(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024018828
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】ポリイミド前駆体組成物、ポリイミドフィルムおよびポリイミドフィルム/基材積層体
(51)【国際特許分類】
C08G 73/10 20060101AFI20240201BHJP
【FI】
C08G73/10
【審査請求】有
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022146527
(22)【出願日】2022-09-14
(62)【分割の表示】P 2022140335の分割
【原出願日】2022-09-02
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-03-08
(31)【優先権主張番号】P 2022122329
(32)【優先日】2022-07-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000206
【氏名又は名称】UBE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106297
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 克博
(72)【発明者】
【氏名】岡 卓也
(72)【発明者】
【氏名】根本 雄基
(72)【発明者】
【氏名】小濱 幸徳
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 太一
【テーマコード(参考)】
4J043
【Fターム(参考)】
4J043PA02
4J043PA04
4J043PA08
4J043PA19
4J043QB15
4J043QB26
4J043QB31
4J043RA05
4J043RA35
4J043SA06
4J043SB01
4J043SB03
4J043TA22
4J043TB01
4J043TB03
4J043TB04
4J043UA131
4J043UA132
4J043UA151
4J043UA432
4J043UA672
4J043UB062
4J043UB121
4J043UB122
4J043UB131
4J043UB161
4J043UB302
4J043UB401
4J043UB402
4J043XA02
4J043XA04
4J043XA16
4J043YA06
4J043ZA32
4J043ZA34
4J043ZA35
4J043ZA52
4J043ZB21
4J043ZB23
4J043ZB50
(57)【要約】 (修正有)
【課題】耐熱性および線熱膨張係数などの芳香族系ポリイミドフィルムの利点を生かしながら、光透過性と共にポリイミドフィルム/基材積層体における密着性が改善されたポリイミドフィルムを製造する。
【解決手段】繰り返し単位が下記一般式(I)で表されるポリイミド前駆体、および任意成分として少なくとも1種のイミダゾール化合物を所定の量で含有する、ポリイミド前駆体組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
繰り返し単位が下記一般式(I)で表されるポリイミド前駆体、および任意成分として少なくとも1種のイミダゾール化合物を、前記ポリイミド前駆体の繰り返し単位1モルに対して1モル未満の量で含有する、ポリイミド前駆体組成物;
【化1】
(一般式I中、X
1は4価の脂肪族基または芳香族基であり、Y
1は2価の脂肪族基または芳香族基であり、R
1およびR
2は互いに独立して、水素原子、炭素数1~6のアルキル基または炭素数3~9のアルキルシリル基であり、ここで、
X
1は、(i)または(ii)のいずれかを満たし、
(i)式(1-1)で表される構造を50モル%以上含み、且つ式(1-1)で表される構造および式(1-2)で表される構造を合計で70モル%以上含む、
(ii)式(1-1)で表される構造および/または式(1-2)で表される構造を70モル%以上含む、
【化2】
Y
1は、式(B)で表される構造を70モル%以上含む。
【化3】
)
ただし、前記(ii)の場合においては、必須成分として、少なくとも1種のイミダゾール化合物を、前記ポリイミド前駆体の繰り返し単位1モルに対して0.01モル以上、1モル未満の量で含有することを条件とする。
【請求項2】
X1の60モル%以上が、式(1-1)で表される構造であることを特徴とする請求項1に記載のポリイミド前駆体組成物。
【請求項3】
Y1の80モル%以上が式(B)で表される構造である請求項1に記載のポリイミド前駆体組成物。
【請求項4】
少なくとも1種のイミダゾール化合物を、前記ポリイミド前駆体の繰り返し単位1モルに対して0.01モル以上、1モル未満の量でさらに含有する、請求項1に記載のポリイミド前駆体組成物。
【請求項5】
前記イミダゾール化合物が、1,2-ジメチルイミダゾール、1-メチルイミダゾール、2-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、1-フェニルイミダゾール、イミダゾールおよびベンゾイミダゾールからなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項4に記載のポリイミド前駆体組成物。
【請求項6】
請求項1に記載のポリイミド前駆体組成物から得られるポリイミドフィルム。
【請求項7】
請求項1に記載のポリイミド前駆体組成物から得られるポリイミドフィルムと、
基材と
を有することを特徴とするポリイミドフィルム/基材積層体。
【請求項8】
前記積層体のポリイミドフィルム上に、さらに無機薄膜層を有する請求項7に記載の積層体。
【請求項9】
前記基材が、ガラス基板である請求項7または8に記載の積層体。
【請求項10】
(a)請求項1に記載のポリイミド前駆体組成物を、基材上に塗布する工程、および
(b)前記基材上で前記ポリイミド前駆体を加熱処理し、前記基材上にポリイミドフィルムを積層する工程
を有するポリイミドフィルム/基材積層体の製造方法。
【請求項11】
前記工程(b)の後に、
(c)前記積層体のポリイミドフィルム上に、無機薄膜層を形成する工程をさらに有する請求項10に記載の積層体の製造方法。
【請求項12】
(d)請求項11で製造された積層体の無機薄膜層上に、導電体層および半導体層から選ばれる少なくとも1つの層を形成する工程、および
(e)前記基材と前記ポリイミドフィルムとを剥離する工程
を有するフレキシブル電子デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばフレキシブルデバイスの基板等の電子デバイス用途に好適に使用されるポリイミド前駆体組成物、ポリイミドフィルムおよびポリイミドフィルム/基材積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミドフィルムは、耐熱性、耐薬品性、機械的強度、電気特性、寸法安定性などに優れていることから、電気・電子デバイス分野、半導体分野などの分野で広く使用されてきた。一方、近年、高度情報化社会の到来に伴い、光通信分野の光ファイバーや光導波路等、表示装置分野の液晶配向膜やカラーフィルター用保護膜等の光学材料の開発が進んでいる。特に表示装置分野で、ガラス基板の代替として軽量でフレキシブル性に優れたプラスチック基板の検討や、曲げたり丸めたりすることが可能なディスプレイの開発が盛んに行われている。
【0003】
液晶ディスプレイや有機ELディスプレイなどのディスプレイでは、各ピクセルを駆動するためのTFT(薄膜トランジスタ)等の半導体素子が形成される。このため、基板には耐熱性や寸法安定性が要求される。ポリイミドフィルムは、耐熱性、耐薬品性、機械的強度、電気特性、寸法安定性などに優れていることから、ディスプレイ用途の基板として有望である。
【0004】
一般に、フレキシブルなフィルムは平面性を維持するのが難しいため、フレキシブルなフィルム上にTFT等の半導体素子、微細配線等を均一に精度良く形成することは困難である。この問題を解決するため、例えば特許文献1には、「特定の前駆体樹脂組成物をキャリア基板上に塗布成膜して固体状のポリイミド樹脂膜を形成する工程、前記樹脂膜上に回路を形成する工程、前記回路が表面に形成された固体状の樹脂膜を前記キャリア基板から剥離する工程の各工程を含む、表示デバイス又は受光デバイスであるフレキシブルデバイスの製造方法」が記載されている。
【0005】
また、特許文献2には、フレキシブルデバイスを製造する方法として、ガラス基板上にポリイミドフィルムを形成して得られたポリイミドフィルム/ガラス基材積層体上に、デバイスに必要な素子および回路を形成した後、ガラス基板側からレーザーを照射して、ガラス基板を剥離することを含む方法が開示されている。
【0006】
特許文献1、2に記載のフレキシブル電子デバイスの製造方法においては、ポリイミドフィルム/ガラス基材積層体をハンドリングするため、ポリイミドフィルムとガラス基材の間には適切な密着性が必要である。
【0007】
ポリイミドは、一般に黄褐色に着色しているため、バックライトを備えた液晶ディスプレイなどの透過型デバイスでの使用には制限があったが、近年になって、機械的特性、熱的特性に加えて光透過性に優れたポリイミドフィルムが開発されており、ディスプレイ用途の基板としてさらに期待が高まっている。例えば特許文献3には、光透過性に加えて機械的特性や耐熱性等に優れた半脂環式ポリイミドが記載されている。
【0008】
一方、フレキシブル電子デバイス基板用途の芳香族系のポリイミドとしては、例えば、特許文献4、5に2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(TFMB)のようなフッ素含有芳香族ジアミンを含むジアミン成分を使用したポリイミドが開示されている。また、同用途として、特許文献6、7、8には、エステル結合を含有する芳香族ジアミン化合物を含むジアミン成分を使用した例が開示されている。エステル結合を含有する芳香族ジアミン化合物を成分とするポリイミドは、銅張積層板用途(例えば特許文献9)、剥離層形成のための用途(特許文献10)も知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2010-202729号公報
【特許文献2】国際公開第2018/221607号公報
【特許文献3】国際公開第2012/011590号公報
【特許文献4】国際公開第2009/107429号公報
【特許文献5】国際公開第2019/188265号公報
【特許文献6】特開2021-175790
【特許文献7】国際公開第2017/051827号公報
【特許文献8】中国特許出願公開第110003470号公報
【特許文献9】特開2021-195380号公報
【特許文献10】国際公開第2016/129546号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
近年、TFTの成膜方法も改良が進み、従来に比べて成膜温度の低温化が進んでいるが、特定のプロセスでは未だ高温処理が必要であり、またプロセスマージンが大きいほど歩留まりがよいことから、基板フィルムの耐熱性はできるだけ高い方が好ましい。芳香族系ポリイミドは着色の点で問題はあるが、一般に耐熱性に優れているため、可能な限り着色が低減されれば、ディスプレイ用途の基板として使用できる可能性がある。
【0011】
特に、アンダーディスプレイカメラを搭載したスマートフォン等では、光がディスプレイを通してカメラに到達するため、当該ディスプレイ用のポリイミドフィルムには高い光透過率、特にセンサーの感度領域で高い光透過率が求められている。また、例えば折り曲げ可能なフレキシブルディスプレイにおける折り曲げ部分の白化防止のためなどにおいて、高弾性率が求められる。
【0012】
前述のとおり特許文献4、5には2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン(TFMB)の使用例が開示されているが、本発明者が検討を進めたところ、TFMBをモノマー成分として使用したポリイミドフィルム/ガラス基材積層体から電子デバイスを形成していく過程で、ポリイミドフィルムがガラス基材から剥離し易いという問題が発見された。剥離は、ポリイミドフィルム/ガラス基材積層体にガスバリア機能を有する無機薄膜を形成した後に、積層体が高温に曝されたときにおきやすい。
【0013】
特許文献6、7には4-アミノフェニル-4-アミノベンゾエート(APAB;本願では4-BAABと略す)を含むジアミン成分の使用例が記載されているが、フィルムの着色性の点で不十分である。特許文献8では、特定構造のジアミン化合物が必要であり、フィルムの着色性およびフィルムの弾性率の点で不十分である。また、特許文献9、10に記載された他の用途のポリイミド前駆体組成物から得られるポリイミドフィルムは、ディスプレイ用途に必要な性能を満たさない。
【0014】
また、フレキシブル電子デバイスの製造において、大判のポリイミドフィルム/ガラス基材積層体(素子形成後を含む)を、個々のフレキシブル電子デバイス(中間製品)に切り分ける工程を含む場合がある。ポリイミドフィルムとガラス基材間の密着性が不十分であると、当該工程においてポリイミドフィルムとガラス基材間に剥がれが生じることがある。これは、ポリイミドが水分を吸収し易いため、カット後の端面(上部はバリア膜)から大気中の水分を吸収して膨張しようとし、密着性が弱い場合に剥離が生じるためと考えられる。また、ポリイミドフィルムをガラス基材から引き剥がすレーザーリフトオフ工程では、ポリイミドフィルムとガラス基材間の密着強度が高い方が、レーザー強度が小さくて済むため、加工後のポリイミドの変化が少なく(変化がない)、一方、密着性が弱いとレーザー強度を強める必要があるため、加工後のポリイミドが変色したり機械特性の低下が起こったりすることがある。従って、ポリイミドフィルムとガラス基材間の密着性、即ち剥離強度は、極めて高いことが求められる。
【0015】
従って本発明は、耐熱性および線熱膨張係数などの芳香族系ポリイミドフィルムの利点を生かしながら、光透過性、ポリイミドフィルム/基材積層体における密着性等の、フレキシブル電子デバイス用途、特にフレキシブルディスプレイ基板用途のポリイミドフィルムを製造するためのポリイミド前駆体組成物を提供することを目的とする。さらに本発明は、このポリイミド前駆体から得られるポリイミドフィルム、ポリイミドフィルム/基材積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本出願の主要な開示事項をまとめると、以下のとおりである。項A1~A12に関する発明を発明Aシリーズ、項B1~B12に関する発明を発明Bシリーズという。
【0017】
発明Aシリーズの発明は以下の通りである。
A1. 繰り返し単位が下記一般式(I)で表されるポリイミド前駆体、および任意成分として少なくとも1種のイミダゾール化合物を、前記ポリイミド前駆体の繰り返し単位1モルに対して1モル未満の量で含有する、ポリイミド前駆体組成物;
【化1】
(一般式I中、X
1は4価の脂肪族基または芳香族基であり、Y
1は2価の脂肪族基または芳香族基であり、R
1およびR
2は互いに独立して、水素原子、炭素数1~6のアルキル基または炭素数3~9のアルキルシリル基であり、ここで、
X
1は、(i)または(ii)のいずれかを満たし、
(i)式(1-1)で表される構造を50モル%以上含み、且つ式(1-1)で表される構造および式(1-2)で表される構造を合計で70モル%以上含む、
(ii)式(1-1)で表される構造および/または式(1-2)で表される構造を70モル%以上含む、
【化2】
Y
1は、式(B)で表される構造を70モル%以上含む。
【化3】
)
ただし、前記(ii)の場合においては、必須成分として、少なくとも1種のイミダゾール化合物を、前記ポリイミド前駆体の繰り返し単位1モルに対して0.01モル以上、1モル未満の量で含有することを条件とする。
【0018】
A2. X1の60モル%以上が、式(1-1)で表される構造であることを特徴とする上記項A1に記載のポリイミド前駆体組成物。
【0019】
A3. Y1の80モル%以上が式(B)で表される構造である先行する上記項のいずれか1項に記載のポリイミド前駆体組成物。
【0020】
A4. 少なくとも1種のイミダゾール化合物を、前記ポリイミド前駆体の繰り返し単位1モルに対して0.01モル以上、1モル未満の量でさらに含有する、先行する上記項のいずれか1項に記載のポリイミド前駆体組成物。
【0021】
A5. 前記イミダゾール化合物が、1,2-ジメチルイミダゾール、1-メチルイミダゾール、2-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、1-フェニルイミダゾール、イミダゾールおよびベンゾイミダゾールからなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする上記項4に記載のポリイミド前駆体組成物。
【0022】
A6. 先行する上記項のいずれか1項に記載のポリイミド前駆体組成物から得られるポリイミドフィルム。
【0023】
A7. 先行する上記項のいずれか1項に記載のポリイミド前駆体組成物から得られるポリイミドフィルムと、
基材と
を有することを特徴とするポリイミドフィルム/基材積層体。
【0024】
A8. 前記積層体のポリイミドフィルム上に、さらに無機薄膜層を有する上記項A7に記載の積層体。
【0025】
A9. 前記基材が、ガラス基板である先行する上記項のいずれか1項に記載の積層体。
【0026】
A10. (a)先行する上記項のいずれか1項に記載のポリイミド前駆体組成物を、基材上に塗布する工程、および
(b)前記基材上で前記ポリイミド前駆体を加熱処理し、前記基材上にポリイミドフィルムを積層する工程
を有するポリイミドフィルム/基材積層体の製造方法。
【0027】
A11. 前記工程(b)の後に、
(c)前記積層体のポリイミドフィルム上に、無機薄膜層を形成する工程をさらに有する上記項A10に記載の積層体の製造方法。
【0028】
A12. (d)上記項A11で製造された積層体の無機薄膜層上に、導電体層および半導体層から選ばれる少なくとも1つの層を形成する工程、および
(e)前記基材と前記ポリイミドフィルムとを剥離する工程
を有するフレキシブル電子デバイスの製造方法。
【0029】
本願明細書は、上記と異なる態様の発明である発明Bシリーズの発明も開示している。
B1. 繰り返し単位が下記一般式(I)で表されるポリイミド前駆体、および
前記ポリイミド前駆体の繰り返し単位1モルに対して、0.01モル以上1モル未満の量の少なくとも1種のイミダゾール化合物
を含有する、ポリイミド前駆体組成物。
【化4】
(一般式I中、X
1は4価の脂肪族基または芳香族基であり、Y
1は2価の脂肪族基または芳香族基であり、R
1およびR
2は互いに独立して、水素原子、炭素数1~6のアルキル基または炭素数3~9のアルキルシリル基であり、ここで、
X
1は、式(1-1)で表される構造および/または式(1-2)で表される構造を70モル%以上含み、
【化5】
Y
1は、式(B)で表される構造を50モル%以上含む。
【化6】
)
【0030】
B2. X1の40モル%以上が、式(1-1)で表される構造であることを特徴とする上記項B1に記載のポリイミド前駆体組成物。
【0031】
B3. Y1の60モル%以上が式(B)で表される構造である先行する上記項のいずれか1項に記載のポリイミド前駆体組成物。
【0032】
X1が、式(1-1)で表される構造および式(1-2)で表される構造を合計で60モル%以上含む、先行する上記項のいずれか1項に記載のポリイミド前駆体組成物。
【0033】
B5. 前記イミダゾール化合物が、1,2-ジメチルイミダゾール、1-メチルイミダゾール、2-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、1-フェニルイミダゾール、イミダゾールおよびベンゾイミダゾールからなる群より選ばれる少なくとも1種である、先行する上記項のいずれか1項に記載のポリイミド前駆体組成物。
【0034】
B6. 先行する上記項のいずれか1項に記載のポリイミド前駆体組成物から得られるポリイミドフィルム。
【0035】
B7. 先行する上記項のいずれか1項に記載のポリイミド前駆体組成物から得られるポリイミドフィルムと、
基材と
を有することを特徴とするポリイミドフィルム/基材積層体。
【0036】
B8. 前記積層体のポリイミドフィルム上に、さらに無機薄膜層を有する上記項B7に記載の積層体。
【0037】
B9. 前記基材が、ガラス基板である先行する上記項のいずれか1項に記載の積層体。
【0038】
B10. (a)先行する上記項のいずれか1項に記載のポリイミド前駆体組成物を、基材上に塗布する工程、および
(b)前記基材上で前記ポリイミド前駆体を加熱処理し、前記基材上にポリイミドフィルムを積層する工程
を有するポリイミドフィルム/基材積層体の製造方法。
【0039】
B11. 前記工程(b)の後に、
(c)前記積層体のポリイミドフィルム上に、無機薄膜層を形成する工程をさらに有する上記項B10に記載の積層体の製造方法。
【0040】
B12. (d)上記項B11で製造された積層体の無機薄膜層上に、導電体層および半導体層から選ばれる少なくとも1つの層を形成する工程、および
(e)前記基材と前記ポリイミドフィルムとを剥離する工程
を有するフレキシブル電子デバイスの製造方法。
【発明の効果】
【0041】
本発明によれば、耐熱性および線熱膨張係数などの芳香族系ポリイミドフィルムの利点を生かしながら、光透過性と共にポリイミドフィルム/基材積層体における密着性が改善されたポリイミドフィルムを製造するためのポリイミド前駆体組成物を提供することができる。さらに本発明は、このポリイミド前駆体から得られるポリイミドフィルム、ポリイミドフィルム/基材積層体を提供することができる。
【0042】
加えて、本発明の一態様によれば、粘度がより安定したポリイミド前駆体組成物を提供することができる。
【0043】
さらに本発明の一態様によれば、前記ポリイミド前駆体組成物を使用して得られるポリイミドフィルム、およびポリイミドフィルム/基材積層体を提供することができる。さらに本発明の異なる一態様によれば、前記ポリイミド前駆体組成物を使用するフレキシブル電子デバイスの製造方法、およびフレキシブル電子デバイスを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0044】
本出願において、「フレキシブル(電子)デバイス」とは、デバイス自身がフレキシブルであることを意味し、通常、基板上で半導体層(素子としてトランジスタ、ダイオード等)が形成されてデバイスが完成する。「フレキシブル(電子)デバイス」は、従来のFPC(フレキシブルプリント配線板)上にICチップ等の「硬い」半導体素子が搭載された例えばCOF(Chip On Film)等のデバイスと区別される。但し、本願の「フレキシブル(電子)デバイス」を動作または制御するために、ICチップ等の「硬い」半導体素子をフレキシブル基板上に搭載したり、電気的に接続したりして、融合して使用することは何ら問題がない。好適に使用されるフレキシブル(電子)デバイスとしては、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ等のフレキシブルディスプレイ、および電子ペーパー等の表示デバイス、太陽電池、およびCMOS等の受光デバイスを挙げることができる。
より具体的には、用語「フレキシブル(電子)デバイス基板」には、フレキシブル配線基板(フレキシブル基板、フレキシブルプリント配線板等とも称される。)は含まない。
【0045】
本出願において、用語「フレキシブル(電子)デバイス基板用」、「フレキシブルディスプレイ基板用」がポリイミドフィルムについて使用されるとき、ポリイミドフィルムそのものが最終製品中に存在する基板の主要構成要素(または基板そのもの)であることを意味し、最終製品中に存在しないフィルムおよび層、基板に積層される付属的な層を意味しない。具体例を挙げると、剥離層は基板ではない。
用語「フレキシブル(電子)デバイス基板用」、「フレキシブルディスプレイ基板用」がポリイミド前駆体組成物について使用されるとき、上記基板用のポリイミドフィルムを直接製造するポリイミド前駆体組成物を意味し、具体的には当該ポリイミド前駆体組成物を基材上に塗布し、イミド化することで「フレキシブル(電子)デバイス基板用(フレキシブルディスプレイ基板用を含む。以下同じ。)」のポリイミドフィルムが得られる。従って、例えば2種以上のポリイミド前駆体組成物(中間組成物)を混合して、ポリイミドフィルム製造に使用する場合、個々のポリイミド前駆体組成物は、本出願で定義する「フレキシブル(電子)デバイス基板用」ではない。これは、得られるポリイミドフィルムの構造は、ポリイミドフィルムを直接製造するポリイミド前駆体組成物の構造に依存するからである。
また、銅(または金属)張積層板は、フレキシブル配線基板(フレキシブル基板、フレキシブルプリント配線板)を製造するために使用されるが、フレキシブル(電子)デバイスを製造するものでないから、銅張積層板製造用のポリイミド前駆体組成物は、「フレキシブル(電子)デバイス基板用」のポリイミド前駆体組成物ではない。尚、以上の用語の定義については、本明細書においてさらに詳細に説明する場合がある。
【0046】
以下に、本発明のポリイミド前駆体組成物について説明し、その後、フレキシブル電子デバイスの製造方法について説明する。以下、発明Aシリーズを中心に説明し、イミダゾール化合物を必須成分として含む発明Bシリーズについては、イミダゾール化合物の項目で説明する。矛盾しない限りにおいて、発明Aシリーズの説明は発明Bシリーズの発明にも適用される。
【0047】
<<ポリイミド前駆体組成物>>
ポリイミドフィルムを形成するためのポリイミド前駆体組成物は、ポリイミド前駆体を含有する。好ましい形態において、ポリイミド前駆体組成物はさらに溶媒を含有し、ポリイミド前駆体は溶媒に溶解している。
【0048】
ポリイミド前駆体は、下記一般式(I):
【0049】
【化7】
(一般式I中、X
1は4価の脂肪族基または芳香族基であり、Y
1は2価の脂肪族基または芳香族基であり、R
1およびR
2は互いに独立して、水素原子、炭素数1~6のアルキル基または炭素数3~9のアルキルシリル基である。)
で表される繰り返し単位を有する。特に好ましくは、R
1およびR
2が水素原子であるポリアミック酸である。X
1およびY
1が脂肪族基である場合、脂肪族基は好ましくは脂環構造を有する基である。
【0050】
ポリイミド前駆体の全繰り返し単位中、X1は、式(1-1)で表される構造を50モル%以上含み、且つ式(1-1)で表される構造および式(1-2)で表される構造を合計で70モル%以上含む。ここで、式(1-1)および式(1-2)は、それぞれオキシジフタル酸二無水物(略称ODPA)、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(略称s-BPDA)に由来する構造である。
【0051】
【0052】
また、Y
1の70モル%以上が、式(B)で表される構造、即ち4-アミノフェニル-4-アミノベンゾエート(略称4-BAAB)に由来する構造である。
【化9】
【0053】
このようなポリイミド前駆体を含有する組成物を使用することで、高い光透過性および高弾性率を有すると共にポリイミドフィルム/基材積層体における密着性が改善されたポリイミドフィルムを製造することができる。また、得られるポリイミドフィルムは、全芳香族ポリイミドフィルムの利点である、耐熱性および低線熱膨張係数等の特性においても優れている。
【0054】
ポリイミド前駆体について、一般式(I)中のX1およびY1を与えるモノマー(テトラカルボン酸成分、ジアミン成分、その他成分)により説明し、続いて製造方法を説明する。
【0055】
本明細書において、テトラカルボン酸成分は、ポリイミドを製造する原料として使用されるテトラカルボン酸、テトラカルボン酸二無水物、その他テトラカルボン酸シリルエステル、テトラカルボン酸エステル、テトラカルボン酸クロライド等のテトラカルボン酸誘導体を含む。特に限定されるわけではないが、製造上、テトラカルボン酸二無水物を使用することが簡便であり、以下の説明ではテトラカルボン酸成分としてテトラカルボン酸二無水物を用いた例を説明する。また、ジアミン成分は、ポリイミドを製造する原料として使用される、アミノ基(-NH2)を2個有するジアミン化合物である。
【0056】
また、本明細書において、ポリイミドフィルムは、(キャリア)基材上に形成されて積層体の中に存在するもの、および基材を剥離した後のフィルムの両方を意味する。また、ポリイミドフィルムを構成している材料、即ちポリイミド前駆体組成物を加熱処理して(イミド化して)得られた材料を、「ポリイミド材料」という場合がある。
【0057】
<X1およびテトラカルボン酸成分>
前述のとおり、(i)または(ii)を満たす。
(i)ポリイミド前駆体の全繰り返し単位中、好ましくはX1の50モル%以上が、以下の式(1-1)で示される構造(ODPA由来)であり、好ましくは式(1-1)で表される構造(ODPA由来)および式(1-2)で表される構造(s-BPDA由来)の合計量がX1の70モル%以上である。
(ii)後述するイミダゾール化合物を、ポリイミド前駆体の繰り返し単位1モルに対して0.01モル以上、1モル未満の量で含有することを条件として、式(1-1)で表される構造(ODPA由来)および式(1-2)で表される構造(s-BPDA由来)の合計量が好ましくはX1の70モル%以上であり、式(1-1)の構造および式(1-2)の構造のどちらか1種のみを含んでいてもよい。
また、(i)、(ii)のどちらの場合でも、X1が式(1-1)の構造および式(1-2)の構造のみから成ってもよい(つまり、式(1-1)の構造および式(1-2)の合計が100モル%)。
【0058】
より好ましくは、X1の60モル%以上が式(1-1)の構造であり、高光透過率を求める場合に有利である。さらにより好ましくはX1の70モル%以上、さらにより好ましくは80モル%以上、さらにより好ましくは90モル%以上が式(1-1)の構造であり、100モル%が式(1-1)の構造であってもよい。
【0059】
X1中、式(1-1)および式(1-2)の構造の合計の割合は、より好ましくは75モル%以上、さらに80モル%以上、90モル%以上の順でより好ましく、さらに100モル%であることも好ましい。従って、式(1-2)の構造の割合は、50モル%以下であり、0%であってもよい。式(1-2)の構造を含有することで、線熱膨張係数、機械的特性(弾性率等)を改善することができ、例えば10モル%~40モル%を含有することで、これら特性と光透過率とをバランス良く改善することができる。
【0060】
本発明において、X1として、式(1-1)および式(1-2)で表される構造以外の4価の脂肪族基または芳香族基(「その他のX1」と略称する)を、本発明の効果を損なわない範囲の量で含有することができる。脂肪族基としては脂環構造を有する4価の基が好ましい。従って、テトラカルボン酸成分は、ODPAおよびs-BPDA以外の「その他のテトラカルボン酸誘導体」を、テトラカルボン酸成分100モル%に対して、30モル%以下、より好ましくは20モル%以下、さらにより好ましくは10モル%以下の量で含んでもよい。「その他のテトラカルボン酸誘導体」の量が0モル%であることも好ましい1実施形態である。
【0061】
また、X1中の式(1-1)の構造(ODPA由来)の割合が70モル%未満の場合、特に60モル%未満の場合に、「その他のX1」を0モル%超、例えば10モル%以上、30モル%以下、例えば20モル%以下の割合で含有させることも好ましい。この場合に特に好ましい「その他のX1」は2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物(6FDA)等のフッ素原子を含有する芳香族環を有するテトラカルボン酸二無水物由来の4価の基、2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(a-BPDA)由来の4価の基が好ましい。尚、この場合に限らない「その他のX1」については次に説明するとおりである。
【0062】
「その他のX1」としては、芳香族環を有する4価の基が好ましく、炭素数が6~40の芳香族環を有する4価の基が好ましい。
【0063】
芳香族環を有する4価の基としては、例えば、下記のものが挙げられる。但し、式(1-1)および(1-2)に相当する基は除かれる。
【0064】
【化10】
(式中、Z
1は直接結合、または、下記の2価の基:
【0065】
【化11】
のいずれかである。ただし、式中のZ
2は、2価の有機基、Z
3、Z
4はでそれぞれ独立にアミド結合、エステル結合、カルボニル結合であり、Z
5は芳香環を含む有機基である。)
【0066】
Z2としては、具体的には、炭素数2~24の脂肪族炭化水素基、炭素数6~24の芳香族炭化水素基が挙げられる。
【0067】
Z5としては、具体的には、炭素数6~24の芳香族炭化水素基が挙げられる。
【0068】
芳香族環を有する4価の基としては、得られるポリイミドフィルムの高耐熱性と高光透過性を両立できるので、下記のものが特に好ましい。
【0069】
【化12】
(式中、Z
1は直接結合、または、へキサフルオロイソプロピリデン結合である。)
【0070】
ここで、得られるポリイミドフィルムの高耐熱性、高光透過性、低線熱膨張係数を両立できるので、Z1は直接結合であることがより好ましい。
【0071】
加えて好ましい基として、上記式(9)において、Z1が下式(3A):
【0072】
【化13】
で表されるフルオレニル含有基である化合物が挙げられる。Z
11およびZ
12はそれぞれ独立に、好ましくは同一で、単結合または2価の有機基である。Z
11およびZ
12としては、芳香環を含む有機基が好ましく、例えば式(3A1):
【0073】
【化14】
(Z
13およびZ
14は、互いに独立に単結合、-COO-、-OCO-または-O-であり、ここでZ
14がフルオレニル基に結合した場合、Z
13が-COO-、-OCO-または-O-でZ
14が単結合の構造が好ましく;R
91は炭素数1~4のアルキル基またはフェニル基であり、好ましくはメチルであり、nは0~4の整数であり、好ましくは1である。)
で表される構造が好ましい。
【0074】
X1が芳香族環を有する4価の基である一般式(I)の繰り返し単位を与えるテトラカルボン酸成分としては、例えば、ピロメリット酸、2,3,3’,4’-ビフェニルテトラカルボン酸、9,9-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)フルオレン、4-(2,5-ジオキソテトラヒドロフラン-3-イル)-1,2,3,4-テトラヒドロナフタレン-1,2-ジカルボン酸、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸、3,4’-オキシジフタル酸、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)スルホン、m-ターフェニル-3,4,3’,4’-テトラカルボン酸、p-ターフェニル-3,4,3’,4’-テトラカルボン酸、ビスカルボキシフェニルジメチルシラン、ビスジカルボキシフェノキシジフェニルスルフィド、スルホニルジフタル酸や、これらのテトラカルボン酸二無水物、テトラカルボン酸シリルエステル、テトラカルボン酸エステル、テトラカルボン酸クロライド等の誘導体が挙げられる。X1がフッ素原子を含有する芳香族環を有する4価の基である一般式(I)の繰り返し単位を与えるテトラカルボン酸成分としては、例えば、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパンや、これのテトラカルボン酸二無水物、テトラカルボン酸シリルエステル、テトラカルボン酸エステル、テトラカルボン酸クロライド等の誘導体が挙げられる。テトラカルボン酸成分は、単独で使用してもよく、また複数種を組み合わせて使用することもできる。
【0075】
X1が脂環構造を有する4価の基である式(I)の繰り返し単位を与えるテトラカルボン酸成分としては、例えば、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸、イソプロピリデンジフェノキシビスフタル酸、シクロヘキサン-1,2,4,5-テトラカルボン酸、[1,1’-ビ(シクロヘキサン)]-3,3’,4,4’-テトラカルボン酸、[1,1’-ビ(シクロヘキサン)]-2,3,3’,4’-テトラカルボン酸、[1,1’-ビ(シクロヘキサン)]-2,2’,3,3’-テトラカルボン酸、4,4’-メチレンビス(シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸)、4,4’-(プロパン-2,2-ジイル)ビス(シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸)、4,4’-オキシビス(シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸)、4,4’-チオビス(シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸)、4,4’-スルホニルビス(シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸)、4,4’-(ジメチルシランジイル)ビス(シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸)、4,4’-(テトラフルオロプロパン-2,2-ジイル)ビス(シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸)、オクタヒドロペンタレン-1,3,4,6-テトラカルボン酸、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン-2,3,5,6-テトラカルボン酸、6-(カルボキシメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプタン-2,3,5-トリカルボン酸、ビシクロ[2.2.2]オクタン-2,3,5,6-テトラカルボン酸、ビシクロ[2.2.2]オクタ-5-エン-2,3,7,8-テトラカルボン酸、トリシクロ[4.2.2.02,5]デカン-3,4,7,8-テトラカルボン酸、トリシクロ[4.2.2.02,5]デカ-7-エン-3,4,9,10-テトラカルボン酸、9-オキサトリシクロ[4.2.1.02,5]ノナン-3,4,7,8-テトラカルボン酸、ノルボルナン-2-スピロ-α-シクロペンタノン-α’-スピロ-2’’-ノルボルナン5,5’’,6,6’’-テトラカルボン酸、(4arH,8acH)-デカヒドロ-1t,4t:5c,8c-ジメタノナフタレン-2c,3c,6c,7c-テトラカルボン酸、(4arH,8acH)-デカヒドロ-1t,4t:5c,8c-ジメタノナフタレン-2t,3t,6c,7c-テトラカルボン酸、デカヒドロ-1,4-エタノ-5,8-メタノナフタレン-2,3,6,7-テトラカルボン酸、テトラデカヒドロ-1,4:5,8:9,10-トリメタノアントラセン-2,3,6,7-テトラカルボン酸や、これらのテトラカルボン酸二無水物、テトラカルボン酸シリルエステル、テトラカルボン酸エステル、テトラカルボン酸クロライド等の誘導体が挙げられる。テトラカルボン酸成分は、単独で使用してもよく、また複数種を組み合わせて使用することもできる。
【0076】
<Y1およびジアミン成分>
【0077】
前述のとおり、ポリイミド前駆体中の全繰り返し単位中、好ましくはY1の70モル%以上が式(B)の構造であり、さらに順に、80モル%以上、90モル%以上が式(B)の構造であることがより好ましく、100モル%であることも好ましい。
【0078】
本発明において、Y1として、式(B)で示される構造以外の2価の脂肪族基または芳香族基(「その他のY1」と略称する)を、本発明の効果を損なわない範囲の量で含有することができる。即ち、ジアミン成分は、4-アミノフェニル-4-アミノベンゾエート(4-BAAB)に加えて「その他のジアミン化合物」を、ジアミン成分100モル%に対して、30モル%以下、より好ましくは20モル%以下、さらにより好ましくは10モル%以下の量で含んでもよい。「その他のジアミン化合物」の量が0モル%であることも好ましい1実施形態である。
【0079】
また、式(1-1)の構造(4-BAAB由来)の割合が90モル%未満の場合、特に80モル%以下の場合に、「その他のY1」を0モル%超、例えば10モル%以上、20モル%以下、例えば15モル%以下の割合で含有させることも好ましい。この場合に特に好ましい「その他のY1」は、4,4-オキシジアニリン(4,4-ODA)、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル(BAPB)のような分子鎖方向にエーテル結合を有するジアミン化合物が好ましい。尚、この場合に限らない「その他のY1」については次に説明するとおりである。
【0080】
「その他のY1」が芳香族環を有する2価の基である場合、炭素数が6~40、更に好ましくは炭素数が6~20の芳香族環を有する2価の基が好ましい。
【0081】
芳香族環を有する2価の基としては、例えば、下記のものが挙げられる。
【0082】
【化15】
(式中、W
1は直接結合、または、2価の有機基であり、n
11~n
13は、それぞれ独立に0~4の整数を表し、R
51、R
52、R
53は、それぞれ独立に炭素数1~6のアルキル基、ハロゲン基、水酸基、カルボキシル基、またはトリフルオロメチル基である。)
【0083】
W1としては、具体的には、直接結合、下記の式(5)で表される2価の基、下記の式(6)で表される2価の基が挙げられる。但し、式(B)に相当する基は除かれる。
【0084】
【0085】
【化17】
(式(6)中のR
61~R
68は、それぞれ独立に直接結合または前記式(5)で表される2価の基のいずれかを表す。)
【0086】
ここで、得られるポリイミドの高耐熱性、高光透過性、低線熱膨張係数を両立できるので、W1は、直接結合、または 式:-NHCO-、-CONH-、-COO-、-OCO-で表される基よりなる群から選択される1種であることが特に好ましい。また、W1が、R61~R68が直接結合、または 式:-NHCO-、-CONH-、-COO-、-OCO-で表される基よりなる群から選択される1種である前記式(6)で表される2価の基のいずれかであることも特に好ましい。
【0087】
加えて好ましい基として、上記式(4)において、W1が下式(3B):
【0088】
【化18】
で表されるフルオレニル含有基である化合物が挙げられる。Z
11およびZ
12はそれぞれ独立に、好ましくは同一で、単結合または2価の有機基である。Z
11およびZ
12としては、芳香環を含む有機基が好ましく、例えば式(3B1):
【0089】
【化19】
(Z
13およびZ
14は、互いに独立に単結合、-COO-、-OCO-または-O-であり、ここでZ
14がフルオレニル基に結合した場合、Z
13が-COO-、-OCO-または-O-でZ
14が単結合の構造が好ましく;R
91は炭素数1~4のアルキル基またはフェニル基であり、好ましくはフェニルであり、nは0~4の整数であり、好ましくは1である。)
で表される構造が好ましい。
【0090】
別の好ましい基として、上記式(4)において、W1がフェニレン基である化合物、即ちターフェニルジアミン化合物が挙げられ、特にすべてパラ結合である化合物が好ましい。
【0091】
別の好ましい基として、上記式(4)において、W1が式(6)の最初のフェニル環1個の構造において、R61およびR62が2,2-プロピリデン基である化合物が挙げられる。
【0092】
さらに別の好ましい基として、上記式(4)において、W1が次の式(3B2):
【0093】
【0094】
芳香族環を有する2価の基であるY1を与えるジアミン成分としては、例えば、p-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、ベンジジン、3,3’-ジアミノ-ビフェニル、3,3’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、m-トリジン、3,4’-ジアミノベンズアニリド、N,N’-ビス(4-アミノフェニル)テレフタルアミド、N,N’-p-フェニレンビス(p-アミノベンズアミド)、4-アミノフェノキシ-4-ジアミノベンゾエート、ビス(4-アミノフェニル)テレフタレート、ビフェニル-4,4’-ジカルボン酸ビス(4-アミノフェニル)エステル、p-フェニレンビス(p-アミノベンゾエート)、ビス(4-アミノフェニル)-[1,1’-ビフェニル]-4,4’-ジカルボキシレート、[1,1’-ビフェニル]-4,4’-ジイルビス(4-アミノベンゾエート)、4,4’-オキシジアニリン、3,4’-オキシジアニリン、3,3’-オキシジアニリン、p-メチレンビス(フェニレンジアミン)、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’-ビス(3-アミノフェノキシ)ビフェニル、2,2-ビス(4-(4-アミノフェノキシ)フェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、ビス(4-アミノフェニル)スルホン、3,3’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、3,3’-ビス((アミノフェノキシ)フェニル)プロパン、2,2’-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、ビス(4-(4-アミノフェノキシ)ジフェニル)スルホン、ビス(4-(3-アミノフェノキシ)ジフェニル)スルホン、オクタフルオロベンジジン、3,3’-ジメトキシ-4,4’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジクロロ-4,4’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジフルオロ-4,4’-ジアミノビフェニル、2,4-ビス(4-アミノアニリノ)-6-アミノ-1,3,5-トリアジン、2,4-ビス(4-アミノアニリノ)-6-メチルアミノ-1,3,5-トリアジン、2,4-ビス(4-アミノアニリノ)-6-エチルアミノ-1,3,5-トリアジン、2,4-ビス(4-アミノアニリノ)-6-アニリノ-1,3,5-トリアジンが挙げられる。Y1がフッ素原子を含有する芳香族環を有する2価の基である一般式(I)の繰り返し単位を与えるジアミン成分としては、例えば、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、3,3’-ビス(トリフルオロメチル)ベンジジン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2’-ビス(3-アミノ-4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパンが挙げられる。加えて好ましいジアミン化合物として、9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン、4,4’-(((9H-フルオレン-9,9-ジイル)ビス([1,1’-ビフェニル]-5,2-ジイル))ビス(オキシ))ジアミン、[1,1’:4’,1”-ターフェニル]-4,4”-ジアミン、4,4’-([1,1’-ビナフタレン]-2,2’-ジイルビス(オキシ))ジアミンが挙げられる。ジアミン成分は、単独で使用してもよく、また複数種を組み合わせて使用することもできる。
【0095】
「その他のY1」が脂環構造を有する2価の基である場合、炭素数が4~40の脂環構造を有する2価の基が好ましく、少なくとも一つの脂肪族4~12員環、より好ましくは脂肪族6員環を有することが更に好ましい。
【0096】
脂環構造を有する2価の基としては、例えば、下記のものが挙げられる。
【0097】
【化21】
(式中、V
1、V
2は、それぞれ独立に直接結合、または、2価の有機基であり、n
21~n
26は、それぞれ独立に0~4の整数を表し、R
81~R
86は、それぞれ独立に炭素数1~6のアルキル基、ハロゲン基、水酸基、カルボキシル基、またはトリフルオロメチル基であり、R
91、R
92、R
93は、それぞれ独立に 式:-CH
2-、-CH=CH-、-CH
2CH
2-、-O-、-S-で表される基よりなる群から選択される1種である。)
【0098】
V1、V2としては、具体的には、直接結合および前記の式(5)で表される2価の基が挙げられる。
【0099】
脂環構造を有する2価の基であるY1を与えるジアミン成分としては、例えば、1,4-ジアミノシクロへキサン、1,4-ジアミノ-2-メチルシクロヘキサン、1,4-ジアミノ-2-エチルシクロヘキサン、1,4-ジアミノ-2-n-プロピルシクロヘキサン、1,4-ジアミノ-2-イソプロピルシクロヘキサン、1,4-ジアミノ-2-n-ブチルシクロヘキサン、1,4-ジアミノ-2-イソブチルシクロヘキサン、1,4-ジアミノ-2-sec-ブチルシクロヘキサン、1,4-ジアミノ-2-tert-ブチルシクロヘキサン、1,2-ジアミノシクロへキサン、1,3-ジアミノシクロブタン、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、ジアミノビシクロヘプタン、ジアミノメチルビシクロヘプタン、ジアミノオキシビシクロヘプタン、ジアミノメチルオキシビシクロヘプタン、イソホロンジアミン、ジアミノトリシクロデカン、ジアミノメチルトリシクロデカン、ビス(アミノシクロへキシル)メタン、ビス(アミノシクロヘキシル)イソプロピリデン、6,6’-ビス(3-アミノフェノキシ)-3,3,3’,3’-テトラメチル-1,1’-スピロビインダン、6,6’-ビス(4-アミノフェノキシ)-3,3,3’,3’-テトラメチル-1,1’-スピロビインダンが挙げられる。ジアミン成分は、単独で使用してもよく、また複数種を組み合わせて使用することもできる。
【0100】
前記一般式(I)で表される繰り返し単位を与えるテトラカルボン酸成分およびジアミン成分として、脂環式以外の脂肪族テトラカルボン酸類(特に二無水物)および/または脂肪族ジアミン類のいずれも使用することができるが、その含有量は、テトラカルボン酸成分およびジアミン成分の合計100モル%に対して、好ましくは30モル%未満、より好ましくは20モル%未満、さらに好ましくは10モル%未満(0%を含む)であることが好ましい。
【0101】
「その他のY1」として、式(3B)で表される構造、具体的化合物としては、9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン等のジアミン化合物を含有させることにより、Tgの向上や膜厚方向の位相差(リターデーション)を低下させることができる場合がある。
【0102】
本発明においては、以上の記載にかかわらず、特定のテトラカルボン酸化合物およびジアミン化合物に由来する構造、または特定の化合物については、を含まないことが好ましい場合がある。
(a) H
2N-Y
2-N=N-Y
2-NH
2またはH
2N-Y
2-NHNH-Y
2-NH
2(Y
2は2価の有機基)で表されるジアミン化合物は、極めて少ないか(一般式(I)で表される繰り返し単位中5モル未満)、または含有しないことが好ましい。
(b) 界面活性剤およびアルコキシシラン化合物は添加してもよいが、いずれも含有しないことも好ましい。
(c) -SO
2-基を有するジアミン化合物、フルオレン構造を有するジアミン化合物およびフッ素含有ジアミン化合物のいずれも含有しないことが好ましい。
(d) 3,5-ジアミノベンズアミドのような、ベンズアミド構造を含むジアミン化合物は、ジアミン成分中に5モル%以上の量で含まないことが好ましく、さらには全く含まないことも好ましい。
(e) 下式で表されるジアミン化合物を4-BAABに対してモル比10:30(=25:75)以上の量で含有しないことが好ましく、含有する場合でもモル比でより好ましくは15:85以下、さらに好ましくは10:90以下であり、全く含有しないことも好ましい。
【化22】
【0103】
ポリイミド前駆体は、上記テトラカルボン酸成分とジアミン成分から製造することができる。本発明に用いられるポリイミド前駆体(前記式(I)で表される繰り返し単位の少なくとも1種を含むポリイミド前駆体)は、R1及びR2が取る化学構造によって、
1)ポリアミック酸(R1及びR2が水素)、
2)ポリアミック酸エステル(R1及びR2の少なくとも一部がアルキル基)、
3)4)ポリアミック酸シリルエステル(R1及びR2の少なくとも一部がアルキルシリル基)、
に分類することができる。そして、ポリイミド前駆体は、この分類ごとに、以下の製造方法により容易に製造することができる。ただし、本発明で使用されるポリイミド前駆体の製造方法は、以下の製造方法に限定されるものではない。
【0104】
1)ポリアミック酸
ポリイミド前駆体は、溶媒中でテトラカルボン酸成分としてのテトラカルボン酸二無水物とジアミン成分とを略等モル、好ましくはテトラカルボン酸成分に対するジアミン成分のモル比[ジアミン成分のモル数/テトラカルボン酸成分のモル数]が好ましくは0.90~1.10、より好ましくは0.95~1.05の割合で、例えば120℃以下の比較的低温度でイミド化を抑制しながら反応することによって、ポリイミド前駆体溶液として好適に得ることができる。
【0105】
限定するものではないが、より具体的には、有機溶剤または水にジアミンを溶解し、この溶液に攪拌しながら、テトラカルボン酸二無水物を徐々に添加し、0~120℃、好ましくは5~80℃の範囲で1~72時間攪拌することで、ポリイミド前駆体が得られる。80℃以上で反応させる場合、分子量が重合時の温度履歴に依存して変動し、また熱によりイミド化が進行することから、ポリイミド前駆体を安定して製造できなくなる可能性がある。上記製造方法でのジアミンとテトラカルボン酸二無水物の添加順序は、ポリイミド前駆体の分子量が上がりやすいため、好ましい。また、上記製造方法のジアミンとテトラカルボン酸二無水物の添加順序を逆にすることも可能であり、析出物が低減することから、好ましい。溶媒として水を使用する場合は、1,2-ジメチルイミダゾール等のイミダゾール類、あるいはトリエチルアミン等の塩基を、生成するポリアミック酸(ポリイミド前駆体)のカルボキシル基に対して、好ましくは0.8倍当量以上の量で、添加することが好ましい。
【0106】
2)ポリアミック酸エステル
テトラカルボン酸二無水物を任意のアルコールと反応させ、ジエステルジカルボン酸を得た後、塩素化試薬(チオニルクロライド、オキサリルクロライドなど)と反応させ、ジエステルジカルボン酸クロライドを得る。このジエステルジカルボン酸クロライドとジアミンを-20~120℃、好ましくは-5~80℃の範囲で1~72時間攪拌することで、ポリイミド前駆体が得られる。80℃以上で反応させる場合、分子量が重合時の温度履歴に依存して変動し、また熱によりイミド化が進行することから、ポリイミド前駆体を安定して製造できなくなる可能性がある。また、ジエステルジカルボン酸とジアミンを、リン系縮合剤や、カルボジイミド縮合剤などを用いて脱水縮合することでも、簡便にポリイミド前駆体が得られる。
【0107】
この方法で得られるポリイミド前駆体は、安定なため、水やアルコールなどの溶剤を加えて再沈殿などの精製を行うこともできる。
【0108】
3)ポリアミック酸シリルエステル(間接法)
あらかじめ、ジアミンとシリル化剤を反応させ、シリル化されたジアミンを得る。必要に応じて、蒸留等により、シリル化されたジアミンの精製を行う。そして、脱水された溶剤中にシリル化されたジアミンを溶解させておき、攪拌しながら、テトラカルボン酸二無水物を徐々に添加し、0~120℃、好ましくは5~80℃の範囲で1~72時間攪拌することで、ポリイミド前駆体が得られる。80℃以上で反応させる場合、分子量が重合時の温度履歴に依存して変動し、また熱によりイミド化が進行することから、ポリイミド前駆体を安定して製造できなくなる可能性がある。
【0109】
4)ポリアミック酸シリルエステル(直接法)
1)の方法で得られたポリアミック酸溶液とシリル化剤を混合し、0~120℃、好ましくは5~80℃の範囲で1~72時間攪拌することで、ポリイミド前駆体が得られる。80℃以上で反応させる場合、分子量が重合時の温度履歴に依存して変動し、また熱によりイミド化が進行することから、ポリイミド前駆体を安定して製造できなくなる可能性がある。
【0110】
3)の方法、及び4)の方法で用いるシリル化剤として、塩素を含有しないシリル化剤を用いることは、シリル化されたポリアミック酸、もしくは、得られたポリイミドを精製する必要がないため、好適である。塩素原子を含まないシリル化剤としては、N,O-ビス(トリメチルシリル)トリフルオロアセトアミド、N,O-ビス(トリメチルシリル)アセトアミド、ヘキサメチルジシラザンが挙げられる。フッ素原子を含まず低コストであることから、N,O-ビス(トリメチルシリル)アセトアミド、ヘキサメチルジシラザンが特に好ましい。
【0111】
また、3)の方法のジアミンのシリル化反応には、反応を促進するために、ピリジン、ピペリジン、トリエチルアミンなどのアミン系触媒を用いることができる。この触媒はポリイミド前駆体の重合触媒として、そのまま使用することができる。
【0112】
ポリイミド前駆体を調製する際に使用する溶媒は、水や、例えばN,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド等の非プロトン性溶媒が好ましく、原料モノマー成分と生成するポリイミド前駆体が溶解すれば、どんな種類の溶媒であっても問題はなく使用できるので、特にその構造には限定されない。溶媒として、水や、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン等のアミド溶媒、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン、δ-バレロラクトン、γ-カプロラクトン、ε-カプロラクトン、α-メチル-γ-ブチロラクトン等の環状エステル溶媒、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート溶媒、トリエチレングリコール等のグリコール系溶媒、m-クレゾール、p-クレゾール、3-クロロフェノール、4-クロロフェノール等のフェノール系溶媒、アセトフェノン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、スルホラン、ジメチルスルホキシドなどが好ましく採用される。さらに、その他の一般的な有機溶剤、即ちフェノール、o-クレゾール、酢酸ブチル、酢酸エチル、酢酸イソブチル、プロピレングリコールメチルアセテート、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、2-メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、ブチルセロソルブアセテート、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン、ジエトキシエタン、ジブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロへキサノン、メチルエチルケトン、アセトン、ブタノール、エタノール、キシレン、トルエン、クロルベンゼン、ターペン、ミネラルスピリット、石油ナフサ系溶媒なども使用できる。なお、溶媒は、複数種を組み合わせて使用することもできる。
【0113】
ポリイミド前駆体の製造では、特に限定されないが、ポリイミド前駆体の固形分濃度(ポリイミド換算質量濃度)が例えば5~45質量%となるような濃度でモノマーおよび溶媒を仕込んで反応を行う。
【0114】
ポリイミド前駆体の対数粘度は、特に限定されないが、30℃での濃度0.5g/dLのN-メチル-2-ピロリドン溶液における対数粘度が0.2dL/g以上、より好ましくは0.3dL/g以上、特に好ましくは0.4dL/g以上であることが好ましい。対数粘度が0.2dL/g以上では、ポリイミド前駆体の分子量が高く、得られるポリイミドの機械強度や耐熱性に優れる。
【0115】
<イミダゾール化合物>
ポリイミド前駆体組成物は、少なくとも1種類のイミダゾール化合物を含有することができる。イミダゾール化合物は、イミダゾール骨格を有する化合物であれば特に限定されず、例えば1,2-ジメチルイミダゾール、1-メチルイミダゾール、2-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、1-フェニルイミダゾール、イミダゾールおよびベンゾイミダゾールなどが挙げられる。イミダゾール化合物は、複数の化合物を組み合わせて使用してもよい。
【0116】
ポリイミド前駆体組成物中のイミダゾール化合物の含有量は、添加効果とポリイミド前駆体組成物の安定性のバランスを考慮して適宜選ぶことができる。イミダゾール化合物を添加する場合、その量(総含有量)は、ポリイミド前駆体の繰り返し単位1モルに対して、0モル超であり、ある程度添加効果を発揮するには0.01モル以上であり、好ましくは0.02モル以上であり、一方、ポリイミド前駆体組成物の粘度安定性の観点から好ましくは1モル未満の範囲、より好ましくは0.8モル未満である。イミダゾール化合物の添加は、光透過率の向上、アニール処理等の長期高温環境下での密着性向上に効果がある。
特に、X1中の式(1-1)の構造(ODPA由来)の割合が90モル%未満の場合、特に80モル%未満の場合に、イミダゾール化合物を添加することが好ましい。
【0117】
イミダゾール化合物は、X1中の式(1-1)の構造(ODPA由来)の割合が小さい場合、また式(1-1)の構造(ODPA由来)と式(1-2)の構造(s-BPDA由来)の合計割合が小さい場合の問題を解決することができる。イミダゾール化合物を添加する場合、X1中の式(1-1)の構造(ODPA由来)の割合を0モル%以上とすることができる。つまり、X1中の式(1-1)の構造と式(1-2)の構造の合計割合が70モル%以上であれば、どちらか1種のみ含んでいてもよく、式(1-1)の構造の割合がゼロであってもよい。
また、本出願はイミダゾール化合物の添加を必須とする以下の別発明、即ち発明Bシリーズも開示している。
繰り返し単位が前記一般式(I)で表されるポリイミド前駆体を含有する、ポリイミド前駆体組成物であって、
X1は、式(1-1)で表される構造および/または式(1-2)で表される構造を70モル%以上(80モル%以上、または90モル%以上も好ましい)含み、
Y1は、式(B)で表される構造を50モル%以上(60モル%以上、70モル%以上または80モル%以上も好ましい)含み、
さらに少なくとも1種のイミダゾール化合物を、前記ポリイミド前駆体の繰り返し単位1モルに対して0.01モル以上、1モル未満の量でさらに含有する、ポリイミド前駆体組成物。
この別発明において、上記で規定される以外の要素、事項は本出願の本文中の発明Aシリーズの記載に従う。
【0118】
<ポリイミド前駆体組成物の配合および「フレキシブル電子デバイス基板用ポリイミド前駆体組成物」>
本発明で使用されるポリイミド前駆体組成物は、前述の少なくとも1種のポリイミド前駆体と、好ましくは溶媒を含む。さらに前術のとおり、少なくとも1種のイミダゾール化合物を含むことも好ましい。
【0119】
溶媒としては、ポリイミド前駆体を調製する際に使用する溶媒として説明した前述のものを使用することができる。通常は、ポリイミド前駆体を調製する際に使用した溶媒をそのままで、即ちポリイミド前駆体溶液のままで使用することができるが、必要により希釈または濃縮して使用してもよい。イミダゾール化合物(添加される場合)は、ポリイミド前駆体組成物中に溶解して存在している。ポリイミド前駆体の濃度は、特に限定されないが、ポリイミド換算質量濃度(固形分濃度)で通常5~45質量%である。ここで、ポリイミド換算質量とは、繰り返し単位の全てが完全にイミド化されたとしたときの質量である。
【0120】
本発明のポリイミド前駆体組成物の粘度(回転粘度)は、特に限定されないが、E型回転粘度計を用い、温度25℃、せん断速度20sec-1で測定した回転粘度が、0.01~1000Pa・secが好ましく、0.1~100Pa・secがより好ましい。また、必要に応じて、チキソ性を付与することもできる。上記範囲の粘度では、コーティングや製膜を行う際、ハンドリングしやすく、また、はじきが抑制され、レベリング性に優れるため、良好な被膜が得られる。
【0121】
本発明のポリイミド前駆体組成物は、必要に応じて、化学イミド化剤(無水酢酸などの酸無水物や、ピリジン、イソキノリンなどのアミン化合物)、酸化防止剤、紫外線吸収剤、フィラー(シリカ等の無機粒子など)、染料、顔料、シランカップリング剤などのカップリング剤、プライマー、難燃材、消泡剤、レベリング剤、レオロジーコントロール剤(流動補助剤)などを含有することができる。尚、本発明のポリイミド前駆体組成物をイミド化するに際し、熱イミド化が好適であり、その場合、化学イミド化剤である無水酢酸などの酸無水物を含有しないことが好ましい。
【0122】
ポリイミド前駆体組成物の調製は、前述のとおりの方法で得られたポリイミド前駆体溶液に、イミダゾール化合物またはイミダゾール化合物の溶液を加えて混合することで調製することができる。イミダゾール化合物の存在下でテトラカルボン酸成分とジアミン成分を反応させてもよい。
【0123】
本発明のポリイミド前駆体組成物は、「フレキシブル電子デバイス基板(特に好ましくはフレキシブルディスプレイ基板。以下同じ。)用」として使用することができる。前述のとおり、本発明において「フレキシブル電子デバイス基板用」ポリイミド前駆体組成物は、次に説明するように、基材上に直接塗布されるものをいう。
【0124】
<<ポリイミドフィルム/基材積層体、およびフレキシブル電子デバイスの製造>>
本発明のポリイミド前駆体組成物(即ちフレキシブル電子デバイス基板用ポリイミド前駆体組成物)を用いて、ポリイミドフィルム/基材積層体を製造することができる。ポリイミドフィルム/基材積層体は、(a)ポリイミド前駆体組成物を、基材上に塗布する工程、(b)前記基材上で前記ポリイミド前駆体を加熱処理し、前記基材上にポリイミドフィルムが積層された積層体(ポリイミドフィルム/基材積層体)を製造する工程により製造することができる。加えて、基材上にポリイミドフィルムを形成した後に、工程(b2)として、ポリイミドフィルムの表面に無機薄膜を形成する工程をさらに有することも好ましい。
【0125】
本発明のフレキシブル電子デバイスの製造方法は、前記工程(a)および工程(b)(好ましくはさらに工程(b2))で製造されたポリイミドフィルム/基材積層体を使用し、さらなる工程、即ち(c)前記積層体のポリイミドフィルム上に、導電体層および半導体層から選ばれる少なくとも1つの層を形成する工程、および(d)前記基材と前記ポリイミドフィルムとを剥離する工程を有する。
【0126】
まず、工程(a)において、ポリイミド前駆体組成物を基材上に流延し、加熱処理によりイミド化および脱溶媒することによってポリイミドフィルムを形成し、基材とポリイミドフィルムとの積層体(ポリイミドフィルム/基材積層体)を得る。
【0127】
基材としては、耐熱性の材料が使用され、例えばセラミック材料(ガラス、アルミナ等)、金属材料(鉄、ステンレス、銅、アルミニウム等)、半導体材料(シリコン、化合物半導体等)等の板状またはシート状基材、または耐熱プラスチック材料(ポリイミド等)等のフィルムまたはシート状基材が使用される。一般に、平面且つ平滑な板状が好ましく、一般に、ソーダライムガラス、ホウ珪酸ガラス、無アルカリガラス、サファイアガラス等のガラス基板;シリコン、GaAs、InP、GaN等の半導体(化合物半導体を含む)基板;鉄、ステンレス、銅、アルミニウム等の金属基板が使用される。
【0128】
基材としては特にガラス基板が好ましい。ガラス基板は、平面、平滑且つ大面積のものが開発されており容易に入手できる。ガラス基板等の板状基材の厚さは限定されないが、取り扱い易さの観点から、例えば20μm~4mm、好ましくは100μm~2mmである。また板状基材の大きさは、特に限定されないが、1辺(長方形のときは長辺)が、例えば100mm程度~4000mm程度、好ましくは200mm程度~3000mm程度、より好ましくは300mm程度~2500mm程度である。
【0129】
これらのガラス基板等の基材は、表面に無機薄膜(例えば、酸化ケイ素膜)や樹脂薄膜が形成されたものであってもよい。
【0130】
ポリイミド前駆体組成物の基材上への流延方法は特に限定されないが、例えばスリットコート法、ダイコート法、ブレードコート法、スプレーコート法、インクジェットコート法、ノズルコート法、スピンコート法、スクリーン印刷法、バーコーター法、電着法などの従来公知の方法が挙げられる。
【0131】
工程(b)において、基材上でポリイミド前駆体組成物を加熱処理し、ポリイミドフィルムに転換し、ポリイミドフィルム/基材積層体を得る。加熱処理条件は、特に限定されないが、例えば50℃~150℃の温度範囲で乾燥した後、最高加熱温度として例えば150℃~600℃であり、好ましくは200℃~550℃、より好ましくは250℃~500℃で処理することが好ましい。
【0132】
ポリイミドフィルムの厚さは、好ましくは1μm以上、より好ましくは2μm以上、さらに好ましくは5μm以上である。厚さが1μm未満である場合、ポリイミドフィルムが十分な機械的強度を保持できず、例えばフレキシブル電子デバイス基板として使用するとき、応力に耐えきれず破壊されることがある。また、ポリイミドフィルムの厚さは、好ましくは100μm以下、より好ましくは50μm以下、さらに好ましくは20μm以下である。ポリイミドフィルムの厚さが厚くなると、フレキシブルデバイスの薄型化が困難となってしまうことがある。フレキシブルデバイスとして十分な耐性を保持しながら、より薄膜化するには、ポリイミドフィルムの厚さは、好ましくは2~50μmである。
【0133】
本発明においてポリイミドフィルム/基材積層体は反りが小さいことが好ましい。ポリイミドフィルムの特性を、ポリイミドフィルム/シリコン基板(ウェハ)積層体におけるポリイミドフィルムとシリコン基板間の残留応力で評価することができる。本発明が達成できる残留応力については後述する。
【0134】
ポリイミドフィルム/基材積層体中のポリイミドフィルムは、表面に無機薄膜などの第2の層を有していてもよく、従って工程(b2)として、基材上に形成したポリイミドフィルムの表面に無機薄膜を形成する工程を有することが好ましい。無機薄膜は、特に水蒸気や酸素(空気)等のバリア層として機能するものが好ましい。水蒸気バリア層としては、例えば、窒化ケイ素(SiNx)、酸化ケイ素(SiOx)、酸窒化ケイ素(SiOxNy)、酸化アルミニウム(Al2O3)、酸化チタン(TiO2)、酸化ジルコニウム(ZrO2)等の金属酸化物、金属窒化物および金属酸窒化物からなる群より選択される無機物を含む無機薄膜が挙げられる。一般に、これらの薄膜の成膜方法としては、真空蒸着法、スパッタ法、イオンプレーティングなどの物理的蒸着法と、プラズマCVD法、触媒化学気相成長法(Cat-CVD法)などの化学蒸着法(CVD:化学気相成長法)などが知られている。CVD法を含むこれら成膜方法では、バリア機能を向上させるために、成膜後に、例えば350℃~450℃で高温アニールを行って膜を緻密化する。尚、本出願において「無機薄膜」はアニール前後の両方の状態のものを意味する。一方のみを意味する場合は、明示的に示されるか、文脈から明らかである。同様に、「ポリイミドフィルム/基材積層体」は「無機薄膜」を有するもの、有さないものの両方を意味する。
【0135】
この第2の層は、複数層とすることもできる。この場合には異なる種類の無機薄膜を形成してもよいし、また、樹脂膜と無機薄膜を複合することも可能である。後者の例としては、例えば、ポリイミドフィルム/基材積層体中のポリイミドフィルム上にバリア層/ポリイミド層/バリア層の3層構造を形成する例などが挙げられる。
【0136】
工程(c)では、工程(b)で得られたポリイミド/基材積層体を使用して、ポリイミドフィルム(ポリイミドフィルム表面に無機薄膜などの第2の層を積層したものを含む)上に、導電体層および半導体層から選ばれる少なくとも1つの層を形成する。これらの層は、ポリイミドフィルム(第2の層を積層したものを含む)上に直接形成してもよいし、デバイスに必要な他の層を積層した上に、つまり間接的に形成してもよい。
【0137】
導電体層および/または半導体層は、目的とする電子デバイスが必要とする素子および回路に合わせて適切な導電体層および(無機、有機)半導体層が選択される。本発明の工程(c)において、導電体層および半導体層の少なくとも1つを形成する場合、無機膜を形成したポリイミドフィルム上に導電体層および半導体層の少なくとも1つを形成することも好ましい。
【0138】
導電体層および半導体層は、ポリイミドフィルム上の全面に形成されたもの、ポリイミドフィルム上の一部分に形成されたものの両方を包含する。本発明は、工程(c)の後にただちに工程(d)に移行しても良いし、工程(c)において導電体層および半導体層から選ばれる少なくとも1つの層を形成した後、さらにデバイス構造を形成してから、工程(d)に移行してもよい。
【0139】
フレキシブルデバイスとしてTFT液晶ディスプレイデバイスを製造する場合には、例えば必要により無機膜を全面に形成したポリイミドフィルムの上に、例えば金属配線、アモルファスシリコンやポリシリコンによるTFT、透明画素電極を形成する。TFTは、例えば、ゲート金属層、アモルファスシリコン膜などの半導体層、ゲート絶縁層、画素電極に接続する配線等を含む。この上に、さらに液晶ディスプレイに必要な構造を、公知の方法によって形成することも出来る。また、ポリイミドフィルムの上に、透明電極とカラーフィルターを形成してもよい。
【0140】
有機ELディスプレイを製造する場合には、例えば必要により無機膜を全面に形成したポリイミドフィルムの上に、例えば透明電極、発光層、正孔輸送層、電子輸送層等に加えて必要によりTFTを形成することができる。
【0141】
本発明において好ましいポリイミドフィルムは耐熱性、靱性等各種特性に優れるので、デバイスに必要な回路、素子、およびその他の構造を形成する手法は特に制限されない。
【0142】
次に工程(d)おいて、基材とポリイミドフィルムとを剥離する。剥離方法は、外力を加えることによって物理的に剥離するメカニカル剥離法でもよいが、本発明のポリイミドフィルム/基材積層体は、密着性が優れるため、基材面からレーザー光を照射して剥離する所謂レーザー剥離法で剥離することが特に好ましい。
【0143】
基材を剥離した後のポリイミドフィルムを基板とする(半)製品に、さらにデバイスに必要な構造または部品を形成または組み込んでデバイスを完成する。
【0144】
尚、フレキシブル電子デバイスの異なる製造方法として、上記工程(b)によりポリイミドフィルム/基材積層体を製造後、ポリイミドフィルムを剥離し、上記工程(c)のように、ポリイミドフィルム上に導電体層および半導体層から選ばれる少なくとも1つの層および必要な構造を形成して、ポリイミドフィルムを基板とする(半)製品を製造することもできる。
【0145】
<<ポリイミドフィルム/基材積層体におけるポリイミドフィルム特性>>
本発明のポリイミド前駆体組成物から前述のとおりのポリイミドフィルム/基材積層体を製造した場合、ポリイミドフィルムと基材間の密着性に優れるため、この用途に使用されることが特に好ましい。
【0146】
以下に本発明で達成されるポリイミドフィルムの特性の範囲を記載するが、第1範囲、第2範囲、第3範囲、・・・、第n範囲の順で好ましい範囲を示す。
【0147】
本発明のポリイミド前駆体組成物から製造されるポリイミドフィルムは、光透過性、熱的特性および耐熱性に加えてガラス基板等の基材との密着性が優れている。
【0148】
密着性は、剥離強度で評価できる。ポリイミドフィルム/基材積層体におけるポリイミドフィルムと基材と間の剥離強度は、JIS K6854-1に準拠して測定した場合、例えば引張速度2mm/分、90°剥離試験において、好ましくは50gf/cm(0.49N/cm)以上(第1範囲)であり、さらに100gf/cm(0.98N/cm)以上(第2範囲)、150gf/cm(1.47N/cm)以上(第3範囲)、200gf/cm(1.96N/cm)以上(第4範囲)、300gf/cm(2.94N/cm)以上(第5範囲)、400gf/cm(3.92N/cm)以上(第6範囲)、500gf/cm(4.9N/cm)以上(第7範囲)の順により好ましい。また、上限としては通常5kgf/cm(49.0N/cm)以下、好ましくは3kgf/cm(29.4N/cm)以下である。剥離強度は、通常、空気中または大気中で測定される。
【0149】
前述のとおり、ポリイミドフィルム/基材積層体は反りが小さいことが好ましく、ポリイミドフィルムの特性を、ポリイミドフィルム/シリコン基板(ウェハ)積層体におけるポリイミドフィルムとシリコン基板間の残留応力で評価することができる。測定の詳細は、特許第6798633号公報に記載されている。但し、ポリイミドフィルムは、乾燥状態で23℃に置かれているものとする。これによって評価した残留応力は好ましくは20MPa以下(第1範囲)であり、さらに15MPa以下(第2範囲)、12MPa以下(第3範囲)、10MPa以下(第4範囲)の順でより好ましい。
【0150】
本発明の一実施形態において、厚さ10μmのフィルムで測定したとき、ポリイミドフィルムの450nm光透過率は、好ましくは73%以上(第1範囲)であり、さらに74%以上(第2範囲)、75%以上(第3範囲)の順でより好ましい。また、厚さ10μmのフィルムで測定したとき、ポリイミドフィルムの黄色度(YI)は、好ましくは13以下(第1範囲)であり、さらに12以下(第2範囲)、11以下(第3範囲)、10以下(第4範囲)、9以下(第5範囲)の順でより好ましい。また、黄色度(YI)は0以上が好ましい。
【0151】
本発明のポリイミドフィルムは極めて低い線熱膨張係数(CTE)を有する。本発明の一実施形態において、厚さ10μmのフィルムで測定したとき、ポリイミドフィルムの150℃から250℃までの線熱膨張係数は、好ましくは27ppm/K以下(第1範囲)であり、さらに25ppm/K以下(第2範囲)、20ppm以下(第3範囲)、15ppm/K以下(第4範囲)、13ppm/K以下(第5範囲)の順でより好ましい。
【0152】
本発明のポリイミドフィルム(またはこれを構成するポリイミド)は耐熱性に優れており、1%重量減少温度は、好ましくは512℃以上(第1範囲)であり、さらに515℃以上(第2範囲)、520℃以上(第3範囲)、522℃以上(第4範囲)の順でより好ましい。
【0153】
本発明の一実施形態においては、ポリイミドフィルム(またはこれを構成するポリイミド)のガラス転移温度(Tg)は、好ましくは350℃以上、より好ましくは370℃以上、さらにより好ましくは390℃以上、さらにより好ましくは400℃以上、さらにより好ましくは410℃以上、さらにより好ましくは420℃以上、さらにより好ましくは430℃以上、さらにより好ましくは435℃以上、最も好ましくは440℃以上である。
【0154】
本発明のポリイミドフィルムは非常に大きな弾性率を示す。本発明の一実施形態において、ポリイミドフィルムの弾性率は、好ましくは6.5GPa以上(第1範囲)であり、さらに6.9GPa以上(第2範囲)、7.3GPa以上(第3範囲)、7.5GPa以上(第4範囲)、7.6GPa以上(第5範囲)、8.0GPa以上(第6範囲)、8.3GPa以上(第7範囲)の順でより好ましい。弾性率は、例えば8~12μm程度の膜厚のフィルムから得られる値を用いることができる。
【0155】
さらに本発明の一実施形態において、ポリイミドフィルムの破断点伸度は、厚さ10μmのフィルムで測定したとき、好ましくは10%以上(第1範囲)であり、さらに20%以上(第2範囲)、25%以上(第3範囲)、30%以上(第4範囲)の順でより好ましい。
【0156】
また、本発明の異なる好ましい一実施形態においては、ポリイミドフィルムの破断強度は好ましくは200MPa以上(第1範囲)であり、さらに250MPa以上(第2範囲)、270MPa以上(第3範囲)、300MPa以上(第4範囲)の順で好ましい。破断強度は、例えば5~100μm程度の膜厚のフィルムから得られる値を用いることができる。
【0157】
ポリイミドフィルムについての特性は、密着性、光透過率、弾性率が同時に「好ましい範囲」を満たすことが好ましく、線熱膨張係数および1%重量減少温度も、同時に「好ましい範囲」を満たすことが特に好ましい。
【0158】
このような特性を有するポリイミドフィルム、即ちフレキシブル電子デバイス基板用のポリイミドフィルムは、それ自体で新規性を有し、独立して特許性を有するものである。特に好ましい実施形態は次のとおりである。
(1)ポリイミドフィルムの450nm光透過率が74%以上(第2範囲)であって、弾性率が6.9GPa以上(第2範囲)、好ましくは7.3GPa以上(第3範囲)であり、線熱膨張係数および破断点伸度が上述の第1範囲を満たす。
(2)ポリイミドフィルムの450nm光透過率が75%以上(第3範囲)、好ましくは76%(第4範囲)であって、弾性率が7.3GPa以上(第3範囲)であり、線熱膨張係数および破断点伸度が上述の第1範囲を満たす。
(3)ポリイミドフィルムの450nm光透過率が74%以上(第2範囲)、好ましくは75%以上(第3範囲)であって、ポリイミドフィルム/基材積層体におけるポリイミドフィルムと基材と間の剥離強度が、200gf/cm以上(第4範囲)、好ましくは300gf/cm以上(第5範囲)を満たす。
【0159】
本発明のポリイミド前駆体組成物を使用して、その他の形態のポリイミドおよび単独のポリイミドフィルムを製造することもできる。製造方法は特に限定されず、公知のイミド化の方法いずれも好適に適用することができる。得られるポリイミドの形態は、フィルム、コーティング膜、粉末、ビーズ、成型体、発泡体などを好適に挙げることができる。
【0160】
単独のポリイミドフィルムは公知の方法で製造することができる。代表的な方法は基材上にポリイミド前駆体組成物を流延塗布し、その後、基材上で加熱イミド化した後にポリイミドフィルムを剥がす方法である。また、基材上にポリイミド前駆体組成物を流延塗布し加熱乾燥して自己支持性フィルムを製造後、自己支持性フィルムを基材から剥がし、例えばテンターでフィルムを保持してフィルムの両面から脱ガス可能な状態で加熱イミド化してポリイミドフィルムを得ることもできる。
【0161】
単独のポリイミドフィルムの厚さは、用途にもよるが、好ましくは1μm以上、より好ましくは2μm以上、さらに好ましくは5μm以上であり、例えば250μm以下、好ましくは150μm以下、より好ましくは100μm以下、さらにより好ましくは50μm以下である。
【実施例0162】
以下、実施例及び比較例によって本発明を更に説明する。尚、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0163】
以下の各例において評価は次の方法で行った。
【0164】
<ポリイミド前駆体組成物の評価>
[粘度安定化・最大粘度率保持評価]
重合後、ポリイミド前駆体組成物を23℃で保管すると粘度が増加し、最大粘度を迎えて減少に転じる。その最大粘度になったとき、「粘度が安定化した」と評価した。また、最大粘度を迎えた後に粘度が減少するが、最大粘度に対する、最大粘度に到達した日から30日後の粘度の比を「最大粘度保持率」とし、最大粘度に対して50%以上の粘度がある場合を「〇」50%未満の粘度の場合を「×」として評価した。
なお、粘度は東機産業社製のE型粘度計TVE-25を用いて測定温度を25℃として測定した。
【0165】
<ポリイミドフィルムの評価>
[450nm光透過率]
実施例、比較例で膜厚の記載の無いものは膜厚約10μmのポリイミドフィルムについて、記載のあるものは記載どおりの膜厚のポリイミドフィルムについて、紫外可視分光光度計/V-650DS(日本分光製)を用いて、450nmにおける光透過率を測定した。
【0166】
[線熱膨張係数(CTE)]
膜厚約10μmのポリイミドフィルムを幅4mmの短冊状に切り取って試験片とし、TMA/SS6100 (エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製)を用い、チャック間長15mm、荷重2g、降温速度20℃/分で400℃から50℃まで降温した。得られたTMA曲線から、150℃から250℃までの線熱膨張係数を求めた。
【0167】
[1%重量減少温度]
膜厚約10μmのポリイミドフィルムを試験片とし、TAインスツルメント社製 熱量計測定装置(Q5000IR)を用い、窒素気流中、昇温速度10℃/分で25℃から600℃まで昇温した。得られた重量曲線から、150℃の重量を100%として1%重量減少温度を求めた。
【0168】
[剥離強度]
オリエンテック社製TENSILON RTA-500を用い、大気中で、引張り速度2mm/分の条件で90°方向の剥離強度を測定した。
【0169】
[残留応力の測定]
ポリイミドフィルム評価用の基準基材として、6インチシリコンウェハ(625μm厚、(100)基板)を使用した。シリコンウェハ上にポリイミド前駆体組成物をスピンコーターにより塗布し、窒素雰囲気下(酸素濃度200ppm以下)で、そのままシリコンウェハ上で室温から実施例、比較例と同じ温度まで加熱して熱的にイミド化を行い、ポリイミドフィルム/基準基材積層体を得る。積層体中のポリイミドフィルムの膜厚は約10μmとする。
【0170】
特許第6798633号公報の記載に従って、得られたポリイミドフィルム/シリコンウェハ積層体について、150℃、140℃、130℃、120℃および110℃の温度において、反りの曲率半径を、KLA Tencor社製、FLX-2320を使用して測定する。各温度において20回測定し平均値を求める。また、シリコンウェハ単体の曲率半径測定も同じ温度で行う。得られた曲率半径から、各温度における残留応力(S)を、下の数式1に従って計算し、最小二乗法による直線近似から、23℃の残留応力を求める。
【0171】
【0172】
ここで、
E/(1-ν):基板(基準基材:シリコンウェハ)の2軸弾性係数(Pa)、
(100)シリコンでは1.805E11Pa、
h:基板の厚さ(m)
t:ポリイミドフィルムの厚さ(m)
R:測定試料の曲率半径(m)
1/R=1/R2-1/R1
R1:フィルム製膜前の基板(シリコンウェハ)単独の曲率半径
R2:フィルム製膜後の曲率半径
S:残留応力の平均値(Pa)
【0173】
[弾性率、破断点伸度、破断強度]
膜厚約10μmのポリイミドフィルムをIEC450規格のダンベル形状に打ち抜いて試験片とし、ORIENTEC社製TENSILONを用いて、チャック間長30mm、引張速度2mm/分で、初期の弾性率、破断点伸度、破断強度を測定した。
【0174】
<原材料>
以下の各例で使用した原材料の略称は次のとおりである。
【0175】
[テトラカルボン酸成分]
PMDA:ピロメリット酸二無水物
DSDA:3,3’,4,4’―ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物
ODPA:4,4’-オキシジフタル酸二無水物
s-BPDA:3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物
6FDA:2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物
【0176】
[ジアミン成分]
4-BAAB:4-アミノフェニル-4-アミノベンゾエート
BAPB:4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル
4,4-ODA:4,4-オキシジアニリン
【0177】
[イミダゾール化合物]
2-Pz:2-フェニルイミダゾール
Bz:ベンゾイミダゾール
Im:イミダゾール
1-Pz:1-フェニルイミダゾール
【0178】
[溶媒]
NMP: N-メチル-2-ピロリドン
【0179】
表1-1にテトラカルボン酸成分とジアミン成分、表1-2にイミダゾール化合物の構造式を記す。
【0180】
【0181】
【0182】
<実施例1>
[ポリイミド前駆体組成物の調製]
窒素ガスで置換した反応容器中に4-BAAB 2.28g(10ミリモル)を入れ、N-メチル-2-ピロリドンを、仕込みモノマー総質量(ジアミン成分とカルボン酸成分の総和)が12.5質量%となる量の37.69gを加え、室温で1時間攪拌した。この溶液にODPA 3.10g(10ミリモル)を徐々に加えた。室温で6時間撹拌し、均一で粘稠なポリイミド前駆体組成物を得た。ポリイミド前駆体組成物の粘度安定性を表2に示す。
【0183】
[ポリイミドフィルム/基材積層体の製造]
ガラス基板として、6インチのコーニング社製のEagle-XG(登録商標)(500μm厚)を使用した。ガラス基板上にポリイミド前駆体組成物をスピンコーターにより塗布し、窒素雰囲気下(酸素濃度200ppm以下)で、そのままガラス基板上で室温から420℃まで加熱して熱的にイミド化を行い、ポリイミドフィルム/基材積層体を得た。剥離強度については、得られたポリイミドフィルム/ガラス積層体から、幅5mmの試験サンプルを作成して測定した。その他のフィルム物性については、積層体を40℃の水(例えば温度20℃~100℃の範囲)につけてガラス基板からポリイミドフィルムを剥離し、乾燥後、ポリイミドフィルムの特性を評価した。ポリイミドフィルムの膜厚は約10μmである。評価結果を表2に示す。
【0184】
<実施例2~6、比較例1~4>
実施例1において、テトラカルボン酸成分およびジアミン成分を、表2に示す化合物および量(モル比)に変更した以外は、実施例1と同様にしてポリイミド前駆体組成物を得た。その後、実施例1と同様にしてポリイミドフィルムを製造してフィルム物性を評価した。
【0185】
<実施例7、11、比較例6~8>
実施例1において、テトラカルボン酸成分およびジアミン成分を、表3に示す化合物および量(モル比)に変更し、実施例1と同様に反応してポリイミド前駆体組成物を得た。得られたポリイミド前駆体組成物を用いて、イミド化の最高加熱温度を450℃に変更した以外は実施例1と同様にしてポリイミドフィルムを製造してフィルム物性を評価した。
【0186】
<実施例8~10、比較例5>
実施例1において、テトラカルボン酸成分およびジアミン成分を、表3に示す化合物および量(モル比)に変更し、実施例1と同様に反応してポリイミド前駆体溶液を得た。
イミダゾール化合物として2-フェニルイミダゾールを、4倍質量のN-メチル-2-ピロリドンに溶解して2-フェニルイミダゾールの固形分濃度が20質量%の均一な溶液を得た。ポリイミド前駆体の繰り返し単位1モルに対してイミダゾール化合物の量が表3記載の量となるように、イミダゾール化合物の溶液と、上で合成したポリイミド前駆体溶液を混合し、室温で3時間攪拌し、均一で粘稠なポリイミド前駆体組成物を得た。
その後、実施例7と同様にしてポリイミドフィルムを製造してフィルム物性を評価した。但し、比較例5については、得られたポリイミド前駆体組成物の粘度安定性が悪いため、基材上に均一なポリイミドフィルムを製膜することが困難であったので、フィルム物性の評価ができなかった。
【0187】
<実施例12~25、比較例9、10>
実施例1において、テトラカルボン酸成分およびジアミン成分を、表4または5に示す化合物および量(モル比)に変更し、実施例1と同様に反応してポリイミド前駆体溶液を得た。
イミダゾール化合物として表4または5に示す化合物に変更し、またその量が表4または5記載の量となるように、イミダゾール化合物の溶液と、上で合成したポリイミド前駆体溶液を混合し、室温で3時間攪拌し、均一で粘稠なポリイミド前駆体組成物を得た。
その後、イミド化の最高加熱温度を420℃または450℃(表4または5に記載のとおり)とした以外は実施例1と同様にしてポリイミドフィルムを製造してフィルム物性を評価した。尚、比較例9については、イミダゾール化合物を添加しなかった。
【0188】
【0189】
【0190】
【0191】
【0192】
[無機薄膜成膜後の密着性試験]
実施例、比較例と同様に製造したポリイミドフィルム/基材積層体のポリイミドフィルム面にプラズマCVD法によりSiOxとSiNxを順に各400nm成膜した。その後、アニール炉内で430℃で60分間アニール処理を行った。アニール炉から取り出して目視にて観察し、ポリイミドフィルムとガラス基板の間、およびポリイミドフィルムとSiOx膜との間の剥がれを観察した。どちらにも剥がれは観察されなかったものを「○」、どちらかに剥がれが観察されたものを「×」と評価した。結果を表2~表5に示す。
【0193】
[無機薄膜成膜後の密着性試験2]
実施例、比較例と同様に製造したポリイミドフィルム/基材積層体のポリイミドフィルム面にプラズマCVD法によりSiOxとSiNxを順に各400nm成膜した。その後、アニール炉内で430℃で8時間アニール処理を行った。アニール炉から取り出して目視にて観察し、ポリイミドフィルムとガラス基板の間、およびポリイミドフィルムとSiOx膜との間の剥がれを観察した。どちらにも剥がれは観察されなかったものを「○」、どちらかに剥がれが観察されたものを「×」と評価した。結果を表6に示す。
【0194】
【0195】
以上の結果から、テトラカルボン酸成分中のODPAとs-BPDAの合計が70モル%以上で、且つODPAの割合が50モル%以上であると剥離強度が400gf/cmを超える極めて高い値を示し、450nm光透過率の向上および黄色度(YI)の低下が顕著に見られた。また、イミダゾール化合物の添加が450nm光透過率の向上および黄色度(YI)の低下に効果があることも確認された。また、イミダゾール化合物を0.01モル以上、1モル未満の量で添加すると、テトラカルボン酸成分中のODPAとs-BPDAの合計が70モル%以上において(ODPAの割合が50モル%未満であっても)、高い剥離強度、高い450nm光透過率および低黄色度(YI)の効果が確認された。
本発明は、フレキシブル電子デバイス、例えば液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ等のフレキシブルディスプレイ、および電子ペーパー等の表示デバイス、太陽電池およびCMOS等の受光デバイスの製造に好適に適用することができる。
前記イミダゾール化合物が、1,2-ジメチルイミダゾール、1-メチルイミダゾール、2-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、1-フェニルイミダゾール、イミダゾールおよびベンゾイミダゾールからなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項5に記載のポリイミド前駆体組成物。