(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024019639
(43)【公開日】2024-02-09
(54)【発明の名称】顕微鏡システム、プログラム、及び、投影画像生成方法
(51)【国際特許分類】
G02B 21/36 20060101AFI20240202BHJP
G02B 21/00 20060101ALI20240202BHJP
【FI】
G02B21/36
G02B21/00
【審査請求】有
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023214425
(22)【出願日】2023-12-20
(62)【分割の表示】P 2020547904の分割
【原出願日】2018-12-25
(31)【優先権主張番号】P 2018183763
(32)【優先日】2018-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】322004393
【氏名又は名称】株式会社エビデント
(74)【代理人】
【識別番号】110004185
【氏名又は名称】インフォート弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】米山 貴
(72)【発明者】
【氏名】壁谷 章文
(72)【発明者】
【氏名】谷 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】中田 竜男
(72)【発明者】
【氏名】唐澤 雅善
(57)【要約】
【課題】病理医による光学画像に基づく病理診断を補助する診断補助技術を提供する。
【解決手段】顕微鏡システム1は、接眼レンズ104と、試料からの光を接眼レンズ104へ導く対物レンズ102と、接眼レンズ104と対物レンズ102の間に配置され、試料からの光に基づいて試料の光学画像を形成する結像レンズ103と、画像解析部22と、投影画像生成部23と、光学画像の像面に投影画像を投影する投影装置133を備える。画像解析部22は、試料のデジタル画像データに対して複数の解析処理から選択された少なくとも1つの解析処理を行い、少なくとも1つの解析処理に応じた解析結果を出力する。投影画像生成部23は、解析結果と少なくとも1つの解析処理とに基づいて投影画像データを生成する。投影画像データが表現する投影画像は、解析結果を少なくとも1つの解析処理に応じた表示形式で表す画像である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料からの光に基づいて前記試料の光学画像を形成する結像レンズと、
前記光学画像に基づき、前記試料のデジタル画像データを生成する撮像素子と、
コンピュータであって、前記コンピュータは、
前記撮像素子から、前記試料のデジタル画像データを取得し、
予め準備された複数の解析処理から、利用者の入力操作に基づく操作情報または前記試料に付加された識別情報を含む選択情報に基づいて少なくとも1つの前記解析処理を特定し、前記複数の解析処理は、複数の染色法および/またはバイオマーカーを対象としたそれぞれ異なる処理であり、
前記試料のデジタル画像データに対して前記複数の解析処理から特定された少なくとも1つの解析処理を行い、
前記特定された少なくとも1つの解析処理に応じた解析結果を出力し、
前記解析結果と、前記特定された少なくとも1つの解析処理とに基づいて投影画像データを生成し、前記投影画像データが表現する投影画像は、前記解析結果を前記特定された少なくとも1つの解析処理に応じて決定された表示形式で表す画像である、前記コンピュータと、
前記光学画像が形成されている像面に前記投影画像を投影する投影装置と、を含む
顕微鏡システム。
【請求項2】
請求項1に記載の顕微鏡システムにおいて、
前記表示形式は、画像の色を含み、
前記コンピュータは、前記少なくとも1つの解析処理に応じて、前記投影画像の色を決定する
ことを特徴とする顕微鏡システム。
【請求項3】
請求項2に記載の顕微鏡システムにおいて、
前記表示形式は、さらに、画像を構成する図形の書式を含み、
前記コンピュータは、前記少なくとも1つの解析処理に応じて、前記投影画像を構成する図形の書式を決定する
ことを特徴とする顕微鏡システム。
【請求項4】
請求項2又は請求項3に記載の顕微鏡システムにおいて、
前記表示形式は、さらに、画像の位置を含み、
前記コンピュータは、前記少なくとも1つの解析処理に応じて、前記像面における前記投影画像と前記光学画像の位置関係を決定する
ことを特徴とする顕微鏡システム。
【請求項5】
請求項4に記載の顕微鏡システムにおいて、
前記コンピュータは、前記少なくとも1つの解析処理に応じて、前記投影画像の少なくとも一部を前記光学画像の領域外に投影するか否かを決定する
ことを特徴とする顕微鏡システム。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の顕微鏡システムにおいて、
前記顕微鏡システムは、前記少なくとも1つの解析処理に応じて、前記光学画像と前記投影画像の少なくとも一方の明るさを調整する
ことを特徴とする顕微鏡システム。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の顕微鏡システムにおいて、
前記コンピュータは、
前記デジタル画像データが表現するデジタル画像に写る一つ以上の構造物を一つ以上のクラスに分類し、
前記一つ以上のクラスのうちの少なくとも一つのクラスに分類された構造物の位置を特定する位置情報を生成し、
前記位置情報を含む前記解析結果を出力し、
前記投影画像は、前記少なくとも一つのクラスに分類された構造物の位置を表す図形を含む
ことを特徴とする顕微鏡システム。
【請求項8】
請求項7に記載の顕微鏡システムにおいて、
前記コンピュータは、
前記少なくとも一つのクラスに分類された構造物の統計情報を生成し、
前記位置情報と前記統計情報とを含む前記解析結果を出力し、
前記投影画像は、前記少なくとも一つのクラスに分類された構造物の位置を表す図形と、前記統計情報を含む
ことを特徴とする顕微鏡システム。
【請求項9】
請求項7または請求項8に記載の顕微鏡システムにおいて、
前記少なくとも一つのクラスに分類された構造物は、病理医による病理診断における判定の根拠となる対象物である
ことを特徴とする顕微鏡システム。
【請求項10】
請求項1乃至請求項9のいずれか1項に記載の顕微鏡システムにおいて、
前記コンピュータは、
前記顕微鏡システムの設定に応じて、前記像面へ前記投影画像を投影するか否かを決定し、
前記顕微鏡システムが所定の設定のときに、前記投影装置が前記像面へ前記投影画像を投影するように、前記投影装置を制御する
ことを特徴とする顕微鏡システム。
【請求項11】
請求項1乃至請求項10のいずれか1項に記載の顕微鏡システムにおいて、さらに、
利用者の入力操作に応じた操作信号を出力する入力装置を備え、
前記コンピュータは、前記入力装置から出力された操作信号に従って、前記少なくとも1つの解析処理に用いる閾値の一部を変更する
ことを特徴とする顕微鏡システム。
【請求項12】
請求項11に記載の顕微鏡システムにおいて、
前記コンピュータは、さらに、複数の診断プロトコルから選択された診断プロトコルに基づいて第2投影画像データを生成し、前記第2投影画像データが表現する第2投影画像は、選択された前記診断プロトコルに応じた画像である
ことを特徴とする顕微鏡システム。
【請求項13】
請求項12に記載の顕微鏡システムにおいて、
前記投影画像は、前記選択された診断プロトコルの診断手順の案内を含む
ことを特徴とする顕微鏡システム。
【請求項14】
請求項2に記載の顕微鏡システムにおいて、
前記投影画像は、前記光学画像と異なる色で投影される
ことを特徴とする顕微鏡システム。
【請求項15】
光学画像が形成されている像面に投影画像を投影する投影装置を有する顕微鏡用の投影画像生成プログラムであって、
コンピュータに、
撮像素子から試料のデジタル画像データを取得し、
予め準備された複数の解析処理から、利用者の入力操作に基づく操作情報または前記試料に付加された識別情報を含む選択情報に基づいて少なくとも1つの前記解析処理を特定し、前記複数の解析処理は、複数の染色法および/またはバイオマーカーを対象としたそれぞれ異なる内容の処理であり、
前記試料のデジタル画像データに対して複数の解析処理から特定された少なくとも1つの解析処理を行い、
前記特定された少なくとも1つの解析処理に応じた解析結果を出力し、
前記解析結果と、前記特定された少なくとも1つの解析処理とに基づいて前記投影画像を表現する投影画像データを生成し、前記投影画像データは、前記解析結果を前記特定された少なくとも1つの解析処理に応じて決定された表示形式で示す、
処理を実行させるプログラム。
【請求項16】
光学画像が形成されている像面に投影画像を投影する投影装置を有する顕微鏡用の投影画像生成方法であって、
コンピュータが、
撮像素子から試料のデジタル画像データを取得し、
予め準備された複数の解析処理から、利用者の入力操作に基づく操作情報または前記試料に付加された識別情報を含む選択情報に基づいて少なくとも1つの前記解析処理を特定し、前記複数の解析処理は、複数の染色法および/またはバイオマーカーを対象としたそれぞれ異なる内容の処理であり、
前記試料のデジタル画像データに対して複数の解析処理から特定された少なくとも1つの解析処理を行い、
前記特定された少なくとも1つの解析処理に応じた解析結果を出力し、
前記解析結果と、前記特定された少なくとも1つの解析処理とに基づいて前記投影画像を表現する投影画像データを生成し、前記投影画像データは、前記解析結果を前記特定された少なくとも1つの解析処理に応じて決定された表示形式で示す、
投影画像生成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書の開示は、顕微鏡システム、プログラム、及び、投影画像生成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
病理診断における病理医の負担を軽減する技術の一つとして、WSI(Whole Slide Imaging)技術が注目されている。WSI技術とはスライドガラス上の検体全域のデジタル画像であるWSI(Whole Slide Image)を作成する技術である。デジタル画像であるWSIをモニタに表示して診断を行うことで、病理医は様々なメリットを享受することができる。具体的には、診断中に顕微鏡本体の操作が不要となる、表示倍率を容易に変更することができる、複数名の病理医が同時に診断に関与することができる、などのメリットが挙げられる。このようなWSI技術については、例えば、特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
その一方で、WSI技術を適用したシステム(以降、WSIシステムと記す。)には高い性能が要求される。具体的には、病理診断では色、濃淡の情報が極めて重要であることから、WSIシステムには、高い色再現性、広いダイナミックレンジが要求される。このため、WSIシステムを構成する各機器は高い性能を有する高価なものとならざるを得ず、その結果、WSIシステムを導入することができるユーザが限られてしまう。
【0005】
このような実情から、病理医が光学顕微鏡によって得られる光学画像(アナログ画像)に基づいて行う病理診断を補助することで、病理医の負担を軽減する新たな技術が求められている。
【0006】
本発明の一側面に係る目的は、病理医による光学画像に基づく病理診断を補助する診断補助技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係る顕微鏡システムは、接眼レンズと、試料からの光を前記接眼レンズへ導く対物レンズと、前記接眼レンズと前記対物レンズの間の光路上に配置され、前記試料からの光に基づいて前記試料の光学画像を形成する結像レンズと、前記試料のデジタル画像データに対して複数の解析処理から選択された少なくとも1つの解析処理を行い、前記少なくとも1つの解析処理に応じた解析結果を出力する画像解析部と、前記解析結果と前記少なくとも1つの解析処理とに基づいて投影画像データを生成する投影画像生成部であって、前記投影画像データが表現する投影画像は、前記解析結果を前記少なくとも1つの解析処理に応じた表示形式で表す画像である、前記投影画像生成部と、前記光学画像が形成されている像面に前記投影画像を投影する投影装置と、を備える。
【0008】
本発明の別の態様に係る顕微鏡システムは、接眼レンズと、試料からの光を前記接眼レンズへ導く対物レンズと、前記接眼レンズと前記対物レンズの間の光路上に配置され、前記試料からの光に基づいて前記試料の光学画像を形成する結像レンズと、複数の診断プロトコルから選択された診断プロトコルに基づいて投影画像データを生成する投影画像生成部であって、前記投影画像データが表現する投影画像は、選択された前記診断プロトコルに応じた画像である、前記投影画像生成部と、前記光学画像が形成されている像面に前記投影画像を投影する投影装置と、を備える。
【0009】
本発明のさらに別の態様に係る顕微鏡システムは、接眼レンズと、試料からの光を前記接眼レンズへ導く対物レンズと、前記接眼レンズと前記対物レンズの間の光路上に配置され、前記試料からの光に基づいて前記試料の光学画像を形成する結像レンズと、前記試料のデジタル画像データに対して複数の解析処理から選択された少なくとも1つの解析処理を行い、前記少なくとも1つの解析処理に応じた解析結果を出力する画像解析部と、前記解析結果と前記少なくとも1つの解析処理とに基づいて第1投影画像データを生成し、複数の診断プロトコルから選択された診断プロトコルに基づいて第2投影画像データを生成する投影画像生成部であって、前記第1投影画像データが表現する第1投影画像は、前記解析結果を前記少なくとも1つの解析処理に応じた表示形式で表す画像であり、前記第2投影画像データが表現する第2投影画像は、選択された前記診断プロトコルに応じた画像である、前記投影画像生成部と、前記光学画像が形成されている像面に前記第1投影画像と前記第2投影画像を投影する投影装置と、を備える。
【0010】
本発明の一態様に係る投影ユニットは、対物レンズと結像レンズと接眼レンズを備える顕微鏡用の投影ユニットであって、試料からの光に基づいて前記試料のデジタル画像データを取得する撮像装置と、前記試料のデジタル画像データに対して複数の解析処理から選択された少なくとも1つの解析処理を行い、前記少なくとも1つの解析処理に応じた解析結果を出力する画像解析部と、前記解析結果と前記少なくとも1つの解析処理とに基づいて投影画像データを生成する投影画像生成部であって、前記投影画像データが表現する投影画像は、前記解析結果を前記少なくとも1つの解析処理に応じた表示形式で表す画像である、前記投影画像生成部と、前記結像レンズにより前記試料の光学画像が形成されている像面に前記投影画像を投影する投影装置と、を備える。
【0011】
本発明の別の態様に係る投影ユニットは、対物レンズと結像レンズと接眼レンズを備える顕微鏡用の投影ユニットであって、試料からの光に基づいて前記試料のデジタル画像データを取得する撮像装置と、複数の診断プロトコルから選択された診断プロトコルに基づいて投影画像データを生成する投影画像生成部であって、前記投影画像データが表現する投影画像は、選択された前記診断プロトコルに応じた画像である、前記投影画像生成部と、前記結像レンズにより前記試料の光学画像が形成されている像面に前記投影画像を投影する投影装置と、を備える。
【0012】
本発明の一態様に係る画像投影方法は、顕微鏡システムが行う画像投影方法であって、前記顕微鏡システムは、前記試料のデジタル画像データに対して複数の解析処理から選択された少なくとも1つの解析処理を行い、前記少なくとも1つの解析処理に応じた解析結果を出力し、前記解析結果と前記少なくとも1つの解析処理とに基づいて投影画像データを生成し、前記試料の光学画像が形成されている像面に前記投影画像データが表現する投影画像を投影し、ここで、前記投影画像は、前記解析結果を前記少なくとも1つの解析処理に応じた表示形式で表す画像である。
【0013】
本発明の別の態様に係る画像投影方法は、顕微鏡システムが行う画像投影方法であって、前記顕微鏡システムは、複数の診断プロトコルから選択された診断プロトコルに基づいて投影画像データを生成し、前記試料の光学画像が形成されている像面に前記投影画像データが表現する投影画像を投影し、ここで、前記投影画像は、選択された前記診断プロトコルに応じた画像である。
【発明の効果】
【0014】
上記の態様によれば、病理医による光学画像に基づく病理診断を補助することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図3】顕微鏡システム1が行う画像投影処理のフローチャートである。
【
図5】顕微鏡システム1の接眼レンズ104から見える画像の一例である。
【
図6】顕微鏡システム1の接眼レンズ104から見える画像の別の例である。
【
図7】顕微鏡システム1の接眼レンズ104から見える画像の更に別の例である。
【
図8】顕微鏡システム1の接眼レンズ104から見える画像の更に別の例である。
【
図9】顕微鏡システム1の接眼レンズ104から見える画像の更に別の例である。
【
図10】顕微鏡システム1の接眼レンズ104から見える画像の更に別の例である。
【
図11】ニューラルネットワークの構成を示した図である。
【
図12】顕微鏡システム2の構成を示した図である。
【
図13】顕微鏡システム3に含まれるコンピュータ60の構成を示した図である。
【
図14】顕微鏡システム3が行う画像投影処理のフローチャートである。
【
図15】顕微鏡システム3の接眼レンズ104から見える画像の一例である。
【
図16】顕微鏡システム3の接眼レンズ104から見える画像の別の例である。
【
図17】顕微鏡システム3の接眼レンズ104から見える画像の更に別の例である。
【
図18】顕微鏡システム3の接眼レンズ104から見える画像の更に別の例である。
【
図19】顕微鏡システム4と外部閲覧システム300を含む診断補助システムの構成を示した図である。
【
図21】顕微鏡500を含む顕微鏡システムの接眼レンズ104から見える画像の変化の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[第1実施形態]
図1は、本実施形態に係る顕微鏡システム1の構成を示した図である。
図2は、コンピュータ20の構成を示した図である。顕微鏡システム1は、病理医が病理診断で用いる顕微鏡システムであり、少なくとも、対物レンズ102と、結像レンズ103と、接眼レンズ104と、画像解析部22と、投影画像生成部23と、投影装置133と、を備えている。
【0017】
顕微鏡システム1は、対物レンズ102と結像レンズ103によって試料の光学画像が形成されている像面に、投影装置133を用いて投影画像を投影する。より具体的には、画像解析部22が試料のデジタル画像データに対して解析処理を行い、投影画像生成部23が解析結果と解析処理とに基づいて投影画像データを生成し、投影装置133が像面に解析結果を解析処理に応じた表示形式で表す投影画像を投影する。これにより、病理医は、解析処理に応じた表示形式の投影画像が光学画像上に重畳した画像を見ることになる。このため、顕微鏡システム1は、接眼レンズ104を覗いて試料を観察中の病理医に、病理診断を補助する種々の情報を視認しやすい表示形式で提供することができる。
【0018】
以下、
図1及び
図2を参照しながら、顕微鏡システム1の構成の具体例について詳細に説明する。顕微鏡システム1は、
図1に示すように、顕微鏡100と、顕微鏡コントローラ10と、コンピュータ20と、表示装置30と、入力装置40と、識別装置50と、を備えている。
【0019】
顕微鏡100は、例えば、正立顕微鏡であり、顕微鏡本体110と、鏡筒120と、中間鏡筒130を備えている。なお、顕微鏡100は、倒立顕微鏡であってもよい。
【0020】
顕微鏡本体110は、試料を載置するステージ101と、試料からの光を接眼レンズ104に導く対物レンズ(対物レンズ102、対物レンズ102a)と、落射照明光学系と、透過照明光学系と、を備えている。ステージ101は、手動ステージであっても、電動ステージであってもよい。レボルバには、倍率の異なる複数の対物レンズが装着されていることが望ましい。例えば、対物レンズ102は、4倍の対物レンズであり、対物レンズ102aは、20倍の対物レンズである。なお、顕微鏡本体110は、落射照明光学系と透過照明光学系の少なくとも一方を備えていれば良い。
【0021】
顕微鏡本体110は、さらに、顕鏡法を切り換えるためのターレット111を備えている。ターレット111には、例えば、蛍光観察法で用いられる蛍光キューブ、明視野観察法で用いられるハーフミラーなどが配置されている。その他、顕微鏡本体110は、特定の顕鏡法で用いられる光学素子を光路に対して挿脱自在に備えていても良い。具体的には、顕微鏡本体110は、例えば、微分干渉観察法で用いられるDICプリズム、ポラライザ、アナライザなどを備えても良い。
【0022】
鏡筒120は、接眼レンズ104が装着された、単眼鏡筒又は双眼鏡筒である。鏡筒120内には、結像レンズ103が設けられる。結像レンズ103は、対物レンズ102と接眼レンズ104の間の光路上に配置されている。結像レンズ103は、接眼レンズ104と結像レンズ103の間の像面に、試料からの光に基づいて試料の光学画像を形成する。また、結像レンズ103は、像面に、投影装置133からの光に基づいて後述する投影画像も形成する。これにより、像面において光学画像に投影画像が重畳される。
【0023】
中間鏡筒130は、顕微鏡本体110と鏡筒120の間に設けられている。中間鏡筒130は、撮像素子131と、光偏向素子132と、投影装置133と、光偏向素子134と、を備えている。
【0024】
撮像素子131は、試料からの光を検出する光検出器の一例である。撮像素子131は、二次元イメージセンサであり、例えば、CCDイメージセンサ、CMOSイメージセンサなどである。撮像素子131は、試料からの光を検出し、その検出結果に基づいて試料のデジタル画像データを生成する。
【0025】
光偏向素子132は、試料からの光を撮像素子131に向けて偏向する第1光偏向素子の一例である。光偏向素子132は、例えば、ハーフミラーなどのビームスプリッタである。光偏向素子132には、透過率と反射率を可変する可変ビームスプリッタが用いられても良い。光偏向素子132は、接眼レンズ104と対物レンズ102の間の光路上に配置される。これにより、撮像素子131で目視観察と同じ方向から見た試料のデジタル画像を得ることが可能となる。
【0026】
投影装置133は、コンピュータ20からの命令に従って、後述する投影画像を像面に投影する投影装置である。投影装置133は、例えば、液晶デバイスを用いたプロジェクタ、デジタルミラーデバイスを用いたプロジェクタ、LCOSを用いたプロジェクタなどである。
【0027】
光偏向素子134は、投影装置133から出射した光を像面に向けて偏向する第2光偏向素子の一例である。光偏向素子134は、例えば、ハーフミラーなどのビームスプリッタである。光偏向素子134には、透過率と反射率を可変する可変ビームスプリッタが用いられても良い。光偏向素子134には、ダイクロイックミラーなどが用いられても良い。光偏向素子134は、像面と光偏向素子132の間の光路上に配置される。これにより、投影装置133からの光が撮像素子131へ入射することを回避することができる。
【0028】
顕微鏡コントローラ10は、顕微鏡100、特に、顕微鏡本体110を制御する。顕微鏡コントローラ10は、コンピュータ20と顕微鏡100に接続されていて、コンピュータ20からの命令に応じて顕微鏡100を制御する。
【0029】
表示装置30は、例えば、液晶ディスプレイ、有機EL(OLED)ディスプレイ、CRT(Cathode Ray Tube)ディスプレイなどである。入力装置40は、利用者の入力操作に応じた操作信号をコンピュータ20へ出力する。入力装置40は、例えば、キーボードであるが、マウス、ジョイスティック、タッチパネルなどを含んでもよい。
【0030】
識別装置50は、試料に付加された識別情報を取得する装置である。識別情報は、少なくとも試料を識別する情報を含んでいる。識別情報には、試料の解析方法、診断プロトコルについての情報などが含まれても良い。識別装置50は、例えば、バーコードリーダ、RFIDリーダ、QR(登録商標)コードリーダなどである。
【0031】
コンピュータ20は、顕微鏡システム1全体を制御する。コンピュータ20は、顕微鏡100、顕微鏡コントローラ10、表示装置30、入力装置40、及び、識別装置50に接続されている。コンピュータ20は、主に投影装置133の制御に関連する構成要素として、
図1に示すように、カメラ制御部21、画像解析部22、投影画像生成部23、情報取得部24、投影制御部25、画像記録部26、画像合成部27、表示制御部28を備えている。
【0032】
カメラ制御部21は、撮像素子131を制御することで、試料のデジタル画像データを取得する。カメラ制御部21が取得したデジタル画像データは、画像解析部22、画像記録部26、及び画像合成部27へ出力される。
【0033】
画像解析部22は、カメラ制御部21が取得したデジタル画像データに対して複数の解析処理から選択された少なくとも1つの解析処理を行い、少なくとも1つの解析処理に応じた解析結果を投影画像生成部23へ出力する。選択対象である複数の解析処理は、HE染色、IHC染色などの異なる複数の染色法を対象とする処理であっても良い。また、選択対象である複数の解析処理は、HER2、Ki-67、ER/PgRなどの異なる複数のバイオマーカーを対象とする処理であってもよい。また、選択対象である複数の解析処理は、染色法とバイオマーカーの異なる複数の組み合わせを対象とする処理であってもよい。
【0034】
なお、画像解析部22は、利用者による入力操作に基づいて少なくとも1つの解析処理を選択してもよい。より具体的には、画像解析部22は、情報取得部24が取得した利用者の操作情報に基づいて少なくとも1つの解析処理を選択してもよい。また、画像解析部22は、識別装置50が取得した識別情報に基づいて少なくとも1つの解析処理を選択してもよい。より具体的には、識別装置50が取得した識別情報を情報取得部24から取得し、その識別情報に含まれる解析方法に基づいて少なくとも1つの解析処理を選択してもよい。なお、操作情報と識別情報はいずれも解析処理を選択するための情報を含んでいる。このため、以降では、これらの情報を選択情報と総称する。
【0035】
画像解析部22が行う解析処理の内容は特に限定しない。画像解析部22は、例えば、デジタル画像データが表現するデジタル画像に写る一つ以上の構造物を一つ以上のクラスに分類し、その一つ以上のクラスのうちの少なくとも一つのクラスに分類された構造物の位置を特定する位置情報を含む解析結果を生成してもよい。より具体的には、画像解析部22は、デジタル画像に写る細胞を染色強度に応じて分類し、細胞が分類されたクラス情報とその細胞の輪郭又はその細胞の核の輪郭を特定する位置情報とを含む解析結果を生成してもよい。また、画像解析部22は、クラス情報と位置情報に加えて、各クラスの細胞数、全体に対する各クラスの細胞比率などの、少なくとも1つクラスに分類された構造物の統計情報を含む解析結果を生成しても良い。なお、少なくとも一つのクラスに分類された構造物は、病理医による病理診断における判定の根拠となる対象物であることが望ましい。
【0036】
投影画像生成部23は、画像解析部22から出力された解析結果と、情報取得部24から取得した選択情報により特定される少なくとも1つの解析処理と、に基づいて、投影画像データを生成する。投影画像データが表現する投影画像は、解析結果を少なくとも1つの解析処理に応じた表示形式で表す画像である。投影画像生成部23で生成された投影画像は、投影制御部25、画像記録部26、及び、画像合成部27へ出力される。
【0037】
表示形式には、少なくとも、画像の色が含まれる。従って、投影画像生成部23は、少なくとも1つの解析処理に応じて、投影画像の色を決定する。また、表示形式には、画像の色に加えて、画像を構成する図形(例えば、線)の書式が含まれてもよい。従って、投影画像生成部23は、少なくとも1つの解析処理に応じて、投影画像を構成する図形の書式を決定してもよい。なお、図形の書式には、図形を塗りつぶすか否か、図形の種類などが含まれる。例えば、図形が線の場合であれば、線種、線の太さなどが線の書式に含まれる。さらに、表示形式には、画像の色に加えて、画像の位置が含まれてもよい。従って、投影画像生成部23は、少なくとも1つの解析処理に応じて、像面における投影画像と光学画像の位置関係を決定してもよく、投影画像の少なくともと一部を光学画像の領域外に投影するか否かを決定してもよい。
【0038】
より具体的には、投影画像生成部23は、投影画像の色が光学画像の色とは異なるように、投影画像データを生成する。染色法に応じて光学画像の色は異なるため、投影画像生成部23は、選択された解析処理が対象とする染色法に応じて、投影画像の色を変更してもよい。例えば、HE染色法では光学画像が青紫色になるため、投影画像の色を青紫色とは異なる色にすることが望ましい。
【0039】
また、バイオマーカーに応じて細胞内の染色箇所が異なるため、投影画像生成部23は、選択された解析処理が対象とするバイオマーカーに応じて、投影画像を構成する図形の書式を変更してもよい。例えば、HER2タンパク質の過剰発現を解析する場合であれば、細胞膜が染色されるため、細胞の輪郭をなぞる中抜きの図形で投影画像を構成してもよい。また、ER/PgRの発現を解析する場合であれば、細胞の核が染色されるため、細胞の核を塗りつぶす図形で投影画像を構成してもよい。
【0040】
さらに、HE染色法は細胞の形態観察にしばしば用いられる。細胞の形態について詳細に観察する場合には、投影画像により光学画像の観察が妨げられないことが望ましい。このため、投影画像生成部23は、選択された解析処理が対象とする染色法に応じて、投影画像の位置を変更してもよい。例えば、HE染色法では、投影画像が補足的な文字情報を含んでいる場合には、その文字情報と光学画像の重なりが少なくなるように投影画像の位置を変更してもよい。
【0041】
情報取得部24は、コンピュータ20外部の装置から情報を取得する。具体的には、情報取得部24は、入力装置40からの操作信号に基づいて利用者の操作情報を取得する。また、情報取得部24は、識別装置50から識別情報を取得する。
【0042】
投影制御部25は、投影装置133を制御することで、像面への投影画像の投影を制御する。投影制御部25は、顕微鏡システム1の設定に応じて投影装置133を制御しても良い。具体的には、投影制御部25は、顕微鏡システム1の設定に応じて、像面に投影画像を投影するか否かを決定してもよく、顕微鏡システム1が所定の設定のときに、投影装置133が像面へ投影画像を投影するように、投影装置133を制御しても良い。つまり、顕微鏡システム1は、投影画像を像面に投影するか否かを設定によって変更することができる。
【0043】
画像記録部26は、デジタル画像データと投影画像データを記録する。具体的には、画像記録部26は、デジタル画像データとは異なる領域に投影画像データを、デジタル画像データと関連付けて記録する。これにより、互いに関連するデジタル画像データと投影画像データを、必要に応じて個別に読み出すことが可能となる。さらに、画像記録部26は、試料に付加された識別情報を、識別装置50及び情報取得部24を経由して取得し、取得した識別情報をデジタル画像データと関連付けて記録しても良い。また、画像記録部26は、利用者による記録指示の入力を検出したときに、デジタル画像データと投影画像データを記録してもよい。
【0044】
画像合成部27は、デジタル画像データと投影画像データに基づいて、デジタル画像と投影画像が合成された合成画像の画像データを生成し、表示制御部28へ出力する。
【0045】
表示制御部28は、画像合成部27から出力された合成画像データに基づいて、合成画像を表示装置30に表示する。なお、表示制御部28は、デジタル画像データに基づいてデジタル画像を単独で表示装置30に表示してもよい。
【0046】
なお、コンピュータ20は、汎用装置であっても、専用装置であってもよい。コンピュータ20は、特にこの構成に限定されるものではないが、例えば、
図2に示すような物理構成を有してもよい。具体的には、コンピュータ20は、プロセッサ20a、メモリ20b、補助記憶装置20c、入出力インタフェース20d、媒体駆動装置20e、通信制御装置20fを備えてもよく、それらが互いにバス20gによって接続されてもよい。
【0047】
プロセッサ20aは、例えば、CPU(Central Processing Unit)を含む、任意の処理回路である。プロセッサ20aは、メモリ20b、補助記憶装置20c、記憶媒体20hに格納されているプログラムを実行してプログラムされた処理を行うことで、上述した投影装置133の制御に関連する構成要素(カメラ制御部21、画像解析部22、投影画像生成部23等)を実現しても良い。また、プロセッサ20aは、ASIC、FPGA等の専用プロセッサを用いて構成されてもよい。
【0048】
メモリ20bは、プロセッサ20aのワーキングメモリである。メモリ20bは、たとえば、RAM(Random Access Memory)等の任意の半導体メモリである。補助記憶装置20cは、EPROM(Erasable Programmable ROM)、ハードディスクドライブ(Hard Disc Drive)等の不揮発性のメモリである。入出力インタフェース20dは、外部装置(顕微鏡100、顕微鏡コントローラ10、表示装置30、入力装置40、識別装置50)と情報をやり取りする。
【0049】
媒体駆動装置20eは、メモリ20b及び補助記憶装置20cに格納されているデータを記憶媒体20hに出力することができ、また、記憶媒体20hからプログラム及びデータ等を読み出すことができる。記憶媒体20hは、持ち運びが可能な任意の記録媒体である。記憶媒体20hには、例えば、SDカード、USB(Universal Serial Bus)フラッシュメモリ、CD(Compact Disc)、DVD(Digital Versatile Disc)などが含まれる。
【0050】
通信制御装置20fは、ネットワークへの情報の入出力を行う。通信制御装置20fとしては、例えば、NIC(Network Interface Card)、無線LAN(Local Area Network)カード等が採用され得る。バス20gは、プロセッサ20a、メモリ20b、補助記憶装置20c等を、相互にデータの授受可能に接続する。
【0051】
以上のように構成された顕微鏡システム1は、
図3に示す画像投影処理を行う。
図3は、顕微鏡システム1が行う画像投影処理のフローチャートである。
図4は、選択画面31を例示した図である。以下、
図3及び
図4を参照しながら、顕微鏡システム1の画像投影方法について説明する。
【0052】
まず、顕微鏡システム1は、試料の光学画像を像面に投影する(ステップS1)。ここでは、対物レンズ102が取り込んだ試料からの光を結像レンズ103が像面に集光し、試料の光学像を形成する。
【0053】
さらに、顕微鏡システム1は、試料のデジタル画像データを取得する(ステップS2)。ここでは、対物レンズ102が取り込んだ試料からの光の一部を光偏向素子132が撮像素子131へ向けて偏向する。撮像素子131は、光偏向素子132で偏向された光に基づいて試料を撮像することでデジタル画像データを生成する。
【0054】
その後、顕微鏡システム1は、予め準備されている複数の解析処理から選択された解析処理を特定する(ステップS3)。ここでは、利用者が、例えば、
図4に示す選択画面31上の各メニュー(メニュー32、メニュー33、メニュー34、メニュー35)を選択して、ボタン36を押下する。画像解析部22は、利用者によるこの入力操作に基づいて選択された解析処理を特定する。
【0055】
解析処理が特定されると、顕微鏡システム1は、特定された解析処理を実行する(ステップS4)。ここでは、画像解析部22は、ステップS2で取得したデジタル画像データに対して、ステップS3で選択された解析処理を行って、解析結果を得る。
【0056】
顕微鏡システム1は、ステップS4で取得した解析結果とステップS3で特定された解析処理に基づいて投影画像データを生成する(ステップS5)。ここでは、投影画像生成部23がステップS4で取得した解析結果をステップS3で特定された解析処理に応じた表示形式で表示する投影画像を表す投影画像データを生成する。
【0057】
最後に、顕微鏡システム1は、投影画像を像面に投影する(ステップS6)。投影制御部25が投影画像データに基づいて投影装置133を制御することで、投影装置133が投影画像を像面に投影する。これにより、試料の光学画像上に投影画像が重畳される。
【0058】
顕微鏡システム1では、コンピュータによる画像解析結果が光学画像上に表示される。これにより、病理医は、試料の光学画像に基づく病理診断中に、接眼レンズから目を離すことなく診断を補助する種々の情報を得ることができる。また、画像解析部22では複数の解析処理から選択された解析処理が行われるため、顕微鏡システム1は、様々な種類の診断に対応することが可能である。さらに、投影装置133が投影する投影画像は解析処理に応じた表示形式を有している。このため、顕微鏡システム1は、病理医に病理診断を補助する種々の情報を視認しやすい表示形式で提供することができる。従って、顕微鏡システム1によれば、光学画像に基づく病理診断を補助することが可能であり、病理医の作業負担を軽減することができる。
【0059】
さらに、顕微鏡システム1では、光学画像上に付加情報(投影画像)を表示することで、病理診断を補助する。このため、デジタル画像に基づいて病理診断を行うWSIシステムとは異なり高価な機器を必要としない。従って、顕微鏡システム1によれば、大幅な機器コストの上昇を回避しながら病理医の負担軽減を図ることができる。また、WSIシステムで病理診断を行うためには、事前にWSI(Whole Slide Image)を作成する必要があるが、顕微鏡システム1では、事前準備が不要であり、即座に診断作業を開始することができる。
【0060】
図5から
図10は、顕微鏡システム1の接眼レンズ104から見える画像を例示した図である。以下、
図5から
図10を参照しながら、
図3に示す画像投影処理を実行する顕微鏡システム1を用いた観察の様子を具体的に説明する。
【0061】
まず、
図5から
図7を参照しながら、
図4に示す選択画面31において、“細胞診断”、“乳がん”、“IHC染色”、“ER/PgR”が選択された場合について、説明する。
【0062】
顕微鏡システム1を用いた観察を開始し、接眼レンズ104を覗くと、病理医は、
図5に示す画像V1を観察することができる。画像V1は、像面に形成された実視野に対応する光学画像M1である。画像V1には、癌細胞の染色された核が写っている。画像V1が投影された領域R1の周囲には暗い領域R2が存在する。領域R2は、接眼レンズ104から観察可能な像面上の領域のうちの対物レンズ102からの光が通過しない領域である。このとき、表示装置30には、撮像素子131で生成されたデジタル画像データに基づいて、画像V1に対応する画像が表示されてもよい。
【0063】
その後、コンピュータ20は、デジタル画像データを解析する。解析により細胞の核が特定され、その染色強度に応じてクラス分けされる。例えば、染色されていない核は陰性を示すクラス0に分類される。また、弱く染色された核は弱陽性を示すクラス1+に分類される。また、中程度に染色された核は中等度陽性を示すクラス2+に分類される。また、強く染色された核は強陽性を示すクラス3+に分類される。
【0064】
コンピュータ20は、解析結果に基づいて投影画像データを生成し、投影装置133は、投影画像データが表す投影画像を像面に投影する。投影画像データが表す投影画像は、分類された細胞の核の位置を表す図形からなる位置画像を含み、その図形はクラス毎に異なる色を有している。
【0065】
投影装置133が投影画像を投影すると、病理医は、
図6に示す画像V2を観察することができる。画像V2は、光学画像M1に位置画像P1を含む投影画像が重畳された画像である。このとき、表示装置30には、画像V2に対応する画像が表示されてもよい。
図6に示す画像V2では、
図5に示す画像V1(光学画像M1)よりも、各細胞の染色状態を容易に判別することが可能である。このため、病理診断で用いられるJ-scoreなどの所定のスコアリング法によるスコアの算出が容易になる。従って、病理医が行う陽性・陰性の判定作業が顕微鏡システム1によって補助されるため、病理医の負担を軽減することができる。
【0066】
また、投影画像データが表す投影画像は、位置画像P1に加えて、分類された細胞の統計情報からなる統計画像T1を含んでも良い。この場合、病理医は、
図7に示す画像V3を観察することができる。画像V3は、光学画像M1に位置画像P1と統計画像T1を含む投影画像が重畳された画像である。このとき、表示装置30には、画像V3に対応する画像が表示されてもよい。
図7に示す画像V3では、統計画像T1によってスコアの算出が更に容易になる。従って、病理医が行う陽性・陰性の判定作業が顕微鏡システム1によってより良く補助されるため、病理医の負担をさらに軽減することができる。
【0067】
また、染色強度の度合いを示す0、1+、2+、3+の各スコアリング判定の閾値は、個別の病理医、病院施設の指針、あるいは各国の診断基準によって異なることがある。これを踏まえて、光学画像M1と、位置画像P1、及び、統計画像T1を見比べ、解析結果に基づく統計画像T1に疑義を生じた場合には、観察者は入力装置を用いて解析処理に用いられた閾値を変更してもよい。変更された閾値に基づいて新たな解析処理が実施され、その結果がリアルタイムに反映された新しい統計画像T1´を利用者が確認することで、適切な閾値を設定する作業がより良く補助される。このため、病理医の負担をさらに軽減することができる。
【0068】
次に、
図8から
図10を参照しながら、
図4に示す選択画面31において、“細胞診断”、“乳がん”、“IHC染色”、“HER2”が選択された場合について、説明する。
【0069】
顕微鏡システム1を用いた観察を開始し、接眼レンズ104を覗くと、病理医は、
図8に示す画像V4を観察することができる。画像V4は、像面に形成された実視野に対応する光学画像M2である。画像V4には、癌細胞の染色された細胞膜が写っている。このとき、表示装置30には、撮像素子131で生成されたデジタル画像データに基づいて、画像V4に対応する画像が表示されてもよい。
【0070】
その後、コンピュータ20は、デジタル画像データを解析する。解析により細胞膜が特定され、その染色強度と染色パターンに応じてクラス分けされる。例えば、膜が全く染色されていない細胞は陰性を示すクラス0に分類される。また、膜が部分的又は弱く染色された細胞は弱陽性を示すクラス1+に分類される。また、膜が中程度で且つ全体的に染色された核は中等度陽性を示すクラス2+に分類される。また、膜が強く且つ全体的に染色された細胞は強陽性を示すクラス3+に分類される。
【0071】
コンピュータ20は、解析結果に基づいて投影画像データを生成し、投影装置133は、投影画像データが表す投影画像を像面に投影する。投影画像データが表す投影画像は、分類された細胞の位置を表す図形からなる位置画像P2を含み、その図形はクラス毎に異なる書式(線種)を有している。
【0072】
投影装置133が投影画像を投影すると、病理医は、
図9に示す画像V5を観察することができる。画像V5は、光学画像M2に位置画像P2を含む投影画像が重畳された画像である。このとき、表示装置30には、画像V5に対応する画像が表示されてもよい。
図9に示す画像V5では、
図8に示す画像V4(光学画像M2)よりも、細胞膜の染色状態を容易に判別することが可能である。このため、病理診断で用いられる所定のスコアリング法によるスコアの算出が容易になる。従って、病理医が行う陽性・陰性の判定作業が顕微鏡システム1によって補助されるため、病理医の負担を軽減することができる。
【0073】
また、投影画像データが表す投影画像は、位置画像P2に加えて、分類された細胞の統計情報からなる統計画像T2を含んでも良い。この場合、病理医は、
図10に示す画像V6を観察することができる。画像V6は、光学画像M2に位置画像P2と統計画像T2とを含む投影画像が重畳された画像である。なお、この例では、統計画像T2は、対物レンズ102からの光束が通過する領域R1の外側に投影されている。このとき、表示装置30には、画像V6に対応する画像が表示されてもよい。
図10に示す画像V6では、統計画像T2によってスコアの算出が更に容易になる。従って、病理医が行う陽性・陰性の判定作業が顕微鏡システム1によってより良く補助されるため、病理医の負担をさらに軽減することができる。
【0074】
図5から
図10の例では、画像を構成する図形の書式(塗りつぶしの有無、線種)が異なることによって表示形式が互いに異なる投影画像を例示したが、投影画像は、解析処理に応じて画像の色を異ならせても良い。
【0075】
また、顕微鏡システム1の画像解析部22は、複数の所定のアルゴリズムを用いて複数の解析処理を行ってもよく、複数の訓練済みのニューラルネットワークを用いて複数の解析処理を行ってもよい。
【0076】
複数の訓練済みのニューラルネットワークの各々のパラメータは、顕微鏡システム1とは異なる装置において、それぞれのニューラルネットワークを訓練することで生成されても良く、コンピュータ20は生成されたパラメータをダウンロードして画像解析部22に適用しても良い。また、コンピュータ20は、新たなニューラルネットワークに関してそのニューラルネットワークのパラメータをダウンロードすることで、画像解析部22で選択可能な解析処理を随時追加してもよい。
【0077】
なお、
図11は、ニューラルネットワークNNの構成を示した図である。ニューラルネットワークNNは、入力層と複数の中間層と出力層を有している。入力データD1を入力層に入力することで出力層から出力される出力データD2を正解データD3と比較する。そして、誤差逆伝播法によって学習することで、ニューラルネットワークNNのパラメータを更新する。なお、入力データD1と正解データD3のセットが教師あり学習の訓練データである。
【0078】
[第2実施形態]
図12は、本実施形態に係る顕微鏡システム2の構成を示した図である。顕微鏡システム2は、顕微鏡100の代わりに顕微鏡200を備える点が、顕微鏡システム1とは異なっている。顕微鏡200は、顕微鏡本体110と鏡筒120の間に投影ユニット140を備えている。
【0079】
投影ユニット140は、対物レンズ102と結像レンズ103と接眼レンズ104を備える顕微鏡用の投影ユニットであり、中間鏡筒130を含んでいる。即ち、投影ユニット140は、試料からの光に基づいて試料のデジタル画像データを取得する撮像装置の一例である撮像素子131と、光学画像が形成される像面へ投影画像を投影する投影装置133を備えている。
【0080】
投影ユニット140は、さらに、画像解析部142と、投影画像生成部143を備えている。投影ユニット140は、カメラ制御部141と、情報取得部144と、投影制御部145を備えてもよい。
【0081】
カメラ制御部141、画像解析部142、投影画像生成部143、投影制御部145は、それぞれカメラ制御部21、画像解析部22、投影画像生成部23、投影制御部25と同様である。このため、詳細な説明は省略する。
【0082】
情報取得部144は、コンピュータ20を経由して取得した入力装置40からの操作信号に基づいて利用者の操作情報を取得する。また、情報取得部144は、コンピュータ20を経由して識別装置50から識別情報を取得する。
【0083】
本実施形態では、投影ユニット140を既存の顕微鏡に取り付けるだけで、顕微鏡システム1と同様の効果を得ることが可能である。従って、投影ユニット140及び顕微鏡システム2によれば、既存の顕微鏡システムを容易に拡張して、病理医による光学画像に基づく病理診断を補助することができる。
【0084】
[第3実施形態]
図13は、本実施形態に係る顕微鏡システム3に含まれるコンピュータ60の構成を示した図である。なお、顕微鏡システム3は、コンピュータ20の代わりにコンピュータ60を含む点を除き、顕微鏡システム1と同様である。
【0085】
コンピュータ60は、顕微鏡システム3全体を制御する。コンピュータ60は、顕微鏡100、顕微鏡コントローラ10、表示装置30、入力装置40、及び、識別装置50に接続されている点は、コンピュータ20と同様である。
【0086】
コンピュータ60は、主に投影装置133の制御に関連する構成要素として、カメラ制御部61、投影画像生成部63、情報取得部64、投影制御部65、画像記録部66、画像合成部67、表示制御部68を備えている。
【0087】
なお、カメラ制御部61、情報取得部64、投影制御部65、画像記録部66、画像合成部67、表示制御部68は、それぞれ、コンピュータ20に含まれるカメラ制御部21、情報取得部24、投影制御部25、画像記録部26、画像合成部27、表示制御部28に相当する。
【0088】
コンピュータ60は、画像解析部22に対応する構成を含まない点がコンピュータ20と大きく異なっている。また、投影画像生成部63が投影画像生成部23とは異なる処理を行う点も20とは異なっている。
【0089】
投影画像生成部63は、複数の診断プロトコルから選択された診断プロトコルに基づいて投影画像データを生成する。なお、診断プロトコルとは、診断開始から終了に至るまでの手順、判定基準などを含む一連の取決めのことである。投影画像データが表現する投影画像は、選択された診断プロトコルに応じた画像である。投影画像生成部63で生成された投影画像は、投影制御部65、画像記録部66、及び、画像合成部67へ出力される。
【0090】
なお、投影画像生成部63での診断プロトコルの選択方法は、顕微鏡システム1の画像解析部22での解析処理の選択方法と同様である。つまり、投影画像生成部63は、利用者による入力操作に基づいて診断プロトコルを選択してもよく、識別装置50が取得した識別情報に基づいて診断プロトコルを選択してもよい。
【0091】
投影画像は、選択された診断プロトコルの診断手順の案内を含むことが望ましく、投影画像生成部23は、診断手順の案内の色を、選択された診断プロトコルに応じて決定してもよい。これにより、病理医は接眼レンズ104から目を離すことなく診断手順を参照することができるため、診断手順を誤ることなく効率的に診断を進めることができる。
【0092】
また、投影画像は、選択された診断プロトコルにおける判定基準を示す参考画像を含んでもよい。これにより、病理医は光学画像と参考画像を同時に確認することができるため、診断時間の短縮、診断精度の向上などが期待できる。
【0093】
投影画像生成部63は、選択された診断プロトコルに応じて、像面における投影画像と光学画像の位置関係を決定してもよく、投影画像の少なくとも一部を光学画像の領域外に投影するか否かを決定してもよい。
【0094】
また、投影画像生成部63は、顕微鏡システム3の設定が選択された診断プロトコルの要求を満さないときに、投影画像が警告表示を含むように、投影画像データを生成してもよい。これにより、病理医は、正しい環境下で診断における種々の判断を行うことが可能となるため、診断精度の向上が期待できる。
【0095】
なお、投影制御部65は、顕微鏡システム3の設定に応じて投影装置133を制御しても良い。具体的には、投影制御部65は、顕微鏡システム3の設定に応じて、像面に投影画像を投影するか否かを決定してもよく、顕微鏡システム3が所定の設定のときに、投影装置133が像面へ投影画像を投影するように、投影装置133を制御しても良い。つまり、顕微鏡システム3は、投影画像を像面に投影するか否かを設定によって変更することができる。
【0096】
また、診断プロトコルによっては、がん細胞などの構造物の面積、位置、構造物間の距離を測定する手順が含まれる。その場合、投影画像生成部63が、顕微鏡の測長機能を用いて測定した測定結果を含むように投影画像データを生成し、投影制御部65が、測定結果を含む投影画像を像面に投影してもよい。
【0097】
以上のように構成された顕微鏡システム3は、
図14に示す画像投影処理を行う。
図14は、顕微鏡システム3が行う画像投影処理のフローチャートである。以下、
図14を参照しながら、顕微鏡システム3の画像投影方法について説明する。
【0098】
まず、顕微鏡システム3は、試料の光学画像を像面に投影する(ステップS11)。この処理は、
図3に示すステップS1と同様である。
【0099】
次に、顕微鏡システム3は、予め準備されている複数の診断プロトコルから選択された診断プロトコルを特定する(ステップS12)。ここでは、利用者が、例えば、選択画面上で診断プロトコルを選択し、投影画像生成部63が、利用者によるこの入力操作に基づいて選択された診断プロトコルを特定する。
【0100】
診断プロトコルが特定されると、顕微鏡システム3は、特定された診断プロトコルに基づいて投影画像データを生成する(ステップS13)。ここでは、投影画像生成部63がステップS12で特定された診断プロトコルに応じた投影画像を表す投影画像データを生成する。
【0101】
最後に、顕微鏡システム3は、投影画像を像面に投影する(ステップS14)。投影制御部65が投影画像データに基づいて投影装置133を制御することで、投影装置133が投影画像を像面に投影する。これにより、試料の光学画像上に投影画像が重畳される。
【0102】
顕微鏡システム3では、診断プロトコルに応じた投影画像が光学画像上に表示される。これにより、病理医は、試料の光学画像に基づく病理診断中に、接眼レンズから目を離すことなく診断手順、判定基準など、診断を補助する種々の情報を得ることができる。また、投影画像生成部63では複数の診断プロトコルから選択された診断プロトコルに応じた投影画像データが生成されるため、顕微鏡システム3は、様々な種類の診断プロトコルに対応することが可能である。従って、顕微鏡システム3によれば、光学画像に基づく病理診断を補助することが可能であり、病理医の作業負担を軽減することができる。
【0103】
また、顕微鏡システム3は、大幅な機器コストの上昇を回避しながら病理医の負担軽減を図ることができる点、WSIシステムとは異なり事前準備が不要であり、即座に診断作業を開始することができる点については、顕微鏡システム1と同様である。
【0104】
図15から
図18は、顕微鏡システム3の接眼レンズ104から見える画像を例示した図である。以下、
図15から
図18を参照しながら、
図14に示す画像投影処理を実行する顕微鏡システム3を用いた観察の様子を具体的に説明する。なお、ここでは、IHC染色でHER2タンパク質の過剰発現を判定する診断プロトコル(以降、IHC-HER2診断プロトコルと記す。)を例に説明する。
【0105】
顕微鏡システム3を用いた観察を開始し、接眼レンズ104を覗くと、病理医は、
図15に示す画像V7を観察することができる。画像V7は、光学画像M2に案内画像G1を含む投影画像が重畳された画像である。光学画像M2は、例えば、4倍の対物レンズ102を用いて取得した画像であり、癌細胞の染色された細胞膜が写っている。案内画像G1は、IHC-HER2診断プロトコルの診断手順を案内する画像である。IHC-HER2診断プロトコルでは、4倍の対物レンズを使用して陽性のHER2タンパク質染色像、染色の強度、陽性細胞の割合を観察する手順が定められており、案内画像G1はこの手順を案内している。
【0106】
顕微鏡システム3では、画像V7の代わりに、画像V8が像面に投影されても良い。画像V8は、光学画像M2に案内画像G1と対比画像C1とを含む投影画像が重畳された画像である。対比画像C1には、IHC-HER2診断プロトコルにおける判定基準を示す複数の参考画像が含まれている。より具体的には、スコア0、スコア1+、スコア2+、スコア3+に判定されるべき画像を例示した4つの参考画像が含まれている。病理医は、陽性細胞の割合を判断するときに、対比画像C1を参考にすることができる。
【0107】
その後、画像V9が像面に投影される。画像V9は、光学画像M2に案内画像G2を含む投影画像が重畳された画像である。案内画像G2は、IHC-HER2診断プロトコルの診断手順を案内する画像である。IHC-HER2診断プロトコルでは、4倍の対物レンズを用いた観察の後に、10倍の対物レンズを用いた観察を行うことが定められており、案内画像G2はこの手順を案内している。
【0108】
画像V9が投影されてから4倍の対物レンズ102から10倍の対物レンズ102aへの切り替えが検出されない場合には、画像V10が像面に投影される。画像V10は、光学画像M2に案内画像G3を含む投影画像が重畳された画像である。案内画像G3は、診断プロトコルに従って診断が行われていないことを病理医に警告する警告表示である。病理医は警告表示により手順の誤りを認識することができるため、顕微鏡システム3によれば、誤った手順で診断を継続されることが回避することができる。
【0109】
[第4実施形態]
図19は、本実施形態に係る顕微鏡システム4と外部閲覧システム300とを含む診断補助システムの構成を示した図である。顕微鏡システム4は、コンピュータ20の代わりにコンピュータ70を備えている点が顕微鏡システム1とは異なっている。
【0110】
顕微鏡システム4は、インターネット400を経由して1つ以上の外部閲覧システム300と接続されている。外部閲覧システム300は、少なくとも通信制御部311を備えるコンピュータ310と、入力装置320と、表示装置330を備えるシステムである。
【0111】
なお、インターネット400は、通信ネットワークの一例である。顕微鏡システム3と外部閲覧システム300は、例えば、VPN(Virtual Private Network)、専用線などを経由して接続されていてもよい。
【0112】
コンピュータ70は、通信制御部29を含む点がコンピュータ20とは異なっている。通信制御部29は、外部閲覧システム300とデータをやり取りする。
【0113】
通信制御部29は、例えば、画像データを外部閲覧システム300へ送信する。通信制御部29が送信する画像データは、例えば、画像合成部27で生成された合成画像データであってもよい。デジタル画像データと投影画像データを個別に送信してもよい。また、デジタル画像データだけを送信してもよい。外部閲覧システム300は、画像データを受信したコンピュータ310が画像データに基づいて表示装置330に画像を表示する。コンピュータ310は、例えば、デジタル画像データと投影画像データに基づいて合成画像データを生成してもよく、合成画像データに基づいて合成画像を表示装置330に表示してもよい。
【0114】
通信制御部29は、例えば、外部閲覧システム300の利用者が入力した操作情報を受信する。画像解析部22は、通信制御部29が受信した操作情報に基づいて解析処理を選択してもよい。顕微鏡システム4は、投影装置133を用いて外部閲覧システム300の利用者による入力操作に基づく投影画像を像面に投影しても良い。
【0115】
顕微鏡システム4は、ネットワーク経由で接続された外部閲覧システム300とやり取りすることができる。このため、異なるロケーションにいる利用者間でコミュニケーションを取りながら、病理診断を行うことが可能となる。
【0116】
上述した実施形態は、発明の理解を容易にするための具体例を示したものであり、本発明の実施形態はこれらに限定されるものではない。顕微鏡システム、投影ユニット、及び画像投影方法は、特許請求の範囲の記載を逸脱しない範囲において、さまざまな変形、変更が可能である。
【0117】
図12では、複数の解析処理から選択された解析処理を行う画像解析部142を含む投影ユニット140を例示している。しかしながら、投影ユニットは、複数の診断プロトコルから選択した診断プロトコルに基づいて投影画像データを生成する投影画像生成部を含んでもよい。
【0118】
また、
図19では、顕微鏡システム1に外部閲覧システム300との通信機能を追加した顕微鏡システム4を例示している。しかしながら、顕微鏡システム2に外部閲覧システム300との通信機能を追加することで、新たな顕微鏡システムを構成してもよい。
【0119】
また、
図1では、投影画像生成部23が選択された解析処理の解析結果とその解析処理に基づいて投影画像データを生成する例を示している。しかしながら、投影画像生成部23は、選択された解析処理の解析結果とその解析処理に基づいて第1投影画像データを生成し、選択された診断プロトコルに基づいて第2投影画像データを生成しても良い。その上で、第1投影画像データが表す第1投影画像と第2投影画像データが表す第2投影画像を投影装置133が光学画像上に投影してもよい。
【0120】
また、
図5から
図10では、乳がんの病理診断の例を示したが、顕微鏡システム1は、子宮頸がんなどの他のがんの病理診断にも使用される。例えば、子宮頸がんの病理診断に適用される場合であれば、ベセスダシステムに基づいて分類し、NILM、LSIL、HSIL、SCC、ASCなどの分類結果を投影画像で表示してもよい。また、ゲノム診断においては、腫瘍細胞数、全細胞数、及び、それらの割合などを投影画像で表示してもよい。
【0121】
解析処理に応じて投影画像の表示形式を変更する例を示したが、顕微鏡システム1は、照明光学系又は観察光学系の設定変更に応じて表示形式を変更してもよい。
【0122】
顕微鏡システム1は、画像解析部22を顕微鏡システム1のコンピュータ20に備える例を示したが、画像解析部22は、顕微鏡システム1内のコンピュータ20と顕微鏡システム1外の遠隔モジュールとによって実現されても良い。遠隔モジュールは、例えば、クラウド上に置かれたサーバなどである。コンピュータ20は、遠隔モジュールから最新のプログラムをダウンロードして解析プログラムを更新することで、新たな解析処理に対応してもよい。また、コンピュータ20は、遠隔モジュールから最新のプログラムをダウンロードすることで、新たな診断プロトコルに対応してもよい。
【0123】
また、顕微鏡システム1に含まれる顕微鏡は、例えば、
図20に示す顕微鏡500であってもよい。上述した実施形態では、中間鏡筒130に撮像素子131を備える構成を例示したが、画像解析に用いるデジタル画像データを取得する撮像素子151は、
図12に示すように、三眼鏡筒である鏡筒120aに取り付けられたデジタルカメラ150に設けられていてもよい。ただし、この場合、中間鏡筒130aに含まれる投影装置133から出射した光が撮像素子151へ入射することになる。このため、投影装置133の発光期間と撮像素子151の露光期間が重ならないように、デジタルカメラ150を制御しても良い。これにより、デジタル画像に投影画像が写りこむことを防止することができる。
【0124】
また、顕微鏡500を含む顕微鏡システムは、人工授精などで行われる精子選別など、動いている対象物の診断に使用されてもよい。精子選別では、精子の形状など静止画に基づいて判断できる情報(以降、形状情報と記す。)と、精子の動きの直進性及びスピードなど動画又は複数枚の静止画に基づいて判断できる情報(以降、動き情報と記す。)と、によって精子の良否が判断される。このため、精子選別作業を補助するための解析処理では、投影画像に反映させるために、精子の動き情報を出力してもよく、さらに、精子の形状情報と精子の動き情報とを用いて、利用者が選択すべき精子の候補を特定してもよい。
【0125】
より具体的には、まず、利用者が選別対象となる精子の観察を開始すると、画像解析部22は、異なる時刻に取得された複数のデジタル画像データを解析して、精子の移動の軌跡を算出する。その後、投影画像生成部23が解析結果に基づいて投影画像データを生成し、投影装置133が軌跡表示MTを含む投影画像を像面に投影する。なお、軌跡表示MTとは、各精子の現在位置に至るまでの移動の軌跡を示す表示である。また、軌跡表示MTは、予め決められた時間(例えば、3秒)だけ遡った時刻から現在時刻までの間の移動の軌跡を示していても良い。
【0126】
これにより、利用者は、まず、
図21に示す光学画像M3を含む画像V11を観察し、画像解析部22による解析処理が終了すると、
図22に示す光学画像M4と補助画像A1とを含む画像V12を観察することができる。補助画像A1には、各精子の軌跡表示MTが含まれているため、画像V12を観察した利用者は、精子の形状的特徴に加えて、精子の動きの特徴についてもひと目で把握することができる。従って、利用者による精子の良否判定が容易になり、選別作業の負担が軽減される。
【0127】
さらに、画像解析部22は、光学画像M4上に補助画像A1が重畳した重畳画像のデジタル画像データを解析することで、利用者が選択すべき精子の候補を特定する。その後、投影画像生成部23が特定された精子の位置情報を含む解析結果に基づいて投影画像データを生成し、投影装置133が注目領域表示ROIを含む投影画像を像面に投影する。なお、注目領域表示ROIは、利用者に画像解析部22が特定した精子に対する注目を促すための表示であり、例えば、精子の周囲を取り囲む矩形や円形の図形である。また、図形の色の違いによってその精子が良質な精子である確からしさを表示するものであってもよい。
【0128】
これにより、利用者は、
図23に示す光学画像M4と補助画像A2を含む画像V13を観察することができる。補助画像A2には、軌跡表示MTに加えて注目領域表示ROIが含まれている。このため、利用者は、画像V12の場合と同様に、精子の形状的特徴に加えて、精子の動きの特徴についてもひと目で把握することができる。また、利用者は、注目領域表示ROIで特定される精子を優先的に観察することで早期に良質な精子を選択することができる。従って、選別作業の負担がさらに軽減される。
【0129】
また、顕微鏡システム1に含まれる顕微鏡は、例えば、
図22に示す顕微鏡600であってもよい。顕微鏡600は、中間鏡筒130の代わりに、透過型の液晶デバイスを用いた投影装置135を含む中間鏡筒130bを備えている。上述した実施形態では、投影装置133から出射した光を対物レンズ102と接眼レンズ104の間の光路上に配置された光偏向素子134で偏向することで、投影画像を像面に投影する構成を例示したが、
図22に示すように、投影装置135を対物レンズ102と接眼レンズ104の間の光路上に配置してもよい。
【0130】
また、上述した実施形態では、光検出器として撮像素子を含む例を示したが、光検出器は撮像素子に限らない。例えば、走査型顕微鏡に上述した技術を提供してもよく、その場合、光検出器は、光電子増倍管(PMT)などであってもよい。
【0131】
さらに、上述した顕微鏡システムは、選択された解析処理に応じて光学画像と投影画像の少なくとも一方の明るさを調整してもよく、選択された診断プロトコルに応じて光学画像と投影画像の少なくとも一方の明るさを調整してもよい。明るさの調整は、光源の光量を制御することにより行われてもよく、また、可変NDフィルタなどによる透過光量を制御することによって行われてもよい。
【0132】
また、上述した実施形態では、入力装置40として、キーボード、マウス、ジョイスティック、タッチパネルなどを例示したが、入力装置40は、音声入力を受け付ける装置、例えば、マイクなどあってもよい。その場合、コンピュータ20は、入力装置40から入力された音声指示を認識する機能を備えてもよく、例えば、コンピュータ20に含まれる情報取得部24が音声認識技術により音声データを操作情報へ変換し、投影画像生成部23へ出力しても良い。
【符号の説明】
【0133】
1、2、3、4 顕微鏡システム
10 顕微鏡コントローラ
20、60、70、310 コンピュータ
20a プロセッサ
20b メモリ
20c 補助記憶装置
20d 入出力インタフェース
20e 媒体駆動装置
20f 通信制御装置
20g バス
20h 記憶媒体
21、61、141 カメラ制御部
22、142 画像解析部
23、63、143 投影画像生成部
24、64、144 情報取得部
25、65、145 影制御部
26、66 画像記録部
27、67 画像合成部
28、68 表示制御部
29、311 通信制御部
30、330 表示装置
31 選択画面
32、33、34、35 メニュー
36 ボタン
40、320 入力装置
50 識別装置
100、200、500、600 顕微鏡
101 ステージ
102、102a 対物レンズ
103 結像レンズ
104 接眼レンズ
110 顕微鏡本体
111 ターレット
120、120a 鏡筒
130、130a、130b 中間鏡筒
131、151 撮像素子
132、134 光偏向素子
133、135 投影装置
140 投影ユニット
150 デジタルカメラ
300 外部閲覧システム
400 インターネット
A1、A2 補助画像
C1 対比画像
D1 入力データ
D2 出力データ
D3 正解データ
G1、G2、G3 案内画像
M1、M2、M3、M4 光学画像
MT 軌跡表示
NN ニューラルネットワーク
P1、P2 位置画像
R1、R2 領域
ROI 注目領域表示
T1、T2 統計画像
V1~V13 画像