(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024019638
(43)【公開日】2024-02-09
(54)【発明の名称】車両制御装置、車両制御方法、及び車両制御システム
(51)【国際特許分類】
B60W 30/10 20060101AFI20240202BHJP
B60W 40/06 20120101ALI20240202BHJP
【FI】
B60W30/10
B60W40/06
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023214403
(22)【出願日】2023-12-20
(62)【分割の表示】P 2021574078の分割
【原出願日】2021-01-27
(31)【優先権主張番号】P 2020013234
(32)【優先日】2020-01-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129425
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 護晃
(74)【代理人】
【識別番号】100168642
【弁理士】
【氏名又は名称】関谷 充司
(72)【発明者】
【氏名】上野 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】野間 大介
(57)【要約】
【課題】車両の乗り心地や快適性の向上が図れる、車両制御装置、車両制御方法、及び車両制御システムを提供する。
【解決手段】本発明に係る車両制御装置、車両制御方法、及び車両制御システムは、車両の周辺状況の認知及び判断を行う認知判断部から指示される、車両前方の目標の走行領域を、第1走行領域として取得し、前記第1走行領域内で、カーブ路での横加速度または横加加速度の大きさが所定値より小さくなるように、目標速度及び目標走行軌道を求め、車両が前記第1走行領域を走行中に、前記認知判断部から指示される、車両前方の目標の走行領域であって前記第1走行領域と一部重複する領域を有する目標の走行領域を、第2走行領域として取得し、前記第2走行領域内で、カーブ路での横加速度または横加加速度の大きさが所定値より小さくなるように、目標速度及び目標走行軌道を求める。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力した情報に基づいて演算を行って演算結果を出力するコントロール部を備える車両制御装置であって、
前記コントロール部は、
車両の周辺状況の認知及び判断を行う認知判断部から指示される、前記車両の前方の前記車両が走行する目標の走行領域を、第1走行領域として取得し、
前記第1走行領域内で、カーブ路での前記車両の横加速度または横加加速度の大きさが所定値より小さくなるように、前記車両の目標速度及び目標走行軌道を求め、前記目標速度及び前記目標走行軌道に前記車両を追従させるための制御指令を、前記車両を走行させるアクチュエータ部に出力し、
前記車両が前記第1走行領域を走行中に、前記認知判断部から指示される、前記車両の前方の前記車両が走行する目標の走行領域であって前記車両の前方で前記第1走行領域と一部重複する領域を有する目標の走行領域を、第2走行領域として取得し、
前記第2走行領域内で、カーブ路での前記車両の横加速度または横加加速度の大きさが所定値より小さくなるように、前記車両の目標速度及び目標走行軌道を求め、前記目標速度及び前記目標走行軌道に前記車両を追従させるための制御指令を、前記アクチュエータ部に出力する、
車両制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両制御装置であって、
前記コントロール部は、
前記第1走行領域内及び前記第2走行領域内の夫々において、カーブ路での前記車両の横加速度または横加加速度の大きさが最小になるように、前記車両の目標速度及び目標走行軌道を求める、
車両制御装置。
【請求項3】
車両に搭載される車両制御装置が備えるコントロール部が実行する車両制御方法であって、
前記車両の周辺状況の認知及び判断を行う認知判断部から指示される、前記車両の前方の前記車両が走行する目標の走行領域を、第1走行領域として取得し、
前記第1走行領域内で、カーブ路での前記車両の横加速度または横加加速度の大きさが所定値より小さくなるように、前記車両の目標速度及び目標走行軌道を求め、前記目標速度及び前記目標走行軌道に前記車両を追従させるための制御指令を、前記車両を走行させるアクチュエータ部に出力し、
前記車両が前記第1走行領域を走行中に、前記認知判断部から指示される、前記車両の前方の前記車両が走行する目標の走行領域であって前記車両の前方で前記第1走行領域と一部重複する領域を有する目標の走行領域を、第2走行領域として取得し、
前記第2走行領域内で、カーブ路での前記車両の横加速度または横加加速度の大きさが所定値より小さくなるように、前記車両の目標速度及び目標走行軌道を求め、前記目標速度及び前記目標走行軌道に前記車両を追従させるための制御指令を、前記アクチュエータ部に出力する、
車両制御方法。
【請求項4】
車両の周辺状況の認知及び判断を行う認知判断部と、
コントロール部であって、
前記認知判断部から指示される、前記車両の前方の前記車両が走行する目標の走行領域を、第1走行領域として取得し、
前記第1走行領域内で、カーブ路での前記車両の横加速度または横加加速度の大きさが所定値より小さくなるように、前記車両の目標速度及び目標走行軌道を求め、前記目標速度及び前記目標走行軌道に前記車両を追従させるための制御指令を出力し、
前記車両が前記第1走行領域を走行中に、前記認知判断部から指示される、前記車両の前方の前記車両が走行する目標の走行領域であって前記車両の前方で前記第1走行領域と一部重複する領域を有する目標の走行領域を、第2走行領域として取得し、
前記第2走行領域内で、カーブ路での前記車両の横加速度または横加加速度の大きさが所定値より小さくなるように、前記車両の目標速度及び目標走行軌道を求め、前記目標速度及び前記目標走行軌道に前記車両を追従させるための制御指令を出力する、
前記コントロール部と、
前記コントロール部から出力された前記制御指令を取得し、前記車両を走行させるアクチュエータ部と、
を備える車両制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両制御装置、車両制御方法、及び車両制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に開示される車両の操舵制御装置は、走行車線情報と自車両の走行状態とに応じて前方注視点距離を設定し、この前方注視点距離と自車両の走行状態とに基づいて、自車両を走行車線に沿って追従走行させるための第1フィードバックゲインを算出し、第1フィードバックゲインと安定性パラメータとに基づいて、現在点における自車両の横変位を補正するための第2フィードバックゲインを算出し、第1フィードバックゲインと第2フィードバックゲインと前方注視点横変位と現在点横変位とを用いて目標ヨーレートを算出し、この目標ヨーレートに応じて自車両の操舵角を算出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、車両周囲の状況などを認知及び判断する認知判断部が、認知及び判断の結果に基づき目標走行軌道を生成し、車両の運動を制御する車両制御部が、前記目標走行軌道に沿って車両が走行するように車両の運動を制御するシステムの場合、目標走行軌道によっては車両の乗り心地や快適性が損なわれるおそれがあった。
【0005】
本発明は、従来の実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、車両の乗り心地や快適性の向上が図れる、車両制御装置、車両制御方法、及び車両制御システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、その1つの態様において、車両の周辺状況の認知及び判断を行う認知判断部から指示される、前記車両の前方の前記車両が走行する目標の走行領域を、第1走行領域として取得し、前記第1走行領域内で、カーブ路での前記車両の横加速度または横加加速度の大きさが所定値より小さくなるように、前記車両の目標速度及び目標走行軌道を求め、前記目標速度及び前記目標走行軌道に前記車両を追従させるための制御指令を、前記車両を走行させるアクチュエータ部に出力し、前記車両が前記第1走行領域を走行中に、前記認知判断部から指示される、前記車両の前方の前記車両が走行する目標の走行領域であって前記車両の前方で前記第1走行領域と一部重複する領域を有する目標の走行領域を、第2走行領域として取得し、前記第2走行領域内で、カーブ路での前記車両の横加速度または横加加速度の大きさが所定値より小さくなるように、前記車両の目標速度及び目標走行軌道を求め、前記目標速度及び前記目標走行軌道に前記車両を追従させるための制御指令を、前記アクチュエータ部に出力する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、車両の乗り心地や快適性の向上が図れる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図5】目標走行領域内での軌道加工の様子を示す図である。
【
図6】路面情報に応じた目標走行軌跡及び目標車速の設定例を示す図である。
【
図7】目標走行領域に基づく走行軌道と車線中央との軌跡の違いを示す図である。
【
図9】走行軌道によるヨーレートの違いを示す図である。
【
図10】走行軌道による横加速度の違いを示す図である。
【
図11】走行軌道による横加加速度の違いを示す図である。
【
図14】オブジェクト領域と目標走行領域との相関を示す図である。
【
図15】オブジェクトの状況変化による目標走行領域の更新を示す図である。
【
図16】オブジェクトの状況変化後における目標走行領域の更新を示す図である。
【
図17】車線をはみ出して目標走行領域が設定される様子を示す図である。
【
図18】衝突リスク領域(詳細には、飛び出し警戒領域)と目標走行領域との相関を示す図である。
【
図19】衝突リスク領域(詳細には、路肩のオブジェクト)と目標走行領域との相関を示す図である。
【
図20】目標走行領域内にオブジェクトが複数存在する場合での走行軌道の設定を示す図である。
【
図21】目標走行領域内にオブジェクトと路面カントが存在する場合での走行軌道の設定を示す図である。
【
図22】目標走行領域内にオブジェクトと低μ路面が存在する場合での走行軌道の設定を示す図である。
【
図23】認知判断部が指示する推奨軌道を走行軌道とした場合を示す図である。
【
図24】認知判断部が指示する推奨軌道上のオブジェクトが存在する場合の走行軌道を示す図である。
【
図25】認知判断部が指示する推奨軌道に乗り心地などに関する悪化要因がある場合の走行軌道を示す図である。
【
図26】車両が走行する可能性を含めた領域としての目標走行軌道を説明するための図である。
【
図27】
図26の地点Iでの走行可能性の設定状態を示す線図である。
【
図28】
図26の地点IIでの走行可能性の設定状態を示す線図である。
【
図29】
図26の地点IIIでの走行可能性の設定状態を示す線図である。
【
図30】2つのマイクロコンピュータを搭載した1つコントロールユニットを備えた車両制御システムのブロック図である。
【
図31】1つのマイクロコンピュータに、認知判断部としての第1のロジックとコントロール部としての第2のロジックとを搭載した車両制御システムのブロック図である。
【
図32】2つのマイクロコンピュータに対する機能分担の一態様を示す車両制御システムのブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明に係る車両制御装置、車両制御方法、及び車両制御システムの実施形態を、図面に基づいて説明する。
図1は、車両制御システム200の一態様を示すブロック図であり、車両制御システム200は、4輪自動車などの車両100に搭載されて車両100の運動を制御するシステムである。
【0010】
車両制御システム200は、外界認識部300、車両運動検出部400、自動運転コントロールユニット500と、車両運動コントロールユニット600と、アクチュエータ部700を備える。
なお、後述するように、自動運転コントロールユニット500は、車両運動コントロールユニット600に対して目標指令を与える上位ユニットであり、車両運動コントロールユニット600は、自動運転コントロールユニット500から目標指令を取得する下位ユニットである。
【0011】
外界認識部300は、車両100の外界情報を取得するための装置である。
外界認識部300は、例えば、GPS(Global Positioning System)受信部310、地図データベース320、路車間通信装置330、カメラ340、レーダ350、LiDAR(Light Detection and Ranging、Laser Imaging Detection and Ranging)360などを備える。
【0012】
GPS受信部310は、GPS衛星から信号を受信することにより、車両100の位置の緯度及び経度を測定する。
地図データベース320は、車両100に搭載された記憶装置内に形成される。
なお、地図データベース320の地図情報は、道路位置、道路形状、交差点位置などの情報を含む。
【0013】
路車間通信装置330は、車両100の情報を路側機に送信し、カーブや交差点などの道路交通情報を路側機から受信する。
なお、外界認識部300は、他の車両から、道路交通情報や他社の挙動情報などを取得する通信装置を備えることができる。
【0014】
カメラ340は、ステレオカメラ、単眼カメラ、全周囲カメラなどであり、車両100の周囲を撮影して、車両100の周囲の画像情報を取得する。
レーダ350及びLiDAR360は、車両100の周囲の物体を検出し、検出した物体に関する情報を出力する。
【0015】
車両運動検出部400は、車輪速センサ410、加速度センサ420などを備える。
車輪速センサ410は、車両100の各車輪の回転速度を検出するセンサであり、車輪速センサ410の検出結果は車両100の速度の推定演算に用いられる。
【0016】
なお、車輪速センサ410に代えて、若しくは、車輪速センサ410とともに、車両100の速度を検出する車速センサを設けることができる。
また、加速度センサ420は、車両100の前後加速度、横加速度(換言すれば、左右加速度)、上下加速度、ヨーレート、ピッチレート、ロールレート、横加加速度などを検出する。
【0017】
自動運転コントロールユニット500は、入力した情報に基づいて演算を行って演算結果を出力するマイクロコンピュータ540を主体とする電子制御装置であり、マイクロコンピュータ540は、図示を省略したMPU(Microprocessor Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)などを備える。
自動運転コントロールユニット500のマイクロコンピュータ540は、外界認識部300から、車両100の位置情報、道路形状情報、路面情報、オブジェクト情報などの外界認識信号を取得し、また、車両運動検出部400から、速度や加速度などの車両運動検出信号(換言すれば、車両挙動検出信号)を取得する。
そして、自動運転コントロールユニット500のマイクロコンピュータ540は、取得した情報に基づき目標指令を算出し、算出した目標指令を車両運動コントロールユニット600に出力する。
【0018】
自動運転コントロールユニット500のマイクロコンピュータ540は、周辺状況認識部510、行動計画部520、目標生成部530としての機能をソフトウェアとして備える。
周辺状況認識部510は、外界認識部300からの外界認識信号及び車両運動検出部400からの車両運動検出信号に基づき、自車両周辺の状況を認識する。
【0019】
周辺状況認識部510が認識する自車両周辺の状況は、例えば、道路の曲率、路面カント、路面勾配、路面の摩擦係数μ、左右のレーンマーカーの位置、左右の路端位置、移動物体、及び、静止物体などの情報を含む。
上記の移動物体とは、例えば、歩行者、自転車、オートバイ、他の車両などであり、上記の静止物体とは、例えば、路上の落下物、交通信号機、ガードレール、縁石、道路標識、樹木、看板などである。
【0020】
行動計画部520は、周辺状況認識部510での認識結果を取得し、走行車線の選択や交差点,分岐点での進行方向の選択などを含む、車両100の行動計画を作成する。
そして、目標生成部530は、周辺状況認識部510が認識、判断した自車両周辺の状況、及び、行動計画部520が作成した行動計画に基づき、車両運動コントロールユニット600に出力する目標指令を決定する。
【0021】
ここで、目標生成部530が車両運動コントロールユニット600に指示する目標指令は、車両100の前方の走行領域を指示する指令を含む。
つまり、自動運転コントロールユニット500のマイクロコンピュータ540は、外界認識部300が取得した車両100の外界情報に基づき自車両周辺の状況を認知及び判断して、目標指令としての走行領域の指示情報を出力する、認知判断部に相当する。
【0022】
車両運動コントロールユニット600は、自動運転コントロールユニット500と同様に、入力した情報に基づいて演算を行って演算結果を出力するマイクロコンピュータ630を主体とする電子制御装置であり、マイクロコンピュータ630は、図示を省略した、MPU、ROM、RAMなどを備える。
車両運動コントロールユニット600のマイクロコンピュータ630は、コントロール部としての機能を有する車両制御装置である。
【0023】
コントロール部は、自動運転コントロールユニット500から走行領域の指示情報を含む目標指令を取得し、車両100の走行に関する諸元に基づいた車両100の速度及び走行軌道で車両100を走行させるための制御指令をアクチュエータ部700に出力する。
ここで、車両の走行に関する諸元とは、車両100に発生する横加速度または横加加速度を最小にする物理量である。
【0024】
車両運動コントロールユニット600のマイクロコンピュータ630は、軌道加工部610、軌道追従制御部620としての機能をソフトウェアとして備える。
軌道加工部610は、自動運転コントロールユニット500から指示された走行領域内で自車両の目標走行軌道を生成し、また、目標車速を設定する。
【0025】
ここで、軌道加工部610は、例えば、自動運転コントロールユニット500から指示された走行領域内で横加速度或いは横加加速度を可及的に小さくする(換言すれば、横加速度或いは横加加速度を最小にする)走行軌道、車速として、目標走行軌道及び目標車速を設定する。
また、軌道加工部610は、自動運転コントロールユニット500から指示された走行領域内にオブジェクトが存在する場合には、車両100がオブジェクトを避けて走行するルートを目標走行軌道として求める。
【0026】
軌道追従制御部620は、軌道加工部610が設定した目標走行軌道及び目標車速に車両100を追従させるための制御指令、つまり、操舵指令、加速又は減速指令を演算し、演算した制御指令をアクチュエータ部700に出力する。
アクチュエータ部700は、車両100の駆動力を発生する内燃機関710やモータ720、車両100に制動力を付与する制動装置730、車両100の進行方向を変えるための電子制御パワーステアリング装置740、減衰力や車高の調整が可能な電子制御サスペンション750などを含む。
【0027】
なお、モータ720を発電機として作動させて制動力(換言すれば、回生ブレーキ力)を車両100に作用させることができる。
アクチュエータ部700は、軌道追従制御部620からの制御指令を応じて、駆動力、制動力、操舵力などを発生する。
【0028】
図2は、軌道追従制御部620の詳細を示すブロック図である。
軌道追従制御部620は、自己位置推定部621、曲率演算部622、最近接点演算部623、姿勢角演算部624、相対位置演算部625、アクチュエータ指令部626を有する。
【0029】
自己位置推定部621は、例えば、車両運動検出部400から得られる車輪速、ヨーレート、前後加速度、横加速度等の積分値に基づく、いわゆるデッドレコニングにより車両100の位置を推定する。
曲率演算部622は、軌道加工部610が設定した目標走行軌道の曲率及び曲率変化を演算する。
【0030】
最近接点演算部623は、目標走行軌道上で車両100の位置に最も近い点である最近接点を求める。
姿勢角演算部624は、曲率演算部622で演算された目標走行軌道の曲率および曲率変化に基づき、最近接点演算部623で演算された最近接点において車両100の進行方向を最近接点のヨー角、すなわち目標軌道の接線方向と一致させるために必要な車両100の姿勢角を演算する。
姿勢角は、車両100の進行方向と車両100の前後軸方向とがなす角度である。
【0031】
相対位置演算部625は、自己位置推定部621が推定された自車両の位置に対する、最近接点演算部623で演算された最近接点の相対位置を演算する。
そして、アクチュエータ指令部626は、姿勢角演算部624により演算された姿勢角に基づき最近接点のヨー角を補正し、目標車速及び補正後のヨー角で最近接点を通過させるための操舵指令と加速又は減速指令とを生成し、生成した指令をアクチュエータ部700に出力する。
アクチュエータ指令部626が出力する操舵指令は、例えば、ヨーレート指令、左右位置指令、及びヨー角指令などを含む。
【0032】
自動運転コントロールユニット500は、車両運動コントロールユニット600に指示する走行領域を、道路における左右のレーンマーカー(換言すれば、白線)の間、または道路における左右の路端の間として、指示することができる。
換言すれば、自動運転コントロールユニット500は、レーンマーカーの間などから認識される車線内の領域を、基本の走行領域とすることができる。
【0033】
また、自動運転コントロールユニット500は、レーンマーカーの間などから認識した車線内に何らかのオブジェクトが存在する場合には、そのオブジェクトを除いた領域として走行領域を指示することができる。
上記のオブジェクトとは、例えば、停車車両、先行車、対向車、落下物、設置物、木、電柱、歩行者、看板などである。
【0034】
また、自動運転コントロールユニット500は、例えば、オブジェクトの陰からの飛び出しなどを警戒して、オブジェクトの陰などを衝突リスク領域として設定し、係る衝突リスク領域を除いた領域として走行領域を指示することができる。
また、自動運転コントロールユニット500は、車両100の前方に認識できなかった領域が存在する場合に、係る領域を除いた領域として走行領域を指示することができる。
【0035】
更に、自動運転コントロールユニット500は、車両運動コントロールユニット600に出力する目標指令に、路面情報やオブジェクト情報などを含めることができる。
ここで、路面情報とは、路面摩擦係数μ、路面カント、路面傾斜、路面のうねり、路面の凸凹、スピードバンプ、ポットホールなどの情報である。
また、オブジェクト情報とは、走行領域内に位置する物体の情報であり、他の車両、歩行者、障害物、落下物、看板などのオブジェクトに関する情報である。
【0036】
また、自動運転コントロールユニット500は、車両運動コントロールユニット600に出力する目標指令に、走行領域の所定位置での車速、横加速度、横加加速度などの最大値或いは最小値の情報を含めることができる。
この場合、車両運動コントロールユニット600は、自動運転コントロールユニット500から指示された走行領域内で、自動運転コントロールユニット500から指示された横加速度、横加加速度で車両100を走行させることができる目標走行軌道を求める。
【0037】
図3は、自動運転コントロールユニット500が車両運動コントロールユニット600に出力する目標指令の内容の一態様を示す。
図3に例示した目標指令では、車両100の現在位置から所定距離だけ離れた位置での走行領域の左端及び右端の位置情報の組み合わせを指示することで、走行領域を指示する。
【0038】
ここで、自動運転コントロールユニット500は、走行領域の左端及び右端の位置情報の組み合わせを、最低間隔或いは最低時間間隔のうちの長い方毎の点として指示し、走行領域の左端及び右端の位置情報の組み合わせ総数は、既定数、既定距離に相当する数、或いは、既定時間に相当する数として定められる。
また、
図3に示した例では、走行領域を指示する左端及び右端の位置情報毎に、当該位置情報で表される地点での路面カント、路面傾斜、及び路面摩擦係数μなどの路面情報を付加してある。
【0039】
但し、走行領域を、同一位置での左端及び右端の位置情報で指示する構成に限定されず、左端の位置情報と右端の位置情報とが相互に異なる地点での情報として個別に与えられる、換言すれば、走行領域の指示情報を、左端の位置情報と右端の位置情報との同期をとっていない情報とすることができる。
図4は、走行領域の指示指令が左端の位置情報と右端の位置情報とが相互に異なる地点での情報である場合での目標指令の内容を示す。
【0040】
ここで、
図4に示す目標指令は、所定地点毎の、最大速度、最低速度、最大横加速度、最大横加加速度などの情報を含んでいる。
例えば、最大速度は法定最高速度であり、最低速度は法定最低速度又は交通の流れを乱さないための所定最低速度である。
また、例えば、車両100の最大横加速度は、車両100の乗り心地や自動運転で許容される最大横加速度などに基づき設定された値であり、車両100の最大横加加速度は、車両100の乗り心地などに基づき設定された値である。
【0041】
図5は、カーブ路において、自動運転コントロールユニット500が指示する走行領域と車両運動コントロールユニット600が設定する目標走行軌道とを例示した図である。
図5において、斜線領域が自動運転コントロールユニット500が指示する走行領域であり、自動運転コントロールユニット500は、車線内から、図中に三角で示したオブジェクトOBの領域を除き、また、対向車180を避けた領域として、走行領域を指示する。
【0042】
ここで、車両運動コントロールユニット600は、指示された走行領域内で、車両100の走行に関する諸元に基づいた車速と軌道で車両100を走行させる。
したがって、車両運動コントロールユニット600は、オブジェクト情報に基づく安全性を維持できる軌道で、かつ、最大横加加速度などを抑えた乗り心地の良い速度、軌道を適宜選定することができる。
【0043】
また、
図6は、自動運転コントロールユニット500が指示する走行領域の情報に、路面情報が含まれるときに、車両運動コントロールユニット600が設定する目標車速、目標走行軌道を例示する。
図6は、直線路において、車両100の前方の走行領域に、ポットホール、スピードバンプ、うねりが存在し、係る路面情報が、走行領域の指示とともに自動運転コントロールユニット500から車両運動コントロールユニット600に与えられた場合において、車両運動コントロールユニット600による車両挙動の制御結果を例示する。
【0044】
図6に示した例の場合、車両運動コントロールユニット600は、ポットホールを迂回する目標走行軌道を設定し、また、スピードバンプの前、及び、うねりの前で車両100を減速させるように目標車速を設定し、設定した目標走行軌道及び目標車速にしたがってアクチュエータ部700を制御する。
上記の目標走行軌道及び目標車速にしたがって車両100が走行すれば、ポットホール、スピードバンプ、うねりを通過するときに大きな上下加速度(換言すれば、上下振動)が発生することを抑止でき、車両100の乗り心地が改善される。
【0045】
なお、車両運動コントロールユニット600は、ポットホールを迂回する軌道を設定する代わり、ポットホール前で車両100を加速させる目標車速の設定を行うことができる。
ポットホール前で車両100を加速させることで、ポットホールに車両100のタイヤが落ち込むことを抑止し、車両100の上下加速度が発生することを抑制できる。
【0046】
図7は、車両運動コントロールユニット600が、自動運転コントロールユニット500から指示された走行領域内で横加速度又は横加加速度を可及的に小さくする車速、軌道で車両100を走行させたときの、カーブ路における走行軌道を例示する。
また、
図8-
図11は、車線中央をトレースする目標走行軌道に沿って車両100を走行させたときと、横加加速度を最小にする目標走行軌道に沿って車両100を走行させたときの、走行軌道の曲率、ヨーレート、横加速度、横加加速度の違い、つまり、車両100の挙動の違いを示す図である。
【0047】
車両100がカーブ路を走行するときの横加加速度を小さくするには、車両100の走行軌道の曲率を小さくすることが要求される。
このため、車両運動コントロールユニット600は、自動運転コントロールユニット500から指示された走行領域内で横加加速度を可及的に小さくする目標走行軌道を設定する場合、指示された走行領域内で走行軌道の曲率がなるべく小さくなるように、換言すれば、車両100がより直線に近いラインを走行するように、目標走行軌道を設定することになる。
【0048】
具体的には、
図7に示した左カーブの場合、車両運動コントロールユニット600は、車両100が、走行領域の右寄りからカーブに進入し、その後、カーブの内側を目指し、カーブの出口では再度走行領域の右寄りを走行するように、換言すれば、アウトインアウトの走行ラインになるように目標走行軌道を設定する。
係る目標走行軌道の設定によって、
図8に示したように車線中央をトレースする目標走行軌道を走行する場合よりも車両100の走行軌道の曲率(詳細には、曲率の最大値)が小さくなる。
【0049】
そして、走行軌跡の曲率が小さくなれば、
図9に示すように、車両100がカーブ路を走行しているときに発生するヨーレートが小さくなり、また、
図10に示すように、車両100がカーブ路を走行しているときに発生する横加速度が小さくなり、更に、
図11に示すように、車両100がカーブ路を走行しているときに発生する横加加速度が小さくなる。
したがって、指示走行領域の内で横加速度又は横加加速度を可及的に小さくする目標走行軌道が設定される場合は、車線中央が目標走行軌道に設定される場合よりも、車両100の乗り心地や快適性の向上が図れる。
【0050】
図12は、自動運転コントロールユニット500から車両運動コントロールユニット600への走行領域の指示方法、換言すれば、走行領域の指示情報の受け渡し方法を示す。
自動運転コントロールユニット500は、時刻t1の時点で車両運動コントロールユニット600に対して走行領域(換言すれば、第1走行領域)を指示すると、その後、指示した走行領域を車両100が走り抜ける前、換言すれば、前回指示した走行領域を車両100が走行中の時刻t2で、次の走行領域(換言すれば、第2走行領域)を車両運動コントロールユニット600に指示する。
【0051】
したがって、自動運転コントロールユニット500が時刻t2で指示した走行領域は、その前の時刻t1で指示した走行領域と一部重複する領域を有することになる。
更に、自動運転コントロールユニット500は、時刻t2の時点で走行領域を指示した後、時刻t3で次の走行領域を指示し、以後、同様にして走行領域の指示を周期的に繰り返す。
そして、車両運動コントロールユニット600は、自動運転コントロールユニット500からの走行領域の情報を逐次取得し、横加速度又は横加加速度を可及的に小さくする目標走行軌道を設定し、係る目標走行軌道に沿って車両100を走行させるための制御指令を、アクチュエータ部700に出力する。
【0052】
ここで、自動運転コントロールユニット500は、前回指示した走行領域を車両100が所定時間だけ走行した後に、車両運動コントロールユニット600に対して次の走行領域を指示する。
換言すれば、車両運動コントロールユニット600は、前回指示された走行領域を車両100が所定時間だけ走行した後に、前回指示された走行領域と一部重複する領域を有する走行領域を取得する。
【0053】
なお、自動運転コントロールユニット500は、前回指示した走行領域を車両100が所定距離だけ走行した後に、車両運動コントロールユニット600に対して次の走行領域を指示することができる。
また、自動運転コントロールユニット500は、時間に基づく走行領域の指示タイミングと、走行距離に基づく走行領域の指示タイミングとを演算し、例えば、両者のうちのより早いタイミングで新たな走行領域を車両運動コントロールユニット600に対して指示することができる。
【0054】
図13は、自動運転コントロールユニット500による基本的な走行領域の作成方法を示す図である。
自動運転コントロールユニット500は、
図13に示すように、車両100の前方の道路における左右のレーンマーカーRL,RRの間、または、車両100の前方の道路における左右の路端の間を、走行領域として設定する。
【0055】
図14は、左右のレーンマーカーRL,RRとして設定される標準的な走行領域内に何らかのオブジェクトが存在する場合での、自動運転コントロールユニット500による走行領域の作成方法を示す図である。
自動運転コントロールユニット500は、標準的な走行領域内に何らかのオブジェクトが存在する場合、当該オブジェクトを含まない領域、つまり、標準的な走行領域からオブジェクトの領域を除いた領域を走行領域として指示する。
【0056】
図14に示した例は、他の車両110が、横道から、車両100の前方の車両100が走行する車線内(換言すれば、標準的な走行領域内)に進入している場合である。
このとき、自動運転コントロールユニット500は、標準的な走行領域から、他の車両110が存在する領域(つまり、オブジェクト領域)を除いた領域を、車両運動コントロールユニット600に対し走行領域として指示する。
そして、車両運動コントロールユニット600は、自動運転コントロールユニット500から指示された走行領域内で目標走行軌道を設定することで、他の車両110を避けた軌道で自車を走行させる。
【0057】
なお、自動運転コントロールユニット500は、オブジェクトが移動している場合に、移動方向及び移動速度に応じて、標準的な走行領域から除外する領域の大きさを変更することができる。
また、自動運転コントロールユニット500は、標準的な走行領域内に何らかのオブジェクトが存在する場合に、車両運動コントロールユニット600に対して、標準的な走行領域からオブジェクト領域を除いた領域の情報を指示でき、また、標準的な走行領域の情報、及び、オブジェクト領域の情報(換言すれば、標準的な走行領域から除外する領域の情報)を指示することができる。
【0058】
図15及び
図16は、オブジェクト情報に関して所定の状況変化が起きたときの自動運転コントロールユニット500による走行領域の作成及び指示方法を示す図である。
図13に示したように、標準的な走行領域内にオブジェクトが存在せず、自動運転コントロールユニット500が標準的な走行領域をそのまま最終的な目標走行領域として車両運動コントロールユニット600に指示した後、
図15に示すように、他の車両110が横道から車両100が走行する車線内に飛び出したと仮定する。
【0059】
このとき、自動運転コントロールユニット500は、
図15に示すように、基準とする走行領域の指示タイミングを待たずに速やかに新たな走行領域、つまり、車両100が走行する車線から他の車両110が存在するオブジェクト領域を除いた走行領域を車両運動コントロールユニット600に指示して、他の車両110を避けた目標走行軌道を設定させる。
なお、自動運転コントロールユニット500は、上記のような突発的な状況変化に基づき新たな走行領域を指示するとき、走行領域を標準よりも短い領域として車両運動コントロールユニット600に指示することができる。
【0060】
そして、自動運転コントロールユニット500は、突発的な状況変化に基づき標準よりも短い走行領域を指示した後、
図16に示したように、指示した走行領域を車両100が走り抜ける前に、新たな走行領域を車両運動コントロールユニット600に指示する。
図15及び
図16に示した例は、オブジェクト情報における状況変化が発生した場合であるが、自動運転コントロールユニット500は、前回指示した走行領域に反映されていない路面情報に関する状況変化が発生した場合においても、前回の走行領域の指示からの経過時間(或いは走行距離)に関わらずに、状況変化を反映した新たな走行領域を指示することができる。
【0061】
図17は、標準的な走行領域から左右にはみ出した領域を含む走行領域が指示される場合を例示する。
図17に示した例は、車両100が走行する車線内に他の車両110が進入し、車両100が同一車線内で他の車両110を避けて走行することが難しい場合である。
【0062】
このとき、自動運転コントロールユニット500は、他の車両110を回避して自車を走行させるために、車両100が走行する車線をはみ出して、隣接する車線(詳細には、追い越し車線、対向車線など)を含む走行領域を指示する。
つまり、自動運転コントロールユニット500は、他の車両110などのオブジェクトが自車線内に存在し、自車線内ではオブジェクトを避けて車両100を走行させることが難しい場合、隣接する車線を走行する車両がいないなどの条件が成立していれば、自車線から隣接する車線にはみ出した走行領域を、車両運動コントロールユニット600に指示する。
【0063】
そして、車両運動コントロールユニット600は、自動運転コントロールユニット500から指示された走行領域内で目標走行軌道を設定することで、自車線内に存在するオブジェクトを避けた走行軌道で車両100を走行させることになる。
なお、自動運転コントロールユニット500は、隣接車線がない場合や隣接車線を他の車両が走行している場合などであって、隣接する車線にはみ出した走行領域を指示できない場合、車線内に存在するオブジェクトの手前で車両100を停止させるための制動指令を車両運動コントロールユニット600に出力する。
【0064】
図18は、標準的な走行領域から衝突リスク領域を除いた走行領域が指示される場合の一態様として、飛び出しの警戒領域を衝突リスク領域とする場合を示す。
図18に示した例は、標準的な走行領域(換言すれば、自車線)の左側に看板120が建っていて、死角となる看板120の裏側から自車線内への歩行者の飛び出しなどが懸念される状況である。
【0065】
このとき、自動運転コントロールユニット500は、死角となる看板120の裏側から自車線内に向けて衝突リスク領域(換言すれば、飛び出しの警戒領域)を設定し、標準的な走行領域から衝突リスク領域を除いた領域を走行領域として車両運動コントロールユニット600に指示する。
これにより、車両運動コントロールユニット600は、衝突リスク領域(詳細には、飛び出し警戒領域)を予め避けた軌道で自車を走行させることになり、車両100の走行安全性が改善される。
【0066】
図19は、標準的な走行領域から衝突リスク領域を除いた走行領域が指示される場合の一態様として、路肩に存在するオブジェクトの近傍領域を衝突リスク領域とする場合を示す。
図19に示した例は、右側の路肩に高い壁130が建っている場合であって、係る壁130は直接的には走行の障害にはならない。
【0067】
ここで、自動運転コントロールユニット500は、壁130の近傍を車両100が走行しないように壁130の近傍を衝突リスク領域に設定して、壁130の近傍を避けた走行領域を車両運動コントロールユニット600に指示することができる。
これにより、車両運動コントロールユニット600は、壁130などのオブジェクトの近傍を避けた軌道で自車を走行させる。
【0068】
図20-
図22は、自動運転コントロールユニット500が、車両運動コントロールユニット600に指示する目標指令が、走行領域の指令に加えて、車両100の前方の路面情報及び/又はオブジェクト情報を含む場合を例示する。
図20は、走行領域内に複数のオブジェクトが存在する場合であって、車両100の前方の走行領域内に看板120及び停車車両140が存在する場合を例示する。
【0069】
係る状況の場合、自動運転コントロールユニット500は、車両運動コントロールユニット600に対し走行領域を指示するとともに、オブジェクト情報として、看板120の位置や大きさの情報、停車車両140の位置や大きさの情報を指令する。
走行領域とともにオブジェクト情報が指示された車両運動コントロールユニット600は、指示された走行領域内であって、かつ、走行領域内に存在する看板120や停車車両140などのオブジェクトを避けた目標走行軌道を設定する。
【0070】
図21は、走行領域内にオブジェクトとしての看板120が存在するとともに、走行領域内に路面カント150が部分的に存在する場合を例示する。
なお、路面カント150とは、路面の左右方向の傾斜である。
この場合、自動運転コントロールユニット500は、車両運動コントロールユニット600に対し走行領域を指示するとともに、オブジェクト情報として看板120の位置や大きさの情報を指令し、更に、路面情報として路面カント150の領域、傾斜角、傾斜方向などの情報を指令する。
【0071】
走行領域とともにオブジェクト情報及び路面情報が指示された車両運動コントロールユニット600は、指示された走行領域内で、オブジェクト情報及び路面情報を考慮して目標走行軌道を設定する。
ここで、車両運動コントロールユニット600は、走行領域内の看板120を避けるように目標走行軌道を設定する。
更に、車両運動コントロールユニット600は、路面カント150を避けての走行が可能であれば、路面カント150の領域を避けた目標走行軌道を設定し、路面カント150を避けて走行することが難しい場合には、路面カント150を通る軌道のうちでなるべく乗り心地が良くなる軌道を目標走行軌道として選定する。
【0072】
図22は、走行領域内にオブジェクトとしての看板120が存在するとともに、走行領域内に摩擦係数μが低い路面160(以下、低μ路面160と称する。)が部分的に存在する場合を例示する。
なお、低μ路面160は、水溜まり、凍結、積雪若しくは圧雪などが発生している路面、更には、砂や落ち葉などが吹き寄せられた路面などである。
【0073】
この場合、自動運転コントロールユニット500は、車両運動コントロールユニット600に対し走行領域を指示するとともに、オブジェクト情報として看板120の位置や大きさの情報を指令し、更に、路面情報として、低μ路面160の領域などの情報を指令する。
走行領域とともにオブジェクト情報及び路面情報が指示された車両運動コントロールユニット600は、指示された走行領域内で、オブジェクト情報及び路面情報を考慮して目標走行軌道を設定する。
【0074】
ここで、車両運動コントロールユニット600は、走行領域内の看板120を避けるように目標走行軌道を設定する。
更に、車両運動コントロールユニット600は、低μ路面160を避けての走行が可能であれば低μ路面160の領域を避けた目標走行軌道を設定し、低μ路面160を避けて走行することが難しい場合には、低μ路面160を通る軌道のうちでなるべく乗り心地が良くなる軌道を目標走行軌道として選定する。
【0075】
ところで、自動運転コントロールユニット500は、車両運動コントロールユニット600に対し、走行領域(及び、路面情報やオブジェクト情報)を指示するとともに、走行領域内で推奨する走行軌道である推奨軌道を指示することができる。
そして、車両運動コントロールユニット600は、指示された推奨軌道に沿って車両100を走行させることが可能で、かつ、推奨軌道に乗り心地、快適性、車酔いなどに関する悪化要因がないと判断したときは、推奨軌道に沿って車両100を走行させるための制御指令を出力する。
【0076】
一方、車両運動コントロールユニット600は、指示された推奨軌道に沿って車両100を走行させることができないと判断した場合、及び/又は、推奨軌道に乗り心地、快適性、車酔いなどに関する悪化要因があると判断したときは、推奨軌道とは異なる目標走行軌道を独自に求める。
つまり、車両運動コントロールユニット600は、自動運転コントロールユニット500から指示された推奨軌道に沿って車両100を走行させることができないと判断した場合は、推奨軌道に代えて、車両100を追従走行させることができる目標走行軌道を新たに求める。
【0077】
また、車両運動コントロールユニット600は、自動運転コントロールユニット500から指示された推奨軌道よりも、乗り心地などを改善できる走行軌道があると判断した場合は、推奨軌道に代えて、乗り心地などがより良い目標走行軌道を求める。
そして、車両運動コントロールユニット600は、独自に求めた目標走行軌道に沿って車両100を走行させるための制御指令を出力する。
【0078】
図23-
図25は、自動運転コントロールユニット500が推奨軌道を指示する場合での車両運動コントロールユニット600における目標走行軌道の設定を示す。
図23は、自動運転コントロールユニット500が指示する推奨軌道での走行が可能で、かつ、推奨軌道において乗り心地などに関する悪化要因がない場合における、推奨軌道と目標走行軌道とを示す。
この場合、車両運動コントロールユニット600は、推奨軌道をそのまま目標走行軌道に設定し、係る目標走行軌道に沿って車両100を走行させるための制御指令をアクチュエータ部700に出力する。
【0079】
図24は、自動運転コントロールユニット500が指示する推奨軌道上に落下物などのオブジェクトが存在し、推奨軌道に沿って車両100を走行させることができない場合における、推奨軌道と実際の走行軌道とを示す。
このとき、車両運動コントロールユニット600は、自動運転コントロールユニット500から指示された走行領域、推奨軌道、オブジェクト情報に基づき、推奨軌道上にオブジェクトが存在すると判断し、推奨軌道に代えて、指示された走行領域内でオブジェクトを避けて車両100を走行させる目標走行軌道を設定する。
【0080】
図25は、自動運転コントロールユニット500が指示する推奨軌道に、乗り心地などに関する悪化要因がある場合を示す。
このとき、車両運動コントロールユニット600は、推奨軌道で車両100を走行させた場合に発生する横加速度や横加加速度などを推定し、推奨軌道に沿って車両100を走行させる場合よりも、車両100に発生する横加速度又は横加加速度を小さくできる軌道を目標走行軌道とする。
【0081】
ところで、車両運動コントロールユニット600は、自動運転コントロールユニット500から指示された走行領域内で線としての走行軌道を定めることができる他、車両100が走行する可能性を含めた領域として走行軌道を設定して、可能性の設定がなるべく高い領域を車両100が通過するように、換言すれば、可能性が極値となる位置になるべく近い位置を車両100が通過するように、アクチュエータ部700に制御指令を出力することができる。
図26-
図29は、車両100が走行する可能性を含めた領域としての目標走行軌道の設定を説明するための図である。
【0082】
図26は、自動運転コントロールユニット500から指示された走行領域、実際に車両100が走行した軌道、車両100が走行する可能性が高い領域の一態様を示す。
また、
図27-
図29は、自動運転コントロールユニット500から指示された走行領域において、車両100の現在位置からの距離が異なる各地点I,II,III(
図26参照)における左右方向での走行可能性の設定状態を示す。
【0083】
車両運動コントロールユニット600は、走行可能性を、車両100の乗り心地、快適性、車酔いなどを考慮しつつ、自動運転コントロールユニット500から指示された走行領域に基づき設定する。
なお、
図27-
図29では、車両100の現在位置での車両100の前後方向を基準線SLとし、係る基準線SLから走行領域の左右端までの距離で、各地点I,II,IIIでの左右方向の位置を表す。
【0084】
そして、
図26に示すように、地点Iにおける基準線SLから走行領域の左端までの距離を距離Aとし、地点IIにおける基準線SLから走行領域の左端までの距離を距離Cとし、地点IIIにおける基準線SLから走行領域の左端までの距離を距離Dとする。
ここで、
図26に示した例では、距離C<距離A<距離Dであり、また、基準線SLから走行領域の右端までの距離は各地点I,II,IIIにおいて距離Bであり、更に、距離A=距離Bとする。
【0085】
距離A=距離Bであるから、地点Iでは、基準線SLが走行領域の中央に位置する。
そこで、車両運動コントロールユニット600は、
図27に示したように、地点Iにおいて基準線SLの位置になるべく近い位置を車両100が通るように、車両100の走行可能性が基準線SLの位置(つまり、走行領域の中心)で極値となるように設定する。
【0086】
一方、地点IIでは、基準線SLから走行領域の左端までの距離Cが、基準線SLから走行領域の右端までの距離Bよりも短く、基準線SLよりも右寄りのコースを車両100が通過することが好ましい。
そこで、車両運動コントロールユニット600は、
図28に示したように、地点IIにおいて、基準線SLよりも右寄りのコースを車両100が通過するように、車両100の走行可能性が基準線SLよりも右寄りで極値となるように設定する。
【0087】
また、地点IIIでは、基準線SLから走行領域の左端までの距離Dが、基準線SLから走行領域の左端までの距離Bよりも長く、基準線SLよりも左寄りのコースを車両100が通過することが好ましい。
そこで、車両運動コントロールユニット600は、
図29に示したように、地点IIIにおいて、基準線SLよりも左寄りのコースを車両100が通過するように、車両100の走行可能性が基準線SLよりも左寄りで極値となるように設定する。
なお、車両運動コントロールユニット600は、車両100が走行領域の中央付近を走行するように可能性設定を行うことを基本としつつ、車両100の乗り心地などを考慮して可能性を極値とする位置を設定する。
【0088】
ところで、車両制御システム200は、
図1に示した構成、つまり、認知判断部としての機能を有する自動運転コントロールユニット500と、走行領域の指示情報に基づきアクチュエータ部700に制御指令を出力するコントロール部としての機能を有する車両運動コントロールユニット600とからなる構成に限定されるものではない。
例えば、車両制御システム200は、
図1に示した自動運転コントロールユニット500及び車両運動コントロールユニット600に代えて、認知判断部としての機能とコントロール部としての機能とを兼ね備える統合コントロールユニットを備えることができる。
【0089】
図30に示す車両制御システム200は、自動運転コントロールユニット500及び車両運動コントロールユニット600に代えて、認知判断部としての機能とコントロール部としての機能とを備える統合コントロールユニット800を備えている。
なお、
図30において、
図1と同一の要素には同一符号を付して詳細な説明は省略する。
【0090】
統合コントロールユニット800は、同じ筐体内に、2つのマイクロコンピュータ810,820を搭載して構成される。
第1のマイクロコンピュータ810は、認知判断部としての機能をソフトウェアとして有し、第2のマイクロコンピュータ820は、第1のマイクロコンピュータ810から指示された走行領域の指示情報に基づきアクチュエータ部700に制御指令を出力するコントロール部としての機能をソフトウェアとして有する。
【0091】
ここで、第1のマイクロコンピュータ810は、
図1に示した、周辺状況認識部510、行動計画部520、目標生成部530としての機能、つまり、認知判断部としての機能をソフトウェアとして備える。
また、第2のマイクロコンピュータ820は、
図1に示した、軌道加工部610、軌道追従制御部620としての機能、つまり、コントロール部としての機能をソフトウェアとして備える。
【0092】
そして、第1のマイクロコンピュータ810は、外界認識部300からの情報に基づく認識及び判断によって走行領域を設定し、第2のマイクロコンピュータ820に対して走行領域を指示する。
一方、第2のマイクロコンピュータ820は、第1のマイクロコンピュータ810から取得した走行領域において、車両100の走行に関する諸元に基づいた車両100の速度及び走行軌道で車両100を走行させるための制御指令を、アクチュエータ部700に出力する。
【0093】
図31は、統合コントロールユニットに1つのマイクロコンピュータが搭載された車両制御システムを示す。
なお、
図31において、
図1と同一の要素には同一符号を付して詳細な説明は省略する。
【0094】
図31に示す車両制御システム200は、認知判断部としての機能とコントロール部としての機能とを備える統合コントロールユニット850を備えるが、統合コントロールユニット850は、認知判断部としての機能及びコントロール部としての機能をソフトウェアとして備える1つのマイクロコンピュータ860を備える。
つまり、マイクロコンピュータ860には、周辺状況認識部510、行動計画部520、及び目標生成部530を体現する第1のロジック861(換言すれば、上位ユニットロジック、或いは、認知判断ロジック)が搭載されるとともに、軌道加工部610、軌道追従制御部620を体現する第2のロジック862(換言すれば、下位ユニットロジック、或いは、コントロールロジック)が搭載される。
【0095】
そして、第1のロジック861は、外界認識部300からの情報に基づき走行領域を設定し、走行領域の情報を第2のロジック862に指示する。
第2のロジック862は、第1のロジック861が指示する走行領域において、車両100の走行に関する諸元に基づいた車両100の速度及び走行軌道で車両100を走行させるための制御指令を求め、求めた制御指令をアクチュエータ部700に出力する。
【0096】
また、
図30に示したように、第1のマイクロコンピュータ及び第2のマイクロコンピュータが搭載される統合コントロールユニットにおいて、各マイクロコンピュータの演算機能の分担は、
図30に示した分担に限定されない。
図32は、各マイクロコンピュータの演算機能の分担を変更した車両制御システム200を示す。なお、
図32において、
図1と同一の要素には同一符号を付して詳細な説明は省略する。
【0097】
図32に示す統合コントロールユニット870は、第1のマイクロコンピュータ880及び第2のマイクロコンピュータ890を搭載する。
そして、第1のマイクロコンピュータ880は、周辺状況認識部510としての機能をソフトウェアとして備え、第2のマイクロコンピュータ890は、行動計画部520、目標生成部530、軌道加工部610、軌道追従制御部620としての機能をソフトウェアとして備える。
【0098】
つまり、第1のマイクロコンピュータ880には、認知判断部としての機能の一部が搭載され、第2のマイクロコンピュータ890には、認知判断部としての機能の残りとコントロール部としての機能が搭載される。
なお、第1のマイクロコンピュータ880に、認知判断部としての機能とコントロール部としての機能の一部とを搭載し、第2のマイクロコンピュータ890にコントロール部としての機能の残りを搭載することができる。
【0099】
上記実施形態で説明した各技術的思想は、矛盾が生じない限りにおいて、適宜組み合わせて使用することができる。
また、好ましい実施形態を参照して本発明の内容を具体的に説明したが、本発明の基本的技術思想及び教示に基づいて、当業者であれば、種々の変形態様を採り得ることは自明である。
【0100】
例えば、車両制御システム200の認知判断部は、突発的な状況変化が起きたときに、状況変化に応じた新たな走行領域をコントロール部に指示する代わりに、状況変化に関わる路面情報やオブジェクト情報をコントロール部に指示することができる。
また、車両制御システム200の認知判断部は、コントロール部に指示する走行領域の車両進行方向の長さ及び/又は走行領域の指示周期を、車両100の速度、先行車との時間間隔、先行車の有無などの条件に応じて変更することができる。
【0101】
また、車両制御システム200の認知判断部は、車両100周辺における気象情報(風向き、風速、降雨量、積雪量など)を取得し、これらの気象情報に基づき走行領域の指示を変更することができる。
例えば、車両制御システム200の認知判断部は、走行領域の指示において、横風が強いときや大型車の接近などによって横風を受ける可能性があるときに、横風の影響が小さいときに比べて左右方向の幅を狭めて走行領域を指示したり、車線中央よりも風上に寄った走行領域を指示したりすることができる。
【0102】
また、コントロール部は、認知判断部から取得した、うねりやポットホールなどの路面情報に基づき、電子制御サスペンション750を制御して減衰力や車高を調整することができる。
また、車両制御システム200の認知判断部は、推奨軌道をコントロール部に指示するときに、オブジェクトを避けたルートを推奨軌道として求めることができる。
【0103】
また、車両制御システム200における乗り心地の優先度合い(具体的には、最大許容横加速度或いは最大許容横加加速度)を、車両100の乗員がモード設定スイッチなどを操作することで任意に選択できるよう構成することができる。
また、認知判断部を車両100の外部に設け、車両100に搭載されたコントロール部が、路車間通信装置330などを用いて走行領域を含む目標指令を外部から無線で受け取るシステムとすることができる。
【0104】
また、衝突リスク領域に基づき走行領域を設定するときに、衝突リスク領域の情報にリスク度合いの情報を含めるようにして、リスク度合いに基づき目標車速及び/又は目標走行軌道が変更される構成とすることができる。
例えば、リスク度合いが所定よりも低い場合は、目標車速を下げつつ衝突リスク領域を通過する走行軌道の設定を許容する構成とすることができる。
【符号の説明】
【0105】
100…車両、200…車両制御システム、300…外界認識部、400…車両運動検出部、500…自動運転コントロールユニット(第1コントロールユニット)、510…周辺状況認識部、520…行動計画部、530…目標生成部、540…マイクロコンピュータ(認知判断部)、600…車両運動コントロールユニット(第2コントロールユニット、車両制御装置)、610…軌道加工部、620…軌道追従制御部、630…マイクロコンピュータ(コントロール部)、700…アクチュエータ部