(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024018827
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】ストレプトコッカス・サリバリウス・亜種・サーモフィラスST7発酵組成物の運動パフォーマンスの向上及びサルコペニアを軽減する用途
(51)【国際特許分類】
A23L 33/135 20160101AFI20240201BHJP
A61K 35/74 20150101ALI20240201BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20240201BHJP
A23L 5/00 20160101ALI20240201BHJP
【FI】
A23L33/135
A61K35/74 Z
A61P21/00
A23L5/00 J
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022144135
(22)【出願日】2022-09-09
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-10-30
(31)【優先権主張番号】111128691
(32)【優先日】2022-07-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
(71)【出願人】
【識別番号】509013611
【氏名又は名称】生展生物科技股▲分▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】陳威仁
(72)【発明者】
【氏名】唐宗寅
(72)【発明者】
【氏名】曾明中
(72)【発明者】
【氏名】魏▲ウィ▼珊
【テーマコード(参考)】
4B018
4B035
4C087
【Fターム(参考)】
4B018LB10
4B018LE01
4B018LE05
4B018MD85
4B018MD91
4B018ME14
4B018MF01
4B018MF06
4B018MF13
4B035LC06
4B035LG50
4B035LP42
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC55
4C087MA52
4C087NA14
4C087ZA94
(57)【要約】
【課題】 本発明はストレプトコッカス・サリバリウス・亜種・サーモフィラスST7発酵組成物の運動パフォーマンスの向上及びサルコペニアを軽減する用途を提供する。
【解決手段】 本発明は、ストレプトコッカス・サリバリウス・亜種・サーモフィラスST7発酵組成物の運動パフォーマンスの向上及びサルコペニアを軽減する用途を提供するものであり、本発明が開示するストレプトコッカス・サリバリウス・亜種・サーモフィラスST7発酵組成物中にストレプトコッカス・サリバリウス・亜種・サーモフィラスST7又は/及びその発酵生成物が含まれるため、有効量のストレプトコッカス・サリバリウス・亜種・サーモフィラスST7発酵組成物を個体に予め投与することで、個体の筋肉細胞内ATP含有量を上昇させ、疲労度や筋組織の損傷に関する指標を下げることができ、これにより個体の運動パフォーマンスの向上や、サルコペニア及びその病症を改善又は予防する効果が達成される。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗筋肉疲労用のストレプトコッカス・サリバリウス・亜種・サーモフィラスST7又は/及びその発酵生成物の組成物であって、
前記ストレプトコッカス・サリバリウス・亜種・サーモフィラスST7発酵生成物は、ストレプトコッカス・サリバリウス・亜種・サーモフィラスST7(Streptococcus salivarius subsp. thermophilus ST7)を発酵させて得るものであり、前記ストレプトコッカス・サリバリウス・亜種・サーモフィラスST7は、2022年4月25日に台湾新竹財団法人食品工業発展研究所に寄託されており、寄託番号はBCRC911126である、抗筋肉疲労用のストレプトコッカス・サリバリウス・亜種・サーモフィラスST7又は/及びその発酵生成物組成物。
【請求項2】
前記ストレプトコッカス・サリバリウス・亜種・サーモフィラスST7発酵生成物は、ストレプトコッカス・サリバリウス・亜種・サーモフィラスST7生菌体、ストレプトコッカス・サリバリウス・亜種・サーモフィラスST7不活化菌体、ストレプトコッカス・サリバリウス・亜種・サーモフィラスST7代謝物又はNADHを含む、請求項1に記載の筋肉疲労用のストレプトコッカス・サリバリウス・亜種・サーモフィラスST7又は/及びその発酵生成物の組成物。
【請求項3】
前記ストレプトコッカス・サリバリウス・亜種・サーモフィラスST7発酵生成物は、血中乳酸含有量及び血中尿素窒素濃度を低下させる、請求項1に記載の筋肉疲労用のストレプトコッカス・サリバリウス・亜種・サーモフィラスST7又は/及びその発酵生成物の組成物。
【請求項4】
運動パフォーマンス向上用のストレプトコッカス・サリバリウス・亜種・サーモフィラスST7又は/及びその発酵生成物の組成物であって、前記ストレプトコッカス・サリバリウス・亜種・サーモフィラスST7発酵生成物は、ストレプトコッカス・サリバリウス・亜種・サーモフィラスST7(Streptococcus salivarius subsp. thermophilus ST7)を発酵させて得るものであり、前記ストレプトコッカス・サリバリウス・亜種・サーモフィラスST7は、2022年4月25日に台湾新竹財団法人食品工業発展研究所に寄託されており、寄託番号はBCRC911126である、運動パフォーマンス向上用のストレプトコッカス・サリバリウス・亜種・サーモフィラスST7又は/及びその発酵生成物の組成物。
【請求項5】
前記ストレプトコッカス・サリバリウス・亜種・サーモフィラスST7発酵生成物は、ストレプトコッカス・サリバリウス・亜種・サーモフィラスST7生菌体、ストレプトコッカス・サリバリウス・亜種・サーモフィラスST7不活化菌体、ストレプトコッカス・サリバリウス・亜種・サーモフィラスST7代謝物又はNADHを含む、請求項4に記載の運動パフォーマンス向上用のストレプトコッカス・サリバリウス・亜種・サーモフィラスST7又は/及びその発酵生成物の組成物。
【請求項6】
前記ストレプトコッカス・サリバリウス・亜種・サーモフィラスST7発酵生成物は、クレアチンキナーゼ活性を低減させ且つ筋肉及び肝臓中の肝グリコーゲン含有量を上昇させる、請求項4に記載の運動パフォーマンス向上用のストレプトコッカス・サリバリウス・亜種・サーモフィラスST7又は/及びその発酵生成物の組成物。
【請求項7】
サルコペニア治療用のストレプトコッカス・サリバリウス・亜種・サーモフィラスST7又は/及びその発酵生成物の組成物であって、前記ストレプトコッカス・サリバリウス・亜種・サーモフィラスST7発酵生成物は、ストレプトコッカス・サリバリウス・亜種・サーモフィラスST7(Streptococcus salivarius subsp. thermophilus ST7)を発酵させて得るものであり、前記ストレプトコッカス・サリバリウス・亜種・サーモフィラスST7は、2022年4月25日に台湾新竹財団法人食品工業発展研究所に寄託されており、寄託番号はBCRC911126である、サルコペニア治療用のストレプトコッカス・サリバリウス・亜種・サーモフィラスST7又は/及びその発酵生成物の組成物。
【請求項8】
前記ストレプトコッカス・サリバリウス・亜種・サーモフィラスST7発酵生成物は、ストレプトコッカス・サリバリウス・亜種・サーモフィラスST7生菌体、ストレプトコッカス・サリバリウス・亜種・サーモフィラスST7不活化菌体、ストレプトコッカス・サリバリウス・亜種・サーモフィラスST7代謝物又はNADHを含む、請求項7に記載のサルコペニア治療用のストレプトコッカス・サリバリウス・亜種・サーモフィラスST7又は/及びその発酵生成物の組成物。
【請求項9】
前記ストレプトコッカス・サリバリウス・亜種・サーモフィラスST7発酵生成物は、個体の握力を向上させる、請求項7に記載のサルコペニア治療用のストレプトコッカス・サリバリウス・亜種・サーモフィラスST7又は/及びその発酵生成物の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はプロバイオティクスの用途に関し、特にストレプトコッカス・サリバリウス・亜種・サーモフィラスST7発酵組成物の運動パフォーマンスの向上及びサルコペニアを軽減する用途に関する。
【背景技術】
【0002】
医療や科学技術の急速な進歩によって人間の寿命は着実に延び続け、多くの国が高齢化社会を要因とする健康面の問題に直面している。高齢者の健康を悪化させる主な原因の1つは、サルコペニアであると考えられている。サルコペニアとは、筋肉量や筋力、筋機能などの測定指標によって総合的に判断される症状をいい、現在では身体障害、転倒、死亡率の上昇に繋がると考えられている。
【0003】
現在、臨床ではサルコペニアの治療薬が提供されておらず、サルコペニアの症状を改善し、サルコペニアの悪化を軽減するには飲食習慣や運動習慣を調整することしかできない。ところが、多くの患者はサルコペニアと診断された時点で既に動作緩慢、握力低下、筋力低下などの症状があり、運動療法の過程で疲労や筋肉痛のためにあきらめてしまうことが多く、サルコペニアの改善を一層難しくしている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の主な目的は、ストレプトコッカス・サリバリウス・亜種・サーモフィラスST7発酵組成物の運動パフォーマンスの向上及びサルコペニアを軽減する用途を提供することである。即ち、有効量のストレプトコッカス・サリバリウス・亜種・サーモフィラスST7又はその発酵生成物を個体に投与することで、個体の筋肉細胞内ATP及び肝グリコーゲン含有量を上昇させ、疲労や筋組織の損傷に関係する生化学的指標を下げることができ、これにより、筋肉疲労を低減する、運動後の筋肉の乳酸排出を速める、運動能力を高めるといった個体の運動パフォーマンスの向上や、サルコペニア及びその病症を改善又は軽減する効果が達成されるというものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述の目的を達成するために、本発明はストレプトコッカス・サリバリウス・亜種・サーモフィラスST7及びその発酵生成物の用途を提供するが、ストレプトコッカス・サリバリウス・亜種・サーモフィラスST7発酵生成物は、ストレプトコッカス・サリバリウス・亜種・サーモフィラスST7(Streptococcus salivarius subsp. thermophilus ST7)を発酵させて得るものであり、それにはストレプトコッカス・サリバリウス・亜種・サーモフィラスST7生菌体、ストレプトコッカス・サリバリウス・亜種・サーモフィラスST7不活化菌体、ストレプトコッカス・サリバリウス・亜種・サーモフィラスST7代謝物又はNADH(nicotinamide adenine dinucleotide, reduced)を含み、ストレプトコッカス・サリバリウス・亜種・サーモフィラスST7は、2022年4月25日に台湾新竹財団法人食品工業発展研究所に寄託されており、寄託番号はBCRC911126である。
【0006】
さらに、本発明の実施例では、ストレプトコッカス・サリバリウス・亜種・サーモフィラスST7及び/又はその発酵生成物の、抗筋肉疲労、個体の運動パフォーマンスの向上又はサルコペニア治療用の組成物を調製する用途を開示する。即ち、個体にストレプトコッカス・サリバリウス・亜種・サーモフィラスST7又は/及びその発酵生成物を有効量投与することで、個体の筋肉細胞内ATP含有量を上昇させ、筋肉細胞及び肝細胞内の肝グリコーゲン含有量を上昇させ、血中乳酸含有量及び血中尿素窒素濃度を下げ、筋肉細胞の修復能力を高めることができ、これにより、個体の運動パフォーマンスにおけるスタミナ、握力、持久力をいずれも顕著に高めることができ、サルコペニア及びその病症を軽減又は改善するというものである。
【0007】
そのうち、個体はサルコペニアの高リスク群である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1A】NADH標準品をアセトフェノン(Acetophenone)で誘導体化した後の分析結果であり、図中、左側はHPLCクロマトグラム(382nm)、右側はPDA吸収スペクトルである。
【
図1B】本発明が開示するストレプトコッカス・サリバリウス・亜種・サーモフィラスST7発酵組成物をアセトフェノンで誘導体化した後の分析結果であり、図中、左側はHPLCクロマトグラム(382nm)、右側はPDA吸収スペクトルである。
【
図2】本発明が開示するストレプトコッカス・サリバリウス・亜種・サーモフィラスST7発酵組成物のESI/MS分析グラフである。
【
図3】ATP測定キット(ATP colorimetric assay kit)でC2C12筋芽細胞を定量し、異なる処理を行った後のATP含有量の結果である。
【
図4】C2C12筋芽細胞に異なる処理を行った後に観察した細胞死の状況である。図中、「+」はクリスタルバイオレット染色を行ったことを表し、「-」はクリスタルバイオレット染色を行っていないことを表す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、ストレプトコッカス・サリバリウス・亜種・サーモフィラスST7発酵組成物の、運動パフォーマンスを向上させてサルコペニアを軽減する用途を開示するものであり、そのうち、本発明が開示するストレプトコッカス・サリバリウス・亜種・サーモフィラスST7発酵組成物中には、ストレプトコッカス・サリバリウス・亜種・サーモフィラスST7又は/及びストレプトコッカス・サリバリウス・亜種・サーモフィラスST7を発酵させて得る発酵生成物が含まれ、有効量のストレプトコッカス・サリバリウス・亜種・サーモフィラスST7発酵組成物を個体に予備的且つ継続的に投与することで、筋肉細胞中のATP含有量を上昇させ、個体の筋肉能力を向上させることができ、且つ筋肉疲労度を低減し、乳酸代謝や筋肉損傷の修復を促進することができ、これにより、個体の運動パフォーマンスの向上や、サルコペニア及びその病症の改善又は発症の予防が達成される。
【0010】
本発明が開示する「ストレプトコッカス・サリバリウス・亜種・サーモフィラスST7発酵組成物」は、有効量のストレプトコッカス・サリバリウス・亜種・サーモフィラスST7(Streptococcus salivarius subsp. thermophilus ST7)又は/及びその発酵生成物を含み、そのうち、ここでいう有効量とは、本発明が属する技術分野に基づく、生命体に対して活性を有する用量をいい、1%~100%などである。ストレプトコッカス・サリバリウス・亜種・サーモフィラスST7は、生菌でも不活化菌でもよい。ストレプトコッカス・サリバリウス・亜種・サーモフィラスST7発酵組成物は、必要に応じて食品、栄養補助食品、医薬品、医薬補助剤として調製してもよく、人体に安全なビヒクル、賦形剤、風味剤などを添加してもよく、且つ錠剤、散剤、溶液、懸濁液などのふさわしい剤形に調製することができる。
【0011】
本発明が開示する「発酵生成物」とは、開示するストレプトコッカス・サリバリウス・亜種・サーモフィラスST7を発酵培養したものであり、そのうち、発酵生成物を回収する工程では、遠心、濾過、直接濃縮、乾燥などの方法が可能であり、発酵後の回収工程の違いによって発酵生成物の構成要素も異なってくる。即ち、発酵生成物は少なくともストレプトコッカス・サリバリウス・亜種・サーモフィラスST7生菌体、ストレプトコッカス・サリバリウス・亜種・サーモフィラスST7不活化菌体、ストレプトコッカス・サリバリウス・亜種・サーモフィラスST7代謝物又はNADHを含み、例えば、濾過を経ずに直接加熱乾燥による回収工程を行った発酵生成物の場合、発酵生成物中には少なくともストレプトコッカス・サリバリウス・亜種・サーモフィラスST7不活化菌体、ストレプトコッカス・サリバリウス・亜種・サーモフィラスST7代謝物及びNADHが含まれる。
【0012】
本発明が開示する「ストレプトコッカス・サリバリウス・亜種・サーモフィラスST7」は、2022年4月25日に台湾新竹財団法人食品工業発展研究所に寄託されており、寄託番号はBCRC911126である。ストレプトコッカス・サリバリウス・亜種・サーモフィラスST7は、例えば1~2%グルコース、1~2%ペプトン、0.01~0.08%硫酸マグネシウムなどを含有する培地など、一般的な成長培地で培養可能である。さらに、本発明が開示するストレプトコッカス・サリバリウス・亜種・サーモフィラスST7は、NADHの生成能力を有するため、ストレプトコッカス・サリバリウス・亜種・サーモフィラスST7を種菌として発酵培養を行って得られる生成物にはNADHが含まれる。
【0013】
本発明が述べる「握力」とは、動物試験における用語であり、人体においても「握力」と呼ばれるが、握力の大きさはサルコペニアの主要な判断指標の1つであり、ある物質が個体の握力を向上させ得る場合、その物質はサルコペニアの改善に有用であることを表している。
【0014】
以下、本発明の技術的特徴及び効果について説明するため、幾つかの試験例を図とともに挙げて詳しく説明する。
【0015】
以下の実施例で使用した細胞(株)は、いずれも当業者であれば容易に取得可能なものであるため、寄託は不要である。
【0016】
以下の各実施例中のデータは、Mean±SDで表示する。SAS統計ソフトウェアを用いて一元配置分散分析(one way analysis of variance, ANOVA)を行い、Duncan's testで異なる処理間に差異があるかどうかをテストした。
【0017】
実施例1:ストレプトコッカス・サリバリウス・亜種・サーモフィラスST7発酵組成物の調製
【0018】
本発明が開示するストレプトコッカス・サリバリウス・亜種・サーモフィラスST7を先に1~2%グルコース、1~2%ペプトン、0.01~0.08%硫酸マグネシウムなどを含有する培地で培養し、ストレプトコッカス・サリバリウス・亜種・サーモフィラスST7が対数増殖期に達した時点で、それを主発酵培地中に播種し、所定の発酵条件下で発酵培養を行って発酵生成物を産出した。そのうち、主発酵培地は5~15%グルコース、2~6%ペプトン、0.01~0.08%硫酸マグネシウムなどの成分を含む。所定の発酵条件には、発酵pH値4.0~6.0、発酵温度35~40℃、発酵時間10~24時間とすることが含まれる。
【0019】
発酵生成物に濃縮、乾燥などの工程を行い、ストレプトコッカス・サリバリウス・亜種・サーモフィラスST7発酵組成物(菌体数4×1010cell/g)を得た。そのうち、乾燥工程は、噴霧乾燥、低温乾燥、凍結乾燥又は当業者に周知の乾燥技術でよい。
【0020】
ストレプトコッカス・サリバリウス・亜種・サーモフィラスST7発酵組成物(1g)又はNADH標準品(5mg)を用意し、それぞれ水と混合して10mLの水溶液にした。各水溶液(250μL)に脱イオン水(100μL)、水酸化カリウム(150μL、1.3M)及びアセトフェノン(Acetophenone;100μL、20%)を加え、均一に混合して氷浴し、さらにギ酸(400μL)を加えて室温下で反応させてから濾過し、HPLCで分析を行った。そのうち、分析条件として、溶離液はアセトニトリル、リン酸緩衝液(0.1M、pH6.5)は10:90の混合溶液、カラムはSupelco C18 250×4.6、5μmとし、分析波長は382nmとした。HPLCの分析結果は
図1A及び
図1Bに示す通りである。さらに、ストレプトコッカス・サリバリウス・亜種・サーモフィラスST7発酵組成物をESI/MSで分析した。結果は
図2に示す通りである。
【0021】
図1A及び
図1Bの結果からは、本発明が開示するストレプトコッカス・サリバリウス・亜種・サーモフィラスST7発酵組成物が発酵生成物であり、発酵生成物中にNADHの成分が含まれていることが分かる。さらに、
図2の結果から、NADH分子式はC
21H
29N
7O
14P
2-であり、[M]-は665.2であることが分かる。
【0022】
実施例2:細胞培養
【0023】
C2C12筋芽細胞(寄託番号:BCRC NO.60083)を用意し、10%のウシ胎児血清及び抗生物質溶液(Penicillin-Streptomycin Solution)を含有するDMEM培地で60mmの培養ディッシュに3×105 cells/wellで播種し、37℃下で1日培養して細胞分化を行い、さらに細胞培養液を2%のウマ血清を添加したDMEM培地に交換して培養し、培養液は毎日交換し、5日間分化させた後、下記の細胞試験用に提供することができた。
【0024】
実施例3:細胞試験(1)
【0025】
実施例2中で培養が完了したC2C12筋芽細胞を用意し、薬物メトホルミン(Metformin,2.5 mM)、MRS培地、本発明が開示するストレプトコッカス・サリバリウス・亜種・サーモフィラスST7発酵上清液、ラクトバチルス・パラカセイMC1-40(Lactobacillus paracasei MC1-40、寄託番号:BCRC911125)発酵上清液、ラクトバチルス・パラカセイLCW23(Lactobacillus paracasei LCW23、寄託番号:CGMCC3247)という異なる物資をそれぞれ加え、各群の細胞の最終濃度は1%として、再び24時間培養した。そのうち、ストレプトコッカス・サリバリウス・亜種・サーモフィラスST7発酵上清液は、実施例1中のストレプトコッカス・サリバリウス・亜種・サーモフィラスST7発酵組成物を再溶解してから濾過して得た濾液である。ラクトバチルス・パラカセイMC1-40発酵上清液とラクトバチルス・パラカセイLCW23発酵上清液の調製方法は、ストレプトコッカス・サリバリウス・亜種・サーモフィラスST7発酵上清液と同じである。
【0026】
上述の培養が完了したC2C12筋芽細胞を収集し、リン酸緩衝液で洗浄してからtrypsin-EDTAで細胞を収集し、遠心した後、細胞ペレット(cell pellet)をTris bufferで再溶解して懸濁させ、上清液を収集し、ATP測定器キット(ATP colorimetric assay kit,Elabscience, catalog no.E-BC-K157-S)を用いて、測定吸収波長636nmにおける細胞のATP含有量を定量した。結果は
図3に示す通りである。そのうち、ST7、MC1-40、LCW23はそれぞれ添加した各菌株の発酵上清液を表している。
【0027】
図3の結果では、本発明が開示するストレプトコッカス・サリバリウス・亜種・サーモフィラスST7発酵組成物は確かにC2C12筋芽細胞中のATP含有量を上昇させることができており、本発明が開示するC2C12筋芽細胞が筋力を増加させ、これによってサルコペニア及びその病症の軽減又は改善効果を達成し得ることが合理的に推定できる。
【0028】
実施例4:細胞試験(2)
【0029】
実施例2中で培養が完了したC2C12筋芽細胞を用意し、DMEM(ブランク群)、100μM デキサメタゾン(Dexamethasone)、100μM デキサメタゾンと本発明が開示するストレプトコッカス・サリバリウス・亜種・サーモフィラスST7発酵上清液をそれぞれ加え、各細胞群の最終濃度は1%として、再び48時間培養し、0.5%クリスタルバイオレットで染色を行って、各細胞群の細胞死の状況を観察した。結果は
図4に示す通りである。
【0030】
図4に示す通り、デキサメタゾンは筋管(マイオチューブ、myotubeとも呼ばれる)の萎縮を誘導するのに用いられる試薬であるため、ブランク群と比較すると、デキサメタゾンが添加された培地中で培養したC2C12筋芽細胞の細胞だけに顕著な萎縮や細胞死の状況がみられ、デキサメタゾンと本発明が開示するストレプトコッカス・サリバリウス・亜種・サーモフィラスST7発酵上清液が添加された培地中で培養したC2C12筋芽細胞の細胞については、細胞死の状況に顕著な改善が得られていた。
【0031】
図4の結果は、本発明が開示するストレプトコッカス・サリバリウス・亜種・サーモフィラスST7発酵組成物について、C2C12筋芽細胞が筋管の萎縮や細胞死の状況を効果的に改善することができ、筋力低下や筋機能低下を遅延せしめ、サルコペニアの治療又は予防、及び個体の運動パフォーマンスを向上させる効果を効果的に達成し得ることを示している。
【0032】
実施例5:動物試験
【0033】
6週齢のICR雄性マウスを計24匹用意し、2週間飼育した後、ランダムに3群に分けて各群8匹とし、続く4週の飼育期間中、各群のマウスそれぞれに本発明が開示するストレプトコッカス・サリバリウス・亜種・サーモフィラスST7発酵組成物を下記条件に従って投与した。そのうち、飼料(Chow 5001)と水は自由摂取とし、飼育温度24±2℃、湿度65±5%、明暗各12時間とした。
【0034】
第1群:本発明が開示するストレプトコッカス・サリバリウス・亜種・サーモフィラスST7発酵組成物の投与なし。
【0035】
第2群:本発明が開示するストレプトコッカス・サリバリウス・亜種・サーモフィラスST7発酵組成物を低用量投与、用量は21mg/Kg/dayとした。
【0036】
第3群:本発明が開示するストレプトコッカス・サリバリウス・亜種・サーモフィラスST7発酵組成物を高用量投与、用量は205mg/Kg/dayとした。
【0037】
試験期間中、各群のマウスの体重を検査した。結果は下記表1に示す通りである。
【0038】
表1の結果からは、試験開始前では各群の体重に何ら差異はないが、試験開始後では各群の動物の体重がいずれも安定して増加し続けていることが分かり、本発明が開示するストレプトコッカス・サリバリウス・亜種・サーモフィラスST7発酵組成物は動物への副作用がなく、動物体の成長に影響しないことを示している。
【0039】
【0040】
実施例6:血液生化学検査
【0041】
実施例5の試験終了後、各群のマウスを犠牲にして、心臓採血の方法でマウスの血液を採取し、4℃、15000×gの条件下で15分間遠心し、血清部分を取り、血液自動分析装置(Hitachi 7060,Hitachi,Tokyo,Japan)を用いて肝損傷指標であるAST(aspartate aminotransferase)及びALT(alanine aminoTransferase)の分析を行った。結果は下記表2の通りである。
【0042】
表2の結果からは、各群のマウスの肝損傷指標の数値に明らかな差異はみられず、本発明が開示するストレプトコッカス・サリバリウス・亜種・サーモフィラスST7発酵組成物は動物体の肝機能に影響しないことが分かる。
【0043】
【0044】
実施例7:前肢握力試験
【0045】
実施例5の試験29日目(即ち本発明のストレプトコッカス・サリバリウス・亜種・サーモフィラスST7発酵組成物の投与4週後)において、各群のマウスに前肢握力試験を行い、相対的握力(Relative grip strength)を計算した。結果は下記表3に示す通りである。
【0046】
表3の結果からは、第1群と比較して、第2群と第3群のマウスの絶対前肢握力はそれぞれ1.13倍、1.17倍増加しており、第1群のマウスと比較して、第2群と第3群のマウスの相対前肢握力はそれぞれ1.13倍、1.17倍増加していることが分かる。
【0047】
表3の結果は、本発明が開示するストレプトコッカス・サリバリウス・亜種・サーモフィラスST7発酵組成物を個体に有効量投与することで、個体の握力が確実に増加すること、また握力の増加は個体の体重に影響されないことを示しており、これはつまり、本発明が開示するストレプトコッカス・サリバリウス・亜種・サーモフィラスST7発酵組成物は、サルコペニアや関連症状を効果的に改善又は軽減し、個体の運動パフォーマンスを効果的に向上せしめる効果を達成し得るということである。
【0048】
【0049】
実施例7:持久力試験
【0050】
遊泳試験に先立ち、1週間前に各群のマウスを遊泳に慣れさせた(水温27±1℃)。試験31日目に、各群のマウスに負荷(体重5%)を負わせて遊泳限界試験を行った。即ち、マウスを透明な水槽(直径15cm、水深20cm、水温27±1℃)に入れ、試験動物に強制的に遊泳運動を行わせて、各群のマウスが限界に達する時間を測定した。結果は表4に示す通りである。そのうち、各群のマウスは遊泳前に12時間絶食させ、試験の30分前に当日のストレプトコッカス・サリバリウス・亜種・サーモフィラスST7発酵組成物を投与した。
【0051】
表4の結果からは、第2群と第3群のマウスの限界遊泳時間は第1群よりもそれぞれ2.55倍、2.69倍と顕著に上昇していることが分かる。この結果は、本発明が開示するストレプトコッカス・サリバリウス・亜種・サーモフィラスST7発酵組成物が筋肉細胞内ATP含有量を増強して筋肉能力を向上せしめ、動物体の運動パフォーマンスを向上させる効果を効果的に達成し得ることを示している。
【0052】
【0053】
実施例9:血中乳酸濃度の分析
【0054】
実施例8の過程において、各群のマウスの遊泳前、遊泳後の10分休憩後、遊泳後の20分休憩後の3つの時間点で血中乳酸濃度の変化を測定し、運動後の血中乳酸上昇比の値を計算した。結果は表5に示す通りである。
【0055】
表5の結果からは、遊泳前では各群のマウスの血中乳酸濃度に顕著な差異がなく、遊泳10分後では、第1群、第2群及び第3群のマウスの血中乳酸濃度がそれぞれ8.41±0.39、6.31±0.42、5.70±0.59mmol/Lであり、遊泳後に20分休憩した血中乳酸濃度においては、第1群、第2群及び第3群のマウスの血中乳酸濃度がそれぞれ7.75±0.29、5.45±0.42、4.85±0.32mmol/Lであることが分かる。さらに、遊泳10分後と20分休憩後の2つの時間点における血中乳酸濃度比の値によって血中乳酸消失比の値を算出することができ、第1群、第2群及び第3群のマウスの乳酸消失比の値はそれぞれ0.08±0.06、0.13±0.05、0.14±0.13であった。
【0056】
表5の結果から、個体が運動活動を行う前に、本発明が開示するストレプトコッカス・サリバリウス・亜種・サーモフィラスST7発酵組成物を有効量投与することで、運動後に生じる乳酸を効果的に減少させることができ、且つ個体の体内の乳酸を除去又は代謝する能力を向上させることができ、これによって身体の疲労感を低減し且つ筋肉の回復度を向上せしめて、個体の運動パフォーマンスの向上及びサルコペニアの予防又は改善を助ける効果を達成し得ることが分かる。
【0057】
【0058】
実施例10:血中尿素窒素及びクレアチンキナーゼ含有量の分析
【0059】
実施例5の試験35日目において、本発明が開示するストレプトコッカス・サリバリウス・亜種・サーモフィラスST7発酵組成物の投与30分後に、各群のマウスの水中無負荷遊泳を90分間行い(水温30℃)、60分休憩後に採血して、各群のマウスの血中尿素窒素(Blood urea nitrogen,BUN)とクレアチンキナーゼ(Creatine kinase,CK)の含有量を分析した。結果は表6に示す通りである。
【0060】
表6の結果からは、第1群、第2群及び第3群の血中尿素窒素濃度はそれぞれ42.59±1.89、36.33±4.25、35.74±3.16mg/dLであることが分かる。さらなる分析では、第1群のマウスと比較して、第2群と第3群のマウスの血中尿素窒素含有量はそれぞれ14.7%、16.1%の顕著な低下を示していた。
【0061】
また、血中クレアチンキナーゼ活性の変化については、第1群、第2群及び第3群のクレアチンキナーゼはそれぞれ1934.88±105.06、1632.00±285.39、1664.50±163.47U/Lであった。上述のデータのさらなる分析からは、第1群のマウスと比較して、第2群と第3群のマウスの血中クレアチンキナーゼ活性はそれぞれ15.7%、14.0%の顕著な低下を示していることが分かった。
【0062】
上述の結果は、本発明が開示するストレプトコッカス・サリバリウス・亜種・サーモフィラスST7発酵組成物を個体に有効量投与することで、運動後の血中尿素窒素濃度とクレアチンキナーゼ活性の低減を助けることを裏付けている。即ち、本発明が開示するストレプトコッカス・サリバリウス・亜種・サーモフィラスST7発酵組成物は、運動又は労働後に生じる筋肉損傷の修復を助けることができ、個体の運動パフォーマンスや運動意欲を効果的に向上させて、サルコペニアを予防又は軽減することができるということである。
【0063】
表6:各群のマウスの血中尿素窒素濃度とクレアチンキナーゼ活性の分析
【0064】
実施例11:肝臓及び筋肉中の肝グリコーゲン含有量の分析
【0065】
各群のマウスで無負荷遊泳90分試験(実施例10で説明した通り)を行った後、各群のマウスを2日間休ませてから(即ち試験37日目)、本発明が開示するストレプトコッカス・サリバリウス・亜種・サーモフィラスST7発酵組成物を給餌し、給餌して30分後に各群のマウスを犠牲にして、各群のマウスの肝臓と脚部の筋肉を取って肝グリコーゲン含有量を分析し、且つ市販の肝グリコーゲン(Glycogen Sigma)を標準品として検量線を作成して、動物肝臓及び筋肉組織中の肝グリコーゲン蓄積量の変化状況を群別に計算した。結果は表7に示す通りである。
【0066】
表7の結果は、第1群、第2群及び第3群のマウスの肝臓中肝グリコーゲン含有量がそれぞれ12.21±0.96、16.88±2.21、20.64±2.29mg/g liverであることを示している。上述のデータのさらなる分析からは、第1群のマウスと比較して、第2群と第3群のマウスの肝臓中肝グリコーゲン含有量は1.38倍、1.69倍と顕著に上昇していることが分かった。また、第1群、第2群及び第3群のマウスの筋肉部分の肝グリコーゲン含有量はそれぞれ0.97±0.24、1.07±0.37、1.36±0.53mg/g muscleであり、上述のデータの分析からは、第1群のマウスと比較して、第3群のマウスの筋肉内肝グリコーゲン含有量は1.40倍と顕著に上昇していることが分かった。
【0067】
表7の結果は、本発明が開示するストレプトコッカス・サリバリウス・亜種・サーモフィラスST7発酵組成物を個体に有効量投与することで、個体の肝臓及び筋肉部分の肝グリコーゲン含有量の上昇を助けることができ、これにより筋肉能力や筋肉量が強化又は改善されて、個体の運動パフォーマンスの向上や、サルコペニア及びその病症を軽減する効果が達成されることを証明し得るものである。
【0068】
表7:各群のマウスの肝臓及び筋肉中の肝グリコーゲン含有量