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  • 特開-優れた機械加工性を有する低温硬質鋼 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024019397
(43)【公開日】2024-02-09
(54)【発明の名称】優れた機械加工性を有する低温硬質鋼
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20240202BHJP
   C22C 38/58 20060101ALI20240202BHJP
   C21D 9/00 20060101ALI20240202BHJP
   C21D 6/00 20060101ALI20240202BHJP
【FI】
C22C38/00 301A
C22C38/58
C22C38/00 302E
C21D9/00 M
C21D6/00 L
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023195735
(22)【出願日】2023-11-17
(62)【分割の表示】P 2021010348の分割
【原出願日】2013-05-07
(31)【優先権主張番号】12166948.5
(32)【優先日】2012-05-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】514283191
【氏名又は名称】ヴァルス ベジッツ ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100135079
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 修
(72)【発明者】
【氏名】ヴァルス,アイザック
(57)【要約】
【課題】機械加工処理を介して有意な形状変形が可能であり、熱処理により、より高いワーク硬度まで高める事ができる特殊鋼または工具に使用される鋼の提供。
【解決手段】本発明は、特殊鋼または工具に使用される鋼のような鋼に対して、少なくとも一部にベイナイトまたは侵入型マルテンサイトの熱処理を適用する技術に関する。オーステナイト化熱処理の第1の部分は、鋼が十分に低硬度となるように実施され、しばしば、機械加工処理を介して、有意な形状変形が可能となる。従って、形状化が容易な鋼製品を得ることができる。硬度は、低温(オーステナイト化温度未満)での単純な熱処理により、より高いワーク硬度まで高められる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベイナイトを含む微細構造を有する鋼であって、
前記ベイナイトは、前記微細構造の少なくとも50体積%であり、
固溶体中に、鉄よりも強い炭化物フォーマーが存在し、
当該鋼は、重量%表示で以下の組成を有し、
%Ceq=0.16~1.9 %C=0.16以上0.9未満 %N=0~1.0 %B=0~0.6
%Cr<1.8 %Ni=0~6 %Si=0~1.4 %Mn=0~3
%Al=0~2.5 %Mo=0~10 %W=0~10 %Ti=0~2
%Ta=0~3 %Zr=0~3 %Hf=0~3 %V=0~4
%Nb=0~1.5 %Cu=0~2 %Co=0~6、
残りは鉄およびトレース元素であり、
%Ceq=%C+0.86*%N+1.2*%Bであり、
%Mo+1/2・%W>2.0であり、
8mm2/sよりも大きな熱拡散性により特徴付けられた低散乱構造を有する、鋼。
【請求項2】
ベイナイトの少なくとも50体積%は、高温ベイナイトである、請求項1に記載の鋼。
【請求項3】
%Crは、0.3%未満である、請求項1または2に記載の鋼。
【請求項4】
熱伝導率は、38W/mK超である、請求項1乃至3のいずれか一つに記載の鋼。
【請求項5】
%Siは、0.2%未満である、請求項1乃至4のいずれか一つに記載の鋼。
【請求項6】
%Moは、2.5%超である、請求項1乃至5のいずれか一つに記載の鋼。
【請求項7】
%Mo+1/2・%W>2.8である、請求項1乃至6のいずれか一つに記載の鋼。
【請求項8】
%Cは、0.34%超である、請求項1乃至7のいずれか一つに記載の鋼。
【請求項9】
前記微細構造は、8%未満のマルテンサイトを含む、請求項1乃至8のいずれか一つに記載の鋼。
【請求項10】
%Hf+%Ti+%Zr+%Nb+%V+%W+%Cr+%Mo>4である、請求項1乃至9のいずれか一つに記載の鋼。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、しばしば特殊鋼または工具に使用され得る鋼のようなある鋼に対する、完全および/または部分的な、ベイナイトまたは侵入型マルテンサイト熱処理の用途に関する。オーステナイト化に使用される熱処理の第1の部分は、鋼に十分に低い硬度を提供するように適用され、しばしば機械加工を介して有意な形状変形が可能となる。しかしながら、硬さは、その後、低温(オーステナイト化温度未満)での単純な熱処理により、ワーキング硬度にまで高められる。
【背景技術】
【0002】
特殊鋼には、しばしば、相対すると思われる異なる特性を組み合わせる必要がある。典型的な例は、降伏強度と靭性である。ほとんどの特殊鋼において、そのような特性の最良の妥協点は、純粋なマルテンサイト化熱処理を実施し、その後所望の硬度を得るため、適切な焼き戻しをした際に得られると考えられる。
【0003】
大きい断面では、しばしば、断面全体に純粋なマルテンサイト微細構造を得ることができない場合がある。またまれに、表面においても、そのような微細構造を得ることができない場合がある。特に、ベイナイトとマルテンサイトの混合微細構造は、低い破壊靭性を示し、これは、例えば熱疲労が支配的な損傷機構のようないくつかの用途では極めて有害である。
【0004】
大部分の特殊鋼において、大きな断面にわたってマルテンサイト微細構造を得るには、容易にクラックが生じるような、極めて厳しい冷却ステップを伴う。
【0005】
従来のダイを製造する方法は、
-特殊鋼の粗加工ステップ、
-応力リリーフステップ、
-粗加工の仕上げステップ、
-熱処理ステップ、
-最終機械加工ステップ、
-表面処理(窒化、炭化…)および/またはコーティングステップ、
を有する。
【0006】
あまり高い摩耗抵抗を要しないダイでは、最後のステップは、省略できる。ダイの形状が単純な場合、しばしば、応力リリーフステップは、省略される。あまり要求が厳しくない用途では、予備硬化特殊鋼を使用することが慣例的および経済的に有意である。この場合、熱処理を避け、すぐに最終機械加工ステップに移行することができる。これは、大きなダイには特に魅力的である。熱処理のコストは、重量に比例し、熱処理に関する歪み、さらには硬化条件における強制的な最終機械加工ステップは、ダイのサイズに比例するからである。また、しばしば、この流れは、プロジェクトの時間節約のため選定される。この方法による実施では、少なくとも1.5週間は節約される。最も大きな問題は、予備硬化による硬さは、機械加工ステップが極めて高コストとなるため、あまり高められないことである。通常、硬度は、45HRc未満に選定される。機械加工ステップにより通常かなりのリソースの消費を伴うため、最終機械加工ステップで、最終硬度レベルが生じることは魅力的である。また、多くの用途では、短い処理時間では、熱処理に関するコストを避けることができる点で好ましいが、その用途には、かなり大きなバルク硬度が要求されるため、予備硬化特殊鋼を使用することは難しい。
【0007】
最近の機械加工能力の向上により、特殊鋼の機械加工では、これらがある機械加工性を高める添加剤または微小物質を有する場合、最大40HRc、さらには45HRcが得られるようになってきた。しかしながら、高靭性な微細構造は得られていない。実際、多くの予備熱処理特殊鋼は、30~40HRcの範囲にあり、ある特殊な用途の特殊鋼では、40~45HRcの範囲にある。実際アニールされた特殊鋼は、通常、極めて柔らかく、しばしば250HBを下回るが、機械加工性の差異はあまり顕著ではない。しかし、前述のように、多くの用途では、48HRcを超えるバルク硬度が要求される。バルク硬度が45RHc未満で十分な場合もあるが、その場合、しばしば、より高い表面硬度が必要となり、しばしば予備硬化特殊鋼が窒化される。長年にわたって認識されている特殊鋼の大きな利点の一つは、特殊鋼が機械加工の際に柔らかくなり、使用の際に硬くなることが望ましいということである。これは、機械加工の際にできる限り柔らかくなり(最大40HRcまたは45HRcまで許容できる)、作用する際(ワークの際)に十分に硬くなる(最適硬度レベルは、用途に依存する)ことである。多くの用途では、最適なワーク硬度は、48~58HRcの範囲である。従って、多くの用途においては、しばしば、「硬化ステップ」のプロセスにおける10~20HRcの上昇で十分である。
【0008】
多くの用途では、硬度は、特殊鋼用の対応する材料特性であるが、工具を設計する際には、少なくとも他の特性についても考慮する必要がある。そのような特性は、靭性(弾性または破壊靭性)、作動条件での耐性(耐食性、耐摩耗性、高温での耐酸化性…)、熱特性(熱拡散性、熱伝導性、比熱、熱膨張係数…)、磁気的および/または電気的特性、耐温度性等である。しばしば、これらの特性は、微細構造に依存し、従って熱処理中に調整される。すなわち、熱処理は、所与の用途に対して最良の特性が得られるように最適化される。
【0009】
いくつかの特殊鋼またはより良い名称の特殊な合金がある。これらは、固溶体および時折Niマルテンサイトとともに、主な硬化機構の一つとして析出硬化を利用する。これらの特殊鋼の中には、最軟化可能状態が、固溶化状態、またはアニール状態であるものがあり、しばしば約30~40HRcの範囲にあり、適用熱処理は、しばしば8~20HRcの硬度上昇を得る低温析出である。これは、多くの用途に十分である。この低温析出は、しばしば、少量の制御可能な歪みが生じる点で有意である。これらの特殊鋼に置換可能な特殊合金の主な問題は、耐摩耗性が低く、合金製造が極めて高コストなことである。また、これらの機械加工性は、主な硬化機構として拡張された固溶体を利用しているため、同じ硬度レベルを有する特殊鋼よりも劣る。
【0010】
材料成形プロセスにおける摩耗は、主として、研磨および接着によるものであるが、時折、エロージョンおよび空洞化のような他の摩耗機構も存在する。研磨摩耗を抑えるには、通常、特殊鋼中に硬質粒子が必要となる。これらは、通常、炭化物、窒化物、ホウ化物、またはこれらと他の組み合わせのようなセラミック粒子である。この方法では、硬質粒子の体積率、硬度、および形態により、所与の用途での材料の耐摩耗性が決まる。また、特殊鋼の硬度の使用は、研磨摩耗条件下での材料の耐久性を定める際に重要である。硬質粒子の形態は、マトリクスに対するその密着性、および材料マトリクスからそれ自身が脱落しないように是正された研磨外因粒子のサイズを定める。研磨摩耗を抑制する最良の方法は、FGM材料(機能傾斜材料)を使用することであり、通常これは、特殊鋼へのセラミックコーティングの形態で提供される。この場合、コーティング用の良好なサポートを提供することが極めて重要である。コーティングは、通常極めてもろい。良好なサポートを有するコーティングを提供するため、ツール材料は、硬くされ、硬質粒子を有する必要がある。この方法では、ある産業用途の場合、ツール材料は、比較的高い硬度レベルで、高熱拡散性を有するとともに、二次炭化物、窒化物および/またはホウ化物の形態の硬質粒子を有することが望ましい。また、しばしば一次硬質粒子を有することが望ましい(大きな研磨粒子に対向する場合)。
【0011】
ある用途では、作動環境での耐性の中で、摩耗性よりも腐食性または酸化性が注目される。両者は、しばしば共存する。そのような場合、作動温度でも耐酸化性、または活性物質に対する耐食性が望まれる。そのような用途では、該用途に応じて、しばしば、異なる硬度レベルおよび異なる耐摩耗性を有する耐食性特殊鋼が使用される。
【0012】
熱勾配は、サーマルショックおよび熱疲労の原因となる。多くの用途では、短い暴露時間、またはソース源からの限られた量のエネルギーのため、定常伝達状態は得られない。ツール材料に対する熱勾配の大きさは、その熱伝導率の関数である(十分に小さなビオ(Biot)数を有する全ての場合、反比例する)。
【0013】
従って、特定の熱フラックス密度関数を用いた特定の用途では、優れた熱伝導性を有する材料は、得られる熱勾配が小さくなるため、低い表面負荷を受ける。同じことは、熱膨張係数が低く、ヤング率が低い場合にも適用できる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
従来より、多くの鋳造合金または軽合金の押出のような、熱疲労が主な不具合機構となる多くの用途において、導電率および靭性(通常破壊靭性およびCVN)を最大限高めることが望ましい。
【0015】
前述の多くの用途では、48~54HRcの範囲の硬度が使用され、プラスチック射出成形は、約50~54HRcの硬度を有するツールで実施されることが好ましい。亜鉛合金のダイキャストは、しばしば、47~52HRcの範囲の硬度を有するツールで実施される。コーティングシートのホットスタンプは、多くの場合、48~54HRcの硬度を有するツールで実施され、未コーティングシーツの場合、54~58RHcである。描画および切断用途のシートの場合、最も広く使用される硬度は、56~66HRcの範囲である。ある切断用途では、より高い64~69HRcの硬度が使用される。
【0016】
特別な対処が必要な、特殊鋼のファミリーの日本国特許出願第JP1104749号公報では、セメンタイトの粗粒析出、およびAlの追加による関連する脆性を避けるため、中断ベイナイト熱処理が使用される。本発明では、硬質化および熱処理により、通常機械加工ステップを介して、ある形状の変化が生じるが、靭性は、完全なプロセスの間に、ある用途のため、または他の炭化物によりセメンタイトを高程度に置換する戦略のため、低いレベルに調整される。本発明の解決策では、高い耐食性、熱伝導性、耐摩耗性、経済的利点、および/または靭性が得られる。
【0017】
低温(オーステナイト化温度未満)の熱処理により、低い硬度から高い硬度まで変化可能な、機械加工用の低い硬度およびワーク用の高い硬度を有する効果は、しばしば、いわゆる析出硬化鋼に使用される。これらの鋼は、オーステナイト、フェライト、置換型マルテンサイト、または低炭素の侵入型マルテンサイト微細構造に特徴を有し、熱処理の間、析出物は、劈開せずに所望のサイズに成長し、硬度および機械的強度の向上が得られる。多くのそのような鋼が存在する。一例は、米国特許2715576号、日本国特許1104749号のような、マルエージ鋼、析出硬化特殊鋼、または既知の大同鋼社のNAK55、NAK80である。そのような鋼の本発明の鋼との差異は、使用微細構造であり、この場合、これは、使用組成範囲および熱処理の使用温度を反映する。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本願発明者らは、請求項1の特徴を有する鋼、および請求項21に記載の鋼を製造する方法を提供することにより、機械加工中は十分に低い硬度を有し、その後、工具鋼を高温でオーステナイト化しないで、高い硬度のような所与の用途の特性の所望の組み合わせが得られるようにできることを見出した。新たな使用および好適実施例は、他の請求項に記載されている。
【0019】
十分に大きな二次硬度ピークを有する工具鋼に対してベイナイト熱処理または部分的なベイナイト熱処理を適用することにより、またクエンチ後に特殊鋼に機械加工を行うことにより、あるいは最大硬度ピークが生じる温度未満の温度での1または2以上の焼き戻しサイクルにより、機械加工用の十分に低い硬度が生じる。機械加工後に、またはその一部の後、応力リリーフステップ、窒化ステップ、またはオーステナイト化温度未満の温度での焼き戻しステップの少なくとも一つの適用により、所望の硬度が得られる。
【0020】
あるいは、マルテンサイト化熱処理が実施される。これは、二次硬度ピークの前の最低点と最大二次硬度の間の硬度傾斜が大きくなる場合、有意である。
【0021】
ベイナイト熱処理の追加の利点は、緩やかなクエンチ速度でこれらが得られることである。また、ある特殊鋼では、これらは、厚さ断面にわたり同様の微細構造を提供する。ベイナイト変換が遅延されたある特殊鋼では、大きな断面にわたって均一なベイナイト微細構造を得ることが可能になる。
【0022】
ベイナイトは、極めて微細であり、低温で変態が生じた場合、高硬度および高靭性を提供する。多くの用途では、弾性または破壊靭性のいずれかにおいて、高靭性が要求される。プラスチック射出成形では、しばしば、薄い壁(抵抗断面に関して)が高圧に晒される。これらの壁が高い場合、しばしば小径を有するベースに大きなモーメントが生じ、破壊靭性の高いレベルが要求される。ホットワーク用途では、鋼は、しばしば熱サイクルに晒され、コーナー部にクラックが生じ、あるいは表面に熱チェックが生じる。そのようなクラックの早い伝播を避けるため、これらの鋼は、ワーク温度でできるだけ大きな破壊靭性を有することが重要である。そのような用途において、適当な合金化を通じて、またはクラックを発生させずに冷却速度を高める方法の開発を介して、ベイナイト変態速度を抑制するため、純粋なマルテンサイト構造を得るための多くの労力が費やされた。発明者らは、靭性、特に破壊靭性に極めて有害な事象は、マルテンサイトとベイナイトの混合物であることを観測した。ベイナイトが少量であっても、同様である。しかしながら、ベイナイト相のみが存在する場合、あるいは少なくとも支配的な相である場合、特に、ベイナイトが微細ベイナイトである場合、靭性、特に高温での破壊靭性に、極めて大きな値が得られる。発明者らは、高いおよび粗いベイナイトの場合でも、合金レベルが十分に高く適当な焼き戻しが行われる場合、ほとんどの粗いセメンタイトは、より微細な炭化物に置換され、高温で良好な靭性値が得られることを観測した。前述のように、大きな断面の場合、しばしば、マルテンサイト化熱処理が難しく、これらは、他の特性に有害な合金化ステップを含む場合がある。
【0023】
発明者らは、容易に成形され、クエンチに関して予測できない劣化を生じさせずに、高ワーク硬度を有する材料を得る極めて好適な方法は、鋼、しばしば血液ツールに使用される特殊鋼を製造するステップを有し、供給後に、オーステナイト化温度未満の温度での熱処理によりバルク硬度が高められる条件で供給され、いかなる特殊な迅速冷却も必要ではないことを認識した。供給条件は、侵入型マルテンサイトおよび/または部分的にベイナイトを有し、または部分的に前述の微細構造を有する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】温度に対する硬度をプロットした図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明では、容易に機械加工される条件下での適用前に、機械加工プロセスを行うための特殊鋼または他の鋼を得ることができる。その後、オーステナイト化温度未満の温度での熱処理を実施することにより、これは、高特性を有する微細構造に変化する。迅速な冷却速度は、要求されず、制御可能な歪みの小さな方法が提供される。
【0026】
工具は、しばしば、予備熱処理特殊鋼から機械加工され、特に大きな工具では、該工具の製造コストは、大きな役割を有する。多くの場合、多数の機械加工ステップが含まれるため、予備熱処理特殊鋼には、良好な機械加工性が要求される。このため、これらの鋼は、しばしば、S、Ca、Bi、Pbのような、機械加工性を高めるための添加元素を有する。またこれらは、しばしば、炭化物のサイズおよび分布の点で、均一な微細構造を提供する。最も重要なことは、迅速なストック除去速度で機械加工ステップが実施できるように、予備熱処理後の硬度レベルが定められることである。機械加工技術は、継続的に向上しており、迅速な鬆特許除去が可能となる硬度レベルが得られてはいるものの、極めて迅速な機械構成の場合、良好な硬度レベルは40HRc未満であり、45HRcを超えるものはほとんどない。おそらく48HRcが妥当な最大限界である。しかしながら、多くの用途では、40HRc(それぞれ45HRcまたは48HRc)は十分ではなく、予備硬化鋼は、多くの用途ではあまり高い生産性を示さない。より高い機械的特性が必要な用途では、通常別の方法が適用され、これは、通常、ダイの製造が高コストであり、ダイの高特性(しばしば耐久性)で回収される必要がある。この方法は、アニール状態で粗加工ステップを有し、ここでは材料は、軟化され、熱処理され、最終機械加工される(熱処理中に生じる歪みを強制補正する)。最終機械加工ステップは、既に硬化された材料で行われ、従って、比較的難しく高コストである。
【0027】
ある予備硬化特殊鋼は、十分に高い焼き戻し温度を有するように選定され、この温度で、硬度が定められ、その後、(歪みおよび硬度の低下を避けるため)より低温で、表面処理またはコーティングが適用され、ダイの摩擦特性が向上する。本発明による特殊鋼では、両方の製造方法の利点が得られる。特殊鋼は、機械加工中の迅速なストック除去のための硬度に関し、予備硬化特殊鋼として提供され、その後、材料は、クエンチプロセスの制御できない歪みを生じさせずに、優れた硬度状態にされる。硬度上昇を得るため、焼き戻しのような熱処理が必要となる。通常、硬度のみが関連の特性ではないため、本発明で利用される、各特殊鋼用の異なる熱処理の組み合わせが望ましい(熱処理組み合わせは、供給前に実施される低硬度処理と、オーステナイト化温度未満の処理、またはその後実施される処理)。あるこれらの組み合わせでは、処理の最後の部分に関連する劣化は小さく、再現性は十分に高く、必ずしも高硬度レベルでの寸法補正の機械加工は、必要ではない。そのような場合、鋼または一部を高特性レベルにする処理は、窒化、コーティング、応力リリーフのような、別の必要なプロセスの結果として行われる。また、特に大きな機械加工の場合、高硬度条件における機械加工ステップ用のある範囲の余分なストックを残したまま、応力リリーフステップと同時に処理を行うこともできる(機械加工中に繊維を切断することにより、想定される予期されない変形を補正するため)。
【0028】
特殊鋼、工具に使用可能な鋼、または通常の鋼は、焼き戻し曲線において、最大二次硬度を有し、所与の低温焼き戻し点で著しく低い硬度が得られる。本発明の鋼の場合、焼き戻し曲線の最大二次硬度ピークと、二次硬度ピークが得られる焼き戻し温度よりも低い焼き戻し温度での最大硬度点との間におけるこの最大硬度勾配は、通常、少なくとも4HRcであり、しばしば7HRcより大きく、8HRcよりも大きいことが好ましく、少なくとも10HRcであることがより好ましい。最終硬度が極めて高い用途では、前述のように、本発明において、示されたステップの後、少なくとも15HRc、および好ましくは18HRcを超える硬度勾配、さらには20HRcを超える硬度勾配を有することが好ましい。
【0029】
本発明は、特に、広い用途範囲に適用され、焼き戻し処理として機能する低温(オーステナイト化温度未満)の熱処理で硬度が高められる。多くの用途では、48HRcを超える硬度が望ましい。高い機械的耐性が要求される用途では、通常50HRcまたは52HRcが得られ、高い表面圧力が適用される用途(例えば低温または高温描画用途においてしわが生じる場合)では、54HRcまたは56HRが得られる。切断および描画用途では、しばしば、60HRcを超え、62HRcを超えることが好ましい。高摩耗の用途では、64HRcを超え67HRcを超える高い硬度が必要となる。これらの硬度レベルは、本発明において、以下のステップを実行することにより得ることができる。
【0030】
本発明は、合金化ステップと適切に選定された微細構造の組み合わせに基づくものである。また、熱処理およびこれらの熱処理の適用方法が極めて重要である。本発明の多くの用途では、好適な微細構造は、ベイナイトが支配的であり、少なくとも50vol%、好ましくは65vol%、さらに好ましくは、76vol%、いっそう好ましくは92vol%がベイナイトである。通常、微細構造は、大きな断面において容易に得られ、通常の微細構造は、適当な焼き戻しにおいて、最大の二次硬度差を示す。
【0031】
ある用途では、特に、ベイナイト領域において限られた硬化を示す材料を有するこれらに必要な大きな断面の場合、高温ベイナイトが好ましい。これは、オーステナイト化の後、鋼の冷却の際に生じる最初のベイナイトである。本願において、高温ベイナイトとは、TTTダイアグラムのベイナイトノーズに対応する温度を超えるが、フェライト/パーライト変態端の温度を超えない温度で形成される、いかなる微細構造をも意味する。ただし、これは、文献で参照され、ベイナイトノーズの一つを超える温度での等温処理において、時折少量形成される下側ベイナイトを含まない。簡単に高い硬化性が要求される用途では、高温ベイナイトは、ベイナイトの大部分であり、全てのベイナイトにおいて、高温ベイナイトは、少なくとも50vol%であり、好ましくは65vol%であり、より好ましくは75vol%であり、さらにこのましくは85vol%である。金属学的用語として知られているように、ベイナイトは、オーステナイトが熱平衡下で冷却されない場合の分解生成物の一つである。これは、セメンタイトの微細な非ラメラ構造、および転移リッチなフェライトプレートで構成され、非拡散プロセスである。ベイナイト中に存在するフェライト内の高濃度の転移により、このフェライトは通常よりも硬くなる。しばしば、高温ベイナイトは、上部ベイナイトが支配的となり、これは、TTT温度時間変態ダイアグラムにおいて認められるベイナイト領域内の高温で形成された粗いベイナイト微細構造を意味する。このダイアグラムは、鋼の組成に依存する。発明者らは、上部値以内とを含む高温ベイナイトの靭性を高める方法では、グレインサイズが抑制されることを見出した。本発明では、硬い上部ベイナイトが必要となる場合、ASTM8またはそれ以上のグレインサイズ、好ましくは10以上、または13以上のグレインサイズが有意である。また発明者らは、驚くべきことに、セメンタイトが抑制された微細構造を使用した場合、高温ベイナイトにより、高い靱性値が得られることを見出した。その形態は、セメンタイトが球状化した際に微細なラメラに変化る。残留オーステナイトを含むベイナイトの場合、残留オーステナイトの形態に関して同じことが言える。これは、本願において、小さなグレインサイズの高温ベイナイトおよび/または下部セメンタイトベイナイト、および/または微細ラメラもしくは球状形態の高温ベイナイトは、硬い高温ベイナイトと称される。ある用途では、大部分の高温ベイナイトは、60%を超える体積比の硬い高温ベイナイトであり、これは78%超であることが好ましく、88%超であることがより好ましい。発明者らは、特に低Si合金(重量比で1%未満、特に0.6%未満、さらに0.18%未満)において、球状ベイナイトの高含有量により、高い弾性が得られることを見出した。これはいくつかの用途において興味深い。この場合、全てのベイナイトの34%が球状であっても良く、好ましくは55%以上、より好ましくは72%以上、さらに好ましくは88%以上である。ある例では、全てのベイナイトが球状形態を有することも可能である。前述のように、通常、高温ベイナイトにおいて、小さなグレインサイズとの組み合わせの場合、破壊靭性に意図しない高い値が得られる。ある用途では、フェライトおよび/またはパーライトはあまり有害ではなく、大部分の用途では、フェライト/パーライトは、最大2%以下であり、5%であることが望ましい。フェライト/パーライトに対して許容性のある用途では、最大10%まで、または18%まで含まれても良い。ベイナイト微細構造において、通常、マルテンサイトの存在は、破壊靭性を低下させる。破壊靭性があまり重要ではない用途では、ベイナイトとマルテンサイトの割合の制限はないが、ベイナイトの微細構造に対して破壊靭性が支配的な用途では、マルテンサイトは存在しないことが好ましいが、最大2%存在しても良く、あるいは最大4%存在しても良い。ある組み合わせでは、8%または17%のマルテンサイトが許容され、高破壊靭性レベルが維持される。
【0032】
低温において高い破壊靭性が望ましい場合、大きな断面において、主要ベイナイト熱処理内で、本発明の鋼に対して2つの可能な対応がある。合金または鋼において、マルテンサイト変態温度が十分に低い(通常400℃未満、好ましくは340℃未満、より好ましくは290℃未満、さらに好ましくは240℃未満)ことを確認する。極めて微細なベイナイトでは、しばしば、極めて遅い変態速度が得られ、変態温度は、220℃未満にされ、このましくは180℃未満にされ、さらにこのましくは140℃未満にされ、安定なあまり好ましくない構造のための全ての変態速度は、十分に遅くされる(10%のフェライト/パーライト変態で少なくとも600秒、好ましくは10%のフェライト/パーライト変態で1200秒超、より好ましくは10%のフェライト/パーライト変態で2200秒、さらに好ましくは10%のフェライト/パーライト変態で7000秒。また、ベイナイトの20%の変態で700秒超、好ましくは20%のベイナイトで800秒超、より好ましくは20%のベイナイトで2100秒、さらに好ましくは20%ベイナイトで6200秒)。
【0033】
あるいは、%C、%Nおよび%Bで表される合金に対してFeよりも高い特性を有する元素に関する合金成分は、十分な量で選定される。炭素に対して鉄よりも高い親和性を有する最も重要な元素は、Hf、Ti、Zr、Nb、V、W、Cr、Moであり、本願では、強炭化物フォーマーと表される(この定義は、しばしばCr、W、およびMo、Vが強炭化物フォーマーとして記載されていない常の文献のものとは整合しないため、注意を有する)。Feよりも炭素と高い親和性を有する元素は、鉄炭化物が形成される前にそれぞれの炭化物またはその組み合わせを形成する。以降これを合金化炭化物と称する。炭化物自身に依存して、特性が変化する。特定の特性に依存する、特殊な場合は後述する。この意味において、より少ない%Crおよび他の全ての炭化物フォーマーに対して、%Moeq、%V、%Nb、%Zr、%Ta、%Hfの存在が最も顕著である。しばしば、鉄よりも炭素との親和性の高い元素が合計で4%を超える重量で存在し、好ましくは6.2%超、より好ましくは7.2%超、さらに好ましくは8.4%超である。しばしば本発明の好適実施例において、しばしば4.2%を超え、好ましくは5.2%を超え、さらに好ましくは6.2%を憩える%Moeqによって提供される高い二次硬度ピークが存在する。同様に、%Vを使用して、しばしば0.2%を超え、好ましくは0.6%を超え、さらに好ましくは2.4%を超え、いっそう好ましくは8.4%を超えるものが使用される。最後に、用途およびコスト上、一次炭化物が定められない場合、極めて強い炭化物フォーマー(%Zr+%Ta+%Nb+%Hf)が使用され、これは0.1%を超え、好ましくは0.3%を超え、より好ましくは0.6%を超える。少なくとも30vol%の炭化物、好ましくは35vol%、より好ましくは40vol%、さらにこのましくは45vol%の炭化物が、炭化物の全ての金属成分の少なくとも50at%、好ましくは55at%、より好ましくは60at%、さらに好ましくは75at%の鉄を含むことが好適である。これにより、低温(AC1点未満での)熱処理プロセス後に、所望の硬度向上が得られる。これは、通常ユーザの側で実施される。
【0034】
また、最終グレインサイズを微細化するいかなる熱的機械的処理も有効であり、特に、ベイナイト熱処理が有効である。この効果により、靭性が改善される上、硬度も高まるからである。同じことは、粒界での炭化物析出を回避する処理についても言える。そのような処理では、例えば、1020℃を超える高温での第1のステップで、オーステナイトのグレインサイズが粗大化する(拡散プロセスでは、温度が高いほど必要な時間は短くなり、機械的変形により歪みが導入されるが、再結晶化は回避されるため)。次に、鋼は迅速に冷却され、安定な微細構造(フェライト/パーライト、および可能な場合ベイナイト)への変態が回避され、炭化物の析出が最小化される。最後に、鋼は、Ac1点に近い温度で応力リリーフされる。これにより、最終熱処理において、特にベイナイトが支配的な場合、極めて微細なグレイン粒の核発生が促進される。また、本発明では、二次硬度ピークが十分に高く、低硬さ加工およびその後の焼き戻しにより大きな硬度上昇が可能となる場合、大部分がマルテンサイト構造であることが望ましい。大部分が「マルテンサイト構造」とは、少なくとも50vol%が侵入型マルテンサイトで構成される微細構造を意味し、これは、65vol%の侵入型マルテンサイトであることが好ましく、78vol%の侵入型マルテンサイトであることがより好ましく、88vol%超が侵入型マルテンサイトであることがさらに好ましい。残留オーステナイトは、焼き戻しプロセス中の分解の際に、所望の硬度上昇に寄与する。この変態は、最も好ましいものではないが、本発明では、未制御の体積変化があまり重要ではないある用途では、これを使用する。残留オーステナイトが少ない場合、その分解の効果は小さくなり、従って、合金化炭化物の析出または分離による供給が必要となる。合金化炭化物は、多くの金属元素を有し、前述のように、これらは鉄よりも強炭化物構成物となる(炭化物の金属成分全量の42at%超、好ましくは62at%超、さらにこのましくは82at%超)。従って、体積%で2.9%未満、好ましくは2.5%未満、より好ましくは1.8%未満の残留オーステナイトが存在する場合、この用途において、鉄よりも強い炭化物フォーマーは、固溶体で存在し、または炭化物もしくは混合炭化物の形成が可能ないかなる他の状態で含まれる。しばしば文献中に見られる合金炭化物のように、Ac1点を超える温度で再溶融する必要はない。これは、これらの強炭化物フォーマーの重量比で2.2%以上、好ましくは3%以上、より好ましくは3.8%以上有することが望ましい。
【0035】
残留オーステナイトが52%を超える程多量に存在する場合、好ましくは60%超、より好ましくは72%超存在する場合、合金化炭化物を形成する元素の存在は、省略されても良い。中間的な場合、これは、強炭化物フォーマーの重量比で1.2%で十分であり、好ましくは1.8%超であり、より好ましくは2.1%超である。
【0036】
完全なマルテンサイト構造は、好ましいが、大きな断面で得ることは難しい。従って、通常、最大8%、または24%のベイナイトが許容される。フェライト/パーライトの許容量は、ベイナイト処理の場合と一致するが、組成は通常変化する。
【0037】
文献には、ある限定的な条件下において極めて靭性のある下側ベイナイトに関する多くの報告があるが、これは、ある用途では摩擦特性が劣る。本願発明者らは、これは、後に示すように、%Cが平衡化される場合、合金化炭化物の使用により、解決できることを見出した。通常、鉄よりも強い2%以上の炭化物フォーマーを含むことが望ましく、これは3.2%以上であることが好ましく、4.6%以上であることがより好ましく、7.6%以上であることがさらに好ましい。例えば、球状ベイナイトのような高温ベイナイト領域で靭性のあるベイナイト構造の存在に関しては、あまり報告はない。これは、常に低%C含有量であり、通常重量比で%C<0.2の範囲である。この構造は、本発明における多くの用途では極めて望ましいが、これらの用途の大部分では、機械的および摩擦学的特性が要求され、そのような低%C含有量でこれを達成することは極めて難しい。本願発明者らは、本発明において、驚くべきことに、かなり高い%C含有量において、そのような構造が得られることを見出した。本発明の特異な点は、靭性のある高温ベイナイトが同時に得られることであり、重量%Cで0.21%超、好ましくは0.26%超、より好ましくは0.31%超、さらにこのましくは0.34%超、いっそう好ましくは0.38%超のものが得られる。これは、オーステナイトベイナイト変態において析出させずに、ある公称%C-鋼の理論的全%C-を含めることにより、得ることができる。ある有効な方法では、変態が開始する直前および変態中に、ある%Cが炭化物になる。これは、オーステナイト化の際に、全ての炭化物を溶解させないことにより達成され、あるいはベイナイト変態の前に炭化物析出が生じるような、制御された冷却を実施することにより達成される。この意味で、本発明のある用途では、ベイナイトおよび/またはマルテンサイト変態の前に形成される炭化物の形態で、公称重量%Cの5%以上、好ましくは8%以上、より好ましくは12%以上、さらにこのましくは23%以上を有することが有意である。炭素形成は、マルテンサイトおよび/またはベイナイト変態の間、抑制され、析出する公称%Cは、マルテンサイトおよび/またはベイナイト変態に組み込まれる。これは、微細構造のリファレンスである。微細構造の詳細な分析では、マルテンサイトおよび/またはベイナイトを除く全ての相の%Cが提供されるためである。これは、公称%Cから差し引かれ、最終的にこれが表す値が得られる。ある用途では、マルテンサイトおよび/またはベイナイトは、鋼の公称%Cの88%未満を占め、好ましくは鋼の公称C%の80%未満、より好ましくは72%未満、さらに好ましくは66%未満を占めることが望ましい。ある他の用途では、マルテンサイトおよび/またはベイナイトは、鋼の公称C%の88%未満を占め、好ましくは未焼き戻し鋼の公称C%の80%未満、より好ましくは72%未満、さらに好ましくは66%未満を占めることが望ましい。金属学的用語では、鋼の組成は、通常、Ceqで与えられ、これは、炭素または公称炭素自身の他、考慮する構造における、B、Nのような鋼の体心構造に同様の影響を有する全ての元素として定められる。
【0038】
両方の好ましい微細構造は、非平衡相のメタ微細構造として知られており、これらの相は、非拡散プロセスによって形成され、オーステナイト相からの平衡速度よりも速い冷却の際に生じる。オーステナイトの面心立方構造から侵入型で配置される炭素は、速い冷却ステップのため、構造から排出される程十分な時間がない。よって、この大部分は、構造内に留まり、剪断応力が誘起される。これにより、冷却速度および鋼の組成に応じて、最終的にベイナイトまたはマルテンサイト構造が得られる。これらの構造は、しばしば、クエンチ直後に脆く、ある程度の延性および/または靭性を回復する方法として、焼き戻しが行われる。本願では、焼き戻しマルテンサイト(ほとんどの場合侵入型)、および焼き戻しベイナイトに言及する。この用語は、形成後(クエンチプロセスの間)にいかなる種類の熱処理を受けた後のマルテンサイトおよび/またはベイナイトをも参照する。この熱処理により、最初に構造緩和が生じ、その後、炭素原子のマイグレーション(しばしば得られる構造は、文献上、特定の名称を有する。トルースタイト、ソルバイト…)が生じ、存在する場合、残留オーステナイトの変態、合金化炭化物の析出、ならびに/またはいかなる種類の炭化物の形態変化および再溶解(セメンタイトおよび合金化炭化物)が生じる。実際に生じる機構およびその程度は、鋼組成、元の微細構造、および印加される焼き戻しサイクルの温度と時間に依存する。従って、クエンチ(マルテンサイトおよび/またはベイナイトの形成)後のいかなる熱処理においても、本願において焼き戻しマルテンサイトおよび/または焼き戻しベイナイトと称するものが得られる。しばしば、本発明の実施の際に、焼き戻し(複数回であっても良い)は、鋼の製造中に行われ、別の焼き戻し(複数回であっても良い)は、部材または工具の製造のための鋼の使用中に行われる。本願の最初に説明したように、使用される焼き戻し温度および時間に応じて、異なる量の炭素が排出され、異なる機構により、異なる微細構造が生じる。これは、しばしば鋼の硬度に影響を及ぼす。このため、鋼には、しばしば焼き戻しグラフが参照され、温度に対する硬度評価がプロットされる(図1参照)。通常の挙動は、焼き戻しの第1の段階における硬度の下降と、残留オーステナイトおよび/または合金化炭化物の形成が生じる場合、その後の硬度の上昇とを有する。本発明では、いわゆる最大二次硬度ピークが注目される。これは、および他の析出物炭化物の粗大化ならびに/または再溶解により硬度が再び低下し始める前の、硬度の上昇が最大値に到達する焼き戻しグラフ上の点である。
【0039】
鋼製品を製造する新たな方法は、
(a)以下の少なくとも一つの成分を含む組成を有する鋼を提供するステップ:
%Ni<1% または
%Cr>4% または
%C≧0.33% または
%Mo>2.5% または
%Al<0.6% または
W、Zr、Ta、Hf、Nbの少なくとも一つ≧0.01% または
S、P、Bi、Se、Teの少なくとも一つ≧0.01%、
(b)選択された組成において、熱処理(Ac1)によりオーステナイトの形成を開始させる臨界温度を定めるステップ、
(c)前記鋼をAc1を超える温度に加熱し、冷却する熱処理を実施するステップ
を有する。
【0040】
この方法は、さらに、少なくとも50vol%のベイナイトからなる微細構造により特徴付けられることが好ましい。他の実施例は、さらに、少なくとも50vol%の侵入型マルテンサイト、2.5~60vol%の残留オーステナイト、および固溶体中の2wt%以上の鉄よりも強い炭化物フォーマーからなる微細構造を有する。別の実施例は、少なくとも50vol%の侵入型マルテンサイトからなる微細構造を有し、残留オーステナイトは2.5vol%未満存在し、鉄よりも強い炭化物フォーマーは、固溶体中に3wt%以上存在する。
【0041】
本発明の方法の別の実施例は、さらに、印加熱処理により鋼の焼き戻しグラフを定めるステップ、応力緩和ステップまたは最大二次硬度ピーク未満の温度での鋼の焼き戻しステップ、鋼を機械加工するステップ、焼き戻しグラフにより、4HRc以上の硬度上昇に対応する温度まで加熱する熱処理を実施するステップ、を有する。
【0042】
本発明は、ホットスタンプ工具用途の鋼を得ることに適している。本発明の鋼は、特に、プラスチックの射出工具に使用された際に効果を発揮する。またこれらは、ダイキャストの工具として適する。本発明の鋼が対象とする別の分野は、描画および切断シートまたは他の摩耗部材である。また、本発明の鋼は、特に密閉ダイ鍛造のような鍛造用途にも極めて興味深い。また、本発明の鋼は、医療用、栄養、および製薬ツール用途に対しても特に興味深い。
【0043】
本発明は、特に、高い熱伝導度を有する鋼を使用する際に適する(熱伝導度は、約35W/mK、好ましくは38W/mK、より好ましくは42W/mK、さらに好ましくは48W/mK、いっそう好ましくは52W/mK)。なぜならこれらの熱処理は、しばしば、複雑であるためであり、特に大きく複雑な形状を有するダイの場合、複雑である。そのような場合、本発明の利用により、コスト削減が可能になる。本発明の好適実施例では、鋼、特に高熱伝導鋼は、重量百分率で、
%Ceq=0.16~1.9 %C=0.16~1.9 %N=0~1.0 %B=0~0.6
%Cr<3.0 %Ni=0~6 %Si=0~1.4 %Mn=0~3
%Al=0~2.5 %Mo=0~10 %W=0~10 %Mn=0~3
%Ta=0~3 %Zr=0~3 %Hf=0~3 %V=0~4
%Nb=0~1.5 %Cu=0~2 %Co=0~6
残りの成分は鉄およびトレース元素であり、
%Ceq=%C+0.86*%N+1.2*%B
%Mo+1/2・%W>2.0
の組成を有する。
【0044】
この組成は、請求項1および3の限定のない発明を構成する。
【0045】
本願において、トレース元素とは、特に記載がない限り、2%未満含まれるいかなる元素をも意味する。ある用途では、トレース元素は、1.4%未満であることが好ましく、0.9%未満であることがより好ましく、時々0.78%未満であることがより好ましい。トレース元素として想定される元素は、H、He、Xe、Be、O、F、Ne、Na、Mg、P、S、Cl、Ar、K、Ca、Sc、Fe、Zn、Ga、Ge、As、Se、Br、Kr、Rb、Sr、Y、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、In、Sn、Sb、Te、I、Xe、Cs、Ba、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Re、Os、Ir、Pt、Au、Hg、Tl、Pb、Bi、Po、At、Rn、Fr、Ra、Ac、Th、Pa、U、Np、Pu、Am、Cm、Bk、Cf、Es、Fm、Md、No、Lr、Rf、Db、Sg、Bh、Hs、Mt、および/またはこれらの組み合わせである。ある用途では、いくつかのトレース元素は、通常、特定の特性に対して有害である場合がある(時々、熱伝導性および靭性など)。そのような用途では、トレース元素は、0.4%未満、好ましくは0.2%未満、より好ましくは0.14%未満、さらに好ましくは0.06%未満にすることが望ましい。
【0046】
上記範囲内の全ての想定される組成から、これらが本発明に記載の微細構造を得る上で興味深いことは明らかである。前述の組成範囲内における僅かの範囲は、ある用途に特に好ましい。例えば、%Ceq量は、0.22%または0.33%の最小値を有することが好ましい。一方、極めて高い伝導性用途の場合、これは、%Cが1.5%未満であり、好ましくは0.9%未満である。%Ceqは、マルテンサイト変態が開始される温度の低下に大きな影響を及ぼす。従って、高い耐摩耗性用途または微細なベイナイトが望ましい用途では、%Ceqの値は、大きいほど好ましい。ある場合には、Ceqの最大値は0.4%であることが好ましく、しばしば、0.5%超であることが好ましく、0.8%超であることがさらに好ましい。マルテンサイト変態温度を低下させる他の元素が存在する場合(例えば%Ni)、低い%Ceqと同じ効果が得られる(前述のものと同じレベル)。また、%Moeq(%Mo+)1/2・%W)レベルは、最大の熱伝導性では高く、通常約3.0%超であり、しばしば3.5%超であり、好ましくは4%または4.5%超である。しかしながら、%Moeqが高くなると、ベイナイト変態時間が短くなる傾向にある。また、熱伝導度を高めたい場合、組成範囲は、通常2.8%未満の低い%Crを有し、これは1.8%未満であることが好ましく、0.3%未満であることがより好ましい。オーステナイトのフェライト/パーライトへの分解の速度を下げることにより、硬度を高める元素には、特に注意が必要である。この点で極めて有効なものは%Niであり、%Mnは幾分低い。従って、大きな断面では、しばしば、通常1%の最大%Ni量を有することが望ましく、これは1.5%であることが好ましく、3%であることがより好ましい。この目的のため%Mnが選定される場合、同じ効果を得るにはより多くの量が必要である。%Niの場合の約2倍の量が必要である。使用中に鋼が400℃を超える温度に達する用途では、%Crを有することが重要である。これは、焼き戻し抵抗を高める傾向があり、高温の熱拡散特性に影響を及ぼすという特異な効果を有する。ある組成では、0.8%の量で十分であるが、通常、最大1.0%であることが望ましく、1.5%であることが好ましい。ある用途では、2.7%である。また、耐摩耗性が重要となる用途では、強い炭化物フォーマーを使用することが有意である。%Zr+%Hf+%Nb+%Taは、0.2%超であり、好ましくは0.8%であり、より好ましくは1.2%である。また、%Vは、良好な炭化物フォーマーであり、これは、極めて微細な領域を形成する傾向があるが、他のフォーマーよりも熱伝導度への影響が大きい。熱伝導性が要求されるものの、あまり高い値は要求されず、耐摩耗性および靭性が重要な用途では、通常、0.1%超の量で使用され、これは0.1%超であることが好ましく、0.3%超であることがより好ましく、0.55%超であることがさらに好ましい。特に良好な耐摩耗性が要求される用途では、1.2%超、または2.2%超含むものが使用される。特に本発明の目的にあまり影響を及ぼさない、他の元素が存在しても良い。通常、他の元素(具体的に記載されていない元素)を2%未満、好ましくは1%未満、より好ましくは0.45%未満、さらに好ましくは0.2%未満含むことが予想される。
【0047】
従って、そのような種類の鋼では、特殊な高い最終焼き戻し温度(硬度上昇のための熱処理の最終部分)が使用され、50HRcを超える硬度が選定された際に、しばしば600℃を超える。本発明の鋼において、47HRcの硬度を得ることができ、時折52HRcを超え、しばしば53HRcを超え、耐摩耗性の点で特に有意な実施例では、590℃を超える一つの焼き戻しサイクルで、54HRcを超える硬度が可能となる。熱拡散性は8mm2/s超であり、しばしば9mm2/s超であり、10mm2/s超であり、特に11mm2/sを超え、さらには12mm2/sを超え、時には12.5mm2/sを超える低散乱構造が得られる。600℃を超え、しばしば640℃を超え、時々660℃を超えるような最後の焼き戻しサイクルにより、46HRc、さらには50HRcを超える硬度が得られるとともに、熱拡散性が10mm2/s超または12mm2/s超であり、特に14mm2/s超、さらには15mm2/s超、時折16mm2/s超の低散乱構造が得られる。これらの合金は、より低い焼き戻し温度で、より高い硬度を有しても良いが、ほとんどの用途では、高い焼き戻し抵抗が望ましい。極めて特殊な実施例の例から明らかなように、本発明では、高炭素および高合金により、高体積比の硬質粒子、60HRcを超える硬度が得られ、熱拡散性が8mm2/s超であり、通常9mm2/s超である低拡散構造が得られる。
【0048】
本発明の好適実施例では、鋼は、重量%表示で、
%Ceq=0.15~3.0 %C=0.15~3.0 %N=0~1.6 %B=0~2.0
%Cr>4.0 %Ni=0~6.0 %Si=0~2.0 %Mn=0~3
%Al=0~2.5 %Mo=0~15 %W=0~15 %Ti=0~2
%Ta=0~3 %Zr=0~3 %Hf=0~3 %V=0~12
%Nb=0~3 %Cu=0~2 %Co=0~6
残りは鉄およびトレース元素で構成され、
%Ceq=%C+0.86*%N+1.2*%B
の組成を有する。
【0049】
この組成は、請求項1および3の限定を含まない本発明を構成する。
【0050】
全ての可能な組成から、本発明に記載の微細構造が得られることは明らかである。前述の組成内のごく僅かの範囲は、ある用途に特に有意である。例えば、%Ceq量については、0.22%の最大値を有することが好ましく、0.28%であることがより好ましく、0.34%であることがさらに好ましい。耐摩耗性が必要な場合、最大値は0.42%であり、0.56%であることが好ましい。高いレベルの%Ceqは、マルテンサイト変態開始温度が低いため好ましい。そのような用途では、%Ceqの最大値は、1.2%であり、好ましくは1.8%であり、より好ましくは2.8%である。靭性が重要な用途では、低%Ceq量が好ましく、最大レベルは、0.9%未満であり、0.7%未満が好ましく、高靭性では、0.57%未満である。4%Crで有意な環境抵抗性が得られるが、通常、%Crのレベルは、高いことが好ましく、通常、8%超であり、あるいは10%超である。塩化物のようなある特定の攻撃に対しては、鋼中の%Moとして、通常2%超、さらには3.4%超が推奨され、この場合、有効な効果が得られる。また、耐摩耗性が重要な用途では、強炭化物フォーマーを使用することが有意であり、%Zr+%Hf+%Nb+%Taは、0.2%超であり、0.8%超であることが好ましく、1.2%超であることがより好ましい。また、%Vは、良好な炭化物フォーマーであり、極めて微細な領域を形成する傾向がある。ただし、他のフォーマーよりも熱伝導度に及ぼす影響が大きくなる。熱伝導性が必要なものの、それほど高い熱伝導性が要求されず、耐摩耗性および靭性の両方が重要な用途では、通常、0.1%を超える量が使用され、これは好ましくは0.54%を超え、より好ましくは1.15%を超える。極めて高い耐摩耗性が必要な用途では、6.2%よりも高い量、8.2%を超える量が使用される。特に、本発明の目的に僅かの影響しか与えない、他の元素が存在しても良い。通常、他の元素(具体的に記載されたものに限られない)は、2%未満であり、1%未満であることが好ましく、0.45%未満であることがより好ましく、0.2%未満であることがさらに好ましい。
【0051】
前述の鋼は、改善された環境耐性が要求される用途に特に興味深い。特に高レベルの機械的特性が望ましく、その実施のためまたは関連する歪みのための熱処理関連コスト(時間および金銭的な面で)が顕著な場合に有意である。
【0052】
本発明の別の好適実施例では、鋼は、重量%表示で、
%Ceq=0.15~2.0 %C=0.15~0.9 %N=0~0.6 %B=0~0.6
%Cr>11.0 %Ni=0~12 %Si=0~2.4 %Mn=0~3
%Al=0~2.5 %Mo=0~10 %W=0~10 %Ti=0~2
%Ta=0~3 %Zr=0~3 %Hf=0~3 %V=0~12
%Nb=0~3 %Cu=0~2 %Co=0~12、
残りは鉄およびトレース元素で構成され、
%Ceq=%C+0.86*%N+1.2*%B
の組成を有する。
【0053】
この組成は、請求項1および3の限定を含まない本発明を構成する。
【0054】
全ての可能な組成から、本発明に記載の微細構造が得られることは明らかである。前述の組成内のごく僅かの範囲は、ある用途に特に有意である。例えば、%Ceq量については、0.22%の最小値を有することが好ましく、これは0.38%であることがより好ましく、0.54%であることがさらに好ましい。耐摩耗性が重要な場合、最小値は0.82%であり、1.06%であることが好ましく、1.44%以上であることがより好ましい。高いレベルの%Ceqは、マルテンサイト変態開始温度が低いため好ましい。そのような用途では、%Ceqの最大値は、0.8%であり、好ましくは1.4%であり、より好ましくは1.8%である。靭性が重要な用途では、低%Ceq量が好ましく、最大レベルは、0.9%未満であり、0.7%未満が好ましく、高靭性では、0.57%未満である。マルテンサイト微細構造の耐食性は、11%Crで得られるが、通常、より高いレベルの%Crが推奨され、通常、12%超または16%超である。塩化物のようなある特定の攻撃に対して、および二次硬度ピークの硬度勾配を高めるためには、鋼中の%Moeqは、0.4%超であることが推奨され、これは1.2%超であることが好ましく、2.2%超であることがより好ましい。この場合、有効な効果が得られる。また、耐摩耗性または熱伝導性が重要な用途では、強炭化物フォーマーを使用することが有意である。%Zr+%Hf+%Nb+%Taは、0.1%超であり、0.3%超であることが好ましく、1.2%超であることがより好ましい。また、%Vは、良好な炭化物フォーマーであり、極めて微細な領域を形成する傾向がある。ただし、他のフォーマーよりも熱伝導度に及ぼす影響が大きくなる。熱伝導性が必要なものの、それほど高い熱伝導性が要求されず、耐摩耗性および靭性の両方が重要な用途では、通常、0.1%を超える量が使用され、これは好ましくは0.24%を超え、より好ましくは1.15%を超える。極めて高い耐摩耗性が必要な用途では、4.2%よりも高い量、8.2%を超える量が使用される。特に、本発明の目的に僅かの影響しか与えない、他の元素が存在しても良い。通常、他の元素(具体的に記載されたものに限られない)は、2%未満であり、1%未満であることが好ましく、0.45%未満であることがより好ましく、0.2%未満であることがさらに好ましい。
【0055】
前述の鋼は、耐食性または耐酸化性が要求される用途において、特に興味深い。特に高レベルの機械的特性が要望され、関連する熱処理コスト(時間および金銭的な面で)が顕著な場合に有意である。
【0056】
本発明の別の実施例では、鋼は、重量%表示で、
%Ceq=0.5~3.0 %C=0.5~3.0 %N=0~2.2 %B=0~2.0
%Cr=0.0~14 %Ni=0~6.0 %Si=0~2.0 %Mn=0~3
%Al=0~2.5 %Mo=0~15 %W=0~15 %Ti=0~4
%Ta=0~4 %Zr=0~12 %Hf=0~4 %V=0~12
%Nb=0~4 %Cu=0~2 %Co=0~6、
残りは鉄およびトレース元素で構成され、
%Ceq=%C+0.86*%N+1.2*%B
の組成を有する。
【0057】
この組成は、請求項1および3の限定を含まない本発明を構成する。
【0058】
全ての可能な組成から、本発明に記載の微細構造が得られることは明らかである。前述の組成内のごく僅かの範囲は、ある用途に特に有意である。例えば、%Ceq量については、0.62%の最小値を有することが好ましく、これは0.83%であることがより好ましく、1.04%であることがさらに好ましい。耐摩耗性が重要な場合、最小値は1.22%であり、1.46%であることが好ましく、1.64%以上であることがより好ましい。高いレベルの%Ceqは、マルテンサイト変態開始温度が低いため好ましい。そのような用途では、%Ceqの最大値は、0.8%であり、好ましくは2.4%であり、より好ましくは2.8%である。%Crは、特に有意な2つの範囲を有する:3.2%~5.5%および5.7%~9.4%である。二次硬度ピークの硬度勾配を高めるため、鋼中の%Moeqは、しばしば2.4%超であることが推奨され、これは4.2%超であることが好ましく、10.2%超であることがより好ましい。この場合、有効な効果が得られる。また、耐摩耗性または熱伝導性が重要な用途では、強炭化物フォーマーを使用することが有意である。%Zr+%Hf+%Nb+%Taは、0.1%超であり、1.3%超であることが好ましく、3.2%超であることがより好ましい。また、%Vは、良好な炭化物フォーマーであり、極めて硬い炭化物の極めて微細な領域を形成する傾向がある。従って、耐摩耗性および靭性の両方が必要な場合、通常1.2%を超える量が使用され、これは2.24%超であることが好ましく、3.15%超であることがより好ましい。極めて高い耐摩耗性が必要な用途では、6.2%超または10.2%超の量が使用される。他の元素、特に、本発明の目的に僅かの影響しか与えない、他の元素が存在しても良い。通常、他の元素(具体的に記載されたものに限られない)は、2%未満であり、1%未満であることが好ましく、0.45%未満であることがより好ましく、0.2%未満であることがさらに好ましい。鉄よりも強い炭化物フォーマーによる耐摩耗性の実現は、コスト効果があり、しばしば、より広い方法で使用され、%Cr+%W+%Mo+%V+%Nb+%Zrは、4.0%超であり、好ましくは6.2%超であり、より好ましくは8.3%超さらには10.3%超である。
【0059】
前述の鋼は、高耐摩耗性が要求される用途において、特に興味深い。特に高レベルの硬度が望ましく、その実施のためまたは関連する歪みのための熱処理関連コスト(時間および金銭的な面で)が顕著な場合に有意である。
【0060】
本発明の別の好適実施例では、鋼は、重量%表示で、
%Ceq=0.2~0.9 %C=0.2~0.9 %N=0~0.69 %B=0~0.6
%Cr=0.0~4.0 %Ni=0~6.0 %Si=0~2.8 %Mn=0.2~3
%Al=0~2.5 %Mo=0~6 %W=0~8 %Ti=0~2
%Ta=0~2 %Zr=0~2 %Hf=0~2 %V=0~4
%Nb=0~2 %Cu=0~2 %Co=0~6、
残りは鉄およびトレース元素で構成され、
%Ceq=%C+0.86*%N+1.2*%B、
の組成を有し、
%Si+%Mn+%Ni+%Cr>2.0または
%Mo>1.2または
%B>2ppm
である。
【0061】
この組成は、請求項1および3の限定を含まない本発明を構成する。
【0062】
全ての可能な組成から、本発明に記載の微細構造が得られることは明らかである。前述の組成内のごく僅かの範囲は、ある用途に特に有意である。例えば、%Ceq量については、0.22%の最小値を有することが好ましく、これは0.28%であることがより好ましく、3.2%、さらには3.6%であることがさらに好ましい。高いレベルの%Ceqは、マルテンサイト変態開始温度が低いため好ましい。そのような用途では、%Ceqの最大値は、0.6%であり、好ましくは0.8%であり、より好ましくは0.9%である。%Crは、特に有意な2つの範囲を有する:0.6%~1.8%および2.2%~3.4%である。特定の実施例では、%Crは2%であることが好ましい。二次硬度ピークの硬度勾配を高めるため、鋼中の%Moeqは、しばしば1.4%超であることが推奨され、これは1.2%超であることが好ましく、1.6%超であることがより好ましく、2.2%超がさらに好ましい。この場合、有効な効果が得られる。本発明のこの特定の用途では、元素は、ほとんど固溶体中に存在し、%Mn、%Siおよび%Niなどの代表的なものは、極めて重要である。固溶体中に留まる全ての元素の合計は、0.8%を超え、好ましくは1.2%を超え、より好ましくは1.8%を超え、さらには2.6%を超える。%Mnおよび%Siが存在する必要があることは明らかである。%Mnは、しばしば、0.4%を超える量で存在し、好ましくは0.6%、より好ましくは1.2%を超える。特定の用途では、Mnは、1.5%である。%Siは、より重要である。なぜなら、顕著な量で存在する場合、セメンタイトの粗大化の遅延に大きく寄与するからである。従って、%Siは、0.4%を超える量で存在し、好ましくは0.6%、より好ましくは0.8%を超える。セメンタイトに及ぼす影響が続くと、この量は、より多くなり、しばしば、1.2%を超え、好ましくは1.5%を超え、1.65%を超える。また、耐摩耗性または熱伝導性が重要となる用途では、強炭化物フォーマーを使用することが有意であり、%Zr+%Hf+%Nb+%Taは、0.1%を超え、好ましくは1.3%を超え、予路好ましくは2.2%を超える。また、%Vは、良好な炭化物フォーマーであり、極めて硬い炭化物の極めて微細な領域を形成する傾向がある。従って、耐摩耗性および靭性の両方が必要な場合、通常0.2%を超える量が使用され、これは0.4%超であることが好ましく、0.8%超であることがより好ましい。極めて高い耐摩耗性が必要な用途では、1.2%超または2.2%超の量が使用される。他の元素、特に、本発明の目的に僅かの影響しか与えない、他の元素が存在しても良い。通常、他の元素(具体的に記載されたものに限られない)は、2%未満であり、1%未満であることが好ましく、0.45%未満であることがより好ましく、0.2%未満であることがさらに好ましい。そのような用途で所望の機械的特性を得るための臨界元素が存在する必要があり、%Si+%Mn+%Ni+%Crは、2.0%を超え、好ましくは2.2%を超え、より好ましくは2.6%を超え、さらに好ましくは3.2%を超える。ある用途では、%Crは、%Moと置換される。二次硬度ピークへの影響がより大きくなり、改善された熱伝導性により鋼が悪影響を受けるため、この場合も、同じ限度が適用される。%Si+%Mn+%Ni+%Cr>2.0%の代わりに、%Moの存在は、1.2%を超える場合、好ましくは1.6%を超え、より好ましくは2.2%を超える場合、単独で扱うことができる。コストが重要な用途では、%Si+%Mn+%Ni+%Crの表現は、%Si+%Mnと置換されることが有意であり、同じ好ましい限界が提供できる。ただし、他の合金元素が存在する場合、下限は、%Si+%Mn>1.1%で使用され、好ましくは1.4%、より好ましくは1.8%である。ある用途では、%Niは、少なくとも1%であることが望ましい。この種の鋼では、マルテンサイト変態開始温度(Ms)に近い温度における硬いベイナイト処理が有効である(しばしば、オーステナイト変態の70%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは82%以上が、520℃未満で生じ、好ましくは440℃未満、より好ましくは410℃、または380℃未満で生じる。ただし、マルテンサイト変態開始温度(Ms)を50℃下回る場合を除く)。機械加工用の硬度を下げるため、セメンタイト分離およびセメンタイト粗大化の近傍で、ただしクロム炭化物(あるいはモリブデン炭化物)析出未満で、1または2以上の長時間焼き戻しサイクルが使用される。実際の温度は、組成に依存するが、しばしば380℃から460℃の間である。
【0063】
また、前述の鋼は、大きなプラスチック射出ツールの製造に適用され得る。特に、高い機械的特性および靭性を有する低コストの鋼が必要な用途において、注目される。本発明のこの特定の用途は、高靱性および高降伏強度を有する安価な鋼が要求される他の用途に対しても、重要である。特に、鋼に硬質表面が要求される際、および窒化またはコーティングステップが硬化ステップと同時に実施される際には、有意である。
【0064】
コスト抑制につながる本発明の極めて重要な態様は、硬質状態に要求される機械加工の量が最小限に抑制され、あるいは排除される際に得られる。これは、高硬度での機械加工にはコストがかかるためである。本発明では、これが可能となり、オーステナイト化未満の硬質低温熱処理により、変形が抑制される。より重要なことは、変形は、再現性があり、等方的であるため、これに対処することができ、軟化状態における機械加工の際にこれを補償できることである。組成および熱処理は、熱処理の最後の部分における変形が十分に小さく、硬質状態での機械加工を避けることができるように選定される。これにより、サブオーステナイト化温度硬化熱処理と、窒化または他の表面処理と同時に行うことができる。示された例では、本発明の多くの鋼において、%Crおよび%Siが小さく、%Moeqが大きくされ、またベイナイト処理が選定された場合、材料は、低温焼き戻し温度で収縮し、最大二次硬度ピーク付近の温度で膨脹し、高温で再度収縮する。従って、材料が焼き戻しされず、あるいは単に極めて低い温度で焼き戻しされた場合、最大二次硬度を得る温度を超える温度を見出すことが可能となる。これにより、熱処理の最後の部分において、正味の変形をほとんど生じさせないことができる(膨脹による収縮の補填)。従って、本発明の特定の実施例では、クエンチ後(焼き戻しを伴うまたは伴わない)に機械加工用の十分に低い硬度を有する鋼が供給され、熱処理の最終硬度上昇部分が適用された際に、極めて僅かの、再現性のある等方性の変形しか生じない。従って、鋼は、熱処理の最後のサブオーステナイト化温度硬化部分において、0.2%未満、好ましくは0.1%未満、さらに好ましくは0.05%未満、いっそう好ましくは0.01%未満の変形が可能となる。また、2つの異なる方向における変形の差、変形の等方性は、60%より大きくすることができ、好ましくは72%よりも大きく、しばしば、86%よりも大きく、98%よりも大きくなる。再現性に関しては、本発明の実施により、硬化プロセスの最後の部分において、60%を超える変形の再現性を得ることが可能となる。これは、78%を超え、しばしば86%を超え、さらに96%を超える(再現性は、2つの選択された同一処理により、同じ配向において生じる変形の百分率の差として測定される)。
【0065】
本発明の鋼の多くの主態様の一つは、大きな量であっても、容易に機械加工できることであり、後に所望のワーク硬度を得るため、オーステナイト化は要求されない。また、鋼において、析出硬化は必要ではない。すなわち、オーステナイト化を含む処理の第1の部分の後、低硬度であることが重要である。通常、速いターンにおいて48HRcが得られる。ただし、ミル処理ステップが含まれる場合、硬度は、45HRcを超えず、好ましくは44HRc未満であり、より好ましくは42HRc未満である。ホーニングまたはスクリュータップ処理のようなより複雑な操作が必要な場合、得られる硬度は、40HRcよりも低く、好ましくは38HRcよりも低く、さらには36HRcよりも低いことが望ましい。
【0066】
熱処理の最後の部分に含まれる温度は、常にオーステナイト化温度よりも低く、ある用途では重要となる。例えば、ある用途では、そのような温度は、できるだけ高いことが望ましい。焼き戻し抵抗、または高温焼き戻しに関連する高い安定性の利点を得るためである。従って、この用途では、温度が600℃を超え、好ましくは620℃、より好ましくは640℃、さらに好ましくは660℃を超えても、ワーク硬度を得る機能を有することが望ましい。一方、ある用途では、表面熱処理に使用される一般的な温度での、硬化サイクルの最後の部分の温度、特に、この処理によって許容可能な少ない変形、または大きな変形安定性が生じる際の温度は、例えば480℃、500℃、540℃、および560℃である。
【0067】
本発明の鋼において、低温焼き戻しにより、硬度を高める一つの方法は、鋼の供給の際に、炭化物が存在することであり、これは、全ての炭化物の少なくとも30vol%、好ましくは35vol%以上、より好ましくは42vol%、さらに好ましくは58vol%以上が、炭化物の全ての金属成分の少なくとも50at%、好ましくは55at%、より好ましくは62at%、さらに好ましくは73at%の鉄を有することが望ましい。別の方法では、供給の際に、鋼の微細構造は、合金化炭化物の70%未満存在し、好ましくは合金化炭化物の65%未満、より好ましくは58%未満、さらに好ましくは42%未満存在し、これは、例えばサーモカルクまたはMTDATAのような相平衡ソフトウェアパッケージのシミュレーションにより選定された組成で得られる(最大vol%)。
【0068】
熱処理の最後の部分における硬度の上昇は、主として、合金炭化物の析出によって得られるが、残留オーステナイトの変態の結果として生じても良い。本発明の多くの組成において、マルテンサイトからのセメンタイトの分離は、約450℃の温度で生じ、これはしばしば、本発明に使用される硬度の低下につながり、低硬度機械加工供給条件が提供される。焼き戻しグラフにおいて硬度が最低となる点は、300℃であり、あるいは540℃である。本発明の全ての可能な微細構造において、熱処理の最終部分における高温での焼き戻しにより、セメンタイトおよび炭素が溶解し、固溶体に入ると、合金化炭化物の分離またはさらなる析出が生じ、炭化物含有炭化物フォーマー(Cr、Mo、W、V、N、Zr、Ta、Hf…)は、しばしば、炭化物含有元素と、例えば鉄のような他のものとの混合物となる。これらの炭化物は、しばしば、M7C3、M4C3、MC、M6C、M2Cとして析出する。これが生じる温度は、しばしば、400℃超であり、好ましくは450℃、より好ましくは480℃、さらに好ましくは540℃である。硬度の上昇に寄与する本発明のある組成で得られる別の機構は、残留オーステナイトの分解である。
【0069】
利用可能な炭素、すなわち炭化物の形態でいかなる他の元素とも結びついていない、固溶体中に認められ、または合金化炭化物の形態で認められない炭素は、いったん適切な焼き戻しステップが適用されると、硬度の上昇に影響を及ぼす。
【0070】
本発明は、鋼に対して多くの機械加工ステップが行われる場合、およびバルクのワーク硬度が依然高いことが望まれる場合、特に有意であることは明らかである。実際、本発明は、鋼ブロックの元の重量の10%を超える部分が除去され、最終形状が得られる際に、特に有意である。26%を超える部分が除去され、54%を超える部分が除去される場合、特に有意である。大部分の機械加工ステップは、通常、オーステナイト化および1または2以上の焼き戻しサイクルを含む熱処理の第1の部分と、熱処理の最終部分との間に行われる。実際には、しばしば、この状態で、全機械加工ステップの少なくとも32%が生じ、100%ではない場合、しばしば全機械加工ステップの54%超、全機械加工ステップの82%超が生じる。ある例では、特に難しい場合、オーステナイト化を含む熱処理の一部の前に、例えば、長孔または他の機械加工のような、ある機械加工ステップが行われることが有意である。前述のように、しばしば、硬質状態での機械加工ステップが生じるが、通常、少量でもコストがかかる。
【0071】
高レベルの硬度および耐摩耗性を得るため、時折本発明において、硬質粒子の高い体積比が使用される。硬質粒子(炭化物、窒化物、ホウ化物、およびこれらの混合物)の体積比は、しばしば、3%超であり、好ましくは4.2%超であり、より好ましくは5.5%超であり、ある高摩耗用途では、8%超である。初期の硬質粒子のサイズは、有効な耐摩耗性および極端に低くない靭性を得る上で、極めて重要である。本願発明者らは、所与の硬質粒子の体積比において、硬質粒子のサイズの増大とともに、材料全体の弾性が消滅することを観測した。また、驚くべきことに、硬質粒子のサイズが増大すると、粒子自身の破壊靭性が維持される場合、全体の破壊靭性が上昇することが観測された。耐摩耗性に関し、臨界硬質粒子サイズの存在が観測された。これよりも小さい場合、研磨剤に対して粒子は有効ではない。この臨界サイズは、研磨剤のサイズおよび通常圧力に依存する。研磨粒子が小さなサイズ(通常20ミクロン未満)のある用途では、一次硬質粒子は、10μm未満であり、6μm未満であることが望ましい。ただし、いかなる場合も、平均サイズは1μm以上である。大きな研磨粒子によって摩耗が生じる用途では、大きな一次硬質粒子が望ましい。従って、ある用途では、ある一次硬質粒子は、12μmよりも大きく、しばしば20μmよりも大きく、ある用途では42μmよりも大きいことが望ましい。
【0072】
機械的強度が耐摩耗性よりも重要な用途であって、靭性に対してあまり妥協せずに、そのような機械的強度を得る必要がある用途では、小さな二次硬質粒子の体積比が重要となる。本願に使用される「小さな二次硬質粒子」と言う用語は、最大等価直径(硬質粒子の最大表面での断面として、等価表面を有する円の直径)が7.5nm未満であることを意味する。これは、体積比を有することが望ましい。そのような用途において、小さな二次硬質粒子の体積比は、0.5%を超える。ホットワーク用途における機械的特性の飽和は、約0.6%で生じると思われるが、本願発明者らによれば、低温で高いプラスチック変形抵抗が必要なある用途では、0.6%を超える量が有意であり、しばしば、0.8%を超え、さらには0.94%を超えることが観測されている。二次炭化物の形態(サイズを含む)および体積比は、熱処理により変化し、示された値は、適当な熱処理で得られる値である。
【0073】
前述の記載に関し、本発明に重要な鋼の全ての可能な組成をグループ化することができる。当然のことながら、本発明に記載の微細構造が得られる範囲内の全ての可能な組成が対象となる。その結果、鋼は、以下の組成限定を有する:
%Ni<1%、または
%Cr>4%、または
%C≧0.33%、または
%Mo>2.5%、または
%Al<0.6%、または
W、Zr、Ta、Hf、Nb、La、Acの少なくとも一つ≧0.01%、または
S,、P、Bi、Se、Teの少なくとも一つ≧0.01%。
【0074】
本発明のある鋼では、%Niの量は多いことが望ましいが、他の例では、本発明の機能のため、含有量を十分に抑制する必要がある場合、他の代替組成の限定の組み合わせでは、%Ni<1%が有効な限界であり、%Ni<0.8または%Ni<0.2が好ましい。また、%Crに関して、高熱伝導性の鋼は、低%Crであり、しばしば、3%未満、または0.1%未満であるが、これらの組成は、%Mo>2.5%、%Al<0.6%のように、この組成の他の代替物により網羅され、高い耐摩耗性を得る場合、%C≧0.33%である。耐候性鋼の場合、%Cr>4%である。実際、この組成限定では、%Cr>5.3%であり、%Cr>7.2%であることが好ましい。また、%Mo>3.2%が好ましく、%Moの代わりに、%Moeqを含む限定では、%Moeq>2.8%または%Moeq>3.4または%Moeq>4.2%である。別の場合、%Al<0.4または%Al<0.16が好ましく、また%Siとの組み合わせが有効である。なぜならこれらの両方は、同様の目的を有し、すなわち靭性に及ぼすFe3Cの形態の悪影響を抑制するからである。この点において、%Alとともに、%Siの追加の限定があっても良く、%Si<0.8、好ましくは%Si<0.4、さらに好ましくは%Si<0.2である。炭素の場合、%C>0.36,または%Cr>0.42が好ましい。また、代わりに炭素等量での限定も可能である。%Ceq≧0.33、好ましくは%Ceq≧0.36、または%Ceq>0.46である。選定された強炭化物フォーマー(W、Zr、Ta、Hf、Nb、La、Ac)の場合、0.08%超、さらには0.16%超が好ましい。バナジウムの場合、この元素は、原理的に、2つの選言的追加限定が追加される。一つは、その存在の限定であり、高い耐摩耗性を有しない高熱伝導性鋼の場合、注意が必要である。%V<1であり、%V<0.4であることが好ましく、%V<0.2であることがより好ましい。より重要なことは、高い耐摩耗性が要求される用途では、%V>0.3であり、好ましくは%V>1.2であり、より好ましくは%V>3.2である。
【0075】
機械加工性を高めるため、S、As、Te、Bi、またはさらにPb、Ca、Cu、Se、Sbまたは他の元素を使用しても良い。最大量は1%であるが、Cuの場合は、最大量2%まで可能である。大部分の共通の物質である硫黄は、マトリクスの熱伝導性に悪影響を及ぼすが、通常使用されるレベルで、機械加工性を高める。しかしながら、この存在は、球状二硫化マンガンの形態で、Mnとバランスされる必要がある。熱伝導性を最大限高める必要がある場合、これは、靭性に対する影響が少なく、2つの元素の固溶体中の残りの量が少なくなる。本発明の目的にあまり大きな影響を及ぼさない、他の元素が存在しても良い。通常、2%未満の他の元素(特に言及していない元素)が想定され、これは、好ましくは1%未満、より好ましくは0.45%未満、さらに好ましくは0.2%未満である。
【0076】
本発明の鋼は、いかなる冶金学的プロセスでも製造することができ、サンド鋳造法、ロストワックス鋳造法、連続鋳造法、電気炉内溶融法、真空誘導溶融法などがある。いかなる種類のアトマイズ法とともに、粉末冶金プロセスも使用できる。その後、HIP、CIP、コールドプレスまたはホットプレスのような圧縮法、焼結法(液相を用いたまたは用いないもの。材料全体に同時に、または層状に、または局部的に焼結プロセスが生じることには無関係)、レーザ法、スプレー形成法、熱スプレーまたは熱コーティング法、コールドスプレー法が実施される。合金は、所望の形状が直接得られても良い。あるいは他の冶金プロセスで改良されても良い。いかなる精製冶金プロセスが適用されても良く、例えばVD、ESR、AOD、VAR…がある。鍛造または圧延は、靱性向上に良く使用され、ブロックの3次元鍛造もある。本発明の特殊鋼は、いかなる形状で得られても良く、例えば、棒状、ワイヤ状、または粉末状(はんだまたは溶接合金として使用される)である。また、レーザ、プラズマ、または電子ビーム溶接は、本発明の鋼で構成された粉末またはワイヤを用いて行われ得る。本発明の鋼は、また、熱スプレー技術にも使用でき、別の材料の表面に部分的に適用できる。本発明の鋼は、複合材料の一部として使用することもでき、例えば、別の相として埋設され、あるいは多相化材料の相として得られる。また、マトリクスとして使用した場合、混合方法(例えば機械的混合、摩擦、異なる材料の2または3以上のホッパによる噴射)により、他の相または粒子が埋設される。また本発明の鋼は、機能傾斜材料の一部となり、この場合、いかなる保護層または局部的な処理が使用されても良い。典型的なものは、以下のための表面処理または層である:
-摩擦学的特性を改善する:表面硬化(レーザ、誘導…)、表面処理(窒化、炭化、ホウ化、硫化、これらのいかなる組み合わせ)、コーティング(CVD、PVD、流動床、熱噴射、コールドスプレー、クラッド化…)。
-耐食性の向上:硬質クロム、パラジウム、化学ニッケル処理、耐食性樹脂のゾルゲル、耐食性または耐酸化性を提供する電解または無電解処理。
-機能が明らかな場合、他の機能層。
【0077】
また本発明の鋼は、最初の鋼フォーマットからある種の形状変化が要求されるような、高いワーク硬度(例えば高機械的負荷または摩耗)が必要な部品の製造に称することができる。例えば:鍛造用のダイ(オープンまたはクローズダイ)、押出、圧延。本発明は、特に、シートのホットスタンプ用またはホットプレス用のダイの製造に適する。熱可塑性および熱硬化性プラスチック形成用のダイは、この形態である。またダイは、形成または切断用である。
【0078】
(実施例)
本発明の鋼組成を高精度で異なるホットワーク用途に適用するいくつかの例について説明する。
【0079】
(例1)
45HRc以下の硬度で供給された高熱伝導性鋼(42W/mK超および8.5mm2/s超、50HRcで57W/mKおよび13.5mm2/sに達し、本例の全ての鋼において、熱伝導度および拡散性は、少なくとも40HRcまでの低い硬度で上昇する)を、機械加工の大部分を実施した後、48HRcを超える硬度に高めた。
【0080】
このため、本発明において、以下の組成範囲が使用される:
Ceq:0.3~0.6 Cr<3.0%(Cr<0.1%が好ましい)、
V:0~0.9%、
Si:<0.15%(酸化物インクルージョンの許容可能レベルで%Si<0.1が好ましい)
Mn:<1.0% Moeq:2.0~8.0、ここでMoeq=%Mo+1/2%W、
Ceq=%C+0.86*%N+1.2*%B。
【0081】
残りの元素は、できる限り低く抑えられ、タングステンよりも強い炭化物フォーマー(%Ta、%Zr、%Hf…)、および%Ni、%Cr、%Cuのような固溶体強化剤の例外を除き、いずれの場合も常に0.45%未満である。
【0082】
全ての値は重量%表示である。
以下の表1は、得られた特性を示す。
【0083】
【表1】
*供給は、550℃未満で少なくとも一回の焼き戻し処理を行ったベイナイト/マルテンサイト混合微細構造を有するもので実施。
**供給は、焼き戻し処理なし、または580℃未満で1もしくは2以上の焼き戻しサイクルを行った、大きな断面の大部分がベイナイト微細構造を有するもので実施。
***供給は、焼き戻し処理なし、または580℃未満で1もしくは2以上の焼き戻しサイクルを行った、マルテンサイト微細構造を有するもので実施。

(別の例)
【0084】
【表2】
*供給は、550℃未満で少なくとも一回の焼き戻し処理を行ったベイナイト/マルテンサイト混合微細構造を有するもので実施。
**供給は、焼き戻し処理なし、または580℃未満で1もしくは2以上の焼き戻しサイクルを行った、大きな断面の大部分がベイナイト微細構造を有するもので実施。
***供給は、焼き戻し処理なし、または580℃未満で1もしくは2以上の焼き戻しサイクルを行った、パーライトの島を含むマルテンサイト微細構造を有するもので実施。

(別の例)
【0085】
【表3-1】
【表3-2】
*未表示の元素が、2%未満存在する場合がある。
**これらの特定の組成では、CVNは、>40Jであった。
図1