(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024001925
(43)【公開日】2024-01-11
(54)【発明の名称】草刈機
(51)【国際特許分類】
A01B 69/00 20060101AFI20231228BHJP
A01D 34/64 20060101ALI20231228BHJP
B62D 11/08 20060101ALI20231228BHJP
【FI】
A01B69/00 302
A01D34/64 P
B62D11/08 X
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022100800
(22)【出願日】2022-06-23
(71)【出願人】
【識別番号】000223698
【氏名又は名称】フジイコーポレーション株式会社
(72)【発明者】
【氏名】藤井 大介
(72)【発明者】
【氏名】山崎 敏栄
(72)【発明者】
【氏名】塚田 浩之
(72)【発明者】
【氏名】栗原 信
(72)【発明者】
【氏名】中川 勝己
【テーマコード(参考)】
2B043
2B083
3D052
【Fターム(参考)】
2B043AA04
2B043AB08
2B043AB19
2B043BA02
2B043BB11
2B043DA04
2B043DC03
2B043EA02
2B043EA04
2B043EA13
2B043EB09
2B043ED03
2B043ED12
2B083AA02
2B083BA12
2B083BA18
2B083DA02
2B083DA04
2B083HA20
2B083HA22
2B083HA24
2B083HA32
3D052AA05
3D052AA11
3D052BB03
3D052DD03
3D052EE02
3D052FF01
3D052FF02
3D052GG03
3D052GG04
3D052HH03
3D052JJ03
(57)【要約】 (修正有)
【課題】小型乗用草刈り機の走行速度制御で、特に舵取りに絡む旋回走行速度制御を、作業者の運動感覚、体調、性格、好み、癖、などそれぞれ固有の能力に応じた速度制御を理想的に実現し、安定性、安全性に優れた草刈り機を提供する
【解決手段】電子制御HSTに構成した小型乗用草刈機で、ステアリング回転角度と、HSTレバー回動位置と、操縦者の操縦の仕方を読み取り学習し、操縦者に応じた旋回走行速度調整出来るようにAI制御するようにした。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン又はモータを搭載し、左右一対の操舵前輪と駆動後輪または駆動前輪または駆動前後輪または駆動履帯と、機体中央部または機体前部に刈取部とを配設した小型乗用草刈機で、走行駆動用変速機構にHST(Hydoro Static Transmission)を使用し、HSTの油圧ポンプ側の斜板調整軸(トラニオン軸)にアクチュエータを連結し、該アクチュエータの回転変速またはストローク変速により回動調整させるように電子制御HSTに構成した小型乗用草刈機において、ステアリングシャフトに歯車連結した回転センサによるステアリング回転角度検知手段(即、ステアリングセンサ)、または旋回半径相当検知手段を設け、該ステアリング回転角度と、HSTレバー回動位置とを制御ユニットに読み取り、旋回走行速度を調整するように電子制御HSTを制御するようにし、安定した旋回走行が出来るように構成した小型乗用草刈機。
【請求項2】
前記旋回走行速度調整が出来るようにした小型乗用草刈機において、旋回走行中のステアリング操作回転角度と、ステアリング操作前後のHSTレバー操作回動角度とを制御ユニットに読み取り、操縦者の旋回走行操縦操作を制御ユニットに機械学習させ、制御ユニットに入力されている旋回走行操縦操作の全種類の教師データと照合し、該操縦者の旋回走行時の制御パラメータを決め、該操縦者の旋回走行速度を調整するように電子制御HSTをAI制御するようにし、操縦者に応じた旋回走行アシストが出来るようにした請求項1に記載する小型乗用草刈機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は草刈機または類機の芝刈機の中で主に小形乗用タイプのもので、その走行安全性と作業性の向上に関わるものである。
【背景技術】
【0002】
小型乗用草刈機は国内では従来ほとんどが4輪の後輪駆動-前輪操舵型で普及している。駆動操縦系としてはこれが一般的であるが、不整地を考慮した4輪駆動型、また車輪駆動型よりは少ないが履帯駆動型もある。また更に草刈機はほとんどの場合、他の農業機械もそうであるが、走行速度制御にHST(Hydoro Static Transmission)が使用される。従来はこのHSTの調整軸を一本のレバー操作で回動させ走行速度や前後進のコントロールを行っていた。制御技術が年々高度化していく現在、HSTの電子制御化により、より高い安全性と作業性の向上が求められる時代になっている。
【特許文献1】特開2008-290512
【特許文献2】特願2022-009789
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
小型乗用草刈機の基本操縦姿勢は、左手でハンドルを握り走行方向を、右手でHSTレバーを握り、始動、停止、前後進、走行速度、等を操縦するのが基本である。ブレーキは駐車用で走行制動用ではない。自動車のアクセル減加速やブレーキ減速、エンジンブレーキ減速などに相当する操作はHSTレバー操作しかなく、四輪のハンドル操作の自動車に構造は似ているが操縦方法は異なる。この点が初心者には面食らうところであり、ある程度の習熟者でも操縦操作に慣れない内は危険性を伴う。 本出願人は先に小型乗用草刈機用の電子制御HSTを開発した(特許文献2)。本願はその優れた性能を充分に生かし、走行速度制御でこのハンドルとHSTレバーの二つの操作をアシストし、特に旋回走行時の走行安定制御技術を実現する。そしてそれは高性能を追い求める従来の技術者指向型から一線を画し、使用者それぞれに適したアシストを行うことを開発の基本とした。出願人も電子制御技術がまだ脆弱だった15年前、機構的にHSTを制御し、作業性と安全性の向上を試みたことがあったが(特許文献1)、画一的技術者本意のものだった為、市場ではあまり好評ではなかった。使用者の性格、好み、癖、などそれぞれ固有の能力に応じたハンドルとHSTレバーのアシストを行い、舵取りに絡む旋回走行速度制御を実現し、初心者から熟練者まで使いやすく、安定性、安全性に優れた草刈り機を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するために本発明において講じた手段は、エンジン又はモータを搭載し、左右一対の操舵前輪と駆動後輪または駆動前輪または駆動前後輪または駆動履帯と、機体中央部または機体前部に刈取部とを配設した小型乗用草刈機で、走行駆動用変速機構にHST(Hydoro Static Transmission)を使用し、HSTの油圧ポンプ側の斜板調整軸(トラニオン軸)にアクチュエータを連結し、そのアクチュエータの回転変速またはストローク変速により回動調整させるようにし、HSTレバー機構部に回転センサによる、レバー回動位置検知手段を設け、さらにアクチュエータによる斜板調整軸の回動駆動機構部に回転センサによる斜板調整軸回動位置検知手段を設け、HSTレバーの回動位置に相当した速度の斜板調整軸位置になるよう制御ユニットによりアクチュエータの回転またはストロークを制御するようにシフト・バイ・ワイヤ制御構成の電子制御HSTに構成した小型乗用草刈機において、ステアリングシャフトに歯車連結した回転センサによるステアリング回転角度検知手段(即、ステアリングセンサ)を設け、そのステアリング回転角度と、HSTレバー回動位置とを制御ユニットに読み取り、旋回走行速度を調整するように電子制御HSTを制御するようにし、安定した走行が出来るように構成した。
【0005】
そして旋回走行中のステアリング操作回転角度と、ステアリング操作後のHSTレバー操作回動角度とを制御ユニットに約10回ほど読み取り、操縦者の旋回走行操縦操作を制御ユニットに機械学習させ、制御ユニットに入力されている旋回走行操縦操作の全種類の教師データと照合し、その操縦者の旋回走行時の制御パラメータを決め、その操縦者の旋回走行速度を調整するように電子制御HSTをAI制御するようにし、操縦者に応じて安定した走行が出来るようにした。
【発明の効果】
【0006】
本発明は上記手段を施したことにより以下の効果を有する。
【0007】
旋回走行が安定し安全性が高まる。
【0008】
作業者それぞれに応じた学習制御するので、使用時間と共に作業者に馴染んだ草刈機になっていくため、より作業能率と作業走行安全性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
開発初期、速度センサも搭載し制御パラメータにしていたが、狙いとするところは理想的な速度制御をすることではなく、操縦者の操縦操作をアシストすることで、操縦者に応じた安定した走行が出来るようにすることであり、実際に操作するステアリングとHSTレバーに絞った結果、最もシンプルなハード構成になった。
【実施例0010】
本発明の第一実施例を添付図面に基づいて説明する。
図1は本発明車輪型草刈機の実施例で左斜視図、
図2はその左側面図と平面図、
図3に走行駆動機構の平面透視図を示し、
図4にHST調整軸のモータ駆動機構の詳細を示す、
図5にHSTレバー機構の詳細を示す。走行駆動用変速機4は本出願人の車輪型草刈機の中での最上位機種で4輪駆動のものを示している(
図3)。速度調整のHST5はこれに直結され、その調整軸52を回動駆動する調整軸モータ53も走行駆動用変速機4に、剛性の高いブラケット(図省略)で固定している。HST調整軸52側に回動用の調整軸アーム521を、調整軸モータ53側にモータアーム531を固定し、それらアーム間を緩衝バネを含む調整軸リンク522で回動自在に連結し3節リンク構成にし、調整軸の回動をモータで制御している(
図4)。
【0011】
調整軸アーム521には別にセンサアームb523に回動自在に連結するアームが出ており、調整軸の回動変位をセンサアームb523に固定した、HST調整軸回動センサS2の回動軸に伝導し、センサは回動変位信号を制御ユニット9(
図1、
図3)へ送出する。制御動作は制御ユニット9の設定した調整軸回動センサS2の値になるよう調整軸モータ53が動作する。
【0012】
HSTを操作するHSTレバー51は操作回動軸に、プリー&プーリーブレーキ514とHSTレバーアーム511を固定し回動自在に軸支している(
図5)。HSTレバー51は運転中はプーリーブレーキが働き回動操作位置で止まっていて(即ち操作速度維持)、ブレーキペダル54が操作された場合、また本願実施例には無いが走行クラッチが断操作された場合に、プーリーブレーキが解除されニュートラル位置にスプリングリターンしリセットされる機構で、電磁ブレーキやモータなどを使用するジョイステックに比べシンプルな機構で、HSTを使用する農機、建機などで広く一般的に使用されているものである。
【0013】
HSTレバーアーム511にはリンクロッド512の一端が回動自在に連結され、もう一端がセンサーアームa513に回動自在に連結しており、センサアームa513に軸固定したHSTレバー回動センサS1を回動させ、HSTレバー51の回動操作が回動センサS1に伝導される。回動センサS1は制御ユニット9にHSTレバー51操作位置、即ち操縦者の速度設定値を送信し、その設定速度になるようHST調整軸回動センサS2の値を設定し、その値になるよう調整軸モータ53を駆動する(
図4)。
【0014】
HST調整軸52を調整軸モータ53で回動駆動するのに、ギヤトレーン駆動にせず、1節に緩衝バネを含む3節リンクを使用したのは、開発中の全くの偶然だったが、草刈走行負荷変動から来る調整軸からのトルク反力の変動に対し、ギヤ駆動機構にはない優れた緩衝効果(結果、ソフトスタート、ソフトストップ、ソフト加速、ソフト減速などの効果)がある。
以上、このシフト・バイ・ワイヤ制御構成にした電子制御HSTは出願人が構想から約20年を経て、先に開発した(特許文献4)ものである。
【0015】
図6にステアリングセンサ機構の詳細を示す。上図に操縦ピットの斜視図を、下図にステアリングシャフト31とステアリング回転センサS3とのギヤ連結機構の詳細を示す。回転センサS3は多回転ポテンショを使用し、検出軸にセンサギヤ33を挿入し、ステアリングシャフト31に挿入したシャフトギヤ32とギヤ連結して左右各3.5回転、全7回転のステアリング回転角度を検出する。検出精度を上げる為、センサのフルスケールレンジ範囲いっぱいに拡大して検出し、出来るだけ分解能を上げる為のギヤ比にしている。
前記HSTレバーの回動角検知機構も同じように、検出精度を高めている。
【0016】
以上の構成で本願発明の旋回走行速度制御第1実施例について説明する。小型乗用草刈機の基本操縦姿勢は、左手でハンドルを握り走行方向を、右手でHSTレバーを握り、始動、停止、前後進、走行速度、等を操縦するのが基本である。ブレーキは駐車用で走行制動用ではない。自動車のアクセル減加速やブレーキ減速、エンジンブレーキ減速などに相当する操作はHSTレバー操作しかなく、四輪のハンドル操作の自動車に構造は似ているが操縦方法は異なる。この点が初心者にはやや面食らうところであるが、現在では製造メーカー皆同様の構造で淘汰している。公道走行の出来ない低速(最高速約10~12km/h)の作業機故、シンプルな構造になっている。とはいえ草刈り機は他の農業機械に比べ比較的スピードの出せる設定になっている。移動時の効率性からであるが作業時に高速走行した場合、舵取りによっては機体が不安定になり横転の危険性すらある。また移動時であっても草刈り機は不整地走行する場合がほとんどであり高速走行中に急ハンドルが切られた場合非常に危険である。それに自動車のように決まったレーン(道路)を走行するのとは違い、旋回や方向転換など、四方自在に走行する為、頻繁にステアリング操作する操縦者には、速度が遅いとはいえ、むしろ自動車より危険であるといえる。
【0017】
また自動車の操縦でコーナリング基本にアウトインアウトがあるが、草刈機の場合は決まったレーン(道路)が有るわけではなくコース取りは自動車より自由のはずであるが、自動車より一桁低速とはいえ、それでも速度と旋回半径によってはオーバーステアになったり、アンダーステアになったりして事故誘発の元になる。また自動車のもう一つの基本にスローイン・ファーストアウトがあるが、草刈り機の場合は移動だけでなく、草刈作業しながらの走行の方が遙かに多く、スローイン・スローアウトで旋回する人、スローのまま旋回する人、ファーストのまま旋回する人、など様々である。
【0018】
草刈機の旋回の仕方を総別すると、〔1〕コース進入時減速(HSTレバー51下げる)、旋回中そのまま、コース脱出時加速(HSTレバー51上げる)、これが理想的。〔2〕コース進入時減速、旋回中更に減速(HSTレバー51更に下げる)≒アンダーステア、コース脱出時加速、〔3〕コース進入時減速、旋回中そのまま、コース脱出時更に減速。〔4〕コース進入時減速、旋回中そのまま、コース脱出時そのまま。〔5〕コース進入時減速、旋回中加速≒アンダーステア、コース脱出時更に加速。〔6〕コース進入時減速、旋回中加速≒アンダーステア、コース脱出時減速。〔7〕コース進入時そのまま(減速無し)、旋回中減速及びステアリング操作=アンダーステア又はオーバーステア、コース脱出時加速。〔8〕コース進入時そのまま、旋回中減速及びステアリング操作=アンダーステア又はオーバーステア、コース脱出時そのまま。〔9〕コース進入時そのまま、旋回中減速及びステアリング操作=アンダーステア又はオーバーステア、コース脱出時減速。〔10〕コース進入時そのまま、旋回中そのまま、コース脱出時そのまま。〔11〕コース進入時そのまま、旋回中そのまま及びステアリング操作=アンダーステア又はオーバーステア、コース脱出時そのまま。旋回走行性能に関わる操縦方法はほぼ以上であるが、細かく見るとたとえば、進入時加速で入る、などという常識外れの操縦方法も有るかと思うが、あり得ないと考えられるものについては無視するようにした。
【0019】
以上のステアリングホイール3操作とHSTレバー51操作に、ステアリングホイール3の操作角度を左右、404度(約一回転)、740度(約二回転)、1200度(約三回転)と中央0度の7段階に分け、それぞれの旋回状況に速度制御が必要な場合を選別し模範データ(教師データ)を作成した。左右対称にもかかわらずステアリング回転角度を7段階に設定したのは、左手ステアリング、右手HSTレバーの操縦姿勢では、当然左旋回と右旋回では対称ではなく異なるからである。これに当初、車速センサ信号も制御パラメータに入れていたが、試験走行評価していくにつれ、開発の狙いが曖昧になってしまうことがわかり途中から削除した。本出願人の意図したところは、機能性能優先の従来の技術指向型とは一線を画し、作業者それぞれに適したアシストを行い、作業者の運動感覚、体調、性格、好み、癖、などそれぞれ固有の能力に応じた操縦アシストを実現し、理想的な安全性、安定性を実現することにある。
【0020】
制御の目的は理想的な旋回走行(即ち、アウトインアウトのスローイン・ファーストアウト)を行う(行わせる)ことではなく、あくまでも操縦者の操縦好み、操縦癖に沿うように制御する。従って、スローイン・スローアウトで旋回する人、スローのまま旋回する人、ファーストのまま旋回する人、それぞれに合った制御を行うことである。このことを突き詰めていき、操縦者がステアリングホイール3とHSTレバー51をどのように操作しているかが問題であり、車速そのものはあまりアシスト制御に関係なく、むしろ邪魔になるくらいだということに突き当たった。これは車速センサの無い速度制御になり、実に画期的なことである。
【0021】
始動し走行し始めると制御ユニット9は操縦者の旋回走行操縦の仕方を読み始める。ステアリングホイール3の回転角度とその時のHSTレバー51の回動位置、それに旋回走行中のHSTレバー51の操作状況、即ち旋回走行中にHSTレバー51を操作しているか否か、それは加速か減速か。これを何回か読み取り学習し、入力してある全走行パターンの教師データと照合し、7段階の各ステアリングホイール3の回転角度におけるその操縦者の基準旋回走行操縦パターンを決める。その後、その操縦者の旋回速度制御に入るが(以上AI制御)、制御は減速のみで加速はしないようにしている。安全性、安定性がねらいであり、機械性能(走行性能)追求ではない所以である。仮に加速した場合熟練者は違和感を持ち、初心者はパニックになってしまう。
【0022】
制御開始後、コーナー侵入旋回走行に入ると操縦者の基準パターンよりHSTレバー51の位置がオーバースピード側になっていた場合、一端、基準パターンのHSTレバー51の位置に相当する速度に制御ユニット9はHST5を減速する。コーナー脱出手前で操縦者の設定したHSTレバー51位置に相当する速度に戻す。また旋回走行中、HSTレバー51が操作され、操縦者の基準パターンである、その時のステアリングホイール3の回転角度におけるHSTレバー51位置を超え更に加速側に操作した場合も同様に、一端、基準パターンのHSTレバー51の位置に相当する速度に減速し、コーナー脱出手前で操縦者の設定したHSTレバー51位置に相当する速度に戻す。コーナー脱出手前から直線走行になるまで約1秒で速度回復するようにしている。一方、コーナー侵入時のHSTレバー51の位置が基準パターンよりアンダースピード側になっていた場合、及び旋回走行中、HSTレバー51がアンダースピード側に操作された場合は何もせず、操縦意志のままにしている。
【0023】
この旋回中の減速制御はもちろん安全性の為であるが、操縦者の普段の旋回速度に戻すことであり、さほど違和感は与えない。またコーナー脱出時の速度制御も、操縦者の操作したHSTレバー51の位置に相当する速度に戻すことであり、一見加速制御のようだが、危険回避のための減速から、もともと操縦者が設定した速度に戻すことであり、加速制御には当たらず、さほど違和感は与えない。又あり得ないとして無視した、コーナー進入に(何らかの異常で)加速で入ってしまうようになった場合でも、その操縦者の平常時の基準パターンより大きく加速側にズレているとして、安全の為の速度制御に入る。操縦者に何らかの異常が発生して異常操作になった場合でも、安全制御は維持される。
【0024】
以上の速度制御の考えから、層別した旋回操縦方法の内、旋回走行中の速度制御が必要なパターンは約半分くらいになる。また始動走行し始めから旋回走行操縦の仕方を読みとり学習し、その操縦者の基準旋回走行操縦パターンを決めるまで、初心者から熟練者5人で試験評価したところ、約10回ほどのの読み取り学習で充分であることが解り、操縦者の途中の入れ替わりにも充分対応出来ることも解った。
【0025】
ここで制御パラメータはステアリング回転センサS3の値とHSTレバー回動センサS1との二つに絞ったが、当初、作業者に応じた操縦アシストとしては良いが、これだけでは安全制御としては不十分だとして、二つのセンサ値から旋回半径を演算し三つ目の制御パラメータにし、アンダーステア、オーバーステアを判断していた。しかし演算処理に時間がかかる為、てっとり早く検知可能な旋回半径(相当)センサを検討していたが、開発終盤に耐久試験を兼ねたステアリングとHSTレバー操作の模範教師データ取得の為の、100時間以上に及ぶ初心者から熟練者まで作業者を変えた走行試験を行っていく中で、
この教師データの照合と学習により決まるその操縦者の基準旋回走行操縦パターンの比較で、その時の操縦がアンダーステアになるかオーバーステアになるかの判断、即ち安全制御としては充分であることに気づき、旋回半径センサの開発は必須ではないとして中座することにした。AI制御の効果である。
【0026】
以上、出願人が先に開発した(特許文献2)電子制御HSTの優れた性能を充分に生かし、走行速度制御で特にステアリング操作時の走行安定性を理想的に実現する、旋回走行速度制御技術を開発した。この制御は決して設計者の意図する画一的なものではなく、作業者それぞれの旋回走行操縦の仕方を読みとり学習するAI制御により、作業者の運動感覚、体調、性格、好み、癖、などそれぞれ固有の能力に応じた操縦アシスト(旋回速度制御)を行う為、それぞれの作業者に応じた安全性、安定性に優れたものになっただけではなく、熟練者にはより熟練度のアップに、初心者、未熟練者には習熟度のアップにもなり、初心者から熟練者まで、誰でも操作しやすいものになった。