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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024019500
(43)【公開日】2024-02-09
(54)【発明の名称】免疫チェックポイント阻害抗体
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/395 20060101AFI20240202BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20240202BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240202BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240202BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20240202BHJP
【FI】
A61K39/395 D
C07K16/28 ZNA
A61P35/00
A61P43/00 121
A61K45/00
A61K39/395 G
A61K39/395 U
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023208913
(22)【出願日】2023-12-12
(62)【分割の表示】P 2021558423の分割
【原出願日】2020-11-18
(31)【優先権主張番号】P 2019209977
(32)【優先日】2019-11-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、次世代がん医療創生研究事業「免疫抑制性樹状細胞に発現する新規免疫チェックポイント分子の機能的同定とこれを標的としたがん免疫治療法の開発」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504224153
【氏名又は名称】国立大学法人 宮崎大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 克明
(57)【要約】
【課題】本発明は、抗腫瘍免疫応答の活性化に有用な、新たな機序に基づく免疫チェックポイント阻害抗体を提供する。
【解決手段】本発明は、ヒトCLEC4Aタンパク質の細胞外領域に特異的に結合する、免疫チェックポイント阻害作用を有する抗体又はその抗原結合性断片とその抗腫瘍用途、及びT細胞発現免疫チェックポイント分子阻害剤を併用するその抗体又はその抗原結合性断片の抗腫瘍用途に関する。
【選択図】図15
【特許請求の範囲】
【請求項1】
免疫チェックポイント阻害に基づいて抗腫瘍免疫応答を活性化するための抗腫瘍薬であって、ヒトCLEC4Aタンパク質の細胞外領域に特異的に結合する、免疫チェックポイント阻害作用を有する抗体又はその抗原結合性断片を含み、
前記抗体又はその抗原結合性断片が、ヒトCLEC4Aタンパク質の細胞外領域内の配列番号21で示されるアミノ酸配列からなる領域に特異的に結合し、かつ、アミノ酸配列QNLQEESAYF(配列番号16)からなるペプチド断片に結合することができる、抗腫瘍薬。
【請求項2】
前記抗体又はその抗原結合性断片が、さらに、以下:
i)アミノ酸配列FSSNCYFISTESASW(配列番号17)からなるペプチド断片、又は
ii)アミノ酸配列SSNCYFISTESASW(配列番号18)からなるペプチド断片
に結合することができる、請求項1に記載の抗腫瘍薬。
【請求項3】
T細胞に発現する免疫チェックポイント分子に対する阻害剤と併用するための、請求項1又は2に記載の抗腫瘍薬。
【請求項4】
T細胞に発現する免疫チェックポイント分子に対する阻害剤をさらに含む、請求項1又は2に記載の抗腫瘍薬。
【請求項5】
T細胞に発現する免疫チェックポイント分子がPD-1である、請求項3又は4に記載の抗腫瘍薬。
【請求項6】
T細胞に発現する免疫チェックポイント分子に対する阻害剤が、抗PD-1抗体である、請求項3~5のいずれか1項に記載の抗腫瘍薬。
【請求項7】
がんの進展抑制用である、請求項1~6のいずれか1項に記載の抗腫瘍薬。
【請求項8】
静脈内又は腹腔内に投与するための、請求項1~7のいずれか1項に記載の抗腫瘍薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免疫チェックポイント阻害抗体に関する。
【背景技術】
【0002】
がん抗原の発見以来、がん免疫療法開発に向けて様々な研究が進行している。従来のがん免疫療法では、様々なアジュバント、がん抗原タンパク質やがん抗原ペプチドが、抗腫瘍免疫応答の誘導のために使用されている。しかし、がん抗原の多くが正常自己抗原であるため免疫原性が弱く、加えて自己抗原に対する免疫応答(自己免疫)を抑制する免疫制御機構が、がん抗原に対する免疫応答をも抑制していることが明らかになりつつある。このような免疫制御機構は「免疫チェックポイント分子」と呼ばれる分子により担われている。免疫チェックポイント分子は、抗腫瘍免疫応答及び自己免疫応答を負に制御しており、例としてT細胞に発現するCTLA-4やPD-1が挙げられる(非特許文献1)。これら「免疫チェックポイント分子」に対する阻害抗体を用いた免疫治療法が試みられている(非特許文献1)。しかしながら、そのような免疫治療法では一定の臨床効果が認められてはいるものの、多くのがん種では依然として不応答性であることが指摘されており、未だ満足すべき結果が得られているとはいえない。さらにT細胞に発現する免疫チェックポイント分子「CTLA-4・PD-1系」の阻害では、がんのみならず自己に対する免疫応答の活性化により発生する、自己免疫様病態等の有害事象が生じることが危惧されている。このように免疫チェックポイント阻害剤の開発では、がん不応答性の克服に加えて、自己免疫寛容の破綻に起因する免疫関連有害事象(immune-related adverse events: irAEs)の軽減を達成することも求められている。
【0003】
樹状細胞(dendritic cells; DCs)は樹状突起を有する、系統マーカー陰性、かつ主要組織適合遺伝子複合体クラスII陽性の抗原提示細胞であり、通常型樹状細胞(conventional DCs; cDCs)と形質細胞様樹状細胞(plasmacytoid DCs; pDCs)に大別される亜集団から構成される。樹状細胞は炎症状態では自然免疫と適応免疫を繋ぐ最も強力な抗原提示細胞として抗原特異的エフェクターT細胞の誘導を介して免疫系を賦活し、定常状態では抗原特異的クローンの除去、不応答性の誘導や免疫抑制能を有する制御性T(regulatory T; Treg)細胞の生成・増幅を介した免疫寛容を誘導する制御細胞として、免疫学的恒常性の維持に重要な役割を果たしている。一方、がん環境下での樹状細胞の機能阻害によるがん免疫応答の低下が推察されているが、その作用機序には不明な点が多く残されている。
【0004】
本発明者らは、ヒトとマウスにおいて特定の培養条件で炎症状態においても顕著なT細胞制御機能を有する免疫抑制性樹状細胞の作製に成功している(非特許文献2、3)。
【0005】
また本発明者らは、Cタイプレクチンレセプターファミリーに属する「Clec4A4 (DCIR2)」を同定し、Clec4A4が細胞内シグナル伝達を介して樹状細胞の機能を制御し、炎症及びT細胞免疫を減弱することを示した(非特許文献4)。Clec4A4欠損マウスでは自己反応性T細胞の過剰な増幅・活性化により自己免疫疾患の発症が早まり、自己免疫病態が増悪することも見出された(非特許文献4)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Topalian S.L., et al., Cancer Cell. (2015) 27:450-461
【非特許文献2】Sato K., et al., Immunity. (2003) 18:367-379
【非特許文献3】Sato K., et al., Blood. (2003) 101:3581-3589
【非特許文献4】Uto T., et al., Nat. Commun., (2016) 7:11273
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、抗腫瘍免疫応答の活性化に有用な、新たな機序に基づく免疫チェックポイント阻害抗体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、ヒトCLEC4Aタンパク質の細胞外領域内に結合する所定の抗体が、免疫チェックポイント阻害作用により高い抗腫瘍効果をもたらすことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は以下を包含する。
[1] ヒトCLEC4Aタンパク質の細胞外領域に特異的に結合する、免疫チェックポイント阻害作用を有する抗体又はその抗原結合性断片。
[2] ヒトCLEC4Aタンパク質の細胞外領域内の配列番号21で示されるアミノ酸配列からなる領域に特異的に結合する、上記[1]に記載の抗体又はその抗原結合性断片。
[3] アミノ酸配列WVDQTPYNESSTFW(配列番号15)を含むペプチド断片に特異的に結合する、上記[1]又は[2]に記載の抗体又はその抗原結合性断片。
[4] 配列番号2で示されるアミノ酸配列上のWVDQTPYNESSTFW(配列番号15)を含む15アミノ酸長のアミノ酸配列からなるペプチド断片に結合することができる、上記[1]~[3]のいずれかに記載の抗体又はその抗原結合性断片。
[5] 配列番号2で示されるアミノ酸配列上のQNLQEESAYF(配列番号16)を含む15アミノ酸長のアミノ酸配列からなるペプチド断片とアミノ酸配列FSSNCYFISTESASW(配列番号17)からなるペプチド断片に結合することができ、ヒトCLEC4Aタンパク質の不連続エピトープに結合する、上記[1]又は[2]に記載の抗体又はその抗原結合性断片。
[6] 配列番号2で示されるアミノ酸配列上のQNLQEESAYF(配列番号16)を含む15アミノ酸長のアミノ酸配列からなるペプチド断片と配列番号2で示されるアミノ酸配列上のSSNCYFISTESASW(配列番号18)を含む15アミノ酸長のアミノ酸配列からなるペプチド断片に結合することができ、ヒトCLEC4Aタンパク質の不連続エピトープに結合する、上記[1]又は[2]に記載の抗体又はその抗原結合性断片。
[7] アミノ酸配列KKNMPVEETAWSCC(配列番号19)を含むペプチド断片に特異的に結合する、上記[1]に記載の抗体又はその抗原結合性断片。
[8] 配列番号2で示されるアミノ酸配列上のKKNMPVEETAWSCC(配列番号19)を含む15アミノ酸長のアミノ酸配列からなるペプチド断片に結合することができる、上記[1]又は[7]に記載の抗体又はその抗原結合性断片。
[9] 上記[1]~[8]のいずれかに記載の抗体又はその抗原結合性断片を含む、抗腫瘍薬。
[10] T細胞に発現する免疫チェックポイント分子に対する阻害剤と併用するための、上記[9]に記載の抗腫瘍薬。
[11] T細胞に発現する免疫チェックポイント分子に対する阻害剤をさらに含む、上記[9]に記載の抗腫瘍薬。
[12] T細胞に発現する免疫チェックポイント分子がPD-1である、上記[10]又は[11]に記載の抗腫瘍薬。
[13] T細胞に発現する免疫チェックポイント分子に対する阻害剤が、抗PD-1抗体である、上記[10]~[12]のいずれかに記載の抗腫瘍薬。
[14] がんの進展抑制用である、上記[9]~[13]のいずれかに記載の抗腫瘍薬。
【0010】
本明細書は本願の優先権の基礎となる日本国特許出願番号2019-209977号の開示内容を包含する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、免疫チェックポイント阻害により抗腫瘍免疫応答を活性化し、抗腫瘍効果をもたらすことができる抗体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、がんワクチン接種又はがんワクチン非接種のWTマウス及びClec4A4欠損マウス(非担がん及び担がんマウス)における、OVA特異的T細胞(CD44highOVA-MHCクラスIペンタマー結合CD8+T細胞)の誘導についての、フローサイトメトリー法による解析結果を示す。AはY軸にCD44、X軸にOVA-MHCクラスIペンタマーを表示したドットプロット、BはCD8+ T細胞中のCD44highOVA-MHCクラスIペンタマー結合CD8+ T細胞のパーセンテージ(%)を示す。*P <0.01(WTマウスと比較、又はWTマウス及びClec4A4欠損マウスにおける非担がん群と担がん群間の比較)。
図2図2は、がんワクチン接種又はがんワクチン非接種のWTマウス及びClec4A4欠損マウス(非担がん及び担がんマウス)における、OVA特異的T細胞(OVA特異的IFN-γ産生CD8+ T細胞)の誘導についての、フローサイトメトリー法による解析結果を示す。AはY軸にCD8α、X軸にIFN-γを表示したドットプロット、BはCD8+ T細胞中のOVA特異的IFN-γ産生CD8+T細胞のパーセンテージ(%)を示す。*P <0.01(WTマウスと比較、又はWTマウス及びClec4A4欠損マウスにおける非担がん群と担がん群間の比較)。
図3図3は、がんワクチン接種又はがんワクチン非接種の担がん状態のWTマウス及びClec4A4欠損マウスにおけるがん進展の評価結果を示す。Aはがん細胞移植の18日後の担がんマウスの写真と腫瘍体積(mm3)を示す。Bは、がん細胞移植後23日間の腫瘍体積値の経時的変化を示す。Cはがん細胞移植の23日後の腫瘍体積を示す。*P <0.01(WTマウスのワクチン接種群又はワクチン非接種群との比較、又はWTマウス及びClec4A4欠損マウスにおける非担がん群と担がん群間の比較)。
図4図4は、Clec4A4の免疫細胞動態に対する制御機能を示す。非担がん又は担がん(B16-OVA)のWTマウス及びClec4A4欠損マウス(Clec4a4-/-)の脾臓(A)とがん組織(B)における免疫細胞動態をがん細胞移植の20日後に評価した。脾臓細胞中の各免疫細胞の割合をフローサイトメトリー法により解析した(A)。腫瘍浸潤白血球中の各免疫細胞の割合をフローサイトメトリー法により解析した(B)。各細胞表面分子の発現をドットプロットで示す。A、Bにおいて、最左列はCD11c(X軸)及びSiglecH(Y軸)、左から2番目の列はB220(X軸)及びGr-1(Y軸)、中央列はF4/80(X軸)及びCD11b(Y軸)、右から2番目の列はNK1.1(X軸)及びCD3(Y軸)、最右列はCD8(X軸)及びCD4(Y軸)の発現を示している。
図5図5は、Clec4A4のリンパ組織T細胞活性化に対する制御機能を示す。非担がん又は担がん(B16-OVA)のWTマウス及びClec4A4欠損マウス(Clec4a4-/-)の脾臓におけるT細胞動態をがん細胞移植の20日後に評価した。脾臓CD4+ T細胞(A)と脾臓CD8+ T細胞(B)の各細胞表面分子の発現をフローサイトメトリー法により解析した。各細胞表面分子の発現をヒストグラムで示す。A、Bにおいて、左列はCD44、右列はCD62Lの発現を示している。
図6図6は、Clec4A4の腫瘍浸潤T細胞活性化に対する制御機能を示す。担がん(B16-OVA)のWTマウス及びClec4A4欠損マウス(Clec4a4-/-)のがん組織におけるT細胞動態をがん細胞移植の20日後に評価した。腫瘍浸潤CD4+ T細胞(A)と腫瘍浸潤CD8+ T細胞(B)の各細胞表面分子の発現をフローサイトメトリー法により解析した。各細胞表面分子の発現をヒストグラムで示す。A、Bにおいて、左列はCD44、右列はCD62Lの発現を示している。
図7図7は、Clec4A4の脾臓樹状細胞活性化に対する制御機能を示す。非担がん又は担がん(B16-OVA)のWTマウス及びClec4A4欠損マウス(Clec4a4-/-)の脾臓における樹状細胞動態をがん細胞移植の20日後に評価した。脾臓樹状細胞の各細胞表面分子の発現をフローサイトメトリー法により解析した。各細胞表面分子の発現をヒストグラムで示す。Aにおいて、最左列はMHC-I、左から2番目の列はMHC-II、中央列はCD40、右から2番目の列はCD80、最右列はCD86の発現を示している。Bにおいて、最左列はCD11c、左から2番目の列はClec4A4、中央列はB7-H1、右から2番目の列はB7-H2、最右列はB7-DCの発現を示している。
図8図8は、Clec4A4の腫瘍浸潤樹状細胞活性化に対する制御機能を示す。担がん(B16-OVA)のWTマウス及びClec4A4欠損マウス(Clec4a4-/-)のがん組織における樹状細胞動態をがん細胞移植の20日後に評価した。腫瘍浸潤樹状細胞の各細胞表面分子の発現をフローサイトメトリー法により解析した。各細胞表面分子の発現をヒストグラムで示す。Aにおいて、最左列はMHC-I、左から2番目の列はMHC-II、中央列はCD40、右から2番目の列はCD80、最右列はCD86の発現を示している。Bにおいて、最左列はCD11c、左から2番目の列はClec4A4、中央列はB7-H1、右から2番目の列はB7-H2、最右列はB7-DCの発現を示している。
図9図9は、健常人末梢血由来免疫細胞でのCLEC4Aの発現状態を示す図である。Aは、末梢血単核球画分中のCD3+ T細胞、CD19+ B細胞、CD11c+樹状細胞、CD14+単球、CD56+ NK細胞における細胞表面分子CLEC4Aの発現をヒストグラムで示す。Bは、末梢血単核球画分における細胞表面分子CD141、CD1c、CD303、CD11c、HLA-DR、及びCLEC4Aの発現をヒストグラムで示す。Cは、末梢血単球、末梢血単球由来樹状細胞、及び末梢血単球由来免疫抑制性樹状細胞(DCreg)における細胞表面分子CD11c、CD40、CD80、CD86、HLA-DR、及びCLEC4Aの発現をヒストグラムで示す。
図10図10は、トランスジェニック細胞株におけるGFP及びCLEC4Aの発現を示すドットプロットである。Aは、マウス樹状細胞株DC2.4(図中、DC2.4)、対照レトロウイルス感染細胞株(図中、モック-GFP)、及びCLEC4A発現細胞株(図中、CLEC4A-GFP)における、GFP(X軸)及びCLEC4A(Y軸)の発現を示す。Bは、マウス樹状細胞株DC2.4、糖鎖修飾部位置換変異体発現細胞株(図中、CLEC4AN185Q-GFP)、CRD-EPS欠損変異体発現細胞株(図中、CLEC4AΔE195-S197-GFP)、細胞外領域欠損変異体発現細胞株(図中、CLEC4AΔF69-L237-GFP)及びITIM(Immunoreceptor tyrosine-based Inhibition motif)配列欠損変異体発現細胞株(図中、CLEC4AΔI5-V10-GFP)における、GFP及びCLEC4Aの発現を示す。
図11図11は、トランスジェニック細胞株におけるサイトカイン産生能を示す。Aは、LPS刺激又は無刺激のCLEC4A又は変異体トランスジェニック細胞株における、培養上清中のIL-6産生量を示す。Bは、LPS刺激又は無刺激のCLEC4A又は変異体トランスジェニック細胞株における、培養上清中のTNF-α産生量を示す。Cは、CpG-B ODN 1668刺激又は無刺激のCLEC4A又は変異体トランスジェニック細胞株における、培養上清中のIL-6産生量を示す。Dは、CpG-B ODN 1668刺激又は無刺激のCLEC4A又は変異体トランスジェニック細胞株における、培養上清中のTNF-α産生量を示す。*P <0.01(対照レトロウイルス感染細胞株と比較、又はCLEC4A発現細胞株と糖鎖修飾部位置換変異体発現細胞株間の比較)。
図12図12は、CLEC4A機能阻害抗体#1~#4のエピトープを構成する抗体結合配列(細い下線部)の、CLEC4Aタンパク質の一次配列上の位置を示す。糖鎖認識ドメイン(CRD)内のEPSモチーフに太い下線を引いた。N型糖鎖修飾部位(N185)を矢印で示した。
図13図13は、CLEC4A発現トランスジェニックマウスの膵臓単核球におけるCLEC4A発現を示す。Aは、脾臓単核球中のCD3+ T細胞、CD19+ B細胞、CD11b+マクロファージ、CD11c+樹状細胞、及びNK1.1+ NK細胞におけるCLEC4Aの発現をヒストグラムで示す。Aの各列は左から順に、CD3+T細胞、CD19+B細胞、CD11b+マクロファージ、CD11c+樹状細胞、及びNK1.1+ NK細胞を示している。Bは、脾臓樹状細胞亜集団(CD11c+CD8α+cDC1細胞、CD11c+CD4+cDC2細胞、及びCD11c+SiglecH+pDC細胞)におけるCLEC4Aの発現をヒストグラムで示す。Bの各列は左から順に、cDC1: CD11c+CD8α+cDC1細胞、cDC2: CD11c+CD4+cDC2細胞、及びpDC: CD11c+SiglecH+pDC細胞を示している。
図14図14は、担がんCLEC4A発現トランスジェニックマウスにおけるCLEC4A機能阻害抗体#1~#4のがん進展に対する制御を示す。Aは、がん細胞移植の13日後の腫瘍の外観を示す写真である。B及びCは、がん細胞移植の13日後(B)及び22日後(C)の腫瘍体積を示す。*P <0.01(対照マウスIgG処理群と比較)。
図15図15は、担がんCLEC4A発現トランスジェニックマウスにおけるがん細胞移植後22日間の腫瘍体積の経時的変化を示す。
図16図16は、担がんマウスにおけるがん細胞移植の22日後の体重変化を示す。
図17図17は、担がんマウス由来のがん組織中のCD4+T細胞及びCD8+ T細胞の集積をフローサイトメトリー法により解析した結果を示す。各細胞表面分子の発現をドットプロットで示す。数値は腫瘍浸潤白血球中のCD4+ T細胞又はCD8+ T細胞の割合を示す。
図18図18は、がん細胞移植の21日後の担がんマウスの各臓器の組織染色の結果を示す。
図19図19は、がん進展評価の結果を示す。Aはがん細胞移植後21日間の担がんマウス腫瘍体積の経時変化を示す。Bはがん細胞移植の21日後の担がんマウスにおける腫瘍体積を示す。Cはがん細胞移植の21日後の担がんマウス及び摘出した腫瘍の写真を示す。*P <0.01; 未処理群と比較、各実験群間の比較。
図20図20は、がん組織中の細胞の解析結果を示す。A:各細胞表面分子の発現をドットプロットで示す。Aの最左列はCD11c(X軸)及びSiglecH(Y軸)、左から2番目の列はB220(X軸)及びGr-1(Y軸)、左から3番目の列はF4/80(X軸)及びCD11b(Y軸)、右から3番目の列はNK1.1(X軸)及びCD3(Y軸)、右から2番目の列はCD4(X軸)及びCD3(Y軸)、最右列はCD8(X軸)及びCD3(Y軸)の発現を示している。B:がん組織における各免疫抑制分子の発現レベルを示す。*P <0.01; 未処理群と比較、各実験群間の比較。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0014】
本発明は、CLEC4Aの免疫チェックポイント分子としての機能に基づくものである。より具体的には、本発明は、ヒトCLEC4Aタンパク質の細胞外領域に特異的に結合する、免疫チェックポイント阻害作用を有する抗体に関する。本発明はまた、そのような抗体を用いた、免疫チェックポイント阻害に基づく抗腫瘍免疫応答の活性化及びそれによるがんの治療又は予防用途、並びに抗腫瘍薬に関する。
【0015】
本発明において、CLEC4Aは、Cタイプ(カルシウム依存性)レクチンドメインファミリー4メンバーA(C-type Lectin Domain Family 4 Member A)と称されるタンパク質である。CLEC4Aは樹状細胞などの抗原提示細胞で発現する免疫チェックポイント分子であり、抗原提示細胞の活性化を負に制御する免疫抑制機能を有し、がん免疫応答を負に制御する。
【0016】
本発明に係る免疫チェックポイント阻害作用を有する抗体は、ヒトCLEC4Aタンパク質に結合し、CLEC4Aの免疫チェックポイント分子としての機能を阻害することから、以下、CLEC4A機能阻害抗体とも称する。本発明に係るCLEC4A機能阻害抗体は、ヒトCLEC4Aタンパク質の細胞外領域に結合し、好ましくは特異的に結合してその機能を阻害する。CLEC4A機能阻害抗体は、それが投与される対象の内因性CLEC4Aタンパク質に結合し、その機能を阻害することができる。好ましい実施形態では、CLEC4A機能阻害抗体は、樹状細胞、B細胞(CD19+ B細胞)、単球(CD14+ 単球)などの抗原提示細胞の細胞表面上に発現したCLEC4Aタンパク質に結合し、そのCLEC4Aタンパク質の免疫チェックポイント分子としての機能を阻害することができる。
【0017】
ヒトCLEC4Aタンパク質の全長アミノ酸配列の例を配列番号2に、それをコードする塩基配列の例を配列番号1に示す。ヒトCLEC4Aタンパク質は、配列番号2で示されるアミノ酸配列からなるヒトCLEC4Aタンパク質又はその機能性変異体であってよい。CLEC4Aタンパク質は、配列番号2で示されるアミノ酸配列又はそのアミノ酸配列に対して90%以上、93%以上、95%以上、又は98%以上、好ましくは99%以上、例えば99.5%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなるものであってよく、免疫チェックポイント機能(樹状細胞などの抗原提示細胞における免疫チェックポイント分子としての機能)を保持することが好ましい。
【0018】
本発明に係るCLEC4A機能阻害抗体は、ヒトCLEC4Aタンパク質の細胞外領域に特異的に結合するものであってよい。本発明において、ヒトCLEC4Aタンパク質の細胞外領域とは、典型的には、配列番号2で示されるアミノ酸配列の69位から237位までの領域(配列番号12)、又は他のCLEC4Aタンパク質のアミノ酸配列においてその領域とアラインメントされる領域を指す。一実施形態では、CLEC4A機能阻害抗体は、CLEC4Aタンパク質の細胞外領域内の糖鎖認識ドメイン(carbohydrate-recognition domain; CRD)に結合する(好ましくは、特異的に結合する)ものであってよい。本発明では、CLEC4Aタンパク質の細胞外領域内の糖鎖認識ドメインは、配列番号2で示されるアミノ酸配列の107番目(Phe)から237番目(Leu)までの領域、又は他のCLEC4Aタンパク質のアミノ酸配列においてその領域とアラインメントされる領域を指すものとする。
【0019】
より好ましい一実施形態では、CLEC4A機能阻害抗体は、CLEC4Aタンパク質(好ましくは、配列番号2で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質)の113番目(Phe)から192番目(His)までのアミノ酸配列(配列番号21)を含むか又はそれからなる領域に結合する(好ましくは、特異的に結合する)ものであってよい。
【0020】
CLEC4Aタンパク質の細胞外領域内の糖鎖認識ドメイン(CRD)は、配列番号2で示されるアミノ酸配列(ヒトCLEC4Aタンパク質)の195位~197位にEPSモチーフ(Glu-Pro-Ser)を有する。ヒトCLEC4Aタンパク質の細胞内領域内のITIM配列は、配列番号2で示されるアミノ酸配列の5位~10位に位置する領域を指す。
【0021】
一実施形態では、本発明に係るCLEC4A機能阻害抗体(抗体又はその抗原結合性断片)は、配列番号2で示されるアミノ酸配列上のWVDQTPYNESSTFW(配列番号15)を含む15アミノ酸長のアミノ酸配列からなるペプチド断片、すなわち、QWVDQTPYNESSTFW(配列番号22)からなるペプチド断片及びWVDQTPYNESSTFWH(配列番号23)からなるペプチド断片に(特異的に)結合することができる。好ましい実施形態では、このCLEC4A機能阻害抗体は、ヒトCLEC4Aタンパク質のアミノ酸配列WVDQTPYNESSTFW(配列番号15)を含むエピトープ、好ましくは線状(連続)エピトープに特異的に結合する。本発明は、アミノ酸配列WVDQTPYNESSTFW(配列番号15)を含むか又はそれからなるペプチド断片(以下に限定するものではないが、例えば、14~20アミノ酸長、14~15アミノ酸長、又は14アミノ酸長のペプチド)に特異的に結合する抗体である、CLEC4A機能阻害抗体を提供する。
【0022】
別の実施形態では、本発明に係るCLEC4A機能阻害抗体(抗体又はその抗原結合性断片)は、配列番号2で示されるアミノ酸配列上のQNLQEESAYF(配列番号16)を含む15アミノ酸長のアミノ酸配列からなるペプチド断片に(特異的に)結合することができる。すなわちこのCLEC4A機能阻害抗体は、アミノ酸配列QDFIFQNLQEESAYF(配列番号24)、DFIFQNLQEESAYFV(配列番号25)、FIFQNLQEESAYFVG(配列番号26)、IFQNLQEESAYFVGL(配列番号27)、FQNLQEESAYFVGLS(配列番号28)、及びQNLQEESAYFVGLSD(配列番号29)のそれぞれからなるペプチド断片に結合することができる。本発明は、アミノ酸配列QNLQEESAYF(配列番号16)を含むか又はそれからなるペプチド断片(以下に限定するものではないが、例えば、10~20アミノ酸長、10~15アミノ酸長、又は10アミノ酸長のペプチド)に特異的に結合する抗体である、CLEC4A機能阻害抗体を提供する。
【0023】
CLEC4A機能阻害抗体(抗体又はその抗原結合性断片)は、アミノ酸配列QNLQEESAYF(配列番号16)を含むか又はそれからなるペプチド断片(以下に限定するものではないが、例えば、10~20アミノ酸長、10~15アミノ酸長、又は10アミノ酸長のペプチド)、例えば、配列番号2で示されるアミノ酸配列上のQNLQEESAYF(配列番号16)を含む15アミノ酸長のアミノ酸配列からなるペプチド断片に結合できることに加えて、アミノ酸配列FSSNCYFISTESASW(配列番号17)からなるペプチド断片に(特異的に)結合することができるものであってよい。このようなCLEC4A機能阻害抗体は、ヒトCLEC4Aタンパク質の不連続エピトープに結合する抗体であることが好ましく、特に、ヒトCLEC4Aタンパク質のFSSNCYFISTESASW(配列番号17)とQNLQEESAYF(配列番号16)を含むアミノ酸配列(例えば、配列番号2の113番目~164番目のアミノ酸配列)により構成される不連続エピトープに(特異的に)結合する抗体であることがより好ましい。そのような不連続エピトープは、当該CLEC4A機能阻害抗体によって認識される部位として、アミノ酸配列FSSNCYFISTESASW(配列番号17)及びQNLQEESAYF(配列番号16)の少なくとも一部のアミノ酸残基を含み、好ましくは、アミノ酸配列FSSNCYFISTESASW(配列番号17)の少なくとも一部のアミノ酸残基とアミノ酸配列QNLQEESAYF(配列番号16)の全体とを含む。このCLEC4A機能阻害抗体は、SSNCYFISTESASWQ(配列番号30)からなるペプチド断片に結合しないものであってもよい。
【0024】
あるいは、CLEC4A機能阻害抗体(抗体又はその抗原結合性断片)は、アミノ酸配列QNLQEESAYF(配列番号16)を含むか又はそれからなるペプチド断片(以下に限定するものではないが、例えば、10~20アミノ酸長、10~15アミノ酸長、又は10アミノ酸長のペプチド)、例えば、配列番号2で示されるアミノ酸配列上のQNLQEESAYF(配列番号16)を含む15アミノ酸長のアミノ酸配列からなるペプチド断片に結合できることに加えて、アミノ酸配列SSNCYFISTESASW(配列番号18)を含むか又はそれからなるペプチド断片(以下に限定するものではないが、例えば、14~20アミノ酸長、14~15アミノ酸長、又は14アミノ酸長のペプチド)、例えば、配列番号2で示されるアミノ酸配列上のSSNCYFISTESASW(配列番号18)を含む15アミノ酸長のアミノ酸配列からなるペプチド断片に(特異的に)結合することができるものであってもよい。すなわちそのCLEC4A機能阻害抗体は、アミノ酸配列FSSNCYFISTESASW(配列番号17)又はSSNCYFISTESASWQ(配列番号30)のそれぞれからなるペプチド断片に結合することができる。このようなCLEC4A機能阻害抗体は、ヒトCLEC4Aタンパク質の不連続エピトープに結合する抗体であることが好ましく、ヒトCLEC4Aタンパク質のSSNCYFISTESASW(配列番号18)とQNLQEESAYF(配列番号16)を含むアミノ酸配列(例えば、配列番号2の114番目~164番目のアミノ酸配列)により構成される不連続エピトープに(特異的に)結合する抗体であることがより好ましい。そのような不連続エピトープは、当該CLEC4A機能阻害抗体によって認識される部位として、アミノ酸配列SSNCYFISTESASW(配列番号18)及びQNLQEESAYF(配列番号16)の少なくとも一部のアミノ酸残基を含み、好ましくはSSNCYFISTESASW(配列番号18)の全体とQNLQEESAYF(配列番号16)の全体とを含む。
【0025】
さらに別の実施形態では、本発明に係るCLEC4A機能阻害抗体(抗体又はその抗原結合性断片)は、配列番号2で示されるアミノ酸配列上のKKNMPVEETAWSCC(配列番号19)を含む15アミノ酸長のアミノ酸配列からなるペプチド断片、すなわち、VKKNMPVEETAWSCC(配列番号31)からなるペプチド断片及びKKNMPVEETAWSCCP(配列番号32)からなるペプチド断片に(特異的に)結合することができる。好ましい実施形態では、このCLEC4A機能阻害抗体は、ヒトCLEC4Aタンパク質のアミノ酸配列KKNMPVEETAWSCC(配列番号19)を含む(例えば、その配列からなる)エピトープ、好ましくは線状(連続)エピトープに特異的に結合する。本発明は、アミノ酸配列KKNMPVEETAWSCC(配列番号19)を含むか又はそれからなるペプチド断片(以下に限定するものではないが、例えば、14~20アミノ酸長、14~15アミノ酸長、又は14アミノ酸長のペプチド)に特異的に結合する抗体である、CLEC4A機能阻害抗体を提供する。
【0026】
ここで「ペプチド断片」とは、所定のタンパク質(特に、全長CLEC4Aタンパク質)の断片であるペプチド又はそれに相当する合成ペプチドを指すものであり得る。本発明において「ペプチド断片」という用語は、用語「ペプチド」と互換的に使用することができる。本発明におけるペプチド断片又はペプチドは、オリゴペプチドであってもよい。本発明においてオリゴペプチドとは、2~20アミノ酸長を有するペプチドを指す。
【0027】
なお本明細書において、アミノ酸残基やアミノ酸配列は当該分野で一般的に使用される一文字表記又は三文字表記に従って記載されている。
【0028】
本発明に係るCLEC4A機能阻害抗体は、免疫グロブリン分子の任意のクラス、例えばIgG、IgE、IgM、IgA、IgD、又はIgYであってよく、さらに任意のサブクラス、例えばIgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、IgA2等であってよい。
【0029】
CLEC4A機能阻害抗体は、モノクローナル抗体又はポリクローナル抗体であってよい。CLEC4A機能阻害抗体は、任意の抗体形態であってよく、例えば、多重特異性抗体(二重特異性抗体など)、組換え抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、一本鎖抗体、ミニボディ、ダイアボディ、トリアボディ等であってよい。CLEC4A機能阻害抗体はまた、全抗体であってもよいし、全抗体の抗原結合性断片、例えばFab、F(ab')2、Fab'、Fv、scFv、sdFv等であってもよい。CLEC4A機能阻害抗体は、グリコシル化、アセチル化、ホルミル化、アミド化、リン酸化、又はペグ(PEG)化等の任意の修飾がされていてもよい。
【0030】
CLEC4A機能阻害抗体は、常法により作製することができる。CLEC4A機能阻害抗体は、公知の抗体作製法に基づいて作製することができる。例えば、まず、CLEC4A機能阻害抗体の産生を惹起し得る抗原を、動物の皮下、足蹠、腹腔内等に投与して免疫する。そのような抗原は、CLEC4A機能阻害抗体が結合するヒトCLEC4Aタンパク質中の標的配列(例えば、エピトープ又はその一部)を含む抗原であり、以下に限定するものではないが、全長ヒトCLEC4Aタンパク質、上記標的配列を含有するヒトCLEC4Aタンパク質断片、上記標的配列からなるポリペプチド、上記標的配列を含む抗原(例えば、上記標的配列を含むヒトCLEC4Aタンパク質部分配列からなるポリペプチドと免疫グロブリンFc分子などの他のポリペプチドとの融合タンパク質)、及び上記標的配列を含むポリペプチドを細胞表面に発現する細胞等が挙げられる。抗原は、任意のアジュバントと共に投与してもよい。抗原の投与は1回でもよいが、複数回(例えば、2回~10回、好ましくは2~5回)行うことが好ましい。免疫後、免疫細胞(例えば、リンパ節細胞、又は脾臓細胞)を通常の細胞融合法によって公知の親細胞(例えば、ミエローマ細胞などの不死化細胞)と融合させ、融合細胞を得る。融合相手の親細胞は、免疫細胞と同じ生物種に由来することが好ましい。融合相手の親細胞として用いられるマウス由来のミエローマ細胞としては、P3U1(P3-X63Ag8U1)、P3(P3x63Ag8.653)、P3x63Ag8U.1、NS-1、MPC-11等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0031】
免疫細胞と親細胞との細胞融合は、例えば、ケーラーとミルステインの方法(Kohler, G. and Milstein, C. Methods Enzymol. (1981)73, 3-46)等に準じて行うことができる。具体的には、そのような細胞融合は、細胞融合促進剤の存在下で通常の栄養培養液中で実施される。細胞融合促進剤としては、例えば平均分子量1000~6000程度のポリエチレングリコール(PEG)(例えば、PEG4000)、センダイウイルス(HVJ)等を使用することができる。融合効率を高めるためにジメチルスルホキシド等の補助剤をさらに使用することもできる。免疫細胞と親細胞(ミエローマ細胞等)との使用割合は任意に設定することができる。
【0032】
得られた融合細胞を、目的のCLEC4A機能阻害抗体の産生能についてスクリーニングし、クローン化することにより、モノクローナルな抗体産生細胞(ハイブリドーマ)を取得することができる。そのハイブリドーマを培養して得られる培養上清から抗体を回収することによってCLEC4A機能阻害抗体を作製することができる。
【0033】
CLEC4A機能阻害抗体がポリクローナル抗体の場合には、上記のとおり免疫した動物(非ヒト動物)から血清を採取することにより取得することができる。この場合、免疫する動物として、ヒト抗体産生非ヒト動物を用いることができる。
【0034】
CLEC4A機能阻害抗体のスクリーニングは、例えば、CLEC4A機能阻害抗体が結合する抗原及び/又はペプチド断片への結合性を調べることにより行ってもよい。例えば、ヒトCLEC4Aタンパク質の細胞外領域、及び/又はヒトCLEC4Aタンパク質の細胞外領域内の配列番号21で示されるアミノ酸配列からなる領域からなるポリペプチドに対する抗体の結合を検出することにより、CLEC4A機能阻害抗体をスクリーニングしてもよい。
【0035】
一実施形態では、上述のアミノ酸配列WVDQTPYNESSTFW(配列番号15)からなるペプチド断片、並びに/又は、QWVDQTPYNESSTFW(配列番号22)及びWVDQTPYNESSTFWH(配列番号23)の一方又は両方のアミノ酸配列のそれぞれからなるペプチド断片に対する抗体の結合を検出することにより、CLEC4A機能阻害抗体をスクリーニングすることができる。
【0036】
別の実施形態では、上述のアミノ酸配列QNLQEESAYF(配列番号16)からなるペプチド断片、並びに/又は、QDFIFQNLQEESAYF(配列番号24)、DFIFQNLQEESAYFV(配列番号25)、FIFQNLQEESAYFVG(配列番号26)、IFQNLQEESAYFVGL(配列番号27)、FQNLQEESAYFVGLS(配列番号28)、及びQNLQEESAYFVGLSD(配列番号29)からなる群から選択される少なくとも1つ(例えば、少なくとも2つ、少なくとも3つ、少なくとも4つ、又は5つ全て)のアミノ酸配列のそれぞれからなるペプチド断片に対する抗体の結合を検出することにより、CLEC4A機能阻害抗体をスクリーニングすることができる。上記ペプチド断片に対する結合に加えて、上述のアミノ酸配列FSSNCYFISTESASW(配列番号17)からなるペプチド断片に対する抗体の結合をさらに検出することにより、CLEC4A機能阻害抗体をスクリーニングすることもできる。あるいは、上記ペプチド断片に対する結合に加えて、上述のアミノ酸配列SSNCYFISTESASW(配列番号18)からなるペプチド断片、並びに/又は、FSSNCYFISTESASW(配列番号17)及びSSNCYFISTESASWQ(配列番号30)の一方又は両方のアミノ酸配列のそれぞれからなるペプチド断片に対する抗体の結合を検出することにより、CLEC4A機能阻害抗体をスクリーニングすることもできる。
【0037】
さらに別の実施形態では、上述のアミノ酸配列KKNMPVEETAWSCC(配列番号19)からなるペプチド断片、並びに/又は、VKKNMPVEETAWSCC(配列番号31)及びKKNMPVEETAWSCCP(配列番号32)の一方又は両方のアミノ酸配列のそれぞれからなるペプチド断片に対する抗体の結合を検出することにより、CLEC4A機能阻害抗体をスクリーニングすることもできる。
【0038】
ペプチド断片に対する抗体の結合は、抗原抗体反応を検出可能な任意の方法により検出することができるが、例えば、標的となるペプチド断片をアレイ上に固定したペプチドアレイを使用して検出してもよい。
【0039】
CLEC4A機能阻害抗体は、さらに、抗体遺伝子をクローニングし、適当なベクターに組み込んで、これを宿主に導入し、遺伝子組換え技術を用いて産生させることにより、組換え抗体としても製造することができる。具体的には、抗体の可変領域(V領域)のcDNAを抗体定常領域(C領域)をコードするDNAと連結し、発現ベクターの発現制御領域、例えば、エンハンサー、プロモーターの制御下へ組み込み、その発現ベクターを宿主細胞に導入して形質転換し、宿主細胞により抗体を産生させることにより、CLEC4A機能阻害抗体を組換え抗体として作製することができる。
【0040】
以上のようにして得られた抗体や核酸等は、公知の精製法により単離精製し、回収することができる。精製法としては、アフィニティ精製法、逆相クロマトグラフィー、逆相高速液体クロマトグラフィー(RP-HPLC)、イオン交換クロマトグラフィーなどのクロマトグラフィー法、ゲル濾過、カラム精製、ポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)等、又はそれらの任意の組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
【0041】
本発明に係るCLEC4A機能阻害抗体は、免疫チェックポイント阻害作用を有する。CLEC4A機能阻害抗体は、CLEC4A機能阻害により、樹状細胞などの抗原提示細胞において免疫チェックポイント阻害を引き起こし、免疫チェックポイント分子が寄与する抗腫瘍免疫応答(がん免疫応答)抑制を解除し、抗腫瘍免疫応答を活性化し、有効な抗腫瘍免疫応答(がん免疫応答)を増強することができる。
【0042】
ここで、本発明に係るCLEC4A機能阻害抗体により、免疫チェックポイント阻害が引き起こされる抗原提示細胞は、CLEC4Aタンパク質を細胞表面上に発現している抗原提示細胞であり、そのような抗原提示細胞としては、樹状細胞、B細胞(例えば、CD19+ B細胞)、単球(例えば、CD14+ 単球)等が挙げられるが、これらに限定されない。なお抗原提示細胞は、抗原を細胞表面上に提示してT細胞を活性化する細胞である。したがって本発明に係るCLEC4A機能阻害抗体は、免疫チェックポイント阻害剤、好ましくは樹状細胞、B細胞(例えば、CD19+ B細胞)、単球(例えば、CD14+ 単球)等の抗原提示細胞に対する免疫チェックポイント阻害剤として用いることができる。
【0043】
本発明に係るCLEC4A機能阻害抗体の免疫チェックポイント阻害作用(免疫チェックポイント阻害活性)や抗腫瘍免疫応答の活性化能は、CLEC4A機能阻害抗体で処理した抗原提示細胞、例えば樹状細胞において、当該CLEC4A機能阻害抗体で処理しない場合(CLEC4A機能を阻害しない対照抗体を投与する場合)と比較して、炎症性サイトカイン(例えば、IL-6、TNF-α、IL-12p40等)の産生量が増加する(好ましくは統計学的に有意に増加する)ことを指標として、評価することができる。より具体的には、CLEC4A機能阻害抗体の免疫チェックポイント阻害作用や抗腫瘍免疫応答の活性化能の評価は、抗原提示細胞、好ましくは樹状細胞を、TLR4リガンドやTLR9リガンド等のTLRリガンド、例えば、LPS又はCpG-B ODN 1668等の存在下で、CLEC4A機能阻害抗体を添加して培養し、培養液中のサイトカイン量を測定し、対照と比較することにより行うことができ、その際、炎症性サイトカイン(例えば、IL-6、TNF-α、IL-12p40等)の産生量が対照と比較して増加(好ましくは統計学的に有意に増加)した場合には当該抗体が免疫チェックポイント阻害作用(免疫チェックポイント阻害活性)及び抗腫瘍免疫応答の活性化能を有すると判断することができる。
【0044】
本発明に係るCLEC4A機能阻害抗体は、抗腫瘍薬の有効成分として用いることができる。本発明は、本発明に係るCLEC4A機能阻害抗体を含む、抗腫瘍薬又は医薬組成物も提供する。抗腫瘍薬又は医薬組成物は、本発明に係るCLEC4A機能阻害抗体を治療上有効量で含むことが好ましい。そのような抗腫瘍薬又は医薬組成物は、がんの治療又は予防用、例えば、がんの進展抑制又はがんの再発予防用のものであってよい。本発明に係る抗腫瘍薬又は医薬組成物は、樹状細胞、B細胞(CD19+ B細胞)、単球(CD14+ 単球)等の抗原提示細胞に対する免疫チェックポイント阻害に基づくがんの治療又は予防、例えば、がんの進展抑制又はがんの再発予防のために有用である。
【0045】
本発明において「がんの進展抑制」とは、がんの病状の悪化(とりわけ、腫瘍サイズの増加)を遅らせるか若しくは防止する、又は病状を回復させることを含む。一実施形態では、がんの進展抑制は、腫瘍サイズ(例えば、腫瘍体積)を指標として評価することができる。例えば、本発明に係るCLEC4A機能阻害抗体を投与した対象(がん患者)又は担がん動物モデルにおいて、腫瘍サイズ(例えば、腫瘍体積)を(好ましくは経時的に)測定し、対照群(本発明に係るCLEC4A機能阻害抗体の代わりに抗腫瘍作用を有しない抗体を投与する)と比較して、腫瘍サイズの低下(好ましくは統計学的に有意な低下)が認められる場合にはがんの進展が抑制されたと判断することができる。
【0046】
本発明に係るCLEC4A機能阻害抗体による、抗腫瘍免疫応答の活性化、及び治療又は予防の対象となるがん又は腫瘍としては、以下に限定されないが、例えば、悪性黒色腫、肺がん、腎細胞がん、頭頚部がん、膀胱がん、膵がん、胃がん、肝臓がん、食道がん、胆道がん、大腸がん、尿路上皮がん、膠芽腫、多発性骨髄腫、卵巣がん、子宮頸がん、子宮体がん、乳がん、悪性胸膜中皮腫、軟部肉腫、リンパ腫(ホジキンリンパ腫、中枢神経系原発リンパ腫、精巣原発リンパ腫等)、ウイルス陽性又は陰性固形がん、メルケル細胞がん等が挙げられる。
【0047】
本発明に係る抗腫瘍薬又は医薬組成物は、CLEC4A機能阻害抗体に加えて、製薬上許容される添加剤をさらに含んでもよい。そのような添加剤としては、以下に限定されないが、担体、懸濁剤、結合剤、賦形剤、滑沢剤、崩壊剤、湿潤剤、安定剤、緩衝剤、保存剤、着色剤、pH調整剤等が挙げられる。添加剤は、単独でも2種以上を組み合わせても用いることができ、製剤の剤形に応じて適宜用いることができる。
【0048】
本発明に係るCLEC4A機能阻害抗体、又はそれを含む抗腫瘍薬若しくは医薬組成物は、非経口又は経口投与などの任意の投与経路で投与することができるが、非経口投与が好ましく、例えば静脈内、動脈内、筋肉内、腹腔内、髄腔内、硬膜外、皮下、皮内、経鼻、経肺、又は腫瘍内等に投与することができる。本発明に係るCLEC4A機能阻害抗体、又はそれを含む抗腫瘍薬若しくは医薬組成物は、全身投与又は局所投与してもよい。
【0049】
本発明はまた、本発明に係るCLEC4A機能阻害抗体、又はそれを含む抗腫瘍薬若しくは医薬組成物を対象(患者)に投与することを含む、免疫チェックポイント阻害方法も提供する。本発明はまた、CLEC4A機能阻害抗体、又はそれを含む抗腫瘍薬若しくは医薬組成物を対象(患者)に投与することを含む、免疫チェックポイント阻害に基づく、抗腫瘍免疫応答の活性化方法(又は抗腫瘍免疫応答の誘導方法)も提供する。本発明はまた、CLEC4A機能阻害抗体、又はそれを含む抗腫瘍薬若しくは医薬組成物を対象に投与することを含む、がんの治療又は予防方法も提供する。がんの治療又は予防方法は、がんの進展抑制方法又はがんの再発予防方法であってもよい。
【0050】
対象は、好ましくは哺乳動物であり、例えば、ヒト、チンパンジー、ゴリラ等の霊長類、マウス、ラット、モルモット等のげっ歯類、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ラマ、ラクダ、イヌ、ネコ、ウサギ等の哺乳動物由来であってよいが、好ましくはヒトである。対象は、免疫チェックポイント分子による免疫抑制が生じているか又は生じている疑いのある対象であってよい。対象は、典型的には、がんを有するか又はがんを有する疑いのある対象であってよい。対象は、がん免疫治療法に不応性となっているか又はがん免疫治療法への応答性が低下している対象であってよい。そのようながん免疫治療法への不応性、又は応答性の低下は、免疫チェックポイント、特に、樹状細胞、B細胞(例えば、CD19+ B細胞)、単球(例えば、CD14+ 単球)等の抗原提示細胞における免疫チェックポイントによって引き起こされるものであり得る。対象はまた、T細胞に発現する免疫チェックポイント分子(CTLA-4、PD-1、PD-L1等)に対する阻害剤への不応性又は耐性を有するがんに罹患した患者であってもよい。対象は、既存の免疫チェックポイント阻害剤への不応性又は耐性を有するがん患者であってもよい。あるいは、対象は、免疫チェックポイント阻害剤(例えば、T細胞に発現する免疫チェックポイント分子に対する阻害剤;以下、T細胞発現免疫チェックポイント分子阻害剤とも称する)に対する不応性又は耐性を有しないがん患者であってもよい。
【0051】
投与方法は、対象(患者)の生物種、年齢、体重、性別、症状などにより、当業者が適宜選択することができる。CLEC4A機能阻害抗体の投与量としては、例えば、一回につき体重1kgあたり0.0001mg~1000mgの範囲で、及び/又は対象当たり0.001mg~100000mgの範囲で、投与量を設定することができるが、これらの範囲に限定されない。
【0052】
CLEC4A機能阻害抗体、又はそれを含む抗腫瘍薬若しくは医薬組成物の対象への投与により、抗原提示細胞、例えば樹状細胞において、炎症性サイトカインの産生が増強され、それがT細胞や他の免疫細胞の機能を活性化/増強し、抗腫瘍免疫応答を活性化(惹起)し、結果的に対象におけるがんの進展抑制、腫瘍退縮、又はがんの再発予防などの効果がもたらされる。好ましい実施形態では、本発明のCLEC4A機能阻害抗体、又はそれを含む抗腫瘍薬若しくは医薬組成物は、(i)リンパ組織及び/又はがん組織における、骨髄由来抑制細胞の誘導及び/又は集積の抑制、(ii)リンパ組織及び/又はがん組織における、エフェクターT細胞、腫瘍浸潤T細胞(例えば、CD4+ T細胞及びCD8+ T細胞)、及び活性化樹状細胞の誘導及び/又は集積の促進、(iii)がん微小環境での免疫寛容の抑制、並びに(iv)抗腫瘍免疫応答の活性化の少なくとも1つをもたらすことができる。
【0053】
生体内で顕在化したがん細胞は免疫監視機構から逃れていると考えられており、免疫チェックポイント分子はその主要な逃避機序の一つであるとされる。近年、臨床応用された免疫チェックポイント阻害剤(抗CTLA-4抗体[イピリムマブ;ヤーボイ]、抗PD-1抗体[ニボルマブ;オプジーボ]、抗PD-L1抗体[アベルマブ;バベンチオ]等)は特定のがん種に対する高い奏功性が示されているが、多様ながんに対する不応答性や耐性獲得とともに、免疫関連有害事象(irAEs)の発症が問題とされている。それに対し、本発明のCLEC4A機能阻害抗体は、免疫関連有害事象(例えば、自己免疫疾患又は障害などの自己免疫病態、体重減少、組織傷害等)、特に、T細胞に発現する免疫チェックポイント分子の阻害に起因する免疫関連有害事象を生じるリスクを低減しながら高い抗腫瘍効果をもたらすことができる。したがって本発明のCLEC4A機能阻害抗体、又はそれを含む抗腫瘍薬若しくは医薬組成物は、高い抗腫瘍効果とともにより高い安全性も実現することができる。
【0054】
本発明では、上記のCLEC4A機能阻害抗体、又はそれを含む抗腫瘍薬若しくは医薬組成物を、他の免疫チェックポイント阻害剤と併用(併用投与)してもよい。他の免疫チェックポイント阻害剤としては、典型的には、T細胞に発現する免疫チェックポイント分子に対する阻害剤が挙げられるが、これに限定されない。T細胞に発現する免疫チェックポイント分子の例としては、以下に限定されないが、PD-1、CTLA-4、PD-L1、Tim-3、BTLA、LAG-3、TIGHT等が挙げられる。免疫チェックポイント分子に対する阻害剤は、免疫チェックポイント分子(タンパク質)自体の機能又は免疫チェックポイント分子をコードする遺伝子の機能を阻害する作用(アンタゴニスト作用)を有する任意の物質であり、例えば、抗体(好ましくは、中和抗体)であってもよいし、免疫チェックポイント分子の発現(当該分子をコードする遺伝子の発現)を阻害する核酸分子であってもよい。そのような阻害性核酸分子は、以下に限定するものではないが、siRNA(small interfering RNA)、shRNA(short hairpin RNA)、hpRNA(hairpin RNA)、又はそれを含むより長い核酸であってもよい。一実施形態では、T細胞に発現する免疫チェックポイント分子に対する阻害剤(T細胞発現免疫チェックポイント分子阻害剤)は、既存の免疫チェックポイント阻害剤であってもよく、例えば、抗CTLA-4抗体(イピリムマブなど)、抗PD-1抗体(ニボルマブなど)、抗PD-L1抗体(アベルマブなど)等であってもよい。上記のCLEC4A機能阻害抗体、又はそれを含む抗腫瘍薬若しくは医薬組成物は、例えばT細胞発現免疫チェックポイント分子阻害剤と併用することにより、上記のCLEC4A機能阻害抗体を単独で使用する場合と比較しても顕著に高い、相乗的ながん治療効果をもたらすことができる。したがって本発明は、T細胞発現免疫チェックポイント分子阻害剤と併用するための、上記のCLEC4A機能阻害抗体、又はそれを含む抗腫瘍薬若しくは医薬組成物も提供する。さらに本発明は、上記のCLEC4A機能阻害抗体に加えて、T細胞発現免疫チェックポイント分子阻害剤を含む、抗腫瘍薬又は医薬組成物も提供する。そのような抗腫瘍薬又は医薬組成物は、上記のCLEC4A機能阻害抗体、及びT細胞発現免疫チェックポイント分子阻害剤を、それぞれ治療上有効量で含むことが好ましい。上記のCLEC4A機能阻害抗体とT細胞発現免疫チェックポイント分子阻害剤を併用する抗腫瘍薬若しくは医薬組成物、又は併用療法を適用(投与)する対象は、既存の免疫チェックポイント阻害剤に対して不応性又は耐性を有するがん患者であってもよいし、免疫チェックポイント阻害剤(例えば、T細胞発現免疫チェックポイント分子阻害剤)に対する不応性又は耐性を有しないがん患者であってもよい。併用投与において、上記のCLEC4A機能阻害抗体、又はそれを含む抗腫瘍薬若しくは医薬組成物と、他の免疫チェックポイント阻害剤(T細胞発現免疫チェックポイント分子阻害剤等)は、任意の時期に、例えば、同時に、連続的に、又は別々の時期に投与してもよく、また、別個の薬剤として投与してもよいし単一の薬剤に含めて投与してもよい。
【0055】
上記のCLEC4A機能阻害抗体、又はそれを含む抗腫瘍薬若しくは医薬組成物の対象への投与は、がん組織における免疫抑制分子の発現を抑制することができる。上記のCLEC4A機能阻害抗体は、例えば、IL(インターロイキン)-10、IDO(インドールアミン2,3-ジオキシゲナーゼ)、アルギナーゼ、及びmPGES(膜関連プロスタグランジンE2シンターゼ)の発現を抑制することができる。上記のCLEC4A機能阻害抗体とT細胞発現免疫チェックポイント分子阻害剤の併用投与は、がん組織における免疫抑制分子の発現をより強力に抑制することができ、例えば、IL-10、IDO、アルギナーゼ、COX-2、mPGES、TGF(トランスフォーミング増殖因子)-β、及びiNOS(誘導型一酸化窒素合成酵素)からなる群から選択される少なくとも1つの発現を顕著に抑制することができる。
【0056】
本発明では、上記のCLEC4A機能阻害抗体、又はそれを含む抗腫瘍薬若しくは医薬組成物の投与を含む方法、例えば、抗腫瘍免疫応答の活性化方法又はがんの治療若しくは予防方法を、がんワクチン療法と併用してもよい。併用するがんワクチン療法の例としては、がん抗原、がん抗原とアゴニストTLRリガンドの組み合わせ、又はがん抗原とアゴニストTLRリガンドとアゴニスト抗CD40抗体との組み合わせを患者に投与する方法が挙げられる。がん抗原としては、例えば、WT1、MAGE-A1、MAGE-A3、gp100、Melan A、NY-ESO-1、MUC1、LMP2、HPV E6 E7、EGFRvIII、HER-2/neu、イディオタイプ、p53非変異型(p53 nonmutant)、BAGE、チロシナーゼ、CEA、bcr/abl、ras等が挙げられるが、これらに限定されない。アゴニストTLRリガンド(アゴニスト作用性TLRリガンド又はTLRアゴニストとも呼ばれる)としては、TLR1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、及び/又は13等のアゴニストリガンド、例えば、CpG ODN 2006やCpG-B ODN 1668等の非メチル化CpGジヌクレオチドモチーフ含有オリゴヌクレオチドであるアゴニストTLR9リガンドなどが挙げられる。ヒト対象への投与に好適なアゴニストTLRリガンドは、ヒトTLR1、2、3、4、5、6、7、8、9、又は10に対するアゴニストリガンドであり得る。
【0057】
本発明では、上記のCLEC4A機能阻害抗体、又はそれを含む抗腫瘍薬若しくは医薬組成物の投与を含む方法、例えば、抗腫瘍免疫応答の活性化方法又はがんの治療若しくは予防方法を、がん標準治療法(腫瘍切除のための外科治療、放射線治療、化学療法)と併用してもよい。
【実施例0058】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【0059】
なお、下記実施例におけるフローサイトメトリー法は以下のとおり実施した。
<フローサイトメトリー法>
フローサイトメトリー解析における細胞の染色には、以下の蛍光標識モノクローナル抗体を用いた。
【0060】
抗マウスCD3ε抗体(クローン145-2C11; BD Biosciences)、抗マウスCD4抗体(クローンRM4-5; BD Biosciences)、抗マウスCD8α抗体(クローン53.6.7; BD Biosciences)、抗マウスCD11b抗体(クローンM1/70; Biolegend)、抗マウスCD11c抗体(クローンHL3; BD Biosciences)、抗マウスCD40抗体(クローン3/23; BD Biosciences)、抗マウスCD44抗体(クローンIM7; BD Biosciences)、抗マウスCD80抗体(クローン16-10A1; BD Biosciences)、抗マウスCD86抗体(クローンGL1; BD Biosciences)、抗マウスCD62L抗体(クローンMEL-14; Biolegend)、抗マウスB220抗体(クローンRA3-6B2; BD Biosciences)、抗マウスF4/80抗体(クローンBM8; Biolegend)、抗マウスNK1.1抗体(クローンPK136; BD Biosciences)、抗マウスMHCクラスI抗体(クローンAF6-88.5; BD Biosciences)、抗マウスMHCクラスII抗体(クローンM5/114.15.2; BD Biosciences)、抗マウスB7-H1抗体(クローンMIH5; eBioscience)、抗マウスB7-DC抗体(クローンTY25; eBioscience)、抗マウスB7-H2抗体(クローンHK5.3; eBioscience)、抗マウスSiglecH抗体(クローン551; Biolegend)、抗マウスGr-1抗体(クローンRB6-8C5; Biolegend)、抗マウスClec4A4抗体(クローン33D1; Biolegend)、抗マウスIFN-γ抗体(クローンXMG1.2; BD Biosciences)、抗マウスCD19抗体(クローン6D5; Biolegend)、又は対照ラットIgG抗体(BD Biosciences)。
【0061】
抗ヒトCD3抗体(クローンUCHT1; TOMBO)、CD8α(クローンSK1; BD Biosciences)、抗ヒトCD11c抗体(クローン3.9; TOMBO)、抗ヒトCD14抗体(クローン61D3; TOMBO)、抗ヒトCD19抗体(クローンHIB19; TOMBO)、抗ヒトCD56抗体(クローンMY31; TOMBO)、抗ヒトCD1c抗体(クローンL161; Biolegend)、抗ヒトCD40抗体(クローン5C3; BD Biosciences)、抗ヒトCD80抗体(クローンL307.4; BD Biosciences)、抗ヒトCD86抗体(クローンIT2.2; BD Biosciences)、抗ヒトCD141抗体(クローンM80; Biolegend)、抗ヒトCD303抗体(クローン201A; Biolegend)、抗ヒトHLA-DR抗体(クローンL243; Biolegend)、抗ヒトCLEC4A抗体(クローン9E8; Biolegend)、又は対照マウスIgG抗体(BD Biosciences)。
【0062】
細胞表面分子の染色は、細胞(1~5 x 105個)を、蛍光標識モノクローナル抗体と共に4℃で30分インキュベートすることにより染色した。
【0063】
なお一部のフローサイトメトリー解析では、細胞の染色に、蛍光標識モノクローナル抗体の代わりに、以下の蛍光標識したMHC-ペプチド複合体を用いた:マウスH-2Kb OVAペプチドペンタマー。
【0064】
蛍光染色解析はFACSVerseTMフローサイトメーター(BD Biosciences)及びFlowJoソフトウェア(Tree star)を用いて行った。
【0065】
また、下記実施例で得られたデータについて、統計学的解析は以下のとおり行った。
<統計学的解析>
データの統計学的有意差の解析は分散分析(analysis of variance: ANOVA)を用いた。P値が0.01未満のものを有意とした。図中のデータは平均値(±標準偏差)で示した。
【0066】
[実施例1]
1)マウス
本実施例では、野生型(WT)マウスとして、C57BL/6マウス(Japan Clea)を用いた。非特許文献4の記載に従い、C57BL/6マウスを用いて、Clec4A4欠損マウス(Clec4a4-/-マウス)を作製した。Clec4A4欠損マウス(系統名B6.Cg-Clec4a4<tm1.1Ksat>)は、国立研究開発法人理化学研究所バイオリソースセンター(RIKEN BRC; 日本)にアクセッション番号RBRC09657の下で寄託され、入手可能である。なおClec4A4は、CLEC4Aのマウスオルソログである。
【0067】
2)非担がんマウスモデルのがんワクチン接種後の免疫応答
WTマウス、及びClec4A4欠損マウスに、がんワクチンとして卵白アルブミン(OVA)(500 μg/1匹; Sigma-Aldrich)、Toll様受容体(Toll-like receptor; TLR)9リガンドであるCpG-B ODN 1668(50 μg/1匹; Hokkaido System Science)、及びアゴニスト抗CD40抗体(10 μg/匹; クローン1C10; Biolegend)を腹腔内投与して免疫した。免疫後6日目に、脾臓におけるOVA特異的細胞傷害性T細胞(CTL)(CD44highOVA-MHCクラスIペンタマー結合CD8+ T細胞)及びOVA特異的IFN-γ産生CD8+T細胞の誘導を、上述のフローサイトメトリー法により解析した。対照として、ワクチン接種していないWTマウス及びClec4A4欠損マウスの脾臓についても同様の細胞解析を行った。
【0068】
WTマウスでは、ワクチン非接種群と比較して、がんワクチン(OVA、CpG-B ODN 1668、アゴニスト抗CD40抗体)免疫群において抗原特異的CTLであるCD44highOVA-MHCクラスIペンタマー結合CD8+ T細胞(図1A及びB)と抗原特異的IFN-γ産生CD8+ T細胞(図2A及びB)の誘導が増強されていることが示された。一方、Clec4A4欠損マウスのがんワクチン免疫群では、抗原特異的CTLと抗原特異的IFN-γ産生CD8+ T細胞が誘導されただけでなく、WTマウスのがんワクチン免疫群と比較して、抗原特異的CTLと抗原特異的IFN-γ産生CD8+ T細胞の誘導が著しく増強された(図1図2)。
【0069】
3)担がんマウスモデルのがん進展評価及びがんワクチン接種後の免疫応答
WTマウス、及びClec4A4欠損マウスの背部に、卵白アルブミン(OVA)を発現する組換え悪性黒色腫細胞株(B16-OVAメラノーマ; Brown DM, et al., Immunology. (2001) 102:486-497)を皮下移植(1x105細胞/1匹)することにより、担がんマウスを作製した。がんの進展は、担がんマウスの腫瘍体積をがん移植の23日後まで毎日、デジタルキャリパー(Digimatic Caliper, Mitutoyo)を用いて測定し、それを指標として評価した。
【0070】
担がんWTマウス及び担がんClec4A4欠損マウスに対し、がん細胞移植の7日後に、がんワクチンを腹腔内投与して免疫した。がん細胞移植の13日後に、OVA特異的CTLであるCD44highOVA-MHCクラスIペンタマー結合CD8+ T細胞、及びOVA特異的IFN-γ産生CD8+T細胞の誘導を、上述のフローサイトメトリー法により解析した。
【0071】
担がんWTマウス及び担がんClec4A4欠損マウスでは、非担がん状態のWTマウス及びClec4A4欠損マウスと比較して、がんワクチン免疫群での抗原特異的CTL及び抗原特異的IFN-γ産生CD8+T細胞の誘導が増強された(図1図2)。さらに、担がんClec4A4欠損マウスのがんワクチン免疫群では、担がんWTマウスのがんワクチン免疫群と比較して、抗原特異的CTL及び抗原特異的IFN-γ産生CD8+T細胞の誘導が著しく増強された(図1図2)。
【0072】
がん細胞移植の15日後以降、担がんWTマウス(ワクチン非接種)と比較して、担がんClec4A4欠損マウス(ワクチン非接種)では、免疫関連有害事象の発生を示さずに、がん進展が著しく抑制された(図3A~C)。一方、担がんWTマウスのがんワクチン免疫群では、がん細胞移植の15日後以降、がん退縮が明らかに認められた。さらに、担がんClec4A4欠損マウスのがんワクチン免疫群では、担がんWTマウスのがんワクチン免疫群と比較して、がん細胞移植の23日後にはがんワクチンのがん進展抑制効果の亢進が認められた(図3)。
【0073】
以上の結果から、マウスClec4A4は樹状細胞上に発現する、免疫チェックポイント分子であり、抗腫瘍免疫応答にブレーキをかける働きをしていることが示された。
【0074】
4)担がんマウスモデルにおける免疫応答
WTマウス、及びClec4A4欠損マウスの背部に、卵白アルブミン(OVA)を発現する組換え悪性黒色腫細胞株(B16-OVAメラノーマ; Brown DM, et al., Immunology. (2001) 102:486-497)を皮下移植(1x105細胞/1匹)することにより、担がんマウスを作製した。がん細胞移植の20日後に、担がんWTマウス及び担がんClec4A4欠損マウスの脾臓及びがん組織における各種免疫細胞の誘導を、上述のフローサイトメトリー法により解析した。なお、非担がんマウス及び担がんマウスの脾臓単核球は脾臓細胞から赤血球溶解バッファー(Red Blood Cell Lysing Buffer Hybri-MaxTM; Sigma-Aldrich)を用いて調製した(非特許文献4)。担がんマウスの脾臓単核球及びがん組織の調製はがん細胞移植の20日後に行った。対照として、非担がんWTマウス及び非担がんClec4A4欠損マウスにおいても同様にフローサイトメトリー法による解析を行った。解析の結果を図4~8に示す。
【0075】
担がんWTマウスと比較して、担がんClec4A4欠損マウスでは、脾臓(図4A)とがん組織(図4B)におけるGr1-1+CD11b+F4/80+骨髄由来抑制細胞(myeloid-derived suppressor cells; MDSCs)の増加の抑制が認められた。
【0076】
また担がんWTマウスと比較して、担がんClec4A4欠損マウスでは、がん組織におけるCD11c+SiglecH-cDCs(通常型樹状細胞)とCD11clowSiglecH+pDCs(形質細胞様樹状細胞)の集積亢進が認められた(図4B)。
【0077】
さらに、担がんWTマウスと比較して、担がんClec4A4欠損マウスでは、がん組織における腫瘍浸潤CD4+/CD8+リンパ球(T細胞)(tumor-infiltrating lymphocytes; TILs)や、NK1.1+NK細胞の集積亢進が認められた(図4B)。
【0078】
担がんWTマウスでは、非担がんWTマウスと比較して、脾臓中のGr1-1+CD11b+F4/80+MDSCsの増加が認められるとともに(図4A)、がん組織での顕著な集積が認められた(図4B)。
【0079】
担がんWTマウスでは、非担がんWTマウスと比較して、脾臓中のCD44+CD62L-エフェクターCD4+T細胞の増加が認められた(図5A)が、CD8+T細胞のその増加は認められなかった(図5B)。一方、担がんClec4A4欠損マウスでは、担がんWTマウスと比較して、脾臓(図5)とがん組織(図6)におけるCD44+CD62L-エフェクターCD4+T細胞/CD8+ T細胞の増加が認められた(A: CD4+T細胞、B: CD8+ T細胞)。
【0080】
担がんWTマウスでは、非担がんWTマウスと比較して、脾臓中のcDCsにおけるMHC I、CD40、CD80、B7-H1、及びB7-H2の発現低下が認められた(図7)。一方、担がんClec4A4欠損マウスでは、非担がんClec4A4欠損マウスと比較して、脾臓中のcDCsにおけるMHC I、CD80、CD86、B7-H1、及びB7-H2の発現増強が認められた(図7)。
【0081】
さらに、担がんWTマウスと比較して、担がんClec4A4欠損マウスでは脾臓cDCsにおけるMHCクラスI(MHC I)、CD80、CD86、B7-H1、及びB7-H2の発現増強が認められた(図7)。
【0082】
また担がんWTマウスと比較して、担がんClec4A4欠損マウスでは腫瘍浸潤cDCsにおけるMHC I、MHCクラスII(MHC II)、CD80、CD86、及びB7-H1の発現増強と、B7-H2及びB7-DCの発現低下が認められた(図8)。
【0083】
担がんClec4A4欠損マウスでは、担がんWTマウスと比較して、がん組織におけるcDCsのMHC I、MHC II、CD80、CD86、及びB7-H1の発現増強と、B7-H2及びB7-DCの発現低下が認められた(図8)。
【0084】
以上の解析結果から、Clec4A4による樹状細胞機能阻害は、リンパ組織とがん組織における、骨髄由来抑制細胞の誘導と集積の促進、並びにエフェクターT細胞、腫瘍浸潤T細胞、及び活性化樹状細胞の誘導と集積の抑制に基づいてがん微小環境での免疫寛容原性を誘発し、抗腫瘍免疫応答を抑制することにより、がん進展を促進することが示された(図4図8)。上記解析結果は、Clec4A4機能の阻害が、抗腫瘍免疫応答の活性化、及びがん抑制につながることを示している。
【0085】
さらに、マウスにおいてClec4A4欠損によりがん免疫応答が増強し、がん進展が抑制されることから、Clec4A4は樹状細胞に発現し、がん免疫(自己免疫)応答を制御する「免疫チェックポイント分子」であることが証明された。
【0086】
[実施例2]
ヒト末梢血(健常人末梢血)から、末梢血単核球を、Ficoll-PaqueTMPLUS(GE Healthcare Life Sciences)を用いた比重遠心法により分離した。分離した末梢血単核球画分から、末梢血単球を、単球単離キットII(Monocyte Isolation Kit II; Miltenyi Biotec)及び細胞分離装置autoMACS(R) Pro Separator(Miltenyi Biotec)を用いて精製した。
【0087】
非特許文献3に記載の方法に従い、取得したヒト末梢血単球をヒト組換え顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)(50 ng/ml、Wako)とヒト組換えIL-4(100 ng/ml、Wako)の存在下で1週間培養することにより、ヒト末梢血単球由来樹状細胞を作製した。また、非特許文献3に記載の方法に従い、取得したヒト末梢血単球をヒト組換えGM-CSF(50 ng/ml、Wako)、ヒト組換えIL-4(100 ng/ml、Wako)、ヒト組換えIL-10(50 ng/ml、Wako)、及びヒト組換えTGF-β1(50 ng/ml、Wako)の存在下で1週間培養することにより、ヒト末梢血単球由来免疫抑制性樹状細胞を作製した。末梢血単球由来免疫抑制性樹状細胞はがん環境で生成することが知られている。
【0088】
健常人から得られた末梢血単核球画分中の、CD3+T細胞、CD19+ B細胞、CD14+単球、CD11c+樹状細胞、CD56+ナチュラルキラー(NK)細胞におけるCLEC4Aの発現を上述のフローサイトメトリー法により解析した。各細胞における細胞表面分子(CLEC4A)の発現を図9Aにヒストグラムで示す。
【0089】
末梢血単核球画分においてCLEC4Aの発現はCD3+ T細胞やCD56+ NK細胞では認められず、CD19+B細胞、CD14+単球、CD11c+樹状細胞では認められた(図9A)。さらに、CD14+単球とCD11c+樹状細胞は、CD19+ B細胞と比較してCLEC4Aについてより高い発現を示した(図9A)。
【0090】
健常人から得られた末梢血単核球画分中の、CD141+cDC1細胞、CD1c+cDC2細胞、CD303+pDC細胞におけるCD11c、HLA-DR、及びCLEC4Aの発現を上述のフローサイトメトリー法により解析した。各細胞表面分子(CD141、CD1c、CD303、CD11c、HLA-DR、及びCLEC4A)の発現を図9Bにヒストグラムで示す。
【0091】
健常人由来の末梢血単核球画分中の末梢血樹状細胞亜集団において、CD1c+CD11c+HLA-DR+cDC2細胞は、CD141+CD11c+HLA-DR+cDC1細胞、及びCD303+CD11c-HLA-DR+pDC細胞と比較して、CLEC4Aについてより高い発現を示した(図9B)。なお、フローサイトメトリー解析で得られた、CD1c+末梢血単核球をcDC2、CD141+末梢血単核球をcDC1、CD303+末梢血単核球をpDCとした。
【0092】
さらに、健常人から得られた末梢血単球、作製された末梢血単球由来樹状細胞(図中、単球由来DC)、及び末梢血単球由来免疫抑制性樹状細胞(図中、単球由来DCreq)におけるCD11c、CD40、CD80、CD86、HLA-DR、及びCLEC4Aの発現を、上述のフローサイトメトリー法により解析した。各細胞表面分子の発現を図9Cにヒストグラムで示す。
【0093】
末梢血単球由来免疫抑制性樹状細胞は、末梢血単球由来樹状細胞と比較して、CD11c、CD86、HLA-DRについてより低い発現を示したが、CLEC4Aについては同等に高い発現を示した(図9C)。
【0094】
マウスにおいてClec4A4の発現はCD1c+末梢血単核球(cDC2)にのみ限定されるが(非特許文献4)、ヒトにおいてはcDC2がCD141+末梢血単核球(cDC1)やCD303+末梢血単核球(pDC)よりも高いCLEC4A発現を示すとともに、単球やB細胞でもCLEC4A発現が認められた。また、がん環境で生成される免疫抑制性樹状細胞(非特許文献3、及びNagayama H., et al., Melanoma Res., (2003) 13, pp.521-530)においてもCLEC4Aの発現が認められた。これらの結果からヒトにおいてCLEC4Aは抗原提示細胞に発現する機能制御分子であると考えられた。
【0095】
[実施例3]
ヒトCLEC4Aタンパク質の全長(配列番号2; NCBIアクセッション番号NP_057268.1; M1-L237; 237アミノ酸長)をコードする塩基配列(配列番号1)の5'末端にBamHI認識配列(5'-ggatcc-3')、3'末端にXhoI認識配列(5'-ctcgag-3')を付加したcDNA(配列番号11)を、GeneArt(R)(Life Technologies)により合成した。
【0096】
同様に、ヒトCLEC4AのITIM(免疫受容体抑制性チロシンモチーフ(Immunoreceptor tyrosine-based Inhibition motif))配列欠損変異体(配列番号4; ΔI5-V10; 231アミノ酸長)、CLEC4Aの細胞外領域欠損変異体(配列番号6; ΔF69-L237; 68アミノ酸長)、CLEC4Aの糖鎖認識ドメイン(carbohydrate-recognition domain; CRD)-EPS欠損変異体(配列番号8; ΔE195-S197; 234アミノ酸長)、及びCLEC4Aの糖鎖修飾部位置換変異体(配列番号10; N185Q; 237アミノ酸長)をコードする塩基配列(それぞれ、配列番号3、配列番号5、配列番号7、配列番号9)の5'末端にBamHI認識配列、3'末端にXhoI認識配列を上記と同様に付加したcDNAを、GeneArt(R)(Life Technologies)により合成した。
【0097】
次にこれらcDNAを、制限酵素BamHI及びXhoIで処理して、pMX-IRES-GFPレトロウイルスベクターのマルチクローニングサイト中のBamHI-XhoI部位に導入し、CLEC4A又は変異体発現レトロウイルスベクターを作製した。さらに、これらのレトロウイルスベクター、又は対照レトロウイルスベクター(CLEC4A又は変異体コード配列を含まない)を、レトロウイルスパッケージング細胞(Phoenix)にLipofectAMINEPlus Reagent(Life Technologies)を用いて感染させ、24時間後に培養上清からレトロウイルスを採取し、遠心法(8,000 g、16時間、4℃)により濃縮した。
【0098】
得られたレトロウイルスを、マウス樹状細胞株DC2.4(Shen Z, et al., J. Immunol., (1997) 158:p.2723-2730)に対し、DOTAPリポソーム性トランスフェクション試薬(DOTAP Liposomal Transfection Reagent; Roche)の2日間処理により感染させた。得られた細胞から、GFP発現を指標として、FACSAriaTMIIセルソーター(BD Biosciences)を用いてトランスジェニック細胞株を精製分離した。
【0099】
分離したトランスジェニック細胞株(CLEC4A発現細胞株又はCLEC4A変異体発現細胞株、対照レトロウイルス感染細胞株)、及びマウス樹状細胞株DC2.4における、GFP及びCLEC4Aの発現を、上述のフローサイトメトリー法により解析した。
【0100】
マウス樹状細胞株DC2.4(図中、DC2.4)、対照レトロウイルス感染細胞株(図中、モック-GFP)、及びCLEC4A発現細胞株(図中、CLEC4A-GFP)における、GFP及びCLEC4Aの発現を、図10Aにドットプロットで示す。
【0101】
糖鎖修飾部位置換変異体発現細胞株(図中、CLEC4AN185Q-GFP)、CRD-EPS欠損変異体発現細胞株(図中、CLEC4AΔE195-S197-GFP)、細胞外領域欠損変異体発現細胞株(図中、CLEC4AΔF69-L237-GFP)及びITIM配列欠損変異体発現細胞株(図中、CLEC4AΔI5-V10-GFP)における、GFP及びCLEC4Aの発現を、図10Bにドットプロットで示す。
【0102】
マウス樹状細胞株DC2.4、対照レトロウイルス感染細胞株、CLEC4A発現細胞株、糖鎖修飾部位置換変異体発現細胞株、CRD-EPS欠損変異体発現細胞株、細胞外領域欠損変異体発現細胞株、及びITIM配列欠損変異体発現細胞株を、48ウェル培養プレート(BD Bioscience)にそれぞれ播種し、TLR4リガンドであるリポ多糖(LPS; 0.1 μg/ml; Sigma-Aldrich)又はTLR9リガンドであるCpG-B ODN 1668(0.1 μM)を刺激のために添加して16時間培養した後、培養上清中のIL-6(インターフェロン-6; eBioscience)とTNF-α(腫瘍壊死因子-α; eBioscience)の量をELISA法により測定した。対照として、同じ細胞株を、リポ多糖もCpG-B ODN 1668も添加せず無刺激で16時間培養後、同様に培養上清中のIL-6及びTNF-αの量をELISA法により測定した。その結果を図11に示す。
【0103】
対照レトロウイルス感染細胞株(図中、モック-GFP)と比較して、CLEC4A発現細胞株(図中、CLEC4A-GFP)では、LPS又はCpG-B ODN 1668の刺激により、IL-6及びTNF-αの産生が著しく減弱した(図11)。
【0104】
CLEC4A発現細胞株(図中、CLEC4A-GFP)と比較して、CRD-EPS欠損変異体発現細胞株(図中、CLEC4AΔE195-S197-GFP)、細胞外領域欠損変異体発現細胞株(図中、CLEC4AΔF69-L237-GFP)及びITIM配列欠損変異体発現細胞株(図中、CLEC4AΔI5-V10-GFP)では、LPS又はCpG-B ODN 1668の刺激により、IL-6及びTNF-αの産生が著しく亢進し、これらの産生量は対照レトロウイルス感染細胞株(図中、モック-GFP)とほぼ同等であった(図11)。これらの細胞株に導入されたCLEC4A変異体はCLEC4A活性を保持しないことが示された。
【0105】
一方、糖鎖修飾部位置換変異体発現細胞株(図中、CLEC4AN185Q-GFP)では、CLEC4A発現細胞株と比較して、LPS又はCpG-B ODN 1668の刺激により、IL-6及びTNF-αの産生の部分的な増強が認められた(図11)。この糖鎖修飾部位置換変異体は、CLEC4A活性を部分的に保持していると考えられた。Clec4A4の自己分子(内/間)結合には、CRD内の185位(N-186)におけるN-結合型糖鎖(N型修飾糖鎖)が必要とされている。
【0106】
以上の結果から、CLEC4Aは抗原提示細胞の機能制御分子であり、樹状細胞などの抗原提示細胞におけるCLEC4Aの機能制御の分子基盤には、その細胞外領域の糖鎖認識ドメイン(CRD)とN型修飾糖鎖との会合を介した自己分子(内/間)結合に基づくITIM依存性抑制性シグナル経路が関与しており、当該経路の誘導によりサイトカイン産生能及びT細胞活性化能が抑制されることが示された。すなわちCLEC4Aの機能制御活性には、細胞外領域、CRD、及びITIM配列が重要であることが示された。
【0107】
[実施例4]
1)可溶型CLEC4A-マウスIgFcキメラ分子の作製
CLEC4A細胞外領域(配列番号12; F69-L237; 169アミノ酸長)をコードする塩基配列(配列番号1の205~711位の塩基配列に相当)の5'末端にBamHI認識配列(5'-ggatcc-3')、3'末端にEcoRV認識配列(5'-gatatc-3')を付加したcDNAを、GeneArt(R)(Life Technologies)により合成した。次に、得られたcDNAを、制限酵素BamHI及びXhoIで処理して、マウスIgFcキメラ分子発現ベクター(pFUSEN-mG2A-Fcベクター; InvivoGen)のマルチクローニングサイト中のBamHI-EcoRV部位に導入し、可溶型CLEC4A-マウスIgFcキメラ分子発現ベクターを作製した。可溶型CLEC4A-マウスIgFcキメラ分子発現ベクターを、293fectinTMトランスフェクション試薬(293fectinTMTransfection Reagent; Life Technologies)を用いてFreeStyleTM293-F細胞(Life Technologies)に遺伝子導入した。続いて遺伝子導入細胞を培養し、培養上清より、HiTrapTMProtein G HP(GE Healthcare Life Sciences)を用いて可溶型CLEC4A-マウスIgFcキメラ分子を精製した。
【0108】
2)抗CLEC4A抗体の作製
上記で作製した可溶型CLEC4A-マウスIgFcキメラ分子(12.5 μg/1匹)及びTiterMax(R) Gold Adjuvant(27.5 μl/1匹; Sigma-Aldrich)を用いて、マウスの足蹠に対し2週間隔で2回免疫した。さらに、初回免疫後31日目にマウスの尾静脈内へ可溶型CLEC4A-マウスIgFcキメラ分子(25 μg/1匹)を投与した。初回免疫後34日目にマウスのリンパ節を採取し、得られたリンパ節細胞と、P3U1ミエローマ細胞株を、ポリエチレングリコール4000(Wako)を用いて融合し、多数のハイブリドーマを作製した。
【0109】
3)抗体のスクリーニング
作製したハイブリドーマの培養上清について、CLEC4A発現細胞株に対する反応性を指標とし、二次抗体であるR-フィコエリスリン標識F(ab')2フラグメントヤギ抗マウスIgG(H+L)抗体(Jackson ImmunoResearch Laboratories)を用いて、上記フローサイトメトリー法により、抗体クローンのスクリーニングを行った。
【0110】
具体的には、作製したハイブリドーマの培養上清を、マウス樹状細胞株DC2.4と実施例3で作製したCLEC4A発現細胞株(CLEC4A-GFP)の混合細胞(混合比1:1)に添加し、抗体と細胞の反応性を上記フローサイトメトリー法により調べた。なお混合細胞系を使用することにより、マウス樹状細胞株DC2.4(親株)とCLEC4A発現細胞株のそれぞれに対する反応性を一度に解析することが可能になる。
【0111】
同様に、対照マウスIgG抗体又は抗CLEC4A抗体(クローン9E8)を、マウス樹状細胞株DC2.4と実施例3で作製したCLEC4A発現細胞株(CLEC4A-GFP)の混合細胞(混合比1:1)に添加し、抗体と細胞の反応性を上記フローサイトメトリー法により調べた。
【0112】
このようにして、CLEC4A発現細胞株に特異的な反応を高レベルで示した数十個のクローンを樹立した。高反応性クローンとして選択されたハイブリドーマの培養上清から、HiTrapTM Protein G HPを用いて、マウス抗CLEC4A抗体を精製した。
【0113】
4)抗体の免疫チェックポイント阻害作用
実施例2で得られた末梢血単球由来樹状細胞(1x105細胞)を、96ウェル培養プレートに播種し、対照マウスIgG抗体(cont. Ig)(10 μg/ml; Sigma-Aldrich)若しくは上記で得られたマウス抗ヒトCLEC4A抗体(10 μg/ml)の存在下又は非存在下にてLPS(0.1 ng/ml)で刺激して16時間培養した後、培養上清中のIL-6量をELISA法により測定した。
【0114】
その結果、マウス抗CLEC4A抗体#1、#2、#3、及び#4の存在下で、末梢血単球由来樹状細胞のLPSの刺激による炎症性サイトカインIL-6の産生が、抗CLEC4A抗体の非存在下及び対照マウスIgG抗体の存在下と比較して、約1.5倍に増強された。それらの抗CLEC4A抗体がCLEC4A機能阻害抗体として作用し、樹状細胞におけるCLEC4Aのサイトカイン産生抑制機能を制御(阻害)したと考えられた。すなわちそれらの抗体は免疫チェックポイント阻害作用を有していることが示された。
【0115】
ヒトCLEC4A発現マウス樹状細胞株DC2.4(4x105細胞)を、対照マウスIgG抗体(100 μg/ml)若しくは上記で得られたマウス抗ヒトCLEC4A抗体(100 μg/ml)の存在下又は非存在下にて60分間培養した後、可溶型ヒトCLEC4A-マウスIgFcキメラ分子(10 μg/ml)を添加して反応させた。その後、可溶型ヒトCLEC4A-マウスIgFcキメラ分子のCLEC4A発現マウス樹状細胞株DC2.4に対する反応性(結合)を指標に、二次抗体であるR-フィコエリスリン標識F(ab')2断片ヤギ抗マウスIgG(H+L)を用いたフローサイトメトリー法により結合阻害率を解析した。マウス抗CLEC4A抗体#1、#2、及び#3は、可溶型CLEC4A-マウスIgFcキメラ分子の、CLEC4A発現マウス樹状細胞株DC2.4に対する結合を80%以上阻害した。それらの抗CLEC4A抗体は、樹状細胞株DC2.4の細胞表面上に発現したCLEC4Aと可溶型CLEC4Aとの結合阻害を引き起こしたことが示された。
【0116】
[実施例5]
PEPperMAP(R)(PEPperPRINT)ペプチドマイクロアレイ受託解析サービスを利用して、CLEC4A機能阻害抗体である抗CLEC4A抗体#1、#2、#3、及び#4のエピトープマッピングを行った。
【0117】
具体的には、エピトープマッピングでは、CLEC4A細胞外領域のアミノ酸配列(配列番号12; F69-L237; 169アミノ酸長)全長をカバーする、1アミノ酸ずつシフトさせた15アミノ酸長の重複ペプチド群(重複長: 14アミノ酸; 155個のペプチド)を、マイクロアレイ上にプリントした。さらに、抗CLEC4A抗体#1、#2、#3、及び#4及び標識二次抗体を用いて、抗原抗体反応により、マイクロアレイ上のペプチドプローブとハイブリダイゼーションした。マイクロアレイスキャナーを用いて、ハイブリダイゼーション後のマイクロアレイを走査後、PepSlide(R) Analyzer(PEPperPRINT)を用いて反応性を解析し、エピトープの同定を行った。抗CLEC4A抗体と強い結合を示した連続的に重複するペプチドプローブに共通して含まれるアミノ酸配列をコンセンサスモチーフとした。コンセンサスモチーフは、線状(連続)エピトープ、又は不連続エピトープ中に含まれる線状(連続)エピトープ部分の存在を示す。
【0118】
抗CLEC4A抗体の各クローンの解析結果は以下のとおりであった。
【0119】
- 抗体#1
エピトープマッピングによりWVDQTPYNESSTFW(配列番号15; 配列番号2のW178-W191)がコンセンサスモチーフとして同定された。抗体#1のエピトープは、CLEC4Aタンパク質上の、コンセンサスモチーフWVDQTPYNESSTFW(配列番号15)を含むペプチド配列によって構成されることが示された。
【0120】
- 抗体#2
エピトープマッピングによりQNLQEESAYF(配列番号16; 配列番号2のQ155-F164)がコンセンサスモチーフとして同定された。ペプチドFSSNCYFISTESASW(配列番号17; 配列番号2のF113-W127)への抗体#2の結合も示された。抗体#2のエピトープは、CLEC4Aタンパク質上の、コンセンサスモチーフQNLQEESAYF(配列番号16)を含むペプチド配列とFSSNCYFISTESASW(配列番号17)を含むペプチド配列によって構成されることが示された。抗体#2はCLEC4Aタンパク質の一次配列上で離れた位置にある2つのぺプチド配列QNLQEESAYF(配列番号16)とFSSNCYFISTESASW(配列番号17)に結合できることから、抗体#2のエピトープは、QNLQEESAYF(配列番号16)と、FSSNCYFISTESASW(配列番号17)中の少なくとも一部のアミノ酸とを含む不連続エピトープ(立体構造エピトープ)であると考えられる。
【0121】
- 抗体#3
エピトープマッピングによりSSNCYFISTESASW(配列番号18; 配列番号2のS114-W127)とQNLQEESAYF(配列番号16; 配列番号2のQ155-F164)がそれぞれコンセンサスモチーフとして同定された。抗体#3のエピトープは、CLEC4Aタンパク質上の、コンセンサスモチーフSSNCYFISTESASW(配列番号18)を含むペプチド配列とQNLQEESAYFを含むペプチド配列によって構成されることが示された。抗体#3はCLEC4Aタンパク質の一次配列上で離れた位置にある2つのペプチド配列SSNCYFISTESASW(配列番号18)及びQNLQEESAYF(配列番号16)に結合できることから、抗体#3のエピトープは、SSNCYFISTESASW(配列番号18)及びQNLQEESAYF(配列番号16)を含む不連続エピトープ(立体構造エピトープ)であると考えられる。
【0122】
- 抗体#4
エピトープマッピングによりKKNMPVEETAWSCC(配列番号19; 配列番号2のK93-C106)がコンセンサスモチーフとして同定された。抗体#4のエピトープは、CLEC4Aタンパク質上の、コンセンサスモチーフKKNMPVEETAWSCC(配列番号19)を含むペプチド配列によって構成されることが示された。
【0123】
図12に、抗体#1~#4のエピトープを構成する抗体結合配列の、CLEC4Aタンパク質の一次配列上の位置を示す。
【0124】
CLEC4A機能阻害抗体である抗体#1~#4のエピトープは、CLEC4A細胞外領域のC型レクチン様ドメイン内に存在することが明らかとなった。また、抗体#1のエピトープはCRD内のN型糖鎖修飾部位(N185)を含むことが示された(図12)。
【0125】
[実施例6]
1)CLEC4Aトランスジェニックマウスの作製
ヒトCLEC4Aタンパク質の全長(配列番号2; NCBIアクセッション番号NP_057268.1; M1-L237; 237アミノ酸長)をコードする塩基配列(配列番号1)の5'末端と3'末端にClaI認識配列(5'-atcgat-3')を付加したcDNA(配列番号20)を、GeneArt(R)(Life Technologies)により合成した。
【0126】
ヒトCLEC4Aトランスジェニックマウスの作製には、マウスMHCクラスII発現細胞においてCLEC4A導入遺伝子の発現を誘導する目的で、マウスインバリアント鎖遺伝子のプロモーター領域及びエンハンサー領域を含有するpDOI-6ベクター(van Santen H., et al., J. Immunol. Methods, (2000) 245: 133-137)を用いた。
【0127】
上記合成cDNAを制限酵素ClaIによる処理後、pDOI-6ベクターのマルチクローニングサイト中のClaI部位に導入し、CLEC4A発現pDOI-6ベクターを作製した。CLEC4A発現pDOI-6ベクターを制限酵素XhoI及びPvuIで処理して直鎖化し、精製した。直鎖化CLEC4A発現pDOI-6ベクターをマウスC57BL/6系統(CLEA Japan, Inc.)の受精卵前核へ顕微注入した後、その受精卵を偽妊娠マウスの卵管に移植した。妊娠・出産を経て得た産仔から、離乳後、尻尾を採取し、ゲノムDNAを抽出した。得られたゲノムDNAを用いたジェノタイピングPCR解析を行い、CLEC4Aが導入されたファウンダーマウス(F0)を同定した。さらに、ファウンダーマウス(F0)とC57BL/6マウスとの交配により、F1マウスを作出し、ジェノタイピングPCR解析によりヒトCLEC4Aトランスジェニックマウスを樹立した。実施した遺伝子組換え実験及び動物実験は所属機関の承認済みであった。
【0128】
2)ヒトCLEC4Aトランスジェニックマウスの免疫細胞におけるCLEC4A発現
野生型マウス(WT; C57BL/6)及び上記1)で樹立したCLEC4A発現トランスジェニックマウス(CLEC4A Tg)より取得した脾臓細胞から赤血球溶解バッファー(Red Blood Cell Lysing Buffer Hybri-MaxTM; Sigma-Aldrich)(非特許文献4)を用いて脾臓単核球を調製した。脾臓単核球中のCD3+ T細胞、CD19+ B細胞、CD11b+マクロファージ、CD11c+樹状細胞、及びNK1.1+ NK細胞におけるCLEC4Aの発現を、上述のフローサイトメトリー法により解析した。図13Aに各細胞表面分子(CD3、CD19、CD11b、CD11c、及びNK1.1)発現陽性細胞におけるCLEC4Aの発現をヒストグラムで示す。数値は平均蛍光強度を示す。
【0129】
野生型マウス(WT)の脾臓単核球では、CLEC4Aの発現は認められなかった。一方、CLEC4A発現トランスジェニックマウス(CLEC4A Tg)の脾臓単核球ではCLEC4Aの発現が認められ、特にCD11c+樹状細胞は他の免疫細胞と比較してもより高いCLEC4A発現レベルを示した(図13A)。
【0130】
さらに、野生型マウス(WT; C57BL/6)及びCLEC4A発現トランスジェニックマウス(CLEC4A Tg)由来の脾臓単核球中の脾臓樹状細胞亜集団(CD11c+CD8α+cDC1細胞、CD11c+CD4+cDC2細胞、及びCD11c+SiglecH+pDC細胞)におけるCLEC4Aの発現を、上述のフローサイトメトリー法により解析した。図13Bに各脾臓樹状細胞亜集団におけるCLEC4Aの発現をヒストグラムで示す。数値は平均蛍光強度を示す。
【0131】
野生型マウス(WT)の脾臓樹状細胞亜集団のいずれにおいても、CLEC4Aの発現は認められなかった。一方、CLEC4A発現トランスジェニックマウス(CLEC4A Tg)の脾臓樹状細胞亜集団ではCLEC4Aの発現が認められ、CD11c+CD8α+cDC1細胞、CD11c+SiglecH+pDC細胞、CD11c+CD4+cDC2細胞の順に高いCLEC4A発現レベルを示した(図13B)。
【0132】
作製したヒトCLEC4Aトランスジェニックマウスは、免疫細胞においてヒトCLEC4Aを発現することが確認された。
【0133】
[実施例7]
1)CLEC4A機能阻害抗体による担がんマウスのがん進展抑制効果
野生型マウス(WT; C57BL/6)及び実施例6で樹立したCLEC4A発現トランスジェニックマウス(CLEC4A Tg)の背部に、卵白アルブミン(OVA)を発現する組換え悪性黒色腫細胞株(B16-OVAメラノーマ; Brown DM, et al., Immunology. (2001) 102:486-497)を皮下移植(1x105細胞/1匹)することにより、担がんマウスを作製した。
【0134】
担がんCLEC4A発現トランスジェニックマウスの腫瘍体積が約100m3に達した後(がん細胞移植の6日後)、対照マウスIgG抗体(cont. Ig(Sigma-Aldrich); 100μg/1匹)又はCLEC4A機能阻害抗体(抗体#1~#4; 100μg/1匹)を3日間隔で計6回、腹腔内投与した。がんの進展は、担がんマウスの腫瘍体積をがん細胞移植の22日後まで毎日、デジタルキャリパー(Digimatic Caliper, Mitutoyo)を用いて測定し、それを指標として評価した。
【0135】
また、免疫関連有害事象の指標として、担がんマウスの体重変化、飲水摂餌不良の有無、及び外見上変化(不動化、立毛等)を、がん移植の22日後まで観察した。
【0136】
図14Aに、がん細胞移植の13日後の腫瘍の写真を示す。図14B及びCに、がん細胞移植の13日後(B)及び22日後(C)の腫瘍体積を示す。図15にがん細胞移植後22日間の腫瘍体積の経時的変化を示す。
【0137】
担がんCLEC4A発現トランスジェニックマウスにおいて、CLEC4A機能阻害抗体(抗体#1~#4)の投与は、対照抗体(cont. Ig)の投与と比較して、がん進展を顕著に抑制し、がんに対する顕著な治療効果が認められた(図14及び15)。
【0138】
さらにCLEC4A機能阻害抗体投与群では、対照群と比較して、体重減少は認められず(図16)、飲水摂餌不良や外見上変化(不動化、立毛等)も認められなかった。すなわち、CLEC4A機能阻害抗体は免疫関連有害事象(irAEs)をもたらさないことが示された。
【0139】
2)CLEC4A機能阻害抗体による腫瘍浸潤T細胞集積促進効果
上記1)と同様にして担がんマウスを作製し、腫瘍体積が約100m3に達した後、対照マウスIgG抗体(cont. Ig; 100μg/1匹)又はCLEC4A機能阻害抗体(抗体#1~#4; 100μg/1匹)を3日間隔で計6回、静脈内投与した。がん細胞移植の22日後に、がん組織を採取した。がん組織中の腫瘍浸潤CD4+ T細胞と腫瘍浸潤CD8+ T細胞の集積を、上述のフローサイトメトリー法により解析した。
【0140】
フローサイトメトリー解析の結果を図17に示す。CLEC4A機能阻害抗体投与群では、対照抗体投与群と比較して、がん組織中に腫瘍浸潤CD4+ T細胞及び腫瘍浸潤CD8+ T細胞の著しい集積が認められた。CLEC4A機能阻害抗体が、がん組織中への腫瘍浸潤T細胞集積促進効果をもたらすことが示された。
【0141】
実施例7で示された結果は、実施例1~6の結果と併せて考慮すると、CLEC4A機能阻害抗体#1~#4がCLEC4Aの細胞外領域に存在するC型レクチン様ドメイン内のペプチド配列と結合することにより、CRDとN型修飾糖鎖との会合を介する自己分子結合に基づくITIM依存性抑制性シグナル経路を阻害し、樹状細胞の機能を増強すること、特にCLEC4A発現樹状細胞の抗原提示機能の増強によりがん抗原特異的細胞傷害性T細胞(CTL)の誘導を増幅し、がん進展を抑制することを示している。
【0142】
さらに、CLEC4A機能阻害抗体#1~#3はがん進展抑制効果が特に高かったことから、それらの抗体が結合する、ヒトCLEC4Aタンパク質のF113~H192の領域(配列番号21)への抗体結合はより高い抗腫瘍活性をもたらすことが示された。
【0143】
また抗体#1~#4は、免疫関連有害事象(irAEs)の発生をもたらさないことから、既存のCTLA-4/PD-1に対する免疫チェックポイント阻害剤と比較して、安全性がより高いと考えられた。
【0144】
CLEC4Aはがん免疫(自己免疫)応答を制御する「免疫チェックポイント分子」であり、免疫チェックポイント阻害作用を有する抗体#1~#4は、免疫チェックポイント阻害剤としてのがん免疫治療法への応用に有望である。CLEC4A機能阻害抗体#1~#4は、CTLA-4/PD-1系に対する既存の免疫チェックポイント阻害剤とは異なる作用機序により免疫チェックポイント阻害を引き起こすことから、既存の免疫チェックポイント阻害剤による不応答性や耐性獲得を示すがん種に対しても、有効な抗腫瘍効果を期待できる。
【0145】
[実施例8]
1)担がんマウスにおけるCLEC4A機能阻害抗体及び抗PD-1中和抗体のがん進展抑制効果
野生型マウス(WT; C57BL/6)及び実施例6で樹立したCLEC4A発現トランスジェニックマウス(CLEC4A Tg)の背部に、卵白アルブミン(OVA)を発現する組換え悪性黒色腫細胞株(B16-OVAメラノーマ; Brown DM, et al., Immunology. (2001) 102:486-497)を皮下移植(1x105細胞/1匹)することにより、担がんマウス(担がんCLEC4A発現トランスジェニックマウス)を作製した。
【0146】
担がんCLEC4A発現トランスジェニックマウスの腫瘍体積が約100m3に達した後(がん細胞移植の8日後)、(i)対照マウスIgG抗体(cont. Ig(Sigma-Aldrich); 100μg/1匹)、(ii)CLEC4A機能阻害抗体(抗体#1; 100μg/1匹)、(iii)抗PD-1中和抗体(クローン29F.1A12(Biolegend); 200μg/1匹)、又は(iv)CLEC4A機能阻害抗体(抗体#1; 100μg/1匹)と抗PD-1中和抗体(クローン29F.1A12(Biolegend); 200μg/1匹)の組み合わせ、を3日間隔で計5回、腹腔内投与した。対照として、担がんマウスに何も投与しない未処理群も用意した。がんの進展は、担がんマウスの腫瘍体積をがん細胞移植の21日後まで毎日、デジタルキャリパー(Digimatic Caliper, Mitutoyo)を用いて測定し、それを指標として評価した。
【0147】
がん細胞移植の21日後、がん進展評価を行った後に担がんマウスを安楽死させ、担がんマウスから皮膚組織、肺組織、肝臓組織、及び小腸組織を採取し、4%パラホルムアルデヒド-リン酸緩衝食塩水で固定した後、パラフィンに包埋した。さらに、それらのパラフィン包埋組織を薄切後、組織切片(5μm厚)を作製し、ヘマトキシリン・エオジン染色を行った。
【0148】
図18に組織染色の結果を示す。担がんCLEC4A発現トランスジェニックマウスにおいて、未処理や対照マウスIgG抗体(cont. Ig)の投与と比較しても、CLEC4A機能阻害抗体(抗体#1)の投与は、皮膚、肺、肝臓、及び小腸において組織傷害を引き起こさなかった(図18)。CLEC4A機能阻害抗体は、実施例7で示したように体重減少等の免疫関連有害事象(irAEs)をもたらさないことに加えて、組織傷害を指標とする免疫関連有害事象(irAEs)の発生ももたらさないことから、高い安全性に資することが示された。
【0149】
図19に、がん進展評価の結果を示す。図19Aはがん細胞移植後21日間の担がんマウス腫瘍体積の経時変化を示す。図19Bはがん細胞移植の21日後の担がんマウスにおける腫瘍体積を示し、図19Cはがん細胞移植の21日後の担がんマウス及び摘出した腫瘍の写真を示す。未処理や対照マウスIgG抗体(cont. Ig)の投与と比較して、CLEC4A機能阻害抗体(抗体#1)の単独投与は、顕著ながん進展抑制効果を示し、また、抗PD-1中和抗体(クローン29F.1A12)の単独投与と比較してもさらに高いがん進展抑制効果を示した(図19A~C)。さらに、CLEC4A機能阻害抗体(抗体#1)と抗PD-1中和抗体(クローン29F.1A12)との併用投与は、CLEC4A機能阻害抗体(抗体#1)の単独投与と比較しても、より強力ながん進展抑制効果を示した(図19A~C)。CLEC4A機能阻害抗体と、T細胞に発現する免疫チェックポイント分子PD-1に対する抗PD-1中和抗体の併用は、より強力ながん治療効果を有することが示された。この結果から、CLEC4A機能阻害抗体と、T細胞に発現する免疫チェックポイント分子に対する阻害剤の併用は、相乗的ながん治療効果をもたらすことが示された。
【0150】
2)担がんマウスにおけるCLEC4A機能阻害抗体及び抗PD-1中和抗体のがん組織浸潤免疫細胞制御効果とがん微小環境制御効果
実施例6で樹立したCLEC4A発現トランスジェニックマウス(CLEC4A Tg)の背部に、卵白アルブミン(OVA)を発現する組換え悪性黒色腫細胞株(B16-OVAメラノーマ; Brown DM, et al., Immunology. (2001) 102:486-497)を皮下移植(1x105細胞/1匹)することにより、担がんマウス(担がんCLEC4A発現トランスジェニックマウス)を作製した。
【0151】
担がんCLEC4A発現トランスジェニックマウスの腫瘍体積が約100m3に達した後(がん細胞移植の8日後)、(i)対照マウスIgG抗体(cont. Ig(Sigma-Aldrich); 100μg/1匹)、(ii)CLEC4A機能阻害抗体(抗体#1; 100μg/1匹)、(iii)抗PD-1中和抗体(クローン29F.1A12(Biolegend); 200μg/1匹)、又は(iv)CLEC4A機能阻害抗体(抗体#1; 100μg/1匹)と抗PD-1中和抗体(クローン29F.1A12(Biolegend); 200μg/1匹)の組み合わせ、を3日間隔で計5回、腹腔内投与した。対照として、担がんマウスに何も投与しない未処理群も用意した。
【0152】
上記1)でがん進展評価試験を行った担がんCLEC4A発現トランスジェニックマウスから、がん細胞移植の21日後に摘出した腫瘍より、がん組織を採取し組織中の細胞を取得した。
【0153】
がん組織中の免疫細胞動態を調べるため、取得した細胞についてがん浸潤白血球中の各免疫細胞の割合をフローサイトメトリー法により解析した。図20Aに、各細胞表面分子の発現をドットプロットで示す。
【0154】
担がんCLEC4A発現トランスジェニックマウスにおいて、未処理やコントロールマウスIgGの投与と比較して、CLEC4A機能阻害抗体(抗体#1)の単独投与や抗PD-1中和抗体(クローン29F.1A12)の単独投与では、がん組織におけるGr1-1+CD11b+F4/80+骨髄由来抑制細胞(MDSCs)の集積抑制がもたらされることが示された(図20A)。また、CLEC4A機能阻害抗体(抗体#1)の単独投与や抗PD-1中和抗体(クローン29F.1A12)の単独投与では、CD11c+SiglecH-cDCs(通常型樹状細胞)、CD11clowSiglecH+pDCs(形質細胞様樹状細胞)、NK1.1+NK細胞、がん組織(腫瘍)浸潤CD4+TILs/CD8+TILsのがん組織における集積亢進が認められた(図20A)。
【0155】
さらに、がん組織における免疫抑制分子発現状態を調べるため、がん細胞移植の21日後のがん組織における各免疫抑制分子の発現を定量的PCR(RT-PCR)法により解析した。がん組織から取得した細胞より、RNeasy plus micro kit(Qiagen)を用いて全RNAを調製した後、全RNAを鋳型としてoligo(dT)20プライマーを用いてPrimeScript RT reagent kit(Takara)を用いてcDNAを合成した。定量的PCRは、各免疫抑制分子に特異的な以下のプライマーセットとSYBR(R) Premix Ex Taq II(Takara)を用いて、Thermal Cycler Dice(Takara)により行った。定量的PCRにより得られた各免疫抑制分子の発現レベルは、参照遺伝子グリセルアルデヒドリン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子(gapdh)の発現レベルに対して標準化した。
【0156】
a) IL-10遺伝子特異的プライマーセット(il10):
5'-TGCAGCAGCTCAGAGGGTT-3'(配列番号33)
5'-TGGCCACAGTTTTCAGGGAT-3'(配列番号34)
b) TGF-β遺伝子特異的プライマーセット(tgfb):
5'-ACCATGCCAACTTCTGTCTG-3'(配列番号35)
5'-CGGGTTGTGTTGGTTGTAGA-3'(配列番号36)
c) IDO遺伝子特異的プライマーセット(ido):
5'-TCGGAAGAGCCCTCAAATGTGGAA-3'(配列番号37)
5'-TGGAGCTTGCTACACTAAGGCCAA-3'(配列番号38)
d) アルギナーゼ遺伝子特異的プライマーセット(ariginase):
5'-AAGACAGCAGAGGAGGTGAAG-3'(配列番号39)
5'-TAGTCAGTCCCTGGCTTATGG-3'(配列番号40)
e) iNOS遺伝子特異的プライマーセット(inos):
5'-AACAATTCCTGGCGTTACCTT-3'(配列番号41)
5'-TGTATTCCGTCTCCTTGGTTC-3'(配列番号42)
f) COX-2遺伝子特異的プライマーセット(cox2):
5'-TGGGTGTGAAGGGAAATAAGG-3'(配列番号43)
5'-CATCATATTTGAGCCTTGGGG-3'(配列番号44)
g) mPGES遺伝子特異的プライマーセット(mpges):
5'-AGGATGCGCTGAAACGTGGAG-3'(配列番号45)
5'-CCGAGGAAGAGGAAAGGATAG-3'(配列番号46)
h) GAPDH遺伝子特異的プライマーセット(gapdh):
5'-AAATTCAACGGCACAGTCAAG-3'(配列番号47)
5'-TGGTGGTGAAGACACCAGTAG-3'(配列番号48)
【0157】
解析結果を図20Bに示す。担がんCLEC4A発現トランスジェニックマウスにおいて、未処理や対照マウスIgGの投与と比較して、CLEC4A機能阻害抗体(抗体#1)の単独投与は、がん組織において、いずれも免疫抑制分子であるIL(インターロイキン)-10、IDO(インドールアミン2,3-ジオキシゲナーゼ)、アルギナーゼ、及びmPGES(膜関連プロスタグランジンE2シンターゼ)の発現を抑制した。また抗PD-1中和抗体(クローン29F.1A12)の単独投与は、未処理や対照マウスIgGの投与と比較して、いずれも免疫抑制分子であるIL-10、IDO、アルギナーゼ、COX(シクロオキシゲナーゼ)-2、及びmPGESの発現を抑制した。そして、CLEC4A機能阻害抗体(抗体#1)と抗PD-1中和抗体(クローン29F.1A12)との併用投与は、TGF(トランスフォーミング増殖因子)-βとiNOS(誘導型一酸化窒素合成酵素)の発現を抑制し、IL-10、IDO、アルギナーゼ、COX-2、及びmPGESの発現に対し、それぞれの単独投与と比較してもより強力な抑制効果を示した。
【0158】
以上の結果から、CLEC4A機能阻害抗体はがん組織における免疫抑制分子の発現を抑制すること、さらに、CLEC4A機能阻害抗体とT細胞に発現する免疫チェックポイント分子PD-1に対する阻害剤である抗PD-1中和抗体の併用は、より強力に免疫抑制分子の発現を抑制することが示された。
【0159】
CLEC4A機能阻害抗体や抗PD-1中和抗体の投与は、がん微小環境制御効果をもたらし、特に、がん組織における免疫抑制分子の発現を抑制し、がん微小環境において免疫寛容原性を抑制してがん細胞(腫瘍)の免疫原性を誘導することにより、がん微小環境を改善し、がん免疫応答を増強すると考えられた。さらに、CLEC4A機能阻害抗体とT細胞に発現する免疫チェックポイント分子に対する阻害剤などの免疫チェックポイント阻害剤の併用は、異なる免疫細胞系の免疫チェックポイント分子の機能を阻害し、がん微小環境を免疫寛容原性から免疫原性により強力に改善(誘導)することにより、相乗的ながん治療効果をもたらすことができるといえる。
【産業上の利用可能性】
【0160】
本発明は、免疫チェックポイント分子であるCLEC4Aの機能阻害を介して免疫チェックポイント阻害を効果的に誘導し、抗腫瘍免疫応答を活性化することができ、かつ安全性も高い、新たながん治療手段として用いることができる。
【0161】
本明細書で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願はそのまま引用により本明細書に組み入れられるものとする。
【配列表フリーテキスト】
【0162】
配列番号1:全長CLEC4Aコード配列
配列番号2:全長CLEC4Aタンパク質
配列番号3:ITIM(I5-V10)欠損変異体コード配列
配列番号4:ITIM(I5-V10)欠損変異体
配列番号5:細胞外領域(F69-L237)欠損変異体コード配列
配列番号6:細胞外領域(F69-L237)欠損変異体
配列番号7:CRD-EPS(E195-S197)欠損変異体コード配列
配列番号8:CRD-EPS(E195-S197)欠損変異体
配列番号9:N185Q変異体コード配列
配列番号10:N185Q変異体
配列番号11:BamHI及びXhoI部位付加配列
配列番号12:CLEC4A細胞外領域(F69-L237)
配列番号13:CLEC4A ITIM配列(I5-V10)
配列番号14:OVA257-264ペプチド
配列番号15:抗体#1結合配列
配列番号16:抗体#2及び#3結合配列
配列番号17:抗体#2結合配列
配列番号18:抗体#3結合配列
配列番号19:抗体#4結合配列
配列番号20:ClaI部位付加断片
配列番号21:CLEC4A F113-H192
配列番号22~32:合成ペプチド
配列番号33~48:プライマー
図1
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【配列表】
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