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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024019630
(43)【公開日】2024-02-09
(54)【発明の名称】新規微細藻類
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/12 20060101AFI20240202BHJP
   A23L 33/135 20160101ALI20240202BHJP
   C12P 7/64 20220101ALI20240202BHJP
   C12P 13/24 20060101ALI20240202BHJP
   C12P 3/00 20060101ALI20240202BHJP
   C12P 19/04 20060101ALI20240202BHJP
   C12P 7/02 20060101ALI20240202BHJP
【FI】
C12N1/12 C
A23L33/135 ZNA
C12P7/64
C12P13/24
C12P3/00 Z
C12P19/04
C12P7/02
C12N1/12 Z
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023214328
(22)【出願日】2023-12-19
(62)【分割の表示】P 2019128568の分割
【原出願日】2019-07-10
(71)【出願人】
【識別番号】509036274
【氏名又は名称】オーピーバイオファクトリー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100118371
【弁理士】
【氏名又は名称】▲駒▼谷 剛志
(72)【発明者】
【氏名】金本 昭彦
(72)【発明者】
【氏名】藤原 健史
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 崇史
(57)【要約】
【課題】新規微細藻類およびこれを使用した微細藻類製品を提供すること。
【解決手段】一つの局面において、本開示は、フコキサンチン、食物繊維、エイコサペンタエン酸、γアミノ酪酸、ヒドロキシプロリン、カルシウム、およびクロロフィルのうちの少なくとも1つを高生産する能力および/または高いアミノ酸スコアを呈する特性を有する微細藻類を提供する。一つの実施形態では、本開示の微細藻類は、乾燥細胞100g当たり、0.01g以上、0.02g以上、0.05g以上、0.07g以上、0.1g以上、0.2g以上、0.5g以上、0.6g以上、0.7g以上、0.8g以上、0.9g以上、1g以上、1.5g以上、2g以上、2.5g以上、3g以上、4g以上、5g以上、6g以上、7g以上、8g以上、9g以上または10g以上のフコキサンチンを生産する能力を有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書に記載の発明
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、有用成分含有微細藻類およびその微細藻類製品に関する。特に、本開示は、フコキサンチンを高生産する微細藻類およびその微細藻類製品に関する。
【背景技術】
【0002】
クロレラおよびユーグレナなどの微細藻類は、含有されるビタミンおよびミネラル類などの栄養成分が着目されており、健康食品や食品素材として利用されている(特許文献1=特開2018-70568)。
【0003】
また、微細藻類には有用成分および有害成分を含む種々の成分が含まれ得る。例えば、微細藻類に広く含まれるクロロフィルは、フェオホルバイトに変換されて光毒性を生じることが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-70568号公報
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、鋭意研究した結果、フコキサンチンなど種々の有用成分を生産するパブロバ科に属する新規微細藻類を提供する。本発明者らは、この微細藻類が、フェオホルバイトを抑制した状態で加工することができることを見出した。
【0006】
したがって、本開示は以下を提供する。
(項目1)
乾燥細胞100g当たりフコキサンチンを1g以上産生する、パブロバ科の微細藻類。(項目2)
乾燥細胞100g当たりエイコサペンタエン酸を3g以上産生する、パブロバ科の微細藻類。
(項目3)
乾燥細胞100g当たりγアミノ酪酸を50mg以上産生する、パブロバ科の微細藻類。
(項目4)
乾燥細胞100g当たりヒドロキシプロリンを100mg以上産生する、パブロバ科の微細藻類。
(項目5)
乾燥細胞100g当たりフコキサンチンを1g以上産生し、かつ乾燥細胞100g当たり50mg以上のγアミノ酪酸、および/または乾燥細胞100g当たり100mg以上
のヒドロキシプロリンを産生する、パブロバ科の微細藻類。
(項目6)
乾燥細胞100g当たりカルシウムを500mg以上産生する、パブロバ科の微細藻類。
(項目7)
乾燥細胞100g当たり食物繊維を5g以上産生する、パブロバ科の微細藻類。
(項目8)
乾燥細胞100g当たりクロロフィルを約2g以上産生する、パブロバ科の微細藻類。(項目9)
アミノ酸スコアが85以上である、パブロバ科の微細藻類。
(項目10)
乾燥細胞100g当たりフコキサンチンを1g以上産生し、かつ、以下の(a)~(g)の特性:
(a)乾燥細胞100g当たりエイコサペンタエン酸を3g以上産生する、
(b)乾燥細胞100g当たりγアミノ酪酸を50mg以上産生する、
(c)乾燥細胞100g当たりヒドロキシプロリンを100mg以上産生する、
(d)乾燥細胞100g当たりカルシウムを500mg以上産生する、
(e)乾燥細胞100g当たり食物繊維を5g以上産生する、
(f)乾燥細胞100g当たりクロロフィルを約2g以上産生する、および
(g)アミノ酸スコアが85以上である、
のうちの1つまたは複数の特性を有する、パブロバ科の微細藻類。
(項目11)
パブロバ属である、項目1~10のいずれか1項に記載の微細藻類。
(項目12)
P.graniferaまたはP.gyransである、項目1~10のいずれか1項に記載の微細藻類。
(項目13)
OPMS30543株(受託番号NBRC 114066で特定される株)である微細藻類。
(項目14)
OPMS30543株(受託番号NBRC 114066で特定される株)の誘導株であって、
項目1~10のいずれか一項または複数に記載の微細藻類の特徴を有する、項目1~12のいずれか一項に記載の微細藻類。
(項目15)
項目1~14のいずれか一項に記載の微細藻類を含む、食品。
(項目16)
前記微細藻類100g当たりのフェオホルバイト量が100mg以下である、項目15に記載の食品。
(項目17)
項目1~14のいずれか一項に記載の微細藻類の精製物を含む、微細藻類製品。
(項目18)
項目1~14のいずれか一項に記載の微細藻類のフコキサンチン精製物を含む、微細藻類製品。
(項目19)
前記フコキサンチン精製物のフコキサンチン純度が5~70%である、項目18に記載の微細藻類製品。
(項目20)
前記フコキサンチン精製物のフコキサンチン純度が約70%以上である、項目18に記載の微細藻類製品。
(項目21)
前記微細藻類またはその精製物がオイルに浸されている、項目17~20のいずれか一項に記載の微細藻類製品。
(項目22)
前記微細藻類またはその精製物がカプセルに封入されている、項目17~21のいずれか一項に記載の微細藻類製品。
(項目23)
パブロバ目の微細藻類を育種する方法であって、以下の条件
・海水濃度:50%海水
・培地濃度:IMK培地2倍濃度
・培養液量:800mL
・光源 :側面:蛍光灯(100~150μmol)
・明暗周期:明暗それぞれ12時間
・pH :各培養開始時にpH約7.4
・曝気 :実施
・機械的撹拌:無し
・培養期間:10日間程度の期間を目途として実施
・培養温度:25℃~28℃
のうちの少なくとも1つを満たす条件下でパブロバ目の微細藻類の細胞株の培養継代を繰り返す工程であって、
ここで、各継代培養のためには、培養物の上清部分より浮遊している細胞を選択的に使用し、そうすることで、前記培養条件下で良好に生存する細胞株のみを濃縮する、方法。(項目24)
前記培養継代を繰り返す工程を、少なくとも
・海水濃度:50%海水
・培地濃度:IMK培地2倍濃度
・培養期間:10日間程度の期間を目途として実施
のうちの1つまたは複数を満たす条件下で実施する、項目23に記載の方法。
(項目25)
細胞密度が2g/Lを超えた時点で前記細胞株を回収して前記細胞株のフコキサンチン、エイコサペンタエン酸、γアミノ酪酸を、ヒドロキシプロリン、カルシウム、食物繊維、クロロフィルおよびアミノ酸スコアからなる群より選択される少なくとも1つを測定する工程であって、
(i)乾燥細胞100g当たりフコキサンチンを1g以上産生する、
(ii)乾燥細胞100g当たりエイコサペンタエン酸を3g以上産生する、
(iii)乾燥細胞100g当たりγアミノ酪酸を50mg以上産生する、
(iv)乾燥細胞100g当たりヒドロキシプロリンを100mg以上産生する、
(v)乾燥細胞100g当たりカルシウムを500mg以上産生する、
(vi)乾燥細胞100g当たり食物繊維を5g以上産生する、
(vii)乾燥細胞100g当たりクロロフィルを約2g以上産生する、および
(viii)アミノ酸スコアが85以上である、
の少なくとも1つの条件を満たす細胞株を育種株として選抜する、工程を包含する、項目23または24に記載の方法。
(項目26)
項目23~25のいずれか一項に記載の方法によって作製されたパブロバ目の微細藻類。
【0007】
本開示において、上記1または複数の特徴は、明示された組み合わせに加え、さらに組み合わせて提供されうることが意図される。本開示のなおさらなる実施形態および利点は、必要に応じて以下の詳細な説明を読んで理解すれば、当業者に認識される。
【発明の効果】
【0008】
本開示は、新たな機能性を備えた微細藻類またはその微細藻類製品(例えば、食品)の提供を可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】培養状態のOPMS30543株を示す。スケールバーは50μmを示す。
図2】噴霧乾燥させたOPMS30543株の微細藻類製品を示す。
図3】例示的なフォトバイオリアクターを示す。左は、バイオリアクターの写真であり、縦長の管は透明部材であり、60mmの外径を有する。右は、バイオリアクターの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示を最良の形態を示しながら説明する。本明細書の全体にわたり、単数形の表現は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。従って、単数形の冠詞(例えば、英語の場合は「a」、「an」、「the」など)は、特に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。また、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用される全ての専門用語および科学技術用語は、本開示の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
【0011】
以下に本明細書において特に使用される用語の定義および/または基本的技術内容を適宜説明する。
【0012】
(定義等)
本明細書において「微細藻類」とは、葉緑体を含む顕微鏡サイズ(例えば、0.1μm~1mm)の微生物を指し、一般的には水中に棲息する。微細藻類には、原核生物である藍色細菌門(cyanobacteria)、ならびに真核生物である灰色植物門(Glaucophyta)、紅色植物門(紅藻)(Rhodophyta)、緑色植物門(Chlorophyta)、クリプト植物門(クリプト藻)(Cryptophyta)、ハプト植物門(ハプト藻)(Haptophyta)、不等毛植物門(Heterokontophyta)、渦鞭毛植物門(渦鞭毛藻)(Dinophyta)、ユーグレナ類(Euglenida)およびクロララクニオン植物門(Chlorarachniophyta)の生物が含まれる。
【0013】
ハプト植物門(ハプト藻)(Haptophyta)にはハプト藻綱(Haptophyceae)が含まれ、ハプト藻綱(Haptophyceae)には、パブロバ亜綱(Pavlovophycidae)およびプリムネシウム亜綱(rymnesiophycidae)が含まれる。パブロバ亜綱(Pavlovophycidae)にはパブロバ目(Pavlovales)が含まれ、パブロバ目(Pavlovales)にはパブロバ科(Pavlovaceae)が含まれ、パブロバ科(Pavlovaceae)には、Diacronema、Exanthemachrysis、Pavlova、Rebeccaが含まれる。Pavlova属には、P.calceolate、P.granifera、P.gyrans、P.lutheri、P.pinguis、P.salinaが含まれる。ハプト藻は細胞直径5~50μm程度の植物プランクトンで、光合成を行う独立栄養生物である。多くは海洋に生息するが、一部の種は淡水や塩湖にも分布する。ハプト藻の外洋域におけるバイオマスは大きく、海洋の一次生産者として重要である。
【0014】
本明細書において、「微細藻類製品」とは、微細藻類の藻体または微細藻類の一部の成分を含む製品を指す。典型的には、微細藻類製品は乾燥品であるか、または、乾燥品からさらに加工された製品であるか、微細藻類の特定の成分(例えば、フコキサンチン)を濃縮した抽出物である。
【0015】
本明細書において、「食品」とは、動物(例えば、ヒト)が摂取することを目的とした物品を指し、食品には、通常使用される食品および飲料の他に、食品添加物、機能性食品(例えば、特定保健用食品、機能性表示食品、栄養機能食品等)、およびサプリメントが含まれる。
【0016】
本明細書において、「化粧品」とは、動物(例えば、ヒト)の身体を清潔にし、美化し、魅力を増し、容貌を変え、又は皮膚若しくは毛髪をすこやかに保つために、着用され、身体に塗擦、散布その他これらに類似する方法で使用されることを目的とする任意の製品を指す。本明細書において、「化粧品」とは、いわゆる医薬品医療機器等法(旧薬事法)上の「化粧品」に限定されず、例えば、医薬部外品、医薬品、雑貨のいずれかであってもよい。本明細書において、「医薬部外品」とは、日本の「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」に定められた、医薬品と化粧品の中間的な分類で、人体に対する作用の緩やかなものを含み、人体に対する作用の緩やかな機械器具も含む。医薬部外品の例としては、薬用化粧品(薬用石鹸、薬用歯磨きなどを含む)、入浴剤、防除用医薬部外品(殺虫剤など)および指定医薬部外品(ドリンク剤、うがい薬、一部胃腸薬など)が挙げられるが、これらに限定されない。本明細書において、「医薬品」とは、ヒトや動物の疾病の診断・治療・予防を行うために与える薬品を指し、日本薬局方に収められている物、人または動物の疾病の診断、治療または予防に使用されることが目的とされている物であって、機械器具、歯科材料、医療用品および衛生用品でないもの(医薬部外品を除く)、および人または動物の身体の構造または機能に影響を及ぼすことが目的とされている物であって機械器具、歯科材料、医療用品および衛生用品でないもの(医薬部外品および化粧品を除く)が含まれる。
【0017】
本明細書において、「クロロフィル(葉緑素)」は、当技術分野における通常の意味で使用され、しばしば光合成の明反応で光エネルギーを吸収するのに使用される物質である。葉緑体を有する微細藻類は、クロロフィルを含み得る。
【0018】
本明細書において、「フェオホルバイト」は、当技術分野における通常の意味で使用され、しばしば微細藻類においてクロロフィルの分解によって生じる物質である。フェオホルバイトは、クロロフィルにクロロフィラーゼが作用することによって生じ得る。皮膚障害を呈する衛生上の危害が発生し得る可能性があるため、クロレラ加工品などでは、含有量が規制されている(昭和五六年五月八日)(環食第九九号)(各都道府県知事・各政令市市長・各特別区区長あて厚生省環境衛生局長通知))。
【0019】
本明細書において、「フコキサンチン」は、当技術分野における通常の意味で使用され、以下の構造
【0020】
【化1】
【0021】
を有する物質である。フコキサンチンは、加熱、光照射および酸化などによって分解されやすいことが知られている。
【0022】
本明細書において、「エイコサペンタエン酸(EPA)」は、当技術分野における通常の
意味で使用され、以下の構造
【0023】
【化2】
【0024】
を有する物質を指す。
【0025】
本明細書において、「ヒドロキシプロリン」は、当技術分野における通常の意味で使用され、以下の構造
【0026】
【化3】
【0027】
を有する物質を指す。
【0028】
本明細書において、「食物繊維」とは、当技術分野における通常の意味で使用され、ヒトの消化酵素によって消化されない食品に含まれる難消化性成分の総称である。
【0029】
本明細書において、「アミノ酸スコア」とは、1985年のWHO/FAO/UNU合同専門協議会報告に基づく指標であり、アミノ酸スコアの計算方法は、タンパク質を構成する窒素1gあたりに占める各必須アミノ酸のmg数で表され、FAO/WHO等による合同委員会が基準としたアミノ酸評点パターンに対する割合で算出される。タンパク質を構成する窒素1gは、平均すれば6.25gのタンパク質に相当する。基準とする必須アミノ酸パターンと試料のたんぱく質中の必須アミノ酸の比率を比較して、最も数値の低いアミノ酸(第一制限アミノ酸)の数値が評価値となる。
【0030】
本明細書において、「培養」とは、当技術分野における通常の意味で使用され、細胞を培地中または培地上で生存状態に維持する操作を指し、細胞の数は、培養中に増えてもよいし、減ってもよいし、維持されてもよい。
【0031】
本開示は、微細藻類の精製された成分を含む微細藻類製品も提供する。本明細書において「精製された」物質(例えば、フコキサンチンなど)とは、その物質に天然に随伴する因子の少なくとも一部が除去されたものをいう。従って、通常、精製された物質におけるその物質の純度は、その物質が通常存在する状態よりも高い(すなわち濃縮されている)。本明細書中で使用される用語「精製された」は、例えば、10~100%、好ましくは少なくとも75重量%、より好ましくは少なくとも85重量%、よりさらに好ましくは少なくとも95重量%の、同型の物質が存在することを意味する。
【0032】
本明細書で使用される「誘導株」、「類似株」または「変異株」は、好ましくは、限定を意図するものではないが、対象となる微細藻類のDNAに実質的に相同な領域を含む遺伝子を含み、このような株は、種々の実施形態において、当該分野で公知のコンピュータ相同性プログラムによってアラインメントを行って元となる株の全ゲノムの配列と比較した際、少なくとも30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%または99%同一である全ゲノム配列を有する。これは、遺伝子の変異、置換、欠失および/または付加によって改変された微細藻類であり、その誘導株がなお元の微細藻類の生物学的機能を、必ずしも同じ度合いでなくてもよいが示す微細藻類を意味する。例えば、遺伝子の変異は、任意の公知の変異剤、UV、プラズマなどを使用して導入することができる。一つの実施形態では、「誘導株」、「類似株」または「変異株」は、元の株と同じ属および/または種である株である。例えば、本明細書において記載されあるいは当該分野で公知の適切で利用可能なin vitroアッセイによって、このような微細藻類の生物学的機能を調べることが可能である。
【0033】
本明細書において遺伝子の「相同性」とは、2以上の遺伝子配列の、互いに対する同一性の程度をいい、一般に「相同性」を有するとは、同一性または類似性の程度が高いこと
をいう。従って、ある2つの遺伝子の相同性が高いほど、それらの配列の同一性または類似性は高い。2種類の遺伝子が相同性を有するか否かは、配列の直接の比較、または核酸の場合ストリンジェントな条件下でのハイブリダイゼーション法によって調べられ得る。2つの遺伝子配列を直接比較する場合、その遺伝子配列間でDNA配列が、代表的には少なくとも50%同一である場合、好ましくは少なくとも70%同一である場合、より好ましくは少なくとも80%、90%、95%、96%、97%、98%または99%同一である場合、それらの遺伝子は相同性を有する。
【0034】
アミノ酸は、その一般に公知の3文字記号か、またはIUPAC-IUB Biochemical Nomenclature Commissionにより推奨される1文字記号のいずれかにより、本明細書中で言及され得る。ヌクレオチドも同様に、一般に認知された1文字コードにより言及され得る。本明細書では、アミノ酸配列および塩基配列の類似性、同一性および相同性の比較は、配列分析用ツールであるBLASTを用いてデフォルトパラメータを用いて算出される。同一性の検索は例えば、NCBIのBLAST2.7.1(2017.10.19発行)を用いて行うことができる。本明細書における「同一性」の値は通常は上記BLASTを用い、デフォルトの条件でアラインした際の値をいう。ただし、パラメータの変更により、より高い値が出る場合は、最も高い値を同一性の値とする。複数の領域で同一性が評価される場合はそのうちの最も高い値を同一性の値とする。「類似性」は、同一性に加え、類似のアミノ酸についても計算に入れた数値である。
【0035】
本開示の一実施形態において同一性等の数値である「70%以上」は、例えば、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、または100%以上であってもよく、それら起点となる数値のいずれか2つの値の範囲内であってもよい。上記「同一性」は、2つもしくは複数間のアミノ酸配列において相同なアミノ酸数の割合を、上述したような公知の方法に従って算定される。具体的に説明すると、割合を算定する前には、比較するアミノ酸配列群のアミノ酸配列を整列させ、同一アミノ酸の割合を最大にするために必要である場合はアミノ酸配列の一部に間隙を導入する。整列のための方法、割合の算定方法、比較方法、およびそれらに関連するコンピュータプログラムは、当該分野で従来からよく知られている(例えば、上述したBLAST等)。本明細書において「同一性」および「類似性」は、特に断りのない限りNCBIのBLASTによって測定された値で表すことができる。BLASTでアミノ酸配列を比較するときのアルゴリズムには、Blastpをデフォルト設定で使用できる。測定結果はPositivesまたはIdentitiesとして数値化される。
【0036】
本明細書において「生物学的機能」とは、ある微細藻類について言及するとき、その微細藻類が有し得る特定の機能をいい、これには、例えば、フコキサンチンなどの特定成分を生産する能力等を挙げることができるがそれらに限定されない。本開示においては、例えば、フコキサンチンを高生産する能力などを挙げることができるがそれらに限定されない。本明細書において、生物学的機能は、対応する「生物学的活性」によって発揮され得る。本明細書において「生物学的活性」とは、ある微細藻類が、ある環境において有し得る活性のことをいい、種々の機能(例えば、フコキサンチンの生産)を発揮する活性が包含される。このような生物学的活性は、当該分野において周知の技術によって測定することができる。従って、「活性」は、応答に影響する(すなわち、いくらかの曝露または刺激に応答する測定可能な影響を有する)、種々の測定可能な指標をいい、例えば、本開示の微細藻類のいくつかの刺激後または事象後の上流または下流のタンパク質の量あるいは他の類似の機能の尺度も含まれ得る。
【0037】
本明細書で使用されるとき、体液試料中の分析物の「量」は、一般には、試料の体積中で検出し得る分析物の質量を反映する絶対値を指す。しかし、量は、別の分析物量と比較
した相対量も企図する。例えば、試料中の分析物の量は、試料中に通常存在する分析物の対照レベルまたは正常レベルより大きい量であってもよい。
【0038】
本明細書において、用語「約」は、他のそうであると明示しない限り、示された値プラスまたはマイナス10%を指す。
【0039】
(好ましい実施形態)
以下に本開示の好ましい実施形態を説明する。以下に提供される実施形態は、本開示のよりよい理解のために提供されるものであり、本開示の範囲は以下の記載に限定されるべきでないことが理解される。従って、当業者は、本明細書中の記載を参酌して、本開示の範囲内で適宜改変を行うことができることは明らかである。また、本開示の以下の実施形態は単独でも使用されあるいはそれらを組み合わせて使用することができることが理解される。
【0040】
(新規食用微細藻類)
一つの局面において、本開示は、フコキサンチン、食物繊維、エイコサペンタエン酸、γアミノ酪酸、ヒドロキシプロリン、カルシウム、およびクロロフィルのうちの少なくとも1つを高生産する能力および/または高いアミノ酸スコアを呈する特性を有する微細藻類を提供する。本開示の微細藻類での各種生成物(フコキサンチン、食物繊維、エイコサペンタエン酸、γアミノ酪酸、ヒドロキシプロリン、カルシウム、およびクロロフィルなど、)の生産能力は、2g/L以上に増殖した時点での乾燥細胞100g当たりを示す。
【0041】
一つの実施形態では、本開示の微細藻類は、乾燥細胞100g当たり、0.01g以上、0.02g以上、0.05g以上、0.07g以上、0.1g以上、0.2g以上、0.5g以上、0.6g以上、0.7g以上、0.8g以上、0.9g以上、1g以上、1.5g以上、2g以上、2.5g以上、3g以上、4g以上、5g以上、6g以上、7g以上、8g以上、9g以上または10g以上のフコキサンチンを生産する能力を有する。フコキサンチンには、抗肥満、抗糖尿病、抗酸化、抗がん、血管新生抑制などの効果があることが知られているため、フコキサンチンを高生産する本開示の微細藻類およびその微細藻類製品は、これらの効果を奏することが期待される。本開示の微細藻類は、エイコサペンタエン酸も高含有することができ、フコキサンチンの分解が低減され得る。
【0042】
一つの実施形態では、本開示の微細藻類は、乾燥細胞100g当たり、0.01g以上、0.02g以上、0.05g以上、0.07g以上、0.1g以上、0.2g以上、0.5g以上、0.6g以上、0.7g以上、0.8g以上、0.9g以上、1g以上、1.5g以上、2g以上、2.5g以上、3g以上、3.5g以上、4g以上、4.5g以上、5g以上、6g以上、7g以上、8g以上、9g以上または10g以上のエイコサペンタエン酸(EPA)を生産する能力を有する。EPAには、中性脂肪低下、血小板凝集抑制、抗炎症、抗アレルギー、感染症予防、精神安定などの効果があることが知られているため、EPAを高生産する本開示の微細藻類およびその微細藻類製品は、これらの効果を奏することが期待される。
【0043】
一つの実施形態では、本開示の微細藻類は、乾燥細胞100g当たり、0.1mg以上、0.2mg以上、0.5mg以上、0.7mg以上、1mg以上、2mg以上、5mg以上、7mg以上、10mg以上、20mg以上、50mg以上、60mg以上、70mg以上、80mg以上、90mg以上、100mg以上、150mg以上、200mg以上、250mg以上、300mg以上、400mg以上、500mg以上、700mg以上または1000mg以上のγアミノ酪酸を生産する能力を有する。γアミノ酪酸には、血圧低下、ストレス軽減などの効果があることが知られているため、γアミノ酪酸を高生産する本開示の微細藻類およびその微細藻類製品は、これらの効果を奏することが期待さ
れる。
【0044】
一つの実施形態では、本開示の微細藻類は、乾燥細胞100g当たり、0.005g以上、0.01g以上、0.02g以上、0.05g以上、0.07g以上、0.1g以上、0.15g以上、0.2g以上、0.25g以上、0.3g以上、0.4g以上、0.5g以上、0.6g以上、0.7g以上、0.8g以上、0.9g以上、1g以上、1.5g以上、2g以上、3g以上、4g以上、5g以上、7g以上または10g以上のヒドロキシプロリンを生産する能力を有する。ヒドロキシプロリンは、コラーゲンの主要な成分であり、プロリンとともにコラーゲンの安定性を担う物質であるため、ヒドロキシプロリンを高生産する本開示の微細藻類およびその微細藻類製品は、肌の張りを保ち、シワを除去する効果を奏することが期待される。
【0045】
一つの実施形態では、本開示の微細藻類は、乾燥細胞100g当たり、0.1g以上、0.2g以上、0.5g以上、0.7g以上、1g以上、1.5g以上、2g以上、2.5g以上、3g以上、3.5g以上、4g以上、4.5g以上、5g以上、6g以上、7g以上、8g以上、9g以上、10g以上、15g以上または20g以上のカルシウムを生産する能力を有する。カルシウムには、骨増強などの効果があることが知られているため、カルシウムを高生産する本開示の微細藻類およびその微細藻類製品は、このような効果を奏することが期待され、さらに、破骨細胞分化抑制効果が報告されているフコキサンチンと組み合わせることで、骨粗鬆症予防などの効果が期待される。
【0046】
一つの実施形態では、本開示の微細藻類は、乾燥細胞100g当たり、0.5g以上、0.7g以上、1g以上、1.5g以上、2g以上、5g以上、7g以上、8g以上、9g以上、10g以上、12g以上、15g以上、17g以上、20g以上、22g以上、25g以上、27g以上または30g以上の食物繊維を生産する能力を有する。食物繊維には、肥満予防、コレステロール上昇抑制、血糖値上昇抑制、水素ガス産生、抗酸化、排便促進などの効果があることが知られているため、食物繊維を高生産する本開示の微細藻類およびその微細藻類製品は、これらの効果を奏することが期待される。本開示の微細藻類が生産する食物繊維には、フコイダンなどが含まれ得る。
【0047】
一つの実施形態では、本開示の微細藻類は、乾燥細胞100g当たり、0.1~20g、例えば、約0.1g、約0.2g、約0.5g、約0.7g、約1g、約1.5g、約2g、約2.5g、約3g、約3.5g、約4g、約4.5g、約5g、約6g、約7g、約8g、約9g、約10g、約12g、約15g、約17または約20gのクロロフィルを生産する能力を有する。クロロフィルはフェオホルバイトに変換され得る化合物であり、本開示の微細藻類は比較的多くのクロロフィルを産生し得るが、下記で説明するようにフェオホルバイトを抑制した状態で加工することができる。
【0048】
一つの実施形態では、本開示の微細藻類は、5以上、10以上、20以上、30以上、40以上、50以上、55以上、60以上、65以上、70以上、75以上、80以上、85以上、90以上、95以上または約100のアミノ酸スコアを呈するという特性を有する。アミノ酸スコアが高い本開示の微細藻類およびその微細藻類製品は、ヒトにとってバランスのよいアミノ酸を提供し得る。また、一つの実施形態では、本開示の微細藻類は、乾燥細胞100g当たり、約1~70g、例えば、約1g、約2g、約5g、約7g、約10g、約12g、約15g、約17g、約20g、約25g、約30g、約35g、約40g、約50g、約60gまたは約70gのタンパク質を生産する能力を有する。タンパク質生産量が高く、アミノ酸スコアが高い本開示の微細藻類およびその微細藻類製品は、少量でヒトにとって十分なアミノ酸を提供し得る。
【0049】
本開示の微細藻類は、上記のフコキサンチン、食物繊維、エイコサペンタエン酸、γア
ミノ酪酸、ヒドロキシプロリン、カルシウム、およびクロロフィル生産性、ならびにアミノ酸スコアのうちの任意の組合せの特性を有し得るが、一つの実施形態では、本開示の微細藻類は、上記のフコキサンチン生産性と、上記の食物繊維、エイコサペンタエン酸、γアミノ酪酸、ヒドロキシプロリン、カルシウム、およびクロロフィル生産性、ならびにアミノ酸スコアから選択される少なくとも1つの特性とを有し得る。一つの実施形態では、本開示の微細藻類は、上記のフコキサンチン生産性と、上記のγアミノ酪酸またはヒドロキシプロリン生産性とを有し得、任意選択で、上記の食物繊維、エイコサペンタエン酸、カルシウム、およびクロロフィル生産性、ならびにアミノ酸スコアから選択される少なくとも1つの特性をさらに有してもよい。
【0050】
一つの実施形態では、本開示の微細藻類は、低い付着性を示す。例えば、付着性は、特定の素材の基材を特定時間培養液に浸漬した時の基材に付着した微細藻類の重量を測定することなどで評価することができる。
【0051】
一つの実施形態では、本開示の微細藻類は、パブロバ科の藻類であり得、Diacronema、Exanthemachrysis、PavlovaまたはRebeccaの属であり得る。Diacronema属には、D.ennorea、D.lutheri、D.noctivaga、D.virescens、D.viridisおよびD.vlkianumが含まれる。Exanthemachrysis属には、E.gayraliaeが含まれる。Pavlova属には、P.calceolate、P.granifera、P.gyrans、P.lutheri、P.pinguisおよびP.salinaが含まれる。Rebecca属には、R.helicataおよびR.salinaが含まれる。特定の実施形態において、本開示の微細藻類は、Pavlova属の微細藻類である。より特定の実施形態において、本開示の微細藻類は、P.graniferaまたはP.gyransである。本開示者は、新たに見出した微細藻類をP.graniferaおよびP.gyransと同定し、寄託した。受託番号であるNBRC番号はNBRC 114066である。一つの実施形態では、本開示の微細藻類は、パブロバOPMS30543株(受託番号NBRC 114066で特定される藻類株)またはパブロバOPMS30543X株であるか、またはその誘導株である。
【0052】
一つの実施形態では、本開示の微生物は、OPMS30543株(受託番号NBRC 1140
66で特定される藻類株)またはOPMS30543X株の誘導株である。ここで、誘導株とは、
これらの藻類株を元として得られた株であることは必要とせず、これらの藻類株の生物学的機能を、必ずしも同じ度合いでなくてもよいが示す微細藻類を指す。一つの実施形態では、本開示の誘導株である微細藻類は、OPMS30543株またはOPMS30543X株と同様に、上記で記載したようなフコキサンチン、食物繊維、エイコサペンタエン酸、γアミノ酪酸、ヒドロキシプロリン、カルシウム、およびクロロフィルのうちの少なくとも1つを生産する能力、ならびにアミノ酸スコアを呈する特性からなる群から選択される生物学的機能を示すが、その生物学的機能の程度はOPMS30543株またはOPMS30543X株と異なっていてもよい。一つの実施形態では、本開示の誘導株である微生物は、パブロバ属の微細藻類であり、より具体的には、P.graniferaまたはP.gyransであり得る。
【0053】
(用途および機能性)
本開示の微細藻類は、上記のように、フコキサンチン、食物繊維、エイコサペンタエン酸、γアミノ酪酸、ヒドロキシプロリン、カルシウム、およびクロロフィルのうちの少なくとも1つを高生産する能力および/または高いアミノ酸スコアを有する特性を有するため、種々の微細藻類製品として好適に使用され得る。また、本開示の微細藻類は、処理によってフェオホルバイトを抑制可能であるため、例えば、食品において安全に使用することができる。一つの実施形態では、本開示の微細藻類製品は乾燥状態であり得、例えば、水分量が50重量%以下、40重量%以下、30重量%以下、20重量%以下、10重量
%以下、5重量%以下、4重量%以下、3重量%以下、2重量%以下、1重量%以下、0.5重量%以下、0.2重量%以下、0.1重量%以下、0.05重量%以下であり得る。一つの実施形態では、本開示の微細藻類製品は、乾燥した本開示の微細藻類またはその精製物をオイルに浸し、かつ/またはカプセル(例えば、ソフトカプセル)に封入されて
提供されてもよく、これらの形態とすることで安定化され得る。
【0054】
一つの実施形態では、本開示の微細藻類製品は食品であり、食品中には、本開示の微細藻類が任意の量で含まれ得るが、例えば、重量基準で、0.01~100%、約0.01%、約0.02%、約0.05%、約0.07%、約0.1%、約0.2%、約0.5%、約0.7%、約1%、約2%、約5%、約7%、約10%、約20%、約50%、約70%または約100%含まれ得る。本開示の微細藻類は、細胞壁を持たず、軟らかいという特性を有し得るため、摂取したときに不快な食感を与えない。本開示の微細藻類の味や風味が気になる場合は、任意の好適な矯味剤、矯臭剤、マスキング剤と組み合わせて使用してもよいし、コーティングやカプセル化などの手段を使用して微細藻類の味や風味をマスキングしてもよい。本開示の微細藻類は上記のような有用成分を豊富に含み、少量の摂取で効果が発揮され得るので、食品のうちサプリメントおよび/または食品添加物としての使用にも好適である。
【0055】
一つの実施形態では、本開示の微細藻類製品は、フコキサンチン、食物繊維、エイコサペンタエン酸、ヒドロキシプロリン、カルシウム、およびクロロフィルのうちの少なくとも1つを濃縮して含む精製品である。このような精製品には、目的の成分(単数または複数)が任意の量で含まれ得るが、例えば、重量基準で、約5%以上、約10%以上、約20%以上、約30%以上、約40%以上、約50%以上、約60%以上、約70%以上、約80%以上、約90%以上、約95%以上または約100%、かつ/または約10%以下、約20%以下、約30%以下、約40%以下、約50%以下、約60%以下、約70%以下、約80%以下、約90%以下、約95%以下または約100%以下含まれ得る。このような精製品は、食品(例えば、サプリメント)として使用してもよいし、化粧品、医薬品および医薬部外品などに添加してもよい。濃縮する成分(例えば、フコキサンチン)によっては本開示の精製品は不安定であり得るので、そのような場合には、安定化剤と組み合わせられ得る(例えば、オイルに浸漬して空気との接触を回避する、ビタミンEおよびビタミンCなどの抗酸化剤を添加するなど)。
【0056】
一つの具体的な実施形態では、本開示の微細藻類製品は、フコキサンチンの精製品である。一つの実施形態では、このようなフコキサンチン精製品は、本開示の微細藻類からフコキサンチンを1~100%(例えば、約1%以上、約2%以上、約5%以上、約7%以上、約10%以上、約15%以上、約20%以上、約30%以上、約40%以上、約50%以上、約60%以上、約70%以上、約80%以上、約90%以上、約95%以上または約100%、かつ/または約10%以下、約20%以下、約30%以下、約40%以下、約50%以下、約60%以下、約70%以下、約80%以下、約90%以下、約95%以下、約97%以下、約99%以下または約100%以下の下限および/または上限で規定される任意の範囲、例えば、5~70%)の純度となるように濃縮した精製物を含み得る。
【0057】
(育種法)
本開示の微細藻類は、育種法によって取得することができ、一つの局面において、本開示は、このような育種法も提供する。一つの実施形態では、本開示の育種法は、以下の条件
・海水濃度:50%海水
・培地濃度:IMK培地2倍濃度
・培養液量:800mL
・光源 :側面:蛍光灯(100~150μmol)
・明暗周期:明暗それぞれ12時間
・pH :各培養開始時にpH約7.4
・曝気 :実施
・機械的撹拌:無し
・培養期間:10日間程度の期間を目途として実施
・培養温度:25℃~28℃
のうちの少なくとも1つを満たす条件下でパブロバ目の微細藻類の細胞株の培養継代を繰り返す工程を含む。一つの実施形態では、少なくとも、培養継代を繰り返す工程は、海水濃度:50%海水、培地濃度:IMK培地2倍濃度、および培養期間:10日間程度の期間を目途として実施、のうちの1つまたは複数を満たす条件下で実施され得る。
【0058】
一つの実施形態では、本開示の方法は、上記方法などで培養したパブロバ目の微細藻類の細胞株を細胞密度が2g/Lを超えた時点で回収して前記細胞株のフコキサンチン、エイコサペンタエン酸、γアミノ酪酸を、ヒドロキシプロリン、カルシウム、食物繊維、クロロフィルおよびアミノ酸スコアからなる群より選択される少なくとも1つを測定する工程であって、
(i)乾燥細胞100g当たりフコキサンチンを1g以上産生する、
(ii)乾燥細胞100g当たりエイコサペンタエン酸を3g以上産生する、
(iii)乾燥細胞100g当たりγアミノ酪酸を50mg以上産生する、
(iv)乾燥細胞100g当たりヒドロキシプロリンを100mg以上産生する、
(v)乾燥細胞100g当たりカルシウムを500mg以上産生する、
(vi)乾燥細胞100g当たり食物繊維を5g以上産生する、
(vii)乾燥細胞100g当たりクロロフィルを約2g以上産生する、および
(viii)アミノ酸スコアが85以上である、
の少なくとも1つの条件を満たす細胞株を育種株として選抜する、工程を包含し得る。選抜の条件は、目的とする細胞の性能によって変動し、
(i)乾燥細胞100g当たりフコキサンチンの生産量が1g以上、1.5g以上、2g以上、または3g以上であってもよく、
(ii)乾燥細胞100g当たりエイコサペンタエン酸の産生量が4g以上、5g以上、6g以上、または8g以上であってもよく、
(iii)乾燥細胞100g当たりγアミノ酪酸の産生量が50mg以上、70mg以上、100mg以上、150mg以上、または200mg以上であってもよく、
(iv)乾燥細胞100g当たりヒドロキシプロリンの産生量が100mg以上、150mg以上、200mg以上、または300mg以上であってもよく、
(v)乾燥細胞100g当たりカルシウムの産生量が500mg以上、700mg以上、1g以上、または1.5g以上であってもよく、
(vi)乾燥細胞100g当たり食物繊維の産生量が5g以上、7g以上、10g以上、または15g以上であってもよく、
(vii)乾燥細胞100g当たりクロロフィルの産生量が約2g以上、3g以上、4g以上、または5g以上であってもよく、
(viii)アミノ酸スコアが85以上、90以上、95以上、または約100であってもよく、
の少なくとも1つの任意の組合せの条件を満たし得る。
【0059】
一つの実施形態では、曝気は、エアレーション撹拌を行ってもよく、ここで、圧縮空気を使用してもよい。一つの実施形態では、本開示の育種法は、パブロバ目の微細藻類を育種する方法である。一つの実施形態では、各継代培養のためには、培養物の上清部分より浮遊している細胞を選択的に使用し、そうすることで、前記培養条件下で良好に生存する細胞株のみを濃縮する。一つの実施形態では、本開示の微細藻類は、このような育種法に
よって得られた微細藻類である。
【0060】
(微細藻類の培養)
一つの実施形態において、本開示の微細藻類は、任意の好適な条件で培養することができる。一つの実施形態において、培養は、シード培養および本培養などに細分され得る。一つの実施形態において、シード培養は、複数の培養段階(例えば、試験管の培養段階(約100mL)、ペットボトル、フラスコもしくはメデューム瓶の培養段階(約1L以下)、本開示のフォトバイオリアクターの培養段階(約5L)、10~20本の約5L容量のフォトバイオリアクターまたは2~4本の約25L容量のフォトバイオリアクターの培養段階(約50~100L)、およびより大規模なフォトバイオリアクターの培養段階(約1000L以上)のうちの任意の組み合わせ)を含んでもよい。特に断らない限り、以下で説明する培養条件はいずれの種類の培養においても適用され得る。微細藻類を培養する工程における条件(例えば、温度、pH、撹拌条件、光照射条件、および培地組成)はそれぞれ好適に設定することができる。一つの実施形態において、微細藻類の培養は複数の段階(例えば、シード培養および本培養、屋内での汚染フリー培養および屋外での高速増殖培養、順化培養および本培養など)を含んでもよい。
【0061】
一つの実施形態において、微細藻類は、約0℃~80℃、より具体的には、約20℃~30℃の温度で培養され得る。適切な温度の上限としては、80℃、70℃、60℃、50℃、40℃、30℃、20℃等を挙げることができ、下限としては、0℃、5℃、10℃、15℃、20℃、25℃、30℃等を挙げることができ、矛盾がない限り、これらの任意の組合せが適切な温度範囲として採用され得る。微細藻類が死滅しない限り、任意の培養温度を利用することができる。培養温度は一定である必要はなく、特に、培養槽が屋外に設置される場合には、厳密な温度管理はされなくてもよい。培養期間の少なくとも一部において、微細藻類が好適に生存・増殖することができる温度に供することが好ましい。直射日光などによって温度が上昇しすぎる場合には、任意の冷却手段(例えば、水冷)によって温度を下げることができる。例えば、微細藻類がハプト藻である場合には、約25~30℃の温度で好適に増殖し得る。
【0062】
一つの実施形態において、微細藻類は、約2~13のpHで培養され得る。適切なpHの上限としては、pH13、pH12、pH11、pH10、pH9、pH8.5、pH8、pH7.5、pH7、pH6等を挙げることができ、下限としては、pH2、pH3、pH4、pH5、pH6、pH6.5、pH7、pH7.5、pH8等を挙げることができ、矛盾がない限り、これらの任意の組合せが適切なpH範囲として採用され得る。微細藻類が死滅しない限り、任意のpHを利用することができる。微細藻類の種類ごとに好適なpHは異なり得るが、当業者であれば、使用する微細藻類に好適なpHを容易に設定することができる。培養中に急激なpH変化を起こさないことが好ましく、任意の好適な緩衝剤(例えば、二酸化炭素、アミン化合物など)を使用してpH変化を制御することができる。例えば、微細藻類がハプト藻である場合には、約8のpHの弱アルカリ性の環境で好適に増殖し得る。
【0063】
一つの実施形態において、微細藻類は、培養中に撹拌条件に供されてもよいし、撹拌しなくてもよい。撹拌のための手段として、曝気撹拌、機械的撹拌(パドル撹拌など)、流水撹拌(例えば、ポンプを使用する)、培養槽の振盪などによる撹拌などが挙げられるが、これらに限定されない。撹拌手段によっては微細藻類がダメージを受ける場合があり、特に細胞壁をもたないユーグレナやハプト藻などは比較的軟らかいため、培養において細胞を破壊するような激しい撹拌は避けることが好ましくあり得る。
【0064】
一つの実施形態において、微細藻類は、培養期間中の少なくとも一部において光照射下で培養され得る。微細藻類の種類によって異なるが、微細藻類がダメージを受けない範囲
で照射する光量が多いほど、微細藻類の増殖速度は向上し得る。微細藻類によっては、一定ではない光照射が好ましい場合もある。特定の波長領域を選択的に照射してもよい。微細藻類を屋外培養する場合、自然光を利用することが有利であり得る。微細藻類を屋外培養し自然光のみを光源として利用する場合であっても、培養槽の深さの調整またはフォトバイオリアクターの直径の調整などによって、微細藻類1細胞当たりの光量を制御することができる。特に、光合成色素の多いハプト藻などを増殖させる際には、自然光などの高い光量を照射することが有利であり得る。使用できる光エネルギー量は、例えば、約30μmol m-2-1~約3000μmol m-2-1、または約30μmol m-2-1~約1500μmol m-2-1であり得、約50μmol m-2-1~約300μmol m-2-1が好ましくあり得る。例えば、微細藻類がハプト藻である場合には、約100μmol m-2-1~約150μmol m-2-1の光エネルギー量で好適に増殖し得る。
【0065】
微細藻類の培養の際に使用する培地の組成は、微細藻類の種類に合わせて任意の好適なものとすることができる。培地に含まれ得る代表的な成分として、無機塩(例えば、カリウム塩、ナトリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩)、糖(例えば、グルコース)、有機塩、窒素源(硝酸塩、アンモニウム塩など)、リン源(無機リン、リン酸塩など)などが挙げられるが、その他の成分が含まれていてもよい。窒素源やリン源などは、微細藻類の増殖に伴い消費され得るので適宜添加することができる。また、炭素源(例えば、二酸化炭素)を添加すると、微細藻類に利用され得る。例えば、ハプト藻を培養する場合、ハプト藻の多くは海水~汽水域に生息するため、海水~汽水の組成と近い培地(例えば、海水の約50~75%の塩類を含む培地)または海水~汽水の浸透圧と近い培地が好適に使用され得る。
【0066】
本開示の製造方法における培養する工程において、微細藻類密度を増大させることが培養の効率化のために好ましいが、例えば、微細藻類の乾燥重量換算で、少なくとも0.01g/L、少なくとも0.02g/L、少なくとも0.05g/L、少なくとも0.07g/L、少なくとも0.1g/L、少なくとも0.2g/L、少なくとも0.5g/L、少なくとも0.7g/L、少なくとも1g/L、少なくとも1.5g/L、少なくとも2g/L、少なくとも2.5g/L、少なくとも3g/L、少なくとも3.5g/L、少なくとも4g/L、少なくとも4.5g/L、少なくとも5g/L、少なくとも5.5g/L、少なくとも6g/L、少なくとも7g/L、少なくとも8g/L、少なくとも9g/L、少なくとも10g/L、少なくとも20g/L、少なくとも50g/Lまたは少なくとも100g/Lの密度まで培養することができる。培養期間は、目的の微細藻類密度が達成されるまで継続してもよいし、所定の培養期間を規定してもよいし、維持培養など無期限に継続してもよい。
【0067】
本開示の微細藻類は、担体などに付着した状態、培地中でそれぞれの細胞が独立に浮遊した状態、培地中で細胞同士が凝集して浮遊した状態、およびこれらの状態が混在する状態などの任意の状態で培養することができる。
【0068】
一つの実施形態では、本開示の微細藻類は、光照射条件下で培養され、その後、光照射が低減された条件下で培養されてもよい。本開示の微細藻類は、光照射条件下で増殖し、光照射が低減された条件下でフコキサンチン量が増大し得るため、このように光照射条件を制御することがフコキサンチンを多く含む微細藻類製品の製造に有用であり得る。このような光照射条件を制御する培養条件において、光照射条件の光照射量は、約30μmol m-2-1~約3000μmol m-2-1、例えば、約3000μmol m-2-1、約2000μmol m-2-1、約1500μmol m-2-1、約1000μmol m-2-1、約700μmol m-2-1、約500μmol m-2-1、約200μmol m-2-1、約150μmol m-2
、約100μmol m-2-1、約50μmol m-2-1、約30μmol
-2-1であってよく、光照射低減条件の光照射量は、約100μmol m-2-1以下、例えば、約100μmol m-2-1、約70μmol m-2-1、約50μmol m-2-1、約20μmol m-2-1、約10μmol m-2-1、約5μmol m-2-1、約2μmol m-2-1、約1μmol
-2-1、またはそれ未満であってよく、これらの任意の光照射条件および光照射低減条件の光照射量の組み合わせが使用され得る。リアクターの太さが太くなると微細藻類の細胞当たりの光照射量は低下し得る。例えば、微細藻類を回収する前の天気が晴れである場合、遮光ネット(例えば、50%遮光)などで回収前の1~2日間遮光することでフコキサンチンが増大し得る。
【0069】
(微細藻類製品の製造)
上記の培養方法に従って培養した本開示の微細藻類を含む培養物から微細藻類製品を製造することができる。一つの実施形態において、本開示の微細藻類製品の製造方法は、クロロフィラーゼを失活させる処理に供する工程を含む。クロロフィラーゼを失活させることによってフェオホルバイドの生成を抑制することができる。クロロフィラーゼを失活させる処理として、例えば、加熱処理、任意の公知のタンパク質変性処理(温度負荷(低温、高温)、薬剤処理(アルコール、強酸、強塩基、他の変性剤)、放射線照射(紫外線、ガンマ線など))などが挙げられるが、これらに限定されない。クロロフィラーゼを失活させる処理(例えば、加熱処理)は、クロロフィラーゼを失活させる任意の好適な条件(手段、時間など)で実施することができるが、微細藻類を破壊しない、および/または微
細藻類の有用成分を破壊しない条件が好ましく適用され得る。例えば、ハプト藻はフコキサンチンを産生し得るため、フコキサンチンの分解が少ない、例えば、処理前後で比較した場合のフコキサンチンの減少が、0.01%未満、0.02%未満、0.05%未満、0.07%未満、0.1%未満、0.2%未満、0.5%未満、0.7%未満、1%未満、2%未満、3%未満、4%未満、5%未満、6%未満、7%未満、8%未満、9%未満、10%未満、15%未満、20%未満、25%未満、30%未満、35%未満、40%未満、45%未満、50%未満、60%未満、70%未満、または80%未満である条件で処理されることが好ましく得る。
【0070】
クロロフィラーゼを失活させる処理は、ストレス量(例えば、微細藻類中で産生されるフェオホルバイド量を増大させる任意の操作によって蓄積される刺激の量)を制御する条件下で行うことが好ましく、この処理の前に与えられたストレス量が大きくない微細藻類に対して実施されることが好ましい。大きなストレス量が与えられた微細藻類に対してクロロフィラーゼを失活させる処理を施した場合には、すでに大量のフェオホルバイドが産生されている可能性があり、クロロフィラーゼ失活によるフェオホルバイド抑制効果が十分に得られない場合がある。フェオホルバイドの抑制のためのストレス量の制御は、例えば、微細藻類の密度を低度に維持すること、および/または微細藻類を大きく濃縮しないことで達成され得る。
【0071】
一つの実施形態において、培養後、クロロフィラーゼを失活させる処理の前までの間に、本開示の微細藻類は、1000倍以上、900倍以上、800倍以上、700倍以上、600倍以上、500倍以上、400倍以上、300倍以上、200倍以上、150倍以上、100倍以上、90倍以上、80倍以上、70倍以上、60倍以上、50倍以上、40倍以上、30倍以上、20倍以上、15倍以上、10倍以上、9倍以上、8倍以上、7倍以上、6倍以上、5倍以上、4倍以上、3倍以上、2倍以上または1.5倍以上に濃縮されないか、またはそのような濃縮操作に供されない。
【0072】
一つの実施形態において、クロロフィラーゼを失活させる処理は、加熱処理であり、約50℃~200℃、例えば、約50℃、約60℃、約70℃、約80℃、約85℃、約9
0℃、約95℃、約97℃、約100℃、約102℃、約105℃、約107℃、約110℃、約120℃、約130℃、約140℃、約150℃、約160℃、約170℃、約180℃、約190℃、約200℃などにおける加熱処理であり得る。加熱処理の時間は、約10秒~20時間、例えば、約10秒、約30秒、約1分、約2分、約5分、約7分、約10分、約15分、約20分、約25分、約30分、約40分、約50分、約1時間、約1.5時間、約2時間、約2.5時間、約3時間、約4時間、約5時間、約7時間、約10時間、約20時間などであり得る。
【0073】
一つの実施形態において、クロロフィラーゼを失活させる処理時の微細藻類の密度は、乾燥重量で、約0.01~100g/L、例えば、約100g/L以下、約70g/L以下、約50g/L以下、約40g/L以下、約30g/L以下、約20g/L以下、約15g/L以下、約10g/L以下、約7g/L以下、約5g/L以下、約4g/L以下、約3g/L以下、約2g/L以下、約1g/L以下、約0.5g/L以下、約0.1g/L以下、約0.01g/L以上、約0.05g/L以上、約0.1g/L以上、約0.2g/L以上、約0.5g/L以上、約0.7g/L以上、約1g/L以上、約2g/L以上、約3g/L以上、約4g/L以上、約5g/L以上、約7g/L以上、または約10g/L以上であり得る。微細藻類の密度が例えば10g/Lを超えると、全体にわたるクロロフィラーゼの失活が不十分となる場合があり得る。一つの実施形態において、培養後、クロロフィラーゼを失活させる処理までの間に微細藻類は上記の濃度に濃縮されない。一つの実施形態において、培養後、クロロフィラーゼを失活させる処理までの間に微細藻類は希釈されない。
【0074】
一つの実施形態において、クロロフィラーゼを失活させる処理の前および/または処理中に微細藻類は、高度な遠心分離処理を施されず、例えば、50G以上、100G以上、200G以上、500G以上、700G以上、1000G以上、1500G以上、2000G以上、2500G以上、3000G以上、3500G以上、4000G以上、4500G以上、5000G以上、6000G以上、7000G以上、8000G以上、9000G以上、または10000G以上の重力加速度に曝されず、例えば、約10秒以上、約30秒以上、約1分以上、約2分以上、約5分以上、約7分以上、約10分以上、約15分以上、約20分以上、約25分以上、約30分以上、約40分以上、約50分以上、約1時間以上、約1.5時間以上、約2時間以上、約2.5時間以上、約3時間以上、約4時間以上、約5時間以上、約7時間以上、約10時間以上、または約20時間以上の時間の遠心処理を施されない。
【0075】
一つの実施形態において、本開示の微細藻類製品の製造方法は、微細藻類を濃縮する工程を含む。微細藻類の濃縮には、当該技術分野において公知の任意の好適な手段を用いることができるが、例えば、遠心分離、フィルタリング、媒体除去(蒸発など)、凝集剤または沈降剤の使用などが挙げられるが、これらに限定されない。濃縮操作は、微細藻類のストレス量を増大させ得る。特に細胞壁をもたないユーグレナやパブロバ目などは比較的軟らかいため、濃縮操作によってフェオホルバイド産生が増大し得る。なお、濃縮操作によってフェオホルバイド産生が増大してしまう、細胞壁をもたないユーグレナやパブロバ目の微細藻類などについて、フェオホルバイドが細胞の濃縮処理で増大してしまうという課題は本開示において初めて見いだされたものである。例えば、クロレラ・クラミドモナスのクロロフィルa+b量は培養条件・時期にもよるが、乾燥藻体1g当たり25mg程度となることが多いが、実施例で利用したパブロバは、乾燥藻体1g当たり35.3mgであり、想定外に多いことが判明した。したがって、本開示は、従来の微細藻類の濃縮を伴う方法において想定されていなかった課題に取り組むものであり、さらに、その解決手段も提供するものである。
【0076】
一つの実施形態において、クロロフィラーゼを失活させる処理の前に、微細藻類を濃縮
する工程を実施しない。濃縮していない微細藻類を含む培地をクロロフィラーゼを失活させる処理に供する場合、濃縮した場合と比較して、より多くの試薬やエネルギーが必要となり得、より高度な環境負荷をもたらし得る。しかし、発明者は、微細藻類(例えば、ハプト藻)を、2g/L以上の高密度に増殖させることが可能な培養法を見出したため(例えば、下で詳細に記載する本開示の培養装置を使用する方法)、微細藻類を濃縮せずにクロロフィラーゼを失活させる処理に供した場合でも環境負荷を最低限に抑制することができた。
【0077】
一つの実施形態において、微細藻類を処理する工程は、微細藻類および/または他の微
生物を死滅させることを含む。微細藻類製品を食品または食品添加物として提供する場合、生存生物が存在しない方が製品の取り扱いが容易であり得る。例えば、このような死滅させる処理としては、加熱処理、放射線照射などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0078】
一つの実施形態において、本開示の微細藻類製品の製造方法は、微細藻類を乾燥させる工程を含む。上記の本開示の微細藻類製品の水分含量となるように乾燥させることができる。
【0079】
一つの実施形態において、本開示の微細藻類製品の製造方法は、微細藻類の成分を分離する工程を含む。微細藻類は藻体自体が有用であり得るが、特定の成分も有用であり得る。そのため、微細藻類に含まれる特定の成分を他の微細藻類成分から分離して、特定の成分の濃度を増大させてもよい。また、別の実施形態では、微細藻類から特定の成分(有害成分など)を分離して除去してもよい。例えば、本発明者らは、ハプト藻であるパブロバにフコキサンチンが多く含まれることを見出したため、フコキサンチンを分離・精製して本開示の微細藻類製品としてもよい。
【0080】
一つの実施形態では、本開示は、フコキサンチンの精製品を提供し得る。フコキサンチンは、これらに限定されないが、酢酸メチル、酢酸エチル、アセトン、クロロホルム、トルエンメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール等のアルコール類、メチルエチルケトン、アセトン等のケトン類、酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル類、クロロホルム等の有機塩素系炭化水素、ヘキサン等の脂肪族炭化水素類、ベンゼン、トルエン等の芳香属炭化水素類などの有機溶媒を単独または2種類以上組み合わせて使用することで微細藻類から抽出することができる。一つの実施形態において、得られた抽出物から、クロマトグラフィー、樹脂吸着、結晶化など任意の公知の精製手段を使用して、フコキサンチンを精製することができる。
【0081】
(一般技術)
本明細書において用いられる分子生物学的手法、生化学的手法、微生物学的手法は、当該分野において周知であり慣用されるものであり得る。
【0082】
(注記)
本明細書において「または」は、文章中に列挙されている事項の「少なくとも1つ以上
」を採用できるときに使用される。「もしくは」も同様である。本明細書において「2つ
の値」の「範囲内」と明記した場合、その範囲には2つの値自体も含む。
【0083】
本明細書において引用された、科学文献、特許、特許出願などの参考文献は、その全体が、各々具体的に記載されたのと同じ程度に本明細書において参考として援用される。
【0084】
以上、本開示を、理解の容易のために好ましい実施形態を示して説明してきた。以下に、実施例に基づいて本開示を説明するが、上述の説明および以下の実施例は、例示の目的
のみに提供され、本開示を限定する目的で提供したのではない。従って、本開示の範囲は、本明細書に具体的に記載された実施形態にも実施例にも限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【実施例0085】
以下に実施例を記載する。試薬類は具体的には実施例中に記載した製品を使用したが、他メーカー(Sigma-Aldrich、和光純薬、ナカライ、R&D Systems、USCN Life Science INC等)の同等品でも代用可能である。
【0086】
(実施例1:新規微細藻類の発見)
発明者は、種々の微細藻類を作製・試験して、脂肪酸を高生産する微細藻類として沖縄の海で採取されたパブロバ科のOPMS30543株(Pavlova granifera)を
見出し、この株を寄託した(受託番号NBRC 114066)。この株の特性をさらに調査したところ、フコキサンチンを高生産することを発見し、従来にはない有用な性質を備える微細藻類であることが予測された。
【0087】
OPMS30543株について、18S rDNAのための2つのプライマーを設計し、28S
rDNAのための2つのプライマーを設計して、配列解析を行ったところ、以下の塩基配列が同定された。その結果、OPMS30543株は、P.graniferaであることが示
唆された。
・OPMS30543、18S rDNA
TAGCCATGCATGTCTAAGTATAAGCACCTTATACTGTGAAACTGCGAATGGCTCATTAAATCAGTTATGGTTTATTTGATGGTACCTTACTACTTGGATAACCGTAGTAATTCTAGAGCTAATACATGCAGGCAGTCCCGACTTCGGAAGGGATGTATTTATTAGATAAGAAACCGACCCGGGCAACCGGTTGTGTGCTGAGTCATACTAACTTTTCGAATCGCATGGCTTAATGCTGGCGATGGTTCATTCAAATTTCTGCCCTATCAGCTTTCGATGGTAGGATAGAGGCCTACCATGGCGTTCACGGGTAACGGAGAATTAGGGTTCGATTCCGGAGAGGGAGCCTGAGAGACGGCTACCACATCCAAGGAAGGCAGCAGGCGCGCAAATTACCCAATCCTGACACAGGGAGGTAGTGACAAGAAATAACAATACAGGGCTCTTTGAGTCTTGTAATTGGAATGAGTACAATTTAAATCCCTTAACGAGGATCCATTGGAGGGCAAGTCTGGTGCCAGCAGCCGCGGTAATTCCAGCTCCAATAGCGTATATTAAAGTTGTTGCAGTTAAAAAGCTCGTAGTCGGATTTCGGGTTGTCGGTGACGGTCTGCCGTTGGGTATGCACTGTTATCTGGCTTCCTTTTCGGGGCAGCGCGCGCGTTTACTCGTGTGTGTCTCCTCGCTTTTACTTTGAGAAAATCAGAGTGTTCAAAGCAGGCCTTTGCCATTGTATGTGTTAGCATGGGATAATGGAATAGGACTCTGGTGCTATTTTGTTGGTTTCGAACGCCGGGGTAATGATTAATAGGGACAGTCAGGGGCACTCGTATTCCGTAGAGAGAGGTGAAATTCTTAGACCCACGGAAGACGCACTACTGCGAAAGCATTTGCCAGGGATGTTTTCACTGATCAAGAACGAAAGTTAGGGGATCGAAGATGATCAGATACCGTCGTAGTCTTAACCATAAACCATGCCGACCAGGGATTGGTGGGTGTCGCTTTTGACTCCATCAGCACCTTTCGAGAAATCAGAGTCTTTGGGTTCCGGGGGGAGTATGGTCGCAAGGCTGAAACTTAAAGGAATTGACGGAAGGGCACCACCAGGCGTGGAGCCTGCGGCTTAATTTGACTCAACACGGGGAAACTTACCAGGTCCAGACATTGTGAGGATTGACAGATTGAGAGCTCTTTCTTGATTCAATGGGTGGTGGTGCATGGCCGTTCTTAGTTGGTGGAGTGATTTGTCTGGTTAATTCCGTTAACGAACGAGACCTTAACCTGCTAAATAGTCCTCGTAACCATTGGTTGCGTAGTTGGCTTCTTAGAGGGACTGTCGGTATCCAGCCGACGGAAGTTTGAGGCAATAACAGGTCTGTGATGCCCTTAGATGTTCTGGGCCGCACGCGCGCTACACTGACGCATTCATCGAGTTCACCTTCCTGCATCGAGAGGTGTGGGGAATCTGTTGAACCTGCGTCGTGATGGGGATAGATTATTGCAATTATTAATCTTCAACGAGGAATGCCTAGTAAGCGTGAGTCATCAGCTCGCGTTGATTACGTCCCTGCCCTTTGTACACACCGCCCGTCGCTCCTACCGATTGGATGGTCCGGTGAGGTTTTCGGATTGGCGCATTGGCGCGGTCTCCGTGCCGGTGCGCCGAGAAGTCACCCAAACCTTATCATCTAGAGA(配列番号1)

・OPMS30543、28S rDNA
ACACGATTCCCTCAGTAACGGCGAGTGAAGCGGGAAGAGCTCAAGCCTTGAATCTGAACTCTTCTTGAGTTCCGAATTGTAGTCTGAAGGGTTATGTTTCGGTCTTCGCAGCGTCCAAGTCCCTTGGAAAGGGGTACCGGAGAGGGTGAGAGTCCCGTATCTGGCGTGTGCGTGTGACCTCTTACATGTCCCTGAGAGTCGGGTTGCTCGGGATTGCAGCCTGAAAGGGAGGTAAATTTCTCCTAAAGCTAAATACTGGCGAGAGACCGATAGCGAACAAGTACCGTGAGGGAAAGATGCAAAGAACTTTGAAAAGAGAGTTAAAAAGTACCTGAACTTGTCGGGGGGGAAGCGTTTGCGTCCAGTGTGCCGTCATTGACTCAGCCCTTTCGTGGGTGCA
CTTTGGTGTCGGCGGTCAGGGTGGGTTTGGCTCGGCGTTTCCGGTCCCCCGGAGGCCTCCGGGCGATGGGGTGACTTTGCGTCGATCTGGACCGAGGCTCGCTCGCATCGCGCGTGCGCGGATCTGTTCACCGGTCTGCCAAGCAACTTGTCTTCCGGTGCGGTGAAGTTTGAGCGTGTGGTTAGCGTGACCCTGTCGAAATGGTCGCAACCGACCCGTCTAGAAACACGGACCAAGGAGTCTGACGACTGCGCGAGTCTTCGGGTGGCAACCCCGTGGGCGTAATGAAAGTGAGAGGTGTTCGTCACCGACCGACCGTGATCTTTTGTGAATGGTTTGAGTACGAGCGTTGTCGCCGGGACCCGAAAGATGGTGAACTATGCCTGAGGAGGGTGAAGCCTGAAGAAATTCAGGTGGAGGCTCGTAGCGATACTGACGTGCAAATCGTTCGTCGAACTTGGGTATAGGGGCGAAAGACTAATCGAACCATCTAGTAGCTGGTTCCCTCCGAAGTTTCCCTCAGGATAGCTGGAGCTCAATTTTTCTCAGTTTTGTCAGGTAAAGCGAATGATTAGAGGCCTTGGGGCTGAAACAGCCTTAACCTATTCTCAAACTTTAAATGGGCAAGGCGATGGGTGCTTGATTGACCCGTCGCGTGAA(配列番号2)
【0088】
パブロバ科の微細藻類は有用な性質を備えていることが予測されたため、パブロバ科の他の種の微細藻類として、P.gyrans(OPMS30543X株)、P.pinguisお
よびP.lutheriを取得し、育種して、これらの種の性質も調べた。その結果、これらの種はいずれもフコキサンチンを生産することが確認された。ここで、OPMS30543X
株は、NBRC102809株(Pavlova gyrans)に基づく株である。
【0089】
育種は以下のように行った。基本的な培養条件は以下の表に示す。
【0090】
【表1】
【0091】
*IMK培地(ダイゴIMK培地、日本製薬、東京)は、使用方法の200倍濃縮液となるようにミリQ水に溶解(1袋を500mL水に溶解)し、溶解後にフィルタ濾過(0.22μm)滅菌して冷蔵遮光保存したものを使用した。
【0092】
10日~12日培養後に継代培養を行った。ここで、この期間は、増殖性に合わせて変更する場合もあった。継代培養時には、増殖具合によって適宜変更しながら、継代操作直前の培養物の約5%~20%を新たな培地に移した。継代操作時には、エアレーションなどの撹拌を停止して少し静置し、培養物の上澄に近い部分(遊泳細胞の多いところ)を選択的に採取した。
【0093】
培養物の状態が極端に悪化した場合などは、状況に応じてマイクロマニュピレーション
などによって生存細胞をピックアップし、培養スケールを最少2mLまで下げた環境下において復帰培養を実施した。混在バクテリアの増殖が激しくなった際には、アンピシリンや次亜塩素酸を適当量添加した場合もあった。
【0094】
(実施例2:新規微細藻類の培養)
OPMS30543株およびOPMS30543X株を、人工海水の素マリンアートSF-1(富田製薬、徳島)を50%海水濃度になるように水に溶解した水溶液に、使用用法規定の2倍濃度になるようにダイゴIMK培地(日本製薬、大阪)成分を添加して調製した培養液中で、CO添加によりpHを約8に維持するように調整しながら培養した。培養槽は図3に示すようなアクリル製のバイオリアクターを使用し、屋外で培養を行った。
OPMS30543株およびOPMS30543X株は培養槽の壁面または藻類細胞同士の付着性が低く、安定して培養することができた。
【0095】
(実施例3:新規微細藻類の成分分析)
実施例2で培養した微細藻類を、密度が2g/Lを超えた時点で回収し、これを加熱、濃縮、および凍結乾燥してOPMS30543株およびOPMS30543X株の試料を調製した。これらの試料について日本食品分析センター(東京)に依頼して、OPMS30543株およびOPMS30543X株(Pavlova gyransと推定される)の成分分析を行った。その結果、代表的な成分として以下の成分が見出された。
【0096】
【表2】
【0097】
【表3】
【0098】
(実施例4:フコキサンチンを高生産する微細藻類)
実施例2で記載した方法によるパブロバ株の屋外培養により、微細藻類の乾燥重量当たり23.22mg/gという高いフコキサンチン生産性が確認される場合もあった。
【0099】
(実施例5:微細藻類製品のための処理)
上記のようにOPMS30543株は、約2250mg/100g(乾燥重量)のクロロフィル
を含み、ハプト藻であるパブロバには、通常のクロレラなどの微細藻類と比較して多くのクロロフィルが含まれ得る。クロロフィルは微細藻類において代謝されることでフェオホルバイドに変換されることが公知であり、フェオホルバイドは光過敏症などを引き起こすことが知られており、動物による摂取が制限されることが望ましい。フェオホルバイドは以下のように調べることができる。
【0100】
・既存フェオホルバイドの定量法
色素のエーテル抽出溶液から17%塩酸へ移行するクロロフィル分解物量をフェオホルバイドaに換算する(mg%)。
乾燥させた微細藻類100mgを乳鉢に秤り取り、約0.5gの海砂および85%(V/V)アセトン20mlを加え、すみやかにすりつぶした後上清を遠心管に移す。さらに残査にアセトン10mlを添加して同様に操作し、上清を遠心管に移し、この操作をもう一度反復する。次いで、遠心分離(3000rpm、5分間)し、その上清をエチルエーテル30mlを入れた分液ロートに移す。次いで、このエーテル・アセトン混合物に5%硫酸ナトリウム溶液50mlを加え、緩やかに振とうし、硫酸ナトリウム層を捨てる。さらにこの洗浄操作を3回繰り返したのち、無水硫酸ナトリウムを加えて脱水し、エーテル層を取り出し、エチルエーテルで全量を50mlとし、色素原液とする。この色素原液20mlを、17%塩酸20ml、続いて同塩酸10mlで順次振とう抽出後、塩酸層を、飽和硫酸ナトリウム溶液150mlおよびエチルエーテル20mlを入れた分液ロートに移す。これを振とう抽出し、エーテル層を分取し、これにエチルエーテルを加え全量を20mlとしたものを分解物抽出液とする。この分解物抽出液をエチルエーテルで正確に必要な濃度になるまで希釈して、667nmの吸光度を測定する。標準品のフェオホルバイドaの吸光度からクロロフィル分解物量を算出し、既存フェオホルバイド量(mg%)と
する。標準品のフェオホルバイドaの吸光度は、S.R.Brown(J.Fish Res.Bd.Canada 25、523―540.1968)のフェオホルバイドaの667nmの比吸光係数70.2(0.1%溶液、1cmの示す吸光度)を使用した。
【0101】
・クロロフィラーゼ活性度の定量法
含水アセトン中でインキュベートし、クロロフィル分解物の生成増加量をフェオホルバイドa量に換算する(mg%)。
乾燥させた微細藻類100mgを精秤し、これに冷M/15リン酸緩衝液(pH8.0)およびアセトンの混合液(7:3)を10ml加え、37℃で3時間インキュベートする。その後10%塩酸で弱酸性とし、既存フェオホルバイドの定量法と同じ方法によりフェオホルバイド量を測定し、その測定値から既存フェオホルバイド量を差し引き増加量をもとめ、その増加量をクロロフィラーゼ活性度とする。
【0102】
上記パブロバ株の培養物10L(0.516g/L)を遠心分離し、100倍に濃縮した。その後、濃縮物をオートクレーブにより加熱した(100℃、1分間)。その後、既存フェオホルバイドおよびクロロフィラーゼ活性度をそれぞれ測定した。総フェオホルバイド量=既存フェオホルバイド量+クロロフィラーゼ活性度である。
【0103】
【表4】
【0104】
濃縮しなかった培養液では、既存フェオホルバイドおよび総フェオホルバイドは両方とも低度であったが、遠心分離処理を行った場合には、既存フェオホルバイド量が上昇した。加熱によりクロロフィラーゼ活性は抑制されたため、総フェオホルバイド量は既存フェオホルバイド量と同等であった。
【0105】
また、上記パブロバ株の培養物をMF膜により100倍に濃縮した(約12時間以上)場合、および上記パブロバ株の培養物をカスケードポンプに通過させた場合も、既存フェオホルバイド量の増大が観察された。
【0106】
他方、フェオホルバイドの産生を触媒するクロロフィラーゼは、加熱によって失活すると考えられたため、濃縮前の加熱によってフェオホルバイド産生が抑制されるかどうかを試験した。
【0107】
上記パブロバ株の培養物(0.592g/L)をチューブを通して一定の速度(10、20、40または80mL/分)でオイルヒーター(105℃)に送り加熱時間を調整した。オイルヒーターから送られた加熱液を氷上のボトルに回収した。それぞれの条件における熱処理時間は、約8分間、約4分間、約2分間および約1分間であった。回収したそれぞれの試料を遠心分離処理し、既存フェオホルバイド、総フェオホルバイドおよびクロロフィラーゼ活性度を測定した。その結果、事前に十分に加熱することにより、その後遠心分離処理を行っても総フェオホルバイド量が上昇しないことが分かった。
【0108】
(実施例6:フコキサンチンの抽出)
OPMS30543株培養液の濃縮液または乾燥藻体を、100%もしくは80%エタノールを使用して抽出した後、濾過して抽出物を得た。複数種類の樹脂を使用してこの抽出物から不純物を除去し、純度65%以上のフコキサンチンを得た。培養液の濃縮液また
は乾燥藻体中のフコキサンチン量を100とした場合、50%以上のフコキサンチンを回収することができる。
【0109】
(実施例7:さらなるパブロバ株の取得)
以下のようにして類縁株または誘導株が取得され得る。
汽水域の付着物、または海水から微細藻類を取得する。取得した微細藻類株について脂肪酸の生産性、およびフコキサンチンの生産性などの特性を調査する。必要に応じて、取得した微細藻類株を育種して(例えば、実施例1で示す育種法)新たな株を得る。
育種法(新規株のスクリーニング方法)は以下のとおりである。
以下の条件
・海水濃度:50%海水
・培地濃度:IMK培地2倍濃度
・培養液量:800mL
・光源 :側面:蛍光灯(100~150μmol)
・明暗周期:明暗それぞれ12時間
・pH :各培養開始時にpH約7.4
・曝気 :実施
・機械的撹拌:無し
・培養期間:10日間程度の期間を目途として実施
・培養温度:25℃~28℃
でパブロバ目の微細藻類の細胞株の培養継代を繰り返し、
各継代培養の際、培養物の上清部分より浮遊している細胞を選択的に使用し、そうすることで、前記培養条件下で良好に生存する細胞株のみを濃縮する。
そして、上記培養継代を繰り返す工程を、少なくとも
・海水濃度:50%海水
・培地濃度:IMK培地2倍濃度
・培養期間:10日間程度の期間を目途として実施
を満たす条件下で実施する。
その後、細胞密度が2g/Lを超えた時点で前記細胞株を回収して、候補細胞株のフコキサンチン、エイコサペンタエン酸、γアミノ酪酸を、ヒドロキシプロリン、カルシウム、食物繊維、クロロフィルおよびアミノ酸スコアを上述の実施例に準じて測定する。
測定した候補細胞株が
(i)乾燥細胞100g当たりフコキサンチンを1g以上産生する、
(ii)乾燥細胞100g当たりエイコサペンタエン酸を3g以上産生する、
(iii)乾燥細胞100g当たりγアミノ酪酸を50mg以上産生する、
(iv)乾燥細胞100g当たりヒドロキシプロリンを100mg以上産生する、
(v)乾燥細胞100g当たりカルシウムを500mg以上産生する、
(vi)乾燥細胞100g当たり食物繊維を5g以上産生する、
(vii)乾燥細胞100g当たりクロロフィルを約2g以上産生する、および
(viii)アミノ酸スコアが85以上である、
の少なくとも1つの条件を満たす細胞株をさらなる新規誘導株として選抜する。
この手法によれば、1回の育種で、数株取得できることもある。
【0110】
(注記)
以上のように、本開示の好ましい実施形態を用いて本開示を例示してきたが、本開示は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願及び他の文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。
【産業上の利用可能性】
【0111】
本開示は、新規微細藻類およびこれを使用した微細藻類製品を提供し、この微細藻類は種々の有用成分を生産し、食用に適するため、種々の製品、特に、食品として有用に使用することができる。
【受託番号】
【0112】
OPMS30543株(NBRC 114066)
図1
図2
図3
【配列表】
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