(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024001917
(43)【公開日】2024-01-11
(54)【発明の名称】無線通信端末
(51)【国際特許分類】
H04W 88/02 20090101AFI20231228BHJP
H01Q 3/24 20060101ALI20231228BHJP
H04W 16/28 20090101ALI20231228BHJP
【FI】
H04W88/02 140
H01Q3/24
H04W16/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022100785
(22)【出願日】2022-06-23
(71)【出願人】
【識別番号】318012780
【氏名又は名称】FCNT株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮丸 尚人
(72)【発明者】
【氏名】野呂 浩道
【テーマコード(参考)】
5J021
5K067
【Fターム(参考)】
5J021AA02
5J021AA09
5J021GA01
5J021GA08
5J021HA06
5K067AA35
5K067EE02
5K067EE34
5K067HH22
5K067KK02
5K067KK03
(57)【要約】
【課題】無線通信端末による頭部への入射電力密度を抑制する。
【解決手段】本無線通信端末は、ミリ波帯の電波を放射する第1のアンテナモジュールと、少なくとも一部の放射方向が上記第1のアンテナモジュールと重なるように設けられるとともに、通信時においては上記第1のアンテナモジュールよりもユーザーの頭部から離れた位置に配置されたミリ波帯の電波を放射する第2のアンテナモジュールと、制御部と、を備える。上記制御部は、上記第1のアンテナモジュールによって放射される第1方向への電波による通信を継続すると上記頭部への入射電力密度が規定値以上となる場合に、上記第2のアンテナモジュールによって放射される上記第1方向への電波を用いた通信に切り替える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミリ波帯の電波を放射する第1のアンテナモジュールと、
少なくとも一部の放射方向が前記第1のアンテナモジュールと重なるように設けられるとともに、通信時においては前記第1のアンテナモジュールよりもユーザーの頭部から離れた位置に配置されたミリ波帯の電波を放射する第2のアンテナモジュールと、
制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記第1のアンテナモジュールによって放射される第1方向への電波による通信を継続すると前記頭部への入射電力密度が規定値以上となる場合に、前記第2のアンテナモジュールによって放射される前記第1方向への電波を用いた通信に切り替える、
無線通信端末。
【請求項2】
前記第1のアンテナモジュール及び前記第2のアンテナモジュールの夫々は、ビームフォーミングによって電波の放射方向を変化させることができ、
前記制御部は、
前記第1のアンテナモジュールによる前記ビームフォーミングによって変化させる電波の放射方向と前記ビームフォーミングによって変化させる電波の放射方向の夫々における前記入射電力密度との第1の対応関係を参照して、前記第1のアンテナモジュールによって放射される前記第1方向への電波による通信を継続すると前記頭部への前記入射電力密度が前記規定値以上となるか否かを判定し、
前記規定値以上となると判定した場合には、前記第1のアンテナモジュールによる電波の放射方向と前記第2のアンテナモジュールによる電波の放射方向との第2の対応関係を参照して、前記第1方向と同一方向となる前記第2のアンテナモジュールによる電波の放射方向を特定し、特定した前記電波の放射方向に向けて前記第2のアンテナモジュールに電波を放射させる、
請求項1に記載の無線通信端末。
【請求項3】
前記規定値は、所定期間における前記入射電力密度の平均値であり、
前記制御部は、前記所定期間を所定の小区間に分割し、前記規定値以上となるか否かの判定を前記小区間毎に行う、
請求項2に記載の無線通信端末。
【請求項4】
スピーカーとマイクロフォンをさらに備え、
前記第1のアンテナモジュールは、前記マイクロフォンよりも前記スピーカーに近い位置に配置され、
前記第2のアンテナモジュールは、前記スピーカーよりも前記マイクロフォンに近い位置に配置される、
請求項1から3のいずれか一項に記載の無線通信端末。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線通信端末に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、第5世代移動通信システム(5G)や超広帯域無線通信(UWB)等で、ミリ波等の高い周波数の電波のニーズが高まっている。このような高い周波数の電波は空間での減衰が大きいため、例えば、ビームフォーミングによって通信カバレッジの改善が図られる。ビームフォーミングによって電波の強度が高まることから、人体に対する電波の局所吸収を抑制する工夫が行われている。
【0003】
例えば、特許文献1では、複数用意したアンテナを送信電力に応じて切り替えるアンテナ装置が提案されている。また、特許文献2では、人体に対する電波の局所吸収が上限値を超えると判定された場合に、上限値を超えない撮像条件を算出するMRI装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003-283393号公報
【特許文献2】特開2015-058294号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、アンテナの指向性が考慮されないことからビームフォーミングによって指向性を可変とする技術に適用することは難しい。また、特許文献2に記載の技術では、Specific Absorption Ratio(SAR)を計測する計測部を備えることとなるため、小型かつ軽量化が進められる無線通信端末に適用することは困難である。
【0006】
開示の技術の1つの側面は、無線通信端末による頭部への入射電力密度を抑制することができる無線通信端末を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
開示の技術の1つの側面は、次のような無線通信端末によって例示される。本無線通信端末は、ミリ波帯の電波を放射する第1のアンテナモジュールと、少なくとも一部の放射方向が上記第1のアンテナモジュールと重なるように設けられるとともに、通信時においては上記第1のアンテナモジュールよりもユーザーの頭部から離れた位置に配置されたミリ波帯の電波を放射する第2のアンテナモジュールと、制御部と、を備える。上記制御部は、上記第1のアンテナモジュールによって放射される第1方向への電波による通信を継続すると上記頭部への入射電力密度が規定値以上となる場合に、上記第2のアンテナモジュールによって放射される上記第1方向への電波を用いた通信に切り替える。
【発明の効果】
【0008】
本無線通信端末は、無線通信端末による頭部への入射電力密度を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、実施形態に係るスマートフォンの一例を示す図である。
【
図2】
図2は、ビームフォーミングによって指向性を変化させた場合における放射パターンを例示する図である。
【
図3】
図3は、ビームフォーミングによって指向性を変化させた場合における電界分布を例示する図である。
【
図4】
図4は、アンテナモジュールのカバレッジを模式的に示す図である。
【
図5】
図5は、パッチアンテナの法線方向が直交するように2つのアンテナモジュールを実装した無線端末のカバレッジを模式的に示す図である。
【
図6】
図6は、スマートフォンを点とみなした場合におけるアンテナモジュールのカバレッジを模式的に示す図である。
【
図7】
図7は、スマートフォンを用いて通話が行われている状態の一例を示す図である。
【
図8】
図8は、実施形態に係るスマートフォンのハードウェア構成の一例を示す図である。
【
図9】
図9は、実施形態に係るスマートフォンの処理ブロックの一例を示す図である。
【
図10】
図10は、管理データベースに格納される対応管理テーブルの一例を示す図である。
【
図11】
図11は、制御部によって作成されるPD管理テーブルの一例を示す図である。
【
図12】
図12は、単位時間「2」のPDが特定された状態のPD管理テーブルの一例を示す図である。
【
図13】
図13は、実施形態における制御部の処理フローの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<実施形態>
以下に示す実施形態の構成は例示であり、開示の技術は実施形態の構成に限定されない。実施形態に係る無線通信端末は、例えば、以下の構成を備える。本実施形態に係る無線通信端末は、ミリ波帯の電波を放射する第1のアンテナモジュールと、少なくとも一部の放射方向が上記第1のアンテナモジュールと重なるように設けられるとともに、通信時においては上記第1のアンテナモジュールよりもユーザーの頭部から離れた位置に配置されたミリ波帯の電波を放射する第2のアンテナモジュールと、制御部と、を備える。
【0011】
そして、上記制御部は、上記第1のアンテナモジュールによって放射される第1方向への電波による通信を継続すると上記頭部への入射電力密度が規定値以上となる場合に、上記第2のアンテナモジュールによって放射される上記第1方向への電波を用いた通信に切り替える。
【0012】
上記無線通信端末によれば、ユーザーの頭部から第1のアンテナモジュールよりも離れた位置に配置された第2のアンテナモジュールによって放射される上記第1方向への電波を用いた通信に切り替えられる。そのため、本無線通信端末によれば、頭部への入射電力密度を抑制することができる。また、上記無線通信端末は、アンテナモジュールが切り替えられても通信の方向を上記第1方向で維持することができる。なお、無線通信端末としては、例えば、スマートフォン、フィーチャーフォン及びウェアラブル端末を挙げることができる。
【0013】
以下、図面を参照して上記無線通信端末をスマートフォンに適用した実施形態についてさらに説明する。
図1は、実施形態に係るスマートフォン100の一例を示す図である。
図1では、筐体110内に配置されるアンテナモジュール1A、アンテナモジュール1B及びアンテナモジュール1Cも点線で例示される。スマートフォン100は、可搬型の無線通信端末である。また、スマートフォン100は、携帯電話端末でもある。スマートフ
ォン100は、筐体110、スピーカー21及びマイクロフォン22、アンテナモジュール1A、アンテナモジュール1B、アンテナモジュール1Cを備える。アンテナモジュール1A、アンテナモジュール1B、アンテナモジュール1Cを総称して、アンテナモジュール1とも称する。また、
図1において、マイクロフォン22からスピーカー21に向かう方向を+Y方向、アンテナモジュール1Bからアンテナモジュール1Cに向かう方向を+X方向とする。
【0014】
スピーカー21は、音を出力する。スピーカー21は、例えば、スマートフォン100を用いた通話において通話相手からの音を出力する。マイクロフォン22は、音の入力を受け付ける。マイクロフォン22は、例えば、スマートフォン100を用いた通話において、ユーザーの声の入力を受け付ける。例えば、スピーカー21がユーザーの耳に押し当てられた状態でスマートフォン100を用いた通話が行われる。
【0015】
アンテナモジュール1は、ミリ波帯の電波を用いて通信を行うアンテナモジュールである。アンテナモジュール1には、板状に形成されたパッチアンテナが複数設けられる。アンテナモジュール1Aは、スピーカー21付近に配置される。また、アンテナモジュール1B、1Cは、マイクロフォン22付近に配置される。アンテナモジュール1Aは、主に+Y方向に向けて電波を放射する。アンテナモジュール1Bは、主に-X方向に向けて電波を放射する。アンテナモジュール1Cは、主に+X方向に向けて電波を放射する。アンテナモジュール1Aは、「第1のアンテナモジュール」の一例である。アンテナモジュール1Bは、「第2のアンテナモジュール」の一例である。
【0016】
アンテナモジュール1は、複数のパッチアンテナから放射される電波の位相を制御することで、アンテナモジュール1の指向性を変化させるビームフォーミングが可能である。
図2は、ビームフォーミングによって指向性を変化させた場合における放射パターンを例示する図である。また、
図3は、ビームフォーミングによって指向性を変化させた場合における電界分布を例示する図である。
図3Aでは0度方向、
図3Bでは15度方向、そして
図3Cでは30度方向に指向性を変化させた場合の電界分布が例示される。ビームフォーミングによってアンテナモジュール1の指向性が変化するとともに、アンテナモジュール1から放射される電波による電界分布も変化する。すなわち、ビームフォーミングによって強い電界が生じる領域が変化する。
【0017】
図4は、アンテナモジュール1のカバレッジを模式的に示す図である。
図4では、アンテナモジュール1から放射される電波を楕円で模式的に示す。
図4では、楕円501、502、503、504、505、506、507、508、509、510、511、512、513によってビームフォーミングによってアンテナモジュール1の指向性を15度ずつ変化させた場合が例示される。なお、楕円501、502、503、504、505、506、507、508、509、510、511、512、513を総称して、楕円500とも称する。
図4では、楕円500の長さによって等価等方放射電力(EIRP)の強さが例示され、楕円500の向きによってメインローブの指向性が例示される。また、アンテナモジュール1の実際のカバレッジは球状となるが、
図4では簡易的に平面でアンテナモジュール1のカバレッジを例示する。
【0018】
図4を参照すると理解できるように、アンテナモジュール1は、ビームフォーミングによって180度の方向にメインローブの指向性を変化させることができる。以下の表1は、楕円500の夫々について入射電力密度(PD)を模式的に示す表である。以下の表の「ID」は、
図4における符号501、502、503、504、505、506、507、508、509、510、511、512、513に対応する。また、表1では、各楕円500のPDを「P1」から「P13」としている。
【表1】
【0019】
ビームフォーミングによってアンテナモジュール1のメインローブの指向性を変化させた場合、
図4の楕円507及び表1によって例示されるように、設けられたパッチアンテナの法線方向におけるEIRPが最も強い。また、
図4の楕円501、513及び表1によって例示されるように、設けられたパッチアンテナの水平方向におけるEIRPが最も弱い。
【0020】
図5は、パッチアンテナの法線方向が直交するように2つのアンテナモジュール1A、1Bを実装した無線端末のカバレッジを模式的に示す図である。
図5では、
図4と同様に、楕円の向き及び長さによってメインローブの指向性及びEIRPの強さを模式的に示す。ここで、アンテナモジュール1Aの楕円501、502、503、504、505、506、507、508、509、510、511、512、513は、楕円501A、502A、503A、504A、505A、506A、507A、508A、509A、510A、511A、512A、513Aとする。また、アンテナモジュール1Bの楕円501、502、503、504、505、506、507、508、509、510、511、512、513は、楕円501B、502B、503B、504B、505B、506B、507B、508B、509B、510B、511B、512B、513Bとする。
【0021】
基地局等のような遠方からこのような無線端末を見ると、基地局と無線端末との距離は無線端末の大きさに比して非常に大きいことから、当該無線端末を点とみなすことができる。その結果、
図5に例示されるように、2つのアンテナモジュール1の一部のカバレッジが重なるように見えることになる。例えば、
図5において、アンテナモジュール1Aの楕円501Aから507Aは、アンテナモジュール1Bの楕円507Bから513Bと重なる。
【0022】
図1に例示するように、スマートフォン100は3つのアンテナモジュール1を備えるが、基地局等のような遠方からスマートフォン100を見ると、スマートフォン100を点とみなすことができる。
図6は、スマートフォン100を点とみなした場合におけるアンテナモジュール1A、1B、1Cのカバレッジを模式的に示す図である。
図6では、
図4と同様に、楕円の向き及び長さによってメインローブの指向性及びEIRPの強さを模式的に示す。また、アンテナモジュール1の実際のカバレッジは球状となるが、
図6では簡易的に平面でアンテナモジュール1のカバレッジを例示する。
図6では、さらに、指向性の範囲の夫々について主に通信に用いられるアンテナモジュール1も例示される。スマートフォン100は、複数のアンテナモジュール1を備えることで、スマートフォン100周囲の略全方向に対して電波を放射することができる。
【0023】
図4を参照して説明したように、アンテナモジュール1はビームフォーミングによって180度の方向にメインローブの指向性を変化させることができる。また、スマートフォン100では、
図5を参照して説明したように、アンテナモジュール1Aのパッチアンテナの法線方向とアンテナモジュール1Bのパッチアンテナの法線方向とが直交し、アンテナモジュール1Aのパッチアンテナの法線方向とアンテナモジュール1Cのパッチアンテナの法線方向とが直交するようにアンテナモジュール1が配置されることで、アンテナモジュール1A、アンテナモジュール1B、アンテナモジュール1Cのカバレッジの一部は重なるようになる。
【0024】
ここで、スマートフォン100の無線通信によるユーザーに対する電波の曝露量の上限は、例えば、電波法等の法令によって規定されている。曝露量は、例えば、総合照射比(TER)によって規定される。TERは以下の(式1)によって定められる。
【数1】
【0025】
式1において、SARは比吸収率を示し、SARLimitはSARの許容値を示す。また、PDは入射電力密度を示し、PDLimitは電力密度の許容値を示す。電波法等の法令では、任意の6分間における平均のTERを1未満とすることが規定されている。
【0026】
式1において、「SAR/SARLimit」の項は6GHz以下の周波数を用いる通信手段(例えば、LTE、5Gのsub6帯、無線LAN(WLAN)、ブルートゥース(登録商標、BT))による曝露量を示す。また、式1において、「PD/PDLimit」の項は、6GHzを超える周波数を用いる通信手段(例えば、5Gのミリ波帯)による曝露量を示す。TERを抑制するには、例えば、スマートフォン100を用いた通話中において、PDが高くなりやすい垂直方向のビームフォーミングを停止し、PDを抑制しやすい水平方向のビームフォーミングに切り替えることが考えられる。しかしながら、このようにビームフォーミングを切り替えると、そのメインローブの指向性が異なるためにスマートフォン100の通信性能が低下する虞がある。そのため、従来の技術では、ミリ波帯を用いた通信を停止することも行われていた。本実施形態では、ミリ波帯の電波を停止せずにTERを規定の範囲内に抑制する技術について説明する。
【0027】
ミリ波帯による通信を行いつつTERを規定値以下に抑制するには、ミリ波によるPDを抑制すればよい。そして、例えばアンテナモジュール1AにおいてEIRPとPDは比例関係にあることから、スマートフォン100においてミリ波によるPDを抑制するには、PDに代えてEIRPを抑制してもよい。
【0028】
図7は、スマートフォン100を用いて通話が行われている状態の一例を示す図である。
図7(A)はユーザーの右斜め前方から見た状態を例示する。また、
図7(B)は、ユーザーの上方から見た状態を例示する。通話が行われる場合、スマートフォン100のスピーカー21はユーザーの耳に当てられ、マイクロフォン22はユーザーの口付近に位置することになる。そのため、スマートフォン100を用いた通話時において、スピーカー21の近傍に配置されたアンテナモジュール1Aは、ユーザーの頭部の近くに位置することになる。一方で、アンテナモジュール1B、Cは、マイクロフォン22の近傍に配置されることから、アンテナモジュール1Aよりはユーザーの頭部から離れた場所に位置することになる。
【0029】
頭部の近くに位置するアンテナモジュール1AによるPDは、頭部から離れたアンテナモジュール1B及びアンテナモジュール1Cの夫々によるPDよりも大きなものとなる。また、頭部から離れた場所に位置するアンテナモジュール1B及びアンテナモジュール1Cの夫々によるPDは、頭部の近くに位置するアンテナモジュール1AによるPDよりも小さなものとなる。そのため、例えば、アンテナモジュール1Aがビームフォーミングによって楕円507Aに例示される方向(すなわち、最もEIRPが強い方向)に指向性を向けた場合、頭部に対するPDは特に大きなものとなる。
【0030】
ここで、スマートフォン100において、例えば、アンテナモジュール1B、1Cは、ビームフォーミングによってPDが最も高い方向に指向性が向けられた状態であっても、
PDの規定値以下となるような位置に配置される。このような位置は、例えば、スマートフォン100の開発時における試験等で決定される。
【0031】
スマートフォン100では、
図5にも例示した通り、アンテナモジュール1A、アンテナモジュール1B、アンテナモジュール1Cのカバレッジの一部は重なる。そこで、本実施形態では、あるアンテナモジュール1にとってEIRPが強い方向の通信に代えて、他のアンテナモジュール1における同一方向へのよりEIRPが弱い方向の通信を採用することで、PDの低減を図る。
【0032】
図8は、実施形態に係るスマートフォン100のハードウェア構成の一例を示す図である。スマートフォン100は、CPU101、主記憶部102、補助記憶部103、スピーカー21、マイクロフォン22、アンテナモジュール1A、アンテナモジュール1B及びアンテナモジュール1Cを備える。CPU101、主記憶部102、補助記憶部103、スピーカー21、マイクロフォン22、アンテナモジュール1A、アンテナモジュール1B及びアンテナモジュール1Cは、接続バスB1によって相互に接続される。
【0033】
CPU101は、マイクロプロセッサーユニット(MPU)、プロセッサーとも呼ばれる。CPU101は、単一のプロセッサーに限定される訳ではなく、マルチプロセッサー構成であってもよい。また、単一のソケットで接続される単一のCPU101がマルチコア構成を有していてもよい。CPU101が実行する処理のうち少なくとも一部は、集積回路(IC)、その他のデジタル回路によって実行されてもよい。集積回路は、Large Scale Integrated circuit(LSI)、Application Specific Integrated Circuit(ASIC)、プログラマブルロジックデバイス(PLD)を含む。CPU101は、プロセッサーと集積回路との組み合わせであってもよい。組み合わせは、例えば、マイクロコントローラーユニット(MCU)、System-on-a-chip(SoC)、システムLSI、チップセットなどと呼ばれる。スマートフォン100では、CPU101が補助記憶部103に記憶されたプログラムを主記憶部102の作業領域に展開し、プログラムの実行を通じて周辺装置の制御を行う。これにより、スマートフォン100は、所定の目的に合致した処理を実行することができる。主記憶部102及び補助記憶部103は、スマートフォン100が読み取り可能な記録媒体である。
【0034】
主記憶部102は、CPU101から直接アクセスされる記憶部として例示される。主記憶部102は、Random Access Memory(RAM)及びRead Only Memory(ROM)を含む。
【0035】
補助記憶部103は、各種のプログラム及び各種のデータを読み書き自在に記録媒体に格納する。補助記憶部103は外部記憶装置とも呼ばれる。補助記憶部103には、オペレーティングシステム(Operating System、OS)、各種プログラム、各種テーブル等が格納される。外部装置等には、例えば、コンピューターネットワーク等で接続された、他の情報処理装置及び外部記憶装置が含まれる。なお、補助記憶部103は、例えば、ネットワーク上のコンピューター群であるクラウドシステムの一部であってもよい。
【0036】
補助記憶部103は、例えば、Erasable Programmable ROM(EPROM)、ソリッドステートドライブ(Solid State Drive、SSD)、ハードディスクドライブ(Hard Disk Drive、HDD)等である。
【0037】
<スマートフォン100の処理ブロック>
図9は、実施形態に係るスマートフォン100の処理ブロックの一例を示す図である。スマートフォン100は、制御部111及び管理データベース112を備える。スマートフォン100は、主記憶部102に実行可能に展開されたコンピュータープログラムをCPU101が実行することで、上記スマートフォン100の、制御部111及び管理データベース112等の各部としての処理を実行する。
【0038】
管理データベース112には、制御部111によるアンテナモジュール1の切替制御等に用いられる情報が格納される。管理データベース112は、例えば、補助記憶部103に記憶される。
図10は、管理データベース112に格納される対応管理テーブル1121の一例を示す図である。対応管理テーブル1121では、アンテナモジュール1A、アンテナモジュール1B、アンテナモジュール1C夫々におけるメインローブの指向性の対応関係が格納される。
【0039】
対応管理テーブル1121は、「ID1」、「PD1」、「ID2」、「PD2」の各項目を含む。「ID1」には、アンテナモジュール1Aのメインローブの指向性を示す情報(
図10の例では、楕円500を示す情報)が格納される。「PD1」には、アンテナモジュール1AのPDを示す情報が格納される。「ID2」には、アンテナモジュール1Bのメインローブの指向性を示す情報が格納される。「PD2」には、アンテナモジュール1BのPDを示す情報が格納される。そして、対応管理テーブル1121では、アンテナモジュール1Aとアンテナモジュール1Bの同一のメインローブの指向性を示す楕円500が対応付けられる。なお、
図10では簡単のためアンテナモジュール1Aとアンテナモジュール1Bにおけるメインローブの指向性の対応関係が格納されるが、対応管理テーブル1121ではアンテナモジュール1Cのメインローブの指向性についても対応付けられてよい。対応管理テーブル1121は、「第1の対応関係」及び「第2の対応関係」の一例である。
【0040】
制御部111は、アンテナモジュール1による通信を維持しつつ、ミリ波によるPDを規定値以下の範囲内に抑制できるように、アンテナモジュール1の切替を制御する。例えば、PDの規定値が6分間の平均値で2mW/cm2である場合には、例えば、6分を単位時間(0.6分)に10等分し、各単位時間におけるPDの累積が20mW/cm2以下となればよいことになる。そこで、制御部111は、各単位時間におけるPDを管理するPD管理テーブルを作成する。PDの規定値を規定する6分間は、「所定期間」の一例である。単位時間は、「所定の小区間」の一例である。
【0041】
図11は、制御部111によって作成されるPD管理テーブル1111の一例を示す図である。制御部111は、「単位時間」、「ID」、「PD」の各項目を含む。「単位時間」には、6分間を10分割した夫々の単位時間を示す情報が格納される。「ID」には、アンテナモジュール1のメインローブの指向性を示す情報が格納される。「PD」には、「ID」で示される指向性による通信におけるPDを示す情報が格納される。
【0042】
ここでは、アンテナモジュール1Aによる楕円507Aにメインローブの指向性を向けた通信が開始されたものとする。制御部111は、「単位時間」の「1」に対応する「ID」にアンテナモジュール1Aの楕円507Aを示す「507A」を格納する。さらに、制御部111は、「単位時間」の「1」に対応する「PD」に、アンテナモジュール1Aが楕円507Aにメインローブの指向性を向けた場合におけるPDを示す値である「P7A」を格納する。また、他の「単位時間」に対応する「PD」には、アンテナモジュール1Bによる最大のPDを示す「PBMAX」を仮の値として格納する。「PBMAX」は、上記表1を参照すると理解できるように、楕円507Bにメインローブの指向性を向けた場合におけるアンテナモジュール1BによるPDである。楕円507Aにメインローブの指向性を向けた通信は、「第1方向への電波による通信」の一例である。
【0043】
制御部111は、単位時間「2」において許容されるPDを算出する。単位時間「1」において「P7A」のPDが生じ、6分間において許容される累積のPDは「20mW/cm2」であり、単位時間「1」、「2」を除いた残りの単位時間の数は「8」であることから、単位時間「2」において許容されるPDは、「20-P7A-(PBMAX×8)」で算出することができる。
【0044】
制御部111は、許容されるPDが「P7A」より大きい場合には、単位時間「2」に対応するIDを「507A」とする。また、制御部111は、許容されるPDが「P7A」よりも小さい場合には、対応管理テーブル1121を参照して楕円507Aと同一の指向性の楕円513Bを特定する。そして、制御部111は、単位時間「2」に対応するIDを特定した「513B」とする。ここでは、許容されるPDが「P7A」より大きかったものとする。
図12は、単位時間「2」のPDが特定された状態のPD管理テーブル1111の一例を示す図である。
図12の例では、単位時間「2」に対応するIDに「507A」が格納されるとともに、「PD」には楕円507AのPDである「P7A」が格納されている。
【0045】
制御部111は、単位時間「3」以降についても同様にIDの決定を行う。ここで、制御部111は、単位時間「10」までのIDを決定し、次の単位時間「11」についてのIDの決定を行うときには、単位時間「1」の「ID」及び「PD」の値を消去して、単位時間「11」の情報が単位時間「1」の項目に格納される。そして、制御部111は、決定済みの単位時間「2」から「10」までの「PD」を用いて、単位時間「1」のID(すなわち、単位時間「11」のID)を決定すればよい。制御部111は、「制御部」の一例である。
【0046】
図13は、実施形態における制御部111の処理フローの一例を示す図である。以下、
図13を参照して、制御部111の処理フローの一例について説明する。
【0047】
ステップT1では、制御部111は、アンテナモジュール1を用いた通信を開始する。ここでは、アンテナモジュール1の指向性が楕円507Aに向けられた通信が開始されたものとする。
【0048】
ステップT2では、制御部111は、ステップT1で開始した通信を継続すると規定値を超えるか否かを判定する。超える場合(ステップT2でYES)、処理はステップT4に進められる。超えない場合(ステップT2でNO)、処理はステップT3に進められる。
【0049】
ステップT3では、制御部111は、次の単位時間におけるPDの上限を算出する。ステップT4では、制御部111は、対応管理テーブル1121を参照して、ステップT1で開始した通信と同一のメインローブの指向性であって、よりPDの低いアンテナモジュール1による通信に切り替える。
【0050】
<実施形態の作用効果>
本実施形態では、アンテナモジュール1A、1B、1Cの少なくとも一部のカバレッジが重なるようにアンテナモジュール1A、1B、1Cがスマートフォン100に配置される。そして、アンテナモジュール1B、1Cは、ビームフォーミングによってPDが最も高い方向にメインローブの指向性が向けられた状態であっても、PDの規定値以下となるような位置に配置される。そして、制御部111は、例えば、アンテナモジュール1Aによるあるビームフォーミングの通信を継続するとPDの規定値を超えてしまうような場合に、よりPDの小さいアンテナモジュール1B、1Cによるメインローブの指向性が同一
のビームフォーミングへの通信に切り替える。そのため、本実施形態によれば、メインローブが同一指向性の通信を維持しつつ、PDを規定値以下とすることができる。
【0051】
ここで、本実施形態では、PDの規定値が6分平均で2mW/cm2である場合に、当該6分を単位時間(0.6分)に分割し、分割した各単位時間におけるPDの累積が20mW/cm2以下となるように、制御部111によってアンテナモジュール1が選択されてもよい。すなわち、制御部111によって、単位時間毎にPDが規定値以上となるか否かの判定が実行され、規定値以上となる場合には通信に使用するアンテナモジュール1が切り替えられてもよい。そのため、本実施形態によれば、通信に使用されるアンテナモジュール1のメインローブの指向性が途中で(6分の間で)変化しても単位時間毎に判定が実行されることで、頭部に対するPDを規定値以下とすることができる。
【0052】
<変形例1>
以上説明した実施形態では、スマートフォン100は3つのアンテナモジュール1を備えたが、スマートフォン100が備えるアンテナモジュール1の数は3つに限定されない。スマートフォン100は2つのアンテナモジュール1を備えてもよいし、4つ以上のアンテナモジュール1を備えてもよい。
【0053】
<変形例2>
アンテナモジュール1Aを、スピーカー21付近に配置できない場合、また、アンテナモジュール1B、1Cを、マイクロフォン22付近に配置できない場合、アンテナモジュール1Aはスマートフォン100の短辺に備え、アンテナモジュール1B、1Cはスマートフォン100の長辺に備えてもよい。
【0054】
以上で開示した実施形態や変形例はそれぞれ組み合わせることができる。
【符号の説明】
【0055】
1・・アンテナモジュール
1A・・アンテナモジュール
1B・・アンテナモジュール
1C・・アンテナモジュール
21・・スピーカー
22・・マイクロフォン
500・・楕円
501・・楕円
502・・楕円
503・・楕円
504・・楕円
505・・楕円
506・・楕円
507・・楕円
508・・楕円
509・・楕円
510・・楕円
511・・楕円
512・・楕円
513・・楕円
501A・・楕円
502A・・楕円
503A・・楕円
504A・・楕円
505A・・楕円
506A・・楕円
507A・・楕円
508A・・楕円
509A・・楕円
510A・・楕円
511A・・楕円
512A・・楕円
513A・・楕円
501B・・楕円
502B・・楕円
503B・・楕円
504B・・楕円
505B・・楕円
506B・・楕円
507B・・楕円
508B・・楕円
509B・・楕円
510B・・楕円
511B・・楕円
512B・・楕円
513B・・楕円
100・・スマートフォン
101・・CPU
102・・主記憶部
103・・補助記憶部
110・・筐体
111・・制御部
1111・・PD管理テーブル
112・・管理データベース
1121・・対応管理テーブル
B1・・接続バス