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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024018860
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】電極シート及び電気化学デバイス
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/139 20100101AFI20240201BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20240201BHJP
【FI】
H01M4/139
H01M4/13
【審査請求】有
【請求項の数】15
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022203928
(22)【出願日】2022-12-21
(31)【優先権主張番号】202210909530.2
(32)【優先日】2022-07-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(71)【出願人】
【識別番号】507357232
【氏名又は名称】株式会社AESCジャパン
(74)【代理人】
【識別番号】100204490
【弁理士】
【氏名又は名称】三上 葉子
(72)【発明者】
【氏名】呂 文彬
(72)【発明者】
【氏名】余 樂
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA07
5H050AA08
5H050AA19
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA08
5H050CB07
5H050CB11
5H050EA11
5H050EA12
5H050FA02
5H050GA16
5H050GA24
5H050HA04
(57)【要約】      (修正有)
【課題】優れたリチウム補充効果及び電気化学性能を有する電極シートを提供する。
【解決手段】電極シートの活物質層の表面に中間層とリチウム補充層とが提供され、中間層は固形電解質を含み、リチウム補充層は自己分解によりチウムイオンを生成可能なリチウム含有化合物を含む。本発明の電極シートは、リチウム補充プロセスにおいて生成される熱を効果的に抑制し、SEI層の継続する成長における活性リチウムイオンの継続する消費の欠陥を克服することができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面が活物質層でコーティングされた電極シートであって、
前記活物質層の表面に中間層とリチウム補充層とが提供され、
前記中間層が固体電解質を含み、
前記リチウム補充層が、自己分解によりチウムイオンを生成可能なリチウム含有化合物を含む
ことを特徴とする、
電極シート。
【請求項2】
前記固体電解質が、LiPON、LATP、LLZO、又はLLTOのうちの任意の1つ以上から選択される、
請求項1に記載の電極シート。
【請求項3】
前記固体電解質が遷移金属元素でドープされる、
請求項2に記載の電極シート。
【請求項4】
前記リチウム含有化合物が、窒化リチウム、硫化リチウム、フッ化リチウム、酸化リチウム、過酸化リチウム、又はチオ硫酸リチウムのうちの任意の1つ以上から選択される、
請求項1に記載の電極シート。
【請求項5】
前記リチウム含有化合物が、窒化リチウム、硫化リチウム、フッ化リチウム、酸化リチウム、過酸化リチウム、又はチオ硫酸リチウムのうちの任意の1つ以上から選択される、
請求項2に記載の電極シート。
【請求項6】
前記中間層の厚さが1μm~2μmである、
請求項1に記載の電極シート。
【請求項7】
前記中間層の厚さが1μm~2μmである、
請求項2に記載の電極シート。
【請求項8】
前記リチウム補充層の厚さが1μm~5μmである、
請求項1に記載の電極シート。
【請求項9】
前記リチウム補充層の厚さが1μm~5μmである、
請求項2に記載の電極シート。
【請求項10】
前記中間層がマグネトロンスパッタリング法を実行することにより得られる、
請求項6に記載の電極シート。
【請求項11】
前記中間層がマグネトロンスパッタリング法を実行することにより得られる、
請求項7に記載の電極シート。
【請求項12】
前記リチウム補充層が蒸着法を実行することにより得られる、
請求項8に記載の電極シート。
【請求項13】
前記リチウム補充層が蒸着法を実行することにより得られる、
請求項9に記載の電極シート。
【請求項14】
前記活物質層が正極活物質を含む、
請求項1に記載の電極シート。
【請求項15】
請求項1に記載の電極シートを含む、
電気化学デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池の技術分野に属するものであり、電極シート及び電気化学デバイスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、液体電池の減衰の主な理由は、SEI層の成長の継続、遷移金属の溶解、正極材料の酸素の放出、負極の電解質酸化及びリチウム放出等であり、リチウムイオンの損失はリチウムを補充することによって相殺することができ、これにより電池の減衰を回避することができる。
【0003】
リチウムを補充する既知の方法の1つは、電極シートにリチウム粉末を直接加える、又は負極にリチウム箔を加えることである。しかし、リチウム金属は水分と空気に非常に敏感であり、リチウムは水に反応して多くの熱を発生させ、電極の局所的温度が高くなりすぎて電極の故障につながる。一方で該故障はリチウム補充プロセスの間に良好なSEIを形成することを不可能にし、他方で電池の後のサイクルにおける減衰を引き起こす。そして、リチウムを補充するもう1つの方法は短絡法である。ただし、このようなリチウム補充方法は電極シートを過度に発熱させ、電圧低減プロセスの間にSEIが生成されず、電池の後のサイクルにも影響する。
【0004】
このため、リチウム補充プロセスを緩慢且つマイルドにし、リチウム補充プロセスの間に多くの熱を発生させないようにし、これによりリチウム補充プロセスの間にSEIが好ましく成長できない欠点を回避することのできる電極シートを提供することが必要とされ、これにより初回効率が高くサイクル性能に優れた電池が得られる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的を達成するため、本発明は以下の技術的解決策を採用する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の様態は電極シートを提供し、電極シートの表面は活物質層でコーティングされ、活物質層の表面上に中間層とリチウム補充層が更に提供される。
【0007】
中間層は固体電解質を含み、リチウム補充層は自己分解によりチウムイオンを生成可能なリチウム含有化合物を含む。
【0008】
本発明において、電極シートの活物質層の表面は、先ず固体電解質を採用することにより中間層として設置され、次いでリチウム補充層が中間層の上面に配置されることで、中間層は人工SEI層として用いられることができる。このようにして、リチウム補充層と電極シートとの間の直接的な接触により引き起こされる放熱を避けることが可能であり、これはリチウム補充プロセスの間に熱が発生することを効果的に抑制する。中間層の設置は、電極シートのSEI層の連続的な成長により引き起こされる活性リチウムの大量の損失を回避し、これによりリチウム補充効果を効果的に向上させる。本発明のリチウム補充層は自己分解性リチウム化合物を採用し、該自己分解性リチウム化合物は充放電プロセスの間にリチウムを補充するために、リチウムイオンを生成するよう自己分解することができる。従来のリチウム補充に採用されるリチウム箔又はリチウム粉末を置き換えることにより、リチウム金属が水分や空気に敏感であり、水と接触すると放熱するという問題を解決することができる。このため、本発明はリチウムを補充するプロセスにおける発熱量を低減させ、リチウムを補充する初回効率を向上させ、電池のサイクル性能を向上させることができる。
【0009】
本発明の第2の様態は、第1の様態で説明した電極シートを含む電極シートを提供する。
【発明の効果】
【0010】
関連技術と比較し、本発明は以下の有益な効果を有する。
【0011】
本発明において、中間層が先ずマグネトロンスパッタリング法により電極シートの表面上に配置され、次いでリチウム補充層が蒸着法により中間層上に配置され、これによりリチウム補充プロセスの間にリチウム補充層により生成される発熱現象を回避する。この方法において、連続的にSEIを生成するための電極シートの活性リチウム消耗の問題を解決することが可能であり、これにより理想的なリチウム補充効果を達成し、製造された電池は向上した電気化学的性能を有する。本発明の電極シートを用いることにより、リチウム補充層はより多くの活性リチウムイオンを生成することができ、リチウム補充の間に生成される熱がより少なく、電池セルの温度も低下する。更に、中間層の設置は後のサイクルにおける電解質の酸化プロセスを回避することができ、該電極シートを採用したときリチウム補充効果が向上し、得られた電池は向上した初回効率及びサイクル性能といった電気化学性能を有する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の技術的解決策を、特定の実施形態を通じて以下に更に説明する。当業者は、実施形態は本発明の理解を容易にするためだけのものであり、本発明の特定の限定として解釈されるべきではないことを理解すべきである。
【0013】
本発明は電極シートを提供し、その表面は活物質層でコーティングされ、電極シートの活物質層の表面は、順に積層される中間層とリチウム補充層とを含む。中間層は固体電解質を含み、リチウム補充層はリチウムイオンを生成するため自己分解することができるリチウム含有化合物を含む。
【0014】
固体電解質は、LiPON(リン酸リチウムオキシナイトライド)、LATP(リン酸チタンアルミリチウム)、LLZO(リチウムランタンジルコニウム酸化物)、又はLLTO(リチウムランタンチタン酸化物)のうちの1つ又は2つ以上の組合せを含むことが好ましい。典型的であるが非限定的な組合せには、LiPONとLLTOの組合せ、又はLATPとLLZOの組合せを含み、LiPONが好ましい。
【0015】
固体電解質は遷移金属元素でドープされることが好ましく、具体的には、LiPON、LATP、LLZO、又はLLTOは独立して遷移金属元素でドープされる。
【0016】
遷移金属元素は、Ti、V、Cr、又はMnのうちの1つ又は少なくとも2つの組合せを含むことが好ましい。典型的であるが非限定的な組合せには、TiとVの組合せ、又はCrとMnの組合せを含み、遷移金属元素でドープされたLiPONが好ましい。
【0017】
遷移金属元素の含有量は5重量%~15重量%であることが好ましく、例えば、遷移金属元素の含有量は5重量%、10重量%、又は15重量%であってよいが、上記で列記した値に限定されず、該数値範囲内の他の列記していない値も適用可能である。
【0018】
電気化学反応又はコーティング法により作製する必要がある中間層の人工SEI膜の他の固体電解質と比較し、本発明の固体電解質はLiPON又はドープされたLiPONを採用し、マグネトロンスパッタリングにより電極シート上に薄いSEI膜を形成することが可能であり、これにより電池セルの内部抵抗を低下させる。このため、より好ましいアプローチはLiPON又はドープされたLiPONを採用することである。
【0019】
本発明はまたLiPONに基づいて遷移金属元素でドープされており、リチウム補充の効果を更に向上さて、SEI層の電子及びイオン伝導率を向上させることを可能とする。
【0020】
リチウム含有化合物は、窒化リチウム、硫化リチウム、フッ化リチウム、酸化リチウム、過酸化リチウム、又はチオ硫酸リチウムのうちの1つ又は少なくとも2つの組合せを含むことが好ましい。典型的であるが非限定的な組合せには、窒化リチウムと硫化リチウムの組合せ、フッ化リチウムと酸化リチウムの組合せ、又は酸化リチウムと過酸化リチウムの組合せを含み、窒化リチウムが好ましい。
【0021】
本発明において採用されるリチウム含有化合物は、電池の充放電プロセスの間の電圧の作用下で分解して、リチウムイオン及び対応するガスを生成することができる。例えば、窒化リチウムは約3.8Vの電圧で分解して活性リチウムイオン及び窒素ガスを生成する。生成されたガスは形成プロセスの間に電池セルから除去されてよく、リチウムイオンは電極シートに組み込まれ、新たなSEI層を形成するため電解質と反応し、理想的なリチウム補充効果を達成する。加えて、本発明において、自己分解によりチウムイオンを生成可能なリチウム含有化合物は、窒化リチウムであることが好ましい。窒化リチウムの自己分解により生成されるガスは窒素であることから、ガスは電池セル中の物質と反応せず、電池セルの電気化学性能はガスの生成により影響されない。
【0022】
中間層の厚さは、1μm、1.1μm、1.2μm、1.3μm、1.4μm、1.5μm、1.6μm、1.7μm、1.8μm、1.9μm、又は2μmといった、1μm~2μmであることが好ましいが、上記に列記した値に限定されず、数値範囲内の他の列記していない値についても同様である。
【0023】
本発明の中間層の厚さが上記範囲内にあるとき、通常、中間層の該厚さが適切な効果を有するという前提で、電子を伝導することができる。中間層の厚さが厚すぎると電子の伝導が影響され、中間層の厚さが薄すぎると該厚さは対応する効果を達成できない。
【0024】
リチウム補充層の厚さは1μm~5μmであることが好ましく、例えば、該厚さは1μm、1.5μm、2μm、2.5μm、3μm、3.5μm、4μm、4.5μm、又は5μmであってよいが、この列記した数値範囲に限定されず、数値範囲内の他の列記していない値についても同様である。
【0025】
本発明のリチウム補充層の厚さが上記範囲内にあるとき、リチウム補充層は電池の中間層に影響することなくリチウムを効果的に補充することができる。リチウム補充層の厚さが厚すぎると電池の内部抵抗が上昇し、リチウム補充層が薄すぎるとリチウム供給効果を達成することができない。
【0026】
中間層は、マグネトロンスパッタリング法により得られることが好ましい。
【0027】
本発明は、層の厚さを精度よく制御するため、マグネトロンスパッタリング法を中間層を作製するために採用し、製造された中間層は高い均一性、コンパクト性、及び純度を有する。
【0028】
リチウム補充層は、蒸着法により得られることが好ましい。
【0029】
本発明は、リチウム補充層を作製するために蒸着法を採用する。従来のコーティング法と比較し、蒸着法はリチウム補充層の安定性を確保することができ、他の従来の方法における長時間にわたり均質化プロセス又はコーティングプロセスを受けるリチウム補充層の安定性の低下又は自己分解材料の劣化という欠陥を回避することができる。
【0030】
活物質層は、正極活物質又は負極活物質、好ましくは正極活物質を含むことが好ましい。
【0031】
本発明の電極シートは、正極シートか負極シートかに関わらずリチウムを供給する効果を有し、特に正極シートとして用いられるとき、中間層に亀裂が入る問題が起こらず、電解質は後のサイクルにおける酸化が防止され、電池は低内部抵抗及び良好なサイクル性能を有する。同時に、リチウム補充層が正極電圧を増加させるプロセスにおいてより容易に酸化されることで、リチウム補充層のリチウム含有化合物がより完全に分解し、より多くの活性リチウムイオンを放出する。従って、リチウム補充プロセスにおいて発熱がより少なく、電池の温度を下げ、これはより高い初回効率、より低い内部抵抗、及び電池のより良好なサイクル性能を達成することを可能とする。このため、本発明における電極シートの好ましい種類は正極シートであり、活物質層中の活物質は正極活物質である。
【0032】
正極活物質は高ニッケル材料を含み、負極活物質は高シリコン材料を含むことが好ましい。
【0033】
本発明の電極シートの作製方法は次のとおりである。
【0034】
真空環境において、ターゲット材としてリチウム塩が用いられ、窒素とアルゴンが導入され、中間層を得るためマグネトロンスパッタリング法により電極シートの表面に被膜を堆積させる。次に、電極シートを得るため蒸着機器を用いてリチウム補充層を中間層の表面に蒸着させる。
【0035】
リチウム塩はリン酸リチウムを含むことが好ましい。
【0036】
本発明は、上述した電極シートを含む電気化学デバイスも提供する。
【0037】
以下の実施例及び比較例において、採用される正極シートは、アルミ箔と、アルミ箔の両側にコーティングされた正極活物質層とを含む。正極活物質層の厚さは58μmであり、高ニッケル材料と、導電性カーボンブラックと、PVDFとを、95:3:2の質量比で含む。採用される負極シートは、銅箔と、銅箔の両側にコーティングされた負極活物質層とを含み、負極活物質層の厚さは60μmであり、シリコン炭素材料と、スーパーPと、CMCとを、94:3.5:2.5の質量比で含む。正極シート及び負極シートの上記説明は単に本発明の技術的解決策をより完全に説明するためのものであり、本発明の特定の限定として見なされるべきではない。
【0038】
実施例1
【0039】
本実施形態は電極シートを提供し、該電極シートは正極シートを採用し、中間層とリチウム補充層が正極活物質層の両側に順に積層される。中間層はLiPON層であり、リチウム補充層は窒化リチウム層である。中間層の厚さは2μmであり、マグネトロンスパッタリング法により得られる。リチウム補充層の厚さは1μmであり、蒸着法により得られる。
【0040】
電極シートの作製方法は次のステップを含む。
【0041】
真空環境において、リン酸リチウムターゲットを採用し、質量流量コントローラが進入する作動ガスの窒素対アルゴンの流量比を3:1に制御する。5×10-2Paの作動圧において、2μmの中間層を得るため正極シートの表面上でマグネトロンスパッタリング堆積を4時間実行し、次いで電極シートを得るため蒸着機器により中間層の表面上にリチウム補充層を蒸着した。
【0042】
実施例2
【0043】
実施例2の電極シートは正極シートを採用し、中間層とリチウム補充層を正極活物質層の両側に順に積層し、中間層はLiPON層であり、リチウム補充層は硫化リチウム層である。中間層の厚さは1.5μmであり、マグネトロンスパッタリング法により得られる。リチウム補充層の厚さは2.5μmであり、蒸着法により得られる。
【0044】
実施例2の電極シートの作製方法は次のステップを含む。
【0045】
真空環境において、リン酸リチウムターゲットを採用し、質量流量コントローラが進入する作動ガスの窒素対アルゴンの流量比を3:1に制御する。5×10-2Paの作動圧において、1.5μmの中間層を得るため正極シートの表面上でマグネトロンスパッタリング堆積を3時間実行し、次いで電極シートを得るため蒸着機器により中間層の表面上にリチウム補充層を蒸着した。
【0046】
実施例3
【0047】
実施例3の電極シートは正極シートを採用し、中間層とリチウム補充層が正極活物質層の両側に順に積層され、中間層はLiPON層であり、リチウム補充層は酸化リチウム層である。中間層の厚さは1μmであり、マグネトロンスパッタリング法により得られる。リチウム補充層の厚さは5μmであり、蒸着法により得られる。
【0048】
実施例3の電極シートの作製方法は次のステップを含む。
【0049】
真空環境において、リン酸リチウムターゲットを採用し、質量流量コントローラが進入する作動ガスの窒素対アルゴンの流量比を3:1に制御する。5×10-2Paの作動圧において、1μmの中間層を得るため正極シートの表面上でマグネトロンスパッタリング堆積を2時間実行し、次いで電極シートを得るため蒸着機器により中間層の表面上にリチウム補充層を蒸着した。
【0050】
実施例4と実施例5において提供する電極シートを表2に示す。実施例4~5と実施例1との間の差異は、実施例4における電極シートは負極シートであり、両側が負極活物質層でコーティングされる。実施例5において、中間層とリチウム補充層はどちらも負極シート及び正極シートの表面上に製造される、即ち、採用される電極シートの種類が変更されたことを除き、他の条件は実施例1と同一である。
【0051】
実施例6と実施例7において提供する電極シートを表3に示す。中間層の厚さの変更を除き、残りの条件は実施例1のものと同一である。
【0052】
実施例8と実施例9において提供する電極シートを表4に示す。リチウム補充層の厚さの変更を除き、残りの条件は実施例1のものと同一である。
【0053】
実施例10において提供する電極シートを表5に示す。中間層の成分における変更を除き、残りの条件は実施例1のものと同一であり、実施例10におけるTiでドープされたLiPONにおいて、Tiのドープ量は10重量%である。
【0054】
実施例11において提供する電極シートを表5に示し、中間層の成分がLATPに変更されている。LATPはマグネトロンスパッタリングでは得られずスラリー塗布により得られることから、2μmの厚さの中間層は得ることができない。塗布後の中間層の厚さは5.5μmであり、残りの条件は実施例1のものと同一である。
【0055】
実施例と比較し、比較例1により提供される電極シートの表面上には人工SEI層とリチウム補充層が提供されず、比較例2~比較例4により提供される電極シートを表6に示す。電極シートの表面の成分の変更を除き、残りの条件は実施例1のものと同一である。比較例4の表面には中間層及び金属リチウム層が提供され、金属リチウム層の厚さは実施例1において説明したリチウム補充層のものと同一であり、同様に蒸着により得られる。
【0056】
本発明の電極シートは、組立て前の元素を検出するためSEM-EDSを採用し、電極シートの表面上に中間層とリチウム補充層が存在することを証明するために関連する試験ピークを検出するためXPSを採用する。実施例1により提供される電極シートを例とし、SEM-EDSはN及びP元素を検出するために採用され、XPSはP=O及びN=Oの関連試験ピークを検出するために採用することができる。
【0057】
上記の実施例1~3、実施例6~11、及び比較例1~4により提供される電極シートと、中間層及びリチウム補充層が提供されない個別の負極シートと、ポリエチレンセパレータと、1mоl/LのLiPF/EC+DMC+EMC(EC、DMC、EMCのボリューム比は1:1:1)電解質とが、リチウムイオン電池を作製する一般的なプロセスに従って電池に組み立てられる。同様に、実施例4により提供される電極シートと、中間層及びリチウム補充層が提供されない個別の正極シートと、上述したセパレータと、電解質とが、電池に組み立てられる。実施例5において提供される2つの電極シートと、上述したセパレータと、電解質とが、電池に組み立てられる。
【0058】
電池の電気化学的特性を検証するため、上記の組電池を化学的に形成し、次いで界面内部抵抗、初回クーロン効率試験、常温サイクル試験、及びDCR試験のために試験した。試験条件は次のとおりである。
【0059】
(1)0.33C容量キャリブレーション(1Ah):25℃で10分間放置し、1/3C定電流で4.17Vまで充電し、4.17V定電圧で0.05Cまで充電し、30分間放置し、1/3C定電流で2.5Vまで放電し、上記操作を2回繰り返す。
【0060】
(2)50%まで充電状態を調整:最後の放電容量であるCを以下の全ての試験容量の基礎とし、30分間放置し、1/3C定電流で(C×50%)Ahまで充電し、SOCを50%まで調整する。
【0061】
(3)4C DC DCR:1時間放置し、静的端子電圧Vを記録し、4Cで30秒間放電し、記録条件は△t=0.1sであり、30分間放置し、1/3Cで2.5Vまで放電する。
【0062】
(4)100サイクル繰り返し:10分間放置し、0.5C定電流で4.2Vまで充電し、4.2V定電圧で0.05Cまで充電し、10分間放置し、1Cで2.5Vまで放電し、ステップ(4)から100サイクル繰り返した後、30分間放置する。
【0063】
(5)EOL 1/3C容量キャリブレーション:1/3Cで2.5Vまで放電し、100サイクル毎に容量及びDCRを測定する。
【0064】
(6)30分間放置し、1/3C定電流で4.2Vまで充電し、4.2V定電圧で0.05Cまで充電し、30分間放置し、1/3Cで2.5Vまで放電し、ステップ(6)から2回繰り返し、Cを最後の放電容量及び下記のDCR試験容量の基礎とする。
【0065】
(7)1/3C定電流で(C×50%)Ahまで充電し、SOCを50%に調整する。(8)4C DC DCR:1時間放置し、静的端子電圧Vを記録し、4Cで30秒間放電し、記録条件は:△t=0.1s、30分間放置し、100サイクル毎に1/3C容量キャリブレーションを実行し、DCRを一回実行し、上記ステップを繰り返し、1000サイクル繰り返す。
【0066】
試験結果を下記表に示す。
【0067】
【表1】
【0068】
【表2】
【0069】
【表3】
【0070】
【表4】
【0071】
【表5】
【0072】
【表6】
【0073】
上記表から下記結果が得られる。
【0074】
(1)実施例1~11及び比較例1~4から、中間層が先ずマグネトロンスパッタリングにより配置され、次いでリチウム補充層が蒸着法により配置されると、リチウム補充プロセスの間にリチウム補充層が熱を発するのを防止してSEIの成長問題を回避することが可能であることが分かる。この方法で、より良好なリチウム補充効果を達成することができ、製造された電池は優れた電気化学性能を有する。実施例1、実施例4、及び実施例5から、中間層とリチウム補充層を正極シート上に配置することにより、より良好なリチウム補充効果を達成することができ、製造された電池は優れた電気化学性能を有することが分かる。中間層とリチウム補充層が負極シート上に配置されたとき、サイクルプロセスの間の負極の膨張に伴い中間層に亀裂が入りやすく、より良好なリチウム補充効果を達成することは不可能である。正極シートの表面上のみに配置された中間層が高い安定性を有し、リチウム補充層がより容易に酸化され、リチウム補充層のリチウム含有化合物がより完全に分解される。このため、リチウム補充プロセスの間に発生する熱が低く、電池の性能を優れたものとする。
【0075】
(2)実施例1、実施例6、及び実施例7から、中間層の厚さが厚すぎると電子の伝導率が低下し、中間層の厚さが薄すぎる場合は中間層の効果が劣ることが分かる。実施例1、実施例8、実施例9は、リチウム補充層の厚さが厚すぎると電池の内部抵抗が上昇することを示しており、これは電池の電気化学性能に影響する。リチウム補充層の厚さが薄すぎるとリチウム補充効果が劣る。このため、合理的な厚さを有する中間層とリチウム補充層の組合せが、電池に良好なリチウム補充効果及び優れた性能をもたらすことが可能である。実施例1、実施例10、及び実施例11から分かるように、LiPON中の遷移金属元素をドープすることは中間層のイオン及び電子の伝導率を更に向上させ、リチウム補充効果及び電池性能を更に向上させる。他の固形電解質が採用される場合、他の固形電解質はより薄い人工SEI膜を製造するためにマグネトロンスパッタリング法と組み合わせることができないため、実施例11においてLATP層が中間層として用いられるとき、製造された層の厚さが厚すぎ、これは電池セルの内部抵抗を大幅に増加させ、リチウムイオンの伝送距離を増加させ、リチウムイオンの移動速度が低下し、これに応じて電池性能が低下する。
【0076】
(3)実施例1と比較例1~3から、比較例1は中間層とリチウム補充層を有さず、初回効率及び500週での容量維持率が実施例1のものよりも大幅に低いことが分かる。上記は、実施例1が比較例1よりも良好なリチウム補充効果を有し、従来のリチウム補充プロセスに見られる欠陥を克服することができることを示している。比較例2及び比較例3と比較し、実施例1は、初回効率や容量維持率といった様々な面においてもより良好な性能を示している。上記は、本発明の電極シートの中間層とリチウム補充層との間のマッチング関係が、相乗効果を通じてリチウム補充効果及び電池の電気化学清掃を向上させることができることも証明している。実施例1と比較例4から、比較例4におけるリチウム補充層は単体リチウム金属を採用していることが分かる。この場合、リチウムを補充できるとはいえ、500週後の容量維持率は実施例1よりも大幅に低い。リチウム金属の安定性が劣り、本発明のリチウム補充層よりも熱が発生するため、リチウム補充効果が減少し、中間層により達成される機能が減じ、良好な相乗効果を達成することができない。このため、得られる電池性能が低下する。
【産業上の利用可能性】
【0077】
まとめると、本発明は電極シート及びその応用を提供している。電極シートはリチウムを補充するプロセスにおいて大量の熱を発生させず、リチウムを補充するプロセスは緩慢且つ適度であり、これによりリチウム補充プロセスの間にSEIが良好に成長することができない欠点を回避し、これにより電池に優れた性能をもたらす。更に、本発明のものを含む電極シート及び電気化学デバイスは液体電池といった電池セルの分野に利用することが可能であり、このため産業上の利用可能性が高い。
【0078】
上記は本発明の特定の実施形態にすぎず、本発明の保護範囲はこれらに限定されない。本発明により開示される技術的範囲内で当業者が容易に想到することのできる改変又は置き換えは、本発明の保護範囲及び開示範囲内にある。
【手続補正書】
【提出日】2023-02-06
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池の技術分野に属するものであり、電極シート及び電気化学デバイスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、液体電池の減衰の主な理由は、SEI層の成長の継続、遷移金属の溶解、正極材料の酸素の放出、負極の電解質酸化及びリチウム放出等であり、リチウムイオンの損失はリチウムを補充することによって相殺することができ、これにより電池の減衰を回避することができる。
【0003】
リチウムを補充する既知の方法の1つは、電極シートにリチウム粉末を直接加える、又は負極にリチウム箔を加えることである。しかし、リチウム金属は水分と空気に非常に敏感であり、リチウムは水に反応して多くの熱を発生させ、電極の局所的温度が高くなりすぎて電極の故障につながる。一方で該故障はリチウム補充プロセスの間に良好なSEIを形成することを不可能にし、他方で電池の後のサイクルにおける減衰を引き起こす。そして、リチウムを補充するもう1つの方法は短絡法である。ただし、このようなリチウム補充方法は電極シートを過度に発熱させ、電圧低減プロセスの間にSEIが生成されず、電池の後のサイクルにも影響する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このため、リチウム補充プロセスを緩慢且つマイルドにし、リチウム補充プロセスの間に多くの熱を発生させないようにし、これによりリチウム補充プロセスの間にSEIが好ましく成長できない欠点を回避することのできる電極シートを提供することが必要とされ、これにより初回効率が高くサイクル性能に優れた電池が得られる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の目的を達成するため、本発明は以下の技術的解決策を採用する。
【0006】
本発明の第1の様態は電極シートを提供し、電極シートの表面は活物質層でコーティングされ、活物質層の表面上に中間層とリチウム補充層が更に提供される。
【0007】
中間層は固体電解質を含み、リチウム補充層は自己分解によりチウムイオンを生成可能なリチウム含有化合物を含む。
【0008】
本発明において、電極シートの活物質層の表面は、先ず固体電解質を採用することにより中間層として設置され、次いでリチウム補充層が中間層の上面に配置されることで、中間層は人工SEI層として用いられることができる。このようにして、リチウム補充層と電極シートとの間の直接的な接触により引き起こされる放熱を避けることが可能であり、これはリチウム補充プロセスの間に熱が発生することを効果的に抑制する。中間層の設置は、電極シートのSEI層の連続的な成長により引き起こされる活性リチウムの大量の損失を回避し、これによりリチウム補充効果を効果的に向上させる。本発明のリチウム補充層は自己分解性リチウム化合物を採用し、該自己分解性リチウム化合物は充放電プロセスの間にリチウムを補充するために、リチウムイオンを生成するよう自己分解することができる。従来のリチウム補充に採用されるリチウム箔又はリチウム粉末を置き換えることにより、リチウム金属が水分や空気に敏感であり、水と接触すると放熱するという問題を解決することができる。このため、本発明はリチウムを補充するプロセスにおける発熱量を低減させ、リチウムを補充する初回効率を向上させ、電池のサイクル性能を向上させることができる。
【0009】
本発明の第2の様態は、第1の様態で説明した電極シートを含む電極シートを提供する。
【発明の効果】
【0010】
関連技術と比較し、本発明は以下の有益な効果を有する。
【0011】
本発明において、中間層が先ずマグネトロンスパッタリング法により電極シートの表面上に配置され、次いでリチウム補充層が蒸着法により中間層上に配置され、これによりリチウム補充プロセスの間にリチウム補充層により生成される発熱現象を回避する。この方法において、連続的にSEIを生成するための電極シートの活性リチウム消耗の問題を解決することが可能であり、これにより理想的なリチウム補充効果を達成し、製造された電池は向上した電気化学的性能を有する。本発明の電極シートを用いることにより、リチウム補充層はより多くの活性リチウムイオンを生成することができ、リチウム補充の間に生成される熱がより少なく、電池セルの温度も低下する。更に、中間層の設置は後のサイクルにおける電解質の酸化プロセスを回避することができ、該電極シートを採用したときリチウム補充効果が向上し、得られた電池は向上した初回効率及びサイクル性能といった電気化学性能を有する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の技術的解決策を、特定の実施形態を通じて以下に更に説明する。当業者は、実施形態は本発明の理解を容易にするためだけのものであり、本発明の特定の限定として解釈されるべきではないことを理解すべきである。
【0013】
本発明は電極シートを提供し、その表面は活物質層でコーティングされ、電極シートの活物質層の表面は、順に積層される中間層とリチウム補充層とを含む。中間層は固体電解質を含み、リチウム補充層はリチウムイオンを生成するため自己分解することができるリチウム含有化合物を含む。
【0014】
固体電解質は、LiPON(リン酸リチウムオキシナイトライド)、LATP(リン酸チタンアルミリチウム)、LLZO(リチウムランタンジルコニウム酸化物)、又はLLTO(リチウムランタンチタン酸化物)のうちの1つ又は2つ以上の組合せを含むことが好ましい。典型的であるが非限定的な組合せには、LiPONとLLTOの組合せ、又はLATPとLLZOの組合せを含み、LiPONが好ましい。
【0015】
固体電解質は遷移金属元素でドープされることが好ましく、具体的には、LiPON、LATP、LLZO、又はLLTOは独立して遷移金属元素でドープされる。
【0016】
遷移金属元素は、Ti、V、Cr、又はMnのうちの1つ又は少なくとも2つの組合せを含むことが好ましい。典型的であるが非限定的な組合せには、TiとVの組合せ、又はCrとMnの組合せを含み、遷移金属元素でドープされたLiPONが好ましい。
【0017】
遷移金属元素の含有量は5重量%~15重量%であることが好ましく、例えば、遷移金属元素の含有量は5重量%、10重量%、又は15重量%であってよいが、上記で列記した値に限定されず、該数値範囲内の他の列記していない値も適用可能である。
【0018】
電気化学反応又はコーティング法により作製する必要がある中間層の人工SEI膜の他の固体電解質と比較し、本発明の固体電解質はLiPON又はドープされたLiPONを採用し、マグネトロンスパッタリングにより電極シート上に薄いSEI膜を形成することが可能であり、これにより電池セルの内部抵抗を低下させる。このため、より好ましいアプローチはLiPON又はドープされたLiPONを採用することである。
【0019】
本発明はまたLiPONに基づいて遷移金属元素でドープされており、リチウム補充の効果を更に向上さて、SEI層の電子及びイオン伝導率を向上させることを可能とする。
【0020】
リチウム含有化合物は、窒化リチウム、硫化リチウム、フッ化リチウム、酸化リチウム、過酸化リチウム、又はチオ硫酸リチウムのうちの1つ又は少なくとも2つの組合せを含むことが好ましい。典型的であるが非限定的な組合せには、窒化リチウムと硫化リチウムの組合せ、フッ化リチウムと酸化リチウムの組合せ、又は酸化リチウムと過酸化リチウムの組合せを含み、窒化リチウムが好ましい。
【0021】
本発明において採用されるリチウム含有化合物は、電池の充放電プロセスの間の電圧の作用下で分解して、リチウムイオン及び対応するガスを生成することができる。例えば、窒化リチウムは約3.8Vの電圧で分解して活性リチウムイオン及び窒素ガスを生成する。生成されたガスは形成プロセスの間に電池セルから除去されてよく、リチウムイオンは電極シートに組み込まれ、新たなSEI層を形成するため電解質と反応し、理想的なリチウム補充効果を達成する。加えて、本発明において、自己分解によりチウムイオンを生成可能なリチウム含有化合物は、窒化リチウムであることが好ましい。窒化リチウムの自己分解により生成されるガスは窒素であることから、ガスは電池セル中の物質と反応せず、電池セルの電気化学性能はガスの生成により影響されない。
【0022】
中間層の厚さは、1μm、1.1μm、1.2μm、1.3μm、1.4μm、1.5μm、1.6μm、1.7μm、1.8μm、1.9μm、又は2μmといった、1μm~2μmであることが好ましいが、上記に列記した値に限定されず、数値範囲内の他の列記していない値についても同様である。
【0023】
本発明の中間層の厚さが上記範囲内にあるとき、通常、中間層の該厚さが適切な効果を有するという前提で、電子を伝導することができる。中間層の厚さが厚すぎると電子の伝導が影響され、中間層の厚さが薄すぎると該厚さは対応する効果を達成できない。
【0024】
リチウム補充層の厚さは1μm~5μmであることが好ましく、例えば、該厚さは1μm、1.5μm、2μm、2.5μm、3μm、3.5μm、4μm、4.5μm、又は5μmであってよいが、この列記した数値範囲に限定されず、数値範囲内の他の列記していない値についても同様である。
【0025】
本発明のリチウム補充層の厚さが上記範囲内にあるとき、リチウム補充層は電池の中間層に影響することなくリチウムを効果的に補充することができる。リチウム補充層の厚さが厚すぎると電池の内部抵抗が上昇し、リチウム補充層が薄すぎるとリチウム供給効果を達成することができない。
【0026】
中間層は、マグネトロンスパッタリング法により得られることが好ましい。
【0027】
本発明は、層の厚さを精度よく制御するため、マグネトロンスパッタリング法を中間層を作製するために採用し、製造された中間層は高い均一性、コンパクト性、及び純度を有する。
【0028】
リチウム補充層は、蒸着法により得られることが好ましい。
【0029】
本発明は、リチウム補充層を作製するために蒸着法を採用する。従来のコーティング法と比較し、蒸着法はリチウム補充層の安定性を確保することができ、他の従来の方法における長時間にわたり均質化プロセス又はコーティングプロセスを受けるリチウム補充層の安定性の低下又は自己分解材料の劣化という欠陥を回避することができる。
【0030】
活物質層は、正極活物質又は負極活物質、好ましくは正極活物質を含むことが好ましい。
【0031】
本発明の電極シートは、正極シートか負極シートかに関わらずリチウムを供給する効果を有し、特に正極シートとして用いられるとき、中間層に亀裂が入る問題が起こらず、電解質は後のサイクルにおける酸化が防止され、電池は低内部抵抗及び良好なサイクル性能を有する。同時に、リチウム補充層が正極電圧を増加させるプロセスにおいてより容易に酸化されることで、リチウム補充層のリチウム含有化合物がより完全に分解し、より多くの活性リチウムイオンを放出する。従って、リチウム補充プロセスにおいて発熱がより少なく、電池の温度を下げ、これはより高い初回効率、より低い内部抵抗、及び電池のより良好なサイクル性能を達成することを可能とする。このため、本発明における電極シートの好ましい種類は正極シートであり、活物質層中の活物質は正極活物質である。
【0032】
正極活物質は高ニッケル材料を含み、負極活物質は高シリコン材料を含むことが好ましい。
【0033】
本発明の電極シートの作製方法は次のとおりである。
【0034】
真空環境において、ターゲット材としてリチウム塩が用いられ、窒素とアルゴンが導入され、中間層を得るためマグネトロンスパッタリング法により電極シートの表面に被膜を堆積させる。次に、電極シートを得るため蒸着機器を用いてリチウム補充層を中間層の表面に蒸着させる。
【0035】
リチウム塩はリン酸リチウムを含むことが好ましい。
【0036】
本発明は、上述した電極シートを含む電気化学デバイスも提供する。
【0037】
以下の実施例及び比較例において、採用される正極シートは、アルミ箔と、アルミ箔の両側にコーティングされた正極活物質層とを含む。正極活物質層の厚さは58μmであり、高ニッケル材料と、導電性カーボンブラックと、PVDFとを、95:3:2の質量比で含む。採用される負極シートは、銅箔と、銅箔の両側にコーティングされた負極活物質層とを含み、負極活物質層の厚さは60μmであり、シリコン炭素材料と、スーパーPと、CMCとを、94:3.5:2.5の質量比で含む。正極シート及び負極シートの上記説明は単に本発明の技術的解決策をより完全に説明するためのものであり、本発明の特定の限定として見なされるべきではない。
【0038】
実施例1
【0039】
本実施形態は電極シートを提供し、該電極シートは正極シートを採用し、中間層とリチウム補充層が正極活物質層の両側に順に積層される。中間層はLiPON層であり、リチウム補充層は窒化リチウム層である。中間層の厚さは2μmであり、マグネトロンスパッタリング法により得られる。リチウム補充層の厚さは1μmであり、蒸着法により得られる。
【0040】
電極シートの作製方法は次のステップを含む。
【0041】
真空環境において、リン酸リチウムターゲットを採用し、質量流量コントローラが進入する作動ガスの窒素対アルゴンの流量比を3:1に制御する。5×10-2Paの作動圧において、2μmの中間層を得るため正極シートの表面上でマグネトロンスパッタリング堆積を4時間実行し、次いで電極シートを得るため蒸着機器により中間層の表面上にリチウム補充層を蒸着した。
【0042】
実施例2
【0043】
実施例2の電極シートは正極シートを採用し、中間層とリチウム補充層を正極活物質層の両側に順に積層し、中間層はLiPON層であり、リチウム補充層は硫化リチウム層である。中間層の厚さは1.5μmであり、マグネトロンスパッタリング法により得られる。リチウム補充層の厚さは2.5μmであり、蒸着法により得られる。
【0044】
実施例2の電極シートの作製方法は次のステップを含む。
【0045】
真空環境において、リン酸リチウムターゲットを採用し、質量流量コントローラが進入する作動ガスの窒素対アルゴンの流量比を3:1に制御する。5×10-2Paの作動圧において、1.5μmの中間層を得るため正極シートの表面上でマグネトロンスパッタリング堆積を3時間実行し、次いで電極シートを得るため蒸着機器により中間層の表面上にリチウム補充層を蒸着した。
【0046】
実施例3
【0047】
実施例3の電極シートは正極シートを採用し、中間層とリチウム補充層が正極活物質層の両側に順に積層され、中間層はLiPON層であり、リチウム補充層は酸化リチウム層である。中間層の厚さは1μmであり、マグネトロンスパッタリング法により得られる。リチウム補充層の厚さは5μmであり、蒸着法により得られる。
【0048】
実施例3の電極シートの作製方法は次のステップを含む。
【0049】
真空環境において、リン酸リチウムターゲットを採用し、質量流量コントローラが進入する作動ガスの窒素対アルゴンの流量比を3:1に制御する。5×10-2Paの作動圧において、1μmの中間層を得るため正極シートの表面上でマグネトロンスパッタリング堆積を2時間実行し、次いで電極シートを得るため蒸着機器により中間層の表面上にリチウム補充層を蒸着した。
【0050】
実施例4と実施例5において提供する電極シートを表2に示す。実施例4~5と実施例1との間の差異は、実施例4における電極シートは負極シートであり、両側が負極活物質層でコーティングされる。実施例5において、中間層とリチウム補充層はどちらも負極シート及び正極シートの表面上に製造される、即ち、採用される電極シートの種類が変更されたことを除き、他の条件は実施例1と同一である。
【0051】
実施例6と実施例7において提供する電極シートを表3に示す。中間層の厚さの変更を除き、残りの条件は実施例1のものと同一である。
【0052】
実施例8と実施例9において提供する電極シートを表4に示す。リチウム補充層の厚さの変更を除き、残りの条件は実施例1のものと同一である。
【0053】
実施例10において提供する電極シートを表5に示す。中間層の成分における変更を除き、残りの条件は実施例1のものと同一であり、実施例10におけるTiでドープされたLiPONにおいて、Tiのドープ量は10重量%である。
【0054】
実施例11において提供する電極シートを表5に示し、中間層の成分がLATPに変更されている。LATPはマグネトロンスパッタリングでは得られずスラリー塗布により得られることから、2μmの厚さの中間層は得ることができない。塗布後の中間層の厚さは5.5μmであり、残りの条件は実施例1のものと同一である。
【0055】
実施例と比較し、比較例1により提供される電極シートの表面上には人工SEI層とリチウム補充層が提供されず、比較例2~比較例4により提供される電極シートを表6に示す。電極シートの表面の成分の変更を除き、残りの条件は実施例1のものと同一である。比較例4の表面には中間層及び金属リチウム層が提供され、金属リチウム層の厚さは実施例1において説明したリチウム補充層のものと同一であり、同様に蒸着により得られる。
【0056】
本発明の電極シートは、組立て前の元素を検出するためSEM-EDSを採用し、電極シートの表面上に中間層とリチウム補充層が存在することを証明するために関連する試験ピークを検出するためXPSを採用する。実施例1により提供される電極シートを例とし、SEM-EDSはN及びP元素を検出するために採用され、XPSはP=O及びN=Oの関連試験ピークを検出するために採用することができる。
【0057】
上記の実施例1~3、実施例6~11、及び比較例1~4により提供される電極シートと、中間層及びリチウム補充層が提供されない個別の負極シートと、ポリエチレンセパレータと、1mоl/LのLiPF/EC+DMC+EMC(EC、DMC、EMCのボリューム比は1:1:1)電解質とが、リチウムイオン電池を作製する一般的なプロセスに従って電池に組み立てられる。同様に、実施例4により提供される電極シートと、中間層及びリチウム補充層が提供されない個別の正極シートと、上述したセパレータと、電解質とが、電池に組み立てられる。実施例5において提供される2つの電極シートと、上述したセパレータと、電解質とが、電池に組み立てられる。
【0058】
電池の電気化学的特性を検証するため、上記の組電池を化学的に形成し、次いで界面内部抵抗、初回クーロン効率試験、常温サイクル試験、及びDCR試験のために試験した。試験条件は次のとおりである。
【0059】
(1)0.33C容量キャリブレーション(1Ah):25℃で10分間放置し、1/3C定電流で4.17Vまで充電し、4.17V定電圧で0.05Cまで充電し、30分間放置し、1/3C定電流で2.5Vまで放電し、上記操作を2回繰り返す。
【0060】
(2)50%まで充電状態を調整:最後の放電容量であるCを以下の全ての試験容量の基礎とし、30分間放置し、1/3C定電流で(C×50%)Ahまで充電し、SOCを50%まで調整する。
【0061】
(3)4C DC DCR:1時間放置し、静的端子電圧Vを記録し、4Cで30秒間放電し、記録条件は△t=0.1sであり、30分間放置し、1/3Cで2.5Vまで放電する。
【0062】
(4)100サイクル繰り返し:10分間放置し、0.5C定電流で4.2Vまで充電し、4.2V定電圧で0.05Cまで充電し、10分間放置し、1Cで2.5Vまで放電し、ステップ(4)から100サイクル繰り返した後、30分間放置する。
【0063】
(5)EOL 1/3C容量キャリブレーション:1/3Cで2.5Vまで放電し、100サイクル毎に容量及びDCRを測定する。
【0064】
(6)30分間放置し、1/3C定電流で4.2Vまで充電し、4.2V定電圧で0.05Cまで充電し、30分間放置し、1/3Cで2.5Vまで放電し、ステップ(6)から2回繰り返し、Cを最後の放電容量及び下記のDCR試験容量の基礎とする。
【0065】
(7)1/3C定電流で(C×50%)Ahまで充電し、SOCを50%に調整する。(8)4C DC DCR:1時間放置し、静的端子電圧Vを記録し、4Cで30秒間放電し、記録条件は:△t=0.1s、30分間放置し、100サイクル毎に1/3C容量キャリブレーションを実行し、DCRを一回実行し、上記ステップを繰り返し、1000サイクル繰り返す。
【0066】
試験結果を下記表に示す。
【0067】
【表1】
【0068】
【表2】
【0069】
【表3】
【0070】
【表4】
【0071】
【表5】
【0072】
【表6】
【0073】
上記表から下記結果が得られる。
【0074】
(1)実施例1~11及び比較例1~4から、中間層が先ずマグネトロンスパッタリングにより配置され、次いでリチウム補充層が蒸着法により配置されると、リチウム補充プロセスの間にリチウム補充層が熱を発するのを防止してSEIの成長問題を回避することが可能であることが分かる。この方法で、より良好なリチウム補充効果を達成することができ、製造された電池は優れた電気化学性能を有する。実施例1、実施例4、及び実施例5から、中間層とリチウム補充層を正極シート上に配置することにより、より良好なリチウム補充効果を達成することができ、製造された電池は優れた電気化学性能を有することが分かる。中間層とリチウム補充層が負極シート上に配置されたとき、サイクルプロセスの間の負極の膨張に伴い中間層に亀裂が入りやすく、より良好なリチウム補充効果を達成することは不可能である。正極シートの表面上のみに配置された中間層が高い安定性を有し、リチウム補充層がより容易に酸化され、リチウム補充層のリチウム含有化合物がより完全に分解される。このため、リチウム補充プロセスの間に発生する熱が低く、電池の性能を優れたものとする。
【0075】
(2)実施例1、実施例6、及び実施例7から、中間層の厚さが厚すぎると電子の伝導率が低下し、中間層の厚さが薄すぎる場合は中間層の効果が劣ることが分かる。実施例1、実施例8、実施例9は、リチウム補充層の厚さが厚すぎると電池の内部抵抗が上昇することを示しており、これは電池の電気化学性能に影響する。リチウム補充層の厚さが薄すぎるとリチウム補充効果が劣る。このため、合理的な厚さを有する中間層とリチウム補充層の組合せが、電池に良好なリチウム補充効果及び優れた性能をもたらすことが可能である。実施例1、実施例10、及び実施例11から分かるように、LiPON中の遷移金属元素をドープすることは中間層のイオン及び電子の伝導率を更に向上させ、リチウム補充効果及び電池性能を更に向上させる。他の固形電解質が採用される場合、他の固形電解質はより薄い人工SEI膜を製造するためにマグネトロンスパッタリング法と組み合わせることができないため、実施例11においてLATP層が中間層として用いられるとき、製造された層の厚さが厚すぎ、これは電池セルの内部抵抗を大幅に増加させ、リチウムイオンの伝送距離を増加させ、リチウムイオンの移動速度が低下し、これに応じて電池性能が低下する。
【0076】
(3)実施例1と比較例1~3から、比較例1は中間層とリチウム補充層を有さず、初回効率及び500サイクルでの容量維持率が実施例1のものよりも大幅に低いことが分かる。上記は、実施例1が比較例1よりも良好なリチウム補充効果を有し、従来のリチウム補充プロセスに見られる欠陥を克服することができることを示している。比較例2及び比較例3と比較し、実施例1は、初回効率や容量維持率といった様々な面においてもより良好な性能を示している。上記は、本発明の電極シートの中間層とリチウム補充層との間のマッチング関係が、相乗効果を通じてリチウム補充効果及び電池の電気化学清掃を向上させることができることも証明している。実施例1と比較例4から、比較例4におけるリチウム補充層は単体リチウム金属を採用していることが分かる。この場合、リチウムを補充できるとはいえ、500サイクル後の容量維持率は実施例1よりも大幅に低い。リチウム金属の安定性が劣り、本発明のリチウム補充層よりも熱が発生するため、リチウム補充効果が減少し、中間層により達成される機能が減じ、良好な相乗効果を達成することができない。このため、得られる電池性能が低下する。
【産業上の利用可能性】
【0077】
まとめると、本発明は電極シート及びその応用を提供している。電極シートはリチウムを補充するプロセスにおいて大量の熱を発生させず、リチウムを補充するプロセスは緩慢且つ適度であり、これによりリチウム補充プロセスの間にSEIが良好に成長することができない欠点を回避し、これにより電池に優れた性能をもたらす。更に、本発明のものを含む電極シート及び電気化学デバイスは液体電池といった電池セルの分野に利用することが可能であり、このため産業上の利用可能性が高い。
【0078】
上記は本発明の特定の実施形態にすぎず、本発明の保護範囲はこれらに限定されない。本発明により開示される技術的範囲内で当業者が容易に想到することのできる改変又は置き換えは、本発明の保護範囲及び開示範囲内にある。
【外国語明細書】