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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024018932
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】ポリアセタール樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 59/00 20060101AFI20240201BHJP
   C08L 77/00 20060101ALI20240201BHJP
   C08K 5/3445 20060101ALI20240201BHJP
【FI】
C08L59/00
C08L77/00
C08K5/3445
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023067998
(22)【出願日】2023-04-18
(31)【優先権主張番号】P 2022120904
(32)【優先日】2022-07-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165951
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 憲悟
(72)【発明者】
【氏名】尾坂 美樹
(72)【発明者】
【氏名】川原 真
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002CB001
4J002CL002
4J002CL032
4J002CL052
4J002EU116
(57)【要約】
【課題】本発明は、ホルムアルデヒドガスの発生量と高温多湿下で長期間保管時のブリードアウト発生量が抑制されたポリアセタール樹脂組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】(A)ポリアセタール樹脂100質量部、(B)エチレン尿素0.01~0.5質量部、及び(C)ポリアミド樹脂0.01~0.5質量部を含み、前記(B)エチレン尿素と前記(C)ポリアミド樹脂との質量比((B):(C))が1:4~50:1であることを特徴とする、ポリアセタール樹脂組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリアセタール樹脂100質量部、(B)エチレン尿素0.01~0.5質量部、及び(C)ポリアミド樹脂0.01~0.5質量部を含み、前記(B)エチレン尿素と前記(C)ポリアミド樹脂との質量比((B):(C))が1:4~50:1であることを特徴とする、ポリアセタール樹脂組成物。
【請求項2】
前記(C)ポリアミド樹脂の窒素含有量が5質量%以上である、請求項1に記載のポリアセタール樹脂組成物。
【請求項3】
前記(C)ポリアミド樹脂が、非晶性ポリアミド樹脂又は融点が240℃未満の結晶性ポリアミド樹脂である、請求項1又は2に記載のポリアセタール樹脂組成物。
【請求項4】
前記(C)ポリアミド樹脂が、ポリアミド6I又はポリアミド6-66-610共重合体である、請求項1又は2に記載のポリアセタール樹脂組成物。
【請求項5】
前記(C)ポリアミド樹脂がポリアミド6Iである、請求項1又は2に記載のポリアセタール樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアセタール樹脂組成物に関する。特に高温多湿下での保管に適したポリアセタール樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアセタール樹脂は、剛性、強度、靭性、摺動性及びクリープ性に優れた材料である。ポリアセタール樹脂の用途は、自動車部品、電気・電子部品及び工業部品等の各種機構部品用樹脂材料として、広範囲に亘っている。
【0003】
ポリアセタール樹脂は、熱、光、酸素、酸及びアルカリ等の作用により分解するとホルムアルデヒドを生じる。特に、製造時や成形加工時において熱分解によりホルムアルデヒドガスが生じ労働環境を悪化させること、樹脂製品からホルムアルデヒドガスが生じることにより室内環境を悪化させることが懸念される。特に自動車の室内部品用途では、成形品からのホルムアルデヒドガスの発生を高いレベルで低減することが求められる。
【0004】
ポリアセタール樹脂からのホルムアルデヒドガスの発生を抑制する方法として、ヒドラジド化合物、尿素化合物、グアナミン化合物等をホルムアルデヒド捕捉剤として添加すること、さらにポリアミド樹脂を熱安定剤として加えることが提案されている(特許文献1、2)。
【0005】
また、樹脂からの染みだしが少ないホルムアルデヒド捕捉剤として、特定の尿素誘導体とアミジン誘導体(特許文献3)や特定のヒドラゾン化合物(特許文献4)、特定のヒドラジド化合物(特許文献5)、特定のヒドラジド誘導体(特許文献6)が提案されている。
【0006】
また、高温多湿下において、ポリアセタール樹脂からのホルムアルデヒド捕捉剤のブリードアウトを抑制する方法として、添加剤を微分散させる方法(特許文献7)、ポリエチレングリコールを添加する方法(特許文献8)が提案されている
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2020-132662号公報
【特許文献2】特開2020-143256号公報
【特許文献3】特開2000-34417号公報
【特許文献4】特開2007-70574号公報
【特許文献5】特開2006-321880号公報
【特許文献6】特開2007-70575号公報
【特許文献7】特開2006-233230号公報
【特許文献8】特開2015-74724号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年の自動車生産拠点の広がりに伴い、高温多湿の地域や季節において、保管や輸送の際、成形品が高温多湿の環境下にさらされる機会が増え、成形品表面へのホルムアルデヒド捕捉剤のブリードアウトが問題となる場合が増えている。倉庫、輸送機関やコンテナの内部などの環境を十分に制御することは困難であり、ホルムアルデヒドガス放出を高いレベルで抑制することと、長期間高温多湿下に暴露された場合にブリードアウトを抑制することを両立できるポリアセタール樹脂組成物が求められている。
【0009】
しかし、上記文献で実施されている方法で製造されたポリアセタール樹脂組成物の成形品では、ホルムアルデヒドガス発生及び/又は高温多湿下で長期間保管時のブリードアウト発生の点において、必ずしも十分に満足の得られるものではなかった。
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、ホルムアルデヒドガスの発生量と高温多湿下で長期間保管時のブリードアウト発生量が十分に抑制されたポリアセタール樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そこで、本発明者らは、ポリアセタール樹脂に、ホルムアルデヒド捕捉剤としてエチレン尿素とポリアミド樹脂を所定の比率で添加することで、ホルムアルデヒドガス放出の抑制と高温多湿下でのブリードアウトの抑制を両立できることを見出し、本発明を完成した。
【0012】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1]
(A)ポリアセタール樹脂100質量部、(B)エチレン尿素0.01~0.5質量部、及び(C)ポリアミド樹脂0.01~0.5質量部を含み、前記(B)エチレン尿素と前記(C)ポリアミド樹脂との質量比((B):(C))が1:4~50:1であることを特徴とする、ポリアセタール樹脂組成物。
[2]
前記(C)ポリアミド樹脂の窒素含有量が5質量%以上である、[1]に記載のポリアセタール樹脂組成物。
[3]
前記(C)ポリアミド樹脂が、非晶性ポリアミド樹脂又は融点が240℃未満の結晶性ポリアミド樹脂である、[1]又は[2]に記載のポリアセタール樹脂組成物。
[4]
前記(C)ポリアミド樹脂が、ポリアミド6I又はポリアミド6-66-610共重合体である、[1]~[3]のいずれかに記載のポリアセタール樹脂組成物。
[5]
前記(C)ポリアミド樹脂がポリアミド6Iである、[1]~[4]のいずれかに記載のポリアセタール樹脂組成物。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ホルムアルデヒドガスの発生量と高温多湿下で長期保管時のブリードアウト発生量が共に少ないポリアセタール樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について、詳細に説明する。なお、本発明は、以下の記載に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0015】
<ポリアセタール樹脂組成物>
本実施形態のポリアセタール樹脂組成物は、(A)ポリアセタール樹脂と、(B)エチレン尿素と、(C)ポリアミド樹脂とを含む。
【0016】
<(A)ポリアセタール樹脂>
本実施形態のポリアセタール樹脂組成物に含まれる(A)ポリアセタール樹脂(以下、単に「(A)成分」と称する場合がある。)は、(-CHO-)で示されるオキシメチレン単位(アセタール構造)の繰り返しを主たる構成単位とするものであり、公知のものを用いてよい。本実施形態に用いる(A)ポリアセタール樹脂としては、このオキシメチレン単位のみからなるホモポリマーであってもよく、オキシメチレン単位以外の構成単位を含むコポリマー(ブロックコポリマーを含む)やターポリマー等であってもよい。更には、線状構造のみならず分岐、架橋構造を有していてもよい。
(A)ポリアセタール樹脂は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
(A)ポリアセタール樹脂は、(A)ポリアセタール樹脂の全体量を100質量%として、ポリアセタールコポリマーを30~100質量%含むことが好ましく、50~100質量%含むことがより好ましく、70~100質量%含むことが更に好ましい。
【0017】
本実施形態の(A)ポリアセタール樹脂の製造方法としては、公知のものを用いてよい。
例えば、ポリアセタールホモポリマーは、ホルムアルデヒドの単量体、又はその3量体(トリオキサン)及び4量体(テトラオキサン)等のホルムアルデヒドの環状オリゴマーを単独重合して得ることができる。更に、得られたポリアセタールホモポリマーは公知の方法(例えば、重合末端をエーテル基もしくはエステル基と反応させる方法)により安定化することができる。
ポリアセタールホモポリマーは、主鎖が実質的にオキシメチレン単位のみからなる。即ち、オキシメチレン単位を、99質量%以上含むことが好ましい。
【0018】
ポリアセタールコポリマーにおける、オキシメチレン単位以外の構成単位(コポリマー単位)としては、オキシエチレン単位(-CHCHO-)が好ましい。
このようなポリアセタールコポリマーは、ホルムアルデヒドの単量体又はその3量体(トリオキサン)及び4量体(テトラオキサン)等のホルムアルデヒドの環状オリゴマーと、エチレンオキサイド、1,3-ジオキソラン等の環状エーテルとを共重合させて得ることができる。トリオキサンと1,3-ジオキソランからポリアセタールコポリマーを得る場合、トリオキサン100mol%に対して1,3-ジオキソランを0.1~60mol%用いるのが好ましく、0.1~20mol%用いるのがより好ましく、0.13~10mol%用いるのが更に好ましい。更に得られたポリアセタールコポリマーは公知の方法(例えば、第4級アンモニウム化合物と共に溶融し不安定末端部分を分解する方法)により安定化することができる。
ポリアセタールコポリマーは、オキシエチレン単位を、該ポリマーの主鎖全体の1~10質量%含むことが好ましく、より好ましくは1~5質量%、更に好ましくは1~3質量%である。
【0019】
本実施形態の(A)ポリアセタール樹脂のメルトフローレート(MFR)は、流動性と強度の両立の観点から、1~100g/10分であることが好ましく、より好ましくは1~40g/10分、更に好ましくは2~15g/10分である。
なお、MFRは、ISO 1133-1に準拠して、190℃、荷重2.16kgの条件で測定することができる。
【0020】
ポリアセタール樹脂組成物100質量%中における(A)ポリアセタール樹脂の含有量は、75質量%以上であることが好ましく、より好ましくは90質量%以上、更に好ましくは95質量%以上である。
【0021】
<(B)エチレン尿素>
本実施形態のポリアセタール樹脂組成物に含まれる(B)エチレン尿素の製造方法は、特に定めるものでは無く、公知の方法を用いることができる。例えば、エチレンジアミンと炭酸ガスを反応させる方法、エチレンジアミンと尿素を反応させる方法、エチレンジアミンとホスゲンを反応させる方法、エチレンジアミンとジアルキルカーボネートを反応させる方法、エチレンチオウレアを酸化する方法などで得ることができる。
【0022】
本実施形態のエチレン尿素は、不純物として、原料や中間体や溶媒を含んでいてもよい。例えば、エチレンジアミンや、尿素、ジアルキルカーボネート、2-アミノエチルカルバミド酸、2-アミノエチルカルバミドエステル、2-アミノエチルウレアなどを含んでいてもよい。
不純物量は、エチレン尿素の質量100質量%に対して10質量%未満が好ましく、5質量%未満がよりこのましく、1質量%未満が更に好ましい
【0023】
本実施形態の(B)エチレン尿素の含有量は、ポリアセタール樹脂100質量部に対して0.01~0.5質量部であり、0.01~0.1質量部が好ましく、0.01~0.07質量部がより好ましい。
【0024】
<(C)ポリアミド樹脂>
本実施形態のポリアセタール樹脂組成物に含まれる(C)ポリアミド樹脂は、特に定めるものでは無く、公知のポリアミド樹脂を用いることができる。ポリアミド樹脂とは、基本的に二塩基酸とジアミンの重縮合、アミノカルボン酸の重縮合、或いはラクタムの開環重合などの各種反応で得られる主鎖にアミド結合を有する高分子化合物の総称であり、1種の構成単位から構成されるものであっても、2種以上の構成単位から構成されるものであってもよい。複数種の構成単位から成る共重合ポリアミドの場合には、共重合比率、共重合形態(ランダムコポリマー、ブロックコポリマー、架橋ポリマー)などは任意に選択することができる。
(C)ポリアミド樹脂は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0025】
ポリアミド樹脂の重合に用いられる二塩基酸の例としては、シュウ酸、マロン酸、(無水)コハク酸、(無水)マレイン酸、グルタル酸、アジピン酸、ビメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、1,3-又は1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、1,18-オクタデカンジカルボン酸、1,16-ヘキサデカンジカルボン酸、2-メチルテレフタル酸、5-メチ
ルイソフタル酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸、ジグリコール酸、ダイマー酸等が挙げられる。
ジアミンとしては、例えば、エチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,2,4-/2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン、5-メチルノナメチレンジアミン、2,4-ジメチルオクタメチレンジアミン、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1-アミノ-3-アミノメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキサン、3,8-ビス(アミノメチル)トリシクロデカン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(3-メチル-4-アミノシクロヘキシル)メタン、2,2-ビス(4-アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(アミノプロピル)ピペラジン等が挙げられる。
アミノカルボン酸としては、例えば、6-アミノカプロン酸、11-アミノウンデカン酸、12-アミノドデカン酸、パラアミノメチル安息香酸等が挙げられる。
ラクタムとしては、例えば、ε-カプロラクタム、ω-ラウロラクタム等が挙げられる。
【0026】
ポリアミド樹脂の具体例としては、例えば、ポリカプロアミド(ポリアミド6)、ポリテトラメチレンアジパミド(ポリアミド46)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ポリアミド66)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ポリアミド610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ポリアミド612)、ポリウンデカンアミド(ポリアミド11)、ポリドデカンアミド(ポリアミド12)、ポリトリメチルヘキサメチレンテレフタルアミド(ポリアミドTMHT)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド(ポリアミド6T)、ポリヘキサメチレンイソフタルアミド(ポリアミド6I)、ポリビス(4-アミノシクロヘキシル)メタンドデカミド(ポリアミドPACM12)、ポリビス(3-メチル-4-アミノシクロヘキシル)メタンドデカミド(ポリアミドジメチルPACM12)、ポリメタキシリレンアジパミド(ポリアミドMXD6)、ポリノナメチレンテレフタルアミド(ポリアミド9T)、ポリデカメチレンテレフタルアミド(ポリアミド10T)、ポリウンデカメチレンテレフタルアミド(ポリアミド11T)、ポリウンデカメチレンヘキサヒドロテレフタルアミド(ポリアミド11T(H))、ダイマー酸ポリアミド等が挙げられ、ポリアミド6-66-610やポリアミド6T/6Iのように、これらのポリアミドの共重合体や混合物であってもよい。
【0027】
本実施形態の(C)ポリアミド樹脂に含まれるアミド結合の濃度が高いと(B)エチレン尿素との相溶性が良く、(A)ポリアセタール樹脂に(B)エチレン尿素と(C)ポリアミド樹脂を所定の比率で添加することで得られるホルムアルデヒドガスの放出抑制効果向上とブリードアウトの抑制効果向上がより顕著に得られる。
(C)ポリアミド樹脂のアミド結合濃度としては、特にブリードアウト抑制の観点から窒素含有量に換算して5~15質量%が好ましく、7~15質量%が好ましく、9~13質量%がさらに好ましい。
なお、ポリアミド樹脂の窒素含有量は、微量全窒素分析装置(TN-2100H、三菱アナリテック製)を用いて、ポリアミドを酸化分解し、発生した一酸化窒素とオゾンとを反応させ、化学発光強度を測定する方法で求めることができる。
【0028】
本実施形態の(C)ポリアミド樹脂は、非晶性ポリアミド樹脂であるか、融点が240℃未満の結晶性ポリアミド樹脂であることが好ましい。さらに、結晶性ポリアミド樹脂の融点としては220℃未満が好ましく、200℃未満が好ましい。このようなポリアミド樹脂であることにより、ホルムアルデヒドガス放出量をより抑制することができる。
ここで、非晶性ポリアミド樹脂とは、示差走査熱量計(DSC)分析において、JIS K7121に従い10℃/分で昇温したときに明確な融解ピークがみられないものを指し、具体的には4cal/g以上の融解ピークがみられないものを指す。また、結晶性ポリアミド樹脂の融点は、JIS K7121に従い、融解ピーク終了時より30℃高い温度で10分間保った後に10℃/分で冷却後、10℃/分で昇温した時の融解ピーク温度である。
【0029】
本実施形態の(C)ポリアミド樹脂としては、ポリアミド6、ポリアミド610、ポリアミド612、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミドTMHT、ポリアミド6I、ポリアミドPACM12、ポリアミドジメチルPACM12、ポリアミドMXD6、ポリアミド6-66共重合体、ポリアミド6-66-610共重合体、ポリアミド6T/6I共重合体が好ましく、ポリアミドTMHT、ポリアミド6I、ポリアミド6-66共重合体、ポリアミド6-66-610共重合体がより好ましく、ポリアミド6Iが特に好ましい。
【0030】
本実施形態の(C)ポリアミド樹脂の含有量は、ポリアセタール樹脂100質量部に対して0.01~0.5質量部であり、0.01~0.1質量部が好ましく、0.01~0.07質量部がより好ましい。
【0031】
本実施形態における(B)エチレン尿素と(C)ポリアミド樹脂との質量比(B):(C)は、1:4~50:1であり、1:4~10:1が好ましく、1:4~4:1がより好ましく、1:3~5:3が特に好ましい。
(B)エチレン尿素と(C)ポリアミド樹脂それぞれの含有量、及び(B)エチレン尿素と(C)ポリアミド樹脂との質量比が上記範囲であることにより、ホルムアルデヒドガスの発生量と高温多湿下で長期保管時のブリードアウト発生量をともに抑えることができる。
【0032】
<添加剤>
本実施形態のポリアセタール樹脂組成物は、従来公知の任意の添加剤を含んでいてもよい。例えば、ギ酸捕捉剤、耐候安定剤、離型剤、潤滑剤、導電剤、熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマー、無機充填剤又は有機充填剤、顔料、染料等の公知の添加剤が挙げられる。
これらの添加剤は、1種類のみを単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
ポリアセタール樹脂組成物100質量%中における従来公知の添加剤の含有量は、25質量%以下であることが好ましく、より好ましくは10質量%以下、更に好ましくは5質量%以下である。
【0033】
本実施形態のポリアセタール樹脂組成物は、公知の溶融混錬方法によって製造することができる。例えば、(A)ポリアセタール樹脂と(B)エチレン尿素と(C)ポリアミド樹脂と必要に応じて添加剤とをヘンシェル混合機等の撹拌機で混合し、単軸、若しくは二軸の溶融混錬装置(押出機)に供給して溶融混錬してもよい。また、単軸、若しくは二軸の押出機の上流から(A)ポリアセタール樹脂と(C)ポリアミド樹脂と必要に応じて添加剤とを供給し溶融状態にした後、下流で(B)エチレン尿素を供給し溶融混錬してもよいし、単軸、若しくは二軸の押出機の上流から(A)ポリアセタール樹脂と必要に応じて添加剤とを供給し溶融状態にした後、下流で(B)エチレン尿素と(C)ポリアミド樹脂を供給し溶融混錬してもよい。また、溶融混錬時にホルムアルデヒドガスを脱気してもよい。
【0034】
本実施形態のポリアセタール樹脂組成物を成形することにより、成形体を得ることができる。
本実施形態のポリアセタール樹脂組成物の成形方法は、特に限定されるものではなく、公知の成形方法、例えば、押出成形、射出成形、真空成形、ブロー成形、射出圧縮成形、加飾成形、他材質成形、ガスアシスト射出成形、発泡射出成形、低圧成形、超薄肉射出成形(超高速射出成形)、金型内複合成形(インサート成形、アウトサート成形)、メルトブロー成形等が挙げられる。
成形体の形状は、特に限定されるものではなく、例えば、射出成形品(アウトサート成形品およびインサート成形品を含む)、繊維・不織布、シート・フィルム、及び異型押出品等が挙げられる。
成形体の用途は、特に限定されるものではなく、例えば、ギア、カム、スライダー、レバー、軸、軸受け及びガイド等に代表される機構部品や、特に、ドア廻り部品;シートベルト周辺部品;コンビスイッチ部品;スイッチ類に代表される自動車内装部品に好適に使用できる。
【0035】
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、本発明は本実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【実施例0036】
以下、実施例及び比較例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。
【0037】
実施例及び比較例で使用した各原料成分は以下のとおりである。
【0038】
(A)ポリアセタール樹脂
(A1)ホルムアルデヒドを重合してなるポリアセタールホモポリマー(MFR=2.8g/10分)
(A2)トリオキサンと1,3-ジオキソランとを共重合してなるポリアセタールコポリマー(オキシメチレン単位100molに対してオキシエチレン単位が4.2mol)(MFR=9.0g/10分)
なお、MFR値は、ISO 1133-1に従い、東洋精機製MELT INDEXERを用いて、シリンダー温度190℃、荷重2.16kgで測定した。
【0039】
(B)エチレン尿素(東京化成製、純度99.5%)
【0040】
(C)ポリアミド樹脂
(C1)ポリアミド6I(非晶性、窒素含有量11.4質量%):イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンを共重合して得た。
(C2)ポリアミド6-66-610共重合体(融点180℃、窒素含有量12.1質量%):ε-カプロラクタムとアジピン酸とヘキサメチレンジアミンを共重合して得た。
(C3)ポリアミド66(融点268℃、窒素含有量12.4質量%):アジピン酸とヘキサメチレンジアミンを共重合して得た。
(C4)ダイマー酸ポリアミド(非晶性、窒素含有量4.7質量%):ダイマー酸とエチレンジアミンを共重合して得た。
なお、窒素含有量は、微量全窒素分析装置(三菱アナリテック製TN-2100H)を用いて、ポリアミド樹脂を酸化分解し、発生した一酸化窒素とオゾンとを反応させ、化学発光強度を測定することにより求めた。
また、示差走査熱量計(DSC)分析において、JIS K7121に従い、10℃/分で昇温したときに4cal/g以上の融解ピークがみられないものを非晶性ポリアミド樹脂とした。また、同分析において、融解ピーク終了時より30℃高い温度で10分間保った後に10℃/分で冷却後、10℃/分で昇温した時の融解ピーク温度を結晶性ポリアミド樹脂の融点とした。
【0041】
(その他)
(D1)アラントイン(東京化成製)
(D2)メラミン(東京化成製)
(D3)セバシン酸ジヒドラジド(東京化成製)
【0042】
実施例及び比較例に対して用いた測定方法及び評価方法は、以下のとおりである。
【0043】
(1)ホルムアルデヒド発生量
射出成形機(東芝機械製IS-100GN)を用いて、金型温度80℃、シリンダー温度220℃、射出圧力35MPa、射出時間15秒、冷却時間20秒の条件で、実施例及び比較例で得られたポリアセタール樹脂組成物から試験片(100mm×40mm×3mmの平板状)を成形した。
ドイツ自動車工業組合規格VDA275に記載された方法に準拠して、上記試験片から放出されるホルムアルデヒド発生量を測定した。具体的には、蒸留水50mLを入れた1Lのポリエチレン製瓶に試験片を蒸留水に触れないよう吊るして密閉した。これを60℃にて3時間加熱し、室温で60分間静置した。次いで、蒸留水中のホルムアルデヒドをアンモニウムイオン存在下においてアセチルアセトンと反応させ、その反応物を対象としてUV分光計にて波長412nmの吸収ピークを測定することにより、ホルムアルデヒド発生量を求めた。なお、ホルムアルデヒド発生量は、ポリアセタール樹脂1gに対するホルムアルデヒド量(μg/g)として表した。この値が小さいほどホルムアルデヒド発生量が抑制されており好ましいことを示す。
【0044】
(2)ブリードアウト性
射出成形機(東芝機械製IS-100GN)を用いて、金型温度80℃、シリンダー温度220℃、射出圧力35MPa、射出時間15秒、冷却時間20秒の条件で、実施例及び比較例で得られたポリアセタール樹脂組成物から試験片(100mm×40mm×3mmの平板状)を成形した。
恒温恒湿槽(Espec製PL-2KT)を用い、60℃95%RHの条件で24時間、又は85℃95%RHの条件で168時間処理した後のそれぞれの成形品表面を10倍の共焦点顕微鏡(レーザーテック製 OPTELICS H1200)および目視で観察し、以下の基準でブリード量を評価した。
A:顕微鏡で観察しても処理前後で変化がない
B:目視でブリードアウトが見られない
C:目視で全体的に表面が薄く曇ったようになる
D:目視で全体的に濃くブリードアウトがみられる、かつ/又は粉を吹いたようになる。
【0045】
[実施例1~22、比較例1~22]
表1及び表2に示す組成で混合し、二軸押出機(池貝製PCM30)に供給し、スクリュー回転数60rpm、シリンダー設定温度200℃の条件で溶融混錬したのちペレット化した。得られたペレットは、温度80℃の熱風乾燥機を用いて3時間乾燥させたのちに上記の方法で成形・評価した。
評価結果を表1及び表2にまとめた。
【0046】
【表1】
【0047】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明のポリアセタール樹脂組成物は、高温多湿で長期間処理してもブリードアウトが少なく、またホルムアルデヒドガス発生量も少ないため、揮発性有機化合物の低減が求められる自動車室内用途の分野等で好適に利用でき、製造上のロスを低減することが期待できる。