(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024019560
(43)【公開日】2024-02-09
(54)【発明の名称】鉛蓄電池用有機防縮剤
(51)【国際特許分類】
H01M 4/62 20060101AFI20240201BHJP
C08H 7/00 20110101ALI20240201BHJP
【FI】
H01M4/62 B
C08H7/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023211603
(22)【出願日】2023-12-15
(62)【分割の表示】P 2023505263の分割
【原出願日】2022-02-21
(31)【優先権主張番号】P 2021036680
(32)【優先日】2021-03-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112427
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 芳洋
(72)【発明者】
【氏名】進藤 大輝
(72)【発明者】
【氏名】西盛 嘉人
(72)【発明者】
【氏名】相見 光
(72)【発明者】
【氏名】河村 昌信
(57)【要約】
【課題】 鉛蓄電池の充電受入性を維持しつつ、寿命、容量、及び放電特性のバランスに優れた有機防縮剤を提供する。
【解決手段】 スルホメチル化クラフトリグニンを含有した鉛蓄電池用有機防縮剤であって、前記スルホメチル化クラフトリグニンに含まれる有機態S含量が1.5~3.8質量%である。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スルホメチル化クラフトリグニンを含有した鉛蓄電池用有機防縮剤であって、
前記スルホメチル化クラフトリグニンに含まれる有機態S含量が1.5~3.8質量%であり、
前記スルホメチル化クラフトリグニンの重量平均分子量が8,000以上11,200以下であることを特徴とする鉛蓄電池用有機防縮剤。
【請求項2】
前記有機態S含量が1.5~3.0質量%であることを特徴とする、請求項1に記載の鉛蓄電池用有機防縮剤。
【請求項3】
請求項1に記載の鉛蓄電池用有機防縮剤の製造方法であって、クラフトリグニンをスルホメチル化する工程を含む、鉛蓄電池用有機防縮剤の製造方法。
【請求項4】
請求項2に記載の鉛蓄電池用有機防縮剤の製造方法であって、クラフトリグニンをスルホメチル化する工程を含む、鉛蓄電池用有機防縮剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉛蓄電池用有機防縮剤に関する。
【背景技術】
【0002】
鉛蓄電池は、比較的安価であり、二次電池として性能が安定しているので、自動車用電池、ポータブル機器用電池、コンピュータのバックアップ用電池、通信用電池などとして広く使用されてきた。
【0003】
鉛蓄電池は充電放電が繰り返される中で放電状態から充電状態に変化する際に、負極活物質が収縮して比表面積が減少し、放電性能が悪化する。また、負極活物質において、放電反応では金属鉛が電子を放出して硫酸鉛に変化し、充電反応では硫酸鉛が電子を得て金属鉛に変化するが、硫酸鉛が粗大化すると、充電反応においては硫酸鉛が溶解し難くなり、充電性能が悪化する。
【0004】
鉛蓄電池の負極活物質の収縮を防止するために負極活物質に添加する有機防縮剤として、木材より抽出されるリグニンを添加することが提案されている(特許文献1)。
【0005】
また、鉛蓄電池用のリグニンとしてはいくつかの種類のリグニンが開示されている(特許文献2、3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭62-145655号公報
【特許文献2】特開2006-196191号公報
【特許文献3】特開2007-165273号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
鉛蓄電池には様々な性能が要求されるが、一般にリグニンを鉛蓄電池の負極に添加した場合、低温急放電性能を改善する、あるいはサルフェーションの抑制などの効果が得られるものの、その性質上充電受入性が低下するという問題がある。
【0008】
本発明の目的は、上記した鉛蓄電池の充電受入性を維持しつつ、寿命、容量、及び放電特性のバランスに優れた有機防縮剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
[1]スルホメチル化クラフトリグニンを含有した鉛蓄電池用有機防縮剤であって、前記スルホメチル化クラフトリグニンに含まれる有機態S含量が1.5~3.8質量%であり、前記スルホメチル化クラフトリグニンの重量平均分子量が8,000以上11,200以下であることを特徴とする鉛蓄電池用有機防縮剤。
[2]前記有機態S含量が1.5~3.0質量%であることを特徴とする、[1]に記載の鉛蓄電池用有機防縮剤。
[3][1]に記載の鉛蓄電池用有機防縮剤の製造方法であって、クラフトリグニンをスルホメチル化する工程を含む、鉛蓄電池用有機防縮剤の製造方法。
[4][2]に記載の鉛蓄電池用有機防縮剤の製造方法であって、クラフトリグニンをスルホメチル化する工程を含む、鉛蓄電池用有機防縮剤の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、鉛蓄電池の充電受入性を維持しつつ、寿命、容量、及び放電特性のバランスに優れた有機防縮剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。しかし、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではない。また、本発明において「~」は端値を含む。すなわち「X~Y」はその両端の値XおよびYを含む。
【0012】
本発明の鉛蓄電池用有機防縮剤は、スルホメチル化クラフトリグニンを含有するものであり、このスルホメチル化クラフトリグニンに含まれる有機態S含量が1.5~3.8質量%である。
【0013】
本発明の有機防縮剤に用いるリグニンとしては、クラフトリグニンに対してスルホメチル化によりスルホン酸基を導入して得られるスルホメチル化クラフトリグニンを用いる。
【0014】
(クラフトリグニン)
クラフトリグニン(KraftLignin)は、別名としてチオリグニン(ThioLignin)、サルフェートリグニン(SulphateLignin)とも呼ばれる。クラフトリグニンとしては、調製したものを使用してもよく、市販品を用いてもよい。クラフトリグニンの調製方法としては、クラフトリグニンのアルカリ溶液や、クラフトリグニンのアルカリ溶液をスプレードライして粉末化し、粉末化クラフトリグニンを得る方法や、クラフトリグニンのアルカリ溶液を酸で沈殿させて酸沈殿クラフトリグニンを得る方法が挙げられる。
【0015】
クラフトリグニンのアルカリ溶液は、例えば特開2000-336589に記載されているような公知の方法により得られるが、これらの方法に限定されるものではない。
【0016】
原料の木材としては、例えば、広葉樹、針葉樹、雑木、タケ、ケナフ、バガス、パーム油搾油後の空房が使用できる。
【0017】
クラフトリグニンのアルカリ溶液を酸で沈殿させた酸沈殿クラフトリグニンとしては、WO2006/038863、WO2006/031175、WO2012/005677に記載されている方法などにより得られる粉末状の酸沈殿クラフトリグニンを用いることができるが、これらの方法に限定されるものではない。
【0018】
(スルホメチル化クラフトリグニン)
本発明において用いられるスルホメチル化クラフトリグニンは、有機態S含量が1.5~3.8質量%であり、より好ましくは1.5~3.0質量%である。上記上限値より有機態S含量が多すぎると、充電受入性が悪化する虞があり、上記下限値より有機態S含量が少なすぎると容量、放電特性、寿命が悪化する虞がある。
【0019】
本発明におけるスルホメチル化クラフトリグニンに含まれる有機態S含量とは、リグニンの固形物量に対する-SO3M(但し、Mは、水素原子、一価金属塩、又は二価金属塩を示す)で表されるスルホン酸(塩)基に含有される硫黄原子及び、リグニンの固形物量に対するクラフトリグニン骨格中に含有される硫黄原子の合計量をいう。より詳細には、下記数式(1)から算出する値である。
【0020】
数式(1):
スルホメチル化クラフトリグニンの有機態S含量(質量%)=全S含量(質量%)-無機態S含量(質量%)
(数式(1)中、S含量は、いずれもリグニンの固形物量に対するS含量を示す。)
【0021】
数式(1)中、全S含量は、リグニンの誘導体化物に含まれる全てのS含量であり、ICP発光分光分析法により定量し得る。また、無機態S含量は、イオンクロマト法により定量したSO3含量、S2O3含量及びSO4含量の合計量として算出し得る。但し、無機態S含量は、酸化物の含量そのものを基に算出するのではなく、酸化物中のSの含量を基に算出する。
【0022】
クラフトリグニンのスルホメチル化反応では、一般的にリグニンのC6-C3ユニットに対して、下記一般式(1)に示す位置にスルホン酸(塩)基が導入される。一般式(1)は、リグニンの部分構造であるC6-C3ユニットを示す。即ち、左側の矢印の反応ではα位にスルホン酸(塩)基が導入されており、一般にスルホン化と呼ばれる。一方、右側の矢印の反応ではα位以外に芳香核の5位にホルムアルデヒドを介してスルホン酸(塩)基が導入される。
【0023】
【化1】
(一般式(1)中、Mは、水素原子、一価金属塩、又は二価金属塩を示す)
【0024】
スルホメチル化クラフトリグニンの製造は、公知の方法で行えばよく、例えば、クラフトリグニンと亜硫酸塩及びアルデヒド類を反応させることによって行うことができる。
【0025】
リグニンをスルホメチル化する方法の一例が、米国特許第2,680,113号に開示されている。この方法において、リグニンのスルホメチル化反応は、50~200℃の温度範囲で行われ、90~170℃の温度範囲で行われることが好ましい。また、スルホメチル化反応時のpHは、8以上が好ましい。
【0026】
添加する亜硫酸塩の量は、リグニン固形物量に対して2.0~16.0質量%が好ましく、より好ましくは2.0~11.0質量%である。亜硫酸塩の添加量が前記範囲未満であると、スルホン基がリグニンに導入されない。一方、過剰に亜硫酸塩が添加された場合、過剰にスルホン基がリグニンに導入され、充電受入性が悪化する虞がある。
【0027】
アルデヒド類としては、ホルムアルデヒドが好ましい。添加するアルデヒドの量はリグニン固形物含量に対して0.5~4.0質量%が好ましく、より好ましくは0.5~3.0質量%である。ホルムアルデヒドが前記範囲でないとスルホン基がリグニンに導入されない。
【0028】
本発明に用いるスルホメチル化クラフトリグニンの重量平均分子量は、8,000以上16,000以下であることが好ましい。重量平均分子量が上記上限値より大きい場合は、充電受入性が悪化する虞がある。
【0029】
本発明においては、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)にて測定される。GPCの測定は、プルラン換算する公知の方法にて、下記の条件にて行えばよい。
測定装置;東ソー製
使用カラム;Shodex Column OH-pak SB-806HQ、SB-804HQ、SB-802.5HQ
溶離液;四ホウ酸Na1.0%、イソプロピルアルコール0.3%の水溶液
溶離液流速;1.00mL/min
カラム温度;50℃
測定サンプル濃度;0.2質量%
標準物質;プルラン(昭和電工製)
検出器;RI検出器(東ソー製)
検量線;プルラン基準
【0030】
本発明の有機防縮剤は主に鉛蓄電池の負極板に添加される。有機防縮剤の固形分の添加率は通常鉛粉に対して0.02~1.0質量%である。
【0031】
本発明の鉛蓄電池用有機防縮剤を使用した鉛蓄電池は、自動車用電池、ポータブル機器用電池、コンピュータのバックアップ用電池、通信用電池、等に使用することができる。
【実施例0032】
以下に実施例を挙げ、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例により制限されるものではなく、前・後記述の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。なお、例中特に断りの無い限り%は質量%を、また、部は重量部を示す。
【0033】
鉛蓄電池の負極における充電反応(式(1))と放電反応(式(2))を以下に示す。
【化2】
【0034】
<サイクリックボルタンメトリー法>
本発明における実施例は作用極、対極、参照電極の三電極系を用いたサイクリックボルタンメトリー(CV)法にて実施した。CV法では作用極の電位を一定範囲で往復させ、その時の電流を観測することで、CV曲線(縦軸:電位、横軸:電流)が得られる。電極の電位を正に走査していくと、電極付近の還元体から電子移動がおこり、酸化電流が流れる。電子移動が進行し、ほとんどが酸化体になると、酸化電流が減り、CV曲線において上に凸のピークを形成する。電位を負に走査していくと電極から酸化体への電子移動が生じて、還元電流が流れる。やがて還元電流が減少し、下に凸のピークが形成される。この電位走査を繰り返すことで酸化反応と還元反応を繰り返すことができる。鉛作用極の表面においては、還元電流が流れる場合、上記式(1)に示す充電反応が生じ、酸化電流が流れる場合、上記式(2)に示す放電反応が生じる。CV曲線における酸化電流の面積が負極における放電量、還元電流の面積が負極における充電量に相当する。
【0035】
<サイクリックボルタンメトリーの実験条件>
セル:プレート電極評価セルVM-2S(株式会社イーシーフロンティア製)
作用極:鉛平板(株式会社スタンダードテストピース製、板厚:0.5mm、半径:2.5mm、純度:99.99%)
対極:鉛平板(株式会社スタンダードテストピース製、板厚:0.5mm、純度:99.99)
参照電極:Ag/AgCl参照電極(株式会社イーシーフロンティア製)
電解液:有機防縮剤(実施例及び比較例)を20ppmになるよう溶解させた37%希硫酸(比重1.270(25℃))
前処理:-700mV、30分
電位幅:-700mV→0mV→-1000mV→-700mV(1サイクル)
掃引速度:50mV/min
サイクル数:8,000回
【0036】
<クラフトリグニンの分離>
公知の方法により、クラフトリグニンを分離した。すなわち、針葉樹(N材)クラフト蒸解黒液に二酸化炭素を通気して黒液のpHを10まで下げ、1次濾過を実施した。再度水中に再分散させ、硫酸でpH2まで下げ、2次濾過を実施し、水洗後乾燥させてN材クラフトリグニンを得た。
【0037】
<製造例1>
温度計、撹拌装置、還流冷却器を付属した1LオートクレーブにN材クラフトリグニンを固形分17%となるようNaOHでpH10に溶解した溶液500部、亜硫酸ナトリウム12.8部、37%ホルムアルデヒド溶液9.0部を仕込み、撹拌下にて140℃で120分反応した。室温まで冷却後、N材スルホメチル化クラフトリグニン(A-1)を得た。
【0038】
<製造例2>
温度計、撹拌装置、還流冷却器を付属した1LオートクレーブにN材クラフトリグニンを固形分17%となるようNaOHでpH10に溶解した溶液500部、亜硫酸ナトリウム8.5部、37%ホルムアルデヒド溶液6.0部を仕込み、撹拌下にて130℃で120分反応した。室温まで冷却後、N材スルホメチル化クラフトリグニン(A-2)を得た。
【0039】
<製造例3>
温度計、撹拌装置、還流冷却器を付属した1LオートクレーブにN材クラフトリグニンを固形分17%となるようNaOHでpH10に溶解した溶液500部、亜硫酸ナトリウム8.5部、37%ホルムアルデヒド溶液6.0部を仕込み、撹拌下にて170℃で240分反応した。室温まで冷却後、N材スルホメチル化クラフトリグニン(A-3)を得た。
【0040】
<製造例4>
温度計、撹拌装置、還流冷却器を付属した1LオートクレーブにN材クラフトリグニンを固形分17%となるようNaOHでpH10に溶解した溶液500部、亜硫酸ナトリウム4.3部、37%ホルムアルデヒド溶液3.0部を仕込み、撹拌下にて160℃で120分反応した。室温まで冷却後、N材スルホメチル化クラフトリグニン(A-4)を得た。
【0041】
<製造例5>
温度計、撹拌装置、還流冷却器を付属した1LオートクレーブにN材クラフトリグニンを固形分17%となるようNaOHでpH10に溶解した溶液500部、亜硫酸ナトリウム2.1部、37%ホルムアルデヒド溶液1.5部を仕込み、撹拌下にて150℃で120分反応した。室温まで冷却後、N材スルホメチル化クラフトリグニン(A-5)を得た。
【0042】
<製造例6>
温度計、撹拌装置、還流冷却器を付属した1LオートクレーブにN材クラフトリグニンを固形分17%となるようNaOHでpH10に溶解した溶液500部、亜硫酸ナトリウム3.2部、37%ホルムアルデヒド溶液2.3部を仕込み、撹拌下にて140℃で120分反応した。室温まで冷却後、N材スルホメチル化クラフトリグニン(A-6)を得た。
【0043】
<製造例7>
温度計、撹拌装置、還流装置を備えたガラス反応容器にN材クラフトリグニンを固形分17%となるようNaOHでpH10に溶解した溶液500部、亜硫酸ナトリウム3.2部、37%ホルムアルデヒド溶液2.3部を仕込み、撹拌下にて95℃で24時間反応した。室温まで冷却後、N材スルホメチル化クラフトリグニン(A-7)を得た。
【0044】
<比較例1>
N材クラフトリグニンを固形分17%となるようNaOHでpH10に溶解し、N材クラフトリグニン溶解液(B-1)を得た。
【0045】
<比較例2>
WO2012/005677の実施例に記載されている方法に倣い、針葉樹クラフト蒸解黒液に代えて広葉樹クラフト蒸解黒液から沈殿クラフトリグニンを得た。得られた沈殿クラフトリグニンを48%NaOHで溶解し、pH10、固形分濃度20%のクラフトリグニン溶液を得た。
温度計、撹拌装置、還流装置を備えたステンレス製反応容器に、得られたクラフトリグニン溶液を100部、水400部、37%ホルムアルデヒド液(和光純薬製)7.0部、亜硫酸ナトリウム(和光純薬製)10部を仕込み、撹拌下で140℃に昇温した。昇温後140℃に保持した状態で2時間反応させた。その後冷却し、pH10、固形分濃度20%のスルホメチル化されたクラフトリグニン溶液を得た後、スプレードライにより粉末化物のリグニン(B-2)を得た。
【0046】
<比較例3>
温度計、撹拌装置、還流冷却器を付属した1LオートクレーブにN材クラフトリグニンを固形分17%となるようNaOHでpH10に溶解した溶液500部、亜硫酸ナトリウム17.0部、37%ホルムアルデヒド溶液12.0部を仕込み、撹拌下にて140℃で120分反応した。室温まで冷却後、N材スルホメチル化クラフトリグニン(B-3)を得た。
【0047】
<比較例4>
温度計、撹拌装置、還流装置を備えたガラス反応容器にN材クラフトリグニンを固形分17%となるようNaOHでpH10に溶解した溶液500部、亜硫酸ナトリウム17.0部、37%ホルムアルデヒド溶液12.0部を仕込み、撹拌下にて100℃で24時間反応した。室温まで冷却後、N材スルホメチル化クラフトリグニン(B-4)を得た。
【0048】
<比較例5>
バニレックスN(以後B-5、日本製紙社製、濃度95%、主成分:部分脱スルホン化サルファイトリグニン)を用いた。
【0049】
製造例1~7で得られたスルホメチル化クラフトリグニンおよび比較例1~5のクラフトリグニン、スルホメチル化クラフトリグニン、部分脱スルホン化サルファイトリグニンの組成を表1に示す。
【0050】
【表1】
表1中の%は、各製造例で得られた組成物の固形分に対する質量%を表す。
【0051】
<CV試験結果の解析方法>
充放電量が最大値となるサイクル数とその時の最大放電量を求め、2,000サイクル目におけるCV曲線の充電電流最大値を充電量で割った数値を充電受入性とした。
【0052】
製造例1~7で得られたスルホメチル化クラフトリグニン及び比較例1~5で得られたクラフトリグニン、スルホメチル化クラフトリグニン、部分脱スルホン化サルファイトリグニンのサイクリックボルタンメトリー試験結果を、実施例1~7、比較例1~5として、表2に示す。
【0053】
【表2】
表2中の%は、比較例1(B-1)の性能を100%としたときの性能差を表す。
【0054】
表2に示す通り、本発明の鉛蓄電池用有機防縮剤の範囲に含まれる実施例1~4(A-1~A-4)は比較例1(B-1)及び比較例2(B-2)の鉛蓄電池用有機防縮剤と比較して、充放電量が最大となるサイクル数と最大放電量が向上しており、充電受入性がほぼ同等であった。実施例1~4は比較例3~5(B-3~B-5)と比較して、充電受入性に優れるものであり、充放電量が最大となるサイクル数及び最大放電量と、充電受入性とのバランスに優れるものであった。加えて、本発明の鉛蓄電池用有機防縮剤の範囲に含まれる実施例5~7(A-5~A-7)は比較例1(B-1)及び比較例2(B-2)の鉛蓄電池用有機防縮剤と比較して、充放電量が最大となるサイクル数、最大放電量及び充電受入性のすべてが向上しており、比較例3~5と比較して充電受入性に優れるものであり、充放電量が最大となるサイクル数及び最大放電量と、充電受入性とのバランスに優れるものであった。