(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024019231
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】量子ビットの励起周波数をキャリブレートする方法、装置、機器および記憶媒体
(51)【国際特許分類】
G06N 10/40 20220101AFI20240201BHJP
【FI】
G06N10/40
【審査請求】有
【請求項の数】21
【出願形態】OL
【外国語出願】
【公開請求】
(21)【出願番号】P 2023200921
(22)【出願日】2023-11-28
(31)【優先権主張番号】202310780712.9
(32)【優先日】2023-06-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(71)【出願人】
【識別番号】514322098
【氏名又は名称】ベイジン バイドゥ ネットコム サイエンス テクノロジー カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Beijing Baidu Netcom Science Technology Co., Ltd.
【住所又は居所原語表記】2/F Baidu Campus, No.10, Shangdi 10th Street, Haidian District, Beijing 100085, China
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】郭学儀
(72)【発明者】
【氏名】李力
(72)【発明者】
【氏名】王賀
(72)【発明者】
【氏名】孟則霖
(72)【発明者】
【氏名】陳澄
(57)【要約】
【課題】少ないテスト回数で精度のより高い励起周波数を得ることができ、自動化処理との方法によって多量子ビットの励起周波数を正確にキャリブレートする際のキャリブレーションの効率を向上させることができる量子ビットの励起周波数をキャリブレートする方法を提供する。
【解決手段】上記方法は、スイープテスト周波数ごとに、それぞれ異なるパルス振幅値を有する励起パルスで目標量子ビットを励起させ、且つ前記目標量子ビットがうまく励起されたか否かを示す統計された励起結果に基づいて、平均励起率を計算するステップと、各平均励起率に基づいて目標量子ビットの周波数スペクトル線を決定するステップと、周波数スペクトル線における単峰波形の目標スイープテスト周波数を、目標量子ビットの励起周波数としてキャリブレートするステップとを含む。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スイープテスト周波数ごとに、それぞれ異なるパルス振幅値を有する励起パルスで目標量子ビットを励起させ、且つ前記目標量子ビットがうまく励起されたか否かを示す統計された励起結果に基づいて、平均励起率を計算するステップと、
前記平均励起率のそれぞれに基づいて前記目標量子ビットの周波数スペクトル線を決定するステップと、
前記周波数スペクトル線における単峰波形の目標スイープテスト周波数を、前記目標量子ビットの励起周波数としてキャリブレートするステップと、
を含む量子ビットの励起周波数をキャリブレートする方法。
【請求項2】
前記パルス振幅値のそれぞれは、現在のスイープテスト周波数に対応する、所定のパルス長における予め設定されたパルス振幅値シーケンスに含まれる請求項1に記載の量子ビットの励起周波数をキャリブレートする方法。
【請求項3】
前記パルス振幅値のそれぞれは、前記予め設定されたパルス振幅値シーケンスにおいて、振幅値の大きさが昇順に配列される請求項2に記載の量子ビットの励起周波数をキャリブレートする方法。
【請求項4】
前記予め設定されたパルス振幅値シーケンスに含まれるパルス振幅値のそれぞれは等差数列を構成する請求項2に記載の量子ビットの励起周波数をキャリブレートする方法。
【請求項5】
前記パルス振幅値は、前記予め設定されたパルス振幅値シーケンスにおいてN個存在し、前記Nは2以上の正の整数である請求項2に記載の量子ビットの励起周波数をキャリブレートする方法。
【請求項6】
異なるパルス振幅値にそれぞれ対応するNの大きさが同じである請求項5に記載の量子ビットの励起周波数をキャリブレートする方法。
【請求項7】
前記励起パルスはπパルスを含む請求項1に記載の量子ビットの励起周波数をキャリブレートする方法。
【請求項8】
前記周波数スペクトル線における単峰波形の目標スイープテスト周波数を、前記目標量子ビットの励起周波数としてキャリブレートするステップは、
前記周波数スペクトル線に唯一に存在する単峰波形を特定するステップと、
前記単峰波形において予め設定された励起率に対応する帯域よりも高い波長帯域を励起波長帯域とするステップと、
前記励起波長帯域に対応する目標スイープテスト周波数を、前記目標量子ビットの励起周波数としてキャリブレートするステップと、
を含む請求項1~7のいずれか1項に記載の量子ビットの励起周波数をキャリブレートする方法。
【請求項9】
超伝導量子コンピュータの量子チップ上のすべての目標量子ビットに対していずれも励起周波数のキャリブレーションが完了させたことに応答して、前記量子チップにキャリブレーション完了マークを付加するステップと、
前記キャリブレーション完了マークが付加された量子チップを用いて演算タスクを実行するステップと、
をさらに含む請求項1~7のいずれか1項に記載の量子ビットの励起周波数をキャリブレートする方法。
【請求項10】
スイープテスト周波数ごとに、それぞれ異なるパルス振幅値を有する励起パルスで目標量子ビットを励起させ、且つ前記目標量子ビットがうまく励起されたか否かを示す統計された励起結果に基づいて、平均励起率を計算するように構成される変動振幅値パルス励起ユニットと、
前記平均励起率のそれぞれに基づいて前記目標量子ビットの周波数スペクトル線を決定するように構成される周波数スペクトル線作成ユニットと、
前記周波数スペクトル線における単峰波形の目標スイープテスト周波数を、前記目標量子ビットの励起周波数としてキャリブレートするように構成される励起周波数キャリブレートユニットと、
を含む量子ビットの励起周波数をキャリブレートする装置。
【請求項11】
前記パルス振幅値のそれぞれは、現在のスイープテスト周波数に対応する、所定のパルス長における予め設定されたパルス振幅値シーケンスに含まれる請求項10に記載の量子ビットの励起周波数をキャリブレートする装置。
【請求項12】
前記パルス振幅値のそれぞれは、前記予め設定されたパルス振幅値シーケンスにおいて、振幅値の大きさの昇順に配列される請求項11に記載の量子ビットの励起周波数をキャリブレートする装置。
【請求項13】
前記予め設定されたパルス振幅値シーケンスに含まれるパルス振幅値のそれぞれは等差数列を構成する、請求項11に記載の量子ビットの励起周波数をキャリブレートする装置。
【請求項14】
前記パルス振幅値は、前記予め設定されたパルス振幅値シーケンスにおいてN個存在し、前記Nは、2以上の正の整数である請求項11に記載の量子ビットの励起周波数をキャリブレートする装置。
【請求項15】
異なるパルス振幅値にそれぞれ対応するNの大きさが同じである請求項14に記載の量子ビットの励起周波数をキャリブレートする装置。
【請求項16】
前記励起パルスはπパルスを含む請求項10に記載の量子ビットの励起周波数をキャリブレートする装置。
【請求項17】
前記励起周波数キャリブレートユニットは、
前記周波数スペクトル線に唯一に存在する単峰波形を特定し、
前記単峰波形において予め設定された励起率に対応する帯域よりも高い波長帯域を励起波長帯域とし、
前記励起波長帯域に対応する目標スイープテスト周波数を、前記目標量子ビットの励起周波数としてキャリブレートするようにさらに構成される、
請求項10~16のいずれか1項に記載の量子ビットの励起周波数をキャリブレートする装置。
【請求項18】
超伝導量子コンピュータの量子チップ上のすべての目標量子ビットに対していずれも励起周波数のキャリブレーションが完了させたことに応答して、前記量子チップにキャリブレーション完了マークを付加するように構成されるマーク付加ユニットと、
前記キャリブレーション完了マークが付加された量子チップを用いて演算タスクを実行するように構成される演算タスク実行ユニットと、
をさらに含む請求項10~16のいずれか1項に記載の量子ビットの励起周波数をキャリブレートする装置。
【請求項19】
少なくとも1つのプロセッサと、前記少なくとも1つのプロセッサと通信可能に接続されたメモリとを備える電子機器であって、
前記メモリには、前記少なくとも1つのプロセッサによって実行可能な指令が格納され、前記指令が前記少なくとも1つのプロセッサによって実行されると、前記少なくとも1つのプロセッサに請求項1~7のいずれか1項に記載の量子ビットの励起周波数をキャリブレートする方法を実行させる電子機器。
【請求項20】
コンピュータに請求項1~7のいずれか1項に記載の量子ビットの励起周波数をキャリブレートする方法を実行させるためのコンピュータ指令が格納されている非一時的コンピュータ可読記憶媒体。
【請求項21】
プロセッサによって実行されると、請求項1~7のいずれか1項に記載の量子ビットの励起周波数をキャリブレートする方法が実現されるコンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、量子技術分野に関し、具体的には超伝導量子コンピュータ、量子チップ、量子ビット、周波数キャリブレーションなどの技術分野に関し、特に量子ビットの励起周波数をキャリブレートする方法、装置、電子機器、コンピュータ可読記憶媒体およびコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
超伝導量子ビットの製造が完了した後、微細加工プロセスの問題で、そのビット周波数と設計値との間にある程度のバラツキが生ずることがある。これに加えて、一部の超伝導量子ビットは周波数調整可能であり、実際の使用では、実際の状況に応じてビットの周波数を調整する必要がある。したがって、超伝導量子ビット周波数のテストおよびキャリブレーションは非常に重要である。
【0003】
スイープ実験における掃引によって高品質のビット励起スペクトルを得ることを如何に確保し、それによってビット周波数を迅速かつ正確に特定することは、超伝導量子チップの表現(representation)、キャリブレーションにおける重要な問題であり、特に量子ビットの数が多くなる時、自動化された表現、キャリブレーション手順にはより安定した(robustly)ビット周波数掃引方法が必要となる。
【発明の概要】
【0004】
本開示の実施形態は、量子ビットの励起周波数をキャリブレートする方法、装置、電子機器、コンピュータ可読記憶媒体およびコンピュータプログラムを提供する。
【0005】
第1の態様によれば、本開示の実施形態には、スイープテスト周波数(sweep test frequency)ごとに、それぞれ異なるパルス振幅値を有する励起パルスで目標量子ビットを励起させ、且つ目標量子ビットがうまく励起されたか否かを示す統計された励起結果に基づいて、平均励起率を計算するステップと、平均励起率のそれぞれに基づいて目標量子ビットの周波数スペクトル線を決定するステップと、周波数スペクトル線における単峰波形の目標スイープテスト周波数を、目標量子ビットの励起周波数としてキャリブレートするステップと、を含む量子ビットの励起周波数をキャリブレートする方法が提案される。
【0006】
第2の態様によれば、本開示の実施形態には、スイープテスト周波数ごとに、それぞれ異なるパルス振幅値を有する励起パルスで目標量子ビットを励起させ、且つ目標量子ビットがうまく励起されたか否かを示す統計された励起結果に基づいて、平均励起率を計算するように構成される変動した振幅パルス励起ユニットと、平均励起率のそれぞれに基づいて目標量子ビットの周波数スペクトル線を決定するように構成される周波数スペクトル線作成ユニットと、周波数スペクトル線における単峰波形の目標スイープテスト周波数を、目標量子ビットの励起周波数としてキャリブレートするように構成される励起周波数キャリブレートユニットと、を含む量子ビットの励起周波数をキャリブレートする装置が提案される。
【0007】
第3の態様によれば、本開示の実施形態には、少なくとも1つのプロセッサと、少なくとも1つのプロセッサと通信可能に接続されるメモリとを備える電子機器であって、メモリには、少なくとも1つのプロセッサによって実行可能な指令が格納され、当該指令が少なくとも1つのプロセッサによって実行されると、少なくとも1つのプロセッサに第1の態様のいずれかの実施形態に記載の量子ビットの励起周波数をキャリブレートする方法が実現される電子機器が提案される。
【0008】
第4の態様によれば、本開示の実施形態には、コンピュータに第1の態様のいずれかの実施形態に記載の量子ビットの励起周波数をキャリブレートする方法を実行させるためのコンピュータ指令が格納されている非一時的コンピュータ可読記憶媒体が提案される。
【0009】
第5の態様によれば、本開示の実施形態には、プロセッサによって実行されると、第1の態様のいずれかの実施形態に記載の量子ビットの励起周波数をキャリブレートする方法が実現されるコンピュータプログラムを含むコンピュータプログラム製品が提案される。
【0010】
本開示によって提供される量子ビットの励起周波数をキャリブレートする方案は、スイープ実験の過程におけるスイープテスト周波数ごとに、従来の固定パルス振幅値のみに基づいて複数回繰り返しテストを行うスイープテスト方法を、変動する振幅値を有するパルスに基づくスイープテストを行うことに変更し、それによって選択された固定パルス振幅値の精度が低いことに起因するテスト効率の低下という問題を可能な限り回避し、すなわち、異なるパルス振幅値を有する各パルスで試みることによって、相対的少ないテスト回数で相対的精度の高い励起周波数を得ることができ、自動化処理との方法で多量子ビットの励起周波数の高精度なキャリブレーションを完了させるキャリブレーションの効率を向上させることができる。
【0011】
なお、発明の概要に記載された内容は、本開示の実施形態のかなめとなる特徴または重要な特徴を限定することを意図するものではなく、本開示の範囲を限定するものでもない。本開示の他の特徴は、以下の説明によって理解しやすくなる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
本開示の他の特徴、目的および利点は、以下の図面を参照してなされる非限定的な実施形態に係る詳細な説明を読むことにより、より明らかになる。
【
図1】本開示の適用可能な例示的なシステムアーキテクチャを示す図である。
【
図2】本開示の実施形態に係る量子ビットの励起周波数をキャリブレートする方法のフローチャートである。
【
図3】本開示の実施形態に係る
図2に示すキャリブレート方法の実施後に作成された1次元周波数スペクトル線の一例を示す図である。
【
図4】本開示の実施形態に係る
図2に示すキャリブレート方法に対応して得られたブロッホ球表現の概略図である。
【
図5】本開示の実施形態に係る量子ビットの励起周波数をキャリブレートする他の方法のフローチャートである。
【
図6】本開示の実施形態に係る単峰波形に基づいて励起周波数域をキャリブレートして得る方法のフローチャートである。
【
図7】本開示の実施形態に係る量子ビットの励起周波数をキャリブレートする装置の構造ブロック図である。
【
図8】本開示の実施形態に係る量子ビットの励起周波数をキャリブレートする方法を実行するために適する電子機器の構造概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下は、図面を参照して本開示の例示的な実施形態を説明し、ここで理解を助けるため、本開示の実施形態の様々な詳細を記載するが、これらは単なる例示的なものに過ぎないことを理解すべきである。従って、本開示の範囲および要旨を逸脱しない限り、当業者が本明細書の実施形態に対して様々な変更および修正を行うことができることを理解すべきである。なお、以下の説明では、明確化および簡略化のため、公知の機能および構造については説明を省略する。なお、本開示の実施形態および実施形態における特徴は、矛盾が生じない限り、相互に組み合わせることができる。
【0014】
本開示の技術方案では、関連するユーザ個人情報の収集、記憶、使用、加工、伝送、提供および公開などの処理は、いずれも関連する法律法規の規定に準拠し、且つ公序良俗に反しない。
【0015】
図1は、本開示に係る量子ビットの励起周波数をキャリブレートする方法、装置、電子機器およびコンピュータ可読記憶媒体の実施形態を適用可能な例示的なシステムアーキテクチャ100を示している。
【0016】
図1に示すように、システムアーキテクチャ100は、量子チップ101と、周波数キャリブレートデバイス102と、サーバ103とを含んでもよい。周波数キャリブレートデバイス102は、設定されたパラメータに従って励起パルスを発し、これらの励起パルスを用いて量子チップ101を構成する各量子ビットの励起を試み、励起結果を収集して得る。周波数キャリブレートデバイス102は、計算結果に基づいて量子ビットの励起周波数をキャリブレートするために、その励起結果をサーバ103に送信して後続の計算を行ってもよい。
【0017】
ユーザは、周波数キャリブレートデバイス102とサーバ103とを用いて、共同して量子チップ101における量子ビットの周波数をキャリブレートすることができる。周波数キャリブレートデバイス102とサーバ103には、両者の間の情報通信を実現するための各種のアプリケーションがインストールされてもよく、例えば、励起パルスパラメータ設定系のアプリケーション、自動化処理スイープ実験系のアプリケーション、励起結果処理系のアプリケーションなどが挙げられる。
【0018】
周波数キャリブレートデバイス102は、通常、専用のハードウェアデバイスである。サーバ103は、ハードウェアでもよくソフトウェアでもよい。サーバ103がハードウェアである場合は、複数のサーバで構成される分散サーバクラスターとして実装されてもよく、単一のサーバとして実装されてもよい。サーバ103がソフトウェアである場合は、複数のソフトウェアまたはソフトウェアモジュール、単一のソフトウェアまたはソフトウェアモジュールとして実装されてもよい。ここでは具体的な限定をしない。
【0019】
周波数キャリブレートデバイス102とサーバ103は、内蔵された各種のアプリケーションを介して様々なサービスを提供することができる。自動化された量子ビット周波数キャリブレートサービスを提供することができる周波数キャリブレート系アプリケーションを例にすると、周波数キャリブレートデバイス102とサーバ103は、当該周波数キャリブレート系のアプリケーションが動く場合に、以下の効果を達成することができる。まず、周波数キャリブレートデバイス102は、スイープテスト周波数ごとに、それぞれ異なるパルス振幅値を有する励起パルスで目標量子ビットを励起させ、且つ統計された励起結果をサーバ103に送信することができる。当該励起結果は、当該目標量子ビットがうまく励起されたか否かを示すのに用いられる。目標量子ビットがうまく励起された場合は励起状態に入る。次に、サーバ103は、その励起結果に基づいて平均励起率を計算することができる。次に、サーバ103は、各平均励起率に基づいて目標量子ビットの周波数スペクトル線を決定することができる。最後に、サーバ103は、当該周波数スペクトル線における単峰波形の目標スイープテスト周波数を、目標量子ビットの励起周波数としてキャリブレートする。
【0020】
本開示に係る後続の各実施形態によって提供される量子ビットの励起周波数をキャリブレートする方法は、通常、設定された励起パルスを提供する周波数キャリブレートデバイス102と、データ処理能力を提供するサーバ103とによって共同して実行され、対応して、量子ビットの励起周波数をキャリブレートする装置は、通常、それぞれ両方に分散して設置されてもよい。なお、データ処理能力を提供するサーバ103は、演算モジュールとして周波数キャリブレートデバイス102に統合されてもよい。この場合、量子ビットの励起周波数をキャリブレートする装置は、周波数キャリブレートデバイス102に設置されることになる。
図1における量子チップ、周波数キャリブレートデバイスおよびサーバの数は例示的なものに過ぎないことを理解すべきである。実装の必要に応じて、量子チップ、周波数キャリブレートデバイスおよびサーバの数を任意に加減してもよい。
【0021】
本開示の実施形態に係る量子ビットの励起周波数をキャリブレートする方法のフローチャートである
図2を参照する。フロー200は以下のステップを含む。
【0022】
ステップ201では、スイープテスト周波数ごとに、それぞれ異なるパルス振幅値を有する励起パルスで目標量子ビットを励起させ、且つ統計された励起結果に基づいて平均励起率を計算する。
【0023】
本ステップは、量子ビットの励起周波数をキャリブレートする方法の実行主体(例えば、
図1に示す周波数キャリブレートデバイス102とサーバ103によって提供された機能とを統合した統合装置)によって、目標量子ビットの励起周波数を決定するためのスイープ実験において、それぞれのスイープテスト周波数(すなわち、スイープ実験において複数の異なるテスト周波数が予め設定されている)に対して、それぞれ異なるパルス振幅値を有する励起パルスで目標量子ビットの励起を試み、統計された励起結果(目標量子ビットがうまく励起されたか、またはうまく励起されなかったことを示すために用いられ、そのうち、うまく励起されたことは、具体的に目標量子ビットが現在の励起パルスの影響を受けて非励起状態から励起状態に入ったことである)に基づいて平均励起率を計算することを目的とする。ここで、この励起パルスは、πパルスまたはそれに類似する性質を有する他のパルスを使用することを選択することができ、この平均励起率は、あるスイープテスト周波数で、異なるパルス振幅値で行われた複数回の励起を試みた結果を平均して計算されたものを指す(すなわち、励起に成功した回数を、励起を試みた総回数で除した商である)。
【0024】
具体的には、スイープ実験に際し、ある周波数域をカバーする複数の周波数を選択してスイープテスト周波数とすることが多く、各スイープテスト周波数において、励起パルスのパラメータは固定パルス長と異なるパルス振幅と設定され、これらの異なるパルス振幅は最小パルス振幅(-1,還元算(reduction)された値であって、単位を有しない)と最大パルス振幅(+1,還元算された値であって、単位を有しない)の範囲内(最小値と最大値とを含む)に選択して得られたもので、具体的に選択する方法は複数あってもよく、例えば、最小パルス振幅値から最大パルス振幅値までに漸増する複数のパルス振幅値を選択してもよいし、最大パルス振幅値から最小パルス振幅値までに漸減する複数のパルス振幅値を選択してもよいし(すなわち最小値と最大値のいずれも選択される)、最小パルス振幅値に近い特定の小さ目のパルス振幅値から上方へ選択してもよいし、最大パルス振幅値に近い特定の大き目のパルス振幅値から下方へ選択してもよい(すなわち、最小値と最大値のうち、多くて1つが選択される)。これに基づいて、上方または下方へ調整する幅は、固定されているものでも、変化しているものでも(または固定されていないものでも)よいし、選択されたパルス振幅値ごとに、繰り返し存在する回数を設定してもよい(すなわち、そのパルス振幅値で励起パルスを複数回繰り返して出す)。それによって、複数回繰り返して出された励起パルスによってフィードバックされた励起結果に基づいて、精度の高い励起率を特定することができ、さらに、異なるパルス振幅値の繰り返しが存在する回数は同一であってもよく、一部同一でなくてもよく、実情に応じて柔軟に設定することができる。
【0025】
ステップ202では、平均励起率のそれぞれに基づいて目標量子ビットの周波数スペクトル線を決定する。
【0026】
ステップ201に基づいて、本ステップは、上記実行主体によって、スイープテスト周波数のそれぞれに対応する平均励起率に基づいて、当該目標量子ビットに対応する周波数スペクトル線を生成して得ることを目的とする。
【0027】
具体的には、簡略化のために、当該周波数スペクトル線を1次元の周波数スペクトル線として表現してもよい。例えば、周波数をX軸のパラメータとし、平均励起率をY軸のパラメータとすることができ、
図3に示す概略図を参照されたい。
【0028】
ステップ203では、周波数スペクトル線における単峰波形の目標スイープテスト周波数を目標量子ビットの励起周波数としてキャリブレートする。
【0029】
ステップ202に基づいて、本ステップは、上記実行主体によって、周波数スペクトル線における単峰波形の部分に対応する目標スイープテスト周波数を、目標量子ビットの励起周波数としてキャリブレートすることを目的とする。簡単に言えば、単峰波形におけるピークに対応する目標スイープテスト周波数(すなわち、最も高い平均励起率を有するスイープテスト周波数)のみを、目標量子ビットの最適励起周波数として決定することができる。
【0030】
なお、異なるパルス振幅値を選択して異なる励起パルスを生成して目標量子ビットの励起の試みに用いることで、上記方案に基づいてより高精度な励起周波数を特定できる理由として、従来技術では、通常、スイープ実験において、固定パルス振幅値に対応する同じ励起パルスに基づいて、目標量子ビットに対してN回の励起の試みを繰り返し、例えば、振幅値の全てが1(最大パルス振幅)であるN個のパルスを含むパルス振幅値シーケンスに従って励起パルスを生成することに対して、本実施形態では、そのパルス振幅値シーケンスを、[-1,1]の間で選択された複数の異なるパルス振幅値からなるシーケンスに調整するようにし、例えば、[-1,…,-0.9,…,0,…0.1,…,1]のように具体的に調整してもよいからである。すなわち、調整されたパルス振幅値シーケンスにおける各パルス振幅値は、振幅値の大きさが小さい方から大きい方への昇順に配列されるだけでなく、全体として長さNの等差数列として表現され、このような方法で励起させると、この等差数列の公差が十分に小さい場合には、ブロッホ球表現から言えば、実際にはビットの状態をYZ平面上の位置ごとにトラバースして励起させ、平均を取ると、z軸投影の統計的な平均値は0.5となる(
図4の概略図を参照してもよい)。このアプローチの有効性は、任意に設定された長さに対して、実験点ごとにシーケンスの振幅値で励起させ、平均値を取るという数値シミュレーションによって検証されることができる。このようなスイープ方式の結果は明らかなロバスト性を示した。
図3に示すように、任意に選択されたパルス長に対して、同じシーケンスを用いても安定した単峰構造を得ることができる。これは、単一振幅値を使用した従来の結果における、通常、周波数スペクトル線に二峰波形または多峰波形が現れることとは対照的である。
【0031】
本開示の実施形態によって提供される量子ビットの励起周波数をキャリブレートする方法は、スイープ実験の過程におけるスイープテスト周波数ごとに、従来の固定パルス振幅値のみに基づいて複数回繰り返しテストを行うスイープテスト方法を、変動する振幅値を有するパルスに基づくスイープテストを行うことに変更し、それによって選択された固定パルス振幅値の精度が低いことによるテスト効率の低下という問題を可能な限り回避し、すなわち、異なるパルス振幅値を有する各パルスで試みることによって、相対的に少ないテスト回数で相対的に精度の高い励起周波数を得ることができ、自動化の方法によって多量子ビットの励起周波数の高精度キャリブレーションを完了させるキャリブレーションの効率を向上させることができる。
【0032】
次に、
図5を参照する。
図5は、本開示の実施形態に係る量子ビットの励起周波数をキャリブレートする他の方法のフローチャートである。フロー500は、以下のステップを含む。
【0033】
ステップ501では、スイープテスト周波数ごとに、いずれも現在の周波数に対応する所定のパルス長の下、予め設定されたパルス振幅値シーケンスを構成するパルス振幅値を有する励起パルスのそれぞれで目標量子ビットを励起させ、且つ統計された励起結果に基づいて平均励起率を計算する。
【0034】
ステップ201とは異なり、本ステップは、上記実行主体によって、目標量子ビットの励起周波数を特定するためのスイープ実験において、スイープテスト周波数ごとに(すなわち、スイープ実験において複数の異なるテスト周波数が予め設定されている)、いずれも現在の周波数に対応する所定のパルス長の下、予め設定されたパルス振幅値シーケンスを構成するパルス振幅値を有する励起パルスのそれぞれで目標量子ビットを励起させ、統計により得られた励起結果に基づいて平均励起率を算出することを目的とする。上記実行主体は、スイープテスト周波数ごとに、対応する所定のパルス長と予め設定されたパルス振幅値シーケンスとが予め設定されており、すなわち、各パルス振幅値は、現在のスイープテスト周波数に対応した、所定のパルス長における予め設定されたパルス振幅値シーケンスに含まれている。
【0035】
具体的には、異なるパルス振幅値は、予め設定されたパルス振幅値シーケンスに振幅値の大きさの昇順に配列されてもよく、逆に、予め設定されたパルス振幅値シーケンスに振幅値の大きさの降順に配列されてもよく、すなわち、順序付けにより、毎回のパルスのパラメータの調整にその調整幅を可能な限り小さくし、パラメータの調整結果の精度を確保するようにする。また、シーケンスに順序付けされたパルス振幅値のそれぞれは、さらに等差数列を構成してもよく(すなわち、隣接する2つの異なるパルス振幅値同士の間の振幅値の大きさの差が同じであってもよい)、当然のことながら、異なる振幅差で非等差数列を構成してもよく、実情に応じて柔軟に選択することができる。同時に、各パルス振幅値がいずれも予め設定されたパルス振幅値シーケンスに1回だけ現れる方法に加えて、各パルス振幅値がさらに予め設定されたパルス振幅値シーケンスにN個存在するようにすることもでき、Nは2以上の正の整数であり、複数回繰り返して出された励起パルスによってフィードバックされた励起結果からより精度の高い励起率を総合的に特定し、さらに、各パルス振幅値に対応するN値は同じであっても異なっていてもよく、異なる大きさのパルス振幅値から返した励起結果の励起率の精度が異なるとの実状に応じて設定されてもよい。
【0036】
ステップ502では、平均励起率のそれぞれに基づいて目標量子ビットの周波数スペクトル線を決定する。
【0037】
ステップ503では、周波数スペクトル線における単峰波形の目標スイープテスト周波数を目標量子ビットの励起周波数としてキャリブレートする。
【0038】
以上のステップ502~503は
図2に示すステップ202~203と一致しており、同じ部分の内容は前の実施形態の対応する部分を参照されたい。ここで説明を省略する。
【0039】
ステップ504では、超伝導量子コンピュータの量子チップ上のすべての目標量子ビットに対していずれも励起周波数のキャリブレーションが完了したことに応答して、量子チップにキャリブレーション完了マークを付加する。
【0040】
ステップ503に基づいて、本ステップは、上記実行主体によって、超伝導量子コンピュータの量子チップ上の全ての目標量子ビットが上記の方案に従って励起周波数のキャリブレーションを完了しているか否かを判断し、励起周波数のキャリブレーションがすべて完了したことを確認した後、当該量子チップにキャリブレーション完了マークを付加することを目的とする。
【0041】
ステップ505では、キャリブレーション完了マークが付加された量子チップを用いて演算タスクを実行する。
【0042】
ステップ504に基づいて、本ステップは、上記実行主体によって、キャリブレーション完了マークが付加された量子チップを使用して、演算タスクを実行することを目的とする。すなわち、1つの量子チップに当該キャリブレーション完了マークが付加されている場合には、当該量子チップが少なくともキャリブレーション完了の有効期間内に演算タスクを処理する能力を有していることを意味し、呼び出しまたは割り当て可能なリソースとしてタスクの割り当ておよび処理のシーンに参加することができるようになり、演算結果の精度が確保されるようにする。
【0043】
図2に示した実施形態と比較すると、本実施形態はステップ501ではパルス振幅値シーケンスに基づいてスイープ実験の過程で、目標量子ビットの励起の試みに用いられる異なる励起パルスを、如何にして生成すべきであるかという方案が提供され、シーケンスの形式を用いることにより異なるパルス振幅を振幅の大きさに応じてソートすることができるだけでなく、繰り返しの状況をよりよく具現化することができ、同時に具体的に実行をするコンピュータにとっても実行順序を正確に識別して実行順序に従って正確に実行するのに便利になる。本実施形態はさらにステップ504およびステップ505によりキャリブレーション方案全体を量子チップの利用可能性マーキングシーンにまで拡張して、いずれの量子チップがキャリブレートされた後に利用可能な状態にあるかを明らかにし、それによって演算結果の精度を確保できるようにする。
【0044】
上述した任意の実施形態に基づいて、量子ビットの励起周波数が固定された単一の値ではないことが多いことを考慮して、特定の周波数域において量子ビットを励起状態にすることができるので、本実施形態では、
図6に単峰波形に基づいて励起周波数域をキャリブレートする方法も示し、そのフロー600は次のステップを含む。
【0045】
ステップ601では、周波数スペクトル線に唯一に存在する単峰波形を特定する。
【0046】
ステップ602では、単峰波形において予め設定された励起率に対応する帯域よりも高い波長帯域を励起波長帯域として決定する。
【0047】
ステップ603では、励起波長帯域に対応する目標スイープテスト周波数を、目標量子ビットの励起周波数としてキャリブレートする。
【0048】
すなわち、本実施形態は、まず周波数スペクトル線によって示された波形に基づいて唯一に存在する単峰波形を見つけ出し、次に完全な単峰波形のうち予め設定された励起率に対応する帯域より高い帯域を励起波長帯域として決定し、最後に励起波長帯域に対応する目標スイープテスト周波数を、目標量子ビットの励起周波数としてキャリブレートすることができる。
【0049】
理解を深めるために、本開示はさらに具体的な応用シーンを合わせ、例証および数値シミュレーションの方法によって本方案を説明する。
【0050】
元のスイープ実験において、各実験点はN回繰り返したshots(励起パルスの短時間励起を指す)によって得られ、すなわち、パルス振幅値が[1,1,1,1,…,1]であり、ここで、各点のN回のshotsに対応する励起パルス振幅値がそれぞれ[-1,…,-0.9,…,0,…0.1,…,1]に変更し、長さがNである等差数列であり、すなわち、上記シーケンスの最大値が1である(通常、XYパルスの振幅値は単位を持たない還元算された値である)。
【0051】
このような方法で励起すると、等差数列の公差が十分に小さい場合、ブロッホ球表現では、実際にビットの状態をYZ平面上の各位置にトラバースして励起させるものであり、それから平均を取ると、z軸投影の統計平均は0.5になるはずである(
図4の概略図を参照してもよい)。
【0052】
任意の選択されたパルス長について、振幅値シーケンスの形式でスイープすることにより、各実験点は平均化された結果であるので、パルス長がいくらであっても、同一シーケンスに対して、同じシーケンスがいずれも単峰構造を得ることができる。これは、単一振幅値を使用した従来の結果とは対照的である。
【0053】
さらに、結果はシーケンスの最大値に敏感ではないため、1つのシーケンスの最大値を任意に設定すれば、安定して単峰構造を得ることができ、この実現方法を自動化キャリブレーション方法に統合することにより、非常に顕著な効率の向上効果が得られることを予見することができる。励起パルスの長さが
図3の数値シミュレーションと一致させ、シーケンスの最大値がそれぞれ1倍のπパルス振幅と2倍のπパルス振幅の下でテストを行い、スイープにシーケンス形式の振幅値を用いて平均を取る方法を用いた場合も同様に、初期のパラメータに敏感でない安定した単峰性の結果が見られる。
【0054】
従来技術との相違点およびそれによってもたらした効果をより明確に示すために、本開示によって提供されたシーケンス振幅法によって得られた結果のシミュレーションと、固定振幅法で直接掃引を行った結果とを3次元グラフの方法で比較し(励起パルスのいずれもガウスエンベロープを使用したことを例として)、実際に比較した後に以下のことを発見することができる。
【0055】
1)本開示で提供されたシーケンス振幅法による結果としては、シーケンスの最大値に従って変化しても、その一次元スペクトルは依然として単峰を保持していることを示した。
【0056】
2)固定振幅法で直接掃引を行って得られた結果として、振幅の変化に伴い、かなり大きな区間に二峰、三峰などが現れていた。
【0057】
さらに、検証が必要なことは、現在のシーケンス長Nの実験の平均結果の信号対雑音比が、従来のN回の同じ振幅の繰り返し実験に比べて低下しているか否かであるが、数値シミュレーションの結果からは、スライス数が増えてくるにつれて、結果がより安定して単峰になる方に傾き、ピーク幅が小さくなっていくことが示されていた。これは、ブロッホ球面のYZ断面におけるビットの状態の分布密集性と均一性の違いによるものであるため、等差数列の長さは少なくとも6(例えば6~10)より大きいである必要があり、すなわち通常は、スライス長が6より大きくしてはじめて安定してシャープな単峰を得ることができる。
【0058】
別の角度から、実験においてノイズも考慮する必要がある。読み出しノイズに関しては、本開示によって提供される方案に使用されるデータ点もまた、複数のshotsで取った平均値であり、読み出し信号のホワイトノイズも同様に統計平均値によって抑制されるため、余分の読み出しノイズが付加されることはない。しかし、ビットの熱励起、デコヒーレンス(Quantum decoherence)などを考慮すると、等差数列を[-a,-a,-a,-b,-b,-b,…b,b,b,a,a,a]のような形のシーケンスに拡張する必要がある。シーケンスにおける各要素の繰り返し回数を表す繰り返し数をnと定義してもよい。繰り返し数と等差数列長Lとの積は、各点のshotsの総数であり、すなわちn*L=Nとされる。shots数の増加は実験時間の増加につながり、量子コンピュータのリソースが占められてしまうため、Nはできるだけ小さくする必要がある。また、Lは数値シミュレーションでは6よりも大きくする必要があるため、繰り返し数nはN/6以下である。信号対雑音比を確保するために、繰り返し数の上限はn=N/6であることが好ましく、これにより、振幅値シーケンス全体を直接決定することができる。
【0059】
実際の掃引実験では、励起パルスの長さおよびシーケンスの最大値は、任意に選択することができ、例えば、それぞれtおよびAmaxであり、ピーク幅およびデコヒーレンスを両立させるために、tは一般的に1μsになるように選択される。各実験点はN回のshotsの結果に平均を取って生成され、このN回のshotsの対応する振幅値は[-Amax,-Amax,...,-2Amax/3,...,2Amax/3,Amax,...,Amax]である。
【0060】
更に
図7を参照すると、上記の各図に示された方法の実施態様として、本開示は、量子ビットの励起周波数をキャリブレートする装置の一実施形態を提供し、当該装置の実施形態は、
図2に示された方法の実施形態に対応しており、当該装置は、具体的に様々な電子機器に適用することができる。
【0061】
図7に示すように、本実施形態の量子ビットの励起周波数をキャリブレートする装置700は、変動振幅値パルス励起ユニット701と、周波数スペクトル線作成ユニット702と、励起周波数キャリブレートユニット703とを含んでもよい。そのうち、変動振幅値パルス励起ユニット701は、スイープテスト周波数ごとに、いずれもそれぞれ異なるパルス振幅値を有する励起パルスで目標量子ビットを励起させ、且つ統計された励起結果に基づいて、平均励起率を計算するように構成される。励起結果は目標量子ビットがうまく励起されたか否かを示すものである。周波数スペクトル線作成ユニット702は、各平均励起率に基づいて目標量子ビットの周波数スペクトル線を決定するように構成される。励起周波数キャリブレートユニット703は、周波数スペクトル線における単峰波形の目標スイープテスト周波数を、目標量子ビットの励起周波数としてキャリブレートするように構成される。
【0062】
本実施形態において、量子ビットの励起周波数をキャリブレートする装置700では、変動振幅値パルス励起ユニット701、周波数スペクトル線作成ユニット702、励起周波数キャリブレートユニット703の具体的な処理およびそれらによって奏される技術的効果は、それぞれ
図2の対応する実施形態におけるステップ201~203の関連する説明を参照することができ、ここではその説明を省略する。
【0063】
本実施形態のいくつかのオプション的な実施形態では、パルス振幅値のそれぞれは、現在のスイープテスト周波数に対応する、所定のパルス長における予め設定されたパルス振幅値シーケンスに含まれる。
【0064】
本実施形態のいくつかのオプション的な実施形態では、パルス振幅値のそれぞれは、予め設定されたパルス振幅値シーケンスにおいて振幅値の大きさの昇順によって配列される。
【0065】
本実施形態のいくつかのオプション的な実施形態では、予め設定されたパルス振幅値シーケンスに含まれるパルス振幅値のそれぞれは等差数列を構成する。
【0066】
本実施形態のいくつかのオプション的な実施形態では、パルス振幅値は、予め設定されたパルス振幅値シーケンス内にN個存在し、Nは2以上の正の整数である。
【0067】
本実施形態のいくつかのオプション的な実施形態では、異なるパルス振幅値にそれぞれ対応するNの大きさは同じである。
【0068】
本実施形態のいくつかのオプション的な実施形態では、励起パルスはπパルスを含む。
【0069】
本実施形態のいくつかのオプション的な実施形態では、励起周波数キャリブレートユニット703は、さらに
周波数スペクトル線に唯一に存在する単峰波形を特定し、
単峰波形において予め設定された励起率に対応する帯域よりも高い波長帯域を励起波長帯域とし、
励起波長帯域に対応する目標スイープテスト周波数を、目標量子ビットの励起周波数域としてキャリブレートするように構成される。
【0070】
本実施形態のいくつかのオプション的な実施形態では、量子ビットの励起周波数をキャリブレートする装置700は、さらに
超伝導量子コンピュータの量子チップ上のすべての目標量子ビットに対していずれも励起周波数のキャリブレーションが完了したことに応答して、量子チップにキャリブレーション完了マークを付加するように構成されるマーク付加ユニットと、
キャリブレーション完了マークが付加された量子チップを用いて演算タスクを実行するように構成される演算タスク実行ユニットと、を含む。
【0071】
本実施形態は上記方法の実施形態に対応する装置の実施形態として存在し、本実施形態によって提供された量子ビットの励起周波数をキャリブレートする装置は、スイープ実験の過程におけるスイープテスト周波数ごとに、従来の固定パルス振幅値のみに基づいて複数回繰り返しテストを行うスイープテスト方法を、変動する振幅値を有するパルスに基づくスイープテストを行うことに変更し、それによって選択された固定パルス振幅値の精度が低いことに起因するテスト効率の低下という問題を可能な限り回避し、すなわち、異なるパルス振幅値を有する各パルスで試みることによって、相対的少ないテスト回数で相対的精度の高い励起周波数を得ることができ、自動化処理との方法によって多量子ビットの励起周波数の高精度なキャリブレーションを完了させるキャリブレーションの効率を向上させることができる。
【0072】
本開示の実施形態によれば、本開示はさらに、少なくとも1つのプロセッサと、少なくとも1つのプロセッサと通信可能に接続されたメモリとを備える電子機器であって、メモリには、少なくとも1つのプロセッサによって実行可能な指令が格納され、当該指令が少なくとも1つのプロセッサによって実行されると、少なくとも1つのプロセッサに上記のいずれかの実施形態に記載の量子ビットの励起周波数をキャリブレートする方法を実現する電子機器を提供する。
【0073】
本開示の実施形態によれば、本開示はさらに、上記のいずれかの実施形態に記載の量子ビットの励起周波数をキャリブレートする方法をコンピュータに実行させるためのコンピュータ指令を格納した読み取り可能な記憶媒体を提供する。
【0074】
本開示の実施形態によれば、本開示はさらに、プロセッサによって実行されると、上記のいずれかの実施形態に記載の量子ビットの励起周波数をキャリブレートする方法を実現可能なコンピュータプログラムを含むコンピュータプログラム製品を提供する。
【0075】
図8は、本開示の実施形態を実施するために使用できる例示的な電子機器800の概略ブロック図を示している。電子機器は、ラップトップコンピュータ、デスクトップコンピュータ、ワークステーション、パーソナルデジタルアシスタント、サーバ、ブレード型サーバ、メインフレームコンピュータおよびその他の適切なコンピュータ等の様々な形態の数値コンピュータを表す。また、電子機器は、個人デジタル処理、携帯電話、スマートフォン、ウェアラブル機器およびその他の類似する計算装置等の様々な形態のモバイルデバイスを表すことができる。なお、ここで示したコンポーネント、それらの接続関係、およびそれらの機能はあくまでも例示であり、ここで記述および/または要求した本開示の実施形態を限定することを意図するものではない。
【0076】
図8に示すように、電子機器800は、読み出し専用メモリ(ROM)802に記憶されているコンピュータプログラムまたは記憶ユニット808からランダムアクセスメモリ(RAM)803にロードされたコンピュータプログラムによって様々な適切な動作および処理を実行することができる計算ユニット801を備える。RAM803には、機器800の動作に必要な様々なプログラムおよびデータがさらに格納されることが可能である。計算ユニット801、ROM802およびRAM803は、バス804を介して互いに接続されている。入/出力(I/O)インターフェース805もバス804に接続されている。
【0077】
電子機器800において、キーボード、マウスなどの入力ユニット806と、様々なタイプのディスプレイ、スピーカなどの出力ユニット807と、磁気ディスク、光ディスクなどの記憶ユニット808と、ネットワークプラグイン、モデム、無線通信送受信機などの通信ユニット809とを含む複数のコンポーネントは、I/Oインターフェース805に接続されている。通信ユニット809は、電子機器800がインターネットなどのコンピュータネットワークおよび/または様々な電気通信ネットワークを介して他の装置と情報またはデータのやりとりを可能にする。
【0078】
計算ユニット801は、処理および計算機能を有する様々な汎用および/または専用処理コンポーネントであってもよい。計算ユニット801のいくつかの例示として、中央処理装置(CPU)、グラフィックスプロセシングユニット(GPU)、様々な専用の人工知能(AI)計算チップ、機械学習モデルアルゴリズムを実行する様々な計算ユニット、デジタルシグナルプロセッサ(DSP)、および任意の適切なプロセッサ、コントローラ、マイクロコントローラなどを含むが、これらに限定されない。計算ユニット801は、上述した量子ビットの励起周波数をキャリブレートする方法のような様々な方法および処理を実行する。例えば、いくつかの実施形態では、量子ビットの励起周波数をキャリブレートする方法は、記憶ユニット808などの機械可読媒体に有形に含まれるコンピュータソフトウェアプログラムとして実装されてもよい。いくつかの実施形態では、コンピュータプログラムの一部または全部は、ROM802および/または通信ユニット809を介して電子機器800にロードおよび/またはインストールされてもよい。コンピュータプログラムがRAM803にロードされ、計算ユニット801によって実行されると、上述した量子ビットの励起周波数をキャリブレートする方法の1つまたは複数のステップを実行可能である。あるいは、他の実施形態では、計算ユニット801は、他の任意の適切な方法によって(例えば、ファームウェアを介して)量子ビットの励起周波数をキャリブレートする方法を実行するように構成されていてもよい。
【0079】
ここで説明するシステムおよび技術の様々な実施形態はデジタル電子回路システム、集積回路システム、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)、特定用途向け集積回路(ASIC)、特定用途向け標準製品(ASSP)、システムオンチップ(SOC)、コンプレックスプログラマブルロジックデバイス(CPLD)、コンピュータハードウェア、ファームウェア、ソフトウェア、および/またはそれらの組み合わせにおいて実現することができる。これらの各実施形態は、1つまたは複数のコンピュータプログラムに実装され、当該1つまたは複数のコンピュータプログラムは少なくとも1つのプログラマブルプロセッサを含むプログラマブルシステムにおいて実行および/または解釈することができ、当該プログラマブルプロセッサは専用または汎用プログラマブルプロセッサであってもよく、記憶システム、少なくとも1つの入力装置および少なくとも1つの出力装置からデータおよび指令を受信することができ、且つデータおよび指令を当該記憶システム、当該少なくとも1つの入力装置および当該少なくとも1つの出力装置に伝送することを含み得る。
【0080】
本開示の方法を実施するためのプログラムコードは、1つまたは複数のプログラミング言語のあらゆる組み合わせで作成されてもよい。これらのプログラムコードは、汎用コンピュータ、専用コンピュータ、または他のプログラミング可能なデータ処理装置のプロセッサまたはコントローラに提供されることができ、これらのプログラムコードがプロセッサまたはコントローラによって実行されると、フローチャートおよび/またはブロック図に規定された機能または動作が実施される。プログラムコードは、完全にデバイス上で実行されることも、部分的にデバイス上で実行されることも、スタンドアロンソフトウェアパッケージとして部分的にデバイス上で実行されながら部分的にリモートデバイス上で実行されることも、または完全にリモートデバイスもしくはサーバ上で実行されることも可能である。
【0081】
本開示のコンテキストでは、機械可読媒体は、有形の媒体であってもよく、指令実行システム、装置または機器が使用するため、または指令実行システム、装置または機器と組み合わせて使用するためのプログラムを含むか、または格納してもよい。機械可読媒体は、機械可読信号媒体または機械可読記憶媒体であり得る。機械可読媒体は、電子的、磁気的、光学的、電磁的、赤外線の、または半導体のシステム、装置または機器、またはこれらのあらゆる適切な組み合わせを含むことができるが、これらに限定されない。機械可読記憶媒体のより具体的な例には、1本または複数本のケーブルに基づく電気的接続、携帯型コンピュータディスク、ハードディスク、ランダムアクセスメモリ(RAM)、読み取り専用メモリ(ROM)、消去可能プログラマブル読み取り専用メモリ(EPROMまたはフラッシュメモリ)、光ファイバ、コンパクトディスク読み取り専用メモリ(CD-ROM)、光学記憶装置、磁気記憶装置、またはこれらのあらゆる適切な組み合わせが含まれ得る。
【0082】
ユーザとのインタラクションを提供するために、ここで説明するシステムと技術は、ユーザに情報を表示するための表示装置(例えば、陰極線管(CathodeRayTube,CRT)またはLCD(液晶ディスプレイ)モニタ)と、キーボードおよびポインティングデバイス(例えば、マウスまたはトラックボール)とを備えるコンピュータ上で実装することができ、ユーザが該キーボードおよび該ポインティングデバイスを介してコンピュータに入力を提供できる。他の種類の装置もユーザとのやりとりを行うことに用いることができる。例えば、ユーザに提供されるフィードバックは、例えば、視覚フィードバック、聴覚フィードバック、または触覚フィードバックであるいかなる形態のセンシングフィードバックであってもよく、且つ音入力、音声入力若しくは触覚入力を含むいかなる形態でユーザからの入力を受信してもよい。
【0083】
ここで説明したシステムおよび技術は、バックエンドコンポーネントを含むコンピューティングシステム(例えば、データサーバ)に実施されてもよく、またはミドルウェアコンポーネントを含むコンピューティングシステム(例えば、アプリケーションサーバ)に実施されてもよく、またはフロントエンドコンポーネントを含むコンピューティングシステム(例えば、グラフィカルユーザインターフェースまたはウェブブラウザを有するユーザコンピュータ)に実施されてもよく、ユーザは該グラフィカルユーザインターフェースまたはウェブブラウザを介してここで説明したシステムおよび技術の実施形態とインタラクションしてもよく、またはこのようなバックエンドコンポーネント、ミドルウェアコンポーネントまたはフロントエンドコンポーネントのいずれかの組み合わせを含むコンピューティングシステムに実施されてもよい。また、システムの各コンポーネントの間は、通信ネットワーク等の任意の形態または媒体を介してデジタルデータ通信により接続されていてもよい。通信ネットワークとしては、ローカルエリアネットワーク(LAN)、ワイドエリアネットワーク(WAN)およびインターネットなどを含む。
【0084】
コンピュータシステムは、クライアントとサーバとを含んでもよい。クライアントとサーバは、通常、互いに離れており、通信ネットワークを介してやりとりを行う。クライアントとサーバとの関係は、互いにクライアント-サーバの関係を有するコンピュータプログラムをそれぞれのコンピュータ上で動作することによって生成される。サーバはクラウドサーバであってもよく、クラウドコンピューティングサーバまたはクラウドホストとも呼ばれ、クラウドコンピューティングサービスシステムにおけるホスト製品であり、従来の物理ホストと仮想専用サーバ(VPS、Virtual Private Server)サービスにおける管理の難度が大きく、ビジネス拡張性が弱いという欠陥を解決する。
【0085】
本開示の実施形態の技術案によれば、スイープ実験の過程におけるスイープテスト周波数ごとに、従来の固定パルス振幅値のみに基づいて複数回繰り返しテストを行うスイープテスト方法を、変動する振幅値を有するパルスに基づくスイープテストを行うことに変更し、それによって選択された固定パルス振幅値の精度が低いことに起因するテスト効率の低下という問題を可能な限り回避し、すなわち、異なるパルス振幅値を有する各パルスで試みることによって、相対的により少ないテスト回数で相対的により精度の高い励起周波数を得ることができ、自動化との方法によって多量子ビットの励起周波数の高精度キャリブレーションを完了させるキャリブレーションの効率を向上させることができる。
【0086】
なお、上述した様々な形態のフローを用いることができ、ステップの並び替え、追加または削除を行うことができることを理解すべきである。例えば、本開示に記載された各ステップは、本開示に開示された技術的解決方案の所望の結果が達成できる限り、並行して実行されてもよく、順番に従って実行されてもよく、異なる順番で実行されてもよい。本明細書はここで制限しない。
【0087】
上記具体的な実施形態は、本開示の保護範囲を限定するものではない。当業者であれば、設計要件および他の要因に応じて、様々な修正、組み合わせ、副次的な組み合わせ、および置き換えを行うことができることを理解すべきである。本開示の趣旨および原理を逸脱せずに行われたあらゆる修正、均等な置換および改善などは、いずれも本開示の保護範囲内に含まれるべきである。
【外国語明細書】