(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024018885
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】エアー式衝撃工具
(51)【国際特許分類】
B25D 9/06 20060101AFI20240201BHJP
【FI】
B25D9/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023017777
(22)【出願日】2023-02-08
(31)【優先権主張番号】P 2022121148
(32)【優先日】2022-07-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】510155210
【氏名又は名称】アピュアン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100135460
【弁理士】
【氏名又は名称】岩田 康利
(74)【代理人】
【識別番号】100084043
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 喜多男
(74)【代理人】
【識別番号】100142240
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 優
(72)【発明者】
【氏名】渡部 幸雄
【テーマコード(参考)】
2D058
【Fターム(参考)】
2D058AA15
2D058CA03
2D058CB04
2D058CC26
(57)【要約】
【課題】製品寿命を長くすることのできるエアー式衝撃工具を提供する。
【解決手段】エアー式衝撃工具としてのタガネ1におけるシリンダ部20内には、ハンマー30を後退させる方向に付勢する第1のハンマー復帰スプリング50及び第2のハンマー復帰スプリング60がハンマー30の前側に備えられており、第2のハンマー復帰スプリング60は、第1のハンマー復帰スプリング50よりも付勢力が強くなるように定められている。そして、ハンマー30が前進する際には、第1のハンマー復帰スプリング50のみがハンマー30を付勢した後、第1のハンマー復帰スプリング50に加えて第2のハンマー復帰スプリング60もハンマー30を付勢する構成となっている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
工具本体を具備し、前記工具本体内には、シリンダ部と、前記シリンダ部内を往復動するハンマーと、が備えられており、前記工具本体外から導入される圧縮空気を用いて前記ハンマーを往復動させることによって衝撃力を発生させてワークに衝撃を付与するエアー式衝撃工具であって、
前記シリンダ部内の前記ハンマーの前側位置には、前記ハンマーを後退させる方向に当該ハンマーを付勢する第1のハンマー復帰スプリング及び第2のハンマー復帰スプリングが配置されており、前記第2のハンマー復帰スプリングは、前記第1のハンマー復帰スプリングよりも付勢力が強く作用するように定められており、
前記ハンマーが最も後退した初期状態から前方向へ移動している状態において前記第1のハンマー復帰スプリングのみが前記ハンマーに付勢力を付与している状態を、第1の前方移動状態とし、
前記ハンマーが前記第1の前方移動状態よりもさらに前方であって前記ハンマーが最も前進可能な前端位置まで前進している状態において前記第1のハンマー復帰スプリングに加えて前記第2のハンマー復帰スプリングも前記ハンマーに付勢力を付与している状態を、第2の前方移動状態とし、
前記ハンマーが最も前進した前端位置から後方へ移動している状態において前記第1のハンマー復帰スプリングに加えて前記第2のハンマー復帰スプリングも前記ハンマーに付勢力を付与している状態を、第1の後方移動状態とし、
前記ハンマーが前記第1の後方移動状態よりもさらに後方に後退している状態において前記第1のハンマー復帰スプリングのみが前記ハンマーに付勢力を付与している状態を、第2の後方移動状態としてなる
ことを特徴とするエアー式衝撃工具。
【請求項2】
前記付勢力の強さが異なる一方のコイルスプリングの一端部と他方のコイルプスリングの他端部との間に介在して当該一方のコイルスプリング及び当該他方のコイルスプリングを直列状に接続するスプリング接続部材を備え、
前記第1のハンマー復帰スプリング又は前記第2のハンマー復帰スプリングは、前記スプリング接続部材によって直列状に接続された、前記付勢力の強さが異なる前記一方のコイルスプリングと前記他方のコイルスプリングとで構成されてなる
請求項1に記載のエアー式衝撃工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハンマーが往復動する機構の作用によってワークに衝撃を付与するエアー式衝撃工具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ワークに衝撃を与えて当該ワークを掘削したり、切除したりする衝撃工具としては、工具本体内にシリンダを備え、当該シリンダ内を往復動するハンマーを備えたものが知られている。また、このような衝撃工具にあっては、一般的に、ハンマーを最後退位置である初期位置に向かって付勢するコイルスプリングが備えられている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような衝撃工具にあっては、ハンマー復帰スプリングの付勢力に抗してハンマーが前進することになるため、ハンマー復帰スプリングの付勢力が大きすぎると衝撃工具として十分な衝撃力をワークに与えることが困難となる。したがって、
図7に示すように、一般的な衝撃工具100においては、ハンマー101を初期位置に復帰させるスプリング102は可能な限り素線を細くしてロスを可及的に小さくする構成が採用されている。しかしながら、素線が細いスプリング102は、耐久性に劣るため製品寿命が短いという問題がある。
【0005】
そこで本発明は、全体として製品寿命を長期化することのできる衝撃工具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、工具本体を具備し、前記工具本体内には、シリンダ部と、前記シリンダ部内を往復動するハンマーと、が備えられており、前記工具本体外から導入される圧縮空気を用いて前記ハンマーを往復動させることによって衝撃力を発生させてワークに衝撃を付与するエアー式衝撃工具であって、前記シリンダ部内の前記ハンマーの前側位置には、前記ハンマーを後退させる方向に当該ハンマーを付勢する第1のハンマー復帰スプリング及び第2のハンマー復帰スプリングが配置されており、前記第2のハンマー復帰スプリングは、前記第1のハンマー復帰スプリングよりも付勢力が強く作用するように定められており、前記ハンマーが最も後退した初期状態から前方向へ移動している状態において前記第1のハンマー復帰スプリングのみが前記ハンマーに付勢力を付与している状態を、第1の前方移動状態とし、前記ハンマーが前記第1の前方移動状態よりもさらに前方であって前記ハンマーが最も前進可能な前端位置まで前進している状態において前記第1のハンマー復帰スプリングに加えて前記第2のハンマー復帰スプリングも前記ハンマーに付勢力を付与している状態を、第2の前方移動状態とし、前記ハンマーが最も前進した前端位置から後方へ移動している状態において前記第1のハンマー復帰スプリングに加えて前記第2のハンマー復帰スプリングも前記ハンマーに付勢力を付与している状態を、第1の後方移動状態とし、前記ハンマーが前記第1の後方移動状態よりもさらに後方に後退している状態において前記第1のハンマー復帰スプリングのみが前記ハンマーに付勢力を付与している状態を、第2の後方移動状態としてなることを特徴とするエアー式衝撃工具である。
【0007】
かかる構成にあっては、ハンマーを初期位置に復帰させるスプリングを、第1のハンマー復帰スプリング及び第2のハンマー復帰スプリングの2種とし、実質的にワークへ衝撃を付与する第1の前方移動状態においては第1のハンマー復帰スプリングのみの付勢力に抗してハンマーが前進する構成としている。そして、第2の前方移動状態においては、第1のハンマー復帰スプリングに加えて第2のハンマー復帰スプリングもハンマーへ付勢力を作用させる構造とした。これにより、第1のハンマー復帰スプリングに最も負荷がかかる、ハンマーの進行方向が前進から後退へ切り替わる際に、第1のハンマー復帰スプリングに過剰な負荷が作用することを抑制することができる。再度述べると、衝撃工具として主目的を果たすべくハンマーが前進する区間において、ロスを可及的に小さなものとしつつ、第2のハンマー復帰スプリングの付勢力を相対的に強いものとしてハンマーの進行方向が前進から後退へ切り替わる際に第1のハンマー復帰スプリングに作用する負荷を大幅に軽減できる。したがって、例えば、第2のハンマー復帰スプリングの全長やばね定数を適正に定めることで、第1のハンマー復帰スプリングにおいてコイル素線が密着しない状態を確保することが可能となり、第1のハンマー復帰スプリングの負荷が軽減され、当該第1のハンマー復帰スプリングの製品寿命が長期化することとなる。また、第1のハンマー復帰スプリングの全長と第2のハンマー復帰スプリングの全長や、各復帰スプリングの相対位置関係を適宜定めることで、衝撃力の強度を適宜定めることができる。
【0008】
また、前記付勢力の強さが異なる一方のコイルスプリングの一端部と他方のコイルプスリングの他端部との間に介在して当該一方のコイルスプリング及び当該他方のコイルスプリングを直列状に接続するスプリング接続部材を備え、前記第1のハンマー復帰スプリング又は前記第2のハンマー復帰スプリングは、前記スプリング接続部材によって直列状に接続された、前記付勢力の強さが異なる前記一方のコイルスプリングと前記他方のコイルスプリングとで構成されてなるものが提案される。
【0009】
かかる構成とすることにより、各スプリングの弾縮及び伸長により発生する騒音や振動を適正に抑制することができる。例えば、2つのコイルスプリングのうち一方のコイルスプリングの付勢力が弱い場合、弾縮するときはまず前記一方のコイルスプリングのみが弾縮する。そして、一方のコイルスプリングが適正に弾縮したところで、他方のコイルスプリングも弾縮を始めることとなる。そこから逆に伸長する場合には、一方のコイルスプリングと他方のコイルスプリングがともに伸長し、他方のコイルスプリングが元の長さに戻ったところで、一方のコイルスプリングは未だ弾縮状態を維持していることとなる。このように各コイルスプリングが複雑な弾縮及び伸長を繰り返すことにより、衝撃工具の外部に伝達される振動や、当該振動に基づく騒音を低減することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の衝撃工具は、全体として製品寿命を長期化することのできる優れた効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施例1にかかるハンマーが初期状態にあるタガネの側断面図である。
【
図2】実施例1にかかるハンマーが第1の前方移動状態(又は第2の後方移動状態)にあるタガネの部分拡大側断面図である。
【
図3】実施例1にかかるハンマーが第2の前方移動状態(又は第1の後方移動状態)にあるタガネの部分拡大側断面図である。
【
図4】実施例1にかかるハンマーが最前進状態にあるタガネの部分拡大側断面図である。
【
図5】実施例2にかかるハンマーが初期状態にあるタガネの側断面図である。
【
図6】実施例2にかかる第2のハンマー復帰スプリングの別例を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施形態を、いわゆる可動式のタガネを例とした実施例に従って説明する。なお本発明は、下記に示す実施例に限定されることはなく、適宜、設計変更が可能である。また便宜上、実施例において前後を規定して説明しているが、これによって本発明が限定されるものではない。
【0013】
〔実施例1〕
図1に示すように、エアー式衝撃工具としてのタガネ1は、例えば圧縮空気を駆動源としており、工具本体10を備えている。そして、工具本体10内には、前後方向に長いシリンダ部20が備えられている。さらにシリンダ部20内には、導入された圧縮空気の作用により当該シリンダ部20内を前後方向に往復動するハンマー30が備えられている。なお、ハンマー30の前部には前方に向かって突出する細径の突出部31が形成されており、当該突出部31に、ワークを切除するための長尺状の先端具40が接続されている。すなわち、本実施例におけるタガネ1にあっては、ハンマー30と先端具40とが一体化されて前後動する構成が採用されている。
【0014】
また、シリンダ部20内にあって、ハンマー30における突出部31の外周には、コイル状の第1のハンマー復帰スプリング50が配置されている。具体的に第1のハンマー復帰スプリング50は、前後方向を伸縮方向とし、シリンダ部20の所定位置に設けられた前壁部20aと、ハンマー30の所定位置に設けられた前壁部30aとの間に配置されており、
図1に示すようにハンマー30が最後退した初期状態Aにおいては、第1のハンマー復帰スプリング50の前端部はシリンダ部20の前壁部20aに当接しているとともに、第1のハンマー復帰スプリング50の後端部はハンマー30の前壁部30aに当接している。
【0015】
さらに、シリンダ部20内にあってハンマー30の突出部31の外周には、コイル状の第2のハンマー復帰スプリング60が配置されている。かかる第2のハンマー復帰スプリング60は、第1のハンマー復帰スプリング50より外径が小さく、かつ全長が短く、さらに素線の外径が径大でばね定数が第1のハンマー復帰スプリング50よりも相対的に大きい値に定められている。そして、
図1に示すようにハンマー30が最後退した初期状態Aにおいては、第2のハンマー復帰スプリング60の後端部はハンマー30の前壁部30aに固着されているとともに、第2のハンマー復帰スプリング60の前端部はシリンダ部20の前壁部20aよりも後側に位置して離間距離αが確保されている。
【0016】
ここで、タガネ1のシリンダ部20において、ハンマー30より後方の空間に圧縮空気が送られると、
図2に示すように、ハンマー30が前進しはじめる第1の前方移動状態Bとなる。第1の前方移動状態Bにおいては、第1のハンマー復帰スプリング50のみがハンマー30に後方に向かう付勢力を付与している。すなわち、第1の前方移動状態Bでは、第2のハンマー復帰スプリング60は前端部がどこにも触れておらず、ハンマー30へ付勢力を与えていない。
【0017】
このように、第1の前方移動状態Bにおいては、ハンマー30を後方へ付勢する付勢力は第1のハンマー復帰スプリング50のみによるものである。したがって、適正なコイルスプリングを選定して第1のハンマー復帰スプリング50の付勢力を弱く定めるほどハンマー30がロスなく前進することとなる。
【0018】
さらにハンマー30が前進して第2の前方移動状態Cに移行すると、
図3に示すように、第2のハンマー復帰スプリング60の前端部がシリンダ部20の前壁部20aに当接し、第2のハンマー復帰スプリング60もハンマー30に対して後方に向かう付勢力を付与するようになる。
【0019】
第2の前方移動状態Cにおいては、第2のハンマー復帰スプリング60がハンマー30に対して付勢力を付与し始めることにより、ハンマー30の進行方向が切り替わる直前にハンマー30の前進速度を抑制することが可能となる。
【0020】
そして
図4に示すように、ハンマー30の先端部がシリンダ部20の前壁部20aに当接することによってハンマー30は前端位置に位置する最前進状態Dとなる。最前進状態Dにおいては、ハンマー30はシリンダ部20内を前進することはできず、第1のハンマー復帰スプリング50及び第2のハンマー復帰スプリング60の後方へ向かう付勢力に従ってシリンダ部20内を後方へ向かって移動し始める。
【0021】
ハンマー30が最前進状態Dから後方へ移動し始める第1の後方移動状態Eにおいては、
図3に示す前方移動状態Cと同様に、第1のハンマー復帰スプリング50に加えて第2のハンマー復帰スプリング60もハンマー30に対して後方へ向かう付勢力を付与している。
【0022】
そしてハンマー30が第1の後方移動状態Eから所定の位置まで後退すると、
図2に示す第1の前方移動状態Bと同様に、第2のハンマー復帰スプリング60の前端部がシリンダ部20の前壁部20aから離開し、第2のハンマー復帰スプリング60がハンマー30へ付与していた付勢力が失われる。そして次いで、第2の後方移動状態Fとなり、第1のハンマー復帰スプリング50のみがハンマー30に対して後方へ向かう付勢力を付与し続ける。そしてハンマー30が最も後退した初期位置Aへと復帰する。
【0023】
タガネ1にあっては、ハンマー30が前進から後退へと状態変換する第2の前方移動状態C及び第1の後方移動状態Eにおいて付勢力の強い第2のハンマー復帰スプリング60が第1のハンマー復帰スプリング50と協働してハンマー30に付勢力を付与している。これによって第1のハンマー復帰スプリング50が密着する状態が回避でき、第1のハンマー復帰スプリング50の座屈による疲労が低減されて製品寿命を長期化することができる。
【0024】
また、先端具40がワークに強い力を与えることとなる第1の前方移動状態Bにおいては、第1のハンマー復帰スプリング50のみがハンマー30に後方向きの付勢力を付与するだけであるため、タガネ1の衝撃性能においてロスの発生が可及的に抑えられている。
【0025】
上記実施例において、各部の寸法形状は適宜自由に選択可能である。
図1~
図4に示したように、第1のハンマー復帰スプリング50の内側に第2のハンマー復帰スプリング60を内挿させているが、かかる構成以外にも、例えば第1のハンマー復帰スプリング50の外側に第2のハンマー復帰スプリング60を配した構成であっても構わない。
【0026】
また、第1のハンマー復帰スプリング50及び第2のハンマー復帰スプリング60はそれぞれ複数個備えられていても構わない。
【0027】
〔実施例2〕
以下に実施例2にかかるタガネの詳細を説明するが、上記実施例1と同様の構成を有するものは説明を省略又は簡略する。
図5に示すように、タガネは、上記実施例1と同様に、前後方向に長いシリンダ部120が備えられた工具本体110を備えている。シリンダ部120内にはシリンダ部120内を前後方向に往復動するハンマー130が配されている。ハンマー130の前部には前方に向かって突出する細径の突出部131が形成されている。突出部131には、図示しない先端具が接続されている。
【0028】
また、シリンダ部120内にあって、ハンマー130における突出部131の外周には、コイル状の第1のハンマー復帰スプリング150が配置されている。具体的に第1のハンマー復帰スプリング150は、前後方向を伸縮方向とし、シリンダ部120の所定位置に設けられた前壁部120aと、ハンマー130の所定位置に設けられた前壁部130aとの間に配置されており、
図5に示すようにハンマー30が最後退した初期状態Gにおいては、第1のハンマー復帰スプリング150の前端部はシリンダ部120の前壁部120aに当接しているとともに、第1のハンマー復帰スプリング150の後端部はハンマー130の前壁部130aに当接している。
【0029】
さらに、シリンダ部120内にあってハンマー130の突出部131の外周には、コイル状の第2のハンマー復帰スプリング160が配置されている。第2のハンマー復帰スプリング160は、付勢力の異なる一方のコイルスプリング170と他方のコイルスプリング180とを備えている。さらに、一方のコイルスプリング170の一端部である前端部170aと他方のコイルスプリングの他端部である後端部180aとの間に介在して一方のコイルスプリング170及び他方のコイルスプリング180を直列状に接続するスプリング接続部材190を備えている。すなわち、第2のハンマー復帰スプリング160は、スプリング接続部材190によって直列状に接続された、付勢力の強さが異なる一方のコイルスプリング170と他方のコイルスプリング180とで構成されている。
【0030】
スプリング接続部材190について詳述すると、円筒形状の本体部191を備え、本体部191の外周面における後端部側に一方のコイルスプリング170の前端部170aが装着される後端部段差部192が形成されている。また、本体部191の外周面における前端部側に他方のコイルスプリング180の後端部180aが装着される前端部段差部193が形成されている。
【0031】
かかる第2のハンマー復帰スプリング160は、第1のハンマー復帰スプリング150より外径が小さく、かつ全長が短い。さらに一方のコイルスプリング170及び他方のコイルスプリング180の素線の外径が径大でばね定数が第1のハンマー復帰スプリング50よりも相対的に大きい値に定められている。そして、
図5に示すようにハンマー30が最後退した初期状態Gにおいては、第2のハンマー復帰スプリング160の後端部である一方のコイルスプリング170の後端部170bはハンマー130の前壁部130aに固着されているとともに、第2のハンマー復帰スプリング160の前端部である他方のコイルスプリング180の前端部180bはシリンダ部120の前壁部120aよりも後側に位置して離間距離βが確保されている。
【0032】
ここで、タガネを作動させた場合、上記実施例1と同様に、ハンマー130が前進しはじめる第1の前方移動状態においては第1のハンマー復帰スプリング150のみがハンマー130に後方に向かう付勢力を付与する。
【0033】
さらにハンマー130が前進して第2の前方移動状態に移行すると、第2のハンマー復帰スプリング160の前端部がシリンダ部120の前壁部120aに当接し、第2のハンマー復帰スプリング160もハンマー130に対して後方に向かう付勢力を付与するようになる。
【0034】
ハンマー130が最前進した後、後方へ移動し始める第1の後方移動状態においては、第1のハンマー復帰スプリング150に加えて第2のハンマー復帰スプリング160もハンマー1309に対して後方へ向かう付勢力を付与する。
【0035】
そしてハンマー130が第1の後方移動状態から所定の位置まで後退すると、第2のハンマー復帰スプリング160の前端部がシリンダ部120の前壁部120aから離開し、第2のハンマー復帰スプリング160がハンマー130へ付与していた付勢力が失われる。そして次いで、第2の後方移動状態となり、第1のハンマー復帰スプリング150のみがハンマー130に対して後方へ向かう付勢力を付与し続ける。そしてハンマー130が最も後退した初期状態Gへと復帰する。
【0036】
タガネにあっても、上記実施例1のタガネ1と同様に、ハンマー130が前進から後退へと状態変換する第2の前方移動状態及び第1の後方移動状態において付勢力の強い第2のハンマー復帰スプリング160が第1のハンマー復帰スプリング150と協働してハンマー130に付勢力を付与している。これによって第1のハンマー復帰スプリング150が密着する状態が回避でき、第1のハンマー復帰スプリング150の座屈による疲労が低減されて製品寿命を長期化することができる。
【0037】
また、先端具がワークに強い力を与えることとなる第1の前方移動状態においては、第1のハンマー復帰スプリング150のみがハンマー130に後方向きの付勢力を付与するだけであるため、タガネの衝撃性能においてロスの発生が可及的に抑えられている。
【0038】
さらに、第2のハンマー復帰スプリング160が付勢力の異なる2種のコイルスプリング150,160によって構成されているため、これらから発生する衝撃や振動が複雑化して互いに打ち消し合い、騒音や振動の低減を図ることができる。
【0039】
ここで、第2のハンマー復帰スプリング160としては、タガネに用いられていたもの(
図6(a))に限定されず、例えば
図6(b)、(c)に示した構成のものであってもよい。すなわち、
図6(b)に示すような、スプリング接続部材210の内周面側に一方のコイルスプリング及び他方のコイルスプリングが挿入されて装着される構成であってもよい。また、
図6(c)に示すような、スプリング接続部材220の内周面に、挿入されるコイルスプリングの形状に合わせた溝部が形成されており、当該溝部にコイルスプリングが螺合される構成であってもよい。なお、例えば一方のコイルスプリングと他方のコイルスプリングとを溶着等によって直接的に直列状に接続することも可能ではあるが、一方のコイルスプリングの振動が他方のコイルスプリングに直接伝播して振動や騒音が増大してしまうおそれがある。
【0040】
上記実施例において、例えばスプリング接続部材190によって直列状に接続されたコイルスプリング170、180を備えたハンマー復帰スプリングは、第2のハンマー復帰スプリング160ではなく第1のハンマー復帰スプリング150に用いられても構わない。
また、ハンマー復帰スプリングとして、2個以上のスプリング接続部材を用いて3個以上のコイルスプリングを直列状に接続した構成であってもよい。
なお本発明のエアー式衝撃工具は、例えば水中で使用されるエアーハンマー工具にも適用可能である。
【符号の説明】
【0041】
1 タガネ(エアー式衝撃工具)
10,110 工具本体
20,120 シリンダ部
20a,120a シリンダ部における前壁部
30,130 ハンマー
30a,130a ハンマーにおける前壁部
31,131 突出部
40 先端具
50,150 第1のハンマー復帰スプリング
60,160 第2のハンマー復帰スプリング
170 一方のコイルスプリング
180 他方のコイルスプリング
190,210,220 スプリング接続部材
A,G 初期状態
B 第1の前方移動状態
C 第2の前方移動状態
D 最前進状態
E 第1の後方移動状態
F 第2の後方移動状態
α,β 離間距離