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  • 特開-皮膚外用剤用近赤外線遮断剤 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024019503
(43)【公開日】2024-02-09
(54)【発明の名称】皮膚外用剤用近赤外線遮断剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/24 20060101AFI20240202BHJP
   A61Q 17/04 20060101ALI20240202BHJP
   A61Q 1/02 20060101ALI20240202BHJP
   A61Q 1/12 20060101ALI20240202BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20240202BHJP
【FI】
A61K8/24
A61Q17/04
A61Q1/02
A61Q1/12
A61Q19/00
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023208981
(22)【出願日】2023-12-12
(62)【分割の表示】P 2019176978の分割
【原出願日】2019-09-27
(71)【出願人】
【識別番号】592215011
【氏名又は名称】東洋ビューティ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(72)【発明者】
【氏名】山本 千晶
(72)【発明者】
【氏名】久間 紗苗
(72)【発明者】
【氏名】久間 將義
(72)【発明者】
【氏名】吉尾 公男
(57)【要約】
【課題】生体に対する安全性が充分にあり、かつ近赤外線の遮蔽作用も均一となるように分散し、斑のない状態で皮膚表面に容易に被覆できるようにして、皮膚を近赤外線に対して効率よく防御できる皮膚外用剤用近赤外線遮断剤とすることである。
【解決手段】ヒドロキシアパタイトからなる皮膚外用剤用近赤外線遮断剤とし、また前記ヒドロキシアパタイトが板状または層状の粒子状結晶構造のもの、または平均粒径5~20μmの粒子状結晶構造のものからなる皮膚外用剤用近赤外線遮断剤とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒドロキシアパタイトを近赤外線遮断性の有効成分として含有する近赤外線遮断剤。
【請求項2】
上記ヒドロキシアパタイトイトが、板状または層状の粒子状結晶構造のヒドロキシアパタイトである請求項1に記載の近赤外線遮断剤。
【請求項3】
上記ヒドロキシアパタイトが、平均粒径5~20μmの粒子状結晶構造のヒドロキシアパタイトイトである請求項2に記載の近赤外線遮断剤。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載の近赤外線遮断剤を有効成分として含有する近赤外線遮断性皮膚外用剤。
【請求項5】
上記有効成分であるヒドロキシアパタイトの皮膚外用剤中の含有量が、0.1質量%~20質量%である請求項4に記載の近赤外線遮断性皮膚外用剤。
【請求項6】
紫外線散乱剤もしくは紫外線吸収剤または両方を添加成分として含有する請求項4または5に記載の近赤外線遮断性皮膚外用剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、近赤外線防御のために用いる近赤外線遮断剤及び近赤外線遮断性皮膚外用剤に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽光線のうち、波長の長い近赤外線(波長域約800~2500nm)は、太陽光エネルギーの約半分を占めており、皮膚の透過性が高く、生体の窓とも呼ばれる。
【0003】
このような近赤外線は、皮膚の深部まで透過し、皮膚組織にあるヘモグロビンや水に吸収されることが知られており、この性質を利用して、血液循環をよくするための医療用赤外線照射装置や、医療用具、治療機器、静脈認証センサー、光干渉断層画像診断装置、家庭用ヒーター、果物の選別機器など様々な分野で汎用されている。
【0004】
なお、太陽光線のうち、紫外線は、日焼けやシミ、シワの形成、皮膚がんなどの皮膚障害を引き起こすことが知られているが、紫外線のエネルギーは太陽光エネルギー中に僅か約6%含まれているに過ぎない。
【0005】
それに対して近赤外線は、太陽光エネルギーの約半分を占め、しかも皮膚や眼などの深部にまで到達するため、近赤外線の生体への様々な悪影響が懸念される波長光である。
【0006】
例えば、近赤外線の65%以上は真皮まで透過し、真皮内で吸収されて熱を産生するが、真皮線維芽細胞中のミトコンドリアが近赤外線を吸収することで活性酸素種を産生し、それに伴ってコラーゲン分解酵素(MMP-1)の発現が上昇することがわかっている(非特
許文献1、非特許文献2)。
【0007】
また、近赤外線は、ヒト真皮のエラスチン線維構造の変化や炎症反応が促進すること(非特許文献3)、長時間暴露により、皮膚の紅斑や水疱、肥厚など皮膚障害を発生させることなど、近赤外線による生体への悪影響が報告されている(非特許文献4)。
【0008】
このように生体への悪影響が懸念される近赤外線が、皮膚細胞に障害を与えないようにするために有効な阻害剤の開発が望まれている。
【0009】
化粧料に使用される近赤外線遮蔽物質としては、酸化亜鉛および酸化チタン、酸化セリウム、タルク、酸化アルミニウムなどの無機紛体の複合物質が知られている(特許文献1、特許文献2、特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2006‐151916号公報
【特許文献2】特表2013‐511515号公報
【特許文献3】特開2015‐86157号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Journal of Investigative Dermatology Symposium Proceedings、2009年、14巻1号、44-49頁
【非特許文献2】Journal of Investigative Dermatology、2008年、128巻、2491-2497頁
【非特許文献3】Journal of Investigative Dermatology Symposium Proceedings、2009年、14巻1号、15-19頁
【非特許文献4】Photodermatol Photoimmunol Photomed、2003年、19巻、228-234頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかし、上記した従来の無機粉体からなる近赤外線遮蔽物質は、皮膚に形成されている細かな傷口に触れるとアレルギーを起こす場合もあり、生体に対する安全性及び生体親和性が充分にあるものとは言えない。
【0013】
また、従来の無機粉体からなる近赤外線遮蔽物質または近赤外線遮断剤は、化粧料等の基材に安定して均一に分散させることや、分散しても皮膚表面にむらなく塗布することが容易ではなく、そのために近赤外線の遮断効果も添加効率よく安定して発揮させることは技術的に難しかった。
【0014】
近赤外線遮断性が知られていなかったヒドロキシアパタイトは、生体親和性があることは判明していたため、人工骨や歯科用セメントなどに用いられ、また化粧料の基材として利用できる可能性はあったが、近赤外線遮断性という特定用途の効率よい利用はなされていなかった。
【0015】
そこで、この発明が解決しようとする課題は、上記した従来のヒドロキシアパタイトの新しい用途として、従来の皮膚外用の近赤外線遮断物質の欠点を改善した近赤外線遮断剤とし、これを用いて生体に対する安全性が充分にあり、かつ近赤外線の遮蔽作用も均一となるように分散し、斑のない状態で皮膚表面に容易に被覆できるようにして、皮膚を近赤外線に対して効率よく防御できる近赤外線遮断性皮膚外用剤とすることである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記の課題を解決するため、この発明においては、ヒドロキシアパタイトを近赤外線遮断性の有効成分として含有する近赤外線遮断剤としたのである。
【0017】
近赤外線遮断剤は、生体親和性に優れたヒドロキシアパタイトを所要の近赤外線遮断作用が得られるように所要濃度に含有するものであり、例えばヒドロキシアパタイト100質量%からなるものであってもよい。
【0018】
上記ヒドロキシアパタイトイトは、板状または層状の粒子状結晶構造のヒドロキシアパタイトであるものを採用すれば、近赤外線遮断剤の生体親和性を損なわずに水、乳液、ジェルなどの基材に分散させた状態で、皮膚表面にむらなく塗布することが容易にできる。
【0019】
上記ヒドロキシアパタイトが、平均粒径5~20μmの粒子状結晶構造のものは、近赤外線遮断性皮膚外用剤への配合割合を、例えば10~20質量%またはそれ以上の高濃度に高めても皮膚表面にむらなく塗布することができる。
【0020】
このようなヒドロキシアパタイトを近赤外線遮断剤の有効成分として含有させることにより、生体に対する安全性が充分にあり、かつ近赤外線の遮蔽作用も均一となるように分散し、斑のない状態で皮膚表面に容易に被覆できる近赤外線遮断性皮膚外用剤になる。
【0021】
上記近赤外線の遮蔽作用が、より均一に奏されるように、有効成分であるヒドロキシアパタイトの皮膚外用剤中の含有量が、0.1質量%~20質量%であることが好ましい。
【0022】
また、ヒドロキシアパタイトは、他の無機系または有機系の近赤外線遮断剤の作用を阻害するものではないので、近赤外線遮断作用に加えて、紫外線散乱剤もしくは紫外線吸収剤または両方を添加成分として含有する近赤外線遮断性皮膚外用剤とすることもできる。
【発明の効果】
【0023】
この発明は、ヒドロキシアパタイトを近赤外線遮断性の有効成分として含有する近赤外線遮断剤を用いて、近赤外線遮断性皮膚外用剤を構成したので、生体に対する安全性が充分にあり、かつ近赤外線の遮蔽作用も均一となるように分散し、斑のない状態で皮膚表面に容易に被覆できるようにして、皮膚を近赤外線に対して効率よく防御できる近赤外線遮断性皮膚外用剤とすることができる利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】近赤外線遮断性皮膚外用剤の実施例1-3と比較例1の近赤外線検出強度と検出される波長との関係を示す図表
【発明を実施するための形態】
【0025】
近赤外線遮断剤及び近赤外線遮蔽性皮膚外用剤の発明の実施形態について、以下に具体的に例を挙げて説明する。
【0026】
この発明の近赤外線遮断剤は、ヒドロキシアパタイトを近赤外線遮断性の有効成分として含有する。近赤外線遮断剤は、用途に合わせてヒドロキシアパタイト濃度を調整したものであってよく、所要の近赤外線遮断作用が得られるように所要濃度に含有するものであり、例えばヒドロキシアパタイト含有量を0.1~100質量%に調整することもできる。
【0027】
この発明に用いるヒドロキシアパタイトは、HAPとも略記され、化学式Ca10(PO6(OH)2と示される物質であって、天然のものとしては燐灰石のうち、1価の陰イオン
として水酸基を主に含む水酸燐灰石がある。また、ヒドロキシアパタイトは、結晶中の一部のイオンを置換しても結晶構造を保てる性質を有しているので、それらを微妙に調整して六角柱状、板状または層状の結晶構造に調製できるものであることは周知である。
【0028】
この発明では、ヒドロキシアパタイトの近赤外線遮断性を利用できるようにすることを特徴としており、従来知られた近赤外線の反射作用すなわち、近赤外線を透過させずに反射させる作用のある酸化チタンや酸化亜鉛などの金属粒子に代えて、リン酸カルシウムの一種であるヒドロキシアパタイトを使用する。
【0029】
ヒドロキシアパタイトは、歯や骨の主成分であり、生体に安全な物質であるから整形外科や歯科など医療分野で広く用いられているだけでなく、化粧品や工業製品にも利用可能である。よって、上記近赤外線遮断剤を有効成分として含有する近赤外線遮断性皮膚外用剤を、皮膚に対して例えば塗布、噴霧、浸す等により施用すると、その生体親和性から、皮膚表面が上記皮膚外用剤によって緻密に覆われるため、皮膚の深部まで透過する近赤外線を効率よく遮断することができる。
【0030】
この発明の近赤外線遮断性皮膚外用剤における近赤外線の遮断性の有効成分であるヒドロキシアパタイトの含有量は、0.1質量%以上であり、実用上の理由から20質量%以下である。また、後述する実施例の評価からも明らかなように、含有量が0.5質量%またはそれ以上では遠赤外線遮断効率が急激に大きくなる傾向が認められることや有効成分の添加効率も考慮すれば、好ましいヒドロキシアパタイトの含有量は、0.5質量%以上、10質量%以下である。
【0031】
この発明の皮膚外用剤は、上記遮断成分を含有するものであれば、その他については特に限定されないが、紫外線散乱剤や紫外線吸収剤を含有してもよい。
【0032】
紫外線散乱剤や紫外線吸収剤を含有すると、近赤外線のみならず紫外線の悪影響も抑制し、皮膚の保護に特に好適な皮膚外用剤となり得るので好ましい。
紫外線散乱剤および紫外線吸収剤の種類は、化粧料等の皮膚外用剤の分野で使用されている周知のものを用いることができる。
【0033】
紫外線散乱剤の具体例としては、酸化亜鉛、酸化チタン等の無機系化合物が挙げられる。
また紫外線吸収剤としては、桂皮酸系化合物、ベンゾフェノン系化合物、安息香酸系化合物、サリチル酸系化合物、ジベンゾイルメタン系化合物、アントラニル酸系化合物、ウロカニン酸系化合物等が挙げられる。より具体的には、パラメトキシケイ皮酸-2-エチルヘキシル、パラメトキシケイ皮酸イソプロピル、パラメトキシハイドロケイ皮酸ジエタノ-ルアミン塩、ジパラメトキシケイ皮酸-モノ-2-エチルヘキサン酸グリセリル、メトキシケイ皮酸オクチル、ジイソプロピルケイ皮酸メチル等のケイ皮酸系化合物、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン-5-硫酸、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン-5-硫酸ナトリウム、2,4-ジヒドロキシベンゾフェノン、2,2’-ジヒドロキシ-4,4’-ジメトキシベンゾフェノン、2,2’-ジヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2,2’,4,4’-テトラヒドロキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-n-オクトキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン系紫外線吸収剤、パラアミノ安息香酸、パラアミノ安息香酸エチル、パラアミノ安息香酸ブチル、パラジメチルアミノ安息香酸2-エチルヘキシル、パラアミノ安息香酸グリセリル、パラジメチルアミノ安息香酸オクチル、パラアミノ安息香酸アミル等の安息香酸系化合物、サリチル酸2-エチルヘキシル、サリチル酸トリエタノ-ルアミン、サリチル酸ホモメンチル、サリチル酸ジプロピレングリコール、サリチル酸メチル、サリチル酸エチレングリコール、サリチル酸フェニル、サリチル酸アミル、サリチル酸ベンジル、サリチル酸イソプロピルベンジル、サリチル酸カリウム等のサリチル酸系化合物、4-tert-ブチル-4’-メトキシジベンゾイルメタン、4-イソプロピルジベンゾイルメタン、4-メトキシジベンゾイルメタン、4-tert-ブチル-4’-ヒドロキシジベンゾイルメタン等のジベンゾイルメタン系化合物、メンチル-O-アミノベンゾエ-ト、2-フェニル-ベンズイミダゾ-ル-5-硫酸、2-フェニル-5-メチルベンゾキサゾ-ル、3-(4-メチルベンジリデン)カンフル、2-エチルヘキシル-2-シアノ-3,3-ジフェニルアクリレ-ト、2-エチル-2-シアノ-3,3’-ジフェニルアクリレ-ト、2-(2’-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)ベンゾトリアゾ-ル、アントラニル酸メンチル等のアントラニル酸系化合物、ウロカニン酸エチル等のウロカニン酸系化合物等が挙げられる。
【0034】
上記した紫外線散乱剤または紫外線吸収剤の含有量は、通常0.001質量%以上、好ましくは0.01質量%以上であり、また上限としては10質量%以下、好ましくは5質量%以下である。紫外線吸収剤の含有量が上記範囲内であると、優れた紫外線吸収能を安定的に発揮できる。
【0035】
また、この発明の近赤外線遮断性皮膚外用剤の剤型としては、例えば液状、乳液状、クリーム状、固形状、ペースト状、ゲル状、ローション状、粉末状等様々な剤型形態を限定することなく採用でき、医薬品、医薬部外品、化粧品等の外用剤として用いることが好ましい。そのような化粧品の例としては、化粧水、乳液、クリーム、パック、サンスクリーン剤、コンディショナーやファンデーション、白粉、アイシャドウ、チーク、口紅などのメイクアップ化粧料など、使用目的に応じて様々な化粧料が挙げられる。
【0036】
また、この発明の近赤外線遮蔽性皮膚外用剤には、化粧品、医薬部外品、医薬品等に通常に用いられることが知られている各種成分を必要に応じ適宜組合せて用いることができる。そのような成分としては、例えばチョーク、タルク、フラー土、カオリン、デンプン、ゴム、コロイドシリカナトリウムポリアクリレート等の粉体があり、また鉱油、植物油、シリコーン油等の油又は油状物質があり、またソルビタントリオレエート、ソルビタントリステアレート、グリセロールモノオレエート、高分子シリコーン界面活性剤等の乳化剤があり、またパラ-ヒドロキシベンゾエートエステル等の防腐剤があり、またブチルヒドロキシトルエン等の酸化防止剤があり、グリセロール、ソルビトール、2-ピロリドン-5-カルボキシレート、ジブチルフタレート、ゼラチン、ポリエチレングリコール等の湿潤剤があり、またトリエタノールアミン又は水酸化ナトリウムのような塩基を伴う乳酸等の緩衝剤があり、また合成、動物性又は植物性セラミド等の皮膚保護剤があり、また蜜ろう、オゾケライトワックス、パラフィンワックス等のワックス類があり、その他にも増粘剤、活性増強剤、抗菌剤、着色料、香料等が挙げられる。
【0037】
この発明の近赤外線遮蔽性皮膚外用剤の製造方法は、特に限定されず、皮膚外用剤の剤型等に応じて周知の製造方法を適宜使用することができる。
以下に実施例および比較例を挙げて本発明の皮膚外用剤を具体的に例示して説明する。なお、実施例における処方等の数値は、特記しない限り、質量基準の数値を意味するものとする。
【実施例0038】
[実施例1~6、比較例1~7]
以下の表1及び表2の処方に従って、この発明の近赤外線遮断性皮膚外用剤のクリームを混合等して定法により作製し、クリーム製剤を得て、以下の評価試験1,2を行なった。実施例1~6に用いた近赤外線遮断剤は、いずれもヒドロキシアパタイト100質量%からなる近赤外線遮断剤である。
【0039】
【表1】
【0040】
【表2】
【0041】
<評価試験1>
実施例及び比較例の近赤外線遮断性皮膚外用剤(組成物)を評価するにあたり、スライドガラスに親水性の透明シートを貼りつけ、その上に一定量を薄膜状に塗り広げたものを使用して透過光量を調べた。この試料をターミナル部に置き、受光部は、近赤外光波長のうち大気中水分により吸収反射されずに地上に照射され皮膚に影響を及ぼす可能性のある900nm~1700nmの範囲の波長で測定し、各波長における試料を介した際の近赤外線検出強度のグラフ(スペクトル)を得て、実施例1~3と比較例1の結果を図1に示した。
その結果、実施例1~3において、比較例1では確認されなかった近赤外線波長領域における検出強度の減少がヒドロキシアパタイトの濃度依存的に確認された。なお、受光部の測定の上記範囲以外も含む800~2500nmの波長域については、得られた検出強度(μW/cm2/nm)が950nm以下または1500nm以上では0に近づく傾向からみて当然に近赤外線は検出されないことが推定された。
また実施例1~6ならびに比較例1~7において、各ブランク(近赤外線遮断性皮膚外
用剤を塗布しない試料)の強度を差し引いてから積算した値を用い、更に、その近赤外線
強度の積算値とブランクの近赤外線強度の積算値から近赤外線遮断率(%)を求め、その結果を表1、2中に併記した。
【0042】
<評価試験2>
軽度の敏感肌皮膚症状を有する20~50歳の女性10名を対象として、表1、2の実施例及び比較例の皮膚外用剤を1日2回(朝、夕)、2週間において洗顔後に顔面に適量を塗布した。使用後の皮膚所見ならびに感覚刺激による刺激性(皮膚に対する親和性)を、以下の基準で評価し、その結果を表1、2中に併記した。
◎:刺激性なし(0~20%未満)
〇:ごくわずかに刺激性あり(20~40%未満)
△:わずかに刺激性を示した(40~60%未満)
×:刺激性を示した(60%以上)
【0043】
以上の結果からも明らかなように、実施例1~6では、一般的な光遮断成分である酸化チタンや酸化亜鉛よりも有意に高い近赤外線遮断効果、かつ高い安全性及び皮膚に対する
親和性が高いことが確認された。これにより従来の皮膚外用の無機系の近赤外線遮断剤の欠点を改善して、生体に対する安全性が充分にあり、かつ近赤外線の遮蔽作用も均一となるように分散しており添加効率も良好であった。また、近赤外線遮断剤の添加効率からみて、安定した効果が得られており、斑のない状態で皮膚表面に容易に被覆できるものであると確認できた。
【0044】
以下に、所定の近赤外線遮断成分を有効成分とする実施例として、化粧料の代表的な処方例を示す。各行右端の数値は配合割合(質量%)であり、処方例1,2では、全量が100質量%となるように残余量の精製水を加えた。
[処方例1](乳液)
ヒドロキシアパタイト 4.0
1,3-ブチレングリコール 10.0
カルボキシビニルポリマー 0.3
スクワラン 5.0
精製水素添加大豆リン脂質 0.5
セタノール 0.8
L-アルギニン 0.3
香料 適量
防腐剤 適量
精製水 残余量
【0045】
[処方例2](リキッドファンデーション)
ヒドロキシアパタイト 15.0
1,3-ブチレングリコール 10.0
酸化チタン 3.0
酸化亜鉛 3.0
メトキシケイヒ酸オクチル 6.0
ジエチルアミノヒドロキシベンゾイル安息香酸ヘキシル 1.0
カルボキシビニルポリマー 0.3
ステアリン酸 1.0
ベヘニルアルコール 2.0
水添ポリイソブテン 3.0
ポリソルベート60 5.0
水酸化カリウム 0.2
香料 適量
防腐剤 適量
精製水 残余量
【0046】
[処方例3](パウダーファンデーション)
ヒドロキシアパタイト 20.0
疎水化処理タルク 31.5
酸化チタン 3.0
酸化亜鉛 3.0
疎水化処理ベンガラ 1.5
疎水化処理黄色酸化鉄 3.5
疎水化処理黒色酸化鉄 0.5
マイカ 10.0
球状シリカ 10.0
球状シリコーンエラストマー 5.0
ジメチコン 6.0
トリエチルヘキサノイン 6.0
図1
【手続補正書】
【提出日】2023-12-22
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒドロキシアパタイトからなる皮膚外用剤用近赤外線遮断剤。
【請求項2】
上記ヒドロキシアパタイトが、板状または層状の粒子状結晶構造のヒドロキシアパタイトである請求項1に記載の皮膚外用剤用近赤外線遮断剤。
【請求項3】
上記ヒドロキシアパタイトが、平均粒径5~20μmの粒子状結晶構造のヒドロキシアパタイトである請求項2に記載の皮膚外用剤用近赤外線遮断剤。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0018
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0018】
上記ヒドロキシアパタイトは、板状または層状の粒子状結晶構造のヒドロキシアパタイトであるものを採用すれば、近赤外線遮断剤の生体親和性を損なわずに水、乳液、ジェルなどの基材に分散させた状態で、皮膚表面にむらなく塗布することが容易にできる。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0023
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0023】
この発明は、ヒドロキシアパタイトからなる皮膚外用剤用近赤外線遮断剤を用いて、近赤外線遮断性皮膚外用剤を構成できるので、生体に対する安全性が充分にあり、かつ近赤外線の遮蔽作用も均一となるように分散し、斑のない状態で皮膚表面に容易に被覆できるようにして、皮膚を近赤外線に対して効率よく防御できる近赤外線遮断性皮膚外用剤とすることができる利点がある。
【手続補正5】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0026
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0026】
この発明の皮膚外用剤用近赤外線遮断剤は、ヒドロキシアパタイトを近赤外線遮断性の有効成分とし、ヒドロキシアパタイト含有量は100質量%である。
【手続補正6】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0030
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0030】
この発明の近赤外線遮断性皮膚外用剤における近赤外線の遮断性の有効成分であるヒドロキシアパタイトの含有量は、0.1質量%以上であり、実用上の理由から20質量%以下である。また、後述する実施例の評価からも明らかなように、含有量が0.5質量%またはそれ以上では赤外線遮断効率が急激に大きくなる傾向が認められることや有効成分の添加効率も考慮すれば、好ましいヒドロキシアパタイトの含有量は、0.5質量%以上、10質量%以下である。