(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024019098
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】ウェハフィルムフレームからチップを取り出すための方法及び装置、実装システム、並びにコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
H01L 21/683 20060101AFI20240201BHJP
【FI】
H01L21/68 N
【審査請求】有
【請求項の数】17
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023121806
(22)【出願日】2023-07-26
(31)【優先権主張番号】10 2022 118 873.6
(32)【優先日】2022-07-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.JAVA
(71)【出願人】
【識別番号】514076766
【氏名又は名称】エーエスエムピーティー・ゲーエムベーハー・ウント・コ・カーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】シルヴェスター・デンメル
(72)【発明者】
【氏名】トーマス・リーベケ
【テーマコード(参考)】
5F131
【Fターム(参考)】
5F131AA04
5F131BA53
5F131BA54
5F131CA09
5F131CA32
5F131EC33
5F131EC74
5F131KA22
(57)【要約】 (修正有)
【課題】剥離工具及び把持工具を用いて接着フィルムからのチップのピックアップ方法及び装置を提供する。
【解決手段】チップを取り出すための装置100は、第1のチップ195を剥離工具110の上方に位置決めするために、作用領域において第1のチップの接着フィルム192への接着を低下させ、接着フィルムの下面192aと剥離工具の本体上面112aとの間に陰圧を加え、剥離工具で接着フィルムへの第1のチップの接着を低下させ、把持工具154で第1のチップを把持し、第1のチップを取り出し、ウェハフィルムフレーム190の第2のチップを作用領域上方に位置決めし、剥離工具で第2のチップのフィルムへの接着を低下させ、第2のチップを把持し、把持工具によって第2のチップを取り出す。ウェハフィルムフレームを位置決めする間、一時的に、接着フィルム下面と剥離工具の本体上面間に陰圧を加える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
剥離工具(110)に支援されて、把持工具(154)を用いてウェハフィルムフレーム(190)の接着フィルム(192)からチップ(195)を取り出すための方法であって、前記方法は、
前記ウェハフィルムフレーム(190)の第1のチップ(195)が前記剥離工具(110)の作用領域の上方に位置するように、前記ウェハフィルムフレーム(190)を前記剥離工具(110)に対して位置決めするステップであって、前記作用領域において、前記剥離工具(110)が前記接着フィルム(192)と相互に作用し、前記第1のチップ(195)の前記接着フィルム(192)への接着を低下させるステップ;
前記接着フィルム(192)の下面(192a)と前記剥離工具(110)の上面(112a)との間に陰圧を加えるステップ;
(i)前記剥離工具(110)を作動し、前記接着フィルム(192)への前記第1のチップ(195)の接着を低下させること、(ii)前記把持工具(154)によって前記第1のチップ(195)を把持すること、及び(iii)前記把持工具(154)を、把持された前記第1のチップ(195)と共に前記接着フィルム(192)から離れるように動かすことによって、前記第1のチップ(195)を取り出すステップ;
前記剥離工具(110)と前記接着フィルム(192)との間にさらなる相互作用が生じないように前記剥離工具(110)を停止するステップ;
前記ウェハフィルムフレーム(190)の第2のチップ(195)が前記剥離工具の作用領域の上方に位置するように、前記剥離工具(110)に対して前記ウェハフィルムフレーム(190)を再度位置決めするステップ;及び、
(i)前記第2のチップ(195)の前記接着フィルム(192)への接着を低下させるように前記剥離工具(110)を再び作動すること、(ii)前記把持工具(154)又はさらなる把持工具によって前記第2のチップ(195)を把持すること、及び(iii)前記把持工具(154)又は前記さらなる把持工具を、把持された前記第2のチップ(195)と共に前記接着フィルム(192)から離れるように動かすことによって、前記第2のチップ(195)を取り出すステップ、を有しており、
前記ウェハフィルムフレーム(190)を再度位置決めするプロセスの間、少なくとも一時的に、前記接着フィルム(192)の下面(192a)と前記剥離工具(110)の上面(112a)との間に陰圧がさらに加えられる方法。
【請求項2】
前記剥離工具(110)が、少なくとも1つの機械的剥離要素(114)を有しており、前記機械的剥離要素は、前記剥離工具(110)の作動の際に、前記接着フィルム(192)を下から押圧し、これによって前記接着フィルム(192)を局所的に持ち上げる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記機械的剥離要素がエジェクタピン(114)である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記機械的剥離要素が、細長い上面を有するエジェクタプレートである、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記剥離工具がエネルギー源を有しており、前記エネルギー源は、作用領域内で前記接着フィルム(192)にエネルギーを伝達し、これによって、前記接着フィルム(192)の接着力が低下する、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
再度の位置決めのプロセス全体を通じて、前記接着フィルム(292)の下面(292a)と前記剥離工具(110)の上面(112a)との間に陰圧が加えられる、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
再度の位置決めを行うプロセス全体を通じて、前記接着フィルム(192)の下面(192a)と前記剥離工具(110)の上面(112a)との間に加えられる陰圧が、前記第1のチップ(195)の取り出し及び/又は前記第2のチップ(195)の取り出しの間に、前記接着フィルム(192)の下面(192a)と前記剥離工具(110)の上面(112a)との間に加えられる陰圧よりも小さい、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
(i)前記第1のチップ(195)及び/又は前記第2のチップ(195)を取り出す際の陰圧と、(ii)再度の位置決めを行う際の陰圧との間の差が、少なくとも部分的に、漏れに起因する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記接着フィルム(192)の下面(192a)と前記剥離工具(110)の上面(112a)との間に加えられる陰圧の経時的推移が制御される、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
陰圧の経時的推移が、圧力センサ(120)を用いて閉ループ制御される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
陰圧の経時的推移が、アナログの空気弁(114)を用いて能動的に制御される、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
さらに、前記第2のチップ(195)を取り出した後に、
前記剥離工具(110)と前記接着フィルム(192)との間でさらなる相互作用が新たに生じないように、前記剥離工具(110)を再び停止するステップ;
前記ウェハフィルムフレーム(190)の第3のチップ(195)が、前記剥離工具(110)の作用領域の上方に位置するように、前記ウェハフィルムフレーム(190)を前記剥離工具(110)に対して再度位置決めするステップ;
(i)前記剥離工具(110)を再び作動して、前記接着フィルム(192)に対する前記第3のチップ(195)の接着を低下させること、(ii)前記把持工具(154)又はさらなる把持工具によって前記第3のチップ(195)を把持すること、及び(iii)前記把持工具(154)又は前記さらなる把持工具を、把持された前記第3のチップ(195)と共に前記接着フィルム(192)から離れるように動かすことによって、前記第3のチップ(195)を取り出すステップ、を有しており、
前記ウェハフィルムフレーム(190)を再度位置決めするプロセスの間、少なくとも一時的に、前記接着フィルム(192)の下面(292a)と前記剥離工具(110)の上面(112a)との間に陰圧が加えられる、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
特に請求項1に記載の方法を実施して、ウェハフィルムフレーム(190)の接着フィルム(192)からチップ(195)を取り出すための装置(100)であって、前記装置は、
作用領域において前記接着フィルム(192)への前記チップ(195)の接着を低下させるように構成された剥離工具(110);
前記ウェハフィルムフレーム(190)の複数のチップ(195)が前記作用領域の上方に連続して位置するように、前記ウェハフィルムフレーム(190)を前記剥離工具(110)に対して連続的に位置決めするための位置決め装置(130);
前記接着フィルム(192)の下面(192a)と前記剥離工具(110)の上面(112a)との間に陰圧を加えるように構成された陰圧形成装置(140);及び、
(i)前記接着フィルム(192)への前記チップ(195)の接着が低下するように前記剥離工具(110)を作動すること、(ii)把持工具(154)によって前記チップ(195)を把持すること、及び(iii)前記把持工具(154)を把持された前記チップ(195)と共に、前記接着フィルム(192)から離れるように動かすことによって、それぞれ1つのチップ(195)を取り出すように構成された、少なくとも1つの把持工具(154)を備えた実装ヘッド(150)、を有しており、
前記陰圧形成装置(140)は、第1のチップ(195)を取り出した後、かつ、第2のチップ(195)を取り出す前において前記ウェハフィルムフレーム(190)の位置決めを行っている間に、少なくとも一時的に、前記接着フィルム(192)の下面(192a)と前記剥離工具(110)の上面(112a)との間に陰圧を引き続き加えるように構成されており、これらの取り出しは、それぞれ、前記接着フィルム(192)の下面(192a)と前記剥離工具(110)の上面(112a)との間に陰圧を加えた状態で行われる装置(100)。
【請求項14】
前記陰圧形成装置(140)が、ポンプ(142)、制御可能な弁(144)及び制御ユニット(146)を有しており、前記制御ユニットを用いて、前記ポンプ(142)及び/又は前記制御可能な弁(144)は、前記接着フィルム(190)の下面(192a)と前記剥離工具(110)の上面(112a)との間の陰圧を変化させることができるように制御され得る、請求項13に記載の装置(100)。
【請求項15】
さらに、前記制御ユニット(146)と通信可能であるように連結された圧力センサ(120)を有しており、前記制御ユニット(146)は、陰圧の所定の経時的推移が生じるように、前記圧力センサ(120)の圧力測定値に基づいて、前記ポンプ(142)及び/又は前記制御可能な弁(144)を制御するように情報技術的に構成されている、請求項14に記載の装置(100)。
【請求項16】
基板にチップ(195)を実装するための実装システムであって、
請求項13に記載のチップ(195)を取り出すための装置(100);
ウェハフィルムフレーム(190)をピックアップするための第1のピックアップ装置;及び、
実装されるべき基板をピックアップするための第2のピックアップ装置を有しており、
実装ヘッド(150)は、少なくとも1つの把持工具(154)を有し、前記チップ(195)を前記ウェハフィルムフレーム(190)から取り出し、前記基板上に配置するように構成されている実装システム。
【請求項17】
ウェハフィルムフレーム(190)の接着フィルム(192)からチップ(195)を取り出す装置(100)、特に請求項13に記載の装置(100)を動作させるためのコンピュータプログラムであって、データ処理ユニット(146)によってコンピュータプログラムが実行される場合、請求項1に記載の方法を実施するように構成されているコンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、ウェハフィルムフレームから、又は、人工ウェハから取り出される(パッケージングされていない)半導体チップを基板に実装する技術分野に関する。本発明は特に、ウェハフィルムフレームからのこのようなチップの取り出しが、エジェクタ工具のそれぞれ少なくとも1つのエジェクタピンの実装ヘッドによって支援される取り出しプロセスに関する。具体的には、本発明は、エジェクタ工具に支援されて、把持工具を用いて、ウェハフィルムフレームの接着フィルムからチップを取り出すための方法及び装置に関する。さらに、本発明は、当該装置を有する実装システム及び当該方法を実施するためのコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に基板とも呼ばれるプリント基板又は部品担体の実装は、典型的には、特に実装ヘッドを有する自動取り付け機を用いて行われ、自動取り付け機によって、電子部品がピックアップ位置でピックアップされ、実装領域に搬送され、部品担体上に配置される。部品は通常、部品が包装されたベルトを用いて供給される。部品が取り出された後、ベルトの材料は廃棄されなければならない。このため、大量の包装廃棄物が発生する。
【0003】
半導体チップとして形成された電子部品(以下、単に「チップ」とも呼ぶ)の供給は、包装廃棄物を回避するために、ウェハから直接行うことも可能である。この関連では、ウェハは、実際のウェハ、すなわち半導体材料のスライスに加えて、弾性フィルム及びフレームを含むアセンブリであり、フィルムはフレームに張られ、実際のウェハはフィルムに接着している。このような(接着)フィルム又は粘着フィルムは、しばしば「ウェハフィルム」と呼ばれる。フィルムに接着したウェハは、(鋸引きプロセスによって)すでにダイシングされていてもよく、結果として、多数の個々の半導体チップが、フィルムに接着している。このようなフレーム、フィルム及びダイシングされた半導体チップから成るアセンブリは、しばしば「ウェハフィルムフレーム」とも呼ばれる。さらに、この関連では、ウェハ又は「ウェハフィルムフレーム」は、いわゆる「再び実装されるウェハ」又は英語では「再構成ウェハ(reconstituted wafer)」であってもよく、この場合、フィルムに実装する前に、欠陥を有するチップ又は一定の許容差を超えるチップは選別されている。(選択された)実装される半導体チップを備えたウェハフィルムフレームは、しばしば人工ウェハとも呼ばれる。
【0004】
フィルムを引き伸ばすことによって、ダイシングされたチップはいくらか「引き離され」、把持工具又は部品保持装置、例えば実装ヘッドのいわゆるバキュームグリッパによってピックアップされる。この際、チップのピックアップは、少なくとも1つのエジェクタピンを有するエジェクタ工具によって支援可能であり、エジェクタピンによって、接着フィルムは、接着フィルムへの当該チップの接着が低下するように突き通されるか、又は、少なくとも湾曲する。
【0005】
ウェハフィルムフレームからチップをピックアップする自動取り付け機の実装性能は、ウェハフィルムフレームそれぞれからチップをピックアップするプロセスによって制限されることが多い。この関連では、いわゆる取り出し性能、すなわち接着フィルムから剥離され得る時間単位当たりのチップの数が重要である。
【0006】
ウェハフィルムフレームの接着フィルムからチップを剥離するプロセスは、特に以下のステップを含んでいる:
(1)ウェハフィルムフレームを、少なくとも1つのエジェクタピンを有するエジェクタ工具に対して位置決めし、当該チップがエジェクタ工具の上方に位置するようにするステップ、
(2)エジェクタ工具の上側でフィルムが吸引されるように陰圧を加えるステップ、
(3)把持工具、例えば実装ヘッドの吸引ピペットを、当該チップの上面に(上方から)直接配置するステップ、
(4)エジェクタピンを、把持工具と同期して、フィルムの元の高さより上の一定の高さまで上方に移動又は張り出させるステップであって、使用するエジェクタピンの種類に応じて、フィルムを突き通すか、又は、単に変形させて、チップがフィルムに接着している面積を減少させるステップ、
(5)チップがフィルムから完全に剥離するまで一定時間待機するステップ、
(6)剥離したチップを、把持工具又は実装ヘッドの対応するさらなる動きによって取り出すのと同時に、エジェクタピンがエジェクタ工具のハウジング内に位置するように、エジェクタピンを下に向けて動かすか又は引き込むステップ、
(7)陰圧を解除するステップ、
(8)次に取り出すチップがエジェクタ工具の上方に位置するように、エジェクタ工具に対してウェハフィルムフレームを再度位置決めするステップ、
(9)ステップ(1)から(8)を再度実行するステップ。
【0007】
当該プロセスでは、ステップ2及び7、すなわち対応する圧力に達するまで陰圧を加えるステップと解除するステップとに比較的長い時間を要するので、取り出し性能は対応して低くなるか、又は、制限される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、エジェクタ工具の取り出し性能を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本課題は、独立請求項の対象によって解決される。本発明の有利な実施形態は従属請求項に記載されている。
【0010】
本発明の第1の態様に従って、剥離工具に支援されて、把持工具を用いてウェハフィルムフレームの接着フィルムからチップを取り出すための方法が記載される。記載される方法は、(a)ウェハフィルムフレームの第1のチップが剥離工具の作用領域の上方に位置するように、ウェハフィルムフレームを剥離工具に対して位置決めするステップであって、当該作用領域において、剥離工具が接着フィルムと相互に作用し、第1のチップの接着フィルムへの接着を低下させるステップ;(b)接着フィルムの下面と剥離工具の上面との間に陰圧を加えるステップ;及び(c)(c1)剥離工具を作動し、接着フィルムへの第1のチップの接着を低下させること、(c2)把持工具によって第1のチップを把持すること、(c3)把持工具を、把持された第1のチップと共に接着フィルムから離れるように動かすことによって、第1のチップを取り出すステップを有している。本発明に係る方法はさらに、(d)剥離工具と接着フィルムとの間にさらなる相互作用が生じないように剥離工具を停止するステップ;(e)ウェハフィルムフレームの第2のチップが剥離工具の作用領域の上方に位置するように、剥離工具に対してウェハフィルムフレームを再度位置決めするステップ;及び(f)(f1)第2のチップの接着フィルムへの接着を低下させるように剥離工具を再び作動すること、(f2)把持工具又はさらなる把持工具によって第2のチップを把持すること、(f3)把持工具又はさらなる把持工具を、把持された第2のチップと共に接着フィルムから離れるように動かすことによって、第2のチップを取り出すステップを有している。本発明によると、ウェハフィルムフレームを再度位置決めするプロセスの間、少なくとも一時的に、接着フィルムの下面と剥離工具の上面との間に陰圧がさらに加えられる。
【0011】
記載された方法は、ウェハフィルムフレームの再度の位置決めに関して、接着フィルムの下面と剥離工具の上面との間の陰圧を(完全に)解除することが必ずしも必要でないという認識に基づいている。これによって、チップを取り出す際、又は、より正確には、2つの異なるチップを連続して取り出す間の時間的間隔において、(i)再度の位置決めを行う前に陰圧を(その時々の周囲圧力まで)完全に解除し、(ii)再度の位置決めの後、かつ、第2のチップを取り出す前に、陰圧を再び完全に形成するために、従来のチップ取り出し方法では必要であるか又は発生する待機時間を回避するか、又は、少なくとも短縮することができる。
【0012】
分かりやすく表現すると、本発明に係る方法において、ウェハフィルムフレームを(再度)位置決めするために、以前に加えられた陰圧は、再び周囲圧力になるまで解除されることはないか、又は、少なくとも完全には解除されない。論理的帰結として、この陰圧は、第2のチップを取り出す前に、(完全に新しく)形成される必要もない。これによって、既知のチップ取り出しプロセスと比較すると、著しい時間的利点が得られ、チップの取り出し性能も対応して向上する。これによって、チップをより迅速に取り付け機に供給することが可能になり、取り付け機の実際の実装性能が向上する。
【0013】
第2のチップの取り出しは、上述したように、すでに第1のチップを取り出し、その間に第1のチップを実装位置に配置した把持工具か、又は、さらなる若しくは別の把持工具を用いて行われ得る。第2の場合、第2のチップが取り出される際、第1のチップは(第1の)把持工具によって依然として保持され得る。これは、把持工具、さらなる把持工具及び必要に応じてさらなる把持工具が、1つかつ同一の複式実装ヘッドに配設されていることを意味する。次に、「Collect And Place」の原理に従って、既存の把持工具の数に対応する数のチップがまず取り出され、実装ヘッド全体によって、自動取り付け機の実装領域に共に搬送され、実装領域において、様々なチップが次々に、すなわちチップをさらに取り出すことなく、基板上又は人工ウェハのフィルム上の所定の実装位置に載置される。
【0014】
本明細書において、「陰圧」という概念は、現在の周囲圧力よりも低い圧力、又は、現在の大気圧よりも低い圧力であると理解されるべきである。物理的に正しく表現すると、陰圧は周囲圧力との負の圧力差である。陰圧は、それ自体既知の任意の適切な種類のポンプで形成することが可能であり、必要に応じて適切な弁で調整することが可能である。本明細書において、第1の陰圧が別の第2の陰圧よりも大きいと記載されている場合はつねに、第2の陰圧と比較して、第1の陰圧が絶対的により小さい圧力値を有することを意味している。言い換えれば、より小さい陰圧は、より大きい陰圧の圧力値よりも周囲圧力に近い圧力値によって特徴付けられる。
【0015】
本発明によると、ウェハフィルムフレームを再度位置決めするプロセスの間、少なくとも一時的に陰圧が維持される。言い換えれば、再度の位置決めの全体を、陰圧下ではなく大気圧において行うということではない。
【0016】
第1のチップを取り出す際、及び/又は、第2のチップを取り出す際、記載したサブステップを調整して実施することのみが重要であり、これらのサブステップの具体的な順序は重要ではない。特に、チップの把持は、剥離工具の作動前、作動後又は作動中に行われ得る。重要なのは、把持工具又はさらなる把持工具を接着フィルムから離れる方向に動かす前に、剥離工具の(再度の)作動によって、当該チップの接着フィルム(の上面)への接着が、把持工具がその時々に利用可能な把持力で当該チップを確実に把持し、チップを保持することもできる程度まで低下することを保証することのみである。
【0017】
記載された剥離工具は、好ましくは、平坦な上面を有する本体又は少なくとも1つの構成要素を含んでいる。接着フィルムの(非接着性の)下面は、(陰圧によって支援されて)上面に当接し得る。
【0018】
本明細書において、ウェハとは、特に、その接着フィルム上に、適用事例に応じて、(i)鋸引きプロセスによってダイシングされた半導体チップ、又は、(ii)接着フィルム上に予め実装された半導体チップのいずれかを有する、いわゆるウェハフィルムフレームであると理解されるべきである。ウェハ又はウェハフィルムフレームはさらに、冒頭に述べたように、弾性フィルムが張られているフレームを含んでいる。ウェハフィルムフレームのフレームは、特に不必要な高さ方向の拡大を避けるために、平坦な金属フレームであってもよく、ウェハフィルムフレームを容易かつ安全に取り扱うことを可能にする役割も果たし得る。さらに、フレームは、いわゆるグリップリングであってもよく、原則として、鋼及び/又はプラスチック等の任意の材料から製造され得る。さらに、フィルムは、金属フレーム又はグリップリングに伸ばした状態で張られていてよく、個々のチップは、いくらか互いに離間している。
【0019】
ウェハフィルムフレームの取り扱いは、例えばロボット又は明らかにより単純な操作装置を用いて行うことが可能であり、当該操作装置は、適切なグリッパを用いてフレームに係合し、グリッパを適切に動かすことによって、ウェハ又はウェハフィルムフレームを、例えば所定の二次元又は三次元軌道に沿ってのみ移動させる。
【0020】
本明細書に記載されている技術は、主にウェハフィルムフレームからのチップの取り出しに関するものであり、半導体ウェハの(半導体材料のスライスの)処理そのものに関するものではない。したがって、本明細書では、「ウェハフィルムフレーム」に対して、単に「ウェハ」という短縮した概念を用いることが多い。
【0021】
本明細書において、チップとは、ウェハから取り出すことが可能であり、実装可能である電子部品であると理解されるべきである。特に、チップは、主に半導体材料から構成されており、同じ半導体ウェハ上にある他のチップと共に加工又は製造された、パッケージングされていない、又は「裸の」電子部品である。元の半導体ウェハの半導体材料とは別に、チップは、適切な後処理の範囲内で半導体ウェハの全てのチップに対して同時に形成された金属製の端子接点を有することもできる。球状の端子接点の場合、チップは、特にパッケージングされていない、いわゆるフリップチップボールグリッドアレイ(FCBGA)であってよい。さらに、チップは、適切な電気的かつ熱伝導性の接合材料(はんだ)も含む、電流によって貼付された凸型の端子接点を有することも可能である。一般に、このような部品はチップスケールパッケージ(CSPs)と呼ばれる。パッケージングされていないチップを部品担体、例えばプリント基板(PCB)に実装した後、又は、人工ウェハの弾性フィルムに実装した後、実装されたチップは、必要に応じて、適切なコーティング及び/又は埋め込み用樹脂を用いて有害な環境影響から保護され得る。埋め込み用樹脂は、この関連において、実装されたチップの下に挿入されるアンダーフィル材料であってもよい。
【0022】
本発明の一実施例によると、剥離工具は少なくとも1つの機械的剥離要素を有しており、当該剥離要素は、剥離工具の作動の際に、接着フィルムを下から押圧し、これによって接着フィルムを局所的に持ち上げる。
【0023】
記載された接着フィルムの機械による持ち上げは、剥離要素が対応して作動する際に、迅速かつ効果的な接着の低下が起こり得るという利点を有している。この際、接着の低下は、特に、接着フィルムの変化した三次元形状又は湾曲によって、当該チップと接着フィルムとの間の実際の接着面積が減少することの結果として生じ得る。変更された三次元形状又は湾曲は、単に、(少なくとも1つの)剥離要素の記載された作動の間に、剥離要素が剥離工具の本体から持ち上げられ、接着フィルムを下から押圧することによって生じ得る。
【0024】
つまり、剥離工具の作動は、上述したように、少なくとも1つの機械的剥離要素が、剥離工具の本体から上方に動かされることによって行われ得る。この際、接着フィルムは局所的に上方に持ち上げられ、これによって、剥離工具の上面又は本体の上面から局所的に離間している。対応して、剥離工具の停止は、少なくとも1つの機械的剥離要素が下方に向かって、剥離工具の本体内に少なくとも部分的に再び引き込まれることを含んでいる。この際、機械的な剥離要素は、好ましくは、いまや再び持ち上げられることはない接着フィルムの下面にはもはや当接しないほど下方に向けて引き込められる。これによって、ウェハフィルムフレームを再度位置決めする際に、接着フィルム及び/又は剥離要素の損傷を防ぐことができる。
【0025】
本発明のさらなる実施例によると、機械的剥離要素はエジェクタピンである。
【0026】
典型的には、ピンは極めて小さい端面を有しており、当該端面は、剥離工具の作動の際に、接着フィルムを下から押圧するので、フィルムとチップとの間の接着性の接着面積は、特に大きく減少し得る。上述したように、エジェクタピンの先端は、方法の具体的な構成に応じて、接着フィルムを持ち上げるか、又は、突き通すことが可能である。後者の場合、接着フィルムとチップとの間における接着面積はゼロにまで減少する。
【0027】
本発明のさらなる実施例によると、機械的剥離要素は、細長い上面を有するエジェクタプレートである。これは、機械的剥離要素が作動又は持ち上げられる際、取り出されるべきチップの領域におけるフィルムが、細長く比較的狭い縁部又はウェブに当接することを意味している。これによって、特に当該チップの元の接着面の領域の外側では、フィルムの局所的な歪みを低減することができる。したがって、未だ取り出されていないウェハフィルムフレームの隣接するチップは、当該チップの取り出しによって影響を受けないか、又は、軽微な影響を受けるのみである。特に、その接着力は、当該チップの取り出しと、それに伴う、取り出されたばかりのチップの領域の外側における接着フィルムの望ましくない湾曲とによって、(予定より早く)損なわれることはない。
【0028】
剥離工具は、好ましくは、それぞれ細長い上面を有する、互いに平行に配置され、個別に作動又は持ち上げ可能である複数のエジェクタプレートであってよい。異なるエジェクタプレートを順次作動又は持ち上げることによって、当該チップの接着を、異なる接着部分領域において順次低下させることが可能であり、したがって、当該チップの接着領域全体にわたって、接着の効果的な低下が得られる。
【0029】
本発明の別の実施例によると、剥離工具はエネルギー源を有しており、当該エネルギー源は、作用領域内で接着フィルムにエネルギーを伝達し、これによって、接着フィルムの接着力が減少する。
【0030】
この際、エネルギーは、電磁放射線の形で、非接触に接着フィルムに伝達され得る。放射線は、可視光又は非可視光、例えば赤外スペクトル領域の光を含み得る。例えば、エネルギー源は、少なくとも1つのレーザー又は発光ダイオード(LED)を含み得る。エネルギー源はさらに、加えられた陰圧によって接着フィルムが当接する放射線透過性コンタクトウィンドウを含み得る。陰圧は、コンタクトウィンドウの開口部又はコンタクトウィンドウの隣の開口部を通じて、下方から接着フィルムに加えられ得る。
【0031】
エネルギーは熱エネルギーであってもよく、放射、すなわち非常に長い波長を有する電磁放射の形で、非接触に局所的に伝達される。代替的に、又は、組み合わされて、熱エネルギーは、熱伝導を通じて接触によっても伝達され得る。後者の場合、エネルギー源は、接着フィルムと接触させられる加熱面又は加熱可能な面を有することができる。この場合でも、加熱面若しくは加熱可能な面の、又は、加熱面若しくは加熱可能な面の横の開口部を使用して、接着フィルムの下面に陰圧を加えることが可能である。加熱面又は加熱可能な面は、例えば炭化ケイ素を有し得る。これは、有利なことに、時間的に急速な温度勾配での加熱を可能にする材料である。
【0032】
本発明のさらなる実施例によると、再度の位置決めを行うプロセス全体の間、接着フィルムの下面と剥離工具の上面との間に陰圧が加えられる。分かりやすく表現すると、これは、少なくとも第1のチップの取り出しと第2のチップの取り出しとの間の時間枠において、接着フィルムの下面と剥離工具の上面との間の陰圧が、解除されないか、又は、少なくとも完全には解除されないことを意味する。このことは、第2のチップを確実に取り出すために必要な陰圧を得るために、第2のチップを取り出す前にこの必要な陰圧を形成するために必要な時間がより短くなるという利点を有する。
【0033】
本発明のさらなる実施例によると、再度の位置決めを行うプロセス全体の間、接着フィルムの下面と剥離工具の上面との間に加えられる陰圧は、第1のチップの取り出し及び/又は第2のチップの取り出しの間に接着フィルムの下面と剥離工具の上面との間に加えられる陰圧よりも小さい。このことは、位置決めの際に不利となる、本体の上面への接着フィルムの空気圧による接着によって、再度の位置決めが妨げられることがないか、又は、妨げられるとしてもわずかであるという利点を有する。
【0034】
この関連において、位置決めを行っている間の陰圧が大きいほど、記載された「空気圧による接着」がウェハフィルムフレームの位置決めを大きく妨げ得ることは明らかである。(i)陰圧変化の時間的間隔を縮小するための位置決めの際の可能な限り大きい陰圧と、(ii)ウェハフィルムフレームが剥離工具に対して可能な限り自由に移動できるようにするための位置決めの際の可能な限り小さい陰圧との間の最適な妥協は、その時々の適用事例に応じて実験によって容易に決定され得る。つまり、陰圧を徐々に低下させる場合に、どの時点から十分に良好な相対的な可動性が得られるかを観察すればよい。
【0035】
本発明のさらなる実施例によると、(i)第1のチップ及び/又は第2のチップを取り出す際の陰圧と、(ii)再度の位置決めを行う際の陰圧との間の差は、少なくとも部分的に、漏れに起因する。このことは、位置決めを行っている間の陰圧の低減を達成するために、複雑な圧力制御機構を使用する必要がないという利点を有する。特に、再度の位置決めのための陰圧の低減は、単にポンプの運転を停止すること、及び/又は、(一時的に)遮断弁によってポンプを剥離工具及び/又は接着フィルムから空気圧によって連結解除することによって得られる。
【0036】
この関連において「漏れ」という表現は、特に、周囲からの空気が陰圧の空間領域に流入することによって生じる空気の流れを意味している。この際、対応する漏れの開口部又は横断面が大きいほど、第1のチップ及び/又は第2のチップを取り出した後の陰圧は、問題なく再度の位置決めを行うために必要な陰圧まで速く低下する。
【0037】
本発明のさらなる実施例によると、接着フィルムの下面と剥離工具の上面との間の陰圧の経時的な推移が(能動的に)制御される。能動的な制御は、例えば、陰圧を形成するポンプの対応する制御によって、及び/又は、そのようなポンプと剥離工具若しくは接着フィルムとの間の適切な空気圧制御弁によって行われ得る。
【0038】
記載した能動的な制御によって、特に記載した方法の様々な段階において、陰圧が(大きく)変化する場合に、プロセス全体を有利な方法で空気圧を用いて制御下に保つことが可能である。結果として、高い取り出し性能にもかかわらず、プロセスの高い確実性が保証され得る。
【0039】
本発明のさらなる実施例によると、陰圧の経時的な推移は圧力センサを用いて制御される。記載された制御(閉じた制御ループでの)によって、陰圧の経時的推移は、高い精度で所定の目標圧力推移に適合させることができる。これによって、高い取り出し性能と高いプロセスの確実性との間で、さらなる改善された妥協が得られる。
【0040】
本発明のさらなる実施例によると、陰圧の経時的な推移は、アナログの空気弁を用いて能動的に制御される。記載したアナログの空気弁は、好ましくは、陰圧を形成するポンプと剥離工具又は接着フィルムとの間に配置されていてよい。
【0041】
記載したアナログの空気弁は、開ループ制御又は閉ループ制御の介入によって圧力変化を引き起こすことが可能である任意の空気圧装置であってよい。アナログの空気弁は、特に、2つの入口と1つの出口とを有する弁であってよく、一方の入口はポンプに、他方の入口は周囲環境と空気圧によって連結又は接続されている。出口は、特に剥離工具と接着フィルムの間の陰圧の空間領域と空気圧によって連結されていてよい。アナログの圧力変化は、2つの入口間におけるフロー断面又はフロー抵抗の比を通じて行われ得る。
【0042】
本発明のさらなる実施例によると、当該方法は、第2のチップを取り出した後でさらに(f)剥離工具と接着フィルムとの間でさらなる相互作用が新たに生じないように、剥離工具を再び停止するステップ;(g)ウェハフィルムフレームの第3のチップが剥離工具の作用領域の上方に(好ましくは直接)位置するように、ウェハフィルムフレームを剥離工具に対して(少なくとも1つの水平方向に沿って)再度位置決めするステップ;(h)(h1)剥離工具を再び作動し、接着フィルムに対する第3のチップの接着を低下させること、(h2)把持工具又はさらなる把持工具によって第3のチップを把持すること、(h3)把持工具又はさらなる把持工具を、把持された第3のチップと共に接着フィルムから離れるように動かすことによって、第3のチップを取り出すステップ、を有している。この際、ウェハフィルムフレームを再度位置決めするプロセスの間、少なくとも一時的に、接着フィルムの下面と剥離工具の上面との間に陰圧が加えられる。
【0043】
つまり、記載した方法では、2つ以上のチップを迅速に、すなわち高い取り出し性能で取り出すことができる。当該方法は特に、所望の数のチップがウェハフィルムフレームから取り出されるまで繰り返され得る。所望のチップ数は、ウェハフィルムフレーム上に残っているチップの総数であってもよいし、又は、特定の実装作業のために取り出す必要がある特定のチップ数であってもよい。
【0044】
本発明のさらなる態様に従って、特に上述の種類の方法を実行することによって、ウェハフィルムフレームの接着フィルムからチップを取り出すための装置が記載される。記載される装置は、(a)作用領域において接着フィルムへのチップの接着を低下させるように構成された剥離工具;(b)ウェハフィルムフレームの複数のチップが作用領域の上方に連続して位置するように、ウェハフィルムフレームを剥離工具に対して連続的に位置決めするための位置決め装置;(c)接着フィルムの下面と剥離工具の上面との間に陰圧を加えるように構成された陰圧形成装置;及び(d)(d1)接着フィルムに対するチップの接着が低下するように剥離工具を作動すること、(d2)把持工具によってチップを把持すること、及び(d3)把持工具を把持されたチップと共に接着フィルムから離れるように動かすことによって、それぞれ1つのチップを取り出すように構成された少なくとも1つの把持工具を有する実装ヘッド、を有している。陰圧形成装置は、第1のチップを取り出した後、かつ、第2のチップを取り出す前においてウェハフィルムフレームの位置決めを行っている間に、少なくとも一時的に、接着フィルムの下面と剥離工具の上面との間に陰圧を引き続き加えるように構成されており、これらの取り出しは、それぞれ、接着フィルムの下面と剥離工具の上面との間に陰圧を加えた状態で行われる。
【0045】
記載されたチップ取り出し装置もまた、ウェハフィルムフレームを位置決めするために、接着フィルムの下面と剥離工具の上面との間の陰圧を(完全に)解除することは必ずしも必要ではないという認識に基づいている。これによって、2つの異なるチップを連続して取り出す間の時間的間隔において、(i)ウェハフィルムフレームを位置決めする前に陰圧を(それぞれの周囲圧力まで)完全に解除し、(ii)位置決め後、かつ、さらなるチップの取り出し前に陰圧を再び完全に形成するために、従来のチップ取り出し装置では必要であった待機時間を回避又は少なくとも短縮することができる。
【0046】
本発明の一実施例によると、陰圧形成装置は、ポンプと制御可能な弁と制御ユニットとを有しており、制御ユニットを用いて、ポンプ及び/又は制御可能な弁は、接着フィルムの下面と剥離工具の上面との間の陰圧を変化させることができるように制御され得る。
【0047】
制御ユニットによって引き起こされる制御によって、陰圧が(大きく)変化し得る場合でも、有利なことに、複数のチップの連続的な取り出しのプロセス全体を(能動的に)制御下に保つことが可能である。結果として、高い取り出し性能にもかかわらず、プロセスの高い確実性が保証され得る。
【0048】
本発明のさらなる実施例によると、装置はさらに圧力センサを有しており、圧力センサは、制御ユニットと通信可能であるように連結されており、制御ユニットは、陰圧の所定の経時的推移が生じるように、圧力センサの圧力測定値に基づいて、ポンプ及び/又は制御可能な弁を制御するように情報技術的に構成されている。
【0049】
圧力センサは、閉じた制御ループの構成要素であってよい。これによって、陰圧の経時的推移を、特に高い精度で、所定の目標圧力推移に適合させることが可能である。これによって、高い取り出し性能と高いプロセスの確実性との間で、さらに改善された妥協が得られる。
【0050】
本発明のさらなる態様に従って、基板にチップを実装するための実装システムが記載される。記載された実装システムは、(a)上述のチップを取り出すための装置、(b)ウェハフィルムフレームをピックアップするための第1のピックアップ装置、及び(c)実装されるべき基板をピックアップするための第2のピックアップ装置を有している。少なくとも1つの把持工具を備えた実装ヘッドは、ウェハフィルムフレームからチップを取り出し、基板上に配置するように構成されている。
【0051】
記載された実装システムは、実装システムの構成要素である上述のチップ取り出し装置が、高い取り出し性能を提供することができるので、実装性能、すなわち、所定の時間単位内にウェハフィルムフレームから基板上に配置することができるチップの数が、チップ取り出し装置内で生じ得る空気圧緩和によってはもはや(それほど大きくは)決定されず、又は、制限されないという認識に基づいている。
【0052】
第1のピックアップ装置は、好ましくは、位置決め装置と機械的に接続されている。これによって、ピックアップされたウェハフィルムフレームの位置決めを行っている間に、第1のピックアップ装置もウェハフィルムフレームと共に動かされる。
【0053】
チップの配置は、ウェハフィルムフレームから基板上に直接行うだけでなく、基板上へのチップの最終的な載置を行う少なくとも1つの付加的なチップ取り扱い装置を使用することによって間接的に行うことも可能である。この関連において、チップ取り扱い装置は、例えば、さらなる実装ヘッド及び/又はチップ用の一時的な保管場所を含むことが可能である。
【0054】
本発明のさらなる態様に従って、ウェハフィルムフレームの接着フィルムからチップを取り出す装置を動作させるためのコンピュータプログラムが記載される。この際、当該装置は特に、上述した種類の装置である。当該コンピュータプログラムは、データ処理ユニットによって実行される場合、ウェハフィルムフレームの接着フィルムからチップを取り出すための上述の方法を実行するように構成されている。
【0055】
本明細書において、このようなコンピュータプログラムは、本発明に係る方法に関連する効果を得るために、システム又は方法の機能を適切に調整するようにコンピュータシステムを制御するための命令を含むプログラム要素、コンピュータプログラム製品及び/又はコンピュータ可読媒体という概念と同義である。
【0056】
当該コンピュータプログラムは、例えばJAVA、C++等の任意の適切なプログラミング言語によるコンピュータ可読命令コードとして実装されていてよい。コンピュータプログラムは、コンピュータ可読記憶媒体(CD-ROM、DVD、ブルーレイディスク、リムーバブルドライブ、揮発性又は不揮発性メモリ、内蔵メモリ/プロセッサ等)に保存されていてよい。命令コードは、所望の機能が実行されるように、特に自動取り付け機の制御コンピュータ等のコンピュータ又は他のプログラミング可能なデバイスをプログラミングすることが可能である。さらに、コンピュータプログラムは、インターネット等のネットワーク上で提供可能であり、必要に応じてユーザがネットワーク上からダウンロードすることができる。
【0057】
本発明は、コンピュータプログラム、すなわちソフトウェアを用いても、1つ又は複数の特別な電子回路、すなわちハードウェア又は任意のハイブリッド形態、すなわちソフトウェアコンポーネント及びハードウェアコンポーネントを用いても実現可能である。
【0058】
本明細書に記載された発明は、対応する仮想記憶領域と対応する仮想計算能力とを有する「クラウド」ネットワークを用いても実施可能である。
【0059】
本発明の実施形態は、本発明の様々な対象に関連して記載されてきたことを指摘しておく。特に、本発明のいくつかの実施形態は装置クレームで記載され、本発明の他の実施形態は方法クレームで記載されてきた。しかしながら、明示的に別段の記載がない限り、本発明の1つの種類の対象に属する特徴の組み合わせに加えて、本発明の様々な種類の対象に属する特徴の任意の組み合わせも可能であることは、本明細書を読めば当業者には直ちに明らかであろう。
【0060】
本発明のさらなる利点及び特徴は、目下のところ好ましい実施形態に関する以下の例示的な説明から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【
図1】本発明の一実施例に係る、複数のエジェクタピンを有するエジェクタ工具に支援されてウェハフィルムフレームの接着フィルムからチップを取り出すための装置を示した図である。
【
図2】ウェハフィルムフレームの接着フィルムからのチップの取り出しに関して、(i)把持工具の動き、(ii)(少なくとも)1つのエジェクタピンの動き、及び(iii)接着フィルムとエジェクタ工具との間に加えられる陰圧の間の相互作用を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0062】
以下に記載する実施形態は、本発明の可能な実施形態の変型例からの限定された選択にすぎない。特に、個々の実施形態の特徴を適切に組み合わせることが可能であるので、多数の異なる実施形態が、本明細書に明確に示された実施形態の変型例で、当業者には明らかに開示されたものとみなされる。
【0063】
加えて、例えば「前」及び「後」、「上」及び「下」、「左」及び「右」等の空間に関する概念は、図に示されるように、1つの要素の別の要素に対する関係を記載するために用いられることを指摘しておく。したがって、空間に関する概念は、図に図示された方向とは異なる方向に適用され得る。しかしながら、そのような空間に関する概念は全て、説明を容易にするために図面に示された方向に関連しており、それぞれ図示された装置は、使用される場合に、図面に示された方向とは異なる方向をとる可能性があるので、必ずしも限定的なものではないことは自明である。
【0064】
図1は、本発明の一実施例に係る、エジェクタ工具110に支援されて、ウェハフィルムフレーム190の接着フィルム192からチップ195を取り出すための装置100を示している。エジェクタ工具110に支援されてチップ195を取り出す際の基本原理はそれ自体知られているので、本明細書では一から説明は行わない。特に、上述したように、
図1に示したエジェクタピン114の代わりに、エジェクタプレートを使用することが知られている。放射及び/又は熱を用いた接着力の機械によらない低下自体も、当業者には知られているので、改めて詳細には言及しない。
【0065】
ウェハフィルムフレーム190は、知られているようにフレーム構造194を有しており、フレーム構造194には接着フィルム192が張られている。チップ195は、フィルム192の接着面に位置している。チップ195を取り出すために、ウェハフィルムフレーム190は、極めて概略的にのみ示された、ウェハフィルムフレーム190をそのフレーム構造194において直接又は間接に把持する位置決め装置130を用いて、少なくともx方向及び/又はy方向に沿って変位し、これによって、取り出されるべきチップ195は、エジェクタ工具110の真上に位置する。より正確に表現すると、取り出されるべきチップ195は、エジェクタ工具110のエジェクタピン114の真上に位置している。
【0066】
装置100はさらに、実装ヘッド150を有しており、実装ヘッド150は、図示されていない位置決めシステムを用いて、ウェハフィルムフレーム190の上方で移動可能である。実装ヘッド150は、それ自体既知の配置ヘッドであり得るが、吸引ピペットの形で構成された少なくとも1つの把持工具154を有しており、把持工具154は、図示していないリニア駆動部を用いて、実装ヘッドのシャーシ152に対して垂直のz方向(
図1に示すx方向及びy方向に対して垂直)に沿って移動可能である。チップ取り出しプロセスの開始時点では、把持工具154は、その前面であって、
図1においては、図示されない吸引口を有する下側端面が、チップ195の上側表面に直接当接するように位置決めされる。
【0067】
チップ195の取り出しは、既知の方法で(a)エジェクタピン114をエジェクタ工具110の本体112に対して上方に移動させること、及び(b)同時に、かつ同じ程度で把持工具154を上方に移動させることによって行われる。接着フィルム192が突き通される、又は、湾曲する場合、当該チップ195のフィルム192への接着が失われるか、又は、低下する。把持工具154の吸引管を通じて形成される吸引陰圧は、以下に説明するフィルム192とエジェクタ工具112との間の陰圧と混同すべきではなく、やはり既知の方法で、当該チップ195がフィルム192から把持工具154に移されるように機能する。接着フィルム192とエジェクタ工具110との間の陰圧、より正確にはフィルム192とエジェクタ工具110の本体112の上面112aとの間の陰圧は、本図に示す実施例に従った既知の方法で、エジェクタピン114がフィルム192を突き通し、単に面が持ち上げられるのみではないように機能する。代替的に、フィルム192の下面192aにおいて十分な陰圧が存在する場合、エジェクタピン114は、フィルム192がエジェクタピン114の先端で直接局所的にのみ持ち上げられ、フィルム192の接着性の上面と当該チップ195との間の接着面積及びしたがって接着力を大幅に減少させるように機能し得る。記載した陰圧は、陰圧形成装置140によって形成され、図示しない本体112の上面112a上又は上面112a内に設けられた開口部を介して、接着フィルム192の下面192aに加えられる。
【0068】
図1から明らかであるように、陰圧形成装置140はポンプ142を含んでおり、ポンプ142は、参照符号が付されていない空気導管を通じて、制御可能な弁144の第1の空気入口144aに空気圧によって接続されている。制御可能な弁144bの第2の空気入口144は、空気圧によって周囲環境に接続されている。制御可能な弁144の空気出口144cは、本体112の内部空間の空気入口110aに空気圧によって接続されている。
【0069】
本図に示す実施例によると、制御可能な弁144は、いわゆるアナログ弁であり、制御ユニット146によって、破線で示され、参照符号が付されていない制御ラインを通じて制御される。本図に示す実施例によると、制御ユニット146による制御に応じて、(a)第1の空気入口144aの有効フロー断面と(b)第2の空気入口144bの有効フロー断面との間の比が調整される。この比が大きいほど、第2の空気入口144bを通じて制御可能な弁144に流入し、ポンプ142によって吸い出されなければならない吸入空気145のフローは小さくなる。ポンプ142の吸引力の対応する割合は、フィルム192の下面192aの陰圧の形成又は上昇に寄与しない。本明細書に記載の技術に従って、制御ユニット146によって、フィルム192の下面192aに加えられる陰圧を時間の関数として任意に調整することが可能である。
【0070】
本図に示す実施例によると、チップ195を実際に取り出している間に、ウェハフィルムフレーム190がエジェクタ工具110に対してxy平面内で新たに位置決め又は移動される時間枠におけるよりも大きな陰圧が設定される。したがって、(a)ウェハフィルムフレーム190の位置決め後、かつ、当該チップ195の取り出し前に、所望の陰圧を完全に新たに形成すること、及び/又は、(b)チップ195の取り出し後、かつ、ウェハフィルムフレーム190の位置決め前に(「取り出されるべき次のチップ195に向かって」)陰圧を完全に形成することはもはや不要である。これによって、記載された圧力変化が生じる時間枠の長さが短くなり、対応して取り出し性能を向上させることができる。
【0071】
本図に示す実施例によると、装置100はさらに、本体112の内部に配置された圧力センサ120を有している。圧力センサ120は、つねに最新の陰圧を測定し、対応する圧力測定値を、破線で示す通信回線(参照符号は付されていない)を通じて、制御ユニット146に転送する。制御ユニット146は、アナログに制御可能な弁144のこのような制御のための対応する閉ループ制御の介入を通じて、複数のチップ195を取り出すための本明細書に記載された方法のいずれの時点においても、つねに接着フィルム192の下面192aと本体112の上面112aとの間に所望の陰圧が加えられているように機能する。
【0072】
オペレータは、ディスプレイ及び操作端末160を通じて、取り出しプロセス全体を構成及び/又は監視することができる。
【0073】
図2は、ウェハフィルムフレームの接着フィルム192からのチップ195の取り出しに関して、(i)把持工具154の動き、(ii)2つのエジェクタピン114の動き、及び(iii)接着フィルム192とエジェクタ工具110との間に加えられる陰圧dpの間における相互作用を示している。
図2には、ウェハフィルムフレームがエジェクタ工具110に対して相対的に移動しておらず、取り出されるべきチップが把持工具154の下側にある位置をとる時間枠のみが示されている。
【0074】
時間tの関数としての把持工具154の垂直方向の動きは、参照符号M1が付された破線によって視覚化されている。
図2の2つのエジェクタピン114の、やはり専ら垂直方向にのみ移動する動きの推移は、同じ時間軸tでその下に示されており、参照符号M2が付されている。
図2の最も下のグラフには、やはり同じ時間尺度で、接着フィルム192とエジェクタ工具110との間に加えられる陰圧の推移が示されており、推移には参照符号P1が付されている。
図2から明らかであるように、本図に記載される実施例では、陰圧は決してゼロではなく、2つの境界値-300mbarと-750mbarとの間で変化する。自明のことながら、適用事例に応じて他の陰圧境界値及び/又は他の陰圧推移を選択することもできる。本発明に関しては、ただ、
図2に示されていない動きは、陰圧を加えることなしには完全には行われないことのみが必要である。
【0075】
本図に示す実施例では、チップ195の取り出しは、時点t0において、接着フィルム192とエジェクタ工具110との間に比較的高い陰圧を加えることで開始する。この際、陰圧は、t0から時点t1までの時間枠で、-300mbarから-750mbarまで上昇し、その後、比較的長い時間的間隔にわたって(チップ195の取り出し後の時点t12まで)維持される。
【0076】
図2から明らかであるように、本図に示す実施例によると、時点t1において、把持工具154は下方に下降し始める。この際、下降速度は、曲線M1の対応する第1区間の勾配を決定する。同時に、エジェクタピン114は上方に移動し始める。時点t2において、エジェクタピン114の先端は接着フィルム192の下面に当接する。
【0077】
時間t3(-750mbarの最大陰圧には到達して久しい)において、把持工具154は、低下した下降速度でチップ195に向かって動かされる。把持工具154がチップ195に強く衝突することを回避するために下降速度を低減することは、当業者には既知であり、したがって本明細書では詳細に言及しない。
【0078】
時点t4において、吸引ピペットとして構成された把持工具154の端面が、チップ195の上面に接触し、吸引ピペット154の垂直方向下向きの移動が停止する。同時に、吸引ピペット154の吸引管内で、吸引ピペット154とチップ195との間に既知の方法で吸引陰圧が形成される。時点t4における吸引陰圧の形成の開始は、
図2において矢印272で示されている。矢印274で強調表示された時点t5において、(後に)チップ195が保持される最大吸引陰圧に到達しているか、又は、到達する。
【0079】
時点t6において、接着フィルム192から吸引ピペット154へのチップ195の移動は、両方のエジェクタピン114がさらに上方に移動し、この際、本図に示す実施例によると、接着フィルム192を突き通し、チップ195を吸引ピペット154の前側端面に押し付けることによって開始する。その直後、時点t7において、吸引ピペット154の対応する上方への移動が開始する。その後、時点t8まで、エジェクタピン114及び吸引ピペット154は同様に上方に移動する。
【0080】
接着フィルム192とチップ195との間の接着接合がすぐに解除されないことによって生じる一定の時間的な遅れの後、
図2において矢印276によって特に強調された時点t9において、接着フィルム192から吸引ピペット154へのチップ195の移動が完了する。
【0081】
時点t10において、吸引ピペット154は、把持されたチップ195と共に、最初はゆっくりと、次いで時点t11以降はより速く、上方に持ち上げられる。これによって、チップ195の取り出しが「ウェハフィルムフレームから見て」完了する。
【0082】
時点t12において、両方のエジェクタピン114は、再び下方に向かって、エジェクタ工具110の本体112内に引っ込められる。同時に、エジェクタ工具110と接着フィルム192との間の陰圧が解除される。時点t13において、最終的な陰圧-300mbarに到達する。エジェクタピン114は、時点t14において、その出発位置に到達する。
【0083】
時点t14の後、次のチップ195がエジェクタ工具110の上方に位置するように、ウェハフィルムフレームをエジェクタ工具110に対して水平方向に相対移動させることが可能である。次に、次のチップ195を取り出すために、上述した手順が再び実施され得る。
【0084】
「有している」という概念は他の要素を排除するものではなく、「1つ」は複数を排除するものではないことに留意されたい。また、異なる実施例に関連して記載された要素を組み合わせることも可能である。請求項における参照符号は、請求項の保護範囲を限定するものとして解釈されるべきではないことにも留意されたい。
【符号の説明】
【0085】
100 チップを取り出すための装置
110 剥離工具/エジェクタ工具
110a 空気入口
112 本体
112a 上面
114 機械的剥離要素/エジェクタピン
120 圧力センサ
130 位置決め装置
140 陰圧形成装置
142 ポンプ
144 制御可能な弁
144a 第1の空気入口
144b 第2の空気入口
144c 空気出口
145 吸入空気
146 制御ユニット
150 実装ヘッド
152 シャーシ
154 把持工具/吸引ピペット
160 ディスプレイ及び操作端末
190 ウェハフィルムフレーム
192 接着フィルム
192a 下面
194 フレーム構造
195 チップ
272 吸引陰圧の印加開始
274 吸引陰圧の到達
276 接着フィルムから吸引ピペットへのチップの移送の終了
dp 陰圧
t 時間
M1 把持工具の移動推移
M2 エジェクタピンの移動推移
P1 陰圧の経時的推移
t# 時点(#=0、1、2、...、14)
【外国語明細書】