-ヒドロペルオキシ-10,12-オクタデカジエン酸などが具体例として挙げられる。本実施形態において、好ましくは、脂肪酸ヒドロペルオキシドまたはその誘導体もしくはその塩の含有量に対する、オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩から選ばれる少なくとも1種の化合物の含有量の比が、重量比で、0.003~350、好ましくは14~320である。
【0048】
後記実施例に示すように、本発明の植物賦活剤を植物に施用すると、植物の成長、花芽形成、果実形成などを促す植物ホルモンを増加させることができる。すなわち、本発明の植物賦活剤は、植物に施用されることにより、植物の生長および植物の子実の生長を促進し、その結果、子実の収量を高めることができるという顕著に優れた植物賦活効果を有している。なお、「子実の収量を高める」とは、収穫される子実が増大することを意味し、例えば植物個体あたりの子実重量および/または子実数が、本発明の植物賦活剤で処理されなかった植物群よりも増加することを意味している。
【0049】
本発明の植物賦活剤は、施用される植物において、子実の収量増加に関連する葉中の植物ホルモンの含有量を増加させることができる。本発明の植物賦活剤は、例えば、花芽形成促進および子房の成長促進の生理作用をもつ植物ホルモンであるジベレリンの葉中での含有量を増加させることができる。子実収量は、莢数と正の相関関係にあり、莢数は花蕾数と密接な正の相関関係があることが知られている。したがって、花房の発達を促進させることのできるジベレリン量の増加は、花蕾数と莢数ひいては収量の増加を結果としてもたらし得る。すなわち、本発明の植物賦活剤は、ジベレリンの生合成の増加を誘導することができる、すなわち花芽形成促進剤である。
【0050】
本発明の植物賦活剤を植物に施用することにより、施用された植物において、オーキシン生合成関連遺伝子の発現が増大される。上述したように、植物のオーキシンの生合成経路においては、L-Trp(L-トリプトファン)からIPA(インドール-3-ピルビン酸)を経由してIAA(インドール-3-酢酸)が形成される。本発明の植物賦活剤は、L-TrpからIPAへの反応を触媒する酵素であるトリプトファントランスアミナーゼ(TAT、シロイヌナズナのTATは特にTAAと称される)およびIPAからIAAへの反応を触媒する酵素であるフラビンモノオキシゲナーゼ(YUCCA)両方の遺伝子発現を増大させる。
【0051】
YUCCAはIAA生合成の量を制御する鍵となる酵素であり、その遺伝子を過剰発現したシロイヌナズナはIAA過剰生産の表現型を示すことが知られている。本発明の植物賦活剤は、上述のように、TAAに加えてフラビンモノオキシゲナーゼ様のタンパク質YUCCAの遺伝子発現量が増大させる。したがって、本発明の植物賦活剤を植物に施用することにより、植物におけるオーキシンの生合成が促進されることが理解される。
【0052】
オーキシンは植物の形態形成で中心的な役割を果たす成長制御物質であることから、オーキシン生成の促進は、様々な植物生長促進効果を植物に対してもたらし得る。また、人工的に合成されたオーキシンが、農作物やバイオマスなどの増収のための着果・果実成長促進剤等として広く用いられていることからも、植物のオーキシン内生量を増加させることは、収量増加を植物に直接的にもたらすことができることを意味している。すなわち、本発明の植物賦活剤を用いることにより、人工的に合成されるオーキシンを使用することなく、収量増加が達成され得る。また、IAAと相互変換することが知られているインドール-3-酪酸(IBA)によって制御されると考えられている側根の形成または伸長や、幼植物体の側根の形成または伸長なども、本発明の植物賦活剤によって促進され得、したがって、本発明の植物賦活剤は、発根促進剤としても作用する。
【0053】
本発明の植物賦活剤は、高いオーキシン生合成促進効果を有する。したがって、本発明は、本発明の植物賦活剤で植物を処理することを含む、該植物におけるオーキシンの生合成を増大させる方法に関する。また、本発明は、TAA1遺伝子やYUCCA遺伝子を制御することにより植物でのIAA内生量をコントロールする方法にも関する。
【0054】
オーキシンは、植物に普遍的に存在することが知られている。そのため、本発明の植物賦活剤は、被子植物および裸子植物を含む様々な植物に対して適用されて、オーキシン産生量を増大させることができる。本発明の植物賦活剤を適用し得る植物としては、限定されるものではないが、例えば、シロイヌナズナおよびアブラナのようなアブラナ科植物、イネ、トウモロコシ、コムギおよびオオムギ、シバのようなイネ科植物、ダイズのようなマメ科植物、ブドウ科植物、トマトなどのナス科植物、モモおよびリンゴのようなバラ科植物等を挙げることができる。
【0055】
特には、本発明の植物賦活剤は、イネ科植物またはマメ科植物に好適に適用され得る。さらに、本発明の植物賦活剤は、イネ科植物およびマメ科植物の中でも、イネ(米)や大豆に特に好適に用いることができる。米の種類としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、白鶴錦、山田錦、五百万石、美山錦、雄町、八反、八反錦、吟風、ゆめさんさ、若水、夢の香等の酒米、日本晴、コシヒカリ、ひとめぼれ、ヒノヒカリ、あきたこまち、キヌヒカリ、ななつぼし、はえぬき等の食用米などが挙げられる。
【0056】
また、本明細書において、大豆とは、マメ科の一年草である大豆(学名 Glycine max)を意味する。大豆の品種は多岐にわたるが、本発明の大豆用植物賦活剤は、例えば、フクユタカ、エンレイ、里のほほえみ、湯上がり娘、リュウホウ、スズユタカ、トヨホマレ、ミヤギシロメ等の国産大豆等、IOM等の米国産大豆等のいずれに対しても好適に用いることができる。また、大豆が遺伝子組み替えであるか、非遺伝子組み替えであるかも問わない。
【0057】
本発明の植物賦活剤には、必要に応じて、植物賦活剤として使用するのに適した相溶性の界面活性剤および/または希釈剤もしくは担体が含有されていてもよい。例えば、希釈剤により、オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩や水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩の溶媒への分散性が向上する場合がある。また、本発明で使用されるオキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩や水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩の希釈剤への溶解性や分散性を向上させるために、例えば分散助剤や湿潤剤などの界面活性剤などが含有されていてもよい。これらの添加成分としては、農業上容認可能な薬剤であれば特に限定されない。また、本発明の植物賦活剤には、界面活性剤や希釈剤、担体以外の、農薬製剤などに通常用いられる成分、例えばpH調整剤、植物体または土壌への展着力を高めるための展着剤、バインダー、抗酸化剤などや例えば1種以上の肥料成分などの植物に有益な他の成分がさらに含有されていてもよい。
【0058】
本発明の植物賦活剤には、オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩と水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩とが含まれていればよく、それらの由来などは特に限定されるものではない。本発明のオキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩、および水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩は例えば、化学合成によって得られるものでもよく、また、例えば微生物を用いて製造されるものや微生物由来の酵素を脂肪酸などの基質に作用させて得られるものなどであってもよい。本発明の植物賦活剤には所望の濃度のオキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩と水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩とが含まれていればよく、例えばオキソ脂肪酸や水酸化脂肪酸として、微生物を用いて製造されるオキソ脂肪酸や水酸化脂肪酸が使用される場合、オキソ脂肪酸および水酸化脂肪酸を含有する混合物が植物賦活剤に使用されてもよい。微生物によって分泌されたバイオサーファクタントなどが混合物中に含まれている場合、前述したような添加成分を含有させなくても、本発明の植物賦活剤の分散性を向上させる可能性がある。オキソ脂肪酸またはその誘導体や水酸化脂肪酸またはその誘導体自体が不溶性である場合に、バイオサーファクタントにより乳化して水に分散させることができる場合がある。
【0059】
本発明の植物賦活剤は、任意の方法で植物に施用することができる。植物の根、茎、葉等の植物体に接触する方法であれば施用方法は特に限定されず、植物栽培における、花芽形成促進用および/または収量向上用および/または植物生長促進用の賦活剤として好適に作用する。本発明の植物賦活剤は、植物体に直接接するように施用されてもよく、また、植物体が定着した土壌、培地等の栽培担体に施用してもよい。例えば、本発明の植物賦活剤は、植物の茎葉もしくは根に接触させる噴霧剤もしくは浸漬用薬剤、または、土壌灌注用薬剤として使用され得る。具体的な施用方法は、施用される植物の栽培形態等によって適宜選択され得るが、例えば、地上液剤散布、地上固形散布、空中液剤散布、空中固形散布、液面散布、施設内施用、土壌混和施用、土壌灌注施用、塗布処理等の表面処理、育苗箱施用、単花処理、株元処理等が例示され得る。また、本発明の植物賦活剤は、植物の肥料成分と混合して、植物用肥料として使用してもよい。また、本発明の植物賦活剤は、多孔質構造体やカプセル内に包含されたり、シート等に含侵されたりして、徐放性の薬剤として使用されてもよい。本発明の植物賦活剤としての形態は特に限定されない。本発明の植物賦活剤は、液状またはゲル状の形態であってもよく、また固体状態(ブロック状、粉末状、顆粒状等)の形態であってもよい。液状組成物の場合、そのまま、あるいは希釈して使用する濃縮タイプとすることができる。本発明の植物賦活剤は、植物の栽培において植物に植物生長促進効果を付与し、施用された植物において、作物重量の増加などの植物体の増加による子実収量増大、および、花芽形成促進作用を及ぼすことなどによる子実の多収化および収穫効率の向上をもたらす。
【0060】
本発明の植物賦活剤は、散布等の簡便な処理によって農作物やバイオマスなどの収量の向上をもたらすことができるため、特殊な設備等を用意する必要がなく、この点においても本発明の植物賦活剤は優れている。さらに、オキソ脂肪酸や水酸化脂肪酸などは、天然に存在する脂肪酸の酸化物であるため、本発明の植物賦活剤の環境負荷は低く、かつ、施用される植物への薬害もほとんどないという点においても、本発明の植物賦活剤は有利である。
【0061】
本発明の植物賦活剤の植物体および/または栽培担体への施用は、例えば、オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩と水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩とが、水および/または水溶性溶媒に溶解または分散した液体の状態で植物体および/または栽培担体に施用される方法によって行うことができる。例えば、オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩と水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩とが溶解または分散された液体が、対象の植物体の地上部(茎、葉等)に噴霧または塗布され得る。本発明の植物賦活剤の対象植物への施用は例えば出芽後、収穫前までに少なくとも一回行われればよく、複数回に分けて施用されてもよい。
【実施例0062】
本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明は実施例のみに限定されるものではない。
【0063】
[実施例1]
・植物賦活剤液1の調製
脂肪酸を含む原料として、純度90%のリノール酸(日油(株)製)580gを用い、これに炭酸カリウム(富士フイルム和光純薬(株)製)216g、リン酸水素二カリウム(富士フイルム和光純薬(株)製)280g、および、蒸留水13000mLを加えて試験溶液を調製した。この時の試験溶液のpHは9.0であった。
【0064】
試験溶液にリポキシゲナーゼ(ナカライテスク(株)製、大豆由来)を40mg添加し、攪拌しながら15℃で3時間反応させたのち、反応混合物を90℃の湯浴中に90分間置いた。ここにリン酸(富士フイルム和光純薬(株)製)35mLを加えてpH7.0に調整した。この溶液に酸素を曝気攪拌しながら50℃で22時間反応させたのち、反応混合物を90℃の湯浴中に2時間置いた。
【0065】
得られた反応終了後の反応溶液を、標準物質としてケイマンケミカル社製の13-oxoODA(13-オキソ-9,11-オクタデカジエン酸、13-oxo-9,11-octadecadienoic acid)、9-oxoODA(9-オキソ-10,12-オクタデカジエン酸、9-oxo-10,12-octadecadienoic acid)、およびラローダンファインケミカルズ社製の9,10,13-トリヒドロキシ-11-オクタデカエン酸(9,10,13-トリヒドロキシ-11-オクタデセン酸、9,10,13-trihydroxy-11-octadecenoic acid)、9,12,13-トリヒドロキシ-10-オクタデカエン酸(9,12,13-トリヒドロキシ-10-オクタデセン酸、9,12,13-trihydroxy-10-octadecenoic acid)、13-ヒドロペルオキシ-9,11-オクタデカジエン酸(13-HPODE)、13-ヒドロキシ-9,11-オクタデカジエン酸(13-HODE)を用い、MS2スペクトル解析を用いてLC-MSにて定量した。また、ケトオクタデカジエン酸(13-oxoODA、9-oxoODA)については検出波長 UV 272nmで、トリヒドロキシオクタデカエン酸については検出波長 UV 210nmで、絶対検量線法により定量を行った。
【0066】
(E,E体)、(E,Z体)などの異性体の合算収率として、収率3.3%の13-oxoODAを得た。このとき9-oxoODAの収率は6.5%であった。また、9,10,13-トリヒドロキシ-11-オクタデカエン酸および9,12,13-トリヒドロキシ-10-オクタデカエン酸を併せた収率は、0.63%(LC-MSによるピークの分離不能)、13-ヒドロペルオキシ-9,11-オクタデカジエン酸(13-HPODE)の収率は、0.031%、13-ヒドロキシ-9,11-オクタデカジエン酸(13-HODE)の収率は、0.092%であり、リノール酸の回収率は80.2%であった。
【0067】
なお、収率(%)は以下の式に基づいて求めた。
収率(%)=(生成した13-oxoODA、9-oxoODA、9,10,13-トリヒドロキシ-11-オクタデカエン酸、9,12,13-トリヒドロキシ-10-オクタデカエン酸、13-HPODEまたは13-HODEのwt%)/(使用した原料リノール酸の初期wt%)
【0068】
上記で得られた反応溶液0.1mLをイオン交換水で2000mLに希釈したものを植物賦活剤液1(9-oxoODA/13-oxoODA>1)として調製した。
【0069】
・大豆における植物ホルモンの測定
大豆(品種:ふくゆたか)の種を、野菜と花の種まき培土(タキイ種苗(株)製)を入れた3号ポットにポット当り4つ播種した。人工気象機(LH-60FL3-DT:(株)日本医化器械製作所製)内で温度25℃、蛍光灯下14時間と温度20℃、消灯下10時間を1日のサイクルとして30日間育成させた。
【0070】
上述の植物賦活剤液1(9-oxoODA/13-oxoODA>1)を播種後30日後の大豆の葉面にスプレーボトルを用いて、1株当たり1mLずつ20株に散布した。
【0071】
散布24時間後に2株を1サンプルとして5サンプルずつ成長点から新葉を含めた部位を切り取り、15mL容量蓋付き遠沈管に秤量し(新鮮重量:FW)、すぐに-80℃の冷凍庫に移し24時間冷凍した。
【0072】
冷凍したサンプルにエタノール:水:酢酸=80:20:1混合液を0.1g/1mL濃度となるように加えてビーズ破砕後、超音波処理を10分間行った。これを1時間静置し、遠心分離機(himac CT6E:エッペンドルフ・ハイマック・テクノロジーズ(株)製)で3000rpm、5分間遠心分離した上澄みをメンブレンフィルターでろ過し分析サンプルとした。
【0073】
分析サンプルについて、LC-MS/MS装置にて次の条件で、植物ホルモン分析を行った。カラム=Aclaim PR-MS2.1mmφ×150mm(サーモフィッシャーサイエンティフィック(株)製)、溶媒=2%アセトニトリル/酢酸水→95%アセトニトリル/酢酸水、流速=0.25mL/min.、カラム温度=40℃、検出=MS-(SIM)、導入=サンプル液2μL。標品として、ジベレリンA1(トロント社製)を用いた分析値の検量線を用いて作成し、MS-のピーク面積値から定量を行った。後述する比較例1(無処理区)を1.0とした相対値でグラフとして示したジベレリンの定量結果を
図2に示す。
【0074】
[実施例2]
・植物賦活剤液2の調製
脂肪酸を含む原料として、純度90%のリノール酸(日油(株)製)580gを用い、これに炭酸カリウム(富士フイルム和光純薬(株)製)216g、リン酸水素二カリウム(富士フイルム和光純薬(株)製)280g、および、蒸留水13000mLを加えて試験溶液を調製した。この時の試験溶液のpHは9.0であった。
【0075】
試験溶液にリポキシゲナーゼ(ナカライテスク(株)製、大豆由来)を40mg添加し、酸素を曝気し攪拌しながら15℃で3時間反応させたのち、反応混合物を90℃の湯浴中に90分間置いた。得られた反応溶液をA液とした。
【0076】
A液6500mLにリン酸(富士フイルム和光純薬(株)製)35mLを加えてpH7.0に調整した。この溶液に酸素を曝気攪拌しながら50℃で22時間反応させたのち、反応混合物を90℃の湯浴中に2時間置いた。得られた反応液をB液とした。
【0077】
上記で得られたA液全量とB液全量を混合し、得られた混合液を、標準物質としてケイマンケミカル社製の13-oxoODA、9-oxoODA、およびラローダンファインケミカルズ社製の9,10,13-トリヒドロキシ-11-オクタデカエン酸、9,12,13-トリヒドロキシ-10-オクタデカエン酸、13-ヒドロペルオキシ-9,11-オクタデカジエン酸(13-HPODE)、13-ヒドロキシ-9,11-オクタデカジエン酸(13-HODE)を用い、MS2スペクトル解析を用いてLC-MSにて定量した。また、ケトオクタデカジエン酸については検出波長 UV 272nmで、トリヒドロキシオクタデカエン酸については検出波長 UV 210nmで、絶対検量線法により定量を行った。
【0078】
(E,E体)、(E,Z体)などの異性体の合算収率として、収率3.7%の13-oxoODAを得た。このとき9-oxoODAの収率は1.7%であった。また、9,10,13-トリヒドロキシ-11-オクタデカエン酸および9,12,13-トリヒドロキシ-10-オクタデカエン酸を併せた収率は、1.2%(LC-MSによるピークの分離不能)であり、13-ヒドロペルオキシ-9,11-オクタデカジエン酸(13-HPODE)の収率は0.37%、13-ヒドロキシ-9,11-オクタデカジエン酸(13-HODE)の収率は1.3%であり、リノール酸の回収率は84.1%であった。
【0079】
上記で得られた、A液およびB液の混合液0.1mLをイオン交換水で2000mLに希釈したものを植物賦活剤液2(9-oxoODA/13-oxoODA<1)として調製した。
【0080】
・イネにおける遺伝子発現解析
うるち米水稲(品種名「日本晴れ」)を4葉期まで育成し、上記植物賦活剤液2(9-oxoODA/13-oxoODA<1)を葉面にスプレーボトルをもちいて1株当たり1mLずつ吹き付けた。散布24時間後に2株を1サンプルとして6サンプルずつ、地上部を切り取り、RNA抽出のサンプルとした。対照としては、後述する比較例1(無処理区)からのサンプルを用いた。
【0081】
RNeasy(登録商標) Plant Mini kit(QIAGEN)を用いてプロトコールに従ってトータルRNAを抽出した。抽出したトータルRNAについて、RNA-seq解析を行った。ライブラリーは、MGIEasy RNA Directional Library Prep Set(MGI)を用いてマニュアルに従って作製し、環状化DNAは、作製されたライブラリーとMGIEasy Circularization Kit(MGI)を用いて作製した。DNBSEQ-G400を用いて2×100塩基対の条件でシーケンシングを行った。取得した配列からアダプター配列を取り除いた後、sickle toolsを用いて、クオリティー値が20未満の配列を取り除き、40塩基以下の長さとなった配列とそのペア配列を破棄した。イネ(Oryza sativa L. cv. Nipponbare)の参照ゲノム配列へのマッピングおよび正規化した後、発現変動遺伝子を同定した。なお、RNA抽出、RNAの解析および遺伝子の特定は、(株)生物技研(神奈川県)に委託した。
【0082】
図1に、発現量が増加した遺伝子を示す。グラフは、発現量が増加した遺伝子の遺伝子カウント数を、対照(後述する比較例1、無処理区)を1.0とした相対値として示している。
【0083】
・大豆における植物ホルモンの測定
実施例1と同様に大豆の葉面に植物賦活剤液2を散布した。その後、実施例1と同様に、サンプル回収、抽出、そして得られた分析サンプルの成分分析を行った。後述する比較例1(無処理区)を1.0とした相対値でグラフとして示したジベレリンの定量結果を
図2に示す。
【0084】
[比較例1]
実施例2の植物賦活剤液2に代えてイオン交換水を用い、実施例2と同様に、イネにイオン交換水を散布した。その後、実施例2と同様に、サンプルからRNAを抽出し、作製したライブラリーのシーケンシングを行った。
【0085】
また、実施例1と同様に、大豆の葉面にイオン交換水を散布し、その後、実施例1と同様に、サンプル回収、抽出、そして得られた分析サンプルのジベレリンを定量した。分析結果を1.0として、実施例1および2の分析結果を相対値として表した結果が
図2に示されている。
【0086】
図1に示されるように、本発明の植物賦活剤液でイネを処理することにより、オーキシン生合成関連遺伝子である、YUCCA7、YUCCA9、YUCCA1およびTAA1をコードする遺伝子の発現量が増大した。この結果は、本発明の植物賦活剤液を施用された植物において、L-トリプトファン(L-Trp)からのIAA(インドール-3-酢酸)合成経路に関与する酵素群の遺伝子がアップレギュレートされたことを示している。
【0087】
この結果より、植物において、本発明の植物賦活剤によりL-トリプトファン(L-Trp)からのIAA(インドール-3-酢酸)合成経路が活性化され、したがって当該経路における生成物であるオーキシンも増量することが理解できる。本発明の植物賦活剤による高い植物生長促進効果が期待される。
【0088】
特に、遺伝子発現量の増加が見られた酵素のうちYUCCA1およびYUCCA7は、それぞれ、根の形成および乾燥耐性に寄与するタンパク質であることが知られているため、本発明の植物賦活剤は、根の形成促進、乾燥耐性の向上の植物賦活効果も有していることがわかる。
【0089】
また、
図2の結果から、本発明の植物賦活剤液で大豆を処理することにより、大豆の葉中のジベレリンが、増加されたことがわかる。ジベレリンは、大豆の花芽形成促進効果を司っている植物ホルモンである。したがって、本発明の植物賦活剤は、ジベレリン内生量を増加させる作用があり、したがって、子実の収量を増やす効果を有していることがわかる。