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特開2024-19027アルミニウム含有凝集粒子の測定方法、アルミニウム含有凝集粒子の測定装置、被処理水の凝集処理装置、凝集処理条件の優劣の判定方法、および凝集処理条件の優劣判定装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024019027
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】アルミニウム含有凝集粒子の測定方法、アルミニウム含有凝集粒子の測定装置、被処理水の凝集処理装置、凝集処理条件の優劣の判定方法、および凝集処理条件の優劣判定装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 15/06 20240101AFI20240201BHJP
   C02F 1/52 20230101ALI20240201BHJP
   G01N 21/64 20060101ALI20240201BHJP
   G01N 15/075 20240101ALI20240201BHJP
【FI】
G01N15/06 E
C02F1/52 Z
G01N21/64 Z
G01N15/06 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023114291
(22)【出願日】2023-07-12
(31)【優先権主張番号】P 2022120172
(32)【優先日】2022-07-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】591030651
【氏名又は名称】水ing株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(72)【発明者】
【氏名】貝谷 吉英
【テーマコード(参考)】
2G043
4D015
【Fターム(参考)】
2G043AA03
2G043BA03
2G043CA06
2G043DA05
2G043EA01
2G043EA14
2G043KA02
2G043LA02
2G043NA01
4D015BA04
4D015BB05
4D015CA14
4D015DA04
4D015DA06
4D015EA06
4D015EA07
4D015EA36
4D015EA37
(57)【要約】
【課題】凝集処理後の凝集処理水中のアルミニウム含有凝集粒子の量を直接測定することができるアルミニウム含有凝集粒子の測定方法、アルミニウム含有凝集粒子の測定装置およびアルミニウム含有凝集粒子の測定装置を有する凝集処理装置を提供すること
【解決手段】被処理水に対する凝集処理により得られる凝集処理水中のアルミニウム含有凝集粒子の測定方法であって、照射工程(S100)と、蛍光受信工程(S110)と、アルミニウム含有凝集粒子測定工程(S130)と、を有するアルミニウム含有凝集粒子の測定方法である。また、本発明は、アルミニウム含有凝集粒子の測定装置10およびこれを有する被処理水の凝集処理装置50を提供する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理水に対する凝集処理により得られる凝集処理水中のアルミニウム含有凝集粒子の測定方法であって、
前記凝集処理水に所定波長の光を照射する照射工程と、
前記光により励起されたアルミニウム含有凝集粒子が放射した所定波長の蛍光を受信する蛍光受信工程と、
前記受信した蛍光から蛍光粒子の数を測定し、前記アルミニウム含有凝集粒子の数とするアルミニウム含有凝集粒子測定工程と、
を有することを特徴とする、アルミニウム含有凝集粒子の測定方法。
【請求項2】
前記アルミニウム含有凝集粒子測定工程が、蛍光強度の電圧区分を該蛍光強度の大きい順に連続する複数区分で設定し、前記蛍光粒子の数を前記蛍光強度の電圧区分ごとに分けて測定し、前記蛍光強度の電圧区分ごとの前記アルミニウム含有凝集粒子の数とすることを特徴とする請求項1に記載のアルミニウム含有凝集粒子の測定方法。
【請求項3】
前記照射工程で照射される光が、330~460nmの範囲の波長を有し、前記蛍光受信工程で受信する蛍光が、630~710nmの範囲の蛍光波長を有することを特徴とする請求項1に記載のアルミニウム含有凝集粒子の測定方法。
【請求項4】
測定対象となる凝集処理水中のアルミニウム含有凝集粒子の粒径が、1~2μmの範囲であることを特徴とする請求項1に記載のアルミニウム含有凝集粒子の測定方法。
【請求項5】
さらに、前記照射工程後であって前記アルミニウム含有凝集粒子測定工程前に、前記照射工程の光を照射された、凝集処理水中の凝集粒子が散乱した散乱光を受信する散乱光受信工程を有し、
前記アルミニウム含有凝集粒子測定工程が、前記蛍光受信工程で受信した蛍光と前記散乱光受信工程で受信した散乱光とから前記アルミニウム含有凝集粒子の大きさを特定することを含む、請求項1~4のいずれか一項に記載のアルミニウム含有凝集粒子の測定方法。
【請求項6】
被処理水に対する凝集処理により得られる凝集処理水中のアルミニウム含有凝集粒子を測定し、前記凝集処理条件の優劣を判定する判定方法であって、
前記凝集処理水に所定波長の光を照射する照射工程と、
前記光により励起されたアルミニウム含有凝集粒子が放射した所定波長の蛍光を受信する蛍光受信工程と、
蛍光強度の電圧区分を該蛍光強度の大きい順に連続する複数区分で設定し、前記受信した蛍光粒子の数を前記蛍光強度の電圧区分ごとに分けて測定し、前記蛍光強度の電圧区分ごとの前記アルミニウム含有凝集粒子の数とするアルミニウム含有凝集粒子測定工程と、
前記蛍光強度の全電圧区分の合計のアルミニウム含有凝集粒子の数に対する、蛍光強度が最も大きい前記電圧区分のアルミニウム含有凝集粒子の数の比率を求めるアルミニウム含有凝集粒子の比率算出工程と、
前記アルミニウム含有凝集粒子の比率算出工程で求めた前記比率の値の大小により、前記凝集処理条件の優劣を判定する判定工程と、
を有することを特徴とする凝集処理条件の優劣の判定方法。
【請求項7】
被処理水に対する凝集処理により得られる凝集処理水中のアルミニウム含有凝集粒子の測定装置であって、
前記凝集処理水を採取する凝集処理水採取部と、
採取した前記凝集処理水に対して所定波長の光を照射する光照射部と、
前記光照射部からの光により励起されたアルミニウム含有凝集粒子が放射した所定波長の蛍光を受信する蛍光受信部と、
前記蛍光受信部が受信した蛍光から蛍光粒子の数を測定する蛍光粒子測定手段と、
を有することを特徴とする、アルミニウム含有凝集粒子の測定装置。
【請求項8】
前記光照射部からの光を照射された、凝集処理水中の凝集粒子が散乱する散乱光を受信する散乱光受信部を有し、
前記蛍光粒子測定手段が、さらに前記蛍光受信部が受信した蛍光と前記散乱光受信部が受信した散乱光とから蛍光粒子の大きさを特定することを特徴とする、請求項7に記載のアルミニウム含有凝集粒子の測定装置。
【請求項9】
凝集剤を添加した被処理水に対して凝集処理を行い、凝集処理水を得る凝集処理手段と、請求項7または8に記載のアルミニウム含有凝集粒子の測定装置と、を有することを特徴とする被処理水の凝集処理装置。
【請求項10】
被処理水に対する凝集処理により得られる凝集処理水中のアルミニウム含有凝集粒子を測定し、前記凝集処理条件の優劣を判定する判定装置であって、
前記凝集処理水を採取する凝集処理水採取部と、
採取した前記凝集処理水に対して所定波長の光を照射する光照射部と、
前記光照射部からの光により励起されたアルミニウム含有凝集粒子が放射した所定波長の蛍光を受信する蛍光受信部と、
蛍光強度の電圧区分を該蛍光強度の大きい順に連続する複数区分で設定し、前記蛍光受信部が受信した蛍光から蛍光粒子の数を前記蛍光強度の電圧区分ごとに分けて測定し、前記蛍光強度の電圧区分ごとの前記アルミニウム含有凝集粒子の数とするアルミニウム含有凝集粒子測定手段と、
前記蛍光強度の全電圧区分の合計のアルミニウム含有凝集粒子の数に対する、蛍光強度が最も大きい前記電圧区分のアルミニウム含有凝集粒子の数の比率を求めるアルミニウム含有凝集粒子の比率算出手段と、
前記アルミニウム含有凝集粒子の比率算出手段が求めた前記比率の値の大小により、前記凝集処理の条件の優劣を判定する判定手段と、
を有することを特徴とする凝集処理条件の優劣判定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム含有凝集粒子の測定方法、アルミニウム含有凝集粒子の測定装置、被処理水の凝集処理装置、凝集処理条件の優劣の判定方法、および凝集処理条件の優劣判定装置に関し、特に、被処理水に対する凝集処理により得られる凝集処理水中のアルミニウム含有凝集粒子の測定方法、アルミニウム含有凝集粒子の測定装置、被処理水の凝集処理装置、凝集処理条件の優劣の判定方法、および凝集処理条件の優劣判定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近代水道の代表的な浄水処理法として急速砂ろ過法がある。この方法は、原水中の微粒子の粗大化プロセス及び分離促進プロセスに消毒プロセスを加えたシステムが基本構成になっている。
【0003】
基本的なプロセスの配置は、急速混和槽→緩速混和槽(フロック形成槽)→沈殿池→砂ろ過→消毒であり、最初に原水に急速混和槽で凝集剤が加えられ、濁度成分や色度成分などの微粒子やコロイドが粗大化され、次いで、緩速混和槽で微細フロックを沈殿可能なサイズのフロックまで成長させ、沈殿池でフロックを沈殿除去した後、砂ろ過で微細フロック除去などの粒子分離の仕上げを行う。
【0004】
また、急速砂ろ過法以外では、近年、より高度な固液分離が期待できる精密ろ過膜(MF膜)や限外ろ過膜(UF膜)を用いた低圧膜ろ過法の導入も進んでおり、膜前処理として凝集処理を組み合わせる場合が多い。
【0005】
これらの日本の浄水処理で使用されている凝集剤のほとんどはアルミニウム系凝集剤であり、ポリ塩化アルミニウム(PACl)や硫酸アルミニウム(硫酸バンド:Alm)があるが、ほとんどの水道事業体がPAClを利用している。
【0006】
PAClの注入率制御は、安全安心な浄水処理水質を確保するために非常に重要であり、ジャーテストの結果や熟練運転員の経験とノウハウに基づいた運転管理を行う浄水場が今だに多くを占める。
【0007】
一方で、様々な水質センシング技術を用いた監視制御システムも導入されているが、一長一短で決定打に欠くところがあり、浄水処理において、PACl注入制御は依然重要な改善余地のある技術である。
【0008】
その一連の技術の中で、PAClの主成分がアルミニウムであることに着目し、アルミニウムを計測して凝集処理の指標として用いる検討がなされている。
【0009】
特許文献1は、浄水プロセス中の水に含まれるアルミニウムをエリオクロムシアニンレッド(ECR)を呈色試薬として用いる方法(以下、ECR法という)により自動測定可能な自動測定装置に関し、酸性のECR試薬をpH調整用の緩衝液より先に試料水に添加する構成を有する自動測定装置を開示する。
【0010】
特許文献1の自動測定装置によれば、酸性のECR試薬が添加されて試料水が酸性となることで試料水中の固形成分のアルミニウムを溶解させることができ、別途酸の注入ポンプ、酸のタンク溶解槽を設ける必要がなくなり、簡便かつ安価に固形成分のアルミニウムの自動測定装置を提供することができる。
【0011】
非特許文献1は、原水水質の急変にも対応可能なPAC注入制御技術の実現を目的として、混和池のアルミニウム計測に基づくPAC注入制御技術を開示する。そして、アルミニウムの計測は、ECR試薬を用いた吸光光度法により行われる。
【0012】
非特許文献2は、水質急変に対応するため、アルミニウム計測装置を凝集剤注入後の混和池出口やフロック形成池入口に設置し、採水した水のアルミニウム(Al)をフィードバックの制御指標とする凝集剤注入制御技術を開発したことを開示する。Al計測は、ECR試薬を用いた吸光光度法を採用し、Alの連続計測を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2012-47657号公報
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】三宮豊ら著、「アルミニウムを用いたPAC注入制御方式の実証」、学会誌「EICA」第17巻、第2・3合併号、第143~150頁、2012年
【非特許文献2】三宮豊ら著、「水中のアルミニウム連続計測技術の開発」、学会誌「EICA」第23巻、第2・3合併号、第9~15頁、2018年)
【非特許文献3】貝谷吉英著、「凝集処理における膜ろ過水質評価指標に関する一考察」、日本水環境学会シンポジウム講演集、第25巻、第49~50頁、2022年8月30日発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
特許文献1、非特許文献1および非特許文献2においては、アルミニウムの測定はECRを用いた吸光光度法により行われている。したがって、試料水中のアルミニウム凝集粒子を酸性溶液中で溶解させ、溶解性アルミニウムの濃度としてこれを測定しており、直接アルミニウム凝集粒子の量を測定するものではない。この点、非特許文献2によれば、水道水にPAClを添加して作成した模擬混和水の理論Al濃度に対し、ECR法を用いた吸光光度法により測定したAl濃度(計測値)は50%以下であり、ECRを用いた吸光光度法による試料水中の固形のアルミニウム量の把握には改善の余地がある。
【0016】
また、凝集沈殿砂ろ過システムにおいては、1~3μm程度の凝集粒子数をいかに減少させるかが処理水質や安定運転に影響を及ぼすと報告されており、また、凝集膜ろ過においても、膜汚染の原因であるアルミニウムナノ粒子の低減には、1~2μm程度のマイクロオーダーの粗大粒子とアルミニウムナノ粒子の衝突・取り込み効果が重要であると考えられていることから、凝集処理後の凝集処理水中のアルミニウム凝集粒子の量を直接測定することが求められている。
【0017】
すなわち、本発明の目的は、凝集処理後の凝集処理水中のアルミニウム含有凝集粒子の量を直接測定することができるアルミニウム含有凝集粒子の測定方法、アルミニウム含有凝集粒子の測定装置およびアルミニウム含有凝集粒子の測定装置を有する凝集処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
発明者らは、上記目的の達成に向け、鋭意検討したところ、蛍光検出器を備える微粒子計を用い、所定の条件下でアルミニウム含有凝集粒子を蛍光粒子として測定できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0019】
すなわち、上記目的は、被処理水に対する凝集処理により得られる凝集処理水中のアルミニウム含有凝集粒子の測定方法であって、
前記凝集処理水に所定波長の光を照射する照射工程と、前記光により励起されたアルミニウム含有凝集粒子が放射した所定波長の蛍光を受信する蛍光受信工程と、前記受信した蛍光から蛍光粒子の数を測定し、前記アルミニウム含有凝集粒子の数とするアルミニウム含有凝集粒子測定工程と、を有することを特徴とする、アルミニウム含有凝集粒子の測定方法により達成されることが見いだされた。
【0020】
本発明に係るアルミニウム含有凝集粒子の測定方法の好ましい態様は以下の通りである。
(1)照射工程で照射される光が、330~460nmの範囲の波長を有し、蛍光受信工程で受信する蛍光が、630~710nmの範囲の蛍光波長を有する。
(2)アルミニウム含有凝集粒子測定工程が、蛍光強度の電圧区分を該蛍光強度の大きい順に連続する複数区分で設定し、前記蛍光粒子の数を前記蛍光強度の電圧区分ごとに分けて測定し、前記蛍光強度の電圧区分ごとの前記アルミニウム含有凝集粒子の数とする。
(3)測定対象となる凝集処理水中のアルミニウム含有凝集粒子の粒径が、1~2μmの範囲である。
(4)さらに、照射工程後であってアルミニウム含有凝集粒子測定工程前に、照射工程の光を照射された、凝集処理水中の凝集粒子が散乱した散乱光を受信する散乱光受信工程を有し、アルミニウム含有凝集粒子測定工程が、蛍光受信工程で受信した蛍光と散乱光受信工程で受信した散乱光とからアルミニウム含有凝集粒子の大きさを特定する。
【0021】
また、上記目的は、被処理水に対する凝集処理により得られる凝集処理水中のアルミニウム含有凝集粒子を測定し、前記凝集処理条件の優劣を判定する判定方法であって、
前記凝集処理水に所定波長の光を照射する照射工程と、前記光により励起されたアルミニウム含有凝集粒子が放射した所定波長の蛍光を受信する蛍光受信工程と、蛍光強度の電圧区分を該蛍光強度の大きい順に連続する複数区分で設定し、前記受信した蛍光粒子の数を前記蛍光強度の電圧区分ごとに分けて測定し、前記蛍光強度の電圧区分ごとの前記アルミニウム含有凝集粒子の数とするアルミニウム含有凝集粒子測定工程と、前記蛍光強度の全電圧区分の合計のアルミニウム含有凝集粒子の数に対する、蛍光強度が最も大きい前記電圧区分のアルミニウム含有凝集粒子の数の比率を求めるアルミニウム含有凝集粒子の比率算出工程と、前記アルミニウム含有凝集粒子の比率算出工程で求めた前記比率の値の大小により、前記凝集処理条件の優劣を判定する判定工程と、を有することを特徴とする凝集処理条件の優劣の判定方法によっても達成することができる。
【0022】
さらに、上記目的は、被処理水に対する凝集処理により得られる凝集処理水中のアルミニウム含有凝集粒子の測定装置であって、
前記凝集処理水を採取する凝集処理水採取部と、採取した前記凝集処理水に対して所定波長の光を照射する光照射部と、前記光照射部からの光により励起されたアルミニウム含有凝集粒子が放射した所定波長の蛍光を受信する蛍光受信部と、前記蛍光受信部が受信した蛍光から蛍光粒子の数を測定する蛍光粒子測定手段と、を有することを特徴とする、凝集処理水中のアルミニウム含有凝集粒子の測定装置によっても達成することができる。
【0023】
そのうえ、前記凝集処理水中のアルミニウム含有凝集粒子の測定装置において、光照射部からの光を照射された、凝集処理水中の凝集粒子が散乱する散乱光を受信する散乱光受信部を有し、蛍光粒子測定手段が、さらに蛍光受信部が受信した蛍光と散乱光受信部が受信した散乱光とから蛍光粒子の大きさを特定することが好ましい。
【0024】
また、上記目的は、凝集剤を添加した被処理水に対して凝集処理を行い、凝集処理水を得る凝集処理手段と、本発明のアルミニウム含有凝集粒子の測定装置と、を有することを特徴とする被処理水の凝集処理装置によっても達成することができる。
【0025】
さらに、上記目的は、被処理水に対する凝集処理により得られる凝集処理水中のアルミニウム含有凝集粒子を測定し、前記凝集処理条件の優劣を判定する判定装置であって、
前記凝集処理水を採取する凝集処理水採取部と、採取した前記凝集処理水に対して所定波長の光を照射する光照射部と、前記光照射部からの光により励起されたアルミニウム含有凝集粒子が放射した所定波長の蛍光を受信する蛍光受信部と、蛍光強度の電圧区分を該蛍光強度の大きい順に連続する複数区分で設定し、前記蛍光受信部が受信した蛍光から蛍光粒子の数を前記蛍光強度の電圧区分ごとに分けて測定し、前記蛍光強度の電圧区分ごとの前記アルミニウム含有凝集粒子の数とするアルミニウム含有凝集粒子測定手段と、前記蛍光強度の全電圧区分の合計のアルミニウム含有凝集粒子の数に対する、蛍光強度が最も大きい前記電圧区分のアルミニウム含有凝集粒子の数の比率を求めるアルミニウム含有凝集粒子の比率算出手段と、前記アルミニウム含有凝集粒子の比率算出手段が求めた前記比率の値の大小により、前記凝集処理の条件の優劣を判定する判定手段と、を有することを特徴とする凝集処理条件の優劣判定装置によっても達成することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、凝集処理水に所定波長の光を照射することで、凝集処理水中のアルミニウム含有凝集粒子が励起し、所定波長の蛍光を放射する。この蛍光を受信することで蛍光粒子の数をアルミニウム含有凝集粒子の数として直接測定することができる。
【0027】
測定に際し、照射光により励起した凝集処理水中のアルミニウム含有凝集粒子が放射する蛍光を受信しているので、別に前処理を行う必要もなく、前処理のための試薬も不要となり、また、測定にかかる時間も短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明のアルミニウム含有凝集粒子の測定方法を説明するためのフローチャートである。
図2】蛍光検出器が受信し、変換した蛍光信号と、散乱光検出器が受信し、変換した散乱光信号とからの、蛍光粒子の数と大きさの測定を説明する模式図である。
図3】本発明の凝集処理条件の優劣の判定方法を説明するためのフローチャートである。
図4】本発明のアルミニウム含有凝集粒子の測定装置10を説明するブロック図である。
図5】本発明の凝集処理条件の優劣の判定装置30を説明するブロック図である。
図6】本発明の被処理水の凝集処理装置50を説明するブロック図である。
図7】蛍光検出器を有する微粒子計で実施例1で得られた凝集処理水中の粒径1~2μmの粒子の数を測定したグラフである。
図8】蛍光検出器を有する微粒子計で比較例1で得られた凝集処理水中の粒径1~2μmの粒子の数を測定したグラフである。
図9】蛍光検出器を有する微粒子計で実施例2で得られた凝集処理水中の粒径1~2μmの粒子の数を測定したグラフである。
図10】実施例3に用いたアルミニウム含有凝集粒子の測定装置Dの装置構成を示すブロック図である。
図11】蛍光検出器を有する微粒子計で実施例3で得られた凝集pH5.5を有する凝集処理水中の粒径1~2μmの粒子の数を測定したグラフである。
図12】蛍光検出器を有する微粒子計で実施例3で得られた凝集pH6.0を有する凝集処理水中の粒径1~2μmの粒子の数を測定したグラフである。
図13】蛍光検出器を有する微粒子計で実施例3で得られた凝集pH6.2を有する凝集処理水中の粒径1~2μmの粒子の数を測定したグラフである。
図14】蛍光検出器を有する微粒子計で実施例3で得られた凝集pH6.5を有する凝集処理水中の粒径1~2μmの粒子の数を測定したグラフである。
図15】蛍光検出器を有する微粒子計で実施例3で得られた凝集pH6.8を有する凝集処理水中の粒径1~2μmの粒子の数を測定したグラフである。
図16】蛍光検出器を有する微粒子計で実施例3で得られた凝集pH7.0を有する凝集処理水中の粒径1~2μmの粒子の数を測定したグラフである。
図17】蛍光検出器を有する微粒子計で実施例3で得られた凝集pH7.2を有する凝集処理水中の粒径1~2μmの粒子の数を測定したグラフである。
図18】蛍光検出器を有する微粒子計で実施例3で得られた凝集pH7.5を有する凝集処理水中の粒径1~2μmの粒子の数を測定したグラフである。
図19】蛍光検出器を有する微粒子計で実施例4の凝集処理水(PACl注入率10mg/L)中の粒径1~2μmの粒子の数を測定したグラフである。
図20】蛍光検出器を有する微粒子計で実施例4の凝集処理水(PACl注入率20mg/L)中の粒径1~2μmの粒子の数を測定したグラフである。
図21】蛍光検出器を有する微粒子計で実施例4の凝集処理水(PACl注入率30mg/L)中の粒径1~2μmの粒子の数を測定したグラフである。
図22】蛍光検出器を有する微粒子計で実施例5で得られた凝集処理水(ベストモードの凝集処理条件)の粒径1~2μmの粒子の数を測定したグラフである。
図23】非特許文献3の、河川水である原水A(濁度:1.8度、色度:3.4度、TOC:0.7mg/L)における凝集ファウリングポテンシャルの算出例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
<アルミニウム含有凝集粒子の測定方法>
本発明のアルミニウム含有凝集粒子の測定方法は、浄水処理プロセスにおいて、被処理水に対する凝集処理により得られる凝集処理水中のアルミニウム含有凝集粒子の測定方法である。
【0030】
したがって、被処理水は、浄水処理に供される水道原水であり、例えば、河川水、地下水、ダム湖水、湖沼水、伏流水などが挙げられる。
【0031】
被処理水には凝集剤が添加され、適宜に凝集処理が施されて被処理水中の濁度成分や色度成分などの微粒子が凝集した凝集処理水が得られる。
【0032】
凝集剤は、アルミニウム系凝集剤であり、例えば、ポリ塩化アルミニウム、硫酸バンドなどが挙げられる。なお、凝集処理においては、アルミニウム系以外の無機凝集剤や、高分子凝集剤が別途添加されていてもよい。
【0033】
得られた凝集処理水が、本発明のアルミニウム含有凝集粒子の測定方法に供される。図1は、本発明のアルミニウム含有凝集粒子の測定方法を説明するためのフローチャートである。図示のように、本発明のアルミニウム含有凝集粒子の測定方法は、照射工程(S100)と、蛍光受信工程(S110)と、任意工程である散乱光受信工程(S120)と、アルミニウム含有凝集粒子測定工程(S130)と、を有する。
【0034】
[照射工程(S100)]
本工程では、凝集処理水に所定波長の光を照射する。照射する光は、330~460nmの範囲の波長を有することが好ましく、380~420nmの範囲の波長を有することが特に好ましい。
【0035】
凝集処理水はフローセルに連続的に供給され、したがって、凝集処理水中の粒子に上記所定波長の光が照射される。上記所定波長の光は、半導体レーザなどが光源として用いられる(以上、照射工程(S100))。
【0036】
[蛍光受信工程(S110)]
本工程では、前記光により励起されたアルミニウム含有凝集粒子が放射した所定波長の蛍光を受信する。蛍光は、630~710nmの範囲の蛍光波長を有することが好ましく、660~700nmの範囲の波長を有することが特に好ましい。
【0037】
本工程では、フローセルを通過する凝集処理水中の粒子のうち、アルミニウム含有凝集粒子が前記所定波長の光により励起し、所定波長の蛍光を放射する。この蛍光を蛍光検出器で受信し、電気信号に変換する。蛍光検出器は、検出対象の蛍光波長のみが通過する光学的なカットフィルタを有し、これにより、前記所定波長の蛍光のみを受信することが可能となる(以上、蛍光受信工程(S110))。
【0038】
[散乱光受信工程(S120)]
本工程は、任意工程であり、前記照射工程(S100)後であって後述するアルミニウム含有凝集粒子測定工程(S130)前に、前記照射工程(S100)の光を照射された、凝集処理水中の凝集粒子が散乱した散乱光を受信する。
【0039】
本工程では、フローセルを通過する凝集処理水中の全ての粒子が前記所定波長の光を散乱する。この散乱光を散乱光検出器で受信し、電気信号に変換する(以上、散乱光受信工程(S120))。
【0040】
[アルミニウム含有凝集粒子測定工程(S130)]
本工程では、前記蛍光受信工程(S110)で受信した蛍光から蛍光粒子の数を測定し、アルミニウム含有凝集粒子の数とする。また、本発明が散乱光受信工程(S120)を有する場合には、アルミニウム含有凝集粒子の数だけでなく、前記蛍光受信工程(S110)で受信した蛍光と前記散乱光受信工程(S120)で受信した散乱光とから前記アルミニウム含有凝集粒子の大きさを特定する。
【0041】
具体的には、図2を参照して説明する。図2は、蛍光検出器が受信し、変換した蛍光信号と、散乱光検出器が受信し、変換した散乱光信号とからの、蛍光粒子の数と大きさの測定を説明する模式図である。縦軸は、蛍光信号および散乱光信号の電圧(パルスの高さ)を示し、横軸は測定開始から凝集処理水がフローセルを通過する時間を示す。なお、説明を容易とするため、蛍光信号と散乱光信号のベースラインは変更している。
【0042】
図示のように、凝集処理水をフローセルに通すと、フローセル通過時に凝集処理水中の粒子が光を散乱し、散乱光信号のピーク(パルス)が生じる。同時に、フローセル通過時に凝集処理水中のアルミニウム含有凝集粒子が励起して蛍光を放射し、蛍光信号のピーク(パルス)が生じる。
【0043】
そして、図示のように、散乱光信号のピークの高さにより、粒子の大きさを特定することができ、散乱光信号のピークと蛍光信号のピークが同じ時点で生じた場合、その粒子はアルミニウム含有凝集粒子であるとみなすことができる。
【0044】
このようにして、アルミニウム含有凝集粒子の大きさと数を測定することができる。図2では、散乱光信号のピーク高さとして、0.5μm、1μm、2μmを基準として0.5μm~2μmまでの粒径のアルミニウム含有凝集粒子の数を測定することができるが、浄水処理の凝集沈殿処理の後工程において問題となるのは、粒径1~3μm程度のアルミニウム含有凝集粒子であるから、アルミニウム含有凝集粒子測定工程(S130)において測定対象とする凝集処理水中のアルミニウム含有凝集粒子の粒径は、1~3μmの範囲であることが好ましく、1~2μmの範囲であることが特に好ましい。
【0045】
なお、被処理水中にピコプランクトンが存在する場合、ピコプランクトンも蛍光信号のピークを示すため、アルミニウム含有凝集粒子の蛍光と区別をすることが難しい。しかし、経験的に被処理水中のピコプランクトンは0.2~1μmの範囲の粒径を有する場合が多いことから、測定対象とする凝集処理水中のアルミニウム含有凝集粒子の粒径を前記1~3μmの範囲、または1~2μmの範囲とすることでピコプランクトンの影響を排除することができる。
【0046】
また、散乱光信号のピークの高さにより、粒子の大きさを特定することができる一方で、蛍光信号のピークの高さにより、粒子中のアルミニウムの種類および量を特定できると推察される。
【0047】
すなわち、第一に、様々な態様で存在するアルミニウム種の中でも、蛍光するアルミニウム種が、単量体~3量体のアルミニウム種や水酸化アルミニウム凝析体ではなく、ケギン型アルミニウム13量体クラスターなどを含むアルミニウムポリマー種、それらの複合体であるアルミニウムコロイド種、アルミニウムナノ粒子(以下、アルミニウムポリマー種等ともいう)であることから、まず、蛍光信号のピークが存在することで粒子中のアルミニウムの種類を特定することができる。第二に、粒子中のこれらアルミニウムポリマー種等の存在量が大きければ大きいほど蛍光信号のピークの高さも大きくなることから、蛍光信号のピークの高さにより粒子中のこれらアルミニウムポリマー種等の存在量を特定することができると考えられる。
【0048】
そして、凝集処理の際の撹拌により、水中の被凝集物質とアルミニウム種との接触により生じた粒子の形成と破壊が繰り返され、最終的に粒子が安定して大きくなり、その安定化した粒子中にはアルミニウムポリマー種等を多く含むこととなる。また、そのように安定化した粒子は破壊されにくく、粒子の破壊によって被凝集物質やアルミニウム種が再び凝集処理水中に放出される可能性も低い。
【0049】
したがって、凝集処理水中の蛍光粒子のうち、アルミニウムポリマー種等を多く含む、すなわち、大きな蛍光信号を発するアルミニウム含有凝集粒子の割合を測定することで、凝集処理水について、凝集処理が適切に行われたかどうかを判断することができる。
【0050】
よって、アルミニウム含有凝集粒子測定工程が、蛍光強度の電圧区分を該蛍光強度の大きい順に連続する複数区分で設定し、前記蛍光粒子の数を前記蛍光強度の電圧区分ごとに分けて測定し、前記蛍光強度の電圧区分ごとの前記アルミニウム含有凝集粒子の数とする操作を含むことが好ましい。
【0051】
蛍光強度の電圧区分は、どのような区分であっても良いが、例えば、最も低い電圧区分は15mV未満であり、最も高い電圧区分は100mV超である。最も低い電圧区分は、15mV未満のピークの蛍光信号はノイズである場合が多く、このノイズと蛍光粒子の存在を反映する蛍光信号のピークとを区別するために設けられる。なお、フローセルの汚れによりノイズが大きく出る可能性もあることから、最も低い電圧区分は23mV未満など、高めに設定されてもよい。
【0052】
最も高い電圧区分は、被凝集物質によっては100mV超の蛍光ピークを示すため、それらの蛍光を測定可能とするために設けられる。すなわち、アルミニウム含有凝集粒子の蛍光強度は決して強くなく、その蛍光ピークの高さは100mV以下が多い。しかし、バイオポリマーなど、被凝集物質の種類によってはその被凝集物質を取り込んだアルミニウム含有凝集粒子の蛍光ピークの高さは100mVを超える場合があるので、最も高い電圧区分として100mV超が適用される。
【0053】
これら最も低い電圧区分と最も高い電圧区分の間に主にアルミニウム含有凝集粒子を測定する電圧区分が設けられる。アルミニウム含有凝集粒子を測定する電圧区分は、1区分でも良いが、複数区分で設けても良い。複数区分で設けることで、その区分に含まれるアルミニウム含有凝集粒子数を経時的に、あるいは異なる凝集処理水間で比較することで、凝集処理が適切に行われたかどうかを判断するための材料を増やすことができる。
【0054】
蛍光強度の電圧区分は、例えば、15mV未満、15mV以上50mV未満、50mV以上100mV以下、および100mV超の4区分を設定することができる(以上、アルミニウム含有凝集粒子測定工程(S130))。
【0055】
アルミニウム含有凝集粒子測定工程(S130)後は、所定時間をおいて再び照射工程(S100)に移行する。以上の本発明のアルミニウム含有凝集粒子の測定方法は、例えば、リオン社製のピコプランクトンカウンタXL-10A を用いて実施することができる。
【0056】
本発明のアルミニウム含有凝集粒子の測定方法によれば、凝集処理水に所定波長の光を照射することで、凝集処理水中のアルミニウム含有凝集粒子が励起し、所定波長の蛍光を放射する。この蛍光を受信すること、および凝集処理水中の全ての粒子が散乱した散乱光を受信することで、蛍光粒子の数をアルミニウム含有凝集粒子の数として、散乱光信号のピークの高さからアルミニウム含有凝集粒子の大きさを、直接測定することができる。
【0057】
測定に際し、照射光により励起した凝集処理水中のアルミニウム含有凝集粒子が放射する蛍光を受信し、且つ凝集処理水中の粒子の散乱光を受信しているのみであるので、別に前処理を行う必要もなく、前処理のための試薬も不要となり、また、測定にかかる時間も短縮することができる。
【0058】
そして、凝集処理水中のアルミニウム含有凝集粒子の大きさおよび数を迅速に測定できることから、この凝集処理水中のアルミニウム含有凝集粒子の測定結果に基づき凝集処理の際に添加する凝集剤の添加量を変更したり、および/または凝集処理の撹拌条件を変更したり、凝集処理条件を迅速に調整・最適化することも可能となる。
【0059】
さらに、アルミニウム含有凝集粒子測定工程(S130)が、蛍光強度の電圧区分を該蛍光強度の大きい順に連続する複数区分で設定し、前記蛍光粒子の数を前記蛍光強度の電圧区分ごとに分けて測定し、前記蛍光強度の電圧区分ごとの前記アルミニウム含有凝集粒子の数とする操作を含むことで、ノイズを排除し、且つ被凝集物質の影響も考慮してより正確にアルミニウム含有凝集粒子の数を測定可能となり、また、最も大きな蛍光信号を発するアルミニウム含有凝集粒子の割合を測定することで、凝集処理水について、凝集処理が適切に行われたかどうかを判断することも可能となる。
【0060】
なお、本実施の形態では、本発明のアルミニウム含有凝集粒子の測定方法は散乱光受信工程(S120)を含んでいるが、この工程が必須というわけでは無い。凝集処理水中のアルミニウム含有凝集粒子の数のみを知りたい場合には、散乱光受信工程(S120)を除いてもよい。例えば、後述する実施例2のように、合計の撹拌時間が10~20分を経過する頃にはアルミニウム含有凝集粒子数、すなわち、蛍光粒子数が後述する非蛍光粒子数と比べて一桁多くなっていることから、合計の撹拌時間が10~20分を経過する頃には蛍光粒子数のみを測定し、これを制御することである程度凝集制御を行うことができると考えられる。
【0061】
また、上記実施の形態では、アルミニウム含有凝集粒子測定工程(S130)後は、所定時間をおいて再び照射工程(S100)に移行しているが、一度凝集処理水のアルミニウム含有凝集粒子の(大きさと)数を測定し、凝集処理条件を設定すれば暫く凝集処理水中のアルミニウム含有凝集粒子の物性を監視する必要がないような場合には、アルミニウム含有凝集粒子測定工程(S130)を行った後に本発明のアルミニウム含有凝集粒子の測定方法を終了させることとしても良い。
【0062】
<凝集処理条件の優劣の判定方法>
本発明の凝集処理条件の優劣の判定方法は、浄水処理プロセスにおいて、被処理水に対する凝集処理により得られる凝集処理水について、凝集処理条件の優劣を判定する方法である。
【0063】
被処理水および凝集処理の際に添加される凝集剤については、上述のアルミニウム含有凝集粒子の測定方法で使用されるものと変わるところが無いので、ここではその説明を省略する。
【0064】
被処理水に対する凝集処理により得られた凝集処理水が、本発明の凝集処理条件の優劣の判定方法に供される。図3は、本発明の凝集処理条件の優劣の判定方法を説明するためのフローチャートである。図示のように、本発明の凝集処理条件の優劣の判定方法は、照射工程(S200)と、蛍光受信工程(S210)と、任意工程である散乱光受信工程(S220)と、アルミニウム含有凝集粒子測定工程(S230)と、比率算出工程(S240)と、判定工程(S250)と、を有する。
【0065】
このうち、照射工程(S200)、蛍光受信工程(S210)および散乱光受信工程(S220)については、上記アルミニウム含有凝集粒子の測定方法の照射工程(S100)、蛍光受信工程(S110)および散乱光受信工程(S120)と変わるところが無いので、ここではその説明を省略し、アルミニウム含有凝集粒子測定工程(S230)に移行する。
【0066】
[アルミニウム含有凝集粒子測定工程(S230)]
本工程では、蛍光強度の電圧区分を該蛍光強度の大きい順に連続する複数区分で設定し、前記蛍光受信工程(S210)で受信した蛍光粒子の数を前記蛍光強度の電圧区分ごとに分けて測定し、前記蛍光強度の電圧区分ごとの前記アルミニウム含有凝集粒子の数とする。また、本発明が散乱光受信工程(S220)を有する場合には、アルミニウム含有凝集粒子の数だけでなく、前記蛍光受信工程(S210)で受信した蛍光と前記散乱光受信工程(S220)で受信した散乱光とから前記アルミニウム含有凝集粒子の大きさを特定する。
【0067】
具体的なアルミニウム含有凝集粒子の大きさを特定方法については、図2により説明済みであるので、ここではその説明は省略する。
【0068】
アルミニウム含有凝集粒子測定工程(S220)において測定対象とする凝集処理水中のアルミニウム含有凝集粒子の粒径は、1~3μmの範囲であることが好ましく、1~2μmの範囲であることが特に好ましい。
【0069】
蛍光強度の電圧区分は、どのような区分であっても良いが、例えば、最も低い電圧区分は15mV未満であり、最も高い電圧区分は100mV超である。最も低い電圧区分に関し、15mV未満のピークの蛍光信号はノイズである場合が多く、このノイズと蛍光粒子の存在を反映する蛍光信号のピークとを区別するために設けられる。なお、フローセルの汚れによりノイズが大きく出る可能性もあることから、最も低い電圧区分は23mV未満など、高めに設定されてもよい。
【0070】
最も高い電圧区分は、バイオポリマーなど、被凝集物質の種類によってはその被凝集物質を取り込んだアルミニウム含有凝集粒子は100mV超の蛍光ピークを示すため、それらの蛍光を測定可能とするために設けられる。
【0071】
これら最も低い電圧区分と最も高い電圧区分の間に主にアルミニウム含有凝集粒子を測定する電圧区分が設けられる。アルミニウム含有凝集粒子を測定する電圧区分は、1区分でも良いが、複数区分で設けても良い。複数区分で設けることで、その区分に含まれるアルミニウム含有凝集粒子数を経時的に、あるいは異なる凝集処理水間で比較することで、凝集処理が適切に行われたかどうかを判断するための材料を増やすことができる。
【0072】
蛍光強度の電圧区分は、例えば、15mV未満、15mV以上50mV未満、50mV以上100mV以下、および100mV超の4区分を設定することができる。
【0073】
また、アルミニウム含有凝集粒子の数を測定する時期は、凝集処理の開始時点、凝集処理の途中、凝集処理の終了後など、いかなる時期であってもよいが、凝集処理水について凝集処理条件の優劣を判定する観点からは、凝集処理の終了後の凝集処理水についてアルミニウム含有凝集粒子の数を測定することが好ましい(以上、アルミニウム含有凝集粒子測定工程(S230))。
【0074】
[比率算出工程(S240)]
本工程では、蛍光強度の全電圧区分の合計のアルミニウム含有凝集粒子の数に対する、蛍光強度が最も大きい前記電圧区分のアルミニウム含有凝集粒子の数の比率Rを求める。
【0075】
例えば、凝集処理として凝集剤添加後、急速撹拌3分、緩速撹拌3分、静置5分の凝集処理条件を設定し、蛍光強度の電圧区分として、15mV未満、15mV以上50mV未満、50mV以上100mV以下、および100mV超の4区分を設定した場合、凝集剤を添加して11分後に測定された上記各蛍光強度の電圧区分のアルミニウム含有凝集粒子の数から、
比率R=100mV超の電圧区分のAl含有凝集粒子数/(15mV未満の電圧区分のAl含有凝集粒子数+15mV以上50mV未満の電圧区分のAl含有凝集粒子数+50mV以上100mV以下の電圧区分のAl含有凝集粒子数+100mV超の電圧区分のAl含有凝集粒子数)
として求めることができる。なお、この比率Rは百分率で求めてもよい。また、上記比率Rを求めた式は、あくまで上記蛍光強度の電圧区分を4区分とした場合の例示であって、電圧区分を切り分ける電圧値、電圧区分数については、上記上限および下限の考え方を参考にしつつ任意に設定することができる。比率Rが算出されると、次の判定工程(S240)に移行する(以上、比率算出工程(S240))。
【0076】
[判定工程(S250)]
本工程では、比率算出工程(S240)で求めた前記比率Rの値の大小により、凝集処理条件の優劣を判定する。
【0077】
同一の被処理水に対して凝集処理条件を変更して得られた複数の凝集処理水に対して上記照射工程(S200)~比率算出工程(S240)を実施して得られた比率Rを比較してもよく、水源は同一であるがロットが異なる被処理水や、(例えば、河川水と地下水など)水源自体も異なる被処理水に対して凝集処理を行って得られた凝集処理水に対して上記照射工程(S200)~比率算出工程(S240)を実施して得られた比率Rを比較してもよい。
【0078】
なお、凝集処理条件は、凝集剤の種類とその注入率、凝集pH、撹拌速度と撹拌時間の組み合わせなどが挙げられる。
【0079】
凝集処理が適切に行われた場合、凝集処理水中でアルミニウムポリマー種等を多く含むことで蛍光信号のピークが大きく、且つ安定化して壊れにくい粒子が増加する方向にアルミニウム含有凝集粒子の分布が収束することから、比率Rを比較した結果、比率Rの値が大きい凝集処理水は、比率Rが小さい凝集処理水よりも適切な凝集処理が施されていると判定する(以上、判定工程(S250))。
【0080】
本発明の凝集処理条件の優劣の判定方法によれば、蛍光強度の電圧区分を複数段階に設定し、蛍光強度の全電圧区分の合計のアルミニウム含有凝集粒子の数に対する、蛍光強度が最も大きい前記電圧区分のアルミニウム含有凝集粒子の数の比率Rを算出し、凝集処理水同士でこの比率Rを比較することで凝集処理条件の良し悪しを判定することができる。
【0081】
したがって、浄水処理プロセスにおいて凝集処理条件を決定する際に本発明の凝集処理条件の優劣の判定方法を実施することで、最適な凝集処理条件を簡易的に判定することが可能となる。
【0082】
<アルミニウム含有凝集粒子の測定装置>
図4は、本発明のアルミニウム含有凝集粒子の測定装置10を説明するブロック図である。本発明のアルミニウム含有凝集粒子の測定装置は、被処理水1に対する凝集処理により得られる凝集処理水4中のアルミニウム含有凝集粒子の測定装置であって、凝集処理水採取部12と、光照射部14と、蛍光受信部16と、任意構成の散乱光受信部18と、蛍光粒子測定手段22と、を有する。
【0083】
凝集処理水採取部12は、凝集処理手段3での凝集処理後に得られる凝集処理水4を採取する手段である。凝集処理は、被処理水1に凝集剤2を添加し、凝集処理手段3により混和することで実施される。被処理水1、凝集剤2および凝集処理水4については、上記アルミニウム含有凝集粒子の測定方法で説明済みであり、ここではその説明を省略する。
【0084】
凝集処理水採取部12は、どのようなものであってもよいが、例えば、凝集処理手段3と図示しないろ過手段との間をつなぐ流路からアルミニウム含有凝集粒子の測定装置10へと凝集処理水4を導く分岐部である。凝集処理水4は、この凝集処理水採取部12から図示しないポンプなどの駆動手段によりフローセル13へと導かれる。
【0085】
光照射部14は、採取した凝集処理水4に対して所定波長の光を照射する手段である。光照射部14は、例えば光源を半導体レーザとする光照射手段である。照射する光は、330~460nmの範囲の波長を有することが好ましく、380~420nmの範囲の波長を有することが特に好ましい。
【0086】
凝集処理水4はフローセル13に連続的に供給され、したがって、フローセル13を通過する凝集処理水4中の粒子に上記所定波長の光が照射される。
【0087】
蛍光受信部16は、光照射部14からの光により励起されたアルミニウム含有凝集粒子が放射した所定波長の蛍光を受信し、電気信号に変換する手段である。蛍光は、630~710nmの範囲の蛍光波長を有することが好ましく、660~700nmの範囲の波長を有することが特に好ましい。
【0088】
蛍光受信部16は、例えば、蛍光検出器であり、検出対象の蛍光波長のみが通過する光学的なカットフィルタを有し、これにより、前記所定波長の蛍光のみを受信することが可能となる。
【0089】
散乱光受信部18は、任意構成であって、光照射部14からの光を照射された、凝集処理水4中の凝集粒子が散乱する散乱光を受信し、電気信号に変換する手段である。
【0090】
蛍光粒子測定手段22は、蛍光受信部16が受信した蛍光から蛍光粒子の数を測定する手段であり、本発明のアルミニウム含有凝集粒子の測定装置10がさらに散乱光受信部18を有する場合には、さらに蛍光受信部16が受信した蛍光と散乱光受信部18が受信した散乱光とから蛍光粒子の大きさを特定する手段である。蛍光粒子の大きさの特定および数の測定については、上記アルミニウム含有凝集粒子の測定方法で説明済みであるので、ここではその説明を省略する。
【0091】
蛍光粒子測定手段22は、例えば、制御部20に格納されたプログラムである。
【0092】
制御部20は、光照射部14、蛍光受信部16、散乱光受信部18および蛍光粒子測定手段22を制御する。
【0093】
制御部20は、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)等を備えたコンピュータである。制御部20は、ROMに記憶させたプログラムをRAM上に展開して対応する処理をCPUに実行させる。なお、上記プログラムはROMに記憶されている場合に限らず、NVRAM(Non-Volatile Randam Access Memory)に記憶されていればよい。
【0094】
次に、本発明のアルミニウム含有凝集粒子の測定装置10を用いた凝集処理水4中のアルミニウム含有凝集粒子の測定について簡単に説明する。まず、凝集処理水採取部12からアルミニウム含有凝集粒子の測定装置10のフローセル13へと凝集処理水4を導入する。
【0095】
次に、アルミニウム含有凝集粒子の測定装置10の電源を投入し、起動させることで、制御部20は光照射部14、蛍光受信部16、散乱光受信部18にそれぞれ信号を送る。この信号により、光照射部14はフローセル13中の凝集処理水4に対して所定波長の光を照射し、蛍光受信部16は光照射部14からの光により励起されたアルミニウム含有凝集粒子が放射した所定波長の蛍光を受信し、電気信号に変換し、散乱光受信部18は、光照射部14からの光を照射された、凝集処理水4中の凝集粒子が散乱する散乱光を受信し、電気信号に変換する。これらの電気信号は制御部20に送られる。
【0096】
また、制御部20は、プログラムである蛍光粒子測定手段22をRAM上に展開し、蛍光粒子測定手段22は、蛍光受信部16が受信した蛍光から蛍光粒子の数を測定し、さらに蛍光受信部16が受信した蛍光と散乱光受信部18が受信した散乱光とから蛍光粒子の大きさを特定する。
【0097】
したがって、本発明のアルミニウム含有凝集粒子の測定装置10によれば、上記アルミニウム含有凝集粒子の測定方法同様、蛍光粒子の数をアルミニウム含有凝集粒子の数として、散乱光信号のピークの高さからアルミニウム含有凝集粒子の大きさを、直接測定することができる。
【0098】
なお、本発明のアルミニウム含有凝集粒子の測定装置10としては、例えば、リオン社製のピコプランクトンカウンタXL-10Aを用いることができる。測定対象を凝集処理水4とし、フローセル13の入口側の流路を凝集処理手段3と図示しないろ過手段との間をつなぐ流路に接続することで、本発明のアルミニウム含有凝集粒子の測定装置10とすることができる。
【0099】
<凝集処理条件の優劣の判定装置>
図5は、本発明の凝集処理条件の優劣の判定装置30を説明するブロック図である。本発明の凝集処理条件の優劣の判定装置30は、被処理水に対する凝集処理により得られる凝集処理水4中のアルミニウム含有凝集粒子を測定し、凝集処理条件の優劣を判定する判定装置であって、凝集処理水採取部32と、光照射部34と、蛍光受信部36と、任意構成の散乱光受信部38と、蛍光粒子測定手段42と、比率算出手段44と、判定手段42と、を有する。
【0100】
凝集処理水採取部32は、凝集処理水4を採取する手段である。凝集処理水4は浄水処理プロセスの沈殿池に存在しているものでも、ラボレベルで凝集処理を行ったビーカー中に存在しているものでもよい。凝集処理水採取部42は、例えば、吸引ポンプ35と、吸引ポンプ35により凝集処理水4を吸引する配管の入口部と、から構成される。凝集処理水4は、前記配管を通ってフローセル33へと導かれる。
【0101】
光照射部34は、光照射部14の構成と同様であり、ここではその説明を省略する。
【0102】
凝集処理水4はフローセル33に連続的に供給され、したがって、フローセル33を通過する凝集処理水4中の粒子に照射部34からの所定波長の光が照射される。
【0103】
なお、フローセル33を通過した凝集処理水4は、バルブ37の切り替えにより、そのまま廃棄されるか、または凝集処理水4へと循環させるかを選択することができる。浄水処理プロセスの大容量の沈殿池から凝集処理水採取部32を介して凝集処理水4を採取する場合はそのまま廃棄することでよいが、ラボレベルの小容量のビーカーなどから凝集処理水4を採取する場合、ビーカー中の凝集処理水の減少は、ビーカーに残る凝集処理水4に対して撹拌処理などを行っている場合には撹拌強度を過剰にさせる(すなわち、凝集処理条件に影響する)可能性があることから、ビーカー内へと凝集処理水4を循環させることが好ましい。
【0104】
蛍光受信部36および散乱光受信部38は、それぞれ蛍光受信部16および散乱光受信部18の構成と同様であり、ここではその説明を省略する。
【0105】
蛍光粒子測定手段42は、蛍光強度の電圧区分を蛍光強度の大きい順に連続する複数区分で設定し、蛍光受信部36が受信した蛍光から蛍光粒子の数を前記蛍光強度の電圧区分ごとに分けて測定し、前記蛍光強度の電圧区分ごとの前記アルミニウム含有凝集粒子の数とする手段である。
【0106】
また、本発明が散乱光受信部38を有する場合には、蛍光粒子の数だけでなく、前記蛍光受信部36で受信した蛍光と前記散乱光受信部38で受信した散乱光とから蛍光粒子、すなわち、アルミニウム含有凝集粒子の大きさを特定する。
【0107】
具体的なアルミニウム含有凝集粒子の大きさを特定方法については、図2により説明済みであるので、ここではその説明は省略する。
【0108】
蛍光粒子測定手段42の測定対象とする凝集処理水中のアルミニウム含有凝集粒子の粒径は、1~3μmの範囲であることが好ましく、1~2μmの範囲であることが特に好ましい。
【0109】
蛍光強度の電圧区分は、どのような区分であっても良いが、例えば、最も低い電圧区分は15mV未満であり、最も高い電圧区分は100mV超である。最も低い電圧区分に関し、15mV未満のピークの蛍光信号はノイズである場合が多く、このノイズとアルミニウム含有凝集粒子の存在を反映する蛍光信号のピークとを区別するために設けられる。なお、フローセルの汚れによりノイズが大きく出る可能性もあることから、最も低い電圧区分は23mV未満など、高めに設定されてもよい。
【0110】
最も高い電圧区分は、バイオポリマーなど、被凝集物質の種類によってはその被凝集物質を取り込んだアルミニウム含有凝集粒子は100mV超の蛍光ピークを示すため、それらの蛍光を測定可能とするために設けられる。
【0111】
これら最も低い電圧区分と最も高い電圧区分の間に主にアルミニウム含有凝集粒子を測定する電圧区分が設けられる。アルミニウム含有凝集粒子を測定する電圧区分は、1区分でも良いが、複数区分で設けても良い。複数区分で設けることで、その区分に含まれるアルミニウム含有凝集粒子数を経時的に、あるいは異なる凝集処理水間で比較することで、凝集処理が適切に行われたかどうかを判断するための材料を増やすことができる。
【0112】
蛍光強度の電圧区分は、例えば、15mV未満、15mV以上50mV未満、50mV以上100mV以下、および100mV超の4区分を設定することができる。
【0113】
比率算出手段44は、前記蛍光強度の全電圧区分の合計のアルミニウム含有凝集粒子の数に対する、蛍光強度が最も大きい前記電圧区分のアルミニウム含有凝集粒子の数の比率を求める手段である。
【0114】
本手段は、例えば、蛍光強度の電圧区分として、15mV未満、15mV以上50mV未満、50mV以上100mV以下、および100mV超の4区分を設定した場合、蛍光粒子測定手段42によって測定された上記各蛍光強度の電圧区分の蛍光粒子の数から、
比率r=100mV超の電圧区分のAl含有凝集粒子数/(15mV未満の電圧区分のAl含有凝集粒子数+15mV以上50mV未満の電圧区分のAl含有凝集粒子数+50mV以上100mV以下の電圧区分のAl含有凝集粒子数+100mV超の電圧区分のAl含有凝集粒子数)
として求める。なお、この比率rは百分率で求めてもよい。また、上記比率rを求めた式は、あくまで上記蛍光強度の電圧区分を4区分とした場合の例示であって、電圧区分を切り分ける電圧値、電圧区分数については、上記上限および下限の考え方を参考にしつつ任意に設定することができる。
【0115】
判定手段46は、比率算出手段44が求めた前記比率rの値の大小により、前記凝集処理の条件の優劣を判定する手段である。
【0116】
本手段が比較する前記比率rは、比率算出手段44が求めた比率であればどのようなものであってもよい。同一の被処理水に対して凝集処理条件を変更して得られた複数の凝集処理水についての前記比率算出手段44が求めた比率であってもよく、水源は同一であるがロットが異なる被処理水や、(例えば、河川水と地下水など)水源自体も異なる被処理水に対して凝集処理を行って得られた凝集処理水についての前記比率算出手段44が求めた比率であってもよい。
【0117】
なお、凝集処理条件は、凝集剤の種類とその注入率、凝集pH、撹拌速度と撹拌時間の組み合わせなどが挙げられる。
【0118】
本手段は、前記比率rを比較した結果、大きい値を有する凝集処理水を前記比率の値が小さい凝集処理水よりも凝集処理条件が適切であると判断する。
【0119】
蛍光粒子測定手段42、比率算出手段44および判定手段46は、例えば、制御部40に格納されたプログラムである。制御部40自体の構成は、制御部20の構成と同様であり、ここではその説明を省略する。
【0120】
本発明の凝集処理条件の優劣の判定装置によれば、蛍光強度の電圧区分を複数段階に設定し、蛍光強度の全電圧区分の合計の蛍光粒子の数に対する、蛍光強度が最も大きい前記電圧区分の蛍光粒子の数の比率を算出し、凝集処理水同士でこの比率を比較することで凝集処理条件の良し悪しを判定することができる。
【0121】
したがって、浄水処理プロセスにおいて凝集処理条件を決定する際に本発明の凝集処理条件の優劣の判定装置を用いることで、最適な凝集処理条件を簡易的に判定することが可能となる。
【0122】
<被処理水の凝集処理装置>
図6は、本発明の被処理水の凝集処理装置50を説明するブロック図である。図示のように、本発明の被処理水の凝集処理装置50は、凝集処理手段3と、上記本発明のアルミニウム含有凝集粒子の測定装置10と、を有する。
【0123】
凝集処理手段3は、凝集剤2を添加した被処理水1に対して凝集処理を行い、凝集処理水4を得る手段である。被処理水1、凝集剤2、凝集処理水4については、上記アルミニウム含有凝集粒子の測定方法で説明済みであり、ここではその説明を省略する。
【0124】
凝集処理手段3は、例えば、インラインミキサー、撹拌手段を備えた撹拌槽を挙げることができる。凝集処理手段3は、急速撹拌槽および急速撹拌槽の後段に位置する緩速撹拌槽を備えることが好ましい。
【0125】
凝集剤2は凝集処理手段3よりも前段の位置または凝集処理手段3で凝集剤注入装置(図示せず)により被処理水1中に注入される。なお、図4では、凝集処理手段12で凝集剤2が被処理水1に注入されている。
【0126】
凝集処理手段12が急速撹拌槽および急速撹拌槽の後段に位置する緩速撹拌槽を備える場合、急速撹拌槽は一槽でもよく、複数槽が直列に配置されたものであってもよい。複数槽である場合、三槽以下であることが好ましく、特に急速撹拌槽が三槽であることが好ましい。急速撹拌の撹拌強度は、水道施設設計指針2012による撹拌強度(速度勾配)G値で考えると、100 1/s以上であり、緩速撹拌槽のG値は10~75 1/sの範囲である。
【0127】
凝集処理手段3においてアルミニウム系凝集剤である凝集剤2を添加した被処理水1に対して凝集処理が施されることで、アルミニウム含有凝集粒子を含む凝集処理水4が得られる。
【0128】
凝集処理水4は、ろ過手段5によりろ過され、処理水6となる。ろ過手段5は、例えば、砂ろ過装置、精密ろ過膜(MF膜)や限外ろ過膜(UF膜)を有する膜ろ過装置が挙げられる。
【0129】
アルミニウム含有凝集粒子の測定装置10は、すでに説明済みであるのでここではその説明は省略する。
【0130】
本発明の被処理水の凝集処理装置50によれば、アルミニウム含有凝集粒子の測定装置10により凝集処理水4中のアルミニウム含有凝集粒子の濃度を迅速に測定することができるので、この凝集処理水4中のアルミニウム含有凝集粒子の測定結果に基づき凝集処理手段3(またはその前段の位置)に添加する凝集剤2の添加量を変更したり、および/または凝集処理手段3の撹拌条件を変更したり、凝集処理条件を迅速に調整・最適化することが可能となる。
【0131】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例0132】
<実施例1>
水道水にカオリン(富士フイルム和光純薬株式会社製はくとう土)を濃度0.5mg/Lとなるように添加し、模擬濁水(以下、被処理水と呼ぶ)を作成した。
【0133】
この原水を容積500mLのビーカーに500mL分取し、ポリ塩化アルミニウム(PACl、大明化学工業社株式会社製タイパック)を注入率で、5、10、15、20mg/Lになるように添加し、急速撹拌130rpmで混和することにより凝集処理を行い、室温下、得られた凝集処理水中の蛍光粒子および非蛍光粒子の数を蛍光検出器を有する微粒子計で測定した。
【0134】
微粒子計の仕様および測定条件は以下のとおりである。
【0135】
微粒子計 リオン社製 ピコプランクトンカウンタ XL-10A
流量 10mL/分
測定時間 10秒
励起波長 405nm
蛍光波長 680nm
測定モード Largeモード(粒径範囲:1~8μm)
通水モード:ワンパスモード
蛍光強度区分(電圧):15mV以上の1区分
【0136】
図7は、蛍光検出器を有する微粒子計で実施例1で得られた凝集処理水中の粒径1~2μmの粒子の数を測定したグラフである。微粒子計による粒子カウント数を縦軸で、凝集処理水の急速撹拌時間を横軸で示す。図7中、凡例の白抜きのシンボルは非蛍光粒子の数を、塗りつぶしのシンボルは蛍光粒子の数を、シンボルの右隣の5~20mg/Lの数字は各凝集処理水へのポリ塩化アルミニウムの注入率を、それぞれ示す。なお、非蛍光粒子とは、図2において同じ時点に蛍光信号のピークが存在しない散乱光信号のピークにより特定された粒子である。
【0137】
図7に示すように、急速撹拌0分、すなわち、ポリ塩化アルミニウム添加直後の状態では、非蛍光粒子の数が30,000個/1.7mL程度であり、蛍光粒子の数は10個/1.7mLより小さい。
【0138】
しかし、急速撹拌の撹拌時間が長くなるに従い、非蛍光粒子の数が減少し、蛍光粒子の数が増加して行く。これは、急速撹拌により、カオリン由来の非蛍光粒子がポリ塩化アルミニウム中に含まれる100nmより小さいアルミニウムの金属粒子と衝突し、あるいは取り込み、蛍光粒子となったことによるものと考えられる。
【0139】
さらに時間が経過すると、蛍光粒子数は次第に増加し、ある値で最大値を示し、その後は減少に転じる。これは、上記のアルミニウムの金属粒子の取り込みにより蛍光粒子数が増大したことにより蛍光粒子数が増大したことと、急速撹拌時間がさらに延びたことで蛍光粒子が他の蛍光粒子や非蛍光粒子と衝突・合体して数が減ったこと、この衝突・合体により大きさが2μmよりも大きくなったこと、などによるものと考えられる。
【0140】
<比較例1>
実施例1と同じ模擬濁水(被処理水)を使用し、この被処理水にポリ塩化アルミニウムを添加しないこと以外はすべて実施例1と同じ条件で模擬濁水の急速撹拌による凝集処理試験を行い、蛍光粒子および非蛍光粒子の数を測定した。
【0141】
図8は、蛍光検出器を有する微粒子計で比較例1で得られた凝集処理水中の粒径1~2μmの粒子の数を測定したグラフである。微粒子計による粒子カウント数を縦軸で、凝集処理水の急速撹拌時間を横軸で示す。図8中、凡例の白抜きのシンボルは非蛍光粒子の数を、塗りつぶしのシンボルは蛍光粒子の数を示す。
【0142】
図8に示すように、急速撹拌0分、すなわち、ポリ塩化アルミニウム添加直後の状態では、非蛍光粒子の数が30,000個/1.7mL程度であり、蛍光粒子の数は10個/1.7mLより小さい。そして、非蛍光粒子、蛍光粒子ともに、急速撹拌の時間が延びても変化がない。
【0143】
これは、比較例1においては、ポリ塩化アルミニウムを添加していないので、急速撹拌を行ってもアルミニウム含有凝集粒子が生じなかったことを示している。
【0144】
実施例1および比較例1の結果から、本発明によりアルミニウム含有凝集粒子を蛍光粒子として測定できることがわかった。
【0145】
<実施例2>
実施例1と被処理水が異なる点および撹拌条件が異なる点以外はすべて実施例1と同じ条件で被処理水の撹拌による凝集処理試験を行い、蛍光粒子および非蛍光粒子の数を測定した。
【0146】
被処理水としては、実際の水道原水である河川水を用いた。
【0147】
撹拌条件は、最初に急速撹拌(130rpm、2分)を行い、続いて緩速撹拌(30rpm、0分~28分迄)を行った。実施例2では、急速撹拌→緩速撹拌にいたる粒子の凝集の経時的変化を評価するために、上記のように合計撹拌時間30分まで測定しているが、実際の浄水場での運転条件は、急速撹拌(130rpm、2分)→緩速撹拌(30rpm、20分)である。
【0148】
図9は、蛍光検出器を有する微粒子計で実施例2で得られた凝集処理水中の粒径1~2μmの粒子の数を測定したグラフである。微粒子計による粒子カウント数を縦軸で、凝集処理水の合計の撹拌時間を横軸で示す。図9中、凡例の白抜きのシンボルは非蛍光粒子の数を、塗りつぶしのシンボルは蛍光粒子の数を、シンボルの右隣の5~20mg/Lの数字は各凝集処理水へのポリ塩化アルミニウムの注入率を、それぞれ示す。
【0149】
図9に示すように、全てのポリ塩化アルミニウムの注入率で撹拌時間の合計が2分~8分の間に蛍光粒子数のピークが現れ、それ以降の時間では蛍光粒子数が減少し、撹拌時間の合計が22分を過ぎたあたりで非蛍光粒子数の減少も落ち着いている。したがって、蛍光粒子および非蛍光粒子の数の変動からも、撹拌時間の合計が22分、すなわち、急速撹拌(130rpm、2分)→緩速撹拌(30rpm、20分)の条件が理想的な撹拌時間であるとわかる。
【0150】
また、ポリ塩化アルミニウムの添加濃度(注入率)に着目すると、他の注入率と比較してポリ塩化アルミニウムの注入率が30mg/Lの場合が最も蛍光粒子の数が小さく、したがって、この場合が最適注入率であるとわかった。
【0151】
さらに、撹拌時間の増加に伴う蛍光粒子数の変化を見てみると、蛍光粒子数のピークに至るまでの合計撹拌時間は、PACl注入率10mg/Lが最も長く(10分)、次いで、注入率40mg/Lであり(6分)、一番短かったのは、注入率20mg/L(2分)と30mg/L(2分)であった。
【0152】
注入率10mg/LではPACl注入量が不足し、注入率40mg/LではPACl注入量が過剰であると考えられた。
【0153】
<実施例3>
図10は、実施例3に用いたアルミニウム含有凝集粒子の測定装置Dの装置構成を示すブロック図である。具体的には、図5の凝集処理条件の優劣判定装置から比率算出手段44および判定手段46を削除し、容量500mLのビーカー内で凝集処理を行い、得られた凝集処理水4中のアルミニウム含有凝集粒子を循環方式(以下、循環モードという)で、あるいは測定液をそのまま廃棄する方式(以下、ワンパスモードという)で測定可能な構成を有している。
【0154】
まず、容量500mlのビーカーを8個準備し、各ビーカーに500mlずつ被処理水としての水道水を注いだ。各ビーカー中の水道水を撹拌機を用いて130rpmで急速撹拌した。
【0155】
次に、各ビーカーに必要により中和剤(水酸化ナトリウム(富士フイルム和光純薬株式会社製)および硫酸(富士フイルム和光純薬株式会社製))を添加し、次いでポリ塩化アルミニウム(PACl、大明化学工業株式会社製タイパック)を注入率で5mg/Lとなるように添加することで、凝集pHを5.5、6.0、6.2、6.5、6.8、7.0、7.2、7.5の8段階となるように調整して凝集処理を行い、室温下、凝集処理開始から終了まで、凝集処理水中の蛍光粒子および非蛍光粒子の数を蛍光検出器を有する微粒子計でリアルタイム測定を行った。
【0156】
微粒子計の仕様および測定条件は以下のとおりである。
【0157】
微粒子計 リオン社製 ピコプランクトンカウンタ XL-10A
流量: 10mL/分
測定時間:10秒
励起波長:405nm
蛍光波長:680nm
測定モード:Largeモード(粒径範囲1~8μm)
通水モード:ワンパスモード
蛍光強度区分(電圧):15mV未満、15mV以上50mV未満、50mV以上100mV以下、および100mV超の4区分
【0158】
図11図18は、各蛍光検出器を有する微粒子計で実施例3で得られた各凝集pHを有する凝集処理水中の粒径1~2μmの粒子の数を測定したグラフである。微粒子計による粒子カウント数を縦軸で、ポリ塩化アルミニウムおよび必要により中和剤を添加してからの凝集処理水の急速撹拌時間を横軸で示す。各図において、凡例の白抜き丸のシンボルは蛍光強度15mV未満の非蛍光粒子の数を、三角塗りつぶしのシンボルは蛍光強度15mV以上50mV未満の蛍光粒子の数を、四角塗りつぶしシンボルは蛍光強度50mV以上100mV以下の蛍光粒子の数を、丸塗りつぶしのシンボルは蛍光強度100mV超の蛍光粒子の数をそれぞれ示す。
【0159】
なお、各区分とも、散乱光信号のピーク高さにより粒径1~2μmの範囲にあると判断された粒子の数を測定している。
【0160】
本実施例ではポリ塩化アルミニウム注入率が5mg/Lと低く、且つ被凝集物質がほとんどない水道水を被処理水として使用しているため、図11図18に示すように、蛍光粒子数のピークはポリ塩化アルミニウム添加後10分程度に生じており、これは実施例2(図9参照)と比較しても遅い。
【0161】
また、いずれの凝集pHでも蛍光粒子数の多い蛍光強度区分(電圧)は15mV以上50mV未満および50mV以上100mV以下の区分であり、被凝集物質を取り込まない、ほぼポリ塩化アルミニウム単独で形成される蛍光粒子では蛍光強度が小さいことがわかる。
【0162】
また、図11図18を比較すると、pH6.0~pH6.2あたりで蛍光強度100mV超の蛍光粒子の数が増加して最大となり、そこからpHの値が大きくなるほど蛍光強度100mV超の蛍光粒子の数が減少していることがわかる。これは、蛍光するアルミニウム種が水酸化アルミニウム凝析体ではなく、ケギン型アルミニウム13量体クラスターなどを含むアルミニウムポリマー種、それらの複合体であるアルミニウムコロイド種、アルミニウムナノ粒子であるためと考えられる。
【0163】
また、本実施例の結果から、バイオポリマーなどの被凝集物質が比較的高濃度で存在し、ポリ塩化アルミニウムの注入率が十分であれば、蛍光強度100mV超の蛍光粒子の存在量が大きく増大するものと考えられた。
【0164】
<実施例4>
本実施例においても、実施例3同様、図10の装置構成を有するアルミニウム含有凝集粒子の測定装置Dを用いて被処理水の凝集処理および凝集処理水中のアルミニウム含有凝集粒子の測定を行った。
【0165】
本実施例は、凝集膜ろ過による浄水処理プロセスにおける膜前処理としての凝集処理の検討のために行った。本実施例では、容量500mlのビーカーを3個準備し、各ビーカーに500mlずつ比較的清澄な水道原水である河川水(濁度:0.9度、色度:7度、pH7.2、TOC:0.5mg/L)を注ぎ、被処理水とした。この被処理水に対して前述の中和剤を必要により添加し、ポリ塩化アルミニウム(PACl、大明化学工業株式会社製タイパック)を注入率で10mg/L、20mg/L、30mg/Lとなるようにそれぞれ添加することで各区分の凝集pHが7.0となるように調整し、室温下で凝集処理を行った。
【0166】
凝集処理の条件は、ポリ塩化アルミニウム添加後、急速撹拌(急撹)(130rpm)3分⇒緩速撹拌(緩撹)(30rpm)5分⇒静置5分である。凝集処理開始から終了まで、凝集処理水中の蛍光粒子および非蛍光粒子の数を蛍光検出器を有する微粒子計でリアルタイム測定を行った。
【0167】
微粒子計の仕様および測定条件は以下のとおりである。
【0168】
微粒子計 リオン社製 ピコプランクトンカウンタ XL-10A
流量: 10mL/分
測定時間:10秒
励起波長:405nm
蛍光波長:680nm
測定モード:Largeモード(粒径範囲1~8μm)
通水モード:循環モード
蛍光強度区分(電圧):15mV未満、15mV以上50mV未満、50mV以上100mV以下、および100mV超の4区分
【0169】
図19図21は、各蛍光検出器を有する微粒子計で実施例4で各凝集処理水中の粒径1~2μmの粒子の数を測定したグラフである。微粒子計による粒子カウント数を縦軸で、ポリ塩化アルミニウムおよび必要により中和剤を添加してからの経過時間を横軸で示す。なお、各図において、凡例のシンボルの説明は図11図18の判例のシンボルの説明と同一であり、ここではその記載を省略する。
【0170】
図16の条件と比較して図19の条件では被処理水中に被凝集物質が高濃度で存在することから、蛍光強度区分(電圧)が100mV超の区分の粒子カウント数が増大していた。一方で、図20図21の条件と比較して図19の条件では蛍光強度区分(電圧)15mV未満、15mV以上50mV未満、および50mV以上100mV以下の粒子カウント数が大きく、相対的に100mV超の区分の粒子カウント数が小さいことから、この撹拌条件ではポリ塩化アルミニウムの注入率10mg/Lでは十分ではなく、20mg/L~30mg/Lの注入率が好ましいと考えられた。
【0171】
なお、図19図21の条件では、被処理水として比較的清澄な水道原水である河川水を用いていることから、ピコプランクトンの数が少なく、よって、1~2μmの蛍光粒子を測定することで、PACl注入後からのアルミニウム含有凝集粒子の挙動を正しく測定することができている。
【0172】
他方、被処理水中にピコプランクトンが多量に存在する場合には、1~2μmの蛍光粒子を測定していてもその範囲にピコプランクトンが大量に存在し、ピコプランクトンとアルミニウム含有凝集粒子との見分けがつかない場合も考えられる。その場合、PACl注入後からの100mV超の区分の粒子カウント数の変化を経時的に観察することで判別することができる。すなわち、被処理水中にピコプランクトンが多量に存在する場合、凝集処理水へのPACl注入直後に100mV超の区分の高い粒子カウント数を示すことから(一方、被処理水中にピコプランクトンが少ない場合、図19~21に示すように、凝集処理水へのPACl注入直後の100mV超の区分の粒子カウント数は小さい)、PACl注入後からの100mV超の区分の粒子カウント数の変化を経時的に観察することで、被処理水に本発明が適用できるかどうかを判断することも可能である。
【0173】
<実施例5>
本実施例においても、実施例3同様、図10の装置構成を有するアルミニウム含有凝集粒子の測定装置Dを用いて被処理水の凝集処理および凝集処理水中のアルミニウム含有凝集粒子の測定を行った。
【0174】
本実施例も、凝集膜ろ過による浄水処理プロセスにおける膜前処理としての凝集処理の検討のために行った。本実施例は、実施例4の検討を踏まえた最適凝集処理条件の検討であり、撹拌処理の条件をポリ塩化アルミニウム添加後、急速撹拌(急撹)(130rpm)6分⇒緩速撹拌(緩撹)(30rpm)3分⇒静置5分とし、ポリ塩化アルミニウム(PACl、大明化学工業株式会社製タイパック)を注入率で30mg/Lとなるように添加したこと以外、実施例4と同様に凝集処理を行い、凝集処理開始から終了まで、凝集処理水中の蛍光粒子および非蛍光粒子の数を蛍光検出器を有する微粒子計でリアルタイム測定を行った。
【0175】
微粒子計の仕様および測定条件も実施例4と同様である。結果を図22に示す。
【0176】
図22は、各蛍光検出器を有する微粒子計で実施例5で得られた凝集処理水中の粒径1~2μmの粒子の数を測定したグラフである。図示のように、粒子カウント数のピーク出現時間は、ポリ塩化アルミニウムを添加してから2.0~2.5分後であり、急速撹拌終了後の粒子カウント数は電圧が大きい蛍光強度区分の方が多く、これは急速撹拌時間が3分と短い実施例4とは異なる傾向であった。
【0177】
加えて、緩速撹拌時に粒子カウント数が増加する傾向が観察され、マイクロフロックの生成と破壊のバランスは生成の方に傾いており、これはアルミニウムナノ粒子がマイクロフロックに接触するためと考えられた。
【0178】
<凝集ファウリングポテンシャルのK2値と100mVの蛍光粒子/全電圧区分の蛍光粒子の合計の比との比較>
i)凝集ファウリングポテンシャルのK2値の測定
実施例4および実施例5の凝集処理水について、凝集ファウリングポテンシャルのK2値を測定した。凝集ファウリングポテンシャルの測定方法については、非特許文献3(貝谷吉英著、「凝集処理における膜ろ過水質評価指標に関する一考察」、日本水環境学会シンポジウム講演集、第25巻、第49~50頁、2022年8月30日発行)の記載に従う。
【0179】
具体的には、500mL用量のビーカーに500mLの被処理水を注ぎ、前述の中和剤を必要により添加し、ポリ塩化アルミニウム(PACl、塩基度50%、大明化学工業株式会社製タイパック)を注入率で25mg/Lとなるように添加することで凝集pHが7.0となるように調整し、室温下で凝集処理を行った。凝集処理条件は、急速撹拌(130rpm)2分⇒緩速撹拌(30rpm)20分⇒静置5分とし、得られた凝集処理水を膜ろ過試験に供した。
【0180】
膜ろ過試験は、公称孔径0.1μmの疎水性PVDF膜を用いて全量定圧ろ過(吸引圧力 90kPa)を行い、ろ過流量の経時変化(ろ過流量Qに対する初期流量Qの比、Q/Q)を測定した。そして、単位面積当たりのろ過流量(Vs)が0.32m/mに到達後、スポンジで膜表面を洗浄し、洗浄後の膜を再びろ過水で全量定圧ろ過(吸引圧力 90kPa)を行いろ過流量の経時変化(Q/Q)を測定した。
【0181】
図23は、非特許文献3の、河川水である原水A(濁度:1.8度、色度:3.4度、TOC:0.7mg/L)における凝集ファウリングポテンシャルの算出例を示すグラフであり、凝集ファウリングポテンシャルの意義を示すために本明細書でも引用する。凝集処理条件および膜ろ過試験については、非特許文献3に記載のとおりでありここではその説明を省略する。
【0182】
図示のように、原水Aの凝集処理水について膜ろ過試験を行った結果、3つのみかけケーキろ過定数(初期閉塞期のろ過定数:K1、第二閉塞期のろ過定数:K2、および第二閉塞期の不可逆汚染に由来するろ過定数:K2ir)が得られ、これらは凝集ファウリングポテンシャル(Coagulation Fouling Potential:CFP、又は凝集FP)を構成する。
【0183】
このうち、K2はみかけケーキの粒径や粒子濃度などの特性を反映した主指標であり、膜ろ過に供される凝集処理水の水質指標であると考えられていることから、本実施例においても、実施例4および実施例5に供された被処理水に対して上記凝集処理を行い、凝集ファウリングポテンシャルのK2を測定した。
ii)>100mVの蛍光粒子/全電圧区分の蛍光粒子の合計の比の算出
実施例4~実施例5の4区分の凝集処理水について、凝集処理がほぼ終了し、且つこの4区分の測定データが存在する時点(凝集処理開始から12.5分)の粒径1~2μmの粒子カウント数の、蛍光強度の全電圧区分(15mV未満~100mV超の全区分)の合計のAl含有凝集粒子の数に対する、蛍光強度が最も大きい電圧区分(100mV超)のAl含有凝集粒子の数の比率(百分率)を算出した。
【0184】
結果を表1に示す。
【0185】
【表1】
【0186】
表中、実施例No.4-1~4-3は、それぞれ実施例4のPAC注入率10mg/L、20mg/L、30mg/Lの凝集処理条件に対応し、実施例No.5-1は実施例5の凝集処理条件に対応する。表1に示すように、凝集ファウリングポテンシャルのK2値は実施例No.5-1、4-3、4-2、4-1の順に小さいことから、実施例No.5-1の凝集処理水が最も膜閉塞性が小さく、実施例No.4-1の凝集処理水が最も膜閉塞性が大きい。換言すると、実施例No.5-1の凝集処理条件が最適であり、実施例No.4-1の凝集処理条件が最も改善の余地があることが分かる。
【0187】
次に、蛍光強度の全電圧区分(15mV未満~100mV超の全区分)の合計のAl含有凝集粒子の数に対する、蛍光強度が最も大きい電圧区分(100mV超)のAl含有凝集粒子の数の比率(百分率)を比較すると、実施例No.5-1の凝集処理水においてこの比率が最も大きく、実施例No.4-1の凝集処理水において同比率は最も小さくなっていた。
【0188】
したがって、この比率と凝集ファウリングポテンシャルのK2値との対比から、この比率が大きい凝集処理水はこの比率が小さい凝集処理水と比較してより膜閉塞性が小さい、凝集処理条件が適切である凝集処理水であることがわかった。
【符号の説明】
【0189】
3 凝集処理手段
10 アルミニウム含有凝集粒子の測定装置
12、32 凝集処理水採取部
14、34 光照射部
16、36 蛍光受信部
18、38 散乱光受信部
22、42 蛍光粒子測定手段
30 凝集処理条件の優劣判定装置
42 判定手段
44 比率算出手段
50 被処理水の凝集処理装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23