(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024019003
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】ボビンホルダ及び糸巻取機
(51)【国際特許分類】
B65H 54/553 20060101AFI20240201BHJP
B65H 54/54 20060101ALI20240201BHJP
【FI】
B65H54/553 B
B65H54/54 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023109106
(22)【出願日】2023-07-03
(31)【優先権主張番号】P 2022121490
(32)【優先日】2022-07-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】502455511
【氏名又は名称】TMTマシナリー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118784
【弁理士】
【氏名又は名称】桂川 直己
(72)【発明者】
【氏名】吉野 恭平
(72)【発明者】
【氏名】岡田 圭介
(72)【発明者】
【氏名】川合 雅士
【テーマコード(参考)】
3F056
【Fターム(参考)】
3F056GA03
3F056GB05
3F056GC02
3F056GC07
3F056GC11
3F056GC14
3F056GC15
(57)【要約】
【課題】過大な振動が発生することを一層確実に抑制可能なボビンホルダを提供する。
【解決手段】ボビンホルダ41は、ホルダ本体61と、芯部材62と、中途支持部80と、を備える。ホルダ本体61は、円筒部61cを含み、軸方向に並ぶ複数の糸巻取り用のボビン91を保持する。芯部材62は、ホルダ本体61の円筒部61cの内部に配置されており、軸方向の第1端部と第2端部がホルダ本体61に支持されている。中途支持部80は、円筒部61cの径方向内側かつ芯部材62の径方向外側であって、第1端部と第2端部の間に配置されており、芯部材62をホルダ本体61に支持させる。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒部を含み、軸方向に並ぶ複数の糸巻取り用のボビンを保持するホルダ本体と、
前記ホルダ本体の前記円筒部の内部に配置されており、軸方向の第1端部と第2端部が前記ホルダ本体に支持されている芯部材と、
前記円筒部の径方向内側かつ前記芯部材の径方向外側であって、前記第1端部と前記第2端部の間に配置されており、前記芯部材を前記ホルダ本体に支持させる中途支持部と、
を備えることを特徴とするボビンホルダ。
【請求項2】
請求項1に記載のボビンホルダであって、
前記中途支持部は、前記軸方向に複数配置されることを特徴とするボビンホルダ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のボビンホルダであって、
前記中途支持部は、前記芯部材の軸方向の中央、又は、当該中央からの偏位が前記芯部材の長さの30%以内の位置に配置されることを特徴とするボビンホルダ。
【請求項4】
請求項1から3までの何れか一項に記載のボビンホルダであって、
前記中途支持部は、
リング状であり、円周方向に沿う凹部が形成されたベース部材と、
前記ベース部材の凹部に取り付けられるOリングと、
を備えることを特徴とするボビンホルダ。
【請求項5】
請求項4に記載のボビンホルダであって、
前記中途支持部の前記Oリングは、軸方向に並べて複数配置されることを特徴とするボビンホルダ。
【請求項6】
請求項4に記載のボビンホルダであって、
前記中途支持部は、前記Oリングとしての、
前記芯部材と前記ベース部材に接触するように配置される内側Oリングと、
前記ホルダ本体の前記円筒部と前記ベース部材に接触するように配置される外側Oリングと、
を備えることを特徴とするボビンホルダ。
【請求項7】
請求項1から6までの何れか一項に記載のボビンホルダであって、
前記ホルダ本体に前記ボビンを保持する保持構造を備え、
前記保持構造は、
前記ホルダ本体に設けられ、当該ホルダ本体の径方向外側に突出可能な突出片と、
前記芯部材に設けられ、軸方向に沿ってスライドすることにより前記突出片を前記径方向外側に押圧するスライド片と、
を備え、
前記中途支持部は、軸方向において、前記スライド片の間に配置されることを特徴とするボビンホルダ。
【請求項8】
請求項1から7までの何れか一項に記載のボビンホルダと、
前記ボビンホルダを回転駆動することにより、前記ボビンホルダが保持する複数のボビンにそれぞれ弾性糸を巻き取る駆動部と、
を備えることを特徴とする糸巻取機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として、軸方向に並ぶ複数の糸巻取り用のボビンを保持するボビンホルダに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、ボビンホルダに保持されたボビンに糸を巻き取ってパッケージを製造する糸巻取機を開示する。特許文献1のボビンホルダは、回転軸と、回転筒と、スリーブと、を備える。回転軸の一端には電動モータの駆動軸が連結されており、回転軸は電動モータにより回転駆動される。回転筒は回転軸の径方向外側に配置されている。回転筒の一端は回転軸に設けられたフランジ部に取り付けられている。スリーブは、回転筒の他端に配置されている。詳細には、ボビンホルダの支持部材と回転筒との間にスリーブが嵌め込まれている。スリーブは、回転筒の振動を受け止めて吸収する。これにより、ボビンホルダの振動を低減できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年では、ボビンホルダに保持されるボビン数の増加、又は、糸巻取りの高速化に伴い、ボビンホルダの振動の影響が大きくなっている。この点、特許文献1のボビンホルダは、フランジ部とスリーブの2箇所だけで回転軸(芯部材)と回転筒が連結される構成である。そのため、ボビン数の増加に伴って長尺状の回転軸を用いる場合、回転軸は、支持されていない箇所の長さが長くなる。その結果、支持されていない箇所で回転軸が変形して過大な振動が発生したり、回転軸のうち連結されていない箇所を腹とした振動モードが発生したりする。その結果、ボビンホルダに過大な振動が発生する可能性がある。
【0005】
本発明は以上の事情に鑑みてされたものであり、その主要な目的は、過大な振動が発生することを一層確実に抑制可能なボビンホルダを提供することにある。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0006】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0007】
本発明の第1の観点によれば、以下の構成のボビンホルダが提供される。即ち、ボビンホルダは、ホルダ本体と、芯部材と、中途支持部と、を備える。前記ホルダ本体は、円筒部を含み、軸方向に並ぶ複数の糸巻取り用のボビンを保持する。前記芯部材は、前記ホルダ本体の前記円筒部の内部に配置されており、軸方向の第1端部と第2端部が前記ホルダ本体に支持されている。前記中途支持部は、前記円筒部の径方向内側かつ前記芯部材の径方向外側であって、前記第1端部と前記第2端部の間に配置されており、前記芯部材を前記ホルダ本体に支持させる。
【0008】
これにより、第1端部と第2端部に加え、更に中途部で芯部材がホルダ本体に支持されるため、芯部材の変形に起因する振動や芯部材の中途部を腹とする振動を低減できる。その結果、ボビンホルダの過大な振動を一層確実に抑制できる。
【0009】
前記のボビンホルダにおいては、前記中途支持部は、前記軸方向に複数配置されることが好ましい。
【0010】
これにより、芯部材のうちホルダ本体に支持されない部分の長さを短くできるので、ボビンホルダの過大な振動を一層確実に抑制できる。
【0011】
前記のボビンホルダにおいては、前記中途支持部は、前記芯部材の軸方向の中央、又は、当該中央からの偏位が前記芯部材の長さの30%以内の位置に配置されることが好ましい。
【0012】
これにより、芯部材の変形が発生し易い部分や芯部材の振動の腹となり易い部分をホルダ本体に支持させることができる。そのため、ボビンホルダの過大な振動を一層確実に抑制できる。
【0013】
前記のボビンホルダにおいては、以下の構成とすることが好ましい。即ち、前記中途支持部は、ベース部材と、Oリングと、を備える。前記ベース部材は、リング状であり、円周方向に沿う凹部が形成される。前記Oリングは、前記ベース部材の凹部に取り付けられる。
【0014】
Oリングを設けることにより、中途支持部をホルダ本体側又は芯部材側に密着させることができるので、ガタツキに起因する振動が発生しにくい。また、ホルダ本体と芯部材の間にOリングのみを配置する場合はOリングの変形による振動が発生し得るが、ベース部材を設けることによりOリングの変形を低減できるので、Oリングの変形による振動が発生しにくい。
【0015】
前記のボビンホルダにおいては、前記中途支持部の前記Oリングは、軸方向に並べて複数配置されることが好ましい。
【0016】
これにより、Oリングが軸方向に1つ配置される場合と比較して芯部材の姿勢を安定させることができ、ボビンホルダの過大な振動を一層確実に抑制できる。
【0017】
前記のボビンホルダにおいては、以下の構成とすることが好ましい。即ち、前記中途支持部は、前記Oリングとしての、内側Oリングと、外側Oリングと、を備える。前記内側Oリングは、前記芯部材と前記ベース部材に接触するように配置される。前記外側Oリングは、前記ホルダ本体の前記円筒部と前記ベース部材に接触するように配置される。
【0018】
これにより、芯部材側とホルダ本体側の両方にOリングが配置されるので、ガタツキに起因する振動が発生しにくい。
【0019】
前記のボビンホルダにおいては、以下の構成とすることが好ましい。即ち、ボビンホルダは、前記ホルダ本体に前記ボビンを保持する保持構造を備える。前記保持構造は、突出片と、スライド片と、を備える。前記突出片は、前記ホルダ本体に設けられ、当該ホルダ本体の径方向外側に突出可能である。前記スライド片は、前記芯部材に設けられ、軸方向に沿ってスライドすることにより前記突出片を前記径方向外側に押圧する。前記中途支持部は、軸方向において、前記スライド片の間に配置される。
【0020】
スライド片の間に中途支持部を配置することにより、ボビンの保持構造と中途支持部を両立させることができる。
【0021】
本発明の第2の観点によれば、前記のボビンホルダと、駆動部と、を備える糸巻取機が提供される。前記駆動部は、前記ボビンホルダを回転駆動することにより、前記ボビンホルダが保持するボビンにそれぞれ弾性糸を巻き取る。
【0022】
これにより、ボビンホルダの過大な振動を抑制可能な糸巻取機を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の一実施形態に係る糸巻取機の正面図。
【
図5】ボビンを保持していない状態のボビンホルダの断面図。
【
図6】ボビンを保持している状態のボビンホルダの断面図。
【
図8】中途支持部があるボビンホルダと中途支持部がないボビンホルダの振動値を示すグラフ。
【
図10】1つの中途支持部を備えるボビンホルダと2つの中途支持部を備えるボビンホルダの振動値を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0024】
次に、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る糸巻取機1の正面図である。
図2は、糸巻取機1の側面図である。
図3は、糸巻取機1のブロック図である。以下の説明では、糸の走行方向の上流又は下流を単に上流又は下流と称することがある。
【0025】
図1に示す糸巻取機1の上流には、図略の紡糸機が配置されている。紡糸機は、糸93を製造して糸巻取機1に供給する。糸巻取機1は、ボビンホルダ41にセットされたボビン91に糸93を巻き取ってパッケージ94を製造する。糸93は、例えば、スパンデックス等の弾性糸、又は、ナイロン又はポリエステル等の合繊糸である。ただし、糸93の種類はこれらに限定されない。
【0026】
また、
図2に示すように、糸巻取機1には、ボビンホルダ41の軸方向に並ぶ複数の糸93が供給される。また、ボビン91は、ボビンホルダ41の軸方向に並べて複数設けられている。糸巻取機1は、複数の糸93をそれぞれボビン91に巻き取って、複数のパッケージ94を製造する。
【0027】
以下、糸巻取機1の詳細について説明する。
図1に示すように、糸巻取機1は、フレーム11と、第1ハウジング20と、第2ハウジング30と、ターレット板(ボビンホルダ移動機構)40と、を備える。
【0028】
フレーム11は、糸巻取機1が備える各部を保持する部材である。フレーム11には、第1ハウジング20及び第2ハウジング30が取り付けられている。
【0029】
第1ハウジング20には、トラバース装置21が取り付けられている。トラバース装置21は、後述するトラバースガイド23が糸93と係合した状態で巻幅方向(ボビンホルダ41の軸方向)に往復動することにより、下流側に送られる糸93をトラバースさせる。この糸93のトラバース動作によりボビン91に糸層が形成される。
図3に示すように、トラバース装置21は、トラバースカム22と、トラバースガイド23と、を備える。
【0030】
トラバースカム22は、ボビンホルダ41と平行に配置されたローラ状の部材である。トラバースカム22の外周面には、螺旋状のカム溝が形成されている。トラバースカム22は、トラバースモータ51により回転駆動される。
【0031】
トラバースモータ51は、制御装置50によって制御される。トラバースガイド23は、糸93と係合する部分である。トラバースガイド23の先端は例えば略U字状のガイド部を有しており、糸93を巻幅方向で挟み込むようにして、糸93と係合する。トラバースガイド23の基端はトラバースカム22のカム溝に位置している。この構成により、トラバースカム22が回転駆動され、トラバースガイド23を巻幅方向に往復動させることができる。
【0032】
制御装置50は公知のコンピュータとして構成されており、CPU、RAM、SSD等を備える。CPUは、プロセッサの一種である。SSDには、糸巻取機1を制御するためのプログラム及びデータが予め記憶されている。制御装置50は、SSDに記憶されたプログラムをRAMに読み出してCPUが実行することにより、糸巻取機1に対する様々な制御を行うことができる。なお、SSDに代えて、HDD又はフラッシュメモリ等の他の記憶装置を用いることもできる。
【0033】
第2ハウジング30には、接触ローラ31が回転可能に取り付けられている。接触ローラ31は、接触ローラモータ52により回転駆動される。接触ローラ31は、図略のアームを介して第2ハウジング30に取り付けられている。このアームが搖動することにより、接触ローラ31は、第2ハウジング30に対して鉛直方向に相対移動可能である。本実施形態の接触ローラ31は自重で下方に移動するが、シリンダ等のアクチュエータにより接触ローラ31が上下方向に駆動されてもよい。
【0034】
接触ローラ31はトラバースガイド23よりも糸走行方向の下流側に配置されている。接触ローラ31は、糸93の巻取り時にパッケージ94の糸層に所定の圧力で接触しながら回転することにより、トラバースガイド23からの糸93をパッケージ94の糸層に送るとともにパッケージ94の糸層形状を整える。なお、接触ローラモータ52を省略して、接触ローラ31をパッケージ94に対して従動回転させてもよい。
【0035】
第2ハウジング30には、操作パネル32が設けられている。操作パネル32は、オペレータによって操作される装置である。オペレータは、操作パネル32を操作することにより、糸巻取機1に対して指示を行う。オペレータが行う指示としては、例えば、巻取りの開始、巻取りの停止、接触ローラ31を上下方向に駆動させる機能のON/OFF、巻取条件の変更等である。
【0036】
ターレット板40は、円板状の部材である。ターレット板40は、フレーム11に回転可能に取り付けられている。ターレット板40の回転軸は、ターレット板40の円の中心位置である。ターレット板40は、
図3に示すターレットモータ53により回転駆動される。ターレットモータ53は、制御装置50により制御される。
【0037】
ターレット板40のうち、円の中心位置を挟んで対向する2箇所には、それぞれボビンホルダ41が設けられている。それぞれのボビンホルダ41には、軸方向に並べて複数のボビン91を装着可能である。ターレット板40を回転させることにより、2つのボビンホルダ41の位置を変更することができる。
図1に示すように、ボビンホルダ41の位置として、巻取位置と待機位置とが存在する。糸巻取機1は、巻取位置にあるボビンホルダ41に装着されたボビン91に糸93を巻き取ってパッケージ94を製造する。なお、2つのボビンホルダ41の位置を変更可能であれば、ターレット板40に代えて別の装置を用いてもよい。
【0038】
2つのボビンホルダ41は、ボビンホルダ41の軸位置を回転中心として、ターレット板40に対して回転可能に取り付けられている。
図3に示すように、2つのボビンホルダ41には、それぞれボビンホルダモータ(駆動部)54が取り付けられている。ボビンホルダ41は、ボビンホルダモータ54により回転駆動される。ボビンホルダモータ54は、制御装置50により制御される。
【0039】
糸巻取機1は、巻取位置にあるボビンホルダ41の軸方向の一端部(ターレット板40とは反対側にある端部)を支持する支持アーム43を備える。これにより、ボビンホルダ41はターレット板40と支持アーム43により両持ち支持されるので、ボビンホルダ41の姿勢を安定させることができる。なお、支持アーム43は必須の構成要素ではなく省略することもできる。
【0040】
糸巻取機1は、巻取位置にあるボビンホルダ41に装着された複数のボビン91に所定量の糸93をそれぞれ巻き取る。そして、パッケージ94が満巻となった場合、ターレット板40が回転することにより、ボビンホルダ41の位置が切り替わる。その後、満巻となって待機位置にあるボビンホルダ41のパッケージ94が回収され、巻取位置にあるボビンホルダ41のボビン91に糸93が巻き取られる。パッケージ94が回収されたボビンホルダ41には、新たにボビン91が装着される。
【0041】
次に、
図4から
図7を参照して、ボビンホルダ41の詳細な構造、特にボビンホルダ41で発生する過大な振動を抑制するための構造について説明する。以下の説明では、ボビンホルダ41の軸方向を単に軸方向と称する。また、軸方向のうち、ターレット板40側を基端側と称し、その反対側(支持アーム43側)を先端側と称する。
【0042】
図4に示すように、ボビンホルダ41は、ホルダ本体61と、芯部材62と、付勢部材63と、連結部材64と、を備える。ボビンホルダ41を構成する材料は、例えばアルミニウム又は鉄であるが、樹脂であってもよい。
【0043】
ホルダ本体61は、第1取付部61aと、第2取付部61bと、円筒部61cと、を備える。第1取付部61aはホルダ本体61の基端側の端部である。後述するように、第1取付部61aには、芯部材62が取り付けられる。第2取付部61bはホルダ本体61の先端側の端部である。第2取付部61bには、後述するように芯部材62が取り付けられる。円筒部61cは、軸方向において第1取付部61aと第2取付部61bの間に位置する円筒状の部分である。円筒部61cの径方向内側には、芯部材62が配置される。円筒部61cの径方向外側には、後述する保持構造70により、ボビン91が保持される。
【0044】
芯部材62は、断面が円形の中実状の部材である。芯部材62の基端側の端部である第1端部62aは、連結部材64により、ホルダ本体61の第1取付部61aに固定される。これにより、第1取付部61aと芯部材62は一体的に回転する。なお、本実施形態では、芯部材62はホルダ本体61に対して軸方向にスライド可能に取り付けられる。また、芯部材62の先端側の端部である第2端部62bは、付勢部材63を介して、第2取付部61bに固定される。付勢部材63の付勢力により、芯部材62はホルダ本体61に対して基端側に押圧される。なお、第1端部62a及び第2端部62bは、芯部材62の端だけでなく端の近傍を含む。
【0045】
また、ホルダ本体61の第1取付部61aには、上述したボビンホルダモータ54が発生させた回転駆動力が伝達される。これにより、芯部材62が回転駆動される。なお、ボビンホルダモータ54が発生させた回転駆動力が芯部材62に直接的に伝達されてもよい。
【0046】
上述したホルダ本体61及び芯部材62の構成や形状は一例であり、適宜変更可能である。例えばホルダ本体61と芯部材62がスライド不能に取り付けられてもよい。また、芯部材62は中空状の部材(即ち、円形のパイプ)であってもよい。
【0047】
次に、主に
図5及び
図6を参照して、ホルダ本体61の円筒部61cにボビン91を保持するための保持構造70について説明する。
図5及び
図6に示すように、保持構造70は、貫通孔71と、突出片72と、接触部材73と、スライド片74と、バネ75と、を備える。
【0048】
貫通孔71は、円筒部61cに形成された貫通状の孔である。貫通孔71の軸方向は、円筒部61cの径方向と同じ方向である。貫通孔71は、周方向に並べて複数形成されている。また、1つのボビン91に対して、軸方向に2つの貫通孔71が形成される。なお、本実施形態の貫通孔71の個数及びレイアウトは一例であり、貫通孔71は、本実施形態とは異なる個数又はレイアウトであってもよい。
【0049】
突出片72は、貫通孔71に挿入されており、貫通孔71に対して移動可能に取り付けられている。突出片72の移動方向は、貫通孔71の軸方向と同じ方向であり、かつ、円筒部61cの径方向と同じ方向である。
【0050】
突出片72の径方向外側の面には接触部材73が取り付けられている。接触部材73は、ゴム、ウレタン、又は、軟質性の樹脂等であり、弾性変形可能な部材である。突出片72が径方向外側にスライドすることにより、接触部材73がボビン91の内壁面を径方向外側に押圧する。これにより、ボビン91を円筒部61cに保持できる。なお、接触部材73は必須の構成要素ではなく、突出片72がボビン91の内壁面を直接的に押圧してもよい。
【0051】
スライド片74は、芯部材62に取り付けられている。芯部材62が軸方向にスライドすることにより、芯部材62と一体的にスライド片74も軸方向にスライドする。スライド片74は、突出片72に対応する位置に形成されている。詳細には、突出片72の径方向内側の面と、スライド片74の径方向外側の面と、は接触する。また、バネ75は、隣接するスライド片74の間に配置されている。
【0052】
ここで、突出片72の径方向内側には、軸方向に対して傾斜する傾斜面が形成されている。そして、スライド片74の径方向外側には、突出片72の傾斜面に対応する傾斜面が形成されている。上述したように、突出片72の傾斜面とスライド片74の傾斜面は接触する。この構成により、芯部材62とともにスライド片74が軸方向に(詳細には基端側に)スライドすることにより、突出片72が径方向外側に押圧される。これにより、
図6に示すように、突出片72が径方向外側に移動して、接触部材73がボビン91の内壁面を径方向外側に押圧する。これにより、ボビン91をボビンホルダ41に保持できる。
【0053】
上述したように、芯部材62は付勢部材63により軸方向の基端側に押圧されている。従って、アクチュエータの動力を用いることなく、ボビン91をボビンホルダ41に保持できる。なお、図略のアクチュエータ(例えばシリンダ又はモータ)により芯部材62を先端側にスライドさせることにより、ボビン91の保持を解除できる。
【0054】
本実施形態の保持構造70は一例であり、本実施形態とは異なる保持構造により、ボビン91をボビンホルダ41に保持してもよい。
【0055】
次に、ボビンホルダ41で発生する過大な振動及びこの振動を抑制するための構成について説明する。
【0056】
本実施形態の糸巻取機1は、高い生産効率を発揮するために、多数のボビン91に対して同時に糸93を巻き取る。そのため、本実施形態のボビンホルダ41の軸方向の長さは非常に長い。一方で、仮に芯部材62が第1端部62aと第2端部62bのみでホルダ本体61に支持される場合、ホルダ本体61に支持されない部分の長さが長くなるので、様々な振動モードが発生する可能性がある。例えば、芯部材62の長手方向の中途部(例えば中央部)を振動の腹とした振動モードが発生し得る。この振動モードによる振動は従来は想定されていない。そのため、この振動への対策がなされていない場合、ボビンホルダ41の回転速度に依っては、ボビンホルダ41に過大な振動が発生し得る。また、ボビンホルダ41の軸方向の長さが非常に長い場合は、芯部材62の長手方向の中途部が様々な要因で変形し易くなる。例えば、保持構造70の突出片72がボビン91を押圧する力の反力により、芯部材62が変形する可能性がある。芯部材62が変形した場合、固有振動数が変化するため、ボビンホルダ41の回転速度に依っては、ボビンホルダ41に過大な振動が発生し得る。
【0057】
これらの過大な振動を抑制するために、本実施形態のボビンホルダ41は、
図5から
図7に示す中途支持部80を1つ備える。中途支持部80は、芯部材62の中途部をホルダ本体61に支持させるための部材である。
図4に示すように、中途支持部80は、芯部材62の中央領域に配置されている。中央領域とは、芯部材62の軸方向の中央、又は、当該中央からの偏位が芯部材の長さの30%以内の領域である。上述した過大な振動は芯部材62の中央部を起点として発生し易いので、中途支持部80を中央領域に配置することにより、上述した過大な振動を一層確実に抑制できる。
【0058】
上述したように、円筒部61cと芯部材62の間には保持構造70(特にスライド片74)が配置されている。従って、中途支持部80はスライド片74を避けた位置に配置されている。具体的には、
図5又は
図6に示すように、中途支持部80が配置される領域においては、スライド片74を軸方向に2つに分割し、これらの2つのスライド片74の間に中途支持部80が配置されている。これにより、保持構造70と中途支持部80を両立させることができる。また、中途支持部80は、バネ75を介して又は直接的にスライド片74に接触している。そのため、中途支持部80は、スライド片74から力を受けて、スライド片74と一体的に軸方向にスライド可能に構成されている。
【0059】
中途支持部80は、ベース部材81を備える。ベース部材81はリング状の部材である。ベース部材81は、円筒部61cの径方向内側かつ芯部材62の径方向外側に配置される。即ち、ベース部材81の外径は円筒部61cの内径と実質的に同じであり、ベース部材81の内径は芯部材62の外径と実質的に同じである。
【0060】
ベース部材81には、第1内側凹部81a、第2内側凹部81b、第1外側凹部81c、及び第2外側凹部81dが形成されている。第1内側凹部81a及び第2内側凹部81bは、ベース部材81の径方向の内側の面に形成された凹部であり、軸方向に並んで形成されている。第1外側凹部81c及び第2外側凹部81dは、ベース部材81の径方向の外側の面に形成された凹部であり、軸方向に並んで形成されている。
【0061】
第1内側凹部81aには第1内側Oリング82aが配置され、第2内側凹部81bには第2内側Oリング82bが配置される。第1内側Oリング82a及び第2内側Oリング82bは、ベース部材81に接触するとともに芯部材62に接触する。これにより、中途支持部80と芯部材62の密着性を向上させることができる。
【0062】
第1外側凹部81cには第1外側Oリング82cが配置され、第2外側凹部81dには第2外側Oリング82dが配置される。第1外側Oリング82c及び第2外側Oリング82dは、ベース部材81に接触するとともに円筒部61cに接触する。これにより、中途支持部80と円筒部61cの密着性を向上させることができる。
【0063】
本実施形態の中途支持部80では、径方向の内側の面と外側の面の両方にOリングが配置されるため、径方向における芯部材62又は円筒部61cのガタツキを低減できる。更に、本実施形態の中途支持部80では、Oリングが軸方向に並んで配置される。詳細には、1つの中途支持部80に第1内側Oリング82aと第2内側Oリング82b(即ち、複数のOリング)が軸方向に並んで配置され、1つの中途支持部80に第1外側Oリング82cと第2外側Oリング82d(即ち、複数のOリング)が軸方向に並んで配置される。そのため、Oリングを中心とした芯部材62又は円筒部61cの振動を抑制できる。なお、本実施形態では、1つの中途支持部80の径方向の内側の面と外側の面の両方にOリングがそれぞれ複数配置されている。本実施形態のOリングのレイアウトは一例であり、以下のように変更可能である。例えば、1つの中途支持部80の径方向の内側の面に1つ又は複数のOリングが配置されていてもよい。1つの中途支持部80の径方向の外側の面に1つ又は複数のOリングが配置されていてもよい。1つの中途支持部80の径方向の内側の面と外側の面にOリングがそれぞれ1つずつ配置されていてもよい。1つの中途支持部80の径方向の内側の面と外側の面の何れか一方のみに1又は複数のOリングが配置されていてもよい。
【0064】
次に、
図8を参照して、中途支持部80の効果について説明する。
【0065】
図8には、中途支持部80を備えるボビンホルダ41と、中途支持部80を備えないボビンホルダ41と、についてボビンホルダ41の回転速度を上昇させた際の振動値の変化を示すグラフが示されている。振動値とは、単位時間あたりのボビンホルダ41の振動に伴う合計の変位である。例えば振動数が大きいほど、又は、振幅が大きいほど振動値は大きくなる。
【0066】
図8に示すように、中途支持部80を備えないボビンホルダ41では、ボビンホルダ41の回転速度が特定の値を超えた時点で振動値が大幅に上昇する。これは、上述した過大な振動が発生しているためである。これに対し、中途支持部80を備えるボビンホルダ41では、回転速度が特定の値を超えた後においても、振動値が低い値を維持している。以上により、中途支持部80を備えることにより、過大な振動が抑制できることが示された。
【0067】
次に、
図9及び
図10を参照して、上記実施形態の変形例を説明する。なお、本変形例の説明においては、前述の実施形態と同一又は類似の部材には図面に同一の符号を付し、説明を省略する場合がある。
【0068】
上記実施形態のボビンホルダ41は中途支持部80を1つ備えるのに対し、本変形例のボビンホルダ41は中途支持部80を2つ備える。中途支持部80は、芯部材62の軸方向の中央の先端側と基端側にそれぞれ配置されている。
【0069】
中途支持部80を2つ配置することにより、芯部材62の支持箇所同士の距離が短くなる。そのため、様々な振動モードの発生を抑制できる可能性がある。また、円筒部61cと芯部材62の間に中途支持部80を挿入して取り付ける場合、円筒部61cの軸方向の端部から取付位置が離れるほど、中途支持部80を取り付ける作業が困難になり易い。この点、本変形例では、上記実施形態と比較して、円筒部61cの軸方向の端部から取付位置までの距離が短い。そのため、中途支持部80を取り付ける作業が容易になる可能性がある。
【0070】
図10には、1つの中途支持部80を備える上記実施形態のボビンホルダ41と、2つの中途支持部80を備える本変形例のボビンホルダ41と、についてボビンホルダ41の回転速度を上昇させた際の振動値の変化を示すグラフが示されている。
図10に示すように、2つの中途支持部80を備えることにより、1つの中途支持部80を備える場合と比較して、振動値を小さくすることができる。また、中途支持部80が1つの場合と中途支持部80が2つの場合とでは、振動値が1つ目のピークを取る時のボビンホルダ41の回転速度が異なる。そのため、頻繁に用いる回転速度において振動値が少なくなるように中途支持部80の数を選択することもできる。
【0071】
以上に説明したように、本実施形態のボビンホルダ41は、ホルダ本体61と、芯部材62と、中途支持部80と、を備える。ホルダ本体61は、円筒部61cを含み、軸方向に並ぶ複数の糸巻取り用のボビン91を保持する。芯部材62は、ホルダ本体61の円筒部61cの内部に配置されており、軸方向の第1端部62aと第2端部62bがホルダ本体61に支持されている。中途支持部80は、円筒部61cの径方向内側かつ芯部材62の径方向外側であって、第1端部62aと第2端部62bの間に配置されており、芯部材62をホルダ本体61に支持させる。
【0072】
これにより、第1端部62aと第2端部62bに加え、更に中途部で芯部材62がホルダ本体61に支持されるため、芯部材62の変形に起因する振動や芯部材62の中途部を腹とする振動を低減できる。その結果、ボビンホルダ41の過大な振動を一層確実に抑制できる。
【0073】
本実施形態のボビンホルダ41において、中途支持部80は、軸方向に複数配置される。
【0074】
これにより、芯部材62のうちホルダ本体61に支持されない部分の長さを短くできるので、ボビンホルダ41の過大な振動を一層確実に抑制できる。
【0075】
本実施形態のボビンホルダ41において、中途支持部80は、芯部材62の軸方向の中央、又は、中央からの偏位が芯部材62の長さの30%以内の位置に配置される。
【0076】
これにより、芯部材62の変形が発生し易い部分や芯部材62の振動の腹となり易い部分をホルダ本体61に支持させることができる。そのため、ボビンホルダ41の過大な振動を一層確実に抑制できる。
【0077】
本実施形態のボビンホルダ41において、中途支持部80は、ベース部材81と、Oリング(第1内側Oリング82a、第2内側Oリング82b、第1外側Oリング82c、第2外側Oリング82d)と、を備える。ベース部材81は、リング状であり、円周方向に沿う凹部(第1内側凹部81a、第2内側凹部81b、第1外側凹部81c、第2外側凹部81d)が形成される。Oリングは、ベース部材81の凹部に取り付けられる。
【0078】
Oリングを設けることにより、中途支持部80をホルダ本体61側又は芯部材62側に密着させることができるので、ガタツキに起因する振動が発生しにくい。また、ホルダ本体61と芯部材62の間にOリングのみを配置する場合はOリングの変形による振動が発生し得るが、ベース部材81を設けることによりOリングの変形を低減できるので、Oリングの変形による振動が発生しにくい。
【0079】
本実施形態のボビンホルダ41において、中途支持部80のOリングは、軸方向に並べて複数配置される。
【0080】
これにより、Oリングが軸方向に1つ配置される場合と比較して芯部材62の姿勢を安定させることができ、ボビンホルダ41の過大な振動を一層確実に抑制できる。
【0081】
本実施形態のボビンホルダ41において、中途支持部80は、Oリングとしての、内側Oリング(第1内側Oリング82a、第2内側Oリング82b)と、外側Oリング(第1外側Oリング82c、第2外側Oリング82d)と、を備える。内側Oリングは、芯部材62とベース部材81に接触するように配置される。外側Oリングは、ホルダ本体61の円筒部61cとベース部材81に接触するように配置される。
【0082】
これにより、芯部材62側とホルダ本体61側の両方にOリングが配置されるので、ガタツキに起因する振動が発生しにくい。
【0083】
本実施形態のボビンホルダ41は、ホルダ本体61にボビン91を保持する保持構造70を備える。保持構造70は、突出片72と、スライド片74と、を備える。突出片72は、ホルダ本体61に設けられ、ホルダ本体61の径方向外側に突出可能である。スライド片74は、芯部材62に設けられ、軸方向に沿ってスライドすることにより突出片72を径方向外側に押圧する。中途支持部80は、軸方向において、スライド片74の間に配置される。
【0084】
スライド片74の間に中途支持部80を配置することにより、ボビン91の保持構造70と中途支持部80を両立させることができる。
【0085】
本実施形態の糸巻取機1は、ボビンホルダ41と、ボビンホルダモータ54と、を備える。ボビンホルダモータ54は、ボビンホルダ41を回転駆動することにより、ボビンホルダ41が保持するボビン91にそれぞれ弾性糸を巻き取る。
【0086】
これにより、ボビンホルダ41の過大な振動を抑制可能な糸巻取機1を実現できる。
【0087】
以上に本発明の好適な実施の形態及び変形例を説明したが、上記の構成は例えば以下のように変更することができる。
【0088】
ボビンホルダ41が備える中途支持部80の数は1又は2に限られず、3以上であってもよい。また、上述した中途支持部80の位置は一例であり、適宜変更可能である。例えば、1つの中途支持部80を備える場合において、中央領域を外れた位置に中途支持部80を配置してもよい。また、2つ以上の中途支持部80を備える場合において、軸方向で非対称に中途支持部80を配置してもよい。
【0089】
上記実施形態のトラバース装置21はカムドラム式であるが、トラバースガイド23を巻幅方向に往復動させることが可能であれば異なる構成であってもよい。例えば、トラバース装置21に代えて、ベルト式のトラバース装置を用いることもできる。
【0090】
上記実施形態では、紡糸機が製造した糸を巻き取る糸巻取機に本発明を適用する例を説明したが、この糸巻取機に代えて、仮撚加工機又は巻返し機にも本発明を適用できる。
【符号の説明】
【0091】
1 糸巻取機
41 ボビンホルダ
61 ホルダ本体
61c 円筒部
62 芯部材
70 保持構造
80 中途支持部