(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024018701
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】被覆リチウム-遷移金属酸化物粒子およびその製造方法、リチウムイオン電池用正極活物質、ならびにリチウムイオン電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/525 20100101AFI20240201BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20240201BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20240201BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/36 C
H01M4/505
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022122193
(22)【出願日】2022-07-29
(71)【出願人】
【識別番号】000003506
【氏名又は名称】第一工業製薬株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(74)【代理人】
【識別番号】110003395
【氏名又は名称】弁理士法人蔦田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】星原 悠司
(72)【発明者】
【氏名】鍛治 宗騎
(72)【発明者】
【氏名】東崎 哲也
(72)【発明者】
【氏名】是津 信行
(72)【発明者】
【氏名】マリウム メイイーシャ
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA02
5H050BA17
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA29
5H050HA01
(57)【要約】 (修正有)
【課題】リチウムイオン電池の入出力特性を向上する被覆リチウム-遷移金属酸化物粒子、該粒子を含むリチウムイオン電池用正極活物質及び該粒子の製造方法を提供する。
【解決手段】被覆リチウム-遷移金属酸化物粒子は、リチウム-遷移金属酸化物粒子表面の少なくとも一部が、式(1)で表され重量平均分子量が20万~60万の共重合体により被覆されており、該共重合体がオキセタン環の開環により架橋されたものである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム-遷移金属酸化物粒子表面の少なくとも一部が、下記一般式(1)で表され重量平均分子量が20万~60万の共重合体により被覆され、
【化1】
式(1)において、mおよびnはそれぞれ独立に1以上の数を表し、R
1およびR
2はそれぞれ独立に水素原子またはメチル基を表し、R
3は炭素数1~5のアルキル基を表し、R
4は炭素数1~5のアルカンジイル基を表し、R
5は水素原子または炭素数1~5のアルキル基を表し、
前記共重合体がオキセタン環の開環により架橋されている、被覆リチウム-遷移金属酸化物粒子。
【請求項2】
前記共重合体の量が0.7~5質量%である、請求項1に記載の被覆リチウム-遷移金属酸化物粒子。
【請求項3】
請求項1または2に記載の被覆リチウム-遷移金属酸化物粒子を含む、リチウムイオン電池用正極活物質。
【請求項4】
請求項3に記載のリチウムイオン電池用正極活物質を含む正極を備えるリチウムイオン電池。
【請求項5】
リチウム-遷移金属酸化物粒子と、下記一般式(1)で表され重量平均分子量が20万~60万の共重合体と、重合開始剤とを含む混合物を加熱する工程を含み、
【化2】
式(1)において、mおよびnはそれぞれ独立に1以上の数を表し、R
1およびR
2はそれぞれ独立に水素原子またはメチル基を表し、R
3は炭素数1~5のアルキル基を表し、R
4は炭素数1~5のアルカンジイル基を表し、R
5は水素原子または炭素数1~5のアルキル基を表す、
被覆リチウム-遷移金属酸化物粒子の製造方法。
【請求項6】
前記混合物において、前記共重合体と前記重合開始剤の合計100質量部に対する前記重合開始剤の量が1~5質量部である、請求項5に記載の被覆リチウム-遷移金属酸化物粒子の製造方法。
【請求項7】
前記被覆リチウム-遷移金属酸化物粒子100質量%における前記共重合体の量が0.7~5質量%である、請求項5または6に記載の被覆リチウム-遷移金属酸化物粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、被覆リチウム-遷移金属酸化物粒子およびその製造方法に関する。本発明の実施形態はまた、該被覆リチウム-遷移金属酸化物粒子を含むリチウムイオン電池用正極活物質、および該正極活物質を用いたリチウムイオン電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池においては、入出力特性などの電池特性を向上することが求められている。例えば、特許文献1には、出力特性とサイクル特性を向上するために、リチウムイオン電池の非水電解質として、メタクリル酸メチルと(3-エチルオキセタン-3-イル)メチルメタクリレートとの共重合体を、支持塩、非プロトン性溶媒およびビニレンカーボネートとともに配合し、架橋させたものを用いることが開示されている。
【0003】
一方、リチウムイオン電池の正極活物質粒子を重合体で被覆することが知られている。例えば、特許文献2には、高電位でのサイクル特性を向上するために、正極活物質として、ニトリル基含有アクリル重合体で被覆されたものを用いることが開示されている。しかしながら、ニトリル基を含有する重合体は環境負荷が大きいことから実用化されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第7047181号公報
【特許文献2】国際公開第2014/088070号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の実施形態は、リチウムイオン電池の入出力特性を向上するのに好適な正極活物質として用いることができる被覆リチウム-遷移金属酸化物粒子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は以下に示される実施形態を含む。
[1] リチウム-遷移金属酸化物粒子表面の少なくとも一部が、下記一般式(1)で表され重量平均分子量が20万~60万の共重合体により被覆され、
【化1】
式(1)において、mおよびnはそれぞれ独立に1以上の数を表し、R
1およびR
2はそれぞれ独立に水素原子またはメチル基を表し、R
3は炭素数1~5のアルキル基を表し、R
4は炭素数1~5のアルカンジイル基を表し、R
5は水素原子または炭素数1~5のアルキル基を表し、
前記共重合体がオキセタン環の開環により架橋されている、被覆リチウム-遷移金属酸化物粒子。
[2] 前記共重合体の量が0.7~5質量%である、[1]に記載の被覆リチウム-遷移金属酸化物粒子。
[3] [1]または[2]に記載の被覆リチウム-遷移金属酸化物粒子を含む、リチウムイオン電池用正極活物質。
[4] [3]に記載のリチウムイオン電池用正極活物質を含む正極を備えるリチウムイオン電池。
[5] リチウム-遷移金属酸化物粒子と、上記一般式(1)で表され重量平均分子量が20万~60万の共重合体と、重合開始剤とを含む混合物を加熱する工程を含む、被覆リチウム-遷移金属酸化物粒子の製造方法。
[6] 前記混合物において、前記共重合体と前記重合開始剤の合計100質量部に対する前記重合開始剤の量が1~5質量部である、[5]に記載の被覆リチウム-遷移金属酸化物粒子の製造方法。
[7] 前記被覆リチウム-遷移金属酸化物粒子100質量%における前記共重合体の量が0.7~5質量%である、[5]または[6]に記載の被覆リチウム-遷移金属酸化物粒子の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の実施形態であると、リチウムイオン電池の入出力特性を向上するのに好適な正極活物質として用いることができる被覆リチウム-遷移金属酸化物粒子を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
実施形態に係る被覆リチウム-遷移金属酸化物粒子は、リチウム-遷移金属酸化物粒子の粒子表面がオキセタン環を有するアクリル系重合体により被覆され、該アクリル系重合体がオキセタン環の開環により架橋されているものである。
【0009】
[リチウム-遷移金属酸化物粒子]
リチウム-遷移金属酸化物粒子としては、リチウムと遷移金属との複合酸化物の粒子、すなわちリチウム含有複合金属酸化物の粒子を用いることができる。例えば、リチウムイオン電池用正極活物質として一般に使用されているリチウム含有複合金属酸化物粉体を用いることができる。ここで、粉体とは粒子の集合体をいう。
【0010】
リチウム-遷移金属酸化物粒子を構成する遷移金属としては、例えば、Ni、Co、Mn、Ti、V、Cr、Fe、Cu、Mo等が挙げられる。これらの中でも、遷移金属としてはNi、CoおよびMnからなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。そのため、好ましい実施形態に係るリチウム-遷移金属酸化物粒子は、Ni、CoおよびMnからなる群から選択される少なくとも1種を含むリチウム含有複合金属酸化物粒子である。
【0011】
リチウム-遷移金属酸化物粒子の具体例としては、リチウム含有ニッケル酸化物、リチウム含有コバルト酸化物、リチウム含有マンガン酸化物、リチウム含有ニッケルコバルト酸化物、リチウム含有ニッケルコバルトマンガン酸化物等が挙げられる。これらの酸化物は、Al、Mg、Ca、Ba、F(フッ素)、B(ホウ素)等がドープされていてもよく(例えば、ニッケルコバルトアルミのリチウム複合酸化物等)、ドープされていなくてもよい。また、これらの酸化物はいずれか1種用いても、2種以上併用してもよい。
【0012】
一実施形態において、リチウム-遷移金属酸化物粒子は、LixNiaCobMncO2で表されるリチウム含有ニッケルコバルトマンガン酸化物粒子でもよい。ここで、xは0.5~1.2であり、a、bおよびcは、a>0、b>0、c>0を満たし、a+b+c=1である。
【0013】
リチウム-遷移金属酸化物粒子の平均粒径は、特に限定されず、例えば1~30μmでもよく、3~15μmでもよい。本明細書において、「平均粒径」とは、「個数平均粒径」のことである。この平均粒径は、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置等を用いて測定することができる。
【0014】
[オキセタン環を有するアクリル系重合体]
リチウム-遷移金属酸化物粒子に被覆するオキセタン環を有するアクリル系重合体としては、下記一般式(1)で表される共重合体(以下、「共重合体(1)」という。)が用いられる。
【化2】
式(1)において、mおよびnはそれぞれ独立に1以上の数を表す。R
1およびR
2はそれぞれ独立に水素原子またはメチル基を表す。R
3は炭素数1~5のアルキル基を表す。R
4は炭素数1~5のアルカンジイル基を表す。R
5は水素原子または炭素数1~5のアルキル基を表す。
【0015】
共重合体(1)は、(メタ)アクリル酸アルキルと、オキセタン環を持つ(メタ)アクリル酸エステルとの共重合体である。ここで、「(メタ)アクリル酸」とはアクリル酸および/またはメタクリル酸を意味する。式(1)において、「-co-」の左側に記載の構成単位が(メタ)アクリル酸アルキルに由来する。「-co-」の右側に記載の構成単位が、オキセタン環(4員環の環状エーテル構造)を持つ(メタ)アクリル酸エステルに由来する。「-co-」は、これら構成単位の配列様式が特定されないことを意味する。そのため、共重合体(1)は、ランダム共重合体でもよく、ブロック共重合体でもよい。
【0016】
R1およびR2はともにメチル基であることが好ましい。そのため、共重合体(1)は、メタクリル酸アルキルと、オキセタン環を持つメタクリル酸エステルとの共重合体であることが好ましい。
【0017】
R3は、上記のように炭素数1~5のアルキル基を表し、直鎖アルキル基でもよく、分岐アルキル基でもよい。R3は炭素数1~3のアルキル基であることが好ましく、より好ましくはメチル基である。
【0018】
R4は、上記のように炭素数1~5のアルカンジイル基(即ち、アルカンから水素原子を2つ取り除いた二価の基)を表し、直鎖でも分岐でもよい。R4は炭素数1~3のアルカンジイル基であることが好ましく、より好ましくはメチレン基である。
【0019】
R5は、上記のように水素原子または炭素数1~5のアルキル基を表し、アルキル基については直鎖でも分岐でもよい。R5は、水素原子または炭素数1~3のアルキル基であることが好ましい。より好ましくは、R5はメチル基またはエチル基である。
【0020】
一実施形態において、共重合体(1)は、下記式(2)で表されるメタクリル酸メチル(MMA)と(3-エチルオキセタン-3-イル)メチルメタクリレート(OXMA)との共重合体であることが好ましい。
【化3】
(式(2)中のmおよびnは、式(1)中のmおよびnと同じ。)
【0021】
共重合体(1)は、重量平均分子量(Mw)が20万~60万であり、好ましくは30万~55万であり、40万~50万でもよい。共重合体(1)の数平均分子量(Mn)は、特に限定されず、例えば5万~20万でもよく、8万~18万でもよく、10万~15万でもよい。
【0022】
式(1)中のnは、(メタ)アクリル酸アルキル由来の構成単位(以下、構成単位1という。)の数(重合度)を表し、1以上の数である。式(1)中のmは、オキセタン環を持つ(メタ)アクリル酸エステル由来の構成単位(以下、構成単位2という。)の数(重合度)を表し、1以上の数である。構成単位1の数nに対する構成単位2の数mの比m/nは、特に限定されないが、0.1~3.0であることが好ましく、より好ましくは0.1~1.0であり、さらに好ましくは0.1~0.5であり、さらには0.12~0.33でもよく、0.15~0.25でもよい。mおよびnは、重量平均分子量およびm/nが上記の範囲を満たせば、特に限定されず、例えばnは100~1600でもよく、500~1300でもよい。mは40~900でもよく、60~500でもよい。
【0023】
ここで、共重合体(1)の重量平均分子量Mwおよび数平均分子量Mnは、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によりポリスチレン換算で測定される。m/nは、1H-NMR測定により求められる構成単位2と構成単位1の含有モル比率(m/n)である。nおよびmは、共重合体(1)の数平均分子量Mnとm/nの比から算出される。そのため、nおよびmは平均値を表し、整数でない場合もある。
【0024】
共重合体(1)は、モノマー由来の構成単位としては実質的に構成単位1と構成単位2のみからなることが好ましいが、その効果を損なわない範囲で他のモノマー由来の構成単位を含んでもよい。特に限定するものではないが、モノマー由来の全構成単位100モル%に対して、構成単位1と構成単位2の合計含有量が90モル%以上であることが好ましく、より好ましくは95モル%以上であり、さらに好ましくは99モル%以上であり、100モル%でもよい。他のモノマー由来の構成単位としては、環境負荷の観点から、ニトリル基含有モノマーに由来する構成単位は含まないことが好ましい。
【0025】
共重合体(1)は、(メタ)アクリル酸アルキルとオキセタン環を持つ(メタ)アクリル酸エステルとをラジカル共重合することにより得ることができる。
【0026】
[被覆リチウム-遷移金属酸化物粒子]
被覆リチウム-遷移金属酸化物粒子において、リチウム-遷移金属酸化物粒子の粒子表面は共重合体(1)により被覆(コーティング)され、かつ該共重合体(1)がオキセタン環の開環により架橋されている。そのため、リチウム-遷移金属酸化物粒子の粒子表面には共重合体(1)の架橋体を含む被覆層が形成されており、該被覆層は粒子表面の一部または全体に設けられている。被覆層は粒子表面の全体を覆うように設けられることが好ましい。リチウム-遷移金属酸化物粒子の粒子表面が共重合体(1)の架橋体により被覆されていることにより、リチウムイオン電池の正極活物質として用いたときに、内部抵抗が低下し、これによりリチウムイオン電池の入出力特性が向上することができる。
【0027】
共重合体(1)は架橋により上記構成単位2中のオキセタン環が開環する。そのため、上記被覆層において、架橋体には、上記式(1)に示される構成単位2の構造をそのまま持つものは含まれていなくてもよい。あるいはまた、一部の構成単位2についてはオキセタン環が開環せずに残存していてもよい。
【0028】
被覆リチウム-遷移金属酸化物粒子において、共重合体(1)の量は0.7~5質量%であることが好ましい。すなわち、被覆リチウム-遷移金属酸化物粒子100質量%における共重合体(1)の含有量は0.7~5質量%であることが好ましい。共重合体(1)の量を上記範囲に設定することにより、入出力特性の向上効果を高めることができる。共重合体(1)の量は0.8~3質量%であることが好ましく、より好ましくは0.9~2質量%であり、さらに好ましくは0.9~1.5質量%である。
【0029】
被覆リチウム-遷移金属酸化物粒子の粒子表面に形成される被覆層は、共重合体(1)の架橋体のみで構成されてもよいが、その効果を損なわない範囲で他のポリマーや添加剤などが含まれてもよい。
【0030】
被覆リチウム-遷移金属酸化物粒子の平均粒径は、特に限定されず、例えば1~30μmでもよく、3~15μmでもよい。
【0031】
[被覆リチウム-遷移金属酸化物粒子の製造方法]
上記被覆リチウム-遷移金属酸化物粒子を製造する方法、すなわちリチウム-遷移金属酸化物粒子に共重合体(1)の架橋体を被覆(コーティング)する方法は特に限定されない。一実施形態において、被覆リチウム-遷移金属酸化物粒子の製造方法は、リチウム-遷移金属酸化物粒子と、共重合体(1)と、重合開始剤とを含む混合物を加熱する工程を含むことが好ましい。
【0032】
詳細には、未架橋の共重合体(1)が有機溶媒に溶解してなる重合体溶液と、リチウム-遷移金属酸化物粒子(詳細には当該粒子からなる粉体)と、重合開始剤とを混合してスラリーを調製する。得られたスラリーを減圧濾過することにより有機溶媒を除去する。減圧濾過後の混合物を加熱する。加熱により、重合開始剤の作用によって共重合体(1)のオキセタン環が開環し、共重合体(1)は架橋される。これにより、リチウム-遷移金属酸化物粒子の粒子表面に共重合体(1)の架橋体からなる被覆層が形成される。
【0033】
上記の加熱後に、得られた被覆リチウム-遷移金属酸化物粒子を有機溶媒で洗浄してもよい。例えば、上記の加熱後に被覆リチウム-遷移金属酸化物粒子を有機溶媒と混合して余った重合開始剤を洗い落とした後、減圧濾過して有機溶媒を除去し、さらに加熱乾燥してもよい。
【0034】
重合開始剤としては、カチオン重合開始剤を用いることができる。カチオン重合開始剤としては、熱によって酸(カチオン活性種)を発生させることができる開始剤を用いることができ、例えば、スルホニウム塩、ホスホニウム塩、4級アンモニウム塩、ジアゾニウム塩、ヨードニウム塩等が挙げられる。これらはいずれか1種用いてもよく、2種以上併用してもよい。これらの中でもスルホニウム塩を用いることが好ましい。
【0035】
スルホニウム塩としては、例えば、トリフェニルスルホニウムテトラフルオロボレート、トリフェニルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、トリフェニルスルホニウムヘキサフルオロアルセネート、ビス[4-(ジフェニルスルホニオ)フェニル]スルフィドビス(ヘキサフルオロホスフェート)、ビス[4-(ジフェニルスルホニオ)フェニル]スルフィドビス(ヘキサフルオロアンチモネート)、ジフェニル-4-(フェニルチオ)フェニルスルホニウムヘキサフルオロホスフェート、ジフェニル-4-(フェニルチオ)フェニルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネートなどの芳香族スルホニウム塩系カチオン重合開始剤が挙げられる。
【0036】
ホスホニウム塩としては、例えば、エチルトリフェニルホスホニウムヘキサフルオロアンチモネート、テトラブチルホスホニウムヘキサフルオロアンチモネート等が挙げられる。
【0037】
4級アンモニウム塩としては、例えば、N,N-ジメチル-N-ベンジルアニリニウムヘキサフルオロアンチモネート、N,N-ジエチル-N-ベンジルアニリニウムテトラフルオロボレート、N,N-ジメチル-N-ベンジルピリジニウムヘキサフルオロアンチモネート、N,N-ジエチル-N-ベンジルピリジニウムトリフルオロメタンスルホン酸、N,N-ジメチル-N-(4-メトキシベンジル)ピリジニウムヘキサフルオロアンチモネート、N,N-ジエチル-N-(4-メトキシベンジル)ピリジニウムヘキサフルオロアンチモネート等が挙げられる。
【0038】
ジアゾニウム塩としては、例えば、フェニルジアゾニウムヘキサフルオロホスフェート、フェニルジアゾニウムヘキサフルオロアンチモネート、フェニルジアゾニウムテトラフルオロボレート等の芳香族ジアゾニウム塩系カチオン重合開始剤が挙げられる。
【0039】
ヨードニウム塩としては、例えば、フェニルヨードニウムヘキサフルオロホスフェート、ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロアンチモネート、ジフェニルヨードニウムテトラフルオロボレート等の芳香族ヨードニウム塩系カチオン重合開始剤が挙げられる。
【0040】
重合開始剤の市販品としては、特に限定されないが、例えば、サンエイドSI-45L、SI-60L、SI-80L、SI-100L、SI-110L、SI-150L、SI-300(三新化学工業(株)製)等が挙げられる。
【0041】
重合開始剤の使用量については、上記混合物において、共重合体(1)と重合開始剤の合計100質量部に対して、重合開始剤の量が1~5質量部であることが好ましい。重合開始剤の量が1質量部以上であることにより、架橋密度を高めて入出力特性の向上効果を高めることができる。重合開始剤の量は、より好ましくは1.5~4質量部である。
【0042】
未架橋の共重合体(1)を溶解させる有機溶媒としては、特に限定されず、例えば、エチレンカーボネート(炭酸エチレン、EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)等の環状カーボネート類;ジエチルカーボネート(炭酸ジエチル、DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジプロピルカーボネート(DPC)等の鎖状カーボネート類;ギ酸メチル、酢酸メチル、プロピオン酸エチル等の脂肪族カルボン酸エステル類;γ-ブチロラクトン等のγ-ラクトン類;1,2-ジエトキシエタン(DEE)、エトキシメトキシエタン(EME)等の鎖状エーテル類;テトラヒドロフラン(THF)、2-メチルテトラヒドロフラン等の環状エーテル類;それらのフッ素誘導体;ジメチルスルホキシド(DMSO)、1,3-ジオキソラン、ジメチルホルムアミド(DMF)、アセトニトリル、プロピルニトリル、ニトロメタン、リン酸トリエステル、トリメトキシメタン、ジオキソラン誘導体、スルホラン、メチルスルホラン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、3-メチル-2-オキサゾリジノン、プロピレンカーボネート誘導体、テトラヒドロフラン誘導体、エチルエーテル、1,3-プロパンスルトン、アニソール、N-メチルピロリドン、フッ素化カルボン酸エステルなどの非プロトン性溶媒が挙げられる。これらの非プロトン性溶媒はいずれか1種用いても、2種以上併用してもよい。
【0043】
未架橋の共重合体(1)、リチウム-遷移金属酸化物粒子、重合開始剤および有機溶媒を含む上記スラリーにおいて、有機溶媒の量は、特に限定されず、例えば、スラリー100質量%に対して10~50質量%でもよく、20~40質量%でもよい。
【0044】
[リチウムイオン電池用正極活物質]
実施形態に係るリチウムイオン電池用正極活物質は、上記被覆リチウム-遷移金属酸化物粒子を含む。リチウムイオン電池用正極活物質は、被覆リチウム-遷移金属酸化物粒子を含む粉体であり、被覆リチウム-遷移金属酸化物粒子のみで構成されてもよいが、その効果が損なわれない範囲で他の粒子を含んでもよい。
【0045】
[リチウムイオン電池]
実施形態に係るリチウムイオン電池(より正確にはリチウムイオン二次電池)は、正極と、負極と、電解質とを備え、該正極が上記リチウムイオン電池用正極活物質(以下、単に正極活物質という。)を含む。正極と負極との間に配置されたセパレータを備えてもよい。
【0046】
正極は、少なくとも上記正極活物質を含むが、例として、アルミニウム箔等の金属からなる集電体の片面または両面に上記正極活物質を含有する正極合剤層が形成されたものであってもよい。
【0047】
正極合剤層は、集電体に、正極合剤含有ペーストを塗布・乾燥し、圧縮・成型することで形成することができる。正極合剤含有ペーストは、例として、上記正極活物質を、カーボンブラックや黒鉛等の導電助剤、及びポリフッ化ビニリデン(PVDF)等のバインダーとともに、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)等の分散媒中に分散混練することで得ることができる。
【0048】
負極、電解質およびセパレータについては、公知の構成を採用することができ、特に限定されない。
【0049】
実施形態に係るリチウムイオン電池は、円筒型、コイン型、角型、その他任意の形状に形成することができ、電池の基本構成は形状によらず同じであり、目的に応じて設計変更して実施することができる。例えば、円筒型では、負極集電体に負極活物質を塗布してなる負極と、正極集電体に正極活物質を塗布してなる正極とを、セパレータを介して捲回した捲回体を電池缶に収納し、非水電解液を注入し上下に絶縁板を載置した状態で密封して得られる。また、コイン型リチウム二次電池に適用する場合では、円盤状負極、セパレータ、円盤状正極、及びステンレスの板が積層された状態でコイン型電池缶に収納され、非水電解液が注入され、密封される。
【実施例0050】
以下、実施例によってさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0051】
[測定・評価方法]
(共重合体(1)のMw、Mn)
共重合体(1)をテトラヒドロフランに溶解し、ポリスチレン系ゲルを充填剤とした4本のカラム(Shodex GPCカラム KF-601、KF-602、KF-603、KF-604、昭和電工製)を連結したゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)(Prominence、島津製作所製)によりポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)および数平均分子量(Mn)を測定した。カラムオーブン温度40℃、THF流量0.6mL/min、試料濃度0.1質量%、試料注入量100μLとし、示差屈折率検出器(Shodex RI-504、昭和電工製)を用いた。
【0052】
(共重合体(1)のm/n)
共重合体(1)を重水素化クロロホルムに溶解し、核磁気共鳴装置(JEOL製)により1H-NMR測定を行って構成単位2と構成単位1の含有モル比率(m/n)を求めた。
【0053】
(共重合体(1)の含有量)
実施例および比較例の各正極活物質の粒子(被覆リチウム-遷移金属酸化物粒子)を、示差熱・熱重量同時測定装置を用いて、大気中、昇温速度10℃/分にて25℃以下から800℃まで昇温して、TG-DTA曲線を測定することにより、各正極活物質の粒子における共重合体(1)の含有量を求めた。
【0054】
(放電特性試験)
作製したリチウムイオン電池を0.5C電流値にてCC(Constant Current:定電流)充電した後、2Cまたは5C電流値にてCC放電を行ったときの放電容量保持率を算出した。充放電の電圧範囲は2.8V~4.3Vに設定した。放電容量保持率[%]は、下記容量確認試験で得られた0.2C放電容量に対する2Cまたは5C放電容量の比率(2Cまたは5C放電容量/0.2放電容量)である。
【0055】
容量確認試験は、リチウムイオン電池を0.2C電流値にてCC充電した後、0.2C電流値にてCC放電を実施することにより行い、0.2C放電容量を求めた。なお、0.2C電流値とは、セル容量を1時間で放電できる電流値1Cの0.2倍の電流値を示す。
【0056】
[合成例1(共重合体(1)の合成)]
十分に乾燥した3000mLのセパラブルフラスコに、メチルメタクリレート(MMA)165.0g、(3-エチル-3-オキセタニル)メチルメタクリレート(OXMA)55.2g、炭酸プロピレン880.8gを加え、70℃で窒素バブリングしながら90分間攪拌した後、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)(AIBN)0.364gを加えて反応を開始した。さらに反応3時間後および6時間後に、AIBN0.108gを加え、合計9時間加熱攪拌を続けた後、炭酸プロピレン365.9gで希釈した。この溶液をモレキュラーシーブで乾燥することにより上記式(2)で表される共重合体(1)を13質量%溶液として得た。
【0057】
得られた共重合体(1)は、MMAとOXMAとのランダム共重合体であり、重量平均分子量Mw=48万、数平均分子量Mn=13.2万、m/n=0.19であった。
【0058】
[実施例1]
リチウム-遷移金属酸化物粒子として、LiNi0.8Co0.1Mn0.1O2からなるリチウム含有ニッケルコバルトマンガン酸化物粒子からなる粉体(以下、NCM811粉体という。)を用いた。重合開始剤として、三新化学工業(株)製の「サンエイドSI-300」を用いた。
【0059】
ガラス瓶に、合成例1で得た共重合体(1)の13質量%プロピレンカーボネート溶液0.39gと、重合開始剤の0.26質量%プロピレンカーボネート溶液0.4gと、NCM811粉末5gと、プロピレンカーボネート1.25gを加え、400rpmで12分30秒間攪拌混合してスラリーを調製した。ここで、共重合体(1)と重合開始剤との質量比は98/2である。得られたスラリーを減圧濾過して溶媒を除去し、次いで、80℃で24時間加熱した。得られた粉体をプロピレンカーボネート3gに投入し混合することにより、過剰の重合開始剤を洗浄除去し、減圧濾過した。次いで、80℃で24時間乾燥することにより、実施例1の被覆リチウム-遷移金属酸化物粒子からなる正極活物質を得た。得られた正極活物質の粒子は、平均粒径が11μm、共重合体(1)の含有量が1質量%であった。
【0060】
[実施例2]
共重合体(1)の13質量%プロピレンカーボネート溶液の量を0.78gとし、重合開始剤の0.26質量%プロピレンカーボネート溶液の量を0.8gとし、NCM811粉末の量を5gとし、プロピレンカーボネートの量を0.8gとし、その他は実施例1と同様にして、実施例2の被覆リチウム-遷移金属酸化物粒子からなる正極活物質を得た。実施例2の正極活物質において、共重合体(1)の含有量は2質量%であった。
【0061】
[比較例1]
上記NCM811粉体をそのまま正極活物質として用いた。
【0062】
[比較例2]
重合開始剤の0.26質量%プロピレンカーボネート溶液を添加せず、その他は実施例1と同様にして、比較例2の正極活物質を得た。比較例2の正極活物質において、共重合体(1)の含有量は0質量%であった。
【0063】
[リチウムイオン電池の作製]
(正極の作製)
実施例および比較例の各正極活物質を用いて、正極活物質93質量部、導電剤としてアセチレンブラック(デンカ(株)製、Li-400)3質量部と、バインダーであるPVDF((株)クレハ製「KFポリマー」)を3質量部、分散媒としてN-メチル-2-ピロリドン67質量部とを、遊星式ミキサーで混合することにより、固形分60質量%の正極合剤含有ペーストを調製した。
【0064】
得られた正極合剤含有ペーストを、塗工機を用いて、集電体としてのアルミニウム箔(厚み15μm)上に塗布した後、130℃で8時間の真空乾燥後、ロールプレス処理を行うことにより正極を得た。
【0065】
(電池の組み立て)
上記で得られた正極を用い、セパレータとしてポリオレフィン系単層セパレータを挟み、対極をリチウム箔とした評価用のリチウムイオン電池を作製した。
【0066】
このリチウムイオン電池において、電解液として1M-LiPF6をEC/DMC(体積比3:7)に溶解したものを用いて、放電特性試験を行い、入出力特性として2C放電容量保持率および5C放電容量保持率を測定した。充放電試験は25℃で、電圧範囲は2.8V-4.3Vに設定した。
【0067】
【0068】
結果は表1に示すとおりである。比較例1はコントロールとして、NCM811粉体をそのまま正極活物質として用いた例である。比較例2では、NCM811粉体に対して共重合体(1)を処理したが、重合開始剤を添加していないため共重合体(1)が架橋しておらず、加熱処理後の洗浄により共重合体(1)が粒子表面から除去された。そのため、比較例1に対して入出力特性の向上効果は得られなかった。これに対し、粒子表面に共重合体(1)の架橋体からなる被覆層が形成された実施例1,2の正極活物質であると、比較例1に対し、5C放電容量保持率が向上しており、入出力特性が向上した。
【0069】
[実施例3]
リチウム-遷移金属酸化物粒子として、LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2からなるリチウム含有ニッケルコバルトマンガン酸化物粒子からなる粉体(以下、NCM111粉体という。)を用い、その他は実施例1と同様にして、実施例3の被覆リチウム-遷移金属酸化物粒子からなる正極活物質を得た。実施例3の正極活物質の粒子は、平均粒径が7μm、共重合体(1)の含有量が1質量%であった。正極活物質として実施例3の正極活物質を用い、その他は実施例1と同様にしてリチウムイオン電池を作製した。
【0070】
[比較例3]
上記NCM111粉体をそのまま正極活物質として用い、その他は実施例1と同様にしてリチウムイオン電池を作製した。
【0071】
得られた実施例3および比較例3のリチウムイオン電池について、放電特性試験を行い、入出力特性として2C放電容量保持率および5C放電容量保持率を測定した。
【0072】
【0073】
結果は表2に示すとおりである。コントロールである比較例3に対し、粒子表面に共重合体(1)の架橋体からなる被覆層が形成された実施例3の正極活物質であると、2C放電容量と5C放電容量保持率がともに向上しており、入出力特性が向上した。
【0074】
[実施例4]
正極活物質として実施例3の正極活物質を用い、また電解液として1M-LiPF6をEC/DEC(体積比3:7)に溶解したものを用いて、その他は実施例1と同様にしてリチウムイオン電池を作製した。
【0075】
[実施例5]
共重合体(1)の13質量%プロピレンカーボネート溶液の量を1.17gとし、重合開始剤の0.26質量%プロピレンカーボネート溶液の量を1.2gとし、NCM111粉末の量を5gとし、その他は実施例3と同様にして、実施例5の被覆リチウム-遷移金属酸化物粒子からなる正極活物質を得た。実施例5の正極活物質において、共重合体(1)の含有量は3質量%であった。正極活物質として実施例5の正極活物質を用い、その他は実施例4と同様にしてリチウムイオン電池を作製した。
【0076】
[比較例4]
上記NCM111粉体をそのまま正極活物質として用い、その他は実施例4と同様にしてリチウムイオン電池を作製した。
【0077】
得られた実施例4,5および比較例4のリチウムイオン電池について、放電特性試験を行い、入出力特性として2C放電容量保持率および5C放電容量保持率を測定した。
【0078】
【0079】
結果は表3に示すとおりである。コントロールである比較例4に対し、粒子表面に共重合体(1)の架橋体からなる被覆層が形成された実施例4,5の正極活物質であると、5C放電容量保持率が向上しており、入出力特性が向上した。
【0080】
なお、明細書に記載の種々の数値範囲は、それぞれそれらの上限値と下限値を任意に組み合わせることができ、それら全ての組み合わせが好ましい数値範囲として本明細書に記載されているものとする。また、「X~Y」との数値範囲の記載は、X以上Y以下を意味する。
【0081】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これら実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその省略、置き換え、変更などは、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。