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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024019064
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】構造物用シート
(51)【国際特許分類】
   E04D 5/12 20060101AFI20240201BHJP
   E04G 23/02 20060101ALI20240201BHJP
   E04G 23/03 20060101ALI20240201BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20240201BHJP
   B32B 3/30 20060101ALI20240201BHJP
   B32B 27/20 20060101ALI20240201BHJP
【FI】
E04D5/12 E
E04G23/02 A
E04G23/03
B32B27/00 M
B32B3/30
B32B27/20 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023120111
(22)【出願日】2023-07-24
(31)【優先権主張番号】P 2022121459
(32)【優先日】2022-07-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000165088
【氏名又は名称】恵和株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】辻 孝弘
(72)【発明者】
【氏名】大谷 紀昭
(72)【発明者】
【氏名】松野 有希
(72)【発明者】
【氏名】保野 宏介
【テーマコード(参考)】
2E176
4F100
【Fターム(参考)】
2E176AA23
2E176BB01
4F100AK01C
4F100AK25A
4F100AK25B
4F100AK51B
4F100AK52A
4F100AT00A
4F100BA02
4F100BA03
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10B
4F100CA23C
4F100CB00B
4F100CC00A
4F100DD01A
4F100DG06C
4F100DG11C
4F100DG12C
4F100EH46
4F100EJ42
4F100GB07
4F100YY00A
(57)【要約】
【課題】意匠性及び遮水性に優れた構造物用シート2の提供。
【解決手段】構造物用シート2は、機能層4、中間層6、粘着層8及び補強体10を有している。シート2の表側面Sfは、機能層4の露出面である。この表側面Sfは、ランド25と複数のリセス26とを含んでいる。これらのリセス26は、マトリックスであるランド25に、分散している。リセス26と、これに隣接する他のリセス26との間には、ランド25が存在している。リセス26の平均間隔が、0.02mm以上1.0mm以下が好ましい。ランド25とリセス26との面積比は、20/80以上80/20以下が好ましい。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
機能層と、この機能層の裏側に位置する粘着層とを備えた構造物用シートであって、
その表側面が、ランドと、互いに離間した複数のリセスとを含む、構造物用シート。
【請求項2】
上記表側面における、上記ランドと上記リセスとの面積比が、20/80以上80/20以下である、請求項1に記載の構造物用シート。
【請求項3】
上記リセスの平均面積が、0.005mm以上5.0mm以下である、請求項1又は2に記載の構造物用シート。
【請求項4】
上記リセスの平均深さが、0.005mm以上0.50mm以下である、請求項1又は2に記載の構造物用シート。
【請求項5】
上記リセスの平均間隔が、0.02mm以上1.0mm以下である、請求項1又は2に記載の構造物用シート。
【請求項6】
それぞれのリセスの輪郭形状が、円、楕円又は多角形である、請求項1又は2に記載の構造物用シート。
【請求項7】
上記機能層と上記粘着層との間に位置する中間層をさらに備えており、
上記中間層の材質が、ポリマーとフィラーとを含む複合材料である、請求項1又は2に記載の構造物用シート。
【請求項8】
上記機能層と上記粘着層との間に位置する補強体をさらに備えており、
上記補強体がファブリックである、請求項1又は2に記載の構造物用シート。
【請求項9】
構造物、
上記構造物に貼られた第一シート、
及び
その一部が上記第一シートに重なっており、残余の部分が上記構造物に貼られた第二シートを備えており、
上記第二シートが上記第一シートに重なった部分において、上記第一シートと上記第二シートとの間に複数のスペースが存在しており、
これらのスペースが互いに離間している、構造物の補修構造。
【請求項10】
構造物、
上記構造物に貼られた第一シート、
及び
その一部が上記第一シートに重なっており、残余の部分が上記構造物に貼られた第二シートを備えており、
上記第二シートが上記第一シートに重なった部分において、上記第一シートと上記第二シートとの間にスペースが存在していない、構造物の補修構造。
【請求項11】
シートによる構造物の補修又は補強の方法であって、
(1)機能層とこの機能層の裏側に位置する粘着層とを備えており、その表側面がランドと互いに離間した複数のリセスとを含む構造物用シートを、準備する工程、
及び
(2)上記粘着層の粘着力により、上記構造物の表面に上記シートを貼り付ける工程
を備えた、構造物の補修又は補強の方法。
【請求項12】
構造物の補修又は補強の方法であって、
(1)機能層とこの機能層の裏側に位置する粘着層とを備えており、その表側面がランドと互いに離間した複数のリセスとを含む第一シートを、準備する工程、
(2)機能層とこの機能層の裏側に位置する粘着層とを備えており、その表側面がランドと互いに離間した複数のリセスとを含む第二シートを、準備する工程、
(3)上記第一シートの上記粘着層の粘着力により、上記構造物の表面に上記第一シートを貼り付ける工程、
及び
(4)上記第一シートの縁の近傍に上記第二シートの一部を重ねつつ、上記第二シートの上記粘着層の粘着力により、上記第一シートの表面及び上記構造物の表面に、上記第二シートを貼り付ける工程
を備えた、構造物の補修又は補強の方法。
【請求項13】
旧シートによって補修又は補強された構造物の、再補修又は再補強の方法であって、
(1)機能層とこの機能層の裏側に位置する粘着層とを備えており、その表側面がランドと互いに離間した複数のリセスとを含む新シートを、準備する工程、
及び
(2)上記粘着層の粘着力により、破損又は劣化した上記旧シートの表面に上記新シートを貼り付ける工程
を備えた、構造物の再補修又は再補強の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、構造物に貼り付けられて使用されるシートを開示する。
【背景技術】
【0002】
人造スレートの屋根が長期間風雨に曝されると、劣化が生じる。劣化した屋根からの雨漏りが、懸念される。雨漏りの防止の目的で、人造スレートに塗料が塗布される。しかし、人造スレートの劣化が激しい屋根の場合、塗料の塗布によっても雨漏りが防止されないことがある。
【0003】
国際特許公開2021/010456公報には、構造物保護シートが開示されている。このシートは、ポリマーセメント層と樹脂層とを有する。このシートが屋根に貼り付けられることで、屋根の雨漏りが抑制されうる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際特許公開2021/010456公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
屋根には、意匠性も重要である。意匠性の観点から、表側面に模様を有する構造物用シートが好ましい。三次元形状を有する模様が、好ましい。三次元形状を有する模様として、ランド-シー模様が挙げられる。このランド-シー模様では、マトリックスは、シーである。複数のランドが、マトリックスに分散する。それぞれのランドは、シーから起立する。ランド-シー模様の一例として、シボ模様が挙げられる。
【0006】
屋根の補修では、複数のシートが屋根に貼られる。シートは、その一部が他のシートと重ねられて、貼られる。この重ねにより、継ぎ目が生じる。この継ぎ目のシーにおいて、雨水が移動しうる。水は、シーに沿って継ぎ目を通過し、屋根の表面へと至りうる。このシートは、雨漏りを十分には防止できない。遮水性に優れたシートが、望まれている。
【0007】
人造スレートの屋根以外の屋根の補修においても、シートに対する、意匠性と遮水性との両立の要請がある。屋根以外の構造物の補修又は補強においても、シートに対する、意匠性と遮水性との両立の要請がある。
【0008】
本出願人の意図するところは、意匠性及び遮水性に優れた構造物用シートの提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本明細書が開示する構造物用シートは、機能層と、この機能層の裏側に位置する粘着層とを有する。この構造物用シートの表側面は、ランドと、互いに離間した複数のリセスとを含む。
【発明の効果】
【0010】
この構造物用シートでは、表側面が有するランド及び複数のリセスが、模様として機能する。この構造物用シートは、意匠性に優れる。これらのリセスが互いに離間しているので、あるリセスに侵入した水が、隣接するリセスにまで至らない。このシートは、遮水性にも優れる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、一実施形態に係る構造物用シートの一部が示された斜視図である。
図2図2は、図1のII-II線に沿った断面図である。
図3図3は、図2において符号IIIが付された部分が示された拡大図である。
図4図4は、図1の構造物用シートが屋根と共に示された断面図である。
図5図5は、図4において符号Vが付された部分が示された拡大図である。
図6図6は、図4において符号VIが付された部分が示された拡大図である。
図7図7は、図4の構造物用シートに含まれる機能層が示された拡大斜視図である。
図8図8は、図7の機能層が示された平面図である。
図9図9は、図8のIX-IX線に沿った断面図である。
図10図10は、図4の構造物用シートに含まれる補強体の一部が示された拡大平面図である。
図11図11は、図6の継ぎ目の一部が示された拡大図である。
図12図12は、図9の機能層一部が示された拡大図である。
図13図13は、他の実施形態に係る構造物用シートの一部が示された断面図である。
図14図14は、実施例1に係る構造物用シートの表側面が示された拡大写真である。
図15図15は、実施例2に係る構造物用シートの表側面が示された拡大写真である。
図16図16は、比較例1に係る構造物用シートの表側面が示された拡大写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態が詳細に説明される。
【0013】
[第一実施形態]
[層構造]
図1-3に、構造物用シート2が示されている。このシート2は、構造物に貼り付けられる。図1において、矢印Xはシート2の幅方向を表し、矢印Yはシート2の長さ方向を表し、矢印Zはシート2の厚さ方向を表す。このシート2の平面形状は、概して矩形である。図3から明らかなように、このシート2は、機能層4、中間層6、粘着層8及び補強体10を有している。補強体10は、中間層6に埋設されている。各層の材質等は、後に詳説される。このシート2は、表側面Sf及び裏側面Sbを有している。本実施形態では、機能層4の露出面が表側面Sfであり、粘着層8の露出面が裏側面Sbである。シート2が、離型紙又は離型フィルムを有してもよい。離型紙及び離型フィルムは、粘着層8と積層される。
【0014】
[屋根の補修]
この構造物用シート2の典型的な用途は、屋根の補修である。図4-6に、補修された屋根12が示されている。これらの図には、屋根12と共に、2つのシート2(第一シート2a及び第二シート2b)が示されている。第二シート2bの仕様は、第一シート2aの仕様と同じである。屋根12として、人造スレート屋根、瓦屋根、鋼板屋根(折板屋根を含む)、銅板屋根、トタン板屋根、コンクリート屋根等が挙げられる。
【0015】
図4では、第一シート2aの下縁14aの位置は、屋根12の下端16の位置と概ね一致している。第一シート2aは、全体として、屋根12に貼られている。図5に示されるように、この屋根12は、段差18を有している。第一シート2aは、この段差18の近傍において、湾曲している。この湾曲によって第一シート2aは、段差18に追従している。
【0016】
図6に示されるように、第二シート2bは、その下縁14bの近傍において、第一シート2aの上縁20aの近傍と重なっている。この重なりにより、継ぎ目22が形成されている。第二シート2bのうち、継ぎ目22以外の部分は、屋根12に貼られている。第一シート2aの上縁20aは、この第一シート2aと屋根12との間に段差24を形成している。第二シート2bは、この段差24の近傍において、湾曲している。この湾曲によって第二シート2bは、段差24に追従している。
【0017】
[プライマー層]
構造物用シート2は通常、プライマー層を介して屋根12に貼り付けられる。本明細書では、プライマー層等を介してシート2が屋根12に貼り付けられる場合も含め、「シート2が屋根12に貼り付けられる」と称される。図5及び6では、プライマー層の図示が省略されている。
【0018】
好ましくは、プライマー層の材質は、硬化性樹脂組成物である。硬化性樹脂として、熱硬化樹脂及び光硬化樹脂が例示される。好ましい硬化性樹脂は、エポキシ化合物である。エポキシ化合物として、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、オルトクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、脂肪族系エポキシ樹脂、フェノール類のジグリシジルエーテル化物、及びアルコール類のジグリシジルエーテル化物が、例示される。エポキシ化合物のための硬化剤として、多官能フェノール類、アミン類、ポリアミン類、メルカプタン類、イミダゾール類、酸無水物及び含リン化合物が例示される。
【0019】
[シートのヤング率]
この構造物用シート2のヤング率は、20MPa以上300MPa以下が好ましい。ヤング率が20MPa以上であるシート2に張力がかかったとき、永久変形及び破断が生じにくい。このシート2は、取り扱い性に優れる。この観点から、ヤング率は30MPa以上がより好ましく、40MPa以上が特に好ましい。ヤング率が300MPa以下であるシート2は、追従性に優れる。この観点から、ヤング率は280MPa以下が好ましく、260MPa以下が特に好ましい。ヤング率は、「JIS K 7161」の規定に準拠して測定される。測定に適した装置として、島津製作所製社の「精密万能試験機 AGXTM-V」が例示される。
【0020】
[シートの水蒸気透過率]
構造物用シート2の水蒸気透過率は、10g/m・day以上が好ましい。このシート2が構造物に貼り付けられた後、構造物に含まれる水分や、構造物とシート2との間に存在する水分が、シート2を通じて排出されうる。このシート2は、構造物中の金属の腐食を抑制しうる。このシート2は、水分を含む構造物(例えば乾燥が不十分なコンクリートを有する構造物)にも、適している。このシート2は、雨天時の施工にも適している。これらの観点から、水蒸気透過率は20g/m・day以上がより好ましく、25g/m・day以上が特に好ましい。水蒸気透過率は、50g/m・day以下が好ましい。水蒸気透過率は、「JIS Z0208」の規定に準拠して測定される。
【0021】
[機能層]
図3から明らかなように、本実施形態では、機能層4は、最も上に位置している。換言すれば、シート2が構造物に貼られたとき、機能層4は、厚さ方向Z(図1参照)において、この構造物から最も離れて位置する。機能層4は、シート2に望まれる機能に、寄与する。この機能として、耐候性、耐摩耗性、耐薬品性、非透水性、非透湿性及び透湿性が例示される。典型的な耐候性は、耐熱性及び耐光性である。機能層4は、1又は2以上の機能に寄与しうる。
【0022】
機能層4の好ましい材質は、ポリマー組成物である。この機能層4は、概して柔軟である。この機能層4を有する構造物用シート2は、下地の凹凸に追従しうる。ポリマー組成物は、基材ポリマーを含む。合成樹脂、合成ゴム及び天然ゴムが、基材ポリマーとして、組成物に含有されうる。基材ポリマーが合成樹脂である機能層4は、「樹脂層」とも称される。
【0023】
機能層4に耐光性が望まれる場合、紫外線で劣化しにくい基材ポリマーが好ましい。具体的には、紫外線(410KJ/mol)よりも強い結合エネルギーを有するポリマーが、好ましい。機能層4の耐光性及びシート2の柔軟性に寄与しうるポリマーとして、アクリル樹脂、アクリルウレタン樹脂、アクリルシリコーン樹脂、フッ素樹脂、柔軟エポキシ樹脂及びポリブタジエンが例示される。
【0024】
耐光性の観点から、機能層4の基材ポリマーに特に適した樹脂は、アクリルシリコーン樹脂である。アクリルシリコーン樹脂は、シロキサン結合を含む。アクリルシリコーン樹脂は、耐熱性及び耐寒性にも優れる。アクリルシリコーン樹脂を含む組成物の具体例として、大日精化社の商品名「クールライフSPブラック(CB1)P5-0」、藤倉化成社の商品名「ベルアース弾性黒」、東亞合成社の商品名「アロンブルコートT-1000」、並びに日本触媒社の商品名「アクリセットEMN325E」及び「ユーダブルEF008」が挙げられる。
【0025】
機能層4のポリマー組成物は、必要に応じ、顔料、充填剤、補強材、防汚剤等の添加剤を含みうる。顔料を含む機能層4は、意匠性に優れる。有機顔料及び無機顔料を、ポリマー組成物は含みうる。充填剤として、シリカ、アルミナ、チタニア等の金属酸化物粒子が例示される。補強材として、セルロールナノファイバーが例示される。それぞれの添加剤の含有率は、機能に応じ調整される。
【0026】
機能層4に非透水性及び透湿性が望まれる場合、機能層4の水蒸気透過率は、10g/m・day以上50g/m・day以下が好ましい。水蒸気透過率は、「JIS Z0208」の規定に準拠して測定される。
【0027】
図3において矢印t1は、機能層4の厚さを表す。機能の観点から、厚さt1は10μm以上が好ましく、30μm以上がより好ましく、50μm以上が特に好ましい。シート2の追従性、生産性及び軽量の観点から、厚さt1は500μm以下が好ましく、300μm以下がより好ましく、150μm以下が特に好ましい。厚さt1の分布が±50μmの範囲内であることが、好ましい。構造物用シート2が、2以上の機能層4を有してもよい。
【0028】
図7-9に、機能層4が拡大されて示されている。前述の通り、構造物用シート2の表側面Sfは、機能層4の露出面である。この表側面Sfは、ランド25(凸部)と複数のリセス26(凹部)とからなる。これらのリセス26は、マトリックスであるランド25に、分散している。平面視におけるそれぞれのリセス26の輪郭形状は、円である。リセス26と、これに隣接する他のリセス26との間には、ランド25が存在している。リセス26は、ランド25に囲まれている。換言すれば、リセス26は、他のリセス26と離間している。これらのリセス26とランド25とは、ラフネス模様を形成している。この構造物用シート2は、意匠性に優れる。シート2が、その輪郭形状が円以外であるリセス26を有してもよい。円以外の輪郭形状として、楕円及び多角形が例示される。好ましい多角形として、正三角形、正方形、菱形及び正六角形が例示される。
【0029】
[中間層]
図1-3に戻って)中間層6は、シート2の剛性等に寄与する。中間層6の好ましい材質は、ポリマーとフィラーとの複合材料である。複合材料のポリマーとして、アクリル樹脂、アクリルシリコーン樹脂、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体及びスチレン-ブタジエン共重合体が例示される。複合材料のフィラーとして、セメント、シリカ、アルミナ、酸化チタン、炭酸カルシウム及びカーボンブラックが例示される。好ましい複合材料は、ポリマーセメントである。このポリマーセメントは、ポリマーとセメントとを含む。典型的なポリマーは、アクリル樹脂である。セメントとして、ポルトランドセメント及びアルミナセメント並びにこれらの混合物が例示される。ポルトランドセメントが、好ましい。材質がポリマーセメントである中間層6は、「ポリマーセメント硬化層」とも称される。
【0030】
中間層6がポリマーとセメントとを含む場合、中間層6の固形分に占めるポリマーの質量比率は、10%以上40%以下が好ましい。この比が10%以上である中間層6は、他の層(機能層4又は粘着層8)との密着性に優れる。この観点から、この比は15%以上がより好ましく、20%以上が特に好ましい。この比率が40%以下である中間層6は、十分な量のセメントを含みうる。この観点から、この比は35%以下がより好ましく、30%以下が特に好ましい。
【0031】
中間層6がポリマーとセメントとを含む場合、中間層6の固形分に占めるセメントの質量比率は、20%以上70%以下が好ましい。この比が20%以上である中間層6を有する構造物用シート2では、大きな引張強さ及び小さな伸びが達成されうる。このシート2は、取り扱い性に優れる。この観点から、この比は30%以上がより好ましく、35%以上が特に好ましい。この比率が70%以下である中間層6は、十分な量のポリマーを含みうる。この観点から、この比は60%以下がより好ましく、55%以下が特に好ましい。
【0032】
ポリマーを含む組成物と、セメントを含む組成物とから得られた混合液から、中間層6が形成されうる。ポリマーを含む好ましい組成物は、アクリル系エマルションである。このアクリル系エマルションは、モノマーが乳化重合されて得られる。乳化重合は、乳化剤によってなされうる。重合は、界面活性剤を含む水の中でなされうる。典型的なモノマーは、アクリル酸エステル又はメタクリル酸エステルである。アクリル系エマルションにおけるモノマー成分の含有量は、20質量%から100質量%である。
【0033】
ポリマーを含む組成物の具体例として、菊水化学工業社の商品名「スプリングコートハケ混和液」及び東亞合成社の商品名「アロンブルコートA450ベース」が挙げられる。セメントを含む組成物の具体例として、菊水化学工業社の商品名「スプリングコートハケ粉体」及び東亞合成社の商品名「アロンブルコートA450セッター」が挙げられる。
【0034】
ポリマーとセメントとを含む中間層6は、水蒸気透過性に優れる。この中間層6を有するシート2で構造物が覆われても、この構造物中の金属は腐食しにくい。中間層6の水蒸気透過率は、20g/m・day以上60g/m・day以下が好ましい。水蒸気透過率は、「JIS Z0208」の規定に準拠して測定される。
【0035】
図3において矢印t2は、中間層6の厚さを表す。本実施形態では、前述の通り、補強体10が中間層6に埋設されている。従って、補強体10を含め、厚さt2が測定される。シート2の取り扱い性の観点から、厚さt2は100μm以上が好ましく、300μm以上がより好ましく、500μm以上が特に好ましい。シート2の追従性、生産性及び軽量の観点から、厚さt2は1500μm以下が好ましく、1000μm以下がより好ましく、700μm以下が特に好ましい。厚さt2の分布が±100μmの範囲内であることが、好ましい。
【0036】
中間層6の材質が、樹脂組成物又はゴム組成物であってもよい。構造物用シート2が、2以上の中間層6を有してもよい。構造物用シート2が、互いの材質が異なる2つの中間層6を有してもよい。構造物用シート2が、中間層6を含まない層構造を有してもよい。
【0037】
中間層6の、機能層4との密着の観点から、中間層6の基材ポリマーが、機能層4の基材ポリマーと同種であることが好ましい。
【0038】
[粘着層]
粘着層8(又は接着層)は、下地と当接する。粘着層8の粘着力により、シート2が構造物に貼り付けられうる。粘着層8により、シート2と構造物との、0.5N/mm以上の付着力が達成されうる。
【0039】
粘着層8の好ましい材質は、ポリマーを基材とする粘着剤組成物である。この粘着剤組成物に適したポリマーとして、アクリル樹脂、シリコーン、ポリウレタン、ポリエステル、天然ゴム及び合成ゴムが、例示される。基材として特に好ましいポリマーは、アクリル樹脂である。粘着剤組成物の具体例として、トーヨーケム社の商品名「オリバインBPS6574」、「オリバインBPS6554」及び「オリバインBPS5565K」が挙げられる。
【0040】
粘着剤組成物が、硬化剤を含んでもよい。基材がアクリル樹脂である場合の好ましい硬化剤は、イソシアネート硬化剤である。アクリル樹脂100質量部に対するイソシアネート硬化剤の比率は1.0質量部以上が好ましく、2.0質量部以上がより好ましく、2.5質量部以上が特に好ましい。この比率は10質量部以下が好ましく、8質量部以下がより好ましく、7質量部以下が特に好ましい。
【0041】
粘着剤組成物は、粘着付与剤を含みうる。粘着付与剤として、ロジン系粘着付与剤、テルペン系粘着付与剤、石油樹脂系粘着付与剤及びフェノール樹脂系粘着付与剤が例示される。基材ポリマー100質量部に対する粘着付与剤の比率は、0.5質量部以上が好ましく、1.0質量部以上がより好ましく、1.5質量部以上が特に好ましい。この比率は15質量部以下が好ましく、10質量部以下がより好ましく、7質量部以下が特に好ましい。粘着付与剤の具体例として、荒川化学の商品名「エステルガム H」、「エステルガム AA-V」及び「エステルガム 105」が例示される。
【0042】
図3において矢印t3は、粘着層8の厚さを表す。粘着性の観点から、厚さt3は20μm以上が好ましく、40μm以上がより好ましく、50μm以上が特に好ましい。シート2の生産性、軽量及び取り扱い性の観点から、厚さt3は500μm以下が好ましく、200μm以下がより好ましく、150μm以下が特に好ましい。粘着層8の量は、20g/m以上250g/m以下が好ましい。構造物用シート2が、2以上の粘着層8を有してもよい。
【0043】
[補強体10(Reinforcement)]
補強体10は、構造物用シート2に適切なヤング率を付与しうる。補強体10は、シート2の大きな引張強さに寄与しうる。補強体10はさらに、シート2の小さな伸びに寄与しうる。補強体10を含むシート2は、取り扱い性に優れる。前述の通り補強体10は、中間層6に埋設されている。補強体10が、機能層4に埋設されてもよい。補強体10が、粘着層8に埋設されてもよい。補強体10が、機能層4と中間層6との間に位置してもよい。補強体10が、中間層6と粘着層8との間に位置してもよい。本明細書において補強体10とは、この補強体10を有さない点を除いてシート2の層構造と同じ層構造を有する仮想のシート2に比べ、大きな引張強さをシート2に付与しうる物体を、意味する。
【0044】
この補強体10の引張強さは、5.0MPa以上が好ましい。補強体10の引張強さが5.0MPa以上であるシート2は、張力がかかっても破れにくい。このシート2は、取り扱い性に優れる。この観点から、引張強さは5.5MPa以上がより好ましく、6.0MPa以上が特に好ましい。シート2の追従性の観点から、補強体10の引張強さは15.0MPa以下が好ましく、10.0MPa以下がより好ましく、7.0MPa以下が特に好ましい。
【0045】
この補強体10の破断時の伸びは、15.0%以下が好ましい。補強体10の伸びが15.0%以下であるシート2は、張力がかかっても変形しにくい。このシート2は、取り扱い性に優れる。この観点から、補強体10の伸びは13.0%以下がより好ましく、11.0%以下が特に好ましい。シート2の追従性の観点から、補強体10の伸びは5.0%以上が好ましく、7.0%以上がより好ましく、8.5%以上が特に好ましい。
【0046】
引張強さ及び伸びは、「JIS L1913:2010」に規定された一般不織布試験法に準拠して測定される。測定のための試験片は、補強体10又はその原反から切り出される。その長さ方向が補強体10又はその原反の長さ方向と一致する5個の試験片と、その長さ方向が補強体10又はその原反の幅方向と一致する5個の試験片とが、測定に供される。10の測定値が平均されて、引張強さ及び伸びが算出される。
【0047】
平面視における、構造物用シート2の面積に対する補強体10の輪郭の面積の比率は、60%以上が好ましい。この比率が60%以上である補強体10は、シート2の取り扱い性に寄与しうる。この観点から、この比率は70%以上がより好ましく、75%以上が特に好ましい。この比率が、100%であってもよい。継ぎ目22における追従性の観点から、この比率は95%以下が好ましい。
【0048】
[ファブリック]
図10に、補強体10が示されている。この補強体10では、複数の縦糸28aと複数の横糸28bとが、織られている。換言すれば、補強体10は、織物(クロス)である。本実施形態では、この織物は、平織り組織を有する。織物は、ファブリックの一種である。ファブリックである補強体10には、中間層6の組成物が含浸しうる。この含浸は、シート2の大きな引張強さに寄与しうる。この含浸はさらに、シート2の小さな伸びに寄与しうる。補強体10が、織物以外のファブリックであってもよい。織物以外のファブリックとして、編み物(ニット)及び交点溶着メッシュが例示される。
【0049】
補強体10の材質として、合成樹脂組成物及び金属が例示される。合成樹脂組成物の好ましい基材樹脂として、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、アラミド、ビニロン、ポリプロピレン、ポリスチレン及びポリフッ化ビニリデンが例示される。好ましい金属として、アルミニウム合金、炭素鋼及び合金鋼が例示される。引張強さが大きい縦糸28a及び横糸28bが採用されることにより、シート2の、十分に大きい引張強さが達成されうる。伸びの小さい縦糸28a及び横糸28bが採用されることにより、シート2の、十分に小さい伸びが達成されうる。
【0050】
図10から明らかなように、この補強体10は、多くの目30を有している。本実施形態では、それぞれの目30の平面形状は、概して正方形である。中間層6は、この目30を貫通している。この貫通は、シート2の大きな引張強さに寄与しうる。この貫通はさらに、シート2の小さな伸びに寄与しうる。
【0051】
図10において矢印P1は、糸28のピッチを表す。ピッチP1は、1.0mm以上50mm以下が好ましい。ピッチP1が1.0mm以上である補強体10では、多くのポリマーセメント等が目30を貫通する。この補強体10は、シート2の、大きな引張強さ及び小さな伸びに寄与しうる。この観点から、ピッチP1は1.2mm以上がより好ましく、1.5mm以上が特に好ましい。ピッチP1が50mm以下である補強体10では、この補強体10が、シート2の、大きな引張強さ及び小さな伸びに寄与しうる。この観点から、ピッチP1は40mm以下がより好ましく、35mm以下が特に好ましい。
【0052】
図7において矢印D1は、糸28の太さを表す。太さD1が大きい糸28により、シート2の、大きな引張強さ及び小さな伸びが、達成されうる。この観点から、太さD1は0.05mm以上が好ましく、0.10mm以上がより好ましく、0.15mm以上が特に好ましい。太さは、1.0mm以下が好ましい。
【0053】
ファブリック以外の補強体10を、構造物用シート2が含んでもよい。ファブリック以外の補強体10として、不織布、長繊維、樹脂フィルム及び金属箔が例示される。組成物に分散した多数の短繊維が、補強体10であってもよい。シート2が、補強体10を含まない層構造を有してもよい。
【0054】
[他の層]
構造物用シート2が、機能層4の上に位置する他の層を有してもよい。典型的な他の層は、クリアーペイント層である。構造物用シート2が、機能層4と中間層6との間に位置する層を有してもよい。構造物用シート2が、中間層6と粘着層8との間に位置する層を有してもよい。
【0055】
[総厚さ]
図3において矢印Ttは、シート2の総厚さを表す。総厚さTtは、200μm以上が好ましく、400μm以上がより好ましく、500μm以上が特に好ましい。この総厚さTtは、5.0mm以下が好ましく、3.0mm以下がより好ましく、1.0mm以下が特に好ましい。総厚さTtの分布が±100μmの範囲内であることが、好ましい。
【0056】
[継ぎ目の遮水性]
図11に、図6の継ぎ目22が拡大されて示されている。この継ぎ目22では、第二シート2bの下縁14bの近傍が、第一シート2aの表側面Sfを覆っている。屋根12の補修のとき、この第二シート2bの粘着層8の組成物は、第一シート2aのリセス26に進入しうる。この進入は、リセス26の中の空気の排出を伴う。しかし一部のリセス26では、組成物の進入が十分ではなく、空気が残存する。図11には、空気が残存した第一リセス26a、第二リセス26b、第三リセス26c及び第四リセス26dが示されている。これらのリセス26は、互いに離間している。それぞれのリセス26において、第二シート2bの粘着層8との間に、スペースSpが生じている。この継ぎ目22には、複数のスペースSpが存在している。これらのスペースSpは、互いに離間している。第一シート2aのランド25は、粘着層8と密着している。
【0057】
補修後に、降雨等の環境要因により、第一リセス26aに水が浸入しうる。水は、第一リセス26aに溜まる。第二リセス26bは、第一リセス26aと離間している。従って、第一リセス26aの水は、第二リセス26bへと進行しない。
【0058】
第三リセス26cは、第二リセス26bと離間している。何らかの要因で、もし第二リセス26bに水が溜まっても、この水は第三リセス26cへと進行しない。
【0059】
第四リセス26dは、第三リセス26cと離間している。何らかの要因で、もし第三リセス26cに水が溜まっても、この水は第四リセス26dへと進行しない。
【0060】
補修された屋根12では、水が継ぎ目22を通過しにくい。従って、水が屋根12に至りにくい。この構造物用シート2は、遮水性に優れる。
【0061】
[リセスの仕様]
図12において矢印Dmは、リセス26の直径を表す。無作為に抽出された100個のリセス26において直径Dmが測定され、平均直径が算出される。平均直径は、0.05mm以上1.0mm以下が好ましい。平均直径が0.05mm以上であるリセス26は、シート2の意匠性に寄与しうる。この観点から、平均直径は0.10mm以上がより好ましく、0.15mm以上が特に好ましい。平均直径が1.0mm以下であるリセス26は、シート2の意匠性に寄与しうる。さらにこのリセス26は、遮水性を阻害しにくい。これらの観点から、平均直径は0.6mm以下がより好ましく、0.45mm以下が特に好ましい。リセス26の輪郭が非円形である場合、この輪郭の面積と同じ面積を有する円が想定される。この円の直径が、このリセス26の直径Dmと見なされる。
【0062】
図12において矢印Dpは、リセス26の深さを表す。無作為に抽出された100個のリセス26において深さDpが測定され、平均深さが算出される。平均深さは、0.005mm以上0.50mm以下が好ましい。平均深さが0.005mm以上であるリセス26は、シート2の意匠性に寄与しうる。この観点から、平均深さは0.020mm以上がより好ましく、0.030mm以上が特に好ましい。平均深さが0.50mm以下であるリセス26は、遮水性を阻害しにくい。さらに、このリセス26は、シート2の耐久性及び耐候性を阻害しない。これらの観点から、平均深さは0.08mm以下がより好ましく、0.06mm以下が特に好ましい。シート2の耐久性及び耐候性の観点から、機能層4の厚さt1(図3参照)に対する平均深さの比率は、80%以下が好ましく、60%以下がより好ましく、35%以下が特に好ましい。
【0063】
リセス26の平均面積は、0.002mm以上3.0mm以下が好ましい。平均面積が0.002mm以上であるリセス26は、シート2の意匠性に寄与しうる。この観点から、平均面積は0.004mm以上がより好ましく、0.008mm以上が特に好ましい。平均面積が3.0mm以下であるリセス26は、シート2の意匠性に寄与しうる。さらにこのリセス26は、遮水性を阻害しにくい。これらの観点から、平均面積は2.5mm以下がより好ましく、1.5mm以下が特に好ましい。無作為に抽出された100個のリセス26において面積が測定され、平均面積が算出される。
【0064】
ランド25とリセス26との面積比は、20/80以上80/20以下が好ましい。この面積比が20/80以上である構造物用シート2は、意匠性に優れる。このシート2はさらに、遮水性に優れる。これらの観点から、この面積比は30/70以上がより好ましく、40/60以上が特に好ましい。この面積比が80/20以下である構造物用シート2は、意匠性に優れる。この観点から、この面積比は75/25以下がより好ましく、70/30以下が特に好ましい。
【0065】
[シートの製造方法]
以下、この構造物用シート2の製造方法の一例が、説明される。この製造方法では、機能層4のポリマー組成物が溶媒と混合され、第一塗料が得られる。この第一塗料がベースフィルムの上に塗工され、第一塗膜が得られる。この第一塗膜が加熱され、第一塗料から溶媒が揮発する。この加熱よって基材ポリマーが硬化し、機能層4が得られる。表面にラフネス模様を有するベースフィルムに第一塗料が塗工されることにより、ラフネス模様を有する機能層4が得られうる。機能層4のラフネス模様は、ベースフィルムのラフネス模様の形状が反転した形状を有する。
【0066】
次ぎに、中間層6の複合材料が溶媒と混合され、第二塗料が得られる。この第二塗料が機能層4の上に塗工され、第二塗膜が得られる。この第二塗膜に、補強体10が押し当てられる。この第二塗膜が加熱され、第二塗料から溶媒が揮発する。この加熱よってポリマーが硬化し、補強体10を含む中間層6が得られる。
【0067】
次ぎに、粘着層8の粘着剤組成物が溶媒と混合され、第三塗料が得られる。この第三塗料が離型フィルムの上に塗工され、第三塗膜が得られる。この第三塗膜が加熱され、第三塗料から溶媒が揮発して、粘着層8が得られる。
【0068】
この粘着層8が、中間層6と重ねられる。さらに、機能層4からベースフィルムが剥離され、粘着層8から離型フィルムが剥離されて、構造物用シート2が得られる。離型フィルムが、構造物用シート2に残存してもよい。
【0069】
[用途]
この構造物用シート2は追従性に優れるので、前述の通り、段差18が存在する屋根12にも適用されうる。複数のシート2が継ぎ貼りされることで、広い面積にて、屋根12の表面がシート2で覆われうる。シート2が粘着層8を有するので、屋根12への粘着剤(又は接着剤)の塗布は、必須ではない。この粘着層8は粘着性に優れるので、屋根12の表面の材質が複合的である場合でも、広い面積にて、屋根12の表面がシート2で覆われうる。例えば、表面が金属及び人造スレートの両方を含む屋根12であっても、広い面積にて、屋根12の表面がシート2で覆われうる。
【0070】
屋根12の表面の全体が、シート2で覆われてもよい。本明細書において屋根12の表面とは、鉛直方向の上から屋根12が見られたとき、視認されうる面を意味する。屋根12の表面の全体が単一種類のシート2で覆われる補修方法は、従来の工法には見られない。
【0071】
このシート2は、鋼板、銅板、トタン板等に比べ、軽量である。従って、広い面積にて屋根12の表面がシート2で覆われても、建築物の耐震性への悪影響は、小さい。耐震性の観点から、シート2の密度は4.0g/cm以下が好ましく、3.0g/cm以下がより好ましく、2.5g/cm以下が特に好ましい。この密度は、屋根12の補修に賞用されているアルミニウム-亜鉛合金メッキ鋼板(商品名「ガルバリウム鋼板」)の密度に比べ、はるかに小さい。
【0072】
[他の用途]
このシート2は、屋根12以外の構造物の補修又は補強に寄与しうる。屋根12以外の構造物として、住宅の壁、柱、軒、塀、門、扉、パラペット、笠木等が挙げられる。このシート2が、商用ビルディング、工場、倉庫、橋梁、下水施設、鉄道施設、電柱、トンネル等に用いられてもよい。
【0073】
[再補修及び再補強]
このシート2又は他のシートにより構造物(屋根12等)が補修又は補強された後、経年変化により、シートや構造物が破損又は劣化することがある。この破損箇所又は劣化箇所のシートに、新たに用意された構造物用シート2が貼られることで、再補修又は再補強がなされうる。旧シートに新シート2が重ね貼りされることで、極めて長い期間にわたり、構造物の価値が保全され、かつ維持されうる。この重ね貼りは、新シート2の粘着層8の粘着力によって、達成されうる。この再補修及び再補強では、旧シートが廃棄される必要がない。この再補修及び再補強では、廃棄物の発生が抑制されうる。このシート2は、サーキュラーエコノミーの趣旨に沿う。密度の小さなシート2が旧シートに積層されても、構造物の耐震性への悪影響は、小さい。
【0074】
[第二実施形態]
[層構造]
図13に、他の実施形態に係る構造物用シート32が示されている。このシート32は、機能層34、中間層36及び粘着層38を有している。機能層34、中間層36及び粘着層38の材質、厚さ等の仕様は、図1-3に示された構造物用シート2の機能層4、中間層6及び粘着層8仕様と、それぞれ同じである。このシート32は、補強体10(図3参照)を有していない。このシート32は、表側面Sf及び裏側面Sbを有している。
【0075】
[機能層の露出面]
この構造物用シート32の表側面Sfは、機能層34の露出面である。この表側面Sfは、ランド40と複数のリセス42とからなる。ランド40とこれらのリセス42とは、図7に示されたものと同様のラフネス模様を形成している。このシート32は、意匠性に優れる。それぞれのリセス42は、図8及び9に示されたリセス26の形状と同様の形状を有する。このリセス42は、他のリセス42と離間している。このシート32が形成する継ぎ目において、リセス42に溜まった水は、隣接するリセス42へと進行しない。このシート32は、遮水性に優れる。
【0076】
[第三実施形態]
構造物用シートの表側面が、微小な突起及び微小な窪みの一方又は両方を含むラフネス模様を有してもよい。このラフネス模様は、ランド-リセス構造を有さない。この表側面に他のシートの粘着層が重ねられて、継ぎ目が形成されうる。ラフネス模様に粘着層が十分に沿うことで、スペースが存在しない継ぎ目が得られうる。この継ぎ目は、遮水性に優れる。継ぎ目において、互いに離間した複数のスペースが形成されてもよい。これらのスペースは、遮水性を阻害しにくい。ラフネス模様に粘着層が十分に沿うように、ラフネス模様の粗さ又は粘着層の流動性が、調整される。
【実施例0077】
以下、実施例に係る構造物用シートの効果が明らかにされる。この実施例の記載に基づいて、本明細書で開示された範囲が限定的に解釈されるべきではない。
【0078】
[実施例1]
アクリルシリコーン樹脂と溶媒とを混合し、第一塗料を得た。表面にラフネス模様を有する離型シートに、第一塗料を塗工し、第一塗膜を得た。この第一塗膜をオーブンに投入し、80℃の温度下に1時間保持して、機能層を作製した。この機能層の厚さは、100μmであった。機能層の表側面には、離型シートのラフネス模様の形状が反転した形状の模様が、形成された。この模様の拡大写真が、図14に示されている。この模様は、ランドと複数のリセスとを有する。それぞれのリセスの輪郭形状は、円である。
【0079】
アクリルエマルション(前述の商品名「スプリングコートハケ混和液」)とセメント組成物(前述の商品名「スプリングコートハケ粉体」)とを混合し、第二塗料を得た。この第二塗料を機能層の裏側に塗工し、第二塗膜を得た。この第二塗膜に、補強体としての織布(クラレ社の「寒冷紗#600 クレモナ」)を押し当てた。この第二塗膜を加熱し、補強体を含む中間層を得た。この中間層の厚さは、300μmであった。
【0080】
100質量部のアクリル樹脂を含む粘着剤(前述の商品名「オリバインBPS6574」)と、6質量部のイソシアネート系硬化剤(トーヨーケム社の商品名「BHS8515」)とを混合し、ゲル分率が57%である第三塗料を得た。この第三塗料を離型フィルムの上に塗工し、第三塗膜を得た。この第三塗膜を加熱し、粘着層を得た。この粘着層の厚さは、100μmであった。
【0081】
この粘着層を、中間層と重ねた。さらに、機能層から離型シートを剥がし、粘着層から離型フィルムを剥がして、図1-3に示された層構造を有する、実施例1の構造物用シートを得た。このシートの表側面の、算術平均粗さRaは28.9μmであり、最大深さは114μmであった。
【0082】
[実施例2]
実施例1の離型シートのラフネス模様とは異なるラフネス模様を有する離型シートに、第一塗料を塗工した他は実施例1と同様にして、実施例2の構造物用シートを得た。このシートの表側面の、算術平均粗さRaは25.6μmであり、最大深さは65μmであった。表側面の拡大写真が、図15に示されている。この模様は、ランドと複数のリセスとを有する。それぞれのリセスの輪郭形状は、正方形である。
【0083】
[比較例1]
実施例1の離型シートのラフネス模様とは異なるラフネス模様を有する離型シートに、第一塗料を塗工した他は実施例1と同様にして、比較例1の構造物用シートを得た。このシートの表側面の、算術平均粗さRaは30.7μmであり、最大深さは127μmであった。表側面の拡大写真が、図16に示されている。このシートは、ランド-シー模様を有する。この模様では、シーはマトリックスである。
【0084】
[遮水性の評価]
構造物用シートから、2枚の試験片を切り出した。各試験片のサイズは、100mm×55mmであった。これらの試験片を、継ぎ目の幅が10mmとなるように、フレキシブル板に貼り付けた。このフレキシブル板は、「JIS A 5430」に規定されたものであり、その厚さは4mmであった。これらの試験片を、「JIS A 6909:2014」に規定された透水試験B法に供し、透水量を測定した。この結果は、下記の通りであった。
実施例1:約0.4mL
実施例2:約0.4mL
比較例1:5.0mL超
【0085】
この評価結果から明らかな通り、各実施例の構造物用シートは、遮水性に優れている。この評価結果から、この構造物用シートの優位性は明らかである。
【0086】
[開示項目]
以下の項目のそれぞれは、好ましい実施形態を開示する。
【0087】
[項目1]
機能層と、この機能層の裏側に位置する粘着層とを備えた構造物用シートであって、
その表側面が、ランドと、互いに離間した複数のリセスとを含む、構造物用シート。
【0088】
[項目2]
上記表側面における、上記ランドと上記リセスとの面積比が、20/80以上80/20以下である、項目1に記載の構造物用シート。
【0089】
[項目3]
上記リセスの平均面積が、0.005mm以上5.0mm以下である、項目1又は2に記載の構造物用シート。
【0090】
[項目4]
上記リセスの平均深さが、0.005mm以上0.50mm以下である、項目1から3のいずれかに記載の構造物用シート。
【0091】
[項目5]
上記リセスの平均間隔が、0.02mm以上1.0mm以下である、項目1から4のいずれかに記載の構造物用シート。
【0092】
[項目6]
それぞれのリセスの輪郭形状が、円、楕円又は多角形である、項目1から5のいずれかに記載の構造物用シート。
【0093】
[項目7]
上記機能層と上記粘着層との間に位置する中間層をさらに備えており、
上記中間層の材質が、ポリマーとフィラー(例えばセメント)とを含む複合材料である、項目1から6のいずれかに記載の構造物用シート。
【0094】
[項目8]
上記機能層と上記粘着層との間に位置する補強体をさらに備えており、
上記補強体がファブリックである、項目1から7のいずれかに記載の構造物用シート。
【0095】
[項目9]
構造物、
上記構造物に貼られた第一シート、
及び
その一部が上記第一シートに重なっており、残余の部分が上記構造物に貼られた第二シートを備えており、
上記第二シートが上記第一シートに重なった部分において、上記第一シートと上記第二シートとの間に複数のスペースが存在しており、
これらのスペースが互いに離間している、構造物の補修構造。
【0096】
[項目10]
構造物、
上記構造物に貼られた第一シート、
及び
その一部が上記第一シートに重なっており、残余の部分が上記構造物に貼られた第二シートを備えており、
上記第二シートが上記第一シートに重なった部分において、上記第一シートと上記第二シートとの間にスペースが存在していない、構造物の補修構造。
【0097】
[項目11]
シートによる構造物の補修又は補強の方法であって、
(1)機能層とこの機能層の裏側に位置する粘着層とを備えており、その表側面がランドと互いに離間した複数のリセスとを含む構造物用シートを、準備する工程、
及び
(2)上記粘着層の粘着力により、上記構造物の表面に上記シートを貼り付ける工程
を備えた、構造物の補修又は補強の方法。
【0098】
[項目12]
構造物の補修又は補強の方法であって、
(1)機能層とこの機能層の裏側に位置する粘着層とを備えており、その表側面がランドと互いに離間した複数のリセスとを含む第一シートを、準備する工程、
(2)機能層とこの機能層の裏側に位置する粘着層とを備えており、その表側面がランドと互いに離間した複数のリセスとを含む第二シートを、準備する工程、
(3)上記第一シートの上記粘着層の粘着力により、上記構造物の表面に上記第一シートを貼り付ける工程、
及び
(4)上記第一シートの縁の近傍に上記第二シートの一部を重ねつつ、上記第二シートの上記粘着層の粘着力により、上記第一シートの表面及び上記構造物の表面に、上記第二シートを貼り付ける工程
を備えた、構造物の補修又は補強の方法。
【0099】
[項目13]
旧シートによって補修又は補強された構造物の、再補修又は再補強の方法であって、
(1)機能層とこの機能層の裏側に位置する粘着層とを備えており、その表側面がランドと互いに離間した複数のリセスとを含む新シートを、準備する工程、
及び
(2)上記粘着層の粘着力により、破損又は劣化した上記旧シートの表面に上記新シートを貼り付ける工程
を備えた、構造物の再補修又は再補強の方法。
【産業上の利用可能性】
【0100】
以上説明された構造物用シートは、種々の物体に貼り付けられて使用されうる。
【符号の説明】
【0101】
2・・・構造物用シート
2a・・・第一シート
2b・・・第二シート
4・・・機能層
6・・・中間層
8・・・粘着層
10・・・補強体
12・・・屋根
18・・・段差
22・・・継ぎ目
24・・・段差
25・・・ランド
26・・・リセス
28・・・糸
28a・・・縦糸
28b・・・横糸
30・・・目
32・・・構造物用シート
34・・・機能層
36・・・中間層
38・・・粘着層
40・・・ランド
42・・・リセス
Sb・・・裏側面
Sf・・・表側面
Sp・・・スペース
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16