IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社半導体エネルギー研究所の特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024019129
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20240201BHJP
   C01G 53/00 20060101ALI20240201BHJP
【FI】
H01M4/525
C01G53/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023122729
(22)【出願日】2023-07-27
(31)【優先権主張番号】P 2022121785
(32)【優先日】2022-07-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000153878
【氏名又は名称】株式会社半導体エネルギー研究所
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 丞
(72)【発明者】
【氏名】門馬 洋平
(72)【発明者】
【氏名】福島 邦宏
(72)【発明者】
【氏名】小國 哲平
【テーマコード(参考)】
4G048
5H050
【Fターム(参考)】
4G048AA03
4G048AA04
4G048AA06
4G048AB02
4G048AC06
4G048AD03
4G048AE05
4G048AE06
5H050AA07
5H050AA15
5H050CA08
5H050CB08
5H050HA02
5H050HA12
(57)【要約】
【課題】劣化の小さい二次電池を提供する。信頼性の高い二次電池を提供する。
【解決手段】二次電池が有する正極活物質は、コバルト酸リチウムの結晶を有する。正極活物質は、結晶の(00l)面に平行な表面を含む第1の領域と、(00l)と交差する面に平行な表面を含む第2の領域と、を有する。正極活物質は、マグネシウムを含む。第1の領域は、マグネシウムの濃度が0.5atomic%以上10atomic%以下である部分を有する。第2の領域は、第1の領域よりもマグネシウムの濃度が高く、且つ、4atomic%以上30atomic%以下である部分を有する。さらに第2の領域は、第1の領域よりもフッ素の濃度が高く、且つ、0.5atomic%以上10atomic%以下である部分を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質を有する正極を備え、
前記正極活物質は、コバルト酸リチウムの結晶を有し、
前記正極活物質は、前記結晶の(00l)面に平行な表面を含む第1の領域と、前記(00l)と交差する面に平行な表面を含む第2の領域と、を有し、
前記正極活物質は、マグネシウムを含み、
前記第1の領域は、マグネシウムの濃度が0.5atomic%以上10atomic%以下である部分を有し、
前記第2の領域は、マグネシウムの濃度が前記第1の領域よりも高く、且つ、4atomic%以上30atomic%以下である部分を有する、
二次電池。
【請求項2】
請求項1において、
前記正極活物質は、フッ素を含み、
前記第2の領域は、フッ素の濃度が前記第1の領域よりも高く、且つ、0.5atomic%以上10atomic%以下である部分を有する、
二次電池。
【請求項3】
請求項2において、
前記第1の領域において、電子エネルギー損失分光法で分析したフッ素の濃度が、0.5atomic%未満である部分を有する、
二次電池。
【請求項4】
請求項2において、
前記第2の領域において、電子エネルギー損失分光法で分析した場合に、フッ素の濃度は表面に近いほど高い、
二次電池。
【請求項5】
請求項1において、
前記正極活物質は、ニッケルを含み、
前記第2の領域は、ニッケルの濃度が前記第1の領域よりも高く、且つ、0.5atomic%以上10atomic%以下である部分を有する、
二次電池。
【請求項6】
請求項1において、
前記正極活物質は、アルミニウムを含み、
前記第1の領域と前記第2の領域は、アルミニウムの濃度がそれぞれ独立に0.5atomic%以上10atomic%以下である部分を有し、
前記第1の領域と前記第2の領域の当該部分における、アルミニウム濃度の差が0atomic%以上7atomic%以下である、
二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の一態様は、電池に関する。本発明の一態様は、二次電池に関する。本発明の一態様は、電池の正極材料に関する。
【0002】
なお、本発明の一態様は、上記の技術分野に限定されない。本発明の一態様は、二次電池を含む蓄電装置、半導体装置、表示装置、発光装置、照明装置、電子機器またはそれらの製造方法に関する。半導体装置は、半導体特性を利用することで機能しうる装置全般を指す。
【背景技術】
【0003】
近年、リチウムイオン二次電池、リチウムイオンキャパシタ、空気電池、全固体電池等、種々の蓄電池の開発が盛んに行われている。特に高出力、高容量であるリチウムイオン二次電池は半導体産業の発展と併せて急速にその需要が拡大し、充電可能なエネルギーの供給源として現代の情報化社会に不可欠なものとなっている。
【0004】
なかでもモバイル電子機器用途では、重量あたりの放電容量が大きく、サイクル特性に優れたリチウムイオン二次電池の需要が高い。そのため、リチウムイオン二次電池の正極が有する正極活物質の改良が盛んに行われている(例えば特許文献1乃至特許文献4、非特許文献1乃至非特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-179758号公報
【特許文献2】WO2020/026078号パンフレット
【特許文献3】特開2020-140954号公報
【特許文献4】特開2019-129009号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Toyoki Okumura et al,“Correlation of lithium ion distribution and X-ray absorption near-edge structure in O3-and O2-lithium cobalt oxides from first-principle calculation”, Journal of Materials Chemistry, 2012, 22, p.17340-17348
【非特許文献2】T.Motohashi, T. et al,“Electronic phase diagram of the layered cobalt oxide system LixCoO2 (0.0≦x≦1.0) ”, Physical Review B, 80(16) ;165114
【非特許文献3】Zhaohui Chen et al, “Staging Phase Transitions in LixCoO2”, Journal of The Electrochemical Society, 2002, 149(12) A1604-A1609
【非特許文献4】G. G. Amatucci et.al., “CoO2 , The End Member of the Lix CoO2 Solid Solution” J. Electrochem. Soc. 143 (3) 1114 (1996).
【非特許文献5】K. Momma and F. Izumi,”VESTA 3 for three-dimensional visualization of crystal, volumetric and morphology data” J. Appl. Cryst. (2011). 44, 1272-1276
【非特許文献6】A.Belsky, A. et al.,“New developments in the Inorganic Crystal Structure Database (ICSD): accessibility in support of materials research and design”, Acta Cryst.,(2002) B58 364-369.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の一態様は、劣化の小さい二次電池を提供することを課題の一とする。本発明の一態様は、信頼性の高い二次電池を提供することを課題の一とする。本発明の一態様は、充放電サイクルにおける放電容量の低下が抑制された二次電池を提供することを課題の一とする。本発明の一態様は、安全性の高い二次電池を提供することを課題の一とする。
【0008】
なお、これらの課題の記載は、他の課題の存在を妨げるものではない。なお、本発明の一態様は、これらの課題の全てを解決する必要はないものとする。なお、これら以外の課題は、明細書、図面、請求項などの記載から抽出することが可能である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様は、正極活物質を有する正極を備える二次電池である。正極活物質は、コバルト酸リチウムの結晶を有する。正極活物質は、結晶の(00l)面に平行な表面を含む第1の領域と、(00l)と交差する面に平行な表面を含む第2の領域と、を有する。正極活物質は、マグネシウムを含む。第1の領域は、マグネシウムの濃度が0.5atomic%以上10atomic%以下である部分を有する。第2の領域は、マグネシウムの濃度が第1の領域よりも高く、且つ、4atomic%以上30atomic%以下である部分を有する。
【0010】
また、上記において、正極活物質は、フッ素を含むことが好ましい。このとき、第2の領域は、フッ素の濃度が第1の領域よりも高く、且つ、0.5atomic%以上10atomic%以下である部分を有することが好ましい。
【0011】
また、上記において、第1の領域において、電子エネルギー損失分光法で分析したフッ素の濃度が、0.5atomic%未満である部分を有することが好ましい。
【0012】
また、上記において、第2の領域において、電子エネルギー損失分光法で分析した場合に、フッ素の濃度は表面に近いほど高いことが好ましい。
【0013】
また、上記において、正極活物質は、ニッケルを含むことが好ましい。このとき、第2の領域は、ニッケルの濃度が第1の領域よりも高く、且つ、0.5atomic%以上10atomic%以下である部分を有することが好ましい。
【0014】
また、上記において、正極活物質は、アルミニウムを含むことが好ましい。このとき、第1の領域と第2の領域は、アルミニウムの濃度がそれぞれ独立に0.5atomic%以上10atomic%以下である部分を有することが好ましい。さらに第1の領域と第2の領域の当該部分における、アルミニウム濃度の差が0atomic%以上7atomic%以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の一態様によれば、劣化の小さい二次電池を提供できる。または、信頼性の高い二次電池を提供できる。または、充放電サイクルにおける放電容量の低下が抑制された二次電池を提供できる。または、安全性の高い二次電池を提供できる。
【0016】
なお、これらの効果の記載は、他の効果の存在を妨げるものではない。なお、本発明の一態様は、必ずしも、これらの効果の全てを有する必要はない。なお、これら以外の効果は、明細書、図面、請求項などの記載から抽出することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1(A)乃至(C)は、正極活物質の構成例を示す図である。
図2図2(A)乃至(D)は、正極活物質の構成例を示す図である。
図3図3(A)及び(B)は、正極活物質の構成例を示す図である。
図4図4は、正極活物質の構成例を示す図である。
図5図5は、正極活物質の構成例を示す図である。
図6図6は、結晶のTEM像の例である。
図7図7(A)は、STEM像の例であり、図7(B)及び(C)は、FFTパターンの例である。
図8図8は、XRDパターンである。
図9図9は、XRDパターンである。
図10図10(A)及び(B)は、XRDパターンである。
図11図11(A)乃至(C)は、格子定数を示すグラフである。
図12図12は、正極活物質の構成例を示す図である。
図13図13(A)乃至(C)は、正極活物質の作製方法を説明する図である。
図14図14(A)乃至(C)は、正極活物質の作製方法を説明する図である。
図15図15は、正極活物質の作製方法を説明する図である。
図16図16(A)乃至(C)は、正極活物質の作製方法を説明する図である。
図17図17は、加熱炉及び加熱方法を説明する図である。
図18図18(A)乃至(D)は、電子機器の構成例を示す図である。
図19図19(A)乃至(C)は、電子機器の構成例を示す図である。
図20図20(A)乃至(C)は、車両の構成例を示す図である。
図21図21(A)及び(B)は、STEM-EDXの測定結果である。
図22図22(A)及び(B)は、STEM-EELSの測定結果である。
図23図23(A)及び(B)は、STEM-EELSの測定結果である。
図24図24(A)乃至(D)は、実施例2に係る計算結果である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、実施の形態について図面を参照しながら説明する。ただし、実施の形態は多くの異なる態様で実施することが可能であり、趣旨及びその範囲から逸脱することなくその形態及び詳細を様々に変更し得ることは当業者であれば容易に理解される。従って、本発明は、以下の実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。
【0019】
なお、以下に説明する発明の構成において、同一部分又は同様な機能を有する部分には同一の符号を異なる図面間で共通して用い、その繰り返しの説明は省略する。また、同様の機能を指す場合には、ハッチングパターンを同じくし、特に符号を付さない場合がある。
【0020】
なお、本明細書で説明する各図において、各構成要素の大きさ、層の厚さ、または領域は、明瞭化のために誇張されている場合がある。よって、必ずしもそのスケールに限定されない。
【0021】
なお、本明細書等における「第1」、「第2」等の序数詞は、構成要素の混同を避けるために付すものであり、数的に限定するものではない。
【0022】
本明細書等では空間群は国際表記(またはHermann-Mauguin記号)のShort notationを用いて表記する。またミラー指数を用いて結晶面及び結晶方向を表記する。空間群、結晶面、および結晶方向の表記は、結晶学上、数字に上付きのバーを付すが、本明細書等では書式の制約上、数字の上にバーを付す代わりに、数字の前に-(マイナス符号)を付して表現する場合がある。また、結晶内の方向を示す個別方位は[ ]で、等価な方向すべてを示す集合方位は< >で、結晶面を示す個別面は( )で、等価な対称性を有する集合面は{ }でそれぞれ表現する。また空間群R-3mで表される三方晶は、構造の理解のしやすさのため、一般に六方晶の複合六方格子で表され、本明細書等も特に言及しない限り空間群R-3mは複合六方格子で表すこととする。またミラー指数として(hkl)だけでなく(hkil)を用いることがある。ここでiは-(h+k)である。
【0023】
なお本明細書等において、粒子とは球形(断面形状が円)のみを指すことに限定されず、個々の粒子の断面形状が楕円形、長方形、台形、三角形、角が丸まった四角形、非対称の形状などを指し、さらに個々の粒子は不定形であってもよい。
【0024】
また正極活物質の理論容量とは、正極活物質が有する挿入脱離可能なリチウムイオンが全て脱離した場合の電気量をいう。例えば、LiCoOの理論容量は274mAh/g、LiNiOの理論容量は274mAh/g、LiMnの理論容量は148mAh/gである。
【0025】
また正極活物質中に挿入脱離可能なリチウムイオンがどの程度残っているかを、組成式中のx、たとえばLiCoO中のxで示す。リチウムイオン二次電池中の正極活物質の場合、x=(理論容量-充電容量)/理論容量とすることができる。たとえばLiCoOを正極活物質に用いたリチウムイオン二次電池を219.2mAh/g充電した場合、Li0.2CoOまたはx=0.2ということができる。LiCoO中のxが小さいとは、たとえば0.1<x≦0.24をいう。
【0026】
正極に用いる前において、適切に合成され、化学量論比をおよそ満たす場合のコバルト酸リチウムの組成式はLiCoOでありx=1である。また放電が終了したリチウムイオン二次電池に含まれるコバルト酸リチウムの組成式も、LiCoOでありx=1といってよい。ここでいう放電が終了したとは、たとえば100mA/g以下の電流で、電圧が3.0Vまたは2.5V以下となった状態をいう。
【0027】
LiCoO中のxの算出に用いる充電容量および/または放電容量は、短絡および/または電解液等の分解の影響がないか、少ない条件で計測することが好ましい。たとえば短絡とみられる急激な容量の変化が生じたリチウムイオン二次電池のデータはxの算出に使用してはならない。
【0028】
またリチウムイオン二次電池に含まれる結晶性の材料の空間群はX線回折(XRD:X-ray Diffraction)、電子線回折、中性子線回折等によって同定されるものである。そのため本明細書等において、ある空間群に帰属する、ある空間群に属する、またはある空間群であるという用語は、ある空間群に同定されると言い換えることができる。
【0029】
また陰イオンがABCABCのように3層が互いにずれて積み重なる場合、その構造は立方最密充填構造と呼ぶこととする。そのため陰イオンは厳密に立方格子を成していなくてもよい。また現実の結晶は必ず欠陥を有するため、分析結果が必ずしも理論と一致するとは限らない。たとえば電子線回折パターンまたはTEM像等のFFT(高速フーリエ変換)パターンにおいて、理論上の位置と若干異なる位置にスポットが現れてもよい。たとえば理論上の位置との方位が5度以下、または2.5度以下であれば立方最密充填構造をとるといってよい。
【0030】
またある元素の分布とは、空間的に連続的に分析可能な分析手法により分析したとき、該元素がバックグラウンドノイズよりも高いレベルで連続的に検出される領域をいうこととする。
【0031】
また添加元素が添加された正極活物質を複合酸化物、正極材、正極材料、リチウムイオン二次電池用正極材、等と表現する場合がある。また本発明の一態様の正極活物質は、化合物、組成物、及び複合体のうち、いずれか一以上を有することが好ましい。
【0032】
また、以下の実施の形態等で正極活物質の個別の粒子の特徴について述べる場合、必ずしも全ての粒子がその特徴を有していなくてもよい。たとえばランダムに3個以上選択した正極活物質の粒子のうち50%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは90%以上がその特徴を有していれば、十分に正極活物質およびそれを有するリチウムイオン二次電池の特性を向上させる効果があるということができる。
【0033】
また、リチウムイオン二次電池の内部短絡及び外部短絡は、リチウムイオン二次電池の充電動作及び放電動作の少なくとも一方における不具合を引き起こすのみでなく、発熱および発火を招く恐れがある。そのため安全なリチウムイオン二次電池を実現するためには、高い充電電圧においても内部短絡及び外部短絡が抑制されることが好ましい。本発明の一態様の正極活物質は、高い充電電圧においても内部短絡が抑制される。そのため高い放電容量と安全性と、を両立したリチウムイオン二次電池とすることができる。なおリチウムイオン二次電池の内部短絡とは、電池内部で正極と負極とが接触することを指す。またリチウムイオン二次電池の外部短絡とは、誤使用を想定したものであり、電池外部で正極と負極とが接触することを指す。
【0034】
なお特に言及しない限り、リチウムイオン二次電池が有する材料(正極活物質、負極活物質、電解液、セパレータ等)は、劣化前の状態について説明するものとする。なおリチウムイオン二次電池製造段階におけるエージング処理およびバーンイン処理によって放電容量が減少することは劣化とは呼ばないとする。たとえば、単電池又は組電池でなるリチウムイオン二次電池の定格容量の97%以上の放電容量を有する場合は、劣化前の状態と言うことができる。定格容量は、ポータブル機器用リチウムイオン二次電池の場合JIS C 8711:2019に準拠する。これ以外のリチウムイオン二次電池の場合、上記JIS規格に限らず電動車両推進用、産業用などの各JIS、IEC規格等に準拠する。
【0035】
本明細書等において、リチウムイオン二次電池が有する材料の劣化前の状態を、初期品、または初期状態と呼称し、劣化後の状態(リチウムイオン二次電池の定格容量の97%未満の放電容量を有する場合の状態)を、使用中品または使用中の状態、あるいは使用済み品または使用済み状態と呼称する場合がある。
【0036】
本明細書等においてリチウムイオン二次電池は、キャリアイオンにリチウムイオンを用いた電池を指すが、本発明のキャリアイオンはリチウムイオンに限定されない。例えば本発明のキャリアイオンとしてアルカリ金属イオン、又はアルカリ土類金属イオンを用いることができ、具体的にはナトリウムイオン等を適用することができる。この場合、リチウムイオンをナトリウムイオン等と読み替え、本発明を理解することができる。またキャリアイオンに何ら限定がない場合、二次電池と記すことがある。
【0037】
(実施の形態1)
本実施の形態では、本発明の一態様の二次電池の正極に用いることのできる正極活物質の構成例、および作製方法例について説明する。
【0038】
図1(A)に、本発明の一態様の正極活物質100の断面概略図を示す。正極活物質100は、表層部100aと、内部100bを有する。図1(A)では、表層部100aにハッチングパターンを付して示している。
【0039】
正極活物質100の表層部100aは、例えば表面から内部に向かって50nm以内、好ましくは35nm以内、より好ましくは20nm以内、さらに好ましくは10nm以内の領域を指す。また表層部100aは、表面を含む。ここで、ひび、クラックなどにより生じた面も表面とすることができる。表層部100aは、表面近傍、表面近傍領域、またはシェルなどとも呼ぶことができる。
【0040】
正極活物質100の、表層部100aよりも深い領域を、内部100bと呼ぶ。内部100bは、内部領域、バルク、またはコアなどとも呼ぶことができる。
【0041】
正極活物質100は、コバルトと、リチウムと、酸素と、添加元素を含む。正極活物質100は、コバルト酸リチウムに添加元素が加えられたものということができる。
【0042】
正極活物質100が有するコバルトは、酸化還元が可能な遷移元素であり、リチウムイオンが挿入脱離しても正極活物質100の電荷中性を保つ機能を有する。なお、コバルトに加えて、ニッケル及びマンガンの少なくとも一方を含んでいてもよい。正極活物質100が有する遷移金属のうち、コバルトが75atomic%以上、好ましくは90atomic%以上、さらに好ましくは95atomic%以上であると、合成が比較的容易で取り扱いやすく優れたサイクル特性を有するなど利点が多く好ましい。これは、コバルトの含有量が多いほど、リチウムイオンが脱離する際に、ヤーン・テラー効果による歪の影響が小さく、結晶の安定性が高くなるためであると考えられる。
【0043】
さらに正極活物質100は、添加元素としてマグネシウム(Mg)を含む。本発明の一態様の正極活物質100において、マグネシウムは、内部100bよりも、表層部100aに高濃度に存在する。
【0044】
正極活物質100は、(00l)面に平行に劈開を示す。図1(A)では、(00l)面に平行な面の一つである(001)面を模式的に破線で示している。図1(A)中に示す領域Bは、(001)面に平行な表面を含む領域である。すなわち、領域Bに位置する正極活物質100の表面は、ベーサル面に平行である。一方、図1(A)に示す領域Eは、ベーサル面の一つである(001)面とは平行でない表面を含む領域である。領域Eに位置する正極活物質100の表面をエッジ面と呼ぶ。エッジ面は、(00l)面と交差する面に平行な表面ともいうことができる。
【0045】
図1(B)に領域Bの拡大模式図を、図1(C)に領域Eの拡大模式図を、それぞれ示す。図1(B)は表層部100aのうち、ベーサル面に平行な表面近傍に位置する表層部100aBと、内部100bを示している。また図1(C)には、エッジ面近傍に位置する表層部100aEと、内部100bを示している。また、図1(B)及び図1(C)にはそれぞれ、正極活物質100の表面Sを破線で示している。図1(B)及び図1(C)には各元素を丸印で示しており、これらを区別するために異なるハッチングパターンを付している。なお、図1(B)及び図1(C)には、酸素原子(O)及びリチウム原子(Li)は明示していない。
【0046】
図1(B)に示す表面Sはベーサル面と平行な面である。図1(B)には、表層部100aBから内部100bにわたって、表面Sに平行にコバルト原子(Co)が周期的に配列している様子を示している。表面Sに平行に二次元的に配列するCoの層を、Co層と呼ぶことにする。図1(B)では、2つの隣接するCo層の間にマグネシウム原子(Mg)が位置している。ベーサル面と平行な表面近傍において、Mgは内部100bよりも表層部100aBに多く含まれている。Mgは主にコバルト酸リチウムの結晶構造における、リチウムサイトに位置しやすい傾向がある。なお、一部のMgはコバルトサイトに位置していてもよい。
【0047】
Mgが表層部全体を完全に覆ってしまうと、リチウムイオンの挿入脱離を阻害してしまう、電子伝導を阻害してしまう、またはその両方が起こるため、充放電試験において好ましい電池特性を得ることが難しい。またMgが表層部100aより内部100bに高濃度に存在すると、放電容量が低下する恐れがある。一方でMgが表層部100aに適切な濃度で存在することで、コバルト酸リチウムを安定化させることができ、例えば釘刺し試験等において発熱、発煙を抑制することができるため好ましい。さらに、コバルト酸リチウムの硬度を高めることも期待される。
【0048】
図1(C)に示す表面Sは、エッジ面に相当する。すなわち、充放電の際にリチウムイオンが挿入脱離する面であり、Co層の端部が位置している。図1(C)に示すように、エッジ面近傍の表層部100aEには、ベーサル面に平行な表面近傍の表層部100aBと比較して多くのMgが含まれる。これは、ベーサル面は劈開面でもあることから分かるように、ベーサル面に垂直な方向の結晶面よりも、ベーサル面は安定した結合が多い。そのためベーサル面に垂直に添加元素は拡散されにくい。これに対し、エッジ面は欠陥を多く含む比較的不安定な面であるため、添加元素が内部に拡散しやすいためであると推察される。
【0049】
すなわち、正極活物質100において、Mgは内部100bよりも表層部100aに多く存在する。さらに、Mgはベーサル面と平行な表面近傍の表層部100aBよりもエッジ面近傍の表層部100aEに多く存在する。ベーサル面と平行な表面近傍に位置する表層部100aBには、Mgの濃度が0.5atomic%以上10atomic%以下、好ましくは1atomic%以上7atomic%以下、より好ましくは1.5atomic%以上6atomic%以下である領域が存在する。一方、エッジ面に位置する表層部100aEには、Mgの濃度が、少なくとも表層部100aBに位置するMgの濃度よりも高く、且つ、4atomic%以上30atomic%以下、好ましくは5atomic%以上20atomic%以下、より好ましくは6atomic%以上15atomic%以下である領域が存在する。このような適切な濃度で表層部100aB及び表層部100aEにMgが存在することで、正極活物質100のサイクル劣化を抑制することができる。
【0050】
また、正極活物質100は、添加元素としてフッ素(F)を含んでいてもよい。Fは電気陰性度が高く、多くの元素と安定な化合物を生成しやすいことが知られている。二次電池では正極活物質100は電解液に含浸されているため、正極活物質100の表面に吸着、または表面の極近傍に存在しているFは、正極活物質100と電解液の界面の安定化を図ることができる。界面の安定化は、正極活物質100の表面と電解液との反応を抑制することで達成される場合と、正極活物質100の表面に電解液の分解生成物からなる良好な被膜を形成することで達成する場合と、があり得る。
【0051】
正極活物質100が添加元素としてFを含む場合、Fは表層部100aの表面から離れた領域、及び内部100bにはほとんど観測されず、表層部100aの表面Sの極近傍に含まれる、または、図1(C)に示すように表面Sに付着または吸着するように存在する。また、図1(B)に示すように、安定なベーサル面に平行な表面にはフッ素はほとんど観測されない。
【0052】
すなわち、正極活物質100において、Fは内部100b及びベーサル面と平行な表面近傍の表層部100aBにはほとんど観測されず、エッジ面近傍の表層部100aEの極めて表面Sに近い領域に観測される。例えば、エッジ面に位置する表層部100aEにおけるFの濃度は、0.5atomic%以上10atomic%以下であることが好ましく、1atomic%以上8atomic%以下であることがより好ましく、2atomic%以上7atomic%以下であることがさらに好ましい。このような適切な濃度で表層部100aEの表面にFが存在することで、リチウムイオンの挿入脱離をより容易にすることができる。
【0053】
また正極活物質100は、添加元素としてニッケル(Ni)を含んでいてもよい。Niはコバルト酸リチウムの表層部100aだけでなく内部100bに存在することがある。Niはコバルト酸リチウムの内部に存在しても、酸化還元反応による電荷補償の役割を担うため、正極活物質100の放電容量の低下が起こりにくい。そのため内部100bにNiを有するコバルト酸リチウムは高い充放電容量を保つことができる。さらに放電容量を犠牲にすることなく、高電圧で充電しても、結晶構造が崩れにくい。
【0054】
また正極活物質100中のMgもNiと同様に、コバルト酸リチウムの結晶構造を安定化させ、結晶構造を崩れにくくする作用を有する。
【0055】
例えば、結晶構造が崩れにくくなると、コバルト酸リチウムから酸素が放出されにくくなる。正極活物質100から放出される酸素は、二次電池に内部短絡などが生じた際に、燃焼を助長するため、熱暴走の要因の一つである。そのため、酸素放出しにくい正極活物質100とすることで、たとえ内部短絡が生じても熱暴走に至りにくい二次電池を実現できる。
【0056】
図2(A)、(B)には、さらに添加元素としてニッケル(Ni)を用いた場合の、ベーサル面と平行な表面近傍、エッジ面近傍の断面をそれぞれ示している。Niは内部100bにはほとんど含まれず、そのほとんどが表層部100aに含まれる場合がある。またNiはエッジ面近傍の表層部100aEに多く含まれ、ベーサル面と平行な表面近傍の表層部100aBには、ほとんど観測されない。つまり、Niはベーサル面と平行な表面側からは拡散しにくく、エッジ面から拡散しやすいともいえる。Niは、コバルト酸リチウムのCoサイト、及びLiサイトのいずれにも存在しうるが、図2(B)では、Coサイトに存在している例を示している。
【0057】
すなわち、正極活物質100において、Niは内部100b、及びベーサル面と平行な表面近傍の表層部100aBにはほとんど観測されず、エッジ面近傍の表層部100aEに多く存在する。エッジ面に位置する表層部100aEにおけるNiの濃度は、0.5atomic%以上10atomic%以下であることが好ましく、0.3atomic%以上7atomic%以下であることがより好ましく、0.5atomic%以上5atomic%以下であることがさらに好ましい。NiはCoと比較して酸化還元電位が低いため、このような適切な濃度で表層部100aEにNiが存在することにより、Niを有さない場合と比較して、同じ充電電圧で比較すると容量を大きくできる。
【0058】
図2(C)、(D)には、さらに添加元素としてアルミニウム元素(Al)を用いた場合の、ベーサル面と平行な表面近傍、エッジ面近傍の断面をそれぞれ示している。Alは内部100b及び表層部100aの両方に含まれるが、内部100bよりも表層部100aに多く観測される。またAlはエッジ面近傍とベーサル面と平行な表面近傍の両方に分布するように含まれる。またAlは、コバルト酸リチウムのCoサイトに存在しやすい。
【0059】
すなわち、正極活物質100において、Alは内部100bよりも表層部100aに多く存在する。さらにAlはベーサル面と平行な表面近傍の表層部100aB及びエッジ面近傍の表層部100aEの両方に存在する。ベーサル面と平行な表面近傍に位置する表層部100aB及びエッジ面に位置する表層部100aEにおけるAlの濃度は、それぞれ独立に0.5atomic%以上10atomic%以下であることが好ましく、0.5atomic%以上8atomic%以下であることがより好ましく、0.8atomic%以上5atomic%以下であることがさらに好ましい。また、表層部100aBのAlの濃度と、表層部100aEのAlの濃度の差が小さいほど好ましく、例えばこれらの差が0atomic%以上7atomic%以下であることが好ましく、0atomic%以上5atomic%以下であることがより好ましく、0atomic%以上3atomic%以下であることがより好ましい。このような適切な濃度で表層部100aにAlが存在することで、容量の低下を最小限に抑えつつ、充放電を繰り返した際の結晶構造の堅牢性が高まり、サイクル劣化を抑制することができる。また、表層部100aにおけるAlの分布が不均一であると、局所的にAl濃度が低く、結晶が壊れやすい部分から崩壊が進行する恐れがあるため、上述のようにベーサル面近傍とエッジ面近傍とで均一にAlが分布することが好ましい。
【0060】
正極活物質100に含まれる各添加元素が、表面Sから表層部100a、内部100bにかけて、どのような濃度分布を示すのかを分析する手法としては、エネルギー分散型X線分光法(EDX:Energy Dispersive X-ray Spectroscopy)、または電子エネルギー損失分光法(EELS:Electron Energy-Loss Spectroscopy)等が挙げられる。なお、これに限られず、例えばX線光電子分光法(XPS:X-ray Photoelectron Spectroscopy)、電子プローブ微小分析(EPMA:Electron Probe Micro Analysis)等を用いて解析することもできる。
【0061】
特に透過電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)装置または走査型透過電子顕微鏡(STEM:Scanning TEM)に、EDX分析器またはEELS分析器を付随させた複合分析装置を用いることが好ましい。これにより、TEM(またはSTEM)による断面観察像からEDXまたはEELSの測定点を決定し、in-situでそのままEDX分析またはEELS分析を行うことができる。このような分析法を、TEM(またはSTEM)-EDX法、TEM(またはSTEM)-EELS法と呼ぶことができる。
【0062】
EDX法の検出下限は1atomic%程度であるが、測定条件、測定対象の元素などに応じてこれよりも大きくなる場合がある。一方、EELSの測定下限は最小で0.5atomic%程度であるが、同様に測定条件、測定対象の元素などに応じてこれよりも大きくなる場合がある。
【0063】
上記添加元素のうち、Mg、Ni、及びAlは、EDX法により測定することが好ましい。一方、Fの特性X線のエネルギーはCoの特性X線のエネルギーと極めて近いことから、EDXにより精度の高い分析は困難であるため、EDXよりもエネルギー分解能の高いEELS法により測定することが好ましい。
【0064】
正極活物質100には上述した添加元素から選ばれた一以上を有するコバルト酸リチウムを用いることが好ましい。添加元素は、正極活物質100をより安定化させる機能を有するため、コバルト酸リチウムからの酸素放出が抑制され、熱安定性を向上させることができる。具体的には正極活物質100としてMgを含むコバルト酸リチウムを用いると結晶構造が安定となり、酸素放出が抑制され、熱安定性が高くなる。さらに絶縁性を高くでき熱暴走に至りにくい。また添加元素としてFを用いると、エッジ面からの酸素放出が抑制され、熱安定性が向上し、熱暴走が生じにくい構造となる。
【0065】
ここで、結晶学において、単位格子を構成するa軸、b軸、及びc軸の3つの軸(結晶軸)について、特異的な軸をc軸とした単位格子を取ることが一般的である。特に層状構造を有する結晶では、層の面方向に平行な2つの軸をa軸及びb軸とし、層に交差する軸をc軸とすることが一般的である。このような層状構造を有する結晶の代表的な例として、六方晶系に分類されるグラファイトがあり、その単位格子のa軸及びb軸は劈開面に平行であり、c軸は劈開面に直交する。このとき、劈開面に平行な面、すなわちグラファイトではc軸に直交する面をベーサル面と呼ぶ。
【0066】
また、層状岩塩型のコバルト酸リチウムにおいては、Liはベーサル面に平行な方向に二次元的に拡散しやすい特徴を有する。すなわち、Liの拡散経路はベーサル面に沿って存在しているといえる。本明細書等においては、Liの拡散経路の端面が露出した面、すなわちリチウムイオンが挿入脱離する面、具体的には、(00l)面以外の面をエッジ面と呼ぶ。
【0067】
図3(A)及び図3(B)では破線で表層部100aと内部100bの境界を示した正極活物質100の例である。このように表層部100aは内部100bと区別され、表層部100aに表面が含まれる。
【0068】
図3(B)にはさらに一点鎖線で結晶粒界101を追加したものである。層状岩塩型に代表される層状の結晶構造を有する結晶では、層に平行な面(ここではベーサル面)に沿って劈開が生じやすいといった特徴がある。また、図3(B)中の矢印で示すように、劈開面に沿ってずれ(すべり)が生じる場合もある。そのため結晶粒界101は、ベーサル面と平行に形成されやすい。このとき、結晶粒界101はすべり面と一致することとなる。また、図3(B)にはクラックが形成され、当該クラックを埋めるように形成された埋め込み部102を示す。正極活物質100のクラックが形成されている部分では、劈開面(すなわちベーサル面に平行な面)が露出しやすい。
【0069】
コバルト酸リチウムは、リチウム層(リチウムサイトと記すことがある)と、コバルトに酸素が6配位した八面体構造を含むCoO層と、により構成される。リチウム層は平面的な構成を有し、充放電に従ってリチウムイオンが当該平面に沿って移動することができる。LiCoOは、例えば空間群R-3mの層状岩塩型の結晶構造をとる。
【0070】
ここで、正極活物質100の表面は、断面視にて確認することができる。正極活物質100の表面に付着した酸化アルミニウム(例えばAl)などの金属酸化物、表面に化学吸着した炭酸塩、及びヒドロキシ基等は、正極活物質100の表面には含まない。なお、正極活物質100に付着した金属酸化物であるかどうかは、これらの間で結晶の配向が一致するか否かで判断できる。
【0071】
正極活物質100は遷移金属と酸素の化合物を含むため、遷移金属M(例えばCo、Ni、Mn、Feなど)及び酸素が存在する領域と、これらが存在しない領域の界面を、正極活物質100の表面とすることができる。すべり、ひび、またはクラックにより生じた面も正極活物質100の表面といってよい。なお、正極活物質100の分析を行う際、正極活物質100の表面に保護膜を付ける場合があるため、正極活物質100の表面と保護膜とを区別することが重要である。保護膜としては、炭素、金属、酸化物、樹脂などの単層膜または多層膜が用いられる場合がある。
【0072】
また、STEM-EDX線分析等における正極活物質100の表面とは、上記遷移金属Mが、内部100bの検出量の平均値MAVEと、バックグラウンドの平均値MBGとの和の50%になる点、または酸素が、内部100bの検出量の平均値OAVEと、バックグラウンドの平均値OBGとの和の50%になる点とする。なお、上記遷移金属Mと酸素で、内部100bとバックグラウンドの和の50%の点が異なる場合は、表面に付着する酸素を含む金属酸化物、炭酸塩等の影響と考えられるため、上記遷移金属Mの内部100bの検出量の平均値MAVEと、バックグラウンドの平均値MBGとの和の50%の点を採用することができる。また正極活物質100が遷移金属Mを複数有する場合、内部100bにおける検出量が最も多い遷移元素のMAVEおよびMBGを用いて表面を求めることができる。
【0073】
上記遷移金属Mのバックグラウンドの平均値MBGは、たとえば遷移金属Mの検出量が増加を始める近辺を避けて外側の2nm以上、好ましくは3nm以上の範囲を平均して求めることができる。また内部100bの検出量の平均値MAVEは、遷移金属Mおよび酸素のカウントが飽和し安定した領域、たとえば遷移金属Mの検出量が増加を始める領域から深さ30nm以上、好ましくは50nmを超える部分で、2nm以上、好ましくは3nm以上の範囲を平均して求めることができる。酸素のバックグラウンドの平均値OBGおよび酸素の内部100bの検出量の平均値OAVEも同様に求めることができる。
【0074】
また断面STEM像等における正極活物質100の表面とは、正極活物質100の結晶構造に由来する像が観察される領域と、観察されない領域の境界であって、正極活物質100を構成する金属元素の中でリチウムより原子番号の大きな金属元素の原子核に由来する原子カラムが確認される領域の最も外側とする。またはSTEM像の、表面からバルクに向かった輝度のプロファイルに引いた接線と、深さ方向の軸の交点とする。STEM像等における表面は、より空間分解能の高い分析と併せて判断してもよい。
【0075】
STEM-EDXの空間分解能は最小でも1nm程度である。そのため添加元素プロファイルの最大値は1nm以上ずれることがあり得る。たとえば上記で求めた表面より外側にマグネシウム等の添加元素プロファイルの最大値があっても、最大値と表面の差が1nm未満であれば、誤差とみなすことができる。
【0076】
またSTEM-EDX線分析におけるピークとは、各元素プロファイルにおける検出強度の極大値をいうこととする。なおSTEM-EDX線分析におけるノイズとしては、空間分解能(R)以下、たとえばR/2以下の半値幅の測定値などが考えられる。
【0077】
同一箇所を同一条件で複数回スキャンすることでノイズの影響を軽減できる。たとえば複数回スキャン測定した積算値、または平均値を各元素のプロファイルとすることができる。
【0078】
STEM-EDX線分析は、たとえば以下のように行うことができる。まず正極活物質の表面に保護膜を蒸着する。たとえばイオンスパッタ装置(日立ハイテク製MC1000)のカーボンコーティングユニットにて、炭素を蒸着することができる。
【0079】
次に正極活物質を薄片化しSTEM断面試料を作製する。たとえばFIB(Focused Ion Beam)-SEM装置(日立ハイテク製XVision200TBS)にて薄片化加工を行うことができる。その際ピックアップはMPS(マイクロプロービングシステム)で行い、仕上げ加工の条件はたとえば加速電圧10kVとすることができる。
【0080】
STEM-EDX線分析は、例えばSTEM装置(日立ハイテク製HD-2700)を用いて、EDX検出器は、EDAXのOctane T Ultra W(Dual EDS)を使用することができる。EDX線分析時は、STEM装置の加速電圧を200kV、エミッション電流が6μA以上10μA以下になるよう設定し、薄片化した試料のうち奥行きおよび凹凸の少ない箇所を測定する。倍率はたとえば15万倍程度とする。EDX線分析の条件は、ビーム径が0.2nmφ、ドリフト補正有り、線幅42nm、ピッチ0.2nm、フレーム数6回以上とすることができる。
【0081】
また、STEM-EELS分析は、EDX分析と同様に線分析も可能であるが、EDX法よりも電子線の照射時間を長くする必要があり、サンプルへのダメージ及びサンプルのドリフトの影響が大きい場合には、点分析を選択することもできる。STEM-EELS分析は、例えばTEM/STEM複合装置(日本電子製JEM-ARM200F)を用い、電子分光器にはMOSディテクターアレイを使用し、元素分析装置にはGatan製Quantum ERを用いることができる。EELS点分析の条件は、ビーム径0.1nmφ、加速電圧200kVなどとすることができる。
【0082】
[含有元素]
正極活物質100が有する添加元素は、上述したMg、F、Ni、Alの他に、チタン、ジルコニウム、バナジウム、鉄、マンガン、クロム、ニオブ、ヒ素、亜鉛、ケイ素、硫黄、リン、ホウ素、臭素、及びベリリウムなどが挙げられ、これらから選ばれた一または二以上を用いることができる。また添加元素のうち遷移金属の和は、25atomic%未満が好ましく、10atomic%未満がより好ましく、5atomic%未満がさらに好ましい。
【0083】
添加元素は、正極活物質100に固溶していてもよく、たとえば正極活物質100の表面に固溶するとよい。そのため例えば、STEM-EDXの線分析を行った際に、添加元素が検出される量が増加する深さは、遷移金属Mが検出される量が増加する深さよりも、深い位置、すなわち正極活物質100の内部側に位置していることが好ましい。
【0084】
[結晶構造]
続いて、本発明の一態様のコバルト酸リチウムの結晶構造について説明する。コバルト酸リチウムを正極活物質100に用いると、充放電状態に伴いリチウムの含有量が変化する。具体的には、LiCoOと表記した際に、xがLiの含有量に対応する。例えば、二次電池が理想的な放電状態である場合には、最もリチウムの含有量が大きく、例えばx=1となる。一方、充電を行うことでコバルト酸リチウムからリチウムイオンが脱離するため、xが小さくなる。x=1である状態と、xが1未満の状態とでは、結晶構造が異なるため、以降では、x=1のときと、xが1未満のときに分けて説明する。
【0085】
{xが1のとき}
本発明の一態様の正極活物質100は放電状態、つまりLiCoO中のx=1の場合に、空間群R-3mに帰属する層状岩塩型の結晶構造を有することが好ましい。層状岩塩型の複合酸化物は、放電容量が高く、二次元的なリチウムイオンの拡散経路を有しリチウムイオンの挿入/脱離反応に適しており、二次電池の正極活物質として優れる。そのため特に、正極活物質100の体積の大半を占める内部100bが層状岩塩型の結晶構造を有することが好ましい。図4に層状岩塩型の結晶構造をR-3m O3を付して示す。
【0086】
正極活物質100の表層部100aは、充電により正極活物質100からリチウムイオンが多く抜けても、層状構造を維持するよう補強する機能を有することが好ましい。または表層部100aが正極活物質100のバリア膜として機能することが好ましい。または正極活物質100の外周部である表層部100aが正極活物質100を補強することが好ましい。ここでいう補強とは、酸素の脱離をはじめとする正極活物質100の表層部100aおよび内部100bの構造変化を抑制すること、および電解質が正極活物質100の表面で酸化分解されることを抑制することの少なくとも一方のことをいう。
【0087】
表層部100aは、内部100bと異なる組成および結晶構造を有していることが好ましい。また表層部100aは、内部100bよりも室温(25℃)で安定な組成および結晶構造であることが好ましい。例えば、本発明の一態様の正極活物質100の表層部100aの少なくとも一部が、岩塩型の結晶構造を有することが好ましい。または表層部100aは、層状岩塩型と岩塩型の結晶構造の両方の結晶構造を有していることが好ましい。または表層部100aは、層状岩塩型と岩塩型の結晶構造の両方の特徴を有することが好ましい。
【0088】
表層部100aは充電時にリチウムイオンが最初に脱離する領域であり、内部100bよりもリチウム濃度が低くなりやすい領域である。また表層部100aが有する正極活物質100の粒子の表面の原子は、一部の結合が切断された状態ともいえる。そのため表層部100aは不安定になりやすく、結晶構造の劣化が始まりやすい領域といえる。一方で表層部100aを十分に安定にできれば、Liの含有量が小さい、すなわちxが小さいとき(例えばxが0.24以下)でも内部100bの層状構造を壊れにくくすることができる。さらには、内部100bの層のずれを抑制することができる。
【0089】
上述した添加元素を適切な濃度、且つ濃度分布で表層部100aに含有させることにより、リチウムイオンの挿入脱離による内部100bの層状構造の崩れを抑制し、信頼性の高い正極活物質100を実現できる。
【0090】
また正極活物質100の内部100bは、転位等の欠陥の密度が少ないことが好ましい。また正極活物質100は、XRDにより測定される結晶子サイズが大きいことが好ましい。換言すれば内部100bは結晶性が高いことが好ましい。また正極活物質100の表面はなめらかであることが好ましい。これらの特徴は、二次電池に用いた際の正極活物質100の信頼性を支える重要な要素である。正極活物質の信頼性が高ければ二次電池の充電電圧の上限を高くすることができ、充放電容量の高い二次電池とすることができる。
【0091】
内部100bの転位はたとえばTEMで観察することができる。転位等の欠陥の密度が十分に少ない場合、観察試料の特定の1μm四方に転位等の欠陥は観察されない場合がある。なお転位とは結晶欠陥の一種であり、点欠陥とは異なるものである。
【0092】
XRDにより測定される結晶子サイズはたとえば300nm以上が好ましい。結晶子サイズが大きいほど、後述するようにLiCoO中のxが小さい状態においてO3’型の結晶構造が保たれやすく、c軸長の短縮が抑制されやすい。
【0093】
TEMにより観察される転位等の欠陥が少ないほど、XRDにより測定される結晶子サイズは大きくなると考えられる。
【0094】
結晶子サイズを算出する際のXRDの回折パターンは、正極活物質のみの状態で取得することが好ましいが、正極活物質に加えて集電体、バインダ及び導電材等を含む正極の状態で取得してもよい。ただし正極の状態では、作製工程における加圧等の影響で、正極活物質の粒子が、当該正極活物質の粒子の結晶面が一方向に揃うように配向している可能性がある。配向が強いと結晶子サイズが正確に算出できない恐れがあるため、正極から正極活物質層を取出し、溶媒等を用いて正極活物質層中のバインダ等をある程度取り除いてから試料ホルダに充填する等の方法でXRDの回折パターンを取得することがより好ましい。またシリコン無反射板上にグリースを塗布し、正極活物質等の粉体サンプルを当該シリコン無反射板に付着させるといった方法もある。
【0095】
結晶子サイズの算出には、たとえばBruker D8 ADVANCEを用い、X線源としてCuKα、2θは15°以上90°以下、increment 0.005、検出器をLYNXEYE XE-Tとして取得した回折パターンと、コバルト酸リチウムの文献値としてICSD coll.code.172909を用いることができる。結晶構造解析ソフトウェアとしてDIFFRAC.TOPAS ver.6を用いて解析を行うことができ、たとえば以下のように設定することができる。
Emission Profile:CuKa5.lam
Background:Chebychev polynomial、5次
Instrument
Primary radius:280mm
Secondary radius:280mm
Linear PSD
2Th angular range:2.9
FDS angle:0.3
Full Axial Convolution
Filament length:12mm
Sample length:15mm
Receiving Slit length:12mm
Primary Sollers:2.5
Secondary Sollers:2.5
Corrections
Specimen displacement:Refine
LP Factor:0
【0096】
上記の手法で算出されたいくつかの値のうち、LVol-IBの値を結晶子サイズとして採用することが好ましい。なお算出されたPreferred Orientationが0.8未満の場合、サンプル内であまりに多くの粒子が同じ向きであるため、当該サンプルは結晶子サイズを求めるには適さない場合がある。
【0097】
{添加元素の分布について}
正極活物質100の添加元素の分布について、放電状態(すなわちx=1の場合)を例にして説明する。表層部100aを安定な組成および結晶構造とするために、表層部100aは添加元素を有することが好ましく、添加元素を複数有することがより好ましい。また表層部100aは内部100bよりも添加元素から選ばれた一または二以上の濃度が高いことが好ましい。また正極活物質100が有する添加元素から選ばれた一または二以上は濃度勾配を有していることが好ましい。また正極活物質100は添加元素によって分布が異なっていることがより好ましい。たとえば添加元素によって濃度ピークの表面からの深さが異なっていることがより好ましい。ここでいう濃度ピークとは、表層部100aまたは表面から50nm以下における検出量の極大値をいうこととする。
【0098】
たとえば添加元素の一部、マグネシウム、フッ素、ニッケル、チタン、ケイ素、リン、ホウ素、カルシウム等は内部100bから表面に向かって高くなる濃度勾配を有することが好ましい。このような濃度勾配を有する元素を添加元素Xと呼ぶこととする。このとき、添加元素Xは内部100bに含まれない(観測されない、または検出下限以下である)場合もある。
【0099】
別の添加元素、たとえばアルミニウム、マンガン等は濃度勾配を有し、かつ添加元素Xよりも比較的深い領域に濃度のピークを有することが好ましい。濃度のピークは表層部100aに存在してもよいし、表層部100aより深くてもよい。たとえば表面から垂直または略垂直に5nm以上30nm以下の領域にピークを有することが好ましい。このような濃度勾配を有する元素を添加元素Yと呼ぶこととする。
【0100】
たとえば添加元素Xの一つであるマグネシウムは2価で、マグネシウムイオンは層状岩塩型の結晶構造における遷移金属Mサイトよりもリチウムサイトに存在する方が安定であるため、リチウムサイトに入りやすい。マグネシウムが表層部100aのリチウムサイトに適切な濃度で存在することで、層状岩塩型の結晶構造を保持しやすくできる。これはリチウムサイトに存在するマグネシウムが、CoO層同士を支える柱として機能するためと推測される。そのためLiCoO中のxがたとえば0.24以下の状態においてマグネシウムの周囲の酸素の脱離を抑制することができる。またマグネシウムが存在することで正極活物質100の密度が高くなることが期待できる。また表層部100aのマグネシウム濃度が高いと、電解液が分解して生じたフッ酸に対する耐食性が向上することも期待できる。
【0101】
マグネシウムは、適切な濃度であれば充放電に伴うリチウムイオンの挿入および脱離に悪影響を及ぼさないが、過剰であると悪影響が出る恐れがある。さらに結晶構造の安定化への効果が小さくなってしまう場合がある。これはマグネシウムが、リチウムサイトに加えて遷移金属Mサイトにも入るようになるためと考えられる。加えて、リチウムサイトにも遷移金属Mサイトにも置換しない、不要なマグネシウム化合物(酸化物、フッ化物等)が正極活物質の表面等に偏析し、二次電池の抵抗成分となる恐れがある。また正極活物質の放電容量が減少することがある。これはリチウムサイトにマグネシウムが置換するため、過剰であると充放電に寄与するリチウム量が減少するためと考えられる。
【0102】
そのため、正極活物質100全体が有するマグネシウムが適切な量であることが好ましい。たとえば本発明の一態様の正極活物質100が有する、遷移金属Mの和に対するマグネシウムの比(Mg/Co)は、0.25%以上5%以下が好ましく、0.5%以上2%以下がより好ましく、1%程度がさらに好ましい。ここでいう正極活物質100全体が有するマグネシウムの量とは、例えばGD-MS、ICP-MS等を用いて正極活物質100の全体の元素分析を行った値であってもよいし、正極活物質100の作製の過程における原料の配合の値に基づいたものであってもよい。
【0103】
また添加元素Xの一つであるニッケルは、遷移金属Mサイトとリチウムサイトのどちらにも存在しうる。遷移金属Mサイトに存在する場合、コバルトと比較して酸化還元電位が低くなるため放電容量増加につながり好ましい。
【0104】
またニッケルがリチウムサイトに存在する場合、遷移金属Mと酸素の8面体からなる層状構造のずれが抑制されうる。また充放電に伴う体積の変化が抑制される。また弾性係数が大きくなる、つまり硬くなる。これはリチウムサイトに存在するニッケルも、マグネシウムと同様CoO層同士を支える柱として機能するためと推測される。そのため特に高温、たとえば45℃以上での充電状態において結晶構造がより安定になることが期待でき好ましい。
【0105】
一方でニッケルが過剰であるとヤーン・テラー効果による歪みの影響が強まる恐れが生じる。またニッケルが過剰であるとリチウムイオンの挿入および脱離に悪影響が出る恐れがある。
【0106】
そのため正極活物質100全体が有するニッケルが適切な量であることが好ましい。たとえば正極活物質100が有するニッケルの原子数は、コバルトの原子数の0%を超えて7.5%以下が好ましく、0.05%以上4%以下が好ましく、0.1%以上2%以下が好ましく、0.2%以上1%以下がより好ましい。または0%を超えて4%以下が好ましい。または0%を超えて2%以下が好ましい。または0.05%以上7.5%以下が好ましい。または0.05%以上2%以下が好ましい。または0.1%以上7.5%以下が好ましい。または0.1%以上4%以下が好ましい。ここで示すニッケルの量は例えば、GD-MS、ICP-MS等を用いて正極活物質の全体の元素分析を行った値であってもよいし、正極活物質の作製の過程における原料の配合の値に基づいてもよい。
【0107】
また添加元素Yの一つであるアルミニウムは層状岩塩型の結晶構造における遷移金属Mサイトに存在しうる。アルミニウムは3価の典型元素であり価数が変化しないため、充放電の際もアルミニウム周辺のリチウムは移動しにくい。そのためアルミニウムとその周辺のリチウムが柱として機能し、結晶構造の変化を抑制しうる。またアルミニウムは周囲の遷移金属Mの溶出を抑制し、連続充電耐性を向上する効果がある。またAl-Oの結合はCo-O結合よりも強いため、アルミニウムの周囲の酸素の脱離を抑制することができる。これらの効果により、熱安定性が向上する。そのため添加元素Yとしてアルミニウムを有すると、二次電池に用いたときの安全性を向上できる。また充放電を繰り返しても結晶構造が崩れにくい正極活物質100とすることができる。
【0108】
一方でアルミニウムが過剰であるとリチウムイオンの挿入および脱離に悪影響が出る恐れがある。たとえば正極活物質100の全体が有するアルミニウムの原子数は、コバルトの原子数の0.05%以上4%以下が好ましく、0.1%以上2%以下が好ましく、0.3%以上1.5%以下がより好ましい。または0.05%以上2%以下が好ましい。または0.1%以上4%以下が好ましい。ここでいう正極活物質100全体が有する量とはたとえば、GD-MS、ICP-MS等を用いて正極活物質100の全体の元素分析を行った値であってもよいし、正極活物質100の作製の過程における原料の配合の値に基づいてもよい。
【0109】
また添加元素Xの一つであるフッ素は1価の陰イオンであり、表層部100aにおいて酸素の一部がフッ素に置換されていると、リチウムイオンの脱離エネルギーが小さくなる。これは、リチウムイオンの脱離に伴うコバルトイオンの価数の変化が、フッ素を有さない場合は3価から4価、フッ素を有する場合は2価から3価となり、酸化還元電位が異なることによる。そのため正極活物質100の表層部100aにおいて酸素の一部がフッ素に置換されていると、フッ素近傍のリチウムイオンの脱離および挿入がスムーズに起きやすいと言える。そのため正極活物質100を二次電池に用いたときに充放電特性、電流特性等を向上させることができる。また電解液に接する部分である表面を有する表層部100aにフッ素が存在することで、フッ酸に対する耐食性を効果的に向上させることができる。またフッ化リチウムをはじめとするフッ化物の融点が、他の添加元素源の融点より低い場合、その他の添加元素源の融点を下げる融剤(フラックス剤ともいう)として機能しうる。
【0110】
また添加元素Xの一つであるチタンの酸化物は超親水性を有することが知られている。そのため、表層部100aにチタン酸化物を有する正極活物質100とすることで、極性の高い溶媒に対して濡れ性がよくなる可能性がある。二次電池としたときに正極活物質100と、極性の高い電解液との界面の接触が良好となり、内部抵抗の上昇を抑制できる可能性がある。
【0111】
さらに表層部100aにマグネシウムとニッケルを併せて有する場合、2価のニッケルの近くでは2価のマグネシウムがより安定に存在できる可能性がある。そのためLiCoO中のxが小さい状態でもマグネシウムの溶出が抑制されうる。そのため表層部100aの安定化に寄与しうる。
【0112】
また添加元素Xと添加元素Yのように分布が異なる添加元素を併せて有すると、より広い領域の結晶構造を安定化でき好ましい。たとえば正極活物質100は添加元素Xの一部であるマグネシウムおよびニッケルと、添加元素Yの一であるアルミニウムと、を共に有すると、添加元素Xと添加元素Yの一方しか有さない場合よりも広い領域の結晶構造を安定化できる。このように正極活物質100が添加元素Xと添加元素Yを併せて有する場合は、表面の安定化はマグネシウム、ニッケル等の添加元素Xによって十分に果たせるため、アルミニウムなどの添加元素Yは表面に必須ではない。むしろアルミニウムは深い領域、たとえば表面からの深さが5nm以上50nm以内の領域に広く分布する方が、より広い領域の結晶構造を安定化でき好ましい。
【0113】
一方、添加元素の濃度が高すぎると、リチウムイオンの挿入脱離の経路が縮小してしまう恐れがある。そのため、十分にリチウムイオンの挿入脱離の経路を確保するために、表層部100aはマグネシウムよりもコバルトの濃度が高いことが好ましい。たとえばマグネシウムとコバルトの原子数の比Mg/Coは0.62以下であることが好ましい。また表層部100aはニッケルよりもコバルトの濃度が高いことが好ましい。また表層部100aはアルミニウムよりもコバルトの濃度が高いことが好ましい。また表層部100aはフッ素よりもコバルトの濃度が高いことが好ましい。
【0114】
また上述のような添加元素の濃度勾配に起因して、内部100bから、表面に向かって結晶構造が連続的に変化することが好ましい。または表層部100aと内部100bの結晶の配向が概略一致していることが好ましい。
【0115】
なお本明細書等において、リチウムとコバルトをはじめとする遷移金属Mを含む複合酸化物が有する、空間群R-3mに帰属する層状岩塩型の結晶構造とは、陽イオンと陰イオンが交互に配列する岩塩型のイオン配列を有し、遷移金属Mとリチウムがそれぞれ規則配列して二次元平面を形成するため、リチウムの二次元的拡散が可能である結晶構造をいう。なお陽イオンまたは陰イオンの欠損等の欠陥があってもよい。また、層状岩塩型結晶構造は、厳密に言えば、岩塩型結晶の格子が歪んだ構造となっている場合がある。
【0116】
また岩塩型の結晶構造とは、空間群Fm-3mをはじめとする立方晶系の結晶構造を有し、陽イオンと陰イオンが交互に配列している構造をいう。なお陽イオンまたは陰イオンの欠損があってもよい。
【0117】
二つの領域の結晶の配向が概略一致することは、TEM像、STEM像、HAADF-STEM(High-angle Annular Dark Field STEM、高角散乱環状暗視野走査透過電子顕微鏡)像、ABF-STEM(Annular Bright-Field STEM、環状明視野走査透過電子顕微鏡)像、eHCI-TEM(enhanced Hollow-Cone Illumination-TEM、改良ホローコーン照明透過電子顕微鏡)像、電子線回折パターン等から判断することができる。またTEM像のFFTパターン、およびSTEM像のFFTパターン等によっても判断することができる。さらにXRD、中性子線回折等も判断の材料にすることができる。
【0118】
図6に、層状岩塩型結晶LRSと岩塩型結晶RSの配向が概略一致しているTEM像の例を示す。TEM像、STEM像、HAADF-STEM像、ABF-STEM像等では、結晶構造を反映した像が得られる。
【0119】
たとえばTEMの高分解能像等では、結晶面に由来するコントラストが得られる。電子線の回折および干渉によって、たとえば層状岩塩型の複合六方格子のc軸と垂直に電子線が入射した場合、(0003)面に由来するコントラストが明るい帯(明るいストリップ)と暗い帯(暗いストリップ)の繰り返しとして得られる。そのためTEM像において明線と暗線の繰り返しが観察され、明線同士(たとえば図6に示すLRSとLLRS)または暗線同士の角度が0度以上5度以下、好ましくは2.5度以下である場合、結晶面が概略一致している、すなわち結晶の配向が概略一致していると判断することができる。
【0120】
またHAADF-STEM像では、原子番号に比例したコントラストが得られ、原子番号が大きい元素ほど明るく観察される。たとえばコバルト酸リチウムの場合、最も原子番号の大きいコバルト原子の配列が明線もしくは強い輝度の点の配列として観察される。c軸と垂直な向きから観察した場合、c軸と垂直な方向にコバルト原子の配列が明線もしくは強い輝度の点の配列として観察され、リチウム原子、酸素原子の配列は暗線もしくは輝度の低い領域として観察される。
【0121】
そのためHAADF-STEM像において、結晶構造の異なる二つの領域で明線と暗線の繰り返しが観察され、明線同士または暗線同士の角度が5度以下、好ましくは2.5度以下である場合、原子の配列が概略一致し、結晶の配向が概略一致していると判断することができる。
【0122】
なおABF-STEMでは原子番号が小さい元素ほど明るく観察されるが、原子番号に応じたコントラストが得られる点ではHAADF-STEMと同様であるため、HAADF-STEM像と同様に結晶の配向を判断することができる。
【0123】
図7(A)に層状岩塩型結晶LRSと岩塩型結晶RSの配向が概略一致しているSTEM像の例を示す。岩塩型結晶RSの領域のFFTを図7(B)に、層状岩塩型結晶LRSの領域のFFTを図7(C)に示す。図7(B)および図7(C)の左に組成、JCPDS(Joint Committee on Powder Diffraction Standard)のカードナンバー、およびこれから計算されるd値および角度を示す。右に実測値を示す。Oを付したスポットは0次回折であり、該スポットの中心位置にXを付す。
【0124】
図7(B)でAを付したスポットは立方晶の11-1反射に由来するものである。図7(C)でAを付したスポットは層状岩塩型の0003反射に由来するものである。図7(B)および図7(C)から、立方晶の11-1反射の方位と、層状岩塩型の0003反射の方位と、が概略一致していることがわかる。すなわち図7(B)のAOを通る直線と、図7(C)のAOを通る直線と、が概略平行であることがわかる。ここでいう概略一致および概略平行とは、角度が0度以上5度以下、好ましくは0度以上2.5度以下であることをいう。
【0125】
このようにFFTおよび電子線回折では、層状岩塩型結晶と岩塩型結晶の配向が概略一致していると、層状岩塩型の〈0003〉方位と、岩塩型の〈11-1〉方位と、が概略一致する。
【0126】
また、上述のように立方晶の11-1反射の方位と、層状岩塩型の0003反射の方位と、が概略一致している場合、電子線の入射方位によっては、層状岩塩型の0003反射の方位とは異なる逆格子空間上に、層状岩塩型の0003反射由来ではないスポットが観測されることがある。例えば図7(C)でBを付したスポットは、層状岩塩型の10-14反射に由来するものである。同様に立方晶の11-1反射が観測された方位とは別の逆格子空間上に、立方晶の11-1反射由来ではないスポットが観測されることがある。例えば、図7(B)でBを付したスポットは、立方晶の200反射に由来するものである。
【0127】
なお、結晶の配向の一致について判断したいときは、層状岩塩型の(0003)面が観察しやすいよう薄片化することが好ましい。そのためTEM等において電子線がたとえば[1-210]入射となるように観察サンプルをFIB等で薄片加工することが好ましい。コバルト酸リチウムをはじめとする層状岩塩型の正極活物質は、(0003)面およびこれと等価な面、並びに(10-14)面およびこれと等価な面が結晶面として現れやすいことが知られている。そのため正極活物質の形状をSEM等でよく観察することで、(0003)面が観察しやすいように観察サンプルを薄片化することが可能である。
【0128】
{xが小さい状態}
本発明の一態様の正極活物質100は、放電状態において上述のような添加元素の分布及び結晶構造を有することに起因して、LiCoO中のxが小さい状態での結晶構造が、従来の正極活物質と異なる。なおここでxが小さいとは、0.1<x≦0.24をいうこととする。
【0129】
以下、LiCoO中のxの変化に伴う結晶構造の変化について、従来の正極活物質と本発明の一態様の正極活物質100を比較しながら説明する。
【0130】
従来の正極活物質の結晶構造の変化を図5に示す。図5に示す従来の正極活物質は、特に添加元素を有さないコバルト酸リチウム(LiCoO)である。特に添加元素を有さないコバルト酸リチウムの結晶構造の変化は非特許文献1乃至非特許文献4等に述べられている。また図5に示すような結晶構造の描画には、例えばVESTA(非特許文献5)などを用いることができる。
【0131】
図5の左側にR-3m O3を付してLiCoO中のx=1のコバルト酸リチウムが有する結晶構造を示す。この結晶構造は、ユニットセル中にCoO層が3層存在し、リチウムがCoO層間に位置する。またリチウムは酸素が6配位した8面体(Octahedral)サイトを占有する。そのためこの結晶構造をO3型結晶構造と呼ぶ場合がある。なお、CoO層とはコバルトに酸素が6配位した8面体構造が、稜共有の状態で平面に連続した構造をいうこととする。これをコバルトと酸素の8面体からなる層、という場合もある。R-3m O3はユニットセルにおけるリチウム、コバルトおよび酸素の座標を、Li(0、0、0)Co(0、0、0.5)O(0、0、0.23951)と表すことができる。
【0132】
また従来のコバルト酸リチウムは、x=0.5程度のときリチウムの対称性が高まり、単斜晶系の空間群P2/mに帰属する結晶構造を有することが知られている。この構造はユニットセル中にCoO層が1層存在する。そのためO1型、または単斜晶O1型と呼ぶ場合がある。
【0133】
またx=0のときの正極活物質は、三方晶系の空間群P-3m1の結晶構造を有し、やはりユニットセル中にCoO層が1層存在する。そのためこの結晶構造を、O1型、または三方晶O1型と呼ぶ場合がある。また三方晶を複合六方格子に変換し、六方晶O1型と呼ぶ場合もある。
【0134】
またx=0.12程度のときの従来のコバルト酸リチウムは、空間群R-3mの結晶構造を有する。この構造は、三方晶O1型のようなCoOの構造と、R-3m O3のようなLiCoOの構造と、が交互に積層された構造ともいえる。そのためこの結晶構造を、H1-3型結晶構造と呼ぶ場合がある。なお、実際のリチウムイオンの挿入脱離にはムラが生じうるため、実験的にはx=0.25程度からH1-3型結晶構造が観測される。また実際にはH1-3型結晶構造は、ユニットセルあたりのコバルト原子の数が他の構造の2倍となっている。しかし図5をはじめ本明細書では、他の結晶構造と比較しやすくするためH1-3型結晶構造のc軸をユニットセルの1/2にした図で示すこととする。
【0135】
H1-3型結晶構造は一例として、非特許文献3に記載があるように、ユニットセルにおけるコバルトと酸素の座標を、Co(0、0、0.42150±0.00016)、O1(0、0、0.27671±0.00045)、O2(0、0、0.11535±0.00045)と表すことができる。O1およびO2はそれぞれ酸素原子である。正極活物質が有する結晶構造をいずれのユニットセルを用いて表すべきかは、例えばXRDパターンのリートベルト解析により判断することができる。この場合はGOF(goodness of fit)の値が小さくなるユニットセルを採用すればよい。
【0136】
LiCoO中のxが0.24以下になるような充電と、放電とを繰り返すと、従来のコバルト酸リチウムはH1-3型結晶構造と、放電状態のR-3m O3の構造と、の間で結晶構造の変化(つまり非平衡な相変化)を繰り返すことになる。
【0137】
しかしながら、これらの2つの結晶構造は、CoO層のずれが大きい。図5に点線および矢印で示すように、H1-3型結晶構造では、CoO層が放電状態のR-3m O3から大きくずれている。このようなダイナミックな構造変化は、結晶構造の安定性に悪影響を与えうる。さらにこれらの2つの結晶構造は体積の差も大きい。同数のコバルト原子あたりで比較した場合、H1-3型結晶構造と放電状態のR-3m O3型結晶構造の体積の差は3.5%を超え、代表的には3.9%以上である。
【0138】
そのため、xが0.24以下になるような充電と、放電を繰り返すと従来のコバルト酸リチウムの結晶構造は崩れていく。結晶構造の崩れが、サイクル特性の悪化を引き起こす。これは、結晶構造が崩れることで、リチウムイオンが安定して存在できるサイトが減少し、またリチウムイオンの挿入脱離が難しくなるためである。
【0139】
続いて、本発明の一態様の正極活物質100について説明する。図4に、本発明の一態様の正極活物質100の結晶構造を示す。ここでは、LiCoO中のxが1および0.2程度のときに正極活物質100の内部100bが有する結晶構造を並べて示している。内部100bは正極活物質100の体積の大半を占め、充放電に大きく寄与する部分であるため、CoO層のずれおよび体積の変化が最も問題となる部分といえる。
【0140】
本発明の一態様の正極活物質100では、LiCoO中のxが1の放電状態と、xが0.24以下の状態における結晶構造の変化が従来の正極活物質よりも少ない。より具体的には、xが1の状態と、xが0.24以下の状態におけるCoO層のずれを小さくすることができる。またコバルト原子あたりで比較した場合の体積の変化を小さくすることができる。よって、本発明の一態様の正極活物質100は、xが0.24以下になるような充電と、放電を繰り返しても結晶構造が崩れにくく、優れたサイクル特性を実現することができる。また、本発明の一態様の正極活物質100は、LiCoO中のxが0.24以下の状態において従来の正極活物質よりも安定な結晶構造を取り得る。よって、本発明の一態様の正極活物質100は、LiCoO中のxが0.24以下の状態を保持した場合において、ショートが生じづらい。そのような場合には二次電池の安全性がより向上し好ましい。
【0141】
正極活物質100はx=1のとき、従来のコバルト酸リチウムと同じR-3m O3の結晶構造を有する。しかし正極活物質100は、xが小さい値(0.24以下、たとえば0.2程度または0.12程度)のときでも、H1-3型結晶構造とは異なる結晶構造を取りうる。
【0142】
具体的には、x=0.2程度のときの本発明の一態様の正極活物質100は、三方晶系の空間群R-3mに帰属される結晶構造を有する。これはCoO層の対称性がO3と同じである。よって、この結晶構造をO3’型結晶構造と呼ぶこととする。図4にR-3m O3’を付してこの結晶構造を示す。
【0143】
O3’型の結晶構造は、ユニットセルにおけるコバルトと酸素の座標を、Co(0,0,0.5)、O(0,0,x)、0.20≦x≦0.25の範囲内で示すことができる。またユニットセルの格子定数は、a軸は0.2797nm≦a≦0.2837nmが好ましく、0.2807nm≦a≦0.2827nmがより好ましく、代表的にはa=0.2817nmである。c軸は1.3681nm≦c≦1.3881nmが好ましく、1.3751nm≦c≦1.3811nmがより好ましく、代表的にはc=1.3781nmである。
【0144】
O3’型結晶構造は、コバルト、ニッケル、マグネシウム等のイオンが酸素6配位位置を占める。なおリチウムなどの軽元素は酸素4配位位置を占める場合がありうる。
【0145】
図4中に点線で示すように、放電状態のR-3m(O3)と、O3’型結晶構造とではCoO層のずれがほとんどない。
【0146】
また放電状態のR-3m(O3)と、O3’型結晶構造の同数のコバルト原子あたりの体積の差は2.5%以下、より詳細には2.2%以下、代表的には1.8%である。
【0147】
このように本発明の一態様の正極活物質100では、リチウムイオンが詰まった状態からリチウムイオンが多く脱離した状態における結晶構造の変化、及び、同数のコバルト原子あたりで比較した場合の体積の変化が、従来の正極活物質よりも抑制されている。そのため正極活物質100は、充電時にxが0.24以下になるような充電と、放電を繰り返しても結晶構造が崩れにくく、充放電サイクルにおける充放電容量が低下しにくい。また従来の正極活物質よりも多くのリチウムを安定して利用できるため、正極活物質100は重量あたりおよび体積あたりの放電容量が大きい。そのため正極活物質100を用いることで、重量あたりおよび体積あたりの放電容量の高い二次電池を作製できる。
【0148】
なお、リチウムイオンの挿入脱離の度合いにはムラがあるため、正極活物質100はLiCoO中のxが0.1を超えて0.24以下のときであっても、正極活物質100の内部100bのすべてがO3’型の結晶構造でなくてもよい。他の結晶構造を含んでいてもよいし、一部が非晶質であってもよい。
【0149】
またLiCoO中のxが小さい状態にするには、一般的には高い充電電圧で充電する必要がある。そのためLiCoO中のxが小さい状態を、高い充電電圧で充電した状態と言い換えることができる。たとえばリチウム金属の電位を基準として4.6V以上の電圧で、25℃の環境でCC/CV充電すると、従来の正極活物質ではH1-3型結晶構造が現れる。そのためリチウム金属の電位を基準として4.6V以上の充電電圧は高い充電電圧ということができる。また本明細書等において、特に言及しない場合、充電電圧はリチウム金属の電位を基準として表すとする。
【0150】
そのため本発明の一態様の正極活物質100は、高い充電電圧、たとえば25℃において4.6V以上の電圧で充電しても、R-3m O3の対称性を有する結晶構造を保持できるため好ましい、と言い換えることができる。またより高い充電電圧、例えば25℃において4.65V以上4.7V以下の電圧で充電したときO3’型の結晶構造を取り得るため好ましい、と言い換えることができる。
【0151】
正極活物質100でもさらに充電電圧を高めるとようやく、H1-3型結晶構造が観測される場合がある。また上述したように結晶構造は充放電サイクル数、充放電電流、温度、電解質等の影響を受けるため、充電電圧がより低い場合、たとえば充電電圧が25℃において4.5V以上4.6V未満でも、本発明の一態様の正極活物質100はO3’型結晶構造を取り得る場合が有る。
【0152】
なお、二次電池において例えば負極活物質として黒鉛を用いる場合、上記よりも黒鉛の電位とリチウム金属の電位の差分だけ二次電池の電圧が低下する。黒鉛の電位はリチウム金属の電位を基準として0.05V乃至0.2V程度である。そのため負極活物質として黒鉛を用いた二次電池の場合は、上記の電圧から黒鉛の電位を差し引いた電圧のとき同様の結晶構造を有する。
【0153】
また図4のO3’ではリチウムが全てのリチウムサイトに等しい確率で存在するように示したが、これに限らない。一部のリチウムサイトに偏って存在していてもよいし、たとえば図5に示す単斜晶O1(Li0.5CoO)のような対称性を有していてもよい。リチウムの分布は、たとえば中性子線回折により分析することができる。
【0154】
また添加元素の濃度勾配は、正極活物質100の表層部100aの複数個所において同じような勾配であることが好ましい。つまり添加元素に由来するバリア膜が表層部100aに均質に存在することが好ましい。表層部100aの一部に補強があっても、補強のない部分が存在すれば、ない部分に応力が集中する恐れがある。正極活物質100の一部に応力が集中すると、そこからクラック等の欠陥が生じ、正極活物質の割れおよび放電容量の低下につながる恐れがある。
【0155】
[結晶粒界]
本発明の一態様の正極活物質100が有する添加元素は、上記のような分布に加え、少なくとも一部は結晶粒界101およびその近傍に偏在していることがより好ましい。
【0156】
なお本明細書等において、偏在とはある領域における元素の濃度が他の領域と異なることをいう。偏析、析出、不均一、偏り、または濃度が高い箇所と濃度が低い箇所が混在する、と同義である。
【0157】
たとえば正極活物質100の結晶粒界101およびその近傍のマグネシウム濃度が、内部100bの他の領域よりも高いことが好ましい。また結晶粒界101およびその近傍のフッ素濃度も内部100bの他の領域より高いことが好ましい。また結晶粒界101およびその近傍のニッケル濃度も内部100bの他の領域より高いことが好ましい。また結晶粒界101およびその近傍のアルミニウム濃度も内部100bの他の領域より高いことが好ましい。
【0158】
結晶粒界101は面欠陥の一つである。そのため粒子表面と同様不安定になりやすく結晶構造の変化が始まりやすい。そのため、結晶粒界101およびその近傍の添加元素濃度が高ければ、結晶構造の変化をより効果的に抑制することができる。
【0159】
また、結晶粒界101およびその近傍のマグネシウム濃度およびフッ素濃度が高い場合、本発明の一態様の正極活物質100の結晶粒界101に沿ってクラックが生じた場合でも、クラックにより生じた表面の近傍でマグネシウム濃度およびフッ素濃度が高くなる。そのためクラックが生じた後の正極活物質においてもフッ酸に対する耐食性を高めることができる。
【0160】
[粒径]
本発明の一態様の正極活物質100の粒径は、大きすぎるとリチウムイオンの拡散が難しくなる、集電体に塗工したときに活物質層の表面が粗くなりすぎる、等の問題がある。一方、小さすぎると、電解液との反応が過剰に進む等の問題点も生じる。そのため、メディアン径(D50)が、1μm以上100μm以下が好ましく、2μm以上40μm以下であることがより好ましく、5μm以上30μm以下がさらに好ましい。または1μm以上40μm以下が好ましい。または1μm以上30μm以下が好ましい。または2μm以上100μm以下が好ましい。または2μm以上30μm以下が好ましい。または5μm以上100μm以下が好ましい。または5μm以上40μm以下が好ましい。
【0161】
また、粒径の異なる粒子を混合して正極に用いると、電極密度を増大させることができ、エネルギー密度の高い二次電池とすることができ好ましい。相対的に粒径の小さい正極活物質100は充放電レート特性が高いことが期待される。相対的に粒径の大きい正極活物質100は、充放電サイクル特性が高く、放電容量を高く保てることが期待される。
【0162】
また、メディアン径(D50)の異なる粒子を混合して正極に用いたとき、正極活物質の表面から順にリチウムイオンが脱離すると考えると、LiCoO中のxが低下する速度が、相対的に粒径の小さい正極活物質100が、相対的に粒径の大きい正極活物質100よりもはやい。そのため、粒径の異なる粒子を混合した正極活物質に粉末XRD測定を行うと、O3’型結晶構造と、単斜晶O1(15)型結晶構造とがともに検出されることがある。
【0163】
[分析方法]
{結晶構造の評価}
ある正極活物質が、LiCoO中のxが小さいときO3’型および/または単斜晶O1(15)型の結晶構造を有する本発明の一態様の正極活物質100であるか否かは、LiCoO中のxが小さい正極活物質を有する正極を、XRD、電子線回折、中性子線回折、電子スピン共鳴(ESR)、核磁気共鳴(NMR)等を用いて解析することで判断できる。
【0164】
特にXRDは、正極活物質が有するコバルト等の遷移金属の対称性を高分解能で解析できる、結晶性の高さおよび結晶の配向性を比較できる、格子の周期性歪みおよび結晶子サイズの解析ができる、二次電池を解体して得た正極をそのまま測定しても十分な精度を得られる、等の点で好ましい。XRDのなかでも粉末XRDでは、正極活物質100の体積の大半を占める正極活物質100の内部100bの結晶構造を反映した回折ピークが得られる。
【0165】
なお粉末XRDで結晶子サイズを解析する場合、加圧等による配向の影響を除いて測定することが好ましい。たとえば二次電池を解体して得た正極から正極活物質を取り出し、粉末サンプルとしてから測定することが好ましい。
【0166】
本発明の一態様の正極活物質100は、これまで述べたようにLiCoO中のxが1のときと、0.24以下のときで結晶構造の変化が少ないことが特徴である。高電圧で充電したとき、結晶構造の変化が大きな結晶構造が50%以上を占める材料は、高電圧の充電と放電との繰り返しに耐えられないため好ましくない。
【0167】
また添加元素を添加するだけではO3’型または単斜晶O1(15)型の結晶構造をとらない場合があることに注意が必要である。例えばマグネシウムおよびフッ素を有するコバルト酸リチウム、またはマグネシウムおよびアルミニウムを有するコバルト酸リチウム、という点で共通していても、添加元素の濃度および分布次第で、LiCoO中のxが0.24以下でO3’型および/または単斜晶O1(15)型の結晶構造が60%以上になる場合と、H1-3型結晶構造が50%以上を占める場合と、がある。
【0168】
また本発明の一態様の正極活物質100でも、xが0.1以下など小さすぎる場合、または充電電圧が4.9Vを超えるような条件ではH1-3型または三方晶O1型の結晶構造が生じる場合もある。そのため、本発明の一態様の正極活物質100であるか否かを判断するには、XRDをはじめとする結晶構造についての解析と、充電容量または充電電圧等の情報が必要である。
【0169】
ただし、xが小さい状態の正極活物質は、大気に触れると結晶構造の変化を起こす場合がある。例えばO3’型および単斜晶O1(15)型の結晶構造からH1-3型結晶構造に変化する場合がある。そのため、結晶構造の分析に供するサンプルはすべてアルゴン雰囲気等の不活性雰囲気でハンドリングすることが好ましい。
【0170】
またある正極活物質が有する添加元素の分布が、上記で説明したような状態であるか否かは、たとえばXPS、エネルギー分散型X線分光法(EDX:Energy Dispersive X-ray Spectroscopy)、EPMA(電子プローブ微小分析)等を用いて解析することで判断できる。
【0171】
また表層部100a、結晶粒界101等の結晶構造は、正極活物質100の断面の電子線回折等で分析することができる。
【0172】
{XRD}
適切な調整と較正があればXRD測定の装置および条件は特に限定されない。たとえばBruker AXS社製、D8 ADVANCEなどを用いることができる。
【0173】
図8には線源にCuKαを用いたときの、O3型の結晶構造と、O3’型の結晶構造と、単斜晶O1(15)型の結晶構造の回折プロファイルを示す。また図9には、H1-3型結晶構造のモデル、及び三方晶O1の結晶構造から計算される、CuKα線による理想的なXRDパターンとも示す。図10(A)および図10(B)は、それぞれ上述したXRDパターンの一部を並べて示したものであり、2θの範囲が18°以上21°以下、42°以上46°以下をそれぞれ示す。
【0174】
なお、LiCoO(O3)およびCoO(O1)のパターンはICSD(Inorganic Crystal Structure Database)(非特許文献6参照)より入手した結晶構造情報からMaterials Studio(BIOVIA)のモジュールの一つである、Reflex Powder Diffractionを用いて作成した。またH1-3型結晶構造のパターンは非特許文献3に記載の結晶構造情報から同様に作成した。O3’型および単斜晶O1(15)型の結晶構造のパターンは本発明の一態様の正極活物質100のXRDパターンから結晶構造を推定し、TOPAS ver.3(Bruker社製結晶構造解析ソフトウェア)を用いてフィッティングしたものである。
【0175】
図8図10(A)および図10(B)に示すように、O3’型の結晶構造では、2θ=19.25±0.12°(19.13°以上19.37°未満)、および2θ=45.47±0.10°(45.37°以上45.57°未満)に回折ピークが出現する。
【0176】
また単斜晶O1(15)型の結晶構造では、2θ=19.47±0.10°(19.37°以上19.57°以下)、および2θ=45.62±0.05°(45.57°以上45.67°以下)に回折ピークが出現する。
【0177】
しかし図9図10(A)および図10(B)に示すように、H1-3型結晶構造および三方晶O1ではこれらの位置にピークは出現しない。そのため、LiCoO中のxが小さい状態で19.13°以上19.37°未満および/または19.37°以上19.57°以下、並びに45.37°以上45.57°未満および/または45.57°以上45.67°以下にピークが出現することは、本発明の一態様の正極活物質100の特徴であるといえる。
【0178】
これは、x=1と、x≦0.24の結晶構造で、XRDの回折ピークが出現する位置が近いということもできる。より具体的には、x=1と、x≦0.24の結晶構造の主な回折ピークのうち2θが42°以上46°以下に出現するピークについて、2θの差が、0.7°以下、より好ましくは0.5°以下であるということができる。
【0179】
なお、本発明の一態様の正極活物質100はLiCoO中のxが小さいときO3’型および/または単斜晶O1(15)型の結晶構造を有するが、粒子のすべてがO3’型および/または単斜晶O1(15)型の結晶構造でなくてもよい。他の結晶構造を含んでいてもよいし、一部が非晶質であってもよい。ただし、XRDパターンについてリートベルト解析を行ったとき、O3’型および/または単斜晶O1(15)型の結晶構造が50%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましく、66%以上であることがさらに好ましい。O3’型および/または単斜晶O1(15)型の結晶構造が50%以上、より好ましくは60%以上、さらに好ましくは66%以上あれば、十分にサイクル特性に優れた正極活物質とすることができる。
【0180】
また、測定開始から100サイクル以上の充放電を経ても、リートベルト解析を行ったときO3’型および/または単斜晶O1(15)型の結晶構造が35%以上であることが好ましく、40%以上であることがより好ましく、43%以上であることがさらに好ましい。
【0181】
また、同様にリートベルト解析を行ったとき、H1-3型およびO1型結晶構造が50%以下であることが好ましい。または34%以下であることがより好ましい。または実質的に観測されないことがさらに好ましい。
【0182】
またXRDパターンにおける回折ピークの鋭さは結晶性の高さを示す。そのため、充電後の各回折ピークは鋭い、すなわち半値幅、たとえば半値全幅が狭い方が好ましい。半値幅は、同じ結晶相から生じたピークでも、XRDの測定条件および2θの値によっても異なる。上述した測定条件の場合は、2θ=43°以上46°以下に観測されるピークにおいて、半値全幅は例えば0.2°以下が好ましく、0.15°以下がより好ましく、0.12°以下がさらに好ましい。なお必ずしも全てのピークがこの要件を満たしていなくてもよい。一部のピークがこの要件を満たせば、その結晶相の結晶性が高いことがいえる。このような高い結晶性は、十分に充電後の結晶構造の安定化に寄与する。
【0183】
また、正極活物質100が有するO3’型および単斜晶O1(15)の結晶構造の結晶子サイズは、放電状態のLiCoO(O3)の1/20程度までしか低下しない。そのため、充放電前の正極と同じXRDの測定条件であっても、LiCoO中のxが小さいとき明瞭なO3’型および/または単斜晶O1(15)の結晶構造のピークが確認できる。一方従来のLiCoOでは、一部がO3’型および/または単斜晶O1(15)の結晶構造に似た構造を取りえたとしても、結晶子サイズが小さくなり、ピークはブロードで小さくなる。結晶子サイズは、XRDピークの半値幅から求めることができる。
【0184】
本発明の一態様の正極活物質100においては、前述の通りヤーン・テラー効果の影響が小さいことが好ましい。ヤーン・テラー効果の影響が小さい範囲であれば、コバルトの他に添加元素としてニッケル、マンガン等の遷移金属を有してもよい。
【0185】
正極活物質において、XRD分析を用いて、ヤーン・テラー効果の影響が小さいと推測されるニッケルおよびマンガンの割合および格子定数の範囲について考察する。
【0186】
図11は、本発明の一態様の正極活物質100が層状岩塩型の結晶構造を有し、コバルトとニッケルを有する場合において、XRDを用いてa軸およびc軸の格子定数を算出した結果を示す。図11(A)がa軸、図11(B)がc軸の結果である。なお、これらの算出に用いたXRDパターンは、正極活物質の合成を行った後の粉体であり、正極に組み込む前のものである。横軸のニッケル濃度は、コバルトとニッケルの原子数の和を100%とした場合のニッケルの濃度を示す。
【0187】
図11(C)には、図11(A)および図11(B)に格子定数の結果を示した正極活物質について、a軸の格子定数をc軸の格子定数で割った値(a軸/c軸)を示す。
【0188】
図11(C)より、ニッケル濃度が5%と7.5%ではa軸/c軸が顕著に変化する傾向がみられ、ニッケル濃度7.5%ではa軸の歪みが大きくなっている。この歪みは三価のニッケルのヤーン・テラー歪みに起因する可能性がある。ニッケル濃度が7.5%未満において、ヤーン・テラー歪みの小さい、優れた正極活物質が得られることが示唆される。
【0189】
なお、上記のニッケル濃度の範囲は、表層部100aにおいては必ずしもあてはまらない。すなわち、表層部100aにおいては、上記の濃度より高くてもよい。
【0190】
以上より、格子定数の好ましい範囲について考察を行ったところ、本発明の一態様の正極活物質において、XRDパターンから推定できる、充放電を行わない状態、あるいは放電状態の正極活物質100が有する層状岩塩型の結晶構造において、a軸の格子定数が2.814×10-10mより大きく2.817×10-10mより小さく、かつc軸の格子定数が14.05×10-10mより大きく14.07×10-10mより小さいことが好ましいことがわかった。充放電を行わない状態とは例えば、二次電池の正極を作製する前の粉体の状態であってもよい。
【0191】
あるいは、充放電を行わない状態、あるいは放電状態の正極活物質100が有する層状岩塩型の結晶構造において、a軸の格子定数をc軸の格子定数で割った値(a軸/c軸)が0.20000より大きく0.20049より小さいことが好ましい。
【0192】
あるいは、充放電を行わない状態、あるいは放電状態の正極活物質100が有する層状岩塩型の結晶構造において、XRD分析をしたとき、2θが18.50°以上19.30°以下に第1のピークが観測され、かつ2θが38.00°以上38.80°以下に第2のピークが観測される場合がある。
【0193】
{XPS}
XPSは、無機酸化物の場合で、X線源として単色アルミニウムのKα線を用いると、表面から2乃至8nm程度(通常5nm以下)の深さまでの領域の分析が可能であるため、表層部100aの深さに対して約半分の領域について、各元素の濃度を定量的に分析することができる。また、ナロースキャン分析をすれば元素の結合状態を分析することができる。なおXPSの定量精度は多くの場合±1atomic%程度、検出下限は元素にもよるが約1atomic%である。
【0194】
XPS分析を行う場合には例えば、X線源として単色化アルミニウムKα線を用いることができる。また、取出角は例えば45°とすればよい。測定装置として、例えばPHI 社製QuanteraIIを用いることができる。
【0195】
本発明の一態様の正極活物質100についてXPS分析をしたとき、コバルトの原子数に対して、マグネシウムの原子数は0.4倍以上1.2倍以下が好ましく、0.65倍以上1.0倍以下がより好ましい。またコバルトの原子数に対して、ニッケルの原子数は0.15倍以下が好ましく、0.03倍以上0.13倍以下がより好ましい。またコバルトの原子数に対して、アルミニウムの原子数は0.12倍以下が好ましく、0.09倍以下がより好ましい。またコバルトの原子数に対して、フッ素の原子数は0.3倍以上0.9倍以下が好ましく、0.1倍以上1.1倍以下がより好ましい。上記のような範囲であることは、これらの添加元素が正極活物質100の表面の狭い範囲に付着するのではなく、正極活物質100の表層部100aに好ましい濃度で広く分布していることを示すといえる。
【0196】
本発明の一態様の正極活物質100についてXPS分析したとき、フッ素と他の元素の結合エネルギーを示すピークは682eV以上685eV未満であることが好ましく、684.3eV程度であることがさらに好ましい。これは、フッ化リチウムの結合エネルギーである685eV、およびフッ化マグネシウムの結合エネルギーである686eVのいずれとも異なる値である。
【0197】
さらに、本発明の一態様の正極活物質100についてXPS分析したとき、マグネシウムと他の元素の結合エネルギーを示すピークは、1302eV以上1304eV未満であることが好ましく、1303eV程度であることがさらに好ましい。これは、フッ化マグネシウムの結合エネルギーである1305eVと異なる値であり、酸化マグネシウムの結合エネルギーに近い値である。
【0198】
{EDX、EELS}
正極活物質100が有する添加元素から選ばれた一または二以上は濃度勾配を有していることが好ましい。また正極活物質100は添加元素によって、濃度ピークの表面からの深さが異なっていることがより好ましい。添加元素の濃度勾配はたとえば、FIB等により正極活物質100の断面を露出させ、その断面をEDX、EELS、またはEPMA等を用いて分析することで評価できる。
【0199】
EDX測定及びEELS測定のうち領域内を走査しながら測定し、領域内を2次元に評価することを面分析と呼ぶ。また線状に走査しながら測定し原子濃度について正極活物質内の分布を評価することを線分析と呼ぶ。さらにEDXまたはEELSの面分析から線状の領域のデータを抽出したものを線分析と呼ぶ場合もある。またある領域について走査せずに測定することを点分析と呼ぶ。
【0200】
面分析(例えば元素マッピング)により、正極活物質100の表層部100a、内部100bおよび結晶粒界101近傍等における、添加元素の濃度を定量的に分析することができる。また、線分析により、添加元素の濃度分布および最大値を分析することができる。またサンプルを薄片化したサンプルを用いる分析は、奥行き方向の分布の影響を受けずに、特定の領域における正極活物質の表面から中心に向かった深さ方向の濃度分布を分析でき、より好適である。
【0201】
そのため本発明の一態様の正極活物質100について面分析または点分析したとき、表層部100aの各添加元素、特に添加元素Xの濃度が、内部100bのそれよりも高いことが好ましい。
【0202】
ここで、線分析結果における正極活物質100の表面は、たとえば以下のように推定することができる。正極活物質100の内部100bにおいて均一に存在する元素、たとえば酸素またはコバルトについて、内部100bの検出量の1/2となった点を表面とすることができる。
【0203】
正極活物質100は複合酸化物であるため、酸素の検出量を用いて表面を推定することができる。具体的には、まず内部100bの酸素の検出量が安定している領域から酸素濃度の平均値Oaveを求める。このとき明らかに表面より外と判断できる領域に化学吸着またはバックグラウンドによると考えられる酸素Obgが検出される場合は、測定値からObgを減じて酸素濃度の平均値Oaveとすることができる。この平均値Oaveの1/2の値に最も近い測定値を示した測定点を、正極活物質の表面であると推定することができる。
【0204】
またコバルトの検出量を用いても上記と同様に表面を推定することができる。または複数の遷移金属の検出量の和を用いて同様に推定することもできる。コバルトをはじめとする遷移金属の検出量は化学吸着の影響を受けにくい点で、表面の推定に好適である。
【0205】
[追加の特徴]
正極活物質100は凹部、クラック、窪み、断面V字形などを有する場合がある。これらは欠陥の一つであり、充放電を繰り返すとこれらからコバルトの溶出、結晶構造の崩れ、正極活物質100の割れ、酸素の脱離などが生じる恐れがある。しかしこれらを埋め込むように図3(B)に示すような埋め込み部102が存在すると、コバルトの溶出などを抑制することができる。そのため信頼性およびサイクル特性の優れた正極活物質100とすることができる。
【0206】
上述したように正極活物質100が有する添加元素は、過剰であるとリチウムイオンの挿入および脱離に悪影響が出る恐れがある。また正極活物質100を二次電池に用いたときに内部抵抗の上昇、充放電容量の低下等を招く恐れもある。一方、不足であると表層部100a全体に分布せず、結晶構造の劣化を抑制する効果が不十分になる恐れがある。このように添加元素は正極活物質100において適切な濃度である必要があるが、その調整は容易ではない。
【0207】
そのため正極活物質100が、添加元素が偏在する領域を有していると、過剰な添加元素の原子の一部が正極活物質100の内部100bから除かれ、内部100bにおいて適切な添加元素濃度とすることができる。これにより二次電池としたときの内部抵抗の上昇、充放電容量の低下等を抑制することができる。二次電池の内部抵抗の上昇を抑制できることは、特に大電流での充放電、たとえば400mA/g以上での充放電において極めて好ましい特性である。
【0208】
また添加元素が偏在している領域を有する正極活物質100では、作製工程においてある程度過剰に添加元素を混合することが許容される。そのため生産におけるマージンが広くなり好ましい。
【0209】
また正極活物質100の表面の少なくとも一部に、被覆部が付着していてもよい。図12に被覆部104が付着した正極活物質100の例を示す。図12において、被覆部104は表層部100aを覆って設けられる。なお、正極活物質100の表面に凹凸部、クラック、または図3(B)で例示した埋め込み部102が形成されている場合、被覆部104は、当該凹凸、クラック、または埋め込み部102を覆って設けられていてもよい。
【0210】
被覆部104はたとえば充放電に伴いリチウム塩および有機電解液等の分解物が堆積して形成されたものであることが好ましい。特にLiCoO中のxが0.24以下となるような充電を繰り返す場合、正極活物質100の表面に有機電解液由来の被覆部を有することで、充放電サイクル特性が向上することが期待される。これは正極活物質表面のインピーダンスの上昇を抑制する、またはコバルトの溶出を抑制する、等の理由による。被覆部104はたとえば炭素、酸素およびフッ素を有することが好ましい。さらに電解液にLiBOB、および/またはSUN(スベロニトリル)を用いた場合などは良質な被覆部を得られやすい。そのため、ホウ素、窒素、硫黄およびフッ素から選ばれた一または二以上を有する被覆部104は良質な被覆部である場合があり好ましい。また被覆部104は正極活物質100の全てを覆っていなくてもよい。たとえば、正極活物質100の表面の50%以上を覆っていればよく、70%以上であればより好ましく、90%以上であればさらに好ましい。被覆部のない箇所では、フッ素が正極活物質100の表面に吸着していてもよい。
【0211】
本実施の形態は、少なくともその一部を本明細書中に記載する他の実施の形態と適宜組み合わせて実施することができる。
【0212】
(実施の形態2)
本実施の形態では、本発明の一態様である正極活物質100の作製方法の例について説明する。
【0213】
先の実施の形態で説明したような正極活物質100を作製するためには、添加元素の加え方が重要である。同時に内部100bの結晶性が良好であることも重要である。
【0214】
正極活物質100の作製工程において、コバルト酸リチウムを合成し、その後添加元素源を混合して加熱処理を行う方法がある。またコバルト源と、リチウム源と同時に添加元素源を混合して、添加元素を有するコバルト酸リチウムを合成する方法を用いてもよい。またコバルト酸リチウムと添加元素源とを混合するのみでなく、加熱を行うことで添加元素がコバルト酸リチウムに固溶することができ好ましい。さらに添加元素を良好に分布させるためには、十分な加熱を経るとよい。そのため添加元素源を混合した後の加熱処理が重要である。添加元素源を混合した後の加熱処理を焼成又はアニールという場合がある。
【0215】
しかしながら加熱温度が高すぎると、カチオンミキシングが生じて添加元素、たとえばマグネシウムがコバルトサイトに入る可能性が高まる。コバルトサイトに存在するマグネシウムは、LiCoO中のxが小さいときR-3mの層状岩塩型の結晶構造を保つ効果がない。さらに、加熱処理の温度が高すぎると、コバルトが還元されて2価になってしまう、リチウムが蒸散するなどの悪影響も懸念される。
【0216】
そこで添加元素源と共に、又は添加元素として、融剤として機能する材料を混合することが好ましい。融剤には、コバルト酸リチウムより融点が低い物質を用いることができる。融剤には、たとえばフッ化リチウムをはじめとするフッ素化合物が好適である。融剤を加えることで、添加元素源と、コバルト酸リチウムの融点降下が起こる。融点降下させることでカチオンミキシングが生じにくい温度で、添加元素を良好に分布させることが容易となる。
【0217】
〔初期加熱〕
さらにコバルト酸リチウムを合成した後、添加元素を混合する前にも加熱を行うとより好ましい。この加熱を初期加熱という場合がある。初期加熱により、コバルト酸リチウムの表層部100aの一部からリチウムイオンが脱離する影響で、添加元素の分布がさらに良好になる。
【0218】
より詳細には以下のような機序で、初期加熱により添加元素によって分布を異ならせやすくなると考えられる。まず初期加熱により表層部100aの一部からリチウムイオンが脱離する。次にこのリチウムが欠乏した表層部100aを有するコバルト酸リチウムと、ニッケル源、アルミニウム源、マグネシウム源をはじめとする添加元素源を混合し加熱する。添加元素のうちマグネシウムは2価の典型元素であり、ニッケルは遷移金属であるが2価のイオンになりやすい。そのため表層部100aの一部に、Mg2+およびNi2+と、リチウムの欠乏により還元されたCo2+と、を有する岩塩型の相が形成される。ただし、この相が形成されるのは表層部100aの一部であるため、STEMなどの電子顕微鏡像および電子線回折パターンにおいて明瞭に確認できない場合もある。
【0219】
添加元素のうちニッケルは、表層部100aが層状岩塩型のコバルト酸リチウムの場合は固溶しやすく、内部100bまで拡散するが、表層部100aの一部が岩塩型の場合は表層部100aにとどまりやすい。そのため、初期加熱を行うことでニッケルをはじめとする2価の添加元素を表層部100aに留まりやすくすることができる。この初期加熱の効果は特に正極活物質100の(001)配向以外の表面およびその表層部100aにおいて大きい。
【0220】
イオン半径を考慮すると、アルミニウムは、岩塩型よりも層状岩塩型のリチウム以外のサイトでより安定に存在すると考えられる。そのため、アルミニウムは表層部100aの中でも岩塩型の相を有する表面に近い領域よりも、層状岩塩型を有するより深い領域、および/または内部100bに分布しやすい。
【0221】
また初期加熱により、内部100bの層状岩塩型の結晶構造の結晶性を高める効果も期待できる。そのため、特にLiCoO中のxがたとえば0.15以上0.17以下のときに単斜晶O1(15)型結晶構造を有する正極活物質100を作製するには、この初期加熱を行うことが好ましい。
【0222】
しかし、必ずしも初期加熱は行わなくてもよい。他の加熱工程において、雰囲気、温度、時間等を制御することで、LiCoO中のxが小さいときにO3’型および/または単斜晶O1(15)型を有する正極活物質100を作製できる場合がある。
【0223】
[正極活物質の作製方法1]
初期加熱を経る正極活物質100の作製方法1について、図13(A)乃至図13(C)を用いて説明する。
【0224】
<ステップS11>
図13(A)に示すステップS11では、出発材料であるリチウム及び遷移金属の材料として、それぞれリチウム源(Li源)及びコバルト源(Co源)を準備する。
【0225】
リチウム源としては、リチウムを有する化合物を用いると好ましく、例えば炭酸リチウム、水酸化リチウム、硝酸リチウム、又はフッ化リチウム等を用いることができる。リチウム源は純度が高いと好ましく、例えば純度が99.99%以上の材料を用いるとよい。
【0226】
コバルト源としては、コバルトを有する化合物を用いると好ましく、例えばコバルト酸化物(代表的には四酸化三コバルト)、コバルト水酸化物等を用いることができる。
【0227】
コバルト源は純度が高いと好ましく、例えば純度が3N(99.9%)以上、好ましくは4N(99.99%)以上、より好ましくは4N5(99.995%)以上、さらに好ましくは5N(99.999%)以上の材料を用いるとよい。高純度の材料を用いることで、正極活物質の不純物を制御することができる。その結果、二次電池の容量が高まり、及び/または二次電池の信頼性が向上する。
【0228】
加えて、コバルト源の結晶性が高いと好ましく、例えば単結晶粒を有するとよい。コバルト源の結晶性の評価としては、TEM(透過電子顕微鏡)像、STEM(走査透過電子顕微鏡)像、HAADF-STEM(高角散乱環状暗視野走査透過電子顕微鏡)像、ABF-STEM(環状明視野走査透過電子顕微鏡)像等による評価、またはX線回折(XRD)、電子線回折、中性子線回折等の評価がある。なお、上記の結晶性の評価に関する手法は、コバルト源だけではなく、その他の結晶性の評価にも適用することができる。
【0229】
<ステップS12>
次に、図13(A)に示すステップS12として、リチウム源及びコバルト源を粉砕及び混合して、混合材料を作製する。粉砕及び混合は、乾式または湿式で行うことができる。湿式はより小さく解砕することができるため好ましい。湿式で行う場合は、溶媒を準備する。溶媒としてはアセトン等のケトン、エタノール及びイソプロパノール等のアルコール、エーテル、ジオキサン、アセトニトリル、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)等を用いることができる。リチウムと反応が起こりにくい、非プロトン性溶媒を用いることがより好ましい。本実施の形態では、純度が99.5%以上の脱水アセトンを用いることとする。水分含有量を10ppm以下まで抑えた、純度が99.5%以上の脱水アセトンにリチウム源及びコバルト源を混合して、粉砕及び混合を行うと好適である。上記のような純度の脱水アセトンを用いることで、混入しうる不純物を低減することができる。
【0230】
粉砕及び混合の手段にはボールミル、またはビーズミル等を用いることができる。ボールミルを用いる場合は、粉砕メディアとして酸化アルミニウムボール又は酸化ジルコニウムボールを用いるとよい。酸化ジルコニウムボールは不純物の排出が少なく好ましい。また、ボールミル、またはビーズミル等を用いる場合、メディアからのコンタミネーションを抑制するために、周速を100mm/s以上2000mm/s以下とするとよい。本実施の形態では、周速838mm/s(回転数400rpm、ボールミルの直径40mm)として実施する。
【0231】
<ステップS13>
次に、図13(A)に示すステップS13として、上記混合材料を加熱する。加熱は、800℃以上1100℃以下で行うことが好ましく、900℃以上1000℃以下で行うことがより好ましく、950℃程度がさらに好ましい。温度が低すぎると、リチウム源及びコバルト源の分解及び溶融が不十分となるおそれがある。一方温度が高すぎると、リチウム源からリチウムが蒸散する、及び/またはコバルトが過剰に還元される、などが原因となり欠陥が生じるおそれがある。例えばコバルトが3価から2価へ変化し、酸素欠陥などが誘発されることがある。
【0232】
加熱時間は短すぎるとコバルト酸リチウムが合成されないが、長すぎると生産性が低下する。たとえば加熱時間は1時間以上100時間以下とするとよく、2時間以上20時間以下とすることがさらに好ましい。
【0233】
昇温レートは、加熱温度の到達温度によるが、80℃/h以上250℃/h以下がよい。たとえば1000℃で10時間加熱する場合、昇温レートは200℃/hとするとよい。
【0234】
加熱は、乾燥空気等の水が少ない雰囲気で行うことが好ましく、例えば露点が-50℃以下、より好ましくは露点が-80℃以下の雰囲気がよい。本実施の形態においては、露点-93℃の雰囲気にて、加熱を行うこととする。また材料中に混入しうる不純物を抑制するためには、加熱雰囲気におけるCH、CO、CO、及びH等の不純物濃度が、それぞれ5ppb(parts per billion)以下にするとよい。
【0235】
加熱雰囲気として酸素を有する雰囲気が好ましい。例えば反応室に乾燥空気を導入し続ける方法がある。この場合、乾燥空気の流量は10L/minとすることが好ましい。酸素を反応室へ導入し続け、酸素が反応室内を流れている方法をフローと呼ぶ。
【0236】
加熱雰囲気を、酸素を有する雰囲気とする場合、フローさせないやり方でもよい。例えば反応室を減圧してから酸素を充填し(パージし、といってもよい)、当該酸素が反応室から出ないようにする方法でもよい。たとえば反応室を、大気圧を基準として-970hPaまで減圧してから、50hPaまで酸素を充填すればよい。
【0237】
加熱後の冷却は自然放冷でもよいが、できるだけ緩やかに冷却すること(徐冷ともいう)が好ましい。生産性を考慮すると、規定温度から室温までの降温時間が10時間以上50時間以下に収まると好ましい。冷却時における最大の降温レートが、例えば80℃/h以上250℃/h以下、好ましくは180℃/h以上210℃/h以下に収まるように制御することができる。ただし、必ずしも室温までの冷却は要せず、次のステップが許容する温度まで冷却されればよい。
【0238】
本工程の加熱は、ロータリーキルン又はローラーハースキルンによる加熱を行ってもよい。ロータリーキルンによる加熱は、連続式、バッチ式いずれの場合でも攪拌しながら加熱することができる。
【0239】
加熱の際に用いる、るつぼは酸化アルミニウムのるつぼが好ましい。酸化アルミニウムのるつぼは不純物を放出しにくい材質である。本実施の形態においては、純度が99.9%の酸化アルミニウムのるつぼを用いる。るつぼには蓋をして加熱すると好ましい。材料の揮発又は昇華を防ぐことができる。蓋をするとは、本ステップの昇温時から降温時において、材料の揮発又は昇華を防ぐことができればよく、必ずしも蓋によりるつぼを密閉しなくともよい。たとえば上述したように反応室内に酸素を充填することで、るつぼを密閉しないで本ステップを実施することも可能になる。
【0240】
るつぼは、未使用のものを用いると、加熱の際にフッ化リチウムをはじめとする材料の一部がさやに吸収、拡散、移動および/または付着する恐れがあり、作製後の正極活物質の組成が設計値からずれてしまう場合がある。そのため、リチウム、遷移金属M、および/または添加元素を含む材料を入れて加熱する工程を、あらかじめ少なくとも1回、好ましくは2回以上行ったるつぼを用いることが好ましい。
【0241】
加熱が終わったあと、必要に応じて粉砕し、さらにふるいを実施してもよい。加熱後の材料を回収する際に、るつぼから乳鉢へ移動させたのち回収してもよい。また、当該乳鉢は酸化ジルコニウムの乳鉢を用いると好適である。酸化ジルコニウムの乳鉢は不純物を放出しにくい材質である。具体的には、純度が90%以上、好ましくは純度が99%以上の酸化ジルコニウムの乳鉢を用いる。なお、ステップS13以外の後述の加熱の工程においても、ステップS13と同等の加熱条件を適用できる。
【0242】
<ステップS14>
以上の工程により、図13(A)に示すステップS14で示すコバルト酸リチウム(LiCoO)を合成することができる。コバルト酸リチウムの粒径としてメディアン径(D50)を用いると、相対的にメディアン径(D50)の小さい正極活物質100を得るには、コバルト酸リチウムを粉砕するとよい。
【0243】
ステップS11乃至ステップS14のように固相法で複合酸化物を作製する例を示したが、共沈法で複合酸化物を作製してもよい。また水熱法で複合酸化物を作製してもよい。
【0244】
<ステップS15>
次に、図13(A)に示すステップS15としてコバルト酸リチウムを加熱する。コバルト酸リチウムに対する最初の加熱のため、ステップS15の加熱を初期加熱と呼ぶことがある。または以下に示すステップS20の前に加熱するものであるため、予備加熱又は前処理と呼ぶことがある。本ステップに用いるるつぼ及び/又は蓋等は、ステップS13と同様である。初期加熱により次の効果が期待されるが、本発明の一態様である正極活物質を得るために初期加熱は必須ではない。
【0245】
初期加熱により、内部100bの結晶性を高める効果が期待できる。またステップS11等で準備したリチウム源および/またはコバルト源には、不純物が混入していることがある。ステップS14で完成したコバルト酸リチウムから不純物を低減させることが、初期加熱によって可能である。
【0246】
さらに初期加熱を経ることで、コバルト酸リチウムの表面がなめらかになる効果がある。表面がなめらかとは、凹凸が少なく、複合酸化物が全体的に丸みを帯び、さらに角部が丸みを帯びる様子をいう。さらに、表面へ付着した異物が少ない状態をなめらかと呼ぶ。異物は凹凸の要因となると考えられ、表面へ付着しない方が好ましい。
【0247】
この初期加熱には、リチウム源を用意しなくてよい。または、添加元素源を用意しなくてよい。または、融剤として機能する材料を用意しなくてよい。
【0248】
本工程の加熱時間は短すぎると十分な効果が得られないが、長すぎると生産性が低下する。たとえばステップS13で説明した加熱条件から選択して実施することができる。当該加熱条件に補足すると、本工程の加熱温度は、複合酸化物の結晶構造を維持するため、ステップS13の温度より低くするとよい。また本工程の加熱時間は、複合酸化物の結晶構造を維持するため、ステップS13の時間より短くするとよい。例えば700℃以上1000℃以下の温度で、2時間以上20時間以下の加熱を行うとよい。
【0249】
コバルト酸リチウムは、ステップS15の加熱によって、表面と内部の歪が減少し、内部応力が緩和される場合がある。これにより、結晶のずれ、すべりなどが生じにくくなることが期待される。また、作製工程中に応力に伴う変形が生じにくくなることで、表面の段差が生じにくくなり、得られる複合酸化物の表面がなめらかになる場合がある。表面がなめらかなコバルト酸リチウムを正極活物質として用いると、二次電池として充放電した際の劣化が少なくなり、正極活物質の割れを防ぐことができる。
【0250】
なお、ステップS14としてあらかじめ合成されたコバルト酸リチウムを用いてもよい。この場合、ステップS11乃至ステップS13を省略することができる。あらかじめ合成されたコバルト酸リチウムに対してステップS15を実施することで、表面がなめらかなコバルト酸リチウムを得ることができる。
【0251】
<ステップS20>
次にステップS20に示すように、初期加熱を経たコバルト酸リチウムに添加元素Aを加えることが好ましい。初期加熱を経たコバルト酸リチウムに添加元素Aを加えると、添加元素Aをムラなく添加することができる。よって、初期加熱後に添加元素Aを添加する順が好ましい。添加元素Aを添加するステップについて、図13(B)、及び図13(C)を用いて説明する。
【0252】
<ステップS21>
図13(B)に示すステップS21では、コバルト酸リチウムに添加する添加元素A源(A源)を用意する。添加元素A源と合わせて、リチウム源を準備してもよい。
【0253】
添加元素Aとしては、先の実施の形態で説明した添加元素、たとえば添加元素Xおよび添加元素Yを用いることができる。具体的にはマグネシウム、フッ素、ニッケル、アルミニウム、チタン、ジルコニウム、バナジウム、鉄、マンガン、クロム、ニオブ、ヒ素、亜鉛、ケイ素、硫黄、リンおよびホウ素から選ばれた一または二以上を用いることができる。また臭素、及びベリリウムから選ばれた一または二を用いることもできる。
【0254】
添加元素にマグネシウムを選んだとき、添加元素源はマグネシウム源と呼ぶことができる。当該マグネシウム源としては、フッ化マグネシウム、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、又は炭酸マグネシウム等を用いることができる。また上述したマグネシウム源を複数用いてもよい。
【0255】
添加元素にフッ素を選んだとき、添加元素源はフッ素源と呼ぶことができる。当該フッ素源としては、例えばフッ化リチウム(LiF)、フッ化マグネシウム(MgF)、フッ化アルミニウム(AlF)、フッ化チタン(TiF)、フッ化コバルト(CoF、CoF)、フッ化ニッケル(NiF)、フッ化ジルコニウム(ZrF)、フッ化バナジウム(VF)、フッ化マンガン、フッ化鉄、フッ化クロム、フッ化ニオブ、フッ化亜鉛(ZnF)、フッ化カルシウム(CaF)、フッ化ナトリウム(NaF)、フッ化カリウム(KF)、フッ化バリウム(BaF)、フッ化セリウム(CeF、CeF)、フッ化ランタン(LaF)、又は六フッ化アルミニウムナトリウム(NaAlF)等を用いることができる。なかでも、フッ化リチウムは融点が848℃と比較的低く、後述する加熱工程で溶融しやすいため好ましい。
【0256】
フッ化マグネシウムはフッ素源としてもマグネシウム源としても用いることができる。またフッ化リチウムはリチウム源としても用いることができる。ステップS21に用いられるその他のリチウム源は炭酸リチウムがある。
【0257】
またフッ素源は気体でもよく、フッ素(F)、フッ化炭素、フッ化硫黄、又はフッ化酸素(OF、O、O、O、O、O、OF)等を用い、後述する加熱工程において雰囲気中に混合させてもよい。また上述したフッ素源を複数用いてもよい。
【0258】
本実施の形態では、フッ素源としてフッ化リチウム(LiF)を準備し、フッ素源及びマグネシウム源としてフッ化マグネシウム(MgF)を準備する。フッ化リチウムとフッ化マグネシウムは、LiF:MgF=65:35(モル比)程度で混合すると融点を下げる効果が最も高くなる。一方、フッ化リチウムが多くなると、リチウムが過剰になりすぎサイクル特性が悪化する懸念がある。そのため、フッ化リチウムとフッ化マグネシウムのモル比は、LiF:MgF=x:1(0≦x≦1.9)であることが好ましく、LiF:MgF=x:1(0.1≦x≦0.5)がより好ましく、LiF:MgF=x:1(x=0.33またはその近傍)がさらに好ましい。なお本明細書等において近傍とは、その値の0.9倍より大きく1.1倍より小さい値とする。
【0259】
<ステップS22>
次に、図13(B)に示すステップS22では、マグネシウム源及びフッ素源を粉砕及び混合する。本工程は、ステップS12で説明した粉砕及び混合の条件から選択して実施することができる。
【0260】
<ステップS23>
次に、図13(B)に示すステップS23では、上記で粉砕、混合した材料を回収して、添加元素A源(A源)を得ることができる。なお、ステップS23に示す添加元素A源は、複数の出発材料を有するものであり、混合物と呼ぶことができる。
【0261】
上記混合物の粒径は、メディアン径(D50)が600nm以上10μm以下であることが好ましく、1μm以上5μm以下であることがより好ましい。添加元素源として、一種の材料を用いた場合においても、メディアン径(D50)が600nm以上10μm以下であることが好ましく、1μm以上5μm以下であることがより好ましい。
【0262】
このような微粉化された混合物(添加元素が1種の場合も含む)であると、後の工程でコバルト酸リチウムと混合したときに、コバルト酸リチウムの粒子の表面に混合物を均一に付着させやすい。コバルト酸リチウムの粒子の表面に混合物が均一に付着していると、加熱後に複合酸化物の表層部100aに均一に添加元素を分布又は拡散させやすいため好ましい。
【0263】
<ステップS21>
図13(B)とは異なる工程について図13(C)を用いて説明する。図13(C)に示すステップS21では、コバルト酸リチウムに添加する添加元素源を4種用意する。すなわち図13(C)は図13(B)とは添加元素源の種類が異なる。添加元素源と合わせて、リチウム源を準備してもよい。
【0264】
4種の添加元素源として、マグネシウム源(Mg源)、フッ素源(F源)、ニッケル源(Ni源)、及びアルミニウム源(Al源)を準備する。なお、マグネシウム源及びフッ素源は図13(B)で説明した化合物等から選択することができる。ニッケル源としては、酸化ニッケル、水酸化ニッケル等を用いることができる。アルミニウム源としては、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、等を用いることができる。
【0265】
<ステップS22及びステップS23>
図13(C)に示すステップS22及びステップS23は、図13(B)で説明したステップと同様である。
【0266】
<ステップS31>
次に、図13(A)に示すステップS31では、コバルト酸リチウムと、添加元素A源(A源)とを混合する。コバルト酸リチウム中のコバルトの原子数Coと、添加元素A源が有するマグネシウムの原子数Mgとの比は、Co:Mg=100:y(0.1≦y≦6)であることが好ましく、Co:Mg=100:y(0.3≦y≦3)であることがより好ましい。
【0267】
ステップS31の混合は、コバルト酸リチウムの粒子の形状を破壊させないためにステップS12の混合よりも穏やかな条件とすることが好ましい。例えば、ステップS12の混合よりも回転数が少ない、または時間が短い条件とすることが好ましい。また湿式よりも乾式のほうが穏やかな条件であると言える。混合には例えばボールミル、ビーズミル等を用いることができる。ボールミルを用いる場合は、例えばメディアとして酸化ジルコニウムボールを用いることが好ましい。
【0268】
本実施の形態では、直径1mmの酸化ジルコニウムボールを用いたボールミルで、150rpm、1時間、乾式で混合することとする。また該混合は、露点が-100℃以上-10℃以下のドライルームで行うこととする。
【0269】
<ステップS32>
次に、図13(A)のステップS32において、上記で混合した材料を回収し、混合物903を得る。
【0270】
なお図13(A)乃至図13(C)では、初期加熱を経た後に添加元素を加える作製方法について説明しているが、本発明は上記方法に限定されない。添加元素は他のタイミングで加えてもよいし、複数回にわたって加えてもよい。添加元素によってタイミングを変えてもよい。
【0271】
たとえば図14(A)乃至図14(C)に示すように、ステップS11の段階、つまり複合酸化物の出発材料の段階で添加元素を、リチウム源及びコバルト源へ添加してもよい。図14(A)では、マグネシウム源を、リチウム源及びコバルト源へ添加するフローを示す。図14(B)では、マグネシウム源及びアルミニウム源を、リチウム源及びコバルト源へ添加するフローを示す。図14(C)では、マグネシウム源及びニッケル源を、リチウム源及びコバルト源へ添加するフローを示す。図14(A)乃至図14(C)に示した添加元素源は例示である。
【0272】
その後ステップS12へ続き、ステップS13で添加元素を有するコバルト酸リチウムを得ることができる。添加元素を添加するタイミングに従って、添加元素の分布を制御することも可能である。図14(A)乃至図14(C)のように添加した添加元素は、正極活物質100の内部に位置することが期待される。また図14(A)乃至図14(C)に示すフローの場合、ステップS11乃至ステップS14の工程と、ステップS21乃至ステップS23の工程を分けなくともよいため、簡便で生産性が高い方法であるといえる。勿論、図14(A)乃至図14(C)に示すフローであっても、ステップS20であらたな添加元素を添加してもよい。
【0273】
また、あらかじめ添加元素の一部を有するコバルト酸リチウムを用いてもよい。たとえばマグネシウム及びフッ素が添加されたコバルト酸リチウムを用いれば、ステップS11乃至ステップS14、およびステップS20の一部の工程を省略することができる。簡便で生産性が高い方法であるといえる。
【0274】
また、あらかじめマグネシウム及びフッ素が添加されたコバルト酸リチウムに対して、ステップS15の加熱を行った後、ステップS20のようにマグネシウム源及びフッ素源、又はマグネシウム源、フッ素源、ニッケル源、及びアルミニウム源を添加してもよい。
【0275】
<ステップS33>
次に、図13(A)に示すステップS33では、混合物903を加熱する。ステップS13で説明した加熱条件から選択して実施することができる。加熱時間は2時間以上が好ましい。このとき、加熱雰囲気の酸素分圧を高めるため、炉内は大気圧を超えた圧力であってもよい。加熱雰囲気の酸素分圧が不足すると、コバルト等が還元され、コバルト酸リチウム等が層状岩塩型の結晶構造を保てなくなる恐れがあるためである。
【0276】
ここで加熱温度について補足する。ステップS33の加熱温度の下限は、コバルト酸リチウムと添加元素源との反応が進む温度以上である必要がある。反応が進む温度とは、コバルト酸リチウムと添加元素源との有する元素の相互拡散が起きる温度であればよく、これらの材料の溶融温度よりも低くてもよい。酸化物を例にして説明するが、溶融温度Tの0.757倍(タンマン温度T)から固相拡散が起こることがわかっている。そのため、ステップS33における加熱温度としては、650℃以上であればよい。
【0277】
勿論、混合物903が有する材料から選ばれた一または二以上が溶融する温度以上であると、より反応が進みやすい。例えば、添加元素源として、LiF及びMgFを有する場合、LiFとMgFの共融点は742℃付近であるため、ステップS33の加熱温度の下限は742℃以上とすると好ましい。
【0278】
また、LiCoO:LiF:MgF=100:0.33:1(モル比)となるように混合して得られた混合物903は、示差走査熱量測定(DSC測定)において830℃付近に吸熱ピークが観測される。よって、加熱温度の下限は830℃以上がより好ましい。
【0279】
加熱温度は高い方が反応が進みやすく、加熱時間が短く済み、生産性が高く好ましい。
【0280】
加熱温度の上限はコバルト酸リチウムの分解温度(1130℃)未満とする。分解温度の近傍の温度では、微量ではあるがコバルト酸リチウムの分解が懸念される。そのため、加熱温度の上限は1000℃以下であるとより好ましく、950℃以下であるとさらに好ましく、900℃以下であるとさらに好ましい。
【0281】
これらを踏まえると、ステップS33における加熱温度としては、650℃以上1130℃以下が好ましく、650℃以上1000℃以下がより好ましく、650℃以上950℃以下がさらに好ましく、650℃以上900℃以下がさらに好ましい。また、742℃以上1130℃以下が好ましく、742℃以上1000℃以下がより好ましく、742℃以上950℃以下がさらに好ましく、742℃以上900℃以下がさらに好ましい。また、800℃以上1100℃以下、830℃以上1130℃以下が好ましく、830℃以上1000℃以下がより好ましく、830℃以上950℃以下がさらに好ましく、830℃以上900℃以下がさらに好ましい。なおステップS33における加熱温度は、ステップS13よりも低いとよい。
【0282】
ここで本ステップS33に用いられる加熱炉の一例について図17を用いて説明する。
【0283】
図17に示す加熱炉220は加熱炉内空間202、熱板204、圧力計221、ヒーター部206及び断熱材208を有する。るつぼ又はさやに相当する容器216に蓋218をして加熱することによって、容器216及び蓋218で構成される空間219内を、フッ化物を含む雰囲気にすることができる。加熱中は、空間219内のガス化されたフッ化物の濃度が一定または低減しないように蓋をすることで状態を維持すると、粒子表面近傍にフッ素およびマグネシウムを含ませることができる。空間219は加熱炉内空間202よりも容積が小さいため、少量のフッ化物が揮発することで、フッ化物を含む雰囲気とすることができる。すなわち、混合物903に含まれるフッ化物の量を大きく損なうことなく反応系を、フッ化物を含む雰囲気にすることができる。そのため、効率よくLiMOを生成させることができる。また、蓋218を用いることによって簡便かつ安価にフッ化物を含む雰囲気で混合物903を加熱することができる。
【0284】
また、加熱を行う前に混合物903を入れた容器216を加熱炉内空間202に設置し、加熱炉内空間202を、酸素を含む雰囲気とする。該工程の順序とすることで、混合物903を酸素及びフッ化物を含む雰囲気で加熱することができる。例えば、加熱中はガスをフローしながら行う(フロー)。ガスは加熱炉内空間202の下面から導入し、上面へ排気させることができる。また、加熱中は加熱炉内空間202を密閉し、ガスが外部に運ばれないように閉空間とすることもできる(パージ)。
【0285】
加熱炉内空間202を、酸素を含む雰囲気にする方法は特に制限はないが、一例として加熱炉内空間202を排気した後、酸素ガスまたは乾燥空気等酸素を含む気体を導入する方法、酸素ガスまたは乾燥空気等の酸素を含む気体を一定時間流入する方法が挙げられる。中でも、加熱炉内空間202を排気した後、酸素ガスを導入する(酸素置換)を行うと好ましい。なお、加熱炉内空間202の大気を、酸素を含む雰囲気とみなしても構わない。
【0286】
また、容器216および蓋218の内壁に付着したフッ化物等が、加熱により再飛翔して混合物903に付着させることもできる。
【0287】
加熱炉220を加熱する工程として特に制限はない。加熱炉220に備えられている加熱機構を用いて加熱すればよい。
【0288】
また、容器216へ入れた際の混合物903の配し方に特に制限はないが、図17に示すように、容器216の底面に対して、混合物903の上面が平らになるように、言い換えると混合物903の上面の高さが均一になるように混合物903を配すると好ましい。
【0289】
上記ステップS33の加熱は、圧力計221で炉内の圧力を制御しながら行うことが好ましい。炉内は、大気圧状態または加圧状態とすることが好ましい。たとえば加圧状態に曝されると、コバルト酸リチウムの表面が溶融(melt)すると考えられる。すなわち、LiFとMgFと共に加熱されたコバルト酸リチウムの表面は、加圧することで溶融しうる。
【0290】
上記ステップS33の加熱後の冷却は自然放冷でよいが、ステップS13と同様、徐冷することが好ましい。降温時間及び降温レートの好ましい範囲は、上記ステップS13を参照できる。
【0291】
さらに混合物903を加熱する際、フッ素源等に起因するフッ素またはフッ素化合物の分圧を適切な範囲に制御することが好ましい。本ステップに用いるるつぼに蓋をして加熱することで、分圧を制御することも可能である。なお上述したが蓋により材料の揮発又は昇華を防ぐことができる。そのため、本ステップの昇温時から降温時において、材料の揮発又は昇華を防ぐことができればよく、必ずしも蓋によりるつぼを密閉しなくともよい。たとえばるつぼをおく反応室内に酸素を充填することで、るつぼを密閉しないで本ステップを実施することも可能になる。フッ素またはフッ素化合物を適切に有する正極活物質は、内部短絡した場合であっても発熱及び発煙が抑制することができるため好ましい。
【0292】
本実施の形態で説明する作製方法では、一部の材料、例えばフッ素源であるLiFが融剤として機能する場合がある。この機能により加熱温度をコバルト酸リチウムの分解温度未満、例えば742℃以上950℃以下にまで低温化でき、表層部にマグネシウムをはじめとする添加元素を分布させ、良好な特性の正極活物質を作製できる。
【0293】
しかし、LiFは酸素よりも気体状態での比重が軽いため、加熱によりLiFが揮発または昇華する可能性があり、揮発すると混合物903中のLiFが減少してしまう。すると融剤としての機能が弱くなってしまう。よって、LiFの揮発を抑制しつつ、加熱する必要がある。なお、フッ素源等としてLiFを用いなかったとしても、LiCoO表面のLiとフッ素源のFが反応して、LiFが生じ、揮発する可能性もある。そのため、LiFより融点が高いフッ素化合物を用いたとしても、同じように揮発の抑制が必要である。
【0294】
そこで、LiFを含む雰囲気で混合物903を加熱すること、すなわち、加熱炉内のLiFの分圧が高い状態で混合物903を加熱することが好ましい。このような加熱により混合物903中のLiFの揮発を抑制することができる。LiFの揮発を抑制するためにも、るつぼに蓋をするとよい。
【0295】
本工程の加熱は、混合物903の粒子同士が固着しないように加熱すると好ましい。加熱中に混合物903粒子同士が固着すると、雰囲気中の酸素との接触面積が減る、及び添加元素(例えばフッ素)が拡散する経路を阻害することにより、表層部への添加元素(例えばマグネシウム及びフッ素)の分布が悪化する可能性がある。雰囲気中の酸素との反応を促進させるためにも、蓋によりるつぼを密閉しなくともよい。
【0296】
また、添加元素(例えばフッ素)が表層部に均一に分布するとなめらかで凹凸が少ない正極活物質を得られると考えられている。そのため本工程でステップS15の加熱を経た、表面がなめらかな状態を維持する又はより一層なめらかになるためには、混合物903の粒子同士が固着しない方がよい。
【0297】
また、ロータリーキルンによって加熱する場合は、キルン内の酸素を含む雰囲気の流量を制御して加熱することが好ましい。例えば酸素を含む雰囲気の流量を少なくする、最初に雰囲気をパージしキルン内に酸素雰囲気を導入した後は雰囲気のフローはしない、等が好ましい。酸素をフローするとフッ素源が蒸散する可能性があり、表面のなめらかさを維持するためには好ましくない。
【0298】
ローラーハースキルンによって加熱する場合は、例えば混合物903の入った容器に蓋をすることでLiFを含む雰囲気で混合物903を加熱することができる。るつぼに蓋をする場合と同様である。
【0299】
加熱時間について補足する。加熱時間は、加熱温度、ステップS14のコバルト酸リチウムの大きさ、及び組成等の条件により変化する。コバルト酸リチウムが小さい場合は、大きい場合よりも低い温度または短い時間がより好ましい場合がある。
【0300】
図13(A)のステップS14のコバルト酸リチウムのメディアン径(D50)が12μm程度の場合、加熱温度は、例えば650℃以上950℃以下が好ましい。加熱時間は例えば3時間以上60時間以下が好ましく、10時間以上30時間以下がより好ましく、20時間程度がさらに好ましい。なお、加熱後の降温時間は、例えば10時間以上50時間以下とすることが好ましい。
【0301】
一方、ステップS14のコバルト酸リチウムのメディアン径(D50)が5μm程度の場合、加熱温度は例えば650℃以上950℃以下が好ましい。加熱時間は例えば1時間以上10時間以下が好ましく、5時間程度がより好ましい。なお、加熱後の降温時間は、例えば10時間以上50時間以下とすることが好ましい。
【0302】
<ステップS34>
次に、図13(A)に示すステップS34では、加熱した材料を回収し、必要に応じて解砕して、正極活物質100を得る。以上の工程により、本発明の一態様の正極活物質100を作製することができる。本発明の一態様の正極活物質は表面がなめらかである。
【0303】
[正極活物質の作製方法2]
次に、本発明の一態様であって、正極活物質の作製方法1とは異なる正極活物質の作製方法2について、図15乃至図16(C)を用いて説明する。正極活物質の作製方法2は主に添加元素を加える回数および混合方法が作製方法1とは異なる。その他の記載は作製方法1の記載を参照することができる。
【0304】
図15おいて、図13(A)と同様にステップS11乃至S15までを行い、初期加熱を経たコバルト酸リチウムを準備する。
【0305】
<ステップS20a>
次にステップS20aに示すように、初期加熱を経たコバルト酸リチウムに添加元素A1を加えることが好ましい。
【0306】
<ステップS21>
図16(A)に示すステップS21では、第1の添加元素源を準備する。第1の添加元素源としては、図13(B)に示すステップS21で説明した添加元素Aの中から選択して用いることができる。例えば、添加元素A1としては、マグネシウム、フッ素、及びカルシウムの中から選ばれるいずれか一または複数を好適に用いることができる。図16(A)では第1の添加元素源として、マグネシウム源(Mg源)、及びフッ素源(F源)を用いる場合を例示する。
【0307】
図16(A)に示すステップS21乃至ステップS23については、図13(B)に示すステップS21乃至ステップS23と同様の条件で行うことができる。その結果、ステップS23で添加元素源(A1源)を得ることができる。
【0308】
また、図15に示すステップS31乃至S33については、図13(A)に示すステップS31乃至S33と同様の工程にて行うことができる。
【0309】
<ステップS34a>
次に、ステップS33で加熱した材料を回収し、添加元素A1を有するコバルト酸リチウムを作製する。ステップS14の複合酸化物と区別するため第2の複合酸化物とも呼ぶ。
【0310】
<ステップS40>
図15に示すステップS40では、添加元素A2を添加する。図16(B)及び図16(C)も参照しながら説明する。
【0311】
<ステップS41>
図16(B)に示すステップS41では、第2の添加元素源を準備する。第2の添加元素源としては、図13(B)に示すステップS21で説明した添加元素Aの中から選択して用いることができる。例えば、添加元素A2としては、ニッケル、チタン、ホウ素、ジルコニウム、及びアルミニウムの中から選ばれるいずれか一または複数を好適に用いることができる。図16(B)では第2の添加元素源として、ニッケル源(Ni源)、及びアルミニウム源(Al源)を用いる場合を例示する。
【0312】
図16(B)に示すステップS41乃至ステップS43については、図13(B)に示すステップS21乃至ステップS23と同様の条件で行うことができる。その結果、ステップS43で添加元素源(A2源)を得ることができる。
【0313】
また、図16(C)には、図16(B)を用いて説明したステップの変形例を示す。図16(C)に示すステップS41ではニッケル源(Ni源)、及びアルミニウム源(Al源)を準備し、ステップS42aではそれぞれ独立に粉砕する。その結果、ステップS43では、複数の第2の添加元素源(A2源)を準備することとなる。図16(C)のステップは、ステップS42aにて添加元素を独立に粉砕していることが図16(B)と異なる。
【0314】
<ステップS51乃至ステップS53>
次に、図15に示すステップS51乃至ステップS53は、図13(A)に示すステップS31乃至ステップS34と同様の条件にて行うことができる。加熱工程に関するステップS53の条件はステップS33より低い温度且つ短い時間でよい。以上の工程により、ステップS54では、本発明の一態様の正極活物質100を作製することができる。本発明の一態様の正極活物質は表面がなめらかである。
【0315】
図15乃至図16(C)に示すように、作製方法2では、コバルト酸リチウムへの添加元素を添加元素A1と、添加元素A2とに分けて導入する。分けて導入することにより、各添加元素の深さ方向のプロファイルを変えることができる。例えば、添加元素A1を内部に比べて表層部で高い濃度となるようにプロファイルし、添加元素A2を表層部に比べて内部で高い濃度となるようにプロファイルすることも可能である。
【0316】
本実施の形態で示した初期加熱を経ると表面がなめらかな正極活物質を得ることができる。
【0317】
本実施の形態で示した初期加熱は、コバルト酸リチウムに対して実施する。よって初期加熱は、コバルト酸リチウムを得るための加熱温度よりも低く、かつコバルト酸リチウムを得るための加熱時間よりも短い条件が好ましい。コバルト酸リチウムに添加元素を添加する工程は、初期加熱後が好ましい。当該添加工程は2回以上に分けることが可能である。このような工程順に従うと、初期加熱で得られた表面のなめらかさは維持されるため好ましい。
【0318】
表面がなめらかな正極活物質100は、そうでない正極活物質よりも加圧等による物理的な破壊に強い可能性がある。たとえば、釘刺し試験のような加圧を伴う試験において正極活物質100が破壊されにくく、結果として安全性が高まる可能性がある。
【0319】
本実施の形態は、少なくともその一部を本明細書中に記載する他の実施の形態と適宜組み合わせて実施することができる。
【0320】
(実施の形態3)
本実施の形態では、先の実施の形態で説明した二次電池を用いた電子機器の例について図18(A)乃至図19(C)を用いて説明する。
【0321】
図18(A)は、ウェアラブルデバイスの例を示している。ウェアラブルデバイスは、電源として二次電池を用いる。また、使用者が生活または屋外で使用する場合において、防沫性能、耐水性能または防塵性能を高めるため、接続するコネクタ部分が露出している有線による充電だけでなく、無線充電も行えるウェアラブルデバイスが望まれている。
【0322】
例えば、図18(A)に示すような眼鏡型デバイス4000に本発明の一態様である二次電池を搭載することができる。眼鏡型デバイス4000は、フレーム4000aと、表示部4000bを有する。湾曲を有するフレーム4000aのテンプル部に二次電池を搭載することで、軽量であり、且つ、重量バランスがよく継続使用時間の長い眼鏡型デバイス4000とすることができる。本発明の一態様である二次電池を備えることで、筐体の小型化に伴う省スペース化に対応できる構成を実現することができる。
【0323】
また、ヘッドセット型デバイス4001に本発明の一態様である二次電池を搭載することができる。ヘッドセット型デバイス4001は、少なくともマイク部4001aと、フレキシブルパイプ4001bと、イヤフォン部4001cを有する。フレキシブルパイプ4001b内および/またはイヤフォン部4001c内に二次電池を設けることができる。本発明の一態様である二次電池を備えることで、筐体の小型化に伴う省スペース化に対応できる構成を実現することができる。
【0324】
また、身体に直接取り付け可能なデバイス4002に本発明の一態様である二次電池を搭載することができる。デバイス4002の薄型の筐体4002aの中に、二次電池4002bを設けることができる。本発明の一態様である二次電池を備えることで、筐体の小型化に伴う省スペース化に対応できる構成を実現することができる。
【0325】
また、衣服に取り付け可能なデバイス4003に本発明の一態様である二次電池を搭載することができる。デバイス4003の薄型の筐体4003aの中に、二次電池4003bを設けることができる。本発明の一態様である二次電池を備えることで、筐体の小型化に伴う省スペース化に対応できる構成を実現することができる。
【0326】
また、ベルト型デバイス4006に本発明の一態様である二次電池を搭載することができる。ベルト型デバイス4006は、ベルト部4006aおよびワイヤレス給電受電部4006bを有し、ベルト部4006aの内部に、二次電池を搭載することができる。本発明の一態様である二次電池を備えることで、筐体の小型化に伴う省スペース化に対応できる構成を実現することができる。
【0327】
また、腕時計型デバイス4005に本発明の一態様である二次電池を搭載することができる。腕時計型デバイス4005は表示部4005aおよびベルト部4005bを有し、表示部4005aまたはベルト部4005bに、二次電池を設けることができる。本発明の一態様である二次電池を備えることで、筐体の小型化に伴う省スペース化に対応できる構成を実現することができる。
【0328】
表示部4005aには、時刻だけでなく、メールおよび電話の着信等、様々な情報を表示することができる。
【0329】
また、腕時計型デバイス4005は、腕に直接巻きつけるタイプのウェアラブルデバイスであるため、使用者の脈拍、血圧等を測定するセンサを搭載してもよい。使用者の運動量および健康に関するデータを蓄積し、健康を管理することができる。
【0330】
図18(B)に腕から取り外した腕時計型デバイス4005の斜視図を示す。
【0331】
また、側面図を図18(C)に示す。図18(C)には、内部に二次電池913を内蔵している様子を示している。二次電池913は表示部4005aと重なる位置に設けられており、小型、且つ、軽量である。
【0332】
図18(D)はワイヤレスイヤホンの例を示している。ここでは一対の本体4100aおよび本体4100bを有するワイヤレスイヤホンを図示するが、必ずしも一対でなくてもよい。
【0333】
本体4100aおよび4100bは、ドライバユニット4101、アンテナ4102、二次電池4103を有する。表示部4104を有していてもよい。また無線用IC等の回路が載った基板、充電用端子等を有することが好ましい。またマイクを有していてもよい。
【0334】
ケース4110は、二次電池4111を有する。また無線用IC、充電制御IC等の回路が載った基板、充電用端子を有することが好ましい。また表示部、ボタン等を有していてもよい。
【0335】
本体4100aおよび4100bは、スマートフォン等の他の電子機器と無線で通信することができる。これにより他の電子機器から送られた音データ等を本体4100aおよび4100bで再生することができる。また本体4100aおよび4100bがマイクを有すれば、マイクで取得した音を他の電子機器に送り、該電子機器により処理をした後の音データを再び本体4100aおよび4100bに送って再生することができる。これにより、たとえば翻訳機として用いることもできる。
【0336】
またケース4110が有する二次電池4111から、本体4100aが有する二次電池4103に充電を行うことができる。二次電池4111および二次電池4103としては先の実施の形態のコイン型二次電池、円筒形二次電池等を用いることができる。実施の形態1で得られる正極活物質100を正極に用いた二次電池は高エネルギー密度であり、二次電池4103および二次電池4111に用いることで、ワイヤレスイヤホンの小型化に伴う省スペース化に対応できる構成を実現することができる。
【0337】
図19(A)は、掃除ロボットの一例を示している。掃除ロボット6300は、筐体6301上面に配置された表示部6302、側面に配置された複数のカメラ6303、ブラシ6304、操作ボタン6305、二次電池6306、各種センサなどを有する。図示されていないが、掃除ロボット6300には、タイヤ、吸い込み口等が備えられている。掃除ロボット6300は自走し、ゴミ6310を検知し、下面に設けられた吸い込み口からゴミを吸引することができる。
【0338】
例えば、掃除ロボット6300は、カメラ6303が撮影した画像を解析し、壁、家具または段差などの障害物の有無を判断することができる。また、画像解析により、配線などブラシ6304に絡まりそうな物体を検知した場合は、ブラシ6304の回転を止めることができる。掃除ロボット6300は、その内部に本発明の一態様に係る二次電池6306と、半導体装置または電子部品を備える。本発明の一態様に係る二次電池6306を掃除ロボット6300に用いることで、掃除ロボット6300を稼働時間が長く信頼性の高い電子機器とすることができる。
【0339】
図19(B)は、ロボットの一例を示している。図19(B)に示すロボット6400は、二次電池6409、照度センサ6401、マイクロフォン6402、上部カメラ6403、スピーカ6404、表示部6405、下部カメラ6406および障害物センサ6407、移動機構6408、演算装置等を備える。
【0340】
マイクロフォン6402は、使用者の話し声及び環境音等を検知する機能を有する。また、スピーカ6404は、音声を発する機能を有する。ロボット6400は、マイクロフォン6402およびスピーカ6404を用いて、使用者とコミュニケーションをとることが可能である。
【0341】
表示部6405は、種々の情報の表示を行う機能を有する。ロボット6400は、使用者の望みの情報を表示部6405に表示することが可能である。表示部6405は、タッチパネルを搭載していてもよい。また、表示部6405は取り外しのできる情報端末であっても良く、ロボット6400の定位置に設置することで、充電およびデータの受け渡しを可能とする。
【0342】
上部カメラ6403および下部カメラ6406は、ロボット6400の周囲を撮像する機能を有する。また、障害物センサ6407は、移動機構6408を用いてロボット6400が前進する際の進行方向における障害物の有無を察知することができる。ロボット6400は、上部カメラ6403、下部カメラ6406および障害物センサ6407を用いて、周囲の環境を認識し、安全に移動することが可能である。
【0343】
ロボット6400は、その内部に本発明の一態様に係る二次電池6409と、半導体装置または電子部品を備える。本発明の一態様に係る二次電池をロボット6400に用いることで、ロボット6400を稼働時間が長く信頼性の高い電子機器とすることができる。
【0344】
図19(C)は、飛行体の一例を示している。図19(C)に示す飛行体6500は、プロペラ6501、カメラ6502、および二次電池6503などを有し、自律して飛行する機能を有する。
【0345】
例えば、カメラ6502で撮影した画像データは、電子部品6504に記憶される。電子部品6504は、画像データを解析し、移動する際の障害物の有無などを察知することができる。また、電子部品6504によって二次電池6503の蓄電容量の変化から、バッテリ残量を推定することができる。飛行体6500は、その内部に本発明の一態様に係る二次電池6503を備える。本発明の一態様に係る二次電池を飛行体6500に用いることで、飛行体6500を稼働時間が長く信頼性の高い電子機器とすることができる。
【0346】
続いて、車両に本発明の一態様である二次電池を搭載する例を示す。
【0347】
二次電池を車両に搭載すると、ハイブリッド車(HV)、電気自動車(EV)、又はプラグインハイブリッド車(PHV)等の次世代クリーンエネルギー自動車を実現できる。
【0348】
図20において、本発明の一態様である二次電池を用いた車両を例示する。図20(A)に示す自動車8400は、走行のための動力源として電気モーターを用いる電気自動車である。または、走行のための動力源として電気モーターとエンジンを適宜選択して用いることが可能なハイブリッド自動車である。本発明の一態様を用いることで、航続距離の長い車両を実現することができる。また、自動車8400は二次電池を有する。二次電池は、車内の床部分に対して、図18(C)および図18(D)に示した二次電池のモジュールを並べて使用すればよい。また、図19に示す二次電池を複数組み合わせた電池パックを車内の床部分に対して設置してもよい。二次電池は電気モーター8406を駆動するだけでなく、ヘッドライト8401およびルームライト(図示せず)などの発光装置に電力を供給することができる。
【0349】
また、二次電池は、自動車8400が有するスピードメーター、タコメーターなどの表示装置に電力を供給することができる。また、二次電池は、自動車8400が有するナビゲーションシステムなどの半導体装置に電力を供給することができる。
【0350】
図20(B)に示す自動車8500は、自動車8500が有する二次電池にプラグイン方式および/または非接触給電方式等により外部の充電設備から電力供給を受けて、充電することができる。図20(B)に、地上設置型の充電装置8021から自動車8500に搭載された二次電池8024に、ケーブル8022を介して充電を行っている状態を示す。充電に際しては、充電方法およびコネクタの規格等はCHAdeMO(登録商標)またはコンボ等の所定の方式で適宜行えばよい。充電装置8021は、商用施設に設けられた充電ステーションでもよく、また家庭の電源であってもよい。例えば、プラグイン技術によって、外部からの電力供給により自動車8500に搭載された二次電池8024を充電することができる。充電は、ACDCコンバータ等の変換装置を介して、交流電力を直流電力に変換して行うことができる。
【0351】
また、図示しないが、受電装置を車両に搭載し、地上の送電装置から電力を非接触で供給して充電することもできる。この非接触給電方式の場合には、道路および/または外壁に送電装置を組み込むことで、停車中に限らず走行中に充電を行うこともできる。また、この非接触給電の方式を利用して、車両同士で電力の送受信を行ってもよい。さらに、車両の外装部に太陽電池を設け、停車時および/または走行時に二次電池の充電を行ってもよい。このような非接触での電力の供給には、電磁誘導方式および/または磁界共鳴方式を用いることができる。
【0352】
また、図20(C)は、本発明の一態様の二次電池を用いた二輪車の一例である。図20(C)に示すスクータ8600は、二次電池8602、サイドミラー8601、方向指示灯8603を備える。二次電池8602は、方向指示灯8603に電気を供給することができる。
【0353】
また、図20(C)に示すスクータ8600は、座席下収納8604に、二次電池8602を収納することができる。二次電池8602は、座席下収納8604が小型であっても、座席下収納8604に収納することができる。二次電池8602は、取り外し可能となっており、充電時には二次電池8602を屋内に持って運び、充電し、走行する前に収納すればよい。
【0354】
本発明の一態様によれば、二次電池のサイクル特性が良好となり、二次電池の放電容量を大きくすることができる。よって、二次電池自体を小型軽量化することができる。二次電池自体を小型軽量化できれば、車両の軽量化に寄与するため、航続距離を向上させることができる。また、車両に搭載した二次電池を車両以外の電力供給源として用いることもできる。この場合、例えば電力需要のピーク時に商用電源を用いることを回避することができる。電力需要のピーク時に商用電源を用いることを回避できれば、省エネルギー、および二酸化炭素の排出の削減に寄与することができる。また、サイクル特性が良好であれば二次電池を長期に渡って使用できるため、コバルトをはじめとする希少金属の使用量を減らすことができる。
【0355】
本実施の形態は、少なくともその一部を本明細書中に記載する他の実施の形態と適宜組み合わせて実施することができる。
【実施例0356】
本実施例では、本発明の一態様の正極活物質を作製し、表層部における組成分析を行った結果を示す。
【0357】
[正極活物質の作製]
本実施例では、図15及び図16で例示した作製方法に基づいて正極活物質を作製した。
【0358】
図15のステップS14のLiCoOとして、コバルト酸リチウム(日本化学工業株式会社製、セルシードC-10N)を用意した。ステップS15の初期加熱として、コバルト酸リチウムをるつぼに入れ、蓋をし、850℃、2時間、マッフル炉にて加熱した。マッフル炉内は酸素雰囲気とした後、フローしなかった(Oパージ)。
【0359】
図16(A)で示したステップS21に従って、F源としてLiFを用意し、Mg源としてMgFを用意した。LiFとMgFは、LiF:MgFが1:3(モル比)となるようにそれぞれ秤量した。次に脱水アセトン中にLiF、及びMgFを混合して、400rpmの回転速度で12時間攪拌して添加元素源(A1源)を作製した。混合にはボールミルを用い、粉砕メディアとして酸化ジルコニウムボールを用いた。混合用ボールミルの容量は45mLであり、脱水アセトン20mL、酸化ジルコニウムボール(1mmφ)22gと共に、コバルト酸リチウム、LiF、及びMgFの合計が約9gとなるように混合した。その後300μmの目を有するふるいでふるい、A1源を得た。
【0360】
次にステップS31として、A1源がコバルト酸リチウムの1mol%となるように秤量して、初期加熱後のコバルト酸リチウムと乾式で混合した。このときA1源を得るときの攪拌より緩やかな条件150rpmの回転速度で1時間攪拌した。最後に300μmの目を有するふるいでふるい、粒径の揃った混合物903を得た(ステップS32)。
【0361】
次にステップS33として、混合物903を加熱した。加熱条件は、900℃及び20時間とした。加熱の際、混合物903をいれたるつぼに蓋をした。るつぼ内は酸素を有する雰囲気とし、当該酸素の出入りは遮断した(パージ)。加熱によりMg、及びFを有する複合酸化物を得た(ステップS34a)。
【0362】
次にステップS51として、複合酸化物と添加元素源(A2源)を混合した。図16(C)で示したステップS41に従って、ニッケル源として粉砕工程を経た水酸化ニッケルを用意し、アルミニウム源として粉砕工程を経た水酸化アルミニウムを用意した。水酸化ニッケル及び水酸化アルミニウムが共にコバルト酸リチウムの0.5mol%となるように秤量して、複合酸化物と乾式で混合した。このとき150rpmの回転速度で1時間攪拌した。混合にはボールミルを用い、粉砕メディアとして酸化ジルコニウムボールを用いた。混合用ボールミルの容器の容量は45mLであり、酸化ジルコニウムボール(1mmφ)22gと共に複合酸化物、ニッケル源、及びアルミニウム源の合計が約7.5gとなるように混合した。これはA1源を得るときの攪拌より緩やかな条件である。最後に300μmの目を有するふるいでふるい、混合物904を得た(ステップS52)。
【0363】
最後にステップS53として、混合物904を加熱した。加熱は、850℃、10時間の条件で行った。加熱の際、混合物904をいれたるつぼに蓋をした。るつぼ内は酸素を有する雰囲気とし、当該酸素の出入りは遮断した(パージ)。加熱によりMg、F、Ni、及びAlを有するコバルト酸リチウムを得た(ステップS54)。
【0364】
以上の工程により、正極活物質を得た。
【0365】
[STEM-EDX分析]
作製した正極活物質について、STEM-EDXによる線分析を行った。
【0366】
分析の前処理として、FIB法により試料を薄片化した。試料は、それぞれ同じ粒子について、ベーサル面に平行な表面を有する部分を加工した試料1(Sample1)と、ベーサル面と交差する面に平行な表面(エッジ面)を有する部分を加工した試料2(Sample2)の2種類とした。
【0367】
図21(A)、(B)に、それぞれ試料1、試料2におけるSTEM-EDX線分析のプロファイルを示す。ここでは、STEM-EDXでの検出強度のプロファイルから、それぞれの元素の含有量を算出したものを示している。それぞれ、横軸は分析距離[nm]、縦軸はその元素の含有量[atomic%]である。またここでは示さないが、酸素の検出強度のプロファイルから、表面の位置はそれぞれ距離がそれぞれ約7.7nm、約6.8nmの位置(一点鎖線で示す)と推定される。具体的には、内部における酸素の検出量が安定している領域(距離20nm以上の領域)から酸素濃度の平均値Oaveを求め、この平均値Oaveの1/2の値に対応する距離の値を表面と推定した。
【0368】
図21(A)に示すように、ベーサル面に平行な表面を有する部分では、添加元素として、Mg及びAlが検出された。最も高いMg濃度のピークは表面近傍(表面から深さ3nm以下の範囲)に見られ、Mgの濃度の最大値は約6.2atomic%であった。またAl濃度のピークは、Mg濃度のピークよりも深い位置(表面から深さ25nm以下の範囲)にあり、且つ、Alは広範囲(表面から深さ約45nm以下の範囲)にわたって存在し、Al濃度の最大値は約3.5atomic%であった。なお、ニッケルは検出下限以下であった。
【0369】
図21(B)に示すように、エッジ面に対応する部分では、添加元素としてMg、Al、及びNiが検出された。最も高いMg濃度のピークは表面近傍(表面から深さ約3nm以下の範囲)に見られ、Mg濃度の最大値は約11.5atomic%であった。Al濃度のピークは、Mg濃度のピークよりも深い位置(表面から深さ20nm以下の範囲)にあり、且つ、Alは広範囲(表面から約45nm以下の範囲)にわたって存在し、Al濃度の最大値は約2.1atomic%であった。ニッケルはMgと同様に、表面近傍に最も濃度の高いピークが存在し、最大値は約1.8atomic%であった。
【0370】
[STEM-EELS分析]
ここで、添加元素であるFについては、特性X線のエネルギーがCoと近くEDXによる定量化が困難であるため、STEM-EELS分析により評価した。EELS分析は、試料へのダメージを考慮して線分析ではなく、深さ方向の異なる複数の位置における点分析を実施した。
【0371】
図22(A)、図23(A)に、それぞれ試料1、試料2におけるHAADF-STEM像と、EELS点分析を行った5つの測定点を示す。また、測定点1が最も表面に近く、測定点2、3、4の順で深い位置となっている。また測定点5は他の4点よりも深い位置である。
【0372】
図22(B)、図23(B)に、それぞれ試料1、試料2におけるSTEM-EELSの結果を示している。各図において、横軸はエネルギー[eV]であり、縦軸は検出強度(intensity)を任意単位で示している。
【0373】
図22(B)に示すように、ベーサル面と平行な表面を有する部分では、表面に最も近い測定点1を含めて、全ての測定点において、Fのピーク(図中、F-K edgeのエネルギー近傍に出現するピーク)は観測されなかった。
【0374】
一方、図23(B)中、破線で囲って示すように、エッジ面を有する部分では、表面に最も近い測定点1において、Fのピークが観測された。このプロファイルから含有率を見積もったところ、約5.5atomic%であった。
【0375】
STEM-EDX分析及びSTEM-EELS分析の結果をまとめると、表1のようになる。Fは、試料2の表面近傍にのみ検出された。Mgは両方の試料で検出され、試料2の方が、含有量が高い結果となった。Alは試料1、試料2の両方で同程度に検出された。Niは試料1では検出されず、試料2でわずかに検出された。
【0376】
【表1】
【0377】
以上の結果から、ベーサル面に平行な表面近傍ではF及びNiは検出されないことが分かった。またエッジ面近傍にはF及びNiが検出され、Mgもより高い濃度で検出されることが分かった。Alはベーサル面に平行な表面近傍、及びエッジ面近傍の両方で同程度の濃度で検出されることが分かった。
【0378】
本実施例は、少なくともその一部を本明細書中に記載する他の実施例または実施の形態と適宜組み合わせて実施することができる。
【実施例0379】
本実施例では、正極活物質の表面の違いにおける、添加元素であるNiの拡散しやすさに着目して計算を行った結果について説明する。
【0380】
計算は、系の下部にLiCoO(LCOと表記)を、系の上部にニッケル源としてNi(OH)をそれぞれ配した。計算は古典的分子動力学法で計算した。アンサンブルはNVT、系の温度は1800Kとし、時間は200psec.まで計算した。原子間のポテンシャルにはUFFを用いた。Li、Co、及びOのポテンシャルは、LCOの結晶構造で最適化した。NiのポテンシャルはNiOの結晶構造で最適化した。
【0381】
また計算は、LCOの表面が(003)面である、ベーサル面を想定したモデルと、(104)面であるエッジ面を想定したモデルの、2種類について行った。系の原子数は、前者のモデルで約1500個、後者のモデルで約2200個とし、系の電荷は中性とした。
【0382】
図24(A)、(B)は、(003)配向している表面及びその表面近傍について計算した結果である。図24(A)は50psec.、図24(B)は200psec.まで計算した結果である。図24(A)、(B)から、Ni原子がLCOの表面に留まり、内部へ拡散する様子は見られない。
【0383】
図24(C)、(D)は、(104)配向している表面及びその表面近傍について計算した結果である。図24(C)、(D)より、Ni原子がコバルト原子の配列に沿って、内部に拡散する様子が確認できる。
【0384】
以上の計算結果より、Niはコバルト酸リチウムのベーサル面に平行な表面から内部に拡散しにくいこと、および、エッジ面から内部に拡散しやすいことが確認された。この結果は実施例1において、ベーサル面に平行な表面を有する部分ではNiが検出されず、エッジ面を有する部分にはNiが検出された事実と矛盾のない結果であった。
【0385】
本実施例は、少なくともその一部を本明細書中に記載する他の実施例または実施の形態と適宜組み合わせて実施することができる。
【符号の説明】
【0386】
100a:表層部、100aB:表層部、100aE:表層部、100b:内部、100:正極活物質、101:結晶粒界、102:埋め込み部、104:被覆部、202:加熱炉内空間、204:熱板、206:ヒーター部、208:断熱材、216:容器、218:蓋、219:空間、220:加熱炉、903:混合物、904:混合物
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24