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特開2024-1944溶媒駆動装置および溶媒駆動モジュール
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024001944
(43)【公開日】2024-01-11
(54)【発明の名称】溶媒駆動装置および溶媒駆動モジュール
(51)【国際特許分類】
   B01D 61/00 20060101AFI20231228BHJP
   C02F 1/44 20230101ALI20231228BHJP
【FI】
B01D61/00 500
C02F1/44 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022100827
(22)【出願日】2022-06-23
(71)【出願人】
【識別番号】518250058
【氏名又は名称】株式会社アシュマラボラトリーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100180976
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 一郎
(72)【発明者】
【氏名】石井 哲好
【テーマコード(参考)】
4D006
【Fターム(参考)】
4D006GA14
4D006HA41
4D006JA08A
4D006JA25C
4D006JA30A
4D006JA30C
4D006JA67A
4D006KA02
4D006KB14
4D006KD28
4D006KD30
4D006MA03
4D006MC18
4D006PA01
4D006PB03
4D006PC80
(57)【要約】
【課題】正浸透(FO:Forward Osmosis)法による溶液処理において、溶液から駆動装置に引き出した溶媒を駆動装置から容易に分離することができる溶媒駆動装置および溶媒駆動モジュールを提供すること。
【解決手段】本発明の一態様は、半透膜を介して対象溶液に含まれる第1の溶媒を浸透圧差によって引き出すための溶媒駆動装置であって、ゲル化剤で形成された3次元網目構造体と、3次元網目構造体に保持された第2の溶媒と、3次元網目構造体に保持された駆動微粒子と、を有する駆動ゲルを備える溶媒駆動装置である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
半透膜を介して対象溶液に含まれる第1の溶媒を浸透圧差によって引き出すための溶媒駆動装置であって、
ゲル化剤で形成された3次元網目構造体と、
前記3次元網目構造体に保持された第2の溶媒と、
前記3次元網目構造体に保持された駆動微粒子と、
を有する駆動ゲルを備える、溶媒駆動装置。
【請求項2】
前記ゲル化剤は、寒天、アガロース、およびアガロース誘導体の群から選択された少なくともいずれか1つである、請求項1記載の溶媒駆動装置。
【請求項3】
前記駆動微粒子は、糖類分子、アルコール類分子、および塩類イオンの群から選択された少なくともいずれか1つである、請求項1記載の溶媒駆動装置。
【請求項4】
前記駆動ゲルは、繊維または繊維状材料による補強部材をさらに有する、請求項1記載の溶媒駆動装置。
【請求項5】
前記駆動ゲルは、上方から下方に向けた方向、および前記半透膜の近位から遠位の方向の少なくともいずれか一つの方向に前記駆動微粒子の濃度が漸減する、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の溶媒駆動装置。
【請求項6】
前記半透膜の近位から遠位の第1方向に複数の前記駆動ゲルが設けられ、
前記第1方向に前記複数の駆動ゲルのそれぞれにおける前記駆動微粒子の濃度が漸減する、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の溶媒駆動装置。
【請求項7】
ケースと、
前記ケースに設けられた半透膜と、
前記ケースに収容され、前記半透膜と接する請求項1記載の溶媒駆動装置と、
を備えた、溶媒駆動モジュール。
【請求項8】
前記ケースの下面には、前記半透膜を介して前記対象溶液から前記溶媒駆動装置に引き出された前記第1の溶媒を下方へ出すための下面開口部が設けられた、請求項7記載の溶媒駆動モジュール。
【請求項9】
前記ケースの上面には、前記半透膜を介して前記対象溶液から前記溶媒駆動装置に引き出された前記第1の溶媒を上方へ出すための上面開口部が設けられた、請求項7記載の溶媒駆動モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶液処理に用いられる溶媒駆動装置および溶媒駆動モジュールに関し、例えば海水を淡水化する際に用いられる溶媒駆動装置および溶媒駆動モジュールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化、人口増加にともなう水需要の高まりから海水淡水化技術を用いた水の生産が急拡大している。現在実用化されている海水淡水化技術には、大別すると、熱を利用する蒸発法と、半透膜を利用する逆浸透(RO:Reverse Osmosis)法との2つの方式がある。これらのうち、エネルギー効率の点から、後者のRO法が主流となっている。
【0003】
RO法では、浸透圧差以上の高圧で、正浸透とは逆向きに強制的に水を押し出すため多くの外部エネルギーが必要となる。そこで、より省エネルギーとなる方式として、浸透圧差に基づいた自発的な水の移動現象を利用する正浸透(FO:Forward Osmosis)法が注目されている。
【0004】
FO法の典型的な例は、半透膜を介して海水から淡水を引き出す駆動媒体に駆動溶液と呼ばれる液体を使用している。ここで、上述したように、FO法は浸透圧差に基づいた自発的な水の移動現象であるが、FO法において「駆動溶液」と呼ばれる理由は、あたかも、駆動溶液が海水から水を引き出しているように見えるためである。
【0005】
図11は、駆動溶液を用いた海水淡水化システムの概略構成図である。
図11に示す海水淡水化システムにおいて、駆動溶液811には海水L1に対して浸透圧が十分高くなるように設計された高濃度の溶質粒子(駆動微粒子)を含む溶媒が使用されている。この駆動溶液811で満たされた半透膜モジュール814cが装着された処理槽815に、前処理槽816でゴミ、夾雑物等の不要物が除去された海水L1が供給されると、海水L1と駆動溶液811との浸透圧差に基づき、半透膜813を介して海水側(低浸透圧側)から駆動溶液811側(高浸透圧側)に水の移動(浸透)が行われる。
【0006】
この浸透水L2は駆動溶液811に吸収されるため、淡水として水を利用するためには、別途、駆動溶液調整/分離槽817を設置し、駆動溶液811から淡水を分離して処理水保管タンク818に溜める。分離方法として、溶解度、熱、電気・磁気等を利用する種々の方法が提案されている(例えば、特許文献1、非特許文献1参照)。
【0007】
また、最近、吸水性ゲルを駆動媒体(駆動ゲル)として利用する新規な正浸透法が提案されている(非特許文献2)。図12は、駆動ゲルを用いた海水淡水化システムの概略構成図である。図12に示す海水淡水化システムの吸水性駆動ゲル812aは、吸水性高分子からなる駆動ゲルである。この吸水性駆動ゲル812aを備えた半透膜モジュール814dが装着された処理槽815に、前処理槽816でゴミ、夾雑物等の不要物が除去された海水L1が供給されると、吸水性駆動ゲル812aの吸水力により、半透膜813を介して海水L1側から吸水性駆動ゲル812a側に水が引き出され移動する。
【0008】
吸水性駆動ゲル812aを用いる場合には、駆動溶液とは異なり、浸透圧差に基づいた自発的な水の移動現象ではなく、高分子ゲルの強い吸水力により、文字通り水が駆動される。図12に示す例では、移動水は膨潤した吸水性駆動ゲル812b内に吸収される。このため、吸水性駆動ゲル812bから淡水(浸透水L2)を得るには、膨潤した吸水性駆動ゲル812bに対して熱や圧力等の外部刺激PWを与える必要がある。また、図示されているように、淡水の分離工程の際に半透膜モジュール814dから吸水性駆動ゲル812bを一時的に取り外す必要性もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2016-087494号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Aondohemba Aende et al., “Seawater Desalination: A Review of Forward Osmosis Techniques, Its Challenges, and Future Prospects,” Processes 2020, 8, 901, pp. 1-36.
【非特許文献2】Jichao Wang et al., “Recent Developments and Future Challenges of Hydrogels as Draw Solutes in Forward Osmosis Process,” Water 2020, 12, 692, pp.1-20.
【非特許文献3】独立行政法人農畜産業振興機構、砂糖類情報、[令和4年6月23日検索]、インターネット<https//sugar.alic.go.japan/japan/view/jv_0005c.htm>
【非特許文献4】埋橋祐二、滝ちづる著、“寒天の種類・使用方法”、日本調理科学会誌、vol. 38、No. 3、292-297 (2005).
【非特許文献5】流石啓司他著、“寒天と電気泳動用アガロースについて”、THE CHEMICAL TIMES, Vol.222, No.4, pp. 8-14 (2011).
【非特許文献6】ロンザジャパン株式会社、技術情報、アガロースゲルの調製、[令和4年6月23日検索]、インターネット<http://www.lonzabio.jp/tech/pdf/tech_52.pdf>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
前述したように、FO法には、駆動媒体に溶液を用いる駆動溶液法と、吸水性ゲルを用いる駆動ゲル法との2つの方式がある。
これらのうち駆動溶液法では、駆動溶液から淡水を分離するために、溶解度、熱、電気・磁気等のエネルギーが必要である。また、駆動溶液には有害なものが多く、半透膜を通して逆流し、海水側に漏えいして環境汚染を引き起こしかねない。
【0012】
また、駆動ゲル法では、高吸水性の高分子ゲルを利用しているため、ゲルの吸水性も高いが保水性も高い。このため、駆動溶液の場合と同様に、駆動ゲルから淡水を分離するために、熱、圧力等の外部刺激、すなわち、エネルギーが必要となる。また、淡水の分離工程の際に、駆動ゲルを半透膜モジュールから一時的に取り外す必要があり、分離工程が複雑となる。
【0013】
本発明は、FO法による溶液処理において、溶液から駆動装置に引き出した溶媒を駆動装置から容易に分離することができる溶媒駆動装置および溶媒駆動モジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の一態様は、半透膜を介して対象溶液に含まれる第1の溶媒を浸透圧差によって引き出すための溶媒駆動装置であって、ゲル化剤で形成された3次元網目構造体と、3次元網目構造体に保持された第2の溶媒と、3次元網目構造体に保持された駆動微粒子と、を有する駆動ゲルを備える溶媒駆動装置である。
【0015】
このような構成によれば、ゲル化剤で形成された3次元網目構造体に第2の溶媒および駆動微粒子が保持された駆動ゲルによって第1の溶媒の駆動を行う。すなわち、この駆動ゲルと対象溶液とを半透膜を介して配置することで、駆動ゲルと対象溶液との間の浸透圧差によって対象溶液の第1の溶媒(例えば、水)が駆動ゲルの3次元網目構造体に引き出される。駆動ゲルの3次元網目構造体は、溶媒と強く結合する性質(例えば、溶媒が水の場合には保水性)と、溶媒と弱く結合する性質(例えば、溶媒が水の場合には離水性)とを有するため、この溶媒と弱く結合する性質を利用して駆動ゲルに含まれる溶媒を移動させて、駆動ゲルからの溶媒の分離が行われる。
【0016】
上記溶媒駆動装置において、ゲル化剤は、寒天、アガロース、およびアガロース誘導体の群から選択された少なくともいずれか1つであってもよい。これにより、食品由来の環境性に優れた駆動ゲルが構成される。
【0017】
上記溶媒駆動装置において、駆動微粒子は、糖類分子、アルコール類分子、および塩類イオンの群から選択された少なくともいずれか1つであってもよい。これにより、食品由来の環境性に優れた駆動ゲルが構成される。
【0018】
上記溶媒駆動装置において、駆動ゲルは、繊維または繊維状材料による補強部材をさらに有する構成であってもよい。ゲルは流体と固体との中間的な物質であるため、機械的な強度不足になる可能性がある。駆動ゲルに繊維または繊維状材料による補強部材が含まれることで、駆動ゲルの機械的強度が向上する。
【0019】
上記溶媒駆動装置において、駆動ゲルは、上方から下方に向けた方向、および半透膜の近位から遠位の方向の少なくともいずれか一つの方向に駆動微粒子の濃度が漸減する構成であってもよい。駆動ゲルにおいて駆動微粒子の濃度が高いほど、半透膜を介して溶液から溶媒を引き出す駆動能力は高くなるが、引き出された溶媒の移動速度は低くなる。一方、駆動ゲルにおいて駆動微粒子の濃度が低いほど駆動微粒子の漏出が少なくなる。このため、駆動ゲルの上方から下方に向けた方向、および半透膜の近位から遠位の方向の少なくともいずれか一つの方向に駆動微粒子の濃度を漸減させる構成にすると、対象溶液から引き出された第1の溶媒(例えば、水)が駆動ゲルに浸透し、移動するにしたがい、駆動微粒子の漏出が抑制され、溶媒の移動速度が高まることになる。
【0020】
上記溶媒駆動装置において、半透膜の近位から遠位の第1方向に複数の駆動ゲルが設けられ、第1方向に複数の駆動ゲルのそれぞれにおける駆動微粒子の濃度が漸減する構成であってもよい。このように、複数の駆動ゲルのそれぞれにおける駆動微粒子の濃度が第1方向に漸減することで、対象溶液から引き出された第1の溶媒(例えば、水)が第1方向に配置された複数の駆動ゲルへ順に浸透するにしたがい、駆動微粒子の流出が抑制され、溶媒の移動速度が高まることになる。
【0021】
本発明の一態様は、ケースと、ケースに設けられた半透膜と、ケースに収容され、半透膜と接する上記溶媒駆動装置と、を備えた、溶媒駆動モジュールである。このような構成によれば、ケースに半透膜と上記溶媒駆動装置とを収容した溶媒駆動要素のモジュール化が行われる。
【0022】
上記溶媒駆動モジュールにおいて、ケースの下面には、半透膜を介して対象溶液から溶媒駆動装置に引き出された第1の溶媒を下方へ出すための下面開口部が設けられていてもよい。これにより、溶媒駆動モジュールに対象溶液を導くことで、ケースの半透膜を介して対象溶液から引き出された第1の溶媒(例えば、水)がケースの下面開口部からケース外へ分離されることになる。
【0023】
上記溶媒駆動モジュールにおいて、ケースの上面には、半透膜を介して対象溶液から溶媒駆動装置に引き出された第1の溶媒を上方へ出すための上面開口部が設けられていてもよい。これにより、溶媒駆動モジュールに対象溶液を導くことで、ケースの半透膜を介して対象溶液から引き出された第1の溶媒(例えば、水)がケースの上面開口部からケース外へ分離されることになる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、FO法による溶液処理において、溶液から駆動装置に引き出した溶媒を駆動装置から容易に分離することができる溶媒駆動装置および溶媒駆動モジュールを提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】(a)および(b)は、溶媒駆動装置(その1)の構成を例示する模式図である。
図2】溶媒駆動装置の正浸透実験について説明する図である。
図3】溶媒駆動装置の正浸透実験について説明する図である。
図4】(a)および(b)は、溶媒駆動装置(その2)の構成を例示する模式図である。
図5】溶媒駆動装置(その3)の構成を例示する模式図である。
図6】溶媒駆動モジュール(その1)を例示する模式図である。
図7】溶媒駆動モジュール(その2)を例示する模式図である。
図8】溶液処理システム(その1)を例示する模式図である。
図9】溶液処理システム(その2)を例示する模式図である。
図10】溶液処理システム(その3)を例示する模式図である。
図11】駆動溶液を用いた海水淡水化システムの概略構成図である。
図12】駆動ゲルを用いた海水淡水化システムの概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の説明では、同一の部材には同一の符号を付し、一度説明した部材については適宜その説明を省略する。
【0027】
(第1実施形態:溶媒駆動装置)
<溶媒駆動装置(その1)>
先ず、第1実施形態に係る溶媒駆動装置について説明する。
図1(a)および(b)は、溶媒駆動装置(その1)の構成を例示する模式図である。図1(a)には全体模式図が示され、図1(b)には(a)のA部の拡大模式図が示される。
図1に示す溶媒駆動装置1Aは、半透膜20を介して対象溶液に含まれる第1の溶媒を浸透圧差によって引き出すための装置であって、駆動ゲル10を備える。駆動ゲル10は、ゲル化剤で形成された3次元網目構造体11と、3次元網目構造体11に保持された第2の溶媒の例である水12と、3次元網目構造体11に保持された駆動微粒子13と、を有する。
【0028】
3次元網目構造体11を形成するゲル化剤としては、寒天、アガロース、およびアガロース誘導体の群から選択された少なくともいずれか1つが用いられる。また、駆動微粒子13としては、糖類分子、アルコール類分子、および塩類イオンの群から選択された少なくともいずれか1つが用いられる。これにより、食品由来の環境性に優れた駆動ゲル10が構成される。
【0029】
本実施形態では、一例として、3次元網目構造体11を形成するゲル化剤として寒天、駆動微粒子13として代表的な糖類分子であるショ糖を用いている。駆動ゲル10は、ゲル化剤である寒天と、駆動微粒子13であるショ糖とを精製水中で加熱撹拌してゾル状態に調整した後(以下、「ゾル状調製物」とも言う。)、ゾル状調製物を所定の型枠に注入し、冷却することで作製される。
【0030】
このような駆動ゲル10を備えた溶媒駆動装置1Aを構成することにより、対象溶液から溶媒を駆動することができる。すなわち、この駆動ゲル10と対象溶液とを半透膜20を介して配置することで、駆動ゲル10と対象溶液との間の浸透圧差によって対象溶液の溶媒が駆動ゲル10の3次元網目構造体11に引き出される。
【0031】
例えば、海水を対象溶液として、海水の淡水化を行う場合、駆動ゲル10において、
(1)ゲルの3次元網目構造体11内の駆動微粒子が海水以上の浸透圧を誘起する。
(2)水がゲルの3次元網目構造体11内を移動可能である。
(3)駆動微粒子13がゲルの3次元網目構造体11内に束縛される。
の3つの条件を満たせば、FO法の駆動溶液と同様に、駆動ゲル10であっても浸透圧差に基づいた海水淡水化が可能となる。しかも、駆動微粒子13は駆動ゲル10の3次元網目構造体11内に束縛された状態なので、淡水の分離工程が不要となる。
【0032】
上記の一例のように、図1で示す塊状の駆動ゲル10は、寒天とショ糖とを精製水中で加熱撹拌してゾル状態にした後、ゾル状調製物を冷却することにより作製される。すなわち、駆動ゲル10の一例は、ショ糖含有寒天ゲルである。寒天は、食品分野でよく知られたゲル化剤で多量の水が保持可能な3次元網目構造体11を有するヒドロゲルを形成する。また、ショ糖はグラニュー糖として寒天と同様に食品分野でよく知られている代表的な糖類である。寒天との親和性が非常に高く、水と一緒に多量に寒天のヒドロゲルの3次元網目構造体11内に保持される。
【0033】
ここで、ショ糖含有寒天ゲル(以下、単に「寒天ゲル」とも言う。)が前記(1)~(3)の条件を満たす駆動ゲル10であることを以下に説明する。
(A)ゲル内のショ糖分子の浸透圧誘起性
FO法の駆動溶液としてのショ糖水溶液の浸透圧については、従来の報告例があるが(非特許文献3)、寒天ゲルの浸透圧については、従来の報告例はない。そこで、本願の発明者は、前述の方法で作製された寒天ゲルについて浸透圧実験を行い、寒天ゲル内のショ糖分子がショ糖水溶液内のショ糖分子と同様に海水よりも高い浸透圧を誘起することを実験的に確認した。詳細については後述する。
【0034】
(B)寒天ゲル内での水の移動性
寒天ゲルは、その構造から離水性という特有な性質を有している。これは、寒天ゲル内に保持された水には、強く結合された水と、弱く結合された水との2種類の水があり、後者の弱く結合された水は寒天ゲル内を比較的自由に移動可能で、最終的には寒天ゲルの表面から滲出することが報告されている(非特許文献4)。この離水性という特徴を利用すれば、半透膜を介して海水側から寒天ゲル側に移動してきた浸透水を、寒天ゲル内部、さらには寒天ゲル外部に移動させることが可能である。さらに加えて、重力により、下向きに浸透水を移動させることもできる。
【0035】
(C)寒天ゲル内でのショ糖分子の束縛性
寒天ゲルはゲル化率(寒天の濃度)が高くなると3次元網目構造の網目サイズが小さくなる特徴がある。化学、医学の分野ではこの特徴を利用して、寒天ゲルを分離媒体として使用している。例えば、電気泳動技術では、ゲル化率の制御された寒天ゲルを使用して、種々のサイズのDNA(デオキシリボ核酸)断片が混ざったサンプルから、一定範囲のサイズごとにDNAを分離することが行われる(非特許文献5)。具体的には、非特許文献6によれば、寒天ゲルの濃度が5重量パーセント(wt%)以上になると、寒天ゲルに捕捉されるDNA断片の最小サイズは10~20bp(base pair、1bp=0.34nm)、すなわち、3.4~6.8nmとなり、ショ糖分子のサイズに近くなる。さらに、寒天の濃度を7~10wt%に高め、網目サイズをより小さくすれば、水分子(サイズ:0.28~0.38nm)のみを透過し、ショ糖分子をほぼ完全にゲル内に束縛し、ゲル外への流出を抑制することが可能となる。
【0036】
<正浸透実験>
次に、本実施形態に係る溶媒駆動装置1Aの正浸透実験について説明する。
図2および図3は、溶媒駆動装置の正浸透実験について説明する図である。
正浸透実験として、次に示す寒天ゲルによる駆動ゲル10を製作した。
すなわち、粉末寒天を使用し、調整容器内の精製水に対して濃度5重量パーセント(wt%)になるように仕込み、その内容物を80℃~95℃まで徐々に加熱して流動性のあるゾル状態にする。その後、ゾル状調製物に対して濃度50wt%になるようにショ糖を加え撹拌し、再度、一様なゾルに調整した後、徐々に冷却する。そして、寒天のゲル化温度以上の45℃~80℃で調整容器から所定の形状の型枠に注入し、さらに常温まで徐々に冷却して完全に固化(ゲル化)させる。これにより、塊状の駆動ゲル10が作製される。
【0037】
正浸透実験は、上述の方法で作製された50wt%ショ糖含有の寒天ゲルを駆動ゲル10とし、駆動ゲル10と半透膜20とを一体化した容器を、3.5wt%の食塩水L10(海水相当の濃度)の槽の中に配置した。図2には浸透開始時の状態が示され、図3には浸透開始から24時間後の状態が示される。この実験では、食塩水L10を随時補充し、食塩水L10の液面の高さh1と駆動ゲル10の上面10aとをほぼ同一レベルに維持するようにした。
【0038】
図2に示す浸透開始時においては駆動ゲル10の上面10aには浸透水L20は滲出していない。図3に示すように、浸透開始から24時間後において浸透水L20が駆動ゲル10の上面10a(食塩水L10の液面の高さh1と等しい)を超える高さh2まで達しており、少なくとも、3.5wt%食塩水の浸透圧よりも高い浸透圧が誘起されていることが確認された(正浸透では、浸透圧の低い側から高い側へ水が移動する。)。これにより、寒天ゲルが、海水淡水化を行う溶媒駆動装置1Aの駆動ゲル10として利用可能であることが実証された。
【0039】
なお、上記の例では、寒天の濃度を5wt%、ショ糖の濃度を50wt%としたが、これは一例であって、他の濃度であってもよい。好ましい濃度範囲としては、寒天の場合は、濃度1wt%~20wt%、ショ糖の場合は、濃度30wt%~80wt%である。
【0040】
また、上記の例では、ゲル化剤に寒天を使用したが、寒天の主成分であるアガロース(寒天の精製物)またはアガロース誘導体も寒天と同様、あるいはそれ以上にゲル化剤としての作用効果が見込められるので、ゲル化剤として使用可能である。
【0041】
また、駆動微粒子13の例である糖類分子についても、上記の例ではショ糖を使用したが、ブドウ糖、果糖、麦芽糖等の他の糖類分子でも、ショ糖同様に溶解性が高く、その水溶液は高い浸透圧を示すことが知られており、駆動微粒子13として使用可能である。また、エタノール(エチルアルコール)、グリセロール(グリセリン)、エチレングリコール等のアルコール類分子、および塩化ナトリウム(NaCl)、塩化マグネシウム(MgCl)、塩化カルシウム(CaCl)等の塩類イオンも、それらの水溶液は高い浸透圧を示すことが報告されており、同様に駆動微粒子13として使用可能である。
【0042】
<高さ方向の濃度分布>
上記説明した寒天の濃度(ゲル化度)やショ糖濃度は駆動ゲル10内で均一としたが、こられの少なくともいずれかに濃度勾配を持たせてもよい。例えばショ糖濃度について駆動ゲル10の高さ方向(上下方向)で分布を持たせてもよい。一例として、駆動ゲル10における上方から下方に向けてショ糖の濃度が漸減する構成にすることが挙げられる。ここで、濃度の漸減とは、連続的に濃度が低くなる場合のほか、段階的に低くなることを含む(「漸減」について、以下の説明でも同様。)。
【0043】
具体的な一例として、駆動ゲル10の上面10aから半透膜20の下端と同レベルの位置までは50wt%、それ以降、連続的に減少させて駆動ゲル10の下面10b付近で0wt%となるように調整することが挙げられる。
【0044】
駆動ゲル10の上方から下方に向けてショ糖の濃度を漸減させる構成にすると、対象溶液から半透膜20を介して引き出された水が駆動ゲル10に浸透し、ショ糖の漏出が抑制され、水が自重で下方に移動するにしたがい、水の移動速度が高まることになる。これにより、駆動微粒子13であるショ糖の漏出を抑制しつつ、水を効率良く下方へ移動させることができる。
【0045】
寒天およびショ糖の駆動ゲル10内での濃度分布については、上記に限られたものではなく、駆動ゲル10へ浸透した水の流速が最大となり、かつ、ショ糖の流出が抑制されるよう、適宜、設定すればよい。
【0046】
また、濃度分布を調整するには、予め複数のショ糖濃度のゾル状調製物を用意しておき、注入温度、注入量により制御すればよい。例えば、第1のショ糖濃度のゾル状調製物を型枠に注入し、温度制御によって硬化(または半硬化)させ、次にその上に第2のショ糖濃度のゾル状調製物を注入し、温度制御によって硬化(または半硬化)させる、という処理を繰り返し、最終的にゲル状に硬化させる。
【0047】
所定の濃度で型枠に注入するゾル状調製物の1回あたりの注入量が少ないほど滑らかな濃度変化となり、1回あたりの注入量が多いほどステップ的な濃度変化となる。これにより、高さ方向にショ糖の濃度分布を持った駆動ゲル10が作製される。
【0048】
<溶媒駆動装置(その2)>
図4(a)および(b)は、溶媒駆動装置(その2)の構成を例示する模式図である。図4(a)には全体模式図が示され、図4(b)には(a)のB部の拡大模式図が示される。
図4に示す溶媒駆動装置1Bの駆動ゲル10は、ゲル化剤で形成された3次元網目構造体11、3次元網目構造体11に保持された第2の溶媒の例である水12、3次元網目構造体11に保持された駆動微粒子13に加え、繊維または繊維状材料による補強部材14を有する。
【0049】
ゲルは流体と固体との中間的な物質であるため、柔軟性に富む一方、機械的強度は高くない。このため、ゲルを薄膜化した場合に強度不足となりゲル膜の損傷を招く可能性がある。そこで、駆動ゲル10に補強部材14を含めることで、駆動ゲル10の機械的強度を高める。補強部材14としては、例えばバイオポリマーからなる繊維が挙げられる。
【0050】
溶媒駆動装置1Bの駆動ゲル10は、ゲル化剤と水12と駆動微粒子13とを混合し、徐々に加熱撹拌してゾル状態に調整した後、ゾル状調製物を所定の型枠内で補強部材14の例であるバイオポリマーの繊維に含浸させ、冷却することにより作製される。
【0051】
例えば、3次元網目構造体11を形成するゲル化剤としては寒天、駆動微粒子13の例としてはショ糖、さらに、代表的なバイオポリマーの例としてはセルロースの繊維からなるコットン(例えば、コットン不織布)を用いることができる。寒天とショ糖を精製水中で加熱撹拌してゾル状態にした後、ゾル状調製物をコットン不織布に含浸させ、冷却することにより溶媒駆動装置1Bの駆動ゲル10が作製される。
【0052】
具体的には、駆動ゲル10の厚さ(第1方向D1の厚さ)を約10mmとする場合、先ず、駆動ゲル10の厚さと同等の厚さ約10mmの脱脂綿シート(コットン不織布の薄膜シート)を用意する。次に、ゾル状調製物を準備した後、脱脂綿シートを型枠内に敷く。次に、ゾル状調製物をその型枠内に均一に注入し、ゾル状調製物を徐々に脱脂綿シートに含浸させ、その後、常温まで徐々に冷却してゲル化させる。
【0053】
ここで、寒天もコットンもバイオポリマーであり、分子内に多数の水酸基(-OH)を有しているため、ゲル中の水分子が介在した水素結合により互いに強固に結合し高強度の駆動ゲル10が形成される。
【0054】
このような補強部材14を含む駆動ゲル10を備えた溶媒駆動装置1Bでは、塊状ではなく、膜状(薄型)の駆動ゲル10をより構成しやすくなる。
【0055】
<厚さ方向の濃度分布>
上記説明した寒天の濃度(ゲル化度)やショ糖濃度は駆動ゲル10内で均一としたが、こられの少なくともいずれかに濃度勾配を持たせてもよい。例えばショ糖濃度について駆動ゲル10の半透膜20の近位から遠位の方向(第1方向D1:膜厚方向とも言う。)に分布を持たせてもよい。一例として、駆動ゲル10における膜厚方向にショ糖の濃度が漸減する構成にすることが挙げられる。
【0056】
具体的な一例として、駆動ゲル10の厚さ(第1方向D1の厚さ)を約10mmとする場合、先ず、駆動ゲル10の厚さと同等の厚さ約10mmの脱脂綿シート(コットン不織布の薄膜シート)を用意する。次に、ゾル状調製物を準備した後、脱脂綿シートを型枠内に敷く。次に、ゾル状調製物をその型枠内に均一に注入し、ゾル状調製物を徐々に脱脂綿シートに含浸させ、その後、常温まで徐々に冷却してゲル化させる。
【0057】
ここで、脱脂綿シートに含浸させるゾル状調製物のショ糖濃度(駆動微粒子13の濃度)については、膜厚方向(第1方向D1)に分布を持たせるようにする。例えば、型枠に最初に注入するゾル状調製物は、厚さ(高さ)0mmから5mmまでは50wt%とする。その後、第1方向D1に連続的に減少させて5mm付近から10mmまで0wt%となるように調整する。
【0058】
駆動ゲル10の第1方向D1にショ糖の濃度を漸減させる構成にするとショ糖の漏出が抑制され、対象溶液から半透膜20を介して引き出された水が駆動ゲル10に浸透し、第1方向D1に浸透して移動するにしたがい、水の移動速度が高まることになる。これにより、駆動微粒子13であるショ糖の漏出を抑制しつつ、水を効率良く第1方向D1へ移動させることができる。
【0059】
寒天およびショ糖の駆動ゲル10内での濃度分布については、上記に限られたものではなく、駆動ゲル10へ浸透した水の流速が最大となり、かつ、ショ糖の流出が抑制されるよう、適宜、設定すればよい。膜厚方向の濃度分布を調整するには、予め複数の濃度のゾル状調製物を用意しておき、注入温度、注入量により制御すればよい。例えば、第1のショ糖濃度のゾル状調製物を型枠に注入し、温度制御によって硬化(または半硬化)させ、次にその上に第2のショ糖濃度のゾル状調製物を注入し、温度制御によって硬化(または半硬化)させる、という処理を繰り返し、最終的にゲル状に硬化させる。
【0060】
所定の濃度で型枠に注入するゾル状調製物の1回あたりの注入量が少ないほど滑らかな濃度変化となり、1回あたりの注入量が多いほどステップ的な濃度変化となる。これにより、厚さ方向にショ糖の濃度分布を持った駆動ゲル10が作製される。
【0061】
<溶媒駆動装置(その3)>
図5は、溶媒駆動装置(その3)の構成を例示する模式図である。
図5に示す溶媒駆動装置1Cは、複数の駆動ゲル10を備える。複数の駆動ゲル10は、第1方向D1に並置される。複数の駆動ゲル10を設ける場合、一つの駆動ゲル10が薄膜になることもあるため、図4に示す補強部材14を含む駆動ゲル10を用いることが好ましい。溶媒駆動装置1Cにおいて、複数の駆動ゲル10のそれぞれにおける駆動微粒子の濃度は、第1方向D1に漸減するよう構成される。
【0062】
複数の駆動ゲル10のそれぞれの製造方法は、溶媒駆動装置1Aおよび1Bの駆動ゲル10の製造方法と同様である。なお、膜状(薄型)の駆動ゲル10を用いる場合には、補強部材14を含む駆動ゲル10およびその製造方法が好適である。
【0063】
具体的な一例として、1つの駆動ゲル10の厚さ(第1方向D1の厚さ)を約10mmとし、3つの膜状の駆動ゲル10によって溶媒駆動装置1Cを構成する場合、駆動ゲル10の厚さと同等の厚さ約10mmの脱脂綿シート(コットン不織布の薄膜シート)を用意し、溶媒駆動装置1Bの駆動ゲル10の製造方法と同様に、ゾル状調製物を準備した後、脱脂綿シートを型枠内に敷く。
【0064】
次に、ゾル状調製物をその型枠内に均一に注入し、ゾル状調製物を徐々に脱脂綿シートに含浸させ、その後、常温まで徐々に冷却してゲル化させる。これにより1つの駆動ゲル10が作製される。そして、この方法で3つの駆動ゲル10を作製し、3つの駆動ゲル10を積層(並置)する。この3つの駆動ゲル10の作製にあたり、それぞれの駆動ゲル10におけるショ糖の濃度を変えるようにする。
【0065】
また、ショ糖の濃度が異なる複数の駆動ゲル10について連続的な層構造にしてもよい。具体的な一例として、複数の駆動ゲル10を全体の膜厚10mmで連続的な3層膜構造とする場合、先ず、厚さ約10mmの脱脂綿シートを型枠内に敷く。次に、寒天およびショ糖濃度を、それぞれ5wt%、50wt%としたゾル状調製物を型枠内に注入し、ゾル状調製物を脱脂綿シートに含浸させ、高さ(層厚)約5mmとなるようにゲル化させる。
【0066】
次に、その上に、寒天およびショ糖濃度を、それぞれ5wt%、25wt%としたゾル状調製物を注入し、ゾル状調製物を脱脂綿シートに含浸させ、高さ(層厚)約3mmとなるようにゲル化させる。次いで、その上に、寒天およびショ糖濃度を、それぞれ5wt%、0wt%としたゾル状調製物を注入し、ゾル状調製物を脱脂綿シートに含浸させ、高さ(層厚)約2mmとなるようにゲル化させる。これにより、膜厚10mm内において下層約5mm、中間層約3mm、上層約2mmでショ糖の濃度が異なる3層構造の駆動ゲル10が作製される。
【0067】
寒天およびショ糖の第1方向D1での濃度分布については、上記に限られたものではなく、複数の駆動ゲル10へ浸透した水の流速が最大となり、かつ、ショ糖の流出が抑制されるよう、適宜、設定すればよい。また、各駆動ゲル10の膜厚も上記に限られたものではない。駆動ゲル10の膜厚が薄くなればなるほど寒天、ショ糖の使用量を節約できメリットがある。
【0068】
なお、上記の溶媒駆動装置1Cにおける複数の駆動ゲル10のそれぞれについて、膜状の駆動ゲル10を用いているが、塊状の駆動ゲル10を用いてもよい。また、膜状の駆動ゲル10と塊状の駆動ゲル10とを組み合わせてもよい。
【0069】
(第2実施形態:溶媒駆動モジュール)
次に、第2実施形態に係る溶媒駆動モジュールについて説明する。
<溶媒駆動モジュール(その1)>
図6は、溶媒駆動モジュール(その1)を例示する模式図である。
図6には、溶媒駆動モジュール100Aの一部断面斜視図が示される。
図6に示すように、溶媒駆動モジュール100Aは、ケース110と、ケース110に設けられた半透膜20と、ケース110に収容され、半透膜20と接する溶媒駆動装置1Aと、を備える。
【0070】
ケース110は筒形に設けられ、側面に網目部115が設けられる。ケース110には、例えば海水L1に耐性があるプラスチック材料が用いられる。ケース110の筒内の上部には上側支持板111が設けられ、筒内の下部には下側支持板112が設けられる。下側支持板112には多数の貫通孔112hが設けられる。ケース110の筒内の上側支持板111と下側支持板112との間に溶媒駆動装置1Aが配置される。
【0071】
半透膜20はケース110の内周面に設けられる。半透膜20には、例えば酢酸セルロース系の材料が用いられるが、これに限定されない。半透膜20の内側に半透膜20と接するように溶媒駆動装置1Aの駆動ゲル10が配置される。すなわち、溶媒駆動モジュール100Aは、側面に網目部115を有する円筒状のケース110に、半透膜20、駆動ゲル10が内側に向かって順に密着して配置された3層構造となっており、さらに駆動ゲル10が上下の支持板(上側支持板111および下側支持板112)で固定され、一体化した部品集合体となっている。
【0072】
溶媒駆動装置1Aの駆動ゲル10は別途の型枠を用いて製作したものをケース110内に収容してもよいし、ケース110を型枠として駆動ゲル10を一体化させたものであってもよい。ケース110を型枠として利用する場合、先に説明したゲル化剤(例えば、寒天)と水12と駆動微粒子13(例えば、ショ糖)とのゾル状調製物をケース110の中に注入し、冷却してケース110と駆動ゲル10とを一体化させる。
【0073】
この溶媒駆動モジュール100Aに対して海水L1が供給されると、ケース110の網目部115から浸入した海水L1は半透膜20を介して淡水(浸透水L2)として駆動ゲル10の内部に自発的に移動(浸透)し、その後、重力により下降し、最終的に下側支持板112の貫通孔112hからケース110の下方へと流出する。この一連の水のフローにより海水淡水化が実行される。
【0074】
<溶媒駆動モジュール(その2)>
図7は、溶媒駆動モジュール(その2)を例示する模式図である。
図7には、溶媒駆動モジュール100Bの一部断面斜視図が示される。
図7に示すように、溶媒駆動モジュール100Bは、ケース110と、ケース110に設けられた半透膜20と、ケース110に収容され、半透膜20と接する溶媒駆動装置1Bと、を備える。
【0075】
溶媒駆動モジュール100Bでは、ケース110の筒内の上側支持板111と下側支持板112との間に溶媒駆動装置1Bが配置される。ケース110の内周面に設けられた半透膜20の内側に、半透膜20と接するように溶媒駆動装置1Bの駆動ゲル10が配置され、溶媒駆動装置1Bの駆動ゲル10の内側に内枠113が設けられる。すなわち、溶媒駆動モジュール100Bは、側面に網目部115を有する円筒状のケース110に、半透膜20、駆動ゲル10、さらに内枠113が内側に向かって順に密着して配置された4層構造で、中央部が空洞(中空構造)となっており、さらに駆動ゲル10が上下の支持板(上側支持板111および下側支持板112)で固定され、一体化した部品集合体となっている。
【0076】
溶媒駆動装置1Bの駆動ゲル10は別途の型枠を用いて製作したものをケース110内に収容してもよいし、ケース110を型枠として駆動ゲル10を一体化させたものであってもよい。ケース110を型枠として利用する場合、先に説明したゲル化剤(例えば、寒天)と水12と駆動微粒子13(例えば、ショ糖)とのゾル状調製物を用意して、ケース110の内側に予め配置した脱脂綿シート(バイオポリマー)に含浸させ、冷却してケース110と駆動ゲル10とを一体化させる。
【0077】
この溶媒駆動モジュール100Bに対して海水が供給されると、ケース110の網目部115から浸入した海水L1は半透膜20を介して淡水(浸透水L2)として駆動ゲル10の内部に自発的に移動(浸透)し、その後、駆動ゲル10を内側に設けられた内枠113の網目113hを通して滲出する。その後、内枠113から滲出した浸透水L2は重力により下降し、最終的に下側支持板112の貫通孔112hからケース110の下方へと流出する。この一連の水のフローにより海水淡水化が実行される。
【0078】
なお、図6に示す溶媒駆動モジュール100Aの駆動ゲル10や、図7に示す溶媒駆動モジュール100Bの駆動ゲル10について、ゲル化剤(例えば、寒天)および駆動微粒子13の少なくともいずれかについて濃度分布を持ったものや、複数の駆動ゲル10が積層されたものを用いてもよい。
また、ケース110は、円筒状のほか、角筒状または他の形状であってもよい。さらに、下側支持板112の上側(駆動ゲル10側)に駆動ゲル10の浸入を防止するための不織紙や不織布等を配置してもよい。
【0079】
(第3実施形態:溶液処理システム)
次に、第3実施形態に係る溶液処理システムについて説明する。
【0080】
<溶液処理システム(その1)>
図8は、溶液処理システム(その1)を例示する模式図である。
図8に示す溶液処理システム500Aは、ケース110、溶媒駆動装置1Aおよび半透膜20を備える溶媒駆動モジュール100Aと、処理槽515と、前処理槽516と、処理水保管タンク518とを備える。なお、説明の便宜上、図8においては、溶媒駆動装置1Aについて処理槽515側の略半分のみを示している。
【0081】
この溶液処理システム500Aを用いた溶液処理として、海水淡水化の確認実験を行った。海水淡水化は以下の工程に従って行われる。
【0082】
先ず、前処理槽516でゴミ、夾雑物等の不要物が除去された海水L1(原水、濃度約3.5wt%)をポンプ520で処理槽515に供給する。次に、処理槽515に海水L1を供給することで、溶媒駆動モジュール100Aによる淡水化処理が始まる。すなわち、供給された海水L1は、溶媒駆動モジュール100Aの半透膜20を介して駆動ゲル10側に徐々に処理水(浸透水L2)として移動(浸透)する。この浸透水L2は、さらに重力により下方に移動し、最終的には溶媒駆動モジュール100Aの下側支持板112の貫通孔112hを通して処理水保管タンク518内に流出し、そこで保管される。
【0083】
上記の実験において、得られた淡水の量は、0.5リットル/平方メートル・時間(L/m・h)であった。この実験結果により、本実施形態に係る溶媒駆動装置1Aの駆動ゲル10と、それを備えた溶媒駆動モジュール100Aを使用することにより、浸透水L2の分離工程が不要で淡水が得られること、また溶媒駆動モジュール100Aから処理水保管タンク518までの一連の工程において、水の移動は正浸透と重力に基づくものであって自発的現象であり、基本的に浸透水L2から水12(淡水)と駆動微粒子13(ショ糖)とを分離するための外部エネルギーが不要であることも確認できた。
【0084】
<溶液処理システム(その2)>
図9は、溶液処理システム(その2)を例示する模式図である。
図9に示す溶液処理システム500Bは、ケース110、溶媒駆動装置1Bおよび半透膜20を備える溶媒駆動モジュール100Bと、処理槽515と、前処理槽516と、処理水保管タンク518とを備える。なお、説明の便宜上、図9においては、溶媒駆動装置1Bについて処理槽515側の略半分のみを示している。
【0085】
この溶液処理システム500Bを用いた溶液処理として、海水淡水化の確認実験を行った。海水淡水化は以下の工程に従って行われる。
【0086】
先ず、前処理槽516でゴミ、夾雑物等の不要物が除去された海水L1(原水、濃度約3.5wt%)をポンプ520で処理槽515に供給する。次に、処理槽515に海水L1を供給することで、溶媒駆動モジュール100Bによる淡水化処理が始まる。すなわち、供給された海水L1は、溶媒駆動モジュール100Bの半透膜20を介して駆動ゲル10側に徐々に処理水(浸透水L2)として移動(浸透)する。この浸透水L2は、駆動ゲル10の内側に設けられた内枠113の網目113hを通して滲出する。さらに重力により下方に移動し、最終的には溶媒駆動モジュール100Bの下側支持板112の貫通孔112hを通して処理水保管タンク518内に流出し、そこで保管される。
【0087】
上記の実験において、得られた淡水の量は、0.7リットル/平方メートル・時間(L/m・h)であった。この実験結果により、本実施形態に係る溶媒駆動装置1Bの駆動ゲル10と、それを備えた溶媒駆動モジュール100Bを使用することにより、浸透水L2の分離工程が不要で淡水が得られること、また溶媒駆動モジュール100Bから処理水保管タンク518までの一連の工程において、水の移動は正浸透と重力に基づくものであって自発的現象であり、基本的に浸透水L2から水12(淡水)と駆動微粒子13(ショ糖)とを分離するための外部エネルギーが不要であることも確認できた。
【0088】
<溶液処理システム(その3)>
図10は、溶液処理システム(その3)を例示する模式図である。
図10に示す溶液処理システム500Cは、ケース110、溶媒駆動装置1Aおよび半透膜20を備える溶媒駆動モジュール100Aと、処理槽515と、前処理槽516と、処理水受け部519とを備える。なお、説明の便宜上、図10においては、溶媒駆動装置1Aについて処理槽515側の略半分のみを示している。処理水受け部519は、溶媒駆動モジュール100Aの下方(ケース110の下側支持板112の下側)を塞ぐ底部519aと、ケース110の上方(駆動ゲル10の上方)に設けられた枠部519bとを有する。
【0089】
この溶液処理システム500Cを用いた溶液処理として、海水淡水化を行った。海水淡水化は以下の工程に従って行われる。
【0090】
先ず、前処理槽516でゴミ、夾雑物等の不要物が除去された海水L1(原水、濃度約3.5wt%)をポンプ520で処理槽515に供給する。次に、処理槽515に海水L1を供給することで、溶媒駆動モジュール100Aによる淡水化処理が始まる。すなわち、供給された海水L1は、溶媒駆動モジュール100Aの半透膜20を介して駆動ゲル10側に徐々に処理水(浸透水L2)として移動(浸透)する。この浸透水L2は、さらに重力により下方に移動する。
【0091】
ここで、溶媒駆動モジュール100Aのケース110に下側は底部519aによって塞がれているため、駆動ゲル10で保持しきれなくなった浸透水L2は駆動ゲル10の上方から溢出し、枠部519b内に溜まっていく。枠部519b内に溜まった浸透水L2はやがて枠部519bからオーバフローすることになる。なお、枠部519bからオーバフローする前に溜まった浸透水L2を流出管などでくみ出すようにしてもよい。
【0092】
この溶液処理システム500Cにおいて、溶媒駆動モジュール100Aから枠部519bに浸透水L2が溜まり、その後オーバフローするまでの一連の工程において、水の移動は正浸透と重力に基づくものであって自発的現象であり、基本的に浸透水L2から水12(淡水)と駆動微粒子13(ショ糖)とを分離するための外部エネルギーは不要である。
【0093】
なお、上記の溶液処理システム500Cでは溶媒駆動モジュール100Aを用いる例を示したが、溶媒駆動モジュール100Bを用いてもよい。
【0094】
以上説明したように、実施形態に係る溶媒駆動装置1A、1B、1Cおよび溶媒駆動モジュール100A、100Bによれば、FO法による溶液処理において、対象溶液から引き出した溶媒を駆動微粒子13から容易に分離することが可能となる。
【0095】
なお、上記に本実施形態およびその適用例(変形例、具体例)を説明したが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。例えば、上記の例では、溶液の処理として海水淡水化を例とし、第1の溶媒および第2の溶媒の例として水を示したが、海水以外の溶液の処理(溶液から溶媒を抽出する処理)であっても適用可能である。この場合、第1の溶媒および第2の溶媒は水以外となる。また、駆動ゲル10における駆動微粒子13の濃度の漸減については、上方から下方への方向と、第1方向D1への漸減との両方であってもよい。また、前述の各実施形態またはその適用例(変形例、具体例)に対して、当業者が適宜、構成要素の追加、削除、設計変更を行ったものや、各実施形態の特徴を適宜組み合わせたものも、本発明の要旨を備えている限り、本発明の範囲に包含される。
【符号の説明】
【0096】
1A…溶媒駆動装置(その1)
1B…溶媒駆動装置(その2)
1C…溶媒駆動装置(その3)
10…駆動ゲル
10a…上面
10b…下面
11…3次元網目構造体
12…水
13…駆動微粒子
14…補強部材
20…半透膜
100A…溶媒駆動モジュール(その1)
100B…溶媒駆動モジュール(その2)
110…ケース
111…上側支持板
112…下側支持板
112h…貫通孔
113…内枠
113h…網目
115…網目部
500A…溶液処理システム(その1)
500B…溶液処理システム(その2)
500C…溶液処理システム(その3)
515…処理槽
516…前処理槽
518…処理水保管タンク
519…処理水受け部
519a…底部
519b…枠部
520…ポンプ
811…駆動溶液
812a…吸水性駆動ゲル
812b…膨潤した吸水性駆動ゲル
813…半透膜
814c,814d…半透膜モジュール
815…処理槽
816…前処理槽
817…駆動溶液調整/分離槽
818…処理水保管タンク
D1…第1方向
L1…海水
L10…食塩水
L2,L20…浸透水
PW…外部刺激
h1,h2…高さ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12