(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024000187
(43)【公開日】2024-01-05
(54)【発明の名称】学習装置、到来角推定装置、到来角推定システム、学習モデルの生成方法、到来角推定方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G01S 3/46 20060101AFI20231225BHJP
【FI】
G01S3/46
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022098815
(22)【出願日】2022-06-20
(71)【出願人】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100134544
【弁理士】
【氏名又は名称】森 隆一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(72)【発明者】
【氏名】大辻 太一
(72)【発明者】
【氏名】宮本 勝男
(57)【要約】
【課題】実環境において電波の到来角を高い精度で推定する学習モデルを利用する。
【解決手段】学習装置が、指定する到来角に対応する送信信号の信号強度が他の到来角に対応する送信信号よりも強くなるように送信信号ベクトルを生成する信号生成手段と、前記送信信号ベクトルと、実環境で使用される実環境アレーアンテナのモードベクトルとに基づいて相関行列を生成する相関行列生成手段と、前記相関行列の要素から入力データを生成する入力データ生成手段と、前記入力データを入力とし、当該入力データに対応する前記到来角を示すデータを正解ラベルとする教師データを用いて学習処理を行うことにより学習モデルを生成する学習手段と、を備える。
【選択図】
図13
【特許請求の範囲】
【請求項1】
指定する到来角に対応する送信信号の信号強度が他の到来角に対応する送信信号よりも強くなるように送信信号ベクトルを生成する信号生成手段と、
前記送信信号ベクトルと、実環境で使用される実環境アレーアンテナのモードベクトルとに基づいて相関行列を生成する相関行列生成手段と、
前記相関行列の要素から入力データを生成する入力データ生成手段と、
前記入力データを入力とし、当該入力データに対応する前記到来角を示すデータを正解ラベルとする教師データを用いて学習処理を行うことにより学習モデルを生成する学習手段と、
を備える学習装置。
【請求項2】
前記入力データ生成手段は、
前記相関行列の三角行列の要素から前記入力データを生成する処理、または、前記相関行列の三角行列の要素を正規化して前記入力データを生成する処理のいずれか一方の処理を行う、
請求項1に記載の学習装置。
【請求項3】
アレーアンテナと、
前記アレーアンテナに到来する電波から受信信号ベクトルを生成する受信手段と、
前記受信信号ベクトルに基づいて相関行列を生成する相関行列生成手段と、
前記相関行列の要素から入力データを生成する入力データ生成手段と、
前記アレーアンテナにおける到来角ごとの電波の存在確率を評価する評価関数となるように生成された学習モデルであって前記アレーアンテナのモードベクトルを用いて生成された教師データに基づく学習処理にしたがって生成される学習モデルに前記入力データを与えて出力データを取得する推論手段と、
前記出力データから電波の推定到来角を算出する到来角算出手段と、
を備える到来角推定装置。
【請求項4】
指定する到来角に対応する送信信号の信号強度が他の到来角に対応する送信信号よりも強くなるように送信信号ベクトルを生成する信号生成手段と、
前記送信信号ベクトルと、前記アレーアンテナのモードベクトルとに基づいて前記相関行列生成手段が生成する相関行列の要素から前記入力データ生成手段が生成する入力データを入力とし、当該入力データに対応する前記到来角を示すデータを正解ラベルとする教師データを用いて学習処理を行うことにより前記学習モデルを生成する学習手段と、
を備える請求項3に記載の到来角推定装置。
【請求項5】
請求項1に記載の学習装置と、
請求項3に記載の到来角推定装置と、を備え、
前記学習装置における実環境アレーアンテナは、前記到来角推定装置の前記アレーアンテナであり、前記学習装置の学習手段が生成する前記学習モデルは、前記到来角推定装置の前記推論手段の前記学習モデルである、
到来角推定システム。
【請求項6】
前記到来角推定装置は、複数存在し、
前記学習装置における前記実環境アレーアンテナは、複数の前記到来角推定装置の前記アレーアンテナの各々であり、
前記学習手段は、複数の前記到来角推定装置の各々に対応する前記学習モデルを生成する、
請求項5に記載の到来角推定システム。
【請求項7】
指定する到来角に対応する送信信号の信号強度が他の到来角に対応する送信信号よりも強くなるように送信信号ベクトルを生成し、
生成した前記送信信号ベクトルと、実環境で使用される実環境アレーアンテナのモードベクトルとに基づいて相関行列を生成し、
生成した前記相関行列の要素から入力データを生成し、
生成した前記入力データを入力とし、当該入力データに対応する前記到来角を示すデータを正解ラベルとする教師データを用いて学習処理を行うことにより学習モデルを生成する、
学習モデルの生成方法。
【請求項8】
アレーアンテナに到来する電波から受信信号ベクトルを生成し、
生成した前記受信信号ベクトルに基づいて相関行列を生成し、
生成した前記相関行列の要素から入力データを生成し、
前記アレーアンテナにおける到来角ごとの電波の存在確率を評価する評価関数となるように生成された学習モデルであって前記アレーアンテナのモードベクトルを用いて生成された教師データに基づく学習処理にしたがって生成される学習モデルに前記入力データを与えて出力データを取得し、
取得した前記出力データから電波の推定到来角を算出する、
到来角推定方法。
【請求項9】
コンピュータに、
指定する到来角に対応する送信信号の信号強度が他の到来角に対応する送信信号よりも強くなるように送信信号ベクトルを生成する手順、
生成した前記送信信号ベクトルと、実環境で使用される実環境アレーアンテナのモードベクトルとに基づいて相関行列を生成する手順、
生成した前記相関行列の要素から入力データを生成する手順、
生成した前記入力データを入力とし、当該入力データに対応する前記到来角を示すデータを正解ラベルとする教師データを用いて学習処理を行うことにより学習モデルを生成する手順、
を実行させるためのプログラム。
【請求項10】
コンピュータに、
アレーアンテナに到来する電波から受信信号ベクトルを生成する手順、
生成した前記受信信号ベクトルに基づいて相関行列を生成する手順、
生成した前記相関行列の要素から入力データを生成する手順、
前記アレーアンテナにおける到来角ごとの電波の存在確率を評価する評価関数となるように生成された学習モデルであって前記アレーアンテナのモードベクトルを用いて生成された教師データに基づく学習処理にしたがって生成される学習モデルに前記入力データを与えて出力データを取得する手順、
取得した前記出力データから電波の推定到来角を算出する手順、
を実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、学習装置、到来角推定装置、到来角推定システム、学習モデルの生成方法、到来角推定方法、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
アレーアンテナを用いた電波の到来角の推定手法として、受信信号の相関行列の固有値分解を利用した部分空間法に基づくMUSIC(Multiple Signal Classification)法が広く知られている。また、特許文献1に開示されるような手法がこれまでに提案されており、近年では、更に、深層学習を用いた到来角の推定手法(以下、学習型到来角推定手法という)が提案されている(例えば、非特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Y.Kase, et al., “Fundamental Trial on DOA Estimation with Deep Learning”, IEICE Trans. Commun., Vol.E103-B, Oct. 2020.
【非特許文献2】W.Zhu, et al., “Broadband Direction of Arrival Estimation Based on Convolutional Neural Network”, IEICE Trans. Commun., Vol.E103-B, Mar. 2020.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
学習型到来角推定手法には、学習済みの学習モデルを用いた推定の際は簡易な演算で推定できること、更に、特定の条件下ではMUSIC法等の非学習型の到来角推定法よりも推定精度が優れている場合があることなどのメリットがある。その一方で、学習型到来角推定手法を用いる場合、電波を受信して得られる受信信号が高い信号対雑音比(SNR:Signal-to-Noise Ratio)を有していても教師データに含まれていない到来角に対する推定精度が低くなるというデメリットがある。
【0006】
様々な到来角に対して推定精度が高い学習モデルを生成するには、様々な到来角を正解ラベルとする教師データが必要になる。このような教師データを得るためには、細かい角度間隔の複数の到来角ごとの受信信号が必要になる。ただし、細かい角度間隔の複数の到来角ごとの受信信号を実測で得るのには非常に多くの時間を要することになる。
【0007】
これに対して、例えば、非特許文献1,2に開示されている技術では、理想的なアレーアンテナを想定し、当該理想的なアレーアンテナに対応する理論値のモードベクトルを用いて教師データを生成し、生成した教師データを用いて学習モデルを生成するようにしている。モードベクトルを用いることにより、実測することなしに、細かい角度間隔の複数の到来角ごとの相関行列を取得することができるので、細かい角度間隔の複数の到来角の各々を正解ラベルとする教師データを得ることができる。このようにして得られた教師データを用いて学習処理を行うことにより、アレーアンテナの特性、例えば、アレーアンテナを形成する複数のアンテナの中で到来角の推定に影響を与えるアンテナの特性が反映された学習モデルを生成することが可能になる。
【0008】
しかしながら、実環境で使用するアレーアンテナと、理想的なアレーアンテナとの間には、送信源と、アレーアンテナを形成する各アンテナ素子との距離の違いや、アンテナ素子の特性の微妙な違いがある。そのため、実環境で使用するアレーアンテナのモードベクトルと、理論値のモードベクトルとには相違がある。この相違のために、理論値のモードベクトルに基づいて生成された教師データから生成された学習モデルを実環境で利用しようとしても、到来角を推定する精度が低下してしまう。これに対して、実環境において電波の到来角を高い精度で推定する学習モデルを利用したいという課題がある。
【0009】
そこでこの発明は、上述の課題を解決する学習装置、到来角推定装置、到来角推定システム、学習モデルの生成方法、到来角推定方法、及びプログラムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の態様によれば、学習装置は、指定する到来角に対応する送信信号の信号強度が他の到来角に対応する送信信号よりも強くなるように送信信号ベクトルを生成する信号生成手段と、前記送信信号ベクトルと、実環境で使用される実環境アレーアンテナのモードベクトルとに基づいて相関行列を生成する相関行列生成手段と、前記相関行列の要素から入力データを生成する入力データ生成手段と、前記入力データを入力とし、当該入力データに対応する前記到来角を示すデータを正解ラベルとする教師データを用いて学習処理を行うことにより学習モデルを生成する学習手段と、を備える。
【0011】
本発明の第2の態様によれば、到来角推定装置は、アレーアンテナと、前記アレーアンテナに到来する電波から受信信号ベクトルを生成する受信手段と、前記受信信号ベクトルに基づいて相関行列を生成する相関行列生成手段と、前記相関行列の要素から入力データを生成する入力データ生成手段と、前記アレーアンテナにおける到来角ごとの電波の存在確率を評価する評価関数となるように生成された学習モデルであって前記アレーアンテナのモードベクトルを用いて生成された教師データに基づく学習処理にしたがって生成される学習モデルに前記入力データを与えて出力データを取得する推論手段と、前記出力データから電波の推定到来角を算出する到来角算出手段と、を備える。
【0012】
本発明の第3の態様によれば、到来角推定システムは、上記に記載の学習装置と、上記に記載の到来角推定装置と、を備え、前記学習装置における前記実環境アレーアンテナは、前記到来角推定装置の前記アレーアンテナであり、前記学習装置の前記学習手段が生成する前記学習モデルは、前記到来角推定装置の前記推論手段の前記学習モデルである。
【0013】
本発明の第4の態様によれば、学習モデルの生成方法は、指定する到来角に対応する送信信号の信号強度が他の到来角に対応する送信信号よりも強くなるように送信信号ベクトルを生成し、生成した前記送信信号ベクトルと、実環境で使用される実環境アレーアンテナのモードベクトルとに基づいて相関行列を生成し、生成した前記相関行列の要素から入力データを生成し、生成した前記入力データを入力とし、当該入力データに対応する前記到来角を示すデータを正解ラベルとする教師データを用いて学習処理を行うことにより学習モデルを生成する。
【0014】
本発明の第5の態様によれば、到来角推定方法は、アレーアンテナに到来する電波から受信信号ベクトルを生成し、生成した前記受信信号ベクトルに基づいて相関行列を生成し、生成した前記相関行列の要素から入力データを生成し、前記アレーアンテナにおける到来角ごとの電波の存在確率を評価する評価関数となるように生成された学習モデルであって前記アレーアンテナのモードベクトルを用いて生成された教師データに基づく学習処理にしたがって生成される学習モデルに前記入力データを与えて出力データを取得し、取得した前記出力データから電波の推定到来角を算出する。
【0015】
本発明の第6の態様によれば、プログラムは、コンピュータに、指定する到来角に対応する送信信号の信号強度が他の到来角に対応する送信信号よりも強くなるように送信信号ベクトルを生成する手順、生成した前記送信信号ベクトルと、実環境で使用される実環境アレーアンテナのモードベクトルとに基づいて相関行列を生成する手順、生成した前記相関行列の要素から入力データを生成する手順、生成した前記入力データを入力とし、当該入力データに対応する前記到来角を示すデータを正解ラベルとする教師データを用いて学習処理を行うことにより学習モデルを生成する手順、を実行させるためのプログラムである。
【0016】
本発明の第7の態様によれば、プログラムは、コンピュータに、アレーアンテナに到来する電波から受信信号ベクトルを生成する手順、生成した前記受信信号ベクトルに基づいて相関行列を生成する手順、生成した前記相関行列の要素から入力データを生成する手順、前記アレーアンテナにおける到来角ごとの電波の存在確率を評価する評価関数となるように生成された学習モデルであって前記アレーアンテナのモードベクトルを用いて生成された教師データに基づく学習処理にしたがって生成される学習モデルに前記入力データを与えて出力データを取得する手順、取得した前記出力データから電波の推定到来角を算出する手順、を実行させるためのプログラムである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、実環境において電波の到来角を高い精度で推定する学習モデルを利用することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】第1の実施形態に係る到来角推定装置の構成を示すブロック図である。
【
図2】第1の実施形態に係るアレーアンテナの構成の一例、及びアレーアンテナと当該アレーアンテナに到来する電波との位置関係を示す図である。
【
図3】第1の実施形態に係る到来角推定装置のハードウェア構成例を示すブロック図である。
【
図4】第1の実施形態に係る到来角推定装置が行う処理の流れを示すフローチャートである。
【
図5】第1の実施形態に係る到来角推定装置が行う処理において行われる教師データ生成処理のサブルーチンのフローチャートを示す図である。
【
図6】第1の実施形態に係る到来角推定装置が行う処理において行われる学習処理のサブルーチンのフローチャートを示す図である。
【
図7】第1の実施形態に係る到来角推定装置が行う処理において行われる推論処理のサブルーチンのフローチャートを示す図である。
【
図8】第2の実施形態に係る到来角推定装置の構成を示すブロック図である。
【
図9】第3の実施形態に係る到来角推定システムの構成、及び操作装置の内部構成を示すブロック図である。
【
図10】第3の実施形態に係る到来角推定装置、及び学習装置の内部構成を示すブロック図である。
【
図11】第3の実施形態に係る到来角推定装置、学習装置、及び操作装置のハードウェア構成例を示すブロック図である。
【
図12】第3の実施形態に係る到来角推定システムが行う処理の流れを示すフローチャートである。
【
図13】本発明の一実施形態に係る学習処置の構成を示すブロック図である。
【
図14】本発明の一実施形態に係る学習装置が行う処理の流れを示すフローチャートである。
【
図15】本発明の一実施形態に係る到来角推定装置の構成を示すブロック図である。
【
図16】本発明の一実施形態に係る到来角推定装置が行う処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係る到来角推定装置1の構成を示すブロック図である。到来角推定装置1は、複数のアンテナ素子10-1~10-K、受信部11、モードベクトル記憶部12、相関行列生成部13、入力データ生成部14、信号生成部15、教師データ記憶部16、学習部17、推論部18、及び到来角算出部19を備える。ここで、Kは、2以上の整数である。
【0020】
複数のアンテナ素子10-1~10-Kは、アレーアンテナ10を形成する。受信部11は、アンテナ素子10-1~10-Kに到達する電波のうち予め定められている波長の電波から電気のディジタルのK個の受信信号を取得する。ここで、電波とは、例えば、無線通信の電波である。受信部11は、取得したK個の受信信号を要素として含む受信信号ベクトルを生成する。なお、受信信号は、複素数で表される。モードベクトル記憶部12は、予め生成されるモードベクトルのデータを記憶する。ここで、モードベクトルは、ステアリングベクトルとも呼ばれる方向を示すベクトルである。
【0021】
アレーアンテナ10が、例えば、
図2に示すK素子等間隔円形配列型のアレーアンテナであるとする。アンテナ素子10-1から時計回りに測定した角度を電波の到来角とする。ここで、到来角θ
iで平面波の電波90が到来したとする。一点鎖線の線分91,92は、平面波の電波90の進行方向に対して、垂直な線分であり、線分91は、k番目のアンテナ素子10-k(ここで、kは、1~Kの間の整数値である)と交差する線分であり、線分92は、アレーアンテナ10の中心位置95と交差する線分である。この場合に、線分91と、線分92との間の距離lは、次式(1)のようになる。
【0022】
【0023】
上記の式(1)において、αkは、中心位置95と、アンテナ素子10-1の位置とを結ぶ線分と、中心位置95と、アンテナ素子10-kの位置とを結ぶ線分とが成す角度である。rは、アレーアンテナ10の形状である円の半径である。線分91上での平面波の電波90の位相は同一になり、線分92上での平面波の電波90の位相も同一になる。そのため、中心位置95を基準とした場合、到来角θiで到来する平面波の電波90のアンテナ素子10-kの位置における位相差φk(θi)は、式(1)より、次式(2)として表すことができる。
【0024】
【0025】
上記の式(2)において、λは、平面波の電波90の波長であり、受信部11において予め定められている波長に一致する。この場合に、理論的に導き出すことができるアレーアンテナ10のモードベクトルの要素ak,iは、次式(3)として表されることになる。
【0026】
【0027】
例えば、到来角であるθiの数が、N個である場合、すなわち、i=1~Nの整数である場合、1つの波長λに対して、K個のアンテナ素子10-1~10-Kが形成するアレーアンテナのモードベクトルは、K×N個の要素を有する行列として表されることになる。このようにして、モードベクトルを理論的に算出することができる。ただし、実際には、理論値のモードベクトルに完全に一致するアレーアンテナ10を構築することができない。そのため、実際のアレーアンテナ10のモードベクトルと、理論値のモードベクトルとには違いが存在することになる。この違いが生じないようにするため、ここでは、モードベクトル記憶部12に記憶させるモードベクトルのデータを、以下のような手法により生成する。
【0028】
実環境で使用するアレーアンテナ10を設計する際、電界シミュレータ等を用いて、受信を許容する周波数帯、及び受信を許容する到来角に対してシミュレーション評価を行うことが一般的である。このシミュレーション評価の際に、例えば、アンテナ素子10-1を基準アンテナ素子とし、当該基準となるアンテナ素子10-1に対する他のアンテナ素子10-2~10-Kの振幅、及び位相差を算出し、算出した振幅、及び位相差に基づいて、実環境で使用するアレーアンテナ10のモードベクトルを算出する。また、電波暗室を用いた実測等により得られる測定データに基づいて、実環境で使用するアレーアンテナ10のモードベクトルを算出するようにしてもよい。このようにして算出した実環境で使用するアレーアンテナ10のモードベクトルを示すデータをモードベクトル記憶部12に予め書き込んで記憶させる。ただし、ここでは、実環境で使用するアレーアンテナ10が受信する無線信号の波長を予め1つに定めておき、予め定めた1つの波長に対応するモードベクトルのデータをモードベクトル記憶部12は記憶するものとする。ここで、実環境で使用するアレーアンテナ10が受信する無線信号の波長とは、受信部11において予め定められている波長のことである。
【0029】
図1に戻り、信号生成部15は、指定する到来角に対応する送信信号の信号強度が指定していない他の到来角に対応する送信信号よりも強くなるように送信信号ベクトルを生成する。ここで、信号強度とは、例えば、送信信号の振幅である。なお、送信信号は、複素数で表される。例えば、モードベクトル記憶部12に記憶されているモードベクトルのデータにおいて、到来角としてθ
1~θ
Nが示されているとする。この場合、信号生成部15が指定する到来角がθ
iである場合、到来角θ
iに対応する1個の送信信号の振幅を「1」とし、指定していない他の到来角θ
1~θ
i-1,θ
i+1~θ
Nに対応するN-1個の送信信号の振幅を「0」として、N個の送信信号を要素として含む送信信号ベクトルを生成する。信号生成部15が指定する到来角の数は、複数であってもよい。例えば、到来角の角度の範囲を360°とし、分解能を「1°」とする場合、N=360になる。この場合、信号生成部15が指定する到来角が、1つである場合、信号生成部15は、360通りの送信信号ベクトルを生成することになる。信号生成部15が指定する到来角が、2つである場合、信号生成部15は、
360C
2=64620通りの送信信号ベクトルを生成することになる。なお、信号生成部15が指定する到来角の数の範囲は、所望の推定精度などにより適宜定められる。
【0030】
より詳細には、信号生成部15は、外部から与えられる信号生成パラメータに含まれる複数の到来角と、指定する到来角の最大数とに基づいて到来角の指定を行い、指定した到来角の組み合わせの各々に対して送信信号ベクトルを生成する。ここで、信号生成パラメータに含まれる複数の到来角とは、モードベクトル記憶部12に記憶されているモードベクトルのデータにおいて示されている到来角θ1~θNである。また、Nは、2以上の整数である。また、指定する到来角の最大数が、例えば、「3」である場合、信号生成部15は、1つの到来角を指定する到来角の組み合わせ、2つの到来角を指定する組み合わせ、及び、3つの到来角を指定する到来角の組み合わせの各々に対して送信信号ベクトルを生成することになる。信号生成部15は、生成した到来角の組み合わせごとの送信信号ベクトルの各々を一意に特定することができる識別情報を生成し、生成した識別情報を、送信信号ベクトルと、当該送信信号ベクトルを生成する際に指定した到来角の組み合わせを示すデータである指定到来角データとに付与する。
【0031】
相関行列生成部13は、信号生成部15が生成する送信信号ベクトルを取り込んだ場合、送信信号ベクトルと、モードベクトル記憶部12に記憶されているモードベクトルのデータとから相関行列Rxxを生成する。ここで、送信信号ベクトルをベクトルs(t)で表した場合、相関行列生成部13は、次式(4)により行列Sを算出する。
【0032】
【0033】
上記の式(4)において、E[・]の演算子は、期待値を意味する演算子であり、具体的には、アンサンブル平均を算出する演算子である。また、記号Hは、エルミート転置を示す記号である。ここで、モードベクトル記憶部12に記憶されているモードベクトルのデータを、行列Aで表すと、相関行列生成部13は、行列Aと、行列Sとに基づいて、次式(5)により相関行列Rxxを算出する。
【0034】
【0035】
上記の式(5)において行列Iは、K×Kの単位行列であり、σ2は、雑音の分散であり、右辺の第2項のσ2Iは、雑音成分を示すことになる。
【0036】
これに対して、相関行列生成部13は、受信部11が生成する受信信号ベクトルを取り込んだ場合、取り込んだ受信信号ベクトルに基づいて相関行列Rxxを生成する。ここで、受信ベクトルをベクトルx(t)で表した場合、相関行列生成部13は、次式(6)により相関行列Rxxを算出する。
【0037】
【0038】
相関行列生成部13が生成する相関行列Rxxは、送信信号ベクトルと、モードベクトルとに基づいて算出する場合も、受信信号ベクトルに基づいて算出する場合も、K×Kの行列になる。
【0039】
入力データ生成部14は、相関行列生成部13が生成する相関行列Rxxから入力データを生成する。入力データ生成部14は、相関行列Rxxの下三角行列の成分から次式(7)に示すベクトルyを入力データとして生成する。
【0040】
【0041】
上記の式(7)において、「up,q」は、相関行列Rxxの下三角行列の要素の各々を示す変数であり、uに添えられている「p」は、相関行列Rxxの下三角行列における行の位置を示す変数であり、「q」は、相関行列Rxxの下三角行列における列の位置を示す変数である。したがって、「u1,1,u2,2,…,uK,K」は、相関行列Rxxの対角要素になる。相関行列Rxxは、エルミート行列であることから、対角要素は実数になる。相関行列Rxxの非対角要素は複素数であり、式(7)における次式(8)に示す演算子は、複素数の実数成分の数値を抽出する演算子であり、次式(9)に示す演算子は、複素数の虚数成分の数値を抽出する演算子である。すなわち、入力データ生成部14が生成する入力データは、相関行列Rxxの下三角行列に含まれる対角要素の数値と、当該下三角行列に含まれる非対角要素の実数部分の数値と、虚数部分の数値とを要素として含むベクトルになる。
【0042】
【0043】
【0044】
教師データ記憶部16は、複数の識別情報ごとに、当該識別情報に対応する指定到来角データと、当該識別情報に対応する入力データとを記憶する。以下、1つの識別情報と、当該識別情報に対応する指定到来角データと、当該識別情報に対応する入力データとを1組とするデータを教師データといい、教師データ記憶部16が記憶するデータの全体を教師データセットという。
【0045】
学習部17は、学習処理部20、関数近似器21、及び学習モデルデータ記憶部23を備える。関数近似器21は、例えば、入力層と、複数の層を含む中間層と、出力層とを備える多層ニューラルネットワークである。入力層には、入力データであるベクトルyに含まれる要素の数に一致する個数のニューロンが存在する。入力層の複数のニューロンの各々は、それぞれベクトルyに含まれる異なる要素に関連付けられている。例えば、式(7)に示すベクトルyの並びにしたがって、入力層の1つ目のニューロンは、1つ目の要素である「u1,1」に関連付けられ、入力層の2つ目のニューロンは、2つ目の要素である「u2,2」に関連付けられ、以下、ベクトルyの最後の要素まで同様に関連付けられる。入力層の複数のニューロンの各々は、各々に関連付けられているベクトルyの要素の数値を取り込む。
【0046】
出力層には、推定する到来角の角度の範囲に応じた個数のニューロンが存在する。例えば、推定する範囲を360°とし、分解能を1°にする場合、360個のニューロンが出力層に存在することになり、360個のニューロンの各々が、0°、1°、2°,…,359°の各々に対応することになる。
【0047】
中間層の層数は、2層以上であり、層の数、及び各層に含まれるニューロンの数は、教師データに含まれるデータ数などに応じて適切な規模になるように、予め定められる。
【0048】
学習モデルデータ記憶部23は、関数近似器21に含まれる中間層、及び出力層のニューロンの各々に適用される重み及びバイアスの値を記憶する。以下、重み及びバイアスのデータのことを学習モデルデータという。学習モデルデータ記憶部23は、初期状態において、学習モデルデータの初期値を予め記憶する。
【0049】
学習処理部20は、学習モデルデータ記憶部23が記憶する学習モデルデータを関数近似器21に適用する。すなわち、学習処理部20は、学習モデルデータ記憶部23が記憶する学習モデルデータである重み及びバイアスの各々を、各々に対応する関数近似器21のニューロンに適用する。学習モデルデータが適用された関数近似器21が学習モデル22になる。学習処理部20は、教師データ記憶部16から教師データを1つずつ読み出し、読み出した教師データに含まれる入力データに含まれる数値の各々を、各々に対応する学習モデル22の入力層のニューロンに与える。学習処理部20は、読み出した教師データに含まれる指定到来角データから次式(10)にしたがって正解ラベルを生成する。
【0050】
【0051】
上記の式(10)が示す意味を説明する。上記したように、関数近似器21の出力層のニューロンの個数は、推定する到来角の角度の範囲に応じた個数である。そのため、例えば、推定する範囲を360°とし、分解能を1°にする場合、360個のニューロンが出力層に存在することになる。この場合、学習処理部20は、360個の要素を有するデータであるベクトルzを生成する。ここで、ベクトルzの要素の各々は、関数近似器21の出力層のニューロンの各々に一対一に関連付けられている。学習処理部20は、読み出した教師データに含まれる指定到来角データに含まれている到来角の角度が、例えば、「60°」のみである場合、「60°」に対応する出力層のニューロンに関連付けられているベクトルzの要素の数値を「1」とし、それ以外の要素の数値を「0」とする条件でベクトルzの要素の数値を設定する。同様に、学習処理部20は、読み出した教師データに含まれる指定到来角データに含まれている到来角の角度が、例えば、「60°」と「90°」の2つである場合、「60°」に対応する出力層のニューロンと、「90°」に対応する出力層のニューロンとに関連付けられているベクトルzの要素の数値を「1」とし、それ以外の要素の数値を「0」とする条件でベクトルzの要素の数値を設定する。学習処理部20は、当該条件で数値を設定したベクトルzを正解ラベルとする。
【0052】
なお、出力層において表される角度の分解能と、指定到来角データに含まれている到来角の角度の分解能とが異なる場合、以下のようにして、ベクトルzの要素の値を定めるものとする。例えば、出力層側の分解能が「1°」であり、指定到来角データ側の分解能が「0.1°」であるとする。この場合、例えば、指定到来角データの小数点以下を四捨五入した上でベクトルzの要素の値を定めるものとする。すなわち、指定到来角データに「60.4°」が含まれている場合、四捨五入した「60°」に対応する出力層のニューロンに関連付けられているベクトルzの要素の値を「1」とする。これに対して、指定到来角データに「60.5°」が含まれている場合、四捨五入した「61°」に対応する出力層のニューロンに関連付けられているベクトルzの要素の値を「1」とする。
【0053】
学習処理部20は、入力データを与えることにより学習モデル22の出力層の各々が出力する出力値を取り込む。以下、複数の出力値を要素とするベクトルを出力データという。学習処理部20は、出力データと、当該出力データが得られた際の入力データに対応する正解ラベルと、予め定められる損失関数と、学習モデルデータ記憶部23が記憶している学習モデルデータとに基づいて、出力データが正解ラベルに近づくように、例えば、誤差逆伝播法を用いて、新たな学習モデルデータを算出する。学習処理部20は、学習モデルデータ記憶部23が記憶する学習モデルデータを、算出した新たな学習モデルデータに書き換え、算出した新たな学習モデルデータを関数近似器21に適用する。これにより、学習モデル22が更新されることになる。
【0054】
推論部18は、推論処理部30と、関数近似器31とを備える。関数近似器31は、関数近似器21と同一の構成である。推論処理部30は、学習処理部20が行う学習処理が完了した際に学習モデルデータ記憶部23に記憶されている学習済みの学習モデルデータを関数近似器31に適用する。学習済みの学習モデルデータが適用された関数近似器31が学習済みの学習モデル32になる。推論処理部30は、入力データ生成部14が入力データを学習済みの学習モデル32に与えることにより、学習済みの学習モデル32が出力する出力データを取得する。学習済みの学習モデル32が出力する出力データは、到来する電波が存在する角度の数値が、「1」に近い数値になり、到来する電波が存在しない角度の数値が、「0」に近い数値になる。したがって、学習済みの学習モデル32は、到来角ごとの電波の存在確率を評価する評価関数、すなわちMUSIC法の評価関数と同様の結果が出せるように演算を行っているということがいえる。この場合に、縦軸を出力データに含まれる要素の数値を表す軸とし、横軸を到来角としたグラフにおいて出力データを表した場合、出力データは、到来する電波の到来角に関するスペクトルを示すデータとみなすことができる。
【0055】
到来角算出部19は、上記したように、推論処理部30が取得した出力データを、到来する電波の到来角に関するスペクトルを示すデータとみなして、当該スペクトルに対してピークサーチを行うことにより電波の到来角を算出する。到来角算出部19が算出した到来角が、到来角推定装置1が推定した到来角になる。以下、到来角推定装置1が推定した到来角を「推定到来角」という。
【0056】
図3は、到来角推定装置1のハードウェア構成例を示す図である。到来角推定装置1は、例えば、CPU(Central Processing Unit)201、RAM(Random Access Memory)202、ROM(Read Only Memory)203、補助記憶装置204、無線通信モジュール205、及び入出力インタフェース206を備えるコンピュータである。CPU201、RAM202、ROM203、補助記憶装置204、無線通信モジュール205、及び入出力インタフェース206は、バスにより相互に接続されている。ここで、補助記憶装置204とは、例えば、HDD(Hard Disk Drive)やSDD(Solid State Drive)などである。無線通信モジュール205は、アンテナ素子10-1~10-K、及び受信部11のハードウェアの部分に相当する。ROM203、または、補助記憶装置204に予め記憶されているアプリケーションプログラムがCPU201によって実行されることにより、受信部11の受信信号から受信信号ベクトルを生成するソフトウェアの部分、相関行列生成部13、入力データ生成部14、信号生成部15、学習処理部20、関数近似器21,31、推論処理部30、及び到来角算出部19の機能部が構成され、RAM203、または、補助記憶装置204において、モードベクトル記憶部12、教師データ記憶部16、及び学習モデルデータ記憶部23の各々に対応する記憶領域が割り当てられることになる。入出力インタフェース206には、キーボードやマウスなどの入力装置、及び液晶ディスプレイなどの出力装置が接続される。相関行列生成部13、入力データ生成部14、信号生成部15、学習処理部20、及び推論処理部30は、入出力インタフェース206を介して入力装置から与えられるデータを取り込む。入力データ生成部14、学習処理部20、及び到来角算出部19は、入出力インタフェース206を介して出力装置にデータを出力する。
【0057】
(第1の実施形態における処理)
図4から
図7を参照しつつ、到来角推定装置1が行う処理について説明する。
図4は、到来角推定装置1が行う処理の全体を示すフローチャートである。
図4の処理が開始される前に、モードベクトル記憶部12には実環境で使用されるアレーアンテナ10のモードベクトルであって予め生成されるモードベクトルのデータが書き込まれる。また、学習モデルデータ記憶部23には、学習モデルデータの初期値が書き込まれる。
【0058】
到来角推定装置1の操作者は、到来角推定装置1に接続されている入力装置において「教師データ生成」の種類を示す処理種別信号を到来角推定装置1に与える操作を行う。操作者の操作を受けた入力装置は、到来角推定装置1の相関行列生成部13、入力データ生成部14、学習処理部20、及び推論処理部30に「教師データ生成」の種類を示す処理種別信号を出力する。相関行列生成部13、入力データ生成部14、学習処理部20、及び推論処理部30の各々は、入力装置が出力する「教師データ生成」の種類を示す処理種別信号を取り込む(ステップS1)。
【0059】
相関行列生成部13、入力データ生成部14、学習処理部20、及び推論処理部30の各々は、取り込んだ処理種別信号の種類を判定する(ステップS2)。学習処理部20、及び推論処理部30は、取り込んだ処理種別信号の種類が「教師データ生成」であると判定した場合、何らの処理も行わない。これに対して、相関行列生成部13と、入力データ生成部14とは、取り込んだ処理種別信号の種類が「教師データ生成」であると判定した場合(ステップS2、教師データ生成)、
図5に示す教師データ生成処理のサブルーチンを開始する(ステップS3)。
【0060】
(第1の実施形態における教師データ生成処理)
相関行列生成部13は、モードベクトル記憶部12からモードベクトルのデータを読み出し、取り込み元を、信号生成部15に切り替える(ステップSa1-1)。入力データ生成部14は、生成する入力データの出力先を教師データ記憶部16に切り替える(ステップSa1-2)。なお、ステップSa1-1の処理と、ステップSa1-2の処理とは、相関行列生成部13と、入力データ生成部14とが、ステップS2の判定処理を行った後に行われる処理であり、並列に行われる。
【0061】
操作者は、到来角推定装置1に接続されている入力装置において予め定められる信号生成パラメータを到来角推定装置1に与える操作を行う。信号生成パラメータには、上記したように、モードベクトル記憶部12に記憶されているモードベクトルのデータにおいて示されているN個の到来角θ1~θNの各々を示すN個の到来角と、指定する到来角の最大数とが含まれている。操作者の操作を受けた入力装置は、信号生成パラメータを、到来角推定装置1の信号生成部15に出力する。信号生成部15は、入力装置が出力する信号生成パラメータを取り込む(ステップSa2)。
【0062】
信号生成部15は、取り込んだ信号生成パラメータに含まれているN個の到来角から、当該信号生成パラメータに含まれている指定する到来角の最大数の範囲内で、到来角の指定を行う。信号生成部15は、指定した到来角の組み合わせを示す指定到来角データを生成する。信号生成部15は、指定した到来角の組み合わせに対応する送信信号ベクトルを生成する。信号生成部15は、識別情報を生成し、生成した識別情報を、指定到来角データと、生成した送信信号ベクトルとに付与する。信号生成部15は、識別情報を付与した指定到来角データを、教師データ記憶部16に書き込んで記憶させる。信号生成部15は、識別情報を付与した送信信号ベクトルを相関行列生成部13に出力する(ステップSa3)。
【0063】
相関行列生成部13は、信号生成部15が出力する識別情報が付与された送信信号ベクトルを取り込み、取り込んだ送信信号ベクトルに基づいて、式(4)により行列Sを算出する。相関行列生成部13は、算出した行列Sと、モードベクトル記憶部12から読み出したモードベクトルのデータ、すなわち、行列Aとに基づいて、式(5)により相関行列Rxxを生成する。相関行列生成部13は、生成した相関行列Rxxに、取り込んだ送信信号ベクトルに付与されていた識別情報を付与する。相関行列生成部13は、識別情報を付与した相関行列Rxxを入力データ生成部14に出力する(ステップSa4)。
【0064】
入力データ生成部14は、相関行列生成部13が出力する識別情報が付与された相関行列Rxxを取り込み、取り込んだ相関行列Rxxから式(7)により入力データを生成する(ステップSa5)。入力データ生成部14は、教師データ記憶部16から相関行列Rxxに付与されている識別情報に一致する識別情報のレコードを検出する。入力データ生成部14が検出したレコードには、識別情報と、指定到来角データとが含まれている。そのため、入力データ生成部14は、生成した入力データを検出したレコードに追加するように、生成した入力データを教師データ記憶部16に書き込んで記憶させる。これにより1つの教師データが完成することになる(ステップSa6)。
【0065】
信号生成部15は、ステップSa3の処理が終了すると、取り込んだ信号生成パラメータに含まれている指定する到来角の最大数の範囲内で、未だ指定をしていない到来角の組み合わせのパターンを指定して再びステップSa3の処理を行う。ステップSa3の処理の後、ステップSa4からステップSa6の処理が再び行われる(ループLa1s~La1e)。例えば、信号生成パラメータに、θ1~θ360の360個の到来角と、指定する到来角の最大数「2」とが含まれている場合、ループLa1s~La1eの処理は、360C2=64620回繰り返されることになる。
【0066】
信号生成部15は、信号生成パラメータにしたがって全ての到来角の組み合わせについての指定を行った場合、処理を終了する。入力データ生成部14は、予め定められる一定時間、相関行列生成部13が相関行列R
xxを出力しなかった場合、出力装置に教師データ生成処理完了通知信号を出力する(ステップSa7)。これにより、教師データ生成処理のサブルーチンが終了し、
図4のフローチャートの処理に戻る。
【0067】
出力装置が、例えば、液晶ディスプレイである場合、出力装置は、入力データ生成部14が出力する教師データ生成処理完了通知信号を受けると、液晶ディスプレイの画面に教師データ生成処理完了を示すメッセージを表示する。到来角推定装置1の操作者は、教師データ生成処理完了を示すメッセージを確認すると、到来角推定装置1に接続されている入力装置において「学習」の種類を示す処理種別信号を到来角推定装置1に与える操作を行う。操作者の操作を受けた入力装置は、到来角推定装置1の相関行列生成部13、入力データ生成部14、学習処理部20、及び推論処理部30に「学習」の種類を示す処理種別信号を出力する。相関行列生成部13、入力データ生成部14、学習処理部20、及び推論処理部30の各々は、入力装置が出力する「学習」の種類を示す処理種別信号を取り込む(ステップS1)。
【0068】
相関行列生成部13、入力データ生成部14、学習処理部20、及び推論処理部30の各々は、取り込んだ処理種別信号の種類を判定する(ステップS2)。相関行列生成部13、入力データ生成部14、及び推論処理部30は、取り込んだ処理種別信号の種類が「学習」であると判定した場合、何らの処理も行わない。これに対して、学習処理部20は、取り込んだ処理種別信号の種類が「学習」であると判定した場合(ステップS2、学習)、
図6に示す学習処理のサブルーチンを開始する(ステップS4)。
【0069】
(第1の実施形態における学習処理)
学習処理部20は、学習モデルデータ記憶部23に記憶されている初期値の学習モデルデータを読み出し、読み出した学習モデルデータを関数近似器21に適用する。これにより、学習モデル22が生成されることになる(ステップSb1)。学習処理部20は、教師データ記憶部16からいずれか1つの教師データを読み出す。例えば、教師データに含まれる識別情報が正の整数値の連続した番号で示されている場合、最小の番号を識別情報として含む教師データを読み出す(ステップSb2)。学習処理部20は、教師データに含まれる入力データを学習モデル22の入力層に与える。学習処理部20は、入力データを与えることにより学習モデル22の出力層が出力する出力データを取得する(ステップSb3)。
【0070】
学習処理部20は、教師データに含まれる指定到来角データから式(10)の条件にしたがって正解ラベルを生成する。学習処理部20は、取得した出力データと、生成した正解ラベルと、予め定められる損失関数と、学習モデルデータ記憶部23が記憶している学習モデルデータとに基づいて、新たな学習モデルデータを算出する(ステップSb4)。学習処理部20は、学習モデルデータ記憶部23が記憶する学習モデルデータを、算出した新たな学習モデルデータに書き換え、算出した新たな学習モデルデータを関数近似器21に適用する。これにより、学習モデル22が更新されることになる(ステップSb5)。
【0071】
学習処理部20は、教師データ記憶部16から学習処理の対象になっていない教師データを読み出す。上記したように、教師データに含まれる識別情報が番号である場合、前回の学習処理の対象とした教師データに含まれている識別情報の次に大きな番号の識別情報を含む教師データを読み出す。学習処理部20は、読み出した教師データに基づいて、再びステップSb2~Sb5の処理を行う。学習処理部20は、教師データ記憶部16において、学習処理の対象としていない教師データが存在しなくなるまで、ステップSb2~Sb5の処理を行う(ループLb1s~Lb1e)。学習処理部20は、ループLb1s~Lb1eの処理が終了すると、出力装置に学習処理完了通知信号を出力する(ステップSb6)。これにより、学習処理のサブルーチンが終了し、
図4のフローチャートの処理に戻る。
【0072】
出力装置は、学習処理部20が出力する学習処理完了通知信号を受けると、画面に学習処理完了を示すメッセージを表示する。到来角推定装置1の操作者は、学習処理完了を示すメッセージを確認すると、到来角推定装置1に接続されている入力装置において「推論」の種類を示す処理種別信号を到来角推定装置1に与える操作を行う。操作者の操作を受けた入力装置は、到来角推定装置1の相関行列生成部13、入力データ生成部14、学習処理部20、及び推論処理部30に「推論」の種類を示す処理種別信号を出力する。相関行列生成部13、入力データ生成部14、学習処理部20、及び推論処理部30の各々は、入力装置が出力する「推論」の種類を示す処理種別信号を取り込む(ステップS1)。
【0073】
相関行列生成部13、入力データ生成部14、学習処理部20、及び推論処理部30の各々は、取り込んだ処理種別信号の種類を判定する(ステップS2)。学習処理部20は、取り込んだ処理種別信号の種類が「推論」であると判定した場合、何らの処理も行わない。相関行列生成部13と、入力データ生成部14と、推論処理部30とは、取り込んだ処理種別信号の種類が「推論」であると判定した場合(ステップS2、推論)、
図7に示す推論処理のサブルーチンを開始する(ステップS5)。
【0074】
(第1の実施形態における推論処理)
相関行列生成部13は、取り込み元を、受信部11に切り替える(ステップSc1-1)。入力データ生成部14は、生成する入力データの出力先を推論処理部30に切り替える(ステップSc1-2)。推論処理部30は、学習モデルデータ記憶部23から学習済みの学習モデルデータを読み出し、読み出した学習済みの学習モデルデータを関数近似器31に適用する。これにより、学習済みの学習モデル32が生成されることになる(ステップSc1-3)。なお、ステップSc1-1の処理と、ステップSc1-2の処理と、ステップSc1-3の処理とは、相関行列生成部13と、入力データ生成部14と、推論処理部30とが、ステップS2の判定処理を行った後に行われる処理であり、並列に行われる。
【0075】
受信部11は、アンテナ素子10-1~10-Kに到達する電波のうち予め定められる波長の電波から電気のディジタルのK個の受信信号を取得し、取得したK個の受信信号を要素として含む受信信号ベクトルを生成する。受信部11は、生成した受信信号ベクトルを相関行列生成部13に出力する(ステップSc2)。相関行列生成部13は、受信部11が出力する受信信号ベクトルを取り込み、取り込んだ受信信号ベクトルに基づいて、式(6)により相関行列Rxxを生成する。相関行列生成部13は、生成した相関行列Rxxを入力データ生成部14に出力する(ステップSc3)。
【0076】
入力データ生成部14は、相関行列生成部13が出力する相関行列Rxxを取り込み、取り込んだ相関行列Rxxから式(7)により入力データを生成する。入力データ生成部14は、生成した入力データを推論処理部30に出力する(ステップSc4)。推論処理部30は、入力データ生成部14が出力する入力データを取り込み、取り込んだ入力データを学習済みの学習モデル32の入力層に与える。推論処理部30は、入力データを与えることにより学習済みの学習モデル32の出力層が出力する出力データを取得する。推論処理部30は、取得した出力データを到来角算出部19に出力する(ステップSc5)。
【0077】
到来角算出部19は、推論処理部30が出力する出力データを取り込み、取り込んだ出力データを、到来する電波の到来角に関するスペクトルを示すデータとみなして、当該スペクトルに対してピークサーチを行うことにより電波の推定到来角を算出する。到来角算出部19は、算出した推定到来角を示すデータを出力装置に出力する。出力装置は、到来角算出部19が出力する推定到来角を示すデータを受けると、画面に推定到来角を示すデータを表示する(ステップSc6)。
【0078】
受信部11が、電波を受信している間、ステップSc2~Sc6の処理が繰り返し行われる(ループLc1s~Lc1e)。受信部11が電波を受信しなくなった場合、推論処理のサブルーチンは終了し、
図4に示す処理も終了する。
【0079】
上記の第1の実施形態において、信号生成部15は、指定する到来角に対応する送信信号の信号強度が他の到来角に対応する送信信号よりも強くなるように送信信号ベクトルを生成する。相関行列生成部13は、送信信号ベクトルと、実環境で使用される実環境アレーアンテナ、すなわちアレーアンテナ10のモードベクトルとに基づいて相関行列を生成する。入力データ生成部14は、相関行列の要素から入力データを生成する。学習部17は、入力データを入力とし、当該入力データに対応する到来角を示すデータを正解ラベルとする教師データを用いて学習処理を行うことにより学習モデル22を生成する。
【0080】
上記した構成を備えることにより、実環境で使用するアレーアンテナ10のモードベクトルを利用して、細かい角度間隔の複数の到来角ごとの相関行列Rxxを生成することができる。生成された細かい角度間隔の複数の到来角ごとの相関行列Rxxは、実環境で使用するアレーアンテナ10の特性が反映された相関行列Rxxになる。当該相関行列Rxxから教師データを生成することにより、受信信号を実測することなく、細かい角度間隔の複数の到来角の各々を正解ラベルとする教師データを生成することができる。当該教師データを用いて学習処理を行うことにより、様々な到来角に対して推定精度の高い学習済みの学習モデル32を生成することが可能になる。学習済みの学習モデル32は、教師データに実環境で使用するアレーアンテナ10の特性が反映されていることから、理論値のモードベクトルを用いる場合に必要となる再学習を行う必要もなく、実環境において電波の到来角を高い精度で推定することが可能になる。
【0081】
非特許文献1,2のように理論値のモードベクトルを用いる場合には、生成した学習モデルを実環境に適合させるために再学習を行う必要がある。この再学習を行う際に必要となる教師データは、実環境において、細かい角度間隔の複数の到来角ごとの多くの受信信号を実測して生成する必要があるため、教師データの数も多くなる。これに対して、上記の第1の実施形態において生成する学習済みの学習モデル32は既に実環境に適合したものになっている。そのため、学習済みの学習モデル32に対して実際の受信信号を用いて生成する教師データにより更に実環境に適合するように再学習を行う場合、理論値のモードベクトルを用いる場合の再学習において必要となる教師データの数に比べると、少ない教師データの数の再学習で更に推定精度を高めることが可能になる。すなわち、第1の実施形態の到来角推定装置1を用いることにより、再学習用の教師データを生成するために、実環境において実測する受信信号の数を、理論値のモードベクトルを用いる場合に比べて削減することが可能になる。
【0082】
(第2の実施形態)
一般に、電波を送受信する装置の間の距離が設計時に想定している距離よりも短い場合、相関行列Rxxの対角成分値が、大きくなるなど、第1の実施形態の入力データ生成部14が生成する入力データの分布が変化すると考えられる。同様に、電波を送受信する装置の間の距離が設計時に想定している距離よりも長い場合にも、第1の実施形態の入力データ生成部14が生成する入力データの分布が変化すると考えられる。一般的な機械学習領域では、学習処理と、推論処理とにおいて、入力データの分布が異なる場合、推定精度が低下することが知られている。これに対して、非特許文献1,2では、信号対雑音比を指標として性能評価をしており、電波を送受信する装置の間の距離に応じて生じる影響に対する対策を行うことは開示されていない。第2の実施形態では、電波を送受信する装置の間の距離が設計時に想定している距離から乖離している場合であっても、到来角の推定精度を低下させないようにする構成を備える。
【0083】
図8は、第2の実施形態の到来角推定装置1aの構成を示すブロック図である。第2の実施形態において、第1の実施形態と同一の構成については、同一の符号を付し、以下、異なる構成について説明する。到来角推定装置1aは、複数のアンテナ素子10-1~10-K、受信部11、モードベクトル記憶部12、相関行列生成部13、入力データ生成部14a、信号生成部15、教師データ記憶部16、学習部17、推論部18、及び到来角算出部19を備える。
【0084】
入力データ生成部14aは、以下に示す構成以外の構成については、第1の実施形態の入力データ生成部14と同一の構成を備える。入力データ生成部14aでは、相関行列Rxxの下三角行列の要素を抽出して式(7)によりベクトルyを生成し、生成したベクトルyの要素の各々に対して次式(11)に示す正規化を行う。
【0085】
【0086】
上記の式(11)に示す正規化は、Min-MaX-Normalizationと呼ばれる正規化である。式(11)において、右辺の「vj」は、ベクトルyの要素の各々を示す変数である。ここで、jは、ベクトルyの要素のインデックス値である。右辺のmax(v)は、ベクトルyの要素の最大値であり、min(v)は、ベクトルyの要素の最小値である。式(11)における左辺のv´jは、正規化後のベクトルyの要素の値である。
【0087】
第2の実施形態の到来角推定装置1bは、以下に示す構成以外の構成については、
図3に示す第1の実施形態の到来角推定装置1のハードウェア構成と同一のハードウェア構成を有する。第2の実施形態では、ROM203、または、補助記憶装置204に予め記憶されているアプリケーションプログラムがCPU201によって実行されることにより、入力データ生成部14に替えて、入力データ生成部14aの機能部が構成される。このようにして構成された入力データ生成部14aは、入出力インタフェース206を介して入力装置から与えられるデータを取り込み、入出力インタフェース206を介して出力装置にデータを出力する。
【0088】
第2の実施形態における処理は、以下に示す処理以外の処理については、第1の実施形態において示した
図4から
図7と同一の処理が行われる。ただし、当該処理において、入力データ生成部14が行っていた処理は、入力データ生成部14aが行うことになる。第1の実施形態と、第2の実施形態との処理の違いは、
図5のステップSa5、及び
図7のステップSc4の処理であり、これらの処理において、入力データ生成部14aは、相関行列生成部13が生成した相関行列R
xxから式(7)により入力データを生成するのではなく、以下の処理を行う。すなわち、入力データ生成部14aは、相関行列R
xxから式(7)によるベクトルyを生成し、生成したベクトルyの要素に対して、式(11)を適用して正規化を行い、正規化後のベクトルyを入力データとする。
【0089】
これにより、第2の実施形態では、ベクトルyに対して、式(11)に示す正規化を適用することにより、電波を送受信する装置の間の距離に変化が生じたとしても、入力データ生成部14aが生成する入力データにおいて分布の違いが小さくなるため、到来角の推定精度の低下を緩和することが可能になる。
【0090】
なお、上記の第2の実施形態において、入力データ生成部14aは、
図5のステップSa5の処理の際には、式(11)に示す正規化を行わずに、第1の実施形態と同様に、相関行列R
xxから式(7)により入力データを生成し、生成した入力データを教師データ記憶部16に書き込んで記憶させるようにしてもよい。この場合、
図6の学習処理のステップSb2の処理において、学習処理部20は、教師データ記憶部16から直接、教師データを読み出すのではなく、例えば、以下のような処理を行うことになる。学習処理部20は、教師データ読み出し指示信号を入力データ生成部14aに出力する。入力データ生成部14aは、学習処理部20から教師データ読み出し指示信号を受けると、教師データ記憶部16から学習処理の対象となっていない、いずれか1つの教師データを読み出す。入力データ生成部14aは、読み出した教師データに含まれている入力データ、すなわちベクトルyの要素に対して、式(11)を適用して正規化を行ったベクトルyを入力データとする。入力データ生成部14aは、正規化後のベクトルyである入力データと、読み出した教師データに含まれている識別情報及び指定到来角データとを学習処理部20に出力する。
【0091】
上記の第1及び第2の実施形態において、信号生成部15に与える信号生成パラメータに含まれる複数の到来角は、モードベクトル記憶部12に記憶させるモードベクトルのデータにおいて示されている到来角θ1~θNである。そのため、モードベクトル記憶部12に記憶させるモードベクトルのデータが特定されると、それに伴って、信号生成パラメータに含める到来角θ1~θNも特定されることになる。したがって、モードベクトル記憶部12にモードベクトルのデータを書き込んだ際に、指定する到来角の最大数を定めた上で、信号生成部15の内部の記憶部に信号生成パラメータを記憶させるようにしてもよい。この場合、信号生成部15は、例えば、外部から与えられる教師データ処理の開始の指示信号を受けて、ステップSa2の処理を開始し、開始したステップSa2の処理において、外部から与えられる信号生成パラメータを取り込むのではなく、内部の記憶領域に記憶されている信号生成パラメータを読み出すことになる。
【0092】
(第3の実施形態)
図9は、第3の実施形態の到来角推定システム100の全体構成、及び操作装置3の内部構成を示すブロック図である。第3の実施形態において、第1の実施形態と同一の構成については、同一の符号を付し、以下、異なる構成について説明する。
【0093】
到来角推定システム100は、到来角推定装置1b、学習装置2、操作装置3、及び通信ネットワーク4を備える。通信ネットワーク4は、到来角推定装置1b、学習装置2、操作装置3を相互に接続する。操作装置3は、通信処理部51、操作部52、出力部53、制御部54、及び記憶部55を備える。通信処理部51は、通信ネットワーク4に接続してデータの送受信を行う。操作部52は、マウスやキーボード等の入力デバイスを含んでおり、操作者の操作を受ける。出力部53は、液晶ディスプレイ等の出力デバイスを含んでおり、データの出力を行う。制御部54は、操作装置3における各種の制御処理を行う。記憶部55は、第1の実施形態において説明した手法により予め生成されるモードベクトルであって到来角推定装置1bが備える実環境で使用するアレーアンテナ10のモードベクトルのデータを予め記憶する。ただし、第3の実施形態では、第1及び第2の実施形態と異なり、到来角推定装置1bにおいて到来角を推定する対象となる電波の波長、すなわち中心周波数を切り替えることが可能になっている。そのため、記憶部55は、予め選択される複数の中心周波数の各々に関連付けて、各々の中心周波数に対応するモードベクトルのデータを予め記憶する。
【0094】
図10は、到来角推定システム100における到来角推定装置1b、及び学習装置2の内部構成を示すブロック図である。到来角推定装置1bは、複数のアンテナ素子10-1~10-K、受信部11a、相関行列生成部13-1、入力データ生成部14-1、推論部18a、到来角算出部19、及び通信処理部41-1を備える。
【0095】
受信部11aは、以下の構成以外の構成については、第1の実施形態の受信部11と同一の構成を備える。受信部11aは、アンテナ素子10-1~10-Kに到達する電波の中から、通信処理部41-1を介して外部から与えられる受信パラメータにおいて指定されている中心周波数に対応する波長の電波を抽出する。受信部11aは、抽出した電波から電気のディジタルのK個の受信信号を取得し、取得したK個の受信信号を要素として含む受信信号ベクトルを生成する。相関行列生成部13-1は、第1の実施形態の相関行列生成部13において、「推論」の種類を示す処理種別信号が与えられた状態の相関行列生成部13と同一の構成を備える。言い換えると、相関行列生成部13-1は、処理種別信号を受けることはなく、取り込み元が受信部11aに固定され、受信信号ベクトルに基づいて相関行列Rxxを生成する。
【0096】
入力データ生成部14-1は、第1の実施形態の入力データ生成部14において、「推論」の種類を示す処理種別信号が与えられた状態の入力データ生成部14と同一の構成を備える。言い換えると、入力データ生成部14-1は、処理種別信号を受けることはなく、出力先が推論処理部30に固定された状態の入力データ生成部14と同一の構成を備える。
【0097】
推論部18aは、推論処理部30aと、関数近似器31とを備える。推論処理部30aは、以下に示す構成以外の構成については、第1の実施形態の推論処理部30と同一の構成を備える。推論処理部30aは、第1の実施形態の推論処理部30のように処理種別信号を受けることはなく、通信処理部41-1を介して外部から学習済みの学習モデルデータが与えられると、与えられた学習済みの学習モデルデータを関数近似器31に適用する。通信処理部41-1は、通信ネットワーク4に接続してデータの送受信を行う。
【0098】
学習装置2は、モードベクトル記憶部12、相関行列生成部13-2、入力データ生成部14-2、信号生成部15、教師データ記憶部16、学習部17a、及び通信処理部41-2を備える。モードベクトル記憶部12は、操作装置3の記憶部55が記憶する複数のモードベクトルのデータのうち、受信パラメータにおいて指定される中心周波数に対応するモードベクトルのデータを記憶する。
【0099】
相関行列生成部13-2は、第1の実施形態の相関行列生成部13において、「教師データ生成」の種類を示す処理種別信号が与えられた状態の相関行列生成部13と同一の構成を備える。言い換えると、相関行列生成部13-2は、処理種別信号を受けることはなく、取り込み元が信号生成部15に固定され、送信信号ベクトルと、モードベクトル記憶部12に記憶されているモードベクトルのデータとに基づいて、相関行列Rxxを生成する。
【0100】
入力データ生成部14-2は、第1の実施形態の入力データ生成部14において、「教師データ生成」の種類を示す処理種別信号が与えられた状態の入力データ生成部14と同一の構成を備える。言い換えると、入力データ生成部14-1は、処理種別信号を受けることはなく、出力先が教師データ記憶部16に固定された状態の入力データ生成部14と同一の構成を備える。
【0101】
学習部17aは、学習処理部20a、関数近似器21、及び学習モデルデータ記憶部23を備える。学習処理部20aは、以下に示す構成以外の構成については、第1の実施形態の学習処理部20と同一の構成を備える。学習処理部20aは、第1の実施形態の学習処理部20のように処理種別信号を受けることはなく、通信処理部41-1を介して外部から学習処理開始指示信号を受けると、
図6に示す学習処理のサブルーチンの処理であって学習処理部20を学習処理部20aに読み替えた処理を開始する。通信処理部41-2は、通信ネットワーク4に接続してデータの送受信を行う。
【0102】
なお、第1の実施形態では、入力データ生成部14、学習処理部20、到来角算出部19は、出力するデータを、出力装置に出力するようにしているが、第3の実施形態の到来角推定装置1bの到来角算出部19は、推定到来角を示すデータを出力装置に替えて通信処理部41-1に出力する。学習装置2の入力データ生成部14-2は、教師データ生成処理完了通知信号を出力装置に替えて通信処理部41-2に出力し、学習処理部20aは、学習処理完了通知信号を出力装置に替えて通信処理部41-2に出力する。
【0103】
図11は、到来角推定装置1b、学習装置2、及び操作装置3のハードウェア構成を示す図である。なお、第1の実施形態のハードウェア構成を示す
図3、及び
図11において同一の符号によって示される機能部は、同一のハードウェアを示す意味ではなく、同種のハードウェアを意味する。例えば、
図3の到来角推定装置1、
図11の到来角推定装置1b、学習装置2、操作装置3が備えるCPU201は、CPUというハードウェアの種類において同一という意味であり、同一製品のCPUという意味でもなければ、同一スペックのCPUという意味でもない。
【0104】
到来角推定装置1bは、例えば、CPU201、RAM202、ROM203、補助記憶装置204、無線通信モジュール205、及び通信モジュール206を備えるコンピュータである。CPU201、RAM202、ROM203、補助記憶装置204、無線通信モジュール205、及び通信モジュール206は、バスにより相互に接続されている。無線通信モジュール205は、アンテナ素子10-1~10-K、及び受信部11aのハードウェアの部分に相当する。通信モジュール206は、通信処理部41-1のハードウェアの部分に相当する。ROM203、または、補助記憶装置204に予め記憶されているアプリケーションプログラムがCPU201によって実行されることにより、受信部11aの受信信号から受信信号ベクトルを生成するソフトウェアの部分、相関行列生成部13-1、入力データ生成部14-1、推論処理部30a、関数近似器31、到来角算出部19、及び通信処理部41-1のソフトウェアの部分の機能部が構成されることになる。
【0105】
学習装置2は、例えば、CPU201、RAM202、ROM203、補助記憶装置204、及び通信モジュール206を備えるコンピュータである。CPU201、RAM202、ROM203、補助記憶装置204、及び通信モジュール206は、バスにより相互に接続されている。通信モジュール206は、通信処理部41-2のハードウェアの部分に相当する。ROM203、または、補助記憶装置204に予め記憶されているアプリケーションプログラムがCPU201によって実行されることにより、相関行列生成部13-2、入力データ生成部14-2、信号生成部15、学習処理部20a、関数近似器21、及び通信処理部41-2のソフトウェアの部分の機能部が構成され、RAM203、または、補助記憶装置204において、モードベクトル記憶部12、教師データ記憶部16、及び学習モデルデータ記憶部23の各々に対応する記憶領域が割り当てられることになる。
【0106】
操作装置3は、例えば、CPU201、RAM202、ROM203、補助記憶装置204、通信モジュール206、入力デバイス207、及び出力デバイス208を備えるコンピュータである。入力デバイス207は、例えば、マウスやキーボード等である。出力デバイス208は、例えば、液晶ディスプレイ等である。通信モジュール206は、通信処理部51のハードウェアの部分に相当する。ROM203、または、補助記憶装置204に予め記憶されているアプリケーションプログラムがCPU201によって実行されることにより、入力デバイス207を含む操作部52、出力デバイス208を含む出力部53、制御部54、及び通信処理部51のソフトウェアの部分の機能部が構成され、RAM203、または、補助記憶装置204において、記憶部55に対応する記憶領域が割り当てられることになる。
【0107】
到来角推定装置1bの通信モジュール206、学習装置2の通信モジュール206、及び操作装置3の通信モジュール206は、通信ネットワーク4により相互に接続される。なお、操作装置3は、入力デバイス207、及び出力デバイス208を備えず、その代わりに、
図3に示す入出力インタフェース206を備え、当該入出力インタフェース206に入力デバイス207と、出力デバイス208とが接続される構成であってもよい。
【0108】
(第3の実施形態における処理)
図12を参照しつつ、第3の実施形態の到来角推定システム100が行う処理の流れについて説明する。
図12に示すシーケンス図の処理が開始される前に、操作装置3の記憶部55に、第1の実施形態において説明した手法により予め生成されるモードベクトルであって到来角推定装置1bが備える実環境で使用するアレーアンテナ10の中心周波数ごとのモードベクトルのデータの各々が、各々に対応する中心周波数に関連付けられて書き込まれる。なお、到来角推定装置1bの受信部11aにおいて受信パラメータによって設定することができる中心周波数の範囲は、仕様などにより予め定められている。そのため、当該範囲の中から予め選択される幾つかの中心周波数に対応するモードベクトルのデータが、記憶部55に予め記憶されることになる。操作者は、記憶部55に記憶されている複数のモードベクトルのデータに対応する中心周波数のいずれかを選択することになる。また、学習装置2の学習モデルデータ記憶部23には、学習モデルデータの初期値が書き込まれる。
【0109】
操作者が、操作装置3の操作部52に対して中心周波数を指定してモードベクトルのデータを学習装置2に送信する操作を行う。操作部52は、受けた操作が記憶部55からモードベクトルを読み出す処理を伴うため、送信先を学習装置2として指定し、指定した中心周波数を含むモードベクトル送信指示信号を制御部54に出力する。制御部54は、操作部52からモードベクトル送信指示信号を受けると、受けたモードベクトル送信指示信号に含まれる中心周波数に対応するモードベクトルのデータを記憶部55から読み出す。制御部54は、操作部52から受けたモードベクトル送信指示信号に、読み出したモードベクトルのデータを含めて、モードベクトル送信指示信号を通信処理部51に出力する。通信処理部51は、制御部54が出力するモードベクトル送信指示信号を取り込む。通信処理部51は、取り込んだモードベクトル送信指示信号に含まれているモードベクトルのデータを含み、モードベクトル送信指示信号において送信先として指定されている学習装置2を宛先とし、データの種類を「モードベクトル」とする送信データを生成する。通信処理部51は、生成した送信データを通信ネットワーク4に送出する。通信ネットワーク4は、送信データに含まれる宛先にしたがって、送信データを学習装置2まで転送する。
【0110】
学習装置2の通信処理部41-2は、通信ネットワーク4から操作装置3が送信した送信データを受信する。通信処理部41-2は、送信データに含まれるデータの種類が「モードベクトル」であるため、送信データに含まれているモードベクトルのデータを、モードベクトル記憶部12に書き込んで記憶させる(ステップSd1)。
【0111】
操作者が、操作装置3の操作部52に対して信号生成パラメータを指定する操作を行うと共に、指定した信号生成パラメータの送信先を学習装置2とする操作を行う。ここで、操作者が指定する信号生成パラメータには、ステップSd1の処理で、学習装置2に送信したモードベクトルのデータにおいて示されている到来角θ1~θNと、指定する到来角の最大数とが含まれることになる。操作部52は、指定された信号生成パラメータを含み、送信先を学習装置2として指定した信号生成パラメータ送信指示信号を通信処理部51に出力する。通信処理部51は、操作部52が出力する信号生成パラメータ送信指示信号を取り込む。通信処理部51は、取り込んだ信号生成パラメータ送信指示信号に含まれている信号生成パラメータを含み、信号生成パラメータ送信指示信号において送信先として指定されている学習装置2を宛先とし、データの種類を「信号生成パラメータ」とする送信データを生成する。通信処理部51は、生成した送信データを通信ネットワーク4に送出する。通信ネットワーク4は、送信データに含まれる宛先にしたがって、送信データを学習装置2まで転送する。
【0112】
学習装置2の通信処理部41-2は、通信ネットワーク4から操作装置3が送信した送信データを受信する。通信処理部41-2は、送信データに含まれるデータの種類が「信号生成パラメータ」であるため、送信データに含まれている信号生成パラメータを信号生成部15に出力する(ステップSd2)。これにより、
図5に示す教師データ生成処理のサブルーチンのステップSa2~Sa7の処理と同一の処理が、第3の実施形態の教師データ生成処理のサブルーチンとして開始される。ただし、第3の実施形態の教師データ生成処理のサブルーチンでは、
図5のステップSa2~Sa7の処理において、相関行列生成部13を相関行列生成部13-2に読み替え、入力データ生成部14を入力データ生成部14-2に読み替えた処理が行われる。また、ステップSa4の処理において、相関行列生成部13-2が、信号生成部15が出力する識別情報が付与された送信信号ベクトルを最初に取り込んだ際に、モードベクトル記憶部12からモードベクトルのデータを読み出す処理が追加される(ステップSd3)。
【0113】
ステップSd3の教師データ生成処理のステップSa7の処理において、入力データ生成部14-2は、教師データ生成処理完了通知信号を通信処理部41-2に出力する。通信処理部41-2は、入力データ生成部14-2から教師データ生成処理完了通知信号を受けると、宛先を操作装置3とし、データの種類を「教師データ生成処理完了通知信号」とする送信データを生成し、生成した送信データを通信ネットワーク4に送出する。通信ネットワーク4は、送信データに含まれる宛先にしたがって、送信データを操作装置3まで転送する。操作装置3の通信処理部51は、通信ネットワーク4から学習装置2が送信した送信データを受信する。通信処理部51は、送信データに含まれるデータの種類が「教師データ生成処理完了通知信号」であるため、出力部53に教師データ生成処理完了通知信号を出力する。出力部53は、通信処理部51から教師データ生成処理完了通知信号を受けると、自らが備える液晶ディスプレイ等の出力デバイスの画面に教師データ生成処理完了を示すメッセージを表示する(ステップSd4)。
【0114】
操作者は、画面に表示されている教師データ生成処理完了を示すメッセージを確認すると、操作装置3の操作部52に対して学習処理開始指示信号を学習装置2に送信する操作を行う。操作部52は、送信先を学習装置2として指定した学習処理開始指示信号を通信処理部51に出力する。通信処理部51は、操作部52が出力する学習処理開始指示信号を取り込み、取り込んだ信号生成パラメータ送信指示信号において送信先として指定されている学習装置2を宛先とし、データの種類を「学習処理開始指示信号」とする送信データを生成する。通信処理部51は、生成した送信データを通信ネットワーク4に送出する。通信ネットワーク4は、送信データに含まれる宛先にしたがって、送信データを学習装置2まで転送する。学習装置2の通信処理部41-2は、通信ネットワーク4から操作装置3が送信した送信データを受信する。通信処理部41-2は、送信データに含まれるデータの種類が「学習処理開始指示信号」であるため、学習処理開始指示信号を学習処理部20aに出力する(ステップSd5)。これにより、
図6に示す学習処理のサブルーチンと同一の処理が、第3の実施形態の学習処理のサブルーチンとして開始される。ただし、第3の実施形態の学習処理のサブルーチンでは、
図6の処理において、学習処理部20を学習処理部20aに読み替えた処理が行われる(ステップSd6)。
【0115】
ステップSd6の学習処理のサブルーチンのステップSb6の処理において、学習処理部20aは、学習処理完了通知信号を通信処理部41-2に出力する。通信処理部41-2は、学習処理部20aから学習処理完了通知信号を受けると、宛先を操作装置3とし、データの種類を「学習処理完了通知信号」とする送信データを生成し、生成した送信データを通信ネットワーク4に送出する。通信ネットワーク4は、送信データに含まれる宛先にしたがって、送信データを操作装置3まで転送する。操作装置3の通信処理部51は、通信ネットワーク4から学習装置2が送信した送信データを受信する。通信処理部51は、送信データに含まれるデータの種類が「学習処理完了通知信号」であるため、出力部53に学習処理完了通知信号を出力する。出力部53は、通信処理部51から学習処理完了通知信号を受けると、画面に学習処理完了を示すメッセージを表示する(ステップSd7)。
【0116】
通信処理部41-2は、学習処理部20aから学習処理完了通知信号を受けると、学習モデルデータ記憶部23に記憶されている学習済みの学習モデルデータを読み出す。通信処理部41-2は、読み出した学習モデルデータを含み、宛先を到来角推定装置1bとし、データの種類を「学習モデルデータ」とする送信データを生成し、生成した送信データを通信ネットワーク4に送出する。通信ネットワーク4は、送信データに含まれる宛先にしたがって、送信データを到来角推定装置1bまで転送する。到来角推定装置1bの通信処理部41-1は、通信ネットワーク4から学習装置2が送信した送信データを受信する。通信処理部41-1は、送信データに含まれるデータの種類が「学習モデルデータ」であるため、受信した送信データから学習済みの学習モデルデータを読み出し、読み出した学習済みの学習モデルデータを推論処理部30aに出力する。推論処理部30aは、通信処理部41-1が出力する学習済みの学習モデルデータを取り込み、取り込んだ学習済みの学習モデルデータを関数近似器31に適用する。これにより、学習済みの学習モデル32が生成されることになる(ステップSd8)。
【0117】
なお、通信処理部41-2が、学習処理部20aから学習処理完了通知信号を受けることにより行われる、ステップSd7の処理と、ステップSd8の処理とは、
図12に示すように、ステップSd7の処理の後にステップSd8の処理が行われてもよいし、ステップSd8の処理の後にステップSd7の処理が行われてもよい。
【0118】
操作者が、操作装置3の操作部52に対して、ステップSd1において指定した中心周波数に一致する中心周波数を含む受信パラメータを生成する操作を行うと共に、受信パラメータの送信先を到来角推定装置1bとして指定する操作を行う。操作部52は、生成した受信パラメータと、送信先が到来角推定装置1bであることを示すデータとを含む受信パラメータ送信指示信号を通信処理部51に出力する。通信処理部51は、操作部52が出力する受信パラメータ送信指示信号を取り込む。通信処理部51は、取り込んだ受信パラメータ送信指示信号に含まれている受信パラメータを含み、受信パラメータ送信指示信号において送信先として指定されている到来角推定装置1bを宛先とし、データの種類を「受信パラメータ」とする送信データを生成する。通信処理部51は、生成した送信データを通信ネットワーク4に送出する。通信ネットワーク4は、送信データに含まれる宛先にしたがって、送信データを到来角推定装置1bまで転送する。
【0119】
到来角推定装置1bの通信処理部41-1は、通信ネットワーク4から操作装置3が送信した送信データを受信する。通信処理部41-1は、送信データに含まれるデータの種類が「受信パラメータ」であるため、送信データに含まれている受信パラメータを受信部11aに出力する。受信部11aは、通信処理部41-1が出力する受信パラメータを取り込む。受信部11aは、取り込んだ受信パラメータに含まれている中心周波数を読み出し、読み出した中心周波数を自らのハードウェア部分である無線通信モジュール205に設定する(ステップSd9)。これにより、
図7に示す推論処理のサブルーチンのループLc1s~Lc1eの処理と同一の処理が、第3の実施形態の推論処理のサブルーチンとして開始される。ただし、第3の実施形態の推論処理では、ステップSc2の処理において、以下の処理が行われる。すなわち、受信部11aは、アンテナ素子10-1~10-Kに到達する電波の中から、取り込んだ受信パラメータにおいて指定されている中心周波数に対応する波長の電波を抽出する。受信部11aは、抽出した電波から電気のディジタルのK個の受信信号を取得し、取得したK個の受信信号を要素として含む受信信号ベクトルを生成する。ステップSc2以外のステップSc3~Sc6の処理については、相関行列生成部13を相関行列生成部13-1に読み替え、入力データ生成部14を入力データ生成部14-1に読み替え、推論処理部30を推論処理部30aに読み替えた処理が行われる(ステップSd10)。
【0120】
ステップSd10の推論処理のサブルーチンのループLc1s~Lc1eの繰り返し処理において、ステップSc6の処理が行われるごとに、到来角算出部19は、算出した推定到来角を示すデータを通信処理部41-1に出力する。通信処理部41-1は、到来角算出部19が出力する推定到来角を示すデータを取り込むごとに、取り込んだ推定到来角を示すデータを含み、宛先を操作装置3とし、データの種類を「推定到来角」とする送信データを生成し、生成した送信データを通信ネットワーク4に送出する。通信ネットワーク4は、送信データに含まれる宛先にしたがって、送信データを操作装置3まで転送する。操作装置3の通信処理部51は、通信ネットワーク4から学習装置2が送信した送信データを受信する。通信処理部51は、送信データに含まれるデータの種類が「推定到来角」であるため、送信データから推定到来角を示すデータを読み出し、読み出した推定到来角を示すデータを出力部53に出力する。出力部53は、通信処理部51から推定到来角を示すデータを受けると、画面に推定到来角を示すデータを表示する(ステップSd11)。
【0121】
上記の第3の実施形態の到来角推定システム100のような構成にすることにより、例えば、到来角推定装置1bと、学習装置2と、操作装置3とを距離の離れた異なる位置に設置することができる。例えば、到来角推定装置1bを、実際に電波を受信する位置に設置し、学習装置2をデータセンタ等に設置し、操作装置3を操作者が存在する位置に設置し、操作装置3により、学習装置2と、到来角推定装置1bとを遠隔で操作して利用することが可能になる。
【0122】
例えば、複数の到来角推定装置1bの各々を異なる位置に設置することが要求される場合、到来角推定システム100が、複数の到来角推定装置1bを備え、複数の到来角推定装置1bの各々が通信ネットワーク4に接続するような構成としてもよい。この場合、操作装置3の記憶部55には、複数のモードベクトルであって、複数の到来角推定装置1bの各々が備えるアレーアンテナ10に対応する複数のモードベクトルのデータが中心周波数ごとに予め記憶されることになる。学習装置2は、操作者の操作を受けて操作装置3が指定する到来角推定装置1b及び中心周波数のモードベクトルのデータ、及び当該モードベクトルのデータに対応する信号生成パラメータに基づいて教師データを生成する。学習装置2は、生成した教師データを用いて、指定された到来角推定装置1bの関数近似器31に適用される学習済みの学習モデルデータを生成する。学習装置2は、学習モデルデータの生成が完了すると、生成した学習モデルデータを、指定された到来角推定装置1bに送信する。学習モデルデータの送信先の到来角推定装置1bの受信部11aには、当該学習モデルデータが生成された際に学習装置2が用いたモードベクトルのデータに対応する中心周波数が受信パラメータによって設定されることになる。
【0123】
上記の第3の実施形態の到来角推定システム100に対して、第2の実施形態を適用するようにしてもよい。すなわち、到来角推定システム100の到来角推定装置1bの入力データ生成部14-1と、学習装置2の入力データ生成部14-2に対して、第2の実施形態の入力データ生成部14aが備える正規化を行う構成を適用するようにしてもよい。
【0124】
(その他の構成例(その1))
上記の第1から第3の実施形態では、アレーアンテナ10が受信する電波の波長を1つに定め、当該1つの波長のモードベクトルのデータを用いるようにしている。これに対して、アレーアンテナ10が受信する予定がある電波の波長が複数存在する場合、複数の波長の各々に対応する複数のモードベクトルのデータが生成されることになる。第1及び第2の実施形態では、生成した複数の波長の各々に対応する複数のモードベクトルのデータをモードベクトル記憶部12が記憶することになる。第3の実施形態では、生成した複数の波長の各々に対応する複数のモードベクトルのデータを操作装置3の記憶部55が記憶することになる。記憶部55が記憶する複数のモードベクトルのデータが、
図12のステップSd1の処理において、学習装置2のモードベクトル記憶部12に書き込まれることになる。
【0125】
この場合に、第1から第3の実施形態において、
図5に示す教師データ生成処理のサブルーチンのループLa1s~La1eの処理が行われる際、相関行列生成部13,13-2は、到来角ごと、かつモードベクトルのデータごとの相関行列R
xxを生成することになる。入力データ生成部14,14a,14-2は、相関行列生成部13,13-2が生成する相関行列R
xxごとの入力データを生成することになる。したがって、教師データ記憶部16は、到来角ごと、かつモードベクトルのデータごと、言い換えると、到来角ごと、かつ電波の波長ごと、更に言い換えると、到来角ごと、かつ電波の中心周波数ごとの教師データを記憶することになる。この教師データを用いて学習処理を行うことにより、学習部17,17aは、様々な到来角、及び様々な中心周波数の電波の到来角を推定する学習モデル22を生成することが可能になる。
【0126】
(その他の構成例(その2))
上記の第1から第3の実施形態において、
図6に示すフローチャートでは、学習処理部20,20aは、教師データごとに、新たな学習モデルデータを算出して学習モデル22の更新を行うようにしている。これは、いわゆるオンライン学習と呼ばれる学習処理の手法である。これに対して、学習処理部20,20aは、いわゆるミニバッチ学習の手法やバッチ学習の手法を用いて学習モデル22を更新するようにしてもよい。
【0127】
例えば、ミニバッチ学習の手法の場合、学習処理部20,20aは、以下のような処理を行う。学習処理部20,20aは、教師データ記憶部16に記憶されている教師データセットを、各々のサブセットにおいて一定数の教師データが含まれるように複数のサブセットに分割する。学習処理部20,20aは、サブセットに含まれる教師データに対してステップSb2,Sb3の処理を繰り返し行う。学習処理部20,20aは、当該処理により得られた複数の出力データと、ステップSb2,Sb3の処理の対象とした教師データに含まれる指定到来角データから生成する複数の正解ラベルと、予め定められる損失関数と、その時点で、学習モデルデータ記憶部23に記憶されている学習モデルデータとに基づいて、新たな学習モデルデータを算出する。ここで、予め定められる損失関数とは、複数の出力データ及び複数の正解ラベルの組み合わせに対して1つの損失値を算出する損失関数である。学習処理部20,20aは、算出した新たな学習モデルデータにより学習モデル22の更新を行う。このように、学習処理部20,20aは、サブセットごとに学習モデル22の更新を行う処理を繰り返し行う。すなわち、ミニバッチ学習の手法では、サブセットの個数に対応する回数、学習モデル22が更新されることになる。
【0128】
例えば、バッチ学習の手法を採用する場合、学習処理部20,20aは、以下のような処理を行うことになる。学習処理部20,20aは、教師データ記憶部16に記憶されている全ての教師データに対するステップSb2,Sb3の処理を繰り返し行う。学習処理部20,20aは、当該処理により得られた複数の出力データと、全ての教師データに含まれる指定到来角データから生成する複数の正解ラベルと、予め定められる損失関数と、その時点で、学習モデルデータ記憶部23に記憶されている学習モデルデータとに基づいて、新たな学習モデルデータを算出する。ここで、予め定められる損失関数とは、複数の出力データ及び複数の正解ラベルの組み合わせに対して1つの損失値を算出する損失関数である。学習処理部20,20aは、算出した新たな学習モデルデータにより学習モデル22の更新を行う。すなわち、バッチ学習の手法では、1つの教師データセットに対して、一度だけ学習モデル22が更新されることになる。
【0129】
オンライン学習の手法、ミニバッチ学習の手法、バッチ学習の手法のいずれの手法を用いる場合であっても、学習処理部20,20aは学習モデル22を更新する処理を、予め定められる回数、または、以下のような条件を満たすまで、繰り返し行うようにしてもよい。例えば、学習処理部20,20aは、新たな学習モデルデータを算出する前に、出力データと、当該出力データに対応する正解ラベルとを損失関数に代入して損失値を算出し、算出した損失値が、予め定められる閾値未満になるという条件を満たすまで学習モデル22の更新を繰り返し行うようにしてもよい。
【0130】
(その他の補足的な構成例)
上記の第1から第3の実施形態において、入力データ生成部14,14a,14-1,14-2は、相関行列Rxxの下三角行列ではなく、相関行列Rxxの上三角行列から入力データを生成するようにしてもよい。また、入力データ生成部14,14a,14-1,14-2は、下三角行列や上三角行列ではなく、相関行列Rxxの全ての要素から入力データを生成するようにしてもよい。上三角行列や相関行列Rxxから入力データを生成する場合、入力データ生成部14,14a,14-1,14-2は、相関行列Rxxの下三角行列から式(7)に基づいて入力データを生成するのと同様に、複素数の要素については、実数成分の数値と、虚数成分の数値とを分離して入力データを生成するものとする。
【0131】
上記の第1から第3の実施形態において、関数近似器21,31は、多層ニューラルネットワークであるとしているが、多層ニューラルネットワークは、ディープ・ニューラルネットワークであってもよく、また、ディープ・ニューラルネットワーク以外のニューラルネットワークであってもよい。また、学習処理部20,20aは、ニューラルネットワークを用いた教師あり学習の手法以外の他の教師ありの機械学習の手法を採用して、関数近似器21,31が到来角ごとの電波の存在確率を評価する評価関数を近似する学習モデル22,32になるように学習処理を行うようにしてもよい。
【0132】
上記の第1から第3の実施形態において、学習処理部20,20aは、誤差逆伝播法により新たな学習モデルデータを算出するようにしているが、誤差逆伝播法以外の手法を用いて新たな学習モデルデータを算出するようにしてもよい。
【0133】
上記の第1から第3の実施形態において、学習処理部20,20aが用いる損失関数として、例えば、平均二乗誤差を算出する損失関数を用いてもよいし、平均二乗誤差を算出する損失関数以外の損失関数を用いてもよい。
【0134】
上記の第1から第3の実施形態において、学習処理部20,20aは、教師データ記憶部16に記憶されている全ての教師データを用いて学習処理を行うようにしている。これに対して、学習処理部20,20aは、教師データ記憶部16に記憶されている一部の教師データを用いて学習処理を行い、学習処理に用いなかった教師データをテスト用のデータとして用いるようにしてもよい。
【0135】
上記の第1から第3の実施形態において、複数のアンテナ素子10-1~10-Kが形成するアレーアンテナ10は、例えば、
図2に示すK素子等間隔円形配列型のアレーアンテナであるとしているが、線形アレーアンテナであれば、どのようなアレーアンテナであってもよい。
【0136】
上記の第1及び第2の実施形態において、受信部11に替えて、第3の実施形態の受信部11aを備えるようにし、ステップSc2の処理が行われる前に、第3の実施形態と同様に、外部から受信部11aに対して受信パラメータを与えるようにしてもよい。この場合、モードベクトル記憶部12に記憶させるモードベクトルのデータは、受信パラメータにおいて指定されている中心周波数に対応するモードベクトルのデータを記憶させることになる。
【0137】
上記の第1から第3の実施形態において、受信部11,11aに対して、受信部11,11aが生成する受信信号から送信信号を復調する機能部を接続し、到来角推定装置1,1a,1bを無線受信装置として機能させるようにしてもよい。
【0138】
図13は、本発明の一実施形態に係る学習装置500の構成を示すブロック図であり、
図14は、学習装置500が行う処理の流れを示すフローチャートである。
図13に示すように、学習装置500は、信号生成手段501、相関行列生成手段502、入力データ生成手段503、及び学習手段504を備える。
図14に示すように、信号生成手段501は、指定する到来角に対応する送信信号の信号強度が他の到来角に対応する送信信号よりも強くなるように送信信号ベクトルを生成する(ステップS511)。相関行列生成手段502は、送信信号ベクトルと、実環境アレーアンテナのモードベクトルとに基づいて相関行列を生成する(ステップS512)。入力データ生成手段503は、相関行列の要素から入力データを生成する(ステップS513)。学習手段504は、入力データを入力とし、当該入力データに対応する到来角を示すデータを正解ラベルとする教師データを用いて学習処理を行うことにより学習モデルを生成する(ステップS514)。
【0139】
図15は、本発明の一実施形態に係る到来角推定装置600の構成を示すブロック図であり、
図16は、到来角推定装置600が行う処理の流れを示すフローチャートである。
図15に示すように、到来角推定装置600は、アレーアンテナ601、受信手段602、相関行列生成手段603、入力データ生成手段604、推論手段605、及び到来角算出手段606を備える。
図16に示すように、受信手段602は、アレーアンテナ601に到来する電波から受信信号ベクトルを生成する(ステップS611)。相関行列生成手段603は、受信信号ベクトルに基づいて相関行列を生成する(ステップS612)。入力データ生成手段604は、相関行列の要素から入力データを生成する(ステップS613)。推論手段605は、アレーアンテナ601における到来角ごとの電波の存在確率を評価する評価関数となるように生成された学習モデルであってアレーアンテナ601のモードベクトルを用いて生成された教師データに基づく学習処理にしたがって生成される学習モデルに入力データを与えて出力データを取得する(ステップS614)。到来角算出手段606は、出力データから電波の推定到来角を算出する(ステップS615)。
【0140】
上述の到来角推定装置1,1a,1b,600、学習装置2,500、及び操作装置3は内部に、コンピュータシステムを有しており、受信部11,11aのソフトウェアの部分、モードベクトル記憶部12、相関行列生成部13,13-1,13-2、入力データ生成部14,14a,14-1,14-2、信号生成部15、教師データ記憶部16、学習部17,17a、推論部18,18a、到来角算出部19、通信処理部41-1,41-2,51のソフトウェアの部分、操作部52及び出力部53のソフトウェアの部分、制御部54、記憶部55、信号生成手段501、相関行列生成手段502、入力データ生成手段503、学習手段504、受信手段602のソフトウェアの部分、相関行列生成手段603、入力データ生成手段604、推論手段605、並びに到来角算出手段606の機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することにより
図4から
図7、
図12、
図14、及び
図16を参照して説明した処理を行ってもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。また、「コンピュータシステム」は、ホームページ提供環境(あるいは表示環境)を備えたWWWシステムも含むものとする。また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD-ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムが送信された場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリ(RAM)のように、一定時間プログラムを保持しているものも含むものとする。
【0141】
また、上記プログラムは、このプログラムを記憶装置等に格納したコンピュータシステムから、伝送媒体を介して、あるいは、伝送媒体中の伝送波により他のコンピュータシステムに伝送されてもよい。ここで、プログラムを伝送する「伝送媒体」は、インターネット等のネットワーク(通信網)や電話回線等の通信回線(通信線)のように情報を伝送する機能を有する媒体のことをいう。また、上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであっても良い。さらに、前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であっても良い。
【0142】
以上、この発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。
【0143】
上記の実施形態の一部又は全部は、以下の付記のようにも記載され得るが、以下には限られない。
【0144】
(付記1)指定する到来角に対応する送信信号の信号強度が他の到来角に対応する送信信号よりも強くなるように送信信号ベクトルを生成する信号生成手段(例えば、信号生成部15)と、前記送信信号ベクトルと、実環境で使用される実環境アレーアンテナのモードベクトルとに基づいて相関行列を生成する相関行列生成手段(例えば、相関行列生成部13,13-2)と、前記相関行列の要素から入力データを生成する入力データ生成手段(例えば、入力データ生成部14,14a,14-2)と、前記入力データを入力とし、当該入力データに対応する前記到来角を示すデータを正解ラベルとする教師データを用いて学習処理を行うことにより学習モデルを生成する学習手段(例えば、学習部17,17a)と、を備える学習装置。
【0145】
(付記2)前記入力データ生成手段(例えば、入力データ生成部14,14a,14-2)は、前記相関行列の三角行列の要素から前記入力データを生成する処理、または、前記相関行列の三角行列の要素を正規化して前記入力データを生成する処理のいずれか一方の処理を行う、(付記1)に記載の学習装置。
【0146】
(付記3)前記三角行列は、下三角行列である、(付記2)に記載の学習装置。
【0147】
(付記4)前記モードベクトルは、前記実環境アレーアンテナが受信する予定がある前記電波の波長ごとに生成される、(付記1)から(付記3)のいずれか1つに記載の学習装置。
【0148】
(付記5)アレーアンテナ(例えば、アレーアンテナ10)と、前記アレーアンテナに到来する電波から受信信号ベクトルを生成する受信手段(例えば、受信部11,11a)と、前記受信信号ベクトルに基づいて相関行列を生成する相関行列生成手段(例えば、相関行列生成部13,13-1)と、前記相関行列の要素から入力データを生成する入力データ生成手段(例えば、入力データ生成部14,14a,14-1)と、前記アレーアンテナにおける到来角ごとの電波の存在確率を評価する評価関数となるように生成された学習モデルであって前記アレーアンテナのモードベクトルを用いて生成された教師データに基づく学習処理にしたがって生成される学習モデルに前記入力データを与えて出力データを取得する推論手段(例えば、推論部18,18a)と、前記出力データから電波の推定到来角を算出する到来角算出手段(例えば、到来角算出部19)と、を備える到来角推定装置。
【0149】
(付記6)指定する到来角に対応する送信信号の信号強度が他の到来角に対応する送信信号よりも強くなるように送信信号ベクトルを生成する信号生成手段(例えば、信号生成部15)と、前記送信信号ベクトルと、前記アレーアンテナのモードベクトルとに基づいて前記相関行列生成手段(例えば、相関行列生成部13)が生成する相関行列の要素から前記入力データ生成手段(例えば、入力データ生成部14,14a)が生成する入力データを入力とし、当該入力データに対応する前記到来角を示すデータを正解ラベルとする教師データを用いて学習処理を行うことにより前記学習モデルを生成する学習手段(例えば、学習部17)と、を備える(付記5)に記載の到来角推定装置。
【0150】
(付記7)前記入力データ生成手段(14,14a,14-1)は、前記相関行列の三角行列の要素から前記入力データを生成する処理、または、前記相関行列の三角行列の要素を正規化して前記入力データを生成する処理のいずれか一方の処理を行う、(付記5)または(付記6)に記載の到来角推定装置。
【0151】
(付記8)前記三角行列は、下三角行列である、(付記7)に記載の到来角推定装置。
【0152】
(付記9)前記モードベクトルは、前記アレーアンテナが受信する予定がある前記電波の波長ごとに生成される、(付記5)から(付記8)のいずれか1つに記載の到来角推定装置。
【0153】
(付記10)(付記1)に記載の学習装置と、(付記5)に記載の到来角推定装置と、を備え、前記学習装置における前記実環境アレーアンテナは、前記到来角推定装置の前記アレーアンテナであり、前記学習装置の前記学習手段が生成する前記学習モデルは、前記到来角推定装置の前記推論手段の前記学習モデルである、
到来角推定システム。
【0154】
(付記11)前記到来角推定装置は、複数存在し、前記学習装置における前記実環境アレーアンテナは、複数の前記到来角推定装置の前記アレーアンテナの各々であり、前記学習手段は、複数の前記到来角推定装置の各々に対応する前記学習モデルを生成する、(付記10)に記載の到来角推定システム。
【0155】
(付記12)前記入力データ生成手段は、前記相関行列の三角行列の要素から前記入力データを生成する処理、または、前記相関行列の三角行列の要素を正規化して前記入力データを生成する処理のいずれか一方の処理を行う、(付記10)または(付記11)に記載の到来角推定システム。
【0156】
(付記13)前記三角行列は、下三角行列である、(付記12)に記載の到来角推定システム。
【0157】
(付記14)前記モードベクトルは、前記アレーアンテナが受信する予定がある前記電波の波長ごとに生成される、(付記10)から(付記13)のいずれか1つに記載の到来角推定システム。
【0158】
(付記15)指定する到来角に対応する送信信号の信号強度が他の到来角に対応する送信信号よりも強くなるように送信信号ベクトルを生成し、生成した前記送信信号ベクトルと、実環境で使用される実環境アレーアンテナのモードベクトルとに基づいて相関行列を生成し、生成した前記相関行列の要素から入力データを生成し、生成した前記入力データを入力とし、当該入力データに対応する前記到来角を示すデータを正解ラベルとする教師データを用いて学習処理を行うことにより学習モデルを生成する、学習モデルの生成方法。
【0159】
(付記16)アレーアンテナに到来する電波から受信信号ベクトルを生成し、生成した前記受信信号ベクトルに基づいて相関行列を生成し、生成した前記相関行列の要素から入力データを生成し、前記アレーアンテナにおける到来角ごとの電波の存在確率を評価する評価関数となるように生成された学習モデルであって前記アレーアンテナのモードベクトルを用いて生成された教師データに基づく学習処理にしたがって生成される学習モデルに前記入力データを与えて出力データを取得し、取得した前記出力データから電波の推定到来角を算出する、到来角推定方法。
【0160】
(付記17)コンピュータに、指定する到来角に対応する送信信号の信号強度が他の到来角に対応する送信信号よりも強くなるように送信信号ベクトルを生成する手順、生成した前記送信信号ベクトルと、実環境で使用される実環境アレーアンテナのモードベクトルとに基づいて相関行列を生成する手順、生成した前記相関行列の要素から入力データを生成する手順、生成した前記入力データを入力とし、当該入力データに対応する前記到来角を示すデータを正解ラベルとする教師データを用いて学習処理を行うことにより学習モデルを生成する手順、を実行させるためのプログラム。
【0161】
(付記18)コンピュータに、アレーアンテナに到来する電波から受信信号ベクトルを生成する手順、生成した前記受信信号ベクトルに基づいて相関行列を生成する手順、生成した前記相関行列の要素から入力データを生成する手順、前記アレーアンテナにおける到来角ごとの電波の存在確率を評価する評価関数となるように生成された学習モデルであって前記アレーアンテナのモードベクトルを用いて生成された教師データに基づく学習処理にしたがって生成される学習モデルに前記入力データを与えて出力データを取得する手順、取得した前記出力データから電波の推定到来角を算出する手順、を実行させるためのプログラム。
【産業上の利用可能性】
【0162】
電波の到来角の推定に利用することができる。
【符号の説明】
【0163】
1…到来角推定装置、10…アレーアンテナ、10-1~10-K…アンテナ素子、11…受信部、12…モードベクトル記憶部、13…相関行列生成部、14…入力データ生成部、15…信号生成部、16…教師データ記憶部、17…学習部、18…推論部、19…到来角算出部、20…学習処理部、21…関数近似器、22…学習モデル、23…学習モデル記憶部、30…推論処理部、31…関数近似器、32…学習モデル