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特開2024-1941酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シート、空気電池用正極、空気電池、及び酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シートの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024001941
(43)【公開日】2024-01-11
(54)【発明の名称】酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シート、空気電池用正極、空気電池、及び酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シートの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/96 20060101AFI20231228BHJP
   H01M 12/08 20060101ALI20231228BHJP
   H01M 4/90 20060101ALI20231228BHJP
   H01M 4/88 20060101ALI20231228BHJP
   C01B 32/00 20170101ALI20231228BHJP
【FI】
H01M4/96 M
H01M12/08 K
H01M4/90 X
H01M4/90 Y
H01M4/88 C
C01B32/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022100819
(22)【出願日】2022-06-23
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(71)【出願人】
【識別番号】397038037
【氏名又は名称】学校法人成蹊学園
(74)【代理人】
【識別番号】100206829
【弁理士】
【氏名又は名称】相田 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100145089
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 恭子
(72)【発明者】
【氏名】野村 晃敬
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 守弘
【テーマコード(参考)】
4G146
5H018
5H032
【Fターム(参考)】
4G146AA01
4G146AB07
4G146AC01A
4G146AC01B
4G146AC04B
4G146AC07A
4G146AC07B
4G146AC08A
4G146AC08B
4G146AC09A
4G146AC09B
4G146AD25
4G146BA04
4G146BC08
4G146CB01
5H018AA10
5H018BB05
5H018BB06
5H018BB08
5H018BB12
5H018EE05
5H018EE11
5H018EE12
5H018EE16
5H018HH02
5H018HH03
5H018HH05
5H018HH06
5H032AA02
5H032AS02
5H032AS12
5H032CC11
5H032EE08
5H032EE15
5H032HH02
5H032HH04
5H032HH08
(57)【要約】      (修正有)
【課題】空気電池のサイクル容量を大きなものとしつつ、充電過電圧を効果的に抑制することができる、酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シート、空気電池用正極、空気電池、及び酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シートの製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の一実施形態に係る酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シートは、多孔質炭素シートの表面に、自己の酸化還元反応によって金属酸化物の酸化分解を媒介する酸化還元媒介体が固着されており、前記酸化還元媒介体の固着量は、0.2mg/cm以上2.9mg/cm未満である。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質炭素シートの表面に、自己の酸化還元反応によって金属酸化物の酸化分解を媒介する酸化還元媒介体が固着されており、
前記酸化還元媒介体の固着量は、0.2mg/cm以上2.9mg/cm未満である、酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シート。
【請求項2】
BET比表面積が200m/g以上1100m/g以下である、請求項1に記載の酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シート。
【請求項3】
自立性である、請求項1又は2に記載の酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シート。
【請求項4】
厚みが40μm以上300μm以下である、請求項1から3のいずれか一項に記載の酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シート。
【請求項5】
前記酸化還元媒介体の酸化電位は、前記金属酸化物の平衡電位よりも大きい、請求項1から4のいずれか一項に記載の酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シート。
【請求項6】
前記金属酸化物は、過酸化リチウムである、請求項1から5のいずれか一項に記載の酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シート。
【請求項7】
前記酸化還元媒介体は、亜硝酸塩、硝酸塩、臭化物塩、ヨウ化物塩、及びフェノチアジン系化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1から6のいずれか一項に記載の酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シート。
【請求項8】
前記酸化還元媒介体は、亜硝酸リチウム、硝酸リチウム、臭化リチウム、及び10-メチルフェノチアジンからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1から7のいずれか一項に記載の酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シート。
【請求項9】
前記酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シートの比表面積は、前記多孔質炭素シートの比表面積に対して70%以上である、請求項1から8のいずれか一項に記載の酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シート。
【請求項10】
前記酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シートの電気抵抗は、前記多孔質炭素シートの電気抵抗より小さい、請求項1から9のいずれか一項に記載の酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シート。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか一項に記載の酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シートを含む空気電池用正極。
【請求項12】
請求項11に記載の酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シートを含む正極と、
負極と、
前記正極及び前記負極の間に存在する電解液と、
を備える空気電池。
【請求項13】
前記負極は、リチウム金属を含む、請求項12に記載の空気電池。
【請求項14】
自己の酸化還元反応によって金属酸化物の酸化分解を媒介する酸化還元媒介体を溶媒に溶解して酸化還元媒介体溶液を調製することと、
前記酸化還元媒介体溶液を多孔質炭素シートに接触させて、前記多孔質炭素シートの表面及び空隙の内部に前記酸化還元媒介体溶液を存在させることと、
前記酸化還元媒介体溶液を乾燥させて前記溶媒を除去し、前記酸化還元媒介体を前記多孔質炭素シートに固着させることと、
を含む、酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シートの製造方法。
【請求項15】
前記接触は、含浸、滴下、スプレー塗布、及びインクジェット塗布からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項14に記載の酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シートの製造方法。
【請求項16】
前記酸化還元媒介体は、無機塩であり、前記溶媒は、高極性溶媒又は中極性溶媒である、請求項14又は15に記載の酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シートの製造方法。
【請求項17】
前記酸化還元媒介体は、亜硝酸リチウム、硝酸リチウム、及び臭化リチウムからなる群より選ばれる少なくとも1種であり、前記溶媒は、1-プロパノールである、請求項14から16のいずれか一項に記載の酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シートの製造方法。
【請求項18】
前記酸化還元媒介体は、有機化合物であり、前記溶媒は、中極性溶媒又は低極性溶媒である、請求項14又は15に記載の酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シートの製造方法。
【請求項19】
前記酸化還元媒介体は、10-メチルフェノチアジンであり、前記溶媒は、アニソールである、請求項14、15、及び18からなる群のいずれか一項に記載の酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シートの製造方法。
【請求項20】
前記酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シートは、空気電池用正極である、請求項14から19のいずれか一項に記載の酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シート、空気電池用正極、空気電池、及び酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
再生可能エネルギーの普及や自動車の電動化要請により、軽量かつ大容量、すなわちより高いエネルギー密度をもつ蓄電池の開発が要求されている。実現が想定されうる二次電池の中で、リチウム空気電池は最も高い理論エネルギー密度を有しており、蓄電池の大幅な小型軽量化並びに大容量化が期待されている。
【0003】
リチウム空気電池は、負極活物質としてリチウム金属、正極活物質として大気中の酸素を電気化学反応に用いる電池である。放電時は、負極にて、リチウム金属が電解液中に溶出し(Li→Li+e)、正極にて、リチウムイオンが外部回路からの電子及び大気から吸収された酸素(O)と還元反応を起こして、過酸化リチウムが析出する(2Li+2e+O→Li)。充電時はこれと逆の反応が起こり、正極にて、過酸化リチウムが分解し、リチウムイオンと酸素になる。リチウム空気電池は、これらを繰り返して充放電を行うものである。ここで正極は、充放電にあわせて大気中の酸素を吸収・排出する働きを有する電極であることから、空気極とも呼ばれる。
【0004】
リチウム空気電池セルの出力及び容量を向上させるには、正極が、電極として十分な導電性を有することに加えて、電池反応が起きる電気化学活性面を広く有すること、及びその電気化学活性面に電池反応物である酸素とリチウムイオンとを供給するための拡散経路を有することが必要である。この拡散経路は、放電時には、固体析出物である過酸化リチウム(Li)の成長を阻害することなく、過酸化リチウム(Li)を蓄積する空間を提供する役割を兼ねる。このため正極は、その内部に、物質拡散が容易な連続した空孔構造を備えるとともに、可能な限り大きな細孔容積と表面積とを有することが好ましい。
【0005】
このような多孔性正極を作製するための材料としては、従来、表面積及び細孔容積の大きなナノ構造を有する導電性カーボン材料、具体的には、カーボンブラック、グラフェン、カーボンナノチューブ(CNT)などが検討されてきた。
【0006】
特許文献1では、ケッチェンブラック(KB)とよばれる大比表面積(1,000m/g程度)のカーボンブラックを、結着材と混練して塗布・固化することにより、多孔性カーボン正極を作製している。特許文献1の多孔性カーボン正極によれば、リチウム空気電池のエネルギー効率及び容量維持特性が改善できるとされている。
【0007】
また、非特許文献1では、繊維状のカーボンナノチューブ(CNT)を原料に用いることで、結着材フリーの不織布状CNTシート電極を作製している。非特許文献1による多孔質炭素シートは、高い空隙率でありながら、自立性を有するものとなり、リチウム空気電池用正極として用いた場合に、酸素拡散経路が確保され、容量及びレート特性が大幅に改善できるとされている。非特許文献1で作製される正極は、4mAh/cm以上の充放電サイクル容量を可能としており、これは、リチウムイオン電池のサイクル容量(おおむね2mAh/cm程度)の2倍以上となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2020-149819号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Akihiro Nomura et.al., Highly-porous Super-Growth carbon nanotube sheet cathode developshigh-power Lithium-Air Batteries, Electrochimica Acta 400 (2021) 139415
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
充電時のリチウム空気電池は、正極にて、過酸化リチウムが酸素とリチウムイオンに分解する(Li→2Li+2e+O)。過酸化リチウムの分解は、正極表面から起こるため、充電がすすむにつれて、過酸化リチウムと正極表面との間の空間的距離が広がり、充電後半にかけて過電圧が上昇する。充電過電圧が高くなると、電解液や電極の分解劣化が進行する。
【0011】
非特許文献1で作製される不織布状CNTシート電極によれば、4mAh/cm以上という高い充放電サイクル容量(リチウムイオン電池のサイクル容量の2倍以上)を可能とするものの、充電時の過電圧は高いものであった。
【0012】
充電過電圧の上昇を抑える方法として、酸化還元媒介体(Redox Mediator、略称:RM)を添加することが知られている。RMは、自身が媒介して過酸化リチウムを酸化分解させる(RM→RM+e、2RM+Li→2Li+2RM+O)。RMの媒介により、正極表面から離れた過酸化リチウムについても効率的に酸化分解することが可能となり、充電過電圧の上昇を抑制することができる。
【0013】
一般的に、RMは電解液に溶解させることで電池に導入される。しかしながら、この方法では、電解液中のRMが直接リチウム金属負極と接して還元分解されてしまい(シャトル効果)、長期間の継続的な過電圧抑制効果を得ることは困難であった。
【0014】
特許文献1においては、ケッチェンブラックによる正極の作製時に、RMをケッチェンブラックとともに混練し、得られた混合物を塗布・固化することで、RMを正極に導入している。RMが導入された正極は、RMを電解液中に溶解した場合と比べて、シャトル効果を抑制することができ、長期間にわたって充電過電圧を抑制することができる。
【0015】
しかしながら、特許文献1においては、電極として有効に担持できるケッチェンブラック量に限界があり(<1mg/cm)、それに伴い、正極自体が有する表面積量及び細孔容積量に限界があるため、充放電可能なサイクル容量は0.5mAh/cm未満と小さなものであった。
【0016】
本発明は、上記の状況に鑑み、空気電池のサイクル容量を大きなもの(例えば、4mAh/cm以上)としつつ、充電過電圧を効果的に抑制することができる、酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シート、空気電池用正極、空気電池、及び酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シートの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を行った。そして、多孔質炭素シートの表面に、特定量の酸化還元媒介体を固着させ、これを空気電池の正極として用いれば、充電過電圧を効果的に抑制できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0018】
すなわち、上記課題を解決するための手段は、以下の態様を含む。
[1]
多孔質炭素シートの表面に、自己の酸化還元反応によって金属酸化物の酸化分解を媒介する酸化還元媒介体が固着されており、
前記酸化還元媒介体の固着量は、0.2mg/cm以上2.9mg/cm未満である、酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シート。
[2]
BET比表面積が200m/g以上1100m/g以下である、[1]に記載の酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シート。
[3]
自立性である、[1]又は[2]に記載の酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シート。
[4]
厚みが40μm以上300μm以下である、[1]から[3]のいずれか一態様に記載の酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シート。
[5]
前記酸化還元媒介体の酸化電位は、前記金属酸化物の平衡電位よりも大きい、[1]から[4]のいずれか一態様に記載の酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シート。
[6]
前記金属酸化物は、過酸化リチウムである、[1]から[5]のいずれか一態様に記載の酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シート。
[7]
前記酸化還元媒介体は、亜硝酸塩、硝酸塩、臭化物塩、ヨウ化物塩、及びフェノチアジン系化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種である、[1]から[6]のいずれか一態様に記載の酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シート。
[8]
前記酸化還元媒介体は、亜硝酸リチウム、硝酸リチウム、臭化リチウム、及び10-メチルフェノチアジンからなる群より選ばれる少なくとも1種である、[1]から[7]のいずれか一態様に記載の酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シート。
[9]
前記酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シートの比表面積は、前記多孔質炭素シートの比表面積に対して70%以上である、[1]から[8]のいずれか一態様に記載の酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シート。
[10]
前記酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シートの電気抵抗は、前記多孔質炭素シートの電気抵抗より小さい、[1]から[9]のいずれか一態様に記載の酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シート。
[11]
[1]から[10]のいずれか一態様に記載の酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シートを含む空気電池用正極。
[12]
[11]に記載の酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シートを含む正極と、
負極と、
前記正極及び前記負極の間に存在する電解液と、
を備える空気電池。
[13]
前記負極は、リチウム金属を含む、[12]に記載の空気電池。
[14]
自己の酸化還元反応によって金属酸化物の酸化分解を媒介する酸化還元媒介体を溶媒に溶解して酸化還元媒介体溶液を調製することと、
前記酸化還元媒介体溶液を多孔質炭素シートに接触させて、前記多孔質炭素シートの表面及び空隙の内部に前記酸化還元媒介体溶液を存在させることと、
前記酸化還元媒介体溶液を乾燥させて前記溶媒を除去し、前記酸化還元媒介体を前記多孔質炭素シートに固着させることと、
を含む、酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シートの製造方法。
[15]
前記接触は、含浸、滴下、スプレー塗布、及びインクジェット塗布からなる群より選ばれる少なくとも1種である、[14]に記載の酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シートの製造方法。
[16]
前記酸化還元媒介体は、無機塩であり、前記溶媒は、高極性溶媒又は中極性溶媒である、[14]又は[15]に記載の酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シートの製造方法。
[17]
前記酸化還元媒介体は、亜硝酸リチウム、硝酸リチウム、及び臭化リチウムからなる群より選ばれる少なくとも1種であり、前記溶媒は、1-プロパノールである、[14]から[16]のいずれか一態様に記載の酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シートの製造方法。
[18]
前記酸化還元媒介体は、有機化合物であり、前記溶媒は、中極性溶媒又は低極性溶媒である、[14]又は[15]に記載の酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シートの製造方法。
[19]
前記酸化還元媒介体は、10-メチルフェノチアジンであり、前記溶媒は、アニソールである、[14]、[15]、及び[18]からなる群のいずれか一態様に記載の酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シートの製造方法。
[20]
前記酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シートは、空気電池用正極である、[14]から[20]のいずれか一態様に記載の酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シートの製造方法。
【発明の効果】
【0019】
本開示の酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シートによれば、大容量(例えば、4mAh/cm以上)であり、かつ充電過電圧が効果的に抑制された空気電池を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】一実施形態に係る空気電池の模式的な断面図である。
図2】一実施形態に係る空気電池の模式的な断面図である。
図3】多孔質炭素シートへの酸化還元媒介体の導入方法を示す図である。
図4】比較例1のシートの走査型電子顕微鏡写真である。
図5】実施例2のシートの走査型電子顕微鏡写真である。
図6】実施例2のシートの炭素の元素マッピングである。
図7】実施例2のシートの臭素の元素マッピングである。
図8】電気抵抗を測定する方法を示す図である。
図9】空気電池1の充放電カーブである。
図10】空気電池2の充放電カーブである。
図11】空気電池3の充放電カーブである。
図12】空気電池1、2、及び3の放電終端電圧及び充電終端電圧を示す図である。
図13】空気電池4の充放電カーブである。
図14】空気電池5の充放電カーブである。
図15】空気電池6の充放電カーブである。
図16】空気電池7の充放電カーブである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態を説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。また、以下の実施形態における構成要素のうち、最上位概念を示す請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。
【0022】
≪酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シート≫
本開示の酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シートは、多孔質炭素シートの表面に、自己の酸化還元反応によって金属酸化物の酸化分解を媒介する酸化還元媒介体が、特定量固着されている。酸化還元媒介体は、多孔質炭素シート表面に固着していればよく、多孔質炭素シートの最表面のみならず、空隙の内部表面に固着されていてもよい。
【0023】
<酸化還元媒介体(Redox Mediator、略称:RM)の固着量>
本開示の酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シートは、後記する酸化還元媒介体(Redox Mediator、略称:RM)の多孔質炭素シートへの固着量が、0.2mg/cm以上2.9mg/cm未満の範囲である。
【0024】
酸化還元媒介体の固着量は、酸化還元媒介体を固着する前の多孔質炭素シートが入手できる場合には、酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シートと、酸化還元媒介体を固着する前の多孔質炭素シートとをそれぞれ、直径(φ)16mmの円形に打ち抜き、その質量(mg)を測定して差を求め、円の面積(cm)で割ることで、面積当たりの質量として求めることができる。一方、完成した空気電池を解体した場合のように、酸化還元媒介体を固着する前の多孔質炭素シートの入手が困難な場合には、酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シートの質量を測定した後、酸化還元媒介体を溶解できる溶媒で十分に洗浄して酸化還元媒介体を除去し、乾燥したものの質量を測定して、これを酸化還元媒介体を固着する前の多孔質炭素シートの質量とする。
【0025】
例えば、酸化還元媒介体を電解液に溶解させてリチウム空気電池に導入する場合には、充電時に、正極で酸化された酸化還元媒介体が、過酸化リチウムを分解することなく負極へ拡散し、直接反応して自己放電を起こす、いわゆるシャトル効果が発生する場合がある。
【0026】
しかしながら、本発明の酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シートを正極として用いる場合には、正極に酸化還元媒介体が存在しているため、シャトル効果の影響を抑制することができ、電池の容量維持性をより向上させることができる。
【0027】
酸化還元媒介体の多孔質炭素シートへの固着量が0.2mg/cm以上であれば、放電電圧にほとんど影響を与えることなく、充電電圧を抑制することができる。一方、酸化還元媒介体の多孔質炭素シートへの固着量が2.9mg/cm以上となると、酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シートの電気抵抗が上昇し、かつ多孔質炭素シートが有する空隙が閉塞されて放電に必要な酸素拡散性が失われてしまうため、電池の放電量が著しく低下する。
【0028】
酸化還元媒介体の多孔質炭素シートへの固着量は、好ましくは、0.3mg/cm以上、0.4g/cm以上、0.6mg/cm以上、0.9mg/cm以上、1.2mg/cm以上、1.6mg/cm以上、又は2.0g/cm以上であってよい。一方で、酸化還元媒介体の多孔質炭素シートへの固着量は、好ましくは、2.8mg/cm以下、2.6mg/cm以下、2.4mg/cm以下、2.2mg/cm以下、2.0mg/cm以下、1.8mg/cm以下、又は1.6mg/cm以下であってよい。
【0029】
<多孔質炭素シートの比表面積に対する酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シートの比表面積>
本開示の酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シートの比表面積は、酸化還元媒介体を固着する前の多孔質炭素シートの比表面積に対して70%以上であることが好ましい。
【0030】
酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シートの比表面積が、原料となる多孔質炭素シートの比表面積に対して70%以上であれば、多孔質炭素シートの表面に酸化還元媒介体を固着した前後において、多孔質炭素シートの細孔容積量の減少が少ないことから、酸化還元媒介体の固着後についても固着前と同様の細孔構造を維持しており、細孔が閉塞されていない状態となっている。これにより、本開示の酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シートを、空気電池の正極として用いた場合に、形成される電池の放電容量を維持することができる。
【0031】
多孔質炭素シートの比表面積に対する酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シートの比表面積の割合は、さらに好ましくは、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、又は95%以上であってよい。
【0032】
<電気抵抗>
本開示の酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シートの電気抵抗は、酸化還元媒介体を固着する前の多孔質炭素シートの電気抵抗より小さいことが好ましい。酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シートの電気抵抗が、原料となる多孔質炭素シートの電気抵抗よりも小さければ、酸化還元媒介体の固着によって充電過電圧を抑制することができる。
【0033】
<酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シートの物性>
(BET比表面積)
本開示の酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シートは、BET比表面積が、200m/g以上1100m/g以下の範囲であることが好ましい。なお、BET比表面積は、小数第1位を四捨五入して求めるものとする。
【0034】
酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シートのBET比表面積が200m/g以上であると、シートを空気電池の正極として用いたときに、イオン輸送の効率が高まり、放電容量の大きな電池を形成することができる。例えば、リチウムイオンと酸素とが反応して過酸化リチウムを生成する場合には、正極から供給される電子を酸素が受け取るのに必要な反応場を確保できるため、大きな放電容量が得られる。一方、BET比表面積が1100m/g以下であると、正極の表面における電池副反応の寄与を抑制できるため、好ましい充放電特性が得られる。
【0035】
酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シートのBET比表面積は、更に好ましくは、250m/g以上、300m/g以上、350m/g以上、400m/g以上、450m/g以上、又は500m/g以上であってよく、1000m/g以下、900m/g以下、850m/g以下、800m/g以下、750m/g以下、又は700m/g以下であってよい。
【0036】
(直径2nm以上1000nm以下の細孔の細孔容積)
本開示の酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シートは、直径2nm以上1000nm以下の細孔の細孔容積が、0.5cm/g以上5.0cm/g以下の範囲であることが好ましい。直径2nm以上1000nm以下の細孔の細孔容積は、窒素吸着測定より得られた吸着等温線からBJH(Barrett-Joyner-Hallenda)法を用いて得られる。なお、直径2nm以上1000nm以下の細孔の細孔容積は、小数第2位を四捨五入して求めるものとする。
【0037】
直径2nm以上1000nm以下の範囲の径を有する細孔は、電池反応表面(反応場)として機能する。このため、この範囲の細孔の容積が大きければ、シートをリチウム空気電池の正極として用いた場合に、放電反応において、単位時間あたりに反応できるリチウムイオン、酸素、及び電子の量が増加する。これにより、高速での優れた放電特性が得られる。また、充電反応においては、過酸化リチウムが正極に電子を渡して、リチウムイオンと酸素とに分解されるための反応場が多くなり、より多くの電子の受け渡しが可能となる。したがって、直径2nm以上1000nm以下の範囲の径を有する細孔の容積が大きければ、より優れた充放電特性を有する空気電池を提供することができる。
【0038】
酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シートの直径2nm以上1000nm以下の細孔の細孔容積は、より優れた充放電特性を有する電池を提供できる点で、より好ましくは、0.8cm/g以上、1.0cm/g以上、1.5cm/g以上、2.0cm/g以上、又は2.5cm/g以上であってよい。一方、直径2nm以上1000nm以下の細孔の細孔容積は、酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シートが十分な強度を有しつつ自立性を有する点で、より好ましくは、4.5cm/g以下、4.0cm/g以下、3.5cm/g以下、又は3.0cm/g以下であってよい。
【0039】
(直径0.1μm以上10μm以下の細孔の細孔容積)
本開示の酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シートは、直径0.1μm以上10μm以下の細孔の細孔容積が、0.5cm/g以上10.0cm/g以下の範囲であることが好ましい。直径0.1μm以上10μm以下の細孔の細孔容積は、水銀圧入法により測定した値を用いて得られる。なお、直径0.1μm以上10μm以下の細孔の細孔容積は、小数第2位を四捨五入して求めるものとする。
【0040】
直径0.1μm以上10μm以下の範囲の径を有する細孔は、酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シートを空気電池の正極に用いた場合に、主に、電池外部の酸素が酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シートの内部に侵入するための経路として働く。直径0.1μm以上10μm以下の範囲の径を有する細孔の細孔容積が上記範囲を満たせば、シートをリチウム空気電池の正極として用いた場合に、放電時に、過酸化リチウムを生成するためのリチウムイオンと反応する酸素を、十分な量で、かつ高速で侵入させることができる。これにより、高電流密度での放電容量が大きい、すなわち高速での放電特性に優れた電池を提供することができる。また、充電時においては、過酸化リチウムがリチウムイオンと酸素に分解するにあたり、発生した酸素の正極シートからの抜けがよくなり、高速での充電が可能となる。
【0041】
酸化還元媒介体被覆多孔質炭素の直径0.1μm以上10μm以下の細孔の細孔容積は、シートをリチウム空気電池の正極として用いた場合に、より高速な充放電が可能となる点で、より好ましくは、1.0cm/g以上、1.5cm/g以上、2.0cm/g以上、又は好ましくは2.5cm/g以上であってよい。一方、直径0.1μm以上10μm以下の細孔の細孔容積は、酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シートが十分な強度を有しつつ自立性を有する点で、より好ましくは、9.0cm/g以下、8.0cm/g以下、7.0cm/g以下、又は6.0cm/g以下であってよい。
【0042】
(空隙率)
本開示の酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シートは、空隙率が、60%以上95%以下の範囲であることが好ましい。空隙率が60%以上であれば、酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シートを空気電池の正極として用いたときに、放電時に生成する過酸化リチウム等の金属酸化物を多く蓄えることができるとともに、内部に酸素又はこれを含む空気が侵入する際の抵抗が低くなる。その結果、高い放電容量を備え、高速放電が可能な電池を提供することができる。一方、空隙率が95%以下であれば、酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シートが、強度に優れたものとなる。
【0043】
ここで、空隙率は、シートの見かけ密度と真密度とから、以下の計算式により求められる。
[1-(シートの見かけ密度/シートを構成する材料の真密度)]×100
【0044】
酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シートの空隙率は、酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シートをリチウム空気電池の正極として用いた場合に、より高い放電容量を有し、より高速放電可能な電池が得られる観点から、より好ましくは、65%以上、70%以上、75%以上、80%以上、又は85%以上であってよい。一方、酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シートの空隙率は、より優れた強度を有する点で、より好ましくは、94%以下、93%以下、92%以下、91%以下、又は90%以下であってよい。
【0045】
(目付)
本開示の酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シートは、目付が、1.7mg/cm以上6.4mg/cm未満の範囲であることが好ましい。目付がこの範囲であれば、酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シートを空気電池の正極として用いたときに、高い放電容量を有し、高速放電が可能な空気電池を得ることができる。目付は、対象となるシートを直径(φ)16mmの円形に打ち抜き、その質量(mg)を測定して円の面積(cm)で割ることで、面積当たりの質量として求めることができる。
【0046】
酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シートの目付は、より好ましくは、1.9mg/cm以上、2.1mg/cm以上、2.3mg/cm以上、2.5mg/cm以上、3.0mg/cm以上、又は3.7mg/cm以上であってよく、6.0mg/cm以下、5.5mg/cm以下、5.0mg/cm以下、4.5mg/cm以下、4.0mg/cm以下、又は3.7mg/cm以下であってよい。
【0047】
(密度)
本開示の酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シートは、シート密度(見かけ密度とも称する)が、0.05g/cm以上0.50g/cm以下の範囲であることが好ましい。シートの密度がこの範囲であれば、酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シートを空気電池の正極として用いたときに、酸素が透過拡散するのに必要な空孔を十分に有し、優れた強度を有するものとなる。
【0048】
酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シートの密度は、シートの強度をより優れたものとする点で、より好ましくは、0.07g/cm以上、0.10g/cm以上、0.12g/cm以上、0.14g/cm以上、又は0.16g/cm以上であってよい。一方、酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シートの密度は、空隙を十分に有するシートを提供する点で、より好ましくは、0.40g/cm以下、0.35g/cm以下、0.30g/cm以下、0.25g/cm以下、又は0.20g/cm以下であってよい。
【0049】
(G/D比)
本開示の酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シートは、ラマン分光より得られる、乱層構造炭素由来のピーク強度Dに対する、結晶構造炭素由来のピーク強度Gの強度比(G/D比)が、10000以下であることが好ましい。炭素シートが、結晶構造炭素に乱層構造炭素をある程度含む構成であることによって、電解液との親和性が高まり、放電特性に優れた空気電池を得ることができる。なお、G/D比は、小数第2位を四捨五入して求めるものとする。
【0050】
酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シートのG/D比は、酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シートを空気電池の正極として用いたときに、よりサイクル特性に優れた空気電池が得られる点で、より好ましくは、1000以下、500以下、200以下、100以下、50以下、20以下、10以下、又は5以下であってよい。
【0051】
一方、酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シートのG/D比は、0.5以上であることが好ましい。炭素シートが、主として結晶構造炭素にて構成されることにより、酸化耐性が高まり、サイクル特性の優れた空気電池を得ることができる。酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シートのG/D比は、より好ましくは、0.7以上、1.0以上、又は1.5以上であってよい。
【0052】
(厚み)
本開示の酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シートは、厚みが、40μm以上300μm以下の範囲であることが好ましい。厚みが40μm以上であれば、酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シートは、自立性を有するため、小型・軽量な空気電池を低コストで製造することが可能となる。一方、厚みが300μm以下であれば、十分に小型・軽量な空気電池を得ることができる。
【0053】
酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シートの厚みは、より好ましくは、50μm以上、60μm以上、70μm以上、80μm以上、90μm以上、100μm以上、125μm以上、150μm以上、175μm以上、又は200μm以上、であってよく、280μm以下、260μm以下、240μm以下、220μm以下、又は200μm以下であってよい。
【0054】
<酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シートの用途>
本開示の酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シートの用途は、特に限定されるものではないが、空気電池用正極として好適に用いることができる。本開示の酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シートによれば、空気電池の特徴である大きなサイクル容量を有しつつ、充電過電圧を効果的に抑制することができる。本開示の酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シートは、中でも、リチウム空気電池の正極として用いた場合に、優れた効果を発現する。
【0055】
<酸化還元媒介体(Redox Mediator、略称:RM)>
多孔質炭素シートの表面に固着されている酸化還元媒介体(RM)は、自己の酸化還元反応によって金属酸化物の酸化分解を媒介する化合物である。酸化還元媒介体は、酸化体(RM)及び還元体(RM)を有し、空気電池に導入された場合には、酸化体(RM)が過酸化リチウム等の金属酸化物を酸化分解して、Li等の金属イオンを発生させる。
【0056】
より具体的には、空気電池に導入された酸化還元媒介体は、空気電池の充電時に、まず自らが酸化されて酸化体(RM)となり、生成した酸化体(RM)は、放電時に析出した過酸化リチウム等の金属酸化物の表面を攻撃する。これによって酸化体(RM)は、金属酸化物の分解を触媒し、自身は還元されて還元体(RM)となる。
【0057】
例えば、金属酸化物として過酸化リチウムを生成する空気電池において、充電時における過酸化リチウムの分解促進反応は、酸化還元媒介体(RM)の存在下では、次の通りとなる。まず、酸化還元媒介体(RM)は自らが酸化されて酸化体(RM)となり、次に、酸化体(RM)が、放電時に形成された過酸化リチウムと反応して過酸化リチウムを分解し、リチムイオンと酸素とを発生させつつ、自らは還元されて還元体(RM)に戻る。
RM→RM+e
2RM+Li→2Li+2RM+O
【0058】
空気電池においては、酸化還元媒介体(RM)の媒介により、正極表面から離れた過酸化リチウム等の金属酸化物についても効率的に酸化分解することが可能となる。このため、充電過電圧の上昇を抑制することができる。
【0059】
酸化還元媒介体(RM)は、その酸化電位が、酸化分解させる金属酸化物の平衡電位よりも大きい化学種であることが好ましい。これにより、充電時に、酸化分解させる金属酸化物より先に酸化を受けるため、酸化還元媒介体の機能を十分に発揮させることができる。
【0060】
例えば、酸化分解の対象となる金属酸化物が過酸化リチウムの場合には、過酸化リチウムの平衡電位の理論値である2.96Vよりも酸化電位が大きい化学種であることが好ましく、過電圧の上昇を効果的に抑制する観点からは、2.96Vを超え5.00以下であることがより好ましく、2.96Vを超え4.00V以下であることが更に好ましく、2.96Vを超え3.80V以下であることが更に好ましく、2.96Vを超え3.50V以下であることが特に好ましい。
【0061】
酸化還元媒介体は、無機物塩であっても有機物塩であってもよい。無機物塩としては、臭化物塩、亜硝酸塩、硝酸塩、ヨウ化物塩等が挙げられる。より具体的には、LiNO、NaNO、KNO、RbNO、CsNO、LiNO、NaNO、KNO、RbNO、CsNO、LiBr、NaBr、KBr、RbBr、CsBr、LiI、NaI、KI、RbI、CsI等が挙げられる。
【0062】
有機物塩としては、テトラチアフルバレン(TTF)、フェロセン(Ferrocene)、2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジニルオキシ(TEMPO)、テトラメチル-p-フェニレンジアミン(TMPD)、5,10-ジメチルフェナジン(DMPZ)、1,5-ナフタレンジアミン(NDA)、4,N,N-トリメチルアニリン(TMA)、1-フェニルピロリジン(PPD)、10-メチルフェノチアジン(MPT)、2,5-ジ-t-ブチル-1,4-ベンゾキノン(DBBQ)等が挙げられる。酸化還元媒介体は、1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0063】
中では、酸化還元媒介体は、亜硝酸塩、硝酸塩、臭化物塩、ヨウ化物塩、及びフェノチアジン系化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0064】
更には、酸化還元媒介体は、亜硝酸リチウム、硝酸リチウム、臭化リチウム、及び10-メチルフェノチアジン(MPT)からなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0065】
<多孔質炭素シート>
酸化還元媒介体(RM)が固着される多孔質炭素シートは、炭素を原料としたシートであり、複数の空隙を備える。本開示の酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シートは、多孔質炭素シートが備える空隙の内部及びシートの表面に、酸化還元媒介体が固着している。
【0066】
(原料)
多孔質炭素シートの原料となる炭素としては、一般的に導電助剤として用いられている炭素材料であってよい。多孔質炭素シートの原料となる炭素としては、例えば、アセチレ
ンブラック、ケッチェンブラックが挙げられる。
多孔質炭素シートの原料となる炭素の形状としては、空隙を備える多孔質のシートを形成できるものであれば特に限定されるものではない。多孔質炭素シートの原料となる炭素の形状は、例えば、粉末状、繊維状であってもよい。
【0067】
粉末状炭素を原料とする場合には、例えば、多孔炭素粒子が用いられてよい。多孔炭素粒子は、炭素を主成分とする粒子であり、表面に多数の微細な孔を有する。多孔炭素粒子の例としては、ケッチェンブラック(登録商標)等のカーボンブラック、その他テンプレート法にて形成された炭素粒子等が挙げられる。
【0068】
繊維状炭素を原料とする場合には、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、及びカーボンナノファイバからなる群から選択されることが好ましい。これらの繊維状炭素はいずれも市販品を入手可能であり、中では、カーボンナノチューブは、円筒状であり、シートを形成した際に、空気電池の正極に求められるBET比表面積や細孔容積を満足しやすいため好ましい。
【0069】
(BET比表面積)
本開示の酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シートの原料となる多孔質炭素シートは、BET比表面積が、300m/g以上1200m/g以下の範囲であることが好ましい。なお、BET比表面積は、小数第1位を四捨五入して求めるものとする。
【0070】
原料となる多孔質炭素シートのBET比表面積が300m/g以上であると、得られる酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シートを空気電池の正極として用いたときに、イオン輸送の効率が高い電池を形成することができる。例えば、リチウムイオンと酸素とが反応して過酸化リチウムを生成する場合には、正極から供給される電子を酸素が受け取るのに必要な反応場を確保できるため、大きな放電容量が得られる。一方、BET比表面積が1200m/g以下であると、正極表面における電池副反応の寄与を抑制することができるため、好ましい充放電特性が得られる。
【0071】
多孔質炭素シートのBET比表面積は、更に好ましくは、350m/g以上、400m/g以上、450m/g以上、500m/g以上、550m/g以上、600m/g以上、又は650m/g以上であってよく、1100m/g以下、1000m/g以下、900m/g以下、850m/g以下、800m/g以下、750m/g以下、又は700m/g以下であってよい。
【0072】
(直径2nm以上1000nm以下の細孔の細孔容積)
本開示の酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シートの原料となる多孔質炭素シートは、直径2nm以上1000nm以下の細孔の細孔容積が、0.5cm/g以上5.0cm/g以下の範囲であることが好ましい。なお、直径2nm以上1000nm以下の細孔の細孔容積は、小数第2位を四捨五入して求めるものとする。
【0073】
原料となる多孔質炭素シートの直径2nm以上1000nm以下の細孔の細孔容積は、より優れた充放電特性を有する電池を提供できる点で、より好ましくは、0.8cm/g以上、1.0cm/g以上、1.5cm/g以上、2.0cm/g以上、又は2.5cm/g以上であってよい。一方、直径2nm以上1000nm以下の細孔の細孔容積は、得られる酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シートの強度を十分なものとしつつ自立性を保持できる点で、より好ましくは、4.5cm/g以下、4.0cm/g以下、3.5cm/g以下、又は3.0cm/g以下であってよい。
【0074】
(直径0.1μm以上10μm以下の細孔の細孔容積)
本開示の酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シートの原料となる多孔質炭素シートは、直径0.1μm以上10μm以下の細孔の細孔容積が、0.5cm/g以上10.0cm/g以下の範囲であることが好ましい。なお、直径0.1μm以上10μm以下の細孔の細孔容積は、小数第2位を四捨五入して求めるものとする。
【0075】
原料となる多孔質炭素シートの直径0.1μm以上10μm以下の細孔の細孔容積は、得られる酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シートをリチウム空気電池の正極として用いた場合に、より高速な充放電が可能となる点で、より好ましくは、1.0cm/g以上、1.5cm/g以上、2.0cm/g以上、又は好ましくは2.5cm/g以上であってよい。一方、直径0.1μm以上10μm以下の細孔の細孔容積は、得られる酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シートの強度を十分なものとしつつ自立性を保持できる点で、より好ましくは、9.0cm/g以下、8.0cm/g以下、7.0cm/g以下、又は6.0cm/g以下であってよい。
【0076】
(空隙率)
本開示の酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シートの原料となる多孔質炭素シートは、空隙率が、60%以上95%以下の範囲であることが好ましい。空隙率が60%以上であれば、酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シートを空気電池の正極として用いたときに、放電時に生成する過酸化リチウム等の金属酸化物を多く蓄えることができるとともに、内部に酸素又はこれを含む空気が侵入する際の抵抗が低くなる。その結果、高い放電容量を備え、高速放電が可能な電池を提供することができる。一方、空隙率が95%以下であれば、得られる酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シートが、強度に優れたものとなる。
【0077】
多孔質炭素シートの空隙率は、得られる酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シートをリチウム空気電池の正極として用いた場合に、より高い放電容量を有し、より高速放電可能な電池が得られる観点から、より好ましくは、65%以上、70%以上、75%以上、80%以上、又は85%以上であってよい。一方、多孔質炭素シートの空隙率は、得られる酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シートにより優れた強度を付与できる点で、より好ましくは、94%以下、93%以下、92%以下、91%以下、又は90%以下であってよい。
【0078】
(目付)
本開示の酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シートの原料となる多孔質炭素シートは、目付が、1.5mg/cm以上3.5mg/cm以下の範囲であることが好ましい。目付がこの範囲であれば、得られる酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シートを空気電池の正極として用いたときに、高い放電容量を有し、高速放電が可能な空気電池を得ることができる。
【0079】
多孔質炭素シートの目付は、より好ましくは、1.6mg/cm以上、1.7mg/cm以上、1.8mg/cm以上、1.9mg/cm以上、又は2.0mg/cm以上であってよく、3.2mg/cm以下、3.0mg/cm以下、2.8mg/cm以下、2.6mg/cm以下、又は2.4mg/cm以下であってよい。
【0080】
(密度)
本開示の酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シートの原料となる多孔質炭素シートは、シート密度(見かけ密度とも称する)が、0.05g/cm以上0.50g/cm以下の範囲であることが好ましい。シートの密度がこの範囲であれば、得られる酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シートを空気電池の正極として用いたときに、酸素が透過拡散するのに必要な空孔を十分に有し、優れた強度を有するものとなる。
【0081】
多孔質炭素シートの密度は、得られる酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シートの強度をより優れたものとする点で、より好ましくは、0.07g/cm以上、0.10g/cm以上、0.12g/cm以上、0.14g/cm以上、又は0.16g/cm以上であってよい。一方、多孔質炭素シートの密度は、空隙を十分に有する酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シートを提供する点で、より好ましくは、0.40g/cm以下、0.35g/cm以下、0.30g/cm以下、0.25g/cm以下、又は0.20g/cm以下であってよい。
【0082】
(G/D比)
本開示の酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シートの原料となる多孔質炭素シートは、ラマン分光より得られる、乱層構造炭素由来のピーク強度Dに対する、結晶構造炭素由来のピーク強度Gの強度比(G/D比)が、10000以下であることが好ましい。炭素シートが、結晶構造炭素に乱層構造炭素をある程度含む構成であることによって、電解液との親和性が高まり、放電特性に優れた空気電池を得ることができる。なお、G/D比は、小数第2位を四捨五入して求めるものとする。
【0083】
多孔質炭素シートのG/D比は、得られる酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シートを空気電池の正極として用いたときに、よりサイクル特性に優れた空気電池が得られる点で、より好ましくは、1000以下、500以下、200以下、100以下、50以下、20以下、10以下、又は5以下であってよい。
【0084】
一方、多孔質炭素シートのG/D比は、0.5以上であることが好ましい。炭素シートが、主として結晶構造炭素にて構成されることにより、酸化耐性が高まり、サイクル特性の優れた空気電池を得ることができる。多孔質炭素シートのG/D比は、より好ましくは、0.7以上、1.0以上、又は1.5以上であってよい。
【0085】
(厚み)
本開示の酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シートの原料となる多孔質炭素シートは、厚みが、40μm以上300μm以下の範囲であることが好ましい。厚みが40μm以上であれば、得られる酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シートは、自立性を有するものとなるため、小型・軽量な空気電池を低コストで製造することが可能となる。一方、厚みが300μm以下であれば、十分に小型・軽量な空気電池を得ることができる。
【0086】
多孔質炭素シートの厚みは、より好ましくは、50μm以上、60μm以上、70μm以上、80μm以上、90μm以上、100μm以上、125μm以上、150μm以上、175μm以上、又は200μm以上、であってよく、280μm以下、260μm以下、240μm以下、220μm以下、又は200μm以下であってよい。
【0087】
上述した多孔質炭素シートは、例えば、非特許文献1に記載された方法により製造することができる。
【0088】
≪酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シートの製造方法≫
本開示の酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シートは、以下の工程を含む製造方法によって得ることができる。
(1)自己の酸化還元反応によって金属酸化物の酸化分解を媒介する酸化還元媒介体を溶媒に溶解して、酸化還元媒介体溶液を調製する。
(2)調製した酸化還元媒介体溶液を多孔質炭素シートに接触させて、多孔質炭素シートの表面及び空隙の内部に、酸化還元媒介体溶液を存在させる。
(3)酸化還元媒介体溶液を乾燥させて溶媒を除去し、酸化還元媒介体を多孔質炭素シートに固着させる。
【0089】
<(1)酸化還元媒介体溶液の調製>
酸化還元媒介体を多孔質炭素シートに固着させるために、まず、酸化還元媒介体を溶媒に溶解して酸化還元媒介体溶液を調製する。
【0090】
(酸化還元媒介体)
酸化還元媒介体としては、上記した各種の化合物を用いることができる。
【0091】
(溶媒)
酸化還元媒介体を溶解する溶媒としては、特に限定されるものではなく、用いる酸化還元媒介体を溶解できるとともに、得られた溶液が多孔質炭素シートに浸透するものであればよい。
【0092】
酸化還元媒介体が無機塩である場合には、溶媒は、高極性溶媒又は中極性溶媒であることが好ましい。高極性溶媒又は中極性溶媒であれば、無機塩を溶解するとともに、得られた溶液は多孔質炭素シートに浸透する。
【0093】
中でも、酸化還元媒介体が、臭化リチウム、亜硝酸リチウム、及び硝酸リチウムからなる群より選ばれる少なくとも1種であり、溶媒として1-プロパノールを用いる組み合わせが、酸化還元媒介体の溶解性、及び得られる酸化還元媒介体溶液の浸透性の点で好ましい。
【0094】
酸化還元媒介体が有機化合物である場合には、溶媒は、中極性溶媒又は低極性溶媒であることが好ましい。中極性溶媒又は低極性溶媒であれば、有機化合物を溶解するとともに、得られた溶液は多孔質炭素シートに浸透する。
【0095】
中でも、酸化還元媒介体が10-メチルフェノチアジンであり、溶媒としてアニソールを用いる組み合わせが、酸化還元媒介体の溶解性、及び得られる酸化還元媒介体溶液の浸透性の点で好ましい。
【0096】
<(2)酸化還元媒介体溶液の接触>
続いて、調製した酸化還元媒介体溶液を多孔質炭素シートに接触させて、多孔質炭素シートの表面及び空隙の内部に、酸化還元媒介体溶液を存在させる。
【0097】
(多孔質炭素シート)
多孔質炭素シートとしては、上記した多孔質炭素シートを用いることができる。
【0098】
(接触方法)
酸化還元媒介体溶液を多孔質炭素シートに接触させる方法は、多孔質炭素シートの表面及び空隙の内部に、酸化還元媒介体溶液を存在させることができれば、特に限定されるものではない。
【0099】
接触方法としては、例えば、含浸、滴下、スプレー塗布、及びインクジェット塗布からなる群より選ばれる少なくとも1種であってよい。
【0100】
<(3)酸化還元媒介体の固着>
続いて、酸化還元媒介体溶液を乾燥させて溶媒を除去し、酸化還元媒介体を多孔質炭素シートに固着させる。
【0101】
(乾燥方法)
乾燥の方法は特に限定されるものではなく、用いた溶媒の種類に応じて適宜選択することができる。例えば、用いた溶媒が揮発する温度にて、一定時間、真空乾燥する方法があげられる。
【0102】
≪空気電池≫
本開示の空気電池は、上記した酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シートを含む正極と、負極と、正極及び負極の間に存在する電解液と、を備える。
【0103】
<コインセル型空気電池>
一実施形態に係る空気電池の模式的な断面図を、図1に示す。空気電池600は、負極構造体610と正極構造体620とがセパレータ660を介して積層された電極積層体と、電極積層体を拘束する拘束具630とを備える、一般に「コインセル型」と呼ばれる空気電池である。なお、正極構造体620は、拘束具630側の表面に金属メッシュ680を有しており、拘束具630と金属メッシュ680との間には絶縁性のオーリングが配置され(図示なし)、これにより、拘束具630と正極構造体620との絶縁性が確保されている。
【0104】
負極構造体610は、集電体635と、集電体635上に配置された金属層640と、その両端に配置された柱状のスペーサ650とにより構成される。金属層640と、セパレータ660との間には、空間670が設けられ、空間670に電解液が充填されている。
【0105】
金属層640を構成する材料としては、アルカリ金属、及び/又はアルカリ土類金属を含有することが好ましい。中でも、リチウム金属を含む層が好ましい。
【0106】
正極構造体620は、集電体である金属を含有する金属メッシュ680に、機械的及び電気的に接触した、本開示の酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シート690を備える。金属メッシュ680は、正極基材となり、空気又は酸素が通る流路となる機能も兼ね備える。
【0107】
負極構造体610と正極構造体620の間には、セパレータ660が配置される。
【0108】
以下、空気電池600の製造方法の一例について、説明する。まず、負極構造体610を準備する。円盤状の集電体635の上に、集電体635と同心状で集電体635より径の小さな円盤状のリチウム等による金属層640を積層する。続いて、集電体635の上に柱状のスペーサ650を押し付け、負極構造体610を得る。
【0109】
スペーサ650は、絶縁体である。素材としては、金属酸化物、金属窒化物、及び金属酸窒化物等であってよい。例えば、Al、Ta、TiO、ZnO、ZrO、SiO、B、P、GeO、LiO、NaO、KO、MgO、CaO、SrO、BaO、Si、AlN、及びAlO1-x(0<x<1)であってもよい。中では、Al、及びSiOは、入手が容易であり、加工性に優れるため好ましい。
【0110】
スペーサ650は、樹脂であってもよい。樹脂としては、例えば、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリイミド系樹脂、及びポリエーテルエーテルケトン(PEEK)系樹脂が挙げられる。ポリオレフィン系樹脂としては、ポリエチレン、及びポリプロピレン等が挙げられる。ポリエステル系樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、及びポリトリブチレンテレフタレート(PTT)等が挙げられる。これらの樹脂は、入手が容易であり、加工性に優れるため好ましい。
【0111】
次に、セパレータ660をスペーサ650上に押し付ける。このとき、金属層640とスペーサ650とセパレータ660との間には、空間670が設けられる。
【0112】
セパレータ660は、アルカリ金属イオン、及び/又はアルカリ土類金属イオンを通過させることが可能な多孔質の絶縁体である。セパレータ660の材料は、金属層640、及び電解液との反応性を有さない任意の無機材料(金属材料を含む)、及び有機材料であってよい。
【0113】
セパレータ660の素材としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、及びポリオレフィン等の樹脂、及びガラスが挙げられる。セパレータ660は、織布であっても、不織布であってもよい。
【0114】
その後、セパレータ660に電解液を充填する。このとき、併せて空間670にも電解液を充填する。
【0115】
電解液としては、アルカリ金属塩、及び/又はアルカリ土類金属塩を含有する、水系又は非水系の任意の電解液が使用できる。水系電解液がリチウム塩を含む場合には、リチウム塩としては、例えば、LiOH、LiCl、LiNO、及びLiSOが使用でき、溶媒としては、水、又は水溶性の溶媒を用いることができる。
【0116】
非水系電解液(非水電解液)がリチウム塩を含む場合には、リチウム塩としては、例えば、LiPF、LiBF、LiSbF、LiSiF、LiAsF、LiN(SO、Li(FSON、LiCFSO(LiTfO)、Li(CFSON(LiTFSI)、LiCSO、LiClO、LiAlO、LiAlCl、及びLiB(Cが使用できる。
【0117】
非水電解液に用いる非水溶媒としては、例えば、グライム類(モノグライム、ジグライム、トリグライム、テトラグライム)、メチルブチルエーテル、ジエチルエーテル、エチルブチルエーテル、ジブチルエーテル、ポリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、シクロヘキサノン、ジオキサン、ジメトキシエタン、2-メチルテトラヒドロフラン、2,2-ジメチルテトラヒドロフラン、2,5-ジメチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロフラン、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n-プロピル、酢酸ジメチル、メチルプロピオネート、エチルプロピオネート、ギ酸メチル、ギ酸エチル、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、エチルプロピルカーボネート、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ポリエチレンカーボネート、γ-ブチロラクトン、デカノリド、バレロラクトン、メバロノラクトン、カプロラクトン、アセトニトリル、ベンゾニトリル、ニトロメタン、ニトロベンゼン、トリエチルアミン、トリフェニルアミン、テトラエチレングリコールジアミン、ジメチルホルムアミド、ジエチルホルムアミド、N-メチルピロリドン、ジメチルスルホン、テトラメチレンスルホン、トリエチルホスフィンオキシド、1,3-ジオキソラン、及びスルホランが挙げられる。
【0118】
しかる後、酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シート690上に金属メッシュ680が配置された正極構造体620を準備する。
【0119】
金属メッシュ680としては、例えば、銅(Cu)、タングステン(W)、アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、チタン(Ti)、金(Au)、銀(Ag)、白金(Pt)、及びパラジウム(Pd)からなる群より選択される少なくとも1種の金属を含むメッシュが使用できる。すなわち、この群より選択される金属単体、この群より選択される金属を含む合金、この群より選択される金属と炭素(C)や窒素(N)などとの化合物からなるメッシュを挙げることができる。合金の場合には、鉄(Fe)、クロム(Cr)を含むこともできる。メッシュは、例えば、厚さ0.2mm、目開き1mmとすることができる。
【0120】
その後、電解液を充填した負極構造体610に正極構造体620を、セパレータ660を介して貼り合わせ、拘束具630で拘束して空気電池600を得る。ここで、実装は乾燥空気下、例えば露点温度-50℃以下の乾燥空気下で行うことが好ましい。
【0121】
なお、空気電池600は、正極構造体620として、酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シート690と、金属メッシュ680とを有しているが、本開示の空気電池は、上記のものに制限されず、酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シート690のみが正極構造体620となっていてもよい。
【0122】
空気電池600は、酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シート690を使用した正極構造体620が、優れた空気又は酸素透過性を有していることから、多量の酸素を取り込むことが可能であり、また、高いイオン輸送効率を有しており、広い反応場を有している。したがって、小型、軽量でも大きな容量を有する優れた空気電池となる。
【0123】
<積層型空気電池>
別の実施形態に係る空気電池の模式的な断面図を、図2に示す。図2は、積層型空気電池を示す模式図である。
【0124】
空気電池500は、正極構造体510と負極構造体100とがセパレータ540を介して積層された積層構造を備える。積層数は、正極構造体510と負極構造体100とが各々1からなる1対を単位として、1対以上複数対でよく、対数に特段の上限はない。
【0125】
負極構造体100は、一対の負極活物質層(金属層)と、それらにより挟まれる負極集電体520とから構成されている。
【0126】
一方、正極構造体510は、酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シート550とガス拡散層560とからなる一対の積層体が、正極集電体525を挟むように配置される。なお、正極集電体525側から、順に、ガス拡散層560、酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シート550が配置されている。
【0127】
正極構造体510のガス拡散層560は、これを通して空気、酸素、及びその他のガスを、電池外部と酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シート550との間で行き来させる。またガス拡散層560は、酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シート550と正極集電体525との間での電子の移動路としても機能する。ガス拡散層560は、上記のガスの移動路として働くため、通気性を有する連通孔を有することが必要であり、また電子電導性を有することが必要となる。ガス拡散層560としては、例えば、カーボンペーパーTGP-H(東レ株式会社)、クレカ(登録商標)E704(株式会社クレハ)が使用できる。
【0128】
正極集電体525は、外部との電気的接続機能と共に空気又は酸素の流路の機能も有しているため、空気電池500は、より単純な構造でより大きな容量が得られる。
【0129】
負極集電体520、及び正極集電体525としては、例えば、銅(Cu)、タングステン(W)、アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、チタン(Ti)、金(Au)、銀(Ag)、白金(Pt)、及び、パラジウム(Pd)、等の金属、並びに、これらの合金、及びこれらの化合物(例えば、炭素及び/又は窒素との化合物)が使用できる。合金の場合には、鉄(Fe)、クロム(Cr)を含むこともできる。
【0130】
次に空気電池500の製造方法について説明する。まず、負極構造体100を、一対の負極金属と、それらにより挟まれる負極集電体520から構成し、負極集電体520を外部に引き出すようにセパレータ540で囲み、セパレータ内の空間に電解液を充填する。
【0131】
次に、正極構造体510を、酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シート550とガス拡散層560とからなる一対の積層体と、それらにより挟まれる正極集電体525から構成する。なお、正極集電体525側から順に、ガス拡散層560、及び酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シート550を配置する。
【0132】
負極構造体100と正極構造体510とを、セパレータ540を介して積層して、空気電池500を作製する。空気電池500は、収納容器(図示せず)に収容されてもよい。
【実施例0133】
以下、実施例等により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0134】
<測定方法>
実施例及び比較例において実施した各種の測定方法は、以下の通りである。
【0135】
(1)BET比表面積
3Flex(Micromeritics Instrument Corp.)を用いて、窒素吸着法により得られた吸着等温線からBET法に従って求めた。
【0136】
(2)直径2nm以上1000nm以下の細孔の細孔容積
3Flex(Micromeritics Instrument Corp.)を用いて、窒素吸着法により得られた吸着等温線からBJH法を用いて求めた。
【0137】
(3)直径0.1μm以上10μm以下の細孔の細孔容積
AutoPoreIV(Micromeritics Instrument Corp.)を用いた水銀圧入法により、細孔径10nmから200000nm(0.01μmから200μm)の範囲の細孔容積を測定し、細孔直径0.1μmから10μmの細孔容積の値を用いた。
【0138】
(4)目付
多孔質炭素シート、及び酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シートをそれぞれ、直径(φ)16mmの円形に打ち抜き、質量(mg)を測定した。多孔質炭素シート、及び酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シートそれぞれの質量(mg)を、円の面積(cm)で割ることで面積当たりの質量を求め、目付(mg/cm)とした。
【0139】
(5)シート密度(ρsheet
シート密度(ρsheet)は、シートの目付量をシートの厚みで割ることで求めた。
【0140】
(6)空隙率(Porosity)
空隙率(Porosity)は、以下の式に従い算出した。
Porosity=[1-(ρsheet/ρ)]×100
式中、ρはシート構成物の真密度であり、後記するカーボンナノチューブ1、2、及び3のいずれも、1.3g/cmと仮定して求めた。
【0141】
(7)G/D比
ラマン分光測定器Touch-VIS-NIR(ナノフォトン株式会社)を用いて、対物レンズ10倍、励起波長532nm、照射レーザーパワー1mWで得られたラマンスペクトルの、結晶構造炭素由来のピーク強度をG(1580cm-1)、乱層構造炭素由来のピーク強度をD(1350cm-1)として、G/Dピーク強度比を求めた。
【0142】
(8)酸化還元媒介体の固着量
酸化還元媒介体の固着量は、酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シートと、酸化還元媒介体を固着する前の多孔質炭素シートとをそれぞれ、直径(φ)16mmの円形に打ち抜き、その質量(mg)を測定して差を求め、円の面積(cm)で割ることで、面積当たりの質量として求めた。
【0143】
<炭素材料>
多孔質炭素シートの原料として用いた炭素材料を、表1に示す。カーボンナノチューブ1(CNT1)は、単層カーボンナノチューブZEONANO SG101(日本ゼオン社)を用いた。カーボンナノチューブ2(CNT2)は、非特許文献1の記載に従い、スーパーグロス法(化学気相成長法)により作製した単層カーボンナノチューブである。具体的には、スパッタ蒸着によりFe(2nm)/Al(40nm)を蒸着させたシリコン基板を環状炉内に封入し、1大気圧下、He/H混合ガス(混合比1/9)を流速1000sccmで供給しながら、750℃で6分間アニールした。次いで、水150ppm及びエチレン10%を含むHe/H混合ガスを、流速1000sccmで10分間供給してシリコン基板上にカーボンナノチューブ集合体を成長させ、これをCNT2として用いた。カーボンナノチューブ(CNT3)は、単層カーボンナノチューブMEIJO eDIPS2.0(名城ナノカーボン社)を用いた。
【0144】
【表1】
【0145】
<多孔質炭素シートの作製>
表1に記載した炭素材料(CNT1からCNT3)を用いて、多孔質炭素シートを作製した。表2に、得られた多孔質炭素シートの物性を示す。
【0146】
CNT1及びCNT2は、それぞれを少量の純水中に混合し、ミキサー撹拌(ハイフレックスホモジナイザ、エスエムテー社、型式:HF93、回転速度:9000rpm、時間:3分)して予備分散させた後、カーボンナノチューブの濃度が0.05質量%となるよう純水を加えて調整し、CNT水分散液を作製した。得られたCNT水分散液を室温下で超音波処理(Branson超音波ホモジナイザー、EMERSON社、型式:450D、出力:50W、時間:50秒)し、これをフィルター(オムニポアメンブレンフィルター、1.0μm pore size)上にろ過し、真空乾燥することにより、自立性を有する多孔質炭素シート(シート1及びシート2)を得た。
【0147】
CNT3は、少量のイソプロパノール中に混合し、ミキサー撹拌(ハイフレックスホモジナイザ、エスエムテー社、HF93、回転速度9000rpm、3分間)にて予備分散させた後、カーボンナノチューブの濃度が0.05質量%となるようイソプロパノールを加えて調整し、CNTイソプロパノール分散液を作製した。得られたCNTイソプロパノール分散液を氷浴下で超音波処理(Branson超音波ホモジナイザー、EMERSON社、型式:450D、出力:20W、時間:180分)し、これをフィルター(オムニポアメンブレンフィルター、1.0μm pore size)上にろ過し、真空乾燥することにより、自立性を有する多孔質炭素シート(シート3)を得た。
【0148】
【表2】
【0149】
<酸化還元媒介体と溶媒の組み合わせ>
酸化還元媒介体と溶媒との好適な組み合わせを探索する目的で、酸化還元媒介体と溶媒とを組み合わせて、酸化還元媒介体が溶媒に溶解するか否か、及び得られた溶液が多孔質炭素シートに浸透可能か否かの確認を実施した。
【0150】
酸化還元媒介体としては、臭化リチウム(LiBr)、亜硝酸リチウム(LiNO)、亜硝酸ナトリウム(NaNO)、硝酸リチウム(LiNO)、及び10-メチルフェノチアジン(MPT)を用いた。溶媒としては、水、1-プロパノール、アニソールを用いた。
【0151】
溶解可否については、酸化還元媒介体を溶媒に添加し、酸化還元媒介体の1wt%溶液が作製できるか否かで判定した。浸透可否については、得られた溶液を多孔質炭素シート上に1回あたり10μl/cmから25μl/cm滴下し、1分以上放置したときに、シート内に溶液が浸透しているか否かで判定した。続いて、100℃で1時間以上の真空乾燥を実施することにより、多孔質炭素シートの表面に酸化還元媒介体が固着された酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シートを作製することができる。
【0152】
表3に、酸化還元媒体と溶媒とを組み合わせた確認結果を示す。なお、表3に示される記号は、以下を意味する。
○:酸化還元媒介体が溶媒に溶解するとともに、溶液が多孔質炭素シートに浸透した。
Xa:酸化還元媒介体は溶媒に溶解したが、溶液は多孔質炭素シートに浸透せず、弾かれた。
Xb:酸化還元媒介体は溶媒に溶解しなかった。
【0153】
【表3】
【0154】
表3の内、溶媒が水でありXaとなる組み合わせの場合には、乱層構造炭素成分を多く含みG/D比がおおむね10未満のシート1、及びシート2については、シート上に滴下した水溶液を放置せずに揉み込む、又は水溶液をシートに擦り付けるなどの機械的な刺激を与えれば、溶液を多孔質炭素シートに浸透させることは可能であった。しかしながら、機械的な刺激により浸透させた場合には、その後の乾燥によりシートが収縮し、撚れ又は縮れが顕著に表れてしまった。また、G/D比が100を超えるシート3については、機械的な刺激によっても水溶液を浸透させることはできなかった。
【0155】
表3の結果より、多孔質炭素シートに酸化還元媒介体を固着させるために用いる溶液を形成する溶媒は、以下の要件に基づき選定できることがわかる。
(1)酸化還元媒介体に対して十分な溶解性を有していること、
(2)多孔質炭素シートと親和性があり、濡れ性がよいこと、及び
(3)揮発性を有しており、溶媒除去が容易であること。
【0156】
具体的には、無機塩の酸化還元媒介体の場合には、1-プロパノール等の短鎖アルコール、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、テトラヒドロフラン(THF)等の高中極性溶媒又は中極性溶媒を用いることができる。MPTのような有機化合物の酸化還元媒介体の場合には、アニソール、トルエン、及びアセトニトリル等の中極性溶媒又は低極性溶媒を用いることができる。
【0157】
酸化還元媒介体と溶媒との好適な組み合わせを選択し、得られる溶液の濃度等を調整することにより、多孔質炭素シートに対して溶液を滴下して浸透させる方法のほか、溶液のスプレー噴射やインクジェット塗布などの方法により、酸化還元媒介体の固着量や固着部位を任意に選択することができる。
【0158】
<実施例1から9、比較例2、3、5、及び7>
[酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シートの作製]
表2に記載した多孔質炭素シート(シート1からシート3)の表面に、表4に示す酸化還元媒介体を、図3に示す方法により固着させて、酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シートを作製した。
【0159】
酸化還元媒介体としては、臭化リチウム(LiBr)、亜硝酸リチウム(LiNO)、硝酸リチウム(LiNO)、及び10-メチルフェノチアジン(MPT)を用いた。溶媒としては、10-メチルフェノチアジン(MPT)に対してはアニソールを組み合わせて用い、それ以外の酸化還元媒介体に対しては1-プロパノールを組み合わせて用いた。
【0160】
酸化還元媒介体を溶媒に添加し、酸化還元媒介体の1wt%溶液を調整した。得られた溶液を多孔質炭素シート上に1回あたり10μl/cmから25μl/cm滴下し、1分以上放置してシート内に溶液を浸透させた後、100℃で1時間以上の真空乾燥を実施することで、多孔質炭素シートの表面に酸化還元媒介体が固着した酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シートを作製した。なお、酸化還元媒介体溶液の滴下量、及び滴下回数を調整することにより、酸化還元媒介体の固着量を調整した。
【0161】
[リチウム空気電池セルの作製]
酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シートとして、実施例1から9、比較例2、3、5、及び7を用い、酸化還元媒介体が固着されていない多孔質炭素シートとして、比較例1はシート1をそのまま、比較例4はシート2をそのまま、比較例6はシート3をそのまま用いて、これらを正極とするリチウム空気電池を作製した。
【0162】
具体的には、各シートを直径(φ)16mmの円形に切り出し、100℃、12時間以上の真空乾燥を実施した後に、[リチウム金属箔(φ16mm)/リチウムイオン二次電池用セパレータ/(酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シート又は多孔質炭素シート)(φ16mm)]の順に重ねた後に、電解液(1Mのリチウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド(LiTFSI)を含むテトラエチレングリコールジメチルエーテル(TEGDME)溶液)を浸透させて、リチウム空気電池セルを作製した。
【0163】
(放電電圧と充電電圧の測定)
作製したリチウム空気電池セルについて、放電電圧と充電電圧の測定を行った。具体的には、電池充放電システム(北斗電工、型式:HJ1001SD8)を用い、純酸素フロー環境下、室温、定電流(0.4mA/cm)、2.0-4.5Vカットオフ条件下で10時間放電し、10分レストの後、10時間充電(4mAh/cm)を行った。それぞれ5時間の放電及び充電(2mAh/cm)がなされたときの中間電圧を、放電電圧及び充電電圧として記録した。結果を表4に示す。なお、表4に示される記号は、以下を意味する。
Xa:既定容量(4mAh/cm)放電前に2.0Vカットオフ電圧に到達したため、中間電圧を記録できなかった。
Xb:既定容量(4mAh/cm)充電前に4.5Vカットオフ電圧に到達したため、中間電圧を記録できなかった。
【0164】
【表4】
【0165】
酸化還元媒介体としてLiBrを0.2mg/cmから1.6mg/cm(モル量:2μmol/cmから20μmol/cm)固着させた実施例1から4の酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シートは、LiBrを固着させてない比較例1の多孔質炭素シートと比較して、放電電圧にはほとんど影響を与えず、一方で、充電電圧を優位に抑制していることがわかる。
【0166】
酸化還元媒介体として、LiNO、LiNO、又はMPTを同程度固着させた実施例5から7の酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シートにおいても、放電電圧にほとんど影響を与えずに充電電圧を優位に抑制できることがわかる。
【0167】
シート2及びシート3を原料として作製された酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シートについても、酸化還元媒介体としてLiBrを0.4mg/cm(4μmol/cm)固着させた実施例8、及び実施例9は、放電電圧にほとんど影響を与えずに充電電圧を優位に抑制できることがわかる。
【0168】
酸化還元媒介体としてLiBrを2.9mg/cm固着させた比較例3、5、及び7の酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シートは、LiBrを固着させてない比較例1、4及び6の多孔質炭素シートとそれぞれ比較して、放電量が著しく低下し、規定量の放電ができなかった。酸化還元媒介体を過剰に固着させると、多孔性炭素シートの電気抵抗が上昇し、かつ細孔が閉塞されて、放電に必要な酸素拡散性が失われるためと考えられる。
【0169】
[走査型電子顕微鏡写真の撮影及び元素マッピングの実施]
LiBrを固着させてない比較例1の多孔質炭素シートの走査型電子顕微鏡写真を、図4に示す。また、LiBrを0.4mg/cm固着させた実施例2の酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シートの走査型電子顕微鏡写真を、図5に示す。
【0170】
実施例2の酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シートは、比較例1の多孔質炭素シートと同様の不織布状の繊維状炭素集合体の様態をしており、シートの多孔質性を損なうことなくLiBrが固着されていることがわかる。
【0171】
LiBrを0.4mg/cm固着させた実施例2の酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シートについて、炭素(C)の元素マッピングを図6に示す。また、臭素(Br)の元素マッピングを図7に示す。図6及び図7より、多孔質炭素シートを形成しているカーボンナノチューブの炭素(C)の周りに、酸化還元媒介体の構成元素である臭素(Br)が均一に固着していることがわかる。
【0172】
[各種物性の測定]
実施例1、2、及び5の酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シート、並びに比較例1、及び3の多孔質炭素シートについて、各種の測定結果を表5に示す。酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シートは、酸化還元媒介体の固着によって、シートの厚みや細孔容積はほぼ変化しておらず、酸化還元媒介体の固着前と同様の細孔構造を維持していることがわかる。酸化還元媒介体としてLiBrを2.9mg/cm固着した比較例3は、比表面積が490m/gまで減少しており、細孔が閉塞されたために、表4に示されるように既定容量(4mAh/cm)の放電ができなくなったと考えられる。
【0173】
【表5】
【0174】
[膜抵抗(電気抵抗)の測定]
酸化還元媒介体の固着前後に測定した多孔質炭素シート及び酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シートの膜抵抗を、表6に示す。膜抵抗としては、図3に記載の方法で、それぞれのシートを通過する電気抵抗を測定した。具体的には、φ16mmの円形にカットしたシートを銅箔2枚の間に挟んで、面圧118kPaを印加し、銅板の間にかかる交流インピーダンス測定を行い(Biologic社、型式:SP-200)、周波数1Hzにおける実数インピーダンス成分を膜抵抗として記録した。
【0175】
【表6】
【0176】
酸化還元媒介体としてLiBrを0.4mg/cm固着した実施例2の酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シートは、酸化還元媒介体が固着されていない比較例1の孔質炭素シートよりも、膜抵抗(電気抵抗)が低く抑えられており、これにより、リチウム空気電池セルの過電圧を抑制する効果が発現すると考えられる。一方でLiBrを2.9mg/cmまで固着させると、膜抵抗(電気抵抗)は逆に上昇する。酸化還元媒介体を多量に固着させた酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シートは、膜抵抗(電気抵抗)が上昇するために、規定量を放電させることが困難になると考えられる。
【0177】
[リチウム空気電池セルの作製]
被覆多孔質炭素シートとして、実施例2、8、及び9、酸化還元媒介体が固着されていない多孔質炭素シートとして、比較例1、4、及び6を用い、これらを正極とするリチウム空気電池を作製した。
【0178】
具体的には、各シートを直径(φ)16mmの円形に切り出し、100℃、12時間以上の真空乾燥を実施した後に、[リチウム金属箔(φ16mm)/リチウムイオン二次電池用セパレータ/(酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シート又は多孔質炭素シート)(φ16mm)]の順に重ねた後に、電解液を浸透させて、リチウム空気電池セルを作製した。電解液としては、1Mのリチウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド(LiTFSI)を含むテトラエチレングリコールジメチルエーテル(TEGDME)溶液、又は0.5MのLiTFSIと0.5MのLiNO(酸化還元媒介体)と0.2MのLiBr(酸化還元媒介体)とを含むTEGDME溶液を用いた。作製した空気電池を、表7に示す。
【0179】
【表7】
【0180】
(放電電圧と充電電圧の測定)
作製したリチウム空気電池セルについて、充放電サイクル試験を行った。電池充放電システム(北斗電工、型式:HJ1001SD8)を用い、純酸素フロー環境下、室温、定電流(0.4mA/cm)、2.0-4.5Vカットオフ条件下で10時間の放電及び充電(4mAh/cm)を3回繰り返した。
【0181】
空気電池1、2、及び3の充放電カーブをそれぞれ、図9図10、及び図11に示す。酸化還元媒介体が固着されていない多孔質炭素シートを用いた空気電池1は、充電電圧が充電終端に向けてなだらかに上昇していくのに対して、電解液に酸化還元媒介体LiBrを含有させた空気電池2は、3.6V付近に平坦な充電電圧を示したのち充電終端にかけてゆっくりと充電電圧が上昇していく。酸化還元媒介体LiBrが固着した酸化還元媒介体多孔質炭素シートを用いた空気電池3は、空気電池2と同様に3.6V付近に平坦な充電電圧を示したのちに充電終端にかけて充電電圧が上昇していくが、その上昇は空気電池2より抑制されており、効果的に過電圧を抑制できることがわかる。
【0182】
図12は空気電池1、2、及び3のそれぞれの放電終端時、及び充電終端時の電圧を示したものである。いずれの空気電池もほぼ同程度の放電終端電圧(2.6V程度)を示すものの、酸化還元媒介体固着されていない多孔質炭素シートを用いた空気電池1は、充電電圧が4.5Vカットオフ電圧に達しており、フル充電できなかった。電解液に酸化還元媒介体LiBrを含有させた空気電池2は、空気電池1と比べて充電電圧が抑えられているものの、その効果は3サイクルで消失して4.5Vカットオフ電圧に到達してしまう。酸化還元媒介体LiBrが固着した酸化還元媒介体多孔質炭素シートを用いた空気電池3は、3サイクル目においても4.5Vカットオフ電圧に到達しておらず、空気電池2よりも充電過電圧を抑制する効果が持続されていることがわかる。
【0183】
空気電池4、及び5の充放電カーブを、図13、及び図14に示す。酸化還元媒介体固着されていない多孔質炭素シートを用いた空気電池4は、半分に満たない充電容量で4.5Vカットオフ電圧に到達しており、ほとんど充電できないのに対して、酸化還元媒介体LiBrが固着した酸化還元媒介体多孔質炭素シートを用いた空気電池5は、充電過電圧を効果的に抑えて充電できていることがわかる。
【0184】
空気電池6、及び7の充放電カーブを、図15、及び図16に示す。酸化還元媒介体固着されていない多孔質炭素シートを用いた空気電池6は、4.2V程度の高い充電過電圧を示すのに対して、酸化還元媒介体LiBrが固着した酸化還元媒介体多孔質炭素シートを用いた空気電池7は、充電過電圧を効果的に抑えて充電できていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0185】
本発明によれば、サイクル容量を大きなもの(例えば、4mAh/cm以上)としつつ、充電過電圧を効果的に抑制された空気電池を得ることができる。このため、大きなサイクル容量を備えつつ、充放電サイクル特性が向上した空気電池を実現することができる。
【符号の説明】
【0186】
600 空気電池
610 負極構造体
620 正極構造体
630 拘束具
635 集電体
640 金属層
650 スペーサ
660 セパレータ
670 空間
680 金属メッシュ
690 酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シート
500 空気電池
100 負極構造体
510 正極構造体
520 負極集電体
525 正極集電体
540 セパレータ
550 酸化還元媒介体被覆多孔質炭素シート
560 ガス拡散層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
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図16