(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024018688
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】検出装置
(51)【国際特許分類】
G01N 27/04 20060101AFI20240201BHJP
G01N 25/00 20060101ALN20240201BHJP
【FI】
G01N27/04 F
G01N25/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022122168
(22)【出願日】2022-07-29
(71)【出願人】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】原野 航
【テーマコード(参考)】
2G040
2G060
【Fターム(参考)】
2G040AA02
2G040BA02
2G040BA23
2G040BB01
2G040CA01
2G040CA13
2G040CA22
2G040CB09
2G040CB14
2G040DA02
2G040DA14
2G040EA02
2G040EC04
2G040GA05
2G040HA07
2G040HA08
2G060AA01
2G060AB06
2G060AB07
2G060AB10
2G060AB21
2G060AB26
2G060AE19
2G060AF07
2G060AG03
2G060AG10
2G060BA01
2G060HB06
2G060JA01
2G060KA01
(57)【要約】
【課題】検出する物質の種類の選択性を向上できる検出装置を提供する。
【解決手段】検出装置は、金属酸化物層16と、前記金属酸化物層の抵抗値に関する検出値を検出する検出器22と、第1期間と、前記金属酸化物層の温度が前記第1期間の温度より低い第2期間と、が交互に切り替わるように、前記金属酸化物層の温度を加熱する加熱器と、前記第1期間における前記検出器が検出する第1検出値と、前記第2期間における前記検出器が検出する第2検出値と、に基づき、測定対象の気体に関する判定情報を演算する演算器26とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属酸化物層と、
前記金属酸化物層の抵抗値に関する検出値を検出する検出器と、
第1期間と、前記金属酸化物層の温度が前記第1期間の温度より低い第2期間と、が交互に切り替わるように、前記金属酸化物層を加熱する加熱器と、
前記第1期間における前記検出器が検出する第1検出値と、前記第2期間における前記検出器が検出する第2検出値と、に基づき、測定対象の気体に関する判定情報を演算する演算器と、
を備える検出装置。
【請求項2】
前記演算器は、前記第1検出値と前記第1検出値の基準となる第1基準値とに基づき第1反応量を算出し、前記第2検出値と前記第2検出値の基準となる第2基準値とに基づき第2反応量を算出し、前記第1反応量と前記第2反応量とに基づき前記気体に関する判定情報を演算する請求項1に記載の検出装置。
【請求項3】
前記第1基準値は、基準気体に対する前記第1期間において前記検出器が検出する検出値であり、前記第2基準値は、前記基準気体に対する前記第2期間において前記検出器が検出する検出値である請求項2に記載の検出装置。
【請求項4】
前記演算器は、前記第1反応量と前記第2反応量とに基づき特徴値を算出し、前記第1反応量と前記第2反応量と前記特徴値とに基づき、前記気体に関する判定情報を演算する請求項2に記載の検出装置。
【請求項5】
前記特徴値は、前記第1反応量と前記第2反応量との比である請求項4に記載の検出装置。
【請求項6】
前記加熱器は、前記第1期間と前記第2期間と合計の長さに対する前記第1期間の長さの比であるデューティ比を第1デューティ比と第2デューティ比に切り換え、
前記演算器は、前記第1デューティ比のときの前記第1検出値に関する値と、前記第1デューティ比のときの前記第2検出値に関する値と、前記第2デューティ比のときの前記第1検出値に関する値と、前記第2デューティ比のときの前記第2検出値に関する値と、に基づき、前記気体に関する判定情報を演算する請求項1に記載の検出装置。
【請求項7】
前記第1期間と前記第2期間との合計の長さに対する前記第1期間の長さの比は0.3以上である請求項1に記載の検出装置。
【請求項8】
前記演算器は、前記第1検出値に関する値および前記第2検出値に関する値を特徴量とし、前記気体に関する判定情報を特定するための機械学習を行った学習済みのモデルに、前記検出器が出力する前記第1検出値に関する値および前記検出器が出力する前記第2検出値に関する値を入力することで、前記気体に関する判定情報を演算する請求項1に記載の検出装置。
【請求項9】
複数の前記金属酸化物層と、
前記複数の金属酸化物層の抵抗値に関する情報をそれぞれ検出する複数の前記検出器と、
前記複数の金属酸化物層の温度をそれぞれ加熱する複数の加熱器と、
を備え、
前記演算器は、前記複数の検出器がそれぞれ検出する複数の前記第1検出値に関する値と、前記複数の検出器がそれぞれ検出する複数の前記第2検出値に関する値と、に基づき、前記気体に関する判定情報を演算する請求項1から8のいずれか一項に記載の検出装置。
【請求項10】
前記気体に関する判定情報はにおいに関する判定情報である請求項1から8のいずれか一項に記載の検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検出装置に関し、例えば金属酸化物層を有する検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
金属酸化物層の抵抗値により気体を検出する検出器において、金属酸化物層を室温と高温とに周期的に加熱し、室温付近の温度において気体内の物質を検出する検出装置が知られている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
金属酸化物層を有する検出装置では、気体中の特定の物質の分子が金属酸化物層にて吸着し、その後酸化反応が引き起こされる。この吸着および酸化反応により、金属酸化物層の抵抗値の変化を検出する。これにより、気体内の特定の物質を検出できる。特定の物質の酸化反応が促進する触媒を用いることで検出する物質の種類の選択性が向上できる。金属酸化物の表面の吸着特性を変えることで、検出する物質の種類の選択性が向上できる。しかしながら、検出する物質の種類の選択性をより向上させることが求められている。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、検出する物質の種類の選択性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、金属酸化物層と、前記金属酸化物層の抵抗値に関する検出値を検出する検出器と、第1期間と、前記金属酸化物層の温度が前記第1期間の温度より低い第2期間と、が交互に切り替わるように、前記金属酸化物層を加熱する加熱器と、前記第1期間における前記検出器が検出する第1検出値と、前記第2期間における前記検出器が検出する第2検出値と、に基づき、測定対象の気体に関する判定情報を演算する演算器と、を備える検出装置である。
【0007】
上記構成において、前記演算器は、前記第1検出値と前記第1検出値の基準となる第1基準値とに基づき第1反応量を算出し、前記第2検出値と前記第2検出値の基準となる第2基準値とに基づき第2反応量を算出し、前記第1反応量と前記第2反応量とに基づき前記気体に関する判定情報を演算する構成とすることができる。
【0008】
上記構成において、前記第1基準値は、基準気体に対する前記第1期間において前記検出器が検出する検出値であり、前記第2基準値は、前記基準気体に対する前記第2期間において前記検出器が検出する検出値である構成とすることができる。
【0009】
上記構成において、前記演算器は、前記第1反応量と前記第2反応量とに基づき特徴値を算出し、前記第1反応量と前記第2反応量と前記特徴値とに基づき、前記気体に関する判定情報を演算する構成とすることができる。
【0010】
上記構成において、前記特徴値は、前記第1反応量と前記第2反応量との比である構成とすることができる。
【0011】
上記構成において、前記加熱器は、前記第1期間と前記第2期間と合計の長さに対する前記第1期間の長さの比であるデューティ比を第1デューティ比と第2デューティ比に切り換え、前記演算器は、前記第1デューティ比のときの前記第1検出値に関する値と、前記第1デューティ比のときの前記第2検出値に関する値と、前記第2デューティ比のときの前記第1検出値に関する値と、前記第2デューティ比のときの前記第2検出値に関する値と、に基づき、前記気体に関する判定情報を演算する構成とすることができる。
【0012】
上記構成において、前記第1期間と前記第2期間との合計の長さに対する前記第1期間の長さの比は0.3以上である構成とすることができる。
【0013】
上記構成において、前記演算器は、前記第1検出値に関する値および前記第2検出値に関する値を特徴量とし、前記気体に関する判定情報を特定するための機械学習を行った学習済みのモデルに、前記検出器が出力する前記第1検出値に関する値および前記検出器が出力する前記第2検出値に関する値を入力することで、前記気体に関する判定情報を構成とすることができる。
【0014】
上記構成において、複数の前記金属酸化物層と、前記複数の金属酸化物層の抵抗値に関する情報をそれぞれ検出する複数の前記検出器と、前記複数の金属酸化物層の温度をそれぞれ加熱する複数の加熱器と、を備え、前記演算器は、前記複数の検出器がそれぞれ検出する複数の前記第1検出値に関する値と、前記複数の検出器がそれぞれ検出する複数の前記第2検出値に関する値と、に基づき、前記気体に関する判定情報を演算する構成とすることができる。
【0015】
上記構成において、前記気体に関する判定情報はにおいに関する判定情報である構成とすることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、検出する物質の種類の選択性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1(a)は、実施例1における検出素子の断面図、
図1(b)は、検出装置のブロック図である。
【
図2】
図2は、実施例1における時間に対する温度制御器の制御および検出器のサンプリングのタイミングを示す図である。
【
図3】
図3は、実施例1における検出装置の動作を示すフローチャートである。
【
図4】
図4は、実施例1のステップS12およびS18における検出装置の動作を示すフローチャートである。
【
図5】
図5は、実施例1のステップS22における検出装置の動作を示すフローチャートである。
【
図6】
図6(a)および
図6(b)は、実験1における時間に対する抵抗値を示す図である。
【
図7】
図7は、実験1における気体の種類に対するSHT、SRTおよびSHT/SRTを示す図である。
【
図8】
図8は、実施例2における時間に対する温度制御器の制御および検出器のサンプリングのタイミングを示す図である。
【
図9】
図9は、実施例2のステップS12およびS18における検出装置の動作を示すフローチャートである。
【
図10】
図10は、実施例2のステップS22における検出装置の動作を示すフローチャートである。
【
図11】
図11(a)は、実験2におけるデューティ比に対する抵抗値を示す図であり、
図11(b)は、実験2におけるデューティ比に対する反応量を示す図である。
【
図12】
図12は、実験3における時間に対する抵抗値を示す図である。
【
図13】
図13は、実施例3に係る検出装置のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照し実施例について説明する。
【実施例0019】
図1(a)は、実施例1における検出素子の断面図、
図1(b)は、検出装置のブロック図である。
図1(a)に示すように、検出素子10では、基板12上に絶縁層15が設けられている。絶縁層15内にヒータ14が設けられている。このヒータ14の位置は、絶縁層15の内部に限定されない。絶縁層15上に電極18aおよび18bが設けられている。絶縁層15上に電極18aおよび18bを覆うように金属酸化物層16が設けられている。なお、ここでは、ヒータ14、電極18a、18bおよび金属酸化物層16は、平面視において重なっている。
【0020】
基板12は、シリコン基板である。他に、基板12には、例えば半導体基板、セラミック基板またはガラス基板が採用可能である。平面視においてヒータ14および金属酸化物層16と重なる位置に対応する基板12には、絶縁層15の下面が露出するようにキャビティ13が設けられている。キャビティ13が形成されることで、絶縁層15のブリッジの部分の熱容量が小さくなり、ヒータ14の熱により金属酸化物層16が加熱されやすい。なお、キャビティ13は設けられていなくてもよい。
【0021】
絶縁層15は、酸化シリコン層である。絶縁層15には、例えば窒化シリコン層等の無機絶縁層または有機絶縁層も適用可能である。ヒータ14は、白金であり、他には、ニッケルクロム等の金属層も適用可能である。ヒータ14は温度制御器24に接続されている。
【0022】
金属酸化物層16は、半導体としての性質を有する層である。金属酸化物層16は、チャンバ20内に導入された気体に暴露される。金属酸化物は、一例として酸化錫(SnO2)であり、例えば酸化インジウム(InOx)または酸化亜鉛(ZnO)である。検出する気体内の物質としては、例えばエタノール、アセトンもしくはトルエン等の有機化合物、または、アンモニア、窒素酸化物、オゾンもしくは塩素等の無機物質である。
【0023】
電極18aおよび18bは、櫛型電極であり、この櫛型電極18aと18bは、お互いに対向して、
図1(a)のように、互い違いに配置される。そして電極18aと18bとの間を埋めながら全域を覆うように、金属酸化物層16が設けられている。電極18aおよび18bは一例として白金層である。他にも、電極18aおよび18bには、銅層、金層またはアルミニウム層等の金属層が適用可能である。電極18aおよび18bは検出器22に接続されている。
【0024】
検出素子10は、チャンバ20に設けられている。チャンバ20には導入路21aから気体19が導入され、チャンバ20を循環して、排出路21bから気体19が排出される。
【0025】
検出素子10が検出するガスは、還元性ガスであり、ガスの分子は金属酸化物層16内の電子を受け取り金属酸化物層16にガス吸着される。その後、ガスの分子と金属酸化物層16との酸化反応が引き起こされる。この吸着および酸化反応に基づき、金属酸化物層16内のキャリア密度が変化し、金属酸化物層16の抵抗値が変化する。金属酸化物層16の抵抗値を測定することで、チャンバ20内のガス分子の量が推定できる。金属酸化物層16上に、検出対象の気体分子の酸化反応を促進させる触媒を設けてもよい。触媒は金属酸化物層16内に分散させてもよい。触媒は一例として金である。
【0026】
図1(b)に示すように、温度制御器24は、検出素子10のヒータ14に加える電圧を制御して、金属酸化物層16の温度を制御する。検出器22は、電極18aと18bとの間の金属酸化物層16の抵抗値を検出する。検出値は、例えば、電極18aと18bとの間の抵抗値、電圧値または電流値である。演算器26は、例えばプロセッサである。演算器26は、温度制御器24に指示を出して、金属酸化物層16の温度を制御する。検出器22が検出した抵抗値に基づき、気体の種類等の判定情報を演算する。演算器26は、ソフトウエアと協働し、算出部26aおよび判定部26bとして機能する。
【0027】
算出部26aは、検出器22が検出した検出値に基づき、反応量等を算出する。反応量は、検出値と、後述する基準値から算出する値であり、典型的には検出値/基準値である。このように、検出値から算出された値は、検出素子10の反応する気体内の物質の分子の量に関する情報を含んでいるため、反応量等と呼ぶ。後述するが、判定部26bは、算出部26aが算出した反応量等に基づき、気体に関する判定情報を判定する。メモリ28は、例えば揮発性メモリまたは不揮発性メモリであり、検出器22が検出した検出値等を記憶する。学習部25は、演算器26が演算に用いる機械学習モデルを記憶する。また、学習部25は、演算器26の演算結果に基づき、機械学習モデルを再学習する。学習部25は、検出装置内に設けられていてもよいし、クラウド等のネットワークにより接続されたサーバ上に設けられていてもよい。
【0028】
図2は、時間に対する温度制御器の制御の方法および検出器のサンプリングのタイミングを示す図である。横軸は時間であり、縦軸は、温度制御器24がヒータ14に印加する電圧、および検出器22が電極18aと18bとの間の検出値を測定するサンプリングタイミングを示す。以下の説明では、この検出値として抵抗値を例に説明する。
【0029】
図2に示すように、時間t1からt2の間は期間T1であり、時間t2からt1の間は期間T2である。温度制御器24は、ヒータ14に印加する電圧を、期間T1において電圧VHとし、期間T2において電圧VRとする。期間T1とT2とは交互に切り換えられる。期間T1ではヒータ14はオンとなり、金属酸化物層16の温度は室温より高くなる。金属酸化物層16の温度は例えば250℃以上である。期間T2では、電圧VRは例えば0Vであり、ヒータ14はオフとなる。これにより、検出素子10の周辺の環境温度が室温であれば、金属酸化物層16の温度はほぼ室温(例えば0℃~40℃)となる。以降、説明するが、期間T2のときに、金属酸化物層16の温度を、例えば、0℃~40℃とする。期間T2では、検出素子10の周辺の環境温度を温度センサで計測して、ヒータ14の電圧VRを調整し、金属酸化物層16の温度をある範囲内の温度としてもよい。
【0030】
検出器22は、期間T1において、所定の時間t5で金属酸化物層16の抵抗値RHTを検出し、期間T2において、所定の時間t6で金属酸化物層16の抵抗値RRT(室温における抵抗値)を検出する。時間t5は、期間T1内であって、ヒータ14がオン状態からオフ状態に到る手前の時間である。これにより、金属酸化物層16の温度が上昇した後の抵抗値RHT(高温時における抵抗値)を検出できる。時間t6は、期間T2内であって、ヒータ14がオフ状態からオン状態に到る前の時間である。これにより、金属酸化物層16の温度が低下したときの抵抗値RRTを測定している。つまり室温時の抵抗値RRTを検出できる。
【0031】
図3は、検出装置の動作を示すフローチャートである。
図3に示すように、検出装置が動作を開始し、まず、検出装置は、導入路21aからチャンバ20内に気体19として基準気体である空気を導入するステップS10を行う。空気は、例えば湿度が低くクリーンなドライ空気である。基準気体は空気以外にも基準となる気体(例えば不活性ガス等)であればよい。このステップS10によりチャンバ20内の気体がクリーンな空気に置き換わる。この後、検出装置は、金属酸化物層16の抵抗値RaRTおよびRaHTを測定するステップS12を行う。RaTHは、高温時の基準気体中の抵抗値、RaRTは、室温時の基準気体中の抵抗値である。ステップS12の詳細は後述する。続いて、検出装置は、ステップS14を行う。ステップS14は終了か否かを判定するステップであり、ステップS12を所望の回数を繰り返した場合、Yesと判定される。ステップS12の繰り返し回数が所望の回数に到らないときは、Noと判定され、ステップS12に戻る。
【0032】
ステップS14において、ステップS12を所望の回数繰り返したとき、つまりYesと判定されると、検出装置は、導入路21aからチャンバ20に検出する気体を導入するステップS16を行う。チャンバ20内の気体が検出する気体(検出気体、つまり測定対象の気体)に置き換わった後、検出装置は、金属酸化物層16の抵抗値RgRTおよびRgHTを測定するステップS18を行う。RgHTは、高温時の検出気体中の抵抗値、RgHTは、室温時の検出気体中の抵抗値である。なお、詳細は後述する。続いて検出装置は、終了か否かを判定するステップS20を行う。ここの判定では、ステップS18を所望の回数繰り返した場合にはYesと判定される。ステップS18の繰り返し回数が所望の回数に到らないときは、Noと判定され、ステップS18に戻る。
【0033】
ステップS20において、Yesと判定された場合、演算器26は、気体に関する判定情報を演算するステップS22を行う。気体に関する判定情報は、例えば気体内の物質の種類または濃度、気体のにおいの種類または強度などである。気体内の物質の種類とは、例えば、エタノール分子かアセトン分子か、などである。気体のにおいの種類とは、エタノール分子とアセトン分子などの、複数分子の複合的な組み合わせと、それぞれの分子の濃度(比率)によって定まり、例えば、タバコのにおいか加齢臭か、などである。気体のにおいの強度とは、例えば、タバコのにおいか加齢臭か、などのにおいがどれだけ強いかを示す指標である。この演算処理が終了した後、終了のステップに進む。
【0034】
図4は、
図3のフローにおいて、ステップS12およびS18の検出装置の動作を示すフローチャートである。
図3の空気導入(ステップS10)の後に、
図4のステップ30が実行される。このステップS30では、
図1の温度制御器24の指令により、ヒータ14に電圧VHが印加され、ヒータ14がオンする。これにより、金属酸化物層16の温度が上昇する。続いて、このステップS30で、ヒータ14がオンした後、所定の期間(ヒータ14がオフする手前まで)経過すると、ステップS32が実行される。ステップS32において、検出器22は、金属酸化物層16の抵抗値RHT(抵抗値RaHTまたはRgHT)を検出する。
図3のステップS12では、高温時の基準気体中の抵抗値(RaHT)が測定され、ステップS18では、高温時の検出気体中の抵抗値(RgHT)が測定される。続いて、フローにはないが、抵抗値RaHTおよびRgHTは、メモリ28に記憶される。期間T1は、ヒータ14がオンしている期間であり、測定が終了し、T1の期間が終了すると、ステップS36においてヒータ14がオフとなる。
【0035】
温度制御器24は、ヒータ14にオフ電圧(0V)である電圧VRを印加する(ステップS36)。ヒータ14がオフすると、金属酸化物層16の温度が下降する。ヒータ14がオフした後、所定の期間が経過すると、検出器22は、金属酸化物層16の抵抗値(RaRTまたはRgRT)を検出する(ステップS38)。
図3のステップS12では、検出される抵抗値は、室温時の基準気体中の抵抗値(RaRT)であり、ステップS18では、検出される抵抗値は室温時の検出気体中の抵抗値(RgRT)である。続いて、フローにはないが、抵抗値RaRTおよびRgRTはメモリ28に記憶される。ステップS40は、オフ期間である期間T2の終了のステップである。仮に測定が早期に終わった場合、期間T2が終了するまで待機する。ステップS42では、検出装置の一連の動作が、終了か否か判定する。例えば、ステップS30からS40を所定の回数を行った場合、Yesと判定され終了する。また、ステップS30からS40の回数が所定の回数に到らない場合、Noと判定され、ステップS30に戻る。
【0036】
図5は、
図3のステップS22で、検出装置の情報演算の動作を示すフローチャートである。特に演算器26の算出部26aと判定部26bの動作を示す。まずステップS44は、
図5に示すように、
図3の情報演算(ステップS22)において、算出部26aは、メモリ28から抵抗値RaHT、RaRT、RgHTおよびRgRTを取得する。続いて、ステップS46では、算出部26aは、取得した抵抗値RaHT、RaRT、RgHTおよびRgRTから高温時の反応量SHT、低温時の反応量SRTおよび特徴値Srep(高温と室温での反応量の商)を算出する。
反応量SHT=RaHT/RgHT
反応量SRT=RaRT/RgRT
特徴値Srep=SHT/SRT
である。
続いて、ステップS48においては、
図1(b)の判定部26bは、反応量SHT、SRTおよび特徴値Srepに基づき、気体に関する判定情報を判定する。判定部26bは、例えば学習部25が機械学習した機械学習モデルを用い、反応量SHT、SRTおよび特徴値Srepを特徴量とし、気体に関する判定情報を判定する。
【0037】
機械学習モデルは、事前に得られた、反応量SHT、SRTおよび特徴値Srepと気体に関する判定情報とを教師データとして作成されている。学習部25は、新たな反応量SHT、SRTおよび特徴値Srepと気体に関する判定情報とを教師データとして機械学習モデルを再設定してもよい。
【0038】
[実験1]
図6(a)および
図6(b)は、実験1における時間に対する抵抗値を示す図である。金属酸化物層16はSnOx、検出気体は10ppmのエタノールを含む空気、期間T1における温度は275℃、期間T2における温度は室温、期間T1の長さは5秒、期間T2の長さは5秒である。
【0039】
図6(a)に示すように、チャンバ20内に基準となる空気を導入した後、空気中に濃度が10ppmのエタノールを含む検出気体をチャンバ20に導入した。その後、チャンバ20内に基準となる空気を再度導入した。RHTは期間T1における電極18aと18bとの間の抵抗値であり、RRTは期間T2における電極18aと18bとの間の抵抗値である。抵抗値RHTはRRTに比べ低い。
【0040】
図6(b)において、抵抗値RaRTおよびRaHTは、
図6(a)においてチャンバ20に基準となる空気を導入している期間の抵抗値であり、抵抗値RgRTおよびRgHTは、
図6(a)においてチャンバ20にエタノールを含む空気を導入している期間の抵抗値である。理解しやすいように、抵抗値RaRTおよびRaHTと、抵抗値RgRTおよびRgHTと、を同じグラフに図示している。期間T1における抵抗値RgHTはRaHTより低く、期間T2における抵抗値RgRTはRaRTより低い。
【0041】
図7は、実験1における気体内の物質の種類に対するSHT、SRTおよびSHT/SRTを示す図である。
反応量SHT=RaHT/RgHT
反応量SRT=RaRT/RgRT
特徴値Srep=SHT/SRT
である。
検出する気体は10ppmの濃度のエタノール、アセトン、アンモニアおよびトルエンである。期間T1における温度は275℃、期間T2における温度は室温、期間T1の長さは60秒、期間T2の長さは60秒である。期間T1における抵抗値のサンプリングは、期間T1の終る直前に行い、期間T2における抵抗値のサンプリングは期間T2の開始から30秒後に行った。
【0042】
図7に示すように、気体内の物質の種類により、SHT、SRTおよびSHT/SRTの傾向が異なる。例えば、エタノールでは、SHTとSRTは大きく、SHTとSRTの大きさはほぼ同じである。よってSHT/SRTはほぼ1である。アセトンでは、SRTはSHTに比べ小さく、SHT/SRTが1より大きい。アンモニアでは、SRTはほぼ1であり、SHT/SRTはほぼSHTである。トルエンでは、SHTおよびSRTはほぼ1であり、SHT/SRTはほぼ1である。
【0043】
このように、検出する気体内の物質の種類によりSHT、SRTおよびSHT/SRTが異なる。これは、検出物質の分子の金属酸化物層16への吸着および酸化反応が温度により異なるためと考えられる。このように、SHT、SRTおよびSHT/SRTを特徴量とすることで、気体内の物質の種類を判定することができる。また、気体内の複数の物質の割合により、においが決まることから、SHT、SRTおよびSHT/SRTを特徴量とすることで、においの判定が可能となる。
【0044】
実施例1によれば、
図4のステップS30およびS36のように、ヒータ14(加熱器)は、第1期間T1と、金属酸化物層16の温度が第1期間T1より低い第2期間T2と、を交互に切り換えるように、金属酸化物層16の温度を加熱する。
図3のステップS22のように、演算器26は、第1期間T1において検出器22が検出する抵抗値RgHT(第1検出値)と、第2期間T2において検出器22が検出する抵抗値RgRT(第2検出値)と、に基づき、測定対象の気体に関する判定情報を演算する。これにより、
図7のように、気体内の物質の種類により、抵抗値RgHTとRgRTの特徴が異なる。このため、検出する気体内の物質の種類の選択性が向上できる。よって、気体に関する判定情報として気体内の物質の種類を判定できる。また、においは、気体内の複数の物質の混合度合いによって決まる。よって、気体に関する判定情報としてにおいを判定することができる。
【0045】
第1期間T1の金属酸化物層16の温度は、金属酸化物層16から水分等が脱離する温度であり、例えば200℃以上であり、250℃以上である。第1期間T1の温度は、金属酸化物層16から気体内の検出する分子が脱離しにくい温度であり、好ましくは、例えば450℃以下であり、350℃以下である。第2期間T2の温度は、金属酸化物層16に気体内の検出する分子が脱離しにくい温度であり、例えば100℃以下であり、50℃以下であり、水分が氷結しない0℃以上である。
【0046】
また、
図5のステップS46のように、演算器26の算出部26aは、抵抗値RgHTとRgHTの基準となる抵抗値RaHT(第1基準値)とに基づき反応量SHT(第1反応量)を算出し、抵抗値RgRTと抵抗値RgRTの基準となる抵抗値RaRT(第2基準値)とに基づき反応量SRT(第2反応量)を算出する。ステップS48のように、演算器26の判定部26bは、反応量SHTとSRTに基づき気体に関する判定情報を演算する。湿度等の環境が変化すると、金属酸化物層16への水分および検出する分子の吸着および脱離の状況が変化し、抵抗値RgHTおよびRgRTが変化してしまう。そこで、基準値となる抵抗値RaHTおよびRaRTにより算出された反応量SHTおよびSRTを用いる。これにより、気体に関する判定情報をより精度よく演算できる。
【0047】
ここで、第1基準値は、金属酸化物層16が基準となる気体(例えば空気)に暴露されたときの(すなわち基準気体に対する)第1期間T1において検出器22が検出する検出値(抵抗値RaHT)である。第2基準値は、金属酸化物層16が基準となる気体に暴露されたときの(すなわち基準気体に対する)第2期間T2において検出器22が検出する検出値(例えば抵抗値RaRT)である。基準となる気体を用いたときの抵抗値RaHTおよびRaRTを基準値として用い反応量SHTおよびSRTを算出することで、気体に関する判定情報をより精度よく演算できる。
【0048】
湿度等の環境の影響が大きい場合には、
図3のステップS12の抵抗値RaHTおよびRaRTの測定は、ステップS18の抵抗値RgHTおよびRgRTの測定ごとに行うことが好ましい。環境の影響が大きくない場合には、一定期間(例えば1日)に1回または複数回の頻度で抵抗値RaHTおよびRaRTを測定してもよい。環境の影響がほとんどない場合には、抵抗値RaHTおよびRaRTを測定せずに、抵抗値RgHTおよびRgRTに基づき、気体に関する判定情報を演算してもよい。
【0049】
ステップS46のように、演算器26は、反応量SHTとSRTとに基づき特徴値SHT/SRTを算出し、ステップS48のように、反応量SHT、SRTおよび特徴値SHT/SRTに基づき、気体に関する判定情報を演算する。
図7のように、特徴値SHT/SRTは気体内の物質の種類により異なる。よって、気体に関する判定情報をより精度よく演算できる。特徴値として、反応量SHTとSRTの比であるSHT/SRTを例に説明したが、特徴値は、SHTとSRTとの差、SHTとSRTとの積など、反応量SHTとSRTを用い任意に設定できる。
【0050】
演算器26は、抵抗値RgHTに関する値(例えば反応量SHT)および抵抗値RgRTに関する値(例えば反応量SRT)を特徴量とし、気体に関する判定情報を特定するための機械学習を行った学習済みのモデルに、検出器22が出力するRgHTに関する値(例えば反応量SHT)および抵抗値RgRTに関する値(例えば反応量SRT)を入力することで、気体に関する判定情報を判定する。このように、機械学習済みのモデルを用いることで、気体に関する判定情報を判定する精度がより向上する。特徴量として特徴値SHT/SRTを特徴量に加えることで、気体に関する判定情報を判定する精度がより向上する。
ステップS40の後、演算器26は、設定がLDか判定する(ステップS52)。Yesのとき、温度制御器24は期間HDに設定する(ステップS54)。その後、ステップS30に戻る。期間HDのとき、ステップS32では、検出器22は、抵抗値としてRaHTHDまたはRgHTHDを検出し、ステップS38では、検出器22は、抵抗値としてRaRTHDまたはRgRTHDを検出する。メモリ28は、抵抗値RaHTHD、RgHTHD、RaRTHDおよびRgRTHDを記憶する。ステップS52においてNoのとき、検出装置は、終了か否か判定する(ステップS42)。例えば、ステップS50からS54を所定回数行った場合、Yesと判定する。Noのとき、ステップS50に戻る。Yesのとき終了する。