(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024001919
(43)【公開日】2024-01-11
(54)【発明の名称】窒化アルミニウム焼結体
(51)【国際特許分類】
C04B 35/582 20060101AFI20231228BHJP
【FI】
C04B35/582
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022100788
(22)【出願日】2022-06-23
(71)【出願人】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001036
【氏名又は名称】弁理士法人暁合同特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 大貴
(72)【発明者】
【氏名】則武 賢信
(72)【発明者】
【氏名】菱田 智子
(57)【要約】
【課題】高温領域で高い体積抵抗率が発現される窒化アルミニウム焼結体を提供する。
【解決手段】窒化アルミニウム焼結体は、窒化アルミニウムを主成分とし、酸化マグネシウムを含み、前記窒化アルミニウムの粒内欠陥に前記酸化マグネシウムが存在している。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化アルミニウムを主成分とし、
酸化マグネシウムを含み、
前記窒化アルミニウムの粒内欠陥に前記酸化マグネシウムが存在している、窒化アルミニウム焼結体。
【請求項2】
前記窒化アルミニウムの質量を100としたとき、前記酸化マグネシウムの質量aが、下記式(1)を満たす、請求項1に記載の窒化アルミニウム焼結体。
0.5≦a≦10 …(1)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化アルミニウム焼結体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体製造装置には、静電チャックやヒータ等としてセラミック部材が使用されている。近年、半導体の製造は、半導体集積回路の微細化や高密度化を図るため、600℃以上の高温で行われるようになってきており、高温領域での絶縁性に優れたセラミック材料が希求されている。
【0003】
例えば下記特許文献1には、Mg(マグネシウム)を含む窒化アルミニウム(AlN)の結晶粒子と、ガーネット型の結晶構造を有し、希土類元素とAl(アルミニウム)とを含む複合酸化物と、MgとAlとを含む複合酸窒化物と、を含み、窒化アルミニウムの結晶粒子間に、粒子状の前記複合酸化物及び前記複合酸窒化物が点在している窒化アルミニウム質焼結体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2018/221504号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
半導体集積回路に関する技術動向を踏まえると、高温領域における絶縁性に優れたセラミック材料へのニーズは今後も増大すると予想される。
【0006】
本明細書が開示する技術は、高温領域で高い体積抵抗率が発現される窒化アルミニウム焼結体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本明細書によって開示される窒化アルミニウム焼結体は、窒化アルミニウムを主成分とし、酸化マグネシウムを含み、前記窒化アルミニウムの粒内欠陥に前記酸化マグネシウムが存在している。
【発明の効果】
【0008】
本明細書によって開示される窒化アルミニウム焼結体によれば、高温領域で高い体積抵抗率が発現される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、試験例で得られた窒化アルミニウム焼結体をTEMにより観察した画像である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[実施形態の概要]
(1)本明細書によって開示される窒化アルミニウム焼結体は、窒化アルミニウムを主成分とし、酸化マグネシウムを含み、前記窒化アルミニウムの粒内欠陥に前記酸化マグネシウムが存在している。
【0011】
上記の構成によれば、窒化アルミニウムの粒内欠陥に酸化マグネシウムが存在することにより、高温領域で高い体積抵抗率が発現される。
【0012】
(2)上記(1)の窒化アルミニウム焼結体において、前記窒化アルミニウムの質量を100としたとき、前記酸化マグネシウムの質量aが、下記式(1)を満たしてもよい。
【0013】
0.5≦a≦10 …(1)
【0014】
このような構成によれば、高温領域において高い体積抵抗率を確実に発現させることができる。
【0015】
[実施形態の詳細]
本明細書によって開示される技術の具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0016】
[窒化アルミニウム焼結体の構成]
本実施形態の窒化アルミニウム焼結体は、窒化アルミニウムを主成分とし、酸化マグネシウムを含み、窒化アルミニウムの粒内欠陥に前記酸化マグネシウムが存在している。
【0017】
窒化アルミニウム焼結体は、70質量%以上、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上の窒化アルミニウムを含有している。
【0018】
本実施形態の窒化アルミニウム焼結体は、結晶粒子の内部に欠陥(粒内欠陥)を有する。粒内欠陥は、結晶を形成する結晶格子の規則性の乱れた部分である。本実施形態において、粒内欠陥は、窒化アルミニウムの結晶粒子の内部に、酸化マグネシウム(MgO)の各原子が入り込むことによって形成される。窒化アルミニウムの結晶粒子の内部で、酸化マグネシウムの各原子は、例えば、面状に分布している。
【0019】
このような構成を有する窒化アルミニウム焼結体は、高温領域で高い体積抵抗率を示す。この理由は、粒内欠陥がポテンシャル障壁となり、電子の移動が阻害されるためであると推測される。
【0020】
上記の窒化アルミニウム焼結体において、含まれる窒化アルミニウムの質量を100としたとき、酸化マグネシウムの質量aが、下記式(1)を満たすことが好ましく、下記式(2)を満たすことがさらに好ましい。
【0021】
0.5≦a≦10 …(1)
【0022】
0.5≦a≦5 …(2)
【0023】
このような構成によれば、高温領域において高い体積抵抗率を確実に発現させることができる。
【0024】
上記の窒化アルミニウム焼結体によれば、特に、600℃の高温領域において、ジョンソン・ラーベック力により対象物を吸着する静電チャックに必要とされる1.0×109Ω・cmから1.0×1012Ω・cmの体積抵抗率を実現できる。このような窒化アルミニウム焼結体は、特に、ジョンソン・ラーベック力型の静電チャックのためのセラミック材料として好適である。
【0025】
上記の窒化アルミニウム焼結体において、含まれる窒化アルミニウムの平均粒径が、1.0μm以上10.0μm以下であることが好ましい。このような構成によれば、欠陥が安定的に存在できる。
【0026】
[窒化アルミニウム焼結体の製造方法]
上記の構成の窒化アルミニウム焼結体の製造方法の一例を、以下に示す。
【0027】
まず、窒化アルミニウム粉末と、酸化マグネシウム粉末とを、目的とする質量比となるように秤量する。秤量した粉末を混合し、得られた混合物をプレス成形し、得られた成形体を焼成することによって、窒化アルミニウム焼結体が得られる。
【0028】
原料粉末の混合は、湿式、乾式を問わず、回転型ボールミル、振動型ボールミル、ビーズミル、高速撹拌等による公知の方法で行うことができる。溶媒を添加して湿式混合を行った場合は、混合後に乾燥を行って、原料混合粉末を得ることができる。混合は、例えば15時間以上行うことが好ましい。混合を充分な時間行うことによって、窒化アルミニウム粉末と酸化マグネシウム粉末とが均等に細かく分散する。これにより、窒化アルミニウムの結晶粒子内に酸化マグネシウムが入り込み、粒内欠陥が生じやすくなると考えられる。
【0029】
プレス成形は、金型成形法、冷間静水圧加圧(CIP:Cold Isostatic Pressing)法、スリップキャスト法、押出成形法等、公知の成形方法で行うことができる。これらの方法を組み合わせて行ってもよい。例えば、金型プレスにより一軸加圧成形を行った後に、静水圧処理を行って、成形体を得ることができる。このようにすれば、より均質で緻密な成形体を得ることができる。
【0030】
焼成は、例えば、不活性ガス雰囲気中において、1000℃以上2000℃以下で行うことが好ましい。焼成は、常圧で行ってもよいが、ホットプレス法により加圧下で行うことが好ましい。このようにすれば、より均質で緻密な焼結体を得ることができる。
【0031】
[試験例]
1.試料の作製
窒化アルミニウム粉末と、酸化マグネシウム粉末とを、目的の質量比(表1参照)となるように秤量した。溶媒としてエタノールを使用し、秤量した原料粉末を加え、ボールミルにより混合して乾燥することにより、混合粉末を調製した。得られた混合粉末を、金型プレスによりプレス圧力12MPaで一軸加圧成形し、さらに147MPaの静水圧処理を行い、直径60mm、厚さ9mm程度の円盤状の成形体を作製した。作製した成形体をカーボン製のダイスに詰め、窒素雰囲気中において、焼結温度1900℃、保持時間2時間、圧力4.4MPaでホットプレス法により焼結し、窒化アルミニウム焼結体を得た。
【0032】
2.試験方法
1)結晶粒子の観察
得られた窒化アルミニウム焼結体を、透過型透過電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)により観察した。
【0033】
2)質量比
得られた窒化アルミニウム焼結体を粉砕した粉末を、放射光X線回折装置により測定し、回折パターンをWPPF(Whole Powder Pattern Fitting)法により定量分析して、焼結体中の窒化ジルコニウム、および酸化マグネシウムの質量比を算出した。
【0034】
3)体積抵抗率
JIS-C2141に準じて、得られた窒化アルミニウム焼結体から試料片を切り出して加工し、直流三端子法により、窒素雰囲気下600℃で体積抵抗率を計測した。
【0035】
3.結果
図1に示すように、得られた窒化アルミニウム焼結体をTEMで観察することにより、窒化アルミニウムの結晶粒子中に、酸化マグネシウムの各原子が面状に分布した粒内欠陥が存在していることが確認された。
【0036】
また、各試験例について、得られた窒化アルミニウム焼結体中の窒化アルミニウムの質量を100としたときの酸化マグネシウムの質量aの値と、体積抵抗率の計測値とを表1に示した。
【0037】
【0038】
表1より、酸化マグネシウムが含まれていない試験例5では、600℃における体積抵抗率が1.2×106Ω・cmであった。これに対し、酸化マグネシウムが含まれる試験例1-4の焼結体は、600℃において体積抵抗率が2.5×107Ω・cm-6.4×109Ω・cmであり、酸化マグネシウムが含まれていない試験例5と比較して高い体積抵抗率を示した。特に、窒化アルミニウムの質量を100としたときの酸化マグネシウムの質量aの値が0.5-5である試験例1-3の焼結体は、600℃における体積抵抗率が1.0×109Ω・cm-6.4×109Ω・cmであり、ジョンソン・ラーベック力型の静電チャックのためのセラミック材料として好適であることが確認された。