(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024018705
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】杭の塑性率演算方法及び杭の塑性率演算プログラム
(51)【国際特許分類】
E02D 27/34 20060101AFI20240201BHJP
【FI】
E02D27/34 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022122207
(22)【出願日】2022-07-29
(71)【出願人】
【識別番号】515277300
【氏名又は名称】ジャパンパイル株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】597058664
【氏名又は名称】株式会社トーヨーアサノ
(74)【代理人】
【識別番号】100193286
【弁理士】
【氏名又は名称】圷 正夫
(72)【発明者】
【氏名】本間 裕介
(72)【発明者】
【氏名】田中 佑二郎
(72)【発明者】
【氏名】西村 裕
(72)【発明者】
【氏名】浅井 陽一
(72)【発明者】
【氏名】菅原 岳美
【テーマコード(参考)】
2D046
【Fターム(参考)】
2D046DA11
(57)【要約】
【課題】杭の塑性率を的確に演算可能な杭の塑性率演算方法及び杭の塑性率演算プログラムを提供する。
【解決手段】杭の塑性率演算方法は、杭頭降伏変形データ取得工程と、杭頭塑性域変形データを取得する杭頭塑性域変形データ取得工程と、杭頭塑性域曲げモーメントデータのうち少なくとも杭頭降伏曲げモーメントデータを取得する曲げモーメントデータ取得工程と、杭頭降伏水平変位量演算工程と、杭頭降伏変形角演算工程と、杭頭降伏又は杭頭塑性域曲げモーメントデータにおける曲げモーメント第1ゼロ点の深度を、杭頭塑性域変形時の杭の変形の基点深度に設定する基点深度設定工程と、杭頭塑性域変形データにおける杭頭での水平変位量と杭頭降伏又は杭頭塑性域変形データにおける基点深度での水平変位量の差を演算して杭頭塑性域水平変位量を求める杭頭塑性域水平変位量演算工程と、塑性率演算工程と、を備える。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
杭の杭頭が降伏に至る杭頭降伏水平力が前記杭の杭頭に作用する杭頭降伏変形時の前記杭の変形図に対応する杭頭降伏変形データを取得する杭頭降伏変形データ取得工程と、
前記杭頭降伏水平力よりも大きな杭頭塑性域水平力が前記杭の杭頭に作用する杭頭塑性域変形時の前記杭の変形図に対応する杭頭塑性域変形データを取得する杭頭塑性域変形データ取得工程と、
前記杭頭降伏変形時の前記杭の曲げモーメント図に対応する杭頭降伏曲げモーメントデータ及び前記杭頭塑性域変形時の前記杭のモーメント図に対応する杭頭塑性域曲げモーメントデータのうち少なくとも前記杭頭降伏曲げモーメントデータを取得する曲げモーメントデータ取得工程と、
前記杭頭降伏変形データにおける杭頭での水平変位量と前記杭頭降伏変形データにおける曲げモーメント第1ゼロ点での水平変位量の差を演算して杭頭降伏水平変位量を求める杭頭降伏水平変位量演算工程と、
前記杭頭降伏水平変位量を前記杭頭降伏変形データにおける曲げモーメント第1ゼロ点の深度で除して杭頭降伏変形角を求める杭頭降伏変形角演算工程と、
前記杭頭降伏曲げモーメントデータ又は前記杭頭塑性域曲げモーメントデータにおける曲げモーメント第1ゼロ点の深度を、前記杭頭塑性域変形時の前記杭の変形の基点深度に設定する基点深度設定工程と、
前記杭頭塑性域変形データにおける杭頭での水平変位量と前記杭頭降伏変形データ又は前記杭頭塑性域変形データにおける前記基点深度での水平変位量の差を演算して杭頭塑性域水平変位量を求める杭頭塑性域水平変位量演算工程と、
前記杭頭塑性域水平変位量を前記基点深度で除して杭頭塑性域変形角を求める杭頭塑性域変形角演算工程と、
前記杭頭塑性域変形角を前記杭頭降伏変形角で除して塑性率を求める塑性率演算工程と、
を備えることを特徴とする杭の塑性率演算方法。
【請求項2】
前記基点深度設定工程において、前記杭頭降伏曲げモーメントデータにおける曲げモーメント第1ゼロ点の深度を前記基点深度に設定し、
前記杭頭塑性域水平変位量演算工程において、前記杭頭塑性域水平変位量として、前記杭頭塑性域変形データにおける杭頭での水平変位量と前記杭頭降伏変形データにおける前記基点深度での水平変位量の差を演算する
ことを特徴とする請求項1に記載の杭の塑性率演算方法。
【請求項3】
前記基点深度設定工程において、前記杭頭降伏曲げモーメントデータにおける曲げモーメント第1ゼロ点の深度を前記基点深度に設定し、
前記杭頭塑性域水平変位量演算工程において、前記杭頭塑性域水平変位量として、前記杭頭塑性域変形データにおける杭頭での水平変位量と前記杭頭塑性域変形データにおける前記基点深度での水平変位量の差を演算する
ことを特徴とする請求項1に記載の杭の塑性率演算方法。
【請求項4】
前記基点深度設定工程において、前記杭頭塑性域曲げモーメントデータにおける曲げモーメント第1ゼロ点の深度を前記基点深度に設定し、
前記杭頭塑性域水平変位量演算工程において、前記杭頭塑性域水平変位量として、前記杭頭塑性域変形データにおける杭頭での水平変位量と前記杭頭塑性域変形データにおける前記基点深度での水平変位量の差を演算する
ことを特徴とする請求項1に記載の杭の塑性率演算方法。
【請求項5】
前記杭頭降伏変形データ、前記杭頭降伏曲げモーメントデータ、前記杭頭塑性域変形データ、及び前記杭頭塑性域曲げモーメントデータを取得する際に、多層地盤解析によってそれぞれ取得し、
前記多層地盤解析において、前記杭の杭頭の曲げモーメントが上限値に到達するまでは前記杭頭の回転を禁止し、前記杭頭の曲げモーメントが上限値に到達した後に前記杭頭の回転を許容する回転剛性を導入する
ことを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の杭の塑性率演算方法。
【請求項6】
請求項1に記載の杭の塑性率演算方法をコンピュータに実行させるように構成された杭の塑性率演算プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、杭の塑性率演算方法及び杭の塑性率演算プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、従来のSC杭(外殻鋼管付きコンクリート杭)の中空部に、円筒状補強部材として中空の内鋼管を配置したSC杭(以下、二重鋼管付きコンクリート杭と称する)を開示している。当該二重鋼管付きコンクリート杭によれば、外鋼管の座屈により外鋼管からのコンクリートの剥離、圧壊が発生したとしても、コンクリート片の中空部への移動が防止される。この結果として、二重鋼管付きコンクリート杭は、従来のSC杭に比べ、急激な耐力低下が抑制され、変形性能が優れているという特性を有している。
具体的には、正負交番載荷試験の結果、二重鋼管付きコンクリート杭においては、曲げモーメントが最大曲げモーメントの80%まで低下するときの変形角(限界変形角)を降伏変形角で除して得られる限界的な塑性率(限界塑性率)が6以上であることが確認されている。
【0003】
特許文献2は、二重鋼管付きコンクリート杭の変形性能を活かした基礎杭の設計を可能にするために、二重鋼管付きコンクリート杭の変形性能を適切に評価した復元力特性モデル(Mθモデル、MΦモデル)を提供している。該復元力特性モデルは、正負交番載荷試験結果に合うように理論的に求められるものであり、弾性剛性及び信頼強度時曲げモーメントによって規定されるバイリニア型モデルを原型としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016-223207号公報
【特許文献2】特開2020-200751号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献2の復元特性モデルを用いて多層地盤解析を行えば、任意の大きさの水平力が杭頭に作用したときの二重鋼管付きコンクリート杭の応答特性(水平変位及び曲げモーメントの深さ方向変化)を求めることができる。そして、杭頭の水平変位量を変化させながら応答特性を求め、二重鋼管付きコンクリート杭の変形が限界変形角又は限界塑性率に達するときの限界的な水平力(限界水平力)の大きさが分かれば、杭頭に作用する水平力が限界水平力以下となるように基礎杭を設計すればよい。
【0006】
ここで、多層地盤解析を行う場合、周囲の地盤とともに二重鋼管付きコンクリート杭を深さ方向にて複数の要素に分割し、各要素の水平変位や回転角等を求めるが、杭頭に位置する要素の回転角は、正負交番載荷試験の結果における変形角とは一致しない。このため、限界水平力を求めるには、二重鋼管付きコンクリート杭の応答特性(水平変位の深さ方向変化)から二重鋼管付きコンクリート杭の変形角や塑性率を如何にして求めるかが問題となる。
上述の事情に鑑みて、本発明の目的は、杭の塑性率を的確に演算可能な杭の塑性率演算方法及び杭の塑性率演算プログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明の少なくとも一実施形態に係る杭の塑性率演算方法は、
杭の杭頭が降伏に至る水平力(以下、杭頭降伏水平力ともいう)が前記杭の杭頭に作用する時(以下、降伏変形時ともいう)の前記杭の変形図に対応する杭頭降伏変形データを取得する杭頭降伏変形データ取得工程と、
前記杭頭降伏水平力よりも大きな水平力(以下、杭頭塑性域水平力ともいう)が前記杭の杭頭に作用して前記杭の杭頭が塑性域に入っている時(以下、杭頭塑性域変形時ともいう)の前記杭の変形図に対応する杭頭塑性域変形データを取得する杭頭塑性域変形データ取得工程と、
前記杭頭降伏変形時の前記杭の曲げモーメント図に対応する杭頭降伏曲げモーメントデータ及び前記杭頭塑性域変形時の前記杭の曲げモーメント図に対応する杭頭塑性域曲げモーメントデータのうち少なくとも前記杭頭降伏曲げモーメントデータを取得する曲げモーメントデータ取得工程と、
前記杭頭降伏変形データにおける杭頭での水平変位量と前記杭頭降伏変形データにおける曲げモーメント第1ゼロ点での水平変位量の差を演算して杭頭降伏水平変位量を求める杭頭降伏水平変位量演算工程と、
前記杭頭降伏水平変位量を前記杭頭降伏変形データにおける曲げモーメント第1ゼロ点の深度で除して杭頭降伏変形角を求める杭頭降伏変形角演算工程と、
前記杭頭降伏曲げモーメントデータ又は前記杭頭塑性域曲げモーメントデータにおける曲げモーメント第1ゼロ点の深度を、前記杭頭塑性域変形時の前記杭の変形の基点深度に設定する基点深度設定工程と、
前記杭頭塑性域変形データにおける杭頭での水平変位量と前記杭頭降伏変形データ又は前記杭頭塑性域変形データにおける前記基点深度での水平変位量の差を演算して杭頭塑性域水平変位量を求める杭頭塑性域水平変位量演算工程と、
前記杭頭塑性域水平変位量を前記基点深度で除して杭頭塑性域変形角を求める杭頭塑性域変形角演算工程と、
前記杭頭塑性域変形角を前記杭頭降伏変形角で除して塑性率を求める塑性率演算工程と、
を備える。
【0008】
上記構成(1)では、杭頭降伏変形角を求める際に杭頭降伏変形データにおける曲げモーメント第1ゼロ点の深度を用いている。曲げモーメントがゼロである深度を杭頭降伏変形時の深度の基点として選択することは、正負交番載荷試験における曲げモーメントの分布との整合性がよく合理的であり、これによって杭頭降伏変形角を的確に求めることができる。
そして、杭頭塑性域変形角を求める際に、基点深度として、杭頭降伏曲げモーメントデータ又は杭頭塑性域曲げモーメントデータにおける曲げモーメント第1ゼロ点の深度を用いることで、杭頭塑性域変形角を的確に求めることができる。これらの結果、上記構成によれば、杭の塑性率を的確に求めることができる。
【0009】
(2)幾つかの実施形態では、上記構成(1)において、
前記基点深度設定工程において、前記杭頭降伏曲げモーメントデータにおける曲げモーメント第1ゼロ点の深度を前記基点深度に設定し、
前記杭頭塑性域水平変位量設定工程において、前記杭頭塑性域水平変位量として、前記杭頭塑性域変形データにおける杭頭での水平変位量と前記杭頭降伏変形データにおける前記基点深度での水平変位量の差を演算する。
【0010】
上記構成(2)では、杭頭降伏曲げモーメントデータにおける曲げモーメント第1ゼロ点の深度を基点深度とした上で、杭頭降伏変形データにおける基点深度での水平変位量を杭頭塑性域変形時の水平変位の基点としている。杭頭塑性域水平変位量を求めるにあたっては、杭が降伏してからの変形が重要となる。この点、杭頭降伏変形データにおける基点深度での水平変位量を杭頭塑性域変形時の水平変位の基点とすれば、杭頭塑性域水平変位量を過小に見積もることがなく、高い安全性を確保しながら的確な杭頭塑性域水平変位量を求めることができる。この結果、上記構成(2)によれば、高い安全性を見込みながら杭の塑性率を的確に求めることができる。
【0011】
(3)幾つかの実施形態では、上記構成(1)において、
前記基点深度設定工程において、前記杭頭降伏曲げモーメントデータにおける曲げモーメント第1ゼロ点の深度を前記基点深度に設定し、
前記杭頭塑性域水平変位量演算工程において、前記杭頭塑性域水平変位量として、前記杭頭塑性域変形データにおける杭頭での水平変位量と前記杭頭塑性域変形データにおける前記基点深度での水平変位量の差を演算する。
【0012】
上記構成(3)では、杭頭降伏曲げモーメントデータにおける曲げモーメント第1ゼロ点の深度を基点深度とした上で、杭頭塑性域変形データにおける基点深度での水平変位量を杭頭塑性域変形時の水平変位の基点としている。このような基点深度を採用する場合、杭頭塑性域曲げモーメントデータの曲げモーメント第1ゼロ点の深度を基点として採用する場合よりも、水平変位の基点となる水平変位量が小さくなるので、杭頭塑性域水平変位量を過小に見積もることがない。このため、十分な安全性を確保しながら的確な杭頭塑性域水平変位量を求めることができ、十分な安全性を見込みながら杭の塑性率を的確に求めることができる。
【0013】
(4)幾つかの実施形態では、上記構成(1)において、
前記基点深度設定工程において、前記杭頭塑性域曲げモーメントデータにおける曲げモーメント第1ゼロ点の深度を前記基点深度に設定し、
前記杭頭塑性域水平変位量演算工程において、前記杭頭塑性域水平変位量として、前記杭頭塑性域変形データにおける杭頭での水平変位量と前記杭頭塑性域変形データにおける前記基点深度での水平変位量の差を演算する。
【0014】
上記構成(4)では、杭頭塑性域曲げモーメントデータにおける曲げモーメント第1ゼロ点の深度を基点深度とした上で、杭頭塑性域変形データにおける基点深度での水平変位量を杭頭塑性域変形時の水平変位の基点としている。杭頭塑性域水平変位量を求めるにあたっては、杭頭塑性域曲げモーメントデータにおける第1曲げモーメントゼロ点の深度を水平変位の基点とすることの合理性が高い。このため、上記構成(3)のような水平変位の基点を設定することの合理性は高く、上記構成(3)によれば杭の塑性率を的確に求めることができる。
【0015】
(5)幾つかの実施形態では、上記構成(1)乃至(4)の何れか1つにおいて、
前記杭頭降伏変形データ、前記杭頭降伏曲げモーメントデータ、前記杭頭塑性域変形データ、及び前記杭頭塑性域曲げモーメントデータを取得する際に、多層地盤解析によってそれぞれ取得し、
前記多層地盤解析において、前記杭の杭頭の曲げモーメントが上限値に到達するまでは前記杭頭の回転を禁止し、前記杭頭の曲げモーメントが上限値に到達した後に前記杭頭の回転を許容する回転剛性を導入する。
【0016】
上記構成(5)によれば、多層地盤解析において杭の杭頭の水平変位量が徐々に大きくなるのにつれて、杭の杭頭の要素の回転角が連続的に大きくなる正確な応答特性を求めることができる。
【0017】
(6)本発明の少なくとも一実施形態に係る杭の塑性率演算プログラムは、
上記構成(1)乃至(5)の何れか1つの杭の塑性率演算方法をコンピュータに実行させるように構成される。
上記構成(6)によれば、杭の塑性率を的確に求めることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、杭の塑性率を的確に演算可能な杭の塑性率演算方法及び杭の塑性率演算プログラムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の一実施形態に係る杭の塑性率演算方法の概略的な手順を示すフローチャートである。
【
図2】杭及び周囲の地盤のモデル化を説明するための概略図である。
【
図3】水平変位と水平地盤反力係数の関係を説明するための概略的なグラフである。
【
図4】杭の復元特性モデルとしてMΦ関係を説明するための概略的なグラフである。
【
図5】杭の応答特性として変形図、曲げモーメント図を示すとともに、正負交番載荷試験時の変位分布と曲げモーメント分布を説明するための概略図である。
【
図6】杭の杭頭降伏変形時及び杭頭塑性域変形時における変形図及び曲げモーメント図を概略的に示す図である。
【
図7】杭の限界塑性率を規定したバイリニア型モデルであり、(a)はMΦモデル、(b)はMθモデルである。
【
図8】従来の多層地盤解析における杭頭要素の回転角の不連続な増大を説明するための概略図である。
【
図9】一実施形態に用いられる回転ばねを概略的に説明するための図である。
【
図10】一実施形態に用いられる杭頭の回転剛性を説明するための概略的なグラフである。
【
図11】一実施形態の多層地盤解析による杭の応答特性解析方法の概略的な手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付図面を参照して本発明の幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置、数式、数式中の数値等は、本発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
例えば、四角形状や円筒形状等の形状を表す表現は、幾何学的に厳密な意味での四角形状や円筒形状等の形状を表すのみならず、同じ効果が得られる範囲で、凹凸部や面取り部等を含む形状も表すものとする。同様に、数式は、同じ効果が得られる範囲であれば表現が多少異なっていてもよく、数値についても、同じ効果が得られる範囲で幅を有していてもよいものとする。
【0021】
図1は、本発明の少なくとも一実施形態に係る杭の塑性率演算方法(以下、単に演算方法ともいう)の概略的な手順を示すフローチャートである。
演算方法は、杭頭降伏変形データ取得工程S1、杭頭塑性域変形データ取得工程S3、曲げモーメントデータ取得工程S5、杭頭降伏水平変位量演算工程S7、杭頭降伏変形角演算工程S9、基点深度設定工程S11、杭頭塑性域水平変位量演算工程S13、杭頭塑性域変形角演算工程S15、及び、塑性率演算工程S17を備える。
【0022】
杭頭降伏変形データ取得工程S1では、杭の杭頭が降伏に至る水平力(杭頭降伏水平力)が杭の杭頭に作用する時(杭頭降伏変形時)の杭の変形図に対応する杭頭降伏変形データを取得する。
杭頭降伏変形データは、
図2に示すように杭及び周囲の地盤をモデル化し、弾性支承梁理論に基づいて、以下の式(1)により求めることができる。
【0023】
【0024】
ここで、zは地表面からの深さ(単位:m)、yは深さzにおける杭の水平変位(単位:m)、EIは杭の曲げ剛性(kNm
2)、p(z)は深さzにおける単位長さあたりの水平地盤反力度(単位:kN/m
2)、Bは杭幅(単位:m)である。
水平地盤反力度p(z)は、各ばねが独立して作動するウインクラーばねを用いて、次式で評価される。
p(z)=khy ・・・(2)
ここで、khは水平地盤反力係数(単位面積あたりの地盤ばね値に相当)である(単位:kN/m
3)である(
図3参照)。
【0025】
実際には、杭頭降伏変形データを求めるために、多層地盤解析が行われる。多層地盤解析では、杭及び周囲の地盤を深さ方向にて複数の要素iに分割し、次式(3)に示すように剛性マトリクスを用いて杭の各要素iの応答(水平力Hi、曲げモーメントMi、回転角θi、水平変位yi)を求める。なお、各要素iの長さは、例えば30mm以上杭幅程度以下である。
【0026】
【0027】
式(3)を解くには変数を減らす必要があり、そのために適当な杭先端(杭下端)及び杭頭(杭上端)の境界条件を用意する。また、杭の非線形を考慮する場合には、杭モデルとして、曲げモーメントMと曲率φの関係M=EI×φ(Mφモデル)も準備する。
一般的に、杭頭接合構造は剛接合であることが多いと考えられる。本実施形態でも、杭頭接合構造は剛接合である場合について説明する。この場合、境界条件として杭頭の回転角を零とすることができる。
構造物の非線形を考慮した設計を行う際、塑性率を問題とする場合がある。構造物を構成する部材はある限界の変形にまで達すると壊れるため、この指標を塑性率で表し、限界変形量(変形角、曲率)を降伏変形量(変形角、曲率)で除した値(限界塑性率μθ、μΦ)が用いられる。
【0028】
非線形を考慮した設計を行う場合、上部構造の解析では、柱などのモデル化に曲げモーメントMと変形角θの関係M=Kθ(Mθモデル)が一般的に用いられる。ここでKは回転剛性(kNm/rad)である。一方、基礎杭の場合には、杭の他に周辺地盤もモデル化するため、式(1)~式(3)を用いた解析が必要となり、一般的にMφモデルが用いられる。各モデルは、
図4に示すようなバイリニア型であってもトリリニア型であってもよい。各モデルの曲げモーメントの上限値は、例えば特許文献2に記載の信頼強度時曲げモーメントrMu若しくは降伏曲げモーメントMyとなる。
【0029】
杭頭塑性域変形データ取得工程S3では、
図6(a)に示すように、杭頭降伏水平力よりも大きな水平力(杭頭塑性域水平力)が杭の杭頭に作用する時(杭頭塑性域変形時)の杭の変形図に対応する杭頭塑性域変形データyM1(z),yM2(z),yM3(z)を取得する。杭頭塑性域変形データyM1(z),yM2(z),yM3(z)は、杭頭降伏変形データyMy(z)の場合と同様、式(3)を解くことにより求めることができる。なお、本実施形態では、塑性率の演算方法として3つのパターンを説明するために、杭頭塑性域変形データとしてyM1(z),yM2(z),yM3(z)の3つを例示している。
【0030】
曲げモーメントデータ取得工程S5では、
図5(b)及び
図6(b)に示すように、杭頭降伏変形時の杭の曲げモーメント図に対応する杭頭降伏曲げモーメントデータMMy(z)及び杭頭塑性域変形時の杭の曲げモーメント図に対応する杭頭塑性域曲げモーメントデータMM1(z),MM2(z),MM3(z)のうち少なくとも杭頭降伏曲げモーメントデータMMy(z)を取得する。杭頭降伏曲げモーメントデータMMy(z)や杭頭塑性域曲げモーメントデータMM1(z),MM2(z),MM3(z)は、曲げモーメントの深さ方向での変化を表すものであり、式(3)を解くことにより求めることができる。本実施形態では、塑性率の演算方法として3つのパターンを説明するために、杭頭塑性域曲げモーメントデータとしてMM1(z),MM2(z),MM3(z)の3つを例示している。
【0031】
なお、
図5(c)には、正負交番載荷試験時の変位分布と曲げモーメント分布も示している。正負交番載荷試験時には、杭の一部がスラブに埋設され、スラブからの杭の突出長さが杭径Dの3倍に設定され、荷重が杭の突出端に印加される。このように杭の突出長さが設定されるのは、降伏時の杭の曲げモーメント第1ゼロ点の深度Lm1yが、概ね杭径Dの3倍となるからである。
【0032】
杭頭降伏水平変位量演算工程S7では、杭頭降伏変形データyMy(z)における杭頭での水平変位量δy1と杭頭降伏変形データにおける曲げモーメント第1ゼロ点の深度Lm1yでの水平変位量δy2の差を演算して杭頭降伏水平変位量Δyy(=δy1-δy2)を求める。
杭頭降伏変形角演算工程S9では、杭頭降伏水平変位量Δyyを杭頭降伏変形データにおける曲げモーメント第1ゼロ点の深度Lm1yで除して杭頭降伏変形角θy(=Δyy/Lm1y)を求める。
【0033】
基点深度設定工程S11では、杭頭降伏曲げモーメントデータMMy(z)又は杭頭塑性域曲げモーメントデータMM1(z),MM2(z),MM3(z)における曲げモーメント第1ゼロ点の深度Lm1y,Lm13を、杭頭塑性域変形時の杭の変形の基点深度に設定する。なお、本実施形態では、塑性率の演算方法として3つのパターンを説明するために、曲げモーメント第1ゼロ点の深度としてLm1y,Lm13を例示している。
【0034】
杭頭塑性域水平変位量演算工程S13では、杭頭塑性域変形データyM1(z),yM2(z),yM3(z)における杭頭での水平変位量δu1,δu2,δu4と杭頭降伏変形データyMy(z)又は杭頭塑性域変形データyM1(z),yM2(z),yM3(z)における基点深度Lm1y,Lm13での水平変位量δy2,δu3,δu5の差を演算して杭頭塑性域水平変位量Δy1,Δy2,Δy3を求める。なお、本実施形態では、塑性率の演算方法として3つのパターンを説明するために、杭頭塑性域水平変位量としてΔy1,Δy2,Δy3の3つを例示している。
【0035】
杭頭塑性域変形角演算工程S15では、杭頭塑性域水平変位量Δy1,Δy2,Δy3を基点深度Lm1y,Lm13で除して杭頭塑性域変形角θu1,θu2,θu3を求める。なお、本実施形態では、塑性率の演算方法として3つのパターンを説明するために、杭頭塑性域変形角としてθu1,θu2,θu3の3つを例示している。
塑性率演算工程S17では、杭頭塑性域変形角θu1,θu2,θu3を杭頭降伏変形角θyで除して塑性率を求める。
【0036】
上記構成では、杭頭降伏変形角θyを求める際に杭頭降伏変形データyMy(z)における曲げモーメント第1ゼロ点の深度Lm1yを用いている。曲げモーメントがゼロである深度を杭頭降伏変形時の深度の基点として選択することは、正負交番載荷試験における曲げモーメントの分布(
図5(c))との整合性がよく合理的であり、これによって杭頭降伏変形角θyを的確に求めることができる。
そして、杭頭塑性域変形角θu1,θu2,θu3を求める際に、基点深度として、杭頭降伏曲げモーメントデータMMy(z)又は杭頭塑性域曲げモーメントデータMM1(z),MM2(z),MM3(z)における曲げモーメント第1ゼロ点の深度Lm1y,Lm13を用いることで、杭頭塑性域変形角θu1,θu2,θu3を的確に求めることができる。これらの結果、上記構成によれば、杭の塑性率を的確に求めることができる。
【0037】
上記演算方法は、基礎杭の設計(上部構造を支持するための杭の数、配置、各杭の仕様の決定)に適用することができる。具体的には、上記演算方法によって求められた杭の塑性率が、使用する杭において保証されている仕様上の塑性率の上限値に収まるように、基礎杭が設計される。この場合、基礎杭の設計方法は、上記演算方法を実施する工程と、演算方法によって求められた杭の塑性率が杭の仕様上の塑性率以下であるか否かを判定する工程(チェック工程)を備えていることになる。
【0038】
上記実施形態では、塑性率の演算方法として3つのパターンを一括して説明したが、そのうち1つのパターン(第1パターン)では、基点深度設定工程S11において、杭頭降伏曲げモーメントデータMMy(z)における曲げモーメント第1ゼロ点の深度Lm1yを基点深度に設定し、杭頭塑性域水平変位量設定工程S13において、杭頭塑性域水平変位量として、杭頭塑性域変形データyM1(z)における杭頭での水平変位量δu1と杭頭降伏変形データyMy(z)における基点深度での水平変位量δy2の差Δy1を演算する。
【0039】
上記第1パターンでは、杭頭降伏曲げモーメントデータMMy(z)における曲げモーメント第1ゼロ点の深度Lm1yを基点深度とした上で、杭頭降伏変形データにおける基点深度での水平変位量δy2を杭頭塑性域変形時の水平変位の基点としている。杭頭塑性域水平変位量を求めるにあたっては、杭が降伏してからの変形が重要となる。この点、杭頭降伏変形データにおける基点深度での水平変位量δy2を杭頭塑性域変形時の水平変位の基点とすれば、杭頭塑性域水平変位量Δy1を過小に見積もることがなく、高い安全性を確保しながら的確な杭頭塑性域水平変位量Δy1を求めることができる。この結果、第1パターンによれば、高い安全性を見込みながら杭の塑性率を的確に求めることができる。
【0040】
次のパターン(第2パターン)では、基点深度設定工程S11において、杭頭降伏曲げモーメントデータMMy(z)における曲げモーメント第1ゼロ点の深度Lm1yを基点深度に設定し、杭頭塑性域水平変位量演算工程S13において、杭頭塑性域水平変位量として、杭頭塑性域変形データyM2(z)における杭頭での水平変位量δu2と杭頭塑性域変形データyM2(z)における基点深度での水平変位量δu3の差δy2を演算する。
【0041】
上記第2パターンでは、杭頭降伏曲げモーメントデータMMy(z)における曲げモーメント第1ゼロ点の深度Lm1yを基点深度とした上で、杭頭塑性域変形データyM2(z)における基点深度での水平変位量δu3を杭頭塑性域変形時の水平変位の基点としている。深度Lm1yを基点深度として採用する場合、杭頭塑性域曲げモーメントデータMM2(z)の曲げモーメント第1ゼロ点の深度を基点として採用する場合よりも、水平変位の基点となる水平変位量δu3が小さくなるので、杭頭塑性域水平変位量Δy2を過小に見積もることがない。このため、十分な安全性を確保しながら的確な杭頭塑性域水平変位量Δy2を求めることができ、十分な安全性を見込みながら杭の塑性率を的確に求めることができる。
【0042】
さらに次のパターン(第3パターン)では、基点深度設定工程S11において、杭頭塑性域曲げモーメントデータMM3(z)における曲げモーメント第1ゼロ点の深度Lm13を基点深度に設定し、杭頭塑性域水平変位量演算工程S13において、杭頭塑性域水平変位量として、杭頭塑性域変形データyM3(z)における杭頭での水平変位量δu4と杭頭塑性域変形データyM3(z)における基点深度での水平変位量δu5の差を演算する。
【0043】
上記第3パターンでは、杭頭塑性域曲げモーメントデータMM3(z)における曲げモーメント第1ゼロ点の深度Lm13を基点深度とした上で、杭頭塑性域変形データにおける基点深度での水平変位量δu5を杭頭塑性域変形時の水平変位の基点としている。杭頭塑性域水平変位量Δy3を求めるにあたっては、杭頭塑性域曲げモーメントデータMM3(z)における第1曲げモーメントゼロ点の深度を水平変位の基点とすることの合理性が高い。このため、パターン3のように水平変位量δu5を水平変位の基点とすることの合理性は高く、パターン3によれば杭の塑性率を的確に求めることができる。
【0044】
一方、上記第3パターンでは、杭頭塑性域曲げモーメントデータMM3(z)における曲げモーメント第1ゼロ点の深度Lm13が水平変位の基点に設定されるが、曲げモーメント第1ゼロ点の深度Lm13は、杭頭の水平変位量が変化するのに伴い変化する。このため、塑性率を求める際、深度Lm13の変化を監視した上で、深度Lm13及び杭頭での水平変位量を監視する必要がある。これに対し、第1パターン及び第2パターンでは、杭頭降伏曲げモーメントデータにおける曲げモーメント第1ゼロ点の深度Lm1yが水平変位の基点に設定されるが、深度Lm1yは固定値である。このため、塑性率を求める際、深度Lm1yの変化を監視する必要がなく、深度Lm1y及び杭頭での水平変位量を監視しておけばよい。このため、第1パターン及び第2パターンによれば、第3パターンに比べ、塑性率を容易に求めることができる。
【0045】
なお、
図6(a)に示した杭頭塑性域変形データyM1(z),yM2(z),yM3(z)は、それぞれ、上記第1~第3パターンの演算方法で塑性率が6となるときのものである。第1~第3パターンの演算方法は相違するため、同じ塑性率に対応する杭頭塑性域変形データyM1(z),yM2(z),yM3(z)は相違している。逆にいえば、杭の変形が同じであったとしても、第1~第3パターンの演算方法で求められる塑性率は相違する。例えば、
図6中の杭頭塑性域変形データyM1(z)について、第1パターンで塑性率を求めると6になるが、第2パターンで塑性率を求めると6よりも小さくなる。
【0046】
上記した演算方法では、杭頭降伏水平変位量を求める際に杭頭降伏変形データにおける曲げモーメント第1ゼロ点での深度Lm1yでの水平変位量を用い、杭頭塑性域水平変位量を求める際に杭頭降伏曲げモーメントデータMMy(z)又は杭頭塑性域曲げモーメントデータMM3(z)における第1曲げモーメントゼロ点の深度Lm1y,Lm13を基点深度として用いたが、杭が継ぎ杭であって杭頭の杭が短く、杭頭の杭の下端の深度が第1曲げモーメントゼロ点の深度Lm1y,Lm13よりも浅くなる場合(例えば杭の長さが3D未満の場合)がある。このような場合、上記第1~第3パターンの演算方法において、第1曲げモーメントゼロ点の深度Lm1y,Lm13に代えて、杭頭の杭の下端の深度を用いてもよい。すなわち、第1パターン及び第2パターンにおいては、杭の下端深度が深度Lm1yよりも浅ければ、杭頭降伏水平変位量を求める際及び杭頭塑性域水平変位量を求める際に杭の下端深度を用い、第3パターンにおいて杭の下端深度が深度Lm1yよりも浅く深度Lm13よりも深ければ、杭頭降伏水平変位量を求める際に杭の下端深度を用い、第3パターンにおいて杭の下端深度が深度Lm1y,Lm13よりも浅ければ、杭頭降伏水平変位量を求める際及び杭頭塑性域水平変位量を求める際に杭の下端深度を用いてもよい。
なお、基礎杭の設計という観点からは、杭頭降伏曲げモーメントデータMMy(z)における曲げモーメント第1ゼロ点の深度Lm1yまでは杭の靱性が高い方が好ましい。このため、継ぎ杭の場合、杭頭の杭の長さは杭径Dの3倍以上に設定されるのが好ましい。
【0047】
ここで、杭の塑性率を問題とする解析時に、杭の限界塑性率μΦを規定したバイリニア型のMφモデル(
図7(a)参照。曲率の上限がμΦ×Φyに対応。)を用いて従来の多層地盤解析を行い、演算方法により求められた塑性率が限界塑性率以下であるか否かを判定することもできる。この場合、杭頭の水平変位を徐々に増大させていくと、
図8に示すように、杭頭の要素が降伏した後、曲率φがスリップするように急激に大きくなる現象が生じる。この現象により杭頭の要素のみが所定の塑性率に達し破壊が生じると判定されてしまう。このような場合であっても、上記演算方法によれば塑性率の判定を的確に行うこともできるが、杭の応答特性を正確に求めるという観点からは、杭頭の要素の曲率だけが突出してしまうのは、実現象(正負交番載荷試験時の現象)と合わず好ましくない。これは要素iの長さ(要素長)に関係し、曲率φに要素長を乗じると要素iの変形角θを表現するため、同じ変形角θを考える場合、要素長が小さければ、曲率が大きく、また、要素長が大きければ、曲率は小さいという関係となる。つまり、要素長が大きければ、急激に曲率が増加する現象は発生しづらくなる。しかしながら、要素長は地盤ばねの分割などにも依存するため、杭頭の要素の要素長を大きくするのは現実的ではなく、一般的に30mm~杭幅程度に設定されることが多い。細かく要素を分割する多層地盤解析においては、各要素の曲率によって塑性率の判定を行うのは望ましくない。
【0048】
一方、多層地盤解析を行う際、
図7(b)のように上部構造で用いられるバイリニア型のMθモデルに限界塑性率μθを規定したモデル(変形角の上限がμθ×θyに対応。)を杭頭の境界条件に用いる方法もある。しかしながら、杭頭接合が剛接合の構造となる場合に、境界条件として初期回転剛性を考慮したMθモデルを用いることは不合理である。そこで、杭頭(杭上端)の曲げモーメントがバイリニア型モデルの上限値(例えば信頼強度時曲げモーメントrMu若しくは降伏曲げモーメントMy)に到達するまでは杭頭の回転を禁止しておき、上限値に到達した後は、
図9に示すように杭頭の回転を許容する回転ばねを仮定して
図10に示すような杭頭の回転剛性Ko、Ko’、Ko”を考慮することが考えられる。
図10に示すように、杭頭の曲げモーメントが上限値に到達するまで回転剛性Koは無限大であって杭頭の回転は禁止され、杭頭の曲げモーメントが上限値に到達後は、杭頭の曲げモーメントが上限値で一定になるように回転剛性Ko’、Ko”に応じて杭頭の回転が許容されるが、上限値に到達した際の変形角が規定できないため、限界塑性率以下であるか否かを判定することができない。しかしながら、工程S1~S17の演算方法を実施することで、求められた杭の塑性率が杭の仕様上の限界塑性率以下であるか否かの判定が可能となる。
【0049】
このように杭頭の回転剛性Ko、Ko’、Ko”を考慮すれば、境界条件として、杭頭の曲げモーメントがrMuであるときに、杭頭の回転角θo=rMu/Ko’の関係が成り立ち、式(3)を解くことができる。
このようにして式(3)を解き、工程S1~S17の演算方法を実施すれば、限界塑性率を規定したMφモデルを用いた場合に起きた実現象にそぐわない塑性率の判定を招かず、実現象にそった塑性率の判定が可能である。また、従来通り、Mφモデルを用いて杭の非線形性も考慮することが可能である。
なお、杭頭接合構造が半剛接合の場合、杭頭接合の回転剛性を考慮することは従来から行われているが、杭頭接合が剛接合である場合に、杭頭の回転剛性を考慮することは従来行われていない。
【0050】
回転剛性kKo’,Ko’’の大きさは、最初に適当な初期値を与えて式(3)を解き、得られた杭頭の水平力が上部構造、基礎構造及び想定震度に基づいて定まる所定の水平力を基準として所定の範囲内に収まるように、回転剛性Ko’,Ko’’の値を変化させる収斂法によって決定することができる。また、回転剛性の値を変化させる収斂法を用いず、曲げモーメントと回転角の関係から、直接、回転剛性の変化を考慮した回転角の関数として曲げモーメント(M=f(θ))を評価してもよい。
【0051】
図11は、杭頭の水平変位量y0を徐々に増大させながら、杭頭の曲げモーメントM0が上限値Myに到達以降、該上限値Myで一定になるように回転剛性を考慮に入れた多層構造解析方法による杭の応答値(水平変位量及び曲げモーメントの深さ方向での変化)の演算方法(以下、応答特性解析方法ともいう)の手順を概略的に示すフローチャートである。
応答特性解析方法は、初期条件設定工程S20、杭頭水平変位量設定工程S22、第1応答値演算工程S24、杭頭曲げモーメント判定工程S26、杭頭水平力判定工程S28、ステップ数増加工程S30及び第2応答値演算工程S32を備えている。
【0052】
初期条件設定工程S20では、杭の仕様、杭に作用する軸力、杭の分割数i、目標とする杭頭水平力Qt、杭先端境界条件、杭頭境界条件、杭の降伏曲げモーメントMy、ステップ量Δyを適当に設定し、ステップ数nを1に設定する。なお、目標とする杭頭水平力Qtは、上部構造並びに杭の配置及び数によって決定される。杭先端境界条件としては、杭先端がピンであるとして、杭先端の曲げモーメントMp及び水平変位量ypが0に設定される。杭頭先端条件としては、杭頭が剛接合であるとして、杭頭の変形角θ0が0に設定される。
【0053】
杭頭水平変位量設定工程S22では、ステップ量Δyにステップ数nを乗じて、杭頭の水平変位量y0を演算する。
第1応答値演算工程S24では、以下の式(4)を用いて杭の応答値を演算する。なお、式(4)において、H0,M0,θ0,y0は、それぞれ杭頭における水平力、曲げモーメント、変形角、水平変位量であり、Hp,Mp,θp,ypは、それぞれ杭先端における水平力、曲げモーメント、変形角、水平変位量である。
【0054】
【0055】
杭頭曲げモーメント判定工程S26では、第1応答値演算工程S24で求められた杭頭曲げモーメントM0が杭頭曲げモーメントの上限値(降伏曲げモーメントMy若しくは信頼強度時曲げモーメントrMu)未満であるか否かを判定する。判定結果が肯定的なものである場合(M0<MMy(z))、杭頭水平力判定工程S28が実行される。杭頭水平力判定工程S28では、第1応答値演算工程S24で求められた杭頭水平力H0が、目標杭頭水平力Qtにほぼ等しいか若しくは以上であるか否か判定する。判定結果が否定的なものである場合(H0≠Qt又はH0<Qt)、ステップ数増加工程S30でステップ数nを増やし、水平変位量設定工程S22に戻る。
【0056】
上記工程S22~S30を繰り返し、杭頭曲げモーメント判定工程S26での判定結果が否定的なものとなった場合(M0≧My)、第2応答値演算工程S32を実行する。第2応答値演算工程S32では、以下の式(5)を用いて杭の応答値を演算する。第2応答値演算工程S32を実行した場合、杭の応答値として、式(4)ではなく式(5)を用いて求められたものが採用される。
第2応答値演算工程S32の実行後、杭頭水平力判定工程S28が実行され、判定結果が肯定的なものになるまで(H0≒Qt又はH0≧Qt)、工程S22~S32が繰り返される。
なお、杭頭曲げモーメント判定工程S26での判定結果が一度否定的なものとなった後は、第1応答値演算工程S24及び杭頭曲げモーメント判定工程S26を省略してもよい。
【0057】
【0058】
以下、本発明の他の実施形態について説明する。本発明の他の実施形態によれば、上記演算方法をコンピュータに実行させるように構成されたプログラムが提供される。プログラムは、杭の仕様や境界条件等の必要な情報が入力されると多層地盤解析を実行して塑性率を演算するように構成されている。
【0059】
最後に、本発明は上述した実施形態に限定されることはなく、上述した実施形態に変形を加えた形態を含む。
例えば、上述した演算方法は、二重鋼管付きコンクリート杭のように高い塑性率(例えば6以上)を有する既製杭に適しているが、通常のコンクリート杭等の既製杭に適用してもよい。更に、上述した演算方法は、既製杭のみならず、場所打ち杭にも適用可能であり、杭全般に適用可能である。
【符号の説明】
【0060】
MMy(z) 杭頭降伏曲げモーメントデータ(曲げモーメント図)
yMy(z) 杭頭降伏変形データ(変形図)
MM1(Z),MM2(z),MM3(z) 杭頭塑性域曲げモーメントデータ(モーメント図)
yM1(z),yM2(z),yM3(z) 杭頭塑性域変形データ(変形図)
δy1,δy2,δu1,δu2,δu3,δu4,δu5 水平変位量
Δyy 杭頭降伏水平変位量
Δy1,Δy2,Δy3 杭頭塑性域水平変位量
θy 杭頭降伏変形角
θu1,θu2,θu3 杭頭塑性域変形角
My 降伏曲げモーメント
μθ、μΦ 限界塑性率