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特開2024-19021繊維強化樹脂シート、繊維強化樹脂シートの製造方法、及び積層体
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  • 特開-繊維強化樹脂シート、繊維強化樹脂シートの製造方法、及び積層体 図1
  • 特開-繊維強化樹脂シート、繊維強化樹脂シートの製造方法、及び積層体 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024019021
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】繊維強化樹脂シート、繊維強化樹脂シートの製造方法、及び積層体
(51)【国際特許分類】
   B29B 15/14 20060101AFI20240201BHJP
   B29C 70/20 20060101ALI20240201BHJP
   B29C 70/50 20060101ALI20240201BHJP
   B32B 5/08 20060101ALI20240201BHJP
【FI】
B29B15/14
B29C70/20
B29C70/50
B32B5/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023113145
(22)【出願日】2023-07-10
(31)【優先権主張番号】P 2022119521
(32)【優先日】2022-07-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000010065
【氏名又は名称】フクビ化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100133916
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 興
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 敬洋
【テーマコード(参考)】
4F072
4F100
4F205
【Fターム(参考)】
4F072AA04
4F072AA08
4F072AB10
4F072AB22
4F072AD44
4F072AH12
4F072AH13
4F072AH17
4F072AH18
4F072AH19
4F072AH43
4F072AH49
4F072AL02
4F072AL04
4F072AL11
4F072AL17
4F100AD11B
4F100AK01A
4F100BA02
4F100DG01B
4F100DH02
4F100GB07
4F100GB31
4F100GB32
4F100GB41
4F100GB87
4F100JB16A
4F100JN02
4F205AA29
4F205AC03
4F205AD16
4F205AG01
4F205AG03
4F205HA06
4F205HA14
4F205HA34
4F205HA37
4F205HA45
4F205HB02
4F205HC02
4F205HC17
4F205HL17
4F205HM13
4F205HT26
(57)【要約】
【課題】成形品の品質向上に資する薄層の繊維強化樹脂シート、前記繊維強化樹脂シートの製造方法、及び、前記繊維強化樹脂シートを用いた積層体を提供することを目的とする。
【解決手段】熱可塑性の樹脂フィルムと、同一方向に配向された連続繊維である複数の炭素繊維と、を含み、波長550nmにおける光の正透過率が1%以下であり、かつ、厚みが90μm以下である、繊維強化樹脂シートの提供。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性の樹脂フィルムと、同一方向に配向された連続繊維である複数の炭素繊維と、を含み、
波長550nmにおける光の正透過率が1%以下であり、かつ、
厚みが90μm以下である、繊維強化樹脂シート。
【請求項2】
前記繊維強化樹脂シートの中で前記炭素繊維が存在しない部分の面積割合である開口率が、10%以下である、請求項1に記載の繊維強化樹脂シート。
【請求項3】
前記繊維強化樹脂シートから任意に抽出された50mm角の領域における一方の端部から他方の端部まで連続する目隙が15本以下である、請求項1に記載の繊維強化樹脂シート。
【請求項4】
前記目隙の最大幅が1mm以下である、請求項3に記載の繊維強化樹脂シート。
【請求項5】
炭素繊維の繊維束を開繊率25%以上40%以下で開繊して帯状に広げ、
前記開繊後の炭素繊維を同一方向に配向した状態で、樹脂フィルムの両面に積層する、請求項1~4のいずれかに記載の繊維強化樹脂シートの製造方法。
【請求項6】
炭素繊維の繊維束を開繊率20%以上30%以下で開繊して帯状に広げ、
前記開繊後の炭素繊維を同一方向に配向した状態で、樹脂フィルムの片面に積層する、請求項1~4のいずれかに記載の繊維強化樹脂シートの製造方法。
【請求項7】
第1の炭素繊維の繊維束と第2の炭素繊維の繊維束とをそれぞれ開繊率20%以上55%以下で開繊して帯状に広げ、
第1の樹脂フィルムと第2の樹脂フィルムとの間に、前記開繊後の第1の炭素繊維と前記開繊後の第2の炭素繊維を同一方向に配向した状態で積層する、請求項1~4のいずれかに記載の繊維強化樹脂シートの製造方法。
【請求項8】
請求項1~4のいずれかに記載の繊維強化樹脂シートを複数含み、
前記複数の繊維強化樹脂シートは、前記炭素繊維の繊維方向が同一方向となる状態または平面視で互いに角度差を有する状態で、厚み方向に積層される、積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化樹脂シート、繊維強化樹脂シートの製造方法、及び積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維と樹脂とを含む繊維強化樹脂シートは、軽量で、強度及び耐久性などに優れることから、例えば自動車、航空機、土木仮設資材、電気・電子機器、玩具、家電製品、スポーツ用品などの幅広い分野で利用されている。
【0003】
例えば、繊維強化樹脂シートの一例としては、特許文献1のものが知られている。特許文献1には、開繊されたシート状の炭素繊維の一面および他面にそれぞれ樹脂フィルムを配して、フィルムスタッキング法によって形成することができる繊維強化樹脂シート(熱可塑性炭素繊維プリプレグ)が開示されている。より具体的には、特許文献1に記載の繊維強化樹脂シートは、樹脂フィルムの厚みが8μm以上55μm以下、かつ、JIS7128に準拠した幅方向の引裂き強度が28mN以上、かつ、幅方向の加熱収縮率が7%未満であることを特徴とする繊維強化樹脂シートである。従来のシートは、樹脂フィルムの厚みが厚いことによりシートの炭素繊維の含有率(Vf値)が低くなるため、得られた繊維強化樹脂シートの強度を高めることが困難であるという課題があったが、特許文献1に記載の繊維強化樹脂シートによれば、薄層化が可能であり、かつ繊維強化樹脂シートの炭素繊維の含有率を高めて強度を向上させることが可能であると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-122137号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、薄層の繊維強化樹脂シートにおいては、炭素繊維同士の連続した隙間(目隙)が多く存在しやすく、目隙の多いシートを用いて製品を成形した場合には表面品位が劣るなどの問題が生じやすく、成形品の品質が安定しないおそれがあった。
【0006】
そこで、本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、成形品の品質向上に資する薄層の繊維強化樹脂シート、前記繊維強化樹脂シートの製造方法、及び前記繊維強化樹脂シートを用いた積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、種々検討した結果、上記目的は、以下の本発明により達成されることを見出した。すなわち、本発明の一局面に係る繊維強化樹脂シートは、熱可塑性の樹脂フィルムと、同一方向に配向された連続繊維である複数の炭素繊維と、を含み、波長550nmにおける光の正透過率が1%以下であり、かつ、厚みが90μm以下である。
【0008】
炭素繊維は、波長550nmを含む可視光領域に大きな吸収を有する。そのため、繊維強化樹脂シートにおける炭素繊維同士の隙間、特に炭素繊維同士の連続した隙間である目隙が多いほど、前記繊維強化樹脂シートの波長550nmにおける光の正透過率が大きくなると考えられる。したがって、前記繊維強化樹脂シートの波長550nmにおける光の正透過率が1%以下であることは、繊維強化樹脂シートの目隙が十分に少ないことを意味する。このシートを用いて製品を成形することにより、成形品の表面品位などの品質を向上させることができる。
【0009】
また、前記繊維強化樹脂シートの厚みが90μm以下であることにより、繊維強化樹脂シートの厚みが厚すぎることによって成形加工時に樹脂と繊維の流動性が悪くなりすぎるといったことがない。そのため、前記シートを成形加工して得られる製品の賦形性を向上させることができる。
【0010】
以上のことから、成形品の品質向上に資する薄層の繊維強化樹脂シートを提供することができる。
【0011】
また、前記繊維強化樹脂シートにおいて、前記繊維強化樹脂シートの中で前記炭素繊維が存在しない部分の面積割合である開口率が、10%以下であることが好ましい。
【0012】
さらに、前記繊維強化樹脂シートにおいて、前記繊維強化樹脂シートから任意に抽出された50mm角の領域における一方の端部から他方の端部まで連続する目隙が15本以下であることが好ましい。
【0013】
また、前記繊維強化樹脂シートにおいて、前記目隙の最大幅が1mm以下であることが好ましい。
【0014】
上記各態様により、成形品の品質向上に資する薄層の繊維強化樹脂シートをより確実に提供することができる。
【0015】
本発明の他の局面に係る繊維強化樹脂シートの製造方法は、前記繊維強化樹脂シートの製造方法であって、炭素繊維の繊維束を開繊率25%以上40%以下で開繊して帯状に広げ、前記開繊後の炭素繊維を同一方向に配向した状態で、樹脂フィルムの両面に積層することを含む。
【0016】
本発明のさらに他の局面に係る繊維強化樹脂シートの製造方法は、前記繊維強化樹脂シートの製造方法であって、炭素繊維の繊維束を開繊率20%以上30%以下で開繊して帯状に広げ、前記開繊後の炭素繊維を同一方向に配向した状態で、樹脂フィルムの片面に積層することを含む。
【0017】
本発明のさらに他の曲面に係る繊維強化樹脂シートの製造方法は、第1の炭素繊維の繊維束と第2の炭素繊維の繊維束とをそれぞれ開繊率20%以上55%以下で開繊して帯状に広げ、第1の樹脂フィルムと第2の樹脂フィルムとの間に、前記開繊後の第1の炭素繊維と前記開繊後の第2の炭素繊維を同一方向に配向した状態で積層することを含む。
【0018】
上記各方法のいずれによっても、成形品の品質向上に資する薄層の繊維強化樹脂シートを製造することができる。
【0019】
本発明のさらに他の局面に係る積層体は、前記繊維強化樹脂シートを複数含み、前記複数の繊維強化樹脂シートが、前記炭素繊維の繊維方向が同一方向となる状態または平面視で互いに角度差を有する状態で、厚み方向に積層される。
【0020】
このような構成により、成形品の品質向上に資する積層体を提供することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、成形品の品質向上に資する薄層の繊維強化樹脂シート、前記繊維強化樹脂シートの製造方法、及び前記繊維強化樹脂シートを用いた積層体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、本実施形態における繊維強化樹脂シートの一例を示す斜視図である。
図2図2は、本実施形態における繊維強化樹脂シートを製造する装置の概略構成の一例を示す図である。
図3図3は、本実施形態における繊維強化樹脂シートを複数積層して積層体を成形する方法の一例を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明に係る実施形態について具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0024】
<繊維強化樹脂シート>
(繊維強化樹脂シートの構成)
まず、本実施形態の繊維強化樹脂シートの構成について、図1を参照して以下に具体的に説明する。図1は、本実施形態に係る繊維強化樹脂シート1を示す斜視図である。図1に示すように、繊維強化樹脂シート1は、熱可塑性の樹脂フィルム2と、複数の炭素繊維3とを含む。複数の炭素繊維3は、繊維方向が同一方向に配向された状態で、樹脂フィルム2に積層される。具体的には、複数の炭素繊維3は、その繊維方向が繊維強化樹脂シート1の長手方向に対して略平行となる状態、かつ同一方向に配向した状態で樹脂フィルム2に積層される。
【0025】
ここで、本明細書において、「炭素繊維が樹脂フィルムに積層される」とは、樹脂フィルムの一面(厚み方向の少なくとも一方の面)に炭素繊維が層状に配置されかつ固定されることをいう。この場合において、各々の炭素繊維は、融着、圧着、付着等の適宜の方法により樹脂フィルムに固定され得る。また、融着もしくは圧着により炭素繊維が固定される場合、各々の炭素繊維の一部または全部が樹脂フィルムの表面から内部に含浸していてもよい。
【0026】
このような「積層」の具体的な意味は、樹脂フィルムの物性値、形状、積層のために行われる処理の種類及びその条件等に応じて変化する。すなわち、本明細書における「積層」とは、「積層」の際に、必要に応じて加熱、冷却、及び加圧処理等を施してもよいことを意味する。
【0027】
また、本実施形態の繊維強化樹脂シートにおいて、複数の炭素繊維は、樹脂フィルムの少なくとも一方の面に積層されていればよい。より具体的には、例えば、樹脂フィルムの片面に複数の炭素繊維が積層されていてもよく、樹脂フィルムの両面に複数の炭素繊維が積層されていてもよい。さらには、繊維強化樹脂シートは、2枚以上の樹脂フィルムで複数の炭素繊維を挟むように形成されていてもよい。より具体的には、例えば、前記繊維強化樹脂シートが2枚以上の樹脂フィルムを含み、複数の炭素繊維が1枚の樹脂フィルムに積層されており、別の樹脂フィルムが当該複数の炭素繊維が積層された樹脂フィルムの面上に配置されてもよい。
【0028】
次に、本実施形態の繊維強化樹脂シートに含まれる各構成要素について以下に説明する。
【0029】
本実施形態の繊維強化樹脂シートに含まれる樹脂フィルムは、熱可塑性樹脂を含有するフィルムである。さらには、前記樹脂フィルムは、必要に応じて熱可塑性樹脂以外にも他の添加剤を含んでもよい。
【0030】
前記熱可塑性樹脂としては、特に限定されないが、ポリアミド(特にPA6,PAMXD6,PA9T)、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリアセタール、ポリフェニレンサルファイド、ポリカーボネート、アクリル樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS)、ポリアミドイミド、ポリスルホン、ポリフェニルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、ポリイミド、ポリアリレート、フッ素樹脂、液晶ポリマー、熱可塑性エポキシ樹脂等を例示することができる。また、これらの熱可塑性樹脂を2種類以上混合したポリマーアロイを樹脂フィルムの材料として用いてもよい。
【0031】
なお、前記繊維強化樹脂シートが2枚以上の樹脂フィルムを含む場合、2枚以上の樹脂フィルムは同一の材料からなるものであっても、異なる材料からなるものであってもよい。
【0032】
前記樹脂フィルムの製造方法は、特に限定されず、当業者に公知の任意の方法によって製造することができる。例えば、Tダイ法、カレンダー法等が挙げられる。また、共押出法やラミネート法を用いることによって、樹脂フィルムの厚みを厚くしたり、樹脂組成の異なる樹脂フィルムを積層したりすることもできる。
【0033】
前記樹脂フィルムの厚みは、特に限定されないが、5μm以上50μm以下であることが好ましい。樹脂フィルムの厚みを上記範囲とすることにより、シートの厚みが所定の範囲内になるように繊維強化樹脂シートを成形した際、目隙が少なく、成形品の品質向上に資する繊維強化樹脂シートをより確実に得ることができると考えられる。
【0034】
前記樹脂フィルムの厚みの上限値は、45μm以下であることがより好ましく、40μm以下であることがさらに好ましい。また、前記厚みの下限値は、7μm以上であることがより好ましく、10μm以上であることがさらに好ましい。
【0035】
本実施形態の繊維強化樹脂シートに含まれる複数の炭素繊維は、繊維方向が同一方向に配向された連続繊維である。この複数の炭素繊維は、炭素繊維束から開繊された複数の炭素繊維であり、上述したように、複数の炭素繊維は同一方向に配向された状態で樹脂フィルムに積層される。開繊方法や開繊率については、後述する(繊維強化樹脂シートの製造方法)で詳しく説明する。
【0036】
前記炭素繊維としては、特に限定されないが、例えば、ポリアクリロニトリル(PAN)系、石油・石炭ピッチ系、レーヨン系、リグニン系などが挙げられる。これらの中でも、強度の高いPAN系の炭素繊維であることが好ましい。なお、炭素繊維は、繊維方向が同一方向に配向された状態であれば、1種または2種以上を適宜組み合わせて使用することができる。
【0037】
なお、前記繊維強化樹脂シートにおいて、樹脂フィルムの両面に複数の炭素繊維が積層されている場合のように、2層以上の複数の炭素繊維が含まれる場合、2層以上の複数の炭素繊維は同一の種類の炭素繊維からなるものであっても、異なる種類の炭素繊維からなるものであってもよい。
【0038】
(繊維強化樹脂シートの物性)
本実施形態の繊維強化樹脂シートの波長550nmにおける正透過率は、1%以下である。ここで、本明細書において、「正透過率」とは、拡散光を含まない光の透過率のことをいう。炭素繊維は、波長550nmを含む可視光領域に大きな吸収を有する。そのため、繊維強化樹脂シートにおける炭素繊維同士の隙間、特に炭素繊維同士の連続した隙間である目隙が多いほど、前記繊維強化樹脂シートの波長550nmにおける光の正透過率が大きくなると考えられる。したがって、前記繊維強化樹脂シートの波長550nmにおける光の正透過率が1%以下であることは、繊維強化樹脂シートの目隙が十分に少ないことを意味する。また、下限値は特に限定されず、0%に近い値であるほど目隙がより少なく、成形品の品質向上に資する繊維強化樹脂シートをより確実に得ることができる。
【0039】
前記繊維強化樹脂シートの波長550nmにおける光の正透過率は、0.7%以下であることが好ましく、0.5%以下であることがより好ましい。
【0040】
本実施形態において、正透過率は、市販の分光光度計(例えば、日本分光株式会社製V-570)などを用いて測定することができる。
【0041】
本実施形態の繊維強化樹脂シートの厚みは90μm以下である。厚みが90μm以下であることにより、繊維強化樹脂シートの厚みが厚すぎて成形加工時に樹脂と繊維の流動性が悪くなりすぎるといったことがなく、前記シートを成形加工して得られる製品の賦形性を向上させることができる。また、前記厚みは厚すぎると、成形加工によって得られる製品の物性が低下するおそれがある。具体的に、例えば、厚みが厚すぎると、炭素繊維が樹脂に十分含浸していない可能性があり、成形加工によって得られる製品の物性低下を引き起こすおそれがある。したがって、前記厚みが90μm以下であることにより、成形加工によって得られる製品の物性低下を抑制することができる。
【0042】
前記繊維強化樹脂シートの厚みは、80μm以下であることが好ましく、75μm以下であることが好ましく、70μm以下であることがより好ましい。また、前記厚みの下限値は特に限定されないが、30μm以上であることが好ましく、35μm以上であることがより好ましい。
【0043】
また、本実施形態の繊維強化樹脂シートの開口率は10%以下であることが好ましい。なお、本明細書において、「開口率」とは、繊維強化樹脂シートの中で炭素繊維が存在しない部分の面積割合のことをいい、例えば実施例に示す方法で測定することができる。前記開口率が10%以下であることにより、目隙が少なく、成形品の品質向上に資する繊維強化樹脂シートをより確実に得ることができる。また、前記開口率の下限値は特に限定されず、開口率の値が小さいほど目隙は少なく、成形品の品質向上に資する繊維強化樹脂シートをより確実に得ることができる。
【0044】
前記繊維強化樹脂シートの開口率は9%以下であることがより好ましく、8%以下であることがさらに好ましい。
【0045】
本実施形態の繊維強化樹脂シートにおいて、目隙の本数は15本以下であることが好ましい。より具体的には、繊維強化樹脂シートから任意に抽出された50mm角の領域における一方の端部から他方の端部まで連続する目隙の本数が15本以下であることが好ましい。前記目隙の本数が15本以下であることにより、成形品の品質向上に資する繊維強化樹脂シートをより確実に得ることができる。また、前記目隙の本数の下限値は特に限定されず、前記目隙の本数が少ないほど、成形品の品質向上に資する繊維強化樹脂シートをより確実に得ることができる。前記目隙の本数が10本以下であることがより好ましく、7本以下であることがさらに好ましい。
【0046】
さらに、本実施形態の繊維強化樹脂シートにおいて、目隙の最大幅は1mm以下であることが好ましい。より具体的には、繊維強化樹脂シートから任意に抽出された50mm角の領域における一方の端部から他方の端部まで連続する目隙の幅のうち、最大幅が1mm以下であることが好ましい。このような構成により、目隙が少なく、成形品の品質向上に資する繊維強化樹脂シートをより確実に得ることができる。前記目隙の最大幅は0.5mm以下であることが好ましく、0.3mm以下であることがより好ましい。
【0047】
本実施形態の繊維強化樹脂シートでは、繊維強化樹脂シートに対する炭素繊維の体積含有率Vfが30%以上70%以下であることが好ましい。前記体積含有率Vfが上記範囲であることにより、シートの厚みが所定の範囲内になるように繊維強化樹脂シートを成形した際、目隙が少なく、成形品の品質向上に資する繊維強化樹脂シートをより確実に得ることができると考えられる。
【0048】
前記炭素繊維の体積含有率Vfは、より好ましくは35%以上であり、さらに好ましくは40%以上である。また、前記炭素繊維の体積含有率Vfは、より好ましくは65%以下であり、さらに好ましくは60%以下である。
【0049】
(繊維強化樹脂シートの製造方法)
次に、本実施形態の繊維強化樹脂シート1を製造する方法について説明するが、本実施形態の繊維強化樹脂シートの製造方法は以下に例示する製造方法に限られない。上述したとおり、本実施形態の繊維強化樹脂シート1は、樹脂フィルム2の両面に開繊した炭素繊維3が積層されたシート、樹脂フィルム2の片面に開繊した炭素繊維3が積層されたシートなど、種々のタイプのものがあり得るが、ここではまず、樹脂フィルム2の両面に炭素繊維3が積層されたタイプのシートを製造する一方法について説明する。
【0050】
樹脂フィルム2の両面に炭素繊維3が積層されたタイプのシートを製造する一方法としては、炭素繊維の繊維束3’を開繊率25%以上40%以下で開繊して帯状に広げ、前記開繊後の炭素繊維3を同一方向に配向した状態で、樹脂フィルム2の両面に積層する方法が挙げられる。この製造方法について、図2を参照して以下に具体的に説明する。
【0051】
図2は、繊維強化樹脂シート1を製造する装置の概略構成を示す図である。繊維強化樹脂シート1は、例えば図2に示されるシート製造装置50を用いて製造することができる。このシート製造装置50は、炭素繊維の束である繊維束3’および熱可塑性の樹脂フィルム2から、繊維強化樹脂シート1を連続的に製造する装置である。
【0052】
具体的に、シート製造装置50は、上下に並ぶ複数対(ここでは2対)の加熱ローラ51と、加熱ローラ51の下側において上下に並ぶ複数対(ここでは2対)の冷却ローラ52と、加熱ローラ51と冷却ローラ52との間に掛け回された一対の無端ベルト54と、無端ベルト54の下側に位置する一対の引き出しローラ55と、引き出しローラ55の下側に配置された巻き取り用のボビン56とを備えている。
【0053】
最上段の加熱ローラ51の両側には、繊維束3’を開繊して帯状に広げる開繊機構(図示省略)が設けられている。この開繊機構は、繊維束3’を連続的に開繊することにより、薄い帯状に広がった多数の連続した炭素繊維3を形成することが可能である。開繊機構としては、このような処理が可能な機構であればよく、繊維束を叩いて広げる機構、繊維束に風を当てて広げる機構、繊維束に超音波を当てて広げる機構など、種々の機構を用いることができる。
【0054】
図2の例において、上記開繊機構は、樹脂フィルム2の一方の面に開繊後の炭素繊維3を供給する機構と、樹脂フィルム2の他方の面に開繊後の炭素繊維3を供給する機構とを有する。前者の機構は、樹脂フィルム2の一方の面と当該面と接する加熱ローラ51との間に炭素繊維3を導入するように設けられる。後者の機構は、樹脂フィルム2の他方の面と当該面と接する加熱ローラ51との間に炭素繊維3を導入するように設けられる。
【0055】
前記開繊機構において、繊維束3’から開繊して複数の炭素繊維3とする際の開繊率は、25%以上であることが好ましく、30%以上であることがより好ましく、32%以上であることがさらに好ましい。また、前記開繊率は、40%以下であることが好ましく、38%以下であることがより好ましい。前記開繊率が25%以上であることにより、シート厚が厚くなりすぎず、加工性に優れる繊維強化樹脂シートを得ることができるという利点がある。前記開繊率が40%以下であることにより、目隙が発生しにくいという利点がある。したがって、前記開繊率を25%以上40%以下とすることによって、使用する繊維束が異なっても、薄層であり、かつ、目隙が少なく、成形品の品質向上に資する繊維強化樹脂シートをより確実に得ることができる。
【0056】
なお、本明細書において、「開繊率」は、繊維束の繊維が1本ずつ重ならないように並列した場合を開繊率100%(理論値)として、実際の開繊幅が理論値の何%に相当するか計算することによって算出することができる。
【0057】
次に、加熱ローラ51によって、樹脂フィルム2およびその両面に導入された炭素繊維3を無端ベルト54を介して両側から挟み込みつつ加熱することにより、炭素繊維3を樹脂フィルム2に連続的に含浸させる。そして、冷却ローラ52によって、炭素繊維3が含浸された状態の樹脂フィルム2を無端ベルト54を介して両側から挟み込みながら冷却することにより、炭素繊維3を樹脂フィルム2に固定する。これにより、樹脂フィルム2の両面に炭素繊維3が積層された繊維強化樹脂シート1が成形される。
【0058】
巻き取り用のボビン56によって、引き出しローラ55により引き出された繊維強化樹脂シート1を順次巻き取ることにより、繊維強化樹脂シート1をロール状に纏めることができる。
【0059】
次に、樹脂フィルム2の片面に炭素繊維3が積層されたタイプのシートを製造する一方法について説明する。樹脂フィルム2の片面に炭素繊維3が積層されたタイプのシートを製造する方法としては、炭素繊維の繊維束3’を開繊率20%以上30%以下で開繊して帯状に広げ、前記開繊後の炭素繊維3を同一方向に配向した状態で、樹脂フィルム2の片面に積層する方法が挙げられる。
【0060】
より具体的には、図2で示した上記製造方法における開繊機構において、樹脂フィルム2の片面のみに炭素繊維3を供給することによって、前記樹脂フィルムの片面のみに前記複数の炭素繊維が積層される繊維強化樹脂シートを製造することができる。前記開繊機構において、繊維束3’から開繊して複数の炭素繊維3とする際の開繊率については、特に限定されないが、20%以上であることが好ましく、22%以上であることがより好ましい。また、前記開繊率は、30%以下であることが好ましく、28%以下であることがより好ましい。前記開繊率が20%以上であることにより、シート厚が厚くなりすぎず、加工性に優れる繊維強化樹脂シートを得ることができるという利点がある。前記開繊率が30%以下であることにより、目隙が発生しにくいという利点がある。したがって、前記開繊率を20%以上30%以下とすることによって、使用する繊維束が異なっても、薄層であり、かつ、目隙が少なく、成形品の品質向上に資する繊維強化樹脂シートをより確実に得ることができる。
【0061】
次に、2枚以上の樹脂フィルムで複数の炭素繊維を挟むように形成されたタイプ(以下、複層樹脂タイプという)のシートを製造する一方法について説明する。具体的に、ここでは、前記複層樹脂タイプのシートとして、第1の樹脂フィルム、開繊後の第1の炭素繊維、開繊後の第2の炭素繊維、第2の樹脂フィルムが厚み方向にこの順で積層されたタイプの繊維強化樹脂シートを例示する。このようなシートは、例えば、次のような方法により製造することができる。
【0062】
まず、第1の炭素繊維の繊維束を開繊率20%以上55%以下で開繊して帯状に広げ、前記開繊後の第1の炭素繊維を同一方向に配向した状態で第1の樹脂フィルムの片面に積層して第1の基本シートを成形する。さらに、第2の炭素繊維の繊維束を開繊率20%以上55%以下で開繊して帯状に広げ、前記開繊後の第2の炭素繊維を同一方向に配向した状態で第2の樹脂フィルムの片面に積層して第2の基本シートを成形する。そして、前記第1の樹脂フィルムと前記第2の樹脂フィルムとの間に、前記開繊後の第1の炭素繊維と前記開繊後の第2の炭素繊維とが挟まれるように、前記第1の基本シート及び前記第2の基本シートとを積層する。このような方法によって、前記第1の樹脂フィルム、前記開繊後の第1の炭素繊維、前記開繊後の第2の炭素繊維、前記第2の樹脂フィルムが厚み方向にこの順で積層されたタイプの繊維強化樹脂シートを製造することができる。
【0063】
より具体的には、前記第1の基本シート及び前記第2の基本シートを成形する方法としては、基本的に、上述した、樹脂フィルム2の片面に炭素繊維3が積層されたタイプのシートを製造する方法と同様の方法とすることができる。この場合、前記第1の基本シートと前記第2の基本シートにそれぞれ含まれる炭素繊維(前記第1の炭素繊維または前記第2の炭素繊維)の開繊率については、20%以上とすることが好ましく、25%以上とすることがより好ましい。また、前記開繊率は、55%以下であることが好ましく、40%以下であることがより好ましい。前記開繊率が20%以上であることにより、シート厚が厚くなりすぎず、加工性に優れる繊維強化樹脂シートを得ることができるという利点がある。また、前記開繊率が55%以下であることにより、繊維強化樹脂シートにおける目隙が発生しにくいという利点がある。
【0064】
前記第1の基本シート及び前記第2の基本シートを積層する方法は、前記第1の炭素繊維及び前記第2の炭素繊維を間に挟むように重なり合った前記第1の樹脂フィルムと前記第2の樹脂フィルムとを互いに結合できる方法であればよく、その限りにおいて種々の方法を採用し得る。一例として、前記第1の樹脂フィルムと前記第2の樹脂フィルムとの間に前記第1の炭素繊維及び前記第2の炭素繊維が挟まれるように前記第1の基本シート及び前記第2の基本シートを重ね合わせた状態で、両基本シートを厚み方向に加圧しつつ加熱する方法が考えられる。
【0065】
なお、前記複層樹脂タイプのシートは、例えば次のような連続成形によって製造することも可能である。すなわち、一対の樹脂供給ローラから供給される第1の樹脂フィルム及び第2の樹脂フィルムの間に、一対の繊維供給ローラから供給される開繊後の第1の炭素繊維及び第2の炭素繊維を導入し、その状態で加熱ローラ等を用いた加熱及び加圧を施す方法である。このような方法によっても、2枚の樹脂フィルムの間に複数の炭素繊維を積層することができ、前記複層樹脂タイプのシートを製造することができる。
【0066】
(用途)
本実施形態における繊維強化樹脂シートについて、後述するように複数の繊維強化樹脂シートを厚み方向に積層して積層体として用いてもよいし、繊維強化樹脂シートを短辺の長さが2mm以上20mm以下、かつ両辺の長さが10mm以上40mm以下の矩形に細断して繊維強化樹脂チョップ材として用いてもよい。また、複数のチョップ材を炭素繊維の繊維方向が任意の方向となる状態で厚み方向に積層して積層体を形成してもよい。
【0067】
また、本実施形態における繊維強化樹脂シートを用いてプレス成形、テープワインディング成形などを行うことにより、製造可能な任意の形状の成形品を製造することができる。前記成形品としては、例えば、一般産業用途、自動車、航空機、土木仮設資材、電気・電子機器、玩具、家電製品、スポーツ用品等が挙げられる。
【0068】
<積層体>
本実施形態に係る積層体は、前述の実施形態における繊維強化樹脂シートを複数含み、前記複数の繊維強化樹脂シートが、前記炭素繊維の繊維方向が同一方向となる状態または平面視で互いに角度差を有する状態で、厚み方向に積層される。このような構成により、目隙が少なく、成形品の品質向上に資する積層体を得ることができる。
【0069】
ここで本明細書において、「繊維強化樹脂シートが積層される」とは、複数の繊維強化樹脂シートどうしが厚み方向に重ね合わせられかつ固定されることをいう。この場合において、繊維強化樹脂シートは、融着、圧着、付着等の適宜の方法で相手の繊維強化樹脂シートに固定され得る。
【0070】
このような「積層」の具体的な意味は、繊維強化樹脂シートの物性値、形状、積層のために行われる処理の種類及びその条件等に応じて変化する。すなわち、「積層」の際に、必要に応じて加熱、冷却及び加圧処理等がなされていてもよい。
【0071】
本実施形態における積層体について、具体的に、図3を参照して説明する。図3に示すように、前述の実施形態における繊維強化樹脂シート1をカットして、所定形状、サイズを有する複数の基材シート1Aを厚み方向に積層することにより、数mm程度(例えば2mm)の厚みを有する板状の積層体10を成形することができる。
【0072】
このとき、図3の例においては、複数の基材シート1Aを、炭素繊維3の繊維方向Xが平面視で互いに角度差を有する状態で、厚み方向に積層する。より具体的には、図3では、矩形状に形成された複数の基材シート1Aを繊維方向Xの角度が平面視で45°ずつずれるように積み重ねた例を示している。すなわち、積層される複数の基材シート1Aは、繊維方向Xの角度が0°になる第1基材シート1Aaと、繊維方向Xの角度が45°になる第2基材シート1Abと、繊維方向Xの角度が90°になる第3基材シート1Acと、繊維方向Xの角度が135°になる第4基材シート1Adとを含む。あるいは、図3の例に限定されず、複数の基材シート1Aが、炭素繊維3の繊維方向Xが平面視でランダムになる状態(擬似等方)で、厚み方向に積層されていてもよい。
【0073】
なお、図3の例によらず、複数の基材シート1Aを、炭素繊維3の繊維方向Xが同一方向となる状態で(すなわち、炭素繊維3の繊維方向Xが平面視で角度差を有しない状態で)厚み方向に積層してもよい。
【0074】
(用途)
本実施形態における積層体を用いて製造可能な任意の形状の成形品を製造することができる。成形品としては、例えば、一般産業用途、自動車、航空機、土木仮設資材、電気・電子機器、玩具、家電製品、スポーツ用品等が挙げられる。
【実施例0075】
以下に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【0076】
[実施例1~7、比較例1~2]
ここで説明する実施例は、図2に示したシート製造装置50を用いて、下記の製造条件により製造した繊維強化樹脂シート1である。
【0077】
(製造条件)
フィルムの材料:ナイロン9T(PA9T)
フィルム成形条件:290~310℃の成形温度で押出成形
ロール温度:280℃
送り線速:20m/min
積層パターン:両面または片面
ここで、フィルム材料およびフィルム成形条件とは、樹脂フィルム2の材料および成形条件のことである。ロール温度とは、シート製造装置50における加熱ローラ51の温度のことである。送り線速とは、シート製造装置50において炭素繊維3を樹脂フィルム2に送り出す速度のことである。積層パターンとは、炭素繊維3を樹脂フィルム2の片面に積層するか両面に積層するかを示すものである。
【0078】
本実施例においては、炭素繊維3として下記材料1、2のいずれかを使用した。
【0079】
(炭素繊維の材料)
材料1:繊維径7μm、繊維本数12000本、繊度800texの炭素繊維
材料2:繊維径7μm、繊維本数15000本、繊度1000texの炭素繊維
上記材料1、2のいずれかからなる炭素繊維3を用いて、上述した製造条件により表1に示す実施例1~7、比較例1~2の繊維強化樹脂シートを得た。なお、各シートを比較しやすいように、実施例1~7、比較例1~2における体積含有率(Vf)をいずれも50%にし、体積含有率(Vf)が50%となるようにフィルムの厚みを調整した。
【0080】
表1には、実施例1~7、比較例1~2について、開繊率、Vf(体積含有率)、フィルム厚、およびシート厚の各パラメータが示されている。なお、開繊率とは、繊維束の繊維が1本ずつ重ならないように並列した場合を開繊率100%(理論値)として、実際の開繊幅が理論値の何%に相当するか計算したものである。本実施例において用いる炭素繊維の材料において、開繊率100%(理論値)の開繊幅は、それぞれ、材料1:84mm、材料2:105mmである。Vfとは、繊維強化樹脂シート1中の炭素繊維3の体積含有率(%)のことであり、Vfは燃焼法によって測定した。フィルム厚とは、樹脂フィルム2の厚み(μm)のことであり、シート厚とは、繊維強化樹脂シート1の厚み(μm)の実測値のことである。フィルム厚、及びシート厚は、(株)ミツトヨ製のマイクロメーターを用いて測定した。
【0081】
次に、実施例1~7、比較例1~2の繊維強化樹脂シートにおける目隙の本数及び最大幅、波長550nmにおける正透過率、開口率を以下の方法で測定した。その結果を表1に示す。
【0082】
(目隙)
繊維強化樹脂シートを任意の位置において50mm角に切り出して試験片とした。試験片を蛍光灯にかざし、試験片の一方の端部から他方の端部まで連続する目隙の本数を目視で確認し、さらに、目隙の幅を測定して最大幅を確認した。
【0083】
(正透過率)
繊維強化樹脂シートを透過した光線をすべて積分球に受光するよう積分球の開口部に、繊維強化樹脂シートを平行にかつ密着させ、550nmの波長における正透過率について分光光度計(日本分光株式会社製 V-570)を用いて測定した。
【0084】
(開口率)
繊維強化樹脂シートにおける前記炭素繊維が存在しない部分の面積割合を、以下の方法で算出した。
【0085】
デジタルカメラにて繊維強化樹脂シートを撮影し、撮影した繊維強化樹脂シートについて、任意に抽出した1cm当たりにおける炭素繊維が存在しない部分と炭素繊維部分の画素数の比率を、PC ソフト Adobe Photoshop(登録商標) CS2を用いてヒストグラムを表示させる方法により開口率を算出した。
【0086】
【表1】
【0087】
(考察)
表1からわかるように、熱可塑性の樹脂フィルムと、同一方向に配向された連続繊維である複数の炭素繊維と、を含み、波長550nmにおける光の正透過率が1%以下であり、かつ、厚みが90μm以下である繊維強化樹脂シートである場合(実施例1~7)は、薄層であり、目隙が少なかった。
【0088】
これに対して、開繊率を46%とした比較例1の繊維強化樹脂シートは、比較例1と積層パターン(両面)及び使用した繊維(材料1)は同じで、開繊率が異なる実施例1(開繊率36%)、実施例2(開繊率30%)、及び実施例3(開繊率25%)と比較して、目隙が多かった。同様に、開繊率を48%とした比較例2の繊維強化樹脂シートは、比較例2と積層パターン(両面)及び使用した繊維(材料2)は同じで、開繊率が異なる実施例4(開繊率35%)、実施例5(開繊率30%)、及び実施例6(開繊率25%)と比較して、目隙が多かった。これは、比較例1と比較例2では開繊率が40%を超えていたため、目隙が発生しやすかったからだと考えられる。
【0089】
このことから、積層パターンが両面であるシートにおいては、開繊率を25~40%程度にすることにより、繊維束(材料1、2)が異なっても、薄層でかつ、目隙が少ないシートをより確実に得ることができることがわかる。
【0090】
一方、積層パターンが片面である実施例7と、積層パターンが両面である実施例1~3とを比較すると、実施例1~3、7のいずれの繊維強化樹脂シートも、薄層、かつ、目隙が少ないといった両方の特徴を有している。しかし、同じ繊維束(材料1)を用いた、積層パターンが片面である実施例7と積層パターンが両面である実施例3とを比較すると、開繊率はほぼ同じ値となっているが、シート厚みや正透過率の値が大きく異なっている。これは、積層パターンによって好適な開繊率の範囲が異なるからだと考えられる。具体的には、上述したように、積層パターンが両面であるシートにおける開繊率は25~40%程度であることが好ましく、一方、積層パターンが片面であるシートにおける開繊率については、20~30%程度とすることが好ましいと考えられる。
【0091】
次に、2枚の樹脂フィルムの間に複数の炭素繊維を積層した複層樹脂タイプのシートの実施例を、実施例8、9として説明する。
【0092】
[実施例8]
まず、図2に示したシート製造装置50を用いて、炭素繊維3を樹脂フィルム2の片面に積層した基本シートAを作成した。シート製造装置50の製造条件としては、フィルムの材料、フィルム成形条件、ロール温度、送り線速について、実施例1~7、比較例1~2の製造条件と同様にした。また、炭素繊維3としては、実施例1~3、7、比較例1で使用したものと同様の材料1を使用した。また、シート製造装置50における開繊機構での開繊率を26%とした。なお、このとき使用した樹脂フィルム2の厚みは20μmであった。
【0093】
この基本シートAを2枚用意し、両基本シートAにおける炭素繊維3が2枚の樹脂フィルム2の間に挟まれるように両基本シートAを重ね合わせ、重ね合わせた両基本シートAに加圧及び加熱を施した。これにより、シート厚84μmの繊維強化樹脂シート(複層樹脂タイプのシート)を得た。
【0094】
[実施例9]
まず、図2に示したシート製造装置50を用いて、炭素繊維3を樹脂フィルム2の片面に積層した基本シートBを作成した。シート製造装置50の製造条件としては、フィルムの材料、フィルム成形条件、ロール温度、送り線速について、実施例1~7、比較例1~2の製造条件と同様にした。また、炭素繊維3としては、実施例1~3、7、比較例1で使用したものと同様に材料1を使用した。また、シート製造装置50における開繊機構での開繊率を40%とした。なお、このとき使用した樹脂フィルム2の厚みは30μmであった。
【0095】
このシートBを2枚用意し、両基本シートBにおける炭素繊維3が2枚の樹脂フィルム2の間に挟まれるように両基本シートBを重ね合わせ、重ね合わせた両基本シートBに加圧及び加熱を施した。これにより、シート厚90μmの繊維強化樹脂シート(複層樹脂タイプのシート)を得た。
【0096】
実施例8、9における繊維強化樹脂シートのVf(体積含有率)、フィルム厚、シート厚、目隙の本数、最大幅、波長550nmにおける正透過率、開口率について、実施例1~7、比較例1~2と同様の測定方法により測定した結果を表2に示す。
【0097】
【表2】
【0098】
(考察)
表2からわかるように、積層パターンが片面の基本シートを重ね合わせて作成した実施例8、9の繊維強化樹脂シートは、熱可塑性の樹脂フィルムと、同一方向に配向された連続繊維である複数の炭素繊維と、を含み、波長550nmにおける光の正透過率が1%以下であり、かつ、厚みが90μm以下であり、薄層であり、目隙が少なかった。
【0099】
この出願は、2022年7月27日に出願された日本国特許出願特願2022-119521号を基礎とするものであり、その内容は、本願に含まれるものである。
【0100】
本発明を表現するために、前述において具体例や図面等を参照しながら実施形態を通して本発明を適切かつ十分に説明したが、当業者であれば前述の実施形態を変更及び/又は改良することは容易になし得ることであると認識すべきである。したがって、当業者が実施する変更形態又は改良形態が、請求の範囲に記載された請求項の権利範囲を離脱するレベルのものでない限り、当該変更形態又は当該改良形態は、当該請求項の権利範囲に包括されると解釈される。
【符号の説明】
【0101】
1 繊維強化樹脂シート
2 樹脂フィルム
3 炭素繊維
3’ 繊維束
10 積層体
図1
図2
図3