(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024019267
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】点眼剤からの保存剤除去
(51)【国際特許分類】
A61J 1/05 20060101AFI20240201BHJP
A61K 31/5377 20060101ALI20240201BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20240201BHJP
A61K 31/382 20060101ALI20240201BHJP
A61K 31/573 20060101ALI20240201BHJP
A61K 31/5575 20060101ALI20240201BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20240201BHJP
【FI】
A61J1/05 313A
A61K31/5377
A61P27/02
A61K31/382
A61K31/573
A61K31/5575
A61K9/08
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023203636
(22)【出願日】2023-12-01
(62)【分割の表示】P 2022034039の分割
【原出願日】2015-08-12
(31)【優先権主張番号】62/036,670
(32)【優先日】2014-08-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/160,233
(32)【優先日】2015-05-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】507371168
【氏名又は名称】ユニバーシティ オブ フロリダ リサーチ ファンデーション インコーポレーティッド
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【弁理士】
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】チョーハン アヌジ
(72)【発明者】
【氏名】スウ クアン-フイ
(57)【要約】
【課題】送達される点眼剤中の保存剤、特にBAK(塩化ベンザルコニウム)への患者の曝露を解消し、かつ一方で、含有される調合物中のBAKを保持して点眼剤ボトルが無菌状態を保つことを確実にするような、複数回投与デバイスおよび方法を提供する。
【解決手段】0.01Daより大きい水力学的透過率を示す親水性高分子ゲルの微小粒子のプラグとして、BAK除去デバイスが構築される。ポリマー親水性高分子ゲルは、ポリ(2-ヒドロキシエチルメタクリレート)(pHEMA)を含む。粒子は2~100μmであり、プラグは30 mm
2~2 mm
2の表面積および2 mm~25 mmの長さを有し、親水性高分子ゲルの微小粒子は3~60μmの細孔半径を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質の親水性高分子マトリックスを含む、保存剤除去デバイスであって、
多孔質の親水性高分子マトリックスが、水力学的透過率が0.01 Daより大きい材料を含み、かつ溶液、乳濁液、または懸濁液用の容器の排出口にフィットし、該溶液、乳濁液、または懸濁液から保存剤を迅速かつ選択的に除去する、
保存剤除去デバイス。
【請求項2】
多孔質の親水性高分子マトリックスが、溶液、乳濁液、または懸濁液由来の保存剤について少なくとも100である分配係数を有する、請求項1記載の保存剤除去デバイス。
【請求項3】
縁部が粗い粒子で作られている、請求項1記載の保存剤除去デバイス。
【請求項4】
多孔質の親水性高分子マトリックス中の保存剤の飽和度が1~90%となるように、該多孔質の親水性高分子マトリックスが該保存剤でプレローディングされる、請求項1記載の保存剤除去デバイス。
【請求項5】
多孔質の親水性高分子マトリックスが、ポリヒドロキシルエチルメタクリレート(pHEMA)、ポリヒドロキシルエチルメタクリレート-コ-メタクリル酸、またはそれらの組み合わせを含む、請求項1記載の保存剤除去デバイス。
【請求項6】
多孔質の親水性高分子マトリックスが、相互接続した細孔を有し、該細孔が1~60μmの平均半径を有する、請求項1記載の保存剤除去デバイス。
【請求項7】
多孔質の親水性高分子マトリックスが、断面が2~100μmである微小粒子として分配される、請求項1記載の保存剤除去デバイス。
【請求項8】
水力学的透過率が1 Daより大きい、請求項1記載の保存剤除去デバイス。
【請求項9】
保存剤が塩化ベンザルコニウム(BAK)である、請求項1記載の保存剤除去デバイス。
【請求項10】
親水性高分子ゲルが、容器内の溶液、乳濁液、または懸濁液の1~100倍の濃度のBAKでプレローディングされる、請求項9記載の保存剤除去デバイス。
【請求項11】
多孔質の親水性高分子マトリックスが第二の保存剤でプレローディングされる、請求項9記載の保存剤除去デバイス。
【請求項12】
多孔質の親水性高分子マトリックスが、親水性薬剤を飽和未満の水準で含む、請求項1記載の保存剤除去デバイス。
【請求項13】
抗菌性の微小粒子をさらに含む、請求項1記載の保存剤除去デバイス。
【請求項14】
抗菌性の微小粒子が銀を含む、請求項13記載の保存剤除去デバイス。
【請求項15】
酸素スカベンジャーをさらに含む、請求項9記載の保存剤除去デバイス。
【請求項16】
圧縮ボトル、
多孔質の親水性高分子マトリックスを含む請求項1記載の保存剤除去デバイス、
眼科用剤を含む溶液、
保存剤、および
任意で、溶液中の保存剤濃度を維持するための保存剤供給源
を含む、眼科用溶液を送達するための複数回投与デバイスであって、
該ボトルが排出口延長部を含み、該保存剤除去デバイスが、乾燥時に、該排出口延長部の内部寸法より小さい寸法を有し、該保存剤除去デバイスが、湿潤時に、該排出口延長部の内部寸法より大きい寸法を有する、眼科用溶液を送達するための複数回投与デバイス。
【請求項17】
保存剤供給源が、溶液体積の1~10%の体積比で含まれたpHEMA膜であり、該pHEMA膜が、該溶液と等しい濃度で保存剤を含む、請求項16記載の複数回投与デバイス。
【請求項18】
多孔質の親水性高分子マトリックスがポリヒドロキシルエチルメタクリレート(pHEMA)を含む、請求項16記載の複数回投与デバイス。
【請求項19】
保存剤が塩化ベンザルコニウム(BAK)である、請求項16記載の複数回投与デバイス。
【請求項20】
眼科用剤が、チモロール、ドルゾラミド、リン酸デキサメタゾン、デキサメタゾン、またはラタノプロストを含む、請求項16記載の複数回投与デバイス。
【請求項21】
請求項1記載の保存剤除去デバイスを圧縮ボトルの排出口に含む圧縮ボトルを提供する段階、
眼科用剤と保存剤とを含む溶液を提供する段階、および
該圧縮ボトルに圧力を印加する段階であって、該溶液が請求項1記載の該保存剤除去デバイスに押し通され、該保存剤の少なくとも50パーセントが該溶液から除去され、かつ、該眼科用剤の少なくとも50パーセントが該溶液に保持される、段階
含む、眼科用剤を投与する方法。
【請求項22】
請求項1記載の保存剤除去デバイスが保存剤でプレローディングされる、請求項21記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、すべての図、表、および図面を含めてその開示内容全体が参照により本明細書に組み入れられる、2015年5月12日に提出された米国特許仮出願第62/160,233号および2014年8月13日に提出された米国特許仮出願第62/036,670号の恩典を主張する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
眼科疾患は点眼剤の滴下によって処置されることが最も一般的であり、その頻度は、緑内障などの疾患に対する1日1回または2回から、多い場合は重度感染に対する1日10回まで、さまざまである。点眼剤ボトル内の薬剤溶液は、液滴の滴下中に先端が手または涙に接触することによって、使用中に汚染されることがある。204名の緑内障患者を対象とした最近の研究において、ボトルを眼表面に触れさせずに点眼剤を滴下できたのは39%のみであった。家族内または病院内などで複数の患者がボトルを共用する場合は、さらに交差汚染のリスクもある。ボトル開封後の汚染の可能性が高いことから、複数回用量の点眼剤調合物に抗菌剤の添加を求める規制が設けられた。アルコール、パラベン、EDTA、クロルヘキシジン、および第四アンモニウム化合物など、複数の保存剤が研究され、市販の調合物に用いられている。保存剤は、抗菌能に加えて、調合物に組み入れるのに好適な物理的特性も必要であり、それには、化学安定性および温度安定性、点眼剤容器および調合物中の他の化合物との適合性、ならびに、より重要なこととして、眼組織に対する毒性が無視しうる程度であることなどがある。
【0003】
規制は、眼科用保存剤が7日目および14日目にそれぞれ1.0および3.0の対数減少を実現すること、ならびに、14~28日目に生存菌の増加がないこと、および、真菌については10
6コロニー形成単位(cfu)/mLの接種後0~28日目に生存菌の増加がないことを求めている(Baudouin et al. “Preservatives in Eyedrops: the Good, the Bad and the Ugly”. Progress in Retinal and Eye Research, 2010, 29, 312-34(非特許文献1))。有効性が高くかつ角膜毒性が低いことから、第四アンモニウム化合物が好まれる保存剤となっている。塩化ベンザルコニウム(BAK)
の、nが8、10、12、14、16、および18である混合物が最も一般的な選択であり、n = 12および14が主要な同族体である。点眼剤調合物は、規制の有効性に達するため、範囲0.004~0.025%(w/w)の濃度のBAKを必要とする。BAKの安全性プロフィールはポジティブではあるが、角膜にいくらかの毒性副作用を引き起こす水準でなければ、目標とされる抗菌および抗真菌効果は実現できない。BAKは、涙膜の不安定性、胚細胞の損失、結膜の扁平上皮化生およびアポトーシス、角膜上皮バリアの破壊、ならびに、より深部の眼組織の損傷を引き起こす可能性がある。
【0004】
保存剤による眼損傷の可能性は、緑内障患者など、数年~数十年の期間にわたって毎日点眼剤を滴下する必要がある慢性疾患の患者で特に高い。複数の臨床的および実験的研究で、保存剤非含有の点眼剤による毒性副作用は、保存剤含有の場合より有意に低いことが示されている。保存剤含有または保存剤非含有のベータ遮断性点眼剤を用いた多施設横断疫学研究では、保存剤非含有の点眼剤を使用した患者は、保存剤含有の点眼剤を使用した患者と比較して、刺激の眼症状および兆候が有意に少なかったことが示された(Jaenen et al. “Ocular Symptoms and Signs with Preserved and Preservative-free Glaucoma Medications”, European Journal of Ophthalmology. 2007, 17, 341-9(非特許文献2))。保存剤含有の緑内障薬チモロールは、健康な被験者において、保存剤非含有のチモロールより涙膜の不安定性および角膜バリア機能の破壊を有意に高く引き起こす(Ishibashi et al., “Comparison of the Short-term Effects on the Human Corneal Surface of Topical Timolol Maleate with and without Benzalkonium Chloride”, Journal of Glaucoma, 2003, 12, 486-90(非特許文献3))。保存剤非含有およびBAK含有のカルテオロールを比較した場合も同様の結果が見出されている(Baudouin et al., “Short Term Comparative Study of Topical 2% Carteolol with and without Benzalkonium Chloride in Healthy Volunteers”, British Journal of Ophthalmology. 1998, 82, 39-42(非特許文献4))。ドライアイ疾患の2つの特徴である、胚細胞の損失、および細胞質/細胞核比の増大は、BAK含有の代用涙液を使用したときに生じることが示されている(Rolando et al., “The Effect of Different Benzalkonium Chloride Concentrations on Human Normal Ocular Surface”. The Lacrimal System, Kugler and Ghedini, New York 1991, 87-91(非特許文献5))。BAK点眼剤を投与された被験者では、治療を受けていない被験者に比べて、シルマー(Schirmer)試験の値に有意な低下が見られた(Nuzzi et al., “Conjunctiva and Subconjunctival Tissue in Primary Open-angle Glaucoma after Long-term Topical Treatment: an Immunohistochemical and Ultrastructural Study”, Graefe's Archive for Clinical and Experimental Ophthalmology, 1995, 233, 154-62(非特許文献6))。保存剤含有の点眼剤を使用し、アレルギー、眼瞼縁、またはドライアイなどの毒性症状を呈している患者は、保存剤非含有の調合物に切り替えると急速な改善を示した。このような研究は、毎日複数の薬剤を複数回滴下することが典型的である緑内障患者において、ドライアイ症状の優勢化に保存剤が関与していることを示唆している。
【0005】
BAKは、眼組織に対する毒性作用を示す一方で、ボトル内の微生物増殖を防ぐための「必要悪」と考えられている。業界はこの問題を解決するためいくつかのアプローチを取っている。1つのアプローチは、より効果的な緑内障治療を開発することであり、例えば、毎日1つの点眼剤の滴下のみですむプロスタグランジンの使用、および、複数の点眼剤を滴下しなくてもよいよう同じ調合物中に複数の薬剤を含有する組み合わせなどがある。それでも、これらいずれのアプローチにおいても、長期間にわたる保存剤の累積作用が生じうる。さらに、利用可能な組み合わせ製品はごくわずかであり、概してそれらの組み合わせは単一の製造業者によるものである。
【0006】
第二のアプローチは単回用量のパッケージを提供することであり、現在、複数の緑内障治療用調合物が保存剤非含有の単回用量として入手可能である。このアプローチは保存剤への曝露をなくすことができる一方で、パッケージングの製造コストの増大および環境への影響に加えて、単回投与の調合物は、典型的な点眼量である30μLよりかなり多い約0.3~0.4 mLの調合物を含有しており、このことは無駄につながるか、または同じパッケージを誤って複数日にわたって使う可能性をもたらす。このアプローチは、パッケージング前に細菌汚染が生じた場合にも問題が生じうる。
【0007】
別のアプローチは、BAKを、より毒性の少ない保存剤に置換することであり、例えば、安定化オキシクロロ化合物であるPurite(登録商標)、ならびに、ホウ酸、プロピレングリコール、ソルビトール、塩化亜鉛、およびポリクオタニウム化合物を成分とするSofzia(登録商標)などであり、これら成分のうちいくつかはコンタクトレンズケア溶液にも使用されている。これらの代替物は有望である可能性がある一方で、これら保存剤の使用による長期的影響に関するデータはなく、これら保存剤の使用を長年にわたって続けると毒性が生じる可能性は充分にある。
【0008】
ボトル内の溶液は、ボトル先端と眼表面との接触か、先端と手との接触か、またはその両方によって、点眼剤の滴下中に汚染されるのが典型的である。点眼剤がボトルから離れる際、先端に残った少量の液体が吸い戻され、これによって細菌がボトル内に入ることがあり、汚染につながる。ABAK(登録商標)(Laboratoires Thea, France)の設計は、細菌が溶液に再び入らないようフィルター除去するためボトル最上部に0.2μmのフィルターを導入し、これによって汚染を防いでいる。このアプローチは、有効ではあるが、パッケージング前の汚染に対しては防御できない。また、0.2μmのフィルターは、液滴を押し出すために追加の圧力を必要とする可能性があり、このことは特に高齢者にとって滴下を困難にする。加えて、フィルターに漏れがあった場合、または細菌が細孔を通って運ばれた場合は、ボトル内の調合物に汚染が生じる可能性がある。また、この設計が、フィルター内に捕捉された細菌の増殖に対して防御できるか否か明らかでない。COMOD(登録商標)(Ursapharm, Germany)システムは、ボトル内容物の汚染を防ぐため、エアフリーポンプと、液体が押し出される際に収縮する内張りとを組み合わせている。この設計は革新的かつ有用であるが、一方で、その複雑さとコスト増大が主な懸念である。ABAK(登録商標)と同様、COMOD(登録商標)も、無菌性を損なうような製造プロセスのエラーによって導入された微生物に対しては防御できない。このことにより、各段階において無菌性が不可欠になるため、これらデバイスを満たす段階が複雑になる。
【0009】
米国特許第5,080,800号(特許文献1)は、点眼剤からの保存剤の除去も含め、溶液から成分を除去するためのプロセスを教示している。そのプロセスでは、眼科用保存剤を選択的に除去するためイオン交換樹脂が使用される。イオン交換樹脂は生体適合性および細胞毒性について広範な試験が行われておらず、かつ、本来的に非選択性であり、BAKなどのイオン性保存剤と同様にイオン性薬剤も容易に吸着する。水力学的透過率は、過大な圧力がなくても液滴を形成できるデバイスには極めて重要な特性であるが、これら樹脂の水力学的透過率は扱われていない。米国特許第5,080,800号(特許文献1)はまた、捕捉されたまま残る可能性がある微生物の増殖に抵抗できるようフィルターが設計されることの重要性についても教示していない。米国特許第5,080,800号(特許文献1)は、点眼剤の毎回の滴下後にBAK非含有の調合物がフィルターからボトルに流入することによって、調合物中のBAK濃度が希釈される可能性について、教示していない。ゆえに、保存剤の有益な挙動を保ち、かつ一方で眼における毒性作用を防ぐための、実際的な方法が依然として必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Baudouin et al. “Preservatives in Eyedrops: the Good, the Bad and the Ugly”. Progress in Retinal and Eye Research, 2010, 29, 312-34
【非特許文献2】Jaenen et al. “Ocular Symptoms and Signs with Preserved and Preservative-free Glaucoma Medications”, European Journal of Ophthalmology. 2007, 17, 341-9
【非特許文献3】Ishibashi et al., “Comparison of the Short-term Effects on the Human Corneal Surface of Topical Timolol Maleate with and without Benzalkonium Chloride”, Journal of Glaucoma, 2003, 12, 486-90
【非特許文献4】Baudouin et al., “Short Term Comparative Study of Topical 2% Carteolol with and without Benzalkonium Chloride in Healthy Volunteers”, British Journal of Ophthalmology. 1998, 82, 39-42
【非特許文献5】Rolando et al., “The Effect of Different Benzalkonium Chloride Concentrations on Human Normal Ocular Surface”. The Lacrimal System, Kugler and Ghedini, New York 1991, 87-91
【非特許文献6】Nuzzi et al., “Conjunctiva and Subconjunctival Tissue in Primary Open-angle Glaucoma after Long-term Topical Treatment: an Immunohistochemical and Ultrastructural Study”, Graefe's Archive for Clinical and Experimental Ophthalmology, 1995, 233, 154-62
【発明の概要】
【0012】
概要
本発明の態様は、親水性高分子ゲルである微小粒子のプラグを有する保存剤除去デバイスに関する。プラグは、溶液、乳濁液、または懸濁液用の容器の排出口に合った形状を有する。親水性高分子ゲルは、溶液、乳濁液、または懸濁液の存在下で膨潤して、その中に含有されている保存剤を選択的に吸収する。微小粒子のプラグは、0.01 Daより大きい水力学的透過率を有し、いくつかの態様においては10 Daより大きい水力学的透過率を有する。親水性高分子ゲルは、ポリヒドロキシルエチルメタクリレート(pHEMA)か、ポリヒドロキシルエチルメタクリレート-コ-メタクリル酸などのpHEMAコポリマーか、または、ジメチルアクリルアミド、メチルメタクリレート、およびシリコーンを非限定的に含む他の生体適合性ポリマーであってもよい。親水性高分子ゲルは、相互接続した細孔を有し、細孔は1~60μmの平均半径を有する。微小粒子は断面が2~100μmであってもよい。保存剤除去デバイスは、保存剤である塩化ベンザルコニウム(BAK)を除去してもよい。
【0013】
本発明の1つの態様において、親水性高分子ゲルは保存剤含有デバイスであり、例えば、容器内の溶液、乳濁液、または懸濁液の1~100倍の濃度でBAKをプレローディングしたゲルである。デバイスに保存剤を組み込むことは、眼科用のすべての処方およびディスペンサーの要件である無菌性を与えると考えられる。保存剤を組み込んだデバイスはまた、初期ローディングが平衡容量より低い場合は、保存剤除去デバイスとしても作動できる。加えて、プラグは、銀粒子など抗菌性の微小粒子を含んでいてもよい。
【0014】
本発明の1つの態様において、高分子材料は、容器内の溶液、乳濁液、または懸濁液中の薬剤で前処理されてもよく、その場合ポリマーは、その薬剤の飽和未満であってもよく、または、溶液、乳濁液、もしくは懸濁液の吐出中に薬剤がさらに取り込まれることを低減または解消するため、薬剤で飽和されてもよい。
【0015】
本発明の1つの態様において、保存剤除去デバイスは、保存剤除去デバイスを含有する排出口延長部を有する圧縮ボトルである、眼科用溶液を送達するための複数回投与デバイスに含まれていてもよい。親水性高分子ゲルは、乾燥時は排出口延長部の内部寸法より小さな寸法を有するが、眼科用溶液で膨張したときは排出口延長部の内部寸法より大きな寸法を有する。複数回投与デバイスは、チモロール、ドルゾラミド、リン酸デキサメタゾン、デキサメタゾン、ラタノプロスト、もしくは他のプロスタグランジン、再湿潤点眼剤、または、疾患処置もしくは快適性向上のため眼に送達される他の任意の化合物から選択される眼科用剤を含んでいてもよい。
【0016】
本発明の別の態様において、眼科用剤を投与する方法は、眼科用剤と保存剤とを含有し排出口に保存剤除去デバイスを備えた圧縮ボトルであって、圧縮ボトルに圧力を印加すると溶液が保存剤除去デバイスを通って押し出されるような圧縮ボトルを提供する段階を伴う。
【0017】
本発明の別の態様において、眼科用剤を投与する方法は、眼科用剤と、保存剤と、ボトム底部の保存剤ローディング済みフィルムとを含有し排出口に保存剤除去デバイスを備えた圧縮ボトルであって、圧縮ボトルに圧力を印加すると溶液が保存剤除去デバイスを通って押し出されるような圧縮ボトルを提供する段階を伴う。
以下に、本発明の基本的な諸特徴および種々の態様を列挙する。
[1]
多孔質の親水性高分子マトリックスを含む、保存剤除去デバイスであって、
多孔質の親水性高分子マトリックスが、水力学的透過率が0.01 Daより大きい材料を含み、かつ溶液、乳濁液、または懸濁液用の容器の排出口にフィットし、該溶液、乳濁液、または懸濁液から保存剤を迅速かつ選択的に除去する、
保存剤除去デバイス。
[2]
多孔質の親水性高分子マトリックスが、溶液、乳濁液、または懸濁液由来の保存剤について少なくとも100である分配係数を有する、[1]の保存剤除去デバイス。
[3]
縁部が粗い粒子で作られている、[1]の保存剤除去デバイス。
[4]
多孔質の親水性高分子マトリックス中の保存剤の飽和度が1~90%となるように、該多孔質の親水性高分子マトリックスが該保存剤でプレローディングされる、[1]の保存剤除去デバイス。
[5]
多孔質の親水性高分子マトリックスが、ポリヒドロキシルエチルメタクリレート(pHEMA)、ポリヒドロキシルエチルメタクリレート-コ-メタクリル酸、またはそれらの組み合わせを含む、[1]の保存剤除去デバイス。
[6]
多孔質の親水性高分子マトリックスが、相互接続した細孔を有し、該細孔が1~60μmの平均半径を有する、[1]の保存剤除去デバイス。
[7]
多孔質の親水性高分子マトリックスが、断面が2~100μmである微小粒子として分配される、[1]の保存剤除去デバイス。
[8]
水力学的透過率が1 Daより大きい、[1]の保存剤除去デバイス。
[9]
保存剤が塩化ベンザルコニウム(BAK)である、[1]の保存剤除去デバイス。
[10]
親水性高分子ゲルが、容器内の溶液、乳濁液、または懸濁液の1~100倍の濃度のBAKでプレローディングされる、[9]の保存剤除去デバイス。
[11]
多孔質の親水性高分子マトリックスが第二の保存剤でプレローディングされる、[9]の保存剤除去デバイス。
[12]
多孔質の親水性高分子マトリックスが、親水性薬剤を飽和未満の水準で含む、[1]の保存剤除去デバイス。
[13]
抗菌性の微小粒子をさらに含む、[1]の保存剤除去デバイス。
[14]
抗菌性の微小粒子が銀を含む、[13]の保存剤除去デバイス。
[15]
酸素スカベンジャーをさらに含む、[9]の保存剤除去デバイス。
[16]
圧縮ボトル、
多孔質の親水性高分子マトリックスを含む[1]の保存剤除去デバイス、
眼科用剤を含む溶液、
保存剤、および
任意で、溶液中の保存剤濃度を維持するための保存剤供給源
を含む、眼科用溶液を送達するための複数回投与デバイスであって、
該ボトルが排出口延長部を含み、該保存剤除去デバイスが、乾燥時に、該排出口延長部の内部寸法より小さい寸法を有し、該保存剤除去デバイスが、湿潤時に、該排出口延長部の内部寸法より大きい寸法を有する、眼科用溶液を送達するための複数回投与デバイス。
[17]
保存剤供給源が、溶液体積の1~10%の体積比で含まれたpHEMA膜であり、該pHEMA膜が、該溶液と等しい濃度で保存剤を含む、[16]の複数回投与デバイス。
[18]
多孔質の親水性高分子マトリックスがポリヒドロキシルエチルメタクリレート(pHEMA)を含む、[16]の複数回投与デバイス。
[19]
保存剤が塩化ベンザルコニウム(BAK)である、[16]の複数回投与デバイス。
[20]
眼科用剤が、チモロール、ドルゾラミド、リン酸デキサメタゾン、デキサメタゾン、またはラタノプロストを含む、[16]の複数回投与デバイス。
[21]
[1]の保存剤除去デバイスを圧縮ボトルの排出口に含む圧縮ボトルを提供する段階、
眼科用剤と保存剤とを含む溶液を提供する段階、および
該圧縮ボトルに圧力を印加する段階であって、該溶液が[1]の該保存剤除去デバイスに押し通され、該保存剤の少なくとも50パーセントが該溶液から除去され、かつ、該眼科用剤の少なくとも50パーセントが該溶液に保持される、段階
含む、眼科用剤を投与する方法。
[22]
[1]の保存剤除去デバイスが保存剤でプレローディングされる、[21]の方法。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1Aは、点眼剤ボトルのネックに組み込んだ、本発明の態様に基づくフィルターのプロトタイプ設計の写真を示しており、
図1Bは、デバイスのボトル、フィルター、先端、およびキャップのアセンブリのCAD設計を示している。
【
図2】
図2Aは、点眼剤ボトルの先端に組み込んだ、フィルターのプロトタイプ設計の写真を示しており、
図2Bは、デバイスのボトル、フィルター、先端、およびキャップのアセンブリのCAD設計を示している。
【
図3】プラグ面積が78.5 mm
2である場合のBAKフィルタープラグの水力学的透過率、ならびに、長さおよび細孔半径のモデル予測設計パラメーターのプロットを示した図であり、実線は、細孔サイズおよびそれに対応する水力学的透過率の上限および最小要件を示している。
【
図4】マクロ多孔性pHEMAヒドロゲルのSEM画像を示した図である。
【
図5】任意の材料をシリンジに詰めることによってその水力学的透過率を測定するための実験セットアップを示した略図である。シリンジに水が満たされ、次に、水を押し出すため公知の力が印加される。
【
図6】シリンジに詰めたマクロ多孔性pHEMAヒドロゲルについて測定された水力学的透過率のプロットを示した図である。詰められた各サンプルについて、圧密化がフローによって生じたか否かを決定するため、透過性を10回測定した。データは12個の独立サンプルについて測定され、データポイントは各サンプルにつき n = 12 のデータポイントの平均±SDを表している。
【
図7】直径1 cmのシリンジに詰めた厚さ5 mmのマクロ多孔性pHEMAゲルにチモロール/BAK溶液2.5 mLを10回連続で通過させた後に除去されたBAKおよびチモロールのパーセンテージを棒グラフで示しており、データは n = 3 について平均±SDで表されている。
【
図8】直径1 cmのシリンジに詰めた厚さ5 mmのマクロ多孔性pHEMAゲルにドルゾラミド/BAK溶液2.5 mLを10回連続で通過させた後に除去されたBAKおよびドルゾラミドのパーセンテージを棒グラフで示しており、データは n = 3 について平均±SDで表されている。
【
図9】直径1 cmのシリンジに詰めた厚さ5 mmのマクロ多孔性pHEMAゲルにラタノプロスト/BAK溶液2.5 mLを10回連続で通過させた後に除去されたBAKおよびラタノプロストのパーセンテージを棒グラフで示しており、データは n = 3 について平均±SDで表されている。
【
図10】直径1 cmのシリンジに詰めた厚さ5 mmのマクロ多孔性pHEMAゲルにデキサメタゾン/BAK溶液2.5 mLを10回連続で通過させた後に除去されたBAKおよびデキサメタゾンのパーセンテージを棒グラフで示しており、データは n = 3 について平均±SDで表されている。
【
図11】破砕したマクロ多孔性pHEMAゲルを直径1 cmのシリンジに詰めることによって形成した厚さ5 mmのプラグにチモロール/BAK溶液2.5 mLを24時間間隔で10回連続で通過させた後に除去されたBAKおよびチモロールのパーセンテージを棒グラフで示しており、データは n = 3 について平均±SDで表されている。
【
図12】破砕したマクロ多孔性pHEMAゲルを直径1 cmのシリンジに詰めることによって形成した厚さ5 mmのプラグにドルゾラミド/BAK混合溶液2.5 mLを24時間間隔で10回連続で通過させた後に除去されたBAKおよびドルゾラミドのパーセンテージを棒グラフで示しており、データは n = 3 について平均±SDで表されている。
【
図13】破砕したマクロ多孔性pHEMAゲルを直径1 cmのシリンジに詰めることによって形成した厚さ5 mmのプラグにラタノプロスト/BAK溶液2.5 mLを24時間間隔で10回連続で通過させた後に除去されたBAKおよびラタノプロストのパーセンテージを棒グラフで示しており、データは n = 3 について平均±SDで表されている。
【
図14】破砕したマクロ多孔性pHEMAゲルを直径1 cmのシリンジに詰めることによって形成した厚さ5 mmのプラグにデキサメタゾン/BAK溶液2.5 mLを24時間間隔で10回連続で通過させた後に除去されたBAKおよびデキサメタゾンのパーセンテージを棒グラフで示しており、データは n = 3 について平均±SDで表されている。
【
図15】シリンジに詰めた破砕マクロ多孔性pHEMA粒子の水力学的透過率のプロットを示した図であり、測定は24時間間隔の10回連続の通過として行われ、データは n = 12 について平均±SDで表されている。
【
図16】直径1 cmのシリンジに詰めた厚さ5 mmのマクロ多孔性HEMA-コ-MAAコポリマーヒドロゲルにデキサメタゾン/BAK混合溶液2.5 mLを押し通した後に除去されたBAKおよびデキサメタゾンのパーセンテージを棒グラフで示しており、測定は即時連続で3回繰り返された。
【
図17】直径1 cmのシリンジに詰めた、MAA 1%溶液で処理した厚さ5 mmのマクロ多孔性pHEMAヒドロゲルに、デキサメタゾン/BAK混合溶液2.5 mlを押し通した後に除去されたBAKおよびデキサメタゾンのパーセンテージを棒グラフで示しており、測定は即時連続で3回繰り返された。
【
図18】EGDMAを架橋剤とする熱開始重合によって合成したpHEMA粒子のSEM撮影画像を示している。
【
図19】先端にBAK除去プラグを詰めた点眼剤ボトルのプロトタイプを示した図である。この設計では、水力学的透過率の測定を容易にするため、プラグ以降の余分のスペースが残されていた。
【
図20】プラグ含有ボトルからの総流量を時間の関数としてプロットした図である。データを理論式にフィッティングすることによって水力学的透過率を計算した。
【
図21】点眼剤プロトタイプの先端に詰めた厚さ8 mmの破砕マクロ多孔性pHEMA粒子にラタノプロスト/BAK溶液1.5 mLを1日1回10日間通過させた後に除去されたBAKおよびデキサメタゾンのパーセンテージを棒グラフで示しており、データポイントは n = 3 の平均±SDである。
【
図22】EGDMAを架橋剤として用いたUV重合によって合成したpHEMA粒子のSEM画像を示しており、pHEMAは、粒径が10~200μmの、滑らかな表面を備えた球形に近い粒子である。
【
図23】光重合により調製したpHEMA粒子を点眼剤プロトタイプボトルの先端に詰めた厚さ8 mmのプラグにチモロール/BAK溶液を通過させた後に除去されたBAKおよびチモロールのパーセンテージの棒グラフであり、即時連続で行った5回の通過において毎回1.5 mLの薬剤/BAK溶液をプラグに通過させた。
【
図24】熱開始重合により調製したpHEMA粒子を点眼剤プロトタイプボトルの先端に詰めた厚さ8 mmのプラグにチモロール/BAK溶液を通過させた後に除去されたBAKおよびチモロールのパーセンテージの棒グラフプロットであり、即時連続で行った10回の通過において毎回1.5 mLの薬剤/BAK溶液を詰め物に通過させた。
【
図25】SR454HPを架橋剤として用いたUV重合によって調製したpHEMA粒子のSEM画像を示している。
【
図26】SR454HPを架橋剤として用いることにより調製したpHEMA粒子を点眼剤プロトタイプの先端に詰めた厚さ1.8 cmのプラグにチモロール/BAK混合溶液1.5 mLを1日1回10日間通過させた後に除去されたBAKおよびチモロールのパーセンテージを棒グラフで示しており、データポイントは n = 3 の平均±SDである。
【
図27】SR9035を架橋剤として用いることにより調製したpHEMA粒子を点眼剤プロトタイプの先端に詰めた厚さ1.8 cmのプラグにチモロール/BAK混合溶液1.5 mLを1日1回10日間通過させた後に除去されたBAKおよびチモロールのパーセンテージを棒グラフで示しており、データポイントは n = 3 の平均±SDである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
詳細な開示
本発明の態様は、送達される点眼剤中の保存剤、特にBAKへの患者の曝露を解消し、かつ一方で、含有される調合物中のBAKを保持して点眼剤ボトルが無菌状態を保つことを確実にするような、複数回投与デバイスおよび方法に関する。保管のためのBAKの利点は保たれ、かつ一方で、BAKによる眼毒性の可能性が解消される。本発明の1つの態様において、本明細書においてプラグとしても参照される多孔質の保存剤除去デバイスが、
図1に示すように、液滴の出口につながる点眼剤ボトルのネック内に置かれる。本発明の別の態様において、
図2に示すように、プラグは点眼剤ボトルの先端の区画内に置かれる。長いプラグをその中に位置決めできるようにするためには、大きな先端が含まれる。保存剤除去デバイスは、使用のための好適なコネクタを介して調合物吐出ユニットに取り付けられる、分離したフィルターであってもよい。プラグは、流体を吐出するために必要な圧力が比較的小さくなるよう、高い水力学的透過率を示さなくてはならない。必要な水力学的透過率はフィルターの設計によって異なり、細孔がより大きいと、所与の圧力降下に対して、より高い液体フローが得られる。本発明の態様において、水力学的透過率は約0.01 Daより大きく、プラグが、最新式の点眼剤パッケージにフィットするサイズに適合するプラグである、本発明の典型的な態様については、約0.1 Daの透過性で充分である。1~10 Daという水力学的透過率は、点眼剤の滴下後にフィルター内に残った流体がボトル内に確実に吸い戻されることを可能にする。より大きい水力学的透過率は、再湿潤点眼剤など高粘度の調合物を含む広範な調合物に対しても同じプラグが機能することを可能にする。
【0020】
プラグは、保存剤の少なくとも50パーセントがプラグによって溶液から除去され、かつ、薬剤の少なくとも50パーセントがデバイスから吐出される溶液中に保持されるよう、保存剤BAKに対する親和性が高くかつ薬剤または他の眼科用剤に対する親和性が低い材料で作られる。接触時間が1~3秒と短いため、溶出する液体中の濃度はプラグ内のそれと平衡でない可能性があることから、親和性の高さは必要な要件ではあるが充分な要件ではない。薬剤分子がポリマーに吸着する時間が、1~3秒という接触時間より短くなるよう、分配係数が高いことに加えて、吸着速度定数も充分に高くなくてはならない。さらに、最初にプラグ内のポリマー表面から遠くにあった分子が、ポリマーに向かって拡散しそして吸着できるよう、プラグ内の細孔サイズが充分に小さいことも重要である。プラグ材料の分配係数および吸着速度が高く、かつ、プラブの細孔サイズが最適化されているとき、保存剤の全部または大部分がプラグ内の細孔表面に吸着して、溶出する液滴は保存剤非含有になる。プラグを通って溶出する保存剤非含有の液体は、眼内に直接滴下される。多孔性の高いプラグ材料は保存剤を選択的に抽出し、これにより、点眼剤調合物がわずかな圧力降下のみでプラグを通って流れることを可能にし、かつ、保存剤を結合するのに充分な時間と表面積とを可能にする。
【0021】
選択される材料はきわめて重要であり、これにより、保存剤除去のための安全で生体適合性であるフィルターの構築が可能となる。従来の特許は同様の用途向けにイオン交換樹脂を提唱しているが、そのような材料はイオン性薬剤も除去してしまう可能性がある。例えば、BAKは陽イオン性であり、そしてチモロールなど多数の眼科薬も生理学的pHにおいて陽イオン性であるため、イオン交換樹脂は両方を除去する可能性がある。多数の材料が眼科用途に幅広く用いられており、そのような材料は眼に対して適合性である。ポリ(2-ヒドロキシエチルメタクリレート)(pHEMA)は眼内に使用されるデバイス用に最も一般的に使われている材料の1つであるが、イオン性材料を除去するための透過性液体プラグとしての使用についてはこれまで探究されていない。pHEMAは非イオン性であるため、BAKまたは他のイオン性化合物の高度の結合は、イオン交換材料のようには生じえない。本発明者らは、生体適合性が優れていることからまずpHEMAを用い、そして、BAKに対する望ましい選択性を得るためには、その材料に他の化合物を組み込むことが必要であろうと想定した。驚くべきことに、pHEMAは、改変を伴わなくとも、BAKの吸着についてきわめて有効であることが観察された。pHEMA材料はBAKに対する分配係数が高く、かつ吸着時間は通過時間の3秒より短いことが決定され、このことは、pHEMAプラグを通って流れるBAK溶液が、ポリマー上に吸着するのに充分な時間を有することを示唆している。さらに、pHEMAは眼科用材料として既に使用されていることから、プラグ材料として理想的な選択肢である。
【0022】
本発明の1つの態様において、プラグ材料は、ポリ(2-ヒドロキシエチルメタクリレート)(pHEMA)などのヒドロゲルである。pHEMAヒドロゲルはBAKに対して極めて高い結合能を示し、分配係数は、測定に使用されるpHEMAマトリックスの構造およびBAK濃度によって異なるが約100~500である。対照的に、ほとんどの親水性眼科薬のpHEMAマトリックス内への分配係数は約1~10の範囲であり、疎水性薬剤の分配係数は10~50の範囲である。プラグ内への薬剤の分配係数が、BAKに対するプラグの親和性より少なくとも1桁低い場合、多孔質pHEMAプラグは、点眼剤調合物からのBAKの選択的除去を可能にする。
【0023】
本発明の1つの態様において、pHEMAプラグは高度に多孔質であり、細孔壁への保存剤BAKの吸着を伴いながら溶液が容易に流れることができる、相互接続した大きな細孔を有する。プラグは、多孔性ゲルか、充填層か、または、3Dプリンティング、ソフトリソグラフィー、エレクトロスピニング、もしくは他の任意の方法によって形成された構造として形成されてもよい。本発明の態様に基づく、マクロ多孔性ゲルの使用は、費用対効果が高い、比較的単純で拡張性のある調製プロセスを可能にする。マクロ多孔性ゲルは、ポリマー全体に分散した大きな相互接続細孔で構成される、二相性の材料である。マクロ多孔性ヒドロゲルは、モノマーを溶解するがポリマーは溶解しない希釈液中でモノマーをフリーラジカル重合することによって調製されてもよい。希釈液の濃度がポリマーの平衡膨潤能より高い場合は、余分の希釈液が相分離して細孔を形成する。マクロ多孔性pHEMAヒドロゲルは水を希釈液として用いても調製できるが、そのようなゲルは機械的に弱いのが典型的である。HEMAに対して溶解性が良いがpHEMAに対して溶解性が悪い有機性の希釈液としては、ドデカン-1-オールおよび1,2-ジクロロエタンなどがあり、そのような溶媒は頑健なゲルをもたらす。しかし、有機性液体の量が多いことは、生物医学用途には望ましくない。したがって、マクロ多孔性ヒドロゲルは、NaCl水溶液を用いた強化相分離によって調製される。本発明の別の態様において、マクロ多孔性ゲルは、ポリアクリルアミドなど他の好適なポリマーから調製されてもよく、そして保存剤を隔離するためのマトリックスとしてpHEMA粒子が分散されてもよい。
【0024】
あるいは、本発明の1つの態様において、プラグはpHEMAまたは他の高分子粒子の充填層として調製されてもよい。粒子はマクロ多孔性であってもよい。マクロ多孔性粒子の充填層は、3つのレベルの多孔度、すなわち、液体フローのための相互接続チャネルを提供する球状粒子の間の空間と;粒子内へのBAK拡散を可能にしてこれら細孔の表面上に吸着するための、球状粒子内のマクロ細孔と;BAKをゲル内に大量に取り込むための表面積を提供するナノサイズ細孔を有する、pHEMAポリマーの固有の多孔度とを有していてもよい。充填層において、多孔度が複数レベルあることは、透過性増大と面積減少とのトレードオフを防ぎ、そしてこれにより、BAK吸着のための表面積への影響を最小にしつつ、粒径を大きくして水力学的透過率を増大させる。水力学的透過率を増大させるような高い多孔度を実現するうえで、非球状粒子もまた非常に有用である可能性がある。
【0025】
ナノまたはミクロンサイズの高分子粒子(ナノゲルまたはミクロゲル)は溶液重合またはバルク重合によって生成され、このとき、希釈モノマー溶液を用いるかまたは連鎖移動剤を用いて、モノマーからポリマーへの転化を制限することによって、バルクゲル化が回避される。例えば、ミクロゲルの巨視的なゲル化を防ぐには、水分画をかなり高くする。水分画および他の調合物パラメーターを変化させることによって、サイズが5~50μmの範囲の粒子を生成できる。本発明者らは、架橋剤のタイプが、生成される粒子のタイプおよびサイズに非常に大きく影響することを観察している。加えて、または、あるいは、微小粒子の表面上で成長する分子鎖を有効にキャップするため、連鎖移動剤が用いられてもよい。希釈度、塩濃度、および連鎖移動剤の濃度を操作することによって、幅広い粒径範囲を生成することができる。粒子は乾燥され、そして充填層となるよう詰められて、BAK分離用のモノリスができる。
【0026】
本発明の別の態様において、重合用混合物を凍結させ、そして凍結条件化で重合を行うための開始剤として酸化還元対を用いることによって、クリオゲルが調製される。クリオゲルは、典型的に、数十~数百ミクロンの範囲の大きな細孔を有する。開始剤は、N,N,N',N'-テトラメチルエチレンジアミン(TEMED)と過硫酸アンモニウム(APS)との混合物であってもよい。混合物は-15℃で12時間凍結され、それから解凍される。
【0027】
本発明の態様において、多孔質マトリックスまたは粒子を支持するためにさまざまなフィルターが置かれてもよい。フィルターは、流体フローにもたらす抵抗が最小になるように設計される。
【0028】
本発明の他の態様は、粒子に組み込まれた保存剤が、要求される保存効果を提供するが、調合物とともに流れ出ることはないよう、容器内の調合物に添加される粒子の中に保存剤を組み込む方法に関する。粒子は、コロイド銀粒子などのように、保存効果を直接的に与えてもよい。調合物中の粒子は、長い高分子鎖を介して容器壁に取り付けられるか、または、粒子より小さなサイズのフィルターがデバイスの出口に置かれるかのいずれかによって、溶出が防がれる。本発明の別の態様において、調合物に対する保存効果を提供するため、容器の壁または他の表面に保存剤が取り付けられるかまたは組み込まれていてもよい。例えば、保存剤供給源は、体積比が最初の調合物の体積の1~10%であり、調合物中の開始濃度においてBAKで平衡している、pHEMA膜であってもよい。本発明の別の態様において、容器全体が、細孔内に調合物を含有した多孔質材料であってもよく、そして、ポリマー内に組み込まれた保存剤が保存効果を提供してもよい。
【0029】
本発明の別の態様において、細孔内に残ったいかなる液体も微生物の増殖を促がすことがないよう、最終的に液滴がそこから溶出するデバイス表面と、プラグ内の細孔またはプラグ内の球状粒子の表面とは、吸着を介するかもしくは取り付けによって、または、粒子としてその他組み込むことによって、追加の保存剤を組み込んでいてもよい。例として、プラグ内に捕捉されたいかなる微生物も時間の経過とともに増殖することがないよう、プラグが好適な濃度のBAKでプレローディングされていてもよい。別の態様において、保存作用を実現するため、銀粒子など他の抗菌性粒子がプラグに組み込まれていてもよい。
【0030】
典型的な点眼剤吐出システムは、同様の基本設計を採用している。プラスチックボトルを指で押すことによって力を印加すると変形がもたらされ、それがボトル内の空気を圧縮して、液体に対する圧力の増大が生じ、これが先端での液滴生成をもたらすよう、ボトルは弾性である。ボトルから出る液体のフローは、気相体積を増大させ、かつ、圧力を低下させる。液滴生成に必要な圧力は、液体生成中、約2σ/RdのYoung Laplace圧力を上回っていなければならず、上式においてσは液滴の表面張力、Rdは半径である。30μLという液滴体積に基づきRdを約0.5 mmと推定し、σについては水の表面張力を用いると、Young Laplace圧力の値は約100 Paとなる。理想気体の法則を仮定すると、この圧力を実現するには、ボトル内の気相の体積(ΔP)が ΔV = ΔP/P*V という体積だけ減少しなければならず、上式においてPはボトル内の開始圧力(1気圧)、Vは空気相の体積である。すべてのパラメーターについて近似値を代入すると ΔV/V = 0.1% となり、これは、手によって印加される圧力が、ボトル内の体積の0.1%減少を実現するのに充分でなければならないことを意味する。しかし、ボトルから液体の体積が押し出されることによる気相体積の増加を補償するため、液滴の体積に等しい、追加のΔVが求められる。典型的な点眼剤の体積は約30μLであり、これは、ボトルの体積の0.1%より大きい。ゆえに、点眼剤を吐出するために必要な体積減少は、液滴自体の体積とほぼ等しい。理想気体の法則によって推定すると、この圧迫により気相に生じる圧力は、ΔV = 30μL、V = 3 mL、P = 1 atm である場合、最小ΔPが 約0.01 atm = 1000 Pa となる。これは、液滴の生成に必要な最小圧力を表している。大多数の対象者はこの圧力を5~10回容易に印加することができる。
【0031】
本発明の態様に基づくと、プラグを通して流体を押すのに余分の圧力が必要になるため、プラグ含有デバイスにおいて液滴の吐出はより複雑になる。患者がボトルを圧搾すると、増大した気相の圧力が、プラグを通して液体を押す。最初は、液滴がまだ形成されていないため、プラグ全体にわたって圧力降下が生じる。液滴が形成されてその体積が増大するにつれてYoung Laplace圧力が増大し、これは、プラグを通るフローのために利用可能な圧力降下を減少させる。プラグを通る液体フローの速度は、印加される圧力、ならびに、長さ、面積、多孔度、および水力学的透過率を含む設計パラメーターによって異なる。これらパラメーターは、対象者が過剰な圧力を印加する必要なくプラグ含有ボトルから点眼剤を滴下でき、かつ一方で、調合物がすべて使用されるまで毎回点眼剤から望ましい量の保存剤をプラグが除去するように、プラグについて求められる。望ましい細孔サイズおよび水力学的透過率を決定することは、ささいな作業ではない。細孔サイズおよび透過性がより大きいことは、点眼剤の滴下を容易にするが、プラグを通る通過時間および利用可能な表面積を減少させ、このことは除去される保存剤の量を減少させる。プラグ性能の他の局面は水力学的透過率によって異なる。例えば、点眼剤が滴下された後、対象者はボトルの圧搾をやめる。これはボトル内部に真空を作り出し、その真空はボトル先端に残っている流体を引き込む。ボトルがプラグを含有している場合は、点眼剤が滴下された後、プラグ全体が流体で満たされている。点眼剤ボトル内部の真空はプラグから流体全部を吸い戻せる可能性があるが、それは、水力学的透過率、ならびに、表面張力、および、調合物とプラグ材料との接触角によって異なる。水力学的透過率が充分に大きくない場合、プラグは、連続した2回の滴下と滴下との間、調合物を保持する。この場合、移動される必要がある流体の体積は、単純に液滴の体積であるため、滴下プロセスには有益である。しかし、流体で満たされたプラグからの蒸発を最少にするため、先端が適切に密閉されなくてはならない。調合物に由来する保存剤がプラグによって取り込まれるので、無菌環境である細孔をプラグが呈するようにすることがきわめて重要である。たとえ水力学的透過率が非常に高くても、いくらかの流体が捕捉される可能性があり、このことから、例えば、プラグにBAKのプレローディングもしくは抗菌性コーティングを行うか、またはプラグ内に抗菌性粒子を添加するなど、無菌性を維持するようにプラグを設計する必要が生じる。液滴を滴下するごとにプラグ内のBAK濃度が上昇し、これにより、プラグの無菌性が確実になる。
【0032】
以下に、プラグを通る流体フローおよびBAK取り込みの数学モデルを提供する;この数学モデルにより、必要とされる圧力を大幅に増大させることなく点眼剤の滴下という目的を実現し、かつ、調合物全体からBAKを望ましい程度まで除去することを可能にするような、プラグの物理特性(細孔サイズ、水力学的透過率、断面積、長さ)を決定することができる。理解されるべき点として、これはデバイスを単純化したバージョンについてのモデルであるが、望ましい分離を実現するための設計パラメーターの推定はなお可能である。デバイスを最適化するには、モデルが示唆するパラメーターから始めて、最終的には実験を行うことが必要になると考えられる。
【0033】
プラグを通る圧力降下はDarcyの法則により推定できる:
上式において、k は材料の水力学的透過率、L は長さ、μ は流体の粘稠度、ΔP はプラグをわたる圧力降下、そして A は断面積である。プラグを通る平均流量は、液滴 V
d の体積(= 30μL)と、液滴形成に必要な時間 τ との比である。本発明者らは τ を約3 sとしたく、これは、市販の大多数のボトルで液滴を形成するのに要する時間と同等である。液滴形成の力学を考慮すると、以下の制約が生じる:
【0034】
本発明の態様に基づくと、プラグは、医薬品有効成分(API)の濃度を低下させることなく、ほぼすべての保存剤BAKを選択的に除去するように設計される。プラグは、ボトル内にローディングされている保存剤を吸収するのに充分な能力を有していなくてはならず、そして、脱着が生じないよう、プラグ材料と保存剤との相互作用が充分に強くなければならない。プラグの材料による保存剤取り込みの動力学は非常に迅速であり、結合のための時間尺度は、プラグを通る調合物のフローの時間尺度より短い。
【0035】
マクロ多孔性ゲル内の流体フローと質量移動とを扱って、液滴生成に圧力増大を必要としないような流体フローについてBAKを >90% 除去するという分離目標を達成できる構造を決定するには、長さが L で半径が R の平行な細孔のセットとしてマクロ多孔性ゲルをモデル化できる。細孔 c(r, z, t) 内の濃度は、細孔内の半径位置 r、プラグに沿った軸位置 z、および、時間 t の関数である。細孔内のBAK移動についての対流拡散方程式を解くには、適切な初期条件および境界条件を確立する必要がある:
上式において、細孔を通る速度は、Poiseuille流のプロフィール、すなわち次式によって与えられる:
上式において、<u> は、ゲルを通る流体の平均速度である。上記の対流拡散方程式を解くための境界条件および初期条件は以下のとおりである:
上式において、c
0 は溶質のインレット(z = 0)濃度である。インレット(z = 0)およびアウトレット(z = L)における境界条件は、充填層内の質量輸送のモデル化に広く用いられる「クローズドエンド(close-end)」の境界条件である。r = 0 においてゼロとなる導関数は、対称条件または等価的である非シンク条件から生じ、そして、細孔境界(r = R)における境界条件は、BAKがpHEMAマトリックスに迅速に吸着することを仮定している。初期条件は、BAK溶液が押し通される前に界面活性剤の濃度がゼロであることを仮定している。
【0036】
上記のモデルには以下の仮定および単純化を適用している:フローの持続時間は、液滴形成の目標時間である約3 sと短いため、プラグの膨潤は(もしあるとしても)無視される;ならびに、細孔境界(r = R)においてpHEMAマトリックスへのBAKの迅速な結合が生じる;後者は、後述の実施例に示すように、pHEMA中のBAKの分配係数が非常に高いこと、および、フロー実験においてBAKが100%除去されることと一致する。分配係数は吸着および脱着の速度定数の比であり、値が非常に高いことは、吸着が迅速であり、細孔境界における濃度が実際上ゼロになることとして解釈できる。対流項が拡散項よりはるかに大きいため、軸流束に対する拡散の寄与を無視することによって近似解を得ることができる。この近似により、単純化した定常状態方程式が得られる:
上式において、
である。無次元パラメーター
は、流体がプラグを通過するのに要する時間と、BAK分子が細孔の中心から境界まで拡散する時間との比である。この無次元パラメーターが1よりはるかに小さいときは、流体の移動が速すぎて、分子が放射状に拡散して吸着するための充分な時間がないため、細孔内の濃度はインレット濃度と等しくなる。パラメーター
が1よりはるかに大きい場合は、分子が放射方向に拡散して細孔壁に吸着するための充分な時間があるため、溶出する流体中のBAKの濃度はゼロになる。Darcyの法則による平均速度を代入すると、溶出する液滴からBAKを完全に除去するための要件は、以下の制約を与える:
これは、透過率と細孔サイズとの間に次式の関係を与えるKozeny-Carmanの式を用いて単純化することができる:
上式において、f は、多孔度(ε)にやや依存するKozeny係数で、f = 3.4(1-ε)
0.175 である。この解析を単純化するため、f として定数 3 を用いる。この計算された k を、様々な物理特性および移動特性(μ、D)に関する公知の値、ならびに、設計基準によって固定される必要がある他のパラメーター(ΔP、τ、V
d)とともに、式2および式11に代入すると、制約は以下のようになる:
上式は、調合物の単一の液滴の滴下に対する制約である。複数の液滴が滴下される場合は、プラグがBAKで飽和するため、滴下される体積に伴って、プラグ内で除去されるBAKの分画が減少する。これらの計算において、除去目標は、滴下される最後の液滴においても少なくとも90% BAKであり、滴下されるすべての液滴を考慮すると>95%になると考えられる。新たな予測を得るため、より高い除去分画をモデルに容易に統合することもできる。この目標を実現するには、調合物からすべてのBAKをゲル内に取り込んだ後の溶液の平衡濃度が、最初のBAK濃度の10%未満となるように、プラグの分配係数が充分に高くなくてはならない。調合物中のすべてのBAKを取り込んだ後のゲル内の濃度は
であり、これは、設計に以下の制約を加える:
上式において、V
f は、ゲルプラグを通過する調合物の総体積であり、K は、ゲル相におけるBAK濃度を溶液相におけるBAK濃度で除したものとして定義される分配係数である。
【0037】
計算に使われる全パラメーターの値を後述の表1に挙げるとともに、モデルから得られた設計制約(式13~15)を
図3にグラフ化して示す;これらプロットは、表1の設計パラメーターについて、プラグ面積が78.5 mm
2である場合の、プラグの長さ、細孔半径、およびそれに対応するBAKの水力学的透過率を予測しているからである。プラグの実際の長さは必ずしも L に等しくなくとも、L/T であってもよい;この式において T はくねり度(tortuosity)であり、フィルタープラグを不均一球体の充填層として見ると、3 と推定される。設計制約は、プラグ面積が少なくとも0.258 mm
2でなければならず、好ましくはより大きいことを示唆している。妥当な設計として、面積が78.5 mm
2に等しいのであれば、L は少なくとも0.33 cmの長さであるべきである。したがって、フィルタープラグが長さ0.5 cm、面積78.5 mm
2である場合、0.13 Daという最小の水力学的透過率または4μmという細孔直径が必要になる。
【0038】
すべての設計パラメーター推定値は、一般的に使用される点眼剤ボトルにデバイスを統合することに基づいている。ボトルを再設計することによって、パラメーターを変更してデバイス性能を向上させてもよい。例えば、点眼剤ボトルの材料を変えることによって、液滴の滴下に利用できる圧力を大幅に増大させてもよい。ボトル先端の設計を変えることによってプラグの面積を調整してもよい。
【0039】
(表1)式13~15の設計制約に用いられるパラメーターの典型値
a 値は、点眼剤ボトルで点眼剤を投与するプロセス中に生じる典型的な圧力降下の推定値である。
【0040】
多孔質プラグは、市販の調合物からBAKを除去するためにパッケージに含まれていてもよい。例えば、多孔質プラグは、市販されている以下の緑内障薬とともに用いられてもよい:薬剤であるチモロールを半水化物として0.25%または0.5%、および、BAKを0.01%含有し、pH(6.5~7.5)を調整するためのリン酸一ナトリウムおよびリン酸二ナトリウムを含む不活性成分を有する、透明で等張のリン酸緩衝水溶液であるBetimol(登録商標);0.5%チモロールと2%ドルゾラミドという2つの緑内障薬の組み合わせと、0.0075% BAKと、不活性成分であるクエン酸ナトリウム、ヒドロキシエチルセルロース、水酸化ナトリウム、およびマンニトールとを含有する、やや粘性の等張緩衝水溶液であるCOSOPT(登録商標);0.005%ラタノプロストと、0.02% BAKと、不活性成分である塩化ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、およびリン酸水素二ナトリウムとの、等張緩衝水溶液であるXALATAN(登録商標);ビマトプロスト0.3 mg/mと、BAK 0.05 mg/mLと、不活性成分である塩化ナトリウム、リン酸ナトリウム、およびクエン酸とを含有する、LUMIGAN(登録商標);ならびに、トラボプロスト 0.04 mg/mLと、BAK 0.15 mg/mLと、不活性成分であるポリオキシル40水添ヒマシ油、トロメタミン、ホウ酸、マンニトール、エデト酸二ナトリウム、水酸化ナトリウム、および/または塩酸とを含有する、TRAVATAN(登録商標)。プラグはまた、再湿潤点眼剤の調合物のうち任意のものに組み込まれていてもよい。上記のリストは、プラグをボトルに統合することによって保存剤が除去されてもよいすべての眼科薬調合物のごく一部である。デバイスは、好適なコネクタを介して調合物吐出ユニットに取り付けられる、別個の存在であってもよい。
【0041】
本発明の態様に基づくプラグは、BAKおよび他の保存剤の除去に有効であるが、本発明がそう限定されるわけではない。調合物中に必要であるが体内には必要でない保存剤以外の成分が除去されてもよく、そのような成分としては、非限定的に、調合物の安定剤および酸化防止剤などがある。流体配合物から保存剤が選択的に除去されるよう、他の流体が用いられてもよい。保存剤除去デバイスを通して容器から吐出されてもよい流体としては、静脈内投与用薬剤、経口用薬剤の溶液および懸濁液、食品、飲料、芳香剤、ローション、石鹸、シャンプー、または、摂取されるか、皮膚、創傷、開口部、もしくは身体にできた開放部に接触する、他の任意の流体などがある。本明細書に開示されているように、例示的な保存剤はBAKであるが、水性の溶液、乳濁液、または懸濁液中に一般的に溶解される他の保存剤が、所望の保存剤を除去するように適合された保存剤除去デバイスから除去されてもよい。
【0042】
方法および材料
マクロ多孔性ポリ(2-ヒドロキシエチルメタクリレート)ヒドロゲルの調製
HEMAモノマー 4 mL、エチレングリコールジメタクリレート(EGDMA)400μL、塩化ナトリウム 15 mmole、ジフェニル-(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド(TPO)10 mg、および脱イオン(DI)水 15 mLを混合し、900 rpmで20分間の電磁撹拌を行うことにより、マクロ多孔性のポリ(2-ヒドロキシエチルメタクリレート)(pHEMA)ヒドロゲルを調製した。混合物に純窒素を30分間通気させることによって、混合物を脱酸素化した。脱酸素化した混合物を55 x 17 mm(直径 x 高さ)のPyrex(登録商標)ペトリ皿に流し入れ、顕著な蒸発を防ぐためにカバーをかけ、そして、UVB-10トランスイルミネーター(ULTRA・LUM, INC, Carson, CA, USA)を用いて、310 nmを鋭いピークとする強度16.50 mW/cm
2のUV光を40分間照射した。重合後、マクロ多孔性pHEMAゲルをペトリ皿から注意深く取り外し、未反応成分を抽出するため350 mLのDI水に24時間浸漬した。未反応成分を徹底的に除去するため、連続7日間にわたって24時間ごとにDI水を新鮮なDI水と交換し、7日間の抽出の間にゲルの近傍から水のUV-Visスペクトルを測定してUV-Vis吸光度が無視できる程度であることによって除去を確認した。次に、合成されたマクロ多孔性ゲルをDI水の中で保管した。
図4に示されているように、合成されたpHEMAヒドロゲルのSEM画像は、数ミクロンの細孔サイズを有している。
【0043】
シリンジ内への詰め込みによるマクロ多孔性ゲルの水力学的透過率の測定
ボトルが圧搾されたときに印加される圧力を決定するため、出口が下を向くようにボトルを垂直に保持しそして圧搾して、溶出する液体の質量または落下する液滴の数を決定した。すると次に、圧搾によって気相内部に作り出される圧力を ΔV/V×Patm として決定することができ、この式において、ΔV は溶出する液体の体積、V はボトル内部の気体の体積、Patm は大気圧である。この方法から、圧搾時に点眼剤ボトル内部に生成される圧力として、約5000 Paという推定値が得られた。この圧力は、指によって印加される圧力と同じではない。指によって印加される力/圧力は、ボトルを圧搾し、それはボトル内部の体積を減少させる。この体積減少が圧力上昇をもたらす。利用可能な圧力を決定した後、液滴が約3秒間で作り出されることに基づき、フィルターを通る速度の推定を行った。必要とされる透過性はフィルター設計によって異なるため、約0.1 Daより大きい水力学的透過率であれば充分であり、点眼剤デバイスには約1 Da以上の透過性がより好適であることが、推定から示唆された。湿潤用点眼剤など、より粘性の溶液では、より高い値が必要となる。0.1 Daは、液滴の吐出には充分であるが、液滴を吐出した後にフィルター内に残った流体を吸い戻すには十分でない。
【0044】
マトリックスの水力学的透過率をテストするため、BAK除去材料を、直径1 cmの無菌シリンジ(SOFT-JECT(登録商標), 3ml, Henke-Sass Wolf GmbH, Tuttling, Germany)に詰めた。詰めた材料が、印加される圧力によって漏れ出すことを防ぐため、濾紙(Qualitative 1, Whatman(登録商標), Maidstone, England)2片をシリンジ内に置いた。BAK除去材料を均一に詰めるため、2.5 mLのDI水を毎回高圧でシリンジに通し、これを少なくとも5回繰り返した。このセットアップを用いた水力学的透過率の測定に用いた、BAK除去材料を詰めたシリンジを、
図5に示す。出てきた溶液を集めるため、シリンジのすぐ下にビーカーを置いた。シリンジに2.5 mLのPBS(粘稠度 = 1.00 ± 0.05 cP)を満たし、詰め物全体にわたる圧力降下を作り出すため1.28 kg(1.6 x 10
5 Pa)の重りをトレーの上に置いた。トレー上に重りを置いた時を開始時とし、最後の液滴がビーカー内に落ちる時までの過程を、ストップウォッチを用いて時間計測した。フィルター材料を通った流量を計算するため、ビーカー内に集められたPBS溶液の重さを測定した。次に、Darcyの法則である前述の式1により、水力学的透過係数を計算した。
【0045】
前述のように調製したマクロ多孔性pHEMAゲルの水力学的透過率を、12個のサンプルの各々について10回ずつ測定した。透過性の結果を
図6に示す。
図6に示されているように、有意な傾向ではなかったものの、ゲルの水力学的透過率は測定回数が増えるにつれてわずかに低下した。これは、測定ランのたびにゲルに高い圧力がかかり、そのためゲルがよりきつく詰められたことによる。水力学的透過率の全体的な平均は0.025 Darcyである。
【0046】
BAK除去フィルターとしてのマクロ多孔性pHEMAゲルの性能テスト
マレイン酸チモロール(親水性、緑内障用の薬剤)、ドルゾラミド塩酸塩(親水性、緑内障用の薬剤)、ラタノプロスト(疎水性、緑内障用の薬剤)、およびデキサメタゾン(疎水性、感染または眼外傷用の薬剤)という4つの一般的な眼科薬とともに、BAK除去の選択性をテストした。4つの薬剤を個別にPBSに溶解し、BAKと混合した。調製した薬剤/BAK混合物の濃度を後述の表2にまとめた。前述のように調製したマクロ多孔性pHEMAヒドロゲルをBAK除去フィルターとして用い、前述のようにシリンジ内に詰めた。実験セットアップは
図3と同じである。2.5 mLの薬剤/BAK溶液をシリンジに入れ、トレー上の重り(1.28 kg)によって作り出した圧力降下によってフィルタープラグを通過させた。フィルタープラグを通った溶液を集め、UV-Visスペクトルを測定することによって薬剤/BAKの濃度を決定した。薬剤/BAK混合物の各々について検出された波長域を後述の表2にまとめた。測定されたUVスペクトルはテスト薬剤およびBAKの一次結合であり、したがって、Kim et al. Int. J. Pharm., 2008, Apr 2;353(1-2):205-22 に説明されているように、最小二乗フィッティング法を適用することによって薬剤およびBAKの個々の濃度を決定することができた。これを、薬剤およびBAKの標準混合溶液との比較によりバリデーションした。マクロ多孔性pHEMAゲルプラグの各々について、同じ実験手順を10回繰り返した。テスト溶液は、市販の点眼剤に用いられる通常のBAK濃度0.004 wt%~0.025 wt%の範囲内である、0.012 wt%のBAKを含有していた。薬剤濃度は、BAKが100%除去された場合に、測定されるUV-Visスペクトルが有意に異なるものになるように、BAK濃度に合わせて調整された。より具体的には、BAKが100%除去された場合、BAKスペクトルの最大である261 nmのUV吸光度は、約50%低下する。ラタノプロスト/BAK溶液のBAK濃度は0.003 wt%まで低減されたが、これは検出限界の範囲内である。ラタノプロストの濃度は、すべてのBAKが除去された場合に、210~220 nmの範囲におけるUV吸光度が約50%低下するように調整された。
【0047】
図7~10は、混合溶液がマクロ多孔性pHEMAゲルプラグに通された後に吸収された、BAKおよび薬剤のパーセンテージを示している。図に示されているように、混合物中の薬剤に関係なく、1回目のランにおいて、100%のBAKがヒドロゲルによって除去された。ゲルが徐々にBAKで飽和されたことにより、BAK除去パーセンテージは毎回の通過ごとに低下し、10回目の通過では除去率が70~80%まで低下した。チモロール(
図7)およびドルゾラミド(
図8)など親水性の薬剤については、薬剤の吸着パーセンテージは低く、1回目の通過後、10回目の通過まで約5%にとどまった。マクロ多孔性pHEMAヒドロゲルは、親水性薬剤の取り込みをほとんど伴わずに、優れたBAK除去効率を示した。しかし、疎水性薬剤であるラタノプロスト(
図9)およびデキサメタゾン(
図10)については、1回目のランにおける薬剤吸収パーセンテージがそれぞれ90%および65%と高かった。吸収パーセンテージは、ラタノプロストおよびデキサメタゾンについて、10回目のゲル通過までにそれぞれ30%および10%へと急速に低下した;このことから、マクロ多孔性pHEMAゲルが追加的薬剤の取り込みを伴わずにBAKを吸収できるよう、ゲルを薬剤溶液であらかじめ平衡させておいてもよいことが示唆される。
【0048】
(表2)調製した薬剤/BAK混合物の濃度および分離選択性のテストに用いたUV-Vis波長検出範囲の概要
a 溶媒としてPBSを使用
【0049】
マクロ多孔性pHEMAヒドロゲル内のマレイン酸チモロール、ドルゾラミド塩酸塩、ラタノプロスト、デキサメタゾン、およびBAKの分配係数の測定
前述のように、親水性薬剤の吸収パーセンテージが小さい一方で、疎水性薬剤はかなりの量がマクロ多孔性pHEMAゲルに取り込まれる。ゲルに対する疎水性薬剤の親和性の高さは、ゲル内における薬剤の分配係数を測定することによって決定できる。分配係数を測定するため、250 mgのマクロ多孔性pHEMAゲルの1片を、12 mLの薬剤溶液またはBAK溶液に浸漬した。溶媒としてPBSを使用した;薬剤溶液およびBAK溶液の調製濃度を後述の表3にまとめた。15日間の浸漬後、UV-Vis分光測光法を用いて薬剤溶液またはBAK溶液の濃度を測定した。浸漬後の薬剤またはBAKの濃度は、ゲル内に吸収された薬剤またはBAKの量を、初期濃度を基準として示すものであった。濃度変化から計算された分配係数を後述の表4にまとめた。マクロ多孔性pHEMAゲル内のチモロールおよびドルゾラミドの分配係数はBAKのおよそ15分の1であり、これは優れた分離効率である。対照的に、ラタノプロストおよびBAKの分配係数はかなり高く、この混合物に対するゲルの分離効率は乏しい。
【0050】
【0051】
(表4)マクロ多孔性pHEMAゲル内の薬剤およびBAKの分配係数
a n = 3 の 平均±SD
【0052】
BAK除去に関するマクロ多孔性pHEMA粒子の性能テスト
前述のように調製したマクロ多孔性pHEMAヒドロゲルを80℃のオーブン内で乾燥させ、破砕して粒子にし、その粒子をシリンジ内に詰めた。詰めた粒子が漏れ出ることを防ぐため、シリンジ底部に2片の濾紙を置いた。粒子は、点眼剤ボトルのネック部にヒドロゲルを詰めることを容易にし、この詰める工程は、ハイスループットな産業規模のゲルフィルター装填に適用しやすい。pHEMA粒子の性能を評価するため、水力学的透過率、ならびに、チモロール、ドルゾラミド、ラタノプロスト、およびデキサメタゾンからのBAKの分離選択性を、
図5に示したものと同じ実験セットアップで測定した。4つの異なる薬剤/BAK混合物の調製濃度を前述の表2にまとめた。シリンジに2.5 mLの薬剤/BAK溶液を満たし、出てきた溶液を集めるため、シリンジの下にビーカーを置いた。圧力降下を作り出して、pHEMA粒子の詰め物に溶液を通過させるため、1.28 kg(1.6 x 10
5 Pa)の重りをトレーの上に置いた。重りを置いた瞬間から最後の液滴がビーカーに入るまでの経過を、ストップウォッチを用いて時間計測した。pHEMA粒子を通った流量を計算するため、ビーカー内に集められた溶液の重さを測定した。Darcyの法則(式1)により水力学的透過率を計算し、この計算において、シリンジの断面積は0.785 cm
2、詰めたpHEMA粒子の高さは5 mmであった。薬剤/BAK溶液の濃度がかなり希薄であったことから、溶液の粘稠度は、純PBSの粘稠度(1.00 ± 0.05 cP)で近似した。集められた溶液のUVスペクトルを測定し、Kim et al., Int. J. Pharm. 2008, Apr 2;353(1-2):205-22 に説明されている最小二乗フィッティング法によって、薬剤およびBAKの個々の濃度を決定した。
【0053】
前述の表4に示されているように、BAKは、マクロ多孔性pHEMAヒドロゲル内において、およそ100という高い分配係数を有する。驚くべきことに、
図7~10に示されているように、より多くの薬剤/BAK溶液がマクロ多孔性pHEMAヒドロゲルを通過するほど、BAK除去パーセンテージは早い段階で低下した。この早期の低下が、ゲル粒子内への拡散がゆっくりであることによってゲル表面でBAKが飽和することによるものかをテストするため、実験ランを24時間間隔とし、毎日2.5 mLのみの薬剤/BAK溶液を粒子プラグに通過させて、BAKが表面からゲル粒子の内部まで拡散することを可能にした。薬剤/BAK溶液をpHEMA粒子に通過させるたびに、水力学的透過率および分離選択性を測定した。使用後の点眼剤ボトルをキャップで密閉するのと同等の様式で、毎回の測定後、詰めたpHEMA粒子の脱水を防ぐため、シリンジの底部排出口をパラフィルムで密閉した。
【0054】
図11~14は、pHEMA粒子プラグの毎回の通過後に溶液から吸収されたBAKおよび薬剤のパーセンテージを示している。
図11~14に図示されているように、溶液中の薬剤に関係なく、10回の通過すべてにおいて、含有BAKの100%近くが破砕マクロ多孔性pHEMA粒子によって除去された。したがって、通過と通過の間の24時間の時間は、表面BAK濃度の希釈を可能にする。実際的な点眼剤用途において、ゲル粒子の平衡に必要な時間は、24時間よりはるかに少ない。単独の患者によって典型的な処方様式で使用されるならば、pHEMA粒子は、典型的な点眼剤容器の内容物全体からBAKを100%除去できるべきである。
図11~14は、テストしたすべての薬剤からの、BAKの優れた分離効率を示している。ラタノプロスト/BAKおよびデキサメタゾン/BAKの選択性に用いたpHEMA粒子は、単純にラタノプロスト/PBS溶液またはデキサメタゾン/PBS溶液中にpHEMA粒子を浸漬することによって、対応する薬剤溶液であらかじめ平衡させてあった。したがって、薬剤が粒子内にあらかじめ飽和していたことによって、BAKがpHEMAヒドロゲル内に効果的に分配されても、薬剤は吸収されずに通過することができたため、ラタノプロストおよびデキサメタゾンはごく一部が吸収されたのみであった。
【0055】
破砕したマクロ多孔性pHEMA粒子の水力学的透過率が
図15にプロットされており、同図において、平均透過率は1日目の0.025 Darcy から10日目の0.004 Darcyまで大幅に低下している。これは、毎回の通過において粒子に高い圧力がかかったことによるものであり、このため粒子がより強く詰められて、溶液フローが通るためのプラグ内の容積が低下した。商業用途においては、使用に伴う水力学的透過率の低下を防ぐことが重要であり、これは、例えばゲルの架橋密度を高めるなどによって粒子の剛性を増すことによって実現できる。
【0056】
マクロ多孔性HEMA-メタクリル酸(MAA)コポリマーヒドロゲルの調製
マクロ多孔性pHEMAヒドロゲル内における疎水性薬剤の分配係数が表4のように高いことから、
図9、
図10、
図13、および
図14に示されているように、薬剤/BAK溶液のヒドロゲル通過後、ラタノプロストおよびデキサメタゾンのかなりの量が除去された。ジメチルアクリルアミド(DMA)、メタクリル酸(MAA)、または、生体適合性で含水率の高い他の任意のポリマーなど、ポリマーにコモノマーを追加することによって、ヒドロゲルの親水性含量を増やすことができ、これにより、疎水性薬剤に対するヒドロゲルの親和性が低下する可能性がある。
【0057】
マクロ多孔性HEMA-コ-MAAコポリマーヒドロゲルを調製するため、HEMA 3.2 mLと、EGDMA 0.4 mLと、MAA 0.8 mLと、塩化ナトリウム 4 mmoleと、脱イオン水 15 mLと、TPO 10 mgとをガラスバイアル内で混合し、前述のヒドロゲル形成と同じ段階を行った。次に、得られたヒドロゲルを、前述のようにシリンジ内に詰めた。分離選択性をテストするため、2.5 mLのデキサメタゾン/BAK溶液をヒドロゲルに通過させ、この通過の段階を同じヒドロゲルプラグで3回繰り返した。シリンジ内に詰めたヒドロゲルの高さは5 mmであった。デキサメタゾンおよびBAKの混合物の濃度はそれぞれ0.005 mg/mlおよび0.12 mg/mlであり、溶媒としてPBSを用いた。
図16に結果を示す。
図10に示したマクロ多孔性pHEMAヒドロゲルに対し、1回目の通過において吸収されたデキサメタゾンのパーセンテージは、65%から45%へと低下した。
【0058】
代替として、前述の手順によってマクロ多孔性pHEMAヒドロゲルを調製し、続いて、5%、2%、および1%のMAA溶液に3時間浸漬した。MAA溶液を調製するための溶媒としてDI水を用いた。熱開始剤として過硫酸カリウム 10 mgを溶液に添加した。ヒドロゲルおよび溶液を80℃のオーブン内に1晩置いた。MAA処理したpHEMAヒドロゲルをバイアルから取り出し、未反応成分を除去するため大量のDI水で洗浄した。ヒドロゲルをBAK除去フィルターとしてシリンジ内に詰め、デキサメタゾンからのBAKの分離効率をコポリマーと同じ様式でテストした。5%のMAA溶液で共重合したヒドロゲルの水力学的透過率は低すぎて、溶液がゲルを通過できなかった。1%および2%のMAA溶液から得たヒドロゲルの分離効率は同程度であった。1% MAAで処理したヒドロゲルの結果を
図17に示す。3回の連続ランにおいて100%近いBAKが除去され、一方、1回目のランで吸収されるデキサメタゾンのパーセンテージは17%まで低減した。
【0059】
EGDMAを架橋剤として用いた熱開始重合によるpHEMA粒子の調製
ガラスバイアル内で、HEMA 1.2 mLと、EGDMA 0.3 mLと、DI水 12 mLと、酸化マグネシウム 600 mgとの混合物に過酸化ベンゾイル 10 mgを添加し、900 rpm で20分間、電磁撹拌を行った。酸化マグネシウムの存在により、混合物に相分離が生じた。この系を高rpmで持続的に撹拌することにより、HEMAモノマーとEGDMAとを含有する小滴が形成された。混合物を純窒素で30分間、脱酸素化した。重合して個々のpHEMA粒子になる小滴を保持するために900 rpmで持続的に撹拌しながら、70℃の恒温槽を用いて混合物を18時間加温した。重合後、pHEMA粒子を真空濾過法によって混合溶液から分離し、未反応モノマーおよび他の不純物を除去するため大量のDI水で洗浄して、80℃のオーブン内で乾燥させた。
【0060】
合成されたpHEMA粒子のSEM画像を
図18に示す。pHEMA粒子は、しわのある「脳のような」表面を有し、サイズの範囲は10~300μmと大きい。この粒子を、
図19に示すプロトタイプボトルに詰めた。
【0061】
点眼剤ボトルのプロトタイプに詰めたBAKフィルターの水力学的透過率の測定
図19は、先端に詰めたBAK除去フィルターの水力学的透過率を測定するために用いた、点眼剤ボトルのプロトタイプの設計を示している。ボトルは、市販されている任意の点眼剤ボトルであってよい。剛性プラスチックチューブの区画が点眼剤ボトルの先端に取り付けられ、そして、漏れを防ぐため、ボトルからプラスチックチューブへの接続部が密閉された。プラスチックチューブは透明であった。BAKフィルタープラグがいずれかの方向にずれるのを防ぐため、フィルタープラグの2つの端部に2層の濾紙が置かれた。
【0062】
詰めたBAK除去フィルターの水力学的透過率を測定するため、点眼剤ボトルを上下逆さにし、指で圧搾して、点眼剤溶液をプラスチックチューブ区画内に押し出す圧力降下を作り出した。印加圧力が除去されると、溶液はボトル内に逆流した。ボトル内に戻る溶液の流量を測定することによって、Darcyの法則(式1)を用いて、BAKフィルターの水力学的透過率を計算した。フィルタープラグ全体にわたる正確な圧力降下は、以下の様式で決定された。圧搾の前後で、温度変化は無視できる程度であり、点眼剤ボトル内の気体の質量は一定に保たれるため、理想気体の法則から次式であることがわかる:
上式において、P
0 はボトルが圧搾される前の点眼剤ボトル内の圧力であり大気圧に等しく、P
f はボトルが圧搾された後のボトル内の圧力であり、V
0 はボトルが圧搾される前のボトル内の気体体積であり、そして ΔV はボトルから押し出される溶液の体積である。溶液を押し戻す圧力降下(ΔP)は次式となる:
上式において、V' は、すでにフィルターを通過しそしてボトル内に戻った溶液の体積である。V' および ΔP が時間の関数であることに注意されたい。線形オーダー解析(simple order of magnitude analysis)を行うと、溶液に対する重力の効果は圧力降下の効果より充分に小さく、ゆえに重力の影響は無視できる。したがって、Darcyの法則(式1)を次のように書き換えることができる:
上式において、k は水力学的透過率、μ は溶液の粘稠度、h はフィルタープラグの長さである。これは常微分方程式であり、V' は時間の関数として容易に解が得られる。V' が V
0 + ΔV よりはるかに小さいので、この式はさらに単純化でき、ゆえに式18は次のようになる:
初期条件は次式である:
式19および式20の解は次のとおりである:
【0063】
点眼剤ボトルSystane(登録商標)を用いた。空ボトルの重量を測定したところ、およそ5.5グラムであった。次にボトルに水を満たすと、総質量は22.5グラムであった。続いて、V0 がおよそ12 mL、ボトル内に残った水がおよそ5 mLになるように、12グラムの水をボトルから圧搾した。前述の開示のように熱開始によって調製したフィルター材料を用い、詰め物の長さは8 mmであった。プラスチックチューブの断面積は0.0314 cm2であり、水の粘稠度は20℃で約1.002 x 10-3 Pa・sである。
【0064】
点眼剤ボトルを上下逆さにして、水1.5 mL(ΔV)を圧搾した。この1.5 mLという比較的大きな体積の水は、妥当な流量で水を引き戻せるだけの十分な圧力降下をつくり出し、これによって、式18から式19への単純化を充分な正確度で行うことを可能にする。水が点眼剤ボトル内に逆流する過程を録画し、ここから、時間の関数として V' を解析した。MATLAB(登録商標)の「fminsearch」関数を用いて、前述のモデル(式21)を用いて実験データ(V' vs. t)のフィッティングを行い、水力学的透過率(k)を決定した。モデルに対するフィッティングは妥当に良好であり、その結果を
図20に示している。水力学的透過率は0.0459 Darcyと決定された。
【0065】
点眼剤ボトルのプロトタイプに統合された破砕マクロ多孔性pHEMA粒子による選択的BAK除去
前述のように破砕マクロ多孔性pHEMA粒子を調製した。粒子を点眼剤ボトルのプロトタイプに詰めて(
図19)、ラタノプロストからBAKを分離する選択性をテストした。テストのために準備したラタノプロストおよびBAKの濃度はいずれも0.03 mg/mLで、溶媒としてPBSを用いた。薬剤/BAK溶液をシリンジでプロトタイプボトルに注入した。長さ8 mmの、詰めたpHEMA粒子の全体にわたって一定の圧力降下を作り出すため、ボトルにクリップをつけた。ボトルを圧搾することにより、体積1.5 mLの薬剤/BAK溶液をフィルターに通過させた。出てきた溶液のUVスペクトルを測定し、Kim et al., Int. J. Pharm., 2008, Apr 2;353(1-2):205-22 に説明されている最小二乗フィッティング法によって、薬剤およびBAKの個々の濃度を決定した。プロトタイプボトルの先端をパラフィルムで密閉した。24時間後に、別の1.5 mLの薬剤/BAK溶液を同じフィルターを通して除去し、再度、薬剤およびBAKの濃度を測定した。この段階を計10日間にわたって10回繰り返した。
【0066】
図21に、混合溶液がpHEMA粒子を通って流れた後に吸収されたBAKおよびラタノプロストのパーセンテージを示した。吸収される薬剤の量を抑えるため、前述のように、pHEMA粒子をラタノプロストであらかじめ平衡させてあった。10回のランのすべてにおいて、含有BAKの100%近くが粒子によって除去された。
【0067】
EGDMAを架橋剤として用いたUV開始重合によって調製され点眼剤ボトルのプロトタイプに統合されたpHEMA粒子による選択的BAK除去
図15に示されているように、破砕マクロ多孔性pHEMAヒドロゲルのプラグは、水力学的透過率が非常に低い。代替として、HEMA 1.2 mLと、EGDMA 0.3 mLと、DI水 12 mLと、塩化ナトリウム 900 mgと、TPO開始剤 10 mgとをガラスバイアル内で混合し、900 rpmで20分間の電磁撹拌を行って、光化学的にpHEMA粒子を調製した。塩化ナトリウムが混合物の相分離を促進した。この系を高rpmで持続的に撹拌することにより、HEMAモノマーとEGDMAとを含有する小滴が形成された。次に、純窒素を用いて、混合物を30分間、脱酸素化した。混合物を55 x 17 mm(直径 x 高さ)のpyrex(登録商標)ペトリ皿に流し入れ、UVB-10トランスイルミネーター(ULTRA・LUM, INC, Carson, CA, USA)により、310 nmを鋭いピークとする強度16.50 mW/cm
2 のUV光を2時間照射した。UV硬化中は、小滴が離れたまま保たれ、そして重合して個々のpHEMA粒子になるよう、35 x 6 mm の電磁撹拌棒により70 rpmで混合物を持続的に撹拌した。加えて、水の蒸発と酸素化を防ぐためにペトリ皿をカバーした。重合後、pHEMA粒子を真空濾過法によって溶液から分離し、未反応モノマーおよび他の不純物を除去するため大量のDI水で洗浄した。次に、80℃のオーブン内で粒子を乾燥させた。
【0068】
合成されたpHEMA粒子のSEM画像を
図20に示す。pHEMA粒子は、サイズが10μmから大きなものでは200μmと広範囲であり、滑らかな表面を備えた球形である。合成された粒子をプロトタイプボトルに詰め、チモロールからBAKを分離する選択性をテストした。粒子を詰めたプラグの長さは8 mmであった。テストのために準備したチモロールおよびBAKの濃度はそれぞれ0.01 mg/mLおよび0.12 mg/mLで、溶媒としてPBSを用いた。薬剤/BAK溶液をシリンジでプロトタイプボトルに注入した。一定の圧力降下を与えるため、ボトルにクリップを適用した。ボトルを圧搾することにより、1.5 mLの薬剤/BAK溶液アリコットをフィルターに通過させた。出てきた溶液のUVスペクトルを測定し、Kim et al., Int. J. Pharm., 2008, Apr 2;353(1-2):205-22 に説明されている最小二乗フィッティング法によって、薬剤およびBAKの濃度を決定した。プラグを通して5つのサンプルを連続的に取り出した。
【0069】
図23に、各アリコットをpHEMA粒子に通過させた後に混合物からフィルター内に吸収された、BAKおよびチモロールのパーセンテージを示した。1回目の通過においてBAKのおよそ50%がpHEMA粒子によって除去されたが、5回目のランで除去されたのはわずか30%であった。5回の各ランにおいて、pHEMA粒子によって除去されたチモロールは約1.5%のみであった。
【0070】
熱開始重合によってBAK除去フィルターとして調製され点眼剤ボトルのプロトタイプに統合されたpHEMA粒子の性能テスト
図24は、
図18に示した熱重合pHEMA粒子に混合溶液を通過させた後に吸収されたBAKおよびチモロールのパーセンテージを示している。
図24に示されているように、連続的に行われた10回の各通過において、100%近いBAKが粒子によって除去された。1回目のランにおいて約17%のチモロールが除去されたが、10回目のランでは除去量が約3%まで低下した。前述のように測定された、詰めた粒子の水力学的透過率は0.0459 Darcyであった。粒径がより大きいことにより、マクロ多孔性pHEMAヒドロゲルの破砕によって調製された粒子と比べて、水力学的透過率が大幅に向上した。UV開始重合または熱開始重合によって調製された粒子のサイズは同程度であった。しかし、
図22に示したような、UV開始重合によて調製された表面の滑らかな粒子とは対照的に、熱開始重合法では、
図18に示したような、しわのある「脳のような」構造が生成され、この構造はBAKを吸収するための大きな表面積を提供して、BAK除去効率を大きく高めることを可能にする。チモロールからBAKを分離する選択性をテストした。テストのために準備したチモロールおよびBAKの濃度はそれぞれ0.01 mg/mLおよび0.12 mg/mLで、溶媒としてPBSを用いた。薬剤/BAK溶液をシリンジでプロトタイプボトルに注入した。高さ8 mmの詰め物全体にわたって一定の圧力降下を作り出すため、ボトルにクリップをつけた。ボトルを圧搾することにより、1.5 mLの薬剤/BAK溶液をフィルターに通過させた。出てきた溶液のUVスペクトルを測定し、Kim et al., Int. J. Pharm., 2008, Apr 2;353(1-2):205-22 に説明されている最小二乗フィッティング法によって、薬剤およびBAKの個々の濃度を決定した。同じフィルターサンプルについて、この段階を待つことなく直ちに10回繰り返した。
【0071】
エトキシ化トリメチロールプロパントリアクリレートを架橋剤として用いることによって調製したpHEMA粒子の性能テスト
より剛性でかつサイズの大きい粒子は、流体が流れるためのより大きい空隙を作り出し、水力学的透過率も向上する。粒子が著しく水和している場合は、水和の程度に応じて、空隙容量および水力学的透過率が著しく変化する。このことは望ましくなく、なぜならば、プラグは、最初の液滴の滴下時は乾燥しているが、以降の滴下においては、連続する滴下と滴下との間の時間に流体を保持するか否かによって、部分的または完全に水和する可能性があるからである。エトキシ化トリメチロールプロパントリアクリレート(SR454HPまたはSR9035)を、架橋剤としてpHEMA粒子の調合物に添加した。HEMA 1.4 mLと、エトキシ化トリメチロールプロパントリアクリレート 0.1 mLと、DI水 12 mLと、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン 10μLとをガラスバイアル内で混合し、900 rpmで20分間の電磁撹拌を行って、光化学的にpHEMA粒子を調製した。純窒素を用いて、混合物を30分間、脱酸素化した。混合物を55 x 17 mm(直径 x 高さ)のpyrex(登録商標)ペトリ皿に流し入れ、UVB-10トランスイルミネーターにより、310 nmを鋭いピークとする強度16.50 mW/cm2 のUV光を2時間照射した。UV硬化中は、35 x 6 mm の電磁撹拌棒により70 rpmで混合物を持続的に撹拌した。加えて、水の蒸発と酸素化を防ぐためにペトリ皿をカバーした。重合後、pHEMAゲルを真空濾過法によって溶液から分離し、未反応モノマーおよび他の不純物を除去するため大量のDI水で洗浄した。次に、pHEMAゲルを80℃のオーブン内で乾燥させ、乳鉢内で破砕して粒子にした。
【0072】
合成されたpHEMA粒子のSEM画像を
図25に示す。pHEMA粒子は、サイズが30μmから大きなものでは900μmと広範囲であり、非常に不規則な形状である。合成された粒子をプロトタイプボトルに詰め、前述のように水力学的透過率をテストした。粒子を詰めたプラグの長さは1.8 cmであった。架橋剤としてSR454HPを用いて調製した乾燥粒子について測定された水力学的透過率は4.95 ± 0.91 Da (n = 3)で、水和した粒子の水力学的透過率は2.34 ± 0.39 Da (n = 3)まで低下した。架橋剤としてSR9035を用いて調製した乾燥粒子について測定された水力学的透過率は4.10 ± 0.26 Da (n = 3)で、水和した粒子の水力学的透過率は1.22 ± 0.33 Da (n = 3)まで低下した。前述のように他の調合物によって調製した粒子と比較して、水力学的透過率が25倍以上に著しく増大し、したがってこの粒子は、カルボキシメチルセルロース(CMC)の潤滑用点眼剤など、高粘度の調合物からBAKを除去するのに好適である。透過性の高さは、大きなサイズおよび不規則な形状から生じている可能性が高い。鋭い縁部を伴う不規則な形状は、印加された圧力が取り除かれた後、流体がプラグから容器内に流れ戻るのを防ぐことができ、したがってプラグを水和状態に保つことができる。ボトルからの蒸発を最少にすることは重要である。水の蒸発が重大である場合は、追加的なバリアとして、BAK除去粒子の最上部に疎水性粒子の層が置かれてもよい。
【0073】
架橋剤としてSR9035を用いて調製したpHEMA粒子内のチモロール、CMC、およびBAKの分配係数を測定した。濃度がそれぞれ0.08 mg/mL、0.5%、および2.4 mg/mLである、3.5 mLのチモロール、CMC、およびBAK溶液に、pHEMA粒子(100 mg)を浸漬した。9日間の浸漬後、UV-Vis分光測光法を用いて薬剤溶液またはBAK溶液の濃度を測定した。浸漬後の薬剤またはBAKの濃度は、ゲル内に吸収された薬剤またはBAKの量を、初期濃度を基準として示すものであった。濃度変化から計算された分配係数を後述の表5にまとめた。pHEMA粒子内のチモロールおよびCMCの分配係数はBAKのそれよりはるかに小さく、優れた分離効率であると考えられる。
【0074】
(表5)架橋剤としてSR9035を用いて調製したpHEMA粒子内の薬剤およびBAKの分配係数
a n = 3 の 平均±SD
【0075】
チモロールからBAKを分離する選択性を測定した。チモロールおよびBAKの濃度はそれぞれ0.01 mg/mLおよび0.12 mg/mLで、溶媒としてPBSを用いた。プラグを通る流量を一定に保つため、詰めた粒子の全体にわたって一定の圧力降下を印加した。ボトルを圧搾することにより、1.5 mLの薬剤/BAK溶液アリコットをフィルターに通過させた。出てきた溶液のUVスペクトルを測定し、Kim et al., Int. J. Pharm., 2008, Apr 2;353(1-2):205-22 に説明されている最小二乗フィッティング法によって、薬剤およびBAKの濃度を決定した。プロトタイプボトルの先端をパラフィルムで密閉した。24時間後に、別の1.5 mLの薬剤/BAK溶液を同じフィルターを通して除去し、再度、薬剤およびBAKの濃度を測定した。この段階を計10日間にわたって10回繰り返した。
【0076】
図26および
図27に、架橋剤としてそれぞれSR454HPおよびSR9035を用いて調製したpHEMA粒子に各アリコットを通過させた後に混合物からフィルター内に吸収された、BAKおよびチモロールのパーセンテージを示した。
図26において、最初の3~5回目のランにおいては100%近いBAKが粒子によって除去されたが、5回目のランより後は約90%まで低下した。チモロールは1回目のランにおいて約18%が除去されたが、10回目のランでは無視できる程度の除去量となった。
図27において、架橋剤としてSR9035を用いて調製したpHEMA粒子は、それよりやや良好なBAK除去能力を示し、最初の6回のランにおいて100%近いBAKが粒子によって除去されたが、10回目のランでは約95%まで低下した。チモロールは1回目のランにおいて約25%が除去されたが、5回目のランより後は、無視できる程度の除去量となった。
【0077】
BAKまたは代替的な保存剤によるフィルターのプレローディング
眼科用の調製物および吐出器具(dispenser)に関する米国連邦規則 Title 21, Volume 4(21CFR200.50)、section 200.50によれば、「眼の清浄用の調製物を含めて、眼科使用向けに提供または意図されるすべての調製物は、無菌であるべきである。そのような調製物が、眼内における安全な使用に適するような純度および質であることを趣旨とすることは、さらに明白である」とされている。
【0078】
点眼剤の滴下後、点眼剤ボトルに印加されていた圧力が除去されると、先端に残った液体はボトル内に引き戻される。この液滴は細菌を運ぶ可能性がある。通常の点眼剤ボトルにおいて、細菌が溶液に入ると、BAKが細菌の増殖を防いで溶液を保存状態に保つ。プラグを備えたボトルにおいては、細菌がプラグ内に捕捉され、そこで増殖する可能性がある。この可能性を防ぐため、プラグは無菌環境でなければならない。無菌環境を実現するため、プラグを組み付ける前にプラグ構成材料をBAK溶液に浸漬するか、または、組み付け後に特定の体積のBAK溶液をプラグを通して溶出させることによって、プラグにBAKを組み入れた。BAKは保存剤であるが、驚くべきことに、BAKをローディングしたpHEMAプラグは、BAKがプラグの空隙内ではなくポリマーマトリックス内に吸着されていても、無菌環境を提供する。
【0079】
無菌性が維持されるかを決定するため、pHEMA粒子内へのBAKのプレローディングの効果を調べた。熱開始重合により調製したpHEMA粒子にBAKをプレローディングし、点眼剤プロトタイプに統合されたこれら粒子のプラグを、約10
7 cfu/mLの大腸菌(E. coli、Stratagene, Santa Clara, CAから入手したXL1-Blue株)を含んだPBSで満たした。BAKプレロード環境下で大腸菌が生存、増殖、または減少したかを見るため、プラグを37℃で24時間インキュベーションした。約80 mgのpHEMA粒子を166μg/mLのBAK/PBS溶液に7日間浸漬することによって、BAKによる粒子のプレローディングを行った。熱開始重合によって調製したpHEMA粒子内のBAKの分配係数が約200~250であること、および、粒子の濃度が約1.2 g/mLであることに基づくと、粒子に約1 mgのBAKがローディングされ、すなわち濃度は、大多数の調合物において0.004~0.0025%であるのに対し、約1.25%であった。高い分配係数は、BAKが眼内に溶出することによる毒性のリスクを伴うことなく、材料内への大量のBAKの取り込みを可能にする。代替として、この濃度は、0.12 mg/mLのBAK溶液をpHEMAプラグに8 mL(典型的な点眼剤ボトルの半量)通過させることによっても実現される。BAKをプレローディングした粒子を、次に、詰め物の長さが8 mmになるよう、
図19に示したデバイスのようにプロトタイプボトルに詰めた。その点眼剤ボトルに、大腸菌10
7 cfu/mLを含有するPBS溶液を満たした。3滴の大腸菌含有溶液を圧搾して粒子の詰め物を通過させた後、粒子の詰め物を含む先端を、溶液がプラグ内に保持されるように、ボトルから取り外した。この先端を37℃で24時間インキュベーションした。24時間のインキュベーション後、その先端を、新鮮なPBS溶液を含有する別の清潔な点眼剤ボトルに取り付けた。プラグ内に存在する溶液を洗い流すため、3滴の新鮮PBS溶液を押し出して粒子の詰め物に通過させた。液滴中の大腸菌の濃度を決定するため、インキュベーションの前後に作った3滴の液滴をいずれも回収して、必要に応じて適切に希釈した。液滴を寒天上で平板培養し、そして寒天平板上のコロニー数を数えることによって、濃度を決定した。対照として、BAKをプレローディングしていない純粋なpHEMA粒子についても同じ実験手順を繰り返した。
【0080】
後述の表6に滅菌テストの結果をまとめた。溶液中の大腸菌の初期濃度は約107 cfu/mLであった。大腸菌がフィルタープラグ内に捕捉されることがないよう、pHEMAプラグを通して圧搾された3滴の液滴内の大腸菌濃度を測定した。プラグ通過後の大腸菌の濃度は初期濃度と同じオーダーであり、このことは、数ミクロンという細孔サイズが細菌を捕捉できなかったことを示している。プラグ内に残った溶液を24時間インキュベーションし、3滴の新鮮PBSでプラグを洗浄した。プラグから洗い流された溶液を回収し、その大腸菌濃度を決定した。この濃度はプラグ内に残った大腸菌の実際の濃度を表しているわけではないが、表6に示されているように、BAKをプレローディングしていない場合、洗い流された溶液の大腸菌濃度は13.30 x 106 cfu/mLと高かった。プラグ内の空間は約20μLであったが、1滴の新鮮PBSは約30μLであり、ゆえに3滴の新鮮PBSはかなりの希釈をもたらすので、プラグ内に残った溶液の実際の濃度は4~5倍高い可能性がある。この結果は、BAKをプレローディングしていないpHEMA粒子ではプラグ内で微生物が増殖できることを示している。一方、粒子が充分なBAKでプレローディングされている場合は、大多数の大腸菌がフィルタープラグ内で生存できず、濃度は検出不可能となった。米国連邦規則は、眼科用保存剤が7日目および14日目にそれぞれ1.0および3.0の対数減少を実現すること、ならびに、14~28日目に生存菌の増加がないこと、および、真菌については106コロニー形成単位(cfu)/mLの接種後0~28日目に生存菌の増加がないことを求めている。BAKをローディングしたプラグは規制要件よりはるかに良好な性能を示し、このことは、プラグ内のBAKの初期濃度がより低くても無菌性を実現できることを示唆している。点眼剤を滴下するたびにプラグ内のBAK濃度は上昇し、これは無菌性の程度を向上させると考えられる。
【0081】
本発明の代替の態様において、追加的な保存剤をフィルタープラグにローディングしてもよい。第二の保存剤は、眼適合性であり;BAKより分子量が大きく;かつ、BAKと比較してフィルター材料に対する親和性が低いものであるように選択される。この保存剤をフィルターにローディングした場合、分子量がより大きいことは、点眼剤の滴下中にその保存剤が拡散することを妨げる。しかしその保存剤は、点眼剤が滴下された後、フィルター内に残った液体中に、ごく少量ずつである可能性はあるがゆっくり拡散して、液体を無菌状態にすると考えられる。拡散した少量の保存剤は、点眼剤投与の次のサイクルにおいて、結局は眼内に滴下されるが、この量は、先端フィルターの体積を最小にすることによって、最少化できる。フィルターの体積は10~300マイクロリットルである。
【0082】
無菌プラグは、保存剤除去に加えて、他の目的に用いられてもよい。例えば、酸素スカベンジング材料を含んでいる場合は、容器内への酸素の進入を最少化するのに有用である可能性がある。これにより、容易に酸化する調合物を保護できる。酸素スカベンジング材料は、酸素をスカベンジする粒子を、プラグを構成する無菌の粒子とともに組み込むことによってプラグに統合されてもよく、または、酸素スカベンジャーが、無菌性付与材料および/もしくはBAK隔離材料の上もしくは下にある別個の層であってもよい。酸素スカベンジング材料は、塩化ナトリウムもしくは他のハロゲン化金属と組み合わされた炭酸鉄もしくは炭酸鉄(II)、アスコルビン酸塩、炭酸水素ナトリウム、または他のスカベンジャーを含んでいてもよく、それらはプラグ材料の中にあってもよく、または別の高分子マトリックスに含まれていてもよい。無菌プラグは、調合物に保存剤を含むことなく、調合物の無菌性を保つために用いられてもよい。プラグを通って入って来た汚染物は、プラグの細孔内に捕捉され、そして、プラグにローディングされた保存剤によって殺される。プラグに入った微生物が保持されることをさらに確実にするため、プラグは、弁を含めることによって、あるいは、メニスカスを横切るYoung Laplace圧力が本質的に表面張力による密閉を作り出して容器内の真空を支持するように細孔サイズを決定することによって、流体が容器内に流れ戻るのを防ぐように設計されていてもよい。あるいは、粗い粒子が接触線をピンニングすることによって、プラグ内に液体を捕捉してもよい。細孔サイズがさまざまである材料を用いると、最も大きい細孔から速やかに排液が生じることが可能となり、これにより圧力を平衡する空気チャネルが作り出されて、さらなる排液が防がれる。例として、
図25に示した粒子を詰めたプラグは、点眼剤ボトルに対する圧力が解放された後でも、水で完全に満たされた状態を保つ。連続した滴下と滴下との間にプラグ内に流体が保持されていると、ポリマーにゆっくり吸着する保存剤または他の成分を隔離することができる。プラグが常に流体で満たされたままである場合、デバイスから圧搾される液滴は、数時間~1日という時間にわたってプラグ材料に接触していた状態となり、これに比べて、容器内への流れ戻りによって、合間の時間にプラグが乾いていた場合、接触時間は数秒である。
【0083】
(表6)コロニー計数によって決定された大腸菌濃度
a 粒子内のBAKローディング濃度は、調合物内が0.004~0.025%であるのに対し、約12.35μg/mg = 1.23% (w/w) である。
【0084】
ボトル内への一方向弁の組み込み
ボトルが、液体と接触しているプラグを有する場合は、保存剤の緩徐な取り込みが生じる。典型的には、拡散距離が長いため、BAKがフィルターに吸収されるには数か月を要する。臨界圧を上回ったときにのみフローが生じうるように、ボトル内のフィルタープラグの直前に弁もまた置かれていてもよい。液滴を吐出するための圧力が除去されたときに空気が含まれることを可能にするため、ボトルの側方に弁が組み込まれていてもよい。この弁は、流体の流れ戻りではなく、空気の流入による圧力平衡を可能にする。
【0085】
ボトル内におけるBAKの希釈
点眼剤の滴下後、点眼剤ボトルに印加されていた圧力が除去されると、プラグ内に残った液体は、ボトル内に作り出された真空のために吸い戻される可能性がある。この液体はBAKを含んでおらず、ゆえにボトル内に流れ戻るとBAK濃度を希釈させる。この効果は、ボトル内に残った液体がわずか数滴のみとなる最後に向けて、特に著しくなる。この希釈効果は、空隙容量が非常に小さいプラグを用いることによって最小にすることができる。体積が点眼剤の3倍より小さく、最も好ましくは1滴の点眼剤より小さいプラグは有利である。BAK非含有溶液がボトルに流れ戻るのを防ぐため、弁を用いるか、または、水は引き入れることができないが空気は引き入れることができるようにプラグ内に疎水性チャネルを作ることによって、流体が流れ戻る駆動力を緩和する。用いられるBAK濃度が高いほど、ボトル内に引き戻された溶液による希釈を補う必要は少なくなる。最後に、これらの設計特徴のすべてを用いても、著しい希釈を充分に防げない場合、設計の1つの追加的態様は、保存剤濃度を比較的不変に保つためのリザーバとして機能できるように、保存剤をローディングした膜を点眼剤ボトル内に置くことである。膜はHEMAから作られてもよく、そして、ボトル内の調合物と同じ濃度のBAKであらかじめ平衡されていてもよい。膜の好ましい位置は、調合物との充分な接触を可能にするため、容器の底部であるが、例えば調合物に添加される大きな粒子など、他の形状が用いられてもよい。フィルムの好ましい体積は、点眼剤調合物の開始体積の約1~5%であると考えられる。300という分配係数に基づくと、1~5%という体積分率は、調合物中のBAKの3~15倍の量をフィルムが含有すること意味しており、これにより、保存剤が希釈する可能性に対して保護する強力な緩衝効果を提供する。
【0086】
本明細書において参照または引用されているすべての特許、特許出願、特許仮出願、および刊行物は、すべての図および表を含めて、本明細書の明示的教示と矛盾しない限り、その全部が参照により組み入れられる。
【0087】
本明細書に説明されている実施例および態様は例示のみを目的としたものであること、ならびに、それらに鑑みた種々の修正または変更が当業者には示唆されると考えられ、そのような修正または変更は本出願の精神および範囲に含まれるものであることが、理解されるべきである。
【手続補正書】
【提出日】2024-01-04
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
本明細書および/または図面に記載の発明。