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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024000191
(43)【公開日】2024-01-05
(54)【発明の名称】試料容器および測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/223 20060101AFI20231225BHJP
【FI】
G01N23/223
【審査請求】有
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022098822
(22)【出願日】2022-06-20
(71)【出願人】
【識別番号】000004271
【氏名又は名称】日本電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090387
【弁理士】
【氏名又は名称】布施 行夫
(74)【代理人】
【識別番号】100090398
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 美千栄
(74)【代理人】
【識別番号】100161540
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 良伸
(72)【発明者】
【氏名】衣笠 元気
(72)【発明者】
【氏名】浅見 弘太郎
【テーマコード(参考)】
2G001
【Fターム(参考)】
2G001AA01
2G001BA04
2G001CA01
2G001EA06
2G001GA01
2G001JA09
2G001JA14
2G001MA02
2G001QA01
2G001SA02
(57)【要約】
【課題】蛍光X線分析装置において液体中の軽元素を測定できる試料容器を提供する。
【解決手段】試料容器100は、蛍光X線分析装置用の試料容器であって、密閉可能な第1容器と、第1容器の圧力を調整する圧力調整バルブと、液体試料を収容し、第1容器の内に位置する第1開口および第1容器の外に位置する第2開口を有する第2容器と、第2開口を塞ぎ、X線を透過する分析用フィルムと、を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
蛍光X線分析装置用の試料容器であって、
密閉可能な第1容器と、
前記第1容器の圧力を調整する圧力調整バルブと、
液体試料を収容し、前記第1容器の内に位置する第1開口および前記第1容器の外に位置する第2開口を有する第2容器と、
前記第2開口を塞ぎ、X線を透過する分析用フィルムと、
を含む、試料容器。
【請求項2】
請求項1において、
前記圧力調整バルブは、真空雰囲気において、前記第1容器の内と外の圧力差を一定にする、試料容器。
【請求項3】
請求項1において、
前記圧力調整バルブは、
前記第1容器の内の圧力が外の圧力よりも大きく、かつ、前記第1容器の内と外の圧力差が設定圧力よりも大きい場合に開き、
前記第1容器の内の圧力が外の圧力よりも大きく、かつ、前記第1容器の内と外の圧力差が前記設定圧力以下の場合に閉じ、
前記設定圧力は、可変である、試料容器。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、
前記第1開口に設けられ、前記第1容器内の空間と前記第2容器内の空間との間に圧力差を発生させる差圧発生部を含む、試料容器。
【請求項5】
請求項4において、
前記差圧発生部は、前記第1開口を塞ぐ多孔性フィルムである、試料容器。
【請求項6】
請求項5において、
前記第2容器には、前記液体試料の蒸気圧以上の蒸気圧を持つ液体が収容される、試料容器。
【請求項7】
請求項1において、
前記分析用フィルムを覆う保護容器を含み、
前記保護容器は、X線を透過する保護フィルムを含む、試料容器。
【請求項8】
請求項7において、
前記保護容器は、前記保護容器の内と外をつなぐ気体の経路を有する、試料容器。
【請求項9】
請求項1において、
前記分析用フィルムを着脱可能に支持するフィルム支持部材を含む、試料容器。
【請求項10】
密閉可能な第1容器と、
前記第1容器の圧力を調整する圧力調整バルブと、
液体試料を収容し、前記第1容器の内に位置する第1開口および前記第1容器の外に位置する第2開口を有する第2容器と、
前記第2開口を塞ぎ、X線を透過する分析用フィルムと、
を含む、試料容器を用いた測定方法であって、
液体試料を前記第1容器に収容する工程と、
前記試料容器を蛍光X線分析装置の試料室に導入する工程と、
前記試料室の圧力を低下させて前記試料室を真空雰囲気にする工程と、
真空雰囲気の前記試料室において、前記試料容器に収容された前記液体試料に前記分析用フィルムを介してX線を照射し、前記液体試料から放射された蛍光X線を検出する工程と、
を含む、測定方法。
【請求項11】
請求項10において、
前記圧力調整バルブは、真空雰囲気において、前記第1容器の内と外の圧力差を一定にする、測定方法。
【請求項12】
請求項10において、
前記圧力調整バルブを、真空雰囲気の前記試料室において前記第1容器内を前記液体試料が沸騰する圧力よりも高く、前記分析用フィルムが破損する圧力よりも低い圧力になるように設定する、測定方法。
【請求項13】
請求項10ないし12のいずれか1項において、
前記液体試料の蒸気圧以上の蒸気圧を持つ液体を前記第2容器に収容する工程を含み、
前記試料容器は、前記第1開口に設けられ、前記第1容器と前記第2容器との間に圧力差を発生させる差圧発生部を含む、測定方法。
【請求項14】
請求項10において、
前記試料容器は、前記第2容器に取り付けられ、前記分析用フィルムを覆う保護容器を含み、
前記保護容器は、X線を透過する保護フィルムを含む、測定方法。
【請求項15】
請求項14において、
前記保護容器は、前記保護容器の内と外をつなぐ気体の経路を有する、測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料容器および測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
蛍光X線分析装置では、試料にX線管からの一次X線を照射することによって試料から放射された二次X線を検出器で検出して、定性分析および定量分析等を行うことができる。
【0003】
蛍光X線分析において、液体中の軽元素を分析する場合には、試料室をヘリウムガスで置換し測定を行う。
【0004】
空気は試料から発生した蛍光X線を吸収する。特に、軽元素はその影響が大きい。そのため、一般的に、試料室を真空雰囲気にして測定が行われる。しかしながら、真空中では、液体が蒸発したり凍結したりするため、液体中の軽元素を測定することができない。したがって、試料室を空気の代わりに蛍光X線の吸収が少ないヘリウムガスに置換して測定を行う。
【0005】
例えば、特許文献1には、試料中の軽元素を測定するための蛍光X線分析装置として、開放型チャンバーにヘリウム挿入口と、チャンバーの開放部分にX線の透過率が高い軽元素フィルムを着脱可能とするフィルム着脱機構と、チャンバー内の気体を排出する気体出口と、を含む蛍光X線分析装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001-349852号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、試料室をヘリウムガスで置換するためには、特許文献1の蛍光X線分析装置のように、試料室をヘリウム置換するための機構が必要となる。さらに、高圧ヘリウムガスを管理する設備が必要となる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る試料容器の一態様は、
蛍光X線分析装置用の試料容器であって、
密閉可能な第1容器と、
前記第1容器の圧力を調整する圧力調整バルブと、
液体試料を収容し、前記第1容器の内に位置する第1開口および前記第1容器の外に位置する第2開口を有する第2容器と、
前記第2開口を塞ぎ、X線を透過する分析用フィルムと、
を含む。
【0009】
このような試料容器では、圧力調整バルブで第1容器内の圧力を調整できるため、真空雰囲気の試料室において第1容器内を液体試料が沸騰する圧力よりも高く、分析用フィルムが破損する圧力よりも低い圧力に維持できる。したがって、試料容器を用いることによって、蛍光X線分析装置において試料室を真空雰囲気にして測定できる。これにより、試料室をヘリウムで置換することなく、液体試料中の軽元素を測定できる。
【0010】
本発明に係る測定方法の一態様は、
密閉可能な第1容器と、
前記第1容器の圧力を調整する圧力調整バルブと、
液体試料を収容し、前記第1容器の内に位置する第1開口および前記第1容器の外に位置する第2開口を有する第2容器と、
前記第2開口を塞ぎ、X線を透過する分析用フィルムと、
を含む、試料容器を用いた測定方法であって、
液体試料を前記第1容器に収容する工程と、
前記試料容器を蛍光X線分析装置の試料室に導入する工程と、
前記試料室の圧力を低下させて前記試料室を真空雰囲気にする工程と、
真空雰囲気の前記試料室において、前記試料容器に収容された前記液体試料に前記分析用フィルムを介してX線を照射し、前記液体試料から放射された蛍光X線を検出する工程と、
を含む。
【0011】
このような測定方法では、圧力調整バルブで第1容器内の圧力を調整できるため、真空雰囲気の試料室において第1容器内を液体試料が沸騰する圧力よりも高く、分析用フィルムが破損する圧力よりも低い圧力に維持できる。したがって、試料容器を用いることによって、蛍光X線分析装置において試料室を真空雰囲気にして測定できる。これにより、試料室をヘリウムで置換することなく、液体試料中の軽元素を測定できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】第1実施形態に係る試料容器を模式的に示す断面図。
図2】圧力調整バルブを説明するための図。
図3】試料カップに液体試料を充填する方法を説明するための図。
図4】蛍光X線分析装置の試料室に第1実施形態に係る試料容器を配置した状態を示す図。
図5】第1実施形態に係る試料容器を用いた測定方法の一例を示すフローチャート。
図6】第2実施形態に係る試料容器を模式的に示す断面図。
図7】第3実施形態に係る試料容器を模式的に示す断面図。
図8】蛍光X線分析装置の試料室に第3実施形態に係る試料容器を配置した状態を示す図。
図9】第4実施形態に係る試料容器を模式的に示す断面図。
図10】蛍光X線分析装置の試料室に第4実施形態に係る試料容器を配置した状態を示す図。
図11】第4実施形態に係る試料容器を用いた測定方法の一例を示すフローチャート。
図12】密閉容器内の空間の圧力の変化、および試料カップ内の空間の圧力の変化を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また、以下で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0014】
1. 第1実施形態
1.1. 試料容器
まず、第1実施形態に係る試料容器について図面を参照しながら説明する。図1は、第
1実施形態に係る試料容器100を模式的に示す断面図である。
【0015】
試料容器100は、蛍光X線分析装置用の試料容器である。試料容器100は、液体試料Sを、真空雰囲気の試料室で測定するための容器である。
【0016】
試料容器100は、図1に示すように、試料カップ10(第2容器の一例)と、分析用フィルム20と、フィルム支持部材30と、密閉容器40(第1容器の一例)と、圧力調整バルブ50と、リークバルブ60と、を含む。図1は、密閉容器40に試料カップ10を装着した状態を図示している。
【0017】
試料カップ10には、測定対象となる液体試料Sが収容される。測定対象となる液体試料Sは、例えば、飲料水などの食品、有機溶媒などの洗浄液、エタノールなどのアルコール、オイル等である。
【0018】
試料カップ10は、例えば、筒状である。試料カップ10は、第1開口12と、第2開口14と、を有している。第1開口12は試料カップ10の上部の開口であり、第2開口14は試料カップ10の底の開口である。試料カップ10を密閉容器40に装着した状態では、第1開口12は密閉容器40内に位置し、第2開口14は密閉容器40の外に位置する。第2開口14は、分析用フィルム20で塞がれている。
【0019】
試料容器100では、径が異なる複数種類の試料カップ10を用いることができる。試料カップ10の径を大きくして、第2開口14の面積を大きくすることによって、一次X線の照射領域を大きくすることができる。ただし、第2開口14の面積を大きくすることで、密閉容器40の内と外との圧力差によって分析用フィルム20が破損しやすくなる。試料容器100では、測定対象となる液体試料Sの種類や、測定対象の元素、測定の目的などに応じて、互いに径が異なる複数種類の試料カップ10から最適な試料カップ10を用いることができる。
【0020】
分析用フィルム20は、X線を透過するフィルムである。分析用フィルム20は、例えば、プロレンフィルム、マイラーフィルムなどの有機フィルムである。分析用フィルム20として用いられるプロレンフィルムの厚さは、例えば、4μm程度である。また、分析用フィルム20として用いられるマイラーフィルムの厚さは、例えば、1.5μm程度である。分析用フィルム20は、測定対象となる液体試料Sの種類や、測定対象の元素、測定の目的、試料カップ10の径などに応じて厚みや材質を変更可能である。
【0021】
フィルム支持部材30は、分析用フィルム20を試料カップ10に対して着脱可能に支持する。フィルム支持部材30は、円盤状の部材であり、中央部に試料カップ10を挿入可能な孔32を有している。フィルム支持部材30の孔32に分析用フィルム20および試料カップ10を挿入することによって、試料カップ10の第2開口14が分析用フィルム20に覆われた状態で、試料カップ10およびフィルム支持部材30が固定される。
【0022】
密閉容器40は、内部を密閉可能な容器である。密閉容器40は、ベース42と、蓋44と、試料カップ支持部材46と、を含む。
【0023】
ベース42には、試料カップ10を挿入可能な孔43が設けられている。ベース42には、試料カップ10を支持するための試料カップ支持部材46が取り付けられる。図示の例では、試料カップ支持部材46によって円盤状のフィルム支持部材30を支持することで、フィルム支持部材30と一体となった試料カップ10が密閉容器40に固定されている。フィルム支持部材30と一体となった試料カップ10とベース42の隙間は、Oリング70で気密に封止されている。試料カップ支持部材46は、ベース42にねじ72で固
定されている。
【0024】
蓋44には、圧力調整バルブ50とリークバルブ60が取り付けられている。蛍光X線分析装置の真空雰囲気の試料室において、圧力調整バルブ50によって密閉容器40内は一定の圧力に維持される。例えば、密閉容器40内は、600パスカル以上大気圧未満に維持される。
【0025】
ベース42と蓋44の隙間は、Oリング74で気密に封止される。ベース42と蓋44は、空間102を形成する。ベース42と蓋44が形成する空間102に、試料カップ10の第1開口12が配置される。そのため、試料カップ10内の空間104の圧力は、密閉容器40内の空間102の圧力と同じになる。
【0026】
圧力調整バルブ50は、蛍光X線分析装置の真空雰囲気の試料室において、密閉容器40の内と外の圧力差が設定圧力となるように動作する。ここで、密閉容器40内の圧力は、空間102の圧力であり、密閉容器40の外の圧力は、試料室の圧力である。
【0027】
圧力調整バルブ50は、密閉容器40内の圧力が密閉容器40の外の圧力よりも大きく、かつ、密閉容器40の内と外の圧力差が設定圧力よりも大きい場合に開く。また、圧力調整バルブ50は、密閉容器40内の圧力が密閉容器40の外の圧力よりも大きく、かつ、密閉容器40の内と外の圧力差が設定圧力以下の場合、および密閉容器40内の圧力が密閉容器40の外の圧力以下の場合に閉じる。圧力調整バルブ50の設定圧力は、可変である。
【0028】
図2は、圧力調整バルブ50を説明するための図である。圧力調整バルブ50は、弁52と、ばね54と、を含む。圧力調整バルブ50は、ばね54を用いて密閉容器40内の圧力を調整する。
【0029】
密閉容器40の内と外がともに大気圧の状態では、圧力調整バルブ50の弁52は、ばね54の力F2によって閉じた状態となる。蛍光X線分析装置の試料室を真空排気して密閉容器40の外の圧力が低下し、密閉容器40内の圧力が密閉容器40の外の圧力よりも大きくなり、かつ、密閉容器40の内と外の圧力差が設定圧力よりも大きくなると、ばね54が弁52を閉じる力F2よりも密閉容器40の内と外の圧力差によって弁52に加わる力F4が大きくなる。これにより、弁52が開き、密閉容器40の内と外がつながる。
【0030】
弁52が開くことで、密閉容器40内の圧力が低下して、密閉容器40の内と外の圧力差が設定圧力以下になると、ばね54が弁52を閉じる力F2が密閉容器40の内と外の圧力差によって弁52に加わる力F4よりも大きくなる。これにより、弁52が閉じる。
【0031】
このように、密閉容器40の内と外の圧力差に応じて弁52を開閉させることによって、密閉容器40内の空間102の圧力を一定にできる。また、ばね54の長さを変えてばね54が弁52を閉じる力F2を調整することで、設定圧力を変更できる。
【0032】
図示はしないが、密閉容器40内の圧力が密閉容器40の外の圧力以下の場合には、密閉容器40の内と外の圧力差によって弁52に加わる力F4は、弁52を閉じる力となるため、弁52は閉じた状態となる。
【0033】
リークバルブ60は、密閉容器40内を大気圧に戻すためのバルブである。リークバルブ60は、例えば、密閉容器40の外の圧力が密閉容器40内の圧力よりも大きい場合に開く。また、リークバルブ60は、例えば、密閉容器40の外の圧力が密閉容器40内の圧力以下の場合に閉じる。
【0034】
リークバルブ60は、例えば、圧力調整バルブ50と同様に、ばねを用いて密閉容器40の内と外の圧力差に応じて弁を開閉させるバルブである。
【0035】
図3は、試料カップ10に液体試料Sを充填する方法を説明するための図である。
【0036】
まず、試料カップ10の第2開口14を分析用フィルム20で覆う。次に、第2開口14を分析用フィルム20で覆った状態で試料カップ10をフィルム支持部材30の中央部の孔32に挿入する。これにより、試料カップ10がフィルム支持部材30に固定される。このとき、分析用フィルム20が試料カップ10とフィルム支持部材30に挟まれ、分析用フィルム20が第2開口14に張った状態で固定される。この結果、試料カップ10とフィルム支持部材30が一体化し、かつ、分析用フィルム20で第2開口14を塞ぐことができる。
【0037】
次に、試料カップ10の第1開口12から液体試料Sを注いで、試料カップ10に液体試料Sを充填する。
【0038】
このようにして液体試料Sが充填された試料カップ10は、図1に示すように、密閉容器40に装着される。なお、図示はしないが、密閉容器40に試料カップ10を装着した後に、液体試料Sを試料カップ10に充填してもよい。
【0039】
1.2. 蛍光X線分析装置
図4は、蛍光X線分析装置1の試料室8に試料容器100を配置した状態を示す図である。
【0040】
蛍光X線分析装置1は、蛍光X線分析法による分析を行うための装置である。蛍光X線分析法とは、液体試料Sに一次X線を照射し、一次X線の照射により液体試料Sから放射される二次X線を検出することで、液体試料Sの分析を行う手法である。
【0041】
蛍光X線分析装置1は、図1に示すように、試料容器100と、X線管2と、フィルター3と、一次X線コリメーター4と、支持板5と、二次X線コリメーター6と、検出器7と、を含む。
【0042】
試料容器100は、図4に示すように、蛍光X線分析装置1の試料室8に収容されている。試料室8には、例えば、フィルター3、一次X線コリメーター4、支持板5、二次X線コリメーター6が収容されている。なお、試料室8にX線管2や検出器7が収容されていてもよい。図示はしないが、蛍光X線分析装置1は、試料室8を真空排気するための真空ポンプを備えている。
【0043】
試料容器100を用いて液体試料Sを測定する場合には、試料室8を所定圧力の真空雰囲気にする。測定時には、試料室8は、真空ポンプによって一定の圧力に維持される。真空雰囲気の試料室8において、密閉容器40内は、試料室8の圧力(所定圧力)よりも高い圧力に維持される。真空雰囲気の試料室8において、密閉容器40内は、圧力調整バルブ50によって液体試料Sが沸騰する圧力よりも高く、分析用フィルム20が破損する圧力よりも低い圧力に維持される。
【0044】
X線管2は、一次X線を発生させる。X線管2では、液体試料Sの材質や分析対象元素に応じて、管電圧および管電流が設定される。管電圧は、X線管2に印加される電圧である。管電流は、X線管2に流す電流である。
【0045】
フィルター3は、X線管2で発生したX線を通す。フィルター3を通してX線を液体試料Sに照射することで、フィルター3に連続X線や特性X線の一部を吸収させることができ、それらの成分を除去することができる。これにより、例えば、P/B比(peak-to-background ratio)を向上できる。蛍光X線分析装置1は、複数のフィルター3を備えており、複数のフィルター3は互いに低減できるエネルギー帯域が異なっている。測定対象の元素に応じて複数のフィルター3から測定に用いられるフィルター3が選択される。
【0046】
一次X線コリメーター4は、液体試料Sに照射されるX線の照射領域を制限する。一次X線コリメーター4によって、照射領域の大きさを選択することができる。照射領域の大きさは、試料カップ10の径、すなわち、第2開口14の面積に応じて選択される。
【0047】
支持板5は、試料容器100を支持している。支持板5には、開口が形成されており、当該開口を介して、一次X線が試料容器100の分析用フィルム20に照射される。一次X線は、分析用フィルム20を透過して液体試料Sに照射される。液体試料Sに一次X線が照射されることによって、液体試料Sから二次X線が放射される。液体試料Sから放射された二次X線は、分析用フィルム20を透過して、支持板5の開口から放出される。
【0048】
二次X線コリメーター6は、液体試料Sから放射された二次X線の取得領域を制限する。二次X線コリメーター6を用いることで、目的の二次X線を効率よく検出することができる。ここで、二次X線とは、試料に一次X線を照射した際に、試料から放射されるX線をいう。二次X線は、蛍光X線、および散乱X線を含む。散乱X線は、試料に一次X線を照射した際に、原子や電子の散乱により放射されるX線である。蛍光X線は、試料に一次X線を照射した際に、原子の内殻電子が励起され、それによって生じた空孔に外殻電子が移るときに放出されるX線である。
【0049】
検出器7は、液体試料Sから放射された二次X線を検出する。検出器7は、例えば、半導体検出器である。検出器7は、例えば、エネルギー分散型のX線検出器である。なお、検出器7は、波長分散型のX線検出器であってもよい。
【0050】
蛍光X線分析装置1では、試料室8が真空雰囲気であるため、液体試料S中の軽元素を感度よく検出できる。
【0051】
1.3. 測定方法
図5は、試料容器100を用いた測定方法の一例を示すフローチャートである。
【0052】
まず、図3に示すように、試料カップ10に分析用フィルム20を取り付ける(S100)。
【0053】
例えば、径の異なる複数の試料カップ10から、測定対象となる液体試料Sの種類や、測定対象の元素、測定の目的などに応じて、最適な試料カップ10を選択する。次に、測定対象となる液体試料Sの種類や、測定対象の元素、測定の目的、試料カップ10の径などに応じて、最適な分析用フィルム20を選択する。
【0054】
次に、第2開口14を分析用フィルム20で覆った試料カップ10をフィルム支持部材30の孔32に挿入することによって、分析用フィルム20を試料カップ10に取り付ける。これにより、試料カップ10とフィルム支持部材30が一体となり、かつ、第2開口14が分析用フィルム20で覆われる。
【0055】
次に、試料カップ10に液体試料Sを充填する(S102)。
【0056】
次に、図1に示すように、試料カップ10を密閉容器40に装着する(S104)。ベース42の孔43に試料カップ10を挿入し、試料カップ10を試料カップ支持部材46で支持する。これにより、試料カップ10を密閉容器40に装着できる。
【0057】
次に、圧力調整バルブ50を調整する(S106)。ここでは、圧力調整バルブ50の設定圧力を設定する。設定圧力は、所定圧力の真空雰囲気の試料室8において、密閉容器40内が、液体試料Sが沸騰する圧力よりも高く、分析用フィルム20が破損する圧力よりも低い圧力になるように設定される。したがって、設定圧力は、液体試料Sの蒸気圧や、試料カップ10の径(第2開口14の面積)、試料室8の圧力などに応じて設定される。
【0058】
次に、図4に示すように、液体試料Sが収容された試料容器100を蛍光X線分析装置1の試料室8に導入する(S108)。図示はしないが、試料室チャンバーの蓋を開いて試料室8に試料容器100を導入する。
【0059】
次に、試料室8を真空排気して試料室8を所定圧力の真空雰囲気にする(S110)。試料室8を真空排気して、液体試料Sから放出される軽元素のX線を検出器7で検出可能な圧力(所定圧力)にする。このとき、密閉容器40内の圧力も試料室8の圧力の低下に伴って低下するが、圧力調整バルブ50の動作によって密閉容器40内の空間102と密閉容器40の外(試料室8)の圧力差は設定圧力に維持される。密閉容器40内は、液体試料Sが沸騰する圧力よりも高く、分析用フィルム20が破損する圧力よりも低い圧力に維持される。
【0060】
次に、液体試料Sに対して、蛍光X線分析法による測定を行う(S112)。
【0061】
試料室8の圧力があらかじめ設定された所定圧力で一定になると、測定が開始される。具体的には、X線管2で発生した一次X線をフィルター3および一次X線コリメーター4を介して試料カップ10内の液体試料Sに照射する。一次X線は、分析用フィルム20を透過して液体試料Sに照射される。一次X線が液体試料Sに照射されることによって液体試料Sから放射された二次X線は、分析用フィルム20を透過し、二次X線コリメーター6を介して検出器7で検出される。
【0062】
上述したように、密閉容器40内の圧力が、液体試料Sが沸騰する圧力よりも高いため、液体試料Sを沸騰させることなく測定できる。また、密閉容器40内の圧力が、分析用フィルム20が破損する圧力よりも低いため、分析用フィルム20の破損を防ぐことができる。また、試料室8を真空雰囲気にできるため、液体試料Sから放射される二次X線の減衰を低減できる。したがって、例えば、軽元素を感度よく測定できる。
【0063】
測定が終了した後、試料室8をベントして試料室8を大気圧にする(S114)。試料室8をベントすることによって試料室8の圧力が上昇し、リークバルブ60の動作によって密閉容器40内の圧力も上昇する。この結果、分析用フィルム20の破損を防ぐことができ、密閉容器40内を大気圧にできる。
【0064】
以上の工程により、液体試料Sを測定できる。
【0065】
1.4. 効果
試料容器100は、蛍光X線分析装置用の試料容器であって、密閉可能な密閉容器40と、密閉容器40の圧力を調整する圧力調整バルブ50と、液体試料Sを収容し、密閉容器40の内に位置する第1開口12および密閉容器40の外に位置する第2開口14を有する試料カップ10と、第2開口14を塞ぎ、X線を透過する分析用フィルム20と、を
含む。
【0066】
試料容器100では、圧力調整バルブ50で密閉容器40内の圧力を調整できるため、真空雰囲気の試料室8において、密閉容器40内を液体試料Sが沸騰する圧力よりも高く、分析用フィルム20が破損する圧力よりも低い圧力に維持できる。したがって、試料容器100を用いることによって、蛍光X線分析装置1において試料室8を真空雰囲気にして測定できる。これにより、試料室8をヘリウムで置換することなく、液体試料S中の軽元素を測定できる。
【0067】
試料容器100では、圧力調整バルブ50は、真空雰囲気において、密閉容器40の内と外の圧力差を一定にする。したがって、試料容器100では、分析用フィルム20が破損することを防ぐことができる。
【0068】
試料容器100では、圧力調整バルブ50は、密閉容器40の内の圧力が外の圧力よりも大きく、かつ、密閉容器40の内と外の圧力差が設定圧力よりも大きい場合に開き、密閉容器40の内の圧力が外の圧力よりも大きく、かつ、密閉容器40の内と外の圧力差が設定圧力以下の場合に閉じ、設定圧力は、可変である。そのため、試料容器100では、試料カップ10の径や、分析用フィルム20の強度(厚さおよび材質)に応じて設定圧力を変更できる。したがって、試料容器100では、様々な径の試料カップ10、様々な種類の分析用フィルム20を使用して測定を行うことができる。
【0069】
試料容器100では、分析用フィルム20を着脱可能に支持するフィルム支持部材30を含む。そのため、試料容器100では、測定対象となる液体試料Sの種類や、測定対象の元素、測定の目的、試料カップ10の径などに応じて、最適な厚さや最適な材質の分析用フィルム20を使用できる。
【0070】
2. 第2実施形態
次に、第2実施形態に係る試料容器について、図面を参照しながら説明する。図6は、第2実施形態に係る試料容器200を模式的に示す断面図である。以下、第2実施形態に係る試料容器200において、第1実施形態に係る試料容器100の構成部材と同様の機能を有する部材については同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0071】
上述した図1に示す試料容器100では、圧力調整バルブ50は、ばね54を用いて密閉容器40の内と外の圧力差に応じて弁52を開閉した。
【0072】
これに対して、試料容器200では、圧力調整バルブ50は、おもり56を用いて密閉容器40の内と外の圧力差に応じて弁52を開閉する。
【0073】
図6に示す例では、おもり56は、弁52を閉じる力を加える。圧力調整バルブ50は、おもり56を用いた場合でも、ばね54を用いた場合と同様に動作する。
【0074】
例えば、密閉容器40の内と外がともに大気圧の状態では、圧力調整バルブ50の弁52は、おもり56の力によって閉じた状態となる。弁52が閉じた状態では、弁52と密閉容器40の隙間は、Oリング58で気密に封止される。
【0075】
蛍光X線分析装置の試料室8を真空排気して密閉容器40の外の圧力が低下し、密閉容器40内の圧力が密閉容器40の外の圧力よりも大きくなり、かつ、密閉容器40の内と外の圧力差が設定圧力よりも大きくなると、おもり56が弁52を閉じる力よりも密閉容器40の内と外の圧力差によって弁52に加わる力が大きくなる。これにより、弁52が開き、密閉容器40の内と外がつながる。
【0076】
弁52が開くことで、密閉容器40内の圧力が低下して、密閉容器40の内と外の圧力差が設定圧力以下になると、おもり56が弁52を閉じる力が密閉容器40の内と外の圧力差によって弁52に加わる力よりも大きくなる。これにより、弁52が閉じる。
【0077】
このように、圧力調整バルブ50は、おもり56を用いて密閉容器40の内と外の圧力差に応じて弁52を開閉する場合でも、上述したばね54を用いて密閉容器40の内と外の圧力差に応じて弁52を開閉する場合と同様に動作する。また、おもり56の重さを変えておもり56が弁52を閉じる力を調整することで、設定圧力を変更できる。
【0078】
なお、圧力調整バルブ50は、図1および図6に示す例に限定されず、密閉容器40の圧力を調整できればその構成は特に限定されない。
【0079】
3. 第3実施形態
次に、第3実施形態に係る試料容器について、図面を参照しながら説明する。図7は、第3実施形態に係る試料容器300を模式的に示す断面図である。図8は、蛍光X線分析装置1の試料室8に試料容器300を配置した状態を示す図である。以下、第3実施形態に係る試料容器300において、第1実施形態に係る試料容器100の構成部材と同様の機能を有する部材については同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0080】
試料容器300は、図7に示すように、保護容器80を含む。試料容器300では、分析用フィルム20が破損して液体試料Sが漏れ出た場合に、保護容器80で液体試料Sを受けることができる。そのため、分析用フィルム20が破損しても、蛍光X線分析装置1に液体試料Sがかかって汚損することを防ぐことができる。
【0081】
保護容器80は、密閉容器40に固定されている。保護容器80は、保護カップ82と、保護フィルム84と、を含む。保護カップ82は、筒状である。保護カップ82の底の開口は、保護フィルム84で塞がれている。分析用フィルム20で塞がれた試料カップ10の第2開口14は、保護カップ82内に位置する。そのため、分析用フィルム20が破損して液体試料Sが漏れ出ても、保護容器80で受けることができる。
【0082】
保護フィルム84は、X線を透過するフィルムである。保護フィルム84の材質は、例えば、分析用フィルム20の材質と同じである。図8に示すように、一次X線は、保護フィルム84および分析用フィルム20を透過して液体試料Sに照射される。また、二次X線は、分析用フィルム20および保護フィルム84を透過して検出器7で検出される。
【0083】
保護カップ82は、保護カップ82の内と外をつなぐ気体の経路となる通気孔86を有する。そのため、図8に示すように、試料室8において、試料室8が真空排気されて大気圧から真空に圧力が変化しても、保護カップ82の内と外の圧力を同じにできる。したがって、保護フィルム84が破損することを防ぐことができる。通気孔86は、例えば、保護カップ82に設けられた貫通孔である。なお、保護カップ82は、保護カップ82の内と外をつなぐ気体の経路を有していればよく、例えば保護カップ82と密閉容器40の隙間を保護カップ82の内と外をつなぐ気体の経路としてもよい。
【0084】
4. 第4実施形態
4.1. 試料容器
次に、第4実施形態に係る試料容器について、図面を参照しながら説明する。図9は、第4実施形態に係る試料容器400を模式的に示す断面図である。図10は、蛍光X線分析装置1の試料室8に試料容器400を配置した状態を示す図である。以下、第4実施形態に係る試料容器400において、第1実施形態に係る試料容器100の構成部材と同様
の機能を有する部材については同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0085】
試料容器400は、図9に示すように、密閉容器40内の空間102と試料カップ10内の空間104との間に圧力差を発生させる多孔性フィルム90を含む。
【0086】
多孔性フィルム90は、例えば、ポリプロピレンフィルム、不織布等を用いることができる。多孔性フィルム90として、リチウムイオン電池のセパレータとして用いられるフィルムを用いてもよい。
【0087】
多孔性フィルム90は、試料カップ10の第1開口12に設けられる。図示の例では、試料カップ10の第1開口12は、多孔性フィルム90で塞がれている。多孔性フィルム90によって、密閉容器40内の空間102と試料カップ10内の空間104を仕切ることができる。
【0088】
密閉容器40には、圧力調整液Lが収容されている。圧力調整液Lは、密閉容器40内の空間102の圧力を調整する。圧力調整液Lは、例えば、液体試料Sと同じ液体である。圧力調整液Lは、液体試料Sと異なる種類の液体であってもよい。例えば、圧力調整液Lは、同一温度において、液体試料Sの蒸気圧以上の蒸気圧を持つ液体であってもよい。圧力調整液Lは、液体試料Sと近い蒸気圧曲線を持つ液体であることが好ましい。
【0089】
4.2. 測定方法
図11は、試料容器400を用いた測定方法の一例を示すフローチャートである。以下、上述した図5に示す測定方法と異なる点について説明し、同様の点については説明を省略する。
【0090】
まず、図3に示すように、試料カップ10に分析用フィルム20を取り付ける(S200)。次に、図3に示すように、試料カップ10に液体試料Sを充填する(S202)。
【0091】
次に、図9に示すように、試料カップ10を密閉容器40に装着する(S204)。次に、密閉容器40に圧力調整液Lを入れる(S205)。密閉容器40の底には、窪みがあり、当該窪みに圧力調整液Lを入れる。圧力調整液Lを入れた後、蓋44を閉じる。
【0092】
次に、圧力調整バルブ50を調整する(S206)。設定圧力は、所定圧力の真空雰囲気の試料室8において、密閉容器40内が、液体試料Sが沸騰する圧力よりも高く、分析用フィルム20が破損する圧力よりも低い圧力になるように設定される。
【0093】
なお、上述した工程S200、工程S202、工程S204、工程S205、および工程S206の順序は特に限定されない。
【0094】
次に、図10に示すように、液体試料Sが収容された試料容器400を蛍光X線分析装置1の試料室8に導入する(S408)。
【0095】
次に、試料室8を真空排気して試料室8を所定圧力の真空雰囲気にする(S210)。試料室8を真空排気して、液体試料Sから放出される軽元素のX線を検出器7で検出可能な圧力にする。このとき、密閉容器40内の圧力も試料室8の圧力の低下に伴って低下するが、圧力調整バルブ50の動作によって密閉容器40内の空間102と密閉容器40の外(試料室8)の圧力差は設定圧力に維持される。密閉容器40内は、液体試料Sが沸騰する圧力よりも高く、分析用フィルム20が破損する圧力よりも低い圧力に維持される。
【0096】
次に、液体試料Sに対して、蛍光X線分析法による測定を行う(S212)。試料室8
の圧力があらかじめ設定された所定圧力で一定になると、測定が開始される。
【0097】
ここで、長時間の測定により、真空雰囲気の試料室8に試料容器400が長時間配置されても、試料容器400では、液体試料Sが充填された試料カップ10内の圧力の低下を低減できる。すなわち、試料容器400では、長時間の測定であっても、試料カップ10内の圧力を液体試料Sが沸騰する圧力よりも高く、分析用フィルム20が破損する圧力よりも低い圧力に維持できる。その理由については後述する。
【0098】
測定終了した後、試料室8をベントして試料室8を大気圧にする(S214)。
【0099】
以上の工程により、液体試料Sを測定できる。
【0100】
図12は、密閉容器40内の空間102の圧力の変化、および試料カップ10内の空間104の圧力の変化を示すグラフである。なお、図12では、密閉容器40内の空間102の圧力を破線で示し、試料カップ10内の空間104の圧力を実線で示している。
【0101】
時刻T1で試料室8の真空排気を開始し、時刻T2で試料室8が所定圧力に到達する。このとき、密閉容器40内の空間102の圧力は、圧力P0で維持される。圧力P0は、液体試料Sが沸騰する圧力よりも高く、分析用フィルム20が破損する圧力よりも低い圧力である。
【0102】
ここで、長時間の測定により、真空雰囲気の試料室8に試料容器400を長時間配置すると、密閉容器40の隙間などから徐々に気体がリークし、密閉容器40内の空間102の圧力が低下する。密閉容器40内の空間102と試料カップ10内の空間104は多孔性フィルム90で仕切られているため、空間102の圧力が空間104の圧力よりも先に低下する。
【0103】
空間102の圧力が低下して、時刻T3において空間102の圧力が圧力調整液Lの蒸気圧P2よりも大きくなる。これにより、圧力調整液Lの蒸発が始まる。空間102の圧力が試料カップ10内の空間104の圧力よりも先に低下するため、同一温度における圧力調整液Lの蒸気圧と液体試料Sの蒸気圧が同じであっても、液体試料Sよりも先に圧力調整液Lの蒸発が始まる。
【0104】
圧力調整液Lの蒸発により空間102の圧力の低下が抑制される。圧力調整液Lの蒸発による圧力の上昇と、リークによる圧力の低下がつりあうことによって、空間102の圧力を一定に維持できる。
【0105】
空間102と空間104とは多孔性フィルム90で仕切られているため、空間104は、空間102よりも高い圧力に維持される。したがって、空間104の圧力を液体試料Sが沸騰する圧力よりも高く、分析用フィルム20が破損する圧力よりも低い圧力に維持できる。
【0106】
ここでは、圧力調整液Lが液体試料Sと同じ蒸気圧を持つ場合について説明したが、圧力調整液Lが液体試料Sの蒸気圧以上の蒸気圧を持っていればよい。これにより、圧力調整液Lが液体試料Sよりも先に蒸発するため、空間104の圧力を液体試料Sが沸騰する圧力よりも高く、分析用フィルム20が破損する圧力よりも低い圧力に維持できる。
【0107】
4.3. 効果
試料容器400は、第1開口12に設けられ、密閉容器40内の空間102と試料カップ10内の空間104との間に圧力差を発生させる多孔性フィルム90を含む。そのため
、密閉容器40内に圧力調整液Lを収容することで、上述したように、真空雰囲気の試料室8に試料容器100を長時間配置しても、空間104の圧力を液体試料Sが沸騰する圧力よりも高く、分析用フィルム20が破損する圧力よりも低い圧力に維持できる。
【0108】
4.4. 変形例
上述した第4実施形態では、密閉容器40内の空間102と試料カップ10内の空間104との間に圧力差を生じさせるために多孔性フィルム90を用いたが、空間102と空間104との間に圧力差を生じさせるための差圧発生部は、多孔性フィルム90に限定されない。例えば、試料カップ10の第1開口12に圧力調整バルブを設けてもよいし、第1開口12にオリフィスを設けてもよい。圧力調整バルブやオリフィスによっても、多孔性フィルム90と同様に、密閉容器40内の空間102と試料カップ10内の空間104との間に圧力差を生じさせることができる。
【0109】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、さらに種々の変形が可能である。例えば、本発明は、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成を含む。実質的に同一の構成とは、例えば、機能、方法、及び結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成である。また、本発明は、実施形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【符号の説明】
【0110】
1…蛍光X線分析装置、2…X線管、3…フィルター、4…一次X線コリメーター、5…支持板、6…二次X線コリメーター、7…検出器、8…試料室、10…試料カップ、12…第1開口、14…第2開口、20…分析用フィルム、30…フィルム支持部材、32…孔、40…密閉容器、42…ベース、43…孔、44…蓋、46…試料カップ支持部材、50…圧力調整バルブ、52…弁、54…ばね、56…おもり、58…Oリング、60…リークバルブ、70…Oリング、72…ねじ、74…Oリング、80…保護容器、82…保護カップ、84…保護フィルム、86…通気孔、90…多孔性フィルム、100…試料容器、102…空間、104…空間、200…試料容器、300…試料容器、400…試料容器
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12