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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024019535
(43)【公開日】2024-02-09
(54)【発明の名称】熱フィラメントCVD装置
(51)【国際特許分類】
   C23C 16/44 20060101AFI20240201BHJP
   C30B 29/04 20060101ALI20240201BHJP
   C23C 16/27 20060101ALI20240201BHJP
   C30B 25/02 20060101ALI20240201BHJP
   H01L 21/205 20060101ALI20240201BHJP
【FI】
C23C16/44 B
C30B29/04 G
C23C16/27
C30B25/02 Z
H01L21/205
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
【公開請求】
(21)【出願番号】P 2023210139
(22)【出願日】2023-12-13
(71)【出願人】
【識別番号】303034908
【氏名又は名称】村田 正義
(72)【発明者】
【氏名】村田正義
(57)【要約】
【課題】
ダイヤモンド合成に用いられる従来の熱フィラメントCVD装置は、熱電子発生源である熱フィラメントの表面積を広くとることが困難であり、該熱フィラメントの表面に原料ガスを効果的に接触させることが困難である。その結果、CHラジカル及び原子状水素Hを効果的に大量に発生させることが困難であり、成膜速度の向上が困難という問題がある。この問題を解決可能な熱フィラメントCVD装置を提供すること。
【解決手段】
熱フィラメントは、タンタル又はタンタルを含む合金で製作された断面形状が略長方形の複数の長尺薄板で形成され、前記複数の長尺薄板は、前記複数の長尺薄板の長手方向の辺が基板保持台の面に平行になるように配置され、原料ガスの供給手段は前記原料ガスを前記複数の長尺薄板の主面に傾斜する方向に噴出する原料ガス噴出孔を備えることを特徴とする熱フィラメントCVD装置。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも炭素含有ガスと水素を含む原料ガスを導入する原料ガスの導入手段と排気手段を備えた反応容器と、前記反応容器の内部に配置されて基板を保持する主面を有する基板保持台と、複数の熱フィラメントと前記複数の熱フィラメントのそれぞれの一方の端部を固定する第1の金属棒と前記複数の熱フィラメントのそれぞれの他方の端部を固定する第2の金属棒から成る熱フィラメント電極と、前記第1の金属棒及び前記第2の金属棒を介して前記複数の熱フィラメントに電力を供給する電源と、を具備し、前記原料ガスの導入手段から導入された前記原料ガスを前記複数の熱フィラメントにより分解して前記基板の表面にダイヤモンドを合成する熱フィラメントCVD装置において、
前記基板保持台と前記熱フィラメント電極と前記原料ガスの導入手段は、この順に配置され、
前記複数の熱フィラメントは、高融点金属又はその合金で製作された断面形状が略長方形の長尺薄板で形成され、各前記長尺薄板は、並行して並べられ、且つ前記長尺薄板の長手方向の辺が前記基板保持台の前記主面に平行になるように配置され、
前記原料ガスの導入手段は、多数の原料ガス噴出孔を備え、前記原料ガス噴出孔の略半数部分は前記複数の長尺薄板の一方の主面に対して傾斜する方向に噴出し、前記原料ガス噴出孔の他の略半数部分は前記複数の長尺薄板の他方の主面に対して傾斜する方向に噴出することを特徴とする熱フィラメントCVD装置。
【請求項2】
前記複数の長尺薄板の各々は、前記長尺薄板の幅方向が前記基板保持台の前記主面に対して垂直に配置されることを特徴とする請求項1に記載の熱フィラメントCVD装置。
【請求項3】
前記複数の長尺薄板の各々は、隣り合う前記長尺薄板同士で前記長尺薄板の幅方向が前記基板保持台の前記主面に対し互いに反対方向に傾斜して配置されることを特徴とする請求項1に記載熱フィラメントCVD装置
【請求項4】
前記複数の熱フィラメントの材質はタンタル(Ta)であり、前記熱フィラメントの表面は熱フィラメントCVDにより成膜される炭化タンタル薄膜で被覆されることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一つに記載の熱フィラメントCVD装置。
【請求項5】
前記炭素含有ガスは、メタン(CH)、エタン(C)、プロパン(C)から選ばれる少なくとも1種を含むガスであることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一つに記載の熱フィラメントCVD装置。
【請求項6】
前記原料ガスの導入手段は、直径が略0.1mm~1mmの複数のガス噴出孔を備えた箱型容器で形成されることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一つに記載の熱フィラメントCVD装置。
【請求項7】
前記電源は、交流電力又は直流電力を所要の一定電力に制御して供給することを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか一つに記載の熱フィラメントCVD装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱フィラメントCVD装置に関する。特に、大面積のダイヤモンド合成に用いられる熱フィラメントCVD装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ダイヤモンドは、例えば、非特許文献1及び非特許文献2に記載されているように、宝飾品や機械加工材料のみならず、ワイドギャップ半導体として知られ、SiやSiC等の半導体より遙かに優れた特性を有することから、究極のパワー半導体材料として注目されている。パワー半導体材料への応用を図るには、サイズ4~5インチ級の基板でのダイヤモンド合成が必要であり、ダイヤモンドの大面積合成装置に関する研究が進められている。
パワー半導体材料としてのダイヤモンドを形成する方法には、主として、マイクロ波プラズマCVD法と熱フィラメントCVD法があることが知られている。また、一般に次のことが知られている。即ち、上記CVD法において、基板にダイヤモンドを用いる場合には、ホモエピタキシャル成長によりダイヤモンドが形成され、不純物を容易に制御可能で、かつ歪みのない結晶を形成することができる。また、基板がダイヤモンド以外の場合、ヘテロエピタキシャル成長によりダイヤモンドが形成されるので、歪みの発生を伴い、結晶性が低下することがある。
【0003】
マイクロ波プラズマCVD法は、基板の加熱と原料ガスの分解にマイクロ波を用いることを特徴とする。即ち、マイクロ波を用いて原料ガスであるメタン(CH)と水素(H)の混合ガスをプラズマ化することにより、該プラズマ中に生成される電子及びイオン等によってダイヤモンド膜の形成に不可欠の主要ラジカルであるCHラジカルと原子状水素H等を発生させるとともに、前記マイクロ波を用いて基板上でのプラズマ化学反応促進に必要な基板温度を、約700℃~約1,00℃に加熱する。そうすると、基板上にダイヤモンドが合成される。
しかしながら、上記究極のパワー半導体材料の形成への応用の観点で見ると、マイクロ波プラズマCVD法は、例えば、非特許文献1、非特許文献2及び特許文献4に記載されているように、一般にダイヤモンド成長速度は1~10μm/hと比較的高いが、マイクロ波の波長が短いことに起因する均一プラズマ生成領域の広さに制限があり、成膜可能な面積がλ/8~λ/10程度(λ:波長)と小さく、サイズ4~5インチ級の基板への対応の必須条件である大面積化が困難である、という課題がある。
熱フィラメントCVD法は、基板の加熱に輻射熱を用い、原料ガスの分解に熱フィラメントから放出される熱電子を用いることを特徴とする。即ち、基板の直上数mm~10mm程度の位置に、高温のフィラメント(約1,000℃~2,400℃)を設置し、高温度のフィラメントから放出される熱電子によって原料ガスである水素(H)とメタン(CH)の混合ガスを分解し、ダイヤモンド膜の形成に不可欠の主要ラジカルであるCHラジカルと原子状水素H等を発生させる。ダイヤモンドは、例えば、非特許文献3ないし非特許文献5に記載されているように、CHラジカルを主たる前駆体とし、基板表面及び膜中に形成されたsp3混成軌道を有する炭素結合体(ダイヤモンド)とsp2混成軌道を有する炭素結合体(グラファイト)が混在した結晶体から、原子状水素Hのsp3とsp2へのエッチング効果の違いによりグラファイト成分を優先的に排除することにより、ダイヤモンド結晶が形成される。基板の温度は、一般に、約700~約1,000℃に設定される。
しかしながら、上記究極のパワー半導体材料の形成への応用の観点で見ると、熱フィラメントCVD法は、例えば、非特許文献1及び特許文献4に記載されているように、製膜速度が、一般に1.5~2.0μm/hと低速であることから、マイクロ波プラズマCVD法と同じレベルの高速製膜の実現が課題である。また、パワー半導体材料への応用を図るには、サイズ4~5インチ級の基板への対応が可能な大面積化が課題である。
【0004】
熱フィラメントCVDによるダイヤモンド形成装置に関する代表的特許技術として、例えば、特許文献1ないし特許文献4が挙げられる。
特許文献1には、熱フィラメントを励起手段として用いる気相法ダイヤモンドの合成法において、フィラメントとしてその一部又は全てを炭化したタンタルフィラメントを励起源とし、ダイヤモンド合成用、原料気体を流速1m/sec以上で接触させる事を特徴とする、ということが記載されている。
特許文献2には、 ダイヤモンドの気相合成をおこなう熱フィラメントCVD法において、前処理として、高濃度の炭素源を導入して通電加熱し、タンタルフィラメントの両電極端にグラファイトを主体とするカーボンを鞘状に析出させて被覆形成するための炭化処理を施すようにした熱フィラメントCVD法であって、5体積%以上のメタン濃度を有するメタンと水素との混合ガスを炭素源として導入し、通電加熱によりフィラメント温度を2000℃以上で少なくとも12時間保持することを特徴とする、ということが記載されている。
特許文献3には、基板を処理する反応室と、前記反応室内に反応ガスを供給するガス供給手段と、前記反応室内に供給された反応ガスと接触することにより前記反応ガスを分解する高温発熱体とを備え、前記高温発熱体は、互いに独立にまたは複数個づつ組み合わされて制御されるユニットから構成され、前記ユニットは前記反応室内を適宜分割した複数の領域に配置されていることを特徴とする半導体製造装置、ということが記載されている。
特許文献4には、 成膜室と、前記成膜室内に配置された、基板を載置するための基板ホルダー及び2,500℃以上に加熱されるためのフィラメント層と、前記成膜室内に原料ガス及びキャリアガスを供給するためのガス供給手段と、前記成膜室内からガスを排気するための排気手段とを備え、前記フィラメント層は1~10mmの間隔を隔てて複数段に配置され、前記複数段に配置されたそれぞれのフィラメント層は、線径0.1~1.0mmのタンタル又はその合金からなる線材が3~30mmの間隔で複数本配置されていることを特徴とするダイヤモンドの成膜に用いるための熱フィラメントCVD装置、ということが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平07-061896
【特許文献2】特許3861178
【特許文献3】特開2002-093714
【特許文献4】特許7012304
【0006】
【非特許文献1】有屋田修、ダイヤモンド合成用CVD装置、真空ジャーナル、2023年1月、24-26
【非特許文献2】山田英明、プラズマ CVD による単結晶ダイヤモンド合成の現状と課題、J. Plasma Fusion Res. Vol.90, No.2 (2014)152‐158
【非特許文献3】平木昭夫、川原田洋、ダイヤモンド状薄膜、炭素、1987(No.128)、41-49
【非特許文献4】渡邊厚仁、熱フィラメントCVD法及び電子衝撃CVD法によるダイヤモンド薄膜の作製、表面技術、Vol.42、N0.12(1991)、1185-1188
【非特許文献5】相澤俊、安藤寿浩、ダイヤモンド表面の水素吸着、日本結晶学会誌38(1996)、160-166
【非特許文献6】小林利明、SPring8 熱電子銃について 、運転員講習会資料、2003.5.12
【非特許文献7】ギード(横堀進、久我修、共訳本)、基礎伝熱工学、1960(丸善)、20-222
【非特許文献8】中西利和、中村保、渡邊陽一郎、半藤勝正、木綿隆弘、ルーバ通過時の空気流れに関する研究、KOMATSU TECHNICAL REPORT、2007 、Vol. 53、 No.160 、16-24
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、マイクロ波プラズマCVD法を用いたダイヤモンド形成装置は、使用するマイクロ波の波長が短いことから、生成されるプラズマの生成領域は小さい領域(例えば、約8~10mm)となり、サイズ4~5インチ級の基板への対応が本質的に困難であるという課題がある。
熱フィラメントCVD法を用いたダイヤモンド形成装置は、サイズ4~5インチ級の基板への対応が可能であり、更なる実用化展開が期待されているが、以下に説明するような課題がある。
熱フィラメントCVD法を用いたダイヤモンド形成装置では、熱フィラメントが発生する熱電子によって原料ガス(例えば、CHとHの混合ガス)をダイヤモンド合成に不可欠の主要ラジカルであるCHラジカルと原子状水素H等に分解し、CHラジカルを主たる前駆体としてsp3混成軌道を有する炭素結合体(ダイヤモンド成分)とsp2混成軌道を有する炭素結合体(グラファイト成分)が混在した結晶体を形成するとともに、原子状水素Hの水素引き抜き作用及びエッチング作用等によって、形成された炭素結合体の中の水素成分とグラファイト成分が優先的に排除されることにより、ダイヤモンド結晶が形成される。
このダイヤモンドの形成に際し、高品質で高速成膜化を実現するには、原料ガスから高濃度のCHラジカル及び高濃度の原子状水素Hを生成する熱電子の発生個数の増大が必要である。
熱フィラメントが発生する熱電子の発生個数Neは、例えば、非特許文献6に記載のように、リチャードソン・ダッシ ュマンの式に従う。
Ne ∝ T・S・exp{-φ/kT} (単位:個) ・・・(1)
ただし、Tは熱フィラメントの絶対温度、Sは熱フィラメントの表面積、φは熱フィラメントの仕事関数、kはボルツマン定数である。
したがって、原料ガス(例えば、CHとHの混合ガス)の分解に必要な熱電子を多量に発生するには、熱フィラメントを高温化すること(ここで、ダイヤモンド形成条件Aと呼ぶ)と、高温度の熱フィラメントの表面積を増大化すること(ここで、ダイヤモンド形成条件Bと呼ぶ)が必要である。
また、熱フィラメントで発生する熱電子は、該熱フィラメントの表面から放出され、拡散現象により空間的に拡散する。即ち、該該熱フィラメントの表面近傍の熱電子の密度は高く、該熱フィラメントの表面から離れるに従って急激に減少する。該熱フィラメントの表面を起点としてその法線方向での距離をxとすると、距離xにおける熱電子の密度ne(x)は、次式(2)で表されるように、Diracのδ関数型の空間分布に従う、と考えられる。
ne(x) ∝ n・exp(-x/4D) (単位:個/cm) ・・・(2)
ただし、nは熱フィラメントの表面層の熱電子の密度、Dは熱電子の拡散係数である。
式(2)は、熱フィラメントで発生する熱電子の密度ne(x)は、該熱フィラメントの表面近傍で最も高く、該表面から離れるに従い急激に低くなることを意味している。
即ち、熱フィラメントによる原料ガスの分解作用は、該熱フィラメント表面から放出された熱電子と原料ガスの分子との衝突に基づく現象であることから、該熱フィラメントの表面層領域において最も強く、該表面層領域に流入する原料ガスが多いほど効果的に分解される、ということを意味している。また、原料ガスの流れが乱流状態にあれば、該表面層領域での該原料ガスと熱電子の衝突、接触、混合の度合いが増大することからより一層、効果的に分解されるということを意味している。
従って、式(2)で表される空間密度分布に従う熱電子によって原料ガス(例えば、CHとHの混合ガス)からCHラジカル及び原子状水素Hを効果的に生成させるには、原料ガスを熱フィラメント表面層近傍に効果的に流入させ、且つ攪拌すること(ここで、ダイヤモンド形成条件Cと呼ぶ)が必要である。
しかるに、従来の熱フィラメントCVD法を用いたダイヤモンド形成装置は、例えば、特許文献1ないし4に記載の熱フィラメントCVD法を用いたダイヤモンド合成装置では、熱フィラメントは、直径0.1mm~1mmの線材で構成されている。また、原料ガス供給手段には、上記ダイヤモンド形成条件B及びCに係わる特段の工夫はなされていない。なお、特許文献3及び4に記載の熱フィラメントCVD法を用いたダイヤモンド形成装置では、線材で形成された熱フィラメント層を複数段に配置する構成を有することから、一段配置の場合に比べ、熱フィラメント表面積は複数倍になるので、ダイヤモンド形成条件Bを満たす意味で優れていると言える。
従って、従来の熱フィラメントCVD法を用いたダイヤモンド合成装置は、上記ダイヤモンド形成条件B及びCを充分に満たしていない、という問題がある。
即ち、従来の熱フィラメントCVD法を用いたダイヤモンド合成装置では、熱電子発生源である熱フィラメントの表面積を広くとることが困難であることに加えて、該熱フィラメントの表面層に原料ガスを効果的に流入させてCHラジカル及び原子状水素を効果的に発生させることが困難という問題がある。その結果、ダイヤモンドの合成に必要なCHラジカル及び原子状Hを高密度で生成することが困難という課題がある。
上記のような課題を鑑みて、本発明は、上記ダイヤモンド形成条件A、B及びCを満たすことが可能なダイヤモンドの気相合成のための熱フィラメントCVD装置を提供することを目的とする。即ち、サイズ4~5インチ級の大面積基板への対応が可能なダイヤモンドの気相合成のための熱フィラメントCVD装置を提供することを目的とする。A
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決するための本発明の第1の発明は、少なくとも炭素含有ガスと水素を含む原料ガスを導入する原料ガスの導入手段と排気手段を備えた反応容器と、前記反応容器の内部に配置されて基板を保持する主面を有する基板保持台と、複数の熱フィラメントと前記複数の熱フィラメントのそれぞれの一方の端部を固定する第1の金属棒と前記複数の熱フィラメントのそれぞれの他方の端部を固定する第2の金属棒から成る熱フィラメント電極と、前記第1の金属棒及び前記第2の金属棒を介して前記複数の熱フィラメントに電力を供給する電源と、を具備し、前記原料ガスの導入手段から導入された前記原料ガスを前記複数の熱フィラメントにより分解して前記基板の表面にダイヤモンドを合成する熱フィラメントCVD装置において、
前記基板保持台と前記熱フィラメント電極と前記原料ガスの導入手段は、この順に配置され、
前記複数の熱フィラメントは、高融点金属又はその合金で製作された断面形状が略長方形の長尺薄板で形成され、各前記長尺薄板は、並行して並べられ、且つ前記長尺薄板の長手方向の辺が前記基板保持台の前記主面に平行になるように配置され、
前記原料ガスの導入手段は、多数の原料ガス噴出孔を備え、前記原料ガス噴出孔の略半数部分は前記複数の長尺薄板の一方の主面に対して傾斜する方向に噴出し、前記原料ガス噴出孔の他の略半数部分は前記複数の長尺薄板の他方の主面に対して傾斜する方向に噴出することを特徴とする。
第2の発明は、第1の発明において、前記複数の長尺薄板の各々は、前記長尺薄板の幅方向が前記基板保持台の前記主面に対して垂直に配置されることを特徴とする。
第3の発明は、第1の発明において、前記複数の長尺薄板の各々は、隣り合う前記長尺薄板同士で前記長尺薄板の幅方向が前記基板保持台の前記主面に対し互いに反対方向に傾斜して配置されることを特徴とする。
第4の発明は、第1の発明から第3のいずれか一つの発明において、前記複数の熱フィラメントの材質はタンタル(Ta)であり、前記熱フィラメントの表面は熱フィラメントCVDにより成膜される炭化タンタル薄膜で被覆されることを特徴とする。
第5の発明は、第1の発明から第4の発明のいずれか一つの発明において、前記炭素含有ガスは、メタン(CH)、エタン(C)、プロパン(C)から選ばれる少なくとも1種を含むガスであることを特徴とする。
第6の発明は、第1の発明から第5の発明のいずれか一つの発明において、前記原料ガスの導入手段は、直径が略0.1mm~1mmの複数のガス噴出孔を備えた箱型容器で形成されることを特徴とする。
第7の発明は、第1の発明から第6の発明のいずれか一つの発明において、前記電源は、交流電力又は直流電力を所要の一定電力に制御して供給することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
上記のように構成された本発明の熱フィラメントCVD装置は、熱フィラメントとして高融点金属又はその合金で製作された断面形状が略長方形の長尺薄板が配置されることにより、熱フィラメントの表面積の増大が図ることが可能となり、更に前記長尺薄板の2つの主面に対して傾斜する方向から前記原料ガスを噴出することにより、熱フィラメント表面と原料ガスの効果的な接触が可能となり、熱電子と該原料ガス分子との衝突・接触・混合を効果的に発生できる、という効果を奏する。
即ち、従来の熱フィラメントCVD装置の課題である熱フィラメントを高温化すること(ダイヤモンド形成条件A)、高温度の熱フィラメントの表面積を増大化すること(ダイヤモンド形成条件B)、及び原料ガスを熱フィラメント表面層近傍に効果的に流入させ、且つ攪拌すること(ダイヤモンド形成条件C)という3つの条件を満たすことが可能である。これにより、ダイヤモンドの合成に必要なCHラジカル及び原子状Hの高密度生成及び大面積化が可能である、という効果を奏する。その結果、高速で大面積に、且つ高品質のダイヤモンド合成が可能となり、上記課題を解消可能という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明の第1の実施形態に係わる熱フィラメントCVD装置の構成を示す模式的断面図である。
図2図2は、本発明の第1の実施形態に係わる熱フィラメントCVD装置の構成部材である熱フィラメント電極の構成を示す模式的構成図である。
図3図3は、本発明の第1の実施形態に係わる熱フィラメントCVD装置の構成部材である原料ガス噴射孔と熱フィラメントの模式的断面図である。
図4図4は、本発明の第1の実施形態に係わる熱フィラメントCVD装置における原料ガスの熱フィラメントの表面層への流入及び乱流の状況を示す模式的説明図である。
図5図5は、本発明の第1の実施形態に係わる熱フィラメントCVD装置における熱フィラメントによる原料ガスからのCHラジカル及び原子状水素Hの生成を示す原理的模式図である。
図6図6は、本発明の第1の実施形態に係わる熱フィラメントCVD装置を用いて形成されるダイヤモンドの成長過程を示す原理的模式図である。
図7図7は、本発明の第2の実施形態に係わる熱フィラメントCVD装置の構成部材である原料ガス噴射孔と熱フィラメントの模式的断面図である。
図8図8は、本発明の第2の実施形態に係わる熱フィラメントCVD装置における原料ガスの熱フィラメントの表面層への流入及び撹乱の状況を示す模式的説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照しながら説明する。各図において、同様の部材には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
なお、本発明は以下の記述に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、適宜変更可能である。また、以下に示す図面は、説明の便宜上、各部材の縮尺が、実際と異なる場合がある。また、各図面間においても、縮尺が、実際と異なる場合がある。
【0012】
(第1の実施形態)
先ず、本発明の第1の実施形態に係わる熱フィラメントCVD装置の構成について、図1ないし図6を参照して、説明する。
図1は、本発明の第1の実施形態に係わる熱フィラメントCVD装置の構成を示す模式的断面図である。図2は、本発明の第1の実施形態に係わる熱フィラメントCVD装置の構成部材である熱フィラメント電極の構成を示す模式的構成図である。図3は、本発明の第1の実施形態に係わる熱フィラメントCVD装置の構成部材である原料ガス噴射孔と熱フィラメントの模式的断面図である。図4は、本発明の第1の実施形態に係わる熱フィラメントCVD装置における原料ガスの熱フィラメントの表面層への流入及び乱流の状況を示す模式的説明図である。図5は、本発明の第1の実施形態に係わる熱フィラメントCVD装置における熱フィラメントによる原料ガスからのCHラジカル及び原子状水素Hの生成を示す原理的模式図である。図6は、本発明の第1の実施形態に係わる熱フィラメントCVD装置を用いて形成されるダイヤモンドの成長過程を示す原理的模式図である。
【0013】
本発明の第1の実施形態に係わる熱フィラメントCVD装置は、図1及び図2に示されるように、少なくとも炭素含有ガスと水素を含む原料ガスを導入する原料ガスの導入箱13と排気口10a、10bを備えた反応容器1と、前記反応容器の内部に配置されて基板9を保持する主面を有する基板保持台6と、複数の熱フィラメント3aと前記複数の熱フィラメント3aのそれぞれの一方の端部を固定する第1の金属棒3bと前記複数の熱フィラメント3aのそれぞれの他方の端部を固定する第2の金属棒3cから成る熱フィラメント電極2と、前記第1の金属棒3b及び前記第2の金属棒3cを介して前記複数の熱フィラメント3aに電力を供給する電源20と、を備えている。
反応容器1は、円筒箱状あるいは矩形箱状の反応容器である。反応容器1の内部には、基板9を保持する主面6aを有する基板保持台6と、複数の熱フィラメント3aを備える熱フィラメント電極2と、原料ガスの導入箱13が、この順に配置される。
反応容器1は、図示しない真空ポンプに接続された排気口10a、10bを備えている。排気口10a、10bは、図示しない圧力計及び図示しない真空ポンプと組み合わせて稼働させることにより、反応容器1の内部を所定の圧力に調整し、該圧力を保持することが可能である。また、反応容器1内部を高真空度に真空引きすることが可能である。
反応容器1は、基板9の搬入・搬出に用いられる図示しない基板搬入搬出用バルブ及び該反応容器1内部の各構成部品を組み立て、配置するための図示しない作業用フランジを備えている。
反応容器1は、熱フィラメント3a及び基板9の温度測定用石英窓22aを備えている。温度測定用石英窓22aは、放射温度計22と連携して、熱フィラメント3a及び基板9の温度測定に用いられる。
【0014】
基板保持台6は、主面6aを有し、該主面6aで基板9と接し、保持する。基板9の温度は、複数の熱フィラメント3aが放射する輻射熱により加熱され、基板保持台6の内部に設けられた図示しない冷媒を用いた冷却手段と連携して所定の温度に制御される。基板9の温度は、約700~約1,000℃に、例えば、1,000℃に設定される。なお、基板6の温度は、温度測定用石英窓22aを介して、放射温度計22を用いて測定される。
基板保持台6の断面形状は、基板9の形状と相似形である。例えば、基板9のサイズが直径5インチの円板形である場合は、それより一回りおおきいサイズで、例えば、直径153mmである。例えば、基板9のサイズが5インチx5インチの矩形板である場合は、それより一回りおおきいサイズで、例えば、153mmx153mmである。
基板9は、図示しない基板搬入搬出用バルブを開閉することにより、大気側から基板保持台6の主面6aに搬入、載置され、目的とする熱フィラメントCVDによるダイヤモンド合成処理が行なわれた後、大気側へ搬出される。
【0015】
ここでは、基板9を、例えば、直径5インチの単結晶Siウエハーとする。基板保持台6の主面6aのサイズは、例えば、直径153mmとする。なお、基板9は単結晶Siウエハーに限定されない、例えば、高温高圧法で製作された小さいサイズの複数個のダイヤモンド基板を載置してもよい。
【0016】
熱フィラメント電極2は、図2(a)(b)に示されるように、複数の熱フィラメント3aと、第1の金属棒3bと、第2の金属棒3cを備えている。第1の金属棒3bと第2の金属棒3cは、互いに平行に、且つ基板保持台6の主面6aに平行に配置される。
複数の熱フィラメント3aは、例えば、タングステン(W)又はタンタル(Ta)又はタンタルを含む合金等の高融点金属で製作された断面形状が略長方形の長尺薄板で形成され、各前記長尺薄板は、並行して並べられ、且つ前記複数の長尺薄板は、前記長尺薄板の長手方向の辺が前記基板保持台6の前記主面6aに平行になるように配置される。
更に、長尺薄板で形成された前記複数の熱フィラメント3aは、前記長尺薄板の幅方向が前記基板保持台6の主面6aに対して、図3及び図4に示されるように、垂直になるように配置される。前記複数の熱フィラメント3aは互いに平行であり、等間隔に並べられる。前記複数の熱フィラメント3aは、図2(a)に示されるように、その端部の一方が前記第1の金属棒3bに固着され、他方が前記第2の金属棒3cに固着される。即ち、熱フィラメント3aと第1の金属棒3aと第1の金属棒3bは導通状態にある。
複数の熱フィラメント3aの材質としては、高融点金属の中から、熱電子発生の観点より、仕事関数φが低い材料であるタングステン(φ=4.5eV)又はタンタル(φ=4.2eV)又はタンタルを含む合金から選ばれる。好ましくは、熱フィラメントCVD処理により高融点で高い機械的強度を持つ炭化タンタル(TaC)へ変質可能なタンタル(Ta)又はタンタルを含む合金がよい。
熱フィラメントCVD処理によりタンタルで形成された熱フィラメント3aに炭化タンタルを被膜させる方法は以下に、示される。即ち、タンタル製の前記熱フィラメント3aに熱フィラメントCVD法を用いて、原料ガスとして、例えば、流量比CH/H=5/100、圧力4kPa、該熱フィラメント3aの温度を略2,000℃~2,600℃で、成膜時間略10時間ないし20時間で炭化膜を被覆形成する。そうすると、略4,000℃の高融点を持ち、機械的強度の強い炭化タンタル被覆膜が得られる。
複数の熱フィラメント3aの断面形状を略長方形に選ぶ理由は、該熱フィラメント3aの表面積を広く取り、熱電子の発生個数を増大するためである。複数の熱フィラメント3aが放出する熱電子は、以下に示されるリチャードソン・ダッシ ュマンの式で表され、該熱フィラメント3aの表面積が広ければ広いほど、熱電子の発生個数を増大することができる。
即ち、熱フィラメント3aが発生する熱電子の発生個数Neは、例えば、非特許文献6に記載のように、リチャードソン・ダッシ ュマンの式に従う。
Ne ∝ T・S・exp{-φ/kT} (単位:個) ・・・(1)
ただし、Tは熱フィラメントの絶対温度、Sは熱フィラメントの表面積、φは熱フィラメントの仕事関数、kはボルツマン定数である。
断面形状が略長方形の場合、円形の場合に比べて、断面積の増大を抑制し、且つ表面積を増大することが可能である。その結果、熱電子の発生個数の増大を図ることが可能である。なお、円形フィラメントの場合、断面積を増大すれば、電気抵抗が小さくなり、電気回路の設計、製作が困難になることが危惧される。
ここでは、複数の熱フィラメント3aの寸法は、例えば、厚み略0.1mm~0.5mmx幅1mm~10mmx長さ略150mm~200mm程度の中から選ぶ。例えば、厚み0.1mmx幅4mmx長さ略160mmとする。また、複数の熱フィラメント3aの材質は熱電子発生の観点よりタンタルとする。なお、この場合、熱フィラメント3aの周長は8.2mmであるので、従来の直径0.5mmの線材熱フィラメントの場合(周長:1.57mm)に比べて、表面積は約5.2倍である。
複数の熱フィラメント3aの隣り合う間隔は、該熱フィラメント3aと基板6との距離を含めて、予め実験を行い、得られたデータに基づいて適度の間隔が選ばれる。例えば、3mm~30mmの範囲から、例えば、5mmとする。熱フィラメント3aの長手方向の辺と基板保持台6の主面6aとの距離は、実験データに基づいて適度の距離が選ばれる。例えば、5mm~100mmの範囲から、例えば、7mmが選ばれる。
【0017】
第1の金属棒3bは、図2(a)、(b)に示されるように、第1の棒バネ式張力付与手段5aに固着され、該第1の棒バネ式張力付与手段5aは、後述の第1の真空用電流導入端子7aの給電棒9aに第1の接続治具10aを介して固着される。なお、第1の棒バネ式張力付与手段5aは電気的に導体で、高温度に耐える金属で、例えば、タンタルあるいはタンタルを含む合金で製作される。また、第1の棒バネ式張力付与手段5aは、棒バネ式に限らず、板バネ式やコイルバネ式等を用いることができる。
同様に、第2の金属棒3cは、第2の棒バネ式張力付与手段5bに固着され、該第2の棒バネ式張力付与手段5bは、後述の第2の真空用電流導入端子7bの給電棒9bに第2の接続治具10bを介して固着される。なお、第2の棒バネ式張力付与手段5bは電気的に導体で、高温度に耐える金属で、例えば、タンタルあるいはタンタルを含む合金で製作される。また、第2の棒バネ式張力付与手段5bは、棒バネ式に限らず、板バネ式やコイルバネ式等を用いることができる。
第1の金属棒3b及び第2の金属棒3cの寸法は、適度の剛性を持つ、例えば、断面寸法2mm~10mm程度x2mm~10mm程度の角棒を選ぶ。第1の金属棒3b及び第2の金属棒3cの長さは、基板保持台6の主面6aより大きいサイズ、例えば、160mm~170mm、例えば、160mmとする。
【0018】
複数の熱フィラメント3aを高温度に加熱するための電力供給手段は、図1に示されるように、電源20と、非接地の電力供給線20aと、接地された電力供給線20bと、第1の真空用電流導入端子7aと、第2の真空用電流導入端子7bと、を備える。
第1の真空用電流導入端子7aの構造は、図2(b)に示されるように、真空用フランジ12aと、誘電体11aと、芯線である給電棒9aで構成され、前記給電棒9aと第1の棒バネ式張力付与手段5aは第1の接続治具10aで固着され、電気的に接続される。
電源20の電力供給回路は、電源20の出力端子から順に、非接地の電力供給線20a、第1の真空用電流導入端子7a、第1の棒バネ式張力付与手段5a、第1の金属棒3b、複数の熱フィラメント3a、第2の金属棒3b、第2の棒バネ式張力付与手段5b、第2の真空用電流導入端子7b、接地された電力供給線20b及び電源20の接地された出力端子を結ぶループで形成される。
電源20は、定電力制御方式であり、複数の熱フィラメント3aの温度を、約2,000~約2,800℃に、例えば、2,400℃に加熱し、一定温度に制御可能である。電源20は、市販の装置、例えば、商用周波数60Hz、出力電流:最大100A、出力電圧:最大1kV、出力電力:最大100kWの定電力制御方式電源を用いる。ここでは、商用周波数60Hzの交流電源を用いるが、直流電源でもよい。
電源20から熱フィラメント3aに所定の電力が供給されると、該熱フィラメント3aから熱電子が放出される。即ち、形状が長尺薄板の熱フィラメント3aの2つの主面から大部分の熱電子が放出される。
【0019】
ここで、図4及び図5において、熱フィラメント3aの2つの主面の一方の主面の近傍領域を第1の表面層3aaと呼び、他方の主面の近傍領域を第2の表面層3abと呼ぶ。第1の表面層3aa及び第2の表面層3abは、図5に示されるように、高温状態にある熱フィラメント3aの表面から熱電子100が放出され、該表面近傍は高密度の熱電子が存在する領域である。
【0020】
原料ガスの導入箱13は、図1図3及び図4に示されるように、原料ガス供給口14と、空洞13cと、多数の第1原料ガス噴出孔13aと、多数の第2原料ガス噴出孔13bと、を備えている。
原料ガス供給口14の上流に図示しない少なくとも炭素含有ガスと水素ガス(H)を含む原料ガスの供給源が配置される。
前記炭素含有ガスは、メタン(CH)、エタン(C)、プロパン(C)、エチレン(C)、プロピレン(C)及びアセチレン(C)から選ばれる少なくとも1種を含むガスである。高品質ダイヤモンドの形成の観点から、sp3混成軌道を有するメタン(CH)、エタン(C)、プロパン(C)から選ぶのが好ましい。ここでは、炭素含有ガスとして、メタン(CH)を選び、水素ガス(H)との混合ガスを原料に用いる。混合比は、流量比で、例えば、CH/H=1~3/100、ここでは、CH/H=1/100とする。
原料ガス供給口14から導入された原料ガスは、原料ガス導入箱13の空洞13cで分散され、複数の第1原料ガス噴出孔13a及び複数の第2原料ガス噴出孔13bへ、均等に供給される。
多数の第1原料ガス噴出孔13a及び多数の第2原料ガス噴出孔13bは、孔の直径が、例えば、略0.1mm~略1mmで、開口率は、例えば、略30%~略80%である。孔の直径を0.mm~1mmに設定することにより、原料ガス噴出量の空間的に均一することが出来る。開口率を30%~80%に設定することにより、原料ガスの大量供給への対応が可能である。ここでは、孔径を略0.5mm、開口率を略30%とする。
多数の第1の原料ガス噴出孔13aは、図3及び図4に示されるように、空洞13cから供給された第1の原料ガス14aを、第1の噴射流15aとして噴射し、熱フィラメント3aの一方の表面層3aaに対し、第1の斜め入射流16aを供給する。原料ガスが、熱フィラメント3aの第1の表面層3aaに対して第1の斜め入射流16aの形態で供給されると、第1の乱流17aが発生する。第1の乱流17aは流れの方向及び速さが時間的に激しく変化することから、原料ガスと熱フィラメント3aの第1の表面層3aaに存在する熱電子とを効果的に接触、混合、攪拌することが可能である。その結果、メタン(CH)と水素ガス(H)の混合ガスから大量のCHラジカル及び水素ラジカルHが発生する。
同様に、多数の第2の原料ガス噴出孔13bは、図3及び図4に示されるように、空洞13cから供給された第2の原料ガス14bを、第2の噴射流15bとして噴射し、熱フィラメント3aの第2の表面層3abに対し、第2の斜め入射流16bを供給する。熱フィラメント3aの第2の表面層3abに対して第2の斜め入射流16bが供給されると、第2の乱流17bが発生する。第2の乱流17bは流れの方向及び速さが時間的に激しく変化することから、原料ガスと熱フィラメント3aの第2の表面層3abに存在する熱電子とを効果的に接触、混合、攪拌することが可能である。その結果、メタン(CH)と水素ガス(H)の混合ガスから大量のCHラジカル及び水素ラジカルHが発生する。
前記熱フィラメント3aの第1の表面層3aaと第2の表面層3abの領域で発生したCHラジカル及び水素ラジカルHは、拡散現象により基板9の表面へ輸送される。そして、CHラジカルはダイヤモンドの前駆体として、sp3混成軌道を有する炭素結合体(ダイヤモンド)とsp2混成軌道を有する炭素結合体(グラファイト)を形成する。水素ラジカルHは、基板表面及び膜中に形成されたsp3混成軌道を有する炭素結合体(ダイヤモンド)とsp2混成軌道を有する炭素結合体(グラファイト)が混在した結晶体から、原子状水素Hのsp3とsp2へのエッチング効果の違いによりグラファイト成分を優先的に排除する。その結果、ダイヤモンド結晶が形成される。
【0021】
次に、電源20から熱フィラメント3aへ電力が供給される際に発生する輻射熱及び熱電子の形態について、以下に説明する。
図1において、電源20の出力を熱フィラメント3aに供給する。該熱フィラメント3aと基板9の温度を、放射温度計22で測定しながら、該電源20の出力を調整し、また、基板保持台6の内部に設けられた図示しない冷媒を用いた冷却手段を調整する。そして、該電源20の出力を基板9の温度が略1,000℃に、熱フィラメント3aの温度が略2,400℃になるように調整し、設定する。そうすると、熱フィラメント3aは、輻射エネルギーと熱電子を放射する。
該熱フィラメント3aから放射される輻射エネルギー(赤外線、可視光、紫外線等を含む輻射熱)は、例えば、非特許文献7に記載されているように、ステファン・ボルツマンの法則で表される。即ち、該熱フィラメント3aから放射される輻射エネルギーEsは、次式(3)で表される。
Es ∝ ε・σ・T(w/cm) ・・・(3)
ただし、εは放射率、σはステファン・ボルツマン定数、Tは熱フィラメント3aの絶対温度である。
基板9に入射する輻射エネルギーQは、例えば、非特許文献7に記載されているように、次式(4)で表される。
Q ∝ Es・S・cosθ/d ・・・(4)
ただし、Esは熱フィラメント3aから放射される輻射エネルギー、Sは熱フィラメント3aの表面積、θは、基板9の法線を基準にした熱フィラメント3aを見上げる角度(仰角)、dは熱フィラメント3aと基板9の距離である。
なお、熱フィラメント3aの主面の仰角は90°であるので、該熱フィラメント3aの主面から放出される輻射エネルギーの基板9の温度上昇に対する貢献度は低い。
また、隣り合う2つの高温物体では輻射エネルギーの交換が発生する。例えば、隣り合って配置された第1の高温物体の温度Tで、第2の高温物体の温度Tの場合、単位面積当たりの正味のエネルギー交換量ΔEは、次式(5)で表される。
ΔE ∝ ε・σ・(T-T ・・・(5)
これは、隣り合って配置された複数の熱フィラメント3aの間では、温度が同じであれば、正味のエネルギー交換は発生しない、ということを示している。即ち、隣り合って配置された複数の熱フィラメント3a同士は温度がほぼ同じであるので、両者の間で正味のエネルギー交換は発生しない、という意味である。
基板9の表面温度は、上記式(3)ないし式(5)で表されるように、複数の隣り合う熱フィラメント3a間の距離、該熱フィラメント3aと基板9の距離d及び電源20の出力等に依存することから、放射温度計22で基板9の表面温度を測定しながら、基板9の表面温度が該基板9の前面に亘って、ほぼ一様になるように、複数の熱フィラメント3a同士間の距離、前記熱フィラメント3aと基板9の距離d及び電源20の出力のそれぞれの最適値に関するデータを、予め実験により把握する。
ここでは、予め把握した複数の熱フィラメント3a同士間の距離、該熱フィラメント3aと基板9の距離及び電源8の出力のそれぞれの最適値に関するデータを基に、基板9の表面温度を、例えば、1,000℃に設定し、維持制御する。
【0022】
他方、熱フィラメント3aが高温度に加熱される場合、熱電子が発生する。熱フィラメントが発生する熱電子の発生個数Neは、例えば、非特許文献6に記載のように、リチャードソン・ダッシ ュマンの式に従う。
Ne ∝ T・S・exp{-φ/kT} (単位:個) ・・・(1)
ただし、Tは熱フィラメントの絶対温度、Sは熱フィラメントの表面積、φは熱フィラメントの仕事関数、kはボルツマン定数である。
したがって、熱フィラメント3aの温度が高ければ高いほど、また、仕事関数が小さければ小さいほど、また、表面積Sが広ければ広いほど放出される熱電子の数が多くなる。例えば、非特許文献6によれば、タングステン(W)の仕事関数φ=4.5eV、タンタル(Ta)の仕事関数φ=4.2eVであり、熱電子放出特性として、タングステンW(融点:3,000℃)に関し、2000℃で0.01A/cm及び2,400℃で、1A/cmが得られ、タンタルTa(融点:2,850℃)に関し、1,400℃で、0.01A/cm及び1,800℃で、1A/cmが得られている。
即ち、上記式(1)及び非特許文献6に記載の上記データは、熱フィラメント3aの温度が高いほど、多量の熱電子が発生することを示している。また、熱電子発生の能力で比較すれば、タンタルがタングステンよりも優れていることが判る。
ここでは、熱電子の発生量を最大とするために、熱フィラメント3aの温度を融点以下とし、可能な限り最大の温度に選ぶ。例えば、基板9の表面温度を所要の値に維持しつつ、熱フィラメント3aの温度を可能な限り高い温度に、例えば、2,400℃に設定する。ただし、基板9の温度は上昇するので、基板保持台6が内蔵する冷却手段を用いて、基板9を冷却し、該基板9の表面温度を約1,000℃に制御する。
【0023】
ところで、CHラジカルの気相中の輸送(移動)は、「物質の単位面積、単位時間当たりの拡散量は、濃度勾配に比例する」というフイックの法則に従う。即ち、これは、次式(6)で表せられる。なお、基板表面の法線方向を座標x軸とし、該基板表面をx=0とする。基板表面に流れ込む単位面積・単位時間当たりのCHラジカルの量J(CH):(cm-2・s-1)は、CHラジカルの拡散係数をD(CH)として、
J(CH)∝ D(CH)・{d[CH]/dx}x=0 ・・・(6)
ただし、{d[CH]/dx}x=0 は基板表面近傍でのCH濃度勾配(cm-4)である。
原子状Hの輸送(移動)は、上記CHラジカルの輸送(移動)と同様に、フイックの法則に従う。即ち、基板表面に流れ込む原子状Hの量J(H)は、原子状Hの拡散係数をD(H)として、次式(7)で表せられる。
J(H)∝ D(H)・{d[H]/dx}x=0 ・・・(7)
ただし、{d[H]/dx}x=0 は基板表面近傍でのH濃度勾配(cm-4)である。
即ち、上記式(6)及び式(7)は、基板表面近傍のCHラジカル及び原子状Hの輸送量は、それぞれの濃度が高ければ高いほど多くなる、ということを示している。
【0024】
上述したように本発明の第1の実施形態に係わる熱フィラメントCVD装置は、熱フィラメント3aが2,400℃の高温に熱せられ(ダイヤモンド形成条件A)、長尺薄板の熱フィラメント3aを用いることにより熱フィラメント3aの表面積が増大化され(ダイヤモンド形成条件B)、前記長尺薄板の熱フィラメント3aへ原料ガスが斜めに噴射されることにより原料ガスが熱フィラメント3aの表面層近傍3aa、3abに効果的に流入され、且つ攪拌される(ダイヤモンド形成条件C)ことから、ダイヤモンドの合成に必要なCHラジカル及び原子状Hの高密度生成が可能である。したがって、図5及び図6に示されるように、CHラジカルと原子状Hに係わる輸送現象と基板表面での化学反応現象、並びに多量の原子状水素Hによるダイヤモンド形成前駆体の中の水素成分及び結合の弱い炭素成分の引き抜き作用によりダイヤモンドが形成される、と考えられる。
即ち、図5及び図6において、熱フィラメント3aの第1及び第2の表面層近傍3aa、3abの領域で発生した高濃度のCHラジカルは拡散現象により、基板9の表面に移動する。基板9の表面に到達したCHラジカルの一部分は、基板9の表面に化学吸着する。基板表面に化学吸着したCHラジカルの一部分は、表面化学反応により、C-Cの形で結合する。熱フィラメント3aの第1及び第2の表面層近傍3aa、3abの領域で発生した高濃度の原子状Hは、膜表面及び膜中のH成分及び結合の弱い炭素成分を引き抜く。引き抜きされたC及びH成分はガスに成って排出される。基板上では、C-C結合が正四面体構造で形成され、ダイヤモンドが成長する、と考えられる。
【0025】
次に、本発明の第1の実施形態に係わる熱フィラメントCVD装置の操作手順について、図1図6を参照して説明する。熱フィラメント3aはタンタル製が用いられる。
先ず、本発明の第1の実施形態に係わる熱フィラメントCVD装置の初期条件設定操作として、熱フィラメント3aへの炭化タンタルの被覆成膜を行う。
図示しない真空ポンプにより、排気口10a及び排気口10bを介して、反応容器1内部を所定の真空度にする。次に、電源20の出力を熱フィラメント3aに供給し、熱フィラメント3aの温度を、例えば、略2,400℃に設定し、維持する。次に、図示しない原料ガスの供給源から原料ガスとして、メタンガスと水素を原料として、流量比を、例えば、水素流量/メタンガス流量=100/5とし、所定の流量を、圧力を、例えば、略4kPaで供給する。そうすると、原料ガスが分解され、熱フィラメント3aの表面に炭素系の膜が形成される。該炭素系の膜は炭化タンタル成分を含む膜となる。該炭素系の膜の形成時間が、例えば、約12時間経過後に、原料ガスの供給を停止する。そして、電源20の出力を、停止する。次に、反応容器1の内部を所定の真空度にする。次に、反応容器1の内部を大気に戻す。
次に、反応容器1の図示しない基板搬入搬出バルブを開いて、基板9を基板保持台6の主面6aに載置する。次に、基板搬入搬出バルブを閉じた後、図示しない真空ポンプにより、排気口10a及び排気口10bを介して、反応容器1内部を所定の真空度にする。
次に、電源20の出力を熱フィラメント3aに供給し、基板9の表面温度を、例えば、1,000℃に設定する。
次に、基板9の表面を上記温度に加熱した状態で、以下に示す手順で水素ラジカルによる基板9の表面のクリーニングを行う。電源20の出力を熱フィラメント3aに供給し、熱フィラメント3aの温度を、例えば、略2,400℃に設定し、維持する。次に、図示しない原料ガスの供給源から水素ガスを適当流量で供給する。そうすると、熱フィラメント3aが放出する熱電子により、水素が分解されて原子状水素Hが発生する。発生した原子状水素Hは拡散して基板9の表面に到達する。原子状水素Hの作用により、基板9の表面がクリーニングされ、基板表面は水素で終端された状態になる。
なお、原子状水素Hに作用には、エッチング、気相中での原料ガスの解離(成膜前駆体の生成)、表面の欠陥修復、結晶化促進等があることが知られている。
基板9の表面のクリーニングの時間は数分以内でよい。ここでは、例えば、3分間の原子状水素Hによる基板9の表面のクリーニングを行う。
【0026】
次に、電源20の出力を、一旦、ゼロに戻す。次に、図示しない原料ガスの供給源から原料ガスとして、例えば、メタンガスと水素を選び供給する。ガス供給条件は、例えば、流量比を水素流量/メタンガス流量=100/1とする。図示しないメタンガス源及び図示しない水素ガス源から、それぞれ図示しないメタンガス及び水素ガスのマスフローコントローラで所定の流量を制御されたメタンガス及び水素ガスを、原料ガス供給口14を介して原料ガス噴出穴13a及び13bから噴出させる。
なお、ここでは、炭素含有ガスとして、メタン(CH)選ぶが、エタン(C)、プロパン(C)、エチレン(C)、プロピレン(C)及びアセチレン(C)から選んでもよい。高品質ダイヤモンドの形成の観点からは、sp3混成軌道を有するメタン(CH)、エタン(C)、プロパン(C)から選ぶのが好ましい。
次に、図示しない排気バルブ制御装置により図示しない排気バルブの開閉度を制御し、反応容器1の内部圧力を、数kPaに保つ。ここでは、例えば、4kPaに設定し、維持する。
そうすると、図3及び図4に示されるように、第1の原料ガス噴出孔13aから噴射された原料ガス14aは、第1の噴射流15aとして噴射され、熱フィラメント3aの第1の表面層3aaに対し、第1の斜め入射流16aとして供給され、第1の乱流17aを発生する。第1の乱流17aは流れの方向及び速さが時間的に激しく変化することから、原料ガスと熱フィラメント3aの表面層3aaに存在する熱電子100が効果的に接触、混合、攪拌される。その結果、メタン(CH)と水素ガス(H)の混合ガスから大量のCHラジカル及び水素ラジカルHが発生する。該CHラジカル及び該原子状H等は拡散して、基板9の表面に到達する。
同様に、第2の原料ガス噴出孔13bから噴射された原料ガス14bは、第2の噴射流15bとして噴射され、熱フィラメント3aの表面層3abに対し、第2の斜め入射流16bとして供給され、第2の乱流17bが発生する。第2の乱流17bは流れの方向及び速さが時間的に激しく変化することから、原料ガスと熱フィラメント3aの第2の表面層3abに存在する熱電子100が効果的に接触、混合、攪拌される。その結果、メタン(CH)と水素ガス(H)の混合ガスから大量のCHラジカル及び水素ラジカルHが発生する。該CHラジカル及び該原子状H等は拡散して、基板9の表面に到達する。
基板表面に化学吸着したCHラジカルの一部分は、図6に示されるように、表面化学反応により、C-Cの形で結合する。熱フィラメント3aで生成された高濃度の原子状Hは、膜表面及び膜中のH成分及び結合の弱い炭素成分を引き抜く。引き抜きされたC及びH成分はガスに成って排出される。基板上では、C-C結合が正四面体構造で形成され、ダイヤモンドが成長する、と考えられる。
【0027】
次に、ダイヤモンド膜の厚みは成膜時間に比例するので、上記電源20の出力供給開始から所定の時間が経過した時点で、その出力をゼロにする。製膜時間は、予め取得されたデータに基づいて決められる。ここでは、例えば、30分~120分、例えば60分とする。
なお、製膜時間は、熱フィラメント3aと基板保持台6の間隔、基板温度、メタンガスの流量、水素ガスの流量、圧力、供給電力等の関係に係わるデータを、予め実験で把握し、そのデータを基に決められる。
目的とするダイヤモンド膜の製膜が終了後、上記原料ガスの供給を停止し、反応容器1の内部を、一旦、高い真空度に真空引きする。その後、反応容器1を大気条件に戻す。反応容器1が大気条件に戻され、基板9の温度が室温になった後、図示しない基板搬入搬出バルブを開とし、基板9を取り出す。反応容器1から取り出された基板9に、均一なダイヤモンド膜が形成されている、ことを確認する。
【0028】
以上の説明で示されたように、本発明の第1の実施形態に係わる熱フィラメントCVD装置は、熱フィラメントとしてタンタル(Ta)で製作された断面形状が略長方形の複数の長尺薄板が配置されることにより、熱フィラメントの表面積の増大を図ることが可能となることに加え、前記長尺薄板の2つの主面に対して傾斜する方向から前記原料ガスを噴出することにより、熱フィラメント表面と原料ガスを効果的に接触させることが可能となる。その結果、熱電子と該原料ガス分子とを効果的に衝突・接触・混合させることができる、という効果を奏する。
即ち、従来の熱フィラメントCVD装置では、高温度の熱フィラメントの表面積を増大化すること(ダイヤモンド形成条件B)及び原料ガスを熱フィラメント表面層近傍に効果的に流入させ、且つ攪拌すること(ダイヤモンド形成条件C)という条件を満たすことが困難であるが、本発明の第1の実施形態に係わる熱フィラメントCVD装置は可能である。これにより、ダイヤモンドの合成に必要なCHラジカル及び原子状Hの高密度生成及び大面積化が可能である、という効果を奏する。その結果、高速で大面積に、且つ高品質のダイヤモンド成長が可能となり、上記課題を解消可能という効果を奏する。
【0029】
(第2の実施形態)
本発明の第2の実施形態に係わる熱フィラメントCVD装置について、図7及び図8を参照して、説明する。図1ないし図6も参照する。
図7は、本発明の第2の実施形態に係わる熱フィラメントCVD装置の構成部材である原料ガス噴射孔と熱フィラメントの模式的断面図である。図8は、本発明の第2の実施形態に係わる熱フィラメントCVD装置における原料ガスの熱フィラメントの表面層への流入及び撹乱の状況を示す模式的説明図である。
本発明の第2の実施形態に係わる熱フィラメントCVD装置の構成は、本発明の第1の実施形態に係わる熱フィラメントCVD装置における熱フィラメント3aに代えて、熱フィラメント30a、31aを配置するとともに、第1の原料ガス噴出孔13a及び第2の原料ガス噴出孔13bに代えて、第3の原料ガス噴出孔13dを配置することを特徴とする。
【0030】
複数の熱フィラメント30a、31aは、図7及び図8に示されるように、断面形状が略長方形の長尺薄板で形成され、前記複数の長尺薄板の各々が、隣り合う前記長尺薄板同士で前記長尺薄板の幅方向が前記基板保持台の前記主面に対し互いに反対方向に傾斜して配置される。即ち、各前記長尺薄板30aと31aは、並行して並べられ、隣りあう熱フィラメント30aと31aが先広ノズル型状と先細ノズル型状を交互に形成するように配置される。前記長尺薄板30a、31aの長手方向の辺は、前記基板保持台6の前記主面6aに平行になるように配置される。
複数の熱フィラメント30a、31aは、本発明の第1の実施形態に係わる熱フィラメントCVD装置の場合と同様に、その端部の一方が前記第1の金属棒3bに固着され、他方が前記第2の金属棒3cに固着される。即ち、熱フィラメント30aと31aは、第1の金属棒3aと第1の金属棒3bに固定され、導通状態にある。
電源20から熱フィラメントの長尺薄板30a、31aに所定の電力が供給されると、該熱フィラメント30a、31aから熱電子が放出される。即ち、形状が長尺薄板の熱フィラメント30a、31aのそれぞれの2つの主面から大部分の熱電子が放出される。
ここで、図8において、熱フィラメント30aの2つの主面の一方の主面の近傍領域を第3の表面層30aa、他方の主面の近傍領域を第4の表面層30abと呼ぶ。また、図8において、熱フィラメント31aの2つの主面の一方の主面の近傍領域を第5の表面層31aa、他方の主面の近傍領域を第6の表面層31abと呼ぶ。なお、第3ないし第6の表面層30aa、30ab、31aa、31abは、高密度の熱電子が存在する領域である。
【0031】
原料ガスの導入箱13は、図7及び図8に示されるように、原料ガス供給口14と、空洞13cと、多数の第3の原料ガス噴出孔13dを備えている。多数の第3の原料ガス噴出孔13dは、空洞13cから供給される原料ガスを、基板保持台6の前記主面6aの垂直方向へ噴射する。
多数の第3の原料ガス噴出孔13dは、孔の直径が、例えば、略0.1mm~略1mmで、開口率は、例えば、略30%~略80%である。孔の直径を0.mm~1mmに設定することにより、複数の第3の原料ガス噴出孔13dから噴出される原料ガス噴出量を空間的に均一することができる。開口率を30%~80%に設定することにより、原料ガスの大量供給への対応が可能である。ここでは、孔径を略0.5mm、開口率を略30%とする。
第3の原料ガス噴出孔13dから噴射される噴射流は、図8に第3の噴射流16c及び第4の噴射流16dとして示される。
第3の噴射流16cが噴射されると、該第3の噴射流16cは熱フィラメント30aの第3の表面層30aa及び熱フィラメント31aの第5の表面層31aaに対し斜めから流入し、それぞれは、第3の乱流17c及び第4の乱流17dを発生する。
第3の乱流17c及び第4の乱流17dは流れの方向及び速さが時間的に激しく変化することから、原料ガスと第3及び第5の表面層30aa、31aaに存在する熱電子とを効果的に接触、混合、攪拌することが可能である。その結果、メタン(CH)と水素ガス(H)の混合ガスから大量のCHラジカル及び水素ラジカルHが発生する。
他方、第4の噴射流16dが噴射されると、例えば、非特許文献8に記載されているように、剥離流16eを誘発する。剥離流16eは、第4の表面層30abに第5の乱流17eを発生し、第6の表面層31abに第6の乱流17fを発生する。
第5の乱流17e及び第6の乱流17fは、流れの方向及び速さが時間的に激しく変化することから、原料ガスと第4及び第5の表面層30ab、31abに存在する熱電子とを効果的に接触、混合、攪拌することが可能である。その結果、メタン(CH)と水素ガス(H)の混合ガスから大量のCHラジカル及び水素ラジカルHが発生する。
前記第3及び第4の表面層30aa、30abの領域で発生したCHラジカル及び水素ラジカルHは、拡散現象により基板9の表面へ輸送される。また、前記第5及び第6の表面層31aa、31abの領域で発生したCHラジカル及び水素ラジカルHは、拡散現象により基板9の表面へ輸送される。
そして、CHラジカルはダイヤモンドの前駆体として、sp3混成軌道を有する炭素結合体(ダイヤモンド)とsp2混成軌道を有する炭素結合体(グラファイト)を形成する。水素ラジカルHは、基板表面及び膜中に形成されたsp3混成軌道を有する炭素結合体(ダイヤモンド)とsp2混成軌道を有する炭素結合体(グラファイト)が混在した結晶体から、原子状水素Hのsp3とsp2へのエッチング効果の違いによりグラファイト成分を優先的に排除する。その結果、ダイヤモンド結晶が形成される。
【0032】
次に、本発明の第2の実施形態に係わる熱フィラメントCVD装置の操作手順について、図7及び図8を参照して説明する。図5及び図6も参照する。熱フィラメント30a、31aはタンタルで形成される。
先ず、本発明の第2の実施形態に係わる熱フィラメントCVD装置の初期条件設定操作として、熱フィラメント30a、31aへの炭化タンタルの被覆成膜を行う。
図示しない真空ポンプにより、排気口10a及び排気口10bを介して、反応容器1内部を所定の真空度にする。次に、電源20の出力を熱フィラメント30a、31aに供給し、熱フィラメント30a、31aの温度を、例えば、略2,400℃に設定し、維持する。次に、図示しない原料ガスの供給源から原料ガスとして、メタンガスと水素を原料として、流量比を、例えば、水素流量/メタンガス流量=100/5とし、圧力を、例えば、略4kPaで所定の流量で供給する。そうすると、熱フィラメント30a、31aの表面に炭素系の膜が形成される。該炭素系の膜は炭化タンタル成分を含む膜となる。該炭素系の膜の形成時間が、例えば、約12時間経過後に、原料ガスの供給を停止する。そして、電源20の出力を、停止する。次に、反応容器1の内部を、一旦所定の真空度にする。次に、反応容器1の内部を大気に戻す。
次に、反応容器1の図示しない基板搬入搬出バルブを開いて、基板9を基板保持台6の主面6aに載置する。次に、基板搬入搬出バルブを閉じた後、図示しない真空ポンプにより、排気口10a及び排気口10bを介して、反応容器1内部を所定の真空度にする。
次に、電源20の出力を熱フィラメント30a、31aに供給し、基板9の表面温度を、例えば、1,000℃に設定する。
次に、基板9の表面を上記温度に加熱した状態で、以下に示す手順で水素ラジカルによる基板9の表面のクリーニングを行う。電源20の出力を熱フィラメント30a、31aに供給し、熱フィラメント30a、31aの温度を、例えば、略2,400℃に設定し、維持する。次に、図示しない原料ガスの供給源から水素ガスを適当流量で供給する。そうすると、熱フィラメント30a、31aが放出する熱電子により、水素が分解されて原子状水素Hが発生する。発生した原子状水素Hは拡散して基板9の表面に到達する。原子状水素Hの作用により、基板9の表面がクリーニングされ、基板表面は水素で終端された状態になる。
なお、原子状水素Hの作用には、エッチング、気相中での原料ガスの解離(成膜前駆体の生成)、表面の欠陥修復、結晶化促進等があることが知られている。
基板9の表面のクリーニングの時間は数分以内でよい。ここでは、例えば、3分間の原子状水素Hによる基板9の表面のクリーニングを行う。
【0033】
次に、電源20の出力を、一旦、ゼロに戻す。次に、図示しない原料ガスの供給源から原料ガスとして、例えば、メタンガスと水素を選び供給する。ガス供給条件は、例えば、流量比を水素流量/メタンガス流量=100/1とする。図示しないメタンガス源及び図示しない水素ガス源から、それぞれ図示しないメタンガス及び水素ガスのマスフローコントローラで所定の流量を制御されたメタンガス及び水素ガスを、原料ガス供給口14を介して原料ガス噴出孔13dから噴出させる。
なお、ここでは、炭素含有ガスとして、メタン(CH)選ぶが、エタン(C)、プロパン(C)、エチレン(C)、プロピレン(C)及びアセチレン(C)から選んでもよい。高品質ダイヤモンドの形成の観点からは、sp3混成軌道を有するメタン(CH)、エタン(C)、プロパン(C)から選ぶのが好ましい。
次に、図示しない排気バルブ制御装置により図示しない排気バルブの開閉度を制御し、反応容器1の内部圧力を、数kPaに保つ。ここでは、例えば、4kPaに設定し、維持する。
そうすると、図8に示されるように、第3の原料ガス噴出孔13dから噴射された原料ガスは、第3及び第4の噴射流16c、16dとして噴射される。
第3の噴射流16cは、熱フィラメント30aに斜めに入射して第3の表面層30aaに第3の乱流17cを発生する。また、熱フィラメント31aに斜めに入射して第5の表面層31aaに第4の乱流17dを発生する。第3及び第4の乱流17c、17dは流れの方向及び速さが時間的に激しく変化することから、原料ガスと第3及び第5の表面層30aa、31aaに存在する熱電子とを効果的に接触、混合、攪拌することできる。その結果、メタン(CH)と水素ガス(H)の混合ガスから大量のCHラジカル及び水素ラジカルHが発生する。該CHラジカル及び該原子状H等は拡散して、基板9の表面に到達する。
同様に、第3の原料ガス噴出穴13dから第4の噴射流16dとして噴射された原料ガスは、第4及び第6の表面層30ab、31abに対し、第5及び第6の乱流17e、17fとして流入する。第5及び第6の乱流17e、17fは流れの方向及び速さが時間的に激しく変化することから、原料ガスと第4及び第6の表面層30ab、31abに存在する熱電子とを効果的に接触、混合、攪拌することできる。その結果、メタン(CH)と水素ガス(H)の混合ガスから大量のCHラジカル及び水素ラジカルHが発生する。該CHラジカル及び該原子状H等は拡散して、基板9の表面に到達する。
基板表面に化学吸着したCHラジカルの一部分は、図6に示されるように、表面化学反応により、C-Cの形で結合する。熱フィラメント30a、31aで生成された高濃度の原子状Hは、膜表面及び膜中のH成分及び結合の弱い炭素成分を引き抜く。引き抜きされたC及びH成分はガスに成って排出される。基板上では、C-C結合が正四面体構造で形成され、ダイヤモンドが成長する、と考えられる。
【0034】
次に、ダイヤモンド膜の厚みは成膜時間に比例するので、上記電源20の出力供給開始から所定の時間が経過した時点で、その出力をゼロにする。製膜時間は、予め取得されたデータに基づいて決められる。ここでは、例えば、30分~120分、例えば60分とする。
なお、製膜時間は、熱フィラメント30a、31aと基板保持台6の間隔、基板温度、メタンガスの流量、水素ガスの流量、圧力、供給電力等の関係に係わるデータを、予め実験で把握し、そのデータを基に決められる。
目的とするダイヤモンド膜の製膜が終了後、上記原料ガスの供給を停止し、反応容器1の内部を、一旦、高い真空度に真空引きする。その後、反応容器1を大気条件に戻す。反応容器1が大気条件に戻され、基板9の温度が室温になった後、図示しない基板搬入搬出バルブを開とし、基板9を取り出す。反応容器1から取り出された基板9に、均一なダイヤモンド膜が形成されている、ことを確認する。
【0035】
以上の説明で示されたように、本発明の第2の実施形態に係わる熱フィラメントCVD装置は、熱フィラメントとしてタンタル(Ta)で製作された断面形状が略長方形の長尺薄板が隣り合う前記長尺薄板同士で前記長尺薄板の幅方向が前記基板保持台の前記主面に対し互いに反対する方向に傾斜して配置され、原料ガスを前記基板保持台の前記主面の垂直方向に噴射される構成を有することから、熱フィラメントの表面積の増大が図ることが可能となり、更に、熱フィラメントの表面と原料ガスの効果的な接触が可能となり、熱電子と該原料ガス分子との衝突・接触・混合を効果的に発生できる、という効果を奏する。
即ち、従来の熱フィラメントCVD装置では、高温度の熱フィラメントの表面積を増大化すること(ダイヤモンド形成条件B)及び原料ガスを熱フィラメント表面層近傍に効果的に流入させ、且つ攪拌すること(ダイヤモンド形成条件C)という条件を満たすことが困難であるが、本発明の第2の実施形態に係わる熱フィラメントCVD装置は可能である。これにより、ダイヤモンドの合成に必要なCHラジカル及び原子状Hの高密度生成及び大面積化が可能である、という効果を奏する。その結果、高速で大面積に、且つ高品質のダイヤモンド成長が可能となり、上記課題を解消可能という効果を奏する。
【符号の説明】
【0036】
1・・・反応容器、
2・・・熱フィラメント電極、
3a・・・熱フィラメント、
3b・・・第1の金属棒、
3c・・・第2の金属棒、
3aa・・・第1の表面層、
3ab・・・第2の表面層、
5a、bb・・・第1及び第2の棒バネ式張力付与手段、
6・・・基板保持台、
6a・・・基板保持台の主面、
9・・・基板、
13c・・・空洞、
13a・・・第1の原料ガス噴出孔
13b・・・第2の原料ガス噴出孔、
13d・・・第3の原料ガス噴出孔、
15a・・・第1の噴射流、
15b・・・第2の噴射流、
14・・・原料ガス供給口、
16a・・・第1の斜め入射流、
16b・・・第2の斜め入射流、
16c・・・第3の噴射流、
16d・・・第4の噴射流、
16e・・・剥離流、
17a・・・第1の乱流、
17b・・・第2の乱流
17c・・・第3の乱流、
17d・・・第4の乱流、
17e・・・第5の乱流、
17f・・・第6の乱流、
20・・・電源、
22・・・放射温度計、
22a・・・温度測定用石英窓、
30a・・・熱フィラメント、
31a・・・熱フィラメント、
30aa・・・第3の表面層、
30ab・・・第4の表面層、
31aa・・・第5の表面層、
31ab・・・第6の表面層。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8