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  • 特開-液体水素用の液面計及び液位測定方法 図1A
  • 特開-液体水素用の液面計及び液位測定方法 図1B
  • 特開-液体水素用の液面計及び液位測定方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024001906
(43)【公開日】2024-01-11
(54)【発明の名称】液体水素用の液面計及び液位測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01F 23/288 20060101AFI20231228BHJP
【FI】
G01F23/288
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022100762
(22)【出願日】2022-06-23
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(72)【発明者】
【氏名】菊川 直樹
(72)【発明者】
【氏名】山瀬 博之
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 吉晴
【テーマコード(参考)】
2F014
【Fターム(参考)】
2F014AA09
2F014AC02
2F014FD01
(57)【要約】
【課題】容器内部の液体水素とは非接触で液位を測定できる液面計を提供する。
【解決手段】液体水素用タンク10の中心軸に向けて液面と平行な方向にX線を照射するX線照射装置20と、X線によって中心軸の近傍で生じた後方散乱X線を検出するX線検出装置32と、後方散乱X線の一部をX線検出装置32の手前で遮蔽する遮蔽部材30と、検出した後方散乱X線に基づいて中心軸での液位を算出する算出装置34とを備えた液面計であって、X線照射装置20を液体水素用タンク10の上下方向に移動して、X線の照射軸の液体水素用タンク10における高さを調整する上下方向駆動機構22を有し、遮蔽部材30は液体水素用タンク10の上下方向に一定間隔で設けられたスリットを通過したX線がX線検出装置32に入射し、X線検出装置32は後方散乱X線を検出し、算出装置34は液体水素用タンク10の液体水素と水素ガスの境界面の液位を求める。
【選択図】図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体水素用タンクの中心軸に向けて液面と平行な方向に所定のエネルギーのX線を照射するX線照射装置と、前記X線によって前記中心軸の近傍で生じた後方散乱X線を検出するX線検出装置と、前記後方散乱X線の一部を前記X線検出装置の手前で遮蔽する遮蔽部材と、検出した後方散乱X線に基づいて前記中心軸での液位を算出する算出装置とを備えた液面計であって、
前記X線照射装置を前記液体水素用タンクの上下方向に移動して、前記X線の照射軸の前記水素用タンクにおける高さを調整する上下方向駆動手段を有し、
前記遮蔽部材は、前記液体水素用タンクの上下方向に一定間隔で設けられたスリットを有し、前記スリットを通過したX線が前記X線検出装置に入射し、
前記X線検出装置は、後方散乱X線を検出すると共に、当該後方散乱X線のX線線量及びエネルギー量を測定し、
前記算出装置は、検出した後方散乱X線の特定のエネルギーにおけるX線線量に基づいて前記液体水素用タンクの液体水素と水素ガスの境界面の液位を求める液面計。
【請求項2】
前記算出装置は、前記中心軸の近傍と同等の材料よりなる試験体に向けて照射された前記所定のエネルギーのX線によって生じる後方散乱X線の特定のエネルギーにおけるX線線量と当該液体水素用タンク内での液体水素の既知の液位との関係を示す検量線データを有し、前記検出した後方散乱X線の特定のエネルギーにおけるX線線量と前記検量線データとに基づいて前記液位を求める請求項1記載の液面計。
【請求項3】
前記X線照射装置は、前記X線を照射するX線焦点の近傍に一端が取り付けられ他端が前記液体水素用タンクの壁面近傍に位置する遮蔽筒体と、前記遮蔽筒体の前記他端に設けられ且つ1カ所に開口を有するコリメーターとをさらに備える請求項1又は2記載の液面計。
【請求項4】
前記コリメーターは、前記液面と平行な方向に摺動可能であり、
前記X線検出装置は、前記コリメーターの摺動方向に直交する方向に移動可能であり、
前記算出装置は、前記中心軸の近傍の所定範囲における走査情報を生成する走査情報生成部を有する請求項3記載の液面計。
【請求項5】
前記X線は、前記液体水素用タンクの壁面近傍に入射する際のビーム直径が10mm以下である請求項1~4のいずれかに記載の液面計。
【請求項6】
前記X線検出装置は、X線の検出方向軸が前記照射軸に対し30~165°で交差するように配向される請求項1~5のいずれかに記載の液面計。
【請求項7】
前記液体水素用タンクに代えて、液体ヘリウム用タンク、液体空気用タンク、液体窒素用タンク、若しくは他の寒剤保存用タンクに用いられ、
X線検出装置は、液体水素と水素ガスに代えて、液体ヘリウムとヘリウムガス、液体空気と空気、液体窒素と窒素ガス、若しくは他の寒剤で生ずる液体相とガス相の境界の検出に用いられる、
請求項1~6のいずれかに記載の液面計。
【請求項8】
液体水素用タンクの液面近傍に向けて液面と平行な方向に所定のエネルギーのX線を照射するX線照射装置と、前記X線によって前記中心軸の近傍で生じた後方散乱X線を検出するX線検出装置と、前記後方散乱X線の一部を前記X線検出装置の手前で遮蔽する遮蔽部材と、検出した後方散乱X線に基づいて前記中心軸の近傍の液位を算出する算出装置とを備えた液面計を用いた液位測定方法であって、
前記遮蔽部材は、前記液体水素用タンクの上下方向に一定間隔で設けられたスリットを有し、前記スリットを通過したX線が前記X線検出装置に入射するように構成され、
前記X線照射装置を前記液体水素用タンクの上下方向に移動して、前記中心軸の近傍に向けてX線を照射し、
前記中心軸の近傍で生じた後方散乱X線を検出すると共に、当該後方散乱X線のX線線量及びエネルギー量を測定し、
検出した後方散乱X線の特定のエネルギーにおけるX線線量に基づいて前記液体水素用タンクの液体水素と水素ガスの境界面の液位を求める液位測定方法。
【請求項9】
前記液体水素用タンクに代えて、液体ヘリウム用タンク、液体空気用タンク、液体窒素用タンク、若しくは他の寒剤保存用タンクに用いられ、
前記X線検出装置は、液体水素と水素ガスに代えて、液体ヘリウムとヘリウムガス、液体空気と空気、液体窒素と窒素ガス、若しくは他の寒剤で生ずる液体相とガス相の境界の検出に用いられる、
請求項8に記載の液位測定方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば液体水素用に用いて好適な、液面計及び液位測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
クリーンエネルギーである水素の利用が、第6次エネルギー基本計画の基本方針の一つとして盛り込まれた。水素の輸送や貯蔵の際には、気体に比べ密度が1/800となる液体状態での利用が想定されている。その際、断熱構造を有する容器内にある液体水素の容量を精密に計測し把握することは、水素利用には欠かせない。容量測定には、他の寒剤(窒素、ヘリウムなど)と同様、一般的な液面計を用いている。例えば、液体窒素では簡便なフロート式が用いられている。水素液面計に関しても、超伝導を応用したものが提案されている(例えば、特許文献1~3参照)し、また静電容量式も知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009-175034号公報
【特許文献2】特開2014-098659号公報
【特許文献3】WO2017-179488号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、静電容量式では、実験ごとの校正が必要とされ、来るべき水素社会において、5tonクラスのプラント用大型タンクから地産地消型を想定した100kg程度までの小・中型容器までの個々の容器を対応させることは現実的ではない。
超伝導線を用いた方式においても、常圧下での沸点が4.2ケルビンのヘリウムに比べ、20ケルビンの水素に対し、利用可能な超伝導材料はMgBなどに限られる。また、水素下での評価法が確立していないのが現状である。
【0005】
また、水素ならではの課題も克服する必要がある。水素自体が可燃性であることから、その安全性も一層求められる。さらに液体水素容器内への液面センサーの導入には、熱流入が不可避であり、貴重なエネルギー源の蒸発につながってしまう。さらに、容器内部への液面センサーの導入は、用いる液面系材料の水素脆化・低温脆化も考慮する必要があるのと同時に、容器の構造を一層複雑にする。容器内部に導入した液面センサーによる溶接・接続部の水素脆化・低温脆化も不可避の懸念となる。
【0006】
本発明は、上記従来技術の問題点を解決したもので、容器内部の液体水素とは非接触で液面の液位を測定できる液面計及び液位測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
〔1〕本発明の液面計は、例えば図1に示すように、液体水素用タンク10の中心軸に向けて液面と平行な方向に所定のエネルギーのX線を照射するX線照射装置20と、前記X線によって前記中心軸の近傍で生じた後方散乱X線を検出するX線検出装置32と、前記後方散乱X線の一部を前記X線検出装置の手前で遮蔽する遮蔽部材30と、検出した後方散乱X線に基づいて前記中心軸での液位を算出する算出装置34とを備えた液面計であって、X線照射装置20を液体水素用タンク10の上下方向に移動して、前記X線の照射軸の液体水素用タンク10における高さを調整する上下方向駆動機構22を有し、遮蔽部材30は、液体水素用タンク10の上下方向に一定間隔で設けられたスリットを有し、前記スリットを通過したX線がX線検出装置32に入射し、X線検出装置32は、後方散乱X線を検出すると共に、当該後方散乱X線のX線線量及びエネルギー量を測定し、算出装置34は、検出した後方散乱X線の特定のエネルギーにおけるX線線量に基づいて液体水素用タンク10の液体水素と水素ガスの境界面の液位を求めるものである。
【0008】
〔2〕本発明の液面計〔1〕において、好ましくは、算出装置34は、前記中心軸の近傍と同等の材料よりなる試験体に向けて照射された前記所定のエネルギーのX線によって生じる後方散乱X線の特定のエネルギーにおけるX線線量と当該液体水素用タンク内での液体水素の既知の液位との関係を示す検量線データを有し、前記検出した後方散乱X線の特定のエネルギーにおけるX線線量と前記検量線データとに基づいて前記液位を求めるものであるとよい。
〔3〕本発明の液面計〔1〕又は〔2〕において、好ましくは、X線照射装置20は、前記X線を照射するX線焦点の近傍に一端が取り付けられ他端が液体水素用タンク10の壁面近傍に位置する遮蔽筒体と、前記遮蔽筒体の前記他端に設けられ且つ1カ所に開口を有するコリメーターとをさらに備えるとよい。
〔4〕本発明の液面計〔3〕において、好ましくは、前記コリメーターは、前記液面と平行な方向に摺動可能であり、前記X線検出装置32は、前記コリメーターの摺動方向に直交する方向に移動可能であり、
算出装置34は、前記中心軸の近傍の所定範囲における走査情報を生成する走査情報生成部を有するとよい。
〔5〕本発明の液面計〔1〕乃至〔4〕において、好ましくは、前記X線は、液体水素用タンク10の壁面近傍に入射する際のビーム直径が10mm以下であるとよい。
〔6〕本発明の液面計〔1〕乃至〔5〕において、例えば、X線検出装置32は、X線の検出方向軸が前記照射軸に対し30~165°で交差するように配向するとよい。
〔7〕本発明の液面計〔1〕乃至〔6〕において、前記液体水素用タンクに代えて、液体ヘリウム用タンク、液体空気用タンク、液体窒素用タンク、若しくは他の寒剤保存用タンクに用いられ、X線検出装置は、液体水素と水素ガスに代えて、液体ヘリウムとヘリウムガス、液体空気と空気、液体窒素と窒素ガス、若しくは他の寒剤で生ずる液体相とガス相の境界の検出に用いられるものでもよい。
【0009】
〔8〕本発明の液位測定方法は、例えば図1に示すように、液体水素用タンク10の中心軸に向けて液面と平行な方向に所定のエネルギーのX線を照射するX線照射装置20と、前記X線によって前記中心軸の近傍で生じた後方散乱X線を検出するX線検出装置32と、前記後方散乱X線の一部を前記X線検出装置の手前で遮蔽する遮蔽部材30と、検出した後方散乱X線に基づいて前記中心軸での液位を算出する算出装置34とを備えた液面計を用いた液位測定方法であって、遮蔽部材30は、液体水素用タンク10の上下方向に一定間隔で設けられたスリットを有し、前記スリットを通過したX線が前記X線検出装置に入射するように構成され、X線照射装置20を液体水素用タンク10の上下方向に移動して、前記中心軸の近傍に向けてX線を照射し、前記中心軸の近傍で生じた後方散乱X線を検出すると共に、当該後方散乱X線のX線線量及びエネルギー量を測定し、検出した後方散乱X線の特定のエネルギーにおけるX線線量に基づいて液体水素用タンク10の液体水素と水素ガスの境界面の液位を求めるものである。
〔9〕本発明の液位測定方法〔8〕において、好ましくは、前記液体水素用タンクに代えて、液体ヘリウム用タンク、液体空気用タンク、液体窒素用タンク、若しくは他の寒剤保存用タンクに用いられ、X線検出装置は、液体水素と水素ガスに代えて、液体ヘリウムとヘリウムガス、液体空気と空気、液体窒素と窒素ガス、若しくは他の寒剤で生ずる液体相とガス相の境界の検出に用いられるものでもよい。
【0010】
本発明の液面計によれば、容器外部から計測のためのセンサー類などを、容器内部に導入する必要がない。これは、従来型の延長といえる超伝導線を容器内部に導入した液面計などと比較し、熱流入の抑制、水素脆化・低温脆化の懸念がない、容器の大きさに依存しない、容器の構造が簡素化し、水素を扱う上での安全性の向上、精密計測が可能、という利点を有する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1A】本発明の一実施例を示す液面計の説明図で、液体水素タンク外部に装着した状態を示している。
図1B】本発明の一実施例を示す液面計の説明図で、図1Aに示す液体水素タンクに装着した状態を上から見た配置図を示している。
図2】X線コンプトン散乱の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下図面を用いて本発明を説明する。
図1Aは、本発明の一実施例を示す液面計の説明図で、液体水素タンク外部に装着した状態を示している。図1Bは、図1Aに示す液体水素タンクに装着した状態を上から見た配置図を示している。
図において、液体水素容器10は、液体水素容器外壁10aと液体水素容器内壁10bの二重壁構造となっており、両者の間隙に断熱層12が設けられている。液体水素容器外壁10aと液体水素容器内壁10bは、水素脆化などをクリアしたSUS(304、304L、316、316L、317)の5種類が構造材として用いられる。断熱層12は、真空やパーライト材が用いられる。液体水素容器内壁10bには、液面の上側が水素ガス14であり、下側が液体水素16となっている。
【0013】
X線源20は、X線を液体水素容器10の液面方向に照射するものである。照射したX線は液面方向に対して上下方向に各々7-8度程度にわたり広がって伝搬する。X線源上下駆動機構22は、X線源20を液体水素容器10の上下方向に駆動する機構で、汎用的な昇降機構が用いられる。
【0014】
遮蔽部材30は液体水素容器10の上下方向に位置するもので、例えばX線の照射方向に対して直交する方向に設けられる。遮蔽部材30は、タンタルやタングステンの板材よりなるもので、スリット31が例えば1mm間隔で設けられている。スリット31の間隔は、液位計測の分解能(1mm程度)を定める。
半導体検出器32は、スリット31を通過した平行光束のX線を検出する。
算出装置34は、検出した後方散乱X線に基づいて中心軸での液位を算出する。X線強度モニタ36は、半導体検出器32で検出されたX線強度を可視化するもので、例えばバーグラフ表示器が用いられる。
なお、遮蔽部材30をX線の照射方向に対して直交する方向に設けると、X線検出装置は、X線の検出方向軸が照射軸に対し90°で交差するように配向されることとなる。しかし、前記直交する方向は設置作業の便宜のために定めたものであり、散乱X線の強度が強く検出が容易となる角度に設置すれば良い。例えばX線検出装置は、X線の検出方向軸が照射軸に対し、30~165°の間で交差するように遮蔽部材30を設置しても良く、また可能であれば10~170°で交差するように遮蔽部材30を設置しても良い。X線の検出方向軸が照射軸に対し10°未満で交差すると、弾性散乱X線と液面測定に必要な散乱X線との分離が困難になるという不都合がある。また、X線の検出方向軸が照射軸に対し170°を超えた角度で交差すると、X線照射源と検出器の設置が重なるという不都合がある。
【0015】
このように構成された液面計の動作を次に説明する。
図2は、X線コンプトン散乱の説明図で、1個のX線光子が物質中の1個の電子に衝突し、散乱された場面を表している。コンプトン効果とは、光子のエネルギーが大きくて電子と衝突した後でも光子として残って散乱し、散乱X線の波長が入射X線の波長より長くなる現象である。照射されたX線の振動数をωi[Hz]、散乱X線の振動数をωf[Hz]、入射方向と散乱方向とのなす角(散乱角)をθ、電子の質量をm[kg]、衝突前の電子のポテンシャルエネルギーをVi[J]、散乱された電子のポテンシャルエネルギーをVf[J]、衝突前の電子の運動量をpi[kg・m/s]、散乱された電子の運動量をpf[kg・m/s]、プランク定数をh[J・s]とすると、次式で表される。
【0016】
【数1】
【数2】
【数3】
【数4】
【数5】
【数6】
【0017】
液体水素用タンク内の液体水素下の環境では、気体-液面境界面で水素分子密度が不連続的に変化することから、コンプトン散乱の特徴を生かして、水素貯蔵容器であるステンレス鋼や断熱材で囲まれた容器内の水素の液面位置を検出できる。入射X線と、反射X線の検出器の幾何学的配置は任意であり、状況に応じて適切な散乱角度(θ)を設定できる。入射X線装置・検出器ともに水素容器の外に設置されるため、入射・検出装置自体の水素脆化・低温脆化の問題は生じない。
【0018】
また、散乱X線を検出する半導体素子も既存の市販品を使えるため、測定コストは低い。液面の高さの検出精度は、検出器内部の素子やスリットの配置に依存するものの、1mm以下の精度も実現可能である。この精度は、現在用いられている寒剤容器の液面計の精度以上にできる。
【0019】
次に、超伝導線を用いた方式と比較した、本発明の液面計の効果を列記する。
(1)容器内部にセンサー類を導入しないですみ、センサー類を介した熱流入、センサー類の水素脆化・低温脆化を防ぐことができる。
(2)X線コンプトン散乱によれば、液体水素用タンクの材料に用いられるステンレス鋼や断熱材を透過して、その内部にある液体水素の残留量を把握できる。
(3)容器外部から内部に向けて照射されたX線は、タンク内の水素中の電子により散乱される。その際の散乱強度は気相・液相で異なり、密度の大きな液相の散乱強度が強くなる。その強度の違いを気相・液相境界として液面位置の判定が精密にできる。
【0020】
水素などの軽元素では、同時に放出される蛍光X線に対して相対的にコンプトン散乱強度が強くなる。さらに、高エネルギーX線を用いるため透過性も高く、非破壊非接触で測定できることも大きな特徴である。
【0021】
なお、上記の実施の形態では、液体水素用タンクを例に液体水素と水素ガスの境界面をX線コンプトン散乱を用いて検出する場合を説明しているが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、液体水素用タンクに代えて、液体ヘリウム用タンク、液体空気用タンク、液体窒素用タンク、若しくは他の寒剤保存用タンクに用いられ、X線検出装置によって、液体水素と水素ガスに代えて、液体ヘリウムとヘリウムガス、液体空気と空気、液体窒素と窒素ガス、若しくは他の寒剤で生ずる液体相とガス相の境界の検出に用いるものでもよい。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明の液面計によれば、クリーンエネルギーである水素の大量利用に対し、容器内の液体水素の容量について、X線コンプトン散乱法を用いている。X線コンプトン散乱法では、容器外部から内部に入射されたX線に対し、内部にある寒剤の液相・気相からの反射がそれぞれの密度の違いとして判別でき、その境界から液面の位置が判定できる。この方法では容器外部から計測のためのセンサー類などを、容器内部に導入する必要がない。
これは、従来型の延長といえる超伝導線を容器内部に導入した液面計などと比較し、熱流入の抑制、水素脆化・低温脆化の懸念がない、容器の大きさに依存しない、容器の構造が簡素化され、精密計測が可能、という利点を有する。
【符号の説明】
【0023】
10 液体水素容器(液体水素用タンク)
10a 液体水素容器外壁
10b 液体水素容器内壁
12 断熱層
14 水素ガス
16 液体水素
20 X線源(X線照射装置)
22 X線源上下駆動機構
30 遮蔽部材
31 スリット
32 半導体検出器(X線検出装置)
34 算出装置
36 X線強度モニタ

図1A
図1B
図2