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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024018804
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】蓄熱体および蓄熱システム
(51)【国際特許分類】
   C09K 5/16 20060101AFI20240201BHJP
   F28D 20/00 20060101ALI20240201BHJP
【FI】
C09K5/16 ZAB
F28D20/00 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022122357
(22)【出願日】2022-07-29
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人科学技術振興機構「研究成果展開事業 共創の場形成支援(産学共創プラットフォーム共同研究推進プログラム)」事業、研究題目「地域資源活用型エネルギーエコシステムを構築するための基盤技術の創出」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(71)【出願人】
【識別番号】500067710
【氏名又は名称】北陸テクノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100228511
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 彩秋
(74)【代理人】
【識別番号】100173462
【弁理士】
【氏名又は名称】宮本 一浩
(74)【代理人】
【識別番号】100194179
【弁理士】
【氏名又は名称】中澤 泰宏
(74)【代理人】
【識別番号】100166442
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 洋雅
(74)【代理人】
【識別番号】110002996
【氏名又は名称】弁理士法人宮田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山下 誠司
(72)【発明者】
【氏名】北 英紀
(72)【発明者】
【氏名】木倉 正明
(57)【要約】
【課題】
発熱反応を低温で発生させることができるほか、蓄熱と発熱を繰り返した後の劣化を抑制可能な蓄熱体および蓄熱システムの提供。
【解決手段】
蓄熱体の原料としてガラスフリットと酸化マグネシウムを使用し、ガラスフリットの表面に粉末状の酸化マグネシウムを付着させ、さらにガラスフリットを塊状に形成することで、酸化マグネシウムが水和反応で膨張した際も、ガラスフリットは元の形状を維持するため、蓄熱体の形状崩壊が抑制され、蓄熱と発熱を繰り返した後も、蓄熱体として健全な状態を維持できる。また、この蓄熱体を使用した蓄熱システムにおいて、水和反応を発生させるための水にマグネシウムイオンを含有させることで、活性化エネルギーが低下し、従来よりも低温で発熱反応を発生させることができる。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラスフリットに酸化マグネシウムを付着させた上、融解させたガラスフリットを塊状に形成したことを特徴とする蓄熱体。
【請求項2】
酸化マグネシウムと水との化学反応を利用する蓄熱システムであって、水和反応を発生させる水にはマグネシウムイオンを含有させていることを特徴とする蓄熱システム。
【請求項3】
請求項1記載の蓄熱体と水との化学反応を利用することを特徴とする請求項2記載の蓄熱システム。
【請求項4】
水中におけるマグネシウムイオンの濃度は、水中の酸化マグネシウムに対してモル比で3パーセント以上としたことを特徴とする請求項2または3記載の蓄熱システム。
【請求項5】
水に含有させるマグネシウムイオンは、塩化マグネシウムと硝酸マグネシウムとリン酸マグネシウムのいずれか一つ以上を溶解させることで発生させることを特徴とする請求項2から請求項4のいずれか一項に記載の蓄熱システム。
【請求項6】
水に含有させるマグネシウムイオンは、水を酸性またはアルカリ性にすることで酸化マグネシウムから溶出させることを特徴とする請求項2から請求項4のいずれか一項に記載の蓄熱システム。
【請求項7】
請求項1記載の蓄熱体を粒状に粉砕し、これを線材で構成された保持袋に収容することで、保持袋から蓄熱体が漏れ出すことを防ぎつつ、保持袋の内部に液体と気体を供給可能としたことを特徴とする蓄熱システム。
【請求項8】
保持袋を構成する線材は、ステンレス線またはカーボン長繊維であることを特徴とする請求項7記載の蓄熱システム。
【請求項9】
蓄熱体を蓄熱させた後、これを需要先に輸送して発熱させ、再び蓄熱させるまでの一連のサイクルは、蓄熱体を保持袋に収容した状態で実施することを特徴とする請求項7または8記載の蓄熱システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化マグネシウム(MgO)の化学反応を利用した蓄熱体と、この蓄熱体を使用した蓄熱システムに関する。
【背景技術】
【0002】
熱エネルギーは、暖房や調理や給湯など、人々の生活に必要不可欠であり、熱源については古くから薪などの森林資源が利用されてきたが、近年はその多くを化石燃料に依存している。ただし化石燃料の埋蔵量には限りがあるほか、地政学上の影響を受けやすいため、価格や調達に不安が残るほか、燃焼時に発生する二酸化炭素による地球温暖化など、様々な課題を抱えており、持続可能な社会を実現するため、化石燃料の使用削減が不可欠な情勢になっている。そのため蓄熱技術についても更なる発展が望まれており、その中でも化学反応を利用したもの(以下、化学蓄熱と記載)は、長期の蓄熱が容易であるなどの利点を有しており、様々な機関で研究開発が進められている。
【0003】
化学蓄熱が可能な物質は多数知られているが、その例として酸化マグネシウムが挙げられる。酸化マグネシウムは、水和反応によって水酸化マグネシウムに変化する際、発熱反応を生じるほか、水酸化マグネシウムは、加熱することで脱水反応と吸熱反応を生じて酸化マグネシウムに戻るため、この二つの性質を利用した蓄熱技術が以前から提案されている。このような化学蓄熱では、蓄熱のための熱源として様々な排熱を利用できるほか、蓄熱の後は、その状態が自然に維持されるため、輸送や長期保管も容易であり、熱の需要先にトラックなどで輸送した後、発熱反応を発生させることで、需要に応じて熱エネルギーを供給することができる。
【0004】
化学蓄熱に関する技術開発の例として後記の特許文献が挙げられ、そのうち特許文献1では、長期間に亘って蓄熱容量を維持し得るケミカルヒートポンプが提案されている。この文献では、酸化マグネシウムなどの化学蓄熱材が放熱時の膨張(水和反応)と蓄熱時の収縮(脱水反応)を繰り返すことで、その粒子の相互摩擦によって微粉化が進み、蓄熱容量が低下するといった課題が記載されており、これを解決するため、化学蓄熱材を「化学蓄熱材ペレット」と「充填材」で構成することが開示されている。この「充填材」については、伸縮性とガス透過性を有する必要があり、膨張黒鉛などを使用する。そして化学蓄熱材を収容するタンクには、「化学蓄熱材ペレット」同士の間隙に「充填材」を配置する。その結果、「化学蓄熱材ペレット」が微粉化した際も、それを「充填材」が受け止めて従来と同様の反応が継続するため、長期間に亘って蓄熱容量を維持することができる。
【0005】
次の特許文献2では、高い反応性を有し、高温で使用した場合でも劣化を防止でき、しかも長期の安定性を有するケミカルヒートポンプ用化学蓄熱材が提案されている。ここでの化学蓄熱材には酸化カルシウムを使用しているが、前記の特許文献1と同様、化学蓄熱材が水和反応による膨張と脱水反応による収縮を繰り返すことで微粉化が進行することを防ぐため、粒子化した化学蓄熱材の表面を被覆層で覆うことを特徴としており、被覆層には、複数種類の結晶が組み合わさった無機多孔質材を使用している。この被覆層により、水蒸気が拡散するのに十分な空隙が確保されるため、実用可能な反応速度を維持できるほか、酸化カルシウムの粒子の表面には、異種の結晶粒子が複雑に絡み合った無機多孔質材による被覆層が形成され、膨張と収縮の繰り返しに対する耐久性に優れている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2018-21685号公報
【特許文献2】特開2020-158696号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
酸化マグネシウムは、資源の確保に問題がなく、しかも安全面での懸念も少ないため、化学蓄熱を実現する蓄熱体としての活用が期待されている。ただし酸化マグネシウムに発熱反応を発生させる際は、単に水分を供給すればよい訳ではなく、相応の活性化エネルギーも供給する必要がある。そのため熱の需要先では、蒸気発生装置と熱源が必要になり、その分、設備投資や維持費用の増大が避けられず、実用化を妨げる要因になっている。そこで、発熱反応を発生させる際の活性化エネルギーを低下させる技術が待ち望まれている。
【0008】
酸化マグネシウムなど、化学蓄熱を実現する蓄熱体については、蓄熱や発熱を促進させるため、微細化することが望ましいものの、微細化によって水中での拡散が容易になるため、その取り扱いが難しくなる。そこで蓄熱体を塊状に成形することになるが、水和反応(発熱反応)の際に膨張を伴うため、蓄熱と発熱のサイクルを繰り返すことで、塊状の蓄熱体が形状崩壊を引き起こし、徐々に微粒子化が進んでいく。その結果、蓄熱体の保持が困難になり、現実的に使用可能なサイクル数が抑制され、実用化への課題となっている。この課題については、前記の両特許文献のように、様々な対策が検討されているものの、実現性や効率などの複合的な要因が絡み合うため、根本的な解決は困難な状況にある。
【0009】
本発明はこうした実情を基に開発されたもので、発熱反応を低温で発生させることができるほか、蓄熱と発熱を繰り返した後の劣化を抑制可能な蓄熱体および蓄熱システムの提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記の課題を解決するための請求項1記載の発明は、ガラスフリットに酸化マグネシウムを付着させた上、融解させたガラスフリットを塊状に形成したことを特徴とする蓄熱体である。ここでのガラスフリットは、粒径を概ね1マイクロメートルから数十マイクロメートルとしたものであり、二酸化ケイ素と酸化アルミニウムと酸化ナトリウムを中心に組成されている。また酸化マグネシウムは、粒径を概ね100ナノメートルに揃えてあり、酸化マグネシウムの方が微細化されている。そのため、ガラスフリットと酸化マグネシウムを混合させると、ガラスフリットの表面を酸化マグネシウムの微粒子が取り囲んだ状態になり、これを一定条件の下、成形と熱処理を行うことで、ガラスフリットが融解して酸化マグネシウムが離脱不能に付着するほか、隣接するガラスフリット同士が焼結され、塊状の蓄熱体が形成される。
【0011】
請求項2記載の発明は、酸化マグネシウムと水との化学反応を利用した蓄熱システムであって、水和反応を発生させる水にはマグネシウムイオンを含有させていることを特徴とする。酸化マグネシウムの水和反応は発熱を伴うため、酸化マグネシウムから熱エネルギーを取り出す際は、この反応を発生させることになる。加えて、水和反応を発生させる水にマグネシウムイオンを含有させることで、反応を発生させるための活性化エネルギーが低下し、従来よりも低い水温で発熱が始まり、以降、水和反応が終了するまで発熱が自然に持続する。そのため従来のような蒸気発生装置は不要になり、汎用の給湯器などで対応できるようになる。
【0012】
請求項3記載の発明は、請求項2記載の発明において、その酸化マグネシウムの出所を特定するものであり、請求項1記載の蓄熱体と水との化学反応を利用することを特徴とする。ここでは請求項1記載の蓄熱体を使用しており、しかも水和反応を発生させる水には、マグネシウムイオンを含有させている。これにより蓄熱体は、比較的低い水温で水和反応が発生するほか、水和反応による膨張で蓄熱体が形状崩壊することを抑制可能である。
【0013】
請求項4記載の発明は、水和反応を発生させる水にマグネシウムイオンを含有させる場合において、その濃度を特定するものであり、水中におけるマグネシウムイオンの濃度は、水中の酸化マグネシウムに対してモル比で3パーセント以上としたことを特徴とする。前記のように、マグネシウムイオンを含有させることで、比較的低い水温で水和反応を発生させることができるが、その効果を発揮させるには、この程度の濃度が必要になることが判明している。
【0014】
請求項5記載の発明は、水に含有させるマグネシウムイオンの発生源を特定するものであり、水に含有させるマグネシウムイオンは、塩化マグネシウムと硝酸マグネシウムとリン酸マグネシウムのいずれか一つ以上を溶解させることで発生させることを特徴とする。ここに挙げた塩化マグネシウムと硝酸マグネシウムとリン酸マグネシウムのいずれも、水中で電離することでマグネシウムイオンが発生する。
【0015】
請求項6記載の発明についても、水に含有させるマグネシウムイオンの発生源を特定するものであり、水に含有させるマグネシウムイオンは、水を酸性またはアルカリ性にすることで酸化マグネシウムから溶出させることを特徴とする。ここでのマグネシウムイオンは、化学蓄熱を実現する酸化マグネシウムを発生源としており、水を酸性またはアルカリ性にすることで酸化マグネシウムから電離させる。そしてこの酸化マグネシウムは、請求項1記載の発明のように、ガラスフリットに付着させた状態でも構わない。なお水を酸性またはアルカリ性に変化させる際は、pH6からpH11までの範囲が最適である。
【0016】
請求項7記載の発明は、蓄熱体の使用形態を特定するものであり、請求項1記載の蓄熱体を粒状に粉砕し、これを線材で構成された保持袋に収容することで、保持袋から蓄熱体が漏れ出すことを防ぎつつ、保持袋の内部に液体と気体を供給可能としたことを特徴とする。ガラスフリットを融解させて塊状に形成した蓄熱体は、水との接触を円滑化するため、粒状に粉砕することが望ましく、それを逃すことなく保持するため、保持袋に収容する。ただし蓄熱体に水を供給する必要があるため、保持袋は線材で構成され、通水性のほか通気性を有するものとする。なおこの蓄熱体を発熱させる際は、請求項2から請求項6に記載されているように、マグネシウムイオンを含有する水を使用することが望ましい。
【0017】
請求項8記載の発明は、保持袋の詳細を特定するものであり、保持袋を構成する線材は、ステンレス線またはカーボン長繊維であることを特徴とする。保持袋は、過酷な取り扱いを受けた場合でも、破損することなく内部の蓄熱体の漏れ出しを防ぐ必要がある。そこで保持袋を構成する線材には、ステンレス線やカーボン長繊維を使用することで、保持袋の強度が向上し、過酷な取り扱いなどによる破損を防ぐことができる。
【0018】
請求項9記載の発明は、蓄熱システムの運用形態を特定するものであり、蓄熱体を蓄熱させた後、これを需要先に輸送して発熱させ、再び蓄熱させるまでの一連のサイクルは、蓄熱体を保持袋に収容した状態で実施することを特徴とする。この発明のように、蓄熱から発熱を経て再び蓄熱に戻るまでの一連のサイクルにおいて、蓄熱体は、保持袋に収容された状態を維持することで、実際の運用段階では、粉砕された蓄熱体を直接的に取り扱う必要がなく、保持袋だけを取り扱えばよいため、様々な作業を円滑に行うことができる。
【発明の効果】
【0019】
請求項1記載の発明のように、化学蓄熱を実現するための蓄熱体は、ガラスフリットに酸化マグネシウムを付着させた上、融解させたガラスフリットを塊状に形成することで、酸化マグネシウムは、ガラスフリットを介して保持されるため、酸化マグネシウムが水和反応によって膨張した際も、ガラスフリットは元の形状を維持することから、膨張による影響が緩和され、ガラスフリットと酸化マグネシウム(水酸化マグネシウム)との付着が維持される。したがって蓄熱と発熱を繰り返した後においても、蓄熱体の形状崩壊が抑制され、蓄熱体として使用可能なサイクル数を増大させることができる。
【0020】
請求項2記載の発明のように、酸化マグネシウムと水との蓄熱システムにおいて、水にマグネシウムイオンを含有させることで、酸化マグネシウムに水和反応を発生させるための活性化エネルギーが低下し、従来よりも低い水温で発熱が始まり、以降、水和反応が終了するまで発熱が自然に持続する。そのため従来のような蒸気発生装置は不要になり、汎用の給湯器などで対応できるようになる。
【0021】
請求項3記載の発明のように、蓄熱システムとして請求項1記載の蓄熱体を使用することで、水に含有させたマグネシウムイオンにより、従来よりも低い水温で水和反応による発熱が始まるほか、水和反応での膨張による蓄熱体の形状崩壊が抑制され、蓄熱システムとして運用可能なサイクル数を増大させることができる。
【0022】
請求項4記載の発明のように、水中におけるマグネシウムイオンの濃度を酸化マグネシウムに対してモル比で3パーセント以上とすることで、酸化マグネシウムに水和反応を発生させるための活性化エネルギーを確実に低下させることができ、蓄熱システムとしての信頼性が向上する。
【0023】
請求項5記載の発明のように、マグネシウムイオンの発生源として塩化マグネシウムと硝酸マグネシウムとリン酸マグネシウムのいずれかを使用することで、確実にマグネシウムイオンを水に含有させることができる。またこれらの物質は、無理なく入手可能であり、蓄熱システムの円滑な運用を妨げることもない。
【0024】
請求項6記載の発明のように、水を酸性またはアルカリ性に変化させ、酸化マグネシウムからマグネシウムイオンを溶出させることで、水にマグネシウムイオンを含有させるための手段が多様化し、蓄熱システムの運用に際し、柔軟性が一段と向上する。
【0025】
請求項7記載の発明のように、蓄熱体を粒状に粉砕し、これを保持袋に収容することで、蓄熱体と水との接触面積が十分に確保され、反応を促進させることができるほか、蓄熱体の漏れ出しを防ぎ、蓄熱システムとして運用可能なサイクル数を増大させることができる。なお保持袋は線材で構成されており、内部に液体と気体を供給可能としながらも、蓄熱体の漏れ出しを防ぐことができる。
【0026】
請求項8記載の発明のように、保持袋を構成する線材は、ステンレス線またはカーボン長繊維とすることで、保持袋の強度が向上する。そのため蓄熱体を保持袋に収容した後、保持袋の交換や補修をすることなく、蓄熱システムとして運用可能なサイクル数を一段と増大させることができる。
【0027】
請求項9記載の発明のように、蓄熱から発熱を経て再び蓄熱に戻るまでの一連のサイクルは、蓄熱体を保持袋に収容した状態で実施することで、粉砕された蓄熱体を直接的に取り扱う必要がない。そのため実際の運用段階では、蓄熱体の存在を意識することなく保持袋だけを取り扱えばよいため、様々な作業を円滑に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明による蓄熱体の製造過程と、この蓄熱体を水中で発熱させる状態を模式的に示す図である。
図2】蓄熱体モジュールの製造過程を示す図である。
図3図2の蓄熱体モジュールの運用例を示す図である。
図4】蓄熱体を発熱させる際、水中のマグネシウムイオンの影響を示すグラフである。
図5(a)(b)】蓄熱体を発熱させる際、水にマグネシウムイオンを含有させた場合とさせない場合について、最大温度到達時間と水温上昇との関係を示すグラフである。なお図5(a)は、初期水温がセ氏50度の場合であり、図5(b)は、初期水温がセ氏60℃の場合である。
図6(a)(b)】蓄熱体を発熱させる際、水中の塩化マグネシウムの濃度による影響を測定したグラフであり、図6(a)は、濃度と水温上昇との関係を示しており、図6(b)は、濃度と最大温度到達時間との関係を示している。
【発明を実施するための形態】
【0029】
図1は、本発明による蓄熱体の製造過程と、この蓄熱体を水中で発熱させる状態を模式的に示したものである。この蓄熱体は、ガラスフリットと酸化マグネシウムで構成され、そのうちガラスフリットは粉末ガラスであり、ここでは二酸化ケイ素と酸化アルミニウムと酸化ナトリウムで組成されるものを想定しており、その粒径は、1マイクロメートルから数十マイクロメートル程度が最適である。また酸化マグネシウムは、その粒径が100ナノメートル程度の粉末を使用しており、ガラスフリットと酸化マグネシウムを混合させた場合、粒径の差により、ガラスフリットの表面を酸化マグネシウムの微粒子が取り囲んだ状態になる。そしてこれを一定条件の下、成形と熱処理を行うことで、ガラスフリットが融解して酸化マグネシウムが離脱不能に付着するため、ガラスフリットは酸化マグネシウムの担体として機能することになる。さらに隣接するガラスフリット同士が焼結されることで、塊状の蓄熱体が形成される。
【0030】
蓄熱体の成形方法は自在に選択可能だが、その一例として鋳込み成形(スリップキャスト)が挙げられる。この鋳込み成形を行う場合、まずガラスフリットと酸化マグネシウムを水中で撹拌し、次にこれを型に流し込む。以降、型が徐々に水を吸収することで、最終的には図の左上に描くように、ガラスフリット同士が緩く結び付いた状態で固形化される。その後、型から取り出して熱処理を行ことでガラスフリットが融解し、図の右上に描くように、ガラスフリットに酸化マグネシウムが付着するほか、隣接するガラスフリット同士が焼結されることになる。ただしここでは、鋳込み成形を導入しているため、ガラスフリットが緻密な塊状になることはなく、多孔質の塊状になり、内部まで水が浸透しやすいため、蓄熱体としての性能が向上する。
【0031】
図1の下方では、ガラスフリット同士が焼結された蓄熱体を水中で発熱させる状態を描いてある。この蓄熱体を構成する酸化マグネシウムは、水中に投入することで水和反応が発生し、周囲に熱を放出する。その際、水にマグネシウムイオンを含有させることで、水和反応を発生させるための活性化エネルギーが低下し、水和反応を促進させることができる。なお水中のマグネシウムイオンは、塩化マグネシウムや硝酸マグネシウムやリン酸マグネシウムなどを溶解させることで供給することができる。それ以外にも、水を酸性またはアルカリ性にすることで、蓄熱体の酸化マグネシウムから溶出させることもできる。
【0032】
水にマグネシウムイオンを含有させることで、水和反応が促進される原理については、次のような推測が成立する。まずは、水中にマグネシウムイオンが存在することで、それが水中の水酸化物イオンと化合して水酸化マグネシウムが生成され、これが水中を浮遊して蓄熱体に接近する。この浮遊する水酸化マグネシウムは、蓄熱体の水和反応を引き起こす結晶核として機能するため、水和反応が連鎖反応的に持続して急速な発熱が実現する。
【0033】
図1に示すように、蓄熱体を構成する酸化マグネシウムは、ガラスフリットに付着している。そのため、酸化マグネシウムが水和反応で水酸化マグネシウムに変化して膨張した場合でも、ガラスフリットとの付着はそのまま維持され、蓄熱体の形状崩壊を抑制することができる。なお蓄熱体において、酸化マグネシウムに対するガラスフリットの添加濃度は、5volパーセントから10volパーセントの範囲にすることで、形状崩壊の抑制に最適であることが判明している。
【0034】
図2は、鋳込み成形によって塊状になった蓄熱体を使用した蓄熱体モジュール1の製造過程を示している。先の図1のように、酸化マグネシウムが付着したガラスフリットを鋳込み成形で固形化し、さらにガラスフリット同士を焼結させることで、図2の左上に描くように、塊状で多孔質の蓄熱体が完成する。ただしこの状態では、水の浸透が緩やかになるため、蓄熱体を粉砕し、これを保持袋10に詰め込み、その後に保持袋10の開口部を閉じると、蓄熱体モジュール1が完成する。
【0035】
保持袋10は、内部の蓄熱体を正常に機能させるため、通水性が不可欠であるほか、蓄熱時の高温や輸送時の摩擦などに耐える必要があり、ステンレス線やカーボン長繊維などの線材で構成された生地を使用する。この生地の隙間については、粒径100マイクロメートルの程度の蓄熱体が通過不能な程度とする。なお一個の蓄熱体モジュール1の大きさは、自在に決めることができるが、通常は人力で持ち運び可能な程度とすることが多い。
【0036】
図3は、図2の蓄熱体モジュール1の運用例を示している。実際の運用段階では、袋状の蓄熱体モジュール1を取り扱うことになり、その内部の蓄熱体を外部に取り出すことはない。そして蓄熱体モジュール1に蓄熱する際は、図の上方に描くように、蓄熱体モジュール1を燃焼炉の内部などで加熱して脱水反応を発生させればよい。なお蓄熱前の段階では、蓄熱体を構成する酸化マグネシウムが水酸化マグネシウムに変化しているものとする。しかし燃焼炉での加熱によって脱水反応が発生するため、酸化マグネシウムに復元する。
【0037】
蓄熱のための燃焼炉は、様々な用途のものを利用することができる。したがって蓄熱に際しては、従来、大気中に捨てられていた熱エネルギーを利用することになり、必然的に熱エネルギーの有効活用が実現する。ただし燃焼炉の内部は過酷な環境であり、それに耐えられるよう、蓄熱体モジュール1には、十分な耐久性を持たせる必要がある。また個々の蓄熱体モジュール1の全体で脱水反応が発生するよう、蓄熱体モジュール1の大きさや、燃焼炉での熱の流れなどを調整する。
【0038】
蓄熱体モジュール1への蓄熱が完了した後は、図の中程に描くように、蓄熱体モジュール1をトラックなどに載せて需要先に輸送することになる。この段階では、蓄熱体が酸化マグネシウムになっており、この状態は化学的に安定しているため、長期の保管も容易である。なお、酸化マグネシウムに水和反応を発生させるには、相応の活性化エネルギーが必要であり、輸送時や保管時に降雨にさらされても問題はないため、輸送時の手間を抑制できるほか、野外での保管も可能である。
【0039】
蓄熱体モジュール1を実際に発熱させる際は、図の下方に描くように、蓄熱体モジュール1を水中に沈めることになる。ここでは蓄熱体モジュール1で発生する熱を給湯設備に供給することを想定しており、給湯設備に隣接して反応容器が設置されており、双方を熱交換装置で接続している。反応容器は、蓄熱体モジュール1を収容する水密性の容器であり、蓄熱体モジュール1と併せて温水を供給することで、蓄熱体が水和反応を発生するため、反応容器の内部が加熱され、その熱が熱交換装置を介して給湯設備に供給される。
【0040】
反応容器の水にマグネシウムイオンを含有させることで、水和反応を発生させる際の活性化エネルギーを低下させることができる。そのため蓄熱体モジュール1に水蒸気を供給する必要がなく、セ氏50度程度の温水を反応容器に供給すればよく、しかも水和反応が安定した後は、その熱によって反応が自然に持続することになる。この程度の温水は、様々な手段で確保できるため、設備投資が増大することはない。
【0041】
図4は、酸化マグネシウムを使用した蓄熱体を発熱させる際、水中のマグネシウムイオンの影響を示すグラフである。この図の上方に描くように、蓄熱体を発熱させる際は、反応容器内の水に蓄熱体を投入し、その酸化マグネシウムが水と接触することで水和反応が発生する。ただし単に水と接触しただけであれば、活性化エネルギーとの兼ね合いから水和反応が抑制される。そこでこの活性化エネルギーを低下させるため、水にマグネシウムイオンを含有させている。
【0042】
この測定でのマグネシウムイオンは、水に塩化マグネシムを添加することで供給される。なおこの測定では、初期の水温をセ氏60度としている。そして水中に蓄熱体を投入した後、その近傍の水温を時系列で測定している。その結果、塩化マグネシウムを添加しない場合、時間の経過とともに水温が緩やかに上昇していき、923秒後にセ氏7.6度の温度上昇が測定され、以降は徐々に水温が低下していった。しかし塩化マグネシウムを添加した場合、水温が急速に上昇していき、204秒後にセ氏17.6度の温度上昇が測定され、以降は徐々に水温が低下していった。
【0043】
このように、水にマグネシウムイオンを含有させることで、水和反応が促進され、短時間で最高温度に到達することが判明した。そしてこれを応用することで、先の図3のように、蓄熱体モジュール1を需要先に輸送した後、素早く大量の熱を発生させることが可能になり、実用性が向上する。しかも初期の水温を抑制することができるため、従来のような蒸気発生装置は不要であり、設備投資や維持費用を抑制することができる。
【0044】
図5は、酸化マグネシウムを使用した蓄熱体を発熱させる際、水にマグネシウムイオンを含有させた場合とさせない場合について、最大温度到達時間と水温上昇との関係を示すグラフである。なおここでは、初期水温がセ氏50度とセ氏60度で測定を行っている。そして上方の図5(a)のように、初期水温がセ氏50度の場合、マグネシウムイオンを含有させることで、短時間で大きな水温上昇が発生しており、マグネシウムイオンを含有させることで顕著な効果が発揮されている。対して下方の図5(b)のように、初期水温がセ氏60度の場合、いずれも水和反応が促進されやすくなるため、マグネシウムイオンの含有による差が小さくなっている。
【0045】
図6は、酸化マグネシウムを使用した蓄熱体を発熱させる際、水中の塩化マグネシウムの濃度による影響を測定したグラフであり、上方の図6(a)は、濃度と水温上昇との関係を示しており、下方の図6(b)は、濃度と最大温度到達時間との関係を示している。ここでは、水に含有させる塩化マグネシウムの濃度を0パーセントから18パーセントに段階的に変化させている。そして上方のグラフは、蓄熱体を水中に投入した後、水温上昇の頂部を測定したものであり、濃度を6パーセントとした際、最大の水温上昇が発生しており、それよりも濃度が低い場合と高い場合のいずれも、水温上昇が抑制されている。
【0046】
また下方のグラフのように、最大温度到達時間については、濃度を6パーセントとした際、最短になっており、それよりも濃度が低い場合と高い場合のいずれも、より長い時間を要している。そして両方のグラフより、塩化マグネシウムの濃度を6パーセントした場合、短時間で最大の熱量を発生させることが判明し、この条件を導入することで実用性が向上することになる。なおマグネシウムイオンの供給手段は、塩化マグネシウムに限定される訳ではないが、その濃度と発熱との関係を測定し、都度、実用化に適した条件を探し出すことになる。
【符号の説明】
【0047】
1 蓄熱体モジュール
10 保持袋
図1
図2
図3
図4
図5(a)(b)】
図6(a)(b)】