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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024019115
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】樹脂形成部材
(51)【国際特許分類】
   G02B 21/34 20060101AFI20240201BHJP
【FI】
G02B21/34
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023122387
(22)【出願日】2023-07-27
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-01-16
(31)【優先権主張番号】P 2022119448
(32)【優先日】2022-07-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】510066950
【氏名又は名称】株式会社 プラスコンフォート
(74)【代理人】
【識別番号】100107102
【弁理士】
【氏名又は名称】吉延 彰広
(74)【代理人】
【識別番号】100164242
【弁理士】
【氏名又は名称】倉澤 直人
(74)【代理人】
【識別番号】100172498
【弁理士】
【氏名又は名称】八木 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】赤石 彰
【テーマコード(参考)】
2H052
【Fターム(参考)】
2H052AB02
2H052AD03
2H052AD27
2H052AE02
2H052AE03
2H052AE13
(57)【要約】      (修正有)
【課題】光透過性フィルムが設けられた樹脂形成部材に関し、光透過性フィルムがピンと張られた状態で固定されている樹脂形成部材を提供する。
【解決手段】基体12に複数の貫通孔121が設けられ、複数の貫通孔121それぞれの一方の開口121aが光透過性フィルム11によって覆われた樹脂形成部材1であって、基体12は、貫通孔121を画定する縁部122に光透過性フィルム11が溶着されたものであり、光透過性フィルム11は、樹脂フィルムであって、縁部122における厚みよりも複数の貫通孔121それぞれの一方の開口121aを覆った覆い部112の厚みの方が厚いものである。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体に複数の貫通孔が設けられ、該複数の貫通孔それぞれの一方の開口が光透過性フィルムによって覆われた樹脂形成部材であって、
前記基体は、前記貫通孔を画定する縁部に前記光透過性フィルムが溶着されたものであり、
前記光透過性フィルムは、樹脂フィルムであって、前記縁部における厚みよりも前記複数の貫通孔それぞれの一方の開口を覆った覆い部の厚みの方が厚いものであることを特徴する樹脂形成部材。
【請求項2】
前記光透過性フィルムは、前記開口を覆った、前記貫通孔側の内面よりも、該開口を覆った、該貫通孔とは反対側の外面の方が平滑なものであることを特徴する請求項1記載の樹脂形成部材。
【請求項3】
前記光透過性フィルムは、主成分に耐油浸性の成分を添加したものであることを特徴とする請求項1又は2記載の樹脂形成部材。
【請求項4】
前記基体は、前記縁部の前記光透過性フィルム側にフィルム固定部が設けられたものであり、
前記フィルム固定部は、前記縁部における前記光透過性フィルム側の肉厚を減少させるものであることを特徴とする請求項1又は2記載の樹脂形成部材。
【請求項5】
前記基体の周囲を囲む周壁を備え、
前記光透過性フィルムは、前記周壁よりも内側で該周壁とは間隔をあけて設けられたものであることを特徴とする請求項1又は2記載の樹脂形成部材。
【請求項6】
前記周壁は、前記光透過性フィルムよりも前記貫通孔とは反対側に突出したものであることを特徴とする請求項5記載の樹脂形成部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光透過性フィルムが設けられた樹脂形成部材に関する。
【背景技術】
【0002】
観察対象となる試料を収容したまま顕微鏡の観察に用いることができる樹脂形成部材が知られている(例えば、特許文献1等参照)。
【0003】
このような樹脂形成部材として、基体に複数の貫通孔が設けられ、それらの貫通孔の一方の開口が、170μm程度の厚さの光透過性部材によって覆われたものが用いられる場合がある。試料は、複数の貫通孔それぞれの他方の開口から入れられ、光透過性部材の、貫通孔側の内面上に載せられる。顕微鏡の対物レンズを、光透過性部材の、貫通孔とは反対側の外面側に配置する場合がある。
【0004】
射出成形によって樹脂形成部材を得る場合、予め成形した一次樹脂形成部材を金型にセットし、その一次樹脂形成部材を、射出した樹脂によって固定する、いわゆるインサート成形が一般的に行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017-78746号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、一次形成部材がフィルムや薄膜といったような厚さが薄いものになればなるほど、一次形成部材をピンと張った状態で固定することが困難になる。すなわち、一次形成部材がフィルムや薄膜といったような厚さが薄いもの(以下、総称してフィルムと称する)であって、そのフィルムの周囲を射出した樹脂によって固定する場合、射出した樹脂が冷却される際の収縮によって、フィルムは中心方向に撓んでしまう。この状態で射出した樹脂が固化してしまうと、フィルムは撓んだままとなってしまう。
【0007】
光透過性フィルムが撓んでいると、光の屈折率が大幅に狂い、外面側に配置した対物レンズによる観察ができなくなってしまう。
【0008】
本発明は上記事情に鑑み、光透過性フィルムがピンと張られた状態で固定されている樹脂形成部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を解決する本発明の樹脂形成部材は、
基体に複数の貫通孔が設けられ、該複数の貫通孔それぞれの一方の開口が光透過性フィルムによって覆われた樹脂形成部材であって、
前記基体は、前記貫通孔を画定する縁部に前記光透過性フィルムが溶着されたものであり、
前記光透過性フィルムは、樹脂フィルムであって、前記縁部における厚みよりも前記複数の貫通孔それぞれの一方の開口を覆った覆い部の厚みの方が厚いものであることを特徴する。
【0010】
本発明の樹脂形成部材を得るには、まず、前記光透過性フィルムを一次形成部材としてインサート成形する。インサート成形後の前記光透過性フィルムは、射出した樹脂が冷却される際の収縮によって、前記覆い部が中心方向に撓んでいる。すなわち、各覆い部は、内側又は外側に凸の状態で撓んでいる。なお、前記光透過性フィルムは、前記縁部では前記基体に溶着されている。次いで、各覆い部が撓んだ状態の前記光透過性フィルム全体を加熱する。例えば、加熱板に前記光透過性フィルム全体を載置する。前記光透過性フィルム全体を該光透過性フィルムの融点未満の好適な温度で好適な時間だけ加熱することで、前記光透過性フィルムにおける各覆い部で樹脂が軟化し、各覆い部に生じていた撓みが加熱板の表面に沿って平らになり、撓みが消失する。この際、前記光透過性フィルムにおける各覆い部の面積は縮小することになる一方、樹脂量は一定であるため、各覆い部の厚みが縁部における厚みよりも厚くなる。この結果、光透過性フィルムがピンと張られた状態で固定されている樹脂形成部材を提供することができる。
【0011】
なお、ここにいう溶着とは融着を含む概念である。
【0012】
前記光透過性フィルムは、透明なものであってもよいし、半透明なものであってもよい。
【0013】
前記光透過性フィルムは、150μm以下のフィルムであり、50μm以下のフィルムであることが好ましい。
【0014】
前記光透過性フィルムは、前記複数の貫通孔総てにおける前記覆い部の厚みが、前記縁部における厚みよりも厚いものであることが好ましい。
【0015】
前記光透過性フィルムは、前記複数の貫通孔総てにおける前記覆い部のうち最も厚みが薄い前記覆い部の厚みが、前記縁部のうち最も厚みが厚い箇所における厚みよりも厚いものであることが好ましい。
【0016】
前記光透過性フィルムは、前記複数の貫通孔総てにおける前記覆い部の厚みが略均一であることが好ましい。なお、ここにいう略均一とは、厚みが±1%の誤差範囲に収まっていることを意味する。均一に加熱処理することができれば、前記複数の貫通孔総てにおける前記覆い部の厚みを略均一にすることができる。例えば、上記加熱板の、光透過性フィルムが載置された全域の温度が均一な加熱温度であればよい。
【0017】
また、
前記光透過性フィルムは、前記開口を覆った、前記貫通孔側の内面よりも、該開口を覆った、該貫通孔とは反対側の外面の方が平滑なものであることを特徴することが好ましい。
【0018】
前記光透過性フィルムを加熱するにあたり、細かく見れば、該光透過性フィルムの外面全体を均一に加熱する。こうすることで、前記光透過性フィルムの前記外面は溶け、前記加熱板の表面の平滑性が高ければ該外面の平滑性も高くなる。前記外面は顕微鏡の対物レンズ側となる面であり、平滑性が高ければ、光の屈折率への影響が抑えられ好ましい。JIS B 0681-2:2018における算術平均粗さ(Sa)でみると、前記内面は0.030μm以上であるのに対して、前記外面は0.015μm以下であることが好ましい。
【0019】
また、
前記光透過性フィルムは、主成分に耐油浸性の成分を添加したものであることを特徴とすることも好ましい。
【0020】
前記光透過性フィルムは、主成分に耐油浸性の成分としてゴム性の成分を添加した材料から形成されたフィルムであってもよい。より具体的には、前記光透過性フィルムは、スチレンブタジエンスチレンブロック共重合体を含んだブレンドフィルムであってもよい。
【0021】
また、
前記基体は、前記縁部の前記光透過性フィルム側にフィルム固定部が設けられたものであり、
前記フィルム固定部は、前記縁部における前記光透過性フィルム側の肉厚を減少させるものであることを特徴とすることも好ましい。
【0022】
すなわち、前記光透過性フィルムと前記フィルム固定部との間の肉厚は、該光透過性フィルムと前記縁部における該フィルム固定部が設けられていない部分との間の肉厚よりも薄い。肉厚が減少している箇所では、流れ込む樹脂の速度が速くなりやすく、前記光透過性フィルムがこの箇所に引きつけられやすくなる。そして、この箇所は早く冷えやすく前記光透過性フィルムがいち早く固定される。この結果、光透過性フィルムの位置決めを行いつつ、位置決めした位置に光透過性フィルムを早期に固定することができる。
【0023】
また、
前記基体の周囲を囲む周壁を備え、
前記光透過性フィルムは、前記周壁よりも内側で該周壁とは間隔をあけて設けられたものであることを特徴とすることも好ましい。
【0024】
上記間隔によって空間が形成され、樹脂形成部材の射出形成時には、この空間は金型によって形成され、その金型によって光透過性フィルムの外周縁の位置が拘束される。また、この空間は、対物レンズの逃げとしても機能する。さらに、空間を設けておくことで、前記周壁が空間側に撓むことが可能になり、樹脂形成部材をつかみやすくなる。
【0025】
さらに、
前記周壁は、前記光透過性フィルムよりも前記貫通孔とは反対側に突出したものであることを特徴とすることも好ましい。
【0026】
樹脂形成部材を前記一方側を下にして平らな場所に載置しても、前記光透過性フィルムが接地せず、該光透過性フィルムが傷付いてしまったっり、汚れてしまうことを防止することができ、樹脂形成部材の取り扱い性が向上する。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、光透過性フィルムがピンと張られた状態で固定されている樹脂形成部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明の一実施形態に相当する樹脂形成部材を示す斜視図である。
図2】(a)はインサート成形によって得られた樹脂形成部材中間体を模式的に示す図であり、(b)は光透過性樹脂フィルムの側を下にして樹脂形成部材中間体を加熱板に載置する様子を模式的に示す図であり、(c)は樹脂形成部材を貫通孔の直径に沿って断面したときの部分拡大断面図である。
図3図2(c)に示す樹脂形成部材を用いて倒立顕微鏡で試料を観察する際の様子を示す図である。
図4】周壁が設けられた樹脂形成部材を示す断面図である。
図5】厚さ50μmの光透過性樹脂フィルムを用いて完成した樹脂形成部材を撮影した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【0030】
図1は、本発明の一実施形態に相当する樹脂形成部材を示す斜視図である。
【0031】
本実施形態の樹脂形成部材1は、射出成形によって形成されたものである。すなわち、樹脂形成部材1は、予め成形した一次樹脂形成部材である光透過性樹脂フィルム11を金型に挿入し、その光透過性樹脂フィルム11を、射出した熱可塑性樹脂によって固定する、いわゆるインサート成形によって得られたものである。樹脂形成部材1では、射出した熱可塑性樹脂により、角部が面取りされた直方体形状の基体12が形成されている。図1には、この基体12の横方向、縦方向および高さ方向それぞれを示す矢印が示されている。基体12は、複数の貫通孔121が設けられたものである。図1に示す基体12には、横方向に12個、縦方向に8個、合計96個の貫通孔121が設けられている。また、基体12における、各貫通孔121を画定する縁部122には、フィルム固定部123が設けられている。フィルム固定部123については後述する。
【0032】
この図1では、最も手前に示された貫通孔121に限って、貫通孔121を画定する周壁を点線で示す。光透過性樹脂フィルム11は、基体12の高さ方向の一方側(図1では下方側)に位置するように金型にセットされる。この結果、樹脂形成部材1では、複数の貫通孔121それぞれの一方の開口121aが光透過性樹脂フィルム11によって覆われる。なお、複数の貫通孔121それぞれの他方の開口121bは、塞がれることなく開いたままである。一方の開口121aのみが覆われた貫通孔121は、独立した収納部(ウェル)120になる。本実施形態の収納部120は水平方向の断面形状が円形のものである。
【0033】
光透過性樹脂フィルム11としては、スチレン系樹脂のフィルムが用いられる。また、厚みは、150μm以下のものであり、好ましくは50μm以下のものである。本実施形態では、光透過性樹脂フィルム11として、厚みが50μmのスチレンブタジエンスチレンブロック共重合体を含むフィルムを用いる。
【0034】
図2(a)は、インサート成形によって得られた樹脂形成部材中間体を模式的に示す図である。この図2(a)には、図1に示す樹脂形成部材1が完成する前の樹脂形成部材中間体1’が示されている。樹脂形成部材中間体1’における説明でも、図1に示す樹脂形成部材1の構成要素と同じ構成要素には、これまで用いた符号と同じ符号を付して説明する。
【0035】
樹脂形成部材中間体1’でも既に、基体12が形成されており、その基体12には複数の貫通孔121が設けられている。図2(a)は、樹脂形成部材中間体1’を、貫通孔121の直径に沿って断面したときの部分拡大断面図である(同図(b)においても同じ。)。この図2(a)には、3つの貫通孔121が示されており、いずれの貫通孔121における一方の開口121aも、光透過性樹脂フィルム11によって覆われている。図2(a)では、光透過性樹脂フィルム11を灰色で示している。樹脂形成部材中間体1’では、光透過性樹脂フィルム11は、基体12の、貫通孔121を画定する縁部122に、溶着されている。以下、光透過性樹脂フィルム11のうち、縁部122に溶着された部分を溶着部111と称する。一方、光透過性樹脂フィルム11のうち、一方の開口121aを覆った部分を覆い部112と称する。
【0036】
樹脂形成部材中間体1’における覆い部112には、インサート成形において射出した熱可塑性樹脂が冷却される際の収縮によって、開口121aの中心に向けて撓みが生じている。以下の説明では、開口121aに対して、貫通孔121の内部側を内側と称し、内部側とは反対側を外側と称する。図2(a)に示す覆い部112は、誇張して図示しているが、内側に凸の状態に撓んでいる。なお、覆い部112は、外側に凸の状態に撓む場合もある。
【0037】
また、図2(a)には、各縁部122に設けられたフィルム固定部123も示されている。図2(a)に示すように、各フィルム固定部123は、基体12の、光透過性樹脂フィルム11が配置された一方側の面12aとは反対の他方側の面12bから、一方側の面12aの手前までくり抜かれた穴である。フィルム固定部123の光透過性樹脂フィルム11側(一方側)の端と光透過性樹脂フィルム11の溶着部111との間の肉厚t1は、縁部122における、フィルム固定部123が設けられていない箇所とその溶着部111との間の肉厚t2よりも薄い。肉厚が薄い箇所では、射出されて流れ込んでくる樹脂の速度が速くなりやすく、樹脂の流れに引き込まれて光透過性樹脂フィルム11がこの箇所に引きつけられやすく、光透過性樹脂フィルム11の位置決めが行われる。そして、肉厚が薄い箇所は早く冷えやすく光透過性樹脂フィルム11がいち早く固定される。光透過性樹脂フィルム11は薄くなればなるほど軽くなり、本来であれば位置決めが困難になりやすいが、フィルム固定部123を設けておくことで肉厚が減少している箇所に光透過性フィルムが引きつけられやすくなり、光透過性フィルムの位置決めが容易になる。この結果、光透過性樹脂フィルム11の位置決めを行いつつ、位置決めした位置に光透過性樹脂フィルム11を早期に固定することができる。フィルム固定部123によって、基体12の高さ長(基体全体の厚み(t2に相当))に対して1/10以下の肉厚t1まで減少されている。
【0038】
図2(b)は、光透過性樹脂フィルムの側を下にして樹脂形成部材中間体を加熱板に載置する様子を模式的に示す図である。
【0039】
図2(b)では、均一に加熱することを表すために炎のマークを均等に記しているが、加熱板HBは、商用電源を用いたシーズヒータを熱源とした鉄板であり、光透過性樹脂フィルム11が載置される領域全体を均一に加熱することができる。より細かく言えば、光透過性樹脂フィルム11の内側の面ではなく外側の面(被加熱面)全体を均一に加熱することができる。
【0040】
加熱板HBは、表面HBaがフッ素コーティングされているものであってもよいし、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)の被膜が形成されたものであってもよい。フッ素コーティングやDLC被膜によって、表面HBaの平滑性が上がり、光透過性樹脂フィルム11の剥離性が良好になる。また、光透過性樹脂フィルム11の外側の面の平滑性も良好になり、外側の配置された対物レンズへ入射する光の屈折率への影響が抑えられ好ましい。
【0041】
図2(c)では、光透過性樹脂フィルム11が、加熱板HBの表面HBaに直接載っている。この図2(c)は、樹脂形成部材1を、貫通孔121の直径に沿って断面したときの部分拡大断面図であり、光透過性樹脂フィルム11を灰色で示している(図3においても同じ。)。
【0042】
光透過性樹脂フィルム11は、均一に加熱されることによって、各覆い部112における熱可塑性樹脂が軟化し、各覆い部112に生じていた撓みが加熱板HBの表面HBaに沿って平らになり、撓みが消失する。この際、光透過性樹脂フィルム11における各覆い部112の面積は縮小することになる一方、樹脂量は一定であるため、各覆い部112の厚みが溶着部111の厚みよりも厚くなる。図2(c)に示す覆い部112は、厚みを誇張して図示しているが、溶着部111に対して、3/1000以上20/1000以下の範囲で厚くなっている。厚み50μmの光透過性樹脂フィルム11であれば、厚みが50μmの溶着部111に対して、覆い部112は、例えば0.5μm分だけ厚くなっている。すなわち、覆い部112の厚みは、50.5μmになる。
【0043】
図2(c)では、光透過性樹脂フィルム11の均一な加熱が終了し、同図(a)に示した樹脂形成部材中間体1’から図1に示した樹脂形成部材1になっている。樹脂形成部材1では、複数の覆い部112総てにおいて撓みがなくなり、光透過性樹脂フィルム11がピンと張られた状態で固定されている。
【0044】
また、加熱板HBに直接あるいはシートを介在させて載置された光透過性樹脂フィルム11では、軟化することで平滑度が変わってくる。すなわち、光透過性樹脂フィルム11の、加熱板HB側になる外側の面(被加熱面)の方が、覆い部112の内側の面よりも平滑になる。
【0045】
図3は、図2(c)に示す樹脂形成部材を用いて倒立顕微鏡で試料を観察する際の様子を示す図である。
【0046】
この図3に示す樹脂形成部材1の収納部(ウェル)120には、試料SP1~SP3が収納されている。試料は、覆い部112の内側の面に載置されている。
【0047】
また、図3では、倒立顕微鏡のステージ(不図示)に樹脂形成部材1が設置され、樹脂形成部材1の下方には、倒立顕微鏡の対物レンズOLが示されている。対物レンズOLと樹脂形成部材1との間には、開口数(N.A.)を大きくするために浸液LLが入れられている。この浸液LLは、油(例えば、アニソール)である場合が多い。なお、水であってもよい場合がある。浸液LLは、光透過性樹脂フィルム11と直接触れるため、光透過性樹脂フィルム11の耐性が問題になる。特に経過観察可能な容器である樹脂形成部材1の油に対する耐性を考慮しておくことが好ましい。そこで、光透過性樹脂フィルム11には、耐油浸性のものを用いることが好ましい。耐油浸性の成分としてゴム性の成分があげられ、より具体的には、スチレンブタジエンスチレンブロック共重合体が一例としてあげられる。
【0048】
図4は、周壁が設けられた樹脂形成部材を示す断面図である。この図4には、2種類の樹脂形成部材が示されているが、同じ名称の構成要素には同じ符号を付して説明する。図4(A)にしても、図4(B)にしても、下方が一方側に相当し、上方が他方側に相当する。すなわち、各図において、下方側に光透過性樹脂フィルム21が位置している。図4においても、光透過性樹脂フィルム21を灰色で示し、厚みさを誇張して表している。光透過性樹脂フィルム21は、厚みが50μm以下のスチレンブタジエンスチレンブロック共重合体を含むフィルムである。
【0049】
この図4に示す樹脂形成部材2は、図1に示す基体12と同じ構成の基体22を備えている。基体22についての詳しい説明は省略するが、図4にも、光透過性樹脂フィルム21とは反対側に設けられたフィルム固定部223が示されている。
【0050】
周壁23は、基体22の周囲を囲むものであって、詳しくは後述するように、樹脂形成部材2を取扱いやすくしたり、つかみやすくするためのものである。図4(A)に示す樹脂形成部材2では、周壁23は、一方側(光透過性樹脂フィルム21)で、連結部24によって基体22に連結されている。一方、図4(B)に示す樹脂形成部材2では、周壁23は、他方側(より具体的には他方側の端部)で、連結部24によって基体22に連結されている。図4(A)に示す樹脂形成部材2にしても、図4(B)に示す樹脂形成部材2にしても、基体22と周壁23と連結部24は射出成形よって一体形成されたものである。
【0051】
基体22と周壁23は、連結部24の分だけ離間しており、基体22の外周面224と周壁23の間には空間Sが確保されている。なお、光透過性フィルム21は、基体22の一方側の面225の外周縁225aまで覆っている。樹脂形成部材2の射出形成時には、この空間Sは金型によって形成され、その金型によって光透過性樹脂フィルム21の外周縁の位置が拘束される。また、完成した樹脂形成部材2では、光透過性フィルム21が、周壁23よりも内側で周壁23とは間隔をあけて設けられていることになる。すなわち、空間Sには、光透過性樹脂フィルム21が位置する一方側の部分となる一方側空間S1が確保されている。この一方側空間S1は、最も外周側の収納部220’を倒立顕微鏡の対物レンズOL(図3参照)で覗く際に、対物レンズOLの逃げとしても機能する。すなわち、収納部220を外周面224の近くとなる外周側まで設け、基体22の材料費の節約を図っていることから、周壁23がじゃまをして対物レンズOLが配置できなくなることがないように一方側空間S1が設けられている。さらに、空間Sを設けておくことで、周壁23が空間S側に撓むことが可能になり、樹脂形成部材2をつかみやすくなる。また、樹脂形成部材2を多少強くつかんでしまっても収納部220に直接影響が及ぶことが低減される。
【0052】
また、図4(A)に示す樹脂形成部材2にしても、図4(B)に示す樹脂形成部材2にしても、周壁23の一方側(光透過性フィルム21側)の端部231は、光透過性フィルム21よりも突出している。すなわち、周壁23の一方側の端部231は、基部22よりも外側に突出している。一方、周壁23の他方側の端部232の位置は、他方側の開口221bの位置に一致しており、突出はしていない。周壁23の一方側の端部231が突出していることによって、樹脂形成部材2を一方側を下にして平らな場所に載置しても、光透過性樹脂フィルム21が接地せず、光透過性樹脂フィルム21が傷付いてしまったっり、汚れてしまうことを防止することができ、樹脂形成部材2の取り扱い性が向上する。
【0053】
なお、基体22と周壁23とを別体で形成してもよい。この場合には、連結部24はあってもよいし、なくてもよい。連結部24がない場合であっても、基体22と周壁23は離間しており、上述した空間Sと同じような空間Sや一方側空間S1が設けられている。
【実施例0054】
図1および図3に樹脂形成部材1と同様な樹脂形成部材を製造した。
【0055】
射出成形に用いた樹脂は、市販のポリスチレン(GPPS)であり、240℃前後の温度で射出成形を行った。また、光透過性樹脂フィルムとしては、ポリスチレンを主成分としスチレンブタジエンスチレンブロック共重合体が添加されたブレンドフィルムであって、インフレーション法によって成形した厚さ50μmのものを使用した。射出成形に用いた樹脂と光透過性樹脂フィルムの成形に使用した樹脂は、異なる成分の樹脂になる。
【0056】
また、光学顕微鏡を用いて高倍率で観察するには、焦点深度の関係から光透過性樹脂フィルムは薄ければ薄いほど好ましい。同じ材質で厚さ25μmの光透過性樹脂フィルムを用いた場合でも、あるいは17μmの光透過性樹脂フィルムを用いた場合でも、樹脂形成部材中間体を得ることができることを確認した。ただし、光透過性樹脂フィルムの厚さが薄くなるほど、抜型時に光透過性樹脂フィルムが破れやすくなり、脱型時の圧力調整等が必要になる。
【0057】
インサート成形しただけの樹脂形成部材中間体では、図2(a)に示すように、覆い部112に撓みが生じていたので、熱処理を行った。この熱処理では、600Wの電気コンロの上に厚み5mmの鉄板を載せ、さらに、耐油紙を敷いた上に、光透過性樹脂フィルムを下にして樹脂形成部材中間体を置いた。ポリスチレン系の光透過性樹脂フィルムの融点は100℃程度であるのに対して、鉄板を160℃前後(155℃以上165℃以下)の温度まで加熱した。樹脂形成部材中間体を10秒程度加熱した。155℃未満では光透過性樹脂フィルムが十分に軟化しない一方、165℃を超えると光透過性樹脂フィルムが溶けて破れてしまう場合がある。
【0058】
熱処理における加熱温度、加熱時間、および加熱板からの光透過性樹脂フィルムの剥離性が重要である。加熱温度は、{(射出成形時の温度-融点)/2}+融点といった最高温度以下、該最高温度-15℃といった最低温度以上の温度が好適である。また、上記加熱温度下では、加熱時間は7秒以上13秒以下の温度が好適である。加熱温度と加熱時間の好適な組合せによって、光透過性樹脂フィルムが軟化し、撓みが消失する。さらに、光透過性樹脂フィルムの剥離性を向上させるために、加熱板の表面をフッ素やDLCの被膜で覆っておくことが好ましい。加えて、上記被膜によって加熱板の表面(加熱面)の平滑性も向上し、加熱温度と加熱時間の好適な組合せと相俟って、光透過性樹脂フィルムの被加熱面(外側の面)が溶け、平滑性も向上する。なお、均一な加熱を行うため、樹脂形成部材中間体を加熱板に押し付けることは行わず、樹脂形成部材中間体の自重を利用するのみであった。
【0059】
さらに、光透過性樹脂フィルムの覆い部の厚みに応じて、加熱温度の制御や加熱時間の制御を行うことが好ましい。
【0060】
熱処理を終え完成した樹脂形成部材における各覆い部の厚みは、50.15μm以上51.00μm以下の範囲に収まっており、ほぼ均一な厚みであった。
【0061】
また、共焦点ハイブリッドレーザー顕微鏡(レーザーテック株式会社製 OPTELICS HYBRID L7)により光干渉形状測定機能を用いて三次元表面粗さの測定を行った。覆い部の外側の面(被加熱面)と内側の面(試料側になる面)それぞれについて、中心箇所、左上箇所、左下箇所、右上箇所、右下箇所の5箇所で測定した。JIS B 0681-2:2018における算術平均粗さ(Sa)は、内側の面は0.030μm以上であったのに対して、外側の面は0.015μm以下であった。すなわち、2倍以上の三次元表面粗さの違いが確認された。
【0062】
図5は、厚さ50μmの光透過性樹脂フィルムを用いて完成した樹脂形成部材を撮影した写真である。
【0063】
図5に示す樹脂形成部材1も、図1に示す樹脂形成部材と同じく、横方向に12個、縦方向に8個、合計96個の貫通孔121が設けられている。図1では、光透過性樹脂フィルムが下面側にくる状態で樹脂形成部材を示したが、この図5では、光透過性樹脂フィルム11が上面側にくる状態で樹脂形成部材を撮影している。光透過性樹脂フィルム11は、厚さが50μmと非常に薄く光透過率が十分に高いため、光透過性樹脂フィルム11がわかりにくいが、光透過性樹脂フィルム11はピンと張った状態で一方の開口121aを覆っており、縁部における厚みよりも各覆い部の厚みの方が厚い。また、紙面手前側が外側になり、光透過性樹脂フィルム11の、一方の開口121aを覆った外面の方が反対側となる内面よりも平滑である。
【0064】
本発明は、これまでに説明した実施の形態や実施例に限られることなく特許請求の範囲に記載した範囲で種々の変更を行うことができる。例えば、収納部120は、水平方向の断面形状が円形のものであったが、矩形のものであってもよいし、三角形や五角形以上の多角形であってもよい。また、本発明の樹脂形成部材は、倒立顕微鏡を用いての観察の他、超音波顕微鏡等を用いての観察にも好適である。
【符号の説明】
【0065】
1 樹脂形成部材
1’ 樹脂形成部材中間体
11 光透過性樹脂フィルム
111 溶着部
112 覆い部
12 基体
121 貫通孔
121a 開口
122 縁部
図1
図2
図3
図4
図5
【手続補正書】
【提出日】2023-10-30
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体に複数の貫通孔が設けられ、該複数の貫通孔それぞれの一方の開口が光透過性フィルムによって覆われた樹脂形成部材であって、
前記基体は、前記貫通孔を画定する縁部に前記光透過性フィルムが溶着されたものであって、該縁部の該光透過性フィルム側にフィルム固定部が設けられたものであり、
前記光透過性フィルムは、樹脂フィルムであって、前記縁部における厚みよりも前記複数の貫通孔それぞれの一方の開口を覆った覆い部の厚みの方が厚いものであり、
前記フィルム固定部は、前記基体の、前記光透過性フィルムが配置された一方側の面とは反対の他方側の面から、該一方側の面の手前までくり抜かれた穴であることを特徴とする樹脂形成部材。
【請求項2】
基体に複数の貫通孔が設けられ、該複数の貫通孔それぞれの一方の開口が光透過性フィルムによって覆われた樹脂形成部材であって、
前記基体の周囲を囲む周壁を備え、
前記基体は、前記貫通孔を画定する縁部に前記光透過性フィルムが溶着されたものであり、
前記光透過性フィルムは、樹脂フィルムであって、前記縁部における厚みよりも前記複数の貫通孔それぞれの一方の開口を覆った覆い部の厚みの方が厚いものであって、前記周壁よりも内側で該周壁とは間隔をあけて設けられたものであることを特徴とする樹脂形成部材。
【請求項3】
前記周壁は、前記光透過性フィルムよりも前記貫通孔とは反対側に突出したものであることを特徴とする請求項2記載の樹脂形成部材。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0009
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0009】
上記目的を解決する本発明の第一の樹脂形成部材は、
基体に複数の貫通孔が設けられ、該複数の貫通孔それぞれの一方の開口が光透過性フィルムによって覆われた樹脂形成部材であって、
前記基体は、前記貫通孔を画定する縁部に前記光透過性フィルムが溶着されたものであって、該縁部の該光透過性フィルム側にフィルム固定部が設けられたものであり、
前記光透過性フィルムは、樹脂フィルムであって、前記縁部における厚みよりも前記複数の貫通孔それぞれの一方の開口を覆った覆い部の厚みの方が厚いものであり、
前記フィルム固定部は、前記基体の、前記光透過性フィルムが配置された一方側の面とは反対の他方側の面から、該一方側の面の手前までくり抜かれた穴であることを特徴とする。
なお、
基体に複数の貫通孔が設けられ、該複数の貫通孔それぞれの一方の開口が光透過性フィルムによって覆われた樹脂形成部材であって、
前記基体は、前記貫通孔を画定する縁部に前記光透過性フィルムが溶着されたものであり、
前記光透過性フィルムは、樹脂フィルムであって、前記縁部における厚みよりも前記複数の貫通孔それぞれの一方の開口を覆った覆い部の厚みの方が厚いものであることを特徴としてもよい。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0023
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0023】
上記目的を解決する本発明の第二の樹脂形成部材は、
基体に複数の貫通孔が設けられ、該複数の貫通孔それぞれの一方の開口が光透過性フィルムによって覆われた樹脂形成部材であって、
前記基体の周囲を囲む周壁を備え、
前記基体は、前記貫通孔を画定する縁部に前記光透過性フィルムが溶着されたものであり、
前記光透過性フィルムは、樹脂フィルムであって、前記縁部における厚みよりも前記複数の貫通孔それぞれの一方の開口を覆った覆い部の厚みの方が厚いものであって、前記周壁よりも内側で該周壁とは間隔をあけて設けられたものであることを特徴とする