(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024019278
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】異常診断装置および異常診断方法
(51)【国際特許分類】
G01R 31/34 20200101AFI20240201BHJP
G01R 31/00 20060101ALI20240201BHJP
G01M 99/00 20110101ALI20240201BHJP
【FI】
G01R31/34 A
G01R31/00
G01M99/00 A
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023204040
(22)【出願日】2023-12-01
(62)【分割の表示】P 2019217193の分割
【原出願日】2019-11-29
(31)【優先権主張番号】P 2019048914
(32)【優先日】2019-03-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002945
【氏名又は名称】オムロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100189555
【弁理士】
【氏名又は名称】徳山 英浩
(72)【発明者】
【氏名】松本 徹
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 高洋
(72)【発明者】
【氏名】山田 智浩
(72)【発明者】
【氏名】横田 晃司
(72)【発明者】
【氏名】高谷 玲平
(72)【発明者】
【氏名】竹内 豪
(72)【発明者】
【氏名】池内 涼
(57)【要約】
【課題】多くのパラメータの設定を行うことなく、モータの異常診断が可能な異常診断装置を提供すること。
【解決手段】異常診断装置40は、モータ20の負荷電流を測定する電流測定部410と、負荷電流を周波数解析する周波数解析部411と、予め設定された周波数範囲で、上位から予め設定された数の強度値を合算して劣化度を算出する劣化度算出部412とを備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータの負荷電流を測定する電流測定部と、
前記負荷電流を周波数解析する周波数解析部と、
予め設定された周波数範囲で、上位から予め設定された数の強度値を合算して劣化度を算出する劣化度算出部と、を備える、
ことを特徴とする異常診断装置。
【請求項2】
前記劣化度算出部は、一定レベル以上の強度値について、上位から予め設定された数の強度値を合算して劣化度を算出する、
ことを特徴とする請求項1に記載の異常診断装置。
【請求項3】
前記劣化度算出部は、上位から6個ないし20個の強度値を合算して劣化度を算出する、
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の異常診断装置。
【請求項4】
前記劣化度算出部は、好ましくは、上位から10個の強度値を合算して劣化度を算出する、
ことを特徴とする請求項3に記載の異常診断装置。
【請求項5】
前記周波数解析部は、0.25Hzの分解能で周波数解析し、
前記劣化度算出部は、0Hz~2次高調波の周波数範囲で、前記劣化度を算出する、
ことを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の異常診断装置。
【請求項6】
前記周波数解析部は、0.25Hzの分解能で周波数解析し、
前記劣化度算出部は、基本周波数±15Hzの周波数範囲で、前記劣化度を算出する、
ことを特徴とする請求項1に記載の異常診断装置。
【請求項7】
前記劣化度算出部は、好ましくは、上位から60個の強度値を合算して劣化度を算出する、
ことを特徴とする請求項6に記載の異常診断装置。
【請求項8】
前記周波数解析部は、0.25Hzの分解能で周波数解析し、
前記劣化度算出部は、2次高調波~20次高調波の周波数範囲で、前記劣化度を算出する、
ことを特徴とする請求項1に記載の異常診断装置。
【請求項9】
前記劣化度算出部は、好ましくは、上位から4000個の強度値を合算して劣化度を算出する、
ことを特徴とする請求項8に記載の異常診断装置。
【請求項10】
前記劣化度算出部は、基本周波数と高調波における強度値を、前記劣化度の算出から除外する、
ことを特徴とする請求項1ないし請求項9のいずれか1項に記載の異常診断装置。
【請求項11】
閾値を入力する入力部と、
前記閾値と前記劣化度と比較して、前記モータが劣化したか否かを判定する異常判定部と、を備える、
ことを特徴とする請求項1ないし請求項10のいずれか1項に記載の異常診断装置。
【請求項12】
モータの負荷電流を測定する電流測定部と、
前記負荷電流を周波数解析する周波数解析部と、
予め設定された周波数範囲で、一定レベル以上の強度値を合算して劣化度を算出する劣化度算出部と、を備える、
ことを特徴とする異常診断装置。
【請求項13】
前記周波数解析部は、0.25Hzの分解能で周波数解析し、
前記劣化度算出部は、0Hz~2次高調波の周波数範囲で、前記劣化度を算出する、
ことを特徴とする請求項12に記載の異常診断装置。
【請求項14】
電流測定部により、モータの負荷電流を測定するステップと、
周波数解析部により、前記負荷電流を周波数解析するステップと、
劣化度算出部により、予め設定された周波数範囲で、上位から予め設定された数の強度値を合算して劣化度を算出するステップと、を備える、
ことを特徴とする異常診断方法。
【請求項15】
電流測定部により、モータの負荷電流を測定するステップと、
周波数解析部により、前記負荷電流を周波数解析するステップと、
劣化度算出部により、予め設定された周波数範囲で、一定レベル以上の強度値を合算して劣化度を算出するステップと、を備える、
ことを特徴とする異常診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、異常診断装置および異常診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、負荷アンバランスの生じたモータにおける異常を診断は、モータの駆動電流のFFT波形を解析し、異常により変動する側帯波を検出することにより行っている。
【0003】
例えば、特許文献1では、電源周波数レベルと、モータの回転周波数の側波レベルの差異を算出することにより、モータの異常診断を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の方法では、異常が現れる周波数帯の特定に必要なパラメータが多く、設定に手間がかかる。例えば、モータの回転周波数を算出する際には、モータの駆動周波数、モータの極数、および、すべり等、多くのパラメータを設定する必要があった。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、多くのパラメータの設定を行うことなく、モータの異常診断が可能な異常診断装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明における異常診断装置の一態様は、
モータの負荷電流を測定する電流測定部と、
前記負荷電流を周波数解析する周波数解析部と、
予め設定された周波数範囲で、上位から予め設定された数の強度値を合算して劣化度を算出する劣化度算出部と、を備える。
【0008】
また、本発明における異常診断方法の一態様は、
電流測定部により、モータの負荷電流を測定するステップと、
周波数解析部により、前記負荷電流を周波数解析するステップと、
劣化度算出部により、予め設定された周波数範囲で、上位から予め設定された数の強度値を合算して劣化度を算出するステップと、を備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、多くのパラメータの設定を行うことなく、モータの異常診断が可能な異常診断装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明に係る一実施形態の異常診断システムの概略構成を示す図である。
【
図2】異常診断装置のハードウェア構成を示すブロック図である。
【
図3】(A)は、負荷アンバランスの生じたモータにおける駆動電流のFFT波形の元波形の一例を示す図であり、(B)は、(A)のFFT波形からDC成分と高調波を除去した後の波形の一例を示す図である。
【
図4】異常診断装置による劣化度算出処理を示すフローチャートである。
【
図5】モータが正常の場合と、アンバランスによる異常が生じた場合の負荷電流を示す図である。
【
図6】モータが正常の場合と、キャビテーションによる異常が生じた場合の負荷電流を示す図である。
【
図7】モータが正常の場合と、軸受劣化による異常が生じた場合の負荷電流を示す図である。
【
図8】検出したい信号に、インバータ駆動の影響によるノイズ、および他の要因で生じた微小ノイズが生じている状態を示す図である。
【
図9】第2実施形態の異常診断装置による劣化度算出処理を示すフローチャートである。
【
図10】モータが正常の場合と、アンバランスによる異常が生じた場合の負荷電流を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、この発明の実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
(第1実施形態)
まず、この発明の第1実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本実施形態に係る異常診断システム100の概略構成を示す図である。
図1に示すように、異常診断システム100は、電流センサ30と、異常診断装置40と、専用ツール50とを備えている。異常診断システム100は、インバータ10に接続されたモータ20の異常を診断するシステムである。
【0012】
インバータ10は、三相電源に接続され、三相交流を直流に変換するAC-DCコンバータと、DC-ACインバータとを組み合わせ、三相交流を任意の周波数と電圧に変換する。インバータ10を用いることにより、モータ20のロータの回転位置に合わせて駆動電流の位相と周波数を変化させることで、高い駆動効率と振動が少ない滑らかな回転を低速から高速まで実現することができる。なお、インバータ10は必須の構成要素ではなく、インバータ10を備えていない構成であっても、本実施形態の異常診断システム100を実現可能である。
【0013】
モータ20は、三相モータであり、インバータ10からの三相交流によって駆動される。モータ20は、図示を省略する固定子と回転子を含む。回転子は、軸受によって支持された回転軸を回転させる。
【0014】
電流センサ30は、モータ20の負荷電流を測定するセンサである。電流センサ30は、異常診断装置40に接続されており、電流センサ30によって測定されたモータ20の負荷電流は、異常診断装置40に入力される。
【0015】
異常診断装置40は、モータ20の負荷電流を測定する電流測定部と、負荷電流を周波数解析する周波数解析部と、予め設定された周波数範囲で、上位から予め設定された数の強度値を合算して劣化度を算出する異常判定部とを備える。異常診断装置40の詳細については後述する。
【0016】
専用ツール50は、異常診断装置40にLAN等により接続される機器であり、例えば、パーソナルコンピュータ等から構成される。専用ツール50を異常診断装置40に接続することで、モータ20の状態を監視することが可能になる。なお、専用ツール50は、必須の構成要素ではなく、専用ツール50を備えていない構成であっても、本実施形態の異常診断システム100を実現可能である。
【0017】
図2に異常診断装置40のハードウェア構成を示す。
図2に示すように、異常診断装置40は、演算部41と、EIPポート42と、表示部43と、出力接点44と、電源回路45とを備える。
【0018】
演算部41は、AD変換部410、FFT解析部411、劣化度算出部412、および異常判定部413の機能を備えている。AD変換部410は、電流センサ30によって検出したモータ20の負荷電流をAD変換する電流測定部として機能する。FFT解析部411は、負荷電流を周波数解析する周波数解析部として機能する。劣化度算出部412は、予め設定された周波数範囲で、上位から予め設定された数の強度値を合算して劣化度を算出する。異常判定部413は、閾値を入力する入力部としての機能と、入力された閾値と劣化度と比較して、モータ20が劣化したか否かを判定する異常判定部との機能を備えている。閾値は、例えば、専用ツール50から入力される。
【0019】
EIPポート42は、EtherNet/IPのネットワークプロトコルにより、異常診断装置40と専用ツール50との通信を可能とするためのポートである。
【0020】
表示部43は、例えば、電子ペーパー等から構成され、異常診断装置40により算出した劣化度等を表示する。
【0021】
出力接点44は、異常診断装置40の出力を外部の機器に伝達するための接点である。
【0022】
電源回路45は、外部の電源と接続され、異常診断装置40の各部の動作に必要な電源を供給する回路である。
【0023】
(異常診断の手法)
図3(A)は、負荷アンバランスの生じたモータにおける駆動電流のFFT波形の元波形の一例を示す図であり、
図3(B)は、(A)のFFT波形からDC成分と高調波を除去した後の波形の一例を示す図である。
【0024】
本実施形態においては、モータ20の駆動電流のFFT波形から、モータ20の異常に起因しない変動があるDC成分と高調波を除去し、予め設定した個数のデータを合算する。これにより、側帯波の特定に必要な設定の手間を省き、モータ20の劣化および故障を特定できる。
【0025】
例えば、
図3(A)に示すような負荷アンバランスの生じたモータ20の駆動電流のFFT波形では、DC成分と高調波の変動が大きいため、振幅を合算するとモータ20の異常以外の要因で合算した値が変動する。したがって、従来は、電源周波数に回転周波数を加算した周波数、および、電源周波数から回転周波数を減算した周波数を特定する等の工程が必要だった。
【0026】
しかしながら、本実施形態では、
図3(B)に示すように、DC成分と高調波を除くことで、モータ20の異常に起因する周波数成分(=電源周波数±回転周波数)の変化が顕著になり、振幅を合算するだけでモータ20の異常を数値化できる。
【0027】
(異常診断の処理)
図4に、本実施形態の異常診断装置40による劣化度算出処理を示すフローチャートである。まず、異常診断装置40のAD変換部410は、電流センサ30により、モータ20の負荷電流を取得する(
図4:S1)。
【0028】
次に、異常診断装置40のFFT解析部411は、離散フーリエ変換により負荷電流を周波数解析する(
図4:S2)。
【0029】
次に、異常診断装置40の劣化度算出部412は、電流データから基本波と高調波をカットする(
図4:S3)。
【0030】
次に、異常診断装置40の劣化度算出部412は、上位から予め設定された数の強度値を合算して、劣化度を算出する(
図4:S4)。具体的には、劣化度算出部412は、例えば上位10個のノイズの強度値を合算し、この合算した強度値を、全ての信号値によって除算して、感度を調整する係数を乗算することにより、劣化度を算出する。劣化度の算出式を(数1)に示す。
【0031】
(数1)
上記式において、Nは合算するデータの個数を示し、Aは感度を調整する係数を示す。
【0032】
この後、異常診断装置40の異常判定部413により、閾値と算出した劣化度とを比較することにより、異常判定を行うようにしてもよい。
【0033】
(劣化度の算出処理)
次に、本実施形態における劣化度の算出処理について説明する。以下の例では、モータ20の極数は4極であり、60Hzの電源周波数を直入駆動した。
【0034】
モータ20の異常は、故障モードによって現れ方が異なる。そこで、本実施形態においては、劣化度の算出処理方法を、故障モードに合わせた3つ備えている。
【0035】
第1の故障モードは、アンバランス、ミスアライメント、あるいは回転子バーの折損による故障モードである。第2の故障モードは、キャビテーションによる故障モードである。第3の故障モードは、軸受劣化による故障モードである。以下、それぞれの故障モードにおける劣化度の算出処理について説明する。
【0036】
(第1の故障モード)
一例として、アンバランスによる故障モードの場合における劣化度の算出処理について説明する。
図5は、モータ20が正常の場合と、アンバランスによる異常が生じた場合の負荷電流を示す図である。
【0037】
この例では、FFT解析部411によって0.25Hzの分解能でFFTし、0Hz~2次高調波の周波数範囲(0Hz~120Hz)において、上位から10個の強度値を合算して、次式により劣化度を算出した。
【0038】
【0039】
但し、上位10個というのは一例であり、6個~20個の強度値を合算すればよい。
【0040】
図5から分かるように、この場合には、基本周波数±回転周波数の強度値が上昇し、この例の条件では、異常の場合には、30Hzと90Hzの強度値が上昇する。また、この場合には、正常の場合の劣化度は13であり、異常の場合の劣化度は22であった。したがって、閾値を20とすることにより、異常判定部413により異常を判定可能である。
【0041】
(第2の故障モード)
一例として、キャビテーションによる故障モードの場合における劣化度の算出処理について説明する。
図6は、モータ20が正常の場合と、キャビテーションによる異常が生じた場合の負荷電流を示す図である。
【0042】
この例では、FFT解析部411によって0.25Hzの分解能でFFTし、基本周波数±15Hzの周波数範囲において、上位から60個の強度値を合算して、次式により劣化度を算出した。
【0043】
【0044】
但し、上位60個というのは一例であり、適宜個数を変更して強度値を合算すればよい。
【0045】
図6から分かるように、この場合には、基本周波数±15Hz以内の強度値が上昇し、異常の場合には、45Hz~75Hzの強度値が上昇する。また、この場合には、正常の場合の劣化度は13であり、異常の場合の劣化度は30であった。したがって、閾値を20とすることにより、異常判定部413により異常を判定可能である。
【0046】
(第3の故障モード)
一例として、軸受劣化による故障モードの場合における劣化度の算出処理について説明する。
図7は、モータ20が正常の場合と、軸受劣化による異常が生じた場合の負荷電流を示す図である。
【0047】
この例では、FFT解析部411によって0.25Hzの分解能でFFTし、2次高調波~20次高調波の周波数範囲(120Hz~1200Hz)において、上位から4000個の強度値を合算して、次式により劣化度を算出した。
【0048】
【0049】
但し、上位4000個というのは一例であり、適宜個数を変更して強度値を合算すればよい。
【0050】
図7から分かるように、この場合には、2次高調波~20次高調波の強度値が上昇し、この例の条件では、異常の場合には、120Hz~1200Hzの強度値が上昇する。また、この場合には、正常の場合の劣化度は20であり、異常の場合の劣化度は30であった。したがって、閾値を25とすることにより、異常判定部413により異常を判定可能である。
【0051】
以上のように、本実施形態によれば、予め設定された周波数範囲で、上位から予め設定された数の強度値を合算して劣化度を算出するので、モータの駆動周波数、モータの極数、および、すべり等の多くのパラメータの設定を行うことなく、モータの異常診断を行うことが可能となる。
【0052】
(第2実施形態)
次に、この発明の第2実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
図8は、本実施形態において、検出したい信号に、インバータ駆動の影響によるノイズ、および他の要因で生じた微小ノイズが生じている状態を示す図である。
図9は、本実施形態の異常診断装置による劣化度算出処理を示すフローチャートである。
図10は、本実施形態において、モータが正常の場合と、アンバランスによる異常が生じた場合の負荷電流を示す図である。
【0053】
上述した第1実施形態では、上位から所定個数の強度値を合算して劣化度を算出する態様について説明した。一方、本実施形態では、一定レベル以上の強度値を合算して劣化度を算出する態様について説明する。
【0054】
図8に示すように、インバータ駆動の影響により、検出したい信号よりも大きいノイズが生じる場合がある。
図8において、矢印Aは、インバータ駆動の影響で生じたノイズを示している。
【0055】
この場合、例えば、上位10個などの少ない数で強度値を合算すると、上位10個中にインバータの影響によるノイズを多く含み、異常による信号を検知する感度が低下することがある。
【0056】
インバータ駆動の影響によるノイズの強度値は、使用するインバータの制御方式、あるいはメーカー等により異なるので、一律に除去することはできない。そこで、上位から一定個数の強度値を合算するのではなく、より多くの強度値を合算することが考えられる。
【0057】
しかしながら、
図8に示すように、インバータ駆動の影響によるノイズ以外にも、その他の要因で生じた微小ノイズが存在する。
図8は、検出したい信号に、インバータ駆動の影響によるノイズ、および他の要因で生じた微小ノイズが生じている状態を示す図である。
図8において、矢印Cは、その他の要因で生じた微小ノイズを示している。この微小ノイズの強度値はランダム性が高く、より多くの強度値を合算した場合に微小ノイズを多く含んでしまい、異常による信号を検知する感度が低下する恐れがある。
【0058】
そこで、本実施形態では、一定レベル未満の信号を除去し、一定レベル以上の強度値を合算して劣化度を算出することとした。ただし、実験の結果、異常によるノイズは、-50dB以上の強度値を有することがわかっている。そこで、本実施形態では、例えば、-10dBのマージンを取って、-60dB以上の強度値を合算することにより、微小ノイズを除去した上で、残った信号を全て合算することとした。その結果、微小ノイズを除去した上で検出したい信号を確実に合算することができ、劣化傾向を検出できることが確認された。
【0059】
インバータ駆動の影響で生じたノイズは異常に拘わらず一定だが、検出したい信号は異常によって変化する。しかし、本実施形態によれば、一定レベル以上の強度値を合算することにより、十分な数の検出したい信号の強度値を得ることができ、異常による信号を検知する感度の低下を防ぐことができる。
【0060】
本実施形態における異常診断装置40のハードウェア構成は、ブロック図で示した場合に、
図2に示す第1実施形態における異常診断装置40の構成と同様である。ただし、本実施形態の異常診断装置40は、上位から予め設定された数の強度値を合算して劣化度を算出するのではなく、予め設定された一定レベル以上の強度値を合算することにより劣化度を算出する。
【0061】
本実施形態の異常診断装置40は、第1実施形態と同様に、演算部41と、EIPポート42と、表示部43と、出力接点44と、電源回路45とを備える。本実施形態における劣化度算出部412は、予め設定された周波数範囲で、一定レベル以上の強度値を合算して劣化度を算出するところが第1実施形態と異なる。その他の構成は、第1実施形態と同様である。
【0062】
(異常診断の処理)
図9に、本実施形態の異常診断装置40による劣化度算出処理を示すフローチャートである。まず、異常診断装置40のAD変換部410は、電流センサ30により、モータ20の負荷電流を取得する(
図9:S10)。
【0063】
次に、異常診断装置40のFFT解析部411は、離散フーリエ変換により負荷電流を周波数解析する(
図9:S11)。
【0064】
次に、異常診断装置40の劣化度算出部412は、電流データから基本波と高調波をカットし、さらに、一定レベル未満のノイズをカットする(
図9:S12)。
【0065】
次に、異常診断装置40の劣化度算出部412は、上位から予め設定された数の強度値を合算して、劣化度を算出する(
図9:S13)。具体的には、劣化度算出部412は、例えば-60dB未満のノイズを除去した上で、残りの全てのノイズの強度値を合算し、この合算した強度値を、全ての信号値によって除算して、感度を調整する係数を乗算することにより、劣化度を算出する。劣化度の算出式は、第1実施形態で説明した(数1)に示す式と同様である。
【0066】
この後、異常診断装置40の異常判定部413により、閾値と算出した劣化度とを比較することにより、異常判定を行うようにしてもよい。
【0067】
(劣化度の算出処理)
次に、本実施形態における劣化度の算出処理について説明する。以下の例では、モータ20の極数は4極であり、60Hzの電源周波数を直入駆動した。
【0068】
本実施形態では、一例として、アンバランスによる故障モードの場合における劣化度の算出処理について説明する。
図10は、モータ20が正常の場合と、アンバランスによる異常が生じた場合の負荷電流を示す図である。
【0069】
この例では、FFT解析部411によって0.25Hzの分解能でFFTし、0Hz~2次高調波の周波数範囲(0Hz~120Hz)において、-60dB以上の強度値を合算して、次式により劣化度を算出した。
【0070】
【0071】
図10から分かるように、この場合には、基本周波数±回転周波数の強度値が上昇し、この例の条件では、異常の場合には、30Hzと90Hzの強度値が上昇する。また、この場合には、正常の場合の劣化度は24であり、異常の場合の劣化度は33であった。したがって、閾値を30とすることにより、異常判定部413により異常を判定可能である。
【0072】
第1実施形態と組み合わせてもよい。本実施形態と第1実施形態を組み合わせる場合には、異常診断装置40、特に、劣化度算出部412に、予め設定された周波数範囲で、一定レベル以上の強度値について、上位から予め設定された数の強度値を合算して劣化度を算出する機能を備えるようにすればよい。
【0073】
(変形例)
以上の実施形態は例示であり、この発明の範囲から離れることなく様々な変形が可能である。
【0074】
上述した実施形態では、4秒間に出力される負荷電流波形を、4秒間ごとに合算する態様について説明した。しかし、本発明はこのような態様に限定される訳ではなく、合算する期間は、データ量と精度の兼ね合いで適宜決定することができる。
【0075】
本明細書では、本発明の実施形態に係る異常診断装置および異常診断方法について説明したが、本発明は、これに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0076】
10 インバータ
20 モータ
30 電流センサ
40 異常診断装置
41 演算部
42 EIPポート
43 表示部
44 出力接点
50 専用ツール
100 異常診断システム
410 AD変換部
411 FFT解析部
412 劣化度算出部
413 異常判定部
【手続補正書】
【提出日】2023-12-26
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータの負荷電流を、予め設定された周波数範囲で周波数解析し、
前記周波数範囲に属するデータの中から、基本周波数と高調波を含む複数の強度値を除外し、
前記データから基本周波数と高調波を含む複数の強度値を除外したデータに含まれる強度値であって、予め設定した条件による強度値を合算する、
ことを特徴とする異常診断方法。
【請求項2】
モータの負荷電流を、予め設定された周波数範囲で周波数解析し、
周波数解析した結果のデータのうち、前記モータの異常に起因しないデータを除去し、
除去したあとのデータに含まれる強度値を合算し、合算の結果に基づいてモータの異常を診断する、
ことを特徴とする異常診断方法。
【請求項3】
モータの負荷電流を、予め設定された周波数範囲で周波数解析し、
周波数解析した結果のデータのうち、検出したい信号ではないデータを除去し、
除去したあとのデータの強度値を合算し、合算の結果に基づいてモータの異常を診断する、
ことを特徴とする異常診断方法。
【請求項4】
前記検出したい信号ではないデータは、強度値のレベルの大きさで決まるノイズ成分である、
ことを特徴とする請求項3に記載の異常診断方法。