(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024019572
(43)【公開日】2024-02-09
(54)【発明の名称】導電性積層体及び導電性積層体の製造方法
(51)【国際特許分類】
B32B 9/00 20060101AFI20240201BHJP
【FI】
B32B9/00 A
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023212130
(22)【出願日】2023-12-15
(62)【分割の表示】P 2019124245の分割
【原出願日】2019-07-03
(71)【出願人】
【識別番号】000108410
【氏名又は名称】デクセリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113424
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 信博
(74)【代理人】
【識別番号】100185845
【弁理士】
【氏名又は名称】穂谷野 聡
(72)【発明者】
【氏名】若生 仁志
(57)【要約】
【課題】高透過率と低電気抵抗を両立しうる導電性積層体及びこれを備えた各種光学装置を提供する。
【解決手段】導電性積層体1は、透明基板2と、透明基板2の少なくとも1面上に、亜鉛を含まない第1の透明材料層3、第1の透明材料層3に接し、銀を主成分とする金属層4、金属層4に接する第2の透明材料層5が、透明基板2側からこの順に積層された導電性積層体において、透明基板2の厚みが20μm以上200μm以下であり、金属層4は、銀の原子比率が90%以上であり、第2の透明材料層5が亜鉛を含む金属酸化物で構成され、第1の透明材料層3の厚みが30nm以上80nm以下であり、第2の透明材料層5の厚みが30nmより厚く70nm以下であり、第1の透明材料層3と第2の透明材料層5の材料が異なり、金属層4の厚みが7nm以上15nm未満であって、導電性積層体1全体の積層方向における透過率が90%以上であり、第2の透明材料層5が設けられた表面を測定面とする表面抵抗が30Ω/□以下である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基板と、上記透明基板の少なくとも1面上に、亜鉛を含まない第1の透明材料層、上記第1の透明材料層に接し、銀を主成分とする金属層、上記金属層に接する第2の透明材料層が、上記透明基板側からこの順に積層された導電性積層体において、
上記透明基板の厚みが20μm以上200μm以下であり、
上記金属層は、銀の原子比率が90%以上であり、
上記第2の透明材料層が亜鉛を含む金属酸化物で構成され、
上記第1の透明材料層の厚みが30nm以上80nm以下であり、
上記第2の透明材料層の厚みが30nmより厚く70nm以下であり、
上記第1の透明材料層と上記第2の透明材料層の材料が異なり、
上記金属層の厚みが7nm以上15nm未満であって、
上記導電性積層体全体の上記積層方向における透過率が90%以上であり、
上記第2の透明材料層が設けられた表面を測定面とする表面抵抗が30Ω/□以下である
導電性積層体。
【請求項2】
上記第1の透明材料層は、屈折率が1.8以上である、請求項1に記載の導電性積層体。
【請求項3】
上記第1の透明材料層がNb、Ti、Zr、Hf、Ta、W、Moのうち、少なくともいずれか一つの酸化物もしくは複数の元素を含む複合酸化物である、請求項1又は2に記載の導電性積層体。
【請求項4】
透明基板の少なくとも1面上に、亜鉛を含まない第1の透明材料層、上記第1の透明材料層に接し、銀を主成分とする金属層、上記金属層に接する第2の透明材料層を、上記透明基板側からこの順に積層する工程を有し、
上記透明基板の厚みが20μm以上200μm以下であり、
上記金属層は、銀の原子比率が90%以上であり、
上記第2の透明材料層が亜鉛を含む金属酸化物で構成され、
上記第1の透明材料層の厚みが30nm以上80nm以下であり、
上記第2の透明材料層の厚みが30nmより厚く70nm以下であり、
上記第1の透明材料層と上記第2の透明材料層の材料が異なり、
上記金属層の厚みが7nm以上15nm未満であって、
上記導電性積層体全体の上記積層方向における透過率が90%以上であり、
上記第2の透明材料層が設けられた表面を測定面とする表面抵抗が30Ω/□以下である
導電性積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、例えばタッチパネル、調光素子、電気泳動型光学素子、発光素子などに用いられる導電性積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、透明で導電性のある材料は種々の光学装置に利用されてきた。例示するなら画像素子デバイス上に積層され、静電容量の変化などで押された位置を検出するタッチパネルや、エレクトロクロミズム現象を利用して外光の強い光を電気的に可変的に調整する調光素子、エレクトロルミネッセンス現象を利用した発光素子、液中に分散させた電荷をもつ微粒子を電界にて操作する電気泳動型光学素子などが挙げられる。
【0003】
これらの光学装置に用いる電極は光学的に透明であることが求められており、且つ、動作上の課題から電気伝導度を高める必要がある。
【0004】
そのために、透明で電気抵抗の少ない材料が求められている。この種の材料としては、一般にはインジウムと錫の複合酸化物であるITOが広く使われており、すでに市場において大きな位置を占めている。
【0005】
しかし、ITOは抵抗値を低く、透明性を高めるためには高温での成膜もしくは成膜後に熱処理を加える必要があり、熱に弱い基板及び素子に用いる場合には課題があった。
【0006】
そのため、非加熱で抵抗値が低く、透明性の高い材料の開発がすすめられZn-O、In-Zn-O(IZO)、Al-Zn-O(AZO)、Sn-Zn-O(ZTO)などの亜鉛系酸化物をITOの代替材料として用いることが検討されている。
【0007】
亜鉛系酸化物のうちAZO、ZTOは人体に影響があると懸念されているインジウムを含まないためより好まれている。
【0008】
一方、プラズマテレビなどでは装置の構成上、画面より電磁波が放出されてしまう。その電磁波を吸収するために各種透明材料が開発されてきたが、非常に薄い銀薄膜を高屈折率の透明材料で挟んだ積層体が非常に効果的であることが分かり幅広く研究・開発が行われた。
【0009】
この積層体は銀で導電性を付与し、高屈折率の材料と銀との間での光干渉効果で表面反射を抑制して透過率を高めることで高透過、低抵抗を実現している。
【0010】
そして、この積層体を上記の光学装置などに応用する例もみられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Appl.Phys.A(2014) 116:1287-1291
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
このように、透過性と導電性を併せ持つ透明導電膜は様々な応用例が考えられるが、上記素子の省電力、高速動作の実現にはさらなる低抵抗・高透過率が求められている。しかしながら、ITOなどの金属酸化物では抵抗値を下げるために膜の厚みを厚くする必要があり、膜を厚くすると透過率が下がってしまい十分な特性を得ることが難しかった。
【0014】
また、材料の組み合わせや膜厚みの設計により高透過で低抵抗の積層体は光学シミュレーション上では実現できており、シミュレーション上においては銀の膜により光が吸収されてしまうため銀の厚みを薄くすることが好ましい。
【0015】
しかし、実際には成膜を行うと銀の厚みを変えても光の吸収量は変化せず厚みとは関係ないところでの光吸収が主要因となり全体の透過率に大きな影響を及ぼしている。
【0016】
そのため、90%を超える透過率及び20Ω/□以下の表面抵抗を有する透明導電膜を得ることは難しかった。
【0017】
そこで、本技術はかかる問題点を鑑みてなされたもので、その目的は高透過率と低電気抵抗を両立しうる導電性積層体及びこれを備えた各種光学装置、導電性積層体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、基板側より第1の透明材料層、銀を主成分とする金属層、第2の透明材料層を順次積層させる導電性積層体において、第1の透明材料層が亜鉛を含まない金属酸化物で構成されており、第2の透明材料層が亜鉛を含む金属酸化物で構成されていることが積層体の光吸収を抑制し、高透過率、低電気抵抗を実現しうることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0019】
すなわち、本技術に係る導電性積層体は、透明基板と、上記透明基板の少なくとも1面上に、亜鉛を含まない第1の透明材料層、上記第1の透明材料層に接し、銀を主成分とする金属層、上記金属層に接する第2の透明材料層が、上記透明基板側からこの順に積層された導電性積層体において、上記透明基板の厚みが20μm以上200μm以下であり、上記金属層は、銀の原子比率が90%以上であり、上記第2の透明材料層が亜鉛を含む金属酸化物で構成され、上記第1の透明材料層の厚みが30nm以上80nm以下であり、上記第2の透明材料層の厚みが30nmより厚く70nm以下であり、上記第1の透明材料層と上記第2の透明材料層の材料が異なり、上記金属層の厚みが7nm以上15nm未満であって、上記導電性積層体全体の上記積層方向における透過率が90%以上であり、上記第2の透明材料層が設けられた表面を測定面とする表面抵抗が30Ω/□以下である。
【0020】
また、本技術に係る導電性積層体の製造方法は、透明基板の少なくとも1面上に、亜鉛を含まない第1の透明材料層、上記第1の透明材料層に接し、銀を主成分とする金属層、上記金属層に接する第2の透明材料層を、上記透明基板側からこの順に積層する工程を有し、上記透明基板の厚みが20μm以上200μm以下であり、上記金属層は、銀の原子比率が90%以上であり、上記第2の透明材料層が亜鉛を含む金属酸化物で構成され、上記第1の透明材料層の厚みが30nm以上80nm以下であり、上記第2の透明材料層の厚みが30nmより厚く70nm以下であり、上記第1の透明材料層と上記第2の透明材料層の材料が異なり、上記金属層の厚みが7nm以上15nm未満であって、上記導電性積層体全体の上記積層方向における透過率が90%以上であり、上記第2の透明材料層が設けられた表面を測定面とする表面抵抗が30Ω/□以下である。
【発明の効果】
【0021】
本技術によれば、基板上に亜鉛元素を含まない第1の透明材料を形成したのちに銀もしくは銀合金を成膜し、さらに亜鉛元素を含む第2の透明材料を形成することにより界面での光吸収層の生成を抑制し、低電気抵抗で高透過率を有する導電性積層体を提供する。
【0022】
その結果、本技術によれば、低電気抵抗で高透過率を有する導電性積層体を提供することができ、これにより省電力で高透過率を有する高性能のタッチパネル、調光素子、電気泳動素子、発光素子等の各種光学装置の電極として適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】
図1は技術が適用された導電性積層体の構成を模式的に示す断面図である。
【
図2】
図2は、薄膜形成装置の内部構成を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本技術が適用された導電性積層体及び導電性積層体の製造方法について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本技術は、以下の実施形態のみに限定されるものではなく、本技術の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変更が可能であることは勿論である。また、図面は模式的なものであり、各寸法の比率等は現実のものとは異なることがある。具体的な寸法等は以下の説明を参酌して判断すべきものである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることは勿論である。
【0025】
[導電性積層体]
図1は技術が適用された導電性積層体1の構成を模式的に示す断面図である。導電性積層体1は、
図1に示すように、透明基板2と、透明基板2の少なくとも1面上に、第1の透明材料層3、銀を主成分とする金属層4、第2の透明材料層5が、透明基板2側からこの順に積層された導電性積層体1であり、第1の透明材料層3が亜鉛を含まない金属酸化物で構成されており、第2の透明材料層5が亜鉛を含む金属酸化物で構成されている。
【0026】
導電性積層体1の上記各層3~5を成膜する上では、真空成膜技術の一つであるスパッタリングを用いることができる。本発明者はスパッタリングで各種透明材料と銀を積層させ検討したところ、光吸収を生じさせる吸収層(以下、「光吸収層」という。)が透明材料と銀の界面にて形成されていることを見出した。さらに、透明材料と銀の界面は、第1の透明材料層3と金属層4を構成する銀の間と、金属層4を構成する銀と第2の透明材料層5の間の2か所が存在するが、それぞれの界面で光吸収層が存在し、それぞれの光吸収層の形成機構が異なることを見出した。
【0027】
第1の透明材料層3と金属層4を構成する銀との間の第1の光吸収層は、透明基板2上に第1の透明材料層3を成膜したのち、銀をスパッタリング等で成膜する際に生じる。すなわち、ターゲットから高速で飛び出した銀原子は透明基板2に到達すると運動エネルギーを失い表面に定着する。その際、第1の透明材料層3を構成する金属との間で相互作用が強い場合は第1の透明材料層3側で合金化してしまい、光吸収層(第1の光吸収層)が生じてしまう。亜鉛は銀との間に広い固溶領域を持ち、銀との相互作用が強い元素であるため、容易に光吸収層を形成する。一般的には相互作用が強い場合のほうが銀の表面での島状化を抑制し島状化した銀による吸収を抑制しうるが、層を形成した場合もそこには一定量の光吸収層が形成されてしまう。
【0028】
そこで、銀との相互作用が小さい材料、例えばNb、Ti、Zr、Hf、Ta、W、Moなどの金属酸化物を第1の透明材料層3を構成する第1の透明材料として用いた場合、非常に薄い銀の膜の場合は島状構造となり大きな光吸収を生じてしまうが、ある膜厚以上銀を積層した場合は第1の透明材料との合金層による第1の光吸収層を形成することなく、銀のみによる小さな光吸収となることが分かった。また、その最小の膜厚は7nm以上であることが分かった。
【0029】
金属層4を構成する銀と第2の透明材料層5との間の第2の光吸収層は、金属層4上に第2の透明材料層5をスパッタリング等で成膜する際に生じ得る。すなわち、銀で表面が覆われた状態の透明基板2の表面に第2の透明材料層5となる金属元素及び酸素原子が到達するが、銀と金属元素の相互作用が弱い場合には第2の透明材料層5は十分に濡れ広がらず、界面に多数の小さな空隙を形成し、そこで光吸収が生じる。一方、第2の透明材料として亜鉛を含む金属の酸化物を用いると、銀で覆われた透明基板2の表面での濡れ性が向上し、良好な界面を形成する。しかも、亜鉛と酸素の結合が強いため亜鉛が銀と合金を形成する前に酸化被膜となるため、合金層による光吸収層(第2の光吸収層)の形成も生じない。
【0030】
また、現在、第2の透明材料層5を構成する実用可能な導電性酸化物としては亜鉛酸化物および亜鉛合金複合酸化物であるが、外部から導電性積層体1の表面に電荷を実質的に移動させる際にも酸化亜鉛および亜鉛合金複合酸化物は良好な接触抵抗を有して好ましい
といえる。
【0031】
このように、第1の透明材料層3を構成する第1の透明材料として亜鉛を含まない透明材料、工業的にはNb、Ti、Zr、Hf、Ta、W、Mo等の酸化物およびその複合酸化物を用い、第1の透明材料を透明基板2上にスパッタリング等で成膜したのち、金属層4として銀をスパッタリング等で7nm以上成膜し、第2の透明材料層5を構成する第2の透明材料として亜鉛を含む酸化物をスパッタリング等で、この順に積層することにより、各層3~5の界面での光吸収を抑制し、高透過率を有する導電性積層体1を実現するに至った。
【0032】
第1の透明材料層3を構成する第1の透明材料は、亜鉛を含まないことが望まれるが、光学干渉にて表面の反射を抑制される都合上、屈折率が1.8以上の高屈折率物質が好ましい。例えば、Nb、Ti、Zr、Hf、Ta、W、Moの酸化物およびその複合酸化物が例示できる。また、これらの元素に対して50原子%を超えない範囲で他の元素を1種類もしくは複数を添加してもよい。
【0033】
金属層4は、銀を主成分とする金属層であり、純銀もしくは全体で10原子%を超えない範囲で添加元素を加えてもよい。すなわち、本技術において、銀を主成分とするとは、90原子%以上の銀又は純銀を含むものとする。また、銀は7nmよりも薄い膜厚では容易に島状の膜が形成してしまうため、7nm以上の厚みを有することが好ましい。銀の厚さの上限に関しては特に制限はないが15nm未満が好ましい。15nm以上の膜厚の場合、界面での吸収よりも銀の層内部での光吸収が大きくなり本技術の効果が小さくなる。
【0034】
第2の透明材料層5を構成する第2の透明材料は、亜鉛を含むことが望まれるが、光学特性および電気伝導性、科学的安定性の観点から50原子%を超えない範囲で1種類もしくは複数を添加してもよい。
【0035】
このように、本技術によれば、透明基板2上に亜鉛元素を含まない第1の透明材料を形成した後に、銀もしくは銀合金を成膜し、さらに亜鉛元素を含む第2の透明材料を形成することにより、各界面での光吸収層の生成を抑制し、低電気抵抗で高透過率を有する導電性積層体1を得る。このような本技術に係る導電性積層体1は、低電気抵抗で高透過率を有する。したがって、本技術によれば、導電性積層体を少なくとも1枚用いた省電力、高性能の光学装置、例えば、導電性積層体を電極の少なくとも1方の極として用いた、タッチパネル、調光素子、電気泳動型光学素子、発光素子、アンテナなどを提供することができる。
【0036】
以下、導電性積層体1を構成する各層について詳細に説明する。上述したように、本技術が適用された導電性積層体1は、透明基板2と、透明基板2の少なくとも1面上に、第1の透明材料層3、銀を主成分とする金属層4、第2の透明材料層5が、透明基板2側からこの順に積層されている。
【0037】
<透明基板>
本発明の透明基板2としては、ガラス基材、樹脂フィルムのいずれからなるものを用いることができる。透明基板2として樹脂フィルムからなるものを用いる場合には、ロールツーロール法によって製造することができるので、生産効率を向上させることができる。
【0038】
このような樹脂フィルムの材料としては、特に限定されることはないが、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリアラミド、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリプロピレン、トリアセチルセルロース(TAC)、ポリシクロオレフィン(COC、COP)等を用いることができる。
【0039】
透明基板2の厚さは、特に限定されることはないが、樹脂フィルムの場合、製造時の取り扱いの容易さと部材の薄型化を考慮し、20μm以上200μm以下とすることが好ましい。
【0040】
また、本技術が適用された導電性積層体1において、透明基板2の好ましい光透過率は、88%以上である。
【0041】
なお、透明基板2の耐擦過性を向上させる観点からは、透明基板2の両面に例えばアクリル系樹脂による薄膜を、例えば溶液塗布により形成することもできる。
【0042】
<第1の透明材料層>
第1の透明材料層3は亜鉛を含まない金属酸化物で構成されており、例えばNb、Ti、Zr、Hf、Ta、W、Mo等、銀との相互作用が小さい物質の酸化物を好適に用いることができる。また、これらは単独もしくは複数の元素を含む複合酸化物であってもよく、亜鉛以外の元素を50原子%以下の濃度で含んでいてもよい。第1の透明材料層3の厚みは特に限定されることはなく、材料構成に応じて最も透過率が高くなる膜厚に設定することができる。第1の透明材料層3の具体的な厚みとしては、例えば30~80nmの範囲とすることができる。
【0043】
第1の透明材料層3の形成方法については特に限定されるものではないが、生産効率を向上させる観点、また膜厚分布を均一化させる観点からは、スパッタリング法を用いることが好ましい。
【0044】
また、防湿性などの観点から第1の透明材料層3を複数の層に分けて形成してもよい。この場合、少なくとも金属層4に接する透明材料層は、亜鉛を含まない金属酸化物、例えばNb、Ti、Zr、Hf、Ta、W、Mo等、銀との相互作用が小さい物質の酸化物で構成されることが好ましい。
【0045】
<金属層>
第1の透明材料層3上に積層される金属層4は、銀を主成分とする金属層である。金属層4は、全体で10原子%を超えない範囲で添加元素を加えてもよい。すなわち、本技術に係る金属層4は、90原子%以上の銀又は純銀によって構成される。
【0046】
また、金属層4は、7nm以上の厚みを有することが好ましい。膜厚が7nmよりも薄いと容易に島状の膜が形成されてしまい、光透過性が阻害されるおそれがある。膜厚の上限に関しては特に制限はないが、15nm以上の膜厚の場合、界面での吸収よりも銀の層内部での光吸収が大きくなり本発明の効果が小さくなるおそれがある。
【0047】
金属層4の形成方法については特に限定されるものではないが、金属層4の形成後、連続して第2の透明材料層5を形成することが好ましい点、生産効率を向上させる観点、また膜厚分布を均一化させる観点からは、スパッタリング法を用いることが好ましい。
【0048】
<第2の透明材料層>
金属層4上に積層される第2の透明材料層5は、亜鉛を含む酸化物で構成される。第2の透明材料層5は、光学特性および電気伝導性、化学的安定性の観点から、亜鉛以外の1種類もしくは複数の元素を、50原子%を超えない範囲で添加してもよい。第2の透明材料層5の厚みは特に限定されることはなく、材料構成に応じて最も透過率が高くなる膜厚に設定することができる。第2の透明材料層5の具体的な厚みとしては、例えば30~70nmの範囲とすることができる。
【0049】
第2の透明材料層5の形成方法については特に限定されるものではないが、金属層4の形成後に、連続して形成することが好ましい点、生産効率を向上させる観点、また膜厚分布を均一化させる観点からは、スパッタリング法を用いることが好ましい。
【0050】
また、耐擦傷性などの観点から第2の透明材料層5を複数の層に分けて形成してもよい。この場合、少なくとも金属層4に接する透明材料層は、亜鉛を含む酸化物とし、光学特性および電気伝導性、科学的安定性の観点から50原子%を超えない範囲で1種類もしくは複数の元素を添加してもよい。また他の層においても良好な電気伝導性を保持するために電気伝導性を有する透明酸化物あることが好ましい。
【0051】
なお、
図1に示す導電性積層体1は、透明基板2の一方の面に第1の透明材料層3、金属層4及び第2の透明材料層5を積層したが、本技術に係る導電性積層体1は、透明基板2の他方の面、あるいは透明基板2の両面に第1の透明材料層3、金属層4及び第2の透明材料層5を積層してもよいことは勿論である。
【0052】
[導電性積層体の製造工程]
このような導電性積層体1は、透明基板2の少なくとも1面上に、第1の透明材料層3、銀を主成分とする金属層4、第2の透明材料層5を、透明基板2側からこの順に積層する工程により製造することができる。
【0053】
第1の透明材料層3、金属層4、第2の透明材料層5の成膜は、例えば特開2014-34701号公報に記載された薄膜形成装置を用いて形成することができる。
図2は、特開2014-34701号公報に記載の薄膜形成装置の内部構成を示す斜視図である。この薄膜形成装置は、ロールツーロール法によってフィルム基材上にスパッタリングによる成膜を行うもので、複数のスパッタリングターゲットを設置することができ、しかも、一旦ロールをセットすると真空雰囲気を維持したまま異なる複数種類の材料を成膜することが可能である。
【0054】
さらに、この薄膜形成装置では、スパッタリング時にスパッタガスであるアルゴンガスの他に酸素ガスをプラズマ中に導入することができ、それによりターゲット材料の酸化物をフィルム基材上に形成することができる。
【0055】
以下、薄膜形成装置の構成を詳述する。この薄膜形成装置は、基材フィルムが長手方向に連続的に供給され、基材フィルム上に形成された薄膜の幅方向の光学特性を測定する測定部と、基材フィルムの幅方向に複数のガスノズルが設けられ、ターゲット近傍に反応性ガスを供給する供給部と、測定部における幅方向の光学特性に基づいて、各ガスノズルから噴出する反応性ガスの流量を制御する制御部とを備え、長手方向及び幅方向に均一な厚みの薄膜を形成可能としたものである。
【0056】
また、具体的な構成として、供給部と、ターゲットに電圧を印加するスパッタ電極と、成膜中における基材フィルムの幅方向のプラズマの発光スペクトルを測定するプラズマ測定部とを有する成膜部を備えることが好ましい。これにより、制御部は、測定部における幅方向の光学特性及びプラズマ測定部における発光スペクトルに基づいて、各ガスノズルから噴出する反応性ガスの流量及びターゲットに印加する電圧を制御することができ、幅方向により均一な厚みの薄膜を形成することが可能となる。
【0057】
また、具体的な構成として、基材フィルムを長手方向に巻き出す巻出部と、成膜部が基材フィルムの長手方向に複数配置された成膜ユニットと、成膜ユニットにて薄膜が形成された基材フィルムを巻き取る巻取部とを備えることが好ましい。これにより、基材フィルムの巻き出しから巻き取りまでに、多層の薄膜を形成することができる。また、測定部は、成膜部の後にそれぞれ設置されることが好ましいが、少なくとも最後の成膜部の後、すなわち成膜ユニットと巻取部との間に設置されることが好ましい。これにより、単層の薄膜又は多層の薄膜の両者の光学特性を測定することができる。
【0058】
図2に示す薄膜形成装置は、基材フィルムであるベースフィルムをキャンロールに巻付けながら走行させ、スパッタリングによってベースフィルム表面に薄膜を形成するものである。
【0059】
この薄膜形成装置は、巻出部である巻出ロール11からベースフィルム10(透明基板2)を供給し、薄膜が形成されたベースフィルム10を巻取部である巻取ロール12によって巻き取る。また、真空チャンバー内に成膜ユニットである第1の成膜室ユニット及び第2の成膜室ユニットを備える。真空チャンバーは、空気の排出を行う真空ポンプと接続され、所定の真空度に調整可能である。
【0060】
第1の成膜室ユニット及び第2の成膜室ユニットは、それぞれ第1のキャンロール21及び第2のキャンロール22を備え、キャンロール21、22の外周面に対向するように成膜部であるスパッタ室SP1~10を複数固定する。各スパッタ室SP1~10には、電極上に所定のターゲットが取り付けられるとともに、ベースフィルム10の幅方向に複数のガスノズルを有する供給部が設けられる。
【0061】
また、薄膜形成装置は、第1の成膜室ユニットと第2の成膜室ユニットとの間、すなわちスパッタ室SP5による成膜後に、光学特性を測定する測定部である光学モニター31を備える。これにより、第1の成膜室ユニット後の中間品の成膜を制御することができるとともに、単層による調整時の調整時間を削減することができる。また、第2の成膜室ユニットの後、すなわちスパッタ室SP10による成膜後に光学特性を測定する測定部である光学モニター32を備える。これにより、第2の成膜室ユニット後の最終品の成膜の品質を確認することができる。
【0062】
光学モニター31、32は、後述するように、幅方向にスキャン可能な光学ヘッドにより、ベースフィルム10上に形成された薄膜の幅方向の光学特性を測定する。この光学モニター31、32により、例えば、光学特性として反射率のピーク波長を測定し、光学厚みに換算することにより、幅方向の光学厚み分布を得ることができる。
【0063】
このような構成からなる薄膜形成装置は、巻出ロール11からベースフィルム10を繰出し、第1のキャンロール21及び第2のキャンロール22の搬送時にベースフィルム10上に薄膜を形成し、巻取ロール12によって巻取ることにより、多層の薄膜を得ることができる。ここで、光学モニター31、32によって、ベースフィルム10上に形成された薄膜の幅方向の光学特性を測定し、光学特性に基づいて、幅方向に設けられた各ガスノズルからの反応性ガスの流量を制御することにより、長手方向及び幅方向に均一な厚みの薄膜を形成することができる。
【実施例0064】
以下、実施例及び比較例を挙げて本技術を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0065】
<実施例1>
図2に示す特開2014-34701号公報記載の薄膜形成装置を用い、透明基板上に第1の透明材料層、金属層、第2の透明材料層を順次形成した。透明基板としては厚さ50μmのCOPフィルムを用いた。
【0066】
薄膜形成装置は複数の材料の薄膜を同時に順次積層することができ、本実施例ではフィルム巻き出し側に近い側より酸化ニオブ、銀、亜鉛-錫の複合酸化物のターゲットをこの順に配置した。それぞれのターゲットは独立した電源に接続されており、任意の電力を投入して放電することが可能である。また、それぞれのターゲットはそれぞれ独立した容器内に収納されており、ターゲットを隔てる隔壁はキャンロール付近にわずかな隙間を有するのみであり、実質的に異なるガス雰囲気を実現することが可能である。
【0067】
この薄膜形成装置の真空槽内全体を1×10-3Pa以下に真空排気した後、酸化ニオブが設置された第1のカソード部にアルゴンガスを150sccmの流量となるようにマスフローコントローラーにて調整しながら真空槽の第1のカソード部に導入し酸化ニオブターゲットに電力を印加して放電させ、スパッタリングによる成膜を行った。この際、酸素不足による酸化ニオブの光吸収を抑制するために6sccmの酸素を添加し、透明な酸化物層を形成した。この時のフィルムの走行速度は3m/minであった。電力はあらかじめ、電力と膜厚との関係を測定したのち3m/minの走行速度で46nmの厚みの酸化ニオブが形成できるように調整した。
【0068】
第1のカソード部で酸化ニオブを形成したのち、第2のカソード部で銀薄膜を形成した。具体的に、第2のカソード部にアルゴンガスを450sccmの流量となるようにマスフローコントローラーにて調整しながら真空槽の第2のカソード部に導入し、銀ターゲットに電力を印加して放電させスパッタリングによる成膜を行った。本実施例では隣接する2つのカソードを使用したが、必ずしも隣接した2つのカソードを使用する必要はない。装置構成によっては1つのカソード室を使用せず、カソード室全体を隔壁としてもよい。電力はあらかじめ電力と膜厚との関係を測定したのち3m/minの走行速度で9nmの厚みの銀薄膜が形成できるように調整した。
【0069】
第2のカソード部で銀薄膜を形成したのち、第3のカソード部で亜鉛-錫複合酸化物を形成した。具体的に、第3のカソード部にアルゴンガスを150sccmの流量となるようにマスフローコントローラーにて調整しながら真空槽の第3のカソード部に導入し、亜鉛-錫複合酸化物ターゲットに電力を印加して放電させスパッタリングによる成膜を行った。この際、アルゴンガスとは別に微量の酸素をマスフローコントローラーにて調整しながら導入して、酸素不足・酸素過多による導電性不良を起こさないように酸素量を調整して良好な透明導電性酸化物を得た。本実施例では隣接する2つのカソードを使用したが、必ずしも隣接した2つのカソードを使用する必要はない。装置構成によっては1つのカソード室を使用せず、カソード室全体を隔壁としてもよい。電力はあらかじめ電力と膜厚との関係を測定したのち3m/minの走行速度で50nmの厚みの亜鉛-錫複合酸化物が形成できるように調整した。
【0070】
膜厚はすべて事前にコンピューターシミュレーションにて計算し最も透過率が高くなるように設計した。
【0071】
3層を成膜したのち、フィルムを連続的に巻き取り、
図1の構成となるフィルムを巻き取ったのち、装置全体に大気を導入して試料を取り出しサンプルとした。
【0072】
<実施例2>
酸化ニオブの膜厚を49nm、銀の膜厚を8nm、亜鉛-錫複合酸化物の膜厚を52nmとなるように調整した以外は実施例1と同一の条件で試料を作成した。
【0073】
<実施例3>
酸化ニオブの膜厚を52nm、銀の膜厚を7nm、亜鉛-錫複合酸化物の膜厚を53nmとなるように調整した以外は実施例1と同一の条件で試料を作成した。
【0074】
<実施例4>
酸化ニオブの膜厚を43nm、銀の膜厚を10nm、亜鉛-錫複合酸化物の膜厚を49nmとなるように調整した以外は実施例1と同一の条件で試料を作成した。
【0075】
<実施例5>
酸化ニオブの膜厚を40nm、銀の膜厚を11nm、亜鉛-錫複合酸化物の膜厚を47nmとなるように調整した以外は実施例1と同一の条件で試料を作成した。
【0076】
<実施例6>
酸化ニオブの膜厚を38nm、銀の膜厚を12nm、亜鉛-錫複合酸化物の膜厚を46nmとなるように調整した以外は実施例1と同一の条件で試料を作成した。
【0077】
<実施例7>
第1の透明材料に酸化チタンを用いて膜厚を39nm、銀の膜厚を10nm、亜鉛-錫複合酸化物の膜厚を52nmとなるように調整した以外は実施例1と同一の条件で試料を作成した。
【0078】
<実施例8>
第1の透明材料に酸化ジルコニウムを用いて膜厚を71nm、銀の膜厚を7nm、亜鉛-錫複合酸化物の膜厚を42nmとなるように調整した以外は実施例1と同一の条件で試料を作成した。
【0079】
<実施例9>
第1の透明材料に酸化ハフニウムを用いて膜厚を62nm、銀の膜厚を7nm、亜鉛-錫複合酸化物の膜厚を47nmとなるように調整した以外は実施例1と同一の条件で試料を作成した。
【0080】
<実施例10>
第1の透明材料に五酸化タンタルを用いて膜厚を58nm、銀の膜厚を7nm、亜鉛-錫複合酸化物の膜厚を50nmとなるように調整した以外は実施例1と同一の条件で試料を作成した。
【0081】
<実施例11>
第1の透明材料に酸化タングステンを用いて膜厚を63nm、銀の膜厚を7nm、亜鉛-錫複合酸化物の膜厚を47nmとなるように調整した以外は実施例1と同一の条件で試料を作成した。
<実施例12>
【0082】
第1の透明材料に酸化モリブデンを用いて膜厚を65nm、銀の膜厚を7nm、亜鉛-錫複合酸化物の膜厚を48nmとなるように調整した以外は実施例1と同一の条件で試料を作成した。
【0083】
<実施例13>
酸化ニオブの膜厚を51nm、銀の膜厚を7nm、第2の透明材料に酸化亜鉛を用いて膜厚を53nmとなるように調整した以外は実施例1と同一の条件で試料を作成した。
【0084】
<実施例14>
酸化ニオブの膜厚を53nm、銀の膜厚を7nm、第2の透明材料にインジウム-亜鉛複合酸化物を用いて膜厚を51nmとなるように調整した以外は実施例1と同一の条件で試料を作成した。
【0085】
<実施例15>
酸化ニオブの膜厚を47nm、銀の膜厚を7nm、第2の透明材料にアルミニウム-亜鉛複合酸化物を用いて膜厚を58nmとなるように調整した以外は実施例1と同一の条件で試料を作成した。
【0086】
<比較例1>
第1の透明材料に酸化亜鉛を用いて膜厚を64nm、銀の膜厚を7nm、亜鉛-錫複合酸化物の膜厚を46nmとなるように調整した以外は実施例1と同一の条件で試料を作成した。
【0087】
<比較例2>
第1の透明材料に亜鉛-錫複合酸化物を用いて膜厚を77nm、銀の膜厚を7nm、第2の透明材料に酸化ニオブを用いて膜厚を35nmとなるように調整した以外は実施例1と同一の条件で試料を作成した。
【0088】
<比較例3>
酸化ニオブの膜厚を55nm、銀の膜厚を6nm、亜鉛-錫複合酸化物の膜厚を54nmとなるように調整した以外は実施例1と同一の条件で試料を作成した。
【0089】
<比較例4>
酸化ニオブの膜厚を55nm、銀の膜厚を7nm、第2の透明材料に酸化ニオブを用いて膜厚を42nmとなるように調整した以外は実施例1と同一の条件で試料を作成した。
【0090】
<比較例5>
第1の透明材料として酸化亜鉛を用いて膜厚を64nm、銀の膜厚を7nm、第2の透明材料に酸化亜鉛を用いて膜厚を46nmとなるように調整した以外は実施例1と同一の条件で試料を作成した。
【0091】
<比較例6>
第1の透明材料として酸化亜鉛を用いて膜厚を66nm、銀の膜厚を7nm、第2の透明材料にインジウム-亜鉛複合酸化物を用いて膜厚を44nmとなるように調整した以外は実施例1と同一の条件で試料を作成した。
【0092】
<比較例7>
第1の透明材料として酸化亜鉛を用いて膜厚を58nm、銀の膜厚を7nm、第2の透明材料にアルミニウム-亜鉛複合酸化物を用いて膜厚を51nmとなるように調整した以外は実施例1と同一の条件で試料を作成した。
【0093】
<比較例8>
第1の透明材料として酸化亜鉛を用いて膜厚を74nm、銀の膜厚を8nm、第2の透明材料に酸化チタンを用いて膜厚を31nmとなるように調整した以外は実施例1と同一の条件で試料を作成した。
【0094】
[評価結果]
各試料は任意のサイズに切り出した後、測定・評価を行った。表面抵抗は「JIS K-7194」に準拠して「ロレスタGP(登録商標)(株式会社ダイアインスツルメンツ製)」を用いて測定を行った。
【0095】
全光線透過率は「JIS K-7105」に準拠して「NDH5000(日本電色工業株式会社製)」を用いて測定を行った。
【0096】
光吸収は分光器、「U-4100(株式会社日立ハイテクノロジーズ製)」を用いて、入射角度5°の透過率及び反射率を測定し、波長550nmでのそれぞれの値について下記式(1)の式にて示される量を光吸収量として定義した。
光吸収(%)=100(%)-(透過率(%)+反射率(%)) ・・・・(1)
【0097】
すなわち、反射も透過もしていないものは薄膜及び基材内部で熱に変換されている(吸収している)とした。実際には、散乱などにより実質的な透過率および反射率が低下し見かけ上では光吸収が増えて見えることがあるが、本発明で使用した基材は極めて吸収が小さく表面も平滑なため上式(1)で求めた光吸収はほぼ積層した膜による吸収とみなしてよい。
【0098】
本発明においては、表面抵抗はできる限り低く、また全光線透過率はできる限り高いことが好ましい。一般的に使われているITO(インジウム錫複合酸化物)フィルムなどにおいてはITOの膜厚によっても異なるが100Ω/□の表面抵抗で全光線透過率が88%となることが多い。そのため、本発明の優位性を示すにあたっては抵抗値が20Ω/□以下、全光線透過率が90%以上あることが好適といえる。
【0099】
【0100】
<実施例1~6>
表1から明らかなように前述の表面抵抗30Ω/□以下、全光線透過率90%以上を保持している。また、光吸収も銀の膜厚増加に伴い微増しているものの全光線透過率に大きな影響を与えるものではなく、本発明で明らかにした光吸収を生じさせる原因の抑制が寄与している。
【0101】
<実施例7~12>
実施例1~6と比較して、第1の透明材料層を変えた場合の特性を示す。表1から明らかなように前述の表面抵抗30Ω/□以下、全光線透過率90%以上を保持している。すなわち、本発明で示す効果は第1の透明材料層が酸化ニオブに限定されるものではなく、亜鉛を含まない金属酸化物、具体的には酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、五酸化タンタル、酸化タングステン、酸化モリブデンなどを用いても同様の効果を示すことが分かる。
【0102】
<実施例13~15>
本発明において実施例1~12までは、単層の膜として比較的低抵抗値を示す錫複合酸化物を第2の透明材料層として使用したが、本発明はそれに限定されるものではない。実施例13~15は、実施例1~6と比較して、第2の透明材料層を変えた場合の特性を示す。表1から明らかなように、実施例13~15においても、前述の表面抵抗30Ω/□以下、全光線透過率90%以上の特性を保持している。すなわち、本発明で示す効果は第2の透明材料層が亜鉛-錫複合酸化物に限定されるものではなく、亜鉛を含む透明導電体であれば同様の効果を示すことが分かる。
【0103】
<比較例1>
比較例1では、第1の透明材料層に酸化亜鉛を用いた。表1に示すように、比較例1に係る試料は、全光線透過率が銀の膜厚が同じ実施例3に比して大きく劣化しており、また光吸収も増大しており第1の透明材料層に亜鉛酸化物を用いると吸収が増大することを示している。
【0104】
<比較例2>
比較例2では、実施例1~6に示す構造とは逆に、第1の透明材料層に亜鉛-錫複合酸化物、第2の透明材料層に酸化ニオブを用いた。表1に示すように、比較例2に係る試料は、銀の膜厚が同じ実施例3と比較しても全光線透過率は低下し、光吸収は増大している。このことは第1の透明材料層と金属層(銀)との界面、金属層(銀)と第2の透明材料層の界面で生じる吸収がそれぞれ別の仕組みで生じていることを示唆している。
【0105】
<比較例3>
比較例3では、実施例1~6と構造は同じくし、金属層(銀)の膜厚を6nmとした。表1に示すように、比較例3に係る試料は、金属層(銀)の膜厚を薄くすると、本発明の効果はもはや得られなくなり、銀薄膜の連続性を維持することができず、膜中で島状の構造になるために、表面抵抗は急激に増大し、また光吸収量も著しく増大した。
【0106】
<比較例4>
比較例4では、第1の透明材料と第2の透明材料をともに酸化ニオブとした。表1に示すように、比較例4に係る試料は、全光線透過率が銀の膜厚が同じである実施例3に比して劣化しており、第2の透明材料に亜鉛を含む材料を用いることで光吸収を抑制できることを示している。また、酸化ニオブも導電性が低いため表面抵抗も上昇してしまった。
【0107】
<比較例5~8>
比較例5~8では、第1の透明材料層に酸化亜鉛を用いた。表1に示すように、比較例5~8に係る試料は、第2の透明材料層に亜鉛-錫複合酸化物以外を用いても、全光線透過率は改善せず低い値を示しており、第1の透明材料が亜鉛を含む酸化物である場合は第2の透明材料を任意の材料としても高透過の膜を得ることはできないことを示している。
【0108】
以上説明したように、実施例及び比較例の結果から本発明の効果を実証することができた。なお、本発明は上述した例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
1 導電性積層体、2 透明基板、3 第1の透明材料層、4 金属層、5 第2の透明材料層、10 ベースフィルム、11 巻出ロール、12 巻取ロール、21 第1のキャンロール、22 第2のキャンロール、31 光学モニター、32 光学モニター、SP スパッタ室