(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024018855
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】ガスバリア膜用スパッタリングターゲット、ガスバリア膜およびガスバリアフィルム
(51)【国際特許分類】
C23C 14/34 20060101AFI20240201BHJP
【FI】
C23C14/34 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022188454
(22)【出願日】2022-11-25
(31)【優先権主張番号】P 2022120853
(32)【優先日】2022-07-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000235783
【氏名又は名称】尾池工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】奥西 徹
【テーマコード(参考)】
4K029
【Fターム(参考)】
4K029AA09
4K029AA11
4K029BA43
4K029CA05
4K029DC03
4K029DC05
4K029EA01
4K029EA03
4K029EA04
4K029EA05
(57)【要約】
【課題】シランガスを用いるCVD法によることなく、スパッタリング法によって、中屈折率を示し、かつ、バリア性を有するガスバリア膜を形成するためのガスバリア膜用スパッタリングターゲット、ガスバリア膜およびガスバリアフィルムを提供する。
【解決手段】金属と、ケイ素とを含み、金属とケイ素との合計量に対する、ケイ素の含有量は、40~90質量%であり、金属は、Zn、Ti、Nb、Al、Ta、W、CrおよびZn-Al(ZnとAlとの合金)からなる群から選択されるいずれか1種を含む、ガスバリア膜用スパッタリングターゲット。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属と、ケイ素とを含み、
前記金属と前記ケイ素との合計量に対する、前記ケイ素の含有量は、40~90質量%であり、
前記金属は、Zn、Ti、Nb、Al、Ta、W、CrおよびZn-Alからなる群から選択されるいずれか1種を含む、ガスバリア膜用スパッタリングターゲット。
【請求項2】
金属酸化物と、ケイ素酸化物とを含み、
前記金属酸化物と前記ケイ素酸化物との合計量に対する、前記ケイ素酸化物の含有量は、60~90体積%であり、
前記金属酸化物を構成する金属は、Zn、Ti、Nb、Al、Ta、W、CrおよびZn-Alからなる群から選択されるいずれか1種を含む、ガスバリア膜。
【請求項3】
波長550nmの光における屈折率値は、1.5~1.7である、請求項2記載のガスバリア膜。
【請求項4】
X線回折法で測定した際に、結晶由来のピークがない、請求項2または3記載のガスバリア膜。
【請求項5】
基材と、下地層と、請求項2または3記載のガスバリア膜とをこの順に有する、ガスバリアフィルム。
【請求項6】
水蒸気透過率は、1×10-1(g/m2/日)以下である、請求項5記載のガスバリアフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスバリア膜用スパッタリングターゲット、ガスバリア膜およびガスバリアフィルムに関する。より詳細には、本発明は、シランガスを用いるCVD法によることなく、スパッタリング法によって、中屈折率を示し、かつ、バリア性を有するガスバリア膜を形成するためのガスバリア膜用スパッタリングターゲット、ガスバリア膜およびガスバリアフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プラズマCVD法によって、酸化炭化ケイ素膜(SiOC)を基材上に形成するガスバリアフィルムの製造方法が開示されている(たとえば特許文献1)。SiOC膜は、屈折率が1.5~1.7の範囲内である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の製造方法で採用されているCVD法は、有害で毒性の高いシランガスを用いなければならない。ところで、有機ELや電子ペーパー等のディスプレイ用途では、外部からのガスや水分等の侵入を防ぐために、ガスバリアフィルムが、ディスプレイ上に積層されている。これらディスプレイは、ハードコート層やオーバーコート層等も積層されている。これらの層は、一般的に樹脂層であり、屈折率が1.5~1.7程度(中屈折率と称する)である。したがって、ディスプレイ用途で用いるガスバリアフィルムの屈折率もまた、上記樹脂層の屈折率との差を小さくすることが求められている。
【0005】
本発明は、このような従来の発明に鑑みてなされたものであり、シランガスを用いるCVD法によることなく、スパッタリング法によって、中屈折率を示し、かつ、バリア性を有するガスバリア膜を形成するためのガスバリア膜用スパッタリングターゲット、ガスバリア膜およびガスバリアフィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のガスバリア膜用スパッタリングターゲット、ガスバリア膜およびガスバリアフィルムには、以下の構成が主に含まれる。
【0007】
(1)金属と、ケイ素とを含み、前記金属と前記ケイ素との合計量に対する、前記ケイ素の含有量は、40~90質量%であり、前記金属は、Zn、Ti、Nb、Al、Ta、W、CrおよびZn-Al(ZnとAlとの合金)からなる群から選択されるいずれか1種を含む、ガスバリア膜用スパッタリングターゲット。
【0008】
このような構成によれば、ガスバリア膜用スパッタリングターゲットは、これを用いてスパッタリング法を行うことにより、ディスプレイ用途等に適した中屈折率のガスバリア膜を作製し得る。
【0009】
(2)金属酸化物と、ケイ素酸化物とを含み、前記金属酸化物と前記ケイ素酸化物との合計量に対する、前記ケイ素酸化物の含有量は、60~90体積%であり、前記金属酸化物を構成する金属は、Zn、Ti、Nb、Al、Ta、W、CrおよびZn-Al(ZnとAlとの合金)からなる群から選択されるいずれか1種を含む、ガスバリア膜。
【0010】
このような構成によれば、ガスバリア膜は、中屈折率を示し、ディスプレイ用途等に適する。
【0011】
(3)波長550nmの光における屈折率値は、1.5~1.7である、(2)記載のガスバリア膜。
【0012】
このような構成によれば、ガスバリア膜は、中屈折率を示し、ディスプレイ用途等に適する。
【0013】
(4)X線回折法で測定した際に、結晶由来のピークがない、(2)または(3)記載のガスバリア膜。
【0014】
このような構成によれば、ガスバリア膜は、非晶質(アモルファス)構造となり、結晶性由来の結晶-結晶間の水分やガス等の導通路が減り、ガスバリア性がより向上する。
【0015】
(5)基材と、下地層と、(2)~(4)のいずれかに記載のガスバリア膜とをこの順に有する、ガスバリアフィルム。
【0016】
このような構成によれば、ガスバリアフィルムは、中屈折率を示し、ディスプレイ用途等に適する。
【0017】
(6)水蒸気透過率は、1×10-1(g/m2/日)以下である、(5)記載のガスバリアフィルム。
【0018】
このような構成によれば、ガスバリアフィルムは、優れたガスバリア性を示す。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、シランガスを用いるCVD法によることなく、スパッタリング法によって、中屈折率を示し、かつ、バリア性を有するガスバリア膜を形成するためのガスバリア膜用スパッタリングターゲット、ガスバリア膜およびガスバリアフィルムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、ガスバリアフィルムの結晶性解析結果を示すグラフである。
【
図2】
図2は、ガスバリアフィルムの結晶性解析結果を示すグラフである。
【
図3】
図3は、ガスバリアフィルムの結晶性解析結果を示すグラフである。
【
図4】
図4は、ガスバリアフィルムの結晶性解析結果を示すグラフである。
【
図5】
図5は、ケイ素酸化物の含有率と屈折率との関係を表すグラフである。
【
図6】
図6は、ケイ素の含有率と屈折率との関係を表すグラフである。
【
図7】
図7は、ケイ素酸化物の含有率と水蒸気透過率との関係を表すグラフである。
【
図8】
図8は、ケイ素酸化物の含有率と水蒸気透過率との関係を表すグラフである。
【
図9】
図9は、ケイ素酸化物の含有率と水蒸気透過率との関係を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
<スパッタリングターゲット>
本発明の一実施形態のスパッタリングターゲットは、金属と、ケイ素とを含む。金属とケイ素との合計量に対する、ケイ素の含有量は、40~90質量%である。金属は、Zn、Ti、Nb、Al、Ta、W、CrおよびZn-Al(ZnとAlとの合金)からなる群から選択されるいずれか1種を含む。以下、それぞれについて説明する。
【0022】
本実施形態のスパッタリングターゲットは、金属およびケイ素の合計量が、99質量%以上であることが好ましく、99.5質量%以上であることがより好ましい。スパッタリングターゲットは、本実施形態の効果を奏する限り、目的に応じて適宜その他の成分を含んでもよい。また、スパッタリングターゲットは、不可避的に混入してしまう不純物を含んでいてもよい。
【0023】
金属とケイ素との合計量に対する、ケイ素の含有量は、40質量%以上であればよい。また、金属とケイ素との合計量に対する、ケイ素の含有量は、90質量%以下であればよい。ケイ素の含有量が40質量%未満である場合、スパッタリングターゲットを用いて成膜されるガスバリア膜中のSiO2の含有量が少なくなり、屈折率が1.7より大きくなる。一方、ケイ素の含有量が90質量%を超える場合、スパッタリングターゲットを用いて成膜されるガスバリア膜中のSiO2の含有量が多くなり、屈折率が1.5より小さくなる。
【0024】
本実施形態のスパッタリングターゲットの製造方法は特に限定されない。一例を挙げると、スパッタリングターゲットは、従来公知の粉末焼結法等により製造することができる。
【0025】
得られた焼結体は、旋盤等を用いて所望の形状に成形加工することにより、本実施形態のスパッタリングターゲットが作製される。ターゲット形状は特に限定されない。一例を挙げると、スパッタリングターゲットの形状は、平板状(円盤状や矩形板状を含む)、円筒状等である。
【0026】
本実施形態のスパッタリングターゲットは、一般にはマグネトロンスパッタリング装置にてスパッタリングを行うことにより、所定の基材上または膜上に成膜することができる。これにより、ガスバリア膜(スパッタ膜)が形成され得る。
【0027】
以上、本実施形態によれば、スパッタリングターゲットは、これを用いてスパッタリング法を行うことにより、ディスプレイ用途等に適した中屈折率(n=1.5~1.7)のガスバリア膜を作製し得る。
【0028】
<ガスバリア膜>
本発明の一実施形態のガスバリア膜は、金属酸化物と、ケイ素酸化物とを含む。金属酸化物とケイ素酸化物との合計量に対する、ケイ素酸化物の含有量は、60~90体積%である。金属酸化物を構成する金属は、Zn、Ti、Nb、Al、Ta、W、CrおよびZn-Al(ZnとAlとの合金)からなる群から選択されるいずれか1種を含む。以下、それぞれについて説明する。
【0029】
金属酸化物に含まれる金属は、Zn、Ti、Nb、Al、Ta、W、CrおよびZn-Al(ZnとAlとの合金)からなる群から選択されるいずれか1種を含む。このような金属酸化物は、ZnO、TiO2、Nb2O5、AZO(ZnAlO)、Cr2O3、Al2O3、Ta2O5、WO3等である。本実施形態のガスバリア膜は、例えば、ZnOとケイ素酸化物とを含むため、含有元素としては、Zn、Si、Oである。これを簡単のため、以下ではZnSiOと表記する。同様に、TiO2とケイ素酸化物とを含むガスバリア膜をTiSiO、Nb2O5とケイ素酸化物とを含むガスバリア膜をNbSiO、AZO(ZnAlO)とケイ素酸化物とを含むガスバリア膜をZnAlSiO、Cr2O3とケイ素酸化物とを含むガスバリア膜をCrSiO、Al2O3とケイ素酸化物とを含むガスバリア膜をAlSiO、Ta2O5とケイ素酸化物とを含むガスバリア膜をTaSiO、WO3とケイ素酸化物とを含むガスバリア膜をWSiOと表記する。
【0030】
上記ガスバリア膜の記載において、価数は省略されている。すなわち、たとえば、ZnSiOは、ZnとSiとOとが含まれていることを単に示し、ZnとSiとOとがそれぞれ同じ価数であることを示すのではない。本実施形態のガスバリア膜は、種々の価数を取り得るのであり、特に限定されない。
【0031】
本実施形態のガスバリア膜におけるケイ素酸化物とは、化学式で記述すると、SiO2、または、SiOx(1<x<2)を指す。
【0032】
本実施形態のガスバリア膜は、金属酸化物およびケイ素酸化物の合計量が、99質量%以上であることが好ましく、99.5質量%以上であることがより好ましい。ガスバリア膜は、本実施形態の効果を奏する限り、目的に応じて適宜その他の成分を含んでもよい。また、ガスバリア膜は、不可避的に混入してしまう不純物を含んでいてもよい。
【0033】
金属酸化物とケイ素酸化物との合計量に対する、ケイ素酸化物の含有量は、60体積%以上であればよい。また、金属酸化物とケイ素酸化物との合計量に対する、ケイ素酸化物の含有量は、90体積%以下であればよい。ケイ素酸化物の含有量が60体積%未満である場合、ガスバリア膜中のSiO2の含有量が少なくなり、屈折率が1.7より大きくなる。一方、ケイ素酸化物の含有量が90体積%を超える場合、ガスバリア膜中のSiO2の含有量が多くなり、屈折率が1.5より小さくなる。
【0034】
本実施形態のガスバリア膜の、波長550nmの光における屈折率値は、1.5以上であることが好ましい。また、波長550nmの光における屈折率値は、1.7以下であることが好ましい。波長550nmの光における屈折率値が上記範囲内であることにより、ガスバリア膜は、中屈折率を示し、ディスプレイ用途等に適する。本実施形態において、波長550nmの光における屈折率n、および、消衰係数kは、分光光度計(SolidSpec-3700、(株)島津製作所製)を使用して、透過、表面反射、裏面反射のスペクトルを測定し、これらのスペクトルを用いて、nはCauchyの式より算出し得る。kはSellmeierの式より算出し得る。
【0035】
本実施形態のガスバリア膜は、X線回折法で測定した際に、結晶由来のピークがないことが好ましい。これにより、ガスバリア膜は、非晶質(アモルファス)構造となり、結晶性由来の結晶-結晶間の水分やガス等の導通路が減り、ガスバリア性がより向上する。本実施形態において、X線回折法による測定は、XRD(XRD-6100、(株)島津製作所製)を使用し、JIS K 0131-1996に従って測定し得る。
【0036】
<ガスバリアフィルム>
本発明の一実施形態のガスバリアフィルムは、基材と、下地層と、上記したガスバリア膜とをこの順に有する。以下、それぞれについて説明する。
【0037】
(基材)
基材は、ガスバリアフィルムにおいて汎用されている樹脂フィルムが使用され得る。一例を挙げると、基材は、ポリエチレンテレフタレート(PET)、シクロオレフィンポリマー(COP)、ポリエチレン(PE)、ポリイミド(PI)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリプロピレン(PP)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、ポリエーテルサルホン(PES)等のプラスチックフィルムやプラスチックシートである。これらの中でも、基材は、プラスチックフィルムのようなフレキシブル性(柔軟性)を有する材料からなることが好ましい。これにより、ガスバリアフィルムは、たとえばディスプレイ等の電子デバイス部品の幅広い用途において好適に使用され得る。
【0038】
基材の厚みは特に限定されない。一例を挙げると、基材の厚みは、5μm以上であることが好ましく、12μm以上であることがより好ましく、23μm以上であることがさらに好ましい。また、基材の厚みは、250μm以下であることが好ましく、125μm以下であることがより好ましく、50μm以下であることがさらに好ましい。基材の厚みが上記範囲内であることにより、ガスバリアフィルムは、ハンドリング性とフレキシブル性とが優れる。
【0039】
(下地層)
下地層は、基材上に設けられる。下地層は、基材表面を平坦化することにより、ガスバリア膜に生じるピンホール等の欠陥の生成を防ぎ、かつ、基材とガスバリア膜との層間密着性を向上させるために設けられる。すなわち、たとえば、基材上に微細な付着物や突起が存在する場合等には、基材上にガスバリア膜を形成すると、そのような付着物等が起点となって、ピンホールを生じる虞がある。そのため、本実施形態のガスバリアフィルムは、下地層が形成されることにより、もし仮に基材上に微細な付着物や突起が存在する場合であっても、そのような付着物や表面の粗れの影響で欠陥が生じることが防がれやすい。その結果、得られるガスバリアフィルムは、優れたガスバリア性を示す。
【0040】
下地層の構成は特に限定されない。一例を挙げると、下地層は、ガスバリア膜との界面に無機成分を50質量%以上含むものであって、無機系塗材または無機系塗材を変性させたもの、あるいはそれらと有機系塗材を混合したものであることが好ましい。このようなガスバリアフィルムは、ガスバリア膜に欠陥が生じにくく、優れたガスバリア性を示しやすい。
【0041】
無機系塗材は、シルセスキオキサン、パーヒドロポリシラザン(PHPS)、金属アルコキシド等であることが好ましい。有機系塗材は、アクリル系、アクリルウレタン系、エポキシ系、エステル系、ウレタン系等であることが好ましい。
【0042】
下地層を形成する方法は特に限定されない。一例を挙げると、有機無機複合酸化物を含む下地層は、たとえば、任意の溶剤に有機無機酸化物を溶解した溶液を調製し、基材上に塗布(ウェットコーティング)(例えばスプレー塗布、バーコート塗布、グラビア印刷等)し、硬化または乾燥させることにより形成し得る。この時、塗布した溶液の表面は表面張力により平坦化されるので、得られる下地層の表面も平坦となる。より具体的には、酸化ケイ素を含む下地層を形成する場合、SiOxやパーヒドロポリシラザン(PHPS)溶液を基材上に塗布(例えばスプレー塗布)し、加熱硬化させることにより、下地層を形成することができる。パーヒドロポリシラザンからなる下地層は、Si-H、Si-N、Si-O結合を有している。このような下地層は、酸化性雰囲気で硬化させることにより、さらに酸化が進んだ層となり、下地層とガスバリア膜との層間密着性をより向上させることができる。また、このようにして形成されたポリシラザンを含む下地層は、優れた平坦性とプラズマ耐性を示す。これにより、下地層の形成された基材にガスバリア膜が形成される際に、ガスバリア膜は、ピンホール等の欠陥をより生じにくい。さらに、形成されたガスバリア膜の表面も平滑性が優れる。その結果、ガスバリア膜上に第2のガスバリア膜が形成される場合においても、ピンホール等の欠陥が生じにくい。
【0043】
また、無機成分の濃度が厚み方向に偏在した傾斜膜である下地層を形成する場合、例えば、界面活性剤の成分を含むシリコンアルコキシドを含む有機無機ハイブリッド樹脂を任意の溶剤に溶解させた溶液を調製し、基材上に塗布し、乾燥、硬化させることにより、シリコンアルコキシドを下地層表面に偏在させた傾斜膜を形成することができる。このような傾斜膜は、ガスバリア膜と接触する界面の近傍において、ケイ素成分が多く(例えば18at%以上、40at%以下)存在する。一方、基材と接触する界面の近傍は、有機成分が多く存在する。無機成分が多く存在する側の表面は、平坦な表面を形成することにより、ガスバリア膜との層間密着性を向上させ得る。一方、有機成分が多く存在する側の表面は、同じく有機成分からなる基材との層間密着性が優れる。
【0044】
また、有機膜と無機成分とが積層された複層の下地層は、例えば、基材と接触する側の下地層として、有機成分からなる下地層を設け、一方のガスバリア膜と接触する側の下地層として、SiOxやパーヒドロポリシラザン等の無機成分からなる下地層を設けることにより形成することができる。
【0045】
下地層は、ガスバリア膜と接する側の表面から基材側に向けて、X線光電子分光法(XPS)により下地層の厚み方向における、下地層の無機成分を測定する場合において、ガスバリア膜と接する側の表面におけるケイ素原子の濃度が18at%以上、40at%以下であることが好ましい。無機成分の濃度が上記範囲内であることにより、ガスバリアフィルムは、下地層の表面に多く存在する無機成分によって、優れたプラズマ耐性とガスバリア膜との密着性が優れる。その結果、ガスバリアフィルムは、ガスバリア膜に生じる欠陥を抑制し、基材層とガスバリア膜との層間密着性がより優れる。また、ガスバリアフィルムは、さらに優れたガスバリア性を示す。なお、本実施形態において、下地層を構成する炭素原子の濃度は、ガスバリア膜と接する側の表面における濃度が55at%以下であることが好適であり、表面以外の部位(例えば内部)における無機成分の濃度が特に限定されない。下地層の内部におけるケイ素原子の濃度は、40at%以上であってもよく、18at%未満であってもよい。なお、本実施形態におけるXPSの測定は、X線光電子分光分析装置(PHI5000 VersaProbe2、アルバック・ファイ社製)を用いて測定することができる。
【0046】
下地層の厚みは特に限定されない。一例を挙げると、下地層の厚みは、0.1μm以上であることが好ましく、0.5μm以上であることがより好ましく、1.0μm以上であることがさらに好ましい。下地層の厚みが0.1μm以上であることにより、下地層の表面が平坦になりやすく、ガスバリア膜にピンホールが発生しにくくなる。また、下地層の厚みは、20μm以下であることが好ましく、5.0μm以下であることがより好ましく、3.0μm以下であることがさらに好ましい。下地層の厚みが20μm以下であることにより、膜応力によるクラックが発生しにくい。
【0047】
(ガスバリア膜)
ガスバリア膜は、下地層上に設けられる。ガスバリア膜は、ガスバリア膜に関する実施形態において上記したものと同様である。
【0048】
ガスバリア膜の厚みは特に限定されない。一例を挙げると、ガスバリア膜の厚みは、5nm以上であることが好ましく、10nm以上であることがより好ましく、20nm以上であることがさらに好ましい。また、ガスバリア膜の厚みは、250nm以下であることが好ましく、200nm以下であることがより好ましく、100nm以下であることがさらに好ましい。ガスバリア膜の厚みが上記範囲内であることにより、ガスバリアフィルムは、所望のガスバリア性を発揮することができる。
【0049】
ガスバリア膜は、スパッタリング法によって下地層上に形成され得る。スパッタリング法は、たとえば、2元スパッタリング法、または、オンチップ・スパッタリング法を採用し得る。具体的には、スパッタリングターゲットの実施形態に関連して上記したスパッタリングターゲットを用いて、下地層上にガスバリア膜を形成し得る。
【0050】
得られるガスバリアフィルムは、上記したガスバリア膜を含む。そのため、ガスバリアフィルムは、中屈折率を示し、ディスプレイ用途等に適する。また、ガスバリアフィルムの水蒸気透過率は、1×10-1(g/m2/日)以下であることが好ましく、1×10-2(g/m2/日)以下であることがより好ましい。ガスバリアフィルムの水蒸気透過率が上記範囲内であることにより、ガスバリアフィルムは、優れたガスバリア性を示す。
【実施例0051】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明する。本発明は、これら実施例に何ら限定されない。なお、特に制限のない限り、「%」は「質量%」を意味し、「部」は「質量部」を意味する。
【0052】
<実験例1A~1C>
以下の表1に記載の条件を採用し、2元スパッタリング法により、各種基材に対して、ガスバリア膜を有するサンプルを作製した。表1において、O2分圧とは、Arのガス量(sccm)とO2のガス量(sccm)との合計のガス量(sccm)に対する、O2のガス量(sccm)の比率を示す。
【0053】
<実験例2A~2C、3A~3C、4A~4C、5A~5C>
表1に記載の条件に変更した以外は、実験例1A~1Cと同様の方法により、サンプルを作製した。表3は、ケイ素含有量を算出するための換算用データである。表4は、それぞれの実験例で使用した基材の詳細である。表5~表9は、得られたサンプルのケイ素酸化物の含有量等の組成分析結果および光学定数の測定結果である。
図1~
図4は、得られたサンプルの結晶性解析結果を示すグラフである。
【0054】
組成分析には、XRF(Primini、Rigaku社製)を使用して測定した。
【0055】
結晶性解析には、XRD(XRD-6100、(株)島津製作所製)を使用して測定した。
【0056】
【0057】
<実験例6A~8C>
以下の表2に記載の条件を採用し、オンチップ・スパッタリング法により、各種基材に対して、ガスバリア膜を有するサンプルを作製した。具体的には表4に記載の各基材上にスパッタリング法により、ガスバリア膜を成膜した。スパッタリングにおいて、ターゲットとしては、シングルカソードを用い、円盤状の金属ターゲット(Al、Ta、W)上に所定の枚数の1cm角のシリコン(Si)ウェハを並べた。金属ターゲット面積に対するSiターゲット面積の比率は表2に示した通りであった。表2において、O2分圧とは、Arのガス量(sccm)とO2のガス量(sccm)との合計のガス量(sccm)に対する、O2のガス量(sccm)の比率を示す。
【0058】
【0059】
【0060】
【0061】
【0062】
表5において、SiO2 Ratio[vol%]は、次のようにして求めた。
まず、蛍光X線測定装置(XRF(Primini、Rigaku社製))を使用して、実験例1A~実験例4Aの各ガスバリア膜のX線エネルギー強度を測定した。接触式段差計により測定した各ガスバリア膜の膜厚と、各ガスバリア膜のX線エネルギー強度とで検量線を作成した。この検量線から、XRF膜厚を求めた。
そして、以下の式に従って、SiO2 Ratio[vol%]、SiO2 Ratio[wt%]、Si Ratio[wt%]を算出した。表6、表7においても同様である。
・SiO2 Ratio[vol%]=[{(XRF膜厚_SiO2)/{(XRF膜厚_ZnO)+(XRF膜厚_SiO2)}]×100
・重量(ZnO)=(XRF膜厚_ZnO)×密度(ZnO)
・重量(SiO2)=(XRF膜厚_SiO2)×密度(SiO2)
・SiO2 Ratio[wt%]=[(重量(SiO2))/{(重量(SiO2))+(重量(ZnO))}]×100
・Zn[mol]=(重量(ZnO))/(分子量(ZnO))
・Si[mol]=(重量(SiO2))/(分子量(SiO2))
・Si Ratio[mol%]=Si[mol]/{Zn[mol]+Si[mol]}×100
・Si Ratio[wt%]={Si[mol]×原子量(Si)}/{Zn[mol]×原子量(Zn)+Si[mol]×原子量(Si)}×100
【0063】
【0064】
【0065】
【0066】
表8中の項目の算出式は以下のとおりである。
・SiO2 Ratio[vol%]=[{(XRF膜厚_SiO2)/{(XRF膜厚_ZnAlO)+(XRF膜厚_SiO2)}]×100
【0067】
【0068】
表9中の各項目の算出式は以下のとおりである。補足すると、まず、蛍光X線測定装置(XRF(Primini、Rigaku社製))を使用して、実験例5A~実験例8Aの各バリア膜中に存在する各金属酸化物の含有量を測定した。そして、以下の式に従って、SiO2 Ratio[vol%]、SiO2 Ratio[wt%]、Si Ratio[wt%]を算出した。
・SiO2 Ratio[vol%]=[{(含有量(mg/cm2)_SiO2)/密度(SiO2)}/{(含有量(mg/cm2)_Cr2O3)/密度(Cr2O3)+(含有量(mg/cm2)_SiO2)/密度(SiO2)}]×100
・SiO2 Ratio[wt%]=[{(含有量(mg/cm2)_SiO2)}/{(含有量(mg/cm2)_Cr2O3)+(含有量(mg/cm2)_SiO2)}]×100
・Cr[mol]=(含有量(mg/cm2)_Cr2O3)/(分子量(Cr2O3))×2
・Si[mol]=(含有量(mg/cm2)_SiO2)/(分子量(SiO2))
・Si Ratio[mol%]=Si[mol]/{Cr[mol]+Si[mol]}×100
・Si Ratio[wt%]={Si[mol]×原子量(Si)}/{Cr[mol]×原子量(Cr)+Si[mol]×原子量(Si)}×100
【0069】
表5~表9には、実験例1B~5Bのガスバリアフィルムでの波長550nmにおける屈折率n、および、消衰係数kの値も示している。波長550nmの光における屈折率n、および、消衰係数kは、分光光度計(SolidSpec-3700、島津製作所製)を使用して、透過、表面反射、裏面反射のスペクトルを測定し、これらのスペクトルを用いて、nはCauchyの式より算出した。kはSellmeierの式より算出した。また、表5~表9の光学定数の部分で「-」は、データが無いことを意味している。
【0070】
【0071】
表10において、以下の式に従って、SiO2 Ratio[vol%]、SiO2 Ratio[wt%]、Si Ratio[wt%]を算出した。
・SiO2 Ratio[vol%]=[{(含有量(mg/cm2)_SiO2)/密度(SiO2)}/{(含有量(mg/cm2)_Al2O3)/密度(Al2O3)+(含有量(mg/cm2)_SiO2)/密度(SiO2)}]×100
・SiO2 Ratio[wt%]=[{(含有量(mg/cm2)_SiO2)}/{(含有量(mg/cm2)_Al2O3)+(含有量(mg/cm2)_SiO2)}]×100
・Al[mol]=(含有量(mg/cm2)_Al2O3)/(分子量(Al2O3))×2
・Si[mol]=(含有量(mg/cm2)_SiO2)/(分子量(SiO2))
・Si Ratio[mol%]=Si[mol]/{Al[mol]+Si[mol]}×100
・Si Ratio[wt%]={Si[mol]×原子量(Si)}/{Al[mol]×原子量(Al)+Si[mol]×原子量(Si)}×100
【0072】
【0073】
表11において、以下の式に従って、SiO2 Ratio[vol%]、SiO2 Ratio[wt%]、Si Ratio[wt%]を算出した。
・SiO2 Ratio[vol%]=[{(含有量(mg/cm2)_SiO2)/密度(SiO2)}/{(含有量(mg/cm2)_Ta2O5)/密度(Ta2O5)+(含有量(mg/cm2)_SiO2)/密度(SiO2)}]×100
・SiO2 Ratio[wt%]=[{(含有量(mg/cm2)_SiO2)}/{(含有量(mg/cm2)_Ta2O5)+(含有量(mg/cm2)_SiO2)}]×100
・Ta[mol]=(含有量(mg/cm2)_Ta2O5)/(分子量(Ta2O5))×2
・Si[mol]=(含有量(mg/cm2)_SiO2)/(分子量(SiO2))
・Si Ratio[mol%]=Si[mol]/{Ta[mol]+Si[mol]}×100
・Si Ratio[wt%]={Si[mol]×原子量(Si)}/{Ta[mol]×原子量(Ta)+Si[mol]×原子量(Si)}×100
【0074】
【0075】
表12において、以下の式に従って、SiO2 Ratio[vol%]、SiO2 Ratio[wt%]、Si Ratio[wt%]を算出した。
・SiO2 Ratio[vol%]=[{(含有量(mg/cm2)_SiO2)/密度(SiO2)}/{(含有量(mg/cm2)_WO3)/密度(WO3)+(含有量(mg/cm2)_SiO2)/密度(SiO2)}]×100
・SiO2 Ratio[wt%]=[{(含有量(mg/cm2)_SiO2)}/{(含有量(mg/cm2)_WO3)+(含有量(mg/cm2)_SiO2)}]×100
・W [mol]=(含有量(mg/cm2)_WO3)/(分子量(WO3))
・Si [mol]=(含有量(mg/cm2)_SiO2)/(分子量(SiO2))
・Si Ratio[mol%]=Si[mol]/{W[mol]+Si[mol]}×100
・Si Ratio[wt%]={Si[mol]×原子量(Si)}/{W[mol]×原子量(W)+Si[mol]×原子量(Si)}×100
【0076】
表10~表12には、実験例6B~8Bのガスバリアフィルムでの波長550nmにおける屈折率n、および、消衰係数kの値も示している。波長550nmの光における屈折率n、および、消衰係数kは、分光光度計(SolidSpec-3700、島津製作所製)を使用して、透過、表面反射、裏面反射のスペクトルを測定し、これらのスペクトルを用いて、nはCauchyの式より算出した。kはSellmeierの式より算出した。また、表5~表9の光学定数の部分で「-」は、データが無いことを意味している。
【0077】
表5~表12から、実験例1B~8Bのガスバリア膜中に含まれるケイ素酸化物(SiO2)の含有率(vol%)と屈折率nとの関係を抽出したデータを表13に示す。
【0078】
【0079】
なお、ケイ素酸化物(SiO
2)が100体積%の場合の波長550nmにおける屈折率nの値は、文献値(1.470)を用いて、表13中に付加した。表13をグラフ化したものを
図5に示す。表13および
図5に示されるように、屈折率nが中屈折率程度(n=1.5~1.7)の範囲内になるための、金属酸化物とケイ素酸化物との合計量に対するケイ素酸化物の含有量(SiO
2含有率)は60~90体積%であることが確認された。また、表5~表12において、各ガスバリア膜中に含まれる、金属とケイ素(Si)との合計量に対するケイ素(Si)の含有率(wt%)を算出した値で、表13のケイ素酸化物(SiO
2)の含有率(vol%)を置き換えたデータを表14に示す。
【0080】
【0081】
なお、表8のZnAlSiOにおいては、金属とケイ素(Si)との合計量に対するケイ素(Si)の含有率(wt%)を算出できなかったため、省略している。表14においても、表13同様、波長550nmにおける屈折率nは、各ガスバリア膜の屈折率である。各ガスバリア膜中において、ケイ素酸化物(SiO
2)が100体積%の場合は、他の金属を含んでいないことを意味するのであるから、この場合の金属とケイ素(Si)との合計量に対するケイ素(Si)の含有率は100質量%である。表14をグラフ化したものを
図6に示す。表14および
図6に示されるように、屈折率nが中屈折率程度(n=1.5~1.7)の範囲内になるための、金属とケイ素との合計量に対するケイ素含有量(Si含有率)は40~90質量%であることが確認された。
【0082】
以上の結果によれば、ガスバリア膜中における、SiO2含有割合を、60~90体積%とするためには、ガスバリア膜をO2を導入して、スパッタリング法で形成するためのスパッタリングターゲット中における金属およびケイ素の合計量に対する、ケイ素含有割合を、40~90質量%とすることが適切であることが分かった。つまり、金属とケイ素とを含み、金属とケイ素との合計量に対する、ケイ素の含有量が、40~90質量%であるスパッタリングターゲットを用い、O2を導入して、スパッタリング法でガスバリア膜を形成すれば、できあがったガスバリア膜の屈折率nは中屈折率程度(n=1.5~1.7)の範囲にすることが可能となった。
【0083】
なお、金属種としてZn-Alを用いたZnAlSiOについては、金属とケイ素(Si)との合計量に対するケイ素(Si)の含有率(wt%)の算出値が存在しない。しかし、
図5を参照するに、ガスバリア膜の波長550nmにおける屈折率nがおおよそ1.5~1.7の範囲内において、波長550nmにおける屈折率nとガスバリア膜中のケイ素酸化物(SiO
2)の含有率(vol%)との相関性は、TaSiOとCrSiOとの間に位置すると言える。とすると、ZnAlSiOについての金属とケイ素(Si)との合計量に対するケイ素(Si)の含有率(wt%)の算出値もTaSiOとCrSiOとの間に位置すると推察される。従って、
図6を参照するに、ZnAlSiOについても、ガスバリア膜の波長550nmにおける屈折率nがおおよそ1.5~1.7の範囲内において、金属とケイ素との合計量に対する、ケイ素の含有量(Si含有率)は、40~90質量%であると推察される。
【0084】
また、
図1~
図4に示されるように、実験例1Cおよび実験例4Cでは、ZnSiO、ZnAlSiOは、SiO
2含有量が増えるにしたがってピーク位置が変化し、30%を超えるとピークが消失した。また、実験例2Cおよび実験例3Cでは、TiSiO、NbSiOは、SiO
2含有量が増えるにしたがってピークが発生し、さらに増えるとピークが消失した。なお、実験例5Cでは、CrSiOは全く結晶化のピークが見られなかったため、グラフは省略されている。以上より、屈折率が1.5~1.7となるSiO
2含有量が60質量%以上の領域では、ガスバリア膜は、非晶質状態(アモルファス)であることが分かった。このような非晶質(アモルファス)構造となる場合、結晶性由来の結晶-結晶間の水分やガス等の導通路が減るため、ガスバリア膜は、ガスバリア性がより向上すると考えられた。
【0085】
<実施例1~5>
以下の表15に記載の成膜条件を採用し、表16に記載の処方により、ガスバリアフィルムを作製した。具体的には、表16に記載の各基材上にウェットコーティング法により、下地層を形成した。そして、下地層上にスパッタリング法により、ガスバリア膜を成膜した。スパッタリングにおいて、ターゲットとしては、シングルカソードを用い、円盤状の金属ターゲット(Nb、Zn、Zn-Al)上に所定の枚数の1cm角のシリコン(Si)ウェハを並べた。金属ターゲット面積に対するSiターゲット面積の比率は表15に示した通りであった。表15において、O2分圧とは、Arのガス量(sccm)とO2のガス量(sccm)との合計のガス量(sccm)に対する、O2のガス量(sccm)の比率を示す。ガスバリア膜の膜厚は150nmに調整した。
【0086】
得られたガスバリアフィルムについて、以下の評価方法により水蒸気透過率(WVTR)を測定した。結果を
図7~
図9に示す。
図7~
図9は、得られたガスバリアフィルムのケイ素酸化物の含有率と水蒸気透過率との関係を表すグラフである。なお、表16において、PHPSは、無機系塗材(パーヒドロポリシラザン)を示す。
【0087】
(水蒸気透過率)
各種基材に対して、下地層およびガスバリア膜を順に有するガスバリアフィルムを作製した。具体的には、ウェットコーティング法で、表16に記載の各種基材に対して、下地層を形成した。次いで、スパッタリング法を用い、表15の条件で、下地層上にガスバリア膜を形成した。なお、実施例1、2、4の下地層の塗材は、有機無機ハイブリット塗材(アクリルウレタン系+変性金属アルコキシド)である。実施例3、5の下地層はSi801を基材側とし、PHPS(パーヒドロポリシラザン)をガスバリア膜側とした2層構成である。表16中、Si801は、モメンティブ社製のSIkoto801を表し、厚みは183nmとした。PHPSは、メルク社製のアクアミカ NL 110A-10を表し、厚みは70nmとした。塗工方式は、いずれもウェットコーティング法とした。
【0088】
得られたガスバリアフィルムについて、カップ法(JIS Z 0208-1976)を用いて、温度40℃、相対湿度90%の条件で水蒸気透過率(WVTR)を測定した。
【0089】
【0090】
【0091】
図7~
図9に示されるように、本発明の実施例1~5のガスバリアフィルムの水蒸気透過率は、いずれもおよそ10
-2(g/m
2/日)台であった。特に、実施例4~5のガスバリアフィルムにおけるZnAlSiOは、SiO
2含有量の増加と共にガスバリア性が向上した。また、グラフ中の両矢印で示される結晶領域と、それ以外の領域(非晶領域)とでは、非晶領域の方がガスバリア性が良かった。
【0092】
<実施例6~10>
以下の表17に記載の各種基材に対して、下地層を形成した。次いで、スパッタリング法を用い、表15の条件で、下地層上にガスバリア膜を形成した。なお、実施例6~10の下地層の塗材は、有機無機ハイブリット塗材(アクリルウレタン系+変性金属アルコキシド)である。塗工方式は、いずれもウェットコーティング法とした。
【0093】
以下の表17に記載のように、より測定精度が高いDELTAPERM(Technolox社製、差圧法による水蒸気透過率測定装置)でWVTRを測定した。なお、DELTAPERMでのWVTRの測定条件は、温度40℃、相対湿度90%とした。DELTAPERMは、サンプルの片面に設定された温度、湿度の水蒸気を入れ、もう片面は真空にするとその圧力差によりサンプル面を通過した水蒸気により反対側のセル内の圧力が上昇する性質を利用して、速度上昇率を測定し透過率を出す方法(差圧法、はISO15106-5)を採用している。
【0094】
【0095】
表17に記載のように、実施例6~10のガスバリアフィルムは、およそ1.0×10-3g/m2/day以下の値となり、有機ELや電子ペーパー等のディスプレイ用途で要求されるハイガスバリア性を示した。