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特開2024-19124ニッケル含有粉末及び、ニッケル含有粉末の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024019124
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】ニッケル含有粉末及び、ニッケル含有粉末の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 1/00 20220101AFI20240201BHJP
   B22F 1/16 20220101ALI20240201BHJP
   B22F 1/06 20220101ALI20240201BHJP
   B22F 1/05 20220101ALI20240201BHJP
   C22C 19/03 20060101ALI20240201BHJP
【FI】
B22F1/00 M
B22F1/16
B22F1/06
B22F1/05
C22C19/03 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023122624
(22)【出願日】2023-07-27
(31)【優先権主張番号】P 2022120924
(32)【優先日】2022-07-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】390007227
【氏名又は名称】東邦チタニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 雅由
(72)【発明者】
【氏名】吉田 貢
(72)【発明者】
【氏名】浅井 剛
【テーマコード(参考)】
4K018
【Fターム(参考)】
4K018AA07
4K018BA04
4K018BB01
4K018BB04
4K018BB05
4K018BB10
4K018BC28
4K018BD04
4K018KA33
(57)【要約】
【課題】凝集を有効に抑制することができるニッケル含有粉末及び、ニッケル含有粉末の製造方法を提供する。
【解決手段】この発明のニッケル含有粉末は、ニッケル含有粒子を含むものであって、前記ニッケル含有粒子が、フッ素(F)、臭素(Br)及びヨウ素(I)からなる群から選択される一種類以上の元素を含有し、前記ニッケル含有粒子の表面の最大高さRzが0.5μm~2.0μmである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケル含有粒子を含むニッケル含有粉末であって、
前記ニッケル含有粒子が、フッ素(F)、臭素(Br)及びヨウ素(I)からなる群から選択される一種類以上の元素を含有し、
前記ニッケル含有粒子の表面の最大高さRzが0.5μm~2.0μmであるニッケル含有粉末。
【請求項2】
前記ニッケル含有粒子がヨウ素(I)を含有する請求項1に記載のニッケル含有粉末。
【請求項3】
前記ニッケル含有粒子中の前記フッ素(F)、臭素(Br)及びヨウ素(I)からなる群から選択される少なくとも一種類の元素の含有量が、1.5質量%~8.5質量%である請求項1に記載のニッケル含有粉末。
【請求項4】
前記ニッケル含有粒子中の炭素(C)の含有量が0.1質量%以下である請求項1又は2に記載のニッケル含有粉末。
【請求項5】
平均粒径が80nm~400nmである請求項1又は2に記載のニッケル含有粉末。
【請求項6】
ニッケル含有粉末を製造する方法であって、
未処理粉末を、フッ素(F)、臭素(Br)及びヨウ素(I)からなる群から選択される一種類以上の元素を含む液体と接触させ、ニッケル含有粉末を得るハロゲン接触工程を含む、ニッケル含有粉末の製造方法。
【請求項7】
前記ハロゲン接触工程で、前記ヨウ素(I)を含む前記液体を使用する、請求項6に記載のニッケル含有粉末の製造方法。
【請求項8】
前記ハロゲン接触工程で、前記フッ素(F)、臭素(Br)及びヨウ素(I)からなる群から選択される少なくとも一種類の元素を0.02質量%~1.0質量%で含む前記液体を使用する、請求項6に記載のニッケル含有粉末の製造方法。
【請求項9】
前記ハロゲン接触工程で、前記ヨウ素(I)として単体ヨウ素(I2)を使用し、
前記ハロゲン接触工程で用いる前記液体を作製するに当り、前記単体ヨウ素(I2)を極性溶媒と混合して、前記液体とする、請求項7又は8に記載のニッケル含有粉末の製造方法。
【請求項10】
前記ハロゲン接触工程の後、前記ニッケル含有粉末を水で洗浄する水洗浄工程を含む、請求項6又は7に記載のニッケル含有粉末の製造方法。
【請求項11】
炭酸水溶液を用いる炭酸洗浄工程を含まない、請求項6又は7に記載のニッケル含有粉末の製造方法。
【請求項12】
平均粒径が80nm~400nmであるニッケル含有粉末を製造する、請求項6又は7に記載のニッケル含有粉末の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ニッケル含有粉末及び、ニッケル含有粉末の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
主としてニッケルを含有するニッケル含有粉末等の金属粉末は、その優れた放熱特性や電気特性の故に、多機能携帯電話を含む電子計算機用の積層セラミックチップコンデンサ(Multi-Layer Ceramic Capacitor(MLCC))の電極材料、ニッケル水素電池やリチウムイオン電池の材料として用いられることがある。
【0003】
このうち、積層セラミックチップコンデンサは、誘電体層と内部電極層とを交互に積層し、その両端に外部電極を設けた構成を有するものである。ここで、誘電体層には、チタン酸バリウム等の誘電率の高いセラミックを主成分とする材料が使用される。他方、内部電極層には、各種の金属もしくは合金の粉末が用いられ得る。なかでも、近年は、内部電極層に微細なニッケル含有粉末を使用した積層セラミックチップコンデンサの開発が進められている。
【0004】
積層セラミックチップコンデンサの内部電極層は、誘電体層になるグリーンシート間に設けた金属粉末ペーストを加熱し、ペーストの有機成分を除去するとともに金属粉末を焼結させることにより形成される。このとき、金属粉末に凝集が含まれると、その凝集が誘電体層を突き抜けて電極間で短絡を発生させる原因になる。特にそのような用途では、金属粉末の凝集を可能な限り無くすことが求められる。
【0005】
そのような金属粉末に関し、特許文献1では、「金属塩化物を原料とした気相還元法による金属粉の後処理として、塩素分や水酸化物が効率よく除去され、塩素分が極めて少なく、かつ粗粉の少ない金属粉の製造方法および当該方法で製造した金属粉、並びにこれを用いた導電ペースト及び積層セラミックコンデンサを提供すること」を目的とし、「金属塩化物ガスと還元性ガスを接触させて得られた金属粉を炭酸水溶液中で洗浄することを特徴とする金属粉の製造方法」が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3868421号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載された方法では、炭酸水溶液を用いた洗浄による塩素の除去で、ニッケル含有粉末の凝集をある程度抑えることができるが、凝集がさらに抑制されたものが求められる場合がある。
【0008】
この発明は、上述したような問題を解決することを課題とするものであり、その目的は、凝集を有効に抑制することができるニッケル含有粉末及び、ニッケル含有粉末の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者は、たとえば気相還元法の還元反応等により得られたニッケル粉末を、ハロゲン元素(第17族元素)のうちのフッ素、臭素及び/又はヨウ素を含む液体と接触させると、当該ハロゲン元素によってニッケル粒子の表面が滑らかになること等により、凝集が効果的に抑えられることを見出した。なおここでは、所定のハロゲン元素を含む液体との接触前のニッケル粉末を、当該ハロゲン元素による処理前の粉末ということで未処理粉末という。
【0010】
この発明のニッケル含有粉末は、ニッケル含有粒子を含むものであって、前記ニッケル含有粒子が、フッ素(F)、臭素(Br)及びヨウ素(I)からなる群から選択される一種類以上の元素を含有し、前記ニッケル含有粒子の表面の最大高さRzが0.5μm~2.0μmである。
【0011】
前記ニッケル含有粒子は、ヨウ素(I)を含有することが好ましい。
前記ニッケル含有粒子中の前記フッ素(F)、臭素(Br)及びヨウ素(I)からなる群から選択される少なくとも一種類の元素の含有量は、1.5質量%~8.5質量%であることが好ましい。
【0012】
前記ニッケル含有粒子中の炭素(C)の含有量は、0.1質量%以下であることが好ましい。
【0013】
上記のニッケル含有粉末は、平均粒径が80nm~400nmである場合がある。
【0014】
この発明のニッケル含有粉末の製造方法は、未処理粉末を、フッ素(F)、臭素(Br)及びヨウ素(I)からなる群から選択される一種類以上の元素を含む液体と接触させ、ニッケル含有粉末を得るハロゲン接触工程を含むものである。
【0015】
前記ハロゲン接触工程では、前記ヨウ素(I)を含む前記液体を使用することが好ましい。
前記ハロゲン接触工程では、前記フッ素(F)、臭素(Br)及びヨウ素(I)からなる群から選択される少なくとも一種類の元素を0.02質量%~1.0質量%で含む前記液体を使用することが好ましい。
【0016】
また、前記ハロゲン接触工程では、前記ヨウ素として単体ヨウ素(I2)を使用し、前記ハロゲン接触工程で用いる前記液体を作製するに当り、前記単体ヨウ素(I2)をアルコール等の極性溶媒と混合して、前記液体とすることが好ましい。アルコール以外にも水等の他の極性溶媒との混合を行ってもよい。
【0017】
上記の製造方法は、前記ハロゲン接触工程の後、前記ニッケル含有粉末を水で洗浄する水洗浄工程を含むことが好ましい。
【0018】
上記の製造方法は、炭酸水溶液を用いる炭酸洗浄工程を含まないことが好ましい。
【0019】
上記の製造方法では、平均粒径が80nm~400nmであるニッケル含有粉末を製造することがある。
【発明の効果】
【0020】
この発明によれば、ニッケル含有粉末の凝集を有効に抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、この発明の実施の形態について詳細に説明する。
この発明の一の実施形態のニッケル含有粉末には主として、フッ素(F)、臭素(Br)及びヨウ素(I)からなる群から選択される一種類以上の元素を含有するニッケル含有粒子が含まれる。ニッケル含有粒子の表面は、最大高さRzが0.5μm~2.0μmである。
【0022】
そのような表面粗さを有するニッケル含有粒子のニッケル含有粉末は、たとえば平均粒径がナノオーダーの微粉末であってファンデルワールス力等の影響によって凝集しやすいものであっても、粒子表面が滑らかであることから凝集が有効に抑制されると考えられる。また、ニッケル含有粒子中のヨウ素等の所定のハロゲン元素の存在も、凝集の抑制に影響している可能性がある。
【0023】
上述したニッケル含有粉末は、未処理粉末を、フッ素(F)、臭素(Br)及びヨウ素(I)からなる群から選択される一種類以上の元素を含む液体と接触させるハロゲン接触工程を行うことにより製造することができる。ハロゲン接触工程では、未処理粉末の粒子表面に形成されていた水酸化物等の化合物が、上記のハロゲン元素を含む液体との接触で除去されると考えられる。それにより、ニッケル含有粒子の表面粗さが良好に低減される。
【0024】
ニッケル含有粉末は、凝集を防ぐため、炭素(C)を含有する有機物が含まれる界面活性剤を添加することがある。但し、先述したMLCCの製造では、ニッケル含有粉末が焼結時に、そこに含まれる界面活性剤によって体積変化を起こし易くなり、その結果、クラックや剥離、デラミネーション等が発生し得る。このため、ニッケル含有粉末に界面活性剤の使用を控えることが望まれる場合がある。ここで述べる実施形態のニッケル含有粒子は、炭素(C)を含有する界面活性剤等が含まれていてもよいが、界面活性剤を使用しなくても、上述した理由から凝集が有効に抑制されたものになる。
【0025】
(組成)
ニッケル含有粉末を構成するニッケル含有粒子は、主にニッケルを含有するものである。ニッケル含有粒子のニッケル含有量(ニッケル元素の含有量)は、たとえば50質量%~95質量%である。ニッケル含有量は、X線光電子分光法(XPS)により測定する。具体的には、装置としてサーモフィッシャーサイエンティフィック社製のK-Alphaを使用し、スポットサイズ:300μm、パスエネルギー:23.5eV、スキャン数:32回、ステップサイズ:0.025eVで測定を行う。
【0026】
ニッケル含有粒子は、たとえば後述の製造方法により製造されたこと等により、フッ素(F)、臭素(Br)及びヨウ素(I)からなる群から選択される一種類以上のハロゲン元素を含有するものである。ニッケル含有粒子中の上記のハロゲン元素の形態は、特に問わない。ニッケル含有粒子中のフッ素(F)、臭素(Br)及びヨウ素(I)からなる群から選択される少なくとも一種類の元素は、1.5質量%~8.5質量%になる場合がある。ニッケル含有粒子は、上記のハロゲン元素のなかでも、ヨウ素(I)を含有することが好ましい。ニッケル含有粒子中のヨウ素(I)の含有量は、1.5質量%~8.5質量%となることがある。ニッケル含有粒子がフッ素(F)を含有する場合は、フッ素(F)の含有量が上記の範囲内になることがあり、臭素(Br)を含有する場合は臭素(Br)の含有量が上記の範囲内になることがある。
【0027】
ヨウ素(I)等の上記のハロゲン元素の含有量は、X線光電子分光法(XPS)により測定する。具体的には、サーモフィッシャーサイエンティフィック社製のK-Alphaを使用し、測定方法をXPSとし、測定範囲:619eV付近、I 3d5/2、スポットサイズ:300μm、パスエネルギー:23.5eV、スキャン数:128回、ステップサイズ:0.125eVとする。
【0028】
ニッケル含有粒子は、炭素(C)の含有量が少ない場合がある。このことは特に、後述の製造方法で炭酸洗浄工程を行わなかった場合に顕著になる。また、上述した界面活性剤を使用しない場合、炭素(C)の含有量が少なくなる。ニッケル含有粒子の炭素(C)の含有量は、0.1質量%以下、特に0質量%~0.05質量%であることが好ましい。
【0029】
炭素(C)の含有量の測定は、酸素気流中燃焼(高周波加熱炉方式)-赤外線吸収法により行う。より詳細には、HORIBA社製のEMIA-902V2を使用し、測定条件として、パージ時間20秒、待ち時間5秒、積算時間40秒、コンパレータレベル1.0%、コンパレータ判定待ち時間15秒とする。検量線には、炭素(C)の含有量に応じて、JSS1202-4、JSS1203-4、JSS654-15、JSS604-9、JSS502-7及びJSS607-9を使い分けて使用する。
【0030】
(表面粗さ)
この実施形態のニッケル含有粉末のニッケル含有粒子は、その表面の最大高さRzが0.5μm~2.0μmである。
【0031】
最大高さRzが上記の範囲内であれば、ニッケル含有粒子の表面が滑らかであり、その凝集が有効に抑制されると考えられる。この観点から、ニッケル含有粒子の表面の最大高さRzは0.5μm~2.0μmであることが好ましい。
【0032】
最大高さRzは、JIS B0601(2013)に規定される線粗さのパラメータであり、基準長さにおける輪郭曲線の山高さの最大値と谷深さの最大値の和をそれぞれ意味する。
【0033】
最大高さRzの測定は、次のようにして行う。測定の前処理として、100mLの平底ガラスに、ニッケル含有粉末1gに、ブタノール0.1%で希釈された純水を50mL添加する。次に超音波分散装置で5分間運転する。それにより得られたニッケル含有粉末のスラリーをスポイトで吸い取り、スライドガラスの上に数滴滴下する。15μmのアプリケーターを用いて塗膜を2cm引いて風乾させ、それを測定試料とする。この測定試料に対してマイクロスコープ(株式会社キーエンス製のVHX-6000)で粗さ測定を行う。
【0034】
(粒径)
ニッケル含有粉末は、平均粒径が、たとえば典型的には80nm~400nmであるものとする場合がある。このような微細なニッケル含有粉末では、粒径が極めて小さいことから、一般にファンデルワールス力の影響を強く受けて凝集が生じやすくなる傾向がある。これに対し、この実施形態では、上述したように、ニッケル含有粒子の表面の凹凸が小さく、その表面が滑らかであることにより、凝集の発生を有効に抑制することができる。
【0035】
ニッケル含有粉末の平均粒径は、個数平均粒径を意味し、走査電子顕微鏡によりニッケル含有粉末を撮影し、その画像から画像解析ソフト(株式会社マウンテック製のMac-View)を使用して、10000倍の倍率で10視野のニッケル含有粒子の平均値として求める。後述する未処理粉末の平均粒径についても同様である。
【0036】
(製造方法)
上述したようなニッケル含有粉末を製造するには、ニッケル粉末(未処理粉末)を準備し、これに対してハロゲン接触工程を行って、フッ素(F)、臭素(Br)及びヨウ素(I)からなる群から選択される一種類以上の元素と接触させる処理を施す。
【0037】
ハロゲン接触工程に供するニッケル粉末は、市販されているものを用いることも可能であるが、気相法や液相法などにより作製することもできる。特に、塩化ニッケルガスと還元性ガスとを接触させる気相還元法、あるいは、熱分解性のニッケル化合物を噴霧して熱分解する噴霧熱分解法を用いることが、粒径の制御が容易であって球状のニッケル粉末が効率よく得られる点で好ましい。
【0038】
気相還元法では、多くの場合、単体金属のニッケルを含む固体原料を加熱により蒸発させ、これを塩素ガスと接触させて塩化ニッケルガスを生成させる塩化工程と、塩化ニッケルガスと水素等の還元性ガスとを反応させる還元工程とが行われる。具体的には、たとえば、塩化工程で金属ニッケルに塩素ガスを接触させて塩化ニッケルガスを連続的に発生させながら、この塩化ニッケルガスを還元工程に供給して還元性ガスと接触させ、塩化ニッケルガスを連続的に還元することができる。なお、還元工程で用いる塩化ニッケルガスを別途入手可能であれば、塩化工程は省略することもでる。
【0039】
塩化工程に供する固体原料は、粒径が約5mm~20mmである粒状、塊状又は板状等とすることができ、そのニッケル純度は、99.5質量%以上であることが好ましい。塩化工程では、この固体原料を加熱しながら塩素ガスと接触させる。その際の温度は、反応を十分に促進させるために800℃以上で、かつニッケルの融点である1453℃以下とすることができる。反応速度と塩化炉の耐久性を考慮すると、900℃~1100℃の範囲が好ましい。これにより、塩化ニッケルガスが生成される。
【0040】
還元工程では、上記の塩化ニッケルガスを、水素等の還元性ガスと接触させて反応させる。このとき、窒素やアルゴン等の不活性ガスを、塩化ニッケルガスに対して1モル%~30モル%で混合させてもよい。また、塩化ニッケルガスとは別に、塩素ガスを還元工程で供給することもできる。還元工程で不活性ガスや塩素ガスを供給したときは、塩化ニッケルガスの分圧を調整することができて、ニッケル粉末の粒径の制御及び粒径のばらつきを抑制することが可能になる。還元反応の温度は還元反応に必要な温度以上であればよいが、取扱いが容易な固体のニッケル粉末を生成させるため、ニッケルの融点以下とすることができ、たとえば900℃~1100℃とすることが好ましい。
【0041】
還元工程では、塩化ニッケルガスと還元性ガスとが接触した瞬間にニッケル原子が生成し、ニッケル原子同士が衝突することによって超微粒子が生成して成長する。そして、還元工程での塩化ニッケルガスの分圧や温度その他の条件に応じて、所定の粒径のニッケル粉末が得られる。塩化工程では塩素ガスの供給量に応じた量の塩化ニッケルガスが発生するので、塩素ガスの供給量を制御することで還元工程への塩化ニッケルガスの供給量を調整することができる。これにより、ニッケル粉末の粒径を有効に制御することができる。
【0042】
還元工程で得られたニッケル粉末は冷却することができる。このとき、窒素等の不活性ガスを吹き込むことにより、還元反応を終えた1000℃付近のガス流を400℃~800℃程度までに急速に冷却することが望ましい。それにより、還元工程で生成した粉末中における一次粒子どうしの凝集による二次粒子の生成が防止され、所望の粒径のニッケル粉末を得ることができる。その後、ニッケル粉末を、例えばバグフィルター等により分離して回収する。
【0043】
噴霧熱分解法では、熱分解性のニッケル化合物を原料とし、当該原料の溶液を噴霧して微細な液滴とするとともに高温で加熱し、ニッケル化合物を熱分解してニッケル粉末を生成させる。原料として具体的には、硝酸塩、硫酸塩、オキシ硝酸塩、オキシ硫酸塩、塩化物、アンモニウム錯体、リン酸塩、カルボン酸塩及びアルコキシ化合物からなる群から選択される少なくとも一種が含まれるものを用いることができる。原料を噴霧して液滴とするときには、溶媒として水、アルコール、アセトン、エーテル等が用いられ得る。噴霧の方法は、超音波または二重ジェットノズル等により行うことがある。液滴を加熱する温度は、原料に使用する所定のニッケル化合物が熱分解する温度以上で、金属の融点付近とすることが好ましい。
【0044】
液相法では、硫酸ニッケル、塩化ニッケルあるいはニッケル錯体を含むニッケル水溶液を、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属水酸化物と添加等により接触させて、ニッケル水酸化物を生成させる。次いで、ヒドラジンなどの還元剤でニッケル水酸化物を還元し、ニッケル粉末を得る。このようにして生成されるニッケル粉末は、均一な粒径にするために必要に応じて解砕処理を行うことがある。
【0045】
ハロゲン接触工程では、上記のニッケル粉末を未処理粉末とし、その未処理粉末を、フッ素(F)、臭素(Br)及びヨウ素(I)からなる群から選択される一種類以上の元素を含む液体に添加すること等により、当該液体と接触させる。ハロゲン接触工程に供する未処理粉末の平均粒径は、たとえば80nm~400nmとする場合がある。
【0046】
未処理粉末と接触させる液体は、フッ素(F)、臭素(Br)及びヨウ素(I)からなる群から選択される少なくとも一種類の元素を、0.02質量%~1.0質量%で含むことが好ましい。特に液体は、ヨウ素(I)を含む場合、ヨウ素(I)を0.02質量%~1.0質量%で含むものとすることが好適である。液体中のヨウ素(I)が多すぎると、耐熱性や物性に影響が出る場合がある。一方、ヨウ素(I)が少なすぎると、分散性に影響が出る場合がある。液体は、フッ素(F)を上記の範囲内の量で含むことがあり、また臭素(Br)を上記の範囲内の量で含むことがある。
【0047】
ハロゲン接触工程で使用するヨウ素としては、無機物であれば、単体ヨウ素(I2)、エリスロシンB、5酸化ヨウ素、ヨウ化ニッケル、ヨウ化水素酸、ヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム、ヨウ化マグネシウム、ヨウ化チタン、ヨウ化パラジウム、ヨウ化インジウム、ヨウ化サマリウム、ヨウ化銅、ヨウ化亜鉛、ヨウ化ストロンチウム、ヨウ化バリウム、ヨウ素酸ナトリウム、ヨウ素酸カリウム、ヨウ素酸カルシウム、過ヨウ素酸、(メタ)過ヨウ素酸ナトリウム、ヨウ化アンモニウム、ヨウ化セシウム、(オルト)過ヨウ素酸、ヨウ化マグネシウム六水和物、ヨウ化ストロンチウム六水化物、塩化ヨウ素、三塩化ヨウ素、臭化ヨウ素、ヨウ素/ヨウ化カリウム溶液、ジヨードシラン、ヨウ化カドミウム、ヨウ化ゲルマニウム、ヨウ化金、ヨウ化アルミニウム、ヨウ化銀、ヨウ化カルシウム、ヨウ化アンチモン、ヨウ化アンモニウム、三ヨウ化リン、ヨウ化セシウム、ヨウ化ルビジウム、ヨウ化ルテニウム、ヨウ化イットリウム、ヨウ化鉛、ヨウ化スズ、ヨウ化ランタン、ヨウ化鉄、ヨウ化セリウム、ヨウ化水銀、ヨウ化バリウム、ヨウ化ユウロピウム、ヨウ化ビスマス、三ヨウ化ホウ素、ヨウ化白金、ヨウ化タリウム、ヨウ化ガリウム、ヨウ化マンガン、ヨウ化イッテルビウム、ヨウ化MPP+、ヨウ化ブチリルコリン、四ヨウ化二リン、ヨウ化カルシウム水和物、ヨウ化リチウム水和物、ヨウ化サマリウム溶液、ヨウ化バリウム二水和物、一臭化ヨウ素溶液等が挙げられ、錯体、水素の安定同位体のうち原子核が陽子1つと中性子1つとで構成される重水素溶媒、溶媒との希釈やそれらの二種以上を混合させてもよい。また、有機物であれば、アミオダロン塩酸塩、アデノシン過ヨウ素酸酸化、アデノシン 5’-三リン酸 過ヨウ素酸 酸化ナトリウム塩、アミドトリゾ酸、アリルヨージド、アセチルコリンヨウ化物、イオジキサノール溶液、イペルオキソ、エチルトリフェニルホスホニウムヨージド、エチレンジアミン 二ヨウ化水素酸塩、クロロヨードメタン、ジアトリゾ酸、ジアトリゾ酸メグルミン、ジアトリゾアートナトリウム水和物、ジフェニルヨードニウムニトラート、ジ(1-アダマンチル)-n-ブチルホスフィン ヨウ化水素酸塩、(ジアセトキシヨード)ベンゼン、ジシクロヘキサシルヨードボラン、ジシクロヘキサシルヨードボラン溶液、ジヨードメタン、テトラヨードメタン、テトラメチルアンモニウムヨージド、トリヨードメタン、トリメチルスルフォニウムアイオダイド、トリメチルスルフォキソニウムアイオダイド、トリメチルスルホキソニウム ヨウ化物、トリス(2-ヨードイソ酪酸)グリセロール、ビス(ピリジン)ヨードニウムテトラフルオロボラート、ビスヨウ素酸 マグネシウム塩、ビス(2-ヨードイソ酪酸)エチレングリコール、ビス(2-ヨード-2-フェニル酢酸)エチレングリコール、ビス(ピリジン)ヨードニウムテトラフルオロボラート、[ヒドロキシ(トシルオキシ)ヨード]ベンゼン、メチルトリフェノキシホスホニウムヨージド、フェネチルアンモニウムヨージド、ベンジルヨージド、ヘプタフルオロ-2-ヨードプロパン、レボチロキシン、ヨウ化メチル、ヨウ化エチル、ヨウ化-n-プロピル、ヨウ化-i-プロピル、ヨウ化-n-ブチル、ヨウ化-n-ステアリル、ヨウ化グアニジニウム、ヨウ化プロピジウム、ヨウ化プロピジウム、ヨウ化エチルアンモニウム、ヨウ化メチルアンモニウム、ヨウ化アセチルチオコリン、ヨウ化銅(I)-亜リン酸トリエチル、ヨード酢酸、ヨードシクロヘキサン、ヨードベンゼン、ヨードメタン、ヨードエタン、ヨードベンゼンジアセテート、ヨードジフェニルメタン、ヨードトリメチルシラン、(ヨードメチル)シクロプロパン、1-ブロモ-2-ヨードベンゼン、1-ブロモ-3-ヨードベンゼン、1-ブロモ-4-ヨードベンゼン、(1-ヨードエチル)ベンゼン、1-ヨードプロパン、1-ヨードブタン、1-ヨード-2-メチルプロパン、1-ヨードペンタン、1-ヨード-3-メチルブタン、1-ヨードヘキサン、1-ヨードヘプタン、1-ヨードオクタン、1-メチル-3-プロピルイミダゾリウムヨージド、1-クロロ-3-ヨードプロパン、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムヨウ化物、1,1’-ジエチル-2,2’-シアニンヨージド、1,1’,3,3,3’,3’-ヘキサメチルインドトリカルボシアニンヨージド、1,1,1-トリメチルヒドラジニウムヨウ化物、1,2-ジヨードエタン、1,2-ジクロロ-4-ヨードベンゼン、1,2-ジメチル-2-チオプソイド尿素 ヨウ化水素酸塩、1,3-ジクロロ-4-ヨードベンゼン、1,3-ジヨード-5,5-ジメチルヒダントイン、1,3-ジブロモ-4-ヨードベンゼン、1,4-ビス(ヨードメチル)ベンゼン、1,4-ジヨードベンゼン、1,4-ジブロモ-2-ヨードベンゼン、1,4-ビス(1’-ヨードエチル)ベンゼン、1,4-ビス(トリブチルスタンニル)ベンゼン、1-ブロモ-3-クロロ-4-ヨードベンゼン、1,8-ジヨードオクタン、1,10-ジヨードデカン、1,3,5-トリス(1’-ヨードエチル)ベンゼン、2ヨウ化クロリソンダミン、2-ヨード安息香酸、2-ヨードキシ安息香酸、2-ヨードアセトアミド、2-ヨードトルエン、2-ヨードフルオレン、2-ヨードオクタン、2-ブロモヨードベンゼン、2-フルオロ-4-ヨードアニリン、2-クロロ-4-ヨードアニリン、2-メチル-4-ヨードアニリン2-アミノ-5-ヨード安息香酸、2-ヨード-5-メチルチオフェン、2-ヨード酢酸、2-ヨード酢酸メチル、2-ヨード酢酸エチル、2-ヨードプロピオン酸、2-ヨードプロピオン酸エチル、2-ヨード酪酸エチル、2-ヨード吉草酸エチル、2-ヨードイソ酪酸、2-ヨードイソ酪酸メチル、2-ヨードイソ酪酸エチル、2-ヨードイソ酪酸ベンジル、2-ヨードイソ酪酸2-ヒドロキシエチル、2-ヨード-2-メチルマロン酸ジエチル、2-ヨード-2-メチルアセト酢酸エチル、2-ヨード-2-フェニル酢酸、2-ヨード-2-フェニル酢酸エチル、2-ヨード-2-(4’-メチルフェニル)酢酸エチル、2-ヨード-2-(4’-ニトロフェニル)酢酸エチル、2-ヨード-2-フェニル酢酸2-ヒドロキシエチル、2-ヨードアセトニトリル、2-ヨードプロピオニトリル、2-ヨードイソブチロニトリル、2-ヨードプロピオンアミド、2-ヨードアセトフェノン、2-メチルチオ-2-イミダゾリン ヨウ化水素酸塩、2,5-ジヨードアジピン酸ジエチル、2,4,6-トリヨードフェノール、2,7-ジヨードフルオレン、2,7-ジヨード-9,10-ジヒドロフェナンスレン、3ヨウ化テトラブチルアンモニウム、3-ヨードアニリン、3-ヨード安息香酸、3-ヨードトルエン、3-ヨードアニソール、3,3’-ジヘキシルオキサカルボシアニンヨージド、3,3’-ジメチル-4,4’-ジヨードビフェニル、3,3’,5’-トリヨード-L-チロニン-13C6溶液、3,3’,5-トリヨード-L-チロニン-13C6溶液、3,3-ジメチル-1-(トリフルオロメチル)-1,2-ベンズヨードキソール、3,3’-ジエチルオキサカルボシアニンヨージド、3-(4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸 N-ヒドロキシスクシンイミドエステル、3,5-ジヨード-L-チロニン、3,5-ジヨードサリチル酸、4-ヨード安息香酸、4-ヨードビフェニル、4-ヨードトルエン、4-ヨードクメン、4-ヨードフェノール、4-ヨードアニリン、4-クロロヨードベンゼン、4-ヨードピリジン、4-ヨードエチルベンゼン、4-ヨード-m-キシレン、4-ヨードベンズアルデヒド、4’-ヨードアセトフェノン、4-ヨード-2-メチルフェノール、4-DAMP、4-ヒドロキシ-3-ヨード安息香酸、4,4’-ジヨードビフェニル、4,4’’-ジヨード-p-ターフェニル、4-ニトロベンジルヨージド、4-ヨードフェノール、4-ブロモ-4’-ヨードビフェニル、5-ヨードアントラニル酸、5-ヨードサリチル酸、5-ヨウ化インドール、9-ヨード-9H-フルオレン、p-キシリレンジヨージド、N-ヨードモルホリン ヨウ化水素酸塩、N-メチル-D-ジアトリゾ酸グルカミン、N-ヨードモルホリン ヨウ化水素酸塩、N,N’-ジヨード-5,5-ジメチルヒダントイン、N,N-ジメチルメチレンイミジウムヨージド、α-ヨード-γ-ブチロラクトン、α-ヨードベンジルシアニド、L-チロキシン、L-チロキシン-13C6溶液、S-ブチリルチオコリンヨージド等が挙げられ、錯体、水素の安定同位体のうち原子核が陽子1つと中性子1つとで構成される重水素溶媒、溶媒との希釈やそれらの二種以上を混合させてもよい。
【0048】
なかでも、単体ヨウ素(I2)を使用する場合、単体ヨウ素(I2)を極性溶媒と混合して、これを上記の液体とすることが好ましい。極性溶媒としては、水、エタノールその他のアルコール等が挙げられる。それにより、単体ヨウ素(I2)は、液体中で溶解することがある。この際に、単体ヨウ素(I2)と極性溶媒との混合で得られた液体は、必要に応じて純水等の水で希釈することができる。
【0049】
ハロゲン接触工程で使用可能なフッ素化合物、臭素化合物は、極性溶媒と混合して、これを上記の液体とすることが好ましい。極性溶媒としては、水、エタノールその他のアルコール等が挙げられる。
【0050】
フッ素化合物としては、フッ素と第一遷移金属から第二遷移金属との化合物が挙げられる。周期表スカンジウムから銅までの第一遷移元素の中であれば、チタン、鉄、銅が挙げられ、化合物としてはフッ化チタン、フッ化バナジウム、フッ化ニッケル、フッ化銅が好ましく、特に好ましくはフッ化銅である。周期表イットリウムから銀までの第二遷移元素であれば、ジルコニウム、ニオブ、銀が挙げられ、化合物としてはフッ化ジルコニウム、フッ化ニオブ、フッ化銀が好ましく、特に好ましくはフッ化銀である。
【0051】
また、ハロゲン接触工程で使用する臭素化合物としては、臭素水、臭素酸ナトリウム、臭素酸カリウム、臭素酸ナトリウム、臭素酸バリウム、臭化銀、臭化ヨウ素、一臭化ヨウ素、臭化重水素酸等が挙げられ、特に好ましくは臭化銀、臭化ヨウ素、一臭化ヨウ素が挙げられ、それらの二種以上混合させてもよい。
【0052】
未処理粉末を上記の液体に添加した場合、たとえば50rpm~1000rpmの速度で、1分~60分にわたって攪拌することが好ましい。このとき、液温は10℃~50℃とすることができ、大気雰囲気または、窒素やアルゴン等の不活性ガスを用いた不活性雰囲気下で行うことができる。
【0053】
ハロゲン接触工程では、未処理粉末の粒子表面に形成されていた水酸化ニッケル(Ni(OH)2)等の化合物が除去され、その表面が平滑化されるとともに、当該粒子にヨウ素(I)が含まれる。ハロゲン接触工程の後、所定のニッケル含有粉末が得られる。
【0054】
ハロゲン接触工程の後は、ニッケル含有粉末を、純水等の水で洗浄する水洗浄工程を行ってもよい。水で洗浄すると、不要なヨウ素等を抜き出すことが可能である。ここでは、水にニッケル含有粉末を添加し、液温を10℃~50℃として、50rpm~1000rpmの速度で1分~60分にわたって攪拌することがある。
【0055】
ハロゲン接触工程の後又は水洗浄工程の後、ニッケル含有粉末を、アルゴン等の不活性雰囲気下で風乾等によって乾燥させる。それにより、ニッケル含有粉末を製造することができる。
【0056】
なお、未処理粉末から最終的にニッケル含有粉末を製造するまでの間に、炭酸水溶液を用いる炭酸洗浄工程を行わないほうが望ましい。ハロゲン接触工程の前や後等に、炭酸洗浄工程で炭酸水溶液を用いて洗浄すると、ニッケル含有粒子中の水酸化ニッケル等の含有量が増加し、それによってニッケル含有粒子の表面粗さが増大し、凝集が起こりやすくなるおそれがある。
【実施例0057】
次に、この発明のニッケル含有粉末を試作し、その効果を確認したので以下に説明する。但し、ここでの説明は単なる例示を目的としたものであり、これに限定されることを意図するものではない。
【0058】
気相還元法により、先述したような塩化工程及び還元工程を行い、平均粒径が80nmであるニッケル粉末を作製した。
【0059】
(実施例1)
<ヨウ素とアルコールの調製>
窒素置換されたグローブボックス内で容量2000mL耐熱瓶の中にスターラーチップを入れて置換をした。次に、耐熱瓶内に2時間窒素置換したエタノール1000mLを添加した。そしてヨウ素を0.1質量%になるように添加した。添加後、耐熱瓶に蓋をし、1時間マグネチックスターラーにて攪拌をすると赤色の均一溶剤が得られた。この均一溶剤を溶媒Aとした。
【0060】
<ニッケル含有粉末の調製>
十分に窒素置換された三ヶ月羽根と攪拌機を具備した500mL三ッ口セパラブルフラスコ内に、上記のニッケル粉末20gを添加した。
ニッケル粉末の添加後、2時間窒素バブリングした純水200mLを添加した。このニッケル粉末を含む純水スラリーを25℃、200rpm、5分間攪拌した後に停止させた。停止後、スラリーの固液分離を確認した後、上澄み液をデカンテーションにて抜き出した。この操作を4回繰り返した。
【0061】
次に、溶媒Aから200mL分取し500mL三ッ口セパラブルフラスコ内に添加し、25℃、200rpm、5分間攪拌した後停止させた。停止後、スラリーの固液分離を確認した後、上澄み液を抜き出した。
最後に純水を200mL添加し、25℃、200rpm、5分間攪拌した後停止させた。停止後、スラリーの固液分離を確認した後、上澄み液を抜き出した。この操作を4回繰り返した。
それにより、ニッケル含有粉末のスラリーを得た。
【0062】
上記のニッケル含有粉末のスラリーを用いて塗膜を引き、マイクロスコープにて10点ライン分析を行い、この平均値から最大高さRzを求めた。
【0063】
マイクロスコープでの測定後、アプリケーターで塗膜を作成した後に、プラチナ蒸着器で40秒蒸着し、そのSEM画像を得た。このSEM画像内で空隙がある箇所の個数を、画像解析ソフトを用いて測定した。空隙は凝集とみなすことができる。SEM画像は、日本電子株式会社製のJSM-IT800を用いて加速電圧10kV、倍率10000倍で観察して得た。画像解析では、株式会社マウンテック製のMac-Viewを使用し、長径0.1μm以上の空隙の個数を測定した。
【0064】
一方、残りのスラリーは、全量角型バットの中に移した後アルゴンガス雰囲気下50℃で10時間乾燥してニッケル含有粉末を得た。
【0065】
(実施例2)
使用したニッケル粉末及びニッケル含有粉末の平均粒径を410nmに変更したこと以外は、実施例1と同様にそれぞれ評価した。結果を表1に示す。
【0066】
(実施例3)
溶媒Aを得る際にヨウ素を0.25質量%になるように添加したこと以外は、実施例1と同様にそれぞれ評価した。結果を表1に示す。
【0067】
(実施例4)
溶媒Aで使用したアルコールの代わりに純水に変更し、ヨウ素を0.02質量%になるように添加したこと以外は、実施例1と同様にそれぞれ評価した。結果を表1に示す。
【0068】
(実施例5)
溶媒Aを得る際にヨウ素を1.0質量%になるように添加したこと以外は、実施例1と同様にそれぞれ評価した。結果を表1に示す。
【0069】
(実施例6)
溶媒Aを得る際にヨウ素をフッ化銀に変更し、フッ素を0.10質量%になるように添加したこと以外は、実施例1と同様にそれぞれ評価した。結果を表1に示す。
【0070】
(実施例7)
溶媒Aを得る際にヨウ素をフッ化銅に変更し、フッ素を0.10質量%になるように添加したこと以外は、実施例1と同様にそれぞれ評価した。結果を表1に示す。
【0071】
(実施例8)
溶媒Aを得る際にヨウ素を臭化銀に変更し、臭素を0.10質量%になるように添加したこと以外は、実施例1と同様にそれぞれ評価した。結果を表1に示す。
【0072】
(比較例1)
ヨウ素、アルコールを使用しなかったこと以外は、実施例1と同様にそれぞれ評価した。結果を表1に示す。
【0073】
(比較例2)
ヨウ素を使用せず、下記のようにニッケル含有粉末の調製を変更したこと以外は、実施例1と同様にそれぞれ評価した。結果を表1に示す。
【0074】
<ニッケル含有粉末の調製>
十分に窒素置換された三ヶ月羽根と攪拌機を具備した500mL三ッ口セパラブルフラスコ内に、上記のニッケル粉末20gを添加した。
ニッケル粉末の添加後、2時間窒素バブリングした純水200mLを添加した。このニッケル粉末を含む純水スラリーを25℃、200rpm、5分間攪拌した後に停止させた。停止後、スラリーの固液分離を確認した後、上澄み液をデカンテーションにて抜き出した。この操作を4回繰り返した。
【0075】
次に、純水200mLを入れ、二酸化炭素をバブリングしながら25℃、200rpm、5分間攪拌した後、二酸化炭素のバブリングを停止させた。停止後、スラリーの固液分離を確認した後、上澄み液を抜き出した。
最後に純水を200mL添加し、25℃、200rpm、5分間攪拌した後停止させた。停止後、スラリーの固液分離を確認した後、上澄み液を抜き出した。この操作を4回繰り返した。
それにより、ニッケル含有粉末のスラリーを得た。
【0076】
(比較例3)
実施例1で使用した溶媒Aを用い、比較例2のニッケル含有粉末の調製と同様に調製を行った後、それぞれ評価した。結果を表1に示す。
【0077】
(比較例4)
溶媒Aを得る際にヨウ素を0.02質量%になるように添加し、炭酸洗浄を行ったこと以外は、実施例1と同様にそれぞれ評価した。結果を表1に示す。
【0078】
(比較例5)
ヨウ素を添加せず、アルコールを添加したこと以外は、比較例2と同様にそれぞれ評価した。結果を表1に示す。
【0079】
【表1】
【0080】
表1に示すように、実施例1~8では、比較例1~5に比して、上記の空隙の個数が少なかった。これは、ヨウ素、フッ素又は臭素のいずれかの添加によって凝集が抑制されたことによるものと考えられる。また、ヨウ素、フッ素又は臭素のいずれかを添加することで、炭酸洗浄を行う必要がなくなり、炭素含有量が少なかったことも影響している可能性がある。
【0081】
以上より、この発明によれば、凝集を有効に抑制できることがわかった。