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特開2024-19052建物内における、水道水が使用される設備を含むユニット、または当該ユニットの表面に塩素耐性メチロバクテリウムが増殖するのを抑制するための、もしくは当該ユニットの表面に増殖した塩素耐性メチロバクテリウムを殺菌するための方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024019052
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】建物内における、水道水が使用される設備を含むユニット、または当該ユニットの表面に塩素耐性メチロバクテリウムが増殖するのを抑制するための、もしくは当該ユニットの表面に増殖した塩素耐性メチロバクテリウムを殺菌するための方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/461 20230101AFI20240201BHJP
   A61L 2/18 20060101ALI20240201BHJP
   A47K 4/00 20060101ALN20240201BHJP
   E03D 9/00 20060101ALN20240201BHJP
   A61L 101/06 20060101ALN20240201BHJP
   A61L 101/10 20060101ALN20240201BHJP
【FI】
C02F1/461 Z
A61L2/18
A47K4/00
E03D9/00 C
A61L101:06
A61L101:10
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023119228
(22)【出願日】2023-07-21
(31)【優先権主張番号】P 2022122127
(32)【優先日】2022-07-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
(71)【出願人】
【識別番号】000010087
【氏名又は名称】TOTO株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094640
【弁理士】
【氏名又は名称】紺野 昭男
(74)【代理人】
【識別番号】100103447
【弁理士】
【氏名又は名称】井波 実
(74)【代理人】
【識別番号】100111730
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 武泰
(74)【代理人】
【識別番号】100180873
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 慶政
(72)【発明者】
【氏名】細川 彩乃
(72)【発明者】
【氏名】伊丹 愛子
(72)【発明者】
【氏名】山名 良正
(72)【発明者】
【氏名】早川 信
(72)【発明者】
【氏名】高江洲 英希
(72)【発明者】
【氏名】波多 朱梨
【テーマコード(参考)】
2D038
2D132
4C058
4D061
【Fターム(参考)】
2D038AA03
2D038ZA00
2D132GA11
4C058AA23
4C058BB07
4C058DD03
4C058JJ07
4D061DA03
4D061DB09
4D061EA03
4D061EB01
4D061EB04
4D061EB17
4D061EB19
4D061EB20
4D061EB39
4D061GC02
4D061GC12
4D061GC14
4D061GC18
4D061GC19
(57)【要約】
【課題】 塩素耐性メチロバクテリウムの増殖を効果的に防止し、または増殖した塩素耐性メチロバクテリウムを効果的に殺菌することが可能な、建物内における、水道水が使用される設備を含むユニットの提供。
【解決手段】 建物内における、水道水が使用される設備を含むユニットであって、当該ユニットは、前記水道水が使用される設備に水道水を提供する手段と、水道水を電気分解して電解水を生成する電解装置と、前記電解水を当該ユニットの表面に接触させることを可能とする電解水吐出手段とを備え、前記電解水は、下記A、B、Cのいずれか:A:0.05ppm以上のオゾンと、1.5ppm以上の遊離塩素とを含む、B:0.1ppm以上のオゾンと、0.75ppm超の遊離塩素とを含む、C:0.2ppm以上のオゾンと、0.1ppm以上の遊離塩素とを含む、である、ユニット。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物内における、水道水が使用される設備を含むユニットであって、
当該ユニットは、前記水道水が使用される設備に水道水を提供する手段と、水道水を電気分解して電解水を生成する電解装置と、前記電解水を前記ユニットの表面に接触させることを可能とする電解水吐出手段とを備え、
前記電解水は、下記A、B、Cのいずれか:
A:0.05ppm以上のオゾンと、1.5ppm以上の遊離塩素とを含む
B:0.1ppm以上のオゾンと、0.75ppm超の遊離塩素とを含む
C:0.2ppm以上のオゾンと、0.1ppm以上の遊離塩素とを含む
である、ユニット。
【請求項2】
前記電解水は、0.1ppm以上のオゾンと、0.75ppm超の遊離塩素とを含み、または、0.2ppm以上のオゾンと、0.1ppm以上の遊離塩素とを含む、請求項1に記載のユニット。
【請求項3】
前記水道水が使用される設備に水道水を提供する手段は、前記電解装置を経由して前記水道水が使用される設備に水道水を提供する第一の水道水提供手段と、前記電解装置を経由せずに前記水道水が使用される設備に水道水を提供する第二の水道水提供手段とを含む、請求項1または2に記載のユニット。
【請求項4】
前記水道水が使用される設備に水道水を提供する手段は、前記電解装置を経由して前記水道水が使用される設備に水道水を提供する第一の水道水提供手段であり、前記電解装置がOFFのときは前記水道水が使用される設備に水道水が提供され、前記電解装置がONのときは前記水道水が使用される設備に電解水が提供される、請求項3に記載のユニット。
【請求項5】
前記電解水に含まれるオゾンの濃度は、3ppm未満である、請求項1または2に記載のユニット。
【請求項6】
前記電解水に含まれる遊離塩素の濃度は、5ppm未満である、請求項1または2に記載のユニット。
【請求項7】
前記電解水に含まれる遊離塩素の濃度は、5ppm未満である、請求項5に記載のユニット。
【請求項8】
前記電解装置は、水道水を電気分解して電解水を生成する電解槽と、前記電気分解を制御する制御部とを備え、
前記電解槽は、水道水が流入する流入口と、当該流入口に連通する通水路と、当該通水路の途上に設けられ、流入した水道水を電気分解するための電極と、前記通水路の下流側かつ前記電極よりも下流側に設けられた電気電解水が流出する流出口とを備え、
前記流出口と前記電解水吐出手段とは連通してなり、
前記制御部は、前記電解水の前記電解水吐出手段からの前記ユニットの表面への吐出を制御する、請求項1または2に記載のユニット。
【請求項9】
前記電極は、オゾンおよび遊離塩素の双方を生成する一つの電極対を備えている、請求項8に記載のユニット。
【請求項10】
前記電極は、オゾンを生成する電極対および遊離塩素を生成する電極対を別個に備えている、請求項8に記載のユニット。
【請求項11】
前記電解装置は、前記電極に塩素化合物を供給する手段を備えていない、請求項8に記載にユニット。
【請求項12】
建物内における、水道水が使用される設備を含むユニットの表面に塩素耐性メチロバクテリウムが増殖するのを抑制するための、または前記ユニットの表面に増殖した塩素耐性メチロバクテリウムを殺菌するための方法であって、
当該方法は、前記ユニットの表面に、水道水を電気分解して得られる電解水を接触させることを含み、
前記電解水は、A、B、Cのいずれか:
A:0.05ppm以上のオゾンと、1.5ppm以上の遊離塩素とを含む
B:0.1ppm以上のオゾンと、0.75ppm超の遊離塩素とを含む
C:0.2ppm以上のオゾンと、0.1ppm以上の遊離塩素とを含む
である、方法。
【請求項13】
前記電解水は、0.1ppm以上のオゾンと、0.75ppm超の遊離塩素とを含み、または、0.2ppm以上のオゾンと、0.1ppm以上の遊離塩素とを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記電解水に含まれるオゾンの濃度は、3ppm未満である、請求項12または13に記載の方法。
【請求項15】
前記電解水に含まれる遊離塩素の濃度は、5ppm未満である、請求項12または13に記載の方法。
【請求項16】
前記電解水に含まれる遊離塩素の濃度は、5ppm未満である、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
建物内における、水道水が使用される設備を含むユニットであって、
当該ユニットは、前記水道水が使用される設備に水道水を提供する手段と、水道水を電気分解して電解水を生成する電解装置と、前記電解水を前記ユニットの表面に接触させることを可能とする電解水吐出手段とを備え、
前記電解水は、オゾンと遊離塩素とを含み、かつ、前記オゾンの濃度と前記遊離塩素の濃度は、後者をy(ppm)、前者をx(ppm)としたとき、下記式1、式2、および式3:
式1:y≧4.1079e-18.35x
式2:0.1≦y<5
式3:0<x<3
で表される各条件を全て満たす、ユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物内における、水道水が使用される設備を含むユニットに関する。詳細には、水道水を電気分解して得られる電解水の利用により良好な衛生性が維持可能とされた前記ユニットに関する。また、本発明は、建物内における、水道水が使用される設備を含むユニットの表面に塩素耐性メチロバクテリウムが増殖するのを抑制するための、もしくは当該ユニットの表面に増殖した塩素耐性メチロバクテリウムを殺菌するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
清潔で快適な生活環境を求める消費者が増加しており、生活環境、特に建物内において水道水が使用される設備を含む空間を衛生的に維持可能とする技術が求められている。例えば、トイレ、浴室、キッチン、洗面など、水道水が使用されるエリアには菌やカビが繁殖しやすい。このようなエリアを衛生的に維持するため、人による洗剤等を用いた定期的な清掃が行われているが、手間がかかる作業である。また、洗剤は環境に及ぼす影響や安全性の観点で問題となる場合がある。
【0003】
上記のような手間や問題を軽減しながら水道水が使用されるエリアを殺菌する方策として、水道水を電気分解して得られる電解水を利用する技術が提案されている。例えば、特開平10-306484号公報(特許文献1)には、水道水を電気分解して得られた遊離塩素(段落0023)またはオゾン(段落0025)を含む水を便器内に流すことにより、ウレアーゼ産生細菌を殺菌し、アンモニアの生成、ひいては尿石の付着を抑制することが開示されている。特許文献1には、「上記便器洗浄装置では、遊離塩素含有水を生成する電気分解槽181を設けたが、これを(中略)オゾン含有水を生成する装置に代えてもよい。」と記載され(段落0402)、また[実施例]においても、遊離塩素またはオゾンのいずれか一方を含む電解水の殺菌力が評価されていることから、遊離塩素およびオゾンの双方を含む電解水は考慮されていないと理解される。
【0004】
また、特開2008-168002号公報(特許文献2)には、水道水を電気分解して得られた遊離塩素含有水(段落0027)を浴室の床面(洗い場)に吐水することにより、ヌメリやピンク汚れなどの微生物汚れを抑制することが開示されている。特許文献2によれば、洗い場へ吐水される殺菌水(遊離塩素含有水)と、主に浴槽内へ吐水される洗浄水(オゾンガスを水に溶解させて得たオゾン水)が、棲み分けて使用されていることが理解される。
【0005】
さらに、特開2008-073604号公報(特許文献3)には、オゾンおよび次亜塩素酸の双方を含む電解水を用いた殺菌方法が開示されている。特許文献3によれば、棒状の陽極と、この陽極に螺旋状に巻いた帯状の隔膜と、この隔膜に巻いた陰極とからなる陽極-膜-陰極接合体からなる電解ユニットで、食塩を含む水道水を電気分解し、3ppmのオゾンおよび0.5ppmの次亜塩素酸を含む電解水(実施例2)、0.1ppm以下のオゾンおよび10ppmの次亜塩素酸を含む電解水(実施例3)を生成したことが具体的に記載されている。しかし、特許文献3に記載の方法では、オゾンおよび次亜塩素酸の双方を含む電解水を生成するために、とりわけ次亜塩素酸を生成するために、原料である水道水に都度食塩(塩素化合物)を添加する必要があり、実施者の利便性が損なわれる。
【0006】
他方、文献「浴室に潜むピンクモンスター[著:井原望]、生物工学会誌第94巻 第4号 2016年」(非特許文献1)には、住宅内の水まわりで発生するピンク色の汚れが、主として紅色細菌と呼ばれるグラム陰性のメチロバクテリウム属細菌の増殖によるものであることが報告されている。また、非特許文献1によれば、メチロバクテリウムの特徴ともいえるピンク色を呈するカロテノイドが、塩素などのストレスを受けたときに菌体内に発生する活性酸素を消去する機能を発揮し、これによりメチロバクテリウムが他の微生物に比べ塩素抵抗性を発揮しやすいと考えられることが示唆されている。また、カロテノイドは、メチロバクテリウムの膜強度の向上にも寄与しており、これにより塩素抵抗性を発揮すると考えられることが示唆されている。
【0007】
さらに、文献「飲料用タンク水から高頻度に分離されたProtomonas extorquensの塩素抵抗性機構[著:古畑勝則]、防菌防黴学会、Vol. 19、No. 8、p. 395-399、1991年」(非特許文献2)には、メチロバクテリウムに属するProtomonas extorquensを塩素に接触させて得た変異株にあっては、細胞膜、特に外膜が肥厚し、また表面構造が変化し、細胞膜を強固にするシステムを備えていることが示唆されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10-306484号公報
【特許文献2】特開2008-168002号公報
【特許文献3】特開2008-073604号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】浴室に潜むピンクモンスター[著:井原望]、生物工学会誌第94巻 第4号 2016年
【非特許文献2】飲料用タンク水から高頻度に分離されたProtomonas extorquensの塩素抵抗性機構[著:古畑勝則]、防菌防黴学会、Vol. 19、No. 8、p. 395-399、1991年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
水道水を電気分解して得られる電解水を利用して、水道水が使用される環境におけるピンク汚れの除去を試みてきた従来の技術では、電解水を適用した後もピンク汚れが残存する場合があった。
【0011】
本発明者らは、今般、水道水に含まれる塩素に接触することで塩素耐性を獲得したメチロバクテリウム(以下、「塩素耐性メチロバクテリウム」ということもある)が、水道水が使用される設備を含むユニットに発生するピンク汚れの根源であることを見出し、塩素耐性メチロバクテリウムを効果的に殺菌することが可能な新規な構成を見出した。すなわち、オゾンおよび遊離塩素の双方を用いることで、それぞれの濃度が低くても、塩素耐性メチロバクテリウムを効果的に死滅させることができることを確認した。
【0012】
具体的には、低濃度のオゾンによって、塩素耐性メチロバクテリウムの細胞壁および細胞膜(生体膜)を損傷または破壊させることができ、さらに、このような状態になった塩素耐性メチロバクテリウムであれば、低濃度の遊離塩素によって十分死に至らしめることができることを確認した。そして、水道水の電気分解により上述した濃度のオゾンおよび遊離塩素を含む電解水を得て、この電解水を水道水が使用される設備を含むユニットの表面に接触させることで、当該表面に塩素耐性メチロバクテリウムが増殖するのを効果的に防止でき、また当該表面に(一旦)増殖した塩素耐性メチロバクテリウムを効果的に殺菌できることを確認した。本発明は斯かる知見に基づくものである。
【0013】
したがって、本発明は、塩素耐性メチロバクテリウムの増殖を効果的に防止し、または増殖した塩素耐性メチロバクテリウムを効果的に殺菌することが可能な、建物内における、水道水が使用される設備を含むユニットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明によるユニットは、
建物内における、水道水が使用される設備を含むユニットであって、
当該ユニットは、前記水道水が使用される設備に水道水を提供する手段と、水道水を電気分解して電解水を生成する電解装置と、前記電解水を当該ユニットの表面に接触させることを可能とする電解水吐出手段とを備え、
前記電解水は、下記A、B、Cのいずれか:
A:0.05ppm以上のオゾンと、1.5ppm以上の遊離塩素とを含む
B:0.1ppm以上のオゾンと、0.75ppm超の遊離塩素とを含む
C:0.2ppm以上のオゾンと、0.1ppm以上の遊離塩素とを含む
であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、低濃度のオゾンおよび低濃度の遊離塩素によって、水道水が使用される設備を含むユニットの表面に塩素耐性メチロバクテリウムが増殖するのを効果的に防止することができ、また当該表面に増殖した塩素耐性メチロバクテリウムを効果的に殺菌することができる。そして、塩素耐性メチロバクテリウムの増殖抑制効果および殺菌効果を長期間維持することができる。さらに、本発明にあっては、使用されるオゾンの濃度が低いため、水道水が使用される設備を含むユニットを構成する部材、例えば樹脂材やゴム材の耐久性が損なわれない、電解装置に負荷がかからない、電極寿命が損なわれない等の利点が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明における電解水が塩素耐性メチロバクテリウムに対し効果的な殺菌作用を奏し得ることを模式的に示す。
図2】(A)メチロバクテリウム標準株に対しては、低濃度の遊離塩素単独でも殺菌作用を奏し得ることを模式的に示す。(B)塩素耐性メチロバクテリウムに対しては、低濃度の遊離塩素単独では殺菌作用を奏し得ないことを模式的に示す。
図3】オゾンおよび遊離塩素双方を含む電解水を生成可能な電解装置の一例を示す。この電解装置では、オゾンおよび遊離塩素を一つの電極対で同時に生成することが可能である。
図4】オゾンおよび遊離塩素双方を含む電解水を生成可能な電解装置の他の一例を示す。この電解装置は、オゾンを生成する電極対と、遊離塩素を生成する電極対を別個に備える。
図5】オゾンおよび遊離塩素双方を含む電解水を生成可能な電解装置の他の一例を示す。この電解装置では、オゾンを生成する電極対と、遊離塩素を生成する電極対それぞれが別個の電解槽に備えられている。
図6】本発明によるユニットの一例であるトイレの模式図である。
図7】トイレに備えられる電解装置、電解水吐出手段の一例の模式図である。
図8】本発明によるユニットの一例である浴室の模式図である。
図9】本発明によるユニットの一例である洗面の模式図である。
図10】洗面に備えられる電解装置、電解水吐出手段の一例の模式図である。
図11】本発明によるユニットの一例であるキッチンの模式図である。
図12】キッチンに備えられる電解装置、電解水吐出手段の一例の模式図である。
図13】塩素耐性メチロバクテリウムへの相乗的な殺菌効果が認められた遊離塩素とオゾンの濃度条件の例を示す。(a)遊離塩素1.5ppm及びオゾン0.1ppmを含んだ電解水を、塩素耐性メチロバクテリウムに作用させたときの殺菌効果を示す図である。(b)遊離塩素0.375ppm及びオゾン0.2ppmを含んだ電解水を、塩素耐性メチロバクテリウムに作用させたときの殺菌効果を示す図である。(c)遊離塩素0.75ppm及びオゾン0.2ppmを含んだ電解水を、塩素耐性メチロバクテリウムに作用させたときの殺菌効果を示す図である。(d)遊離塩素1.5ppm及びオゾン0.2ppmを含んだ電解水を、塩素耐性メチロバクテリウムに作用させたときの殺菌効果を示す図である。
図14】塩素耐性メチロバクテリウムへの相乗的な殺菌効果が認められなかった遊離塩素とオゾンの濃度条件を示す。(a)遊離塩素0.375ppm及びオゾン0.1ppmを含んだ電解水を、塩素耐性メチロバクテリウムに作用させたときの殺菌効果を示す図である。(b)遊離塩素0.75ppm及びオゾン0.1ppmを含んだ電解水を、塩素耐性メチロバクテリウムに作用させたときの殺菌効果を示す図である。
図15】遊離塩素のみを含む電解水を塩素耐性メチロバクテリウムに作用させたときの殺菌効果を示す図である。
図16】遊離塩素水やオゾン水を曝露した後の塩素耐性メチロバクテリウムの細胞膜損傷度の定量と観察の結果を示す。
図17】遊離塩素水やオゾン水を曝露した後の塩素耐性メチロバクテリウムの表面の観察像である。
図18】遊離塩素水やオゾン水を曝露した後の塩素耐性メチロバクテリウムの内部構造の観察像である。
図19】塩素耐性メチロバクテリウムへの相乗的な殺菌効果が認められた遊離塩素とオゾンの濃度条件の例を示す。(a)遊離塩素1.5ppm及びオゾン0.05ppmを含んだ電解水を、塩素耐性メチロバクテリウムに作用させたときの殺菌効果を示す図である。(b)遊離塩素1.0ppm及びオゾン0.1ppmを含んだ電解水を、塩素耐性メチロバクテリウムに作用させたときの殺菌効果を示す図である。(c)遊離塩素0.2ppm及びオゾン0.2ppmを含んだ電解水を、塩素耐性メチロバクテリウムに作用させたときの殺菌効果を示す図である。
図20】中濃度の有機物存在下において、塩素耐性メチロバクテリウムへの相乗的な殺菌効果が認められた遊離塩素とオゾンの濃度条件の例を示す。(a)遊離塩素2.0ppm及びオゾン0.2ppmを含んだ電解水を、塩素耐性メチロバクテリウムに作用させたときの殺菌効果を示す図である。(b)遊離塩素4.9ppm及びオゾン1.0ppmを含んだ電解水を、塩素耐性メチロバクテリウムに作用させたときの殺菌効果を示す図である。(c)遊離塩素4.9ppm及びオゾン2.9ppmを含んだ電解水を、塩素耐性メチロバクテリウムに作用させたときの殺菌効果を示す図である。
図21】電解水に含まれるオゾンおよび遊離塩素の濃度の好ましい範囲を、式1、式2、および式3で囲まれた領域として、可視的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
ユニット
本発明によるユニットは、水道水が使用される設備と、当該水道水が使用される設備に水道水を提供する手段(以下、単に「水道水を提供する手段」ともいう)とを備える。本発明において、「ユニット」とは、水道水が使用される設備および水道水を提供する手段の双方を具備したもの、または、水道水を提供する手段自体で構成される設備を具備したものをいう。
水道水が使用される設備および水道水を提供する手段の双方を具備したユニットとして、具体的には、浴室(システムバスを含む)、シャワー付き浴槽、シャワールーム(シャワーブース)、トイレ(パブリックトイレを含む)、局部洗浄装置付き便座を備えた一体型便器(ここで局部洗浄装置付き便座は水道水が使用される設備に相当する)、キッチン、洗面(化粧)台等が挙げられる。
水道水を提供する手段自体で構成される設備を具備したユニットとして、具体的には、局部洗浄ノズルを備えた便座(ここで局部洗浄ノズルは水道水が使用される設備でありかつ水道水を提供する手段に相当する)が挙げられる。本発明において、「水道水を提供する手段自体で構成される設備」とは、それ自体が水道水を提供する手段でもあり、水道水が使用される設備でもあるものをいう。温水洗浄便座一体型便器の例では、洗浄ノズルが水道水を提供する手段であり、同時に、水道水が使用される設備である。そして、洗浄ノズルを備えた温水洗浄便座一体型便器がユニットである。
【0018】
水道水が使用される設備
本発明において、「水道水が使用される設備」とは、水道水及び/又は電解水がその部位にかかる状況で使用される設備、または、水道水及び/又は電解水がその部位にかかる状況で使用される付帯設備をいう。
水道水及び/又は電解水がその部位にかかる状況で使用される設備として、具体的には、大便器本体、洗面器本体、便座、便蓋、小便器本体、浴槽、カウンター、洗面ボウル、壁、床、天井、洗面鏡、浴室鏡、局部洗浄ノズル、シャワー、水栓等が挙げられる。例えば、ユニットがトイレである場合、水道水が使用される設備は、水道水及び/又は電解水がその部位にかかる状況で使用される設備として、例えば大便器本体、洗面器本体、小便器本体、便座、便蓋、小便器本体、局部洗浄ノズルの他に、床、壁、天井などのトイレ空間を構成する部材を含む。
また、水道水及び/又は電解水がその部位にかかる状況で使用される付帯設備として、例えばユニットがキッチンである場合、例えばまな板等の調理器具、スポンジ等の洗浄用具などが含まれる。またユニットが洗面台である場合、洗面で使用されるコップや歯ブラシ等が含まれる。
本発明において、水道水と電解水以外に、軟水のような改質した水を流しても良い。
【0019】
水道水が使用される設備に水道水を提供する手段
本発明において、「水道水が使用される設備に水道水を提供する手段」とは、水道水及び/又は電解水を提供するものをいう。具体的には、シャワー、水栓、便器へ水道水及び/又は電解水を提供する配管、局部洗浄ノズル、便器洗浄ノズルなどが挙げられる。例えば、ユニットがトイレである場合、水道水を提供する手段は、便器へ水道水及び/又は電解水を提供する配管、局部洗浄ノズル、便器洗浄ノズル等であり、ユニットが浴室である場合、水道水を提供する手段は、例えば水栓やシャワーであり、ユニットがキッチン、洗面台である場合、水道水を提供する手段は、例えば水栓である。
【0020】
本発明の一つの態様において、前記水道水が使用される設備に水道水を提供する手段は、後述する電解装置を経由して前記水道水が使用される設備に水道水を提供する第一の水道水提供手段と、当該電解装置を経由せずに前記水道水が使用される設備に水道水を提供する第二の水道水提供手段とを含むことが好ましい。
【0021】
本発明の別の態様において、前記水道水が使用される設備に水道水を提供する手段は、電解装置を経由して前記水道水が使用される設備に水道水を提供する第一の水道水提供手段であり、電解装置がOFFのときは前記水道水が使用される設備に水道水が提供され、前記電解装置がONのときは前記水道水が使用される設備に電解水が提供されることが好ましい。
【0022】
また本発明によるユニットは、建物内に配置されてなる。本発明において、建物とは、人が住むための戸建ての家、マンション等の住宅;人が仕事をするためのビル、事務所、事業所等;人が利用する商業施設、公共施設等の各種施設;などを含む、人の生活の用に供する社会通念上の建物をすべて含む。
【0023】
本発明によるユニットは、水道水を電気分解して電解水を生成する電解装置を備える。また、本発明によるユニットは、電解装置により生成された電解水をユニットの表面に接触させることを可能とする電解水吐出手段を備える。電解装置および電解水吐出手段については後述する。
水道水が使用される設備を使用した後、(ユニット内に設けられた排水手段によりユニット外に排出された水道水以外の)水道水は、ユニットの表面等に付着し(残水として)、またユニットの表面を流動し、最終的にはいずれかの場所に付着し、その後乾燥する。ユニットの表面に付着した水道水には、塩素耐性メチロバクテリウムが含まれ、この塩素耐性メチロバクテリウムは、水道水が使用される設備を使用した後、当該設備の表面や、ユニットを構成する部材、物品などの表面に付着した汚れ(タンパク質、皮脂などの有機物)を栄養分として増殖する。水道水が使用される設備および当該設備を含むユニットの表面に形成された塩素耐性メチロバクテリウムのコロニーの集合体がピング汚れとして視認される。
本発明によるユニットが備える電解水吐出手段は、電解水をユニットの表面に接触させることにより、塩素耐性メチロバクテリウムを殺菌し、ピング汚れを除去することができる。
【0024】
水道水を電気分解して生成される電解水
本発明によるユニットが備える電解装置により水道水を電気分解して生成される電解水は、オゾン(O)および遊離塩素の双方を含む。本発明において、遊離塩素とは、次亜塩素酸(HClO)および次亜塩素酸イオン(ClO)の組み合わせ(混合物)を意味する。本発明の一つの態様において、電解水は、0.05ppm以上のオゾンと、1.5ppm以上の遊離塩素とを含む。また、本発明の別の態様において、電解水は、0.1ppm以上のオゾンと、0.75ppm超の遊離塩素とを含む。また、本発明の別の態様において、電解水は、0.2ppm以上のオゾンと、0.1ppm以上の遊離塩素とを含む。上述した濃度範囲において、オゾンおよび遊離塩素の双方を含む電解水は、後の[実施例]において説明されるように、オゾンまたは遊離塩素のいずれかを単独で含む電解水の塩素耐性メチロバクテリウム殺菌効果に比べ、相乗的な殺菌効果を発揮することができる。
【0025】
本発明において、電解水に含まれるオゾンおよび遊離塩素の濃度は、電解水吐出手段から電解水がユニットの表面に吐出(噴射、噴霧、散水などの形態で)される時に、電解水に含まれる濃度をいう。
水中のオゾン濃度を定量する方法は、JIS B 9946:2019に定められる、オゾンとの反応によって脱色されたインジゴの濃度を分光光度計で測定し、吸光度の減少からオゾン濃度を算出する、インジゴ法を用いる。
遊離塩素濃度を定量する方法は、JIS K 0400-33-10:1999に定められる、遊離塩素がDPD(N,N-ジエチル-P-フェニレンジアミン)と反応し赤色に呈色する、DPD比色法を用いる。
【0026】
本発明において、水道水とは、浄水場で塩素殺菌処理され、住宅等の建物に供給される水道水(上水)をいう。本発明では、この水道水をそのまま電気分解に付して電解水を生成することが好ましい。本発明によれば、例えば、水道水に塩素化合物、例えば塩化ナトリウム、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸水等を添加する必要なく、電解条件を制御するなどして、所望のオゾン濃度および遊離塩素濃度を有する電解水、すなわちオゾンおよび遊離塩素の双方を特定の低濃度で含む電解水を効率的に得ることができる。
【0027】
オゾンおよび遊離塩素の双方を低濃度で含む電解水による塩素耐性メチロバクテリウムの殺菌メカニズム
本発明において、オゾンおよび遊離塩素の双方を低濃度で含む電解水が塩素耐性メチロバクテリウムを殺菌する相乗効果を発揮するメカニズムは以下のように考えられる。ただし、以下に述べる事項はあくまで仮説であり、本発明は当該事項により何ら限定的に解釈されるものではない。
【0028】
オゾンは酸化力が強いため、例えば0.05ppmという低濃度であっても、塩素耐性メチロバクテリウム(以下、単に「菌体」ということもある)の細胞壁および肥厚した細胞膜(以下、単に「細胞膜」ということもある)を損傷させる又は破壊することができる。一方、オゾンは不安定な分子であるため、その酸化力は持続性に乏しい。それ故、低濃度のオゾン単独では、細胞壁および細胞膜を破壊した後、さらに菌体が有する酸化損傷に対する防御力に打ち勝って、菌体内部の生体物質(核酸、タンパク質等)を酸化分解するまでの酸化力(細胞毒性)を持続的に発揮することは困難であり、菌体を確実に死に至らしめるには不十分である。しかしながら、本発明にあっては、低濃度の遊離塩素が、オゾンによって破壊された細胞膜の内部に存在する生体物質を酸化分解し、塩素耐性メチロバクテリウムを確実に死に至らしめる役割を担う。本発明における電解水の塩素耐性メチロバクテリウムに対する作用効果を図1に模式的に示す。(図1中、耐塩素性株は塩素耐性メチロバクテリウムを示し、グレー領域は塩素耐性メチロバクテリウムの肥厚した細胞膜を示す。なお、細胞壁は図示していない。)
【0029】
低濃度の遊離塩素単独では、図2Bに示すように、塩素耐性メチロバクテリウムの細胞壁および肥厚した細胞膜を破壊することは困難であるが、本発明にあっては、上述したとおり、その役割を低濃度のオゾンが代わりに担うことができる。このため、遊離塩素は、オゾンにより破壊された細胞膜を通過して菌体内部に浸透することができる。さらに、遊離塩素は酸化力を持続的に発揮することができるため、菌体内部に浸透した後、生体物質を確実に酸化分解することができる。なお、図2Aは、塩素耐性を獲得していないメチロバクテリウムの標準株に対しては、低濃度の遊離塩素単独でも細胞膜を破壊し、さらに菌体内部の生体物質を酸化分解可能であることを示す。
【0030】
以上のとおり、本発明における電解水は、オゾンおよび遊離塩素の特性を有効に生かしつつ、双方が低濃度であっても、とりわけオゾンの濃度が0.05ppmという低濃度であっても、いずれか一方ではたとえ高濃度であっても実現が困難であった塩素耐性メチロバクテリウムの殺菌を実現することができる。
【0031】
電解水に含まれるオゾンおよび遊離塩素の濃度の好適範囲
本発明において、電解水は、A、B、Cのいずれか:
A:0.05ppm以上のオゾンと、1.5ppm以上の遊離塩素とを含む
B:0.1ppm以上のオゾンと、0.75ppm超の遊離塩素とを含む
C:0.2ppm以上のオゾンと、0.1ppm以上の遊離塩素とを含む
である。
【0032】
本発明において、電解水は、0.05ppm以上のオゾンを含む場合、遊離塩素の濃度は1.6ppm以上であることが好ましく、2.0ppm以上であることがより好ましい。
【0033】
本発明において、電解水は、0.1ppm以上のオゾンを含む場合、遊離塩素の濃度は1.0ppm以上であることが好ましく、1.5ppm以上であることがより好ましい。
【0034】
本発明において、電解水は、0.2ppm以上のオゾンを含む場合、遊離塩素の濃度は0.2ppm以上であることが好ましく、0.3ppm以上であることがより好ましく、0.375ppm以上であることがさらにより好ましい。
【0035】
本発明において、電解水は、0.3ppm以上のオゾンを含む場合、遊離塩素の濃度は0.1ppm以上であることが好ましく、より好ましくは0.2ppm以上、さらにより好ましくは0.3ppm以上、最も好ましくは0.375ppm以上である。
【0036】
本発明において、電解水に含まれるオゾンの濃度は3ppm以下、好ましくは3ppm未満、さらにより好ましくは2.9ppm以下であることが好ましい。この場合、塩素耐性メチロバクテリウムの細胞壁および細胞膜を効果的に破壊することができ、菌体内部に遊離塩素を浸透させることができるとともに、本発明によるユニットを構成する部材、例えば樹脂材やゴム材の耐久性が損なわれない、電解装置に負荷がかからない、電極寿命が損なわれない等の利点が得られる。
【0037】
また、本発明において、遊離塩素の濃度の上限は特に制限されないが、例えば5ppm以下、好ましくは5ppm未満、より好ましくは4.9ppm以下、さらにより好ましくは4ppm以下、さらにより好ましくは3ppm以下、さらにより好ましくは2ppm以下が好ましい。このような濃度であれば、電極へ印加する電流値は高くなく、電極劣化を抑制できる。これにより、電極の交換を頻繁にする必要がなく、実施者の利便性が向上する。また、電極面積の増大が抑えられ、流水状態での電解が可能となるため、電解装置を小型化することができ、建物内の水道水を用いる空間に設置される電解装置に適している。
【0038】
電解水を吐水する表面、または付帯設備に存在し得る有機物の濃度
本発明のユニットにおいて、生成した電解水を吐水する表面、または付帯設備には、塩素耐性メチロバクテリウムとともに、様々な汚れに起因する有機物が存在し得る。本発明において、電解水に含まれるオゾンおよび遊離塩素の濃度は、このような有機物の存在を想定し、決定することもできる。以下、塩素耐性メチロバクテリウムと共存し得る有機物の濃度を三段階に分けて説明する。
【0039】
<有機物が低濃度(ng~μg/Lオーダー)の場合>
浴室の浴槽や洗い場、洗面ボウル、キッチンのシンクなどの表面は、日常の清掃で清浄に保たれているならば、当該表面に付着している汚れは少なく、使用に伴って付着した汚れも水流で洗い流されるため、表面に存在する有機物はng~μg/cmオーダーの微量であると考えられる。したがって、そのような表面に水分をともなって塩素耐性メチロバクテリウムが付着し、表面に存在する有機物の一部が溶け出したとすれば、塩素耐性メチロバクテリウムは低濃度(ng~μg/Lオーダー)の有機物とともに存在することになる。
【0040】
<有機物が中濃度(mg/Lオーダー)の場合>
例として、痰はその94%程度が水分である。残り6%はシアル酸などの糖が主であるが、咽頭の感染が起こると死んだ細菌などの有機物が増えてくるため、概ね60g/Lの有機物濃度とみなせる。洗面ボウルなどの設備の表面に塩素耐性メチロバクテリウムが付着し、さらに痰が覆いかぶさって付着し、設備の使用後に水流で流しきれずに残存した場合、痰が100倍に希釈されたとすれば600mg/Lの有機物濃度とみなせる。一方、JIS R 1702:2020などの規格試験では、1/500に希釈したNB培地で菌液を調製して抗菌基材に接種する。その場合、有機物濃度は培地材料の肉エキスとペプトンの総計である、26mg/Lとなる。設備の表面や付帯設備における汚れに相当する有機物の濃度はケースバイケースであるが、数十~数百mg/Lの濃度と想定することは現実に即していると考えられる。
【0041】
<有機物が高濃度(g/Lオーダー)の場合>
ヒトの糞便は、状態により異なるが、そのおよそ70%が水分で、残り30%が食物の残渣、腸壁細胞の死骸、および腸内細菌の死骸などの有機物で構成されるため、例えば300g/Lの有機物濃度とみなせる。
大便器のボウルに塩素耐性メチロバクテリウムが付着し、さらに糞便が覆いかぶさって付着して残存した場合、g/Lオーダーの有機物存在下での塩素耐性メチロバクテリウムの殺菌性が要求される。
【0042】
本発明において、有機物の存在下において、オゾンと遊離塩素が含まれる電解水は、下記a、b、cのいずれか:
a:2.9ppm以下のオゾンと、4.9ppm以下の遊離塩素とを含む
b:1.0ppm以下のオゾンと、4.9ppm以下の遊離塩素とを含む
c:0.2ppm以下のオゾンと、2.0ppm以下の遊離塩素とを含む
であることが好ましい。
有機物の存在下においては、遊離塩素とオゾンの殺菌効力が低減される可能性があるが、上述した濃度範囲であれば、塩素耐性メチロバクテリウムの殺菌を有効に実現することができる。
【0043】
本発明において、電解水に含まれるオゾンの濃度および遊離塩素の濃度は、後者をy(ppm)、前者をx(ppm)としたとき、下記式1、式2、および式3:
式1:y≧4.1079e-18.35x
式2:0.1≦y<5
式3:0<x<3
で表される各条件を全て満たすことが好ましい。図21に、式1、式2、および式3を全て満たす、オゾンおよび遊離塩素の濃度の好ましい範囲を、これらの式で囲まれた領域として、可視的に示す。
【0044】
電解装置
本発明において、電解装置は、既に説明した電解水、すなわち0.1ppm以上のオゾンと0.75ppm超の遊離塩素とを含み、または、0.2ppm以上のオゾンと0.1ppm以上の遊離塩素とを含む電解水を生成可能なものであればよい。電解装置は、水道水を電気分解して上記電解水を生成可能な電解槽と、前記電気分解を制御するための制御部とを備えてなることが好ましい。
【0045】
電極
本発明において、電解装置の電極は、オゾンおよび遊離塩素の双方を生成可能であればよい。
例えば、1つの電極を有し、その電極でオゾンおよび遊離塩素の双方を生成可能なようにしてもよい。
また、オゾンを生成可能な電極、及び、遊離塩素を生成可能な電極をそれぞれ有してもよい。この場合、上記2種の電極は、直列配置でも並列配置でもよい。
また、オゾンおよび遊離塩素の双方を生成可能な電極と、オゾンを生成可能な電極をそれぞれ有してもよい。この場合、上記2種の電極は、直列配置でも並列配置でもよい。
また、オゾンおよび遊離塩素の双方を生成可能な電極と、遊離塩素を生成可能な電極をそれぞれ有してもよい。この場合、上記2種の電極は、直列配置でも並列配置でもよい。
さらに、オゾンおよび遊離塩素の双方を生成可能な電極と、遊離塩素を生成可能な電極と、オゾンを生成可能な電極とをそれぞれ有してもよい。この場合、上記3種の電極は、直列配置でも並列配置でもそれらの組み合わせ配置でもよい。
【0046】
(電解装置の例1)
本発明の一つの態様において、電解装置は、図3に示すようなものであってよい。図3に示される電解装置1は、電解槽2と制御部3とを備える。電解装置1は、オゾンおよび遊離塩素双方を含む電解水を生成し、排出する。以下、電解装置1の構成、制御、作用について説明する。
【0047】
[構成]
<電解槽2>
電解槽2は、水道水が流入する流入口21と、流入口21に連通する通水路22と、通水路22の途上に設けられ、流入した水道水を電気分解するための電極231と、通水路22の下流側に、かつ、電極231よりも下流側に設けられた流出口24を含む。
流入口21は、水道水を電解槽2に流入させる。
通水路22は、電解槽2内に流入した水道水が漏出しないように例えば密閉可能な部材で設けられてよい。通水路22内に電極231が支持される。
電極231は、一つの電極対であり、陽極2311と陰極2312とからなる。陽極2311および陰極2312は例えば共に板状であってよい。水道水は陽極と陰極の間で電気分解され、オゾン(O、図中のa)および遊離塩素(すなわち、次亜塩素酸分子(HClO、図中のb)および次亜塩素酸イオン(ClO、図中のc))の双方が同時に生成される。
流出口24は、生成された電解水を電解槽2の外に排出する。流出口24は、電解水をユニットの表面に接触させることを可能とする電解水吐出手段(図示せず)と連通してなることが好ましい。
【0048】
<制御部3>
制御部3は、電極231に通電し、電解によりオゾンおよび遊離塩素双方を生成する機能と、電圧および電流の双方またはいずれかを制御することで、生成オゾン濃度を制御する機能をもつ。制御部3はまた、流入口21から流入した水道水の電磁弁開閉、流出口24から流出される電解水の電磁弁開閉、手動/自動のスイッチ、各種センサーなどを、これらが適切に作動するように制御する機能をもっていてもよい。制御部3はさらに、電解水が電解水吐出手段からユニットの表面へ接触するように吐出されるように制御する機能をもっていることが好ましい。
【0049】
[制御]
本態様において、水道水は、矢印Aで示されるように、流入口21から電解槽2の内部に導かれる。流入した水道水は、陽極2311と陰極2312との間を流れ、矢印Bで示されるように、流出口24から電解槽2の外部に排出される。この際、制御部3が電極231に通電している間に、通水路22を流れる水道水は電気分解され、オゾン(a)および遊離塩素(b、c)が生成される。通電は、水道水が通水路22を流れている間に行われるように制御されることが好ましい。
【0050】
[作用]
電解装置1は、水道水を電気分解して、オゾンおよび遊離塩素を生成し、これら双方を含む電解水を排出する。電解水は流出口24から電解水吐出手段へと送られ、ユニットの表面に吐出される。
本発明において、電解水に含まれるオゾンおよび遊離塩素の各濃度範囲は、既に説明したとおりであり、これらの濃度は電解水吐出手段から電解水が吐出される時の濃度として定義される。電解水は、電解槽2において水道水を制御部3による制御(例えば、電極231に印加される電圧および/または電流)下で電解し、所望の濃度のオゾンおよび遊離塩素を含む電解水として得られ、その後この電解水は、流出口24を経て、さらに電解水吐出手段を経て、最終的にユニットの表面に接触する。本発明において、例えばユニットの構造等を考慮したうえで、電解水吐出手段から吐出される時の電解水に含まれるオゾンおよび遊離塩素の各所望の濃度に基づき、電解槽2で生成される、つまり流出口24から排出される時の電解水に含まれるオゾンおよび遊離塩素の各濃度を制御することが好ましい。
【0051】
(電解装置の例2)
本発明の一つの態様において、電解装置は、図4に示すようなものであってよい。図4に示される電解装置1’は、図3に示される電解装置1がオゾンおよび遊離塩素双方を同時に生成する一つの電極対231を備えているのに対し、主としてオゾンを生成する電極対232と、主として遊離塩素を生成する電極対233を別個に備えている点以外は、電解装置1と同様の構成、制御、作用を有する。
電極対232は、主としてオゾンを生成する電極対であり、陽極2321と陰極2322とからなる。電極対233は、主として遊離塩素を生成する電極対であり、陽極2331と陰極2332とからなる。
流入口21から電解槽2の内部に導かれた水道水は、陽極2321と陰極2322との間を流れ、続いて陽極2331と陰極2332との間を流れ、流出口24から電解槽2の外部に排出される。この際、制御部3が電極対232に通電している間に、通水路22を流れる水道水は電気分解され、オゾンを主に生成する。さらに、制御部3が電極対233に通電している間に、通水路22を流れる水道水は電気分解され、遊離塩素を主に生成する。図4において、オゾンを主に生成する電極対232と、遊離塩素を生成する電極対233の配置は入れ替えても良い。
【0052】
(電解装置の例3)
本発明の一つの態様において、電解装置は、図5に示すようなものであってよい。図5に例示される電解装置1”は、図4に示される電解装置1’が備える、主としてオゾンを生成する電極対232と、主として遊離塩素を生成する電極対233がそれぞれ別個の電解槽に設けられている点以外は、電解装置1’と同様の構成、制御、作用を有する。
【0053】
本発明において、上述した電解装置は、電極に塩素化合物を供給する手段を備えていないことが好ましい。換言すると、本発明における電解装置においては、電極に塩素化合物を供給する必要がない。電解水に含まれる遊離塩素の濃度を所望の濃度に調整する(高める)ために、例えば、上記特許文献3にも開示されているように、水道水に塩素化合物、例えば塩化ナトリウム、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸水等を添加することが考えられ、またそのために、例えば電解装置に塩素化合物の貯蔵手段や、電極に塩素化合物を供給するための弁を設けること等が考えられる。しかしながら、本発明にあっては、既に説明したように、水道水をそのまま電気分解して、オゾンおよび遊離塩素の双方を特定の低濃度で含む電解水を得て、これにより塩素耐性メチロバクテリウムを効果的に殺菌することが可能であり、そして本発明における電解装置は、そのような電解水を生成することが可能である。したがって、本発明にあっては(特定の低濃度のオゾンと共に)特定の低濃度の遊離塩素を得るために、原料である水道水に塩素化合物を添加する必要がそもそも無い。
【0054】
電極素材
図3に示される電解装置1は、一つの電極対231を備え、オゾンおよび遊離塩素を同時に生成する。電極対231は、例えば、基体と、基体上に設けられた触媒層とを含むものであってよい。基体は、例えば、チタン又はチタン合金からなるものであってよい。触媒層は、一つの層であっても複数の層であってもよい。触媒層を構成する材質は、スズ、アンチモン、ニッケル、鉄、亜鉛、ビスマス、白金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、イリジウム、オスミウム、ジルコニウム、ニオブ、アルミニウム、ガリウム、コバルト、セシウム、セレン、亜鉛、モリブデン、マンガン、バナジウム、ゲルマニウム、テルル、銀から選択される少なくとも一つ以上を含む金属化合物、またはその酸化物もしくは複合体であることが好ましく、スズ、アンチモン、ニッケル、鉄、亜鉛、ビスマスから選択される少なくとも一つ以上を含む金属化合物、またはその酸化物もしくは複合体であることがより好ましい。
【0055】
図4に示される電解装置1’は、二つの電極対232および233を備える。
電極対232は主としてオゾンを生成し、陽極2321と、電極間隙を隔てて配置された陰極2322とを含むものであってよい。電極対232として、例えば、特許第6890793号公報に記載される、陽極部材と、該陽極部材と電極間隙を隔てて配置された陰極部材とを含む電極構造体(請求項4、段落0033等)を用いることができる。上記特許掲載公報を参照することにより、当該公報の電極構造体に関する記載事項は、本発明における電極対232に関する記載事項として本明細書に組み込まれる。電極対232の素材は、導電性を有する金属であればよく、例えば、白金族元素、ニッケル、ステンレス、チタン、ジルコニウム、金、銀、カーボン、イリジウム等の貴金属、及びそれらの酸化物、ニオブ酸化物又はタンタル酸化物等が挙げられる。
【0056】
また、電極対232は、陽極2321の基体上に触媒層を形成し、この触媒層の上にイオン交換シートおよび陰極2322をこの順に積層された電極であっても良い。このような電極として、特開2012-12695号公報に記載される電解電極ユニットを用いることができる。上記公開公報を参照することにより、当該公報の電解電極ユニットに関する記載事項は、本発明における電極対232の別の態様に関する記載事項として本明細書に組み込まれる。例えば、陽極2321の基体は、チタン、カーボン、タングステン、ニオブ又はケイ素であってよく、陽極の触媒層は、導電性ダイアモンド膜であってよく、陰極は、厚みが1mm程度の金属製(例えば、SUS304製)の電極板であってよい。
【0057】
電極対233は、主として遊離塩素を生成し、例えば、基体と、基体上に設けられた触媒層とを含む電極であってよい。このような電極として、特開2013-142166号公報に記載される電解用電極を用いることができる。上記公開公報を参照することにより、当該公報の電解用電極に関する記載事項は、本発明における電極対233に関する記載事項として本明細書に組み込まれる。基体は、例えば、チタン又はチタン合金からなるものであってよい。触媒層は、一つの層であっても複数の層であってもよい。触媒層は、白金化合物、イリジウム化合物、ロジウム化合物及びタンタル化合物から選択される少なくとも一つ以上を含む金属および/または金属酸化物の複合体であってよい。白金化合物としては、例えば、塩化白金酸、塩化白金等が挙げられ、特に塩化白金酸が好適である。イリジウム化合物としては、例えば、塩化イリジウム酸、塩化イリジウム、硝酸イリジウム等が挙げられ、特に塩化イリジウム酸が好適である。ロジウム化合物としては、例えば、塩化ロジウム、硝酸ロジウム等が挙げられ、特に塩化ロジウムが好適である。タンタル化合物としては、例えば、塩化タンタル、タンタルエトキシド等が挙げられ、特にタンタルエトキシドが好適である。
【0058】
本発明によるユニットの具体的態様
トイレ
本発明の一つの態様によれば、本発明によるユニットは、トイレである。以下、図6を参照しつつ、トイレの構成について説明する。トイレユニット4に含まれる水道水が使用される設備は、洋式腰掛便器41のボウル43、衛生洗浄装置(温水洗浄便座)42、ケーシング44、便座45、便蓋46(任意)、トイレの床や壁が含まれる。本態様において、水道水が使用される設備に水道水を提供する手段は、便器41を洗浄し、ボウル43内の排泄物を除去するために、ボウル43内に水道水を供給する配管(図示せず)、および衛生洗浄装置(温水洗浄便座)42に水道水を供給する配管を指す。電解装置は、例えば、上述した電解装置1、1’、1”であってよく、便座(好適には、温水洗浄便座)内部、小便器本体の内部、便器(大便器、小便器)の外に取り付けられてよい。図6では、電解装置1は、ケーシング44内に設けられている。電解水をユニットの表面に接触させることを可能とする電解水吐出手段は、噴霧ノズル(噴出部)47であり、ケーシング44内に設けられていてもよいし、外部に付設されていてもよい。噴霧ノズル47は、電解装置で生成された電解水を霧状に吐出し、その結果、電解水はミストMの状態でユニット表面、すなわち水道水が使用される設備の表面(例えば、ボウル43面や喫水面)、およびトイレの床や壁の表面に接触する。その結果、ユニットの表面は殺菌される。
本態様においては、例えば、便器41のフラッシュ洗浄が終わった後、あるいは一定時間毎、あるいは手動スイッチONを検知し、電解装置で電解水が生成され、噴霧ノズル47から電解水が吐出され、ボウル43の表面が殺菌されるよう制御することができる。
【0059】
本態様において、電解装置、電解水吐出手段がケーシング44内に設けられている構成例について、図7を参照しつつ説明する。
[構成]
ケーシング44は、電解装置1、電磁弁441、第1の流路442、流調・流路切替弁443、第2の流路444を含む。電解装置1は、既に説明したとおり、オゾンおよび遊離塩素双方を含む電解水を生成し、排出する。電解装置1の制御部3は、既に説明した機能に加えて、電磁弁441、流調・流路切替弁443を制御する機能を有する。電磁弁441は、開閉可能な電磁バルブであり、制御部3からの指令に基づいて水道水の供給を制御する。流路442は、水道水または電解水を噴霧ノズル47に導く。流調・流路切替弁443は、水勢(流量)の調整を行い、また噴霧ノズル47や(温水)洗浄ノズル(図示せず)などへの水道水または電解水の供給の開閉や切替を行う。流路444は、電解水を、例えば洗浄ノズルやノズル洗浄室などへ導く。
【0060】
[制御]
水道水は電磁弁441を通じて第1の流路442に導かれ、電解装置1に流入し、電解水が生成される。生成された電解水は、流調・流路切替弁443を通過した後、噴霧ノズル47へ導かれ、ボウル43に散水される。一方、流調・流路切替弁443において分岐された第2の流路444に導かれた電解水や水道水は、ケーシング44の外部に排出される。流調・流路切替弁443は、制御部3からの指令に基づいて、電解水や水道水を第1の流路442へ導く状態と、第2の流路444へ導く状態とを切り替えることができる。
【0061】
浴室またはシャワールーム
本発明の一つの態様によれば、本発明によるユニットは、浴室またはシャワールームである。以下、図8を参照しつつ、浴室の構成について例示する。浴室ユニット5に含まれる水道水が使用される設備は、浴槽52、洗い場(床)55、排水口57、浴室の壁51や天井、シャワー、カウンター、鏡、給湯制御パネル(いずれも図示せず)などが含まれる。本態様において、水道水が使用される設備に水道水を提供する手段は、給水栓、シャワー(いずれも図示せず)などである。電解装置は、例えば、上述した電解装置1、1’、1”であってよく、例えば浴室床55、カウンター、壁51に取り付けされてよい。図8に示す例にあっては、電解装置1で生成されたオゾンおよび遊離塩素双方を含む電解水は、流路53を通って、吐水口54、吐水部56に配水される。吐水口54、吐水部56は、電解水を浴室ユニットの表面に接触させることを可能とする電解水吐出手段である。吐水口54は、電解水を浴槽52内にシャワー状に吐水し、浴槽壁面や床面を殺菌、洗浄する。吐水部56は、電解水を浴室内壁(天井、壁、床面)にシャワー状に吐水し、浴槽壁面や床面を殺菌、洗浄する。排水口57は、浴室51内で使用された水、湯、および散布された電解水を浴室外に排出する。浴槽52内で使用された水、湯、および散布された電解水が、浴槽52内の排出口(図示せず)から排水口57に排出される態様も含まれる。
【0062】
[制御]
水道水は電解装置1の内部に導かれて電気分解され、電解水が生成される。流出口24から出た電解水は流路53を通り、吐水口54に配され、浴槽52の内面に吐水される。電解水はまた、流路53を通り、吐水部56に配され、洗い場55に吐水される。電解水はさらに、流路53を通り、吐水部56に配され、浴室51の壁面、天井に吐水される。電解装置1の制御部3は、既に説明した機能に加えて、プログラムや図示しないスイッチの動作に従って電解水の生成を制御したり、各流路の開閉弁(図示せず)の操作等を制御したりする機能を有する。
【0063】
[作用]
浴槽52に吐水された電解水は、浴槽52を殺菌する役割を有する。洗い場55に吐水された電解水は、洗い場55を殺菌する役割を有する。浴室51の壁面に吐水された電解水は、浴室51の壁面(天井、壁)を殺菌する役割を有する。
本態様においては、浴槽を洗浄した場合も、洗い場を洗浄した場合も、浴室の壁面を洗浄した場合も、またはこれらを組み合わせて実行した場合も、排水口57に設けられる排水トラップの封水の少なくとも一部を電解水に置換し、殺菌できる。
以上により、浴槽52内、洗い場55、浴室51の壁面、排水トラップにおけるヌメリやピンク汚れなどの微生物汚れの抑制効果を長時間維持することができる。
【0064】
洗面台
本発明の一つの態様によれば、本発明によるユニットは、洗面台である。以下、図9を参照しつつ、洗面台ユニット6の構成について例示する。洗面ユニット6に含まれる水道水が使用される設備は、ボウルBL、洗面カウンターなどである。ボウルBLは、水栓装置61から吐水された水道水を受け止め、排水口(図示せず)から排水する。本態様において、水道水が使用される設備に水道水を提供する手段は、水栓装置61である。本態様において、水栓装置61は、水道水の吐水、および電解水の吐水を行う。水栓装置61には、例えば上述した電解装置1、1’、1”のいずれかが含まれる。本態様において、電解装置は、例えば水栓装置61の配管部、またはその近傍であって、洗面ユニットの表面に電解水を吐水可能な位置であり、かつ、水道水の配管が接続可能な位置に取り付けられる。
【0065】
[制御]
水栓装置61には電解装置1で生成された電解水が配され、スイッチやセンサー(図示せず)の検知により、適切に電解水がボウルBLに向かって散水される。
【0066】
[作用]
電解水の散水により、ボウルBLや、排水口および排水トラップ(いずれも図示せず)におけるヌメリやピンク汚れなどの微生物汚れの抑制効果を長時間維持することができる。また本態様においては、散布される電解水を、歯ブラシ、コップなどの洗面用具にかけ、殺菌することもできる。
【0067】
水栓装置61
水栓装置61について、図10を参照しつつ説明する。
水栓装置61は、水道水の吐水と電解水の吐水を行う。その他、美容目的の香水など、殺菌とは異なる機能を有する吐水がなされる場合もある。
共通流路618により、水道水が供給される。また、定流量弁619により、下流側の流量を一定に保つ。
電解装置1は、オゾンおよび遊離塩素双方を含む電解水を生成し、排出する。電解装置1の制御部3は、既に説明した機能に加えて、第1の電磁弁620、第2の電磁弁621を制御する機能を持つ。
第1の吐水部612は、第1の吐水口613から水道水などの吐水を行う。
第1の流路614は、第1の吐水部612に対して水道水などを供給する。
第2の吐水部615は、ノズル状であり、第2の吐水口616から電解水を噴霧吐水する。
第2の流路617は、第2の吐水部615に対して電解水を供給する。
第1の電磁弁620は、開閉することにより、第1の流路614における水道水の流通と遮断とを切り替える。開弁している場合には、第1の流路614に水道水が流れ、第1の流路614の下流端に接続された第1の吐水部612の第1の吐水口613から水道水が吐水される。
第2の電磁弁621は、開閉することにより、第2の流路617における水道水の流通と遮断とを切り替える。開弁している場合には、第2の流路617に水道水が流れ、電解槽2で電解水が生成され、第2の流路617の下流端に接続された第2の吐水部615の第2の吐水口616から電解水が噴霧吐水される。
第1の流路614と、第2の流路617をその内部に通じて固定する水栓蛇口本体である吐水管611は、湾曲した管状部材であってよい。
【0068】
[制御]
共通流路618を通じて水道水が通水され、定流量弁619で流量が調整されて、分岐配置された第1の流路614と第2の流路617に通水される。第1の流路614に通水された水道水は、センサーやスイッチ(図示せず)の操作などに応じて、制御部3が第1の電磁弁620を開閉することで、第1の吐水部612に配され、第1の吐水口613から吐水されて、手洗いなどに使用される。第2の流路617に通水された水道水は、センサーやスイッチ(図示せず)の操作などに応じて、制御部3が第2の電磁弁621を開閉することで、電解装置1に供給される。さらに、制御部3が電解装置1に通電して、水道水が電解されて電解水が生成され、第2の吐水部615に配され、第2の吐水口616から噴霧吐水される。
【0069】
キッチン
本発明の一つの態様によれば、本発明によるユニットは、キッチンである。以下、図11を参照しつつ、キッチンユニット7の構成について例示する。キッチンユニット7に含まれる水道水が使用される設備は、シンクSK、シンクの縁、カウンターなどである。また、キッチンユニット7の使用に伴って使用される食洗器なども含まれる。本態様において、水道水が使用される設備に水道水を提供する手段は、水道水吐水部71、つまり水道水を吐水する水栓である。本態様において、電解水吐出手段は、電解水吐水部72であり、電解水は、吐水装置WDに配設される電解装置1で生成される。本態様において、電解装置1は、例えば電解水吐水部72の配管部、またはその近傍であって、キッチンユニット表面に電解水を吐水可能な位置であり、かつ、水道水の配管が接続可能な位置に取り付けられる。
【0070】
吐水装置WDは、図12に示されるように、電解装置1を備え、オゾンおよび遊離塩素双方を含む電解水を生成し、排出する。電解装置1の制御部3は、既に説明した機能に加えて、電磁弁73を制御する機能を有する。電磁弁73は、制御部3から出力される制御信号に応じて、吐水・止水を行うようにバルブを開閉する。バルブが開かれると、電解水吐水部72から電解水が吐水される。
【0071】
[制御]
吐水装置WDに配設される電解装置1で生成された電解水は、電解水吐出部72に供給され、シンクSKの内部や縁、カウンター等に吐水される。吐水のタイミングは、センサー(図示せず)で感知して制御部3に信号を送って制御しても良く、スイッチ(図示せず)を設けて制御部3に接続し、使用者が必要時にONにして吐水させてもよい。
【0072】
[作用]
電解水をシンクSK内に散布することで、シンク内壁を殺菌することができ、同時に、シンク内に置かれたまな板や包丁などの調理器具、食器、ふきんに電解水をかけて、これらを殺菌することもできる。さらに、電解水を吐水させる場合、排水口に設けられる排水トラップの封水の少なくとも一部を電解水に置換することで、排水トラップにおけるヌメリやピンク汚れなどの微生物汚れの抑制効果を長時間維持することができる。
【実施例0073】
本発明を以下の実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0074】
電解装置の作製
上述した図3に示される電解装置1を、下記工程に従って組み立てた。
【0075】
<工程1:電極231の準備>
陽極2311として、例えば文献「Hamed Shekarchizade at al., Effect of Elemental Composition on the Structure, Electrochemical Properties, and Ozone Production Activity of Ti/SnO2-Sb-Ni Electrodes Prepared by Thermal Pyrolysis Method, 2011 (doi:10.4061/2011/240837)」に従って、チタンからなる基体の上に、アンチモン、スズ、およびニッケルを含む酸化物からなる触媒層を設けたものを作製した。陰極2312として、SUS板を用いた。陽極2311と陰極2312の面積は、それぞれ8cmとした。
【0076】
<工程2:電解槽の組立>
電解槽2の容器として、長手方向に延在する矩形状の容体(80mm×50mm×30mm)を用いた。容器の端部に、水道水を流通させるための開口を形成した。一方の開口には、水道水が流入される流入口21を形成し、他方の開口には、電解された水道水が流出される流出口24を形成した。流入口21と流出口24をポリウレタンチューブで接続されることで、電解槽2内に水道水が流通する構成とした。長手方向に延在する電解槽2内の一方の壁面に、長手方向に延在する陽極2311を配設し、他方の壁面に、長手方向に延在する陰極2312を配設した。陽極2311と陰極2312との距離は、これらの間にテフロン製のスペーサーを挟むことにより0.5mmとした。
【0077】
<工程3:制御部の設置>
電流は、安定化電源を陽極2311と陰極2312に接続し、15Vの定電圧を印加し、陽極と陰極との間に14mA/cmの電流密度がかかるように電流値を制御した。水道水の流速は、電解槽2の流水口21の直前に流量バルブを配置して制御した。
【0078】
評価1:電解装置1による電解水の生成
1-1:電解水の生成
水道水(TOTO株式会社、福岡県北九州市小倉北区中島2-1)を、前記制御部にて流速0.45L/minに調整し、電解槽2に通水した。前記制御部にて、電極231に定電流をかけることによって、オゾンおよび遊離塩素双方を含む電解水を生成した。
【0079】
1-2:電解水に含まれるオゾン及び遊離塩素の濃度の測定
遊離塩素濃度の測定は、電解水を採水瓶に10mL分取し、遊離塩素試薬SWIFTEST用(Hach)を1回分添加して混合し、ポケット残留塩素計(Hach)で遊離塩素濃度を定量した。
オゾン濃度の測定は、電解水を、オゾン濃度測定キット(Ozone AccuVac Ampules HR pk25、Hach)で採取し、ポータブル吸光光度計(DR1900、Hach)にセットし、オゾン濃度測定モードを用いて、オゾン濃度を定量した。
その結果、オゾン濃度は0.23ppm、遊離塩素濃度は0.92ppmであった。
【0080】
試験1:遊離塩素1.5ppm及びオゾン0.1ppmを含んだ電解水を、塩素耐性メチロバクテリウムに作用させたときの殺菌効果
<工程(1-1) 塩素耐性メチロバクテリウムの単離>
TOTO株式会社、総合研究所(茅ケ崎市本村)、研究3号棟5階女子トイレに設置した、大便器ピュアレスト(TOTO株式会社)のボウル面の水面から高さ2cmまでの領域に発生した汚れを滅菌綿棒で拭き取り、生理食塩水に懸濁してR2Aプレートに塗布し、20℃で7日間培養して多数のコロニーが生育したプレートを得た。
このプレートにおいてピンク色を呈するコロニーを1つ選び、MALDI-Biotyper(ブルカージャパン)で菌種を同定した。その結果、Methylobacterium fujisawaense B235 UFLとScore Valueが2.26で一致した。この株を「耐塩素性メチロ株」とした。一方、Methylobacterium extorquens(NBRC15687)を独立行政法人製品評価技術基盤機構から購入し、「メチロ標準株」とした。
【0081】
<工程(1-2) 水道水の電解による遊離塩素を含む水の生成>
Pt/IrO電極を水道水に浸し、電流を印加して電解することで、遊離塩素を含む水(以下、「遊離塩素水」という)を生成した。この遊離塩素水を採水瓶に10mL分取し、遊離塩素試薬SWIFTEST用(Hach)を1回分添加して混合し、ポケット残留塩素計(Hach)で遊離塩素水中の遊離塩素濃度を定量した。結果は、1.5ppmであった。
【0082】
<工程(1-3) 水道水の電解によるオゾンを含む水の生成>
水道水を浄水器MP02-3(三菱ケミカル・クリンスイ株式会社)に通水し、遊離塩素を除去した水をボトルに貯留した。次に、市販のダイアモンド電極に遊離塩素除去水を通水しながら定電流1.5Aを通電し、遊離塩素除去水を電解することでオゾンを含む水(以下、「オゾン水」という)を生成した。このオゾン水を、オゾン濃度測定キット(Ozone AccuVac Ampules HR pk25、Hach)で採取し、ポータブル吸光光度計(DR1900、Hach)にセットし、オゾン濃度測定モードを用いてオゾン濃度を定量した。結果は、0.1ppmであった。
【0083】
<工程(1-4) 遊離塩素およびオゾン双方を含んだ電解水を、塩素耐性メチロバクテリウムに作用させたときの殺菌効果の測定>
耐塩素性メチロ株のコロニーを生理食塩水に懸濁し、3×10cells/mLの菌液を調製した。
遊離塩素水と、オゾン水を単独であるいは混合して用い、遊離塩素のみ、オゾンのみ、遊離塩素およびオゾン双方を含む、3種の電解水を、それぞれ50mL調製した。
調製した各電解水に耐塩素性メチロ株の菌液を0.5mL添加して混合した。つまり、耐塩素性メチロ株に各電解水を曝露した。10秒経過後、40秒以内で、反応液を1mL採取し、1%チオ硫酸ナトリウム0.1mLと混合して中和した。
中和液をR2Aプレートに希釈播種し、20℃で7日間培養し、出現したコロニー数をカウントして生菌数を定量した。コントロールとして耐塩素性メチロ株に純水を曝露した際の生菌数を用い、殺菌率を算出した。
その結果、図13(a)に示すように、耐塩素性メチロ株の殺菌率は、オゾン0.1ppmの電解水では0.0%、遊離塩素1.5ppmの電解水では30.6%であった。
一方、遊離塩素1.5ppmとオゾン0.1ppmが両方含まれる電解水では、43.1%の殺菌率が得られた。この効果は、遊離塩素1.5ppmまたはオゾン0.1ppmを単独で曝露させた場合の殺菌効果を合算した効果にとどまらず、驚くべきことに相乗的な殺菌効果であった。
【0084】
試験2:遊離塩素0.375ppm及びオゾン0.2ppmを含んだ電解水を、塩素耐性メチロバクテリウムに作用させたときの殺菌効果
試験1と同様に、耐塩素性メチロ株に対する下記3種の電解水の殺菌率を算出した。
その結果、図13(b)に示すように、耐塩素性メチロ株の殺菌率は、オゾン0.2ppmの電解水では9.4%、遊離塩素0.375ppmの電解水では、10.6%であった。
一方、遊離塩素0.375ppmとオゾン0.2ppmが両方含まれる電解水では、40.9%の殺菌率が得られた。この効果は、遊離塩素0.375ppmまたはオゾン0.2ppmを単独で曝露させた場合の殺菌効果を合算した効果にとどまらず、驚くべきことに相乗的な殺菌効果となっていた。
【0085】
試験3:遊離塩素0.75ppm及びオゾン0.2ppmを含んだ電解水を、塩素耐性メチロバクテリウムに作用させたときの殺菌効果
試験1と同様に、耐塩素性メチロ株に対する下記3種の電解水の殺菌率を算出した。
その結果、図13(c)に示すように、耐塩素性メチロ株の殺菌率は、オゾン0.2ppmの電解水では9.4%、遊離塩素0.75ppmの電解水では、19.7%であった。
一方、遊離塩素0.75ppmとオゾン0.2ppmが両方含まれる電解水では、52.9%の殺菌率が得られた。この効果は、遊離塩素0.75ppmまたはオゾン0.2ppmを単独で曝露させた場合の殺菌効果を合算した効果にとどまらず、驚くべきことに相乗的な殺菌効果となっていた。
【0086】
試験4:遊離塩素1.5ppm及びオゾン0.2ppmを含んだ電解水を、塩素耐性メチロバクテリウムに作用させたときの殺菌効果
試験1と同様に、耐塩素性メチロ株に対する下記3種の電解水の殺菌率を算出した。
その結果、図13(d)に示すように、耐塩素性メチロ株の殺菌率は、オゾン0.2ppmの電解水では9.4%、遊離塩素1.5ppmの電解水では、30.6%であった。
一方、遊離塩素1.5ppmとオゾン0.2ppmが両方含まれる電解水では、77.9%の殺菌率が得られた。この効果は、遊離塩素1.5ppmまたはオゾン0.2ppmを単独で曝露させた場合の殺菌効果を合算した効果にとどまらず、驚くべきことに相乗的な殺菌効果となっていた。
【0087】
比較例1:オゾン0.1ppm及び遊離塩素0~0.75ppmを含んだ電解水を、塩素耐性メチロバクテリウムに作用させたときの殺菌効果
試験1と同様に、耐塩素性メチロ株に対する下記3種の電解水の殺菌率を算出した。
その結果、図14(a)に示すように、耐塩素性メチロ株の殺菌率は、オゾン0.1ppmの電解水では0.0%、遊離塩素0.375ppmの電解水では、10.6%であり、一方、オゾン0.1ppmと遊離塩素0.375ppmが両方含まれる電解水では、4.1%の殺菌率しか得られず、相乗効果は認められなかった。
さらに、試験1と同様に、耐塩素性メチロ株に対する下記3種の電解水の殺菌率を算出した。
その効果、図14(b)に示すように、耐塩素性メチロ株の殺菌率は、オゾン0.1ppmの電解水では0.0%、遊離塩素0.75ppmの電解水では、19.7%であり、一方、オゾン0.1ppmと遊離塩素0.75ppmが両方含まれる電解水では、18.1%の殺菌率しか得られず、相乗効果は認められなかった。
【0088】
比較例2:遊離塩素のみを含む電解水を塩素耐性メチロバクテリウムに作用させたときの殺菌効果
耐塩素性メチロ株に遊離塩素を0~4ppmを含む電解水を10秒間曝露したところ、図15に示すように、4ppmでも0.1を超える生残率を示し、低い殺菌効果しか得られなかった。なお、メチロ標準株では、遊離塩素1.5ppmで生残率は0.001を下回り、高い殺菌効果が得られた。
【0089】
参考例1:遊離塩素水やオゾン水を曝露した後の耐塩素性メチロ株の細胞膜損傷度の定量と観察
<遊離塩素水、オゾン水の菌体への曝露>
耐塩素性メチロ株のコロニーを生理食塩水に懸濁し、3×10cells/mLの菌液を調製した。遊離塩素水とオゾン水を単独であるいは混合して用い、遊離塩素0.3ppmのみ、オゾン0.2ppmのみ、オゾン0.4ppmのみ、及び遊離塩素0.3ppmとオゾン0.2ppmの両方を含む4種の電解水を、それぞれ50mL調製した。
各電解水に耐塩素性メチロ株の菌液を0.5mL添加して混合し、40秒間インキュベートした。その後、反応液に2%チオ硫酸ナトリウム5mLを添加して混合し、反応を停止させ、4種の中和液を得た。
【0090】
<観察試料の作製>
菌液の可視化にはThermo Fisher 社製の核染色キット「LIVE/DEADTM FungaLightTM Yeast Viability Kit, for flow cytometry 」を使用した。各中和液に、濃度120μMのSYTO9と濃度600μMのPI(ヨウ化プロピジウム)をそれぞれ12.5μLずつ混合させてスライドガラスに滴下し、25℃、遮光下で30分間静置し、観察試料とした。
【0091】
<観察>
共焦点蛍光顕微鏡を用いて、波長488nmおよび561nmのレーザー光を励起光として観察試料の表面に照射し、2種の核染色試薬(SYTO9、PI)が発する、緑色蛍光および赤色蛍光の様子を観察した。結果の蛍光観察像を図16に示す。
観察は各条件3視野ずつおこなった。レンズはPlan-APOCHROMAT 63x(カール・ツァイス社)を使用した。観察条件は次のとおりとした。
・レーザー強度 PI(561nm):12.0、SYTO9(488nm):14.0
・検出器感度 赤色蛍光:525、緑色蛍光:644
解析ソフト(Imaris、カール・ツァイス社)を使用し、蛍光観察像で捉えた全ての細菌の赤色蛍光及び緑色蛍光の強度を算出した。各視野の赤色蛍光強度/緑色蛍光強度を計算し、各条件3視野分の平均値を膜損傷度合とした。膜損傷度の結果を図16に示す。
【0092】
図16に示されるとおり、遊離塩素0.3ppm単独での膜損傷度は0.069、オゾン0.2ppm単独での膜損傷度は0.225、遊離塩素0.3ppmおよびオゾン0.2ppmでの膜損傷度は0.213、オゾン0.4ppm単独での膜損傷度は0.829であった。この膜損傷度の定量結果から、(i)オゾンは単独で膜を損傷させる効果をもつこと、(ii)遊離塩素は単独では膜損傷効果を奏さないことの2点が示唆される。
【0093】
<結果>
参考例1の結果から、遊離塩素とオゾンを組合せることで、遊離塩素を単独で用いたときよりも大きな膜損傷効果が得られたことから、低濃度オゾンによる膜損傷作用によって、遊離塩素の膜内部への浸透が可能となり、効率よく殺菌が出来ることが示唆される。
【0094】
参考例2:遊離塩素水やオゾンを曝露した後の耐塩素性メチロ株の表面観察
<遊離塩素水、オゾン水の菌体への曝露>
耐塩素性メチロ株のコロニーを生理食塩水に懸濁し、3×10cells/mLの菌液を調製した。遊離塩素水とオゾン水を単独であるいは混合して用い、遊離塩素0.4ppmのみ、オゾン0.2ppmのみ、オゾン0.4ppmのみ、及び遊離塩素0.4ppmとオゾン0.2ppmの両方を含む4種の電解水を、それぞれ50mL調製した。
各電解水に耐塩素性メチロ株の菌液を0.5mL添加して混合し、40秒間インキュベートした。その後、反応液に2%チオ硫酸ナトリウム5mLを添加して混合し、反応を停止させ、4種の中和液を得た。
【0095】
<観察試料の作製>
各中和液をメンブレンフィルターにてろ過し、フィルター上に菌を付着させ、菌をグルタールアルデヒドで固定化させた。次に、固定化された菌をエタノールに置換し、次いでt‐ブチルアルコールに置換させた。菌を凍結させ、次いで凍結乾燥装置(JFD-300)にセットし、真空に引きながら排気することで凍結乾燥を行い、観察用試料を作製した。
【0096】
<観察>
前記観察用試料について電子顕微鏡観察を行った。電子顕微鏡観察は、超高分解能電界放出形走査電子顕微鏡(日立 Regulus8220)を用いて行った。結果を図17に示す。なお、図17中、ブランクは、電解水の代わりに純水を用いた以外は同様にして作製した観察用試料である。
【0097】
<結果>
ブランクと遊離塩素のみを曝露した試料は外観において差はなく、一方、オゾンのみを曝露した試料では、菌の細胞表面形状が損傷・破壊されている様子が確認された。オゾンおよび遊離塩素双方を曝露した試料においても、オゾンのみを曝露した試料との間に外観における差は認められなかった。
これにより、オゾンが担う殺菌作用は塩素耐性メチロバクテリウムの肥厚した膜を損傷させることにあり、オゾンの濃度が高ければ溶菌させることも可能であり、一方で遊離塩素は膜損傷には作用しないことが示唆される。
【0098】
参考例3:遊離塩素水やオゾンを曝露した後の耐塩素性メチロ株の内部構造の観察
<遊離塩素水、オゾン水の菌体への曝露>
耐塩素性メチロ株のコロニーを生理食塩水に懸濁し、3×10cells/mLの菌液を調製した。遊離塩素水とオゾン水を単独であるいは混合して用い、遊離塩素2ppmのみ、オゾン0.2ppmのみ、及び遊離塩素2ppmとオゾン0.2ppmの両方を含む3種の電解水を、それぞれ50mL調製した。
各電解水に耐塩素性メチロ株の菌液を0.5mL添加して混合し、40秒間インキュベートした。その後、反応液に2%チオ硫酸ナトリウム5mLを添加して混合し、反応を停止させ、3種の中和液を得た。
【0099】
<観察試料作製>
耐塩素性メチロ株の菌体内部を観察するために、「太田啓介ら: FIB-SEMトモグラフィー法の基本から実際まで. Medical Technology 50:603-609,(2022)」を参考に、耐塩素性メチロ株を樹脂に包埋させた試料を作製した。
具体的には、まずグルタールアルデヒドと各中和液を混合し、試料の前固定を行った。次に、寒天を添加し試料を固め、細かく切り出した。次に、切り出した試料をオスミウムで後固定し、電子染色法で染色して、試料観察時のコントラストを得た。次に、染色した試料をエポキシ樹脂に置換し、樹脂包埋した試料をカミソリで切り出して、観察試料を作製した。
【0100】
<観察>
前記観察用試料について電子顕微鏡観察を行った。電子顕微鏡観察は、超高分解能電界放出形走査電子顕微鏡(日立 Regulus8220)を用いて行った。結果を図18に示す。なお、図18中、ブランクは、電解水の代わりに純水を用いた以外は同様にして作製した観察試料である。
【0101】
<結果>
遊離塩素またはオゾンを単独で曝露したときは、菌体内部にブランク同様に組織が詰まっているが、一方で、遊離塩素およびオゾン双方を曝露したときは、菌体内部の組織が壊れている様子が観察された。これにより、細胞膜が肥厚した塩素耐性メチロバクテリウムに対し、オゾンによる膜損傷があれば、遊離塩素の膜内部への透過が可能となり、遊離塩素が菌体内部を破壊することが示唆される。
【0102】
試験5:遊離塩素1.5ppm及びオゾン0.05ppmを含んだ電解水を、塩素耐性メチロバクテリウムに作用させたときの殺菌効果
試験1と同様に、耐塩素性メチロ株に対する下記3種の電解水の殺菌率を算出した。
その結果、図19(a)に示すように、耐塩素性メチロ株の殺菌率は、オゾン0.05ppmの電解水では0.0%、遊離塩素1.5ppmの電解水では、89.4%であった。
一方、遊離塩素1.5ppmとオゾン0.05ppmが両方含まれる電解水では、99.9%の殺菌率が得られた。この効果は、遊離塩素1.5ppmまたはオゾン0.05ppmを単独で曝露させた場合の殺菌効果を合算した効果にとどまらず、驚くべきことに相乗的な殺菌効果となっていた。
【0103】
試験6:遊離塩素1.0ppm及びオゾン0.1ppmを含んだ電解水を、塩素耐性メチロバクテリウムに作用させたときの殺菌効果
試験1と同様に、耐塩素性メチロ株に対する下記3種の電解水の殺菌率を算出した。
その結果、図19(b)に示すように、耐塩素性メチロ株の殺菌率は、オゾン0.1ppmの電解水では2.1%、遊離塩素1.0ppmの電解水では、28.3%であった。
一方、遊離塩素1.0ppmとオゾン0.1ppmが両方含まれる電解水では、68.9%の殺菌率が得られた。この効果は、遊離塩素1.0ppmまたはオゾン0.1ppmを単独で曝露させた場合の殺菌効果を合算した効果にとどまらず、驚くべきことに相乗的な殺菌効果となっていた。
【0104】
試験7:遊離塩素0.2ppm及びオゾン0.2ppmを含んだ電解水を、塩素耐性メチロバクテリウムに作用させたときの殺菌効果
試験1と同様に、耐塩素性メチロ株に対する下記3種の電解水の殺菌率を算出した。
その結果、図19(c)に示すように、耐塩素性メチロ株の殺菌率は、オゾン0.2ppmの電解水では5.0%、遊離塩素0.2ppmの電解水では、12.5%であった。
一方、遊離塩素0.2ppmとオゾン0.2ppmが両方含まれる電解水では、27.5%の殺菌率が得られた。この効果は、遊離塩素0.2ppmまたはオゾン0.2ppmを単独で曝露させた場合の殺菌効果を合算した効果にとどまらず、驚くべきことに相乗的な殺菌効果となっていた。
【0105】
試験8:遊離塩素2.0ppm及びオゾン0.2ppmを含んだ電解水を、中濃度(mg/Lオーダー)の有機物存在下で塩素耐性メチロバクテリウムに作用させたときの殺菌効果
試験1と同様に、耐塩素性メチロ株に対する下記3種の電解水の殺菌効果を測定した。ただし、初発菌数の常用対数値から、電解水を曝露した後の残存菌数の常用対数値を引いた値を殺菌効果とした。
そして、工程(1-4)において、調製した各電解水に耐塩素性メチロ株の菌液を0.5mL添加する時に、ウシ血清アルブミン(ウシ血清アルブミン(F-V)、ナカライテスク)を、得られる混合液における最終濃度が2mg/Lとなるように一緒に添加して混合した。したがって、試験8は中濃度(mg/Lオーダー)の有機物存在下で実施されたとみなすことができる。
その結果、図20(a)に示すように、耐塩素性メチロ株の殺菌効果は、オゾン0.2ppmの電解水では0、遊離塩素2.0ppmの電解水では、0.69であった。
一方、遊離塩素2.0ppmとオゾン0.2ppmが両方含まれる電解水では、1.03の殺菌効果が得られた。この効果は、遊離塩素2.0ppmまたはオゾン0.2ppmを単独で曝露させた場合の殺菌効果を合算した効果にとどまらず、驚くべきことに相乗的な殺菌効果となっていた。
【0106】
試験9:遊離塩素4.9ppm及びオゾン1.0ppmを含んだ電解水を、中濃度(mg/Lオーダー)の有機物存在下で塩素耐性メチロバクテリウムに作用させたときの殺菌効果
試験8と同様に、耐塩素性メチロ株に対する下記3種の電解水の殺菌効果を測定した。ただし、工程(1-4)において、ウシ血清アルブミンの添加は、最終濃度が20mg/Lとなるように添加した。
その結果、図20(b)に示すように、耐塩素性メチロ株の殺菌効果は、オゾン1.0ppmの電解水では1.61、遊離塩素4.9ppmの電解水では、1.64であった。
一方、遊離塩素4.9ppmとオゾン1.0ppmが両方含まれる電解水では、3.73の殺菌効果が得られた。この効果は、遊離塩素4.9ppmまたはオゾン1.0ppmを単独で曝露させた場合の殺菌効果を合算した効果にとどまらず、驚くべきことに相乗的な殺菌効果となっていた。
【0107】
試験10:遊離塩素4.9ppm及びオゾン2.9ppmを含んだ電解水を、中濃度(mg/Lオーダー)の有機物存在下で塩素耐性メチロバクテリウムに作用させたときの殺菌効果
試験8と同様に、耐塩素性メチロ株に対する下記3種の電解水の殺菌効果を測定した。ただし、工程(1-4)において、ウシ血清アルブミンの添加は、最終濃度が60mg/Lとなるように添加した。
その結果、図20(c)に示すように、耐塩素性メチロ株の殺菌効果は、オゾン2.9ppmの電解水では2.23、遊離塩素4.9ppmの電解水では、0.20であった。
一方、遊離塩素4.9ppmとオゾン2.9ppmが両方含まれる電解水では、3.88の殺菌効果が得られた。この効果は、遊離塩素4.9ppmまたはオゾン2.9ppmを単独で曝露させた場合の殺菌効果を合算した効果にとどまらず、驚くべきことに相乗的な殺菌効果となっていた。
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