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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024018930
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】負極活物質
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/38 20060101AFI20240201BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20240201BHJP
   H01M 4/48 20100101ALI20240201BHJP
【FI】
H01M4/38 Z
H01M4/36 E
H01M4/48
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023067211
(22)【出願日】2023-04-17
(31)【優先権主張番号】P 2022122195
(32)【優先日】2022-07-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003713
【氏名又は名称】大同特殊鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100177460
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 智子
(72)【発明者】
【氏名】木村 優太
(72)【発明者】
【氏名】下村 恭平
(72)【発明者】
【氏名】大久 洋幸
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA07
5H050AA08
5H050BA17
5H050CB02
5H050CB11
5H050CB29
5H050HA01
5H050HA05
5H050HA07
(57)【要約】
【課題】高い電極容量を維持しつつ、サイクル特性も良好な負極活物質の提供。
【解決手段】Si粒子、第1粒子及び第2粒子を含み、前記第1粒子のLi吸蔵による体積膨張率が0~80%であり、前記第2粒子のLi吸蔵による体積膨張率が100~300%である、負極活物質。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Si粒子、第1粒子及び第2粒子を含み、
前記第1粒子のLi吸蔵による体積膨張率が0~80%であり、
前記第2粒子のLi吸蔵による体積膨張率が100~300%である、負極活物質。
【請求項2】
前記Si粒子の平均粒子径、及び、前記第2粒子の平均粒子径が、共に5μm以下である、請求項1に記載の負極活物質。
【請求項3】
前記Si粒子の含有量が20~80質量%、前記第1粒子の含有量が10~70質量%、前記第2粒子の含有量が1~60質量%である、請求項1に記載の負極活物質。
【請求項4】
前記第1粒子の含有量が、前記第2粒子の含有量よりも多い、請求項3に記載の負極活物質。
【請求項5】
前記第1粒子は、Fe、Al、Si及びこれらの酸化物、並びに、Ni、Ti、Cu、B、C、SiC及びSi合金からなる群より選ばれる少なくとも1種の粒子である、請求項1に記載の負極活物質。
【請求項6】
前記第2粒子は、AlNi、AlTi、AlFe及びAlCuからなる群より選ばれる少なくとも1種の粒子である、請求項1に記載の負極活物質。
【請求項7】
前記第2粒子の酸素含有量は4質量%以下である、請求項6に記載の負極活物質。
【請求項8】
リチウムイオン電池に用いられる、請求項1~7のいずれか1項に記載の負極活物質。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は負極活物質に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池は高容量、高電圧で小型化が可能である利点を有し、携帯電話やノートパソコン等の電源として広く用いられている。また近年、電気自動車やハイブリッド自動車等のパワー用途の電源として大きな期待を集め、その開発が活発に進められている。
【0003】
リチウムイオン電池では、正極と負極との間でのリチウムイオンの移動に伴い充放電がなされるが、負極側では充電時に負極活物質中にLiイオンが吸蔵され、放電時に負極活物質からLiイオンが放出される。
【0004】
負極に用いられる負極活物質として、黒鉛等の炭素材料が広く使用されていたが、黒鉛の理論容量は372mAh/gに過ぎない。そこで、高容量化を目的として、SiやSn等の金属材料が炭素系負極材料の代替材料として検討されている。
【0005】
Siは理論容量が3600mAh/g程度、Snは理論容量が800mAh/g程度と、それぞれ高容量化が期待される一方で、リチウムイオンの吸蔵・放出に伴い、膨張・収縮といった大きな体積変化が生じる。この体積変化により負極活物質が集電体から剥離して電極が崩壊し、サイクル特性が低下する。
【0006】
これに対し、リチウムイオンを吸蔵(以下、単に「Li吸蔵」と称することがある。)した際の体積膨張率が小さい材料を混合することで、電極崩壊を抑制する方法が検討されている。
例えば、特許文献1では、第1の金属マトリクス中にSi結晶子が分散されたSi合金を有し、前記Si合金は、Li活性を有する第2の金属マトリクス中に分散されているリチウム二次電池用負極活物質が開示されている。かかる構成とすることにより、Si合金の崩壊が抑制され、集電体から脱落し難くなるために、サイクル特性を向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2012-14866号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、体積膨張率が小さい材料を混合した場合の電極崩壊に対する効果は限られており、サイクル特性の改善効果は限定的であった。このように、リチウムイオンの吸蔵・放出に伴う応力発生によるサイクル特性の悪化に対し、さらなる改善が望まれている。また、良好なサイクル特性と、高い電極容量の維持との両立は困難であった。
【0009】
そこで本発明は、高い電極容量を維持しつつ、サイクル特性も良好な負極活物質の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、Si粒子に加え、体積膨張率が特定範囲内である、異なる2種の粒子をさらに含む負極活物質とすることで、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、下記[1]~[8]に関するものである。
[1] Si粒子、第1粒子及び第2粒子を含み、
前記第1粒子のLi吸蔵による体積膨張率が0~80%であり、
前記第2粒子のLi吸蔵による体積膨張率が100~300%である、負極活物質。
[2] 前記Si粒子の平均粒子径、及び、前記第2粒子の平均粒子径が、共に5μm以下である、前記[1]に記載の負極活物質。
[3] 前記Si粒子の含有量が20~80質量%、前記第1粒子の含有量が10~70質量%、前記第2粒子の含有量が1~60質量%である、前記[1]に記載の負極活物質。
[4] 前記第1粒子の含有量が、前記第2粒子の含有量よりも多い、前記[3]に記載の負極活物質。
[5] 前記第1粒子は、Fe、Al、Si及びこれらの酸化物、並びに、Ni、Ti、Cu、B、C、SiC及びSi合金からなる群より選ばれる少なくとも1種の粒子である、前記[1]に記載の負極活物質。
[6] 前記第2粒子は、AlNi、AlTi、AlFe及びAlCuからなる群より選ばれる少なくとも1種の粒子である、前記[1]に記載の負極活物質。
[7] 前記第2粒子の酸素含有量は4質量%以下である、前記[6]に記載の負極活物質。
[8] リチウムイオン電池に用いられる、前記[1]~[7]のいずれか1に記載の負極活物質。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る負極活物質によれば、高い電極容量を維持しつつ、良好なサイクル特性も実現できる。そのため、上記負極活物質をリチウムイオン電池に適用することで、小型化、高エネルギー密度化されたリチウムイオン電池の実用化が期待される。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施できる。また、数値範囲を示す「~」とは、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
【0014】
<負極活物質>
本実施形態に係る負極活物質は、Si粒子、第1粒子及び第2粒子を含む。
第1粒子のLi吸蔵による体積膨張率は0~80%であり、第2粒子のLi吸蔵による体積膨張率は100~300%である。
なお、本明細書において、Li吸蔵による体積膨張率を、単に「体積膨張率」と称することがある。
【0015】
Si粒子は、理論容量が3600mAh/gと高い一方で、リチウムイオンを吸蔵した際の体積膨張率は380%である。そのため、リチウムイオンを吸蔵・放出させると、膨張・収縮応力によるSi粒子の割れや集電体からの剥離により、良好なサイクル特性が得られない。
【0016】
これに対し、Si粒子に対して、充放電時の体積変化が小さい粒子を加える方法が検討されてきた。しかしながら、Si粒子がリチウムイオンを吸蔵して体積膨張した際、上記体積変化が小さい粒子との膨張差が大きく、負極内には依然として大きな応力が発生する。その結果、電極の崩壊を十分には抑制できない。
【0017】
これに対し、本実施形態に係る負極活物質は、Li吸蔵による体積膨張率が特定範囲内の、異なる2種の粒子をSi粒子と共に含むことにより、膨張差による応力発生を緩和できることを見出した。これにより、電極の崩壊が抑制され、良好なサイクル特性が実現される。
【0018】
具体的には、本実施形態に係る負極活物質は、Si粒子に加え、Li吸蔵による体積膨張率が0~80%である第1粒子と、Li吸蔵による体積膨張率が100~300%である第2粒子を含む。
【0019】
なお、本明細書において、体積膨張率とは、Si粒子にリチウムイオンを最大まで吸蔵させて体積膨張率を380%とする充電の条件と同じ条件で、対象となる粒子にLi吸蔵させた際の、吸蔵前後における体積変化率を意味する。具体的には、Li吸蔵前の体積を基準とし、Li吸蔵後の体積の増加分(体積%)を意味する。すなわち、体積膨張率が0%とは、Li吸蔵に伴う体積変化がないことを示し、体積膨張率が100%とは、Li吸蔵に伴い、体積が当初の2倍になることを示す。
体積膨張率は、各粒子を用いた作用極を作製し、充電前後、すなわち、Li吸蔵前後の電極の厚みをマイクロメーター用いて測定し、電極厚みの変化量から体積の変化量に換算することで求められる。作用極の製造条件と充電条件は以下のとおりである。
【0020】
粒径約15μmの粒子に対して、アセチレンブラック(導電助材)及びポリイミド(バインダ)を、粒子:アセチレンブラック:ポリイミド=80:5:15(質量比)の割合で混錬し、スラリーを作製する。スラリーを50μmの厚みでステンレススチール(SUS316L)箔上に塗工し、乾燥することで作用極を得る。
次いで対極をLi箔とし、エチレンカーボネート(EC)/ジメチルカーボネート(DEC)=1/1(モル比)の混合溶媒に、LiPFを1mol/Lの濃度で溶解させた非水電解液を用いたハーフセルを作製する。
得られたハーフセルを用いて、電流値0.1mAの一定電流で電圧が0.002V vs.[Li/Li]になるまで充電させる。当該充電の条件が、Si粒子の体積膨張率が380%となるまでリチウムイオンを吸蔵させる充電の条件である。
【0021】
第1粒子は、Li吸蔵による体積膨張率が0~80%である。負極活物質が第1粒子を含むことにより、Si粒子がLi吸蔵・放出に伴う大きな体積膨張・収縮をしても、電極全体での体積変化を抑制し、電極の崩壊を防ぐことができる。
第1粒子の体積膨張率は0~80%であり、5~70%が好ましく、8~60%がより好ましく、10~55%がさらに好ましい。ここで、Si粒子、第2粒子との膨張差の緩和の観点から、第1粒子の体積膨張率は0%以上であり、5%以上が好ましく、8%以上がより好ましく、10%以上がさらに好ましい。また、Liの吸蔵・放出に伴う電極全体の体積変化を抑制する観点から、第1粒子の体積膨張率は80%以下であり、70%以下が好ましく、60%以下がより好ましく、55%以下がさらに好ましい。
【0022】
第2粒子は、Li吸蔵による体積膨張率が100~300%である。負極活物質が第2粒子を含むことにより、Si粒子と第1粒子の体積膨張率の差による応力発生を緩和し、負極活物質内での応力を小さくすることで、電極の崩壊を防ぐことができる。
第2粒子の体積膨張率は100~300%であり、140~280%が好ましく、170~265%がより好ましく、200~250%がさらに好ましい。ここで、第1粒子の体積膨張率とより適度な差を設け、Si粒子の体積膨張率に近づけることにより応力発生をより良好に緩和させる観点から、第2粒子の体積膨張率は100%以上であり、140%以上が好ましく、170%以上がより好ましく、200%以上がさらに好ましい。また、Si粒子の体積膨張率とより適度な差を設け、第1粒子の体積膨張率に近づけることにより応力発生をより良好に緩和させる観点から、第2粒子の体積膨張率は300%以下であり、280%以下が好ましく、265%以下がより好ましく、250%以下がさらに好ましい。
【0023】
Si粒子の体積膨張率(380%)と第2粒子の体積膨張率との差の絶対値をΔV1、第2粒子の体積膨張率と第1粒子の体積膨張率との差の絶対値をΔV2とした場合、ΔV1:ΔV2で表される比は、電極の崩壊を抑制し、良好なサイクル特性を実現する観点から、1:1~1:2が好ましく、1:1.2~1:2がより好ましく、1:1.4~1:2がさらに好ましく、1:1.4~1:1.7がよりさらに好ましい。
【0024】
Si粒子の平均粒子径は特に限定されないが、0.5~10μmが好ましく、1~8μmがより好ましく、1~5μmがさらに好ましい。ここで、粉末の比表面積増加による電解液の分解反応を抑制する観点から、Si粒子の平均粒子径は0.5μm以上が好ましく、1μm以上がより好ましい。また、平均粒子径が小さいほど体積膨張の絶対量が小さいことに起因して、より良好なサイクル特性を実現する観点から、Si粒子の平均粒子径は10μm以下が好ましく、8μm以下がより好ましく、5μm以下がさらに好ましい。
Si粒子の平均粒子径は、Si粒子に対して、ボールミル、ディスクミル、コーヒーミル、乳鉢粉砕等の適当な粉砕手段を用い、必要に応じて分級等することで調整できる。
なお、本明細書における平均粒子径とは、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置を用いて測定される体積基準粒度分布から求められるメジアン径(D50)である。
【0025】
第2粒子の平均粒子径は特に限定されないが、0.5~10μmが好ましく、1~8μmがより好ましく、1~5μmがさらに好ましい。ここで、粉末の比表面積増加による電解液の分解反応を抑制する観点から、第2粒子の平均粒子径は0.5μm以上が好ましく、1μm以上がより好ましい。また、平均粒子径が小さいほど体積膨張の絶対量が小さいことに起因して、より良好なサイクル特性を実現する観点から、第2粒子の平均粒子径は10μm以下が好ましく、8μm以下がより好ましく、5μm以下がさらに好ましい。
第2粒子の平均粒子径は、Si粒子の平均粒子径と同様、粉砕や、必要に応じて分級等を行うことで調整できる。
また、Si粒子と第2粒子の平均粒子径が、共に5μm以下であることがよりさらに好ましい。
【0026】
第1粒子は体積膨張率が小さいため、Si粒子や第2粒子に比べると、平均粒子径がサイクル特性に及ぼす影響は限定的である。そのため、第1粒子の平均粒子径も特に限定されないが、例えば0.5~10μmであり、1~8μmでもよく、1~5μmでもよい。ここで、第1粒子の平均粒子径は、例えば0.5μm以上であり、1μm以上でもよく、また、例えば10μm以下であり、8μm以下でもよく、5μm以下でもよい。
第1粒子の平均粒子径も、Si粒子や第2粒子の平均粒子径と同様、粉砕や、必要に応じて分級等を行うことで調整できる。
【0027】
負極活物質におけるSi粒子の含有量は、15~85質量%が好ましく、20~80質量%がより好ましく、30~75質量%がさらに好ましく、40~75質量%が特に好ましい。ここで、高い電極容量を得る観点から、Si粒子の含有量は15質量%以上が好ましく、20質量%以上がより好ましく、30質量%以上がさらに好ましく、40質量%以上が特に好ましい。また、良好なサイクル特性を得る観点から、Si粒子の含有量は85質量%以下が好ましく、80質量%以下がより好ましく、75質量%以下がさらに好ましい。
【0028】
負極活物質における第1粒子の含有量は、10~80質量%が好ましく、10~70質量%がより好ましく、20~60質量%がさらに好ましい。ここで、良好なサイクル特性を得る観点から、第1粒子の含有量は10質量%以上が好ましく、20質量%以上がより好ましい。また、高い電極容量を得る観点から、第1粒子の含有量は80質量%以下が好ましく、70質量%以下がより好ましく、60質量%以下がさらに好ましい。
なお、第1粒子を2種以上含む場合には、それらの合計の含有量が上記範囲内であることが好ましい。
【0029】
負極活物質における第2粒子の含有量は、1~60質量%が好ましく、2~55質量%がより好ましく、5~40質量%がさらに好ましい。ここで、良好なサイクル特性を得る観点から、第2粒子の含有量は1質量%以上が好ましく、2質量%以上がより好ましく、5質量%以上がさらに好ましい。また、高い電極容量を得る観点から、第2粒子の含有量は60質量%以下が好ましく、55質量%以下がより好ましく、40質量%以下がさらに好ましい。
なお、第2粒子を2種以上含む場合には、それらの合計の含有量が上記範囲内であることが好ましい。
【0030】
上記を踏まえ、本実施形態に係る負極活物質における各粒子の含有量の組み合わせとして、Si粒子の含有量が20~80質量%、第1粒子の含有量が10~70質量%、第2粒子の含有量が1~60質量%であることが好ましい。各粒子の含有量は、それぞれについて述べた範囲に、それぞれ変更可能である。
また、負極活物質がSi粒子、第1粒子及び第2粒子以外の他の粒子を含む場合には、上記Si粒子、第1粒子及び第2粒子の含有量は、質量%を質量部として、Si粒子、第1粒子及び第2粒子の含有量の比の好ましい態様に読み替えることができる。
【0031】
負極活物質において、第1粒子の含有量が第2粒子の含有量よりも多いことが、負極活物質全体の体積膨張率を低くし、良好なサイクル特性を得る観点から好ましい。具体的には、質量%表示による第1粒子の含有量と第2粒子の含有量との差は、10質量%以上80質量%未満が好ましく、20~60質量%がより好ましい。ここで、良好なサイクル特性を得る観点から、上記差は10質量%以上が好ましく、20質量%以上がより好ましい。また、Si粒子を一定以上含み、Si粒子による電極容量を維持する観点から、上記差は80質量%未満が好ましく、60質量%以下がより好ましい。
【0032】
第1粒子はLi吸蔵による体積膨張率が0~80%であれば特に限定されないが、例えば、Fe、Al、Si及びこれらの酸化物、並びに、Ni、Ti、Cu、B、C、SiC及びSi合金からなる群より選ばれる少なくとも1種の粒子が好ましい。
Fe、Al、Siの酸化物としては、例えば、FeO、Fe、Al、SiO、等が挙げられる。
Si合金としては、例えば、SiFe、SiTi、SiNi、SiZr、SiCr、SiCo、SiMn等が挙げられる。
【0033】
第2粒子はLi吸蔵による体積膨張率が100~300%であれば特に限定されないが、例えば、AlNi、AlTi、AlFe及びAlCuからなる群より選ばれる少なくとも1種の粒子が好ましい。
【0034】
第2粒子のLi吸蔵による体積膨張率は、第2粒子の酸素含有量が影響を及ぼすことが分かった。第2粒子本来の体積膨張率を引き出す観点から、第2粒子の酸素含有量は4質量%以下が好ましく、3質量%以下がより好ましく、2質量%以下がさらに好ましい。上記酸素含有量は少ないほど好ましいが、通常0.1質量%以上となる。
なお、本明細書において、酸素含有量は不活性ガス中で行う加熱融解赤外線吸収法により求められる値を用いる。
【0035】
Si粒子の酸素含有量は、活物質としてのLi吸蔵・放出を妨げない観点から、10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましく、1%以下がさらに好ましい。上記酸素含有量は少ないほど好ましいが、通常0.1質量%以上である。
【0036】
本実施形態に係る負極活物質は、本発明の効果を損なわない範囲において、Si粒子、第1粒子及び第2粒子に加え、他の粒子を含んでいてもよい。
他の粒子とは、例えば、Li吸蔵による体積膨張率が80%超100%未満の粒子が挙げられる。また、体積膨張率が300%超の粒子も含み得る。ただし、Si粒子の体積膨張率380%に対して、負極活物質全体の膨張抑制や応力緩和を目的として第1粒子及び第2粒子を含むことから、同目的のための体積膨張率が300%超の粒子の積極的な添加は不要である。他の粒子を含有させることにより、かかる他の粒子特有の効果が奏される場合には、当該他の粒子を含むことも好ましい。
【0037】
体積膨張率が80%超100%未満の粒子や、上記特有の効果を奏する他の粒子を含む場合、それら粒子の合計の含有量は、0~10質量%が好ましく、1~8質量%がより好ましく、2~7質量%がさらに好ましい。ここで、体積膨張差の緩和の観点や、上記特有の効果を好適に発現させる観点から、上記合計の含有量は0質量%以上が好ましく、1質量%以上がより好ましく、2質量%以上がさらに好ましい。また、Si粒子に対する第1粒子及び第2粒子による効果を有効に発揮する観点から、上記合計の含有量は10質量%以下が好ましく、8質量%以下がより好ましく、7質量%以下がさらに好ましい。
【0038】
本実施形態に係る負極活物質の製造方法は特に限定されない。
Si粒子、第1粒子、第2粒子は、それぞれ市販のものを用いても、合成したものを用いてもよい。合成する場合、従来公知の方法により製造できる。負極活物質が他の粒子を含む場合、他の粒子についても同様に、市販のものを用いても、合成したものを用いてもよい。
【0039】
Si粒子、第1粒子、第2粒子及び任意での他の粒子は、各々好ましい平均粒子径のものを混合しても、混合した後に、まとめて粉砕や分級等を行ってもよい。中でも、粒径バラツキ抑制の観点から、混合後にまとめて粉砕することが好ましい。
【0040】
本実施形態に係る負極活物質は、リチウムイオン電池に用いられることが好ましい。
リチウムイオン電池に用いられる際には、本実施形態に係る負極活物質は、必要に応じて導電助剤やバインダ等と共に導電性基材上に設けられることで、負極を構成する。
【0041】
実施形態に係る負極活物質をリチウムイオン電池に用いた場合、負極活物質の単位重量当たりの充電容量は、1サイクル目の初期充電容量で、500mAh/g以上が好ましく、1000mAh/g以上がより好ましく、2500mAh/g以上がさらに好ましい。
また、1/5C、すなわち5時間で充電又は放電を行うレートで50サイクル充放電をおこなった際の、{50サイクル後の放電容量/初期放電容量(1サイクル目の放電容量)}×100(%)で求められる容量維持率は、50%以上が好ましく、70%以上がより好ましく、90%以上がさらに好ましい。
【0042】
負極活物質を用いて負極を構成する場合、導電性基材は集電体として機能する。導電性基材は従来負極の集電体として用いられている材料を使用でき、例えば、Cu、Ni、Feや、それらの合金が挙げられる。中でもCu又はCu合金が好ましい。
導電性基材は箔状や板状等を採用でき、小型化や形状自由度の観点から、箔状が好ましい。
【0043】
バインダは、従来公知のものを使用でき、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)樹脂、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリアクリル酸等が挙げられる。これらは1種を用いても、2種以上を併用してもよい。中でも、電気化学反応における安定性や結着力の強さ等の観点から、ポリイミド樹脂が好ましい。
【0044】
導電助材は、従来公知のものを使用でき、例えば、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、ファーネスブラック等のカーボンブラック、黒鉛、カーボンナノチューブ、フラーレン等が挙げられる。これらは1種を用いても、2種以上を併用してもよい。中でも、電子伝導性等の観点から、ケッチェンブラックやアセチレンブラックが好ましい。
【0045】
負極活物質、バインダ及び導電助剤は従来公知の割合で混合し、負極とできる。また、負極の膜厚も任意である。
【0046】
負極を製造する際には、例えば、負極活物質、バインダ及び導電助剤等を溶剤中に溶解又は分散させてペーストとし、導電性基材の表面に塗工、乾燥させ、任意で圧密化や熱処理を施すことにより得ることができる。
【0047】
以上、本実施形態に係る負極活物質について詳述したが、本実施形態に係る負極活物質の別の一態様は以下のとおりである。
[1] Si粒子、第1粒子及び第2粒子を含み、
前記第1粒子のLi吸蔵による体積膨張率が0~80%であり、
前記第2粒子のLi吸蔵による体積膨張率が100~300%である、負極活物質。
[2] 前記Si粒子の平均粒子径、及び、前記第2粒子の平均粒子径が、共に5μm以下である、前記[1]に記載の負極活物質。
[3] 前記Si粒子の含有量が20~80質量%、前記第1粒子の含有量が10~70質量%、前記第2粒子の含有量が1~60質量%である、前記[1]又は[2]に記載の負極活物質。
[4] 前記第1粒子の含有量が、前記第2粒子の含有量よりも多い、前記[3]に記載の負極活物質。
[5] 前記第1粒子は、Fe、Al、Si及びこれらの酸化物、並びに、Ni、Ti、Cu、B、C、SiC及びSi合金からなる群より選ばれる少なくとも1種の粒子である、前記[1]~[4]のいずれか1に記載の負極活物質。
[6] 前記第2粒子は、AlNi、AlTi、AlFe及びAlCuからなる群より選ばれる少なくとも1種の粒子である、前記[1]~[5]のいずれか1に記載の負極活物質。
[7] 前記第2粒子の酸素含有量は4質量%以下である、前記[6]に記載の負極活物質。
[8] リチウムイオン電池に用いられる、前記[1]~[7]のいずれか1に記載の負極活物質。
【実施例0048】
以下に実施例を挙げ、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0049】
[実施例1~30及び比較例1~6]
Si粒子と、表1に記載の粒子A及び粒子Bとを、ビーズミルを用いて湿式条件で混合した。各粒子の混合割合、すなわち各粒子の含有量は表1に記載のとおりである。なお、比較例4及び5における「-」とは粒子Bは混合せず、Si粒子と粒子Aの2種のみ混合したことを意味する。
なお、各粒子のうちSi、Fe、AlNiは下記方法により製造した。
【0050】
ガスアトマイズ法によって溶解したSiを噴霧することで、粉末状のSi粒子を作製した。
Fe、AlNi粒子も同様に、ガスアトマイズ法を用いてそれぞれ粉末状の粒子を作製した。なお、比較例6で用いたAlNi粒子については、粒子を水中に浸漬することにより、酸素含有量を調整した。
それぞれの粉末を湿式ビーズミルを用いて粉砕し、粒径を調整した。なお、平均粒子径は、粉砕時間を変更することにより調整した。粒径を調整した粉末をビーズミルを用いて湿式混合し、乾燥した。
【0051】
[平均粒子径]
粒子の平均粒子径として、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置(マイクロトラックベル製、MT-3300)を用いた体積基準粒度分布より、メジアン径(D50)を求めた。結果を表1に示した。
【0052】
[体積膨張率]
粒径約15μmの粒子に対して、アセチレンブラック(導電助材)及びポリイミド(バインダ)を、粒子:アセチレンブラック:ポリイミド=80:5:15(質量比)の割合で混錬し、スラリーを作製した。スラリーを50μmの厚みでステンレススチール(SUS316L)箔上に塗工し、乾燥することで作用極を得た。
次いで対極をLi箔とし、エチレンカーボネート(EC)/ジメチルカーボネート(DEC)=1/1(モル比)の混合溶媒に、LiPFを1mol/Lの濃度で溶解させた非水電解液を用いたハーフセルを作製した。
得られたハーフセルを用いて、電流値0.1mAの一定電流で電圧が0.002V vs.[Li/Li]になるまで充電させた。そして、充電前の作用極の厚みに対する、充電後の作用極の厚みの変化量をマイクロメーターを用いて測定した。電極厚み変化量を充放電前の電極層厚みで割った値を体積膨張率とした。充電後の粒子の体積膨張率を求めた。結果を表1に示した。なお、表1には示していないが、Si粒子の体積膨張率は380%である。
【0053】
[酸素含有量]
第2粒子である粒子Bに対し、不活性ガス中加熱融解赤外線吸収法(LECOジャパン製、TC600 酸素窒素同時分析装置)により酸素含有量を求めた。結果を表1に示した。
【0054】
[電極容量、サイクル特性]
得られた負極活物質を100質量部、導電助材としてケッチェンブラック(ライオン(株)製)を6質量部、及び、バインダとして熱可塑性樹脂であるポリイミドを19質量部配合し、これを溶剤であるN-メチル-2-ピロリドン(NMP)に溶解又は分散させてペーストを得た。得られたペーストをステンレススチール(SUS316L、厚み20μm)箔の表面に、ドクターブレード法を用いて、厚さ50μmに塗布した。次いで、乾燥させ、ロールプレスにより負極活物質層を圧密化した。次いで、直径11mmの円板状に打ち抜き、これを作用極とした。
【0055】
コイン型セルの正極缶に上記で得られた作用極を、負極缶に対極として直径11mmのLi箔(厚み500μm)をそれぞれ配置し、その間にセパレータであるポリオレフィン系微多孔膜を配置した。次いで、電解液としてエチレンカーボネート(EC)/ジエチルカーボネート(DEC)=1/1(モル比)の混合溶媒に、LiPFを1mol/Lの濃度で溶解させた非水電解液を注入し、正極缶と負極缶とを加締め固定することで、ハーフセルであるコイン型電池を作製した。
【0056】
コイン型電池を用い、電流値0.2mAの定電流充放電を1サイクル実施した。このLi放出時に使用した容量(mAh)を負極活物質量(g)で割った値から初期放電容量C(mAh/g)を算出した。
結果を表1の「電極容量(初期)」に示すが、評価基準は下記のとおりであり、◎、○又は△であれば合格であり、×は不合格である。
◎:初期放電容量が2500mAh/g以上
○:初期放電容量が1000mAh/g以上、2500mAh/g未満
△:初期放電容量が500mAh/g以上、1000mAh/g未満
×:初期放電容量が500mAh/g未満
【0057】
充放電試験の2サイクル目以降は、1/5Cレート、すなわち5時間で充電又は放電を行うレートで充放電試験を実施した。充放電サイクルを50回行い、下記式に基づき50サイクル後の容量維持率を求め、サイクル特性の評価を行った。
{50サイクル後の放電容量/初期放電容量(1サイクル目の放電容量)}×100(%)
結果を表1の「サイクル特性」に示すが、評価基準は下記のとおりであり、◎、○又は△であれば合格であり、×は不合格である。
◎:容量維持率が90%以上
○:容量維持率が70%以上、90%未満
△:容量維持率が50%以上、70%未満
×:容量維持率が50%未満
【0058】
【表1】
【0059】
上記結果から、本実施形態に係る負極活物質は、高い電極容量と良好なサイクル特性とが両立された。これは、体積膨張率の異なる第1粒子および第2粒子を混合することで、Si粒子のLi吸蔵時の大きな膨張を電極全体で緩和したためだと考えられる。
一方で、第1粒子を含まない比較例4や第2粒子を含まない比較例5はサイクル特性が低く、第1粒子及び第2粒子のうち一方の粒子のみでは本発明の効果は得られないことが分かった。これは、比較例5のようなSi粒子と第1粒子のみを含む場合では、第1粒子とSi粒子との膨張差が大きく、電極が崩壊したためである。また、比較例4のようなSi粒子と第2粒子のみを含む場合では、Si粒子に加えて第2粒子もLi吸蔵によりある程度膨張する結果、電極全体の膨張量が大きくなり、やはり電極が崩壊したためであると考えられる。
比較例2や比較例3、比較例6は、Si粒子に加え、体積膨張率の異なる2種の粒子を含む例である。しかしながら、第1粒子を2種(比較例3、比較例6)、又は、第2粒子を2種(比較例2)含んでいても、他方の第2粒子又は第1粒子を含まないと、良好なサイクル特性は実現されなかった。これは、比較例4,5の時と同様に、膨張差が一定以上異なる粒子を含まない場合には電極が崩壊するためである。また、比較例6では、粒子BとしてAlNiを用いているが、このAlNiは他の実施例や比較例2では体積膨張率が240%である。これに対し、AlNiの酸素含有量が5.2質量%と多くなることで、その体積膨張率は39%と大きく低下し、結果として第2粒子の条件である、Li吸蔵による体積膨張率が100~300%を満たさない粒子となった。
比較例1は、Si粒子に加え、第1粒子と、第2粒子よりも体積膨張率の大きい粒子と、を含む例である。その結果、良好なサイクル特性は実現されず、第2粒子の体積膨張率の範囲が100~300%であることで、第1粒子と併用した際に本発明の効果が奏されることが分かった。
【0060】
実施例1~18の結果からは、Si粒子に加え、体積膨張率が第1粒子と第2粒子の範囲内である2種の粒子を含むことにより、粒子の種類によらず本発明の効果が幅広く得られることが確認された。
実施例2、22及び24の結果から、並びに、実施例14、21及び23の結果からは、Si粒子と第2粒子の平均粒子径が5μm以下であると、よりサイクル特性が良好となることが分かった。これは、平均粒子径が小さいほど体積膨張の絶対量が小さいことに起因するものと考えられる。
実施例14、19、20及び25~30の結果から、Si粒子の含有量を一定以上とすることで高い電極容量が得られる一方で、相対的に第1粒子及び第2粒子の含有量が少なくなると、サイクル特性も低下する。そのため、所望する特性に合わせて、各粒子の含有量を適正化することが望まれる。
比較例3又は5の結果から、第2粒子を含まないと良好なサイクル特性が得られない一方で、実施例25のように、第2粒子をわずか1質量%含むのみで、サイクル特性は向上した。このように、第2粒子は第1粒子に比べて少ない含有量でも、本発明の効果を奏することが分かった。