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特開2024-18739副木並びにその製造方法及びその使用方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024018739
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】副木並びにその製造方法及びその使用方法
(51)【国際特許分類】
   A61F 5/04 20060101AFI20240201BHJP
   D04H 3/147 20120101ALI20240201BHJP
   D04H 3/105 20120101ALI20240201BHJP
【FI】
A61F5/04
D04H3/147
D04H3/105
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022122268
(22)【出願日】2022-07-29
(71)【出願人】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089152
【弁理士】
【氏名又は名称】奥村 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】赤尾 昌哉
(72)【発明者】
【氏名】永塚 裕介
【テーマコード(参考)】
4C098
4L047
【Fターム(参考)】
4C098BC43
4C098BC48
4C098DD23
4L047AA21
4L047AA27
4L047BA09
4L047BB06
4L047BB09
4L047CB08
4L047CC03
(57)【要約】
【課題】 通気孔を穿たなくても、良好な通気性を持つ副木及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 この副木は、以下の方法により得られる。芯鞘型複合繊維を集積して繊維ウェブを形成する。芯鞘型複合繊維の芯成分は、エチレングリコールとテレフタル酸からなる共重合体よりなる。鞘成分は、エチレングリコールとアジピン酸とテレフタル酸とイソフタル酸及びジエチレングリコールからなる共重合体よりなる。繊維ウェブにニードルパンチを施すことにより、芯鞘型複合繊維相互間を三次元的に交絡させてニードルパンチウェブを得る。このニードルパンチウェブを厚み方向に加圧しながら加熱する。この際、鞘成分が溶融し芯鞘型複合繊維相互間が融着され平板状に成型される。その後、冷却することにより、繊維板が得られる。この繊維板を楕円形に打ち抜き成形して副木を得る。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯成分がエチレングリコールとテレフタル酸からなる共重合体よりなり、鞘成分がエチレングリコールとアジピン酸とテレフタル酸とイソフタル酸及び/又はジエチレングリコールからなる共重合体よりなる芯鞘型複合繊維が集積されてなる高剛性の繊維板よりなる副木であって、
前記芯成分は繊維形態を維持している一方、前記鞘成分は溶融固化して、前記芯成分相互間を融着していることを特徴とする副木。
【請求項2】
芯成分がエチレングリコールとテレフタル酸からなる共重合体よりなり、鞘成分がエチレングリコールとアジピン酸とテレフタル酸とイソフタル酸及び/又はジエチレングリコールからなる共重合体よりなる芯鞘型複合繊維を集積して繊維ウェブを形成した後、該繊維ウェブを厚み方向に圧縮すると共に加熱して、該鞘成分を溶融させ該芯鞘型複合繊維相互間を融着させて、高剛性の繊維板を得た後、該繊維板を所定形状に成形することを特徴とする副木の製造方法。
【請求項3】
繊維ウェブにニードルパンチを施して、芯鞘型複合繊維相互間を三次元的に交絡させた後に、厚み方向に圧縮すると共に加熱する請求項2記載の副木の製造方法。
【請求項4】
請求項1記載の副木に熱を与えて、身体の形状に沿うように変形させることを特徴とする副木の使用方法。
【請求項5】
請求項1記載の副木同士又は請求項1記載の副木と他の基材とを縫製することを特徴とする副木の使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨折や捻挫等の予防又は治癒に用いられる副木並びにその製造方法及びその使用方法に関し、特に通気性及び取扱性に優れた副木並びにその製造方法及びその使用方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、骨折や捻挫等の予防又は治癒に用いられる副木としては、アルミニウム板等の金属板やプラスチック板が用いられている(特許文献1)。しかしながら、金属板やプラスチック板は通気性がなく、身体に副木を適用すると、皮膚にかぶれ、かゆみ又は赤みが生じるという問題点があった。このため、特許文献1記載の技術では、プラスチック板に通気孔を穿つことが提案されているが、通気孔を穿つとプラスチック板の強度が低下し、副木としての機能が低下するという欠点があった。
【0003】
【特許文献1】実開昭60-141811号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、通気孔を穿たなくても、通気性の良好な副木を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、特定の構成繊維を集積してなる繊維板を副木とすることにより、上記課題を解決したものである。すなわち、本発明は、芯成分がエチレングリコールとテレフタル酸からなる共重合体(以下、「高融点ポリエステル」という。)よりなり、鞘成分がエチレングリコールとアジピン酸とテレフタル酸とイソフタル酸及び/又はジエチレングリコールからなる共重合体(以下、「低融点共重合ポリエステル」という。)よりなる芯鞘型複合繊維が集積されてなる高剛性の繊維板よりなる副木であって、前記芯成分は繊維形態を維持している一方、前記鞘成分は溶融固化して、前記芯成分相互間を融着していることを特徴とする副木並びにその製造方法及びその使用方法に関するものである。
【0006】
本発明に係る副木は、芯鞘型複合繊維が集積されてなる高剛性の繊維板よりなる。芯鞘型複合繊維は、芯成分が高融点ポリエステルよりなり、鞘成分は低融点共重合ポリエステルよりなる。そして、芯成分が繊維形態を維持している一方で、鞘成分は溶融固化して芯成分相互間を融着している。この融着によって、高剛性の繊維板となる。芯鞘型複合繊維は、短繊維であっても長繊維であってもよいが、長繊維を用いた方がより高剛性の繊維板となるので好ましい。
【0007】
本発明に係る副木の製造方法は、以下のとおりである。まず、特定の芯鞘型複合繊維を構成繊維とする繊維ウェブを得る。ここで、特定の芯鞘型複合繊維とは、芯成分が高融点ポリエステルよりなり、鞘成分が低融点共重合ポリエステルよりなるものである。芯成分を構成する高融点ポリエステルは、エチレングリコールをジオール成分とし、テレフタル酸をジカルボン酸成分として脱水縮合して得られる。なお、ジカルボン酸成分として、ごく少量のイソフタル酸等の他のジカルボン酸成分が混合されていてもよい。芯成分を構成する高融点ポリエステルの融点は約260℃であり、ガラス転移点は約70~80℃である。鞘成分を構成する低融点共重合ポリエステルは、エチレングリコールと必要によりジエチレングリコールをジオール成分とし、アジピン酸とテレフタル酸と必要によりイソフタル酸をジカルボン酸成分として脱水縮合して得られる。なお、ジエチレングリコールとイソフタル酸は、少なくともいずれか一方を用いる必要があり、好ましくは両者を用いる。ジエチレングリコール及び/又はイソフタル酸を混合するのは、得られる繊維相互間の融着性を向上させるためである。ジオール成分中にジエチレングリコールを混合する場合、一般にエチレングリコール:ジエチレングリコール=10:0.05~0.5(モル比)程度である。ジカルボン酸成分であるアジピン酸とテレフタル酸の混合割合は任意であるが、アジピン酸:テレフタル酸=1:1~10(モル比)程度である。また、ジカルボン酸成分中にイソフタル酸を混合する場合、一般にイソフタル酸:アジピン酸:テレフタル酸=0.04~0.6:1:1~10(モル比)程度である。鞘成分を構成する低融点共重合ポリエステルの融点及びガラス転移点は任意であるが、鞘成分同士の融着性や繊維ウェブの圧縮性等を考慮して、融点は約200℃が好適であり、ガラス転移点は約40~50℃が好適である。
【0008】
芯成分と鞘成分の重量割合は、芯成分:鞘成分=0.3~5:1(重量比)程度である。芯成分の重量割合が低すぎると、繊維板の機械的強度が低下する傾向となる。また、芯成分の重量割合が高すぎると、加熱時に鞘成分同士が融着の程度が低くなり、高剛性の繊維板を得にくくなる。芯成分と鞘成分は、同心に配置されていてもよいし、偏心して配置されていてもよい。しかしながら、偏心に配置されていると、加熱時に、収縮が生じやすくなるため、同心に配置されている方が好ましい。
【0009】
芯鞘型複合繊維は、芯成分となる高融点ポリエステルと、鞘成分となる低融点共重合ポリエステルとを、複合紡糸孔を持つ紡糸装置に供給して、溶融紡糸するという公知の方法で得ることができる。芯鞘型複合繊維は、芯鞘型複合長繊維であっても芯鞘型複合短繊維であってもよいが、芯鞘型複合長繊維を用いた方が、機械的強度の高い繊維板が得られる。芯鞘型複合長繊維を用いて繊維ウェブを得るには、いわゆるスパンボンド法を用いるのが一般的である。すなわち、溶融紡糸して得られた芯鞘型複合長繊維を、直ちにシート状に集積して、繊維ウェブを得る。また、芯鞘型複合短繊維を用いて繊維ウェブを得るには、芯鞘型複合短繊維をカード機に通して開繊し、シート状に集積すればよい。繊維ウェブの重量は、少なくとも300g/m2以上であり、600g/m2以上であるのが好ましい。繊維ウェブの重量が低すぎると、厚みが薄くなりすぎて、副木の剛性が低下する。また、繊維ウェブの重量に上限はないが、一般に6000g/m2程度以上である。
【0010】
得られた繊維ウェブは、そのまま厚み方向に圧縮すると共に加熱してもよいし、芯鞘型複合繊維相互間を仮接着させた後に、厚み方向に圧縮すると共に加熱してもよい。また、ニードルパンチを施した後の繊維ウェブ(ニードルパンチウェブ)に、厚み方向に圧縮すると共に加熱してもよい。ニードルパンチを施す場合、芯鞘型複合繊維相互間が仮接着されていない状態でニードルパンチを施してもよいし、仮接着された状態でニードルパンチを施してもよい。前者の方法であれば、繊維相互間が仮接着されていないため、ニードルパンチを施した際の繊維へのダメージが少なく、糸切れ等による機械的強度の低下が起こりにくいため好ましい。また、後者の方法であれば、繊維相互間が仮接着された状態の繊維ウェブであるため、取扱いしやすく、搬送しやすい。ニードルパンチは周知の方法で行われ、これによって、芯鞘型複合繊維相互間が三次元的に交絡され、芯鞘型複合繊維が厚み方向に配列した緻密なニードルパンチウェブが得られる。なお、芯鞘型複合繊維相互間が仮接着されていた場合であっても、ニードルパンチによってこの仮接着は破壊され、芯鞘型複合繊維相互間が三次元的に交絡される。パンチ密度は、10本~200本/cm2程度である。
【0011】
繊維ウェブを厚み方向に圧縮すると共に加熱する方法は、従来公知の任意の方法を採用することができる。代表的には、以下の二つの方法が挙げられる。すなわち、予め加熱された繊維ウェブを、常温の金属製板に挟んで、厚み方向に圧縮する方法と、常温の繊維ウェブを、加熱された金属製板に挟んで厚み方向に圧縮する方法である。加熱条件及び厚み方向に圧縮する加圧条件は、芯鞘型複合繊維の鞘成分が溶融し、芯鞘型複合繊維相互間が融着する条件で行えばよい。具体的には、加熱温度は100℃~200℃程度であり、加圧条件は面圧で1~500kg/cm2 程度である。また、加熱及び加圧時間は、10~150秒程度である。かかる条件で、厚み方向に圧縮すると共に加熱し、鞘成分を溶融させ、芯鞘型複合繊維相互間を融着させて平板状に成型する。その後、放冷等により冷却して繊維板を得る。なお、平板状というのは、全体が完全に平板になっていなくてもよく、大略が平板になっており、その他の部位が湾曲又は折曲していてもよい。また、この繊維板に加熱及び加圧を施して、三次元形状に成形してもよい。
【0012】
本発明に係る方法で得られる繊維板は、芯鞘型複合繊維の鞘成分の融着により、繊維形態を維持している芯成分相互間が強固に接合されてなるものである。鞘成分による芯成分相互間の強固な融着によって、副木として使用しうる高い剛性を有するのである。また、溶融固化した鞘成分と芯成分間及び芯成分相互間には空隙が存在するため、良好な通気性を有する。かかる繊維板の嵩密度は、0.3~0.9g/m3程度がよい。なお、繊維板の厚さは任意であるが、1~6mm程度であるのが好ましい。
【0013】
この繊維板を所定形状に成形して副木を得る。たとえば、手指に適用する副木とする場合、長円形に裁断して成形する。また、手首、足首又は膝に適用する副木とする場合、略半円筒形に成形する。
【0014】
本発明に係る副木は、融点が約260℃で当初の繊維形態を維持している芯成分と、融点が約200℃で溶融固化している鞘成分とよりなる。したがって、家庭用アイロンで加熱すると、鞘成分のみを軟化させることができる。なぜなら、一般の家庭用アイロンの高温域は180~200℃だからである。そして、鞘成分が軟化した副木は、外力を負荷すると、その形状を若干変形させることができる。したがって、本発明に係る副木は、それを使用する際に、使用者個人の身体の形状に沿うように変形させることができる。
【0015】
また、本発明に係る副木は、基本的に繊維集積体であるので、縫製が可能である。したがって、使用する際に、副木同士を縫製し所定の形状として、使用者個人の身体に使用することができる。さらに、包帯や外皮等の他の基材よりなる被覆材に副木を縫製することにより、被覆材を身体に巻き付けると同時に、副木を身体に適用することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る副木は、特定の芯鞘型複合繊維の集積体であって、芯成分は当初の繊維形態を維持しつつ、鞘成分は溶融固化して芯成分相互間が融着されてなるものである。したがって、鞘成分の溶融固化と融着によって、プラスチック板と同等の高剛性を持つものである。そして、芯成分は当初の繊維形態を維持しているので、溶融固化した鞘成分と芯成分間及び芯成分相互間に空隙が存在しており、通気性を有している。よって、本発明に係る副木は、高剛性でありながら、通気性を有するという効果を奏する。
【実施例0017】
実施例
芯成分としてポリエチレングリコールとテレフタル酸の共重合体(融点260℃)を準備した。鞘成分として、エチレングリコール、ジエチレングリコール、アジピン酸、テレフタル酸及びイソフタル酸の共重合体を用意した。なお、この共重合ポリエステルの融点は200℃で、ジオール成分としてエチレングリコールは99モル%でジエチレングリコールは1モル%で、ジカルボン酸成分としてテレフタル酸は78モル%、アジピン酸は19モル%、イソフタル酸は3モル%であった。上記した芯成分と鞘成分の両者を、複合紡糸孔を持つ紡糸装置に供給して溶融紡糸を行い、芯鞘型複合長繊維を得た。芯成分と鞘成分の重量割合は芯成分:鞘成分=8:2であった。これを紡糸装置の下方に設けたエアサッカーに導入し、高速で牽引細化した後、公知の開繊装置で開繊させ、移動するスクリーンコンベア上に捕集及び集積させて繊維ウェブを得た。得られた繊維ウェブをパンチ密度90本/cm2、針深度10mmでニードルパンチを施し、重量1200g/m2のニードルパンチウェブを得た。
【0018】
得られたニードルパンチウェブを、210℃に加熱された一対の金属製平板の間にセットし、一対の金属製平板間に2mmのスペーサーを挟んだ状態で1分間加圧した。その後、一対の金属製平板間からニードルパンチウェブを取り出し、室温で放冷して、厚さ2mmの繊維板を得た。この繊維板に打ち抜き成形加工を行い、略楕円形の副木を得た。この副木は手指用として使用しうるものであった。