(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024019655
(43)【公開日】2024-02-09
(54)【発明の名称】モータの接続故障の検出方法
(51)【国際特許分類】
H02P 29/024 20160101AFI20240202BHJP
【FI】
H02P29/024
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023215356
(22)【出願日】2023-12-21
(62)【分割の表示】P 2021105283の分割
【原出願日】2021-06-25
(31)【優先権主張番号】202010885413.8
(32)【優先日】2020-08-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(71)【出願人】
【識別番号】502330713
【氏名又は名称】台達電子工業股▲ふん▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】DELTA ELECTRONICS, INC.
【住所又は居所原語表記】No.252,ShanYing Rd.,Guishan Dist.,Taoyuan City 333,Taiwan
(74)【代理人】
【識別番号】110000947
【氏名又は名称】弁理士法人あーく事務所
(72)【発明者】
【氏名】曽 紹凱
(72)【発明者】
【氏名】呉 昇翰
(72)【発明者】
【氏名】李 玉麟
(57)【要約】
【課題】接続故障を速やかに検出することが可能なモータの接続故障の検出方法を提供する。
【解決手段】周波数変換器の閉ループ駆動アーキテクチャに適用されるモータの接続故障の検出方法は、モータの三相固定子電流を取得するステップと、三相固定子電流を静止座標系に変換して複数軸の電流分量を獲得するステップと、周波数変換器の同期座標系における両軸の電流コマンドを獲得するステップと、同期座標系における両軸の電流コマンドを変換して、周波数変換器の静止座標系における複数軸の電流コマンドを獲得するステップと、静止座標系における複数軸の電流コマンドと複数軸の電流分量とを比較して、静止座標系における複数軸の電流誤差値を獲得し、いずれか1つの軸の電流誤差?が電流設定差値より大きい場合、三相固定子電流が正常時の状態から故障時の状態に変化したと判定し、モータに接続故障が発生したと判定するステップとを含む。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
周波数変換器の閉ループ駆動アーキテクチャに適用されるモータの接続故障の検出方法であって、
モータからフィードバックされる三相固定子電流を取得するステップと、
前記三相固定子電流を静止座標系に変換して複数軸の電流分量を獲得するステップと、
前記周波数変換器の同期座標系における両軸の電流コマンドを取得するステップと、
前記同期座標系における前記両軸の電流コマンドを変換して、前記周波数変換器の静止座標系における複数軸の電流コマンドを獲得するステップと、
前記静止座標系における前記複数軸の電流コマンドと前記複数軸の電流分量とを比較して、前記静止座標系における複数軸の電流誤差値を獲得し、いずれか1つの軸の電流誤差値が電流設定差値より大きい場合、前記三相固定子電流が正常時の状態から故障時の状態に変化したと判定し、前記モータに接続故障が発生したと判定するステップとを含むことを特徴とするモータの接続故障の検出方法。
【請求項2】
請求項1に記載のモータの接続故障の検出方法であって、
前記静止座標系における前記複数軸の電流コマンドは、両軸の電流コマンドまたは三軸の電流コマンドとし、前記静止座標系における前記複数軸の電流分量は、両軸の電流分量またはフィードバックされる前記三相固定子電流とし、前記複数軸の電流誤差値は、両軸の電流誤差値または三軸の電流誤差値とすることを特徴とするモータの接続故障の検出方法。
【請求項3】
請求項2に記載のモータの接続故障の検出方法であって、
前記静止座標系における前記両軸の電流誤差値または前記三軸の電流誤差値の絶対値を足し合わせて、合計電流誤差値を獲得するステップと、
前記合計電流誤差値が合計電流設定差値より大きい場合、前記三相固定子電流が正常時の状態から故障時の状態に変化したと判定し、前記モータに接続故障が発生したと判定するステップとをさらに含むことを特徴とするモータの接続故障の検出方法。
【請求項4】
請求項3に記載のモータの接続故障の検出方法であって、
前記合計電流設定差値は、前記周波数変換器の定格出力電流最大値の3.5%とすることを特徴とするモータの接続故障の検出方法。
【請求項5】
請求項3または4に記載のモータの接続故障の検出方法であって、
前記合計電流誤差値が前記合計電流設定差値より大きくなり、しかも、この状態の持続時間が所定時間を超えた場合、前記三相固定子電流が正常時の状態から故障時の状態に変化したと判定し、前記モータに接続故障が発生したと判定することを特徴とするモータの接続故障の検出方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1つに記載のモータの接続故障の検出方法であって、
前記いずれか1つの軸の電流設定差値は、前記周波数変換器の定格出力電流最大値の2%とすることを特徴とするモータの接続故障の検出方法。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1つに記載のモータの接続故障の検出方法であって、
前記いずれか1つの軸の電流誤差値が前記電流設定差値より大きくなり、しかも、この状態の持続時間が所定時間を超えた場合、前記三相固定子電流が正常時の状態から故障時の状態に変化したと判定し、前記モータに接続故障が発生したと判定することを特徴とするモータの接続故障の検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータの接続故障の検出方法に関し、特に、静止座標系において演算を行うことによってモータの接続故障を検出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
図1は、三相モータに開路が発生した状況を示す模示図である。
図1に示すように、周波数変換器(インバーター)10Aの三相(例えば、U、V、Wの三相)出力電力の出力端子がモータ20Aに確実に接続されている状態でのみ、モータ20Aが周波数変換器10Aの出力に従って正常に回転することが可能である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、電力線の断線により、モータ20Aに開路が発生した場合、周波数変換器10Aからの出力電力がモータ20Aへ正常に供給されなくなると、モータ20Aが正常に回転することができない。
【0004】
例えば、エレベーターシステムの場合、モータ20Aに開路が発生した時に、トルクが正常に出力されない。この場合、エレベーターかごが正常に制御されない状態で移動し続けることで乗客の生命財産の損失およびシステムの損害を引き起こすことを避けるために、故障を速やかに検出して、エレベーターかごの移動を停止させるように機械ブレーキを起動させる必要がある。なお、モータの開路故障および短絡故障は、いずれもモータの接続故障のうちの一種に該当する。
【0005】
そのため、モータの接続故障の検出方法を見出して上述した課題を解決することは、本願の発明者にとって、重要な課題である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の目的は、従来技術に存在する問題を解決するためのモータの接続故障の検出方法を提供することである。
【0007】
上述した目的を達成するために、本発明によるモータの接続故障の検出方法は、周波数変換器の閉ループ駆動アーキテクチャに適用されるモータの接続故障の検出方法であって、モータからフィードバックされる三相固定子電流を取得するステップと、三相固定子電流を静止座標系に変換して複数軸の電流分量を獲得するステップと、周波数変換器の同期座標系における両軸の電流コマンドを獲得するステップと、同期座標系における両軸の電流コマンドを変換して、周波数変換器の静止座標系における複数軸の電流コマンドを獲得するステップと、静止座標系における複数軸の電流コマンドと複数軸の電流分量とを比較して、静止座標系における複数軸の電流誤差値を獲得し、いずれか1つの軸の電流誤差値が電流設定差値より大きい場合、三相固定子電流が正常時の状態から故障時の状態に変化したと判定し、モータに接続故障が発生したと判定するステップとを含むことを特徴としている。
【0008】
上述したモータの接続故障の検出方法において、好ましくは、静止座標系における複数軸の電流コマンドは、両軸の電流コマンドまたは三軸の電流コマンドとし、静止座標系における複数軸の電流分量は、両軸の電流分量またはフィードバックされる三相固定子電流とし、複数軸の電流誤差値は、両軸の電流誤差値または三軸の電流誤差値とする。
【0009】
上述したモータの接続故障の検出方法において、好ましくは、両軸の電流誤差値または三軸の電流誤差値の絶対値を足し合わせて、合計電流誤差値を獲得するステップと、合計電流誤差値が合計電流設定差値より大きい場合、三相固定子電流が正常時の状態から故障時の状態に変化したと判定し、モータに接続故障が発生したと判定するステップとをさらに含む。
【0010】
上述したモータの接続故障の検出方法において、好ましくは、合計電流設定差値は、定格出力電流最大値の3.5%とする。
【0011】
上述したモータの接続故障の検出方法において、好ましくは、合計電流誤差値が合計電流設定差値より大きくなり、しかも、この状態の持続時間が所定時間を超えた場合、三相固定子電流が正常時の状態から故障時の状態に変化したと判定し、モータに接続故障が発生したと判定する。
【0012】
上述したモータの接続故障の検出方法において、好ましくは、いずれか1つの軸の電流設定差値は、周波数変換器の定格出力電流最大値の2%とする。
【0013】
上述したモータの接続故障の検出方法において、好ましくは、いずれか1つの軸の電流誤差値が電流設定差値より大きくなり、しかも、この状態の持続時間が所定時間を超えた場合、三相固定子電流が正常時の状態から故障時の状態に変化したと判定し、モータに接続故障が発生したと判定する。
【0014】
上述した閉ループモータの接続故障の検出方法によれば、開路故障または短絡故障などの接続故障を速やかに検出することができる。そのため、モータの継続運転による人身事故の発生、物質損失およびシステムの損害を避けることができる。
【0015】
本発明が所定の目的を達成するために用いた技術、手段、作用および効果をより明確に理解するために、本発明に関する以下の詳細説明および図面を参照してください。これにより、発明の目的、特徴および長所は、より深くかつ具体的に理解されるべきである。なお、明細書の図面は、発明の内容を説明するためのものであり、本発明を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、三相モータに開路が発生した状況を示す模示図である。
【
図2】
図2は、本発明における三相電流および静止座標系を示す模示図である。
【
図3】
図3は、本発明のモータの接続故障の検出方法の第1実施形態のシステム模示図である。
【
図4】
図4は、本発明のモータの接続故障の検出方法の第1実施形態のフローチャートである。
【
図5】
図5は、本発明における三相電流、静止座標系および同期座標系を示す模示図である。
【
図6】
図6は、本発明のモータの接続故障の検出方法の第2実施形態のシステム模示図である。
【
図7】
図7は、本発明のモータの接続故障の検出方法の第2実施形態のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、図面を参照して本発明の技術内容を詳細に説明する。
【0018】
開ループ制御(例えば、電圧/周波数(V/f)比例制御)を例とする場合、この開ループ制御は、周波数に応じて対応する電圧を出力するだけで、回転子位置および電流ベクトルなどの情報がないため、スカラー電流差のみでモータの開路故障または短絡故障といった接続故障を検出する方法を採用する場合、電流閾値の設定が難しい。
【0019】
それに対して、周波数変換器の開ループ駆動アーキテクチャにおいて、本発明は、モータに開路故障または短絡故障などの接続故障が発生したか否かを判定する方法として、モータの電流から変換および計算された角速度の周波数と周波数変換器の出力電圧の周波数とを比較して、両者の差値が周波数設定差値より小さい場合、当該多相モータに接続故障が発生していないと判定し、一方、両者の差値が周波数設定差値より大きい場合、多相モータに接続故障が発生したと判定する。前記多相モータは例えば、三相モータまたは六相モータであるが、以下、本発明では、主に三相モータを例として詳細に説明する。
【0020】
図2は、本発明における三相電流および静止座標系を示す模示図である。本発明は、モータの接続故障の検出方法のステップを開示する。当該方法は、周波数変換器の開ループ駆動アーキテクチャに適用される。前記接続故障は開路故障および短絡故障を含む。
図3は、本発明におけるモータの接続故障の検出方法の第1実施形態のシステム模示図である。
図4は、本発明のモータの接続故障の検出方法の第1実施形態のフローチャートである。以下に、
図4の処理フローをメインに説明する。当該方法は、周波数変換器の開ループ駆動アーキテクチャに適用される。
【0021】
まず、モータからフィードバックされる三相固定子電流を取得する(ステップS11)。本実施形態において、三相モータの開路故障を検出する例について説明するが、六相モータに適用することが可能であり、短絡故障の検出にも適用することが可能である。
【0022】
次に、当該三相固定子電流を変換して静止座標系における両軸の電流分量を獲得する(ステップS12)。但し、前記静止座標系は、α/β(alpha/beta)座標系(図中は、iqssとidss)と称することもある。変換により、三相の固定子電流(ia、ib、ic)を両軸のα/β座標系における固定子電流に変換することができる。即ち、静止座標系と固定子電流スカラーとの関係は、以下の数式(1)に示すようになっている。
【0023】
【0024】
数式(1)において、ISは固定子電流スカラーの最大値であり、θeは合成電流と参照軸との間の角度である。
【0025】
したがって、数式(1)を用いて三相固定子電流を変換することにより、静止座標系における両軸の電流分量(iqss,idss)を獲得することができる。
【0026】
次に、静止座標系における当該両軸の電流分量に基づいてモータの回転角度を計算する(ステップS13)。ここでは、以下の数式(2)を用いて、固定子電流ベクトルの角度を計算(推測)する。
【0027】
【0028】
次に、当該回転角度に基づいて角速度を計算する(ステップS14)。具体的には、当該回転角度を微分することにより、以下の数式(3)で表す角速度を得ることができる。
【0029】
【0030】
次に、以下の数式(4)の関係から、計算した角速度を用いて周波数が推定される。
【0031】
【0032】
そして、当該角速度の周波数(角速度を用いて算出されたモータの周波数)と周波数変換器の出力電圧の周波数(モータに対する速度指示を変換した周波数)とを比較する(ステップS15)。誤差範囲が許可される状態において、モータ角速度がモータの電流から変換および計算されたことから、モータ角速度の周波数は、固定子電流の周波数に接近している。そのため、モータの固定子電流の周波数と周波数変換器の出力電圧の周波数とを比較するのに代えて、モータの角速度の周波数と周波数変換器の出力電圧の周波数とを比較することができる。ここでは、周波数変換器は、モータを駆動制御するためのものである。
【0033】
最後に、比較結果に基づいて、モータに接続故障が発生したか否かを判定する。具体的には、角速度の周波数と周波数変換器の出力電圧の周波数との差値が周波数設定差値より大きい場合、モータに接続故障が発生したと判定する(ステップS16)。
【0034】
ここで、誤差を考慮しない理想状態の場合、推測した角速度の周波数は、モータを駆動制御する周波数変換器の出力電圧の周波数に大抵相等する。したがって、本発明は、モータの固定子電流の周波数と周波数変換器の出力電圧の周波数とが相等すべきという特性を利用して、モータの固定子電流を介して角速度の周波数を変換および計算して周波数変換器の出力電圧の周波数と比較するようにしている。そうすれば、両者の差値が大き過ぎると、モータに接続故障が発生したと判定することができる。逆に、角速度の周波数と該周波数変換器の出力電圧の周波数の差値が周波数設定差値を超えていない場合、モータに接続故障が発生していないと判定することができる。言い換えれば、固定子電流に対して角速度を推定することにより、モータが正常な接続および駆動状態(即ち、開路故障または短絡故障が発生していない状態)にある場合、固定子電流から変換および計算された角速度の周波数と周波数変換器が実際に出力した電圧の周波数とは、非常に近いまたは等しいであることが判る。また、固定子電流をフィードバックして、変換および計算により角速度の周波数を推定するようにしているので、応答が速い。そのため、周波数変換器の出力電圧の周波数をリアルタイムでフォローすることができる。したがって、フィードバックされる固定子電流を利用して変換および計算を行って角速度の周波数という情報を推定することにより、モータの接続故障を速やかに検出することが可能である。
【0035】
本実施形態において、周波数設定差値(Δf)は5ヘルツとするが、本発明はこれに限定されない。即ち、接続正常時に固定子電流の周波数と周波数変換器の出力電圧の周波数とが相等すべきであるので、角速度の周波数と周波数変換器の出力電圧の周波数との差値が5ヘルツより大きい場合、両者の周波数差値が大き過ぎる現象により、モータに接続故障が発生したと判定する。ここで、モータとは、三相モータまたは六相モータであり、接続故障には、開路故障および短絡故障が含まれる。
【0036】
他の実施例として、ノイズの影響で誤ってモータに接続故障が発生したと判定することを避けるために、角速度の周波数と周波数変換器の出力電圧の周波数との差値が5ヘルツ(即ち、周波数設定差値)より大きくなった時、さらに、この状態(周波数設定差値を超えた状態)の持続時間が所定時間(例えば、4ミリ秒とすることができるがこれに限らない)を超えたか否かを判断し、超えた場合のみモータに接続故障が発生したと判定するようにしてもよい。つまり、角速度の周波数と周波数変換器の出力電圧の周波数との差値が周波数設定差値より大きくなり、しかも、前記差値が周波数設定差値を超えた状態の持続時間が前記所定時間を超えた場合、モータに接続故障が発生したと判定する。一方、角速度の周波数と周波数変換器の出力電圧の周波数との差値が周波数設定差値より大きくなったが、この状態の持続時間が所定時間以下の場合、モータに接続故障が発生していないと判断する。このように、時間に関する補助判断条件を加えることにより、ノイズの影響で角速度の周波数と周波数変換器の出力電圧の周波数との差値が瞬時(過渡)的に周波数設定差値を超えた場合、誤ってモータに接続故障が発生したと判定することを避けることができる。ここで、モータとは、三相モータまたは六相モータであり、接続故障には、開路故障および短絡故障が含まれる。
【0037】
図5は、本発明における三相電流、静止座標系および同期座標系を示す模示図である。本発明によるモータの接続故障の検出方法のステップは、周波数変換器の閉ループ駆動アーキテクチャに適用される。ここで、接続故障には、開路故障および短絡故障が含まれる。
図6は、本発明のモータの接続故障の検出方法の第2実施形態のシステム模示図である。
図7は、本発明のモータの接続故障の検出方法の第2実施形態のフローチャートである。次に、
図7の処理フローをメインに説明する。なお、この方法は、周波数変換器の閉ループ駆動アーキテクチャに適用される。
【0038】
まず、モータからフィードバックされる三相固定子電流(ia、ib、ic)を取得する(ステップS21)。本実施形態において、三相モータの開路故障を検出する例について説明するが、六相モータに適用することが可能であり、短絡故障の検出にも適用することが可能である。
【0039】
次に、当該三相固定子電流を変換して静止座標系における両軸の電流分量または三軸の電流分量を獲得する(ステップS22)。但し、前記静止座標系は、α/β(alpha/beta)座標系(図中は、iqssとidss)と称することもある。変換により、三相の固定子電流(ia、ib、ic)を両軸のα/β座標系における固定子電流に変換することができる。なお、静止座標系における三軸の電流値を獲得したい場合は、フィードバックされる三相固定子電流(ia、ib、ic)を直接採用することができる。即ち、静止座標系における固定子電流スカラー同士の関係は以下の数式(5)に示すようになっている。
【0040】
【0041】
したがって、この数式(5)を利用すれば、三相固定子電流(i
a、i
b、i
c)を変換して、静止座標系における両軸の電流分量(i
qss、i
dss)を獲得することができる。但し、
図6に示す同期座標系における電流コマンドとフィードバックされるモータの固定子電流は、いずれも必要に応じて、異なる方式で複数軸変換を行うことができる。例えば、静止座標系における両軸の電流コマンドまたは三軸の電流コマンドと両軸の電流分量または三軸の電流分量とにそれぞれ変換してから比較を行うことにより、故障検出の目的を達成する。なお、演算の簡潔化および高速化を図るために、フィードバックされる静止座標系における三軸の電流分量として、フィードバックされた三相固定子電流値(i
a、i
b、i
c)を直接採用することができる。
【0042】
次に、周波数変換器の同期座標系における両軸の電流コマンドを取得する(ステップS23)。なお、当該同期座標系は、d-q軸回転座標系である。前記周波数変換器の同期座標系における両軸の電流コマンドとは、縦軸(d軸)電流コマンド(idse
*)および横軸(q軸)電流コマンド(iqse
*)である。この同期座標系における両軸の電流コマンドは、例えばモータに対する速度指示に基づいて算出される。
【0043】
次に、当該同期座標系における両軸の電流コマンドを変換して、周波数変換器の静止座標系における両軸の電流コマンドまたは三軸の電流コマンドを獲得する(ステップS24)、ここで、同期座標系における電流コマンドを静止座標系における両軸の電流コマンドまたは三軸の電流コマンドに変換する際に、以下の数式(6a)または数式(6b)が用いられる。
【0044】
【0045】
したがって、数式(6a)または数式(6b)を介して、同期座標系における両軸の電流コマンド(iqse
*、idse
*)を変換して、静止座標系における両軸の電流コマンド(iqss
*、idss
*)または三軸の電流コマンド(ia
*、ib
*、ic
*)を得ることができる。
【0046】
次に、一実施例として、静止座標系における両軸の電流コマンドと静止座標系における両軸の電流分量とを比較し、あるいは、他の実施形態として、静止座標系における三軸の電流コマンドと静止座標系における三軸の電流分量(即ち、フィードバックされる三相固定子電流値)とを比較し、これにより、静止座標系における両軸の電流誤差値または三軸の電流誤差値を得る。そして、いずれか1つの軸の電流誤差値が電流設定差値より大きければ、モータに接続故障が発生したと判定する(ステップS25)。
【0047】
さらに、上述したように計算した両軸の電流誤差値または三軸の電流誤差値の絶対値を足し合わせて静止座標系における合計電流誤差値を獲得し、最後に、当該合計電流誤差値が合計電流設定差値より大きいか否かを比較することにより、モータに接続故障が発生したか否かを判定してもよい。即ち、合計電流誤差値が合計電流設定差値より大きい場合、モータに接続故障が発生したと判定する(ステップS26)。ここで、静止座標系における両軸の分量に変換する例について説明する。静止座標系における横軸の電流コマンド(iqss
*)と対応の静止座標系における横軸電流分量(iqss)との差から、静止座標系における横軸の電流誤差値(iqerr=iqss
*-iqss)を得ることができる。同様に、静止座標系における縦軸の電流コマンド(idss
*)と対応の静止座標系における縦軸の電流分量(idss)との差から、静止座標系における縦軸の電流誤差値(iderr=idss
*-idss)を得ることができる。そして、横軸の電流誤差値の絶対値と縦軸の電流誤差値の絶対値とを足し合わせて合計電流誤差値を得ることができる。上述した横軸の電流誤差値iqerr、縦軸の電流誤差値iderrまたは合計電流誤差値は、いずれもモータに接続故障が発生したか否かの判定に用いることができる。三軸の比較方法についても同様である。つまり、q軸の電流誤差値、d軸の電流誤差値、q軸とd軸との合計電流誤差値、a軸の電流誤差値、b軸の電流誤差値、c軸の電流誤差値、および、a軸とb軸とc軸との合計電流誤差値の全てを用いて接続故障の判定を行うようにしてもよいし、それらの中から適宜選択された一つ以上のものを用いて接続故障の判定を行うようにしてもよい。また、前記電流設定差値または前記合計電流設定差値は、必要に応じて、別々に設定してもよく、統一して設定してもよい。本発明では、これについて制限がない。
【0048】
モータが正常に接続および駆動運転している時、静止座標系における両軸の分量に変換する例で説明すると、静止座標系におけるフィードバックされた電流値(iqss、idss)は、同期座標系における電流コマンド(iqse
*、idse
*)から静止座標系に変換された電流コマンド(iqss
*、idss
*)に近いはずである。即ち、静止座標系におけるフィードバックされた電流値(iqss、idss)は、静止座標系における電流コマンド(iqss
*、idss
*)にフォローするように調整される(即ち、実際の電流が電流コマンドと一致するように出力電圧が調整または変更される)。そのため、本発明は、この特性を利用して、電流誤差値が予め設定された電流設定差値を超えたか否かを比較することにより、静止座標系におけるフィードバックされた電流値が静止座標系における電流コマンドにフォローすることができなくなったかを確認し、これにより、モータに接続故障が発生したか否かを判定する。本実施形態において、電流設定差値は、周波数変換器の定格出力電流最大値の2%とするが、本発明はこれに限定されない。縦軸および横軸のいずれか1つの軸の電流誤差値が大きくなって当該一軸の電流設定差値を超えた場合、または、複数軸の合計電流誤差値が大きくなって当該複数軸の合計電流設定差値を超えた場合(例えば、合計電流誤差値が周波数変換器定格出力電流最大値の3.5%を超えた場合)、モータに接続故障が発生したと判定することができる。一方、縦軸または横軸の電流誤差値はいずれも電流設定差値以下(電流誤差値≦電流設定差値)である場合、または、複数軸の合計電流誤差値が複数軸の合計電流設定差値以下(合計電流誤差値≦合計電流設定差値)である場合、モータに接続故障が発生していないと判定する。言い換えれば、縦軸および横軸のうちのいずれか1つの軸の電流誤差値が過大か否か、または、合計電流誤差値が過大か否かを確認することにより、モータに接続故障が発生したか否かを知ることができる。これは、正常な駆動状態において(即ち、開路故障または短絡故障が発生していない場合)、静止座標系におけるフィードバックされた電流値(iqss、idss)が、同期座標系における電流コマンド(iqse
*、idse
*)から静止座標系に変換された電流コマンド(iqss
*、idss
*)に非常に近いまたは相等するからである。さらに、モータが過渡加速状態にあるか定常運転状態にあるかに関わらず、静止座標系におけるフィードバックされた電流値(iqss、idss)が速い応答で静止座標系における電流コマンド(iqss
*、idss
*)をフォローするはずである。そのため、電流誤差値という情報を利用して、モータの接続故障を迅速に検出することができる。ここで、モータとは、三相モータまたは六相モータであり、接続故障には、開路故障および短絡故障が含まれ、両軸または三軸の電流値の対比にも適用される。
【0049】
異なる実施形態として、ノイズの影響で誤ってモータに接続故障が発生したと判断することを避けるために、縦軸および横軸のうちのいずれか1つの軸の電流誤差値が周波数変換器の定格出力電流最大値の2%より大きくなった時、または、合計電流誤差値が周波数変換器の定格出力電流最大値の3.5%より大きくなった時に、この状態の持続時間が所定時間(例えば、4ミリ秒とすることができるがこれに限らない)を超えたか否かをさらに判断してから、モータに接続故障が発生したか否かを判定することもできる。言い換えれば、縦軸および横軸のうちのいずれか1つの軸の電流誤差値が電流設定差値より大きくなり、または、合計電流誤差値が合計電流設定差値より大きくなり、しかも、当該状態の持続時間が所定時間を超えた場合、モータに接続故障が発生したと判定する。一方、縦軸および横軸のうちのいずれか1つの軸の電流誤差値が電流設定差値より大きく、または、合計電流誤差値が合計電流設定差値より大きくなったが、この状態の持続時間が所定時間を超えていなければ、モータに接続故障が発生していないと判断する。これにより、時間に関する補助判断条件が加えられるため、ノイズの影響による電流誤差値が瞬時(過渡)的に設定値より大きくなった時に、誤ってモータに接続故障が発生したと判断することを避けることができる。ここで、モータは、三相モータまたは六相モータであり、接続故障には、開路故障および短絡故障が含まれ、両軸または三軸の電流値対比にも適用される。
【0050】
上述したように、本発明は、以下の特徴および効果を有している。
【0051】
1、本発明に係るモータの接続故障の検出方法の適用範囲は、周波数変換器駆動アーキテクチャに基づくほとんどの従来の制御方法(例えば、V/f制御、V/f-PG制御、SVC制御、FOC-PG制御、FOC-PGPM制御など)を含む。本発明に係るモータの接続故障の検出方法は、周波数変換器の開ループ駆動アーキテクチャと閉ループ駆動アーキテクチャとの両方に適用される(判定の数値だけが異なる)。本発明に係るモータの接続故障の検出方法は、三相モータ、六相モータおよびその他の多相モータに適用される。本発明に係るモータの接続故障の検出方法によれば、開路故障および短絡故障などを含む接続故障を検出することができる。
【0052】
2、異なる角度で電流信号を励起して信号応答を測定する方法に比べて、本発明は、他の信号を入力して電流応答を測定する必要がなく、しかも、モータのパラメータの影響が小さいため、操作が簡単であり、精度が高い。
【0053】
3、負シーケンス電圧(Negative sequence voltage)が閾値より高いか否かを判断する制御方法に比べて、本発明は、電流で直接判定するため、電流異常時に故障を速やかに検出することが確保される。
【0054】
4、負シーケンス電圧、三相電圧の実効値誤差および総合高調波歪み(harmonic distortion)を検出することによって故障を検出するなどの方法に比べて、本発明は、一周期を完全にサンプリングする必要がなく、故障が発生したから短時間内に故障を検出することができる。
【0055】
本発明に係るモータの接続故障の検出方法によれば、接続故障を速やかに検出することができるため、モータの継続運転による人身事故の発生、物質損失およびシステムの損害を避けることができる。
【0056】
以上の説明は、単に本発明の好ましい具体的な実施形態の詳細説明および図示であり、本発明を限定するためのものではなく、本発明の特徴はこれに限らず、本発明の範囲は、特許請求の範囲を基準とし、本願の特許請求の範囲の精神に沿ったものまたはそれに類似する変形例は、すべて本発明の範囲内に含まれ、当分野における当業者が本発明の分野内で容易に想到する変更また設計は、すべて本願の特許請求の範囲内に含まれる。
【符号の説明】
【0057】
10A 周波数変換器
20A モータ