(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024018971
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】イネ科植物リポキシゲナーゼ3の製造方法、及び組換え酵母
(51)【国際特許分類】
C12N 9/02 20060101AFI20240201BHJP
C12N 15/29 20060101ALI20240201BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20240201BHJP
A21D 2/26 20060101ALI20240201BHJP
A21D 8/04 20060101ALI20240201BHJP
【FI】
C12N9/02 ZNA
C12N15/29
C12N1/19
A21D2/26
A21D8/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023095744
(22)【出願日】2023-06-09
(31)【優先権主張番号】P 2022119855
(32)【優先日】2022-07-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】800000068
【氏名又は名称】学校法人東京電機大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(72)【発明者】
【氏名】高橋 俊介
(72)【発明者】
【氏名】椎葉 究
【テーマコード(参考)】
4B032
4B065
【Fターム(参考)】
4B032DB02
4B032DG02
4B032DK51
4B032DK54
4B032DL01
4B032DP17
4B032DP33
4B032DP40
4B065AA72X
4B065AA89Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065AC20
4B065BA01
4B065CA28
4B065CA42
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、イネ科植物リポキシゲナーゼ3の効率的な製造技術を提供することである。
【解決手段】本発明は、イネ科植物リポキシゲナーゼ3の製造方法であって、前記製造方法が、イネ科植物リポキシゲナーゼ3遺伝子のコドンを最適化し、コドン最適化配列を取得するコドン最適化工程と、前記コドン最適化配列を酵母内で発現させる発現工程と、
を含み、前記コドン最適化配列が、所定の(要件A)乃至(要件E)を全て満たす、製造方法を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
イネ科植物リポキシゲナーゼ3の製造方法であって、
前記製造方法が、
イネ科植物リポキシゲナーゼ3遺伝子のコドンを最適化し、コドン最適化配列を取得するコドン最適化工程と、
前記コドン最適化配列を酵母内で発現させる発現工程と、
を含み、
前記コドン最適化配列が、下記(要件A)乃至(要件E)を全て満たす、
製造方法。
(要件A)コドン適応インデックス(CAI)又はコドン使用類似度インデックス(COUSIN)が、以下の(要件A-1)及び(要件A-2)のうち少なくともいずれかを満たす。
(要件A-1)CAIが0.60以上1.00以下である。
(要件A-2)COUSIN59がCOUSIN18よりも高く、かつ、COUSIN59及びCOUSIN18がそれぞれ0.70以上1.20以下である。
(要件B)コドン有効数(ENC)が45.0以上である。
(要件C)GC含有率が35%以上60%以下である。
(要件D)最適コドン使用頻度(FOP)が0.30以上0.60以下である。
(要件E)コドンバイアス指数(CBI)が0.15以上である。
【請求項2】
前記イネ科植物リポキシゲナーゼ3が、製パン用である、請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
イネ科植物リポキシゲナーゼ3遺伝子に由来し、かつ、下記(要件A)乃至(要件E)を全て満たすコドン最適化配列が導入された、組換え酵母。
(要件A)コドン適応インデックス(CAI)又はコドン使用類似度インデックス(COUSIN)が、以下の(要件A-1)及び(要件A-2)のうち少なくともいずれかを満たす。
(要件A-1)CAIが0.60以上1.00以下である。
(要件A-2)COUSIN59がCOUSIN18よりも高く、かつ、COUSIN59及びCOUSIN18がそれぞれ0.70以上1.20以下である。
(要件B)コドン有効数(ENC)が45.0以上である。
(要件C)GC含有率が30%以上60%以下である。
(要件D)最適コドン使用頻度(FOP)が0.30以上0.60以下である。
(要件E)コドンバイアス指数(CBI)が0.15以上である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イネ科植物リポキシゲナーゼ3の製造方法、及び組換え酵母に関する。
【背景技術】
【0002】
製パン等の、イネ科植物由来穀物(小麦粉等)の加工においては、粘弾性の調整等が、製品の品質に影響を与え得る。このような粘弾性に関連する穀物中成分として、グルテン、グルテニン等が挙げられる。
【0003】
グルテニンは、ジスルフィド結合を介して架橋されたポリペプチド鎖を有する高分子であり、弾性に富むという性質を有する。
近年、グルテニン間の架橋による構造変化が、グルテンの粘弾性に大きな影響を与え得ることが報告されている。
グルテニン間の架橋を促進する酸化酵素として、リポキシゲナーゼが同定されている。
小麦のリポキシゲナーゼには、3種類のアイソザイムが存在する。各リポキシゲナーゼは、リノール酸の過酸化反応に関与する。
【0004】
本発明者らは、リポキシゲナーゼのアイソザイムのうち、「リポキシゲナーゼ3」(以下、「リポキシゲナーゼIII」、「LOXIII」、又は「LOX3」ともいう。)が、他のアイソザイムよりも活性が高く、製パン等における、体積の増大、弾力性の向上、及び白色化効果等に良好な影響を与えることを見出した(例えば、非特許文献1)。
そのため、LOX3の活用は、高品質な穀物製品(パン等)の製造に有効であり得る。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】K.Shiibaら、“Purification and Characterization of Lipoxygenase Isozymes from Wheat Germ”、Cereal Chem 68:115-122
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、従来、LOX3の主な製造方法は、小麦胚芽からの単離であったため、LOX3は希少な成分であった。
【0007】
さらに、LOX3は分子量が大きく(90~100kDa程度)、大腸菌等を用いた系において正しく折り畳み構造を維持しにくいため、実用可能なLOX3発現技術が確立できていなかった。
【0008】
本発明は以上の実情に鑑みてなされたものであり、イネ科植物リポキシゲナーゼ3の効率的な製造技術の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らが検討した結果、所定の指標に基づき最適化されたイネ科植物LOX3遺伝子配列を酵母内で発現させることによって上記課題を解決できる点を見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は以下を提供する。
【0010】
(1) イネ科植物リポキシゲナーゼ3の製造方法であって、
前記製造方法が、
イネ科植物リポキシゲナーゼ3遺伝子のコドンを最適化し、コドン最適化配列を取得するコドン最適化工程と、
前記コドン最適化配列を酵母内で発現させる発現工程と、
を含み、
前記コドン最適化配列が、下記(要件A)乃至(要件E)を全て満たす、
製造方法。
(要件A)コドン適応インデックス(CAI)又はコドン使用類似度インデックス(COUSIN)が、以下の(要件A-1)及び(要件A-2)のうち少なくともいずれかを満たす。
(要件A-1)CAIが0.60以上1.00以下である。
(要件A-2)COUSIN59がCOUSIN18よりも高く、かつ、COUSIN59及びCOUSIN18がそれぞれ0.70以上1.20以下である。
(要件B)コドン有効数(ENC)が45.0以上である。
(要件C)GC含有率が35%以上60%以下である。
(要件D)最適コドン使用頻度(FOP)が0.30以上0.60以下である。
(要件E)コドンバイアス指数(CBI)が0.15以上である。
【0011】
(2) 前記イネ科植物リポキシゲナーゼ3が、製パン用である、(1)記載の製造方法。
【0012】
(3) イネ科植物リポキシゲナーゼ3遺伝子に由来し、かつ、下記(要件A)乃至(要件E)を全て満たすコドン最適化配列が導入された、組換え酵母。
(要件A)コドン適応インデックス(CAI)又はコドン使用類似度インデックス(COUSIN)が、以下の(要件A-1)及び(要件A-2)のうち少なくともいずれかを満たす。
(要件A-1)CAIが0.60以上1.00以下である。
(要件A-2)COUSIN59がCOUSIN18よりも高く、かつ、COUSIN59及びCOUSIN18がそれぞれ0.70以上1.20以下である。
(要件B)コドン有効数(ENC)が45.0以上である。
(要件C)GC含有率が30%以上60%以下である。
(要件D)最適コドン使用頻度(FOP)が0.30以上0.60以下である。
(要件E)コドンバイアス指数(CBI)が0.15以上である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、イネ科植物リポキシゲナーゼ3の効率的な製造技術が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0015】
<イネ科植物リポキシゲナーゼ3の製造方法>
本発明に係るイネ科植物LOX3の製造方法(以下、「本発明の製造方法」ともいう。)は、以下の要件を全て満たす。
・イネ科植物リポキシゲナーゼ3遺伝子のコドンを最適化し、コドン最適化配列を取得するコドン最適化工程と、コドン最適化配列を酵母内で発現させる発現工程と、を含む。
・コドン最適化配列が、下記(要件A)乃至(要件E)を全て満たす。
(要件A)コドン適応インデックス(CAI)又はコドン使用類似度インデックス(COUSIN)が、以下の(要件A-1)及び(要件A-2)のうち少なくともいずれかを満たす。
(要件A-1)CAIが0.60以上1.00以下である。
(要件A-2)COUSIN59がCOUSIN18よりも高く、かつ、COUSIN59及びCOUSIN18がそれぞれ0.70以上1.20以下である。
(要件B)コドン有効数(ENC)が45.0以上である。
(要件C)GC含有率が35%以上60%以下である。
(要件D)最適コドン使用頻度(FOP)が0.30以上0.60以下である。
(要件E)コドンバイアス指数(CBI)が0.15以上である。
【0016】
目的タンパク質の発現効率を高める観点から、発現させようとする遺伝子配列のコドンを最適化することは従来知られている。
しかし、その指標には様々なものがあり、実際に発現効率を実現できる遺伝子配列の設計には多くの試行錯誤を要する。
【0017】
本発明者らが鋭意検討した結果、上記要件を全て満たすことで、イネ科植物LOX3を特に好適に酵母内で発現できることを見出した。
また、本発明者らは、得られたイネ科植物LOX3が、良好な酵素活性を有し、製パン等の分野において実用可能である点も確認した。
【0018】
「リポキシゲナーゼ3(LOX3)」とは、酸化還元酵素の1種であり、リノール酸の9位の炭素に酸素分子を導入する作用を有する。
【0019】
本発明において、「イネ科植物(Poaceae)」とは、イネ科に属する任意の植物を包含するが、好ましくは食用の植物である。
イネ科植物としては、小麦、大麦、ライ麦、トウモロコシ、イネ等が挙げられる。これらのうち、本発明の効果が特に得られやすいという観点から、小麦が好ましい。
【0020】
本発明において、「イネ科植物LOX3を効率的に製造できる」とは、イネ科植物LOX3を酵母内で発現でき、かつ、得られたLOX3が充分な酵素活性を有していることを包含する。
【0021】
LOX3の酵素活性は、例えば、実施例に示したリノール酸の過酸化反応等によって評価できる。
充分な酵素活性を有するLOX3によれば、例えば、製パンにおいて、グルテニン間の架橋によるタンパク質の増加に伴う、パンの焼き上がり体積の増大、パンの白色化等がもたらされ得る。
【0022】
以下、本発明の製造方法の詳細について説明する。
【0023】
(1)コドン最適化工程
コドン最適化工程は、イネ科植物LOX3遺伝子におけるコドンを最適化し、コドン最適化配列を取得する工程である。得られたコドン最適化配列は、上記(要件A)乃至(要件E)を全て満たす。
【0024】
本発明において、「コドンの最適化」とは、酵母内でタンパク質(イネ科植物LOX3)を効率的に発現させるために、イネ科植物LOX3遺伝子を、酵母の内在性タンパク質に近い配列へ変換することを包含する。
【0025】
本発明者らが鋭意検討した結果、酵母内でのイネ科植物LOX3の効率的な発現の観点から、上記(要件A)乃至(要件E)を満たすことが重要であることを見出した。
上記(要件A)乃至(要件E)は互いに密接に関連しており、これらのうちいずれかの要件を満たさない場合は、酵母のコドン使用頻度とイネ科植物LOX3遺伝子のコドンとの大きなギャップが生じ得るため、酵母内でのイネ科植物LOX3の発現を妨げる可能性がある。
【0026】
本発明の要件を満たすコドン最適化配列を取得する方法は適宜選択できる。
例えば、イネ科植物LOX3遺伝子配列に基づき、公知のコドン最適化ツールを用いて各指標を調整し、コドン最適化配列を取得することができる。
コドン最適化ツールとしては、例えば、「COUSIN」(https://cousin.ird.fr/index.php)、「Codon Optimization OnLine (COOL)」(Chin, J. X., et al., (2014). Bioinformatics, 30(15), 2210-2212)等が挙げられる。
【0027】
本発明の要件を満たす、小麦リポキシゲナーゼ3に由来するコドン最適化配列としては、配列番号1、配列番号6に記載された配列が挙げられる。
なお、小麦リポキシゲナーゼ3に由来するコドン最適化配列は、小麦リポキシゲナーゼ3の遺伝子配列の全体に由来する配列からなるものであってもよく、小麦リポキシゲナーゼ3の遺伝子配列の一部に由来する配列からなるものであってもよい。
配列番号1は、小麦リポキシゲナーゼ3の遺伝子配列の全体に由来する配列からなるコドン最適化配列である。
配列番号6は、小麦リポキシゲナーゼ3の遺伝子配列の一部(小麦リポキシゲナーゼ3のN末端をトランケートしたC末端)に由来する配列からなるコドン最適化配列である。
【0028】
(1-1)(要件A)について
コドン最適化配列は、コドン適応インデックス(CAI)又はコドン使用類似度インデックス(COUSIN)が、以下の(要件A-1)及び(要件A-2)のうち少なくともいずれか、好ましくは両方を満たす。
(要件A-1)CAIが0.60以上1.00以下である。
(要件A-2)COUSIN59がCOUSIN18よりも高く、かつ、COUSIN59及びCOUSIN18がそれぞれ0.70以上1.20以下である。
【0029】
(1-1-1)(要件A-1)について
「コドン適応インデックス(Codon adaptation index、CAI)」とは、配列特徴量の1つであり、コドン使用頻度のバイアスの指標である。
【0030】
CAIは、0~1の数値で示される。
CAIは、遺伝子配列のコドン使用パターンが、宿主生物(本発明においては酵母)の内在性遺伝子におけるコドン使用パターンとどのくらい適合しているかを示す。遺伝子配列のCAIが高いほど、宿主生物における使用頻度の少ないコドン(レアコドン)が少ないことを意味する。
【0031】
CAIの算出式は、“Moriyama, Estuko N., “Codon Usage” (2003). Papers in Genetics. 4.”等で定義されている。
【0032】
CAIの下限は、0.60以上、好ましくは0.65以上、より好ましくは0.70以上である。
【0033】
CAIの上限は、1.00以下、好ましくは0.95以下、より好ましくは0.90以下である。
【0034】
(1-1-2)(要件A-2)について
「コドン使用類似度インデックス(COdon Usage Similarity INdex、COUSIN)」とは、CAIを改良したものであり、コドン使用頻度のバイアスの指標である。
【0035】
COUSIN18は、0~1の数値で示される。
【0036】
COUSIN59は、0~1の数値で示される。
【0037】
COUSINの算出式は、“Genome Biology and Evolution, Volume 11, Issue 12, December 2019, Pages 3523-3528”等で定義されている。
【0038】
COUSIN18の下限は、0.70以上、好ましくは0.75以上、より好ましくは0.80以上である。
【0039】
COUSIN18の上限は、1.20以下、好ましくは1.10以下、より好ましくは1.00以下である。
【0040】
COUSIN59の下限は、0.70以上、好ましくは0.75以上、より好ましくは0.80以上である。
【0041】
COUSIN59の上限は、1.20以下、好ましくは1.10以下、より好ましくは1.00以下である。
【0042】
COUSIN59はCOUSIN18よりも高ければ特に限定されない。
両者の差は、好ましくは0.10以上0.50以下、より好ましくは0.20以上0.40以下である。
【0043】
(1-2)(要件B)について
コドン最適化配列は、コドン有効数(ENC)が45.0以上である。
【0044】
「コドン有効数(Effective number of codons、ENC)」とは、配列特徴量の1つであり、コドン使用頻度のバイアスの指標である。
【0045】
ENCは、20~61の数値で示される。
遺伝子配列のENCが高いほど、コドン使用頻度のバイアスが少ないことを意味する。
【0046】
ENCの算出式は、“Moriyama, Estuko N., “Codon Usage” (2003). Papers in Genetics. 4.”等で定義されている。
【0047】
ENCの下限は、45.0以上、好ましくは47.5以上、より好ましくは50.0以上である。
【0048】
ENCの上限は、61.0以下である。
【0049】
(1-3)(要件C)について
コドン最適化配列は、GC含有率が35%以上60%以下である。
【0050】
「GC含有率」とは、遺伝子配列におけるグアニン(G)及びシトシン(C)の割合(単位:%)である。
【0051】
酵母の遺伝子配列におけるGC含有率は低値(約38%)であり、発現させようとする遺伝子配列のGC含有率が高いほど、酵母内でのタンパク質発現を損なう可能性がある。
かかる点を踏まえ、本発明者らは、酵母内でのイネ科植物LOX3の安定的発現を実現する観点から、GC含有率を上記範囲に調整することを見出した。
【0052】
GC含有率の算出式は、“Moriyama, Estuko N., “Codon Usage” (2003). Papers in Genetics. 4.”等で定義されている。
【0053】
GC含有率の下限は、35%以上、好ましくは40%以上、より好ましくは45%以上である。
【0054】
GC含有率の上限は、60%以下、好ましくは55%以下、より好ましくは50%以下である。
【0055】
(1-4)(要件D)について
コドン最適化配列は、最適コドン使用頻度(FOP)が0.30以上0.60以下である。
【0056】
「最適コドン使用頻度(frequency of optimal codon usage、FOP)」とは、配列特徴量の1つであり、遺伝子配列における同義コドン選択の最適化レベルの指標である。
【0057】
FOPは、「最適コドン/(最適コドン+非最適コドン)」に基づき算出され、0超~1の数値で示される。
本発明においては他の要件を満たしつつ(例えば、ENC値を上げつつ)、FOPを0.40以上0.55以下とすることで、コドン使用頻度の偏りを抑制しながら、使用頻度の高い最適コドンの割合を高め、酵母内でのイネ科植物LOX3の安定的発現を実現できる。
【0058】
FOPの算出式は、“Moriyama, Estuko N., “Codon Usage” (2003). Papers in Genetics. 4.”等で定義されている。
【0059】
FOPの下限は、0.30以上、好ましくは0.35以上、より好ましくは0.40以上である。
【0060】
FOPの上限は、0.60以下、好ましくは0.55以上、より好ましくは0.50以上である。
【0061】
(1-5)(要件E)について
コドン最適化配列は、コドンバイアス指数(CBI)が0.15以上である。
【0062】
「コドンバイアス指数(Codon bias index、CBI)」とは、配列特徴量の1つであり、遺伝子配列において最適なコドンのサブセットが使用される程度を示す指標である。
【0063】
CBIは、0超~1の数値で示される。
極端にコドンバイアスのある遺伝子配列では、CBIは1.0に近い値となる。他方で、ランダムなコドン使用のある遺伝子配列では、その程度に応じて、CBIは0.0に近い値となる。
本発明においては、他の要件を満たしつつ、CBIを0.15以上とすることで、コドン使用頻度の偏りを抑制しながら、ランダムなコドン使用のある遺伝子配列を設計でき、酵母内でのイネ科植物LOX3の安定的発現を実現できる。
【0064】
CBIの算出式は、“Molecular Biotechnology volume 10, pages103-106 (1998)”等で定義されている。
【0065】
CBIの下限は、0.15以上、好ましくは0.20以上、より好ましくは0.25以上である。
【0066】
CBIの上限は、1.00以下、好ましくは0.90以下、より好ましくは0.80以下である。
【0067】
(2)発現工程
発現工程は、得られたコドン最適化配列を酵母内で発現させる工程である。
【0068】
発現工程においては、酵母を用いたタンパク質の製造方法として知られる任意の方法によって製造できる。
このような方法として、実施例に示した、プラスミドベクターを用いた方法等が挙げられる。得られたタンパク質(イネ科植物LOX3)は、適宜精製等を行ってもよい。
【0069】
<イネ科植物リポキシゲナーゼ3の用途>
本発明の製造方法によって得られたイネ科植物LOX3は、従来知られるLOX3と同様の用途や方法で利用できる。
【0070】
イネ科植物LOX3の好ましい用途として、製パン(生地へのLOX3の添加等)等が挙げられる。
【0071】
イネ科植物LOX3が所望の酵素活性を有しているかどうかは、実施例に示した酵素活性評価方法によって特定できる。
【0072】
<組換え酵母>
本発明は、上記コドン最適化配列が導入された組換え酵母、すなわち、イネ科植物リポキシゲナーゼタンパク質3遺伝子に由来し、かつ、(要件A)乃至(要件E)を全て満たすコドン最適化配列が導入された組換え酵母も包含する。
【0073】
本発明の組換え酵母は、製パン等において好ましく利用できる。
例えば、生地に本発明の組換え酵母を添加しそのまま発酵させることで、精製LOX3の添加が不要となるため、より効率的に高品質なパンを製造できる(ただし、本発明において、製パン時に精製LOX3を添加する態様は排除されない。)。
【実施例0074】
以下に、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0075】
<試験1:小麦リポキシゲナーゼ3の製造>
以下の方法により、小麦(イネ科植物に相当する。)リポキシゲナーゼタンパク質3を製造した。なお、以下、「小麦リポキシゲナーゼ3」を「小麦LOX3」、「LOXIII」ともいう。
【0076】
(1)コドン最適化工程
コドン最適化ツールである、「COUSIN」のウェブサイト(https://cousin.ird.fr/index.php)を使用して、酵母のコドン使用頻度へ最適化した小麦LOX3遺伝子配列(コドン最適化配列に相当する。)を設計した。
【0077】
得られたコドン最適化配列(配列番号1、表1)は、以下の要件を全て満たす。
(要件a-1)CAIが0.70以上0.90以下である。
(要件a-2)COUSIN59がCOUSIN18よりも高く、かつ、COUSIN59及びCOUSIN18がそれぞれ0.80以上1.20以下である。
(要件b)コドン有効数(ENC)が50.0以上である。
(要件c)GC含有率が40%以上55%以下である。
(要件d)最適コドン使用頻度(FOP)が0.40以上0.55以下である。
(要件e)コドンバイアス指数(CBI)が0.15以上である。
【0078】
【0079】
(2)発現工程
以下の方法により、小麦LOX3の分子クローニング、及び酵母への形質転換を行った。
【0080】
(2-1)小麦LOX3の分子クローニング
得られたコドン最適化配列の人工合成遺伝子を、ツイストバイオサイエンス社による受託合成によって製造した。
次いで、「Prime STAR Max DNA polymerase」(TaKaRa社製)を用いて、添付の説明書に従い、「LOX3 forward primer」(配列番号2)、「LOX3 reverse primer」(配列番号3)を使用して、小麦LOX3の遺伝子配列を増幅した。
PCR増幅産物(小麦LOX3の遺伝子配列)と、2A自己切断ペプチド配列と、蛍光タンパク質mClover3(FP)の遺伝子配列と、を含む酵母-大腸菌シャトルベクター(p2A-FP遺伝子ベクター)を作製し、SalI及びBamHIの制限酵素で切断した。切断後、「QIAquick PCR Purification kit」(QIAgen社製)を用いて精製を行った。
得られた精製物(インサートDNA、LOX3遺伝子)及びベクターDNA(p2A-FP遺伝子ベクター)を混合することで混合DNA溶液を調製し、さらに「DNA Ligation kit」(TaKaRa社製)を加え(混合DNA溶液:「DNA Ligation kit」=1:1)、DNAライゲーション反応溶液を作製した。
得られたDNAライゲーション反応溶液を、恒温槽(TAITEC社製)に入れ、16℃で、1時間~終夜静置し、DNAライゲーション反応を行った。
反応終了後、「E.coli JM109コンピテントセル」(TaKaRa社製)を用いて、添付の説明書に従い、形質転換を行った後、100μg/mLのアンピシリン(ナカライテスク社製)を含むLB寒天培地に広げて、37℃で終夜培養した。この工程により、「pLOX3-2A-FP遺伝子ベクター」を得た。
【0081】
(2-2)プラスミド抽出
「pLOX3-2A-FP遺伝子ベクター」による大腸菌の形質転換体を、100μg/mLのアンピシリンを含むLB液体培地に37℃で終夜培養した。
得られた菌体培養液を遠心で集菌し、「QIAprep Spin miniprep kit」(キアゲン社製)を用い、添付の説明書に従い、大腸菌からクローン化DNAを抽出及び精製した。
【0082】
(2-3)DNAシーケンシング解析
「シカジーニアスDNA抽出試薬」(関東化学社製)を用いて、添付の説明書に従い、大腸菌コロニーからDNA抽出物を調製した。
得られたDNA抽出物をPCR反応用テンプレートとして、「TaKaRa Ex-Taq Hot Start」(TaKaRa社製)を用い、添付の説明書に従い、「LOX3-SEQ forward primer」(配列番号4)、「LOX3-SEQ reverse primer」(配列番号5)を用いることで、目的DNA(小麦LOX3-2A-FP遺伝子)配列を増幅した。
PCR反応の条件は、以下のように設定した。:「95℃、2分」の後、サイクル「95℃、20秒;55℃、30秒;72℃、2分」を30サイクル行う。
PCR反応産物溶液を、「QIAquick PCR Purification kit」(キアゲン社製)を用い、添付の説明書に従い精製した。
得られた精製物について、ジーンウィズ社による受託解析によって評価した結果、設計通りのリポキシゲナーゼ3の遺伝子配列を含むクローン化DNA(pLOX3-2A-FP遺伝子ベクター)が得られた。
【0083】
(2-4)コドン最適化配列発現酵母の取得
「Yeastmarker(商標) Transformation System 2」(TaKaRa社製)による酢酸リチウム法を用いて、添付の説明書に従い、出芽酵母へ「pLOX3-2A-FP遺伝子ベクター」を導入し、形質転換を行った。
酵母の形質転換体を、ヒスチジンを含まない選択寒天培地に広げて、30℃で終夜培養した。
得られた形質転換体(「LOX3-2A-FP遺伝子発現酵母」ともいう。)から、「シカジーニアスDNA抽出試薬ST」(関東化学社製)を用いて、添付の説明書に従い、DNA抽出物を調製した。
得られたDNA抽出物をPCR反応用テンプレートとして、「TaKaRa Ex-Taq Hot Start」(TaKaRa社製)を用い、添付の説明書に従い、「LOX3-SEQ forward primer」(配列番号4)、「LOX3-SEQ reverse primer」(配列番号5)を用いることで、目的DNA(小麦LOX3-2A-FP遺伝子)配列の増幅を確認した。
さらに、「LOX3-2A-FP遺伝子発現酵母」における蛍光タンパク質の蛍光を、「ImageQuant(商標) LAS 4000」(cytiva)によって解析し、該酵母内で発現した蛍光タンパク質の蛍光を確認した。
【0084】
以上の工程によって、コドン最適化配列が酵母内で発現していることを確認した。
【0085】
【0086】
(3)小麦LOX3の抽出
以下の方法により、酵母内で小麦LOX3を発現させ、小麦LOX3の単離を行った。
まず、「LOXIII-2A-FP遺伝子発現酵母」を、ヒスチジンを含まない選択液体培地に植菌し、30℃で1日間程度前培養した。
その後、新たに準備したヒスチジンを含まない選択液体培地(100~300mL)に前培養液を加え、16℃で4~7日間培養することで、小麦LOX3、及び蛍光タンパク質(mClover3)を共発現させ、菌体培養液を得た。
得られた菌体培養液から遠心で集菌した菌体に対して、菌体溶解緩衝液を加え、超音波破砕装置によって菌体を破壊した。
次いで、菌体培養液を、遠心で可溶性画分及び不溶性画分に分離した。可用性画分における蛍光タンパク質の蛍光を、「ImageQuant(商標) LAS 4000」(cytiva)で解析することで、「LOX3-2A-FP遺伝子発現酵母」で発現した蛍光タンパク質の蛍光を確認した。
以上の結果に基づき、可溶性画分を、「小麦LOX3含有画分」として回収した。
【0087】
<試験2:小麦LOX3の活性評価>
以下の方法により、小麦LOX3(小麦LOX3含有画分)を用いて、酵素活性評価を行った。
【0088】
(1)基質の準備
リポキシゲナーゼの基質として、リノール酸エマルションを準備した。
リノール酸エマルションは、Surrey(1964)の方法に基づいて調整した。
具体的には、Tween20(0.12mL)、50mM酢酸バッファー(pH5.5、2.5mL)、及び1.0mM水酸化ナトリウム(0.32mL)の混合物に、リノール酸(100μl)を溶解させた。リノール酸が溶解した後、混合物を、50mM酢酸バッファーで、50mLまで希釈した。該希釈物を基質として用いた。
基質は、窒素下で密封し、使用するまで4℃の暗所で保存した。
【0089】
(2)酵素反応
「LOX3-2A-FP遺伝子発現酵母」から抽出したLOX3(r LOX3(小麦LOX3含有画分))、及び、組換えされていない野生型出芽酵母から抽出したLOX3(WT)を準備した。
各LOX3(10μl)、上記で得られた基質(90μl)、及び50mM酢酸バッファー(pH5.5、2.5mL)を混合し、酵素反応を行った。
この酵素反応において、「酵素活性の1U」は、234nmでの吸光度で、1分間当たりに生成されるペルオキシド1Mの酵素量として定義した。
各LOX3の酵素活性を表3に示す。
【0090】
表3に示されるとおり、「r LOX3」の活性は、「WT」と比較して約188倍高かった。
【0091】
【0092】
<試験3:可溶性グルテニンタンパク質の測定>
以下の方法により、製パンにおいて、「LOX3-2A-FP遺伝子発現酵母」によって生じる可溶性グルテニンタンパク質の量を測定した。
【0093】
小麦粉(50g)に対し、水(30mL)、及び、酵母(1g、「LOX3-2A-FP遺伝子発現酵母」、又は組換えされていない野生型出芽酵母のいずれか)を加え、ミキサー(「Micro-Mixer」、National MFC社製)で5分間こねて、生地を得た。
生地を丸め、オーブンで30℃、90分間発酵を行った。
発酵後、生地(3g)を取り、200mM酢酸水溶液(15mL)中で、ホモジナイザーを用いて、8000rpmで10分間粉砕した。
粉砕物を50mL遠沈管に回収し、4℃、3500rpm、30分間遠心分離を行った。
遠心分離後、上清を回収し、メスシリンダーで測定した。次いで、上清にエタノールを加え、エタノール70%に調整した(式「上清の液量/3×7」によってエタノール量を算出した。)。
エタノール沈殿後、遠心分離を行い、上清を捨てて沈殿物を回収した。
沈殿物中の可溶性グルテニンタンパク質の量をローリー法で測定した。
各LOX3によって生じた可溶性グルテニンタンパク質の量を表4に示す。
【0094】
表4に示されるとおり、「WT」と比較して、「r LOX3」では、可溶性グルテニン量が約48%増加していた。
このことから、「r LOX3」は、グルテン構造の変化に対して良好に寄与していることがわかった。
【0095】
【0096】
<試験4:「LOX3-2A-FP遺伝子発現酵母」を用いた製パン評価>
以下の方法により、「LOX3-2A-FP遺伝子発現酵母」を用いて、ストレート法に基づく製パン試験を行った。
【0097】
試験3と同様の方法で、生地を作製し、その発酵を行った。
発酵後、オーブンで、200℃、20分間、生地の焼成を行った。
焼成後、パンのボリュームを、菜種置換法を用いて測定した。
各パンのボリュームを表5に示す。
【0098】
表5に示されるとおり、各パンのボリューム(体積)に大きな差はなかった。このことから、「LOX3-2A-FP遺伝子発現酵母」は、製パンにおいて、従来の酵母と同様に使用できることがわかった。
【0099】
【0100】
<試験5:ミニ小麦リポキシゲナーゼ3の製造>
以下の方法により、小麦(イネ科植物に相当する。)ミニリポキシゲナーゼタンパク質3を製造した。なお、以下、「ミニ小麦リポキシゲナーゼ3」を「小麦ミニLOX3」、「miniLOX3」等ともいう。「ミニ(mini)」とは、小麦リポキシゲナーゼ3のN末端をトランケートしたC末端のみを含む小麦リポキシゲナーゼ3タンパク質であることを意味する。
【0101】
(1)コドン最適化工程
上記「試験1」と同様の方法により、酵母のコドン使用頻度へ最適化した小麦ミニLOX3遺伝子配列(コドン最適化配列に相当する。)を設計した。
【0102】
得られたコドン最適化配列(配列番号6、表6)は、以下の要件を全て満たす。
(要件a-1)CAIが0.70以上0.90以下である。
(要件a-2)COUSIN59がCOUSIN18よりも高く、かつ、COUSIN59及びCOUSIN18がそれぞれ0.80以上1.20以下である。
(要件b)コドン有効数(ENC)が50.0以上である。
(要件c)GC含有率が40%以上55%以下である。
(要件d)最適コドン使用頻度(FOP)が0.40以上0.55以下である。
(要件e)コドンバイアス指数(CBI)が0.15以上である。
【0103】
【0104】
(2)発現工程
以下の方法により、小麦ミニLOX3の分子クローニング、及び酵母への形質転換を行った。
【0105】
(2-1)小麦ミニLOX3の分子クローニング
「Prime STAR Max DNA polymerase」(TaKaRa社製)を用いて、添付の説明書に従い、「miniLOX3 forward primer」(配列番号7)、「miniLOX3 reverse primer」(配列番号8)を使用して、小麦ミニLOX3の遺伝子配列を増幅した。
PCR増幅産物(小麦ミニLOX3の遺伝子配列)を含む、酵母-大腸菌シャトルベクター(pGK423ベクター)を作製し、SalI及びBamHIの制限酵素で切断した。切断後、「QIAquick PCR Purification kit」(QIAgen社製)を用いて精製を行った。
得られた精製物(インサートDNA、ミニLOX3遺伝子)及びベクターDNA(pGK423ベクター)を混合することで混合DNA溶液を調製し、さらに「DNA Ligation kit」(TaKaRa社製)を加え(混合DNA溶液:「DNA Ligation kit」=1:1)、DNAライゲーション反応溶液を作製した。
得られたDNAライゲーション反応溶液を、恒温槽(TAITEC社製)に入れ、16℃で、1時間~終夜静置し、DNAライゲーション反応を行った。
反応終了後、「E.coli JM109コンピテントセル」(TaKaRa社製)を用いて、添付の説明書に従い、形質転換を行った後、100μg/mLのアンピシリン(ナカライテスク社製)を含むLB寒天培地に広げて、37℃で終夜培養した。この工程により、「pミニLOX3ベクター」を得た。
【0106】
(2-2)プラスミド抽出
「pミニLOX3ベクター」による大腸菌の形質転換体を、100μg/mLのアンピシリンを含むLB液体培地に37℃で終夜培養した。
得られた菌体培養液を遠心で集菌し、「QIAprep Spin miniprep kit」(キアゲン社製)を用い、添付の説明書に従い、大腸菌からクローン化DNAを抽出及び精製した。
【0107】
(2-3)DNAシーケンシング解析
「シカジーニアスDNA抽出試薬」(関東化学社製)を用いて、添付の説明書に従い、大腸菌コロニーからDNA抽出物を調製した。
得られたDNA抽出物をPCR反応用テンプレートとして、「TaKaRa Ex-Taq Hot Start」(TaKaRa社製)を用い、添付の説明書に従い、「LOX3-SEQ forward primer」(配列番号4)、「LOX3-SEQ reverse primer」(配列番号5)を用いることで、目的DNA(小麦ミニLOX3遺伝子)配列を増幅した。
PCR反応の条件は、以下のように設定した。:「95℃、2分」の後、サイクル「95℃、20秒;55℃、30秒;72℃、2分」を30サイクル行う。
PCR反応産物溶液を、「QIAquick PCR Purification kit」(キアゲン社製)を用い、添付の説明書に従い精製した。
得られた精製物について、ジーンウィズ社による受託解析によって評価した結果、設計通りのミニリポキシゲナーゼ3の遺伝子配列を含むクローン化DNA(pミニLOX3ベクター)が得られた。
【0108】
(2-4)ミニLOX3遺伝子発現酵母の取得
「Yeastmarker(商標) Transformation System 2」(TaKaRa社製)による酢酸リチウム法を用いて、添付の説明書に従い、出芽酵母へ「pミニLOX3ベクター」を導入し、形質転換を行った。
酵母の形質転換体を、ヒスチジンを含まない選択寒天培地に広げて、30℃で終夜培養した。
得られた形質転換体(「ミニLOX3遺伝子発現酵母」ともいう。)から、「シカジーニアスDNA抽出試薬ST」(関東化学社製)を用いて、添付の説明書に従い、DNA抽出物を調製した。
得られたDNA抽出物をPCR反応用テンプレートとして、「TaKaRa Ex-Taq Hot Start」(TaKaRa社製)を用い、添付の説明書に従い、「LOX3-SEQ forward primer」(配列番号4)、「LOX3-SEQ reverse primer」(配列番号5)を用いることで、目的DNA(小麦ミニLOX3遺伝子)配列の増幅を確認した。
【0109】
以上の工程によって、コドン最適化配列が酵母内で発現していることを確認した。
【0110】
【0111】
(3)小麦ミニLOX3の抽出
以下の方法により、酵母内で小麦ミニLOX3を発現させ、小麦ミニLOX3の単離を行った。
まず、「ミニLOX3遺伝子発現酵母」を、ヒスチジンを含まない選択液体培地に植菌し、30℃で1日間程度前培養した。
その後、新たに準備したヒスチジンを含まない選択液体培地(100~300mL)に前培養液を加え、16℃で4~7日間培養することで、小麦ミニLOX3を発現させ、菌体培養液を得た。
得られた菌体培養液から遠心で集菌した菌体に対して、菌体溶解緩衝液を加え、ビーズ破砕装置によって菌体を破壊した。
次いで、菌体培養液を、遠心で可溶性画分及び不溶性画分に分離した。
以上の結果に基づき、可溶性画分を、「小麦ミニLOX3含有画分」として回収した。
【0112】
<試験6:小麦ミニLOX3の活性評価>
以下の方法により、小麦ミニLOX3(小麦ミニLOX3含有画分)を用いて、酵素活性評価を行った。
【0113】
(1)基質の準備
リポキシゲナーゼの基質として、リノール酸エマルションを準備した。
リノール酸エマルションは、Surrey(1964)の方法に基づいて調整した。
具体的には、Tween20(0.12mL)、50mM酢酸バッファー(pH5.5、2.5mL)、及び1.0mM水酸化ナトリウム(0.32mL)の混合物に、リノール酸(100μl)を溶解させた。リノール酸が溶解した後、混合物を、50mM酢酸バッファーで、50mLまで希釈した。該希釈物を基質として用いた。
基質は、窒素下で密封し、使用するまで4℃の暗所で保存した。
【0114】
(2)酵素反応
「ミニLOX3遺伝子発現酵母」から抽出したミニLOX3(r miniLOX3(小麦ミニLOX3含有画分))、及び、組換えされていない野生型出芽酵母からの抽出物(WT)を準備した。
各ミニLOX3(10μl)、上記で得られた基質(90μl)、及び50mM酢酸バッファー(pH5.5、2.5mL)を混合し、酵素反応を行った。
この酵素反応において、「酵素活性の1U」は、234nmでの吸光度で、1分間当たりに生成されるペルオキシド1Mの酵素量として定義した。
各ミニLOX3の酵素活性を表8に示す。
【0115】
表8に示されるとおり、「r miniLOX3」の活性は、「WT」と比較して約216倍高かった。
【0116】
【0117】
<試験7:可溶性グルテニンタンパク質の測定>
以下の方法により、製パンにおいて、「ミニLOX3遺伝子発現酵母」によって生じる可溶性グルテニンタンパク質の量を測定した。
【0118】
小麦粉(50g)に対し、水(30mL)、及び、酵母(1g、「ミニLOX3遺伝子発現酵母」、又は組換えされていない野生型出芽酵母のいずれか)を加え、ミキサー(「Micro-Mixer」、National MFC社製)で5分間こねて、生地を得た。
生地を丸め、オーブンで30℃、90分間発酵を行った。
発酵後、生地(3g)を取り、200mM酢酸水溶液(15mL)中で、ホモジナイザーを用いて、8000rpmで10分間粉砕した。
粉砕物を50mL遠沈管に回収し、4℃、3500rpm、30分間遠心分離を行った。
遠心分離後、上清を回収し、メスシリンダーで測定した。次いで、上清にエタノールを加え、エタノール70%に調整した(式「上清の液量/3×7」によってエタノール量を算出した。)。
エタノール沈殿後、遠心分離を行い、上清を捨てて沈殿物を回収した。
沈殿物中の可溶性グルテニンタンパク質の量をローリー法で測定した。
各ミニLOX3によって生じた可溶性グルテニンタンパク質の量を表9に示す。
【0119】
表9に示されるとおり、「WT」と比較して、「r miniLOX3」では、可溶性グルテニン量が約8.33倍増加していた。
このことから、「r miniLOX3」は、グルテン構造の変化に対して良好に寄与していることがわかった。
【0120】
【0121】
<試験8:「ミニLOX3遺伝子発現酵母」を用いた製パン評価>
以下の方法により、「ミニLOX3遺伝子発現酵母」を用いて、ストレート法に基づく製パン試験を行った。
【0122】
試験7と同様の方法で、生地を作製し、その発酵を行った。
発酵後、オーブンで、200℃、20分間、生地の焼成を行った。
焼成後、パンのボリュームを、菜種置換法を用いて測定した。
各パンのボリュームを表10に示す。
【0123】
表10に示されるとおり、各パンのボリューム(体積)に大きな差はなかった。このことから、「ミニLOX3遺伝子発現酵母」は、製パンにおいて、従来の酵母と同様に使用できることがわかった。
【0124】